IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナワテクノロジーズの特許一覧 ▶ コミサリア ア レネルジー アトミック エ オ ゼネルジー アルテルナティブの特許一覧 ▶ ユニヴェルシテ フランソワ ラブレの特許一覧

特許7345453垂直に配向したカーボンナノチューブの製造方法、及びそのようなナノチューブを電極として使用する電気化学キャパシタ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】垂直に配向したカーボンナノチューブの製造方法、及びそのようなナノチューブを電極として使用する電気化学キャパシタ
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/16 20170101AFI20230908BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20230908BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20230908BHJP
   H01G 11/32 20130101ALI20230908BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20230908BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20230908BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20230908BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20230908BHJP
【FI】
C01B32/16
B82Y30/00
B82Y40/00
H01G11/32
H01G11/36
H01G11/60
H01G11/62
H01G11/86
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020512741
(86)(22)【出願日】2018-08-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 FR2018052095
(87)【国際公開番号】W WO2019043320
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-07-12
(31)【優先権主張番号】1757948
(32)【優先日】2017-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(31)【優先権主張番号】1759663
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】519316520
【氏名又は名称】ナワテクノロジーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】510225292
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジー アトミック エ オ ゼネルジー アルテルナティブ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【住所又は居所原語表記】Batiment Le Ponant D,25 rue Leblanc,F-75015 Paris, FRANCE
(73)【特許権者】
【識別番号】506189113
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・トゥール
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】デスカーペンタリーズ, ジェレミィ
(72)【発明者】
【氏名】デスグランジ, セドリック
(72)【発明者】
【氏名】ボワセ, オレリアン
(72)【発明者】
【氏名】メイン, マルティーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ピノー, マチュ
(72)【発明者】
【氏名】トラン ヴァン, フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ガマス, フェド
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-523841(JP,A)
【文献】特表2016-538423(JP,A)
【文献】特開2014-231446(JP,A)
【文献】国際公開第2007/099975(WO,A1)
【文献】特開2014-225508(JP,A)
【文献】JO S H; ET AL,CORRELATION OF FIELD EMISSION AND SURFACE MICROSTRUCTURE OF VERTICALLY ALIGNED CARBON NANOTUBES,APPLIED PHYSICS LETTERS,米国,A I P PUBLISHING LLC,2004年01月19日,VOL:84, NR:3,PAGE(S):413 - 415,http://dx.doi.org/10.1063/1.1642272
【文献】DAI LEI; ET AL,LARGE-SCALE PRODUCTION AND METROLOGY OF VERTICALLY ALIGNED CARBON NANOTUBE FILMS,JOURNAL OF VACUUM SCIENCE AND TECHNOLOGY: PART A,米国,2009年06月30日,VOL:27, NR:4,PAGE(S):1071 - 1075,http://dx.doi.org/10.1116/1.3148827
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/16
B82Y 30/00
B82Y 40/00
H01G 11/32
H01G 11/36
H01G 11/60
H01G 11/62
H01G 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に垂直に配向したカーボンナノチューブ(VACNT)を含む複合材料を調製する方法であって、該複合材料は、該カーボンナノチューブの外面上に堆積した追加の無秩序な炭素を含み、
前記方法は、触媒存在下で加熱された筐体を含む反応器内での炭素源ガスの化学蒸着と、基板上のVACNTの成長とを含み、
前記炭素源及び前記触媒前駆体を含む気相は、500℃~700℃の温度、かつ0.5bar~1.5barの圧力で前記加熱された筐体に連続的に注入され、
前記触媒前駆体は遷移金属を含み、
前記VACNT及び前記追加の無秩序な炭素の成長は、同一の気相成長ステップで行われる、方法。
【請求項2】
前記追加の無秩序な炭素は、グラファイト領域を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遷移金属は、鉄、ニッケル、及びコバルトからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記筐体に注入される前記気相は、炭素源としてのアセチレン、キャリアガスを備えた前記触媒前駆体、及び不活性ガスを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記筐体に注入される前記気相は、炭素源としてのアセチレン、水素、触媒前駆体としてのフェロセン、フェロセンでのキャリアガスとしてのトルエン、及び不活性ガスとしてのアルゴンからなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記気相の通過速度は、1mm/s~15mm/sである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記気相の通過速度は、3mm/s~10mm/sである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記気相中の炭素の総含有量に基づいた鉄の含有量は、0.4%~1.2%である(質量%として)、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記気相中の炭素の総含有量に基づいた鉄の含有量は、0.55%~0.9%である(質量%として)、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
アセチレンの総体積は、0.7~6ml/mmであり、
アセチレン流の通過速度は、1mm/s~15mm/sであり、
e/C比に基づいて質量で表された鉄の含有量は、0.4%~1.5%である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
電子デバイス又は電気デバイス用の電極の製造方法であって、
前記製造方法は、基板上に垂直に配向したカーボンナノチューブ(VACNT)を含む複合材料を調製することを含み、
前記複合材料は、該カーボンナノチューブの外面上に堆積した追加の無秩序な炭素を含み、
前記複合材料を調製する方法は、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法である、製造方法。
【請求項12】
0.01~1kW/mの電力で、少なくとも0.8Wh/mのエネルギーを貯蔵可能であるスーパーキャパシタデバイスの製造方法であって、
請求項11に記載の電極の製造方法を含む、製造方法。
【請求項13】
前記スーパーキャパシタは、0.01~1kW/mの電力で、少なくとも2Wh/mのエネルギーを貯蔵可能であることを特徴とする、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載のスーパーキャパシタデバイスを製造する方法であって、
(i)請求項11に記載の方法によって電極を製造すること、及びセパレータ、集電体、電解質、及び筐体を準備することと、
(ii)前記電極上の前記集電体を溶接することと、
(iii)前記電極及び前記セパレータを組み立てることと、
(iv)前記電極の前記集電体を前記筐体の末端に溶接すること、
(v)前記筐体内に電極/セパレータ組立体を取り付けること(ステップ(iv)及び(v)は逆でもよい)、
(vi)前記筐体内に前記電解質を追加及び拡散することと、
(vii)前記筐体を密封すること
とのステップを含む、方法。
【請求項15】
前記電解質は、アニオンに付随するカチオンを含むイオン液体、又は溶媒中に溶解した塩を含む電解質溶液であり、該溶媒はプロトン性溶媒、又は非プロトン性溶媒、又は少なくとも1つの非プロトン性溶媒及び少なくとも1つのプロトン性溶媒の混合物である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記非プロトン性溶媒は、ジクロメタンのハロゲン化アルカン、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン又は2-ブタノンのケトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、N-メチルピロリド(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びそれらの混合物、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、及びそれらの混合物、又はラクトンからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記イオン液体は、
