(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】pHを調節する生分解性ポリマーおよびポリ(グリセロールセバシン酸)で増強された細胞培養培地
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20230908BHJP
C08G 63/12 20060101ALI20230908BHJP
C08G 63/78 20060101ALI20230908BHJP
C08G 63/91 20060101ALI20230908BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20230908BHJP
C08L 101/16 20060101ALI20230908BHJP
C09D 167/02 20060101ALI20230908BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20230908BHJP
【FI】
C08L67/02 ZBP
C08G63/12
C08G63/78
C08G63/91
C08K5/17
C08L101/16
C09D167/02
C12N5/071
(21)【出願番号】P 2020539051
(86)(22)【出願日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 US2019014037
(87)【国際公開番号】W WO2019143834
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2022-01-07
(32)【優先日】2018-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516334709
【氏名又は名称】ザ・セカント・グループ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【氏名又は名称】松田 豊治
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエーレ,ピーター・ディー
(72)【発明者】
【氏名】ハリス,ジェレミー・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ニコルソン,チャールズ・ブレンダン
(72)【発明者】
【氏名】ルー,スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】ギン,ブライアン
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-526432(JP,A)
【文献】国際公開第2016/057662(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0322202(US,A1)
【文献】米国特許第06065476(US,A)
【文献】特表2001-510351(JP,A)
【文献】特表2011-506619(JP,A)
【文献】A functionalizable polyester with free hydroxyl groups and tunable physiochemical and biological properties,BIOMATERIALS,2010年,vol.31 no.12 ,pp.3129-3138,Author Manuscriptのpp.1-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/02
C08G 63/12
C08G 63/78
C08G 63/91
C08K 5/17
C08L 101/16
C09D 167/02
C12N 5/071
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物であって、
ポリ(グリセロールセバシン酸)および該ポリ(グリセロールセバシン酸)に結びつく少なくとも1種のpH調節剤を含
み、
前記少なくとも1種のpH調節剤が、アルギニン、ヒスチジン、チロシン、およびリシンからなる群から選択され、
前記少なくとも1種のpH調節剤が、アルギニン、ヒスチジン、およびチロシンからなる群から選択される場合に、前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して、5重量%またはそれより多くの量で、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物中に存在し、
前記少なくとも1種のpH調節剤がリシンである場合に、前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して、10重量%またはそれより多くの量で、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物中に存在する、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物
。
【請求項2】
前記pH調節剤が、前記ポリ(グリセロールセバシン酸)を架橋する、請求項1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物を含有する緩衝水溶液のpHの前記ポリ(グリセロールセバシン酸)の分解によって引き起こされる低下を低減させる、請求項1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記ポリ(グリセロールセバシン酸)のポリマーマトリックスに分散されている、請求項1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記ポリ(グリセロールセバシン酸)に共有結合している、請求項1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
【請求項6】
前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物が樹脂である、請求項1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
【請求項7】
前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物が熱硬化物質である、請求項1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
【請求項8】
前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物がコーティングである、請求項1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
【請求項9】
前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物が微粒子である、請求項1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
【請求項10】
前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物が足場である、請求項1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
【請求項11】
前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物が繊維である、請求項1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物
。
【請求項12】
前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して
、10重量%
~15重量%の量で、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物中に存在する、請求項1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
【請求項13】
pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物を製造するプロセスであって、
水が媒介する反応によって、グリセロールおよびセバシン酸からポリ(グリセロールセバシン酸)を形成すること、および少なくとも1種のpH調節剤を、該ポリ(グリセロールセバシン酸)と結びつけることを含
み、
前記少なくとも1種のpH調節剤が、アルギニン、ヒスチジン、チロシン、およびリシンからなる群から選択され、
前記少なくとも1種のpH調節剤が、アルギニン、ヒスチジン、およびチロシンからなる群から選択される場合に、前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して、5重量%またはそれより多くの量で、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物中に存在し、
前記少なくとも1種のpH調節剤がリシンである場合に、前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して、10重量%またはそれより多くの量で、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物中に存在する、上記プロセス。
【請求項14】
前記形成が、
前記グリセロール、
前記セバシン酸、および水を含有する反応容器を加熱し、反応容器から水を除去することを含む、請求項
13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記結びつけることが、前記ポリ(グリセロールセバシン酸)を、前記少なくとも1種のpH調節剤と架橋させることをさらに含む、請求項
