(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】排ガス浄化装置用混合器、排ガス浄化装置及び排ガス浄化方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/24 20060101AFI20230908BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20230908BHJP
B01F 23/213 20220101ALI20230908BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20230908BHJP
B01F 25/431 20220101ALI20230908BHJP
B01F 35/221 20220101ALI20230908BHJP
B01F 35/222 20220101ALI20230908BHJP
B01F 35/90 20220101ALI20230908BHJP
【FI】
F01N3/24 N
F01N3/08 B ZAB
F01N3/24 L
B01F23/213
B01D53/94 222
B01F25/431
B01F35/221
B01F35/222
B01F35/90
(21)【出願番号】P 2020008536
(22)【出願日】2020-01-22
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2019100989
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮入 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】桝田 昌明
(72)【発明者】
【氏名】林 伸三
(72)【発明者】
【氏名】高木 義文
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-007449(JP,A)
【文献】国際公開第2017/086020(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/24
F01N 3/08
B01F 23/10
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性セラミックス製の外筒と、
前記外筒の内側に設けられた絶縁性セラミックス製のフィンと、
前記フィン、又は前記外筒
と前記フィン
との両方に埋設された電熱部と
を備える排ガス浄化装置用混合器。
【請求項2】
前記外筒と前記フィンとが一体成形されている、請求項1に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項3】
前記絶縁性セラミックスが緻密質である、請求項1又は2に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項4】
前記外筒及び前記フィンに用いられる前記絶縁性セラミックスが同一材料である、請求項1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項5】
前記絶縁性セラミックスの熱容量が4.5J/cm
3K以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項6】
前記絶縁性セラミックスの熱伝導率が30W/mK以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項7】
前記排ガス浄化装置用混合器は、前記外筒内に埋設されるとともに前記電熱部と接続された引き出し部を更に備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項8】
前記排ガス浄化装置用混合器は、前記外筒の外周面に設けられるとともに前記電熱部の端部と接続された電気接続用端子を更に備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項9】
前記排ガス浄化装置用混合器は、前記外筒の外周面に設けられるとともに前記引き出し部と接続された電気接続用端子を更に備える、請求項7に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項10】
前記電熱部は、少なくとも2つの領域で発熱密度が異なるように構成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項11】
前記電熱部は、前記排ガス浄化装置用混合器を流通する排ガスの流れに対して、上流側に位置する領域Aの発熱密度が、下流側に位置する領域Bの発熱密度よりも大きくなるように構成されている、請求項10に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項12】
前記電熱部は、噴射される尿素の液滴が当たる領域の発熱密度が、噴射される尿素の液滴が当たらない領域の発熱密度よりも大きくなるように構成されている、請求項10に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項13】
前記電熱部は配線構造を有し、前記発熱密度は、配線材料、配線長さ、配線厚さ及び配線幅から選択される1つ以上の条件による配線の電気抵抗の調整で制御される、請求項10~12のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項14】
前記電熱部は、前記領域Aと前記領域Bとが電気的に並列に配設された配線構造を有し、前記領域Aの配線の電気抵抗が、前記領域Bの配線の電気抵抗よりも小さい、請求項11に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項15】
前記電熱部は、前記領域Aと前記領域Bとが電気的に直列に配設された配線構造を有し、前記領域Aの配線の電気抵抗が、前記領域Bの配線の電気抵抗よりも大きい、請求項11に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項16】
前記電熱部は、前記領域Aと前記領域Bとが電気的に並列に配設された配線構造を有し、前記領域Aの配線が前記領域Bの配線よりも粗に配置されている、請求項11に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項17】