1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウム、1-メチル-3-イソプロピルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-エチル-3,4-ジメチルイミダゾリウム、N-プロピルピリジニウム、N-ブチルピリジニウム、N-tert-ブチルピリジニウム、N-tert-ブタノール-ペンチルピリジニウム、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム、N-ブチル-N-メチル-ピロリジニウム、N-メチル-N-ペンチルピロリジニウム、N-プロポキシエチル-N-メチルピロリジニウム、N-メチル-N-プロピルピペリジニウム、N-メチル-N-イソプロピルピペリジニウム、N-ブチル-N-メチルピペリジニウム、N-N-イソブチルメチルピペリジニウム、N-sec-ブチル-N-メチルピペリジニウム、N-メトキシ-N-エチルメチルピペリジニウム、及びN-エトキシエチル-N-メチルピペリジニウムの4級アンモニウムイオンを含むイオン液体と、
テトラフルオロホウ酸アニオン(BF )、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン(TFSI)、又はビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン(FSI)のアニオンに付随する、ブチル-N-N-トリメチルアンモニウム、N-エチル-N,N-ジメチル-N-プロピルアンモニウム、及びN,N,N-トリメチルアンモニウムを含むイオン液体とからなる群から選択される、請求項15又は請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記電解質は、
ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、オキサゾール、トリアゾール、アンモニウム、ピロリジン、ピロリン、ピロール、及びピペリジンの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのカチオンと、
、Cl、Br、I、NO 、N(CN) 、BF 、ClO 、PF 、RSO 、RCOO、ここでRはアルキル基又はフェニル基、(CFPF 、(CFPF 、(CFPF 、(CFPF、(CF、(CFSO 、(CFCFSO 、(CFSO 、CFCF(CFCO、(CFSOCH、(SF、(CFSO、[O(CF(CFO]PO、CF(CFSO 、1-エチル-3-メチルイミダゾール、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド([EMIM][TfN])からなる群から選択される少なくとも1つのアニオンとを含むイオン液体を含む、請求項15~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記電解質溶液は、溶媒に加えて溶媒中に溶解した塩の状態で電解質を含み、
前記塩のアニオンは、
、Br、Cl、I、HCO 、HPO 、Cr 3-、BF 、PF 、又はN(CN) の無機イオンと、
RSO 、RCOO(Rは置換される可能性のあるアルキル基又はフェニル基)、(CFPF 、(CFPF 、(CFPF 、(CFPF、(CF、(CFSO 、(CFCFSO 、(CFSO 、CFCF(CFCO、(CFSOCH、(SF、(CFSOSO、[O(CF(CFO]PO、CF(CFSO 、ビス(トリフルオロ-メタンスルホニル)アミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)アミドアニオンからなる群から選択される有機イオンと、
ポリマーアニオンと、
生物アニオンとから選択され、
及び/又は前記塩のカチオンは、
Li、Na、Mg2+、Cu2+、Zn2+及びAl3+からなる群から選択される金属カチオン、又は有機カチオンであることが知られている、請求項16~18のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気キャパシタ、特に電気化学二重層キャパシタ及びそのようなキャパシタの製造方法に関する。特に、これらのキャパシタはスーパーキャパシタである。また、本発明は電気化学二重層キャパシタの製造で用いられ得る、基板上に垂直に配向したカーボンナノチューブ(VACNT)を堆積させる方法に関する。特に、本発明は、金属基板上へのVACNTマットの化学蒸着(CVD)のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学二重層(スーパー)キャパシタは長い間知られている。それらは、セパレータによって分離され、電解質に浸漬された負極及び正極を含む。それらは、容量メカニズムに基づく。電荷は各電極に吸着され、電気化学二重層を生成する。
【0003】
これらのデバイスの直列抵抗を減らすことが求められており、各充電及び各放電で電気エネルギーが熱に変換される。各固体/固体及び固体/液体界面は、直列抵抗に寄与する。従って、電極は大きな接触面及び優れた固有の電気伝導性を備えなければならない。これらのスーパーキャパシタは、しばしば様々な形状の炭素電極を使用する。数多くの研究により、電極を形成する炭素材料の性質が最適化されている。
【0004】
例として、国際公開第03/038846号(Maxwell Technologies)に、炭素粉末から作製された電極、すなわち金属集電体と接触する導電性カーボンブラック粉末の第1層、及び多孔質セパレータに含まれる液体電極と接触する活性炭の第2層を含む電気化学二重層キャパシタが記載されている。これらの粉末は、一般に有機バインダーを含む。国際公開第2007/062126号及び米国特許出願公開第2009/0290288号明細書(Maxwell Technologies)に、導電性カーボン、活性炭、及び有機バインダーの混合物を含む電極が記載されている。
【0005】
現在、炭素ベースのナノ構造材料を使用することが想定されており、W.Gu及びG.Yushinによる記事「電気化学キャパシタ用途用のナノ構造の炭素材料:活性炭、炭化物由来の炭素、及びグラフェンの利点と制限」WIRE Energy Environ 2013年、doi:10.1002/wene.102.に詳細な議論がなされている。スーパーキャパシタ用の電極として想定されたナノ構造の炭素材料の中では、カーボンナノチューブ(CNT)、特に垂直に配向したカーボンナノチューブ(VACNT)が知られている。
【0006】
市場に存在するスーパーキャパシタは、一般に長い耐用年数(数百万サイクル)及び高い電力密度を有する。主な問題は、貯蔵されるエネルギーの量が小さいことである。CNTは、一般に活性炭よりもはるかに小さい比表面積を有する。このため、CNTベース(及び垂直に配向したカーボンナノチューブ(VACNT)ベース)のスーパーキャパシタのプロトタイプでは、単位表面積あたり、産業上の関心を得るのに十分な量のエネルギーを貯蔵することができない。
【0007】
配向したCNTは静電容量が小さすぎて単独では顕著な貯蓄特性を提供できないため、それらを導電性ポリマータイプの材料で覆うことが考えられており、これは国際公開第2012/004317号に記載されている。別のスーパーキャパシタの概念は、特に酸化還元反応、挿入及び電気吸着に関する、いわゆる擬似容量効果を含む。従って、電子伝導性を示し、酸化還元挙動を示すことが可能なポリマー電極を使用するスーパーキャパシタが文献に記載されている。これらのポリマーを高比表面積の導電性炭素基板上のコーティングの形で使用することが考えられている。これは、例えば、Scientific Report 6、22194、doi:10.1038Isrep22194(2016年)に出版されたVladらによる刊行物「酸化還元高分子ゲルハイブリッドカーボンスーパーキャパシタ」に記載されている。
【0008】
特に、垂直に配向したカーボンナノチューブ(VACNT)の調製は、国際公開第2015/071408(Commissariat a l’Energie Atomique et aux Energies Alternatives)で記載されており、そのようなコーティングに好都合な基板が示されている。これは、欧州特許第2591151号明細書(Commissariat a l’Energie Atomique et aux Energies Alternatives)、Sebastien Lagoutte(セルジーポントワーズ大学、2010年)による博士論文「ポリチオフェンナノ複合材料/配向したカーボンナノチューブ:イオン液体媒体中のスーパーキャパシタへの生産、特性評価、及び応用」、Marina Porcher(トゥール大学、2016年)による博士論文「スーパーキャパシタを製造するための共役ポリマーナノ構造材料/垂直に配向したカーボンナノチューブ」、及びElectrochimica Acta 130 (2014年)、754~765頁に出版されたS.Lagoutteらによる刊行物「ポリ(3-メチルチオフェン)/垂直に配向した多層カーボンナノチューブ:イオン液体における電気化学合成、特性評価、及び電気化学的貯蔵特性」に記載されている。この刊行物によると、酸化還元特性を備えた所定のポリマーは、イオン液体中の電解重合によってVACNT上に堆積され得る。
【0009】
それにもかかわらず、擬似容量材料の欠点の1つは電子移動による貯蔵方法であり、その方法は電荷の貯蔵を強化することが可能であるが、一般的に電極のサイクル性及びデバイスの充放電動態を低下させる。この問題は既知の解決策がなく、従って擬似容量デバイスの使用を避けるために、単位表面積あたりに貯蔵されるエネルギー量を増やす必要がある。
【0010】
電気化学スーパーキャパシタの別の産業上の課題は製造コストであり、これには特に電極の製造コストが含まれる。現在、大きな表面で産業発達の可能性が最も高く、低コストでVACNTを合成する方法は、化学蒸着(CVD)法である。この手法は、金属ベースの触媒(触媒CVD)が必要である。CVD法は産業では広く使用されているが、大量生産では依然として高価である。従って、スーパーキャパシタへの応用を目的として、製品の品質を維持しながら低コストでVACNTを合成するための工業用CVD法を開発することが望まれる。これに関して、特に、大気圧(APCVD)かつ低温(移動しているアルミニウムストリップ基板上への堆積に適合する)で、好ましくは単一ステップでCVDプロセスを実行することが望まれている。
【0011】
VACNTを合成するために、触媒CVD(CCVD)は2つの方法で実行され得、それらは触媒ナノ粒子を単一ステップで形成するか、又は複数のステップで形成するかの方法が異なる。複数のステップの方法は、薄膜の予備堆積及び熱ディウェッティングの段階を含み、通常、反応促進剤の使用が必要である。それは、単一ステップの方法(エアロゾルアシストCCVD法)よりも工業生産にあまり適していない。後者は、触媒及び炭素前駆体が反応器に同時に導入され、触媒ナノ粒子が気相で形成され、その後基板上に堆積し、促進剤を追加することなく、大気圧でカーボンナノチューブを連続的に成長させる核を形成する。この方法は、強固で実装が非常に簡単であり、欧州特許第1515911号明細書(Commissariat a l’Energie Atomique et aux Energies Alternatives)に記載されている。
