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特許7345470表面安定化活物質粒子を含む複合アノード材料およびその作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】表面安定化活物質粒子を含む複合アノード材料およびその作製方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20230908BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230908BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230908BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20230908BHJP
   C01B 32/182 20170101ALI20230908BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/62 Z
H01M4/134
C01B32/182
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020529091
(86)(22)【出願日】2018-07-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 US2018042631
(87)【国際公開番号】W WO2019027673
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】15/667,882
(32)【優先日】2017-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520038976
【氏名又は名称】ナノグラフ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】マッキニー,ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ヘイナー,キャリー エム.
(72)【発明者】
【氏名】ラウ,ジョシュア ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ハ,ソンベク
(72)【発明者】
【氏名】ワン,フランシス
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/140790(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/083028(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0187070(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103311526(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106816594(CN,A)
【文献】特開2018-048070(JP,A)
【文献】特表2018-506818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン、還元型酸化グラフェン、酸化グラフェン、またはこれらの組合せを含むカプセルと、
前記カプセルに包封された活物質粒子であり、各粒子が、
結晶質ケイ素を含むコア粒子、および
LiSi、LiSiO、LiSiO、またはこれらの組合せを含み、前記コア粒子を取り囲む緩衝層
を含む、活物質粒子と
を含み、前記カプセルが、前記カプセル内の前記活物質粒子が膨張できるように構成された内部空隙を形成する、アノード材料。
【請求項2】
前記緩衝層が、LiSiを含む、請求項1に記載のアノード材料。
【請求項3】
前記緩衝層が、LiSiOを含む、請求項1に記載のアノード材料。
【請求項4】
前記緩衝層が、LiSiOを含む、請求項1に記載のアノード材料。
【請求項5】
前記緩衝層が、5nmから50nmに及ぶ平均厚さを有する、請求項1に記載のアノード材料。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のアノード材料と、
結合剤と
を含む、アノード。
【請求項7】
グラフェン、還元型酸化グラフェン、酸化グラフェン、またはこれらの組合せを含むカプセルと、
前記カプセルに包封された活物質粒子であり、各粒子が、
電気化学的活物質、および
前記電気化学的活物質を取り囲む緩衝層
を含み、前記緩衝層と前記電気化学的活物質が異なる材料を含む、活物質粒子と、ならびに、
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ(アクリル)酸、ポリエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリアミド、およびポリイミド、ポリエチレン(UHMW)、スチレン-ブタジエンゴム、セルロース、ポリアクリレートゴム、またはこれらの混合物を含む結合剤、
とを含むアノードであって、
前記アノードが、式
【数1】
(式中、測定密度は、乾燥した電極の質量をその体積で割ることによって算出され、理論密度は、100パーセント稠密である電気化学的活物質の密度である)
によって測定されたときに40パーセントから60パーセントに及ぶ内部気孔率を有する、
前記アノード。
【請求項8】
アノード材料を形成する方法であって、
結晶質ケイ素粒子を、不活性雰囲気中で、700℃から900℃に及ぶ第1の温度で加熱するステップと、
前記粒子を、酸化雰囲気中、前記第1の温度で第1の期間にわたり加熱して、結晶質ケイ素電気化学的活物質を取り囲む酸化ケイ素層をそれぞれが含む酸化粒子を形成するステップと、
前記酸化粒子を不活性雰囲気中で冷却するステップと
を含み、
前記アノード材料が
グラフェン、還元型酸化グラフェン、酸化グラフェン、またはこれらの組合せを含むカプセルと、
前記カプセル内に配置された活物質粒子であり、各粒子が、
前記酸化粒子、および
前記電気化学的活物質を取り囲む緩衝層
を含み、前記緩衝層と前記電気化学的活物質が異なる材料を含む、活物質粒子と
を含む、方法。
【請求項9】
前記第1の期間が、10分から40分に及び、
前記粒子が管状炉内で加熱される、
請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記酸化粒子、リチウム塩、および溶媒を混合して、混合物を形成するステップと、
前記混合物を乾燥させるステップと、
前記乾燥した混合物を、600℃から700℃に及ぶ温度で、不活性雰囲気中で第2の期間にわたり加熱して、結晶質ケイ素電気化学的活物質を取り囲むケイ酸リチウムを含む緩衝層を形成するステップと
をさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記活物質粒子を、グラフェン、還元型酸化グラフェン、酸化グラフェン、またはこれらの組合せを含むカプセルに包封するのに噴霧乾燥プロセスを使用することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルの分野に関し、より詳細には、グラフェンまたは還元型酸化グラフェンに包封された表面安定化活物質粒子を含む複合アノード材料、およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム(Li)イオン電気化学セルは、典型的には比較的高いエネルギー密度を有し、一般に、大衆消費電製品、ウェアラブルコンピューティングデバイス、軍用モバイル機器、衛星通信、宇宙船用デバイス、および電気自動車を含む様々な適用例で使用される。リチウムイオンセルは、低排出電気自動車、再生可能発電所、および定置型電気グリッドなどの大規模エネルギー適用例で使用するのに特に一般的である。さらに、リチウムイオンセルは、新世代ワイヤレスおよびポータブル通信の適用例の最先端にある。1つまたは複数のリチウムイオンセルを使用して、これらの適用例の電源として働くバッテリーを構成してもよい。より高いエネルギーを必要とする適用例の数の急増と、既存のリチウムイオン技術の限界が、より高いエネルギー密度、より高い電力密度、より速い速度の充放電能力、およびより長いサイクル寿命のリチウムイオンセルの研究を加速させている。