13に記載のプロセス。
【請求項16】
前記結びつけることが、前記ポリ(グリセロールセバシン酸)のポリマーマトリックス中に、前記少なくとも1種のpH調節剤を分散させることをさらに含む、請求項
13に記載のプロセス
。
【請求項17】
前記結びつけることが、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して
、10重量%
~15重量%の量の前記少なくとも1種のpH調節剤を結びつけることを含む、請求項
13に記載のプロセス。
【請求項18】
緩衝水溶液中に、pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物を配置することを含む、緩衝水溶液のpHを調節するプロセスであって、該pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物は、ポリ(グリセロールセバシン酸)および該ポリ(グリセロールセバシン酸)に結びついた少なくとも1種のpH調節剤を含み、
前記少なくとも1種のpH調節剤が、アルギニン、ヒスチジン、チロシン、およびリシンからなる群から選択され、
前記少なくとも1種のpH調節剤が、アルギニン、ヒスチジン、およびチロシンからなる群から選択される場合に、前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して、5重量%またはそれより多くの量で、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物中に存在し、
前記少なくとも1種のpH調節剤がリシンである場合に、前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して、10重量%またはそれより多くの量で、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物中に存在し、
該pH調節剤は、該ポリ(グリセロールセバシン酸)の分解中に該緩衝水溶液に放出されて、該ポリ(グリセロールセバシン酸)の分解によって引き起こされる該緩衝水溶液のpH低下を低減する、上記プロセス。
【請求項19】
前記緩衝水溶液中に前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物を配置する前に、前記緩衝水溶液が、7.0~7.7の範囲のpHを有する、請求項
18に記載のプロセス
。
【請求項20】
前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して
、10重量%
~15重量%の量で、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物中に存在する、請求項
18に記載のプロセス。
【請求項21】
pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)樹脂を形成するプロセスであって、
反応容器中のグリセロール、セバシン酸、および水にpH調節剤を充填すること
、ここで、前記少なくとも1種のpH調節剤が、アルギニン、ヒスチジン、チロシン、およびリシンからなる群から選択される;
該反応容器を、該反応容器の内容物が溶融するまで、冷水の還流下で加熱すること;
窒素のパージ下で、水を蒸留して除くこと;および
該反応容器を
、120℃~130℃
で6時間~8時間維持して、
前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)樹脂を形成すること
を含み、
前記少なくとも1種のpH調節剤が、アルギニン、ヒスチジン、およびチロシンからなる群から選択される場合に、前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)樹脂を含むpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して、5重量%またはそれより多くの量で、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物中に存在し、
前記少なくとも1種のpH調節剤がリシンである場合に、前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して、10重量%またはそれより多くの量で、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物中に存在する、上記プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本出願は、2018年1月17日付けで出願された米国仮出願第62/618,419号および2018年1月31日付けで出願された米国仮出願第62/624,566号の優先権と利益を主張し、これらの両方は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
[0002]本出願は、一般的に、pHを調節するポリマーおよび細胞培養に向けられる。より具体的には、本出願は、pHを調節する特徴を有するポリ(グリセロールセバシン酸)(PGS)を製造するプロセス、このようなプロセスから形成されたpHを調節するPGS組成物、pHを調節するPGSから、またはそれと共に作り出された製造品、および細胞培養、細胞の増殖、細胞送達、細胞療法、薬物送達適用、埋め込み可能な医療用デバイスおよび/または局所用の医療用デバイス、ならびに増強された細胞培養培地などの適用のためのpHを調節するPGSの使用に向けられる。
【背景技術】
【0003】
[0003]ポリ(グリセロールセバシン酸)(PGS)は、グリセロールおよびセバシン酸からコポリマーとして形成された架橋性のエラストマーである。PGSは、生体適合性および生分解性であり、炎症を低減し、治癒を改善し、抗微生物特性を有し、これら全てのために、PGSは生物医学分野におけるバイオマテリアルとして有用なものとなっている。
【0004】
[0004]細胞培養にPGSを利用するために、PGS樹脂は硬化されて、熱硬化性足場/基板が形成される。しかしながら、PGS基板上での細胞培養には問題が残る。硬化後、PGS熱硬化物質は、低分子量(LMW)画分の一部を保持するが、これが細胞培養培地などの水溶液に浸出する可能性がある。これらのLMW画分は酸性であり、それらが放出される生理学的な緩衝液のpHレベルを低減する。加えて、熱硬化物質の分解は、長期にわたり酸性分解産物を放出する。典型的には、培養細胞は約7.2から約7.4のpHレベルで最もよく成長するため、pH低下は、細胞成長、細胞の付着、および/または細胞生存力を低減させる可能性がある。
【0005】
[0005]医療用デバイス適用にPGSを利用するために、創傷/組織pHの調節が、治癒プロセスの維持にとって重要である。初期の炎症性応答から組織リモデリング期に至る治癒プロセスの様々な工程は全て、創傷pHに応答し、5から8のpH値まで治癒段階に応じて変化し得る。
【0006】
[0006]従来の細胞培養培地は、固体、半固体、液体、およびゲルなどの多数の異なる形態で提供されている。微視的なレベルの生態を維持するように設計された主要な2種の培地の組成物および使用は、細菌、ウイルス、および真菌微生物のためのものと、幹細胞、体細胞、および一部の植物生態のためのものである。
【0007】
[0007]培地はさらに、規定培地、または非規定培地に分類することができる。非規定培地は、炭素源、水分、塩分、ならびにアミノ酸、核酸、または他のタンパク質源の複合体を含む。規定培地は、栄養成分がわかっている明確な組成を有する。
【0008】
[0008]培地はさらに、最小培地、選択培地、分別培地、または輸送培地として分類することができる。
[0009]2次元(2D)ペトリ皿の様式および液体細胞培養は、三次元細胞培養バイオリアクターに移行しつつあり、これは、インビボの細胞は三次元環境で自然に発達すると認識されたためであるが、これらの三次元細胞培養バイオリアクターで使用される材料は、インビボの環境を完全または十分に模擬できていない可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
[0010]緩衝水溶液中へと分解する生分解性ポリマー材料であって、緩衝水溶液のpHの変更を最低限にするものがあると望ましい。
[0011]治癒プロセスの特定のフェーズに必要なpH値を維持する能力を有する生分解性ポリマーフィルムを備えた医療用デバイスがあると望ましい。
【0010】
[0012]また、細胞培養物の生存力、培地組成、細胞の培養、および/または細胞の支持のためのバイオリアクターの構成、体細胞、幹細胞、および/または微生物細胞の治療に関わる細胞の開発、および/または細胞の貯蔵、血液の貯蔵、微生物培養、および/または組織エンジニアリングを改善することも望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[0013]一実施態様において、pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物は、ポリ(グリセロールセバシン酸)、およびポリ(グリセロールセバシン酸)と結びついた少なくとも1種のpH調節剤を含む。
【0012】
[0014]別の実施態様において、pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物を製造するプロセスは、水が媒介する反応によって、グリセロールおよびセバシン酸からポリ(グリセロールセバシン酸)を形成すること、および少なくとも1種のpH調節剤を、ポリ(グリセロールセバシン酸)と結びつけることを含む。
【0013】