【0012】
低コストで連続的な方法により、厚さの大きいVACNTマット(すなわち、長さの長いVACNT)を製造できる可能性が十分にあるが、これらのVACNTマットから製造されたスーパーキャパシタデバイスの単位表面積あたりのエネルギー貯蔵容量の問題は現時点で明らかな解決策がない。
【0013】
VACNTの品質に影響を有する他の要因は、堆積した炭素の純度(すなわち、ヘテロ原子の存在及び性質)、VACNTを構成するナノチューブ内での無秩序な領域の存在、及びカーボンナノチューブ以外の形態で堆積した炭素の割合(及び構造)である。これらのVACNTを使用する電気デバイスの品質における各要因の影響、特にスーパーキャパシタに関しては、完全には明らかになっていない。しかしながら、スーパーキャパシタ用のVACNTは化学的に純粋で、構造的に整列していなければならないというコンセンサスが存在するようである。
【0014】
より正確には、Nano Letters、9(2)巻、769~773頁において、2009年に出版されたS.Yasudaらによる刊行物「絶対純度を評価するためのカーボンナノチューブフォレスト内の黒鉛質炭素質不純物の存在と速度論」によると、不純物がないことは、スーパーキャパシタに使用されるVACNTにとって顕著な品質要因である。VACNT内の無秩序な領域は言及されているが、その効果は特徴付けられていない。Brownら(「垂直に配向したカーボンナノチューブフィルムの電気化学的電荷貯蔵特性」、The Journal of Physical Chemistry、19526~19534頁(2012年))は、無秩序な領域がVACNTマットへの電荷の侵入を阻止しやすいと考え、それらを除去するための酸化熱処理を提案している。この教えと一致して、W.Luら(「配向したカーボンナノチューブ電極及びイオン液体電解質からの高性能な電気化学キャパシタ」、Journal of Power Sources、189(2)、1270~1277頁(2009年))は、プラズマエッチングによってVACNTを形成するナノチューブの表面に堆積したアモルファスカーボンを除去すると、スーパーキャパシタの静電容量が増加することを示している。
【0015】
The Journal Thin Solid Films 520、1651~1655頁において、2011年に出版されたG.Atthipalliらによる刊行物「遷移金属触媒を使用して銅箔上に成長したカーボンナノチューブフォレストの電気化学的特性評価」は、多層VACNTの優れた結晶性が(アモルファスカーボンとは対称的に)スーパーキャパシタの電荷の貯蔵容量を促進することを教示している。The Journal Electrochimica Acta 91、96~100頁において、2013年に出版されたR.Reitらによる刊行物「アルミニウム基板上に成長した垂直に配向したカーボンナノチューブスーパーキャパシタの成長時間性能依存性」には、VACNTマットの上面に堆積されたアモルファスカーボンの存在が記載されている。この堆積物は、スーパーキャパシタ内に電気二重層の形成を引き起こすように思われる。S.Dorflerら(「アルミニウム上に垂直に配向したカーボンナノチューブに基づく高電力スーパーキャップ電極」、J.Power Sources 227、218~228頁、(2013年))は、VACNT層にアモルファスカーボンが存在し、スーパーキャパシタの静電容量を減少させると記載している。
【0016】
結論として、有害であると考えられる無秩序な炭素又はアモルファスカーボンの割合を減らすために、引用された刊行物には、堆積後にそれを除去するための酸化又は塩基処理のいずれか(Brwonら、Liら、Kimら、Luら)、又はそのような堆積を回避する特定の動作条件(Atthipalliら、Reitら、Dorflerら)が提案されている。これら2つのアプロ-チにより、電極の製造方法はより複雑になり、制約が大きくなる。
【0017】
本発明者らは、スーパーキャパシタの電極としての使用を目的として、VACNTマット(「フォレスト」とも呼ばれる)の改善を提供する必要があることを発見した。特に、これらのVACNTマットから製造されたスーパーキャパシタデバイスの単位表面積あたりのエネルギー貯蔵容量を改良することが望ましい。しかしながら、従来技術はこのような改良に達するための道筋を提供していない。
【発明の概要】
【0018】
本発明者らは、驚くべきことに、VACNTマット内の追加の無秩序な炭素の存在は、VACNTマットから製造されたスーパーキャパシタデバイスの単位表面積あたりのエネルギー貯蔵容量を向上させ得ることを発見した。特に、外面に堆積した追加の無秩序な炭素の存在がこの向上効果をもたらす。上記の従来技術とは異なり、本発明はVACNTの堆積後に無秩序な炭素を除去することが求められるだけでなく、無秩序な炭素の堆積を促進することも求められる。
【0019】
従って、本発明によると、無秩序な炭素を含むVACNTを使用することで、純粋な容量性貯蔵モードを維持しながら、デバイスの単位表面積あたり及び単位体積あたりの静電容量を増加させることが可能になる。このような構成(追加の無秩序な炭素を組み込んだCNTマトリックスの配向と規則的なスペース)は、電力及びサイクル性を失うことなく、静電容量(従って、一定電圧でエネルギーE=1/2CV)を大幅に向上させる(擬似容量性貯蔵材料と比較して)。
【0020】
本発明の第1の対象は、基板上に垂直に配向したカーボンナノチューブ(VACNT)を含む複合材料であり、該複合材料はナノチューブの外面に堆積した追加の無秩序な炭素を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明の特定の実施形態によると、前記ナノチューブは特に多層ナノチューブであり、前記追加の無秩序な炭素はグラファイト領域を含み、前記複合材料は、カーボンナノチューブの質量に基づいて追加の無秩序な炭素を少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%、さらに優先的には少なくとも50%含む(ただし、好ましくは90%以下、さらに優先的には80%以下)。VACNTのラマンスペクトルにおけるDバンドとGバンドとの幅の比(励起波長が532nm、レーザー電力が0.2nWで記録)は2.0以上であり、好ましくは2.2以上であり、さらに優先的には2.4以上である。
【0022】
ナノチューブの平均長さは、30μm~300μmであり、好ましくは50μm~150μmであり、さらに優先的には70μm~130μmである。これらの優先範囲は、特にスーパーキャパシタの電極として使用される複合材料との適合性を指す。
【0023】
前記複合材料の基板は、好ましくはアルミニウムをベースとする金属シート又は金属箔であってもよい。
【0024】
本発明の別の対象は、加熱された筐体内の触媒存在下で化学蒸着法によって得られる本発明に係る複合材料であり、触媒前駆体は加熱された筐体内に連続的に注入される。この方法は、カーボンナノチューブが触媒由来の金属粒子を含む(特にその中心に含む)複合材料をもたらす。
【0025】
本発明の別の対象は、基板からナノチューブを除去することによって、本発明に係る複合材料から得られる、配向した平行なカーボンナノチューブの集合体である。そのような配向した平行なカーボンナノチューブは、特に自立型VACNTマットによって形成される。それは、当業者に既知の技術に従って基板を置換することにより、最初に気相から調製されたもの以外の基板によって支持されてもよい。VACNTが原基板から除去したとき、追加の無秩序な炭素の割合は変化しない。
【0026】
また、本発明は基板上にVACNTを含む複合材料を生成するための方法に関連し、複合材料は追加の無秩序な炭素の堆積物を含む。この堆積物は、VACNTの堆積と同じプロセスステップで得られてもよく、単位面積あたりの電気化学的貯蔵特性を高める。一方、従来技術では一般に無秩序な炭素(追加か否か)が性能に有害であると記載されており、VACNT蒸着法を適切に実施することにより、除去(例えば、熱酸化による)又は回避することが求められている。本発明に係る方法は、触媒存在下での加熱された筐体を含む反応器内での炭素源ガスの化学蒸着、及び基板上のVACNTの成長を含み、該方法の中で前記炭素源及び触媒前駆体を含む気相は、500℃~700℃の温度、及び0.5bar~1.5barの圧力で加熱された筐体に連続的に注入され、触媒前駆体は好ましくは鉄、ニッケル、及びコバルトからなる群から選択される遷移金属を含む。
【0027】
特定の実施形態によると、筐体の圧力は0.6bar~1.4barであり、好ましくは0.8bar~1.2barであり、さらに優先的には0.9bar~1.1barである。筐体は670℃以下、優先的には650℃以下、さらに優先的には500℃~630℃で加熱される。筐体に注入される気相は、炭素源としてのアセチレン、キャリアガス(炭素源でもよい)を含む触媒前駆体、及び任意に不活性ガス(好ましくは、アルゴン)を含む。また、筐体に注入される気相は水素を含み、好ましくはアセチレンと水素の合計含有量が25%~100%である(さらに優先的には、50%~80%)。筐体に注入される気相は、本質的に炭素源としてのアセチレン、水素、触媒前駆体としてのフェロセン、フェロセンにおけるキャリアガスとしてのトルエン、及び不活性ガスとしてのアルゴンからなる。気相の通過速度は、1mm/s~15mm/sであり、好ましくは3mm/s~10mm/sである。
【0028】
好ましくは、気相中の炭素の総含有量に基づく鉄の含有量、すなわちFe/C比は質量で、0.4%~1.2%であり、好ましくは0.5%~1.1%であり、さらに優先的には0.55%~0.9%である(質量パーセントとして)。
【0029】
さらに、本発明の別の対象は、電子デバイス又は電気デバイス用の電極として請求項1~9のいずれか1項に記載の複合材料、又は請求項10に記載のカーボンナノチューブの集合体の使用である。
【0030】
さらに、本発明の別の対象は、本発明に係る複合材料又はナノチューブの集合体を含む少なくとも1つの電極を含むことを特徴とする、電子デバイス又は電気デバイス用の電極である。電子デバイス又は電気デバイスは、スーパーキャパシタ等の電気化学キャパシタでもよい。後者は、本発明の別の目的を意味する。これら2つの電極の少なくとも1つ(及び好ましくは両方)は、本発明に係る複合材料、又は本発明に係るナノチューブの集合体を含んでもよい。そのようなスーパーキャパシタでは、2つの電極は筐体内に含まれ、セパレータで分離され、またデバイスは少なくとも1つのアニオン、少なくとも1つのカチオン、及び任意に溶媒を含む電解質を含む。
【0031】
本発明の最後の対象は、そのようなスーパーキャパシタを製造する方法であり、(i)本発明に係る電極、セパレータ、集電体、電解質、及び筐体を準備することと、(ii)電極上の集電体を溶接することと(好ましくは、超音波)、(iii)電極及びセパレータを組み立てることと、(iv)電極の集電体を筐体の末端に溶接することと(好ましくは、超音波)、(v)収容筐体内に電極/セパレータ組立体を取り付けることと(ステップ(iv)及び(v)は逆でもよい)、(vi)筐体内での電解質を追加及び拡散することと、(vii)筐体を密封することとのステップを含む。
【0032】
