(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】(メタ)アクリレート、歯科材料用モノマー組成物、成形体、歯科材料用組成物、歯科材料及び(メタ)アクリレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20230908BHJP
C08F 20/38 20060101ALI20230908BHJP
C07C 319/18 20060101ALI20230908BHJP
C07C 321/14 20060101ALI20230908BHJP
A61K 6/15 20200101ALI20230908BHJP
A61K 6/61 20200101ALI20230908BHJP
A61K 6/90 20200101ALI20230908BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230908BHJP
【FI】
A61K6/887
C08F20/38
C07C319/18
C07C321/14
A61K6/15
A61K6/61
A61K6/90
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020538407
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2019032456
(87)【国際公開番号】W WO2020040141
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2020-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2018154941
(32)【優先日】2018-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018154942
(32)【優先日】2018-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018154943
(32)【優先日】2018-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 直志
(72)【発明者】
【氏名】小泉 絵梨
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-313410(JP,A)
【文献】特開昭64-026505(JP,A)
【文献】特開2017-014213(JP,A)
【文献】特開2013-231167(JP,A)
【文献】特開2010-031238(JP,A)
【文献】特開2013-213200(JP,A)
【文献】国際公開第2002/034207(WO,A1)
【文献】特開2018-021102(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0012614(US,A1)
【文献】特開2015-196685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/00 - 20/70
A61K 6/00 - 6/90
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒としてアルキルホスフィン化合物を用いてチオール基を2つ以上有するチオール化合物(1)と、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上有する(メタ)アクリレート化合物(2)とを反応させた反応物である(メタ)アクリレートである(メタ)アクリレート(A)(但し、以下の式で表わされるラジカル重合性基を有するシランカップリング剤を除く)を含む、歯科材料用モノマー組成物。
【化1】
Aは、H
2C=CH-,H
2C=C(CH
3)-,H
2C=CH-C
6H
4-基を表し(C
6H
4はフェニレン基を示す)、Bは、-C(O)-O-,-C(O)-S-,-C(O)-NH-,-NH-C(O)-NH-,-NH-C(O)-S-,-NH-C(O)-O-基を表し、Zは、C
1~C
60の直鎖または分岐鎖のアルキレン基で、-CH(OH)-CH
2-S-,-CH(OH)-CH
2-O-基を含み得、Dは、C
2~C
60の2価から4価の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を表し、-C(O)-O-,-C(O)-S-,-NH-C(O)-,-NH-C(O)-NH-,-S-,-NH-C(O)-S-,-NH-C(O)-O-を含み得、および/または3価のトリアジン分子骨格または2価のバルビツール酸分子骨格を有し、Eは、-NH-,-NR
4-(R
4はアルキレン基を示す),-S-,-NH-C(O)-S-,-NH-C(O)-NH-,-C(O)-S-,-NH-C(O)-O-,-C(O)-O-基を表し、R
2は、C
1~C
60の直鎖または分岐鎖のアルキレン基で、-S-,-NH-,-CH
2-C
6H
4-C
6H
4はフェニレン基を示す),-C(O)-O-,-O-基を含み得、R
1はC
1~C
16の直鎖または分岐鎖のアルキル基、フェニル基またはハロゲン原子を表しnが0のときには少なくとも1以上のハロゲン原子がSiに結合し、R
3はC
1~C
6の直鎖または分岐鎖のアルキル基を表す。なお、qとrの和はDの価数に等しく、rは1以上の正の整数であり、nは0~3、aは1~6である。
【請求項2】
触媒としてアルキルホスフィン化合物を用いてチオール基を2つ以上有するチオール化合物(1)と、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上有する(メタ)アクリレート化合物(2)とを反応させた反応物である(メタ)アクリレートである(メタ)アクリレート(A)を含み、
25℃における粘度が1mPa・s~10,000mPa・sである、歯科材料用モノマー組成物。
【請求項3】
前記反応物は、チオール化合物(1)のチオール基と、(メタ)アクリレート化合物(2)の(メタ)アクリロイルオキシ基と、が反応してなる構造を有し、かつ、チオール基を有さず、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する請求項1又は請求項2に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【請求項4】
分子内に下記一般式(B)で表される構造を有し、かつ、2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する、(メタ)アクリレートである(メタ)アクリレート(A)を含み、
前記(メタ)アクリレート(A)は、触媒とし
てアルキルホスフィン化合物を用いてチオール基を2つ以上有するチオール化合物(1)と、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上有する(メタ)アクリレート化合物(2)とを反応させた反応物である、歯科材料用モノマー組成物。
【化2】
(一般式(B)中、R
2は、水素原子又はメチル基を表す。*は結合位置を表す。)
【請求項5】
前記(メタ)アクリレート(A)は、下記一般式(1)で表される請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【化3】
(一般式(1)中、R
1は、2官能~4官能のチオール化合物から全てのチオール基を除いた残基であり、R
2は、水素原子又はメチル基であり、R
3は、ジ(メタ)アクリレートから2つの(メタ)アクリロイルオキシ基を除いた残基である。nは2~4のいずれかの整数である。複数存在するR
2及びR
3はそれぞれ、同一であってもよく、異なっていてもよい。)
【請求項6】
前記一般式(1)において、前記R
1の分子量が100~500である請求項5に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【請求項7】
前記一般式(1)において、前記R
1が下記式(2)、(3)、(4)、(5)、(6-1)、(6-2)、(6-3)、(7)、(8)、(9)又は(10)で示される基である請求項5に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
(式(2)、(3)、(4)、(5)、(6-1)、(6-2)、(6-3)、(7)、(8)、(9)及び(10)中、*は結合位置を表す。式(8)中、R
5は炭素数1~10の二価の炭化水素基である。式(9)中、R
6、R
7及びR
8はそれぞれ独立に、炭素数1~10の二価の炭化水素基である。式(10)中、R
9、R
10及びR
11はそれぞれ独立に、炭素数1~10の二価の炭化水素基であり、Y
1及びY
2はそれぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子である。)
【請求項8】
前記一般式(1)において、前記ジ(メタ)アクリレートは、ネオペンチルジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、又はプロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートである請求項5~請求項7のいずれか1項に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【請求項9】
前記チオール化合物(1)の質量aに対する前記(メタ)アクリレート化合物(2)の質量bの比(b/a)が0.5~35の範囲である請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【請求項10】
前記(メタ)アクリレート(A)以外の(メタ)アクリレートである(メタ)アクリレート(B)を含む、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の歯科材料用モノマー組成物。
【請求項11】
チオール基を2つ以上有するチオール化合物(1)と、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上有する(メタ)アクリレート化合物(2)との反応物である(メタ)アクリレートである(メタ)アクリレート(A)(但し、以下の式で表わされるラジカル重合性基を有するシランカップリング剤を除く)と、
前記(メタ)アクリレート(A)以外の(メタ)アクリレートである(メタ)アクリレート(B)とを含み、
前記(メタ)アクリレート(A)の含有率は、歯科材料用モノマー組成物全量に対して、5質量%以上50質量%未満である、歯科材料用モノマー組成物。
【化1】
Aは、H
2C=CH-,H
2C=C(CH
3)-,H
2C=CH-C
6H
4-基を表し
(C
6H
4はフェニレン基を示す)、Bは、-C(O)-O-,-C(O)-S-,-C(O)-NH-,-NH-C(O)-NH-,-NH-C(O)-S-,-NH-C(O)-O-基を表し、Zは、C
1~C
60の直鎖または分岐鎖のアルキレン基で、-CH(OH)-CH
2-S-,-CH(OH)-CH
2-O-基を含み得、Dは、C
2~C
60の2価から4価の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を表し、-C(O)-O-,-C(O)-S-,-NH-C(O)-,-NH-C(O)-NH-,-S-,-NH-C(O)-S-,-NH-C(O)-O-を含み得、および/または3価のトリアジン分子骨格または2価のバルビツール酸分子骨格を有し、Eは、-NH-,-NR
4-(R
4はアルキレン基を示す),-S-,-NH-C(O)-S-,-NH-C(O)-NH-,-C(O)-S-,-NH-C(O)-O-,-C(O)-O-基を表し、R
2は、C
1~C
60の直鎖または分岐鎖のアルキレン基で、-S-,-NH-,-CH
2-C
6H
4-C
6H
4はフェニレン基を示す),-C(O)-O-,-O-基を含み得、R
1はC
1~C
16の直鎖または分岐鎖のアルキル基、フェニル基またはハロゲン原子を表しnが0のときには少なくとも1以上のハロゲン原子がSiに結合し、R
3はC
1~C
6の直鎖または分岐鎖のアルキル基を表す。なお、qとrの和はDの価数に等しく、rは1以上の正の整数であり、nは0~3、aは1~6である。
【請求項12】
チオール基を2つ以上有するチオール化合物(1)と、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上有する(メタ)アクリレート化合物(2)との反応物である(メタ)アクリレートである(メタ)アクリレート(A)と、
前記(メタ)アクリレート(A)以外の(メタ)アクリレートである(メタ)アクリレート(B)とを含み、
25℃における粘度が1mPa・s~10,000mPa・sであり、
前記(メタ)アクリレート(A)の含有率は、歯科材料用モノマー組成物全量に対して、5質量%以上50質量%未満である、歯科材料用モノマー組成物。
【請求項13】
請求項1~請求項12のいずれか1項に記載の歯科材料用モノマー組成物の硬化物である成形体。
【請求項14】
請求項1~請求項12のいずれか1項に記載の歯科材料用モノマー組成物、重合開始剤、及びフィラーを含む歯科材料用組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の歯科材料用組成物の硬化物である歯科材料。
【請求項16】