【0003】
リチウムイオンセルは主に、アノード、例えば黒鉛と、カーボネート系有機電解質と、カソード活物質、例えば酸化リチウムコバルト(LiCoO)を含むカソードとで構成される。リチウムイオンは、充放電中に、電解質を通してアノードとカソートとの間でインターカレートおよび脱インターカレートされる。電気エネルギーがセルから取り出されて電力を供給するとき、または放電するとき、リチウムイオンは陰極(アノード)から陽極(カソード)に移動する。貯蔵された化学エネルギーに変換するためにセルに電気エネルギーが供給されると、または充電中であると、反対の現象が生ずる。リチウムイオンは、充電中、一般に陽極(カソード)から陰極(アノード)に移動する。例えば、黒鉛アノードおよびLiCoOカソードの理論容量は、それぞれ、372mAh/g、および160mAh/g未満である。しかし、これらの理論電荷容量は、より高いエネルギーを必要とする適用例の最近の急増に対して、しばしば低過ぎる。
【0004】
炭素系アノード内におけるケイ素の組込みは、アノード材料の容量を著しく増大させる。ケイ素は、約4,200mAh/gの理論容量を有し、それが、黒鉛、グラフェン、またはその他の炭素系活物質を含む電極内に組み込まれたときに、セル容量を著しく増大させる。グラフェンおよびケイ素を含む電極の例は、参照により共に本明細書に完全に組み込まれるKungらの米国特許第8,551,650号およびHuangらの米国特許出願公開第2013/0344392号に提示される。
【0005】
さらに、これらの電極に組み込まれるケイ素は、サイクリングプロセス中のリチウムの挿入および抽出後に、典型的には最大で400パーセントの著しい体積膨張を受けることが、一般に理解される。この著しい体積増加の結果、電極構造内のケイ素は著しい機械的ストレスを経験し、そのことが典型的には、材料の破断引き起こし、その構造内に結果をもたらす。活物質中のケイ素のそのような構造劣化は、典型的には、活物質中でのリチウムイオンのインターカレーションおよび脱インターカレーションの低減をもたらし、それが容量および/またはサイクル寿命の低減を引き起こす。さらに、ケイ素の機械的劣化は、活物質中のケイ素の電気的切断を典型的にはもたらす。ケイ素粒子の機械的劣化によって引き起こされる、ケイ素のこの電気的切断は、サイクル寿命のさらなる低減および増大する容量損失を一般にもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第8,551,650号
【文献】米国特許出願公開第2013/0344392号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、増大した容量およびサイクル寿命を持つリチウムセルが求められている。したがって本出願は、サイクル寿命を延ばすリチウムイオンに使用される電気化学的活物質を開示することによって、この問題に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
様々な実施形態が、グラフェン、還元型酸化グラフェン、酸化グラフェン、またはこれらの組合せを含むカプセルと、カプセル内に配置された活物質粒子とを含む、複合アノード材料を提供する。各粒子は、コア、およびコアを取り囲む緩衝層を含んでいてもよく、この緩衝層とコアは、異なる材料を含むものである。
【0009】
様々な実施形態が、グラフェン、還元型酸化グラフェン、酸化グラフェン、またはこれらの組合せを含むカプセル;カプセル内に配置された活物質粒子;および結合剤を含む、アノードを提供する。各粒子は、コア、およびコアを取り囲む緩衝層を含んでいてもよく、この緩衝層とコアは異なる材料を含むものである。
【0010】
様々な実施形態が、アノード活物質を形成する方法であって、約700℃から約900℃に及ぶ第1の温度にある不活性雰囲気中で結晶質ケイ素粒子を加熱するステップと;第1の期間にわたり、酸化雰囲気中で第1の温度で粒子を加熱して、結晶質ケイ素コアを取り囲む酸化ケイ素コーティングを含む酸化粒子を形成するステップと;酸化粒子を不活性雰囲気中で冷却するステップとを含む、方法を提供する。
【0011】
様々な実施形態において、方法は、酸化粒子、リチウム塩、および溶媒を混合して、混合物を形成するステップと;混合物を乾燥するステップと;乾燥した混合物を、第2の期間にわたり不活性雰囲気中で約600℃から約700℃に及ぶ温度で加熱して、結晶質ケイ素コアを取り囲むケイ酸リチウムを含む緩衝層をそれぞれが含む活物質粒子を形成するステップとを、さらに含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の様々な実施形態による、複合アノード材料の粒子の構造の実施形態の断面図である。
図2】本開示の様々な実施形態による、活物質粒子のコア-シェル構造の実施形態の断面図である。
図3A】活物質粒子の構造を改質するのに使用され得る、第1の活物質粒子の改質プロセスの、フローチャートの実施形態を示す図である。
図3B】活物質粒子の構造を改質するのに使用され得る、第2の活物質粒子の改質プロセスの、フローチャートの実施形態を示す図である。
図4】本出願の活物質粒子の実施形態の粒子のx線回折パターンを示す図である。
図5】グラフェン包封ケイ素粒子を含む電極を用いて構成された対照セルと比較した、本出願の電気化学的活物質を含む電極を有するリチウムイオン試験セルの、充放電サイクルの関数としての容量保持パーセントを示すグラフである。
図6】グラフェン包封ケイ素を含む電極を用いて構成された対照セルと比較した、本出願の電気化学的活物質を含む電極を用いて構成されたリチウムイオン試験セルの、充放電サイクルの関数としての容量保持パーセントを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一般に、本発明は、ケイ素およびグラフェンを含む電気化学的活物質の、構造およびその形成方法に関する。活物質は、電気化学セル内に組込み可能な電極に形成されてもよい。より詳細には、本発明は、増大する容量および容量保持が提供されるように設計されたリチウムイオン電気化学セルと共に使用され得る電極に形成され得る、ケイ素およびグラフェンを含む電気化学的活物質の構造およびその形成方法に関する。
【0014】
様々な実施形態で、本出願の電気化学的活物質は、グラフェン、部分還元型酸化グラフェン、または酸化グラフェンの少なくとも1種で構成されたカプセルまたはシェル内に入れられたまたは包封された少なくとも1種の電気化学的活性成分を含む。様々な実施形態では、活物質粒子は、コア-シェル構造を含む。様々な実施形態では、活物質粒子のコア-シェル構造は、緩衝層に入れられたまたは包封されたコア材料を含む。緩衝層は、コア材料とは異なる材料を含む。
【0015】
様々な実施形態で、ケイ素またはケイ素系材料などのコア材料を取り囲む緩衝層は、コア材料の機械的膨張を可能にし、したがって活物質粒子は、膨張に起因して破断または機械的劣化する可能性が少なくなる。このように、本出願の複合アノード材料を含む、得られたリチウムイオンセルの容量は、多数の充放電サイクルにわたって維持される。
【0016】
本出願の電気化学的活物質の粒子は、皺が寄ったペーパーボール様構造、コア-シェル構造、または実質的に球状の形状を含むがこれらに限定されることのない、多数の構造を含んでいてもよい。さらに、本出願の電気化学的活物質の粒子構造は、電気伝導度を増大させかつリチウムイオンが拡散する距離を短縮する緻密構造をもたらす。さらに電気化学的活物質の粒子構造は、ケイ素またはケイ素系材料などのコア材料の膨潤に耐え、かつ実現可能な容量を損なう公知の悪影響を最小限に抑えるような、内部空隙20を粒子のそれぞれの構造内に提供し、したがってセルが充放電するときに容量が保存される。様々な実施形態では、グラフェン、部分的還元型酸化グラフェン、酸化グラフェン、またはこれらの組合せが、グラフェンがない内部に少なくとも1つの内部空隙20を有するカプセルを形成し、それが少なくとも1つの活物質粒子を内部に入れまたは包封する。本出願はさらに、新規な電気化学的活物質を製作する方法、および本出願の電気化学的活物質を、電気化学セル内に組み込むための電極に形成する方法を開示する。様々な実施形態では、本出願の電極は、2次リチウムイオン電気化学セル内に組み込まれてもよいアノードまたは陰極である。
