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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】フルオロエラストマー硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 259/08 20060101AFI20230908BHJP
   C08K 5/3467 20060101ALI20230908BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20230908BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20230908BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20230908BHJP
【FI】
C08F259/08
C08K5/3467
C08L27/12
C08L27/18
C08F2/44 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020542725
(86)(22)【出願日】2019-02-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 EP2019052679
(87)【国際公開番号】W WO2019154765
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-01-04
(31)【優先権主張番号】18156108.5
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チェルニショワ, リュボーフ
(72)【発明者】
【氏名】バイゲラー, リディア マリア
(72)【発明者】
【氏名】バッシ, マッティア
(72)【発明者】
【氏名】ラニエリ, 二コラ
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第01/016234(WO,A1)
【文献】特開2002-256204(JP,A)
【文献】特表2009-545652(JP,A)
【文献】米国特許第06974845(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 259/08
C08K 5/05
C08K 5/3467
C08K 5/53
C08L 27/12
C08L 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- ヨウ素硬化部位を含む少なくとも1種の(パー)フルオロエラストマー[フルオロエラストマー(A)];
- フルオロエラストマー(A)を基準として6.010.0phrの量で存在する、式:
(式中、
- R のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、酸素、窒素、硫黄からなる群から選択される1個又は2個のヘテロ原子を含んでいてもよいC~C 炭化水素基であり;
- jは、ゼロ又は1~3の整数であり;
- Eは、三価
又は三価
であり、R はメチル基又はエチル基であり;
- R は、E
の場合はR がメチル基又はエチル基であることを条件として、フェニル、メチル基、又はエチル基であり;
- R は、水素原子であるか、メチル基及びエチル基から選択される);
の少なくとも1種の光開始剤[開始剤(P)]、
並びに
- (U-1)一般式:
(式中、Risocyのそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、H、又は基-Rrisocy若しくは-ORrisocyから独立に選択され、Rrisocyはハロゲンを含んでいてもよいC~Cアルキルであり、各Jisocyは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、結合、又は任意選択的にヘテロ原子を含んでいてもよい二価の炭化水素基から独立して選択される)
の三置換イソシアヌレート化合物;
及び
- (U-2)一般式:
(式中、Rcyのそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、H、又は基-Rrcy若しくは-ORrcyから独立に選択され、Rrcyはハロゲンを含んでいてもよいC~Cアルキルであり、各Jcyは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、結合、又は任意選択的にヘテロ原子を含んでいてもよい二価の炭化水素基から独立して選択される)
の三置換シアヌレート化合物;