前記電熱部は、前記領域Aと前記領域Bとが電気的に並列に配設された配線構造を有し、前記領域Aの配線及び前記領域Bの配線がそれぞれ並列に配設されており、且つ前記領域Aの配線が前記領域Bの配線よりも密に配置されている、請求項11に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項18】
前記電熱部は、前記領域Aと前記領域Bとが電気的に直列に配設された配線構造を有し、前記領域Aの配線及び前記領域Bの配線がそれぞれ直列に配設されており、且つ前記領域Aの配線が、前記領域Bの配線よりも密に配置されている、請求項11に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項19】
前記電熱部は、前記領域Aと前記領域Bとが電気的に直列に配設された配線構造を有し、前記領域Aの配線及び前記領域Bの配線がそれぞれ並列に配設されており、且つ前記領域Aの配線が、前記領域Bの配線よりも粗に配置されている、請求項11に記載の排ガス浄化装置用混合器。
【請求項20】
排ガスが流通可能な排気筒と、
前記排気筒内に配置されている、請求項1~19のいずれか一項に記載の1つ以上の排ガス浄化装置用混合器と、
前記排気筒と前記1つ以上の排ガス浄化装置用混合器との間に設けられた圧縮弾性部材と
を備える排ガス浄化装置。
【請求項21】
前記圧縮弾性部材がセラミックス繊維マットである、請求項20に記載の排ガス浄化装置。
【請求項22】
外部電源に接続されるように構成され、且つ、前記排気筒と電気絶縁された第1コネクタ部材を更に備え、前記第1コネクタ部材が、前記排ガス浄化装置用混合器の前記電熱部と電気的に接続されている、請求項20又は21に記載の排ガス浄化装置。
【請求項23】
前記排気筒に接地されるように構成された第2コネクタ部材を更に備え、前記第2コネクタ部材が、前記排ガス浄化装置用混合器の前記電熱部と電気的に接続されている、請求項22に記載の排ガス浄化装置。
【請求項24】
前記排気筒内に尿素を噴射するための1つ以上の尿素噴射ノズルと、
前記尿素が噴射される位置よりも下流側の前記排気筒に配置された1つ以上のSCR触媒と
を更に備え、
前記排ガス浄化装置用混合器の少なくとも1つが、前記尿素噴射ノズルよりも下流側且つ前記SCR触媒よりも上流側の前記排気筒内に配置されている、請求項20~23のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置。
【請求項25】
請求項20~24のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置を用いた排ガス浄化方法であって、
排ガス温度が所定値以上の高い温度のときは、前記排ガス浄化装置用混合器の電熱部に通電しない状態で尿素を前記フィンに噴射し、
排ガス温度が所定値未満の低い温度のときは、前記排ガス浄化装置用混合器の電熱部に通電した状態で前記尿素を前記フィンに噴射する排ガス浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化装置用混合器、排ガス浄化装置及び排ガス浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車排ガスの有害成分(HC、NOx、CO)の低減に対する要求が高まっている。特に、ディーゼルエンジンから排出されるNOxの浄化は重要な課題である。
NOx浄化の方策としては、尿素SCRシステムと呼ばれる技術が一般に知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
尿素からNOx還元剤となるNH3を効率的に得るためには、尿素の熱分解及び加水分解が必要であり、200℃以上に雰囲気を制御しなくてはならない。
そこで、特許文献2には、尿素(尿素水)を微粒化するために用いられるキャリアガスをキャリアガス加熱部によって加熱するとともに、触媒部にグロープラグを挿入して通電加熱することにより、尿素を熱分解及び加水分解する技術が開示されている。
しかしながら、この技術は、尿素を微粒化するためにキャリアガスを用いることを前提としており、尿素を排ガスに直接噴射するものではない。
【0004】
ここで、尿素の熱分解及び加水分解は、以下の反応式によって表される。
熱分解:(NH2)2CO→NH3+HNCO
加水分解:HNCO+H2O→NH3+CO2
【0005】
また、尿素の二段階の反応(熱分解及び加水分解)を効率良く速やかに進め、生成されたNH3を排ガス中に均一に分散させるために、非特許文献1には様々な混合器が提案されている。
【0006】
一方、エンジン効率の向上に伴って排ガス温度が低くなっている。また、エンジン始動直後も排ガス温度が低い。排ガス温度が低い場合、尿素を排ガスに噴射しても分解反応が起こり難いため、NH3が十分に生成されない。
そこで、特許文献3には、外径が排気通路の内径と等しい円環状のフレーム部と、フレーム部の排気下流側の面にフレーム部を周回するように設置された電熱線と、フレーム部の径方向内側に形成された複数のフィンとを有する混合器(分散装置)が提案されている。そして、この混合器は、排ガス温度が低い場合に、電熱線を通電して混合器を加熱することにより、尿素の分解反応を進めることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-327377号公報
【文献】特開2012-197695号公報
【文献】特開2019-7449号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Heike Tobben外3名、「Urea Processing - A Keyfactor in EATS Development」,27th Aachen Colloquium Automobile and Engine Technology 2018,第219~238頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3には、混合器を構成するフレーム部及びフィンの材質について具体的に記載されていないものの、このような構造を有する混合器は一般に金属製である。本発明者らの知見によれば、金属製のフレーム部及びフィンは熱容量が大きいため、電熱線を用いてフレーム部及びフィンを加熱するには時間がかかって効率的でない上、消費電力も多くなる。また、この混合器に設けられる電熱線は、フレーム部の表面に露出しているため、尿素が付着した際に錆びる可能性もある。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、錆び難く、少ない電力で効率良く加熱することが可能な排ガス浄化装置用混合器を提供することを目的とする。