【0017】
本明細書で定義される「2次」電気化学セルは、再充電可能な電気化学セルまたはバッテリーである。「容量」は、ある指定された条件下でバッテリーから引き出すことができる、アンペア-時(Ah)を単位とするエネルギーの最大量;定格電圧で送出することができる電荷の量であると、本明細書では定義される。容量は、式:容量=エネルギー/電圧または電流(A)×時間(時)によって定義されてもよい。「エネルギー」は、式:エネルギー=容量(Ah)×電圧(V)によって数学的に定義される。「比容量」は、電極活物質の質量の単位または体積の単位当たり、指定された期間にわたって送出することができる電荷の量であると、本明細書では定義される。比容量は、重力単位、例えば(A・h)/gで、または体積単位、例えば(A・h)/ccで測定されてもよい。比容量は、数式:比容量(Ah/Kg)=容量(Ah)/質量(Kg)によって定義される。「速度能力」は、電気化学セルが、指定された期間内で容量またはエネルギーの量を受け取りまたは送出する能力である。あるいは「速度能力」は、バッテリーが時間単位当たり提供することができる、最大連続またはパルス出力電流である。したがって、増大した電荷送出速度は、セルが、同様に構築されたが異なるアノードおよび/またはカソードの化学的性質を持つセルと比較して、時間単位当たり多量の電流を放出するときに生ずる。「Cレート」は、バッテリーがその最大容量に対して放電する速度の尺度であると、本明細書では定義される。例えば1Cレートは、放電電流が、全バッテリーを1時間放電することを意味する。「電力」は、ワット(W)を単位として測定される、エネルギー移動の時間速度と定義される。電力は、バッテリーまたはセルの両端間の電圧(V)と、バッテリーまたはセル内を通る電流(A)との積である。「Cレート」は、Cレート(逆時間)=電流(A)/容量(Ah)またはCレート(逆時間)=1/放電時間(h)であると、数学的に定義される。電力は、数式:電力(W)=エネルギー(Wh)/時間(時)または電力(W)=電流(A)×電圧(V)によって定義される。
【0018】
「複合アノード材料」は、リチウムイオン再充電可能バッテリーなどの電気化学セルのアノードとして使用するために構成され得る、およびグラフェン、還元型酸化グラフェン、または酸化グラフェンのカプセルに包封された表面安定化活物質粒子を含む、材料であると定義されてもよい。アノード材料は、アノード材料粒子、結合剤を含んでいてもよく、任意選択で伝導度増強剤を含んでいてもよい。「電気化学的活物質」または「活物質」は、電位を貯蔵し放出するために電解質中のイオンなどのイオンを挿入し放出する材料であると、本明細書では定義される。「カプセル」または「シェル」は、活物質粒子を取り囲みかつ入れる構造であると、本明細では定義される。「活物質粒子」は、カプセル内に配置されてもよくかつ1つまたは複数の緩衝層によって取り囲まれたコアを含む活物質の粒子であると、本明細書では定義される。一部の実施形態では、コア材料は、電気化学的活物質であってもよい。「緩衝層」は、活物質粒子のコアを取り囲み入れる材料の層である。「空隙」は、活物質粒子とカプセルまたはシェル構造の内面との間の空間であると本明細書では定義される。
【0019】
図1は、本開示の様々な実施形態による、複合アノード材料に含まれる、複合アノード材料粒子10を示す。図1を参照すると、1個の粒子10が示されているが、本開示の様々な実施形態によれば、複合アノード材料は複数のアノード材料粒子10を含んでいてもよい。さらにアノード材料は、結合剤および任意選択で伝導度増強剤を含んでいてもよい。アノード材料粒子10は、内部に少なくとも1個の活物質粒子14を入れた且つ/または包封するシェルまたはカプセル12を含んでいてもよい。
【0020】
様々な実施形態では、カプセル12は、グラフェン、還元型酸化グラフェン、または酸化グラフェンを含んでいてもよい。本明細書では、還元型酸化グラフェンは、部分的にまたは実質的に完全に、還元型酸化グラフェンにより形成されてもよい。カプセル12は、皺が寄った構造を有していてもよい。カプセル12は、実質的に球状または卵形であってもよい。一部の実施形態では、カプセル12は、滑らかなまたは粗くなった外面形態を有していてもよい。カプセル12は、内部に入れられた活物質粒子14の膨張の制御を可能にする空隙20を、内部に設ける。
【0021】
図2は、活物質粒子14の実施形態を示す。実施形態に示されるように、各活物質粒子14は、コア16と、コア16を取り囲む緩衝層18とを含む。様々な実施形態では、コア16は、金属ケイ素(Si)などの電気化学的活物質を含んでいてもよい。緩衝層18は、酸化ケイ素、ケイ酸リチウム、炭素系材料、またはこれらの組合せを含んでいてもよい。様々な実施形態では、緩衝層18は、1種または複数の酸化ケイ素(SiO)(式中、0<x<0.8である)、1種または複数のケイ酸リチウム、例えばLiSi、LiSiO、およびLiSiO、またはこれらの任意の組合せを含んでいてもよい。例えば、緩衝層18は、酸化物、シリケート、および/または炭素相および/または層の複合母材を含んでいてもよい。そのような複合緩衝層は、バッテリーに組み込まれたときに、予期せずに改善されたサイクル寿命をもたらし得る。
【0022】
緩衝層18は、各コア16を取り囲む機械的緩衝をもたらす。より詳細には、緩衝層18は、コア16の機械的劣化およびスポーリングを最小限に抑える機械的支持をもたらす。したがって緩衝層18は、機械的膨張に起因するコア16の破断を最小限に抑えるのを助ける。例えば、緩衝層18は、コア16を、通常なら機械的劣化を被る可能性のある結晶質ケイ素で形成するのを可能にする。
【0023】
様々な実施形態では、コア16は、約500nm未満、例えば約50nmから約400nmの平均粒度を有していてもよい。緩衝層18は、約1nmから約50nm、例えば約1nmから約25nm、約5nmから約15nm、または約7nmから約12nmに及ぶ厚さを有していてもよい。様々な実施形態では、緩衝層18の厚さは約10nm以下であってもよい。
【0024】
様々な実施形態では、アノード材料10は、約70重量%のグラフェン、還元型酸化グラフェン、または酸化グラフェンと、約30重量パーセントの活物質粒子14とを含んでいてもよい。様々な実施形態では、アノード材料粒子10(例えば、カプセル12)は、約0.5μmから約10μmに及ぶ平均粒度を有していてもよい。様々な実施形態では、アノード材料粒子10の平均粒度は、約2μmから5μmに及んでもよい。
【0025】
様々な実施形態では、活物質粒子14の平均粒度は、約30nmから約100nmに及んでもよい。アノード材料およびその構造のさらなる実施形態は、参照によりその全てが完全に本明細書に組み込まれる、共にHuangらの米国特許出願公開第2013/0004798号および第2013/0344392号に開示される。
【0026】
様々な実施形態で、活物質粒子14は、2段階活物質改質プロセスを利用して製作されてもよい。図3Aおよび3Bは、2段階活物質改質プロセスを含む第1および第2のプロセスのフローチャートを示す。様々な実施形態では、図3Aの第1のプロセスは、濃縮酸素雰囲気中で結晶質ケイ素粒子などのコア材料粒子を加熱して、酸化ケイ素層などの酸化物緩衝層をコア材料粒子の表面に形成することを含む。
【0027】
様々な実施形態では、ケイ素粒子は最初に、約700℃から約1,000℃に及ぶ温度、例えば約700℃から約900℃に及ぶ温度、または約750℃から約850℃に及ぶ温度の不活性ガス環境で加熱される。不活性ガスは、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、またはこれらの組合せを含んでいてもよい。様々な実施形態では、ケイ素粒子は、約25nmから約5μmに及ぶ、例えば約50nmから約1μmに及ぶ、または約50nmから約500nmに及ぶ平均粒度を有していてもよい。