から選択される、フルオロエラストマー(A)を基準として2.5~15.0phrの量で存在する、少なくとも1種の多価不飽和化合物[化合物(U)];
を含有する組成物[組成物(C)]。
【請求項2】
前記少なくとも1種の光開始剤(P)が、式:
(式中、
- R 及びR は、互いに等しいか又は異なり、独立にメチル基又はエチル基であり;
のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、酸素、窒素、硫黄からなる群から選択される1個又は2個のヘテロ原子を含んでいてもよいC~C 炭化水素基であり;
- jは、ゼロ又は1~3の整数である
の少なくとも1種の光開始剤[開始剤(P-1)]であり、
前記開始剤(P-1)が、フルオロエラストマー(A)を基準として6.010.0phrの量で存在する、請求項1に記載の組成物(C)。
【請求項3】
前記少なくとも1種の光開始剤が、式:
(式中、
1’ のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、酸素、窒素、硫黄からなる群から選択される1個又は2個のヘテロ原子を含んでいてもよいC~C 炭化水素基であり;
- R2’ は、メチル基、エチル基、及びフェニル基から選択される基であり;
- R3’ は、メチル基及びエチル基から選択される基であり;
- j’は、ゼロ又は1~3の整数である
の少なくとも1種の光開始剤[開始剤(P-2)]であり、
前記開始剤(P)が、フルオロエラストマー(A)を基準として6.010.0phrの量で存在する、請求項1に記載の組成物(C)。
【請求項4】
前記フルオロエラストマー(A)が、少なくとも1種の(パー)フッ素化モノマー由来の繰り返し単位を含み、前記(パー)フッ素化モノマーが、
~Cフルオロ-及び/又はパーフルオロオレフィン;
- C~C水素化モノフルオロオレフィン;
- 1,2-ジフルオロエチレン、フッ化ビニリデン(VDF)及びトリフルオロエチレン(TrFE);
- 式CH=CH-Rf0(式中、Rf0は、C~C(パー)フルオロアルキル又は1個以上のエーテル基を有するC~C(パー)フルオロオキシアルキルである)に従う(パー)フルオロアルキルエチレン;
ロロ-及び/又はブロモ-及び/又はヨード-C~Cフルオロオレフィン;
- 式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cフルオロ-又はパーフルオロアルキルである)に従うフルオロアルキルビニルエーテル;
- 式CH=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cフルオロ-又はパーフルオロアルキルである)に従うヒドロフルオロアルキルビニルエーテル;
- 式CF=CFOX(式中、Xは、1個以上のエーテル基を有するC~C12オキシアルキル、又はC~C12(パー)フルオロオキシアルキルである)に従うフルオロ-オキシアルキルビニルエーテル;
- 式CF=CFOY(式中、Yは、C~C12アルキル若しくは(パー)フルオロアルキル、又はC~C12オキシアルキル若しくはC~C12(パー)フルオロオキシアルキルであり、前記Y基は、カルボン酸基又はスルホン酸基を、その酸、酸ハライド若しくは塩形態で含む)に従う官能性フルオロ-アルキルビニルエーテル;
- 式:
(式中、互いに等しいか又は異なる、Rf3、Rf4、Rf5、Rf6の各々は、独立して、フッ素原子、1つ以上の酸素原子を任意選択で含むC~Cフルオロ-又はパー(ハロ)フルオロアルキルである)の(パー)フルオロジオキソール;
からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物(C)。
【請求項5】
前記フルオロエラストマー(A)が、
(1)VDF系コポリマー(この中のVDFは、
(a)C ~Cパーフルオロオレフィン;
(b)水素含有C~Cオレフィン;
(c)ヨウ素、塩素及び臭素の少なくとも1つを含む、C~Cフルオロオレフィン;
(d)式CF=CFOR(式中、Rは、C~C(パー)フルオロアルキル基である)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル(PAVE);
(e)式CF=CFOX(式中、Xは、カテナリー酸素原子を含むC~C12((パー)フルオロ)-オキシアルキルである)の(パー)フルオロ-オキシ-アルキルビニルエーテル;
(f)式:
(式中、互いに等しいか又は異なる、Rf3、Rf4、Rf5、Rf6の各々は、独立して、フッ素原子、及び任意選択で1個又は2個以上の酸素原子を含む、C~C(パー)フルオロアルキル基からなる群から選択される)を有する(パー)フルオロジオキソール;
(g)式:
CF=CFOCFORf2
を有する(パー)フルオロ-メトキシ-ビニルエーテル(MOVE)