チオール基を2つ以上有するチオール化合物(1)と、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上有する(メタ)アクリレート化合物(2)と、アルキルホスフィン化合物(5)と、を含む組成物を準備する工程と、
前記チオール化合物(1)と、前記(メタ)アクリレート化合物(2)と、を反応させてスルフィド結合を有する(メタ)アクリレート(A)を製造する工程と、
を含む(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項17】
前記チオール化合物(1)が有するチオール基のモル数と、前記(メタ)アクリレート化合物(2)が有する(メタ)アクリロイルオキシ基のモル数との比((メタ)アクリロイルオキシ基のモル数/チオール基のモル数)は0.5~20である請求項16に記載の(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項18】
前記アルキルホスフィン化合物(5)の含有量は、前記組成物100質量部に対して0.2質量部以下である請求項16又は請求項17に記載の(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項19】
前記(メタ)アクリレート(A)を製造する工程にて、前記チオール化合物(1)と、前記(メタ)アクリレート化合物(2)との反応温度は、50℃以下である請求項16~請求項18のいずれか1項に記載の(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項20】
前記アルキルホスフィン化合物(5)は、トリアルキルホスフィン化合物である請求項16~請求項19のいずれか1項に記載の(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項21】
前記トリアルキルホスフィン化合物は、トリ-n-ブチルホスフィン、トリ-n-ヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン及びトリ-n-オクチルホスフィンからなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項20に記載の(メタ)アクリレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリレート、歯科材料用モノマー組成物、成形体、歯科材料用組成物、歯科材料及び(メタ)アクリレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科材料用組成物の代表例であるコンポジットレジンは、典型的には、モノマーを含有するモノマー組成物、フィラー、重合開始剤、重合禁止剤、色素等を含有している。近年では、より高い機械的物性を持つコンポジットレジンが求められており、コンポジットレジンに含有されるモノマー組成物の硬化物の物性は、モノマー組成物を含有するコンポジットレジンの硬化物の物性に大きな影響を及ぼす。そのため、モノマー組成物の主成分であるモノマーについて種々の検討がなされており、例えば、モノマーとして特許文献1~4に示すような多官能性(メタ)アクリレートが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-204069号公報
【文献】特表2013-544823号公報
【文献】特開平11-315059号公報
【文献】国際公開第2012/157566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、コンポジットレジンをはじめとするモノマーを含有する歯科材料用組成物の適用範囲の拡大には、その硬化物の機械的物性を向上させる必要がある。そのため、単独又は他の重合性化合物と組み合わせて使用することにより、機械的物性に優れる硬化物が得られる(メタ)アクリレートが求められている。
【0005】
本発明の一形態は、上記問題に鑑みてなされたものであり、機械的物性に優れる硬化物が製造可能な(メタ)アクリレート、その製造方法、歯科材料用モノマー組成物及び歯科材料用組成物、並びに機械的物性に優れる硬化物である成形体及び歯科材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の手段として、例えば、以下の<1A>~<12A>が挙げられる。
上記課題を解決するための第2の手段として、例えば、以下の<1B>~<12B>が挙げられる。
上記課題を解決するための第3の手段として、例えば、以下の<1C>~<10C>が挙げられる。
【0007】
<1A> チオール基を2つ以上有するチオール化合物(1)と、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上有する(メタ)アクリレート化合物(2)との反応物である(メタ)アクリレート(A)を含む歯科材料用モノマー組成物。
<2A> 前記反応物は、チオール化合物(1)のチオール基と、(メタ)アクリレート化合物(2)の(メタ)アクリロイルオキシ基と、が反応してなる構造を有する<1A>に記載の歯科材料用モノマー組成物。
<3A> 前記チオール化合物(1)の質量aに対する前記(メタ)アクリレート化合物(2)の質量bの比(b/a)が0.5~35の範囲である<1A>に記載の歯科材料用モノマー組成物。
<4A> 前記チオール化合物(1)は、1,4-ブタンジチオール、1,8-オクタンジチオール、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、3,7-ジチア-1,9-ノナンジチオール、1,4-ブタンジオールビス(チオグリコラート)、ビス(3-メルカプトプロピオン酸)エチレングリコール、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)及びトリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレートからなる群より選択される少なくとも1種である<1A>~<3A>のいずれか1つに記載の歯科材料用モノマー組成物。
<5A> 前記(メタ)アクリレート化合物(2)は、ネオペンチルジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、及びプロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種である<1A>~<4A>のいずれか1つに記載の歯科材料用モノマー組成物。
<6A> 前記反応物は、チオール基を有さず、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する<1A>~<5A>のいずれか1つに記載の歯科材料用モノマー組成物。
<7A> スルフィド結合及びエステル結合を有する(メタ)アクリレート(A)を含む歯科材料用モノマー組成物。
<8A> 前記(メタ)アクリレート(A)は、下記一般式(B)で表される構造を有する<1A>~<7A>のいずれか1つに記載の歯科材料用モノマー組成物。
【0008】
【0009】
(一般式(B)中、R2は、水素原子又はメチル基を表す。*は結合位置を表す。)
<9A> 前記(メタ)アクリレート(A)以外の(メタ)アクリレートである(メタ)アクリレート(B)を含む<1A>~<8A>のいずれか1つに記載の歯科材料用モノマー組成物。
【0010】
<10A> <1A>~<9A>のいずれか1つに記載の歯科材料用モノマー組成物の硬化物である成形体。
<11A> <1A>~<9A>のいずれか1つに記載の歯科材料用モノマー組成物、重合開始剤、及びフィラーを含む歯科材料用組成物。
<12A> <11A>に記載の歯科材料用組成物の硬化物である歯科材料。
【0011】
<1B> 下記一般式(1)で表される(メタ)アクリレート。
【0012】
【0013】
(一般式(1)中、R1は、2官能~4官能のチオール化合物から全てのチオール基を除いた残基であり、R2は、水素原子又はメチル基であり、R3は、ジ(メタ)アクリレートから2つの(メタ)アクリロイルオキシ基を除いた残基である。nは2~4のいずれかの整数である。複数存在するR2及びR3はそれぞれ、同一であってもよく、異なっていてもよい。)
<2B> 前記チオール化合物は、炭素数が2~20であり、かつスルフィド結合、エステル結合、エーテル結合及びアルキレン基から選ばれる少なくとも1種の結合を有する<1B>に記載の(メタ)アクリレート。
<3B> 前記一般式(1)において、前記R1の分子量が100~500である<1B>又は<2B>に記載の(メタ)アクリレート。
<4B> 前記一般式(1)において、前記R1が下記式(2)、(3)、(4)、(5)、(6-1)、(6-2)、(6-3)、(7)、(8)、(9)又は(10)で示される基である<1B>~<3B>のいずれか1つに記載の(メタ)アクリレート。
【0014】
【0015】
【0016】
(式(2)、(3)、(4)、(5)、(6-1)、(6-2)、(6-3)、(7)、(8)、(9)及び(10)中、*は結合位置を表す。式(8)中、R5は炭素数1~10の二価の炭化水素基である。式(9)中、R6、R7及びR8はそれぞれ独立に、炭素数1~10の二価の炭化水素基である。式(10)中、R9、R10及びR11はそれぞれ独立に、炭素数1~10の二価の炭化水素基であり、Y1及びY2はそれぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子である。)
<5B> 前記一般式(1)において、前記R3は、炭素数が1~50の直鎖状又は分岐状である二価の非環状炭化水素基、炭素数が3~50の二価の環状炭化水素基、及び炭素数が1~50であり、主鎖中に酸素原子を含む二価の有機基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する<1B>~<4B>のいずれか1つに記載の(メタ)アクリレート。
<6B> 前記ジ(メタ)アクリレートは、ネオペンチルジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、又はプロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートである<1B>~<5B>のいずれか1つに記載の(メタ)アクリレート。
<7B> 25℃における粘度が1mPa・s~10,000mPa・sである<1B>~<6B>のいずれか1つに記載の(メタ)アクリレート。
【0017】
<8B> <1B>~<7B>のいずれか1つに記載の(メタ)アクリレートである(メタ)アクリレート(A)と、前記(メタ)アクリレート(A)以外の(メタ)アクリレートである(メタ)アクリレート(B)と、を含むモノマー組成物。
<9B> 前記(メタ)アクリレート(B)は、下記一般式(A)で表される(メタ)アクリレートである<8B>に記載のモノマー組成物。
【0018】
【0019】
(一般式(A)中、R1は、2官能~4官能のチオール化合物から全てのチオール基を除いた残基であり、R2は、イソ(チオ)シアネート化合物から2つのイソ(チオ)シアネート基を除いた残基であり、R3は、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートから(メタ)アクリロイルオキシ基及びヒドロキシ基を除いた残基であり、R4は水素原子又はメチル基である。Xは酸素原子又は硫黄原子である。nは2~4のいずれかの整数である。複数存在するR2~R4はそれぞれ、同一であってもよく、異なっていてもよい。)
<10B> <8B>又は<9B>に記載のモノマー組成物の硬化物である成形体。
<11B> <8B>又は<9B>に記載のモノマー組成物、重合開始剤、及びフィラーを含む歯科材料用組成物。
<12B> <11B>に記載の歯科材料用組成物の硬化物である歯科材料。
【0020】
<1C> チオール基を2つ以上有するチオール化合物(1)と、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上有する(メタ)アクリレート化合物(2)と、アルキルホスフィン化合物(5)と、を含む組成物を準備する工程と、前記チオール化合物(1)と、前記(メタ)アクリレート化合物(2)と、を反応させてスルフィド結合を有する(メタ)アクリレート(A)を製造する工程と、を含む(メタ)アクリレートの製造方法。
<2C> 前記アルキルホスフィン化合物(5)の含有量は、前記組成物100質量部に対して0.2質量部以下である<1C>に記載の(メタ)アクリレートの製造方法。
<3C> 前記(メタ)アクリレート(A)を製造する工程にて、前記チオール化合物(1)と、前記(メタ)アクリレート化合物(2)との反応温度は、50℃以下である<1C>又は<2C>に記載の(メタ)アクリレートの製造方法。
<4C> 前記アルキルホスフィン化合物(5)は、トリアルキルホスフィン化合物である<1C>~<3C>のいずれか1つに記載の(メタ)アクリレートの製造方法。
<5C> 前記トリアルキルホスフィン化合物は、トリ-n-ブチルホスフィン、トリ-n-ヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン及びトリ-n-オクチルホスフィンからなる群より選択される少なくとも1つを含む<4C>に記載の(メタ)アクリレートの製造方法。
<6C> 前記(メタ)アクリレート(A)は、チオール基を有さない<1C>~<5C>のいずれか1つに記載の(メタ)アクリレートの製造方法。
<7C> 前記(メタ)アクリレート(A)は、下記一般式(B)で表される構造を有する<1C>~<6C>のいずれか1つに記載の(メタ)アクリレートの製造方法。