一実施形態では、本発明に係るキャパシタデバイスは、同じ性質の2つの電極を含む対称型のシステムであり、電極は金属基板(好ましくは、アルミニウム)によって形成され、その上に追加の無秩序な炭素を有する垂直に配向したカーボンナノチューブ(VACNT)のマットが堆積される。キャパシタデバイスは、さらに液体電解質を含む。本発明に係るそのようなデバイスは、同じ平均長さと同じ平均表面密度とを備えたVACNTマットを有する電極で製造された同一のシステムよりも、より電気的な充電を貯蔵することを可能とする。
【0033】
また、本発明は、基板及び追加の無秩序な炭素を有するVACNTマットを含むスーパーキャパシタ用の改良した電極に関する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
以下に説明するように、図は本発明又は従来技術の特定の態様を示す。それらは本発明の範囲を制限しない。
図1図1は、本発明を実施するためのVACNTを製造するために使用されたバッチ反応器を概略的に示す。
図2図2は、サンプルNI-836の領域での異なる倍率の走査型電子顕微鏡(SEM)によって得られた画像(図2(a)、(b)、及び(c))、並びに透過型電子顕微鏡法(TEM)によって得られた画像(図2(d))を示す。各画像の下部にある線の長さは、約100μm(図2(a))、約30μm(図2(b))、約100nm(図2(c))、約30nm(図2(d))を示す。
図3図3は、サンプルNGI-1067の領域での異なる倍率の走査型電子顕微鏡(SEM)によって得られた画像(図3(a)、(b)、及び(c))、並びに透過型電子顕微鏡法(TEM)によって得られた画像(図3(d))を示す。各画像の下部にある線の長さは、約100μm(図3(a))、約30μm(図3(b))、約100nm(図3(c))、約30nm(図3(d))を示す。
図4図4は、追加の無秩序な炭素堆積物を含む個々のCNTのサンプルNGI-1067の領域での高分解能透過型電子顕微鏡によって得られた画像を示す。
図5図5は、異なる量の追加の無秩序な炭素を含む本発明に係るVACNTマットの2つのサンプルの熱重量分析(TGA)を示す。
図6図6は、図5の測定で使用したサンプルの2つのSEM顕微鏡写真、すなわち、サンプル1(図6(a))及びサンプル2(図6(b))を示す。追加の無秩序な炭素の割合は、サンプル2と比較してサンプル1の方が大きい。
図7図7は、33%の割合の無秩序な炭素を含む本発明に係るVACNTのサンプルで得られた典型的なラマンスペクトルを示す。
図8図8は、異なる割合の追加の無秩序な炭素を有する本発明に係るVACNTマットの様々なサンプルのラマンスペクトルの特定のバンドの幅から導出されたパラメータを示す。図8(a)は、主軸上のDバンドの幅(丸点)、及び3Dバンドの強度と第2軸上のGバンドの強度との比を示す。図8(b)は、DバンドとGバンドとの幅の比を示す。
図9図9は、様々な混合ガスと流量における、バッチ反応器中の合成時間の関数として追加の無秩序な炭素の割合を示す。
図10図10は、図9と同じ合成条件における、合成持続時間の関数としてVACNTマットの高さを示す。
図11A図11(a)は体積密度、図11(b)は追加の無秩序な炭素の割合を示す。
図11B図11(c)は反応器に注入されるアセチレンの全体積の関数として、VACNTマットの高さを示す。図11(d)は、同じ合成条件における追加の無秩序な炭素の割合を示す。
図12図12は、本発明に係るスーパーキャパシタを含み得る3つの型の筐体、すなわち、ボタン電池型の筐体(図12(a))、フレキシブルパウチ型の筐体(図12(b))、円筒状電池型の筐体(図12(c))を示す。
図13図13は、アセトニトリル中の1MのETNBFから形成された電解質と、厚さ42μm及び36μmを有するVACNTマットによって形成された2つの電極とを含む2つのスーパーキャパシタの2.5Vのラゴーンプロットを示す。四角点は、追加の無秩序な炭素が56%の場合(サンプルNGI-1113)であり、三角点は追加の無秩序な炭素を含まない場合(サンプルNI-766)を示す。
図14図14は、2つのスーパーキャパシタの相対的なボルタモグラムを示す。1つは、電極材料として厚さ105μm及び119μmで65%の追加の無秩序な炭素を含むVACNTマット(NGI-1067を参照)を含み、もう一方は、同じ厚さで追加の無秩序な炭素を含まないVACNTマット(NI-766を参照)を含む。
図15図15は、図14のスーパーキャパシタのラゴーンプロットを示す(四角点:65%の追加の無秩序な炭素、三角点:追加の無秩序な炭素を含まない)。丸点は活性炭電極(厚さ100μm)を含む相対的なスーパーキャパシタと一致する。
図16図16は、3つの異なるマットの高さ、すなわち、42μm(丸点)、119μm(四角点)、152μm(三角点)における、56%~65%の追加の無秩序な炭素を有する電極を含む3つのスーパーキャパシタのラゴーンプロットを示す。
図17図17は、VACNTマットと追加の無秩序な炭素とを含む本発明に係るスーパーキャパシタの表面積24cmを含む、パウチセル形状でのスーパーキャパシタのボルタモグラムを示す。走査速度は50mV・s-1である。
図18図18は、本発明(丸点)及び市販のスーパーキャパシタ(三角点)によるスーパーキャパシタの表面積24cmを含む、パウチセル形状でのスーパーキャパシタのコンパレータラゴーンプロットを示す。活性炭電極の厚さは100μmである。
図19図19は、本発明に係る2つの電極のVACNTマットの中央で撮ったSEM顕微鏡写真を示し(図19(a)は参照C1、図19(b)は参照C3)、実施例2.3.に記載のスーパーキャパシタの製造に使用された。
図20図20は、多層CNTのラマンスペクトル特性とバンドの名前を示す。
図21図21は、バンドの数値デコンボリューションを含む多層カーボンナノチューブのラマンスペクトル特性(図21(a))と、Gバンド及びDバンドに付随する対称モ-ド(図21(b))を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
ここに本発明の実施形態を記載する。特に明記しない限り、固体又は液体の割合は質量%を指す。
【0036】
(1.VACNTを合成する方法の説明)
本発明によると、基板上のVACNTの成長は、反応器に連続的に注入される触媒源及び炭素源の存在下で行われる。非常に有利な実施形態によると、触媒源は炭素溶媒に触媒前駆体を溶解した後、液体状態で反応器に導入され、炭素源は気体状態である。これは、上記の欧州特許第1515911号明細書に記載されているように、注入ポンプを使用してパルプ注入によって行われ得る。
【0037】
本発明の本質的な様態によると、反応性ガスは「酸素源」ガス及び「触媒前駆体」を含む。触媒前駆体は、基板上に事前に堆積されてもよく、又は一方は(優先的に)炭素源で同時注入されてもよい。後者の相違は、基板上のカーボンナノチューブの連続的な成長を可能にする。触媒前駆体は、特に例えばフェロセン、ニッケロセン、コバルトセン、又はそれらの混合物のいずれか1つ等の遷移金属から選択される。炭素源は液体、固体、気体でもよい。特に、炭化水素、アルコール、一酸化炭素、ハロゲン化炭素(後者はあまり好ましくない)、トルエン、シクロヘキサン、植物由来の油、ベンジルアミン、アセトニトリル、エチレン、アセチレン、キシレン、メタン、及びそれらの混合物のいずれかから選択される。
【0038】
この合成の特定の実施形態において、触媒前駆体はフェロセンである。固体であるので、トルエン等の適当な溶媒に溶かし、溶液の液滴のエアロゾル状で反応器の中に運ばれる。本実施形態では、トルエンは単にフェロセンのキャリアであり、方法の好ましい温度範囲で著しく分解しない。
【0039】
本発明において好ましい炭素源はアセチレンであり、その分解温度は方法の好ましい温度に適合する。最も好ましい実施形態は、水素を添加して炭素源としてのアセチレンと、触媒前駆体としてのフェロセンとを結合させる(好ましくは総ガス流が30%を超えない)。
【0040】
本発明の有利な実施形態によると、VACNTマットの合成は、低温(700℃以下、好ましくは670℃以下、さらに好ましくは500℃~650℃の間)、かつ好ましくは大気圧で金属基板(特に、温度が高すぎない場合はアルミニウム)上でCVDによって行われる。バッチ反応器、又は連続的な反応器(好ましくは、「ロールtoロール」型)を使用することが可能である。好ましくは、基板はCVDによるVACNTの堆積が行われる反応ゾーン内を移動する金属ストリップである。一例として、静的モ-ドで約580℃~約630℃の温度が好ましく、この温度は移動している基板にも適している。
【0041】
上記の温度は、炉の設定温度と一致する。これは、任意のVACNT堆積反応がない場合の定常ガス流条件下での基板の温度と一致する。実際には、これらの条件は反応条件を採用し、存在しない触媒前駆体を除くすべてのガスを予定した速度で注入することによって達成され得る。これは本発明に係る方法の条件下で、アセチレンの分解の触媒反応が発熱性であるため、反応中の基板の局所温度が設定温度よりも高くてもよいからである。
【0042】
圧力は有利には大気圧であり、この表現は大気圧に基づくわずかな過圧力又は減圧力を包含する。より正確には、有利な実施形態では、圧力は0.6bar~1.4barであり、優先的には0.8bar~1.2barであり、さらに優先的には0.9bar~1.1barである。
【0043】
好ましい炭素源ガスはアセチレンであり、500℃~650℃の方法の温度に適合する。反応器中の気体混合物は、水素を含まなければならず、メタノセンと特にフェロセンとの分解を可能にする。水素は、本発明に係る方法の有利な温度でのアセチレンの分解由来であってもよいが、水素ガスを反応混合物に添加することが好ましい。
【0044】
好ましい触媒前駆体はフェロセンであり、分解によってナノメ-トルの鉄粒子を形成する。鉄はアセチレンの分解を触媒し、鉄粒子はナノチューブの成長の核として機能する。
【0045】
有利な実施形態では、触媒源(例えば、フェロセン)は適切な溶媒(フェロセンの場合、例えばトルエン)に溶解する。本発明に係る方法の有利な実施形態では、トルエン中のフェロセン含有量は、2.5%~12%であり、優先的には7.5%~11%である。
【0046】
フェロセンは約826℃の温度で分解され、これにより、約850℃の温度でVACNTを成長させることが可能となるが、約670℃以下での温度では成長できない(本発明において好ましいように)。これは、フェロセンの標準分解温度(826℃)以下であるからであり、好ましくは400℃~450℃の低温でフェロセンからの鉄原子を離すために、水素を添加する必要性を示している。
【0047】
さらに、本発明に係る方法が行われる、約670℃以下(好ましくは650℃以下であり、さらに優先的には630℃以下である)の温度範囲では、トルエンはほとんど分解せず、従ってCNTの成長に好ましい炭素源を構成しない。従って、低温で分解する炭素源を導入することが必要であり、この炭素源は非常に有利なアセチレンである。
【0048】