(式中、Rf2は、C~C(パー)フルオロアルキル;C~C環状(パー)フルオロアルキル;及び少なくとも1つのカテナリー酸素原子を含むC~C(パー)フルオロオキシアルキルからなる群から選択される);
(h)C~C非フッ素化オレフィン(Ol
からなる群から選択される少なくとも1種の追加のコモノマーと共重合されている);並びに
(2)TFE系コポリマー(ここで、TFEは、上で詳述されたとおりの(c)、(d)、(e)、(g)、(h)及び(i)からなる群から選択される少なくとも1種の追加のコモノマーと共重合されている);
の中で選択される、請求項4に記載の組成物(C)。
【請求項6】
フルオロエラストマー(A)が、ヨウ素含有量がフルオロエラストマー(A)の総重量に対して0.04~10重量%になる量でヨウ素硬化部位を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物(C)。
【請求項7】
化合物(U)が、トリアリルイソシアヌレート(「TAIC」とも呼ばれる)及びトリビニルイソシアヌレートからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物(C)。
【請求項8】
前記化合物(U)の量がフルオロエラストマー(A)の100重量部当たり3.012重量部(phr)の範囲である、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物(C)。
【請求項9】
アセトン、メチルエチルケトン;アセトニトリル、ジメチルホルマミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP);酢酸エチル;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒を追加的に含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物(C)。
【請求項10】
前記組成物(C)が、グルタル酸エステル、アジピン酸エステル、マレイン酸エステル、アゼライン酸エステル、セバシン酸エステル、トリメリット酸エステル、クエン酸エステル、リン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の可塑剤(P)を含有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物(C)。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物(C)を硬化させることを含む、成形品の製造方法。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物(C)から得られる硬化した物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年2月9日に出願の欧州特許出願第18156108.5号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、低温で架橋する能力を有する特定のフルオロエラストマー組成物、それらの製造方法、それらの硬化方法、及びそれらから成形された硬化物品に関する。
【背景技術】
【0003】
加硫(パー)フルオロエラストマーは、優れた耐熱性と耐薬品性を備えた材料であり、一般的に、オイルシール、ガスケット、シャフトシール、及びO-リングなどのシーリング物品の製造に使用されており、これらの密封性、機械的特性、及び物質(鉱油、油圧流体、溶剤、又は多様な性質の化学薬品など)に対する耐性は、低温から高温までの幅広い動作温度にわたって保証されなければならず、また材料は純度、プラズマ耐性、及び粒子放出の点で厳しい要件を満たすことが求められ得る。
【0004】
しかしながら、(パー)フルオロエラストマーがこれらの特有の特性及び利点を発現するためには、べたつきのあるゴム状の又は更には粘着性のフルオロゴム前駆体を硬化又は加硫された材料に変換するために非常に極端な硬化条件を適用しなければならない。
【0005】
ニトリルゴム、シリコーンゴム、アクリルゴムなどのゴムは高温で硬化されることが一般的である一方で、(パー)フルオロエラストマーの硬化温度は、非フルオロカーボンエラストマーの硬化温度よりも一般的に高いと認識されており、通常約160℃から約180℃又はそれ以上の範囲である。
【0006】
(パー)フルオロエラストマーを硬化するために必要とされる高温のため、(パー)フルオロエラストマーを含有するコンパウンドは、例えばマルチショット成形プロセスなどにおいて他のプラスチックや他のタイプのエラストマーと共に成形又は加工することが困難であり、「現場硬化」技術は適用することが困難である。
【0007】