また、本発明は、排ガス温度が低い場合でも、少ない電力で長期にわたって良好なNOxの浄化性能を得ることが可能な排ガス浄化装置及び排ガス浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、混合器を構成する部材を、熱容量が小さい絶縁性セラミックスを用いて形成するとともに、当該部材内に電熱部を埋設することにより、上記のような問題を全て解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、絶縁性セラミックス製の外筒と、前記外筒の内側に設けられた絶縁性セラミックス製のフィンと、前記フィン、又は前記外筒と前記フィンとの両方に埋設された電熱部とを備える排ガス浄化装置用混合器である。
【0013】
また、本発明は、排ガスが流通可能な排気筒と、前記排気筒内に配置されている、上述した1つ以上の排ガス浄化装置用混合器と、前記排気筒と前記1つ以上の排ガス浄化装置用混合器との間に設けられた圧縮弾性部材とを備える排ガス浄化装置である。
【0014】
さらに、本発明は、前記排ガス浄化装置を用いた排ガス浄化方法であって、排ガス温度が所定値以上の高い温度のときは、前記排ガス浄化装置用混合器の電熱部に通電しない状態で前記尿素を前記フィンに噴射し、排ガス温度が所定値未満の低い温度のときは、前記排ガス浄化装置用混合器の電熱部に通電した状態で前記尿素を前記フィンに噴射する排ガス浄化方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、錆び難く、少ない電力で効率良く加熱することが可能な排ガス浄化装置用混合器を提供することができる。
また、本発明によれば、排ガス温度が低い場合でも、少ない電力で長期にわたって良好なNOxの浄化性能を得ることが可能な排ガス浄化装置及び排ガス浄化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置用混合器の斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置用混合器の排ガス流入側からみた正面図である。
【
図3】本発明の別の実施形態に係る排ガス浄化装置用混合器の斜視図である。
【
図4】本発明の別の実施形態に係る排ガス浄化装置用混合器の排ガス流入側からみた正面図である。
【
図5】
図1~4に示す排ガス浄化装置用混合器において、外筒に露出した電熱部周辺の部分拡大断面図である。
【
図6】
図5の部分拡大断面図において、フィンの少なくとも一部のみに電熱部を埋設して引き出し部を更に設けた場合の例である。
【
図7】
図5の部分拡大断面図において、電気接続用端子を更に設けた場合の例である。
【
図8】
図6の部分拡大断面図において、電気接続用端子を更に設けた場合の例である。
【
図9】排ガス浄化装置用混合器の領域A及びBを説明するための概略図である。
【
図10】排ガス浄化装置用混合器の排ガスの流れ方向に平行な断面の部分拡大図である。
【
図11】排ガス浄化装置用混合器の排ガスの流れ方向に平行な断面の部分拡大図である。
【
図12】排ガス浄化装置用混合器の排ガスの流れ方向に平行な断面の部分拡大図である。
【
図13】排ガス浄化装置用混合器の排ガスの流れ方向に平行な断面の部分拡大図である。
【
図14】排ガス浄化装置用混合器の排ガスの流れ方向に平行な断面の部分拡大図である。
【
図15】排ガス浄化装置用混合器の排ガスの流れ方向に平行な断面の部分拡大図である。
【
図16】本発明の別の実施形態に係る排ガス浄化装置用混合器の排ガス流入側からみた正面図である。
【
図18】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置の断面図である。
【
図19】実施例1の排ガス浄化装置用混合器の排ガス流入側からみた正面図である。
【
図20】比較例1の排ガス浄化装置用混合器の排ガス流入側からみた正面図である。
【
図21】比較例1の排ガス浄化装置用混合器の加熱シミュレーションの結果を示す図である。
【
図22】実施例2及び実施例3の排ガス浄化装置用混合器の加熱シミュレーションの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0018】
(排ガス浄化装置用混合器)
図1は、本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置用混合器の斜視図であり、
図2は、この排ガス浄化装置用混合器の排ガス流入側からみた正面図である。
また、
図3は、本発明の別の実施形態に係る排ガス浄化装置用混合器の斜視図であり、
図4は、この排ガス浄化装置用混合器の排ガス流入側からみた正面図である。
【0019】
図1~4に示されるように、排ガス浄化装置用混合器(以下、「混合器」と略す場合がある)1A,1Bは、外筒10と、フィン20と、電熱部30とを備えている。
外筒10は、絶縁性セラミックスから形成されている。このような構成とすることにより、外筒10からの漏電を防止することができる。
ここで、本明細書において「絶縁性セラミックス」とは、常温(25℃)における体積固有抵抗が10
12Ω・m以上、好ましくは10
14Ω・m以上のセラミックスのことを意味する。
【0020】
絶縁性セラミックスとしては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。絶縁性セラミックスの例としては、アルミナ、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化珪素、コージェライト、ムライト、イットリア、ジルコニア、炭化珪素、マグネシアアルミナスピネル、ステアタイト、フォルステライトなどが挙げられる。これらの中でも、コージェライト、窒化珪素、アルミナが好ましい。また、これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
絶縁性セラミックスは緻密質であることが好ましい。このような構成とすることにより、噴射された尿素と接触した場合に、尿素が内部に浸透し難くなる。
ここで、本明細書において「緻密質」とは、開気孔率が5%以下のものをいう。開気孔率が5%以下の緻密質であると、尿素水がセラミックス内に表面から浸み込み、短絡することが十分に抑制される。なお、絶縁性セラミックスの開気孔率は、既存の試験方法(アルキメデス法、JIS R1634:1998)を用いて測定することができる。
絶縁性セラミックスを緻密質にする方法としては、特に限定されないが、セラミックス原料粉末の粒径を小さくしたり、焼結助剤などを添加したりすればよい。
【0022】