図1は、本発明を実施するために使用され得るVACNTを堆積することを可能にするバッチ反応器1を概略的に示す。注入ユニット2は、キャリアガス中の微細な液滴の形で、エバポレ-タ5内の触媒前駆体(好ましくはトルエンに溶解したフェロセン)を含む溶液3(貯蔵器4に含まれる)を(好ましくは周囲温度で)注入することを可能にする。液滴は、キャリアガスが通過するエアロゾル6を生成する注入システムによって生成される。後者は、有利には炭素源ガスを含むか、又は炭素源ガスは注入システム6の下流に追加されてもよい。エバポレ-タ5は、第1加熱手段(図示せず、この場合この加熱手段により少なくとも2つ(好ましくは3つ)の温度帯の調節を可能にする)によって加熱され、予め形成された注入された微細な液滴から溶媒を少なくとも部分的に蒸発させる。触媒前駆体は、キャリアガス8の流れで、VACNTの合成が行われる炉ユニット9に移送される。炉ユニット9は、第2加熱手段10を含み、好ましくは管状(この場合、任意の少なくとも2つ(好ましくは3つ)の温度帯の調節を可能にする)であり、その中に好ましくは金属又は石英製のチューブ11が挿入される。このチューブ11は、エバポレ-タ5に接続されており、その中を移動するガス流を有する。基板12はストリップ又は個々のペレット(好ましくはストリップ上に配置される)であってもよく、チューブ内に配置される。VACNTマットの堆積は、この基板12上で行われる。反応器1は、炉ユニット9の下流に冷却ゾーン13を含んでもよい。ガスの流れは、炉の下流のトラップ(図示せず)を通過して、ガスを凝縮してこの時点までに取り込まれた粒子を除去する。ガスの流れは、ガスの種類(Ar、H、C)による流量計(手動又は自動)を備えたガス分配パネル(図示せず)によって既知の方法で調整される。圧力の調整は、手動又は自動で行われてもよい。移動している基板上への堆積に使用され得る反応器は、仏国特許第3013061号明細書(Commissariat a l’Energie Atomique et aux Energies Alternatives)に記載されている。
【0049】
本発明に係る方法の特徴の1つは、VANCTの成長及び追加の無秩序な炭素の堆積が方法の同じステップで同時に起こるという事実にある。
【0050】
本発明によれば、チューブ間のスペース内の追加の無秩序な炭素の存在を促進するために、炉の優先設定温度範囲は、580℃~630℃の間が有利であり、Fe/C比の優先範囲は、0.4%~1.5%の間が有利であり、注入されるCの総体積の優先範囲は、1~9リットルの間が有利であり、ガスの通過速度の優先範囲は、2mm/s~11mm/sの間が有利である。
【0051】
より一般的には、本発明者らは、アセチレンの総体積が多く、アセチレン流の通過速度が遅く(反応ゾーンでのアセチレンのかなりの滞留時間につながる)、かつ触媒含有量がかなり少ないと(ただし、触媒の役割を果たすのに十分)、追加の無秩序な炭素の形成が促進されることがわかった。従って、次の範囲のパラメータが共存することにより、チューブ間のスペース内の追加の無秩序な炭素の形成が促進される。アセチレンの総体積は0.7~6ml/mmであり、このパラメータはアセチレン流が通過する反応チャンバの断面(mm)に基づいて、反応チャンバに注入されるアセチレンの体積(ミリリットル)を表す。アセチレン流の通過速度は1mm/s~15mm/sであり、好ましくは1mm/s~10mm/sであり、さらにより優先的には2mm/s~10mm/sである。質量によるFe/C比で表される鉄含有量は、0.4%~1.5%であり、好ましくは0.4%~1.4%、より優先的には0.5%~1.4%、さらに優先的には0.5%~1.1%、さらに一層優先的には0.5%~0.9%である。この比率では炭素は気体流量中の総炭素である。
【0052】
これら3つのパラメータすべてで表される堆積条件の場合、反応チャンバの設定温度は580℃~630℃の間が有利である。この温度範囲は、アルミニウム基板上の堆積に特によく適している。
【0053】
スーパーキャパシタの電極として使用するのに特に好ましいVACNTマットは、50%以上の追加の無秩序な炭素の割合を有し、VACNTの高さは、好ましくは約70μm~約150μmであり、さらに好ましくは約75μm~約130μmである(約120μmの値が最適である)。このような製品は、次の条件下で前の段落に記載のパラメータを用いて得られ得る。その条件は、炉の優先設定温度範囲が600℃~630℃、及び/又はFe/C比の優先範囲が0.6%~0.8%、及び/又はガスの優先通過速度範囲が2mm/s~8.7mm/sであり、さらに優先的にはこれらの基準の2つ又は3つ全てが一緒に追加される。
【0054】
(2.追加の無秩序な炭素を有するVACNTマットの特性評価)
本発明の本質的な様態によると、VACNTマットは追加の無秩序な炭素を含む。この追加の無秩序な炭素の存在はラマン分光法によって実証され得るが、この手法ではその位置を特定することは不可能である。追加の無秩序な炭素は、走査型電子顕微鏡(SEM)で直接見られ得るが、この手法では無秩序の程度を特徴付けることは不可能である。無秩序な構造を把握し、特徴付けることを可能とする唯一の手法は、高分解能透過型電子顕微鏡(HR-TEM)であるが、その視野は非常に限られている。
【0055】
ここでラマン分光法による特性評価について説明する。グラファイト材料のラマンスペクトルに現れるバンドの広がりの識別、指定、及び解釈は当業者に知られている。例えば、S.ReichとC.Thomsenによる「グラファイトのラマン分光法」(Phil.Trans.R.Soc.Lond.1(2004年) 362、2271~2288頁)、及びA.Ferrariによる「グラフェンとグラファイトのラマン分光法:障害、電子-フォノン結合ドーピングと非断熱効果」(Solid State Communications 143(2007年)、47~57頁)を参照する。
【0056】
配向したカーボンナノチューブを表す特徴的なラマンスペクトルを図20に示す(C.Castroによる博士論文「配向したカーボンナノチューブの成長メカニズム:触媒とナノチューブとの関係」、パリ第11大学(オルセー)、2009年を参照する)。図21(a)は、Dバンド、D´バンド、及びGバンドの分解度を示し、図21(b)はこれらのバンドに付随する対称モ-ドを示す。図7は、本発明に係るVACNTサンプルのラマンスペクトルを示し、図8(a)と(b)は、以下に概括的に言うと、特に「実施例」第1節に説明するように、ラマンスペクトルから得られた数値パラメータの使用を示す。
【0057】
800~1800cm-1の範囲において、カーボンナノチューブは主にそれぞれ1350cm-1と1580cm-1を中心に、Dバンド(対称性A1Gの呼吸モ-ド)及びGバンドの主要な2つのバンドによって特徴付けられる(対称性E2Gの中央帯のフォノンのために)。Gバンドは炭素の組織化度であり、グラフェンシート(又は面)を構成する芳香環中に位置するsp炭素原子の相対運動に帰する。D(又はD1)バンドは、微結晶のサイズを特徴付けるため、広義ですべての欠陥に比例し、構造欠陥の存在において芳香環の炭素に帰する(F.Tuinstra及びJL Koeingによる「グラフェンのラマンスペクトル」、J.Chem.Phys.53、1126~1130項(1970年)を参照)。
【0058】
これら2つの主要なバンドに、おそらく2つの他のバンドが追加される。1620cm-1を中心としたD2バンド(Gバンドの肩部)は葉間距離の分布を表し、1500cm-1を中心としたD3バンドはDバンドとGバンドとの間に位置し、非常に主にsp混成構造又は格子間欠陥の中で、sp混成アモルファスカーボン(ハイブリッドカーボンsp混成アモルファスカーボン等)に特有の局所欠陥の存在を表す(T.Jawhariらによる「市販のカーボンブラック材料のラマン分光特性」、Carbon 33、1561~1565頁(1995年)、及びYC Choiらによる「ラマン分光法を使用した多層カーボンナノチューブの純度を評価する新規の方法」、J.Nanomater.2013、1~6頁(2013年))。これら2つの研究では、1250~1300cm-1の間に最大があるバンドも明らかになり、そのバンドはしばしばD4と呼ばれてDバンドのピークのふもとに統合され、sp混成アモルファスカーボンの独特な寄与と一致する。さらに、2番目に2700cm-1で2Dバンド(Dバンドの高調波)が観察され得、これは欠陥に依存せず、完全なグラファイト構造でしばしば見られる。
【0059】
一般に、カーボンナノチューブの構造的品質は、DバンドとGバンドとの強度比(ID/IG)、まれに強度比I2D/IG(引用されたCastroの論文を参照)によって評価され得るという文献が受け入れられている。これらの比が低ければ炭素の構造的品質は優れる、すなわち、構造欠陥はわずかである。しかしながら、アモルファス由来の炭素構造を多かれ少なかれ判断するには、ID/IG比では不十分である(sp混成アモルファスカーボンが増加するとき、絶対値は減少してもよい。AC Ferrari及びJ.Robertsonによる「無秩序なアモルファス及びダイヤモンド状炭素の共鳴ラマン分光法」、Phys.Rev.B64、(2001年)を参照)。本発明において、これはID/IG強度比とI2D/IG強度比とは別に、ID3/IG強度比もまた評価されたからである(Sadezkiらによる「すす及び炭素質材料の顕微ラマン分光法:スペクトル分析及び構造情報」Carbon 43(2005年)、1731~1742頁を参照)。
【0060】
バンドの強度比を測定するために、スペクトルの特徴的なバンドを分解する(デコンボリューションする)ことが必要である。この目的のために、同一の手順が適用された。まず初めに、各バンドは与えられた波数の範囲を制御することによって調整されるため、ベースラインが定義される。特に、デコンボリューションは、Dバンド及びGバンドの様々な構成要素を測定するために1200~1700cm-1の範囲で行われた。調整は、ガウス分布関数とローレンツ関数との組合せに一致するフォークト関数を適用することによって行われる。デコンボリューションしたバンドを実験用スペクトルに対応する曲線に調整した後、Dバンド及びGバンドは完全にローレンツの寄与を有し、2Dバンドはローレンツの3分の2にあるが、D2バンド、D3バンド、及びD4バンドの成分は、主にガウス型であることが証明されている。従って、中央での位置、高さ(又は強度)、半値幅、これらの寄与のそれぞれの範囲が測定され得る。
【0061】
追加の無秩序な炭素の存在は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって直接確認され得る。ナノチューブの外側でマットのチューブの間に堆積することが観察される(追加の無秩序な炭素を示さない図2(c)と比較して図3(c)を参照)。従って、チューブの外側に堆積するこの炭素は、ナノチューブ自体の一部を形成しないため、「追加の」炭素である。走査型電子顕微鏡(SEM)により、十分に広い視野で作業して、追加の炭素をナノチューブの外側で正確に見ることが可能である(追加の炭素を示さない図2と比較して、図3(d)を参照)。追加の炭素の配置に関して、本発明者らは本発明に係る方法でその炭素はナノチューブの外面よりも別の場所、すなわち、ナノチューブ間で形成することを観察していない。特に、VACNTマット上部の堆積の場合ではなく、そのような堆積(他の動作条件下で観察されている)は、電子デバイス及び電気デバイス用の電極として使用するために、VACNTの特定の特性を損なうため、回避しなければならない。
【0062】
高分解能透過型電子顕微鏡(HR-TEM)は、この追加の炭素のグラファイト(又は「グラフェン」)領域を直接見ることが可能であるため、追加の炭素の無秩序な性質は、この手法によって最も直接的な方法で示され得る。(図4を参照、「実施例」の節で詳細に説明される)。本発明によると、グラファイト領域は、通常、数ナノメートルから数十ナノメートルの長さを有するため、追加の炭素は無秩序である。追加の無秩序な炭素は、2つのグラフェン又はグラファイト領域間に、アモルファス領域に同化したより高度に無秩序な領域を含んでいても、アモルファスカーボンではない。
【0063】