[0015]さらに別の実施態様において、緩衝水溶液のpHを調節するプロセスは、緩衝水溶液中に、pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物を入れることを含む。pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物は、ポリ(グリセロールセバシン酸)およびポリ(グリセロールセバシン酸)と結びついた少なくとも1種のpH調節剤を含む。pH調節剤は、ポリ(グリセロールセバシン酸)の分解中に緩衝水溶液に放出されて、ポリ(グリセロールセバシン酸)の分解によって引き起こされる緩衝水溶液のpH低下を低減する。
【0014】
[0016]別の実施態様において、pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)樹脂を形成するプロセスは、反応容器中のグリセロール、セバシン酸、および水にpH調節剤を充填することを含む。本プロセスはまた、反応容器を、反応容器の内容物が溶融するまで、冷水の還流下で加熱することも含む。本プロセスはさらに、窒素のパージ下で、水を蒸留して除くこと、および反応容器を、約120℃~130℃で約6時間~8時間維持して、pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)樹脂を形成することを含む。pH調節剤は、pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)樹脂より5重量%多い。
【0015】
[0017]別の実施態様において、細胞培養培地は、水性細胞培養溶液と、水性細胞培養溶液中に位置する組成物とを含む。組成物は、コポリマーおよびコポリマーによって含有される増強剤を含む。コポリマーは、ポリ(グリセロールセバシン酸)またはポリ(グリセロールセバシン酸ウレタン)である。
【0016】
[0018]さらに別の実施態様において、生物学的細胞を培養する方法は、増強された細胞培養培地中に生物学的細胞を配置することを含む。本方法はまた、細胞培養条件下で、増強された細胞培養培地中で生物学的細胞を培養することも含む。
【0017】
[0019]本発明の様々な特徴および利点は、一例として発明の原理を例示する添付の図面と併せて、以下のより詳細な説明から明らかであると予想される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】[0020]
図1は、pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の例示である足場を示す。
【
図2】[0021]
図2は、様々なpH調節組成物の存在または非存在下におけるPBSのpHのグラフを示す。
【0019】
[0022]可能な限り、図面全体にわたり同じ部品を表すのに同じ参照番号が使用される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[0023]pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)(PGS)組成物は、PGSの分解中、水溶液にpH調節剤を放出して、ポリ(グリセロールセバシン酸)の分解によって引き起こされる水溶液のpHの低下を、低減または軽減する。
【0021】
[0024]pH調節剤は、本明細書で使用される場合、ベースのポリマー組成物が分解し、溶液にpH調節剤を含む分解生成物を放出するときの、ベースのポリマー組成物のpHに対する作用を調節するあらゆる化学物質を指す。
【0022】
[0025]増強された細胞培養培地は、細胞培養物の生存力、細胞の培養、および/または細胞の支持のためのバイオリアクターの構成、細胞の発達、および/または細胞の貯蔵に関わる細胞治療、血液の貯蔵、微生物培養、および/または組織エンジニアリングを改善する。
【0023】
[0026]pH調節PGS組成物は、これらに限定されないが、樹脂、熱硬化物質、キャストフィルム、コーティング、マイクロスフェア、微粒子、足場成分、または表面官能化した足場成分などの様々な異なる形態のいずれの形態をもとることができる。
【0024】
[0027]例示的な実施態様において、PGSは、1種またはそれより多くのpH調節剤で改質されて、pH調節PGS組成物を形成する。一部の実施態様において、pH調節剤は、弱塩基を含む。一部の実施態様において、pH調節剤は、弱酸を含む。一部の実施態様において、pH調節剤は、アミノ酸を含む。pH調節剤は、pHを調節する特徴を有するPGSを提供する。PGSが、分解中に酸性の低分子量(LMW)画分を放出するとき、pH調節剤も、周囲の培地に放出され、それによってpHの変化を弱める。顕著なpH変化を防ぐことにより、pH調節剤は、PGS分解中に細胞成長のために培地における所定のpHを維持することを助ける。
【0025】
[0028]弱塩基は、本明細書で使用される場合、水溶液中で完全にはイオン化しない化学的な塩基を指す。
[0029]弱酸は、本明細書で使用される場合、水溶液中で完全にはイオン化しない化学的な酸を指す。
【0026】
[0030]
図1は、pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の例示である足場10を示す。
[0031]例示的な実施態様において、pH調節剤は、PGSを改質してpHを調節する特徴を有するPGS足場を提供するのに利用される。これは、足場が、細胞成長および増殖のための所定のpH範囲を維持することを可能にする。所定のpH範囲およびpH調節剤のpKaに応じて、pH調節PGSはまた、自己緩衝化することも可能である。自己緩衝系は、生きた細胞または組織から廃棄物が生産されても、培地を交換する必要なく細胞培養を延長させる。
【0027】
[0032]pH調節のための適切な薬剤としては、これらに限定されないが、例えば炭酸水素塩および二塩基性リン酸塩などの無機塩、例えばアルギニン(Arg)、ヒスチジン(His)、リシン(Lys)、およびチロシン(Tyr)などのアミノ酸、例えばヘモグロビンおよび金属タンパク質などのタンパク質、ならびにクエン酸塩が挙げられる。式1は、アミノ酸-PGSコンジュゲートの構造を模式的に示す。
【0028】
【化1】
[0033]加えて、または代替として、pHの調節は、薬物送達を改善するように調整することができる。ある種の薬物はpH感受性であり、その細胞による取り込みは、薬物の等電点および周囲の培地のpHの影響を受ける。PGSを調整して局所的な環境の特定の所定のpH範囲を維持することは、薬物の送達および取り込みを強化したり、または弱めたりすることができる。
【0029】
[0034]例示的な実施態様において、1種またはそれより多くのpH調節剤、例えばアミノ酸などは、PGSの分解中における局所的な環境または溶液のpHを調節するためのpH調節剤として組み込まれる。アミノ酸は、両性の性質を有しており、そのため、選ばれたアミノ酸のpKaに基づき異なるpHで緩衝能力を維持することが可能である。使用されるアミノ酸に応じて、負、正、または中性の電荷をPGS足場に付与することができる。特に、ポリマー全体にわたる、またはポリマー表面上の正電荷は、細胞の付着および成長を改善できることに加えて、細胞膜の負電荷による薬物の取り込みも改善できる。またアミノ酸は、足場の親水性/疎水性を変化させることもでき、それがタンパク質の吸着およびコンフォメーションに影響を与える。吸着したタンパク質の量、タイプ、およびコンフォメーションは、細胞の付着および成長に顕著な作用を有する。加えて、アミノ酸は、細胞にとって必須の栄養素である。
【0030】
[0035]pH調節PGS組成物は、これらに限定されないが、不死化細胞株、初代細胞、二次細胞、トランスフェクトおよび/または分化転換された細胞、足場非依存性(非接着性の)細胞、および/または足場依存性(接着性の)細胞などの多くの様々な細胞型を培養するのに使用することができる。
【0031】
[0036]一部の実施態様において、PGS分解による周囲の培地におけるpHの低下を弱めるために、pH調節剤として、アルギニン、ヒスチジン、および/またはリシンが選択される。生理学的な約7.4のpHにおいて、これらの3種のアミノ酸は弱塩基であり、正味の正電荷を有する。
【0032】
[0037]PGSの親水性を増加させるために、PGSは、アスパラギン酸、プロリン、グルタミン酸、アスパラギン、リシン、アルギニン、グルタミン、セリン、および/またはスレオニンで改変することができる。
【0033】
[0038]pH調節剤を、ポリマーマトリックスに分散させることによって、またはPGSの化学構造に共有結合で組み込むことによってpH調節PGSに組み込むことができる。例示的な実施態様において、pH調節剤は、PGSのための架橋剤である。アミノ酸の多官能性の性質のために、それらは、pH調節PGSポリマーのための架橋剤および/または鎖延長剤として作用し得る。
【0034】
[0039]代替として、pH調節剤は、熱硬化PGS足場の表面上に共有結合反応することができ、これらに限定されないが、さらなるpH調節剤/アミノ酸/ペプチドの結合のための、所定の親水性/疎水性、所定の表面電荷、および/または所定の表面官能性を含む1つまたはそれより多くの標的表面の特徴を提供することができる。
【0035】
[0040]PGS足場を加工および処理して、未反応のLMWの画分を、硬化され架橋された熱硬化物質から除去することはできるが、熱硬化物質は、依然として長期にわたり酸性分解産物を放出する分解可能なバイオマテリアルである。加えて、細胞培養培地の全体的な生理学的pHを維持するために、PGSに対する培地の高比率が使用できるが、それでもなお細胞は、PGSの局所的な環境におけるpHの低下に反応し得る。pH調節PGSからpH調節剤を放出することによって、細胞付着、細胞成長、および/または細胞の増殖に有益な所定のpHレベルで局所的な環境を維持することができる。
【0036】
[0041]また局所的なpH環境を、付加的に、または代替的に、周囲の培地のpHに関係なく、細胞および組織への薬物摂取に有益なpHレベルを維持するように調節することができる。例えば、pH調節剤はまた、分解する構造、例えば足場のpHおよび/または電荷も制御でき、それによりさらに、表面におけるタンパク質の吸収および細胞の挙動にも影響を与える可能性がある。