【0021】
【0022】
(一般式(B)中、R2は、水素原子又はメチル基を表す。*は結合位置を表す。)
<8C> <1C>~<7C>のいずれか1つに記載の(メタ)アクリレートの製造方法により前記(メタ)アクリレート(A)を得る工程と、前記(メタ)アクリレート(A)と、前記(メタ)アクリレート(A)以外の(メタ)アクリレートである(メタ)アクリレート(B)と、を混合してモノマー組成物を製造する工程と、を含むモノマー組成物の製造方法。
<9C> <1C>~<7C>のいずれか1つに記載の(メタ)アクリレートの製造方法により前記(メタ)アクリレート(A)を得る工程と、前記(メタ)アクリレート(A)と、前記(メタ)アクリレート(A)以外の(メタ)アクリレートである(メタ)アクリレート(B)と、重合開始剤と、フィラーと、を混合して歯科材料用組成物を製造する工程と、を含む歯科材料用組成物の製造方法。
<10C> <9C>の歯科材料用組成物の製造方法により歯科材料用組成物を得る工程と、前記歯科材料用組成物を硬化させて歯科材料を製造する工程と、を含む歯科材料の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様によれば、機械的物性に優れる硬化物が製造可能な(メタ)アクリレート、その製造方法、歯科材料用モノマー組成物及び歯科材料用組成物、並びに機械的物性に優れる硬化物である成形体及び歯科材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1Aで得たエンチオールメタクリレート(A-1)のIRスペクトルである。
【
図2】実施例2Aで得たエンチオールメタクリレート(A-2)のIRスペクトルである。
【
図3】実施例3Aで得たエンチオールメタクリレート(A-3)のIRスペクトルである。
【
図4】実施例4Aで得たエンチオールメタクリレート(A-4)のIRスペクトルである。
【
図5】実施例5Aで得たエンチオールメタクリレート(A-5)のIRスペクトルである。
【
図6】実施例6Aで得たエンチオールメタクリレート(A-6)のIRスペクトルである。
【
図7】実施例7Aで得たエンチオールメタクリレート(A-7)のIRスペクトルである。
【
図8】実施例8Aで得たエンチオールメタクリレート(A-8)のIRスペクトルである。
【
図9】実施例9Aで得たエンチオールメタクリレート(A-9)のIRスペクトルである。
【
図10】実施例10Aで得たエンチオールメタクリレート(A-10)のIRスペクトルである。
【
図11】実施例11Aで得たエンチオールメタクリレート(A-11)のIRスペクトルである。
【
図12】実施例12Aで得たエンチオールメタクリレート(A-12)のIRスペクトルである。
【
図13】実施例13Aで得たエンチオールメタクリレート(A-13)のIRスペクトルである。
【
図14】実施例14Aで得たエンチオールメタクリレート(A-14)のIRスペクトルである。
【
図15】実施例15Aで得たエンチオールメタクリレート(A-15)のIRスペクトルである。
【
図16】実施例16Aで得たエンチオールメタクリレート(A-16)のIRスペクトルである。
【
図17】実施例17Aで得たエンチオールメタクリレート(A-17)のIRスペクトルである。
【
図18】実施例18Aで得たエンチオールメタクリレート(A-18)のIRスペクトルである。
【
図19】実施例19Aで得たエンチオールメタクリレート(A-19)のIRスペクトルである。
【
図20】実施例20Aで得たエンチオールメタクリレート(A-20)のIRスペクトルである。
【
図21】実施例21Aで得たエンチオールメタクリレート(A-21)のIRスペクトルである。
【
図22】実施例22Aで得たエンチオールメタクリレート(A-22)のIRスペクトルである。
【
図23】実施例23Aで得たエンチオールメタクリレート(A-23)のIRスペクトルである。
【
図24】実施例24Aで得たエンチオールメタクリレート(A-24)のIRスペクトルである。
【
図25】実施例25Aで得たエンチオールメタクリレート(A-25)のIRスペクトルである。
【
図26】実施例26Aで得たエンチオールメタクリレート(A-26)のIRスペクトルである。
【
図27】実施例27Aで得たエンチオールメタクリレート(A-27)のIRスペクトルである。
【
図28】実施例28Aで得たエンチオールメタクリレート(A-28)のIRスペクトルである。
【
図29】実施例29Aで得たエンチオールメタクリレート(A-29)のIRスペクトルである。
【
図30】実施例30Aで得たエンチオールメタクリレート(A-30)のIRスペクトルである。
【
図31】実施例31Aで得たエンチオールメタクリレート(A-31)のIRスペクトルである。
【
図32】実施例32Aで得たエンチオールメタクリレート(A-32)のIRスペクトルである。
【
図33】実施例33Aで得たエンチオールメタクリレート(A-33)のIRスペクトルである。
【
図34】実施例34Aで得たエンチオールメタクリレート(A-34)のIRスペクトルである。
【
図35】実施例35Aで得たエンチオールメタクリレート(A-35)のIRスペクトルである。
【
図36】実施例36Aで得たエンチオールメタクリレート(A-36)のIRスペクトルである。
【
図37】実施例37Aで得たエンチオールメタクリレート(A-37)のIRスペクトルである。
【
図38】実施例38Aで得たエンチオールメタクリレート(A-38)のIRスペクトルである。
【
図39】実施例39Aで得たエンチオールメタクリレート(A-39)のIRスペクトルである。
【
図40】実施例40Aで得たエンチオールメタクリレート(A-40)のIRスペクトルである。
【
図41】実施例41Aで得たエンチオールメタクリレート(A-41)のIRスペクトルである。
【
図42】実施例42Aで得たエンチオールメタクリレート(A-42)のIRスペクトルである。
【
図43】実施例43Aで得たエンチオールメタクリレート(A-43)のIRスペクトルである。
【
図44】実施例44Aで得たエンチオールメタクリレート(A-44)のIRスペクトルである。
【
図45】実施例45Aで得たエンチオールメタクリレート(A-45)のIRスペクトルである。
【
図46】実施例46Aで得たエンチオールメタクリレート(A-46)のIRスペクトルである。
【
図47】実施例47Aで得たエンチオールメタクリレート(A-47)のIRスペクトルである。
【
図48】実施例48Aで得たエンチオールメタクリレート(A-48)のIRスペクトルである。
【
図49】実施例49Aで得たエンチオールメタクリレート(A-49)のIRスペクトルである。
【
図50】実施例50Aで得たエンチオールメタクリレート(A-50)のIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0026】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、「(メタ)アクリロイル」とはアクリロイル又はメタクリロイルを意味し、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート又はメタクリレートを意味する。
本開示において、「イソ(チオ)シアネート」とはイソシアネート又はイソチオシアネートを意味する。
【0027】
[(メタ)アクリレート]
本開示の(メタ)アクリレートは、チオール基を2つ以上有するチオール化合物(1)と、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上有する(メタ)アクリレート化合物(2)との反応物である。この(メタ)アクリレートを用いることで機械的物性に優れる硬化物が製造可能である。
【0028】
ところで、硬化物の機械的物性を向上可能な主成分モノマーを選択した場合、モノマー組成物の粘度が上昇し、取り扱い性が低下することがある。
【0029】
そこで、モノマー組成物の粘度を低下させて取り扱い性を向上させる点から、主成分モノマーに希釈モノマーを添加することがある。従来公知の希釈モノマーとしては、トリエチレングリコールジメタクリレート等の(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0030】
しかしながら、主成分モノマーに前述の従来公知の希釈モノマーを添加してモノマー組成物とした場合、その硬化物における靭性等の機能が低下してしまう場合がある。一方、前述の本開示の(メタ)アクリレートをモノマー組成物の取り扱い性を向上させる希釈モノマーとして用いた場合、前述の従来公知の希釈モノマーを用いた場合よりも硬化物の機械的物性を高められる傾向にある。そのため、例えば、前述の本開示の(メタ)アクリレートを、モノマー組成物にて重合可能な主成分モノマーと組み合わせて用いてもよい。
【0031】
[(メタ)アクリレートの変形例]
本開示の(メタ)アクリレートの変形例は、分子内に下記一般式(B)で表される構造を有し、かつ、2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する。この(メタ)アクリレートを用いることで機械的物性に優れる硬化物が製造可能である。
【0032】
【0033】
一般式(B)中、R2は、水素原子又はメチル基を表す。*は結合位置を表す。
以上に示した本開示の(メタ)アクリレート及びその変形例は、後述する(メタ)アクリレート(A)が有する好ましい態様を有していてもよい。
【0034】
[歯科材料用モノマー組成物]
本開示の歯科材料用モノマー組成物(以下、「モノマー組成物」とも称する)は、チオール基(メルカプト基)を2つ以上有するチオール化合物(1)と、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上有する(メタ)アクリレート化合物(2)との反応物である(メタ)アクリレート(A)を含む。(メタ)アクリレート(A)は、通常重合可能なモノマーである。
【0035】
本開示のモノマー組成物に含まれる反応物は、チオール化合物(1)のチオール基と、(メタ)アクリレート化合物(2)の(メタ)アクリロイルオキシ基と、が反応してなる構造を有していてもよい。反応物は、チオール基を有さず、(メタ)アクリロイルオキシ基を有していてもよい。また、反応物は、スルフィド結合を有していてもよく、スルフィド結合及びエステル結合を有していてもよく、以下の一般式(B)で表される構造を有していてもよい。なお、反応物中の、チオール基、スルフィド結合及びエステル結合は、例えば、FT-IR(フーリエ変換赤外分光、Fourier Transform Infrared)測定によって確認することができる。
【0036】
【0037】
一般式(B)中、R2は、水素原子又はメチル基を表す。*は結合位置を表す。例えば、結合位置には、チオール化合物(1)の1つ以上のチオール基を除いた残基、(メタ)アクリレート化合物(2)の1つの(メタ)アクリロイルオキシ基を除いた残基、等が結合していてもよく、一般式(B)中の硫黄原子と隣り合う結合位置にチオール化合物(1)の1つ以上のチオール基を除いた残基が結合していてもよく、一般式(B)中の酸素原子と隣り合う結合位置に(メタ)アクリレート化合物(2)の1つの(メタ)アクリロイルオキシ基を除いた残基が結合していてもよい。
【0038】
反応物は、チオール基を有していても有していなくてもよい。例えば、チオール化合物(1)のチオール基と、(メタ)アクリレート化合物(2)の(メタ)アクリロイルオキシ基との反応において、チオール化合物(1)の全てのチオール基が反応していてもよく、一部のチオール基が反応せずに反応物中に残っていてもよい。チオール基の有無は、例えば、FT-IR測定によって確認することができる。
【0039】
反応物は、チオール基を有していてもよく、さらに(メタ)アクリロイルオキシ基を有していてもよい。例えば、チオール化合物(1)のチオール基と、(メタ)アクリレート化合物(2)の(メタ)アクリロイルオキシ基との反応において、チオール化合物(1)の全てのチオール基が反応し、かつ、(メタ)アクリレート化合物(2)の一部の(メタ)アクリロイルオキシ基が反応せずに反応物中に残っていてもよい。(メタ)アクリロイルオキシ基の有無は、例えば、FT-IR測定によって確認することができる。
【0040】
チオール化合物(1)としては、脂肪族ポリチオール化合物、芳香族ポリチオール化合物、複素環ポリチオール化合物等が挙げられる。
【0041】