絶縁性セラミックスの熱容量は、特に限定されないが、好ましくは4.5J/cm3K以下、より好ましくは3.0J/cm3K以下、更に好ましくは2.5J/cm3K以下である。このような範囲に熱容量を制御することにより、外筒10やフィン20に埋設された電熱部30の通電による外筒10の加熱を効率的に行うことができる。また、絶縁性セラミックスの熱容量は、熱変動を大きくする観点から、好ましくは0.1J/cm3K以上、より好ましくは0.5J/cm3K以上である。
例えば、緻密質コージェライトの熱容量は1.5J/cm3K、窒化珪素の熱容量は2.2J/cm3K、アルミナの熱容量は3.1J/cm3K、ジルコニアの熱容量は2.9J/cm3Kである。
なお、絶縁性セラミックスの熱容量は次のようにして算出することができる。アルバック理工社製の断熱型比熱測定装置を用いて、絶縁性セラミックスの600℃における単位質量あたりの熱容量(J/gK)を測定する。なお、単位質量あたりの熱容量(J/gK)は、JIS R1611:2010に準拠したレーザーフラッシュ法によって測定してもよい。得られた単位質量あたりの熱容量(J/gK)に、室温においてアルキメデス法で測定した絶縁性セラミックスの真密度(g/cm3)を乗算することで、絶縁性セラミックスの単位体積あたりの熱容量(J/cm3K)を算出する。
【0023】
絶縁性セラミックスの熱伝導率は、特に限定されないが、好ましくは30W/mK以上、より好ましくは50W/mK以上である。このような範囲に熱伝導率を制御することにより、外筒10の全体を効率的に加熱することができる。また、絶縁性セラミックスの熱伝導率は、加熱効率を高め、著しい放熱を避ける観点から、好ましくは300W/mK以下である。
例えば、緻密質コージェライトの熱伝導率は4W/mK、窒化珪素の熱伝導率は60~90W/mK、アルミナの熱伝導率は30~35W/mK、ジルコニアの熱伝導率は3W/mKである。
なお、絶縁性セラミックスの熱伝導率は、レーザーフラッシュ法(JIS R1611:2010)により測定することができる。
【0024】
絶縁性セラミックスの熱膨張率は、特に限定されないが、好ましくは4ppm/K以下である。このような構成とすることにより、噴射された尿素と接触して急速冷却されるときの熱応力を小さくすることができるため、混合器1A,1Bの信頼性を高めることができる。また、絶縁性セラミックスの熱膨張率は、埋設する電熱部30と絶縁性セラミックスとの熱膨張差による外筒10やフィン20の破損を抑制する観点から、好ましくは1ppm/K以上である。
例えば、緻密質コージェライトの熱膨張率は1.6ppm/K、窒化珪素の熱膨張率は3.0~3.2ppm/K、アルミナの熱膨張率は7.5~8.5ppm/K、ジルコニアの熱膨張率は10~11ppm/Kである。
なお、絶縁性セラミックスの熱膨張率は、JIS R1618:2002に準拠して測定することができる。
【0025】
絶縁性セラミックスのヤング率は、特に限定されないが、好ましくは300GPa以下である。このような構成とすることにより、噴射された尿素と接触して急速冷却されるときの熱応力を小さくすることができるため、混合器1A,1Bの信頼性を高めることができる。また、絶縁性セラミックスのヤング率は、車載環境下の振動での変形や破壊を抑制する観点から、好ましくは100GPa以上である。
例えば、緻密質コージェライトのヤング率は150GPa、窒化珪素のヤング率は280GPa、アルミナのヤング率は350GPa、ジルコニアのヤング率は200GPaである。
なお、絶縁性セラミックスのヤング率は次のようにして算出することができる。絶縁性セラミックスについて、JIS R1601:2008に示される4点曲げ強さ試験法に準拠することにより曲げ強さを測定し、この測定結果から「応力-歪曲線」を作成する。このようにして得られた「応力-歪曲線」の傾きを算出し、この「応力-歪曲線」の傾きをヤング率とする。
【0026】
フィン20は、外筒10の内側に設けられている。フィン20は、噴射された尿素と衝突して尿素を周囲に飛散させるとともに、フィン20の間を通過する排ガスに旋回流を生じさせる機能を有する。また、フィン20は、排ガス温度が低い場合に、加熱することによって尿素の分解反応を進行させ、NH3を生成させる機能も有する。このような機能により、尿素又はNH3の排ガスへの分散を促進させることができる。
【0027】
フィン20は、外筒10と同様に、絶縁性セラミックスから形成されている。このような構成とすることにより、フィン20からの漏電を防止することができる。
フィン20に用いられる絶縁性セラミックスは、外筒10に用いられる絶縁性セラミックスと同一の材料であっても異なる材料であってもよいが、生産性の観点からは同一の材料であることが好ましい。
【0028】
フィン20の形状は、特に限定されず、当該技術分野において公知の各種形状とすることができる。例えば、フィン20は、平面を有していても曲面を有していてもよいが、混合器1A,1Bに噴射された尿素の流れ方向に対して傾斜角を有していることが好ましい。このような構成とすることにより、混合器1A,1Bに噴射された尿素をフィン20に安定して接触させることができる。
【0029】
フィン20の全体構造としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の各種構造とすることができる。例えば、
図1及び2に示されるような外筒10の中心軸周りに設けられた螺旋状の4枚のフィン20を有する構造とすることができる。また、
図3及び4に示されるような、外筒10の中心軸に設けられた円盤状のフィン20と、円盤状のフィン20の周りに放射状に設けられた板状のフィン20とを組み合わせた構造としてもよい。後者の構造では、板状のフィン20は、外筒10の中心軸に直交する平面に対して一定の角度で傾いた状態で配置される。
【0030】
外筒10とフィン20とは、個別に作製した後に接着剤などを用いて接合してもよいが、一体成形されていることが好ましい。外筒10とフィン20とを一体成形することにより、フィン20と外筒10との接合強度を高めるだけでなく、熱の流れやフィン20の生産性も向上する。
【0031】
電熱部30は、外筒10及び/又はフィン20の少なくとも一部に埋設されている。
ここで、混合器1A,1Bにおいて、外筒10に露出した電熱部30周辺の部分拡大断面図を
図5に示す。
図5では、外筒10及びフィン20の少なくとも一部に電熱部30が埋設されている。このように電熱部30を埋設することにより、尿素に電熱部30が接触しないため、電熱部30に錆が発生することを抑制することができる。また、外筒10及びフィン20は、熱容量が小さい絶縁性セラミックスを用いて形成されているため、埋設された電熱部30に通電することによって迅速に加熱することができ、消費電力も少ない。
【0032】