【0037】
[0042]pH調節剤の量およびタイプを選択して、細胞株の局所的な環境を制御することができる。一部の細胞株は、異なるpHレベルで、例えば7.2~7.4の範囲のpHを有する環境、7.0~7.2の範囲またはそれ未満のpHを有するより高い酸性の環境、または7.4~7.7の範囲またはより高いpHを有するより高い塩基性の環境で、優先的に成長するものであってもよい。しかしながら、溶液のバルクのpHが、細胞成長を決定する唯一の要因ではない場合がある。ポリマー表面電荷は、タンパク質吸収に影響を与えることができ、それが細胞の付着および成長に影響を与える。例えば、pH調節剤としてのリシンの存在は、ポリマーの表面電荷を変化させ、それによりタンパク質の吸収を促進するものであり、さらに、細胞の付着および成長に役立つことが観察された。
【0038】
[0043]例示的な実施態様において、PGS樹脂は、水によって媒介されるプロセス、例えば参照によりその全体が組み入れられる米国特許第9,359,472号で開示されたプロセスによって形成される。
【0039】
[0044]例示的な実施態様において、グリセロールは、撹拌しながら、水と共に反応容器に添加される。グリセロールが溶解した後、セバシン酸が、反応容器に添加される。グリセロールおよびセバシン酸の量は、遊離カルボキシル基に対する遊離ヒドロキシル基の所定のモル比が、1:2~2:1、代替として1:1~2:1、代替として5:4~7:4の範囲、代替として約5:4、代替として約3:2、代替として約7:4、またはその間の任意の比率、範囲、もしくは部分範囲で提供されるように選択される。次いで、重合の溶融および撹拌工程中に水を還流するために、反応容器をコンデンサーと嵌合させ、コンデンサー温度を、1℃~10℃、1℃~5℃の範囲、約5℃、約2.5℃、またはその間の任意の範囲、もしくは部分範囲に設定される。次いで反応容器は、50℃~200℃、代替として100℃~180℃、代替として115℃~165℃の範囲、代替として約130℃、代替として約140℃、代替として約150℃、またはその間の任意の値、範囲、もしくは部分範囲のマントル温度に、15~120分、代替として30~120分、代替として45~90分、代替として60~80分の範囲、代替として約60分、代替として約70分、代替として約80分、またはその間の任意の値、範囲、もしくは部分範囲の時間にわたり、撹拌しながら加熱される。
【0040】
[0045]セバシン酸が融解した後、ゾーン温度は、50℃~200℃、代替として100℃~160℃、代替として120℃~140℃、代替として約120℃、代替として約130℃、代替として約140℃、またはその間の任意の値、範囲、もしくは部分範囲に設定され、混合物は、15~120分、代替として30~90分、代替として40~60分、代替として約40分、代替として約50分、代替として約60分、またはその間の任意の値、範囲、もしくは部分範囲にわたり、還流下で撹拌される。
【0041】
[0046]次いでコンデンサーを除去し、容器から水を除去するために、容器を蒸留コンデンサーと嵌合させる。窒素パージは、容器に適用され、ゾーン温度は、50℃~200℃、代替として100℃~140℃、代替として110℃~130℃の範囲、代替として約110℃、代替として約120℃、代替として約130℃、またはその間の任意の値、範囲、もしくは部分範囲に設定される。蒸留中、容器の内容物は、50℃~200℃、代替として100℃~140℃、代替として110℃~130℃の範囲、代替として約110℃、代替として約120℃、代替として約130℃、またはその間の任意の値、範囲、もしくは部分範囲の温度で、1~48時間、代替として6~36時間、代替として12~36時間、代替として20~28時間、代替として22~26時間の範囲、代替として約24時間、またはその間の任意の値、範囲、もしくは部分範囲にわたり撹拌される。
【0042】
[0047]次に、真空ラインを蒸留コンデンサーに接続し、容器の内容物に、大気圧未満の圧力を適用する。圧力を、30Torrまたはそれ未満、代替として5~30Torr、代替として20Torrまたはそれ未満、代替として5~20Torr、代替として10~20Torr、代替として約15Torr、代替として約20Torr、代替として約25Torr、またはその間の任意の値、範囲、もしくは部分範囲の標的圧力に、15~120分、代替として30~120分、代替として60~110分、代替として75~95分、代替として約75分、代替として約85分、代替として約95分、またはその間の任意の値、範囲、もしくは部分範囲にわたり段階的にゆっくり低減させる。
【0043】
[0048]反応容器中の圧力が標的圧力に達したら、真空ポンプを、20Torrまたはそれ未満、代替として5~20Torr、代替として10Torrまたはそれ未満、代替として5~10Torr、代替として約5Torr、代替として約10Torr、代替として約15Torr、またはその間の値、範囲、もしくは部分範囲のより低い圧力に設定する。真空の適用後、反応容器を、より低い圧力に設定された大気圧未満の圧力で、50℃~200℃、代替として100℃~160℃、代替として120℃~140℃の範囲、代替として約120℃、代替として約130℃、代替として約140℃、またはその間の任意の値、範囲、もしくは部分範囲の温度で、1~48時間、代替として6~36時間、代替として12~36時間、代替として22~30時間、代替として24~28時間、代替として約26時間、またはその間の任意の値、範囲、もしくは部分範囲にわたり、撹拌しながら反応させたままにする。
【0044】
[0049]次に、反応容器中の生成物をガラスジャーに移し、15~120分、代替として30~90分、代替として35~55分、代替として約35分、代替として約45分、代替として約55分、またはその間の任意の値、範囲、もしくは部分範囲にわたり、ベンチトップ上で冷却させ、次いで、貯蔵のために冷凍庫に移し、ここで生成物は、少なくとも12時間、代替として少なくとも18時間、代替として少なくとも約24時間、または代替として少なくとも48時間凍結される。
【0045】
[0050]例示的な実施態様において、PGS樹脂を、約10Torrの減圧下で、8時間~168時間の範囲の期間、例えば約24時間にわたり、110℃~140℃の範囲の温度、例えば約130℃などの温度に加熱して維持することによって熱硬化する。得られた熱硬化物質は、適度な接着性および不粘着性を有する。一部の実施態様において、熱硬化物質は、約2mmまたはそれ未満、代替として約1mmまたはそれ未満、代替として0.5mm~1.5mm、代替として約1mm、またはその間の任意の値、範囲、もしくは部分範囲の厚さを有する薄膜として形成される。一部の実施態様において、溶融したPGS樹脂を丸いアルミニウム皿中に流し込み、薄膜の形状を形成する。
【0046】
[0051]特定のpH調節剤に関して、pH調節剤は、重合の前に提供することができる。例示的な実施態様において、pH調節剤は、反応容器中のグリセロールおよびセバシン酸および脱イオン水に充填される。容器中の材料は、冷水の還流下で、約120℃~130℃に加熱される。全ての材料が溶融したら、約5~15L/分で流動する窒素のパージ下で、混合物から水を蒸留して除く。水の除去は、約30~60分かかる場合があり、水が除去されたら、リアクター温度を、約120℃~130℃で約24時間維持する。その後、温度を約130℃に増加させ、圧力を少なくとも24時間にわたり約5~15Torrに低減させる。
【0047】
[0052]その他の例示的な実施態様において、pH調節剤は、反応容器中のグリセロールおよびセバシン酸および脱イオン水に充填される。容器中の材料は、冷水の還流下で、約120℃~130℃に加熱される。全ての材料が溶融したら、約5~15L/分で流動する窒素のパージ下で、混合物から水を蒸留して除く。水の除去は、約30~60分かかる場合があり、水が除去されたら、リアクター温度を、約120℃~130℃で、約8時間またはそれ未満、代替として約6時間、またはその間の任意の値、範囲、もしくは部分範囲で維持して、樹脂を形成する。樹脂は、約5~15Torrの減圧下で、約8時間またはそれ未満にわたり、組成物を約115~125℃に加熱および維持することによって熱硬化して、熱硬化物質を形成する。
【0048】
[0053]所望の結果に応じて、pH調節剤は、PGSの合成反応中、または熱硬化物質の形成の前に、その間、もしくはその後の多数の異なるポイントのいずれかで、例えば、これらに限定されないが、反応開始のとき、窒素パージ工程の後、真空工程の後などにPGSに取り込んでもよいし、熱硬化の前、および熱硬化の後に樹脂と混合して、熱硬化物質の表面を改質または官能化してもよい。またpH調節剤を、これに限定されないが、剪断混合および膨潤方法を含む様々な薬物ローディング方法によって、PGSにローディングしてもよい。
【0049】
[0054]pH調節剤は、pH調節PGS組成物の重量に対する重量に基づく任意の適切な量で、例えば、約10%またはそれ未満、1%~10%、2%~8%、4%~6%、1%~5%、2%~5%、約4%、約5%、約6%、約5%またはそれより多く、5%~10%、8%~12%、約8%、約9%、約10%、約10%またはそれより多く、約11%、約12%、10%~12%、10%~15%など、またはその間の任意の値、範囲、もしくは部分範囲で、PGSと組み合わせてもよいし、またはPGS中に含まれていてもよい。pH調節剤の存在は、pH調節剤の量を増加させるにつれて、pH調節のレベルに一層影響を与えもし、ポリマーの物理的特性を一層変更もし得るので、特定の適用のためにPGSにおけるpH調節剤の量を選択するときに、これら両方の作用を考慮に入れることができる。しかしながら、pH調節剤のより高いレベルで、pH調節剤は、物理的なフィラーとしてふるまうことができ、そこに追加の利益があり得る。
【0050】