【0028】
ケイ素粒子が所望の温度に加熱されると、ケイ素粒子は、圧縮空気または酸素富化ガスなどの酸化ガスに曝露される。様々な実施形態では、ケイ素粒子は、酸化ガス中で約15分から約1時間に及ぶ期間にわたり熱処理される。酸化ガスは圧縮されて、約10から約40パーセントの酸素、例えば約15から約25パーセントの酸素を含む濃縮酸素ガスを形成してもよい。あるいは、酸化ガスは純粋な酸素であってもよい。より大きいサイズのケイ素粒子は、所望の厚さおよび組成でコア粒子表面に緩衝層を形成するために、濃縮酸素環境の高い温度で、より長い滞留時間が必要になり得ることに注目される。
【0029】
様々な実施形態で、約50nmの粒度を有するケイ素粒子は、約4nmから約10nmに及ぶ厚さを有する緩衝層18を含んでいてもよい。約400nmの平均粒度を有するコア粒子などの、より大きいサイズのケイ素の場合、緩衝層の厚さはより大きくなり得る。例えば、約400nmの平均粒度を有するコア粒子の表面に形成された緩衝層は、約10nmから約50nmに及ぶ厚さを有していてもよい。
【0030】
例えば、約50nmの平均粒度を有する結晶質ケイ素コア粒子は、約750℃の温度で約15分間、圧縮空気環境に曝露されてもよく、それに対して約400nmの粒度を有するコア粒子は、約800℃で約30分間、圧縮空気環境に曝露されてもよい。緩衝層が形成されたら、得られた緩衝(例えば、酸化)活物質粒子を、リチウムイオンセルの電極として使用されるアノード材料に組み込んでもよい。
【0031】
一部の実施形態では、緩衝活物質粒子を、図3Bに示される第2のプロセスでさらに加工してもよい。第2のプロセスは、緩衝層の組成をさらに改質し、緩衝層が1つまたは複数のケイ酸リチウムを含むようにする。
【0032】
例えば、第2のプロセスは、緩衝活物質粒子、リチウム塩、および溶媒を混合して前駆体溶液を形成することを含んでいてもよく、次いでこれは約1から約2時間に及ぶ期間にわたって混合され得るものである。例えば、混合は超音波処理によって行なってもよい。
【0033】
溶媒は、例えば3-イソプロペニル-6-オキソヘプタノール(IPOH)を含んでいてもよい。リチウム塩は、任意の適切なリチウム塩、例えば酢酸リチウム脱水物、LiO、LiS、LiPF、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiODFB)、およびリチウムフルオロアルキルホスフェート(LiFAP)、または同様のものを、含んでいてもよい。酢酸リチウム脱水物などの有機成分を含むリチウム塩が使用されるとき、得られる緩衝層は炭素または炭素層を含んでいてもよい。
【0034】
一部の実施形態では、緩衝層は酸化ケイ素を含み、前駆体溶液は酸化活物質粒子を含み、このときの酸化ケイ素とリチウム塩との重量比は1:0.5から1:0.75、例えば約1:0.6から1:0.7、または約1:0.67に及ぶ。様々な実施形態で、緩衝層とリチウム塩との重量比は、リチウム塩がコア粒子と反応することなく、緩衝層と反応するように、適切に選択される。
【0035】
様々な実施形態で、前駆体溶液は、前駆体溶液の全重量に対して約5から約15wt%に及ぶ固形分含量を創出するのに十分な量の溶媒を含む。様々な実施形態では、IPOHは、約10wt%の固形分含量が創出されるように添加される。IPOHが所望の固形分含量に添加された後、混合物を約1から約2時間混合する。混合物は、超音波処理して、均質混合物を確実にしてもよい。
【0036】
混合が終了した後、溶液を乾燥して溶媒を除去する。様々な実施形態で、得られた粒子をその後で不活性雰囲気中で、例えばアルゴン中で、約650℃の温度で、約10分から約1時間熱処理することにより、ケイ素を含むコアと、LiSi、LiSiO、LiSiO、またはこれらの組合せなどのケイ酸リチウムを含む緩衝層とを有する、活物質粒子を形成する。
【0037】
図4は、ステップ2の活物質粒子改質プロセス後の、活物質粒子のx線回折(XRD)パターンである。図4に示されるように、XRDパターンは、粒子がSi、LiSiO、およびLiSiの組合せを含むことを示す。様々な実施形態で、緩衝層の組成物は、それぞれ15:9の重量比を有するLiSiおよびLiSiOの混合物を含んでいてもよい。
【0038】
結晶質ケイ素に加え、活物質粒子のコア材料は、酸化ケイ素、酸化チタン、黒鉛、炭素、金属ナノ粒子(例えば、銀または白金)、塩、例えばCsCl、スズ(Sn)、酸化スズ、アンチモン(Sb)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、ガリウム(Ga)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、酸化チタンリチウム、これらの合金、金属間物質、その他の一金属、二金属、多金属材料、または酸化物もしくは硫化物材料、およびこれらの混合物を含むがこれらに限定することのないその他の材料を、ナノ粒子形態で含んでいてもよいことが、さらに企図される。いくつかの特定の例は、ZnO、Co、Fe、MnO、Mn、MnO、Fe、NiO、MoO、MoO、CuO、CuO、CeO、およびRuOなどの金属酸化物を含んでいてもよい。様々な実施形態では、第1および第2のプロセスのいずれかまたは両方により配合されたものなどの活物質粒子の粒子は、その後、本発明のアノード材料中に組み込まれる。
【0039】
様々な実施形態では、アノード材料は、グラフェン、還元型酸化グラフェン、または酸化グラフェンの少なくとも1種のカプセル内に活物質粒子を包封することによって形成されてもよい。様々な実施形態で、噴霧乾燥プロセスでは、噴霧乾燥プロセスからの熱が、活物質粒子の周りのグラフェン、還元型酸化グラフェン、または酸化グラフェンに皺を寄せる。
【0040】
様々な実施形態で、アノード材料粒子の粒子の形状は、噴霧乾燥プロセスのパラメーターを調節することによってカスタマイズされてもよい。例えばアノード材料粒子は、実質的に皺が寄ったペーパーボール様構造、コア-シェル構造、またはグラフェン、部分還元型酸化グラフェン、または酸化グラフェンの多数のシートが一緒になって粒子構造のカプセルまたはシェルを形成する、実質的に球状の形状を有するように、特別に設計された構造を有していてもよい。
【0041】
再び図1および2を参照すると、緩衝層18は、コア16の機械的膨潤を最小限に抑えるように設計されてもよい。様々な実施形態では、緩衝層18は、コアの膨張を可能にする緩衝材として作用し、したがってコア16の破断の可能性が最小限に抑えられる。さらに、カプセル12の構造は、内部でのさらなるコア粒子の膨潤に耐えるように設計されてもよい。したがってカプセル12は、容量の損失をさらに最小限に抑えるように設計されてもよい。カプセル12は、内部にある改質されたコア粒子の膨潤と協調して膨張し収縮することが可能な、機械的に堅牢なデザインを提供する。カプセル12のこの膨潤耐性は、得られた電極および電気化学セルの容量を保存しかつ容量損失を最小限に抑えるのを助ける。
【0042】
様々な実施形態で、活物質粒子14を入れたカプセル12は、活物質粒子14とカプセル12の内面との接触が増大する結果、カプセル12とコア16との間の電気伝導度を増大させる。加えて、カプセル12はさらに、コア粒子16、集電子、支持基材、および粒子の周囲の領域の間の電気伝導度を高める。
【0043】
様々な実施形態で、本出願の電極は、本出願のアノード材料、結合剤、伝導性添加剤、および溶媒を含む電極スラリーから構成されてもよい。適切な割合の、アノード材料の成分およびその他の構成成分を、最初に混合することにより、電極スラリーを形成する。製作後、電極スラリーを、銅などの電気伝導性材料から構成された電極の集電子(図示せず)の表面に付着させて、電気化学セルで使用される電極を創出する。電極スラリーを、集電子(図示せず)などの基材の表面に付着させた後、電極スラリーを乾燥し、カレンダー処理して、電極を所望の気孔率まで圧縮する。