図5では、外筒10及びフィン20の少なくとも一部に電熱部30を埋設した例を示したが、外筒10又はフィン20の少なくとも一部のみに電熱部30を埋設してもよい(すなわち、外筒10又はフィン20のどちらか一方に電熱部30が埋設されていなくてもよい)。
フィン20の少なくとも一部のみに電熱部30を埋設する場合、
図6に示されるように、外筒10内に埋設されるとともに電熱部30と接続された引き出し部50を設ければよい。このような構成とすることにより、フィン20の少なくとも一部のみに埋設された電熱部30を引き出し部50によって外部と電気的に接続させることが可能になる。また、外筒10及びフィン20の少なくとも一部に電熱部30を埋設した場合や、外筒10の少なくとも一部のみに電熱部30を埋設した場合にも引き出し部50を設け、引き出し部50によって外部と電気的に接続してもよい。
引き出し部50としては、特に限定されないが、加熱されないようにするために、電熱部30に比べて抵抗を十分に低くするように構成することが好ましい。例えば、引き出し部50は電熱部30と同一の材料から形成してもよく、抵抗を低くするために、電熱部30に比べて引き出し部50の幅及び厚さを大きくすることが好ましい。
なお、外筒10の少なくとも一部のみに電熱部30を埋設した場合、電熱部30に通電することによって加熱された外筒10の熱がフィン20にも伝達されるため、外筒10及びフィン20の両方を加熱することができる。
【0033】
電熱部30は、通電によって発熱する材料から形成されている。具体的には、電熱部30は、Ni-Cr系合金、Fe-Cr-Al系合金、W合金、Mo合金、WやMoを含むサーメットなどの公知の材料から形成することができる。
電熱部30の形状は、特に限定されず、線状、板状、シート状などの各種形状とすることができる。
【0034】
少なくとも一部に電熱部30が埋設された外筒10及びフィン20の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.5~10mm、より好ましくは1~10mmである。外筒10及びフィン20の厚さを0.5mm以上とすることにより、外筒10及びフィン20の耐久性を確保することができる。また、外筒10及びフィン20の厚さを10mm以下とすることにより、混合器1A,1Bを軽量化することができる。
【0035】
混合器1A,1Bは、外筒10の外周面に設けられた電気接続用端子を更に備えていてもよい。
ここで、
図5の部分拡大断面図において、電気接続用端子を更に設けた場合の例を
図7に示す。
図7に示されるように、電気接続用端子40は、外筒10の外周面に設けられており、電熱部30の端部(外筒10の外周面に露出した部分)と接続される。このような構成とすることにより、外部電源との接続が容易になる。
また、
図6の部分拡大断面図において、電気接続用端子を更に設けた場合の例を
図8に示す。
図8に示されるように、外筒10内に埋設された引き出し部50を有する場合、電気接続用端子40は、引き出し部50(外筒10の外周面に露出した部分)と接続される。このような構成とすることにより、外部電源との接続が容易になる。
【0036】
電熱部30は、少なくとも2つの領域で発熱密度が異なるように構成されていることが好ましい。このような構成とすることにより、フィン20の材質などによって、表面温度が低くなり易い領域と表面温度が低くなり難い領域とが複数存在する場合に、これらの複数の領域の表面温度の差を小さくすることができる。すなわち、表面温度が低くなり易い領域の発熱密度を高くするとともに、表面温度が低くなり難い部分の発熱密度を低くするように電熱部30を構成することにより、表面温度が低くなり易い領域と表面温度が低くなり難い領域との表面温度の差を小さくすることができる。
【0037】
例えば、混合器1A,1Bを構成する外筒10及びフィン20が、絶縁性セラミックスの中でも熱伝導率が小さい緻密質コージェライトなどから形成されている場合、混合器1A,1Bを流通する排ガスの流れに対して、下流側に位置する領域Bの表面温度に比べて上流側に位置する領域Aの表面温度が低くなり易い。本明細書において、混合器1A,1Bを流通する排ガスの流れに対して、「上流側に位置する領域A」及び「下流側に位置する領域B」とは、
図9に示されるように、混合器1A,1Bの排ガスの流れ方向長さを2等分したときの上流側に位置する領域A及び下流側に位置する領域Bのことをそれぞれ意味する。
この場合、領域Aの表面温度を所定の温度に高めるためには、領域Aに供給する電力量を多くすることが要求される。しかしながら、領域Aに供給する電力量を多くすると、領域Bの表面温度まで必要以上に高くなり、無駄な消費電力が増加することがある。
そこで、電熱部30は、混合器1A,1Bを流通する排ガスの流れに対して、上流側に位置する領域Aの発熱密度が、下流側に位置する領域Bの発熱密度よりも大きくなるように構成されていることが好ましい。このような構成とすることにより、所定の電力量で領域Bよりも領域Aが発熱し易くなるため、領域Aの表面温度と領域Bの表面温度との差を小さくするとともに、無駄な消費電力を削減することができる。
【0038】
また、混合器1A,1Bに尿素が直接噴射される場合、噴射される尿素の液滴が当たる領域の表面温度は、吸熱反応によって低下するため、噴射される尿素の液滴が当たらない領域の表面温度よりも低くなり易い。この場合、噴射される尿素の液滴が当たる領域の表面温度を所定の温度に高めるためには、噴射される尿素の液滴が当たる領域に供給する電力量を多くすることが要求される。しかしながら、噴射される尿素の液滴が当たる領域に供給する電力量を多くすると、噴射される尿素の液滴が当たらない領域の表面温度まで必要以上に高くなり、無駄な消費電力が増加することがある。
そこで、電熱部30は、噴射される尿素の液滴が当たる領域の発熱密度が、噴射される尿素の液滴が当たらない領域の発熱密度よりも大きくなるように構成されていることが好ましい。このような構成とすることにより、所定の電力量で、噴射される尿素の液滴が当たらない領域よりも噴射される尿素の液滴が当たる領域が発熱し易くなるため、噴射される尿素の液滴が当たる領域の表面温度と噴射される尿素の液滴が当たらない領域との差を小さくするとともに、無駄な消費電力を削減することができる。
【0039】
電熱部30は配線構造を有し、発熱密度は、配線材料、配線長さ、配線厚さ及び配線幅から選択される1つ以上の条件による配線の電気抵抗の調整で制御されることが好ましい。このような構成とすることにより、電熱部30の発熱密度を容易に制御することができる。
ここで、電熱部30の配線構造の例を
図10~15に示す。