チオール化合物(1)としては、特に限定されず、1,3-プロパンジチオール、1,4-ブタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、2,5-ヘキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,9-ノナンジチオール、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、3,7-ジチア-1,9-ノナンジチオール、1,4-ブタンジオールビス(チオグリコラート)、ビス(3-メルカプトプロピオン酸)エチレングリコール、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,2,3-プロパントリチオール、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、トリメチロールプロパントリス(2-メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリス(2-メルカプトアセテート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、1,2,3-トリス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,2,3-トリス(2-メルカプトエチルチオ)プロパン、1,2,3-トリス(3-メルカプトプロピルチオ)プロパン、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、テトラキス(メルカプトメチルチオメチル)メタン、テトラキス(2-メルカプトエチルチオメチル)メタン、テトラキス(3-メルカプトプロピルチオメチル)メタン、ビス(2,3-ジメルカプトプロピル)スルフィド、これらのチオグリコール酸又はメルカプトプロピオン酸のエステル等の脂肪族ポリチオール化合物、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、トリス(メルカプトメチルチオ)メタン、トリス(メルカプトエチルチオ)メタン等の脂肪族ポリチオール化合物;1,3,5-トリメルカプトベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトメチレンオキシ)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトエチレンオキシ)ベンゼン等の芳香族ポリチオール化合物;2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン、2,4,6-トリメルカプト-1,3,5-トリアジン、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート等の複素環ポリチオール化合物;などが挙げられる。
【0042】
チオール化合物(1)としては、機械的物性に優れる硬化物が製造可能な(メタ)アクリレート(A)を製造する点から、1,4-ブタンジチオール、1,8-オクタンジチオール、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、3,7-ジチア-1,9-ノナンジチオール、1,4-ブタンジオールビス(チオグリコラート)、ビス(3-メルカプトプロピオン酸)エチレングリコール、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート等が好ましい。
【0043】
(メタ)アクリレート化合物(2)としては、特に限定されず、ネオペンチルジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0044】
本開示の(メタ)アクリレート(A)は、主成分モノマーと混合してモノマー組成物としたときの取り扱い性の点から、25℃における粘度が1mPa・s~10,000mPa・sであってもよく、10mPa・s~7,000mPa・sであってもよく、50mPa・s~5,000mPa・sであってもよく、100mPa・s~3,000mPa・sであってもよい。本開示における粘度は、E型粘度計(東機産業製TVE-22H)により、25℃で測定した値である。
【0045】
また、(メタ)アクリレート(A)と、(メタ)アクリレート(A)の製造に用いたチオール化合物(1)及び(メタ)アクリレート化合物(2)の少なくとも一方である未反応物との混合物について、25℃における粘度が1mPa・s~10,000mPa・sであってもよく、10mPa・s~7,000mPa・sであってもよく、50mPa・s~5,000mPa・sであってもよく、100mPa・s~3,000mPa・sであってもよい。
【0046】
また、反応物は、前述のようにチオール化合物(1)の全てのチオール基が反応し、かつ、(メタ)アクリレート化合物(2)の一部の(メタ)アクリロイルオキシ基が反応せずに残っているものであってもよく、例えば、一般式(1)で表される(メタ)アクリレートであってもよい。
【0047】
【0048】
一般式(1)中、R1は、2官能~4官能のチオール化合物から全てのチオール基を除いた残基であり、R2は、水素原子又はメチル基であり、R3は、ジ(メタ)アクリレートから2つの(メタ)アクリロイルオキシ基を除いた残基である。nは2~4のいずれかの整数である。複数存在するR2及びR3はそれぞれ、同一であってもよく、異なっていてもよい。2官能~4官能のチオール化合物としては、前述のチオール化合物(1)であってもよく、ジ(メタ)アクリレートとしては、前述の(メタ)アクリレート化合物(2)であってもよい。
【0049】
一般式(1)中、R1は、炭素数が2~20であり、かつスルフィド結合、エステル結合、エーテル結合及びアルキレン基から選ばれる少なくとも1種の結合を有する2官能~4官能のチオール化合物から全てのチオール基を除いた残基であることが好ましい。前述のチオール化合物としては、炭素数が2~20であり、かつスルフィド結合、エステル結合、エーテル結合及びアルキレン基から選ばれる少なくとも1種の結合を有する化合物が好ましく、炭素数が2~20であり、かつスルフィド結合、エステル結合、エーテル結合又はアルキレン基を1つ以上有する化合物がより好ましく、炭素数が2~20であり、かつスルフィド結合、エステル結合又はエーテル結合を2つ以上有する化合物、又はアルキレン基を有し、かつ、スルフィド結合、エステル結合及びエーテル結合を有さない化合物がさらに好ましく、炭素数が2~20であり、かつスルフィド結合を2つ又は3つ有する化合物、炭素数が2~20であり、かつエステル結合を3つ又は4つ有する化合物、炭素数が2~20であり、かつエーテル結合を2つ有する化合物、又は炭素数が2~20のアルキレン基を有し、かつ、スルフィド結合、エステル結合及びエーテル結合を有さない化合物が特に好ましい。
【0050】
一般式(1)中、R1は、3官能又は4官能のチオール化合物から全てのチオール基を除いた残基であってもよく、nは3又は4であってもよい。
【0051】
一般式(1)において、R1の分子量は100~500であることが好ましい。
【0052】
一般式(1)において、R1としては、下記式(2)、(3)、(4)、(5)、(6-1)、(6-2)、(6-3)、(7)、(8)、(9)又は(10)で示される基が好ましい。なお、各式中の「*」は結合位置を表し、より具体的には、一般式(1)中に示されている硫黄原子との結合位置を表す。式(8)中、R5は炭素数1~10の二価の炭化水素基である。式(9)中、R6、R7及びR8はそれぞれ独立に、炭素数1~10の二価の炭化水素基である。式(10)中、R9、R10及びR11はそれぞれ独立に、炭素数1~10の二価の炭化水素基であり、Y1及びY2はそれぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子である。炭素数1~10の二価の炭化水素基としては、後述の二価の非環状炭化水素基、二価の環状炭化水素基等が挙げられる。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
一般式(1)において、R2はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、複数存在するR2は、いずれも水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0058】
一般式(1)において、R3はジ(メタ)アクリレートから2つの(メタ)アクリロイルオキシ基を除いた残基である。また、R3は、炭素数が1~50のジ(メタ)アクリレートから2つの(メタ)アクリロイルオキシ基を除いた残基であることが好ましい。
【0059】
また、一般式(1)において、R3は、炭素数が1~50の直鎖状又は分岐状である二価の非環状炭化水素基、炭素数が3~50の二価の環状炭化水素基、又は炭素数が1~50であり、主鎖中に酸素原子を含む二価の有機基であることが好ましい。炭素数が3~50の二価の環状炭化水素基としては、環状炭化水素の部分のみで構成されていてもよく、環状炭化水素の部分及び非環状炭化水素の部分の組み合わせであってもよい。ここで、二価の非環状炭化水素基としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基等が挙げられ、二価の環状炭化水素基としては、シクロアルキレン基、シクロアルケニレン基、シクロアルキニレン基、アリーレン基等が挙げられる。また、主鎖中に酸素原子を含む二価の有機基としては、主鎖中に酸素原子が連続して存在する構造、例えば、「-O-O-」を有さないことが好ましく、酸素原子以外の構造は炭化水素基であることが好ましい。また、非環状炭化水素基、及び炭化水素基における水素原子は、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボニル基等の置換基に置換されていてもよく、環状炭化水素基における水素原子は、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボニル基、アルキル基等の置換基に置換されていてもよい。
【0060】
炭素数が1~50の直鎖状又は分岐状である二価の非環状炭化水素基としては、炭素数が1~20の直鎖状又は分岐状である二価の非環状炭化水素基が好ましく、炭素数が1~10の直鎖状又は分岐状である二価の非環状炭化水素基がより好ましい。
【0061】
炭素数が3~50の二価の環状炭化水素基としては、炭素数が6~30の二価の環状炭化水素基が好ましく、炭素数が10~25の二価の環状炭化水素基がより好ましい。
【0062】
炭素数が1~50であり、主鎖中に酸素原子を含む二価の有機基としては、炭素数が1~50であるオキシアルキレン基が好ましく、炭素数が2~30であるオキシアルキレン基がより好ましい。
【0063】
一般式(1)において、R3はそれぞれ独立に、前述の例示した(メタ)アクリレート化合物(2)から2つの(メタ)アクリロイルオキシ基を除いた残基から選択される一つの置換基であってもよく、複数存在するR3は、いずれも前述の例示した(メタ)アクリレート化合物(2)から2つの(メタ)アクリロイルオキシ基を除いた残基から選択される一つの置換基であることが好ましい。
【0064】
((メタ)アクリレート(A)の製造方法1)
以下、本開示の(メタ)アクリレート(A)の製造方法1について説明する。本開示の(メタ)アクリレート(A)の製造方法1は、チオール化合物(1)と、(メタ)アクリレート化合物(2)と、を反応させることにより得られる。この製造方法1にて用いるチオール化合物(1)及び(メタ)アクリレート化合物(2)としては、それぞれ前述した化合物が挙げられる。
【0065】
チオール化合物(1)と、(メタ)アクリレート化合物(2)と、を反応させる際、効率よく(メタ)アクリレート(A)を製造する点から、チオール化合物(1)の質量aに対する(メタ)アクリレート化合物(2)の質量bの比(b/a)が0.5~35の範囲が好ましく、2~15の範囲がより好ましく、3~10の範囲がさらに好ましい。
また、チオール化合物(1)が有するチオール基のモル数と、(メタ)アクリレート化合物(2)が有する(メタ)アクリロイルオキシ基のモル数との比((メタ)アクリロイルオキシ基のモル数/チオール基のモル数)は、効率よく(メタ)アクリレート(A)を製造する点から、0.5~20が好ましく、1~15がより好ましく、1.5~10がさらに好ましい。
【0066】
チオール化合物(1)と、(メタ)アクリレート化合物(2)と、を反応させる際には、反応速度向上の点から、触媒を添加してもよい。触媒としては、チオール化合物(1)に含まれるチオール基と、(メタ)アクリレート化合物(2)に含まれる(メタ)アクリロイルオキシ基との反応、すなわちエンチオール反応を加速させる公知の触媒を使用できる。
【0067】
触媒としては、ホスフィン系化合物が好適に用いられる。ホスフィン系化合物としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-プロピルホスフィン、トリ-tert-ブチルホスフィン、トリイソブチルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリ-n-ヘキシルホスフィン、トリ-n-オクチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等のトリアルキルホスフィン化合物、メチルジフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、トリ-o-トリルホスフィン、トリ-m-トリルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、ジクロロ(エチル)ホスフィン、ジクロロ(フェニル)ホスフィン、クロロジフェニルホスフィン等を挙げることができる。これらは単独でも2種類以上を混合して用いても良い。これらの触媒の中でも、ゲル化を抑制し、かつ反応が好適に進行する点から、トリアルキルホスフィン化合物が好ましい。
トリアルキルホスフィン化合物としては、トリ-n-ブチルホスフィン、トリ-n-ヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ-n-オクチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン化合物等が好ましい。トリアルキルホスフィン化合物は、1種単独で用いても、2種以上を用いてもよい。
【0068】