[0055]一部の実施態様において、PGS樹脂を形成するための処理条件は、pH調節剤の組み込みに基づき調整することができる。例えば、PGSにリシンが10重量%で組み込まれる場合、樹脂の処理時間は、約24時間またはそれより長い時間から、約8時間またはそれ未満まで驚くほど低減され、これは、圧力の低減を起こすことなく生じた。加えて、10%のリシンで、熱硬化時間が約24時間から約8時間に低減され、熱硬化温度が約130℃から約120℃に低減された。したがって、5重量%より多くの量でのリシンまたは他のpH調節剤の組み込みはさらに、製造時間を75%またはそれを超えるほど短縮するPGS樹脂の形成方法を提供する作用を有し得る。
【0051】
[0056]さらに、高度に架橋されたPGSベースの材料(例えばポリ(グリセロールセバシン酸ウレタン)(PGSU))の合成は、イソシアネートまたは他のバイオフレンドリーではない架橋剤の使用を含む場合があるが、これは、体内でPGSUが分解されるときのイソシアネート放出の懸念のために、特定の生物学的な環境、例えばインプラントにおいて望ましくない場合があることが理解される。pH調節因子としてのアミノ酸の使用は、イソシアネートがアミノ酸で置き換えられたバイオフレンドリーな架橋剤として作用するという点で、追加の利点を提供する。この組み込みは、分解中のイソシアネート成分の放出による細胞傷害性応答のリスクを軽減する。アミノ酸の組み込みは、pHを調節する、細胞に優しい、高度に架橋されたPGS組成物を提供する。
【0052】
[0057]一部の実施態様において、PGSおよびpH調節剤は、PGS(またはPGSU)を含有する組成物などの強化組成物も含む周囲の増強された細胞培養培地に放出される。強化組成物はさらに、増強剤を含む。
【0053】
[0058]細胞培養培地に関する実施態様において、強化組成物は、栄養素を含有するかまたは機能的に改質された形態のPGSを含む。一部の実施態様において、強化組成物は、栄養素を含有するかまたは機能的に改質されたPGS(NPGS)を含む。一部の実施態様において、強化組成物は、栄養素を含有するかまたは機能的に改質されたPGSU(NPGSU)を含む。本明細書で開示された細胞培養組成物は、任意かつ全ての形態の細胞培養培地に関するものであり得る。一部の実施態様において、強化組成物は、水を添加するだけで、強化組成物から生じる栄養素支持体を提供することを特徴とする「インスタント」培地を用いた使い捨てデバイスの一部であってもよい。栄養は、「脱水した」組成物の形態であってもよく、その場合、強化組成物のコーティングは、培地支持体または培地組成物に変換される。
【0054】
[0059]組成物は、バイオフレンドリーなポリマー、およびバイオフレンドリーなポリマーによって含有される、またはそれ以外の方法でバイオフレンドリーなポリマーに結びつく増強剤を含む。組成物は、好ましくは、固体または実質的に固体の形態であり、溶媒非含有であるか、または実質的に溶媒非含有である。一部の実施態様において、本組成物は、増強された細胞培養培地中で使用される。
【0055】
[0060]増強剤としては、これらに限定されないが、細胞の栄養素;2-3-ジホスホグリセリン酸スカベンジャー;亜酸化窒素のヘモグロビン捕捉から保護する組成物、例えば、安定化されたヘモグロビンプロテアーゼ、ヘムリパーゼ、ヘムメタロプロテアーゼ、またはヘモグロビンに特異的なアミノペプチダーゼなど;毒素に対する親和性組成物、例えば、キレート剤または電荷を有する化学物質など、例えば、両性イオン性物質など;ヘモグロビンに対する特異的な酵素活性を有する繊維押出し物;常磁性材料、例えば、超常磁性酸化鉄および他の常磁性金属など;乳酸デヒドロゲナーゼの変性および他のメカニズムであって、過酸化カルシウムおよび過炭酸ナトリウムならびに他のO2を放出する酸化物を含有する微粒子を含む、高分子マトリックス内に閉じ込められたO2を含む貯蔵中の好気性呼吸を保護するためのメカニズム、ここで、微粒子は、フィルム表面に結合していてもよい、を介した乳酸スカベンジャーであって、これは、マトリックス内の微粒子の分散に組み込まれていてもよいし、またはポリマー内に分散されていてもよく、この概念は、貯蔵用の封じ込め内の利用可能なO2が、乳酸生産を引き起こす嫌気性経路を回避することである、乳酸スカベンジャー;細胞保存組成物、例えば、クエン酸および例えばアルギニン、アデノシン、およびアデニンなどのアミノ酸を含むクエン酸組成物など;抗凝血組成物、例えば、クエン酸、ホスフェート、デキストロース、およびアデニン(CPDA)など;衛生組成物、例えば、殺生剤、抗生物質、または生物静力学的な化合物など;pHのシフトを軽減するかまたは表面エネルギーを低減して細胞の側壁への付着を最小化する表面パシベーション(passivation)組成物;またはそれらの組合せを挙げることができる。
【0056】
[0061]例示的な実施態様において、組成物は、細胞培養物の生存力、培地、細胞の培養、および/または細胞の支持のためのバイオリアクターの構成、細胞治療(例えば、体細胞、幹細胞、または微生物細胞など)に関わる細胞の開発、および/または細胞の貯蔵、血液の貯蔵、微生物培養、および/または組織エンジニアリングを改善する。
【0057】
[0062]一部の実施態様において、PGSおよび/またはPGSUのバルクの組合せの組成物は、構造的な要素と工学的な要素を改善し、複数の栄養、保護、保存、および支持に関する利益の1つまたはそれより多くを提供し、そのようなものとしては、これらに限定されないが、例えば生物学的封じ込め構造における保存、抗凝血、衛生、および改善された貯蔵寿命などのための添加剤を含む、増殖培地の簡単な構造支持体;バイオリアクター内壁の材料構築;フィルム組成物および複合封じ込めの壁の設計への改変;成長、再生、増殖、および保存中の細胞の足場構造支持体;「コーティング」、接着剤、押出し物、埋め込み可能な、もしくは移植可能な組織、または細胞培養デバイスの形態での、栄養成分を支持する固体、半固体、またはゲル状の媒体-樹脂-ポリマー;フィルムコーティング、硬い、フレキシブルな平面(フィルム)押出し物、または複合組立体のための、改変されたポリマー、樹脂、および媒体;リアクター壁表面や粒子デバイスへの細胞の接着または付着を防ぐための、生分解性の、自浄式の、侵食性の栄養素支持体;またはそれらの組合せが挙げられる。
【0058】
[0063]NPGSまたはNPGSUは、物質の組成物、フィルム、または押出し構造の形態またはそれらの一部の形態であってもよい。加えて、または代替として、NPGSまたはNPGSUは、細胞および組織の増殖および再生を支持するバイオリアクターまたは他のデバイスにおける細胞培養支持の方法で提供される。本明細書で開示される実施態様は、規定培地および非規定培地の両方で有用であり得る。
【0059】
[0064]理論に制限されることは望まないが、PGSは、細胞および組織を支持するための支持マトリックスを介して細胞培養応答を増強させることができると考えられる。慣習的に微生物学において支持培地として使用される寒天とは異なり、PGSは生分解性であり、そのモノマー成分は、細胞生体エネルギー産生のためのアデノシン三リン酸(ATP)のクレブスサイクル生産を支持することがわかっている代謝産物であるグリセロールおよびセバシン酸を含む。それにより、PGSは、構築のための、特定には真核体細胞および幹細胞の増殖および分化のための独特な支持体材料およびポリマーになっている。加えて、PGSは、バルクの分解物質というより表面分解物質であり、それによりPGSは、ゼロ次の栄養素送達のための独特な材料になっている。ポリマーの生分解性マトリックスとしてのPGSの利益としては、発達している細胞の代謝を支持する形態であるマトリックスを提供することを挙げることができる。同様に、PGSマトリックスへの栄養成分の強化は、細胞の支持を改善すると考えられる。一実施態様において、PGSマトリックスを介して細胞の支持の追加の成分を提供することは、細胞培養増殖に関する生体エネルギー効率を増加させる。培養培地としての、さらに支持培地としてのPGSの利点としては、PGSが、本来的に、抗微生物性であり、免疫原性ではなく、非細胞傷害性であり、血液適合性であり、抗トロンビン性であることが挙げられる。PGSはまた、血管新生性であるとも考えられ、これは、インプラント設計に有益であり得る。
【0060】
[0065]バイオリアクター設計において、PGSならびにPGSおよびPGSU押出し物のコポリマー、加えてPGSおよびPGSU固定システムは、フィルムおよび/または表面のトポグラフィー改質、インキュベーションの生理学、栄養、保護、およびそれらの組合せ;表面コーティングの接着を防ぐためのフィルム官能性の変換;グリセロール-エステルポリマー複合化に関連するフィルム樹脂のための新しい構築材料;および新しいポリマー合成のためのフィルムに関連するフィルムおよびコーティング媒体のための新しい構築材料に寄与することによって、バイオリアクター内壁の効率を改善することができる。
【0061】
[0066]PGSベースの支持培地は、様々な将来性のある利点を含み得る。立体的な成長を支持するのに培養ビーズが使用される場合、細胞は凝集してビーズに接着することが多く、そのため細胞の増殖および回収を難しくしている。表面侵食が可能なビーズまたはPGSマイクロスフェアは、様々な程度の分解速度で製造されることができ、増殖した細胞を周囲の流体に自然に脱落させる表面を提供する。同様に、標準的なビーズ技術は、PGSでコーティングすることにより、表面侵食を提供することができる。バイオリアクターにおいて、内壁は、表面侵食によって自浄するように設計されることができ、それにより細胞接着を防ぐことができる。
【0062】
[0067]一実施態様において、PGSはヒドロゲルとなるように配合されており、それによりPGSは、三次元細胞培養のための優れたマトリックス支持体を提供する好ましい生分解性ポリマーになっている。ここでも同様に、分解可能で、栄養を提供する支持体の利益は、自然に三次元コンフォメーションを形作る増殖細胞が、バイオマスの増加に伴い無制限に増殖することを可能にする。
【0063】