追加の無秩序な炭素の推定定量化は、追加の炭素がないとみなされるサンプルの質量を、追加の無秩序な炭素を有するサンプルと比較することによって可能である。追加の無秩序な炭素の有無は、上記の3つの手法を使用することによって実証され得る。この比較を有効にするには、ナノチューブの直径(ナノチューブの表面密度を測定する)を考慮する必要がある。参照サンプルと特徴付けられるサンプルでは、ナノチューブの平均直径は可能な限り近くなければならない。次に、VACNTマットの高さ(VACNTの平均長さ)の差を補正した、参照サンプルと特徴付けられるサンプルとの質量の差は、追加の無秩序な炭素が原因であると考えられる。この方法の具体的な用途については、以下の「実施例」の節で説明する。
【0064】
(3.追加の無秩序な炭素を含むVACNTマットを組み込んだスーパーキャパシタの説明)
スーパーキャパシタを製造するために、電子を伝導しない材料(セパレータ及び液体電解質)によって電気的に分離された少なくとも2つの電極を組み立てる必要がある。このステップは組み立てと呼ばれる。種々の組み立て技術があり、その選択はスーパーキャパシタの所望の特性に依存する。当社の製品に使用されるものは、本明細書の残りの部分で定義される。
【0065】
組立体を最適化するためには、1つ又は複数の正極及び負極の適切なバランスを確保する必要がある。つまり、求められるシステムの電気化学パラメータ(ΔEsyst)に応じて、2種類の電極の電荷量Qは可能な限り大きく、等しくなければならない。バランスは、次の方程式 ΔE.×Cm-×m=ΔE×Cm+×m に従う。式中のΔEは動作電圧範囲、Cmiは単位質量あたりの静電容量、mは電極iの質量を指す。
【0066】
正極及び負極は互いに向き合っていなければならず、電極の表面は同一又はほぼ同一でなければならない。従って、電極の活性化材料の質量は、複合フィルムの厚さと強度、及び調査した電圧領域に一致する静電容量の関数である。
【0067】
組立体において、通常、セパレータはポリエチレン又はポリプロピレン(例えば、NAFION(登録商標)、CELGARD(登録商標)等)をベースとするセルロースベースの多孔質膜、又はガラスファイバーから作製されてもよい。スーパーキャパシタの優れた電力値を得るために、液体電解質を備えた多孔質膜セパレータを使用することが好ましい。
【0068】
本発明によると、組立体は対称又は非対称であってもよい。対称システムの場合、負極は正極と同じ(又は、ほぼ同じ)性質及び質量を有する。一方、非対称システムの場合、負極は正極とは異なる性質又は質量を有する。好ましくは、2つの電極はVACNTに基づき、それらの静電容量は同一又は異なっていてもよい。一方の電極のみがVACNTを含む場合、もう一方の電極は例えば活性炭から作製されてもよい。
【0069】
(システムの所望の静電容量で)単位体積あたりの最大静電容量を得るには、体積を最小限に抑えながら、正極と負極との間に接触する幾何学面を最大にする必要がある。この目的のために、電極を積み重ねること(同じ極性の電極に共通して溶接を含む)、又は円筒状システム又はコイル状プリズムシステムのどちらかを形成する1軸又は2軸上に正極及び負極を巻き付けることのどちらか2つの異なる種類の組立体が選択されてもよい。
【0070】
電極の組み立てが完了したら、システムはカプセル化されなければならない。電極及びセパレータは、通常、液体電解質が収容可能な密閉された筐体内に配置される。この筐体は特に、プラスチックパウチ、硬質ポリマーシェル、電気絶縁フィルムで内側が金属コーティングされたシートから作製されたシェル、セラミックシェル又はガラスシェルからなる群から選択されてもよい。
【0071】
従って、このステップはカプセル化された筐体(例えば、硬質な包装材、フレキシブルパウチ、金属壁を含む円筒状電池、ボタン電池等)に、電極とセパレータとからなる組立体を挿入すること、電極を包装材の末端に電気的に結合させること、セパレータ及び電極に電解質を追加又は拡散させること、及び最後に筐体を密封することを含む。特定の種類の包装材(特に、金属壁を備えた包装材)の場合、絶縁被覆を電気的に追加することによって、包装材を外部接触から絶縁する必要がある。図12は、本発明において使用され得る3つのタイプの筐体、すなわち、ボタン電池型の筐体(図12(a))、パウチ型の筐体(図12(b))、円筒状電池型の筐体(図12(c))を示す。
【0072】
スーパーキャパシタを循環させるために使用される電解質は、液体電解質である。特に、溶媒として、プロトン性溶媒又は非プロトン性溶媒、又はプロトン性又は非プロトン性のイオン性溶媒を含む電解液を使用することが可能である。
【0073】
本発明において、「プロトン性溶媒」は、プロトン形態で放出される可能性のある少なくとも1つの水素原子を含む溶媒を意味する。プロトン性溶媒は、好適には水、脱イオン水、蒸留水、酸性又は塩基性酢酸、メタノール及びエタノール等のヒドロキシル化溶媒、エチレングリコール等の低分子量の液体グリコール、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0074】
本発明において、「非プロトン性溶媒」は、非極限状態下でプロトンを放出すること又は受け取ることができない溶媒を意味する。非プロトン性溶媒は、好適にはジクロメタン等のハロゲン化アルカン、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン又は2-ブタノン等のケトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、N-メチルピロリド(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びそれらの混合物、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、及びそれらの混合物、又はラクトン(γ-ブチロラクトン等)からなる群から選択される。
【0075】
さらに、本発明において使用され得る溶媒は、少なくとも1つの非プロトン性溶媒、及び少なくとも1つのプロトン性溶媒の混合物でもよい。
【0076】
本発明において使用され得る電解液は、所定の溶媒に加えて、溶媒に溶解した塩の状態での電解質を含む。前記塩のアニオンとしては、F、Br、Cl、I、HCO 、HPO 、Cr 3-、BF 、PF 、又はN(CN) 等の無機アニオン、有機アニオン(下記)、ポリマーアニオン、及び生物アニオンから選択されてもよい。前記塩のカチオンとしては、Li、Na、Mg2+、Cu2+、Zn2+及びAl3+等の金属カチオン、又は有機カチオンでもよい。上記の有機アニオンの中で、特に、RSO 、RCOO(ここでRは置換される可能性のあるアルキル基又はフェニル基)、(CFPF 、(CFPF 、(CFPF 、(CFPF、(CF、(CFSO 、(CFCFSO 、(CFSO 、CFCF(CFCO、(CFSOCH、(SF、(CFSOSO、[O(CF(CFO]PO、CF(CFSO 、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)アミドアニオンが挙げられ得る。
【0077】
アニオンに付随するカチオンを含む任意のイオン液体(プロトン性又は非プロトン性)が本発明において使用され得る。これらの非プロトン性イオン液体の中で、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウム、1-メチル-3-イソプロピルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-エチル-3,4-ジメチルイミダゾリウム、N-プロピルピリジニウム、N-ブチルピリジニウム、N-tert-ブチルピリジニウム、N-tert-ブタノール-ペンチルピリジニウム、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム、N-ブチル-N-メチル-ピロリジニウム、N-メチル-N-ペンチルピロリジニウム、N-プロポキシエチル-N-メチルピロリジニウム、N-メチル-N-プロピルピペリジニウム、N-メチル-N-イソプロピルピペリジニウム、N-ブチル-N-メチルピペリジニウム、N-N-イソブチルメチルピペリジニウム、N-sec-ブチル-N-メチルピペリジニウム、N-メトキシ-N-エチルメチルピペリジニウム、及びN-エトキシエチル-N-メチルピペリジニウム等の4級アンモニウムイオンを含むイオン液体が挙げられ得る。また、テトラフルオロホウ酸アニオン(BF )、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン(TFSI)、又はビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン(FSI)等の任意のアニオンに付随する、ブチル-N-N-トリメチルアンモニウム、N-エチル-N,N-ジメチル-N-プロピルアンモニウム、及びN,N,N-トリメチルアンモニウム等のアンモニウムイオンを含むイオン液体も挙げられ得る。
【0078】
本発明において特に適している有機電解質は、アセトニトリル中のテトラエチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸(好ましくは、約1mol/リットル)である。
【0079】
特定の実施形態では、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、オキサゾール、トリアゾール、アンモニウム、ピロリジン、ピロリン、ピロール、及びピペリジンの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのカチオンと、F、Cl、Br、I、NO 、N(CN) 、BF 、ClO 、PF-、RSO 、RCOO、ここでRはアルキル基又はフェニル基、(CFPF 、(CFPF 、(CFPF 、(CFPF、(CF、(CFSO 、(CFCFSO 、(CFSO 、CFCF(CFCO、(CFSOCH、(SF、(CFSO、[O(CF(CFO]PO、CF(CFSO 、1-エチル-3-メチルイミダゾール、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド([EMIM][TfN])からなる群から選択される少なくとも1つのアニオンとを含むイオン液体を含む電解質が使用される。
【0080】
電解質が電極/セパレータ組立体に追加及び拡散されると、筐体は熱可塑性接着剤(パウチセルの場合)、又はメカニカルシール(金属プラスチックカバー又は金属溶接、ボタン電池及び円筒状包装材の場合と同様)のどちらかによって密封される。いくつかの種類の包装材(例えば、金属体を備えた円筒状電池等)では、接着性又は熱収縮性の絶縁被覆を電気的に追加することによって、(電気安全性の理由から)包装材を外部接触から絶縁する必要がある。
【0081】
概括的に言うと、本発明に係るスーパーキャパシタを製造する方法は以下のステップを含む。該ステップは、1.組立体とカプセル化包装材の種類に応じて、電極及びセパレータを切り取ることと、2.電極上の集電体(タブ)を(できれば超音波又はレーザーによって)溶接することと、3.電極及びセパレータを組み立てることと、4.電極の集電体(タブ)を筐体の末端(例えば、包装材の蓋)に(できれば超音波又はレーザーによって)溶接することと、5.電極/セパレータ組立体を包装材に取り付けることと(ステップ4及び5は逆でもよい)、6.電極/セパレータ組立体に電解質を追加及び拡散することと、7.筐体を密封することとを含む。