実際、自動車のエンジン及び関連する機械部品(オイルパンやトランスミッションなど)の組み立て技術においては、フランジ周りでガスやオイルの漏れを防ぐために、液体ガスケットとして知られているシリコーンシーリング材料が使用されている。液体ガスケット材料は、一般的に、塗布ロボットを使用して、シールする合わせ面のうちの1つにビーズの形態で塗布される。硬化の前又は後に、ビーズは合わせ面の間で加圧され、ガスケットが所定の位置に形成される。このようにして得られるガスケットシーリング系は、一般的に現場施工型ガスケット(FIPG)と呼ばれている。FIPGは、省エネルギー、省資源、部品のサイズと重量の削減、及び処理工程の削減に貢献するため、自動車産業だけでなく多くの産業分野で利用されている。ゴム材料をFIPGの処理要件と適合させるためには、それらが使用される領域応じて、耐熱性及び耐薬品性(エンジンオイル、ギアオイル、トランスミッションオイル、又はLLCに対する耐性など)を有するガスケットを提供する能力と共に、低い硬化温度と高い硬化速度が確実に重要である。性能の観点からは、(パー)フルオロエラストマーは、確かに優れた候補であるものの、シリコーンを主体とするシーラントで達成できるのと同じくらい簡単に加工及び硬化する能力に関しては現在不足している。
【0008】
これらの状況下、UV照射を利用してより低い温度で(パー)フルオロエラストマーを硬化させるための解決手段を提供する試みが当該技術分野で既に行われている。米国特許第6803391号明細書(DUPONT DOW ELASTOMERS LLC)12/10/2004には、UV照射の作用で硬化可能であり、処理条件で熱的に安定な組成物が開示されており、これは、ヨウ素、塩素、又は臭素を含む基などの硬化部位を持つフルオロエラストマーと、多官能性架橋剤と、UV開始剤とから製造されている。この文献は、高レベルの光開始剤が貫入を妨害する傾向があり、全体の架橋密度にあまり寄与しないことから、0.5~2.5重量パーセント、最も好ましくは0.5~1.0重量パーセントのUV開始剤を使用することが好ましいことを教示している。この文献の実施形態は、臭素含有フルオロエラストマー;架橋剤としてのトリメチロールプロパントリアクリレート;及び0.5重量部の1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルフェニルホスフィンオキシドとの混合物;に基づくフルオロエラストマーコンパウンド(IRGACURE(登録商標)光開始剤として市販されている)を提供する。その結果得られる硬化した材料の機械的特性は若干欠点を有する一方で、これらのコンパウンドは臭素の存在のために着色の問題を有している。更に、アクリレートに基づく架橋剤を使用するため、そのようなアクリル基の存在は、硬化した材料を熱劣化の問題にさらすようなものである。
【0009】
加えて、米国特許第6974845号明細書(DAIKIN INDUSTRIES,LTD.)13/12/2005には、ヨウ素基を有するフルオロエラストマーと、光開始剤と、多官能性不飽和化合物とを含有する紫外線架橋性ポリマー組成物が開示されている。この文献の実施形態は特にコンパウンドの代表例であるが、ヨウ素含有フルオロエラストマーには、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトン、及びベンゾフェノンからなる群から選択される光開始剤と、トリメチロールプロパントリアシレート及びトリアリルイソシアヌレートから選択される多官能性不飽和化合物とが配合されており、これら全てのコンパウンドは、UV照射により硬化させると、100%の伸びで強度が低く、破断伸びが非常に大きい、すなわち機械的特性が不十分な硬化部品が得られた。
【0010】
国際公開第2008/019078号パンフレット(DUPONT DE NEMOURS)14/02/2008は、フルオロエラストマー、架橋剤、オキシシラン、開始剤、及び固体ナノシリカの反応生成物である、光学ディスプレイ基板用の反射防止コーティングとして有用な低屈折率組成物に関する。
【0011】
現在、特に5MPaを超える引張強さであると同時に約150~300%の破断伸びであることなどの改善された機械的特性を有する硬化部品を与え、UV照射下で低温で硬化する能力を有する、フルオロエラストマーコンパウンドは依然として当該技術分野において未達である。
【0012】
本発明は、これらの組成物に由来する物品の機械的特性を損なうことなくUV照射下で低温で迅速に硬化することができる、(パー)フルオロエラストマーの組成物を提供する。これらの(パー)フルオロエラストマーは低粘度を示す場合もあり、これは、ミリングや成形の用途、及び現場硬化の用途に有用であり得る。本明細書で開示される組成物は、例えばフィラー、酸受容体、加工助剤、又は着色剤などの1種以上の従来の補助剤も含み得る。
【発明の概要】
【0013】