【0044】
分散剤(界面活性剤、乳化剤、および湿潤助剤を含む)、増粘剤(クレイを含む)、消泡剤および泡止め剤、殺生物剤、追加の充填剤、流動増強剤、安定化剤、架橋および硬化剤を、スラリー混合物に添加して、それらの均質混合物を確実にしてもよい。分散剤の例には、グリコールエーテル(例えば、ポリ(エチレンオキシド)、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドから誘導されたブロックコポリマー(例えば、BASF社からPluronic(登録商標)という商標名で販売されているもの)、アセチレンジオール(例えば、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオールエトキシレート、およびAir ProductsからSurfynol(登録商標)およびDynol(登録商標)という商標名で販売されているその他のもの)、カルボン酸の塩(アルカリ金属およびアンモニウム塩を含む)、およびポリシロキサンが含まれるが、これらに限定するものではない。分散剤の追加の例には、ドデカン酸ナトリウム、アルカノールアミド、ラノリン、ポリビニルピロリドン、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、レシチン、ポリアクリレート、ケイ酸ナトリウム、およびポリエトキシ、ニトロセルロース、およびTriton(登録商標)X-100、Midland、MichiganのDOW Chemical製の化学式(CO)1422Oを有する分散剤を含めてもよい。増粘剤の例には、長鎖カルボン酸塩(例えば、アルミニウム、カルシウム、亜鉛のステアリン酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩)、アルミノシリケート(例えば、Unimin Specialty MineralsからMinex(登録商標)の名称で販売されているもの、およびEvonik DegussaによるAerosil(登録商標)9200)、フュームドシリカ、天然および合成ゼオライトが含まれる。様々な実施形態では、スラリー混合物は、約0.01から約1.0重量パーセントの分散剤および/または増粘剤を含んでいてもよい。
【0045】
様々な実施形態では、結合剤は、フルオロ樹脂粉末、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDE)、ポリ(アクリル)酸、ポリエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリアミド、およびポリイミド、およびこれらの混合物を含んでいてもよいがこれらに限定するものではない。追加の結合剤は、ポリエチレン(UHMW)、スチレン-ブタジエンゴム、セルロース、ポリアクリレートゴム、およびアクリル酸のコポリマー、またはポリエチレンもしくはポリプロピレンなどのポリ炭化水素とのアクリル酸エステル、およびこれらの混合物を含んでいてもよいが、これらに限定するものではない。溶媒には、脱イオン水、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、酢酸エチル、極性プロトン性溶媒、極性非プロトン性溶媒、N-メチル-2-ピロリドン、およびこれらの組合せを含めてもよいが、これらに限定するものではない。
【0046】
伝導性添加剤には、カーボンブラック、電気伝導性ポリマー、黒鉛、または金属粉末、例えば粉末化ニッケル、アルミニウム、チタン、およびステンレス鋼を含めてもよいが、これらに限定するものではない。
【0047】
様々な実施形態では、本出願の電極活性スラリーは、電気化学的活物質10を約50から約85重量パーセント、約10から約25重量パーセントの結合剤、約2から約7重量パーセントの伝導性添加剤、および残分として溶媒または溶媒溶液を、含んでいてもよい。様々な実施形態では、電極活性スラリーは、約15から約35重量パーセントに及ぶ固形分含量を有していてもよい。様々な実施形態では、スラリーは、約20重量パーセントから約30重量パーセントに及ぶ固形分含量を有していてもよい。スラリーの固形分含量は、基材または集電子表面の均一コーティングを強化する、理想的なスラリー粘度を可能にする。
【0048】
電極の構成成分のそれぞれは、本出願の電極スラリーが創出されるように組み合わされる電極活性スラリー成分材料の少なくとも一部を含む個別の電極懸濁液として、別々にまたは代わりに添加してもよい。様々な実施形態では、電極活性スラリーの成分を、均一なコンシステンシーに混合する。スラリー成分は、ボールミリングまたは遊星型混合などの様々な制限のない技法を使用して、混合されてもよい。
【0049】
様々な実施形態で、混合時間は、均一で均質なスラリー混合物を実現するために、バッチサイズに応じて約30分から2時間に及んでもよい。ミリング媒体をスラリーに添加して、均質混合物の創出を補助してもよい。電極スラリーは、手動または自動化による撹拌を通してさらに分散させてもよい。そのような撹拌は、懸濁液の物理的振盪または揺動を含んでいてもよい。さらに電極スラリーは、約30秒から約30分間の超音波処理に供されて、ケイ素および炭素粒子をさらに分散させ、均質な電極懸濁液混合物の創出を助けてもよい。電極スラリーは、適切に流れかつ基材の表面に接着することができるように、調製されるべきである。様々な実施形態で、電極スラリーは、約0.1から1,000s-1の間の剪断速度で、約0.1Pa・sから約1,000Pa・sに及ぶ粘度を有していてもよい。
【0050】
電極スラリーを配合した後、スラリーを基材の表面に付着させる。様々な実施形態で、電極スラリーは、金属、ポリマー、セラミック、およびこれらの組合せを含む基材の表面に付着されてもよい。基材材料の非限定的な例には、銅、アルミニウム、ニッケル、およびこれらの合金などの金属、ポリエチレン、ポリイミド、およびポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などのポリマー、ならびにアルミナおよび様々なガラスを含めてもよいがこれらに限定するものではない。様々な実施形態で、電極スラリーは、銅、ニッケル、アルミニウム、およびこれらの組合せで構成されるものなどの集電子の表面に付着される。
【0051】
様々な実施形態で、電極スラリーは、様々な非限定的な付着技法を使用して、数ナノメートルから数マイクロメートルに及ぶ所望の厚さに付着されてもよい。様々な実施形態で、付着された電極スラリーの厚さは約5μmから約50μmに及んでもよい。これらの付着技法には、Meyerロッドコーティングの使用、ドクターブレードまたはナイフの使用、噴霧コーティング、浸漬コーティング、スピンコーティング、または刷毛塗りを含めてもよいがこれらに限定するものではない。さらに、電極スラリー層は、厚膜または薄膜加工技法の使用を通して基材表面に付着されてもよい。
【0052】
さらに、様々な実施形態では、基材表面への接着が改善されるよう、電極スラリーを付着する前に、基材の表面を改質してもよい。そのような基材表面改質の例には、コロナ処理、酸エッチング、サンドブラスト、またはビードブラストの使用による表面エッチングまたは表面粗面化が含まれるが、これらに限定するものではない。
【0053】
電極スラリーを基材の表面に付着させた後、次いで乾燥して、溶媒の少なくとも大部分を除去する。様々な実施形態で、電極スラリー層は、対流空気乾燥、UV光源、および/または赤外線光源を使用して乾燥してもよい。さらに電極スラリーは、凍結乾燥、真空乾燥の使用を通して、または浸透を通して乾燥してもよい。
【0054】
さらにスラリーは、電極スラリーコーティングの露出表面に直接加えられる熱源の適用を通して乾燥してもよく、あるいは電極スラリーは、下に在る基材に熱源を適用することを通して乾燥してもよく、あるいはその両方である。さらに電極スラリーは、様々な大気圧を有する様々な非限定的大気条件で乾燥してもよい。例えば、窒素などの気体は、乾燥プロセスを制御するのに使用されてもよい。様々な実施形態で、付着された電極スラリーは、UV光源下で約1時間乾燥し、次いでその後に、約80℃の炉内で約2から24時間の間、乾燥し、または溶媒が、得られた電極構造から実質的に除去されるまで乾燥する。