触媒の使用量としては、反応の調節及び触媒効果の点から、チオール化合物(1)と、(メタ)アクリレート化合物(2)との合計100質量%に対して、0.001質量%~0.5質量%が好ましく、0.002質量%~0.3質量%がより好ましく、0.01質量%~0.3質量%がさらに好ましく、0.01質量%~0.2質量%が特に好ましく、0.05質量%~0.2質量%がより一層好ましい。なお、触媒は反応の開始時に全量投入してもよく、必要に応じて逐次又は分割して反応系に投入してもよい。
【0069】
反応温度としては、特に制限はなく、反応時間を短縮し、かつ副生成物の発生を抑制する点から、0℃~100℃が好ましく、20℃~80℃がより好ましく、30℃~60℃がさらに好ましく、35℃~50℃が特に好ましい。
反応時間としては、特に制限はなく、副生成物の発生を抑制する点から、1時間~10時間が好ましく、1.5時間~6時間がより好ましく、2時間~5時間がさらに好ましい。
【0070】
チオール化合物(1)と、(メタ)アクリレート化合物(2)と、を反応させる際には、(メタ)アクリレート化合物(2)同士の重合反応を抑制する点から、重合禁止剤を用いてもよい。重合禁止剤としては、特に限定されず、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ヒドロキノン(HQ)、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)、フェノチアジン(PTZ)等が挙げられる。
【0071】
重合禁止剤の使用量としては、チオール化合物(1)と、(メタ)アクリレート化合物(2)との合計100質量%に対して、0.001質量%~0.5質量%であってもよく、0.002質量%~0.3質量%であってもよく、0.005質量%~0.3質量%であってもよく、0.005質量%~0.1質量%であってもよく、0.01質量%~0.1質量%であってもよい。
【0072】
本開示のモノマー組成物は、前述の(メタ)アクリレート(A)と、(メタ)アクリレート(A)以外の(メタ)アクリレートである(メタ)アクリレート(B)と、を含んでいてもよい。(メタ)アクリレート(B)は、通常重合可能なモノマーである。また、(メタ)アクリレート(B)は、(メタ)アクリレート(A)と組み合わせて用いる主成分モノマーであってもよい。例えば、(メタ)アクリレート(A)を希釈モノマーとして用いる場合、本開示のモノマー組成物では、主成分モノマーの機能低下を抑制可能である。
【0073】
(メタ)アクリレート(B)としては、例えば、(メタ)アクリレート(A)を希釈モノマーとして用いる場合、歯科材料用組成物の主成分モノマーとして用いられる化合物を使用でき、そのような主成分モノマーは特に限定されない。(メタ)アクリレート(B)としては、前述のチオール基を3つ以上有するチオール化合物(1)と、イソ(チオ)シアネート基を2つ以上有するイソ(チオ)シアネート化合物(3)と、(メタ)アクリロイルオキシ基を有し、かつヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート化合物(4)との反応物であってもよい。
【0074】
イソシアネート化合物(3)としては、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアナトメチルエステル、リジントリイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)ナフタリン、メシチリレントリイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)スルフィド、ビス(イソシアナトエチル)スルフィド、ビス(イソシアナトメチル)ジスルフィド、ビス(イソシアナトエチル)ジスルフィド、ビス(イソシアナトメチルチオ)メタン、ビス(イソシアナトエチルチオ)メタン、ビス(イソシアナトエチルチオ)エタン、ビス(イソシアナトメチルチオ)エタン等の脂肪族ポリイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジメチルメタンイソシアネート、2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、3,8-ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、3,9-ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,8-ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,9-ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン等の脂環族ポリイソシアネート化合物;フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルスルフィド-4,4-ジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート化合物;2,5-ジイソシアナトチオフェン、2,5-ビス(イソシアナトメチル)チオフェン、2,5-ジイソシアナトテトラヒドロチオフェン、2,5-ビス(イソシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、3,4-ビス(イソシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、2,5-ジイソシアナト-1,4-ジチアン、2,5-ビス(イソシアナトメチル)-1,4-ジチアン、4,5-ジイソシアナト-1,3-ジチオラン、4,5-ビス(イソシアナトメチル)-1,3-ジチオラン等の複素環ポリイソシアネート化合物;などが挙げられる。
【0075】
イソチオシアネート化合物(3)としては、例えば、ヘキサメチレンジイソチオシアネート、リジンジイソチオシアネートメチルエステル、リジントリイソチオシアネート、m-キシリレンジイソチオシアネート、ビス(イソチオシアナトメチル)スルフィド、ビス(イソチオシアナトエチル)スルフィド、ビス(イソチオシアナトエチル)ジスルフィド等の脂肪族ポリイソチオシアネート化合物;イソホロンジイソチオシアネート、ビス(イソチオシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソチオシアネート、シクロヘキサンジイソチオシアネート、メチルシクロヘキサンジイソチオシアネート、2,5-ビス(イソチオシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、2,6-ビス(イソチオシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、3,8-ビス(イソチオシアナトメチル)トリシクロデカン、3,9-ビス(イソチオシアナトメチル)トリシクロデカン、4,8-ビス(イソチオシアナトメチル)トリシクロデカン、4,9-ビス(イソチオシアナトメチル)トリシクロデカン等の脂環族ポリイソチオシアネート化合物;トリレンジイソチオシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソチオシアネート、ジフェニルジスルフィド-4,4-ジイソチオシアネート等の芳香族ポリイソチオシアネート化合物;2,5-ジイソチオシアナトチオフェン、2,5-ビス(イソチオシアナトメチル)チオフェン、2,5-イソチオシアナトテトラヒドロチオフェン、2,5-ビス(イソチオシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、3,4-ビス(イソチオシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、2,5-ジイソチオシアナト-1,4-ジチアン、2,5-ビス(イソチオシアナトメチル)-1,4-ジチアン、4,5-ジイソチオシアナト-1,3-ジチオラン、4,5-ビス(イソチオシアナトメチル)-1,3-ジチオラン等の含硫複素環ポリイソチオシアネート化合物;などが挙げられる。
【0076】
(メタ)アクリレート化合物(4)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0077】
((メタ)アクリレート(A)の製造方法2)
以下、本開示の(メタ)アクリレート(A)の製造方法2について説明する。本開示の(メタ)アクリレート(A)の製造方法2は、前述のチオール化合物(1)と、前述の(メタ)アクリレート化合物(2)と、アルキルホスフィン化合物(5)と、を含む組成物を準備する工程と、前記チオール化合物(1)と、前記(メタ)アクリレート化合物(2)と、を反応させてスルフィド結合を有する(メタ)アクリレート(A)を製造する工程と、を含む。本開示の(メタ)アクリレートの製造方法2では、特定の触媒(アルキルホスフィン化合物(5))を用いてチオール化合物(1)及び(メタ)アクリレート化合物(2)を反応させている。なお、(メタ)アクリレート(A)の製造方法1と共通する事項についてはその説明を省略する。
【0078】
本開示の(メタ)アクリレートの製造方法2における前述の組成物を準備する工程では、容器内にチオール化合物(1)、(メタ)アクリレート化合物(2)及びアルキルホスフィン化合物(5)を添加し、これらを混合することにより前述の組成物を準備してもよい。
【0079】
(アルキルホスフィン化合物(5))
アルキルホスフィン化合物(5)は、チオール化合物(1)に含まれるチオール基と、(メタ)アクリレート化合物(2)に含まれる(メタ)アクリロイルオキシ基との反応における触媒として機能する。
【0080】
アルキルホスフィン化合物(5)としては、アルキル基を1つ以上有する化合物であれば限定されず、ゲル化を抑制し、かつ反応が好適に進行する点から、前述のトリアルキルホスフィン化合物が好ましい。アルキルホスフィン化合物(5)は、1種単独で用いても、2種以上を用いてもよい。
【0081】
アルキルホスフィン化合物(5)の含有量は、組成物100質量部に対して0.2質量部以下が好ましい。アルキルホスフィン化合物(5)の含有量は、使用量を削減しつつ、反応を効率的に行う点から、0.01質量部~0.2質量部が好ましく、0.03質量部~0.15質量部がより好ましく、0.05質量部~0.1質量部がさらに好ましい。なお、アルキルホスフィン化合物(5)は反応の開始までに組成物中に全量投入してもよく、必要に応じて逐次又は分割して反応系に投入してもよい。逐次又は分割して反応系に投入する場合、前述のアルキルホスフィン化合物(5)の含有量は、アルキルホスフィン化合物(5)全量を反応系に投入した後の組成物中の含有量を指す。
【0082】
本開示の(メタ)アクリレートの製造方法2は、チオール化合物(1)と、(メタ)アクリレート化合物(2)と、を反応させてスルフィド結合を有する(メタ)アクリレート(A)を製造する工程を含む。以下、反応条件について説明する。
【0083】
反応温度としては、特に制限はなく、ゲル化の抑制及び副生成物の発生を抑制する点から、80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましく、55℃以下がさらに好ましく、50℃以下が特に好ましい。また、反応温度としては、反応時間を短縮する点から、0℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましく、35℃以上が特に好ましい。
【0084】
((メタ)アクリレート(B)の製造方法)
(メタ)アクリレート(B)は、チオール化合物(1)、イソ(チオ)シアネート化合物(3)、及び(メタ)アクリレート化合物(4)を反応させることにより得られ、この反応は、公知又は公知に準ずる方法により行うことができる。
【0085】
チオール化合物(1)、イソ(チオ)シアネート化合物(3)、及び(メタ)アクリレート化合物(4)を反応させる際には、前述した触媒、重合禁止剤等を用いてもよい。
【0086】
反応温度としては、特に制限はなく、反応時間を短縮し、かつ副生成物の発生を抑制する点から、0℃~120℃が好ましく、20℃~100℃がより好ましく、50℃~90℃がさらに好ましい。
【0087】
チオール化合物(1)、イソ(チオ)シアネート化合物(3)、及び(メタ)アクリレート化合物(4)を反応させる際には、チオール化合物(1)のチオール基のモル数と、イソ(チオ)シアネート化合物(3)のイソ(チオ)シアネート基のモル数との比(チオール基のモル数/イソ(チオ)シアネート基のモル数)は、0.01~0.20が好ましく、0.01~0.18がより好ましい。
【0088】
また、チオール化合物(1)のチオール基のモル数及び(メタ)アクリレート化合物(4)の活性水素基のモル数の合計モル数と、イソ(チオ)シアネート化合物(3)のイソ(チオ)シアネート基のモル数との比(合計モル数/イソ(チオ)シアネート基のモル数)は、0.70~1.30が好ましく、0.70~1.20がより好ましく、0.90~1.10がさらに好ましい。
【0089】
前記モル数の比を満たすことにより、耐熱性、耐溶剤性及び耐衝撃性に優れた硬化物を得ることが可能な(メタ)アクリレート(B)をより好適に得ることができる。また、このような(メタ)アクリレート(B)を含むモノマー組成物は、歯科材料用組成物として好適である。
【0090】
また、(メタ)アクリレート(B)としては、一例として、下記一般式(A)で表される化合物が挙げられる。
【0091】
【0092】