図10~15は、排ガス浄化装置用混合器の排ガスの流れ方向に平行な断面の部分拡大図である。なお、これらの図は、理解を容易にするために、1つのフィン20が排ガスの流れ方向に平行に形成されている場合を示している。
【0040】
図10に示す電熱部30は、領域Aと領域Bとが電気的に並列に配設された配線構造を有する。この配線構造において、領域Bの配線30b(電熱部30)に用いられる配線材料よりも電気抵抗が小さい配線材料を領域Aの配線30a(電熱部30)に用いることにより、領域Aの配線30aの電気抵抗が、領域Bの配線30bの電気抵抗よりも小さくなるように制御されている。このような構成とすることにより、所定の電力量で領域Bよりも領域Aが発熱し易くなるため、領域Aの表面温度と領域Bの表面温度との差を小さくするとともに、無駄な消費電力を削減することができる。
なお、
図10に示す電熱部30の配線構造において、領域Aの配線30a及び領域Bの配線30bに用いられる配線材料を同一とした場合であっても、領域Aの配線30aの配線厚さ及び/又は配線幅を領域Bの配線30bの配線厚さ及び/又は配線幅よりも小さくすることにより、領域Aの配線30aの電気抵抗を領域Bの配線30bの電気抵抗よりも小さくすることができる。
【0041】
図11に示す電熱部30は、領域Aと領域Bとが電気的に直列に配設された配線構造を有する。この配線構造において、領域Bの配線30b(電熱部30)に用いられる配線材料よりも電気抵抗が大きい配線材料を領域Aの配線30a(電熱部30)に用いることにより、領域Aの配線30aの電気抵抗が、領域Bの配線30bの電気抵抗よりも大きくなるように制御されている。このような構成とすることにより、所定の電力量で領域Bよりも領域Aが発熱し易くなるため、領域Aの表面温度と領域Bの表面温度との差を小さくするとともに、無駄な消費電力を削減することができる。
なお、
図11に示す電熱部30の配線構造において、領域Aの配線30a及び領域Bの配線30bに用いられる配線材料を同一とした場合であっても、領域Aの配線30aの配線厚さ及び/又は配線幅を領域Bの配線30bの配線厚さ及び/又は配線幅よりも大きくすることにより、領域Aの配線30aの電気抵抗を領域Bの配線30bの電気抵抗よりも大きくすることができる。
【0042】
図12に示す電熱部30は、領域Aと領域Bとが電気的に並列に配設された配線構造を有する。この並列配線構造において、領域Aの配線が領域Bの配線よりも粗に配置されている。このような構成とすることにより、所定の電力量で領域Bよりも領域Aが発熱し易くなるため、領域Aの表面温度と領域Bの表面温度との差を小さくするとともに、無駄な消費電力を削減することができる。
【0043】
図13に示す電熱部30は、領域Aと領域Bとが電気的に並列に配設された配線構造を有する。この配線構造において、領域Aの配線及び領域Bの配線がそれぞれ並列に配設されており、且つ領域Aの配線が領域Bの配線よりも密に配置されている。このような構成とすることにより、所定の電力量で領域Bよりも領域Aが発熱し易くなるため、領域Aの表面温度と領域Bの表面温度との差を小さくするとともに、無駄な消費電力を削減することができる。
【0044】
図14に示す電熱部30は、領域Aと領域Bとが電気的に直列に配設された配線構造を有する。この配線構造において、領域Aの配線及び領域Bの配線がそれぞれ直列に配設されており、且つ領域Aの配線が、領域Bの配線よりも密に配置されている。このような構成とすることにより、所定の電力量で領域Bよりも領域Aが発熱し易くなるため、領域Aの表面温度と領域Bの表面温度との差を小さくするとともに、無駄な消費電力を削減することができる。
【0045】
図15に示す電熱部30は、領域Aと領域Bとが電気的に直列に配設された配線構造を有する。この配線構造において、領域Aの配線及び領域Bの配線がそれぞれ並列に配設されており、且つ領域Aの配線が、領域Bの配線よりも粗に配置されている。このような構成とすることにより、所定の電力量で領域Bよりも領域Aが発熱し易くなるため、領域Aの表面温度と領域Bの表面温度との差を小さくするとともに、無駄な消費電力を削減することができる。
【0046】
また、本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置用混合器における電熱部30の配線構造の一例を
図16及び17に示す。なお、
図16は、排ガス浄化装置用混合器の排ガス流入側からみた正面図であり、電熱部30の配線構造を点線で表している。また、
図17は、
図16におけるc-c’線の断面図である。このような構造とすることにより、所定の電力量で排ガス流出側の領域よりも排ガス流入側の領域が発熱し易くなるため、これらの領域における表面温度の差を小さくするとともに、無駄な消費電力を削減することができる。
【0047】
上記のような構造を有する混合器1A,1Bは、当該技術分野において公知の方法に準じて製造することができる。例えば、外筒10及びフィン20の成形時に電熱部30を埋設し、その後に焼成することによって製造することができる。
成形方法としては、特に限定されず、粉末加圧成形、鋳込み、射出成形、テープ成形、特許第4536943号公報で示されるようなスラリーを固化させる成形方法などを用いることができる。
粉末加圧成形では、所定の形状を有する型にセラミックス原料粉末を入れて加圧成形し、その上に電熱部30を載置した後、セラミックス原料粉末を更に入れて加圧成形することにより、電熱部30を成形体内に埋設することができる。
テープ成形では、セラミックス原料を含むスラリーをテープ状に成形し、その成形体の一部に電熱部30を印刷したものを積層することにより、電熱部30を成形体内に埋設することができる。
スラリーを固化させる成形方法では、電熱部30を型内に設置した後、セラミックス原料を含むスラリーを型内に入れて固化させることにより、電熱部30を成形体内に埋設することができる。或いは、成形体上に電熱部30を形成した後、セラミックス原料を含むスラリーで電熱部30を覆って固化させることにより、電熱部30を成形体内に埋設することができる。或いは、電熱部30に対応する形状のワックス部材を型に設置し、セラミックス原料を含むスラリーを注型して固化させ、ワックス部材を溶融除去することで中空部を有する成形体を得た後、中空部に電熱部30の材料を含むスラリー又はペーストを注入して固化させることにより、電熱部30を成形体内に埋設することができる。
また、焼成条件は、特に限定されず、使用するセラミックス原料に応じて適宜調整すればよい。
【0048】