【0055】
様々な実施形態では、電極スラリーを、約5μmから約50μmに及ぶ厚さまで乾燥する。様々な実施形態では、電極スラリーを、約8μmから約15μmに及ぶ厚さまで乾燥する。様々な実施形態では、乾燥した電極層(複数可)の厚さは、電力の増大を実現させることを目標とする。低減させた電極の厚さは、拡散距離を最小限に抑え、電極構造内での素早いリチウムイオンの移動を可能にする。
【0056】
本出願の乾燥プロセスは、電気化学的活物質10で、カプセル粒子構造内の内部空隙20を維持させるのを可能にする。乾燥した電極を、焼結などのさらなる高温の加熱条件に供することは、材料の電気伝導度の減少をもたらす可能性があり、さらに、本出願の電気化学的活物質10の粒子内のケイ素または酸化ケイ素をグラフェンまたは酸化グラフェンカプセル12と融合させる可能性がある。その結果、粒子によって発生した容量が減少し得る。
【0057】
スラリーを乾燥した後、形成された電極をカレンダー処理してもよい。様々な実施形態で、カレンダー処理プロセスは電極を圧縮し、したがって、乾燥した電極内の空隙を減少させる。様々な実施形態で、乾燥した電極をカレンダー処理して、構造の一体性に加えて増大するリチウム拡散をもたらすための目標の空隙および内部気孔率を実現してもよい。様々な実施形態で、カレンダー処理プロセスは、ローラー、または適正な内部気孔率を確実にするために乾燥した電極上を転がる別のツールを利用してもよい。様々な実施形態では、カレンダー処理プロセスは、電極の厚さおよび所望の内部気孔率に応じて約30秒から約5分に及んでもよい。様々な実施形態で、電極内部気孔率は、約40パーセントから約60パーセントに及んでもよい。様々な実施形態で、内部気孔率は約50パーセントであってもよい。内部気孔率は、下記の式:
【0058】
【数1】

によって測定される。
【0059】
上式で、測定密度は、乾燥した電極の質量をその体積で割ることによって得られ、理論密度は、100パーセント稠密である電極活物質の密度である。理論密度は、2.25g/立方センチメートルであると仮定する。様々な実施形態で、電極を、目標とする最適な内部気孔率に構成することで、追加のチャネルが得られ、その内部ではリチウムイオンが拡散し、それと共に、セル内での電気化学環境において長寿命にわたり必要とされる構造一体性も得られる。
【0060】
このように、増大した内部気孔率は、リチウムイオンの増大した体積をもたらして、電極内に拡散させる。さらに、内部気孔率の増大は、リチウムイオンが電極内を移動する距離を短縮させる。増大した内部気孔率の結果、電極および得られる電気化学セルの充放電速度能は増大する。
【0061】
したがって電極は、複合アノード材料と、非晶質炭素を含んでいてもよい炭素材料を含む非活物質とを含む。様々な実施形態で、乾燥プロセス後、アノード材料は活物質粒子とカプセルとを、約80:20から約6:40に及ぶ、例えば約70:30の重量比で含む。電極は、非活物質を約0.01重量パーセントから約5重量パーセント含んでいてもよい。
【0062】
電極層(複数可)を乾燥し、カレンダー処理した後、電極層(複数可)および集電子基材の部分組立て品を切断して、電気化学セルに組み込むのに適切な形状の電極を形成してもよい。あるいは電極層は、基材から除去されて自立型電極を形成してもよい。「自立型」という用語は、その環境から十分に離間したもの、この場合には基材から十分にはなれたものと、本明細書では定義される。
【0063】
様々な実施形態で、配合された電極は、2次リチウムイオン電気化学セルで利用されるアノードまたは陰極である。本出願の電気化学セルは、セルの他の陽極として働く電気伝導性材料で構成されたカソードをさらに含む。様々な実施形態では、カソードは固体材料で構成され、カソードでの電気化学反応は、アノード、即ち第1の電極と、カソード、即ち第2の電極との間を前後に移動するリチウムイオンを、原子または分子形態に変換することを含む。
【0064】
セルの放電中、リチウムイオンはアノードまたは陰極からカソードまたは陽極に流れる。そのような2次セルを再充電するため、カソードまたは陽極からのリチウムイオンを、外部発生電位をセルに印加することによってアノードにインターカレートする。印加された再充電電位は、電解質を通してリチウムイオンをカソード材料からアノードに引き出す働きをする。固体カソードは、本出願の譲受人に譲受されかつ参照により本明細書に完全に組み込まれる、Haynerらの米国特許出願第14/745,747号に開示されるような、金属酸化物、リチウム化金属酸化物、金属フッ化物、リチウム化金属フッ化物、またはこれらの組合せのカソード活物質を含んでいてもよい。様々な実施形態で、カソード活物質は、LiNiCoAl(式中、x、y、およびzは0よりも大きく、x+y+z=1である)を含む。その他のカソード活物質は、酸化リチウムコバルト(LiCoO)、リン酸リチウム鉄(LiFePO)、および酸化リチウムマンガン(LiMn)を含んでいてもよいが、これらに限定するものではない。追加のカソード活物質は、LiNiMnCo(式中、0.3≦x≦1.0、0≦y≦0.45、および0≦z≦0.4、およびx+y+z=1である)も含み得るが、これらに限定するものではない。さらに、カソード活物質は、Li1+xNiαMnβCoγ(式中、xは約0.05から約0.25に及び、αは約0.1から約0.4におよび、βは約0.4から約0.65におよび、γは約0.05から約0.3に及ぶ)を含んでいてもよい。
【0065】
より広い範囲では、カソード活物質は、硫黄(S)、硫化リチウム(LiS)、金属フッ化物、リチウム金属フッ化物、リチウム金属リン酸塩、およびリチウム金属ケイ酸塩を含んでいてもよく、これらの金属は、元素の周期表からの遷移金属、例えば鉄(Fe)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、非遷移金属、例えばビスマス(Bi)、およびこれらの組合せを含んでいてもよい。カソード活物質の特定の例には、MF(式中、0≦x≦3である)、LiMF(式中、0≦x3である)、LiMPO、LiMSiO複合層状化スピネル構造、例えばLiMn-LiMO(式中、Mは元素の周期表からの遷移金属、例えば鉄(Fe)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、非遷移金属、例えばビスマス(Bi)である)、およびこれらの組合せを含めてもよい。特定の関心がもたれる、リチウムに富む陽極活物質は、式Li1+xNiMnCo2-Z(式中、xは約0.01から約0.3に及び、aは約0から約0.4に及び、bは約0.2から約0.65に及び、cは0から約0.46に及び、dは0から約0.15に及び、zは0から約0.2におよび、但し、aおよびcが共にゼロであることはなく、Aはマグネシウム(Mn)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、カドミム(Cd)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)、セレン(Ce)、イットリウム(Y)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、リチウム(Li)、またはこれらの組合せである)によって近似的に表すこともできる。当業者なら、明示される組成範囲内のパラメーター値の追加の範囲を認識し、且つ本開示内にあることが、理解されよう。
【0066】
様々な実施形態で、カソード活物質は、例えば混合状態での熱処理、ゾルゲル形成、化学気相成長、または水熱合成中の様々な酸化物、リン酸塩、硫化物、および/または金属元素の化学的添加、反応、またはそうでない場合には密接な接触によって形成される。それによって生成されるカソード活物質は、貴金属および/またはその他の酸化物およびリン酸化合物を含む第IB、IIB、IIIB、IVB、VB、VIB、VIIB、VIII、およびVIIA族の金属、酸化物、リン酸塩、および硫化物を含有していてもよい。様々な実施形態では、カソード活物質は、少なくとも完全にリチウム化されたものとリチウム化されていないものであるLiNi0.8Co0.15Al0.05とが化学量論的割合にある反応生成物である。