一般式(A)中、R1は、2官能~4官能のチオール化合物から全てのチオール基を除いた残基であり、R2は、イソ(チオ)シアネート化合物から2つのイソ(チオ)シアネート基を除いた残基であり、R3は、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートから(メタ)アクリロイルオキシ基及びヒドロキシ基を除いた残基であり、R4は水素原子又はメチル基である。Xは酸素原子又は硫黄原子である。nは2~4のいずれかの整数であり、好ましくは、3又は4である。複数存在するR2~R4はそれぞれ、同一であってもよく、異なっていてもよい。2官能~4官能のチオール化合物としては、前述のチオール化合物(1)であってもよく、イソ(チオ)シアネート化合物としては、前述のイソ(チオ)シアネート化合物(3)であってもよく、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートとしては、前述の(メタ)アクリレート化合物(4)であってもよい。
【0093】
一般式(A)中、R1は前述の一般式(1)中のR1の好ましい構成と同様であり、R4は前述の一般式(1)中のR2の好ましい構成と同様である。複数存在するXは、いずれも酸素原子又は硫黄原子であることが好ましい。
【0094】
本開示のモノマー組成物では、(メタ)アクリレート(B)を含む場合、(メタ)アクリレート(A)の含有率は、モノマー組成物の取り扱い性を向上させる点、及び主成分モノマーの機能低下を抑制する点から、モノマー組成物全量に対して、5質量%以上50質量%未満が好ましく、10質量%~40質量%がより好ましく、15質量%~30質量%がさらに好ましい。
【0095】
本開示のモノマー組成物では、(メタ)アクリレート(B)を含む場合、(メタ)アクリレート(B)の含有率は、モノマー組成物の取り扱い性を向上させる点、及び主成分モノマーの機能低下を抑制する点から、モノマー組成物全量に対して、50質量%を超えて95質量%以下が好ましく、60質量%~90質量%がより好ましく、70質量%~85質量%がさらに好ましい。
【0096】
(モノマー組成物の製造方法)
本開示のモノマー組成物の製造方法は、本開示の(メタ)アクリレートの製造方法により(メタ)アクリレート(A)を得る工程と、(メタ)アクリレート(A)と、(メタ)アクリレート(A)以外の(メタ)アクリレートである(メタ)アクリレート(B)と、を混合してモノマー組成物を製造する工程と、を含む。
【0097】
(歯科材料用モノマー組成物の変形例)
本開示の歯科材料用モノマー組成物は、スルフィド結合及びエステル結合を有する(メタ)アクリレート(A)を含んでいてもよく、下記一般式(B)で表される構造を有していてもよい。
【0098】
【0099】
一般式(B)中、R2は、水素原子又はメチル基を表す。
【0100】
[成形体]
本開示の成形体は、本開示の歯科材料用モノマー組成物の硬化物である。例えば、(メタ)アクリレート(A)と、一般式(A)で表される化合物である(メタ)アクリレート(B)とを含むモノマー組成物を硬化させることにより、耐熱性、耐溶剤性及び耐衝撃性に優れた硬化物を得ることができる。
【0101】
[歯科材料用組成物]
本開示の歯科材料用組成物は、本開示の歯科材料用モノマー組成物、重合開始剤、及びフィラーを含む。この歯科材料用組成物は、常温重合性、熱重合性、又は光重合性を有し、例えば歯科修復材料として好ましく使用することができる。
【0102】
モノマー組成物の配合量は、歯科材料用組成物100質量%に対して、20質量%~80質量%が好ましく、20質量%~50質量%がより好ましい。
【0103】
重合開始剤としては、歯科分野で用いられる一般的な重合開始剤を使用することができ、通常、歯科材料用組成物に含まれる(メタ)アクリレート(A)、(メタ)アクリレート(B)等の重合性化合物の重合性と重合条件を考慮して選択される。
【0104】
常温重合を行う場合には、重合開始剤としては、例えば、酸化剤及び還元剤を組み合わせたレドックス系の重合開始剤が好ましい。レドックス系の重合開始剤を使用する場合、酸化剤と還元剤が別々に包装された形態をとり、使用する直前に両者を混合すればよい。
【0105】
酸化剤としては、特に限定されず、例えば、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類等の有機過酸化物が挙げられる。上記有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t-ブチルパーオキシベンゾエート、ビス-t-ブチルパーオキシイソフタレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシエステル類;ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類;1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等のパーオキシケタール類;メチルエチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類などが挙げられる。
【0106】
また、還元剤としては、特に限定されず、通常第三級アミンが用いられる。第三級アミンとしては、例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-i-プロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-i-プロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-i-プロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸n-ブトキシエチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(2-メタクリロイルオキシ)エチル、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、(2-ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N,N-ビス(メタクリロイルオキシエチル)-N-メチルアミン、N,N-ビス(メタクリロイルオキシエチル)-N-エチルアミン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-メタクリロイルオキシエチルアミン、N,N-ビス(メタクリロイルオキシエチル)-N-(2-ヒドロキシエチル)アミン、トリス(メタアクリロイルオキシエチル)アミンなどが挙げられる。
【0107】
これら有機過酸化物/アミン系の他には、クメンヒドロパーオキサイド/チオ尿素系、アスコルビン酸/Cu2+塩系、有機過酸化物/アミン/スルフィン酸(又はその塩)系等のレドックス系重合開始剤を用いることができる。また、重合開始剤として、トリブチルボラン、有機スルフィン酸等も好適に用いられる。
【0108】
加熱による熱重合を行う場合には、過酸化物、アゾ系化合物等の重合開始剤が好ましい。
過酸化物としては特に限定されず、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド等が挙げられる。アゾ系化合物としては特に限定されず、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0109】
可視光線照射による光重合を行う場合には、α-ジケトン/第3級アミン、α-ジケトン/アルデヒド、α-ジケトン/メルカプタン等のレドックス系開始剤が好ましい。
光重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、α-ジケトン/還元剤、ケタール/還元剤、チオキサントン/還元剤等が挙げられる。α-ジケトンとしては、例えば、カンファーキノン、ベンジル、2,3-ペンタンジオン等が挙げられる。ケタールとしては、例えば、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等が挙げられる。チオキサントンとしては、例えば、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン等が挙げられる。還元剤としては、例えば、ミヒラ-ケトン等、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N,N-ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエチル〕-N-メチルアミン、N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸ブチル、4-ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチル、N-メチルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノベンゾフェノン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、ジメチルアミノフェナントール等の第三級アミン;シトロネラール、ラウリルアルデヒド、フタルジアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒド等のアルデヒド類;2-メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、4-メルカプトアセトフェノン、チオサリチル酸、チオ安息香酸等のチオール基を有する化合物;などを挙げることができる。これらのレドックス系に有機過酸化物を添加したα-ジケトン/有機過酸化物/還元剤等の系も好適に用いられる。
【0110】
紫外線照射による光重合を行う場合には、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジルジメチルケタール等の光重合開始剤が好ましい。また、(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類の光重合開始剤も好適に用いられる。
【0111】
(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類のうち、アシルフォスフィンオキサイド類としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ-(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート等が挙げられる。ビスアシルフォスフィンオキサイド類としては、例えば、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これら(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類の光重合開始剤は、単独で使用、又は各種アミン類、アルデヒド類、メルカプタン類、スルフィン酸塩等の還元剤と併用してもよい。これら(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類の光重合開始剤は、上記可視光線の光重合開始剤とも併用してもよい。
【0112】
上記重合開始剤は1種単独で用いても、2種以上を用いてもよい。重合開始剤の配合量は、歯科材料用組成物100質量%に対して、0.01質量%~20質量%が好ましく、0.1質量%~5質量%がより好ましい。
【0113】
フィラーは、歯科分野で用いられる一般的なフィラーを使用することができる。フィラーは、通常、有機フィラーと無機フィラーに大別される。
有機フィラーとしては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体等の微粉末が挙げられる。
【0114】
無機フィラーとしては、例えば、各種ガラス類(二酸化珪素を主成分とし、必要に応じ、重金属、ホウ素、アルミニウム等の酸化物を含有する)、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイトなどの微粉末が挙げられる。このような無機フィラーの具体例としては、例えば、バリウムボロシリケートガラス(キンブルレイソーブT3000、ショット8235、ショットGM27884、ショットGM39923等)、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス(レイソーブT4000、ショットG018-093、ショットGM32087等)、ランタンガラス(ショットGM31684等)、フルオロアルミノシリケートガラス(ショットG018-091、ショットG018-117等)、ジルコニウム、セシウム等を含むボロアルミノシリケートガラス(ショットG018-307、G018-308、G018-310等)が挙げられる。
【0115】
また、無機フィラーに重合性化合物を予め添加し、ペースト状にした後、重合硬化させ、粉砕して得られる有機無機複合フィラーを用いてもよい。
また、歯科材料用組成物において、粒径が0.1μm以下のミクロフィラーが配合された組成物は、歯科用コンポジットレジンに好適な態様の一つである。かかる粒径の小さなフィラーの材質としては、シリカ(例えば、商品名アエロジル)、アルミナ、ジルコニア、チタニア等が好ましい。このような粒径の小さい無機フィラーの配合は、コンポジットレジンの硬化物の研磨滑沢性を得る上で有利である。
【0116】