【0082】
本発明に係るスーパーキャパシタは、追加の無秩序な炭素を有するVACNTから作製された、少なくとも1つの電極、好ましくは全ての電極を含む。本発明者らは、そのような電極を使用すると、VACNTから作製された類似の電極を有するが、追加の無秩序な炭素を含まないスーパーキャパシタと比較して、静電容量が著しく増加することを発見した。ここで「類似の電極」とは、ナノチューブの同じ平均長さと同じ表面密度とを含むVACNTから作製された電極を意味し、唯一の違いは追加の無秩序な炭素の有無である。カーボンナノチューブの質量に基づいて、複合材料が追加の無秩序な炭素を少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%、さらに優先的には少なくとも50%含む場合、この増加は顕著である。90%を超える増加はもはや観察されず、80%を超えないことが望ましい。
【0083】
本発明は、0.01~1KW/mの電力で、少なくとも0.8Wh/m、好ましくは少なくとも1Wh/m、さらに優先的には少なくとも2Wh/mのエネルギーを貯蔵可能なスーパーキャパシタを製造することが可能である。
【実施例
【0084】
以下の実施例は、当業者が本発明の実施を容易にするための本発明の実施形態を示す。また、比較の実施形態も記載する。
【0085】
(1. VACNTマットの製造及び特性評価)
VACNTマットは、触媒前駆体(トルエン中に溶解したフェロセン)の連続的なパルス注入によって3つの異なる反応器で製造され、炭素源はアセチレンである。この手法の原理は、国際公開第2004/000727号(Commissariat a l‘Energie Atomique et aux Energies Alternatives)に記載されている。第1反応器(「炉1」を参照)は、加熱された筐体内に330mmの円形断面を有する石英チューブを含む管状炉で、その中に基板が配置された。第2反応器(「炉2」を参照)は、加熱された筐体内に1917mmの円形断面を有する石英チューブを含む管状炉で、その中に基板が配置された。これら2つの炉はバッチ炉であった。第3反応器(「パイロット」を参照)は、金属ベルトが925mmの長方形断面を移動し得る連続的な反応器であった。この反応器は静的モード中に本明細書で使用された(すなわち、1000mm×300mmの反応領域で移動しない)。
【0086】
合成及び結果の主なパラメータは、以下の表1で提示する。図1は、概略的にバッチ反応器を示す(「炉1」及び「炉2」)。最適な(均質な)成長帯は、炉1では約170mm×15mmであり、炉2では約300mm×30mmであった。この最適な成長帯では、アルミニウムストリップ又はアルミニウムペレット等の様々な種類の基板を配置させることが可能である。
【0087】
特に明記しない限り、すべての結果はバッチ炉に関する実施例で挙げられる。
【0088】
【表1】
【0089】
図2及び図3は、2つのプロセス条件におけるアルミニウム合金(AlMg1)基板上でのVACNTの成長の実施例を示す。両方の場合では、カーボンナノチューブは垂直に配向したマットの形態である。より正確には、図2は、サンプルNI-836の4つの異なる倍率のSEM顕微鏡写真を示す。図2(c)では、個々のナノチューブを区別可能であることが示される。2つのチューブ間のスペースが見える。
【0090】
図3は、サンプルNGI-1067の3つの異なる倍率のSEM顕微鏡写真を示す。図3(c)では、ナノチューブはチューブ間のスペース内に追加の炭素の表面堆積物を有し、カーボンナノチューブを個別に観察することが困難であることが示される。図3(d)は、高倍率でTEMにより得られ、ナノチューブの外面にそのような表面堆積物の存在を確認される。そのような表面堆積物は、異なる方法によって準備されたサンプルにおける同じ倍率で得られた図2(d)では観察されない(実施例を参照)。
【0091】
図4は、高分解能透過型電子顕微鏡(HR-TEM)によって、より詳細に特徴付けられた追加の炭素を示し、図4(a)を参照する。図4(b)は、グラフェン面の存在を明らかにする個々のカーボンナノチューブ構造を示しており、各グラフェン面はそれらの蛇行性によって証明されたように多かれ少なかれ構造的によく整理され、これらすべての平面は長距離の組織を有する。
【0092】
図4(c)及び4(d)は、追加の炭素が少数積み重ねられたグラフェン面(基本構造ユニット(BSU)とも呼ばれる)の複数の集合体で構成されることを示す。BSUはそれらの間で不規則に分散されており、これは弱い長距離の組織を表している。従って、この追加の炭素は完全にアモルファスであり、従って黒鉛化された単位を含まない、つまりBSUを含まない無秩序な炭素とは異なり、ある程度の半黒鉛組織を有する無秩序な炭素と呼ばれてもよい。
【0093】
追加の炭素の量を測定するために、10℃/minのランプで乾燥空気中にて行われた熱重量分析(TGA)によってVACNTの分解を特性評価した。バッチモードで調製された2つのサンプル(参照1と参照2)における典型的な曲線は図5に示され、追加の無秩序な炭素の異なる割合を表す。サンプル1の割合はサンプル2の割合よりも大きい。
【0094】
2つの曲線は、単一の連続的な質量損失のみを示しているが、熱劣化の開始温度はサンプルによって異なることがわかる。サンプル1での分解開始時の温度はサンプル2よりも低く、サンプル1は高レベルの追加の無秩序な炭素を有する。さらに、2つのサンプル中の鉄の割合は、サンプル1では1.74%、サンプル2では1.86%であり、非常に近いことがわかる。従って、劣化開始時の温度差に対する鉄による触媒分解の影響を除去することが可能である。それゆえ、分解開始時の温度は追加の無秩序な炭素と関連があると仮定することが可能である。しかしながら、空気中のTGA曲線は、2つの別個の質量損失の存在を特定することが困難である。一方は、無秩序な炭素の分解に関連し、他方はカーボンナノチューブの炭素の分解に関連する。これはYasudaの研究(上記引用)と一致し、空気中でのTGA曲線の記録時に、ある程度の半黒鉛組織を有し、ナノチューブマットに存在する無秩序な炭素が特定の質量損失を引き起こさないことを示している。
【0095】
図6は、サンプル1(図6(a))及びサンプル2(図6(b))のSEM顕微鏡写真を示す。サンプル1の高レベルの追加の無秩序な炭素は、チューブ間のスペースをより簡単に区別し得るサンプル2と比較して、直接確認され得る。
【0096】
追加の無秩序な炭素の割合の推定について説明する。調査した実験条件下では、1.3リットル以下の合成反応中に送達されたCの総体積に対して、検出可能な量の追加の無秩序な炭素が見つけられなかったことに気づくべきである。これらのサンプルにおいて、ゼロ値は追加の無秩序な炭素の割合で割り当てられた。
【0097】
本発明によると、追加の無秩序な炭素の割合は、任意の追加の無秩序な炭素を含まない参照サンプルと、追加の無秩序な炭素を含むサンプルとの質量差によって推定される。参照サンプルは任意の追加の無秩序な炭素を含まないサンプルであり、図2(c)及び2(d)に示すようにSEM及びTEMによって確認された。このサンプルは、1.11mg/cmの単位面積あたりの質量、及び59μmのVACNTの高さを有する。サンプルを含むナノチューブの平均外径は約9nmであり、平均内径は約4nmである。追加の無秩序な炭素を含まないが厚いVACNTのサンプルでは、VACNTは同じ直径を有し、2つのVACNTサンプルの高さの比に単純に比例する単位面積あたりの質量を計算することが可能である。この計算はカーボンナノチューブの平均外径を調べているため現実的であり、カーボンナノチューブの密度は2つのサンプルと一致する。これは、カーボンナノチューブの外径がカーボンナノチューブの基部に存在する触媒粒子の直径に等しく、成長として機能するように認められているからである。しかしながら、本明細書の文脈で使用される合成方法の場合、触媒粒子の形成は気相中の均質な発生メカニズムに起因し、鉄蒸気の過飽和を考慮すると、到達するカーボンナノチューブの密度は常に最大であり、触媒粒子のサイズに依存する(CastroらによるCarbon 61、2013年、581~594頁を参照)。従って、同じ温度条件下で合成された2つの異なるサンプルについて、カーボンナノチューブの直径が同等であると実証された場合、サンプル内のカーボンナノチューブの密度は同等であると想定され得る。
【0098】
図4(b)及び4(d)に示すように、SEM及びTEMで観察された追加の無秩序な炭素を含むVACNTマットの場合を取り上げる。このサンプルのナノチューブの直径が追加の無秩序な炭素を含まないサンプルの直径と一致することが最初に確認され、追加の無秩序な炭素を含む又は含まないVACNTマットは、カーボンナノチューブの同等の密度を有するという仮説を確証させることが可能である。従って、追加の無秩序な炭素を有するマットで測定した単位面積あたりの質量は、追加の無秩序な炭素を含まないマットの単位面積あたりの質量、及び追加の無秩序な炭素の単位表面積あたりの質量の合計に起因する。追加の無秩序な炭素を含むマットの高さを知ることで、この同じマットが追加の無秩序な炭素を含まない単位面積あたりの質量を計算することが可能であり(前の段落を参照)、これは追加の無秩序な炭素を含むマットの単位面積あたりの質量から推定され、追加の無秩序な炭素の質量を発見することを可能にする。
【0099】
計算では次のパラメータを使用する。
ref=1.11(mg/cm):追加の無秩序な炭素を含まない参照VACNTマットの単位面積あたりの質量
CNTの外径=9nm
ref=59μm:測定した参照VACNTマットの高さ
mes:測定したVACNTマットの単位面積あたりの質量(mg/cm
mes:測定したVACNTマットの高さ
est:追加の無秩序な炭素を含まない場合のVACNTマットの単位面積あたりの推定の質量(mg/cm)、
無秩序な炭素(%):VACNTマット内の追加の無秩序な炭素の推定の割合
【0100】
追加の無秩序な炭素の割合は、次の式から推定される。
est=(Mref×hmes)/href
無秩序な炭素(%)=(Mmes-Mest)/Mmes×100
【0101】
これらの測定及び計算において、VACNTが堆積される基板は考慮されない。
【0102】
その結果は以下の表3に示される。
【0103】
また、VACNTマットは次の条件下でラマン分光法によって特徴付けられる。その条件は、波長532nm、レーザー電力0.2mW、範囲800~3500cm-1、露光時間10秒である。レーザービームによる1回の蓄積及び照射は、マットの上面上方に向けられた。図7は、追加の無秩序な炭素を33%含む本発明に係る、VACNTサンプルの典型的なラマンスペクトルを示す。図8は、様々な割合の追加の無秩序な炭素を有するVACNTマットの様々なサンプルにおける、ラマンスペクトルの特定のバンド幅から導出されたパラメータを示す。より正確には、図8(a)はDバンドの幅(丸点)、及びD3バンドとGバンドとの強度比(三角点)を示す。
【0104】
Dバンド及びID3/IG比の増加は、無秩序な炭素の割合の関数として観察され、さらにID3/IG比と同じ傾向がある。図8(b)は、Dバンドの幅とGバンドの幅との比を示しており、それらは同じ傾向を示す。Dバンド、ID3/IG、ラマン分光法によって評価されたDバンドとGバンドとの幅の比等の様々なパラメータは、VACNTマット内の追加の無秩序な炭素の存在を観察することが可能である。
【0105】