出願人は、今回、ヨウ素含有(パー)フルオロエラストマーと、明確な量の特定の組み合わせの所定の光開始剤及び架橋剤とを含有する特定のUV硬化性組成物が、上述した問題を解決することができ、また低温UV硬化により優れた機械的特性を有する架橋した部品を生み出すのに特に有効であることを見出した。
【0014】
従って、本発明は、
- ヨウ素硬化部位を含む少なくとも1種の(パー)フルオロエラストマー[フルオロエラストマー(A)];
- フルオロエラストマー(A)を基準として4.0~15.0phrの量で存在する、式:
(式中、
- R のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、酸素、窒素、硫黄からなる群から特に選択される1個又は2個以上のヘテロ原子を含んでいてもよいC~C12炭化水素基であり;
- jはゼロ又は1~3の整数であり;
- Eは、三価の=P(=O)-基又は三価の=C(R )-基であり、R はメチル基又はエチル基であり;
- R は、Eが=C(R )-の場合はR がメチル基又はエチル基であることを条件として、フェニル、メチル基、又はエチル基であり;
- R は、水素原子であるか、メチル基及びエチル基から選択される);
の少なくとも1種の光開始剤[開始剤(P)]、
並びに
- (U-1)一般式:
(式中、Risocyのそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、H、又は基-Rrisocy若しくは-ORrisocyから独立に選択され、Rrisocyはハロゲンを含んでいてもよいC~Cアルキルであり、各Jisocyは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、結合、又は任意選択的にヘテロ原子を含んでいてもよい二価の炭化水素基から独立して選択される);
の三置換イソシアヌレート化合物、及び
- (U-2)一般式:
(式中、Rcyのそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、H、又は基-Rrcy若しくは-ORrcyから独立に選択され、Rrcyはハロゲンを含んでいてもよいC~Cアルキルであり、各Jcyは、互いに等しいか又は異なり、各存在において、結合、又は任意選択的にヘテロ原子を含んでいてもよい二価の炭化水素基から独立して選択される);
の三置換シアヌレート化合物
から選択される、フルオロエラストマー(A)を基準として2.5~15.0phrの量で存在する、少なくとも1種の多価不飽和化合物[化合物(U)];
を含有する組成物[組成物(C)]に関する。
【0015】
出願人は、驚くべきことに、上で詳述した量の特定の上述した化合物の組み合わせ、すなわちイソシアヌレートに基づく多価不飽和化合物と光開始剤との組み合わせが、均等開裂を引き起こし、特に高反応性の短鎖で置換された(R )(R )C(OR )・炭素ラジカル又は高反応性のリンに基づく(R )P(=O)(OR )・ラジカルの形成により、UV照射後に高い架橋密度(UV照射後に85%を超えるXLフラクション)、100%の伸びでの高弾性率(典型的には4MPa以上)、及び適切な破断伸び(典型的には少なくとも150%、最大300%)を有する架橋した部品を与える硬化性ブレンドを提供することを見出した。更に、熱的に非常に安定なシアヌレート又はイソシアヌレート環を含む上で詳述した多価不飽和化合物(U)を使用すると、分解/変色の現象なしに、最終部品の良好な着色が保証される。
【0016】
本発明の目的のためには、用語「(パー)フルオロエラストマー」[フルオロエラストマー(A)]は、真のエラストマーを得るための基本構成成分として役立つフルオロポリマー樹脂を指すことが意図され、前記フルオロポリマー樹脂は、10重量%超、好ましくは30重量%超の、少なくとも1個のフッ素原子を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマー(以下、(パー)フッ素化モノマー)に由来する繰り返し単位、及び任意選択により、フッ素原子を含まない少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマー(以下、水素化モノマー)に由来する繰り返し単位を含む。
【0017】
真のエラストマーは、ASTM、Special Technical Bulletin、第184規格により、室温でその固有長さの2倍に伸長でき、それらを5分間張力下に保持した後、解放すると、同時にその初期長さの10%以内に戻る材料として定義されている。
【0018】
通常、フルオロエラストマー(A)は、少なくとも1種の(パー)フッ素化モノマー由来の繰り返し単位を含み、前記(パー)フッ素化モノマーは、通常:
- テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン、及びヘキサフルオロイソブチレンなどの、C~Cフルオロ-及び/又はパーフルオロオレフィン;