これらのフィラーは、目的に応じて、シランカップリング剤等の表面処理剤により表面処理が施されていてもよい。表面処理剤としては、公知のシランカップリング剤、例えば、メタクリルオキシアルキルトリメトキシシラン(メタクリルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12)、メタクリルオキシアルキルトリエトキシシラン(メタクリルオキシ基と珪素原子との間の炭素数:3~12)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等の有機珪素化合物が使用される。表面処理剤の量は、表面処理前のフィラー100質量%に対して、0.1質量%~20質量%が好ましく、1質量%~10質量%がより好ましい。
【0117】
これらのフィラーは1種単独で用いても、2種以上を用いてもよい。フィラーの配合量は、歯科材料用組成物(例えばコンポジットレジンペースト)の操作性(粘稠度)、その硬化物の機械的物性等を考慮して適宜決定すればよく、歯科材料用組成物中に含まれるフィラー以外の全成分100質量部に対して、10質量部~2000質量部が好ましく、50質量部~1000質量部がより好ましく、100質量部~600質量部がさらに好ましい。
【0118】
本開示の歯科材料用組成物は、本開示のモノマー組成物、重合開始剤、及びフィラー以外の成分を、目的に応じて適宜含んでもよい。例えば、保存安定性を向上させるための前述した重合禁止剤を含んでもよい。また、色調を調整するために、公知の顔料、染料等の色素を含んでいてもよい。さらに、硬化物の強度を向上させるために、公知のファイバー等の補強材を含んでもよい。また、本開示の歯科材料用組成物は、殺菌剤、消毒剤、安定化剤、保存剤などの添加剤を本発明の効果を奏する限り必要に応じて含有してもよい。
【0119】
本開示の歯科材料用組成物は、前述の重合開始剤の重合方式にて適切な条件で硬化することができる。例えば、可視光照射による光重合開始剤を含有している本開示の歯科材料用組成物の場合は、歯科材料用組成物を所定の形状に加工したのち、公知の光照射装置を用いて所定の時間可視光を照射することにより、所望の硬化物を得ることができる。照射強度、照射強度等の条件は、歯科材料用組成物の硬化性に合わせて適切に変更することができる。また、可視光をはじめとした、光照射により硬化した硬化物を、さらに適切な条件で熱処理をすることにより、硬化物の機械的物性を向上させてもよい。
【0120】
以上のようにして得られる本開示の歯科材料用組成物の硬化物は、歯科材料として好適に用いることができる。
本開示の歯科材料用組成物の使用方法は、歯科材料の使用法として一般に知られているものであれば、特に制限されない。例えば、本開示の歯科材料用組成物を齲蝕窩洞充填用コンポジットレジンとして使用する場合は、口腔内の窩洞に歯科材料用組成物を充填した後、公知の光照射装置を用いて光硬化させることにより、目的を達成できる。また、歯冠用コンポジットレジンとして使用する場合は、歯科材料用組成物を適切な形状に加工した後、公知の光照射装置を用いて光硬化させ、さらに所定の条件で熱処理を行うことで、所望の歯冠材料を得ることができる。
【0121】
本開示の歯科材料用組成物及び歯科材料は、例えば、歯科修復材料、義歯床用レジン、義歯床用裏装材、印象材、合着用材料(レジンセメント、レジン添加型グラスアイオノマーセメント等)、歯科用接着材(歯列矯正用接着材、窩洞塗布用接着材等)、歯牙裂溝封鎖材、CAD/CAM用レジンブロック、テンポラリークラウン、人工歯材料等として好ましく使用することができる。また、歯科修復材料を適用範囲別に分類すると、歯冠用コンポジットレジン、齲蝕窩洞充填用コンポジットレジン、支台築造用コンポジットレジン、充填修復用コンポジットレジン等に分類できる。
【0122】
(歯科材料用組成物の製造方法)
本開示の歯科材料用組成物の製造方法は、本開示の(メタ)アクリレートの製造方法により(メタ)アクリレート(A)を得る工程と、(メタ)アクリレート(A)と、(メタ)アクリレート(B)と、重合開始剤と、フィラーと、を混合して歯科材料用組成物を製造する工程と、を含む。得られた歯科材料用組成物は、常温重合性、熱重合性、又は光重合性を有し、例えば歯科修復材料として好ましく使用することができる。また、本開示の歯科材料用組成物の製造方法は、本開示のモノマー組成物の製造方法によりモノマー組成物を得る工程と、モノマー組成物と、重合開始剤と、フィラーと、を混合して歯科材料用組成物を製造する工程と、を含んでいてもよい。
【0123】
[歯科材料]
本開示の歯科材料は、本開示の歯科材料用組成物の硬化物である。歯科材料用組成物の硬化条件としては、歯科材料用組成物の組成、歯科材料の用途等に応じて適宜定めればよい。
【0124】
(歯科材料の製造方法)
本開示の歯科材料の製造方法は、本開示の歯科材料用組成物の製造方法により歯科材料用組成物を得る工程と、歯科材料用組成物を硬化させて歯科材料を製造する工程と、を含む。硬化条件は、歯科材料用組成物の組成、歯科材料の用途等によって適宜定めればよい。
【実施例】
【0125】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0126】
本発明の実施例にて使用した化合物の略号を以下に示す。
NPG:ネオペンチルジメタクリレート
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
HPA:2-ヒドロキプロピルアクリレート
XDI:m-キシリレンジイソシアネート
THIOL1:4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン
THIOL2:5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンとの混合物
THIOL3:ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)
THIOL4:トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)
THIOL5:トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート
TBP:トリブチルホスフィン
TPP:トリフェニルホスフィン
DBTDL:ジブチルスズジラウレート
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
TUA:チオウレタンアクリレート
CQ:カンファーキノン
DMAB2-BE:4-(ジメチルアミノ)安息香酸2-ブトキシエチル
【0127】
[IRスペクトルの測定方法]
各実施例で得られた(メタ)アクリレートのIRスペクトルを、株式会社パーキンエルマージャパン製、フーリエ変換赤外分光分析装置、Spectrum Two/UATR (Universal Attenuated Total Reflectance)を用いて測定した。
各実施例で得られた(メタ)アクリレートを20℃にて24時間静置した後、(メタ)アクリレートについて20℃で赤外線吸収スペクトルの測定を行った。
【0128】
[曲げ試験の方法]
本発明の実施例及び比較例における曲げ試験の方法を、以下に示す。
【0129】
(曲げ試験用試験片の作製)
各実施例及び比較例で得たモノマー組成物 10質量部に対して、CQ 0.05質量部、DMAB2-BE 0.05質量部を添加し、均一になるまで室温で撹拌してさらに、シリカガラス(Fuselex-X(株式会社龍森))15質量部を配合し、乳鉢を用いて均一になるまで撹拌したのち、脱泡を行うことで歯科材料用組成物を調製した。得られた歯科材料用組成物を、2mm×2mm×25mmのステンレス製型に入れ、可視光照射装置(松風社製 ソリディライトV)を用いて、片面3分間ずつ両面合わせて6分間光照射した。さらに型より取りだした試験片を、オーブン中において130℃、2時間の条件で熱処理した。オーブンより取り出した試験片を室温まで冷却したのち、密閉できるサンプル瓶中で試験片を蒸留水に浸漬して、37℃で24時間保持したものを試験片(曲げ試験用試験片)として使用した。
【0130】
(曲げ試験)
上記方法で作製した試験片を、試験機(島津製作所製 オートグラフEZ-S)を使用して、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分で三点曲げ試験を行った。
【0131】
[粘度の測定方法]
実施例及び比較例におけるチオウレタンアクリレート及び(メタ)アクリレートの粘度は、E型粘度計(東機産業製TVE-22H)を用い測定した。温度は循環式恒温水槽を用いて、65℃又は25℃にコントロールした。
【0132】
[屈折率の測定方法]
本発明の実施例及び比較例における(メタ)アクリレートの屈折率は、アッベ式フルデジタル屈折率計(Anton Paar社製Abbemat550)を用い測定した。温度は25℃にコントロールした。
【0133】
[チオウレタンアクリレートの製造法]
十分に乾燥させた撹拌羽根、及び温度計を備えた100mLの4ツ口フラスコ内に、DBTDL 0.1質量部、BHT 0.05質量部、XDI 21.35質量部、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンとの混合物(後述する表1中のT4) 2.09質量部を装入し、溶解させて均一溶液とした後、80℃で4時間反応させて中間体を含む溶液を得た。この溶液を、90℃まで昇温し、さらにHPA 26.56質量部を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、90℃以下となるように滴下量をコントロールした。HPAを全量滴下した後、反応温度を90℃に保って、10時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、チオウレタンアクリレート(TUA)50gを得た。65℃における粘度は1790mPa・sであった。25℃における屈折率は1.5271であった。
【0134】
[実施例1A]
十分に乾燥させた撹拌羽根、及び温度計を備えた100mLの4ツ口フラスコ内に、TBP 0.04質量部、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート(表1中のT1) 10.0質量部、NPG(表1中のM1) 45.0質量部を装入し、溶解させて均一溶液とした後、40℃まで昇温した。昇温後、反応温度を40℃に保って、3時間反応を行った。この際、IR分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、エンチオールメタクリレート(A-1)50gを得た。25℃における粘度は29mPa・sであった。25℃における屈折率は1.4639であった。エンチオールメタクリレート(A-1)のIRスペクトルを
図1に示す。得られたエンチオールメタクリレート(A-1)3.0質量部と、TUA 12.0質量部とを容器に入れ、均一になるまで50℃で撹拌して、モノマー組成物(1)を得た。得られたモノマー組成物(1)から(曲げ試験用試験片の作製)及び(曲げ試験)の項に記載の方法に従い歯科材料用組成物(1)及び試験片(曲げ試験用試験片)を得て、曲げ試験を実施したところ、弾性率9300MPa、破断強度216MPa、破断エネルギー36mJであった。
【0135】
[実施例2A~48A]
チオール化合物及び(メタ)アクリレート化合物を、表1~表4に示す化合物に変更し、かつ表1~表4に示す質量部装入したこと以外は実施例1Aと同様にしてエンチオールメタクリレート(A-2)~(A-48)50gを得た。25℃における粘度、及び25℃における屈折率は、表1~表4に示すとおりである。エンチオールメタクリレート(A-2)~(A-48)のIRスペクトルを
図2~
図48にそれぞれ示す。また、エンチオールメタクリレート(A-1)からエンチオールメタクリレート(A-2)~(A-48)にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1Aと同様にしてモノマー組成物(2)~(48)をそれぞれ得た。そして、得られたモノマー組成物(2)~(48)から(曲げ試験用試験片の作製)及び(曲げ試験)の項に記載の方法に従い歯科材料用組成物(2)~(48)及び試験片(曲げ試験用試験片)を得て、曲げ試験を行った。弾性率、破断強度及び破断エネルギーを表1~表4に示す。
【0136】
[実施例49A]
十分に乾燥させた撹拌羽根、及び温度計を備えた100mLの4ツ口フラスコ内に、TBP 0.04質量部、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート(表5中のT2)2.5質量部、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン(表5中のT3)2.5質量部、NPG(表5中のM1)45質量部を装入し、溶解させて均一溶液とした後、40℃まで昇温した。昇温後、反応温度を40℃に保って、3時間反応を行った。この際、IR分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、エンチオールメタクリレート(A-49)50gを得た。25℃における粘度は28mPa・sであった。25℃における屈折率は1.4682であった。エンチオールメタクリレート(A-49)のIRスペクトルを
図49に示す。得られたエンチオールメタクリレート(A-49)3.0質量部と、TUA 12.0質量部とを容器に入れ、均一になるまで50℃で撹拌して、モノマー組成物(49)を得た。得られたモノマー組成物(49)から(曲げ試験用試験片の作製)及び(曲げ試験)の項に記載の方法に従い歯科材料用組成物(49)及び試験片(曲げ試験用試験片)を得て、曲げ試験を実施したところ、弾性率11370MPa、破断強度221MPa、破断エネルギー21mJであった。その結果を表5に示す。