[0068]別の実施態様において、規定培地または非規定培地のいずれかで強化された固体マトリックスとしてのPGSは、強化された足場構造支持体を提供し、経時的な栄養生体エネルギーおよび栄養性(trophic)の支持を介して組織の成長および分化を促進することができる。これは、足場構造が、領域の後続の層が生物分解または侵食を介して露出するのとともに、組成物中の複合的な栄養「層」またはフィルムを移行させるための勾配を提供するように設計される場合において、特に有利な場合があり、ここでのコンセプトは、早期段階の増殖または成長が、成熟細胞とは異なる栄養組成を必要とするという点にある。このコンセプトは、独立した経時的な設計の層から栄養性物質を供給することによって、成長周期中の分化を開始させるのに使用することができる。水によって媒介されるプロセスはさらに、ポリマーマトリックスまたは主鎖への閉じ込めまたは固定のいずれかのための栄養素の組み込みを提供し、それによってカスタマイズされた栄養送達がもたらされる。
【0064】
[0069]さらに別の実施態様において、PGSは、生分解性の栄養素コーティング、フィルム、繊維、または半剛体のシートに形成される。上述した栄養送達の実施態様を組み合わせて、PGSコーティングは、使い捨てのバイオリアクターに変換されるあらゆる好ましい高分子フィルム表面に適用することができる。このようなフィルムは、生体適合性に加えて、リアクター壁の栄養素支持体およびリアクター表面への細胞接着の防止を提供する。固体PGS栄養素フィルムは、高分子フィルムに積層されて、栄養素を含有する生分解性表面および裏側の非分解性の加工表面を有する複合材料を作り出すことができる。このような構造は、これに限定されないが、使い捨てのバイオリアクターなどの複数の封じ込め構造を作り出すのに使用することができる。加えて、栄養素コーティングは、不動態化(パシベーション)もしくは成長強化コーティング、またはインプラントのための外科用の構造における接着剤としても有用であり得る。
【0065】
[0070]寒天支持培地とは対照的に、NPGSは、培養培地送達プラットフォームとしての多角性を提供するものであって、その固体および半固体形態での細胞の増殖のためのより「現実的な」三次元環境を提供し、さらに、コーティングおよびエンジニアリングされたラミネートの両方として、それからの栄養素および栄養性成分の経時的な放出を提供し、ほとんど全ての容量の空間をバイオリアクターに変換することを可能にする。将来性のあるPGSおよびPGSUの特徴および利益としては、これらに限定されないが、真核細胞による生分解性および原核細胞に対する対抗;加水分解または酵素による手段によって代謝している生物に接近可能な代謝性単量体で形成されていること;固有のpHおよび/または親水性環境をエンジニアリングするためのポリマーの化学量論的な改質;ポリマーマトリックスへの組み込みのための特定の規定培地成分との反応性;所望の分解および増殖因子放出の経時的な期間を有するようにエンジニアリングされる能力;将来性のある非免疫原性;およびRBCのような細胞が、貯蔵中に代謝し続け、閉じられた封じ込め容器からO2が枯渇したらしばしば嫌気性呼吸に戻ることを許容する能力が挙げられる。乳酸は、嫌気性代謝の毒性副産物である。結果として、ラクチドおよびグリコリド分解性樹脂は、毒性の蓄積を増大させる可能性がある。PGSおよびPGSUをO2放出化合物と共に配合することにより、O2の枯渇および乳酸の蓄積、加えて貯蔵中の代謝産物としてのグリセロールおよびセバシン酸の寄与を防ぐことができる。
【0066】
[0071]ここに記載される特定の実施態様は、再生または治癒プロセスにとって増殖が有利であるバイオリアクターおよび人工器管などの複数の表面のための「固体状」栄養素または保護的組成物とみなされる場合がある。
【0067】
[0072]一実施態様において、水が輸送されないかまたは貯蔵に必要ではない場合にNPGSを使用することが特に経済的に有利である。またNPGSは、多くの規定培地にとっての低温貯蔵への必要性もなくす。またNPGSは、それ以外ではバルクの水性の組成によって限定される様々な表面およびトポロジーへの培地のコンフォーマル(conformal)な適用をもたらすことができる。
【0068】
[0073]コーティングされた表面に加えて、PGSまたはPGSUおよび付加物または固定された成分を含むマイクロスフェアが、増殖に有用であり得る。
[0074]NPGSの優勢な使用は、細胞療法のための細胞の増殖の支持体のための使用であり得る。しかしながら、このような支持マトリックスとしてのポリマーによって提供される改善は、インビボおよびエクスビボの組織エンジニアリングおよび成長特異的な構造設計の両方に顕著な影響を与える可能性がある。
【0069】
[0075]多くのタイプの利用可能な商業的な培地があり、それらは列挙するには多すぎるし、複雑すぎるし、特殊化しすぎた材料を含んでいる。一実施態様において、物質の組成は、栄養素または機能を改質すること、PGSまたはPGSUからブレンドすること、混合すること、その中で反応させること、調合すること、共押し出しすること、溶媒とブレンドすること、または他のこのような液体-固体の組み込み方法によって開発される。
【0070】
[0076]組成物はさらに、公知の材料を含む追加の材料を用いて改質され、必要に応じて固体支持体、レオロジー、および適合性を制御することができる。
[0077]材料の組成物はさらに、凍結乾燥または脱水によって処理して、後で再溶解するための液体ではない乾燥組成物を作り出すことができる。
【0071】
[0078]コーティングの形態において、優勢な作用機序は、培養チャンバーまたは生物学的な空間へ成分を放出する表面侵食であり得る。
[0079]変動する架橋密度を有するフィルムの形態において、組成物は、細胞を含有する水性の内容物に曝露された内部表面が経時的に侵食を受けるエンジニアリングされた構築物のための構築材料として使用することができる。
【0072】
[0080]水性ベースの培養培地は、永続的に表面に適合し、それを保持することができるバルクの媒体特性が欠如している可能性がある。一実施態様において、NPGSとしてのPGSの組み込みは、容量の表面の新しい使用を提供する。
【0073】
[0081]一実施態様において、酸素を放出する金属酸化物および過酸化物は、壊死を回避するための酸素支持体を提供するために含まれる。
[0082]グリセロール:セバシン酸の化学量論を変化させることに加えて、NPGSは、水溶性であるNPGSの低分子量画分の濃度を増加させるために、過量のグリセロールを用いて合成することができる。NPGSの低分子量画分は、水溶液に可溶性であることがわかっている。可溶性画分として、NPGSは、栄養素および/またはサプリメントとして、細胞および組織により容易に利用可能である。一部の実施態様において、グリセロール:セバシン酸のモル比は、2:1~10:1の範囲内である。別の実施態様において、グリセロール:セバシン酸のモル比は、10:1より大きい。
【0074】
[0083]一実施態様において、NPGSは、がん療法に適用することができる。がん細胞は、低酸素性であり、正常細胞と比較してエネルギー産生が減少していることがわかっている。さらに、がん転移は、腫瘍が臨界量でインターロイキン(IL)-6およびIL-8を生産したときに、形成され始める。PGS分解生成物は、細胞に「エネルギーを与える」ことが示されている。アスピリンは、IL-6およびIL-8をブロックすることがわかっている。一部の実施態様において、NPGSは、ポリアスピリンを含み、固形腫瘍のための注射可能な細胞療法剤および化学療法剤を形成する。
【実施例】
【0075】
[0084]以下の実施例の文脈で本発明をさらに説明するが、これらは例証として提示され、それらに限定されない。
実施例1
[0085]4つの別々のpH調節PGS樹脂を、5.0±0.1gのHis、Lys、Arg、またはTyrを、500mLの反応容器中の95±1gのRegenerez(登録商標)PGS樹脂(セカントグループ社(Secant Group, LLC)、ペンシルベニア州テルフォード)および約20mLの脱イオン水(diH2O)に充填することによって生産した。容器中の材料を、冷水の還流下で120℃に加熱し、次いで全ての材料が溶融したら、約10L/分で流動させた窒素のパージ下で混合物から水を蒸留して除いた。約30分かけて水を除去したら、リアクター温度を120℃で維持し、圧力を10Torrに低減した。残りの材料を約4時間にわたり重合し、次いでリアクターから排出させた。次いで得られたpH調節PGS樹脂、PGS-His(5%)樹脂、PGS-Lys(5%)樹脂、PGS-Arg(5%)樹脂、およびPGS-Tyr(5%)樹脂を熱硬化および/または特徴付けた。
【0076】
実施例2
[0086]加えて、PGS樹脂合成中に、PGS樹脂への、5%でのHis、5%および10%でのLys、5%でのArg、および5%でのTyrの組み込みを試みた。試みられたアミノ酸のなかでも、リシンのみがPGS反応条件下で十分な可溶性を有し、この方式でPGS樹脂にうまく組み込まれた。窒素工程の前にアミノ酸が反応に添加されたとき、アミノ酸の量は、オリゴマー(グリセロールセバシン酸)(OGS)およびPGS樹脂の平均酸性度におけるPGS樹脂の期待される化学量論的な収量から計算した。
【0077】
[0087]10.0±0.1gのLysを、500mLの反応容器中の59.4±0.1gのグリセロールおよび130.6±0.1gのセバシン酸および約40mLの脱イオン水(diH2O)に充填することによって、PGS-Lys(5%)樹脂を生産した。容器中の材料を、冷水の還流下で約120℃に加熱した。全ての材料が溶融したら、約10L/分で流動させた窒素のパージ下で混合物から水を蒸留して除いた。約45分かけて水を除去したら、リアクター温度を約120℃で約24時間維持した。その後、約26時間、温度を約130℃に上昇させ、圧力を約10Torrに低減した。
【0078】