上記のようにして製造される混合器1A,1Bは、外筒10及びフィン20が、熱容量が小さい絶縁性セラミックスから形成されているため、電熱部30に通電することによって迅速に加熱することができ、消費電力も少ない。したがって、混合器1A,1Bは、排ガス温度が低い場合に、電熱部30を通電して混合器1A,1Bを迅速に加熱することができるため、尿素の分解反応を効率的に進めることができる。また、電熱部30は、外筒10及びフィン20に埋設されているため、尿素が付着しないため錆び難く、その性能を長期にわたって維持することができる。
【0049】
(排ガス浄化装置)
図18は、本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置の断面図である。
図18に示されるように、排ガス浄化装置100は、排気筒110と、排ガス浄化装置用混合器1A,1Bと、圧縮弾性部材120と、第1コネクタ部材130と、第2コネクタ部材131と、尿素噴射ノズル140と、SCR触媒150とを備えている。
【0050】
排気筒110は、各種エンジンなどから排出される排ガス(NOxを含有する排ガス)が流通可能な配管である。排気筒110の大きさは、特に限定されず、エンジンなどの排気系の種類に応じて適宜決定することができる。
【0051】
排ガス浄化装置用混合器1A,1Bは、尿素噴射ノズル140よりも下流側且つSCR触媒150よりも上流側の排気筒110内に配置されていることが好ましい。
なお、
図18では、排気筒110内に1つの排ガス浄化装置用混合器1A,1Bが配置されているが、2つ以上の排ガス浄化装置用混合器1A,1Bが配置されていてもよい。
【0052】
圧縮弾性部材120は、排気筒110と排ガス浄化装置用混合器1A,1Bとの間に設けられている。圧縮弾性部材120は、クッション性を有しており、圧縮状態で配設することにより、排気筒110内の所定の位置に排ガス浄化装置用混合器1A,1Bを保持させることができる。
【0053】
圧縮弾性部材120としては、特に限定されないが、セラミックス繊維マットであることが好ましい。ここで、セラミックス繊維マットとは、セラミックス繊維から形成されたマットのことを意味する。
セラミックス繊維マットとしては、アルミナ、ムライト、炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア、チタニア又はこれらの複合物からなるセラミックス繊維を主成分とするものが好ましい。その中でもアルミナ又はムライトを主成分とする無膨張性マットを用いることがより好ましい。
【0054】
第1コネクタ部材130は、外部電源160に接続されるように構成され、且つ排気筒110と電気絶縁されている。第1コネクタ部材130と外部電源160との間は、一般的に、電線などを介して接続されている。また、第1コネクタ部材130は、排ガス浄化装置用混合器1A,1Bの電熱部30と電気的に接続されている。第1コネクタ部材130を設けることにより、漏電を抑制することができる。第1コネクタ部材130は、排ガス浄化装置用混合器1A,1Bの電気接続用端子40と接続されていることがより好ましい。
【0055】
第2コネクタ部材131は、排気筒110に接地されるように構成されている。第2コネクタ部材131と排気筒110との間は、一般的に、電線などを介して接続されている。また、第2コネクタ部材131は、排ガス浄化装置用混合器1A,1Bの電熱部30と電気的に接続されている。第2コネクタ部材131を設けることにより、漏電による感電を抑制することができる。
【0056】
尿素噴射ノズル140は、排気筒110内に尿素を噴射するための部品である。尿素噴射ノズル140は、尿素を収容するタンク(図示していない)などに接続されており、尿素を排気筒110内の排ガス浄化装置用混合器1A,1Bに噴射する。
尿素噴射ノズル140としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。
【0057】
SCR触媒150は、尿素が噴射される位置よりも下流側の排気筒110に配置される。SCR触媒150は、触媒体(SCR触媒150が担持されたハニカム構造体)の状態であることが好ましい。
SCR触媒150の例としては、バナジウム系触媒やゼオライト系触媒などを挙げることができる。
SCR触媒150を、ハニカム構造体に担持された触媒体として使用する場合には、当該触媒体を容器内に収納して装着することが好ましい。
SCR触媒150を担持するハニカム構造体は、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。
【0058】
なお、
図18では、排気筒110内にそれぞれ1つの尿素噴射ノズル140及びSCR触媒150が配置されているが、尿素噴射ノズル140及びSCR触媒150をそれぞれ2つ以上としてもよい。例えば、排気筒110内に2つ以上の排ガス浄化装置用混合器1A,1Bを配置する場合、尿素噴射ノズル140及びSCR触媒150をそれぞれ2つ以上とすることが好ましい。この場合、各排ガス浄化装置用混合器1A,1Bは、1つの尿素噴射ノズル140と1つのSCR触媒150との間(1つの尿素噴射ノズル140よりも下流側且つ1つのSCR触媒150よりも上流側)の排気筒110内に配置される。例えば、2つの排ガス浄化装置用混合器1A,1Bを排気筒110内に配置する場合、第1の排ガス浄化装置用混合器1A,1Bは、第1の尿素噴射ノズル140よりも下流側且つ第1のSCR触媒150よりも上流側の排気筒110内に配置され、第2の排ガス浄化装置用混合器1A,1Bは、第2の尿素噴射ノズル140よりも下流側且つ第2のSCR触媒150よりも上流側の排気筒110内に配置される。
【0059】
尿素噴射ノズル140よりも上流側の排気筒110には、排ガス中の粒子状物質を捕集するためのフィルタが配置されていてもよい。粒子状物質を捕集するためのフィルタとしては、例えば、ハニカム形状のセラミックス製のDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)が挙げられる。
また、尿素噴射ノズル140よりも上流側の排気筒110には、排ガス中の炭化水素や一酸化炭素を除去するための酸化触媒が配置されていてもよい。酸化触媒は、セラミックス製のハニカム構造体に担持された状態(酸化触媒体)で用いられる。酸化触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)などの貴金属が好適に用いられる。
【0060】
SCR触媒150よりも下流側の排気筒110には、NH3を除去するためのアンモニア除去触媒(酸化触媒)が配置されていてもよい。このような構成とすることより、排ガス中のNOxの除去に使用されなかった余分なNH3が下流側に流れた際に、そのNH3が外部に排出されることを防止することができる。アンモニア除去触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)などの貴金属が好適に用いられる。