【0137】
[実施例50A]
十分に乾燥させた撹拌羽根、及び温度計を備えた100mLの4ツ口フラスコ内に、TBP 0.04質量部、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)(表6中のT2) 5.0質量部、NPG(表6中のM1)22.5質量部、3G(表6中のM2)22.5質量部を装入し、溶解させて均一溶液とした後、40℃まで昇温した。昇温後、反応温度を40℃に保って、3時間反応を行った。この際、IR分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、エンチオールメタクリレート(A-50)50gを得た。25℃における粘度は144mPa・sであった。25℃における屈折率は1.4762であった。エンチオールメタクリレート(A-50)のIRスペクトルを
図50に示す。得られたエンチオールメタクリレート(A-50)3.0質量部と、TUA 12.0質量部とを容器に入れ、均一になるまで50℃で撹拌して、モノマー組成物(50)を得た。得られたモノマー組成物(50)から(曲げ試験用試験片の作製)及び(曲げ試験)の項に記載の方法に従い歯科材料用組成物(50)及び試験片(曲げ試験用試験片)を得て、曲げ試験を実施したところ、弾性率7910MPa、破断強度228MPa、破断エネルギー61mJであった。その結果を表6に示す。
【0138】
[比較例1A]
NPG 3.0質量部とTUA 12.0質量部とを容器に入れ、均一になるまで50℃で撹拌して、モノマー組成物(51)を得た。得られたモノマー組成物(51)から(曲げ試験用試験片の作製)及び(曲げ試験)の項に記載の方法に従い歯科材料用組成物(51)及び試験片(曲げ試験用試験片)を得て、曲げ試験を実施したところ、弾性率9350GPa、破断強度178MPa、破断エネルギー19mJであった。また、25℃におけるNPGの粘度は6mPa・sであった。その結果を表1、表3及び表5に示す。
【0139】
[比較例2A]
3G 3.0質量部とTUA 12.0質量部とを容器に入れ、均一になるまで50℃で撹拌して、モノマー組成物(52)を得た。得られたモノマー組成物(52)から(曲げ試験用試験片の作製)及び(曲げ試験)の項に記載の方法に従い歯科材料用組成物(52)及び試験片(曲げ試験用試験片)を得て、曲げ試験を実施したところ、弾性率8810MPa、破断強度200MPa、破断エネルギー32mJであった。また、25℃における3Gの粘度は9mPa・sであった。その結果を表2及び表4に示す。
【0140】
[比較例3A]
NPG 1.5質量部、3G 1.5質量部、TUA 12.0質量部を容器に入れ、均一になるまで50℃で撹拌して、モノマー組成物(53)を得た。得られたモノマー組成物(53)から(曲げ試験用試験片の作製)及び(曲げ試験)の項に記載の方法に従い歯科材料用組成物(53)及び試験片(曲げ試験用試験片)を得て、曲げ試験を実施したところ、弾性率7900GPa、破断強度197MPa、破断エネルギー33mJであった。また、25℃におけるNPG 1.5質量部と3G 1.5質量部の混合物の粘度は7mPa・sであった。その結果を表6に示す。
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
なお、表1~6中のT1~T10、M1及びM2は以下の通りである。
T1:ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)
T2:トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)
T3:4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン
T4:5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンとの混合物
T5:トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート
T6:3,7-ジチア-1,9-ノナンジチオール
T7:3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール
T8:1,4-ブタンジオールビス(チオグリコラート)
T9:1,8-オクタンジチオール
T10:1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン
T11:ビス(3-メルカプトプロピオン酸)エチレングリコール
M1:ネオペンチルジメタクリレート
M2:トリエチレングリコールジメタクリレート
また、表1~表6中、「pbw」は質量部を意味し、M/Tは、thiol(チオール)/methacrylate(メタアクリレート)を意味する。
【0148】
表1~表6に示すように、実施例1A~50Aのモノマー組成物は、比較例1A~3Aのモノマー組成物と比較して成形体としたときの破断強度及び破断エネルギーに優れ、すなわち靭性に優れていた。より具体的には、主成分モノマーであるチオウレタンアクリレートモノマーと希釈モノマーであるエンチオールメタクリレートとを組み合わせたモノマー組成物では、希釈モノマーによる主成分モノマーの機能低下を抑制しつつ、取り扱い性に優れることが分かった。
【0149】
より詳細には、表1及び表3に示すように、M1を使用した点で共通している、実施例1A~3A、7A~9A、13A~15A、19A~21A、25A~27A及び31A~42Aのモノマー組成物及び比較例1Aのモノマー組成物を比較すると、各実施例では、成形体としたときの破断強度及び破断エネルギーの少なくとも一方に優れる。
また、表2及び表4に示すように、M2を使用した点で共通している、実施例4A~6A、10A~12A、16A~18A、22A~24A、28A~30A及び43A~48Aのモノマー組成物及び比較例2Aのモノマー組成物を比較すると、各実施例では、成形体としたときの破断強度及び破断エネルギーの少なくとも一方に優れる。
また、表5及び表6に示すように、チオール化合物又は(メタ)アクリレート化合物を2種類用いた実施例49A及び50Aのモノマー組成物は、比較例1A及び3Aのモノマー組成物をそれぞれ比較すると、成形体としたときの破断強度及び破断エネルギーの少なくとも一方に優れる。
【0150】
[実施例1B]
十分に乾燥させた撹拌羽根、及び温度計を備えた100mLの4ツ口フラスコ内に、TBP 0.04質量部、THIOL1 7.5質量部、3G 42.5質量部を装入し、溶解させて均一溶液とした後、40℃まで昇温した。昇温後、反応温度を40℃に保って、3時間反応を行った。この際、IR分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、エンチオールメタクリレート(A-1)50gを得た。25℃における粘度は140mPa・sであった。25℃における屈折率は1.4917であった。得られたエンチオールメタクリレート(A-1)3.0質量部と、TUA 12.0質量部とを容器に入れ、均一になるまで50℃で撹拌して、モノマー組成物(1)を得た。得られたモノマー組成物(1)から(曲げ試験用試験片の作製)及び(曲げ試験)の項に記載の方法に従い歯科材料用組成物(1)及び試験片(曲げ試験用試験片)を得て、曲げ試験を実施したところ、弾性率9210MPa、破断強度220MPa、破断エネルギー42mJであった。
【0151】
[実施例2B]
反応時間を3時間から6時間に変更した以外は実施例1Bと同様の手法でエンチオールメタクリレート(A-2)50gを得た。25℃における粘度は150mPa・sであった。25℃における屈折率は1.4917であった。得られたエンチオールメタクリレート(A-2)3.0質量部と、TUA 12.0質量部とを容器に入れ、均一になるまで50℃で撹拌して、モノマー組成物(2)を得た。得られたモノマー組成物(2)から(曲げ試験用試験片の作製)及び(曲げ試験)の項に記載の方法に従い歯科材料用組成物(2)及び試験片(曲げ試験用試験片)を得て、曲げ試験を実施したところ、弾性率9240MPa、破断強度218MPa、破断エネルギー41mJであった。
【0152】
[実施例3B]
反応温度を40℃から50℃に変更した以外は実施例1Bと同様の手法でエンチオールメタクリレート(A-3)50gを得た。25℃における粘度は300mPa・sであった。25℃における屈折率は1.4917であった。得られたエンチオールメタクリレート(A-3)3.0質量部と、TUA 12.0質量部とを容器に入れ、均一になるまで50℃で撹拌して、モノマー組成物(3)を得た。得られたモノマー組成物(3)から(曲げ試験用試験片の作製)及び(曲げ試験)の項に記載の方法に従い歯科材料用組成物(3)及び試験片(曲げ試験用試験片)を得て、曲げ試験を実施したところ、弾性率9200MPa、破断強度221MPa、破断エネルギー42mJであった。
【0153】
[実施例4B]
反応温度を40℃から55℃に変更した以外は実施例1Bと同様の手法でエンチオールメタクリレート(A-4)50gを得た。25℃における粘度は600mPa・sであった。25℃における屈折率は1.4917であった。得られたエンチオールメタクリレート(A-4)3.0質量部と、TUA 12.0質量部とを容器に入れ、均一になるまで50℃で撹拌して、モノマー組成物(4)を得た。得られたモノマー組成物(4)から(曲げ試験用試験片の作製)及び(曲げ試験)の項に記載の方法に従い歯科材料用組成物(4)及び試験片(曲げ試験用試験片)を得て、曲げ試験を実施したところ、弾性率9160MPa、破断強度215MPa、破断エネルギー40mJであった。
【0154】
[実施例5B~13B]
チオール化合物及び(メタ)アクリレート化合物を、表7に示す化合物に変更したこと以外は実施例1Bと同様にしてエンチオールメタクリレート(A-5)~(A-13)50gを得た。25℃における粘度、及び25℃における屈折率は、表7に示すとおりである。また、エンチオールメタクリレート(A-1)からエンチオールメタクリレート(A-5)~(A-13)にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1Bと同様にしてモノマー組成物(5)~(13)をそれぞれ得た。そして、得られたモノマー組成物(5)~(13)から(曲げ試験用試験片の作製)及び(曲げ試験)の項に記載の方法に従い歯科材料用組成物(5)~(13)及び試験片(曲げ試験用試験片)を得て、曲げ試験を行った。弾性率、破断強度及び破断エネルギーを表7に示す。
【0155】
[比較例1B]
十分に乾燥させた撹拌羽根、及び温度計を備えた100mLの4ツ口フラスコ内に、TPP 0.04質量部、THIOL1 7.5質量部、3G 42.5質量部を装入し、溶解させて均一溶液とした後、40℃まで昇温した。昇温後、反応温度を50℃に保って、3時間反応を行った。この際、IR分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認しようとしたが、反応は終了しなかった。
【0156】
[比較例2B]
反応時間を3時間から6時間に変更した以外は比較例1Bと同様の手法でエンチオールメタクリレートの合成を試みた。この際、IR分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認しようとしたが、反応は終了しなかった。
【0157】
[比較例3B]
反応時間を3時間から12時間に変更した以外は比較例1Bと同様の手法でエンチオールメタクリレートの合成を試みた。この際、IR分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認しようとしたが、反応は終了しなかった。
【0158】
[比較例4B]
反応温度を40℃から60℃に変更した以外は比較例1Bと同様の手法でエンチオールメタクリレートの合成を試みた。反応開始して20分ほどで急増粘しゲル状固体になった。反応器からゲル状固体である生成物の排出は不可能であった。
【0159】
【0160】
表7に示すように、実施例1B~13Bでは、(メタ)アクリレートを製造することができた。一方、比較例1B~3Bでは、(メタ)アクリレートを製造することができなかった。また、比較例4Bでは、得られた生成物がゲル化しており、この生成物はモノマー組成物の希釈モノマーとして用いることができなかった。
【0161】
実施例1B~8Bでは、比較例2Aのモノマー組成物と比較して成形体としたときの破断強度及び破断エネルギーに優れ、すなわち靭性に優れていた。更に、実施例9B~13Bでは、比較例1Aのモノマー組成物と比較して成形体としたときの破断強度及び破断エネルギーに優れ、すなわち靭性に優れていた。より具体的には、主成分モノマーであるチオウレタンアクリレートモノマーと希釈モノマーであるエンチオールメタクリレートとを組み合わせたモノマー組成物では、希釈モノマーによる主成分モノマーの機能低下を抑制しつつ、取り扱い性に優れることが分かった。
【0162】
2018年8月21日に出願された日本国特許出願2018-154941、2018年8月21日に出願された日本国特許出願2018-154942及び2018年8月21日に出願された日本国特許出願2018-154943の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。