VACNTマットの比表面積は、当業者に既知のBET(ブルナウアー・エメット・テラー)によって測定された。表2は、異なる量の追加の無秩序な炭素を有する2つのサンプルで得られた結果を示す。その結果は、追加の無秩序な炭素の割合が増加するとともに、比表面積が減少することを示す。
【0106】
【表2】
【0107】
得られたVACNTの特性に対する(及び、特に追加の無秩序な炭素の割合に対する)方法の様々な合成パラメータの効果を調べた。マットのすべての特性評価は、反応炉の均質領域の平均に起因する。
【0108】
図9は、バッチ反応器中の追加の無秩序な炭素の割合を合成時間の関数として示す。3つのガス流の組成(Ar/H/C比)は、60/10/30、40/30/30、30/30/40と表される。ガスの通過速度及びガス流の組成が何であれ、持続時間とともに追加の無秩序な炭素の割合の増加が観察される。図10は、図9と同じ合成条件でのVACNTマットの高さを合成時間の関数として示す。
【0109】
概括的に言うと、本発明者らはバッチ反応器において総流量及びガスの比率が何であれ、分解時間の経過とともに追加の無秩序な炭素の割合が増加することを発見した。この量は、水素及びアセチレンとともに増加する。一方、この量は総流量には依存しない。
【0110】
本発明に係る方法において、追加の無秩序な炭素の割合を制御するための第一の重要なパラメータは、反応器に注入されるアセチレンの総体積である。注入されるアセチレンの総体積は、Yasudaの参考文献のように、アセチレンの流量に合成時間を乗じて計算される。図11(a)は、単位体積あたりの密度(単位面積あたりの質量にVACNTの高さを乗じた)が注入されるアセチレンの総体積に応じて高いが、通過速度に対してはかなり小さいことを示す。
【0111】
図11(b)は、追加の無秩序な炭素の割合がアセチレンの量に応じて高いことを示す。アセチレンの量が多いほど、追加の無秩序な炭素を生成するのに好ましい。注入されるアセチレンの総体積の範囲は、0~10リットルの間で、追加の無秩序な炭素の割合を0~90%の間で制御することを可能とする。優先的には1.2~9リットルの範囲において、追加の無秩序な炭素の割合を10%~80%の間で制御することが可能である。
【0112】
VACNTマットの高さは、注入されるアセチレンの量とともに増加することに気づくべきである(図11(c))。本発明に係る方法では、触媒はほぼ連続的に(好ましくは、非常に近接した周期パルスにより)注入されるため、成長は時間によって制限されず、触媒の欠如によるナノチューブの成長の停止を回避する。さらに、例えばCの総体積が約3リットルの場合、通過速度が遅い(例えば、2.6mm/s)と、VACNTの成長速度を大きくすることが可能である。これは、VACNTの堆積反応の収率が、反応器の堆積ゾーンでの反応種の滞留時間とともに増加することを意味する。また、追加の無秩序な炭素の形成がVACNTの成長を変更させないことも観察される。
【0113】
本発明に係る方法において、追加の無秩序な炭素の割合を制御するための第二の重要なパラメータは、触媒の量である。触媒が鉄(通常、フェロセンの形態で提供される)の場合、重要なパラメータはFe/C比である。この比は、注入される炭素の総体積に対する、注入される触媒の量(この場合、触媒は鉄である)であり、この注入される炭素の量はCの量及びトルエンの量を含む。図11(d)は、4.4mm/s~10.4mm/sの間の通過速度において、Fe/C比の増加とともに追加の無秩序な炭素の割合が減少することを示す。Fe/C比が増加する場合、これは注入される鉄の量の増加を示し、その鉄の量はVACNTの成長におけるCの触媒分解に有利である。鉄の含有量が0.8%を超える場合、4.4mm/s~10.4mm/sの通過速度で、50%以上の追加の無秩序な炭素の割合を得ることが可能である。鉄の割合が0.8%以上の場合、2.6mm/s~4.4mm/sの通過速度で、50%以下の追加の無秩序な炭素の割合を得ることが可能である。
【0114】
しかしながら、通過速度が遅い場合、例えば2.6mm/sの場合、Fe/C比が高く(1.25%)、かつCの量が少ない(この場合は3リットル以下)にも関わらず、30%~50%の追加の無秩序な炭素の割合が観察され、試薬の滞留時間はCの総体積及びFe/Cパラメータよりも優位される可能性がある。
【0115】
理論に縛られることを望まずに、本発明者らは、無秩序な炭素の形成がFe/C比(この場合は鉄の量)、及び(流量、希釈レベル、及び/又は合成時間によって制御される)アセチレンの量に依存すると考える。これは、同じ量のアセチレンで得られた結果との比較から明らかである。程度は低いが、通過速度及びその反応器内の滞留時間にも依存する。従って、アセチレンの量が多く、Fe/C比が小さく、通過速度が遅いと、高レベルの追加の無秩序な炭素に有利である。一方、アセチレンの量が少なく、Fe/C比が高く、通過速度が速いと、低レベルの追加の無秩序な炭素に有利である、又は不在になる可能性さえある。
【0116】
(2. スーパーキャパシタの製造及び特性評価)
対称スーパーキャパシタは、記載の電極材料(本発明に係るVACNT、又は比較試験用の活性炭(ACと略す))から構成される電極から製造された。反対の指示がない限り、スーパーキャパシタは、アセトニトリル中1mol/リットルでセルロースベースとテトラエチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸タイプの電解質を含むセパレータを使用して、2つの単相電極(直径10mmのディスクの形状)の対称組立体によって製造された。これらの電極の組立体は、Swagelok(登録商標)タイプの合成でカプセル化された。
【0117】
以下の表3は、様々な合成のVACNTの特性評価を示す。
【0118】
【表3】
【0119】
(2.1 追加の無秩序な炭素を含む場合と含まない場合とのVACNT電極の比較)
図13は、アセトニトリル中1MのETNBF電解質と、厚さ46μm及び36μmのVACNTマットから形成された2つの電極とを使用したスーパーキャパシタの2.5Vラゴーンプロットを示す。電流の強さは、1~400mA/cmの間で変化する。この図は、各材料が貯蔵し得るエネルギー(E)(E=1/2CV)を、材料の電力(P)の関数(P=E/t)として示す。低電力の場合、追加の無秩序な炭素を56%含むシステム(サンプルNGI-1113、四角点)は、追加の無秩序な炭素を含まない場合(サンプルNI-766、三角点)よりも4倍多くのエネルギーを貯蔵する。高電力の場合、追加の無秩序な炭素を含まないシステムよりも常に多くのエネルギーを貯蔵する。
【0120】
図14は、50mV・s-1での2つのスーパーキャパシタ(直径10mm)の相対的なボルタモグラムを示し、1つは電極材料としてそれぞれ厚さが105μm及び119μmで追加の無秩序な炭素の割合が0%及び65%のVACNTマットを含み(NGI-1067を参照)、もう1つのVACNTマットは、同じ厚さで追加の無秩序な炭素を含まない(NI-836を参照)。曲線にある領域は、各システムによって貯蔵される電流の量を表す。追加の無秩序な炭素を備えた電極を含むシステムでは、追加の無秩序な炭素を含まない電極を含むシステムで得られる面積と比較して、面積は約10倍増加することが観察される。これは、追加の無秩序な炭素を含む電極を含むスーパーキャパシタは、追加の無秩序な炭素を含まない電極を含むスーパーキャパシタよりも、約10倍のエネルギーを貯蔵し得ることを意味する。図15は、対応するラゴーンプロットである。これは、単位面積あたりの貯蔵容量の10倍の増加を表している。さらに、高充電及び放電時間(高電力、3kW/m)の場合、追加の無秩序な炭素を備えたVACNT電極を含むこれらのスーパーキャパシタは、活性炭ベースの従来の電極を備えたスーパーキャパシタよりも、単位面積あたりほぼ10倍以上のエネルギーを貯蔵することが可能である。
【0121】
(2.2 VACNTマットの3つの異なる高さにおける比較)
図16はラゴーンプロットであり、VACNTマットの様々な厚さ(高さ)において、56%~64%の範囲で、追加の無秩序な炭素を含むVACNTに基づいて本発明に係るスーパーキャパシタの性能を比較する。マットの高さを42μmから119μmに増加させると、貯蔵エネルギーに関する性能の向上が見られ、この効果は電力に依存しない。119μm~152μmの高さを通過することにより(NGI-1050を参照)、低速でも単位面積あたりのエネルギー量の減少が観察される。
【0122】
(2.3 活性炭ベースの電極を含む、本発明に係るスーパーキャパシタと市販のスーパーキャパシタとの比較)
本実施例では、本発明に係る対称プリズム型スーパーキャパシタ(R17017041-C1-C3-Powerを参照)は、市販のスーパーキャパシタ(Maxwell 10F BCAP0010を参照)と比較される。本発明に係るスーパーキャパシタは、セルロースベースのセパレータによって分離された、VACNTマットに基づく2つの片面電極(C1、C3)(寸法4cm×6cmの長方形)、及びアセトニトリ中1mol/リットルのテトラエチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸タイプの電解質を含んでいた。組み立ては、フレキシブルパウチ(パウチセル)内で行われた。VACNTマットに基づく電極は、追加の無秩序な炭素を有した。それらは、連続的な反応器(パイロットS01)からきた。市販のスーパーキャパシタ(Maxwell 10F BCAP0010を参照)は円筒コイル型で、電極は活性炭で作製された。
【0123】
図19(a)は、電極C1のVACNTマットのSEM顕微鏡写真を示し、図19(b)は、電極C3のVACNTマットのSEM顕微鏡写真を示す。
【0124】
本発明に係るスーパーキャパシタのサイジング、特に電極のサイジングは、活性炭電極を用いて、比較として選択された市販のスーパーキャパシタのものに匹敵する性能(特に、約10Fの静電容量)を得るために行われた。電極の活性層の厚さは、面あたり10μm~120μmであった。
【0125】
図17は、VACNTマット及び追加の無秩序な炭素を含む、本発明に係るスーパーキャパシタの50mV・s-1でのボルタモグラムを示す。ボルタモグラムの形状及び表面電流値は、より小さな寸法の追加の無秩序な炭素を含むスーパーキャパシタのものと同じである(サンプルNGI-1067、図14)。これは、バッチ炉から連続炉への変更が同じ性能(VACNTマットの高さが同じ、すなわち100μm)につながることを二次的に示している。
【0126】
図18は3つのデバイス、すなわち、本発明に係るデバイス(丸点)、市販のデバイス(三角点、他のデバイスと同じ条件下で本発明者らによって測定)、及びフレキシブルな筐体(パウチセル)中の活性炭電極によって組み立てられた従来技術によるデバイスの相対的な2.5Vのラゴーンプロットを示す。電流の強度は、10~400mA/cmの間で変化する。この図は、各材料が貯蔵し得るエネルギー(E=1/2CV)を材料の電力(P)の関数(P=E/t)として示す。本発明に係るデバイスは、高電力で市販のデバイスよりも多くのエネルギーを貯蔵することが観察される。同じ種類の材料で図15と18で観察される電力差は、システムの異なる構成によって説明され得る。Swagelok(登録商標)構造(図15)は、プリズムパウチセル構造(図18)よりもシステムの2つの電極間に大きな圧力をかける。この圧力の違いは、高電流密度での動作に影響を与えるスーパーキャパシタの抵抗の違いに起因する。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21