【0067】
本出願の例示的なセルはさらに、アノードとカソードとの間に物理的分離をもたらすセパレータを含む。セパレータは、電極間の内部短絡を防止するために電気絶縁性材料のものであり、セパレータ材料も、アノードおよびカソード活物質材料と化学的に反応せず、どちらも電解質と化学的に反応せずかつ電解質に不溶である。さらに、セパレータ材料は、セルの電気化学反応中に電解質がその内部を流れることを可能にする、ある程度の気孔率を有する。例示的なセパレータ材料は、不織ガラス、ポリプロピレン、ポリエチレン、微小孔材料、ガラス繊維材料、セラミックス、ZITEX(Chemplast Inc.)という名称で市販されているポリテトラフルオロエチレン膜、CELGARD(Celanese Plastic Company Inc.)という名称で市販されているポリプロピレン膜、およびDEXIGLAS(C.H.Dexter、Div.、Dexter Corp.)を含む。
【0068】
セパレータの形は、典型的には、アノードとカソードとの間で、それらの間の物理的接触が防止されるように配置されたシートである。そのようなことは、アノードが蛇行状構造に折り畳まれてそのアノードの折畳みの中間に複数のカソード板が配置され、セルケーシングに収容されている場合、または電極の組合せが巻かれもしくはそうでない場合には円筒状の「ゼリーロール」構成に形成された場合に当て嵌まる。
【0069】
本出願の例示的な電気化学セルは、アノードおよびカソードに動作可能に関連付けられた非水性のイオン伝導性電解質で活性化される。電解質は、セルの電気化学反応中に、特にセルの放電および再充電中に、アノードとカソードとの間でリチウムイオンを移動させるための媒体として働く。電解質は、非水性溶媒に溶解した無機塩で構成される。様々な実施形態で、無機塩は、有機エステル、エーテル、およびジアルキル炭酸塩を含む低粘度溶媒と、環状炭酸塩、環状エステル、および環状アミドを含む高伝導性溶媒との混合物中に溶解したアルカリ金属塩を含む。
【0070】
本出願に有用な追加の低粘度溶媒には、ジアルキルカーボネート、例えばテトラヒドロフラン(THF)、酢酸メチル(MA)、ジグリム、トリグリム、テトラグリム、炭酸ジメチル(DMC)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,2-ジエトキシエタン(DEE)、1-エトキシ、2-メトキシエタン(EME)、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸ジプロピル、およびこれらの混合物が含まれる。高誘電率溶媒には、環状カーボネート、環状エステル、および環状アミド、例えば炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸ブチレン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、γ-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン(GBL)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、およびこれらの混合物が含まれる。
【0071】
様々な実施形態では、本出願の電解質は、一般式YAF(式中、Yは、アノードを構成するアルカリ金属に類似したアルカリ金属であり、Aは、リン、ヒ素、およびアンチモンからなる群から選択される元素である)を有する無機塩を含む。AFをもたらす塩の例は、ヘキサフルオロホスフェート(PF)、ヘキサフルオロアルセネート(AsF)、およびヘキサフルオロアンチモネート(SbF)である。さらに、その他の塩には、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiClO、LiO、LiAlCl、LiGaCl、LiC(SOCF、LiN(SOCF、LiSCN、LiOSCF、LiCFSO、LiOCCF、LiSOF、LiB(C、LiCFSO、およびこれらの混合物を含めたリチウム塩が含まれる。様々な実施形態では、電解質は、適切な有機溶媒に溶解したヘキサフルオロアルセネートまたはヘキサフルオロホスフェートの少なくとも1種のイオン形成アルカリ金属塩であって、イオン形成アルカリ金属が、アノードを構成するアルカリ金属に類似しているものを含む。様々な実施形態では、電解質のアルカリ金属塩は、EC/DMCが50/50の溶媒混合物(体積による)に溶解したヘキサフルオロヒ酸リチウムまたはヘキサフルオロリン酸リチウムのいずれかを含む。様々な実施形態では、電解質は、炭酸ジメチルおよび炭酸エチレンの、体積で50:50混合物に溶解させた、0.8Mから1.5MのLiAsFまたはLiPFである。
【0072】
様々な実施形態では、電気化学セルの形は、アノード/カソード対が伝導性金属ケーシングに挿入されたリチウムイオンセルである。様々な実施形態で、ケーシングはステンレス鋼を含んでいてもよいが、チタン、軟鋼、ニッケル、ニッケルめっきされた軟鋼、およびアルミニウムも適切である。ケーシングは、カソードおよびアノード用の、ガラス・金属間封止/端子ピンフィードスルーに順応するように、十分な数の開口を有する金属製の蓋を含んでいてもよい。追加の開口は、電解質充填用に設けられてもよい。ケーシングヘッダーは、電気化学セルのその他の構成要素に対して適合性を有する要素を含み、腐食に対して耐性がある。セルにはその後、上述の電解質溶液が充填され、例えばフィルホール上にステンレス鋼プラグを塞ぎ溶接することなどによって気密封止されるが、これに限定するものではない。本出願のセルは、ケース陽極の設計で構成することができる。
【0073】
様々な実施形態でガラス・金属間封止は、CABAL 12、TA 23、またはFUSITE MSG-12、FUSITE A-485、FUSITE 425、またはFUSITE 435など、約0重量%から約50重量%の間のシリカを有する腐食耐性ガラスを含む。様々な実施形態で、陽端子ピンフィードスルーはチタンを含むが、モリブデンおよびアルミニウムを使用することもできる。セルヘッダーは、電気化学セルのその他の構成要素に対して適合性を有する要素を含み、腐食に対して耐性がある。セルにはその後、上述の電解質が充填され、フィルホール上にステンレス鋼ボールを塞ぎ溶接することなどにより気密封止されるが、これらに限定するものではない。イオン伝導性電解質が、セルのアノードおよびカソードに動作可能に関連付けられるようになると、アノードおよびカソードに動作可能に接続された端子間で電位差が発生する。放電中、リチウムイオンはアノードから、即ち陰極からカソードに、即ち陽極に移動する。再充電中、リチウムイオンは、カソードからアノードへと反対方向に移動する。様々な実施形態では、アノードとカソードとの間のリチウムイオンの移動は、原子または分子形態で生ずる。
【0074】
試料のリチウムイオンセルは、本出願の材料配合および製作方法を使用して製作されたアノードで構成した。純粋なリチウムの対向電極を使用して、試験セルのそれぞれを完成させた。リチウムイオン試験セルは、複数の電気化学的活物質粒子で構成されるアノードで構成し、この電気化学的活物質粒子は、グラフェンに包封されかつ約1μmから約10μmに及ぶ粒度を有するケイ素粒子を含んでいた。様々な実施形態で、アノード材料は、グラフェン、還元型酸化グラフェン、酸化グラフェン、またはこれらの組合せで構成された、皺の寄ったカプセル構造を有する粒子を含む。酸化ケイ素、ケイ酸リチウム、またはこれらの組合せの緩衝層を備えたケイ素コアを含む活物質粒子を、グラフェンカプセル内に包封する。
【0075】
様々な実施形態で、粒子カプセルを形成するグラフェン、部分還元型酸化グラフェン、または酸化グラフェンは、皺の寄った形態のものである。ケイ素コア16および酸化ケイ素緩衝層を含む活物質粒子の粒子は、既に論じた第1のケイ素粒子製作プロセスを利用して製作した。さらに、結晶質ケイ素コアおよびケイ酸リチウム緩衝層を含む活物質の粒子も、第1および第2のケイ素粒子製作プロセスを利用して製作した。様々な実施形態で、緩衝層は、酸化ケイ素(SiO)(式中、x<0.8)、またはLiSi、LiSiO、LiSiO、もしくはこれらの組合せを含むケイ酸リチウムの、いずれかを含んでいた。