【0061】
上記のような構造を有する排ガス浄化装置100を用いた排ガス浄化方法は、排ガス温度が所定値以上の高い温度のときは、排ガス浄化装置用混合器1A,1Bの電熱部30に通電しない状態で尿素をフィン20に噴射し、排ガス温度が所定値未満の低い温度のときは、排ガス浄化装置用混合器1A,1Bの電熱部30に通電した状態で尿素をフィン20に噴射することによって行われる。
ここで、本明細書において、排ガス温度の所定値とは、噴射された尿素からアンモニアへの分解が排ガスによって十分量行われる温度のことを意味する。
排ガス温度が所定値以上の高い温度である場合、尿素噴射ノズル140から排ガス浄化装置用混合器1A,1Bに噴射された尿素は、排ガス浄化装置用混合器1A,1Bのフィン20と衝突して周囲に飛散して排ガス中に分散され、NH3に分解される。
一方、排ガス温度が所定値未満の低い温度である場合、外部電源160から電熱部30に通電して排ガス浄化装置用混合器1A,1Bの外筒10及びフィン20が迅速に加熱されるため、これらと接触した尿素はNH3に分解されて排ガス中に分散される。排ガス中に分散されたNH3は、SCR触媒150において還元剤として用いられ、排ガス中のNOxが水と窒素に還元して浄化される。
【0062】
排ガス浄化装置100は、錆び難く、少ない電力で効率良く加熱することが可能な排ガス浄化装置用混合器1A,1Bを用いているため、排ガス温度が低い場合でも、少ない電力で長期にわたって良好なNOxの浄化性能を得ることができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
長さ40mm、外径60mm、厚さ1mmの円筒状の外筒10の内側に、長さ(外筒10の軸方向に平行な長さ)40mm、高さ(外筒10の径方向の長さ)20mm、厚さ1mmのフィンを90°間隔で4枚設け、外筒10及び4枚のフィン20の厚さ方向中央部に厚さ0.1mmの電熱部30を埋設した排ガス浄化装置用混合器とした。この排ガス浄化装置用混合器の排ガス流入側からみた正面図を
図19に示す。なお、
図19では、理解し易くする観点から、埋設された電熱部も図示している。外筒10及びフィン20の材質は窒化珪素とした。
【0065】
(比較例1)
長さ40mm、外径60mm、厚さ1mmの円筒状の外筒10の内側に、長さ(外筒10の軸方向に平行な長さ)40mm、高さ(外筒10の径方向の長さ)20mm、厚さ1mmのフィンを90°間隔で4枚設け、外筒10の外周部に厚さ0.1mmの電熱部30を設けた排ガス浄化装置用混合器とした。この排ガス浄化装置用混合器の排ガス流入側からみた正面図を
図20に示す。外筒10及びフィン20の材質はSUS430とした。
【0066】
上記の実施例1及び比較例1の排ガス浄化装置用混合器について、加熱シミュレーションを行った。加熱シミュレーションを行う際の使用ソフトとしては、Ansys fluent Ver19.1を用い、シミュレーション条件は、ソルバータイプ:圧力ベースソルバー、乱流モデル:低レイノルズ形SST(Shear Stress Transport)k-ωとした。加熱シミュレーションでは、窒化珪素について密度を3.2g/cm
3、熱容量を700J/kgK、熱伝導率を60W/mKとし、SUS430について密度を7.7g/cm
3、熱容量を460J/kgK、熱伝導率を26W/mKとして計算を行った。
加熱シミュレーションでは、300Wを印加した場合に、27℃のガスが流量2Nm
3/分で排ガス浄化装置用混合器に入った際のガス流れ部の表面温度を比較した。ガス流れ部の表面の最低温度は、実施例1では254℃であったのに対し、比較例1では120℃と低くなった。また、比較例1では、
図21に示されるように、フィンの広い領域で200℃以下の領域が存在した(
図21では、131℃付近~200℃までの温度分布を示している)。なお、図示していないが、実施例1では表面の最低温度が200℃以上であるため、200℃以下の領域は存在しなかった。
したがって、実施例1の排ガス浄化装置用混合器は、比較例1の排ガス浄化装置用混合器に比べて省エネルギーで加熱することができる。また、実施例1の排ガス浄化装置用混合器は、尿素水の熱分解、加水分解によってNH
3を生成可能な温度域まで容易に加熱することができる。
【0067】
(実施例2)
排ガス浄化装置用混合器を流通する排ガスの流れに対して、上流側に位置する領域Aの発熱密度が、下流側に位置する領域Bの発熱密度よりも大きくなるように電熱部を設け、印加する電圧を、領域A:領域Bが約2:1の割合になるようにするとともに、外筒10及びフィン20の材質をコージェライトとしたこと以外は、実施例1と同様にして排ガス浄化装置用混合器を得た。
【0068】
(実施例3)
領域A及びBの発熱密度が同じ電熱部を設けたこと以外は実施例1と同様にして排ガス浄化装置用混合器を得た。
【0069】
上記の実施例2及び3の排ガス浄化装置用混合器について、加熱シミュレーションを行った。加熱シミュレーションを行う際の使用ソフトとしては、Ansys fluent Ver19.1を用い、シミュレーション条件は、ソルバータイプ:圧力ベースソルバー、乱流モデル:低レイノルズ形SST(Shear Stress Transport)k-ωとした。加熱シミュレーションでは、コージェライトについて密度を2.5g/cm
3、熱容量を630J/kgK、熱伝導率を4.4W/mKとして計算を行った。
加熱シミュレーションでは、300Wを印加した場合に、27℃のガスが流量2Nm
3/分で排ガス浄化装置用混合器に入った際のガス流れ部の表面温度を比較した。実施例2におけるガス流れ部の表面の最低温度は、領域Aが202℃、領域Bが293℃であったのに対し、実施例3におけるガス流れ部の表面の最低温度は、領域Aが102℃、領域Bが225℃であった。また、
図22に示されるように、実施例3では、フィンの広い領域(特に領域A)で200℃以下となったのに対し、実施例2では、200℃以下となる領域は確認されなかった。
したがって、実施例2の排ガス浄化装置用混合器は、実施例3の排ガス浄化装置用混合器に比べて、より省エネルギーで加熱することができる。また、実施例2の排ガス浄化装置用混合器は、尿素水の熱分解、加水分解によってNH
3を生成可能な温度域まで容易に加熱することができる。
【符号の説明】
【0070】
1A,1B 排ガス浄化装置用混合器
10 外筒
20 フィン
30 電熱部
40 電気接続用端子
50 引き出し部
100 排ガス浄化装置
110 排気筒
120 圧縮弾性部材
130 第1コネクタ部材
131 第2コネクタ部材
140 尿素噴射ノズル
150 SCR触媒
160 外部電源