[0088]20.0±0.1gのLysを、500mLの反応容器中の56.3±0.1gのグリセロールおよび123.7±0.1gのセバシン酸および約40mLの脱イオン水(diH2O)に入れることによって、PGS-Lys(10%)樹脂を生産した。容器中の材料を、冷水の還流下で約120℃に加熱した。全ての材料が溶融したら、約10L/分で流動させた窒素のパージ下で混合物から水を蒸留して除いた。約45分かけて水を除去したら、リアクター温度を約120℃で約6時間維持した。得られた樹脂は、50時間より長い期間合成されたPGS樹脂に類似した粘度を有していた。
【0079】
実施例3
[0089]実施例1からの5%のpH調節PGS樹脂のそれぞれの一部を、それぞれの溶融したpH調節PGS樹脂を丸いアルミニウム皿に流し込み、次いで、ポリマーが、130℃に加熱され、そこで10Torrの減圧下で、24時間維持されることによって、およそ1mm厚さのフィルムとして熱硬化した。得られたフィルム、PGS-His(5%)熱硬化物質、PGS-Lys(5%)熱硬化物質、PGS-Arg(5%)熱硬化物質、およびPGS-Tyr(5%)熱硬化物質は、適度な接着性および不粘着性を有していた。
【0080】
[0090]驚くべきことに、実施例2からのPGS-Lys(10%)樹脂は、ポリマーが120℃に加熱され、そこで10Torrの減圧下で、わずか8時間維持されることによって熱硬化され、これによって、顕著に時間が短縮され、pH調節硬化物質のラージスケール製造のための顕著な利益が得られた。PGS-Lys(10%)熱硬化物質は、適度な接着性および不粘着性を有していた。
【0081】
実施例4
[0091]pH調節PGS熱硬化物質フィルムの丸いディスクを、内径1mmの穴あけパンチを使用して実施例3のフィルムからサンプルを切り出すことによって調製した。これらのディスクを24-ウェルプレートの別々のウェルに置き、各ディスクを約7.4のpHを有する約0.01Mのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の2.4mL溶液に曝露し、インキュベーター内に、37℃の温度で様々なタイムポイントで貯蔵した。PBS溶液のpHを7日間毎日試験した。
【0082】
[0092]
図2を参照すると、PBSブランク20は、陽性対照として含まれ、熱硬化物質PGS22は、陰性対照として含まれていた。試験結果は、pH調節PGS熱硬化物質のほとんどが、標準的なPGS熱硬化物質と比べて、pH低下を軽減した(より高いpHが得られた)ことを示す。
図2で示されるように、PBSブランク20のpHは、モニターされた7日にわたり最初の約7.4のpHから本質的に不変である。pH調節剤の非存在下で、熱硬化物質PGS22の分解は、PBSのpHを、1日目までに約0.5低くして6.9の値にし、4日目までに約0.8低くして6.6の値にし、その値を7日目まで維持する。pH調節PGS熱硬化物質は、PGS-Lys(10%)30、PGS-His(5%)32、PGS-Arg(5%)34、PGS-Tyr(5%)36、およびPGS-Lys(5%)38の、高いものから低いものまでのpH調節能力の範囲を示した。PGS-Lys(5%)38は熱硬化物質PGS対照22に類似したpH低下を生じたが、PGS-His(5%)32、PGS-Arg(5%)34、およびPGS-Tyr(5%)36はそれぞれ、PBSの顕著なpH調節を実証した。PGS-His32の場合のpH低下は、1日目でわずか約0.10であり、4日目までに約0.41であった。PGS-Arg34の場合のpH低下は、1日目で約0.14であり、4日目までに約0.53であった。PGS-Tyr36の場合のpH低下は、1日目で約0.16であり、4日目までに0.55であった。熱硬化物質の全てにおいて、4日目から7日目まで、pH値は横ばい状態になるか、またはわずかに増加した。
【0083】
[0093]リシンは、5%ローディングでpH調節の異常値を示しているが、10%ローディングでも調製した。
図2で示されるように、リシンのローディングを10%に増加させることによって、熱硬化性PGS-Lysは驚くべきことに最悪のpH調節因子から最良のpH調節因子になった。理論に制限されることは望まないが、アミノ酸による架橋の程度の違いが、ポリマーの分解中にpHを調節するそれらの能力に差をもたらすと考えられる。
【0084】
[0094]本明細書において、アミノ酸によるpH調節は主としてPBS中のPGSに関連して記載されているが、アミノ酸または他のpH調節剤は、他の緩衝系中において、および他の分解可能なポリマーと共にpHを調節するのに同様に使用することができる。
【0085】
[0095]他の適切な分解可能なポリマーとしては、これらに限定されないが、二酸/ポリオールコポリマー、PGS-乳酸コポリマー、ポリエステル、クエン酸ベースのポリマー、ポリクエン酸(polycitrate)、またはクエン酸/ポリオールコポリマーが挙げられる。
【0086】
[0096]他の適切な緩衝系としては、これらに限定されないが、有機緩衝液または細胞培養培地緩衝液などが挙げられ、例えば、これらに限定されないが、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)緩衝液、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)緩衝液、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)緩衝液、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(AMPD)緩衝液、1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)アミノ)-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(AMPSO)緩衝液、N,N-ビス[2-ヒドロキシエチル]-2-アミノエタンスルホン酸(BES)緩衝液、ビシン緩衝液、4-(シクロヘキシルアミノ)-1-ブタンスルホン酸(CABS)緩衝液、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAP)緩衝液、3-(シクロヘキシルアミノ)-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸(CAPSO)緩衝液、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸(CHES)緩衝液、3-(N,N-ビス[2-ヒドロキシエチル]アミノ)-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3-アミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)緩衝液、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンプロパンスルホン酸、4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-プロパンスルホン酸、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(3-プロパンスルホン酸)(EPPS)緩衝液、Gly-Gly緩衝液、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(4-ブタンスルホン酸)(HEPBS)緩衝液、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液、4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)(HEPPSO)緩衝液、硫酸緩衝液、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液、MOBS緩衝液、3-モルホリノプロパン-1-スルホン酸(MOPS)緩衝液、β-ヒドロキシ-4-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPSO)緩衝液、ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)緩衝液、ピペラジン-N,N’-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)(POPSO)緩衝液、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-4-アミノブタンスルホン酸(TABS)緩衝液、[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパンスルホン酸(TAPS)緩衝液、3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(TAPSO)緩衝液、トリエタノールアミン(TEA)緩衝液、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-2-アミノエタンスルホン酸(TES)緩衝液、トリシン緩衝液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス(Tris))緩衝液、ビストリス緩衝液、ビストリスプロパン緩衝液、またはトリズマ(Trizma)緩衝液などが挙げられる。
【0087】
[0097]1つまたはそれより多くの例示的な実施態様を参照しながら本発明を説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更をなすことができ、本発明の要素を、均等物で置換できることが当業者には理解されるであろう。加えて、多くの改変を、特定の状況または材料を、それらの必須の範囲から逸脱することなく本発明の教示に適合させるように行うことができる。それゆえに、本発明は、本発明の実施のために予期される最良の形態として開示された特定の実施態様に限定されないが、本発明は、添付の特許請求の範囲内に含まれる全ての実施態様を含むことが意図される。加えて、詳細な説明で特定された全ての数値は、正確な値と概算値の両方が明示的に特定されたかのように解釈されるものとする。