【0076】
試験群1と呼ばれる3つのリチウムイオンセルは、還元型酸化グラフェンの皺の寄ったカプセルを、約50nmの平均粒度を有する包封された活物質粒子と共に含む、本出願のアノード材料を含むアノードで構成し、これをケイ素改質プロセスのステップ1に供した。このように、皺の寄ったカプセル内の活物質粒子は、ケイ素のコアおよび酸化ケイ素の緩衝層を有していた。
【0077】
さらに、試験群2と呼ばれる3つのリチウムイオンセルは、活物質粒子が約400nmの平均粒度を有すること以外、試験群1の場合に類似したアノード材料を含むアノードで構成した。
【0078】
さらに、試験群3と呼ばれる3つのリチウムイオンセルは、第1および第2の活物質粒子改質プロセスによって形成された(図3Aおよび3B)、還元型酸化グラフェンで包封された活物質粒子を含む、本出願のアノード材料を含むアノードで構成した。このように、試験群3の試料中で利用された活物質粒子は、結晶質ケイ素のコアおよびケイ酸リチウムの緩衝層を含んでいた。試験群3の試料の活物質粒子は、約400nmの平均粒度を有したことに注目される。
【0079】
さらに、リチウムイオン対照セルを、皺の寄ったグラフェンに包封されかつそれぞれ約50nmおよび約400nmの平均粒度を有するケイ素粒子を含む電気化学的活物質を有するアノードで構成した。さらに、対照セルで利用された、電気化学的活物質の皺の寄ったグラフェン内に包封されたケイ素粒子は、第1または第2のケイ素加工ステップのいずれかを使用して加工しなかった。対照群1と呼ばれる3つのリチウムイオン対照セルは、50nmの粒度を持つケイ素を含む電気化学的活物質を有するアノードを含むものを構成した。対照群2と呼ばれる3つのリチウムイオン対照セルは、400nmの粒度を持つケイ素を含む電極活物質を持つアノードを含むものを構成した。以下に示す表Iは、試験および対照群のセルのそれぞれのアノード活物質に利用される、ケイ素粒子の組成を明らかにする。
【0080】
【表1】
【0081】
全ての試験および対照セルを、パルス放電レジメンに供して、それぞれのセルの比容量を試験した。セルのそれぞれは、約1.5Vの所定の閾値電圧まで、10C放電速度で試験した。パルス放電レジメンは、公称電圧1.5Vに到達するまで、5秒間の電流パルスおよび5秒間の休止期間を交互に継続させることを含んでいた。
【0082】
図5および6は、パルス放電試験の結果を示す。図示されるように、グラフは、充放電サイクル数の関数として容量保持パーセントを示す。図5は、試験群1のセルに関するパルス放電試験結果を、対照群1のセルと比較して示す。図示されるように、試験群1のセルは、対照群1のセルに比べてより大きい容量保持を示した。特に、図示されるように、試験群1のセルは、100回の充放電サイクル後に約77パーセントの容量保持パーセンテージを示し、それに対して対照群1のセルは、100回の充放電サイクル後に約72パーセントの容量保持パーセンテージを示した。これらの試験結果は、酸化ケイ素を含む緩衝層が、酸化ケイ素緩衝層を備えたケイ素コアを含む活物質粒子を含まないアノード材料で構成されるアノードで構成されたリチウムセルと比較して、容量保持を増強させたことを示すように見える。
【0083】
図6は、対照群2のセルと比較した、試験群2のセルに関するパルス放電試験結果を示す。図示されるように、試験群2のセルは、対照群2のセルに比べて、より大きい容量保持を示した。図示されるように、約57回の充放電サイクル後、試験群2のセルは約88パーセントの容量保持を示し、それに対して対照群2のセルは、約83パーセントの容量保持を示した。さらに図6は、対照群2のセルと比較した、試験群3のセルに関するパルス放電試験結果を示す。図示されるように、試験群3のセルは、対照群2のセルに比べて、より大きい容量保持を示した。図示されるように、約95回の充放電サイクル後、試験群3のセルは約82パーセントの容量保持を示し、それに対して対照群2のセルは、約70パーセントの容量保持を示した。これらの試験結果は、ケイ酸リチウムを含む緩衝層を備えたケイ素コアを有する活物質粒子を含んだ本発明のアノード材料が、ケイ酸リチウムの緩衝層を含まない活物質粒子を含むアノードで構成されたリチウムセルと比較して、容量保持を高めることを示すように見える。
【0084】
【表2】
【0085】
上記にて示される表IIはさらに、対照群のセルと比較した、試験群のセルによって示された容量保持の改善を例示する。表IIに示されるように、試験群1のセルは、対照群1のセルよりも容量保持が39パーセント改善したことを示した。上記表に例示されるように、試験群1のセルは、99回の充放電サイクル後に80パーセントの容量保持に到達し、それに対して対照群1のセルは、71回目の充放電サイクルで80パーセントの容量保持に到達した。さらに、試験群2および3のセルも、対照群2のセルに比べ、容量保持の増大を示した。特に、表IIに示されるように、試験群2のセルは、対照群2のセルに比べ、容量保持で42パーセントの増大を示した。さらに、対照群2のセルに関するサイクル数67に比べると、試験群2のセルは110回の充放電サイクルで80パーセントの容量保持に到達したので、試験群3のセルは約54パーセントの容量保持の増大を示した。
【0086】
これらの試験結果は、結晶質ケイ素コアと、酸化ケイ素、ケイ酸リチウム、および/または炭素を含む緩衝層とを含む、活物質粒子であって、グラフェンを含む皺の寄ったカプセル内に組み込まれた活物質粒子を組み込むことは、容量保持を著しく改善することを示すように見える。特に、ケイ酸リチウムの緩衝層を備えたケイ素コアで構成された活物質成分の粒子を含む電気化学的活物質で構成された電極を含んでいた試験群3のセルは、試験群2のセルに比較して、増大した容量保持を示した。試験群2のセルは、酸化ケイ素の緩衝層を備えたケイ素コアを含む活物質粒子を含む電気化学的活物質で構成された電極を、含んでいた。試験群2のセルは、試験群1のセルと比較して、それぞれの対照群のセルよりも、容量保持でより大きい改善を示したことに注目される。これらの試験結果は、より大きい粒度を有するケイ素を利用すること、ならびにケイ酸リチウムを含む緩衝層を有するケイ素粒子を利用することは、容量保持を増大させることを示すように見える。
【0087】
容量保持の測定に加え、「切断パラメーター」値も、試験結果から計算した。切断パラメーターは、材料構造内のケイ素の電気的切断から、相対累積容量損失を測定する、単位のない値である。したがって、切断パラメーターの値が低くなるほど、少ない容量損失を示し、これは材料の網状構造内のケイ素の電気的切断から得られるものである。
【0088】
表IIに示されるように、全ての試験群のセルは、対照群のセルに比べて、より低い切断パラメーター値を示した。このことは、リチウムイオンセルのアノードに利用される、電気化学的活物質中に酸化ケイ素およびケイ酸リチウムの少なくとも1種を含む緩衝層を有するケイ素粒子を組み込むと、より低い「切断パラメーター」値が示され、したがってより少ない容量損失がもたらされることを示すように見えるであろう。さらに、試験群1のセルは、試験群2のセルと比較して、より低い切断パラメーターを示したことに注目される。このことは、電気化学的活物質中に酸化ケイ素の緩衝層を有するケイ素粒子を利用することに加え、より小さい粒度、即ち約50nmの粒度を有するケイ素粒子がより低い切断パラメーターを示し、したがってより少ない容量損失をもたらすことを示すと考えられる。
【0089】
このように、パルス放電レジメンの結果は、電気化学的活物質粒子構造と、その内部にあるケイ素粒子の最適化された構造との、有意性を明らかに示す。本明細書に記述される発明の概念に対する様々な修正は、添付される特許請求の範囲により定義される本出願の精神および範囲から逸脱することなく、当業者に明らかにされ得ることが理解される。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6