- C~C水素化モノフルオロオレフィン、例えば、フッ化ビニル;
1,2-ジフルオロエチレン、フッ化ビニリデン(VDF)、及びトリフルオロエチレン(TrFE);
- 式CH=CH-Rf0(式中、Rf0は、C~C(パー)フルオロアルキル又は1個以上のエーテル基を有するC~C(パー)フルオロオキシアルキルである)に従う(パー)フルオロアルキルエチレン;
- クロロトリフルオロエチレン(CTFE)のような、クロロ-及び/又はブロモ-及び/又はヨード-C~Cフルオロオレフィン;
- 式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cフルオロ-又はパーフルオロアルキル、例えば、-CF、-C、-Cである)に従うフルオロアルキルビニルエーテル;
- 式CH=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cフルオロ-又はパーフルオロアルキル、例えば、-CF、-C、-Cである)に従うヒドロフルオロアルキルビニルエーテル;
- 式CF=CFOX(式中、Xは、1個以上のエーテル基を有するC~C12オキシアルキル、又はC~C12(パー)フルオロオキシアルキルである)に従うフルオロ-オキシアルキルビニルエーテル;特に式CF=CFOCFORf2(式中、Rf2は、C~Cフルオロ-又はパーフルオロアルキル、例えば、-CF、-C、-C又は-C-O-CFのような、1個以上のエーテル基を有するC~C(パー)フルオロオキシアルキルである)に従う(パー)フルオロ-メトキシ-ビニルエーテル;
- 式CF=CFOY(式中、Yは、C~C12アルキル若しくは(パー)フルオロアルキル、又はC~C12オキシアルキル若しくはC~C12(パー)フルオロオキシアルキルであり、前記Y基は、カルボン酸基又はスルホン酸基を、その酸、酸ハライド若しくは塩形態で含む)に従う官能性フルオロ-アルキルビニルエーテル;
- 式:
(式中、互いに等しいか又は異なる、Rf3、Rf4、Rf5、Rf6の各々は、独立して、フッ素原子、1つ以上の酸素原子を任意選択で含むC~Cフルオロ-又はパー(ハロ)フルオロアルキル、例えば-CF、-C、-C、-OCF、-OCFCFOCFである)の(パー)フルオロジオキソール;
からなる群から選択される。
【0019】
水素化モノマーの例は、とりわけ、エチレン、プロピレン、1-ブテンを含む水素化アルファ-オレフィン、ジエンモノマー、スチレンモノマーであり、アルファ-オレフィンが通常使用される。
【0020】
フルオロエラストマー(A)は、一般に、非晶質生成物、つまり低い結晶化度(20体積%未満の結晶相)及び室温未満のガラス転移温度(T)を有する生成物である。ほとんどの場合、フルオロエラストマー(A)は、有利には10℃未満、好ましくは5℃未満、より好ましくは0℃のTを有する。
【0021】
フルオロエラストマー(A)は、好ましくは、
(1)VDF系コポリマー(この中のVDFは、
(a)テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのC~Cパーフルオロオレフィン;
(b)水素含有C~Cオレフィン、例えば、フッ化ビニル(VF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、ヘキサフルオロイソブテン(HFIB)、式CH=CH-R(式中、Rは、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン;
(c)ヨウ素、塩素及び臭素の少なくとも1つを含む、C~Cフルオロオレフィン、例えば、クロロトリフルオロエチレン(CTFE);
(d)式CF=CFOR(式中、Rは、C~C(パー)フルオロアルキル基、好ましくは、CF、C、Cである)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル(PAVE);
(e)式CF=CFOX(式中、Xは、カテナリー酸素原子を含むC~C12((パー)フルオロ)-オキシアルキル、例えばパーフルオロ-2-プロポキシプロピル基である)の(パー)フルオロ-オキシ-アルキルビニルエーテル;
(f)式:
(式中、互いに等しいか又は異なる、Rf3、Rf4、Rf5、Rf6の各々は、独立して、フッ素原子、及び任意選択で1個又は2個以上の酸素原子を含む、C~C(パー)フルオロアルキル基、例えば、とりわけ-CF、-C、-C、-OCF、-OCFCFOCFからなる群から選択される)を有する(パー)フルオロジオキソール;好ましくはパーフルオロジオキソール;
(g)式:
CF=CFOCFORf2
を有する(パー)フルオロ-メトキシ-ビニルエーテル(以下、MOVE)
(式中、Rf2は、C~C(パー)フルオロアルキル;C~C環状(パー)フルオロアルキル;及び少なくとも1つのカテナリー酸