本発明の具体的態様は以下のとおりである。
[態様1]
ポリ(グリセロールセバシン酸)および該ポリ(グリセロールセバシン酸)に結びつく少なくとも1種のpH調節剤を含む、pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
[態様2]
前記少なくとも1種のpH調節剤が、無機塩、アミノ酸、およびタンパク質からなる群から選択される、態様1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
[態様3]
前記少なくとも1種のpH調節剤が、アルギニン、ヒスチジン、およびチロシンからなる群から選択される、態様1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
[態様4]
前記少なくとも1種のpH調節剤が、リシンである、態様1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
[態様5]
前記pH調節剤が、前記ポリ(グリセロールセバシン酸)を架橋する、態様1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
[態様6]
前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物を含有する緩衝水溶液のpHの前記ポリ(グリセロールセバシン酸)の分解によって引き起こされる低下を低減させる、態様1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
[態様7]
前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記ポリ(グリセロールセバシン酸)のポリマーマトリックスに分散されている、態様1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
[態様8]
前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記ポリ(グリセロールセバシン酸)に共有結合している、態様1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
[態様9]
pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物が樹脂である、態様1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
[態様10]
pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物が熱硬化物質である、態様1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
[態様11]
pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物がコーティングである、態様1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
[態様12]
pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物が微粒子である、態様1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
[態様13]
pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物が足場である、態様1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
[態様14]
pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物が繊維である、態様1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
[態様15]
前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して、約5重量%またはそれより多くの量で、前記pH調節ポリ(グリセ
ロールセバシン酸)組成物中に存在する、態様1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
[態様16]
前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して、約10重量%またはそれより多くの量で、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物中に存在する、態様1に記載のpH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物。
[態様17]
pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物を製造するプロセスであって、水が媒介する反応によって、グリセロールおよびセバシン酸からポリ(グリセロールセバシン酸)を形成すること、および少なくとも1種のpH調節剤を、該ポリ(グリセロールセバシン酸)と結びつけることを含む、上記プロセス。
[態様18]
前記形成が、グリセロール、セバシン酸、および水を含有する反応容器を加熱し、反応容器から水を除去することを含む、態様17に記載のプロセス。
[態様19]
前記結びつけることが、前記ポリ(グリセロールセバシン酸)を、前記少なくとも1種のpH調節剤と架橋させることをさらに含む、態様17に記載のプロセス。
[態様20]
前記結びつけることが、前記ポリ(グリセロールセバシン酸)のポリマーマトリックス中に、前記少なくとも1種のpH調節剤を分散させることをさらに含む、態様17に記載のプロセス。
[態様21]
前記少なくとも1種のpH調節剤が、無機塩、アミノ酸、およびタンパク質からなる群から選択される、態様17に記載のプロセス。
[態様22]
前記少なくとも1種のpH調節剤が、アルギニン、ヒスチジン、およびチロシンからなる群から選択される、態様17に記載のプロセス。
[態様23]
前記少なくとも1種のpH調節剤が、リシンである、態様17に記載のプロセス。
[態様24]
前記結びつけることが、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して、約5重量%またはそれより多くの量の前記少なくとも1種のpH調節剤を結びつけることを含む、態様17に記載のプロセス。
[態様25]
前記結びつけることが、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して、約10重量%またはそれより多くの量の前記少なくとも1種のpH調節剤を結びつけることを含む、態様17に記載のプロセス。
[態様26]
緩衝水溶液中に、pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物を配置することを含む、緩衝水溶液のpHを調節するプロセスであって、該pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物は、ポリ(グリセロールセバシン酸)および該ポリ(グリセロールセバシン酸)に結びついた少なくとも1種のpH調節剤を含み、該pH調節剤は、該ポリ(グリセロールセバシン酸)の分解中に該緩衝水溶液に放出されて、該ポリ(グリセロールセバシン酸)の分解によって引き起こされる該緩衝水溶液のpH低下を低減する、上記プロセス。
[態様27]
前記緩衝水溶液中に前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物を配置する前に、前記緩衝水溶液が、7.0~7.7の範囲のpHを有する、態様26に記載のプロセス。
[態様28]
前記少なくとも1種のpH調節剤が、無機塩、アミノ酸、およびタンパク質からなる群から選択される、態様26に記載のプロセス。
[態様29]
前記少なくとも1種のpH調節剤が、アルギニン、ヒスチジン、およびチロシンからなる群から選択される、態様26に記載のプロセス。
[態様30]
前記少なくとも1種のpH調節剤が、リシンである、態様26に記載のプロセス。
[態様31]
前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して、約5重量%またはそれより多くの量で、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物中に存在する、態様26に記載のプロセス。
[態様32]
前記少なくとも1種のpH調節剤が、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物の重量に対して、約10重量%またはそれより多くの量で、前記pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)組成物中に存在する、態様26に記載のプロセス。
[態様33]
pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)樹脂を形成するプロセスであって、
反応容器中のグリセロール、セバシン酸、および水にpH調節剤を充填すること;
該反応容器を、該反応容器の内容物が溶融するまで、冷水の還流下で加熱すること;
窒素のパージ下で、水を蒸留して除くこと;および
該反応容器を、約120℃~130℃で約6時間~8時間維持して、pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)樹脂を形成すること
を含み、
該pH調節剤は、該pH調節ポリ(グリセロールセバシン酸)樹脂より5重量%多い、上記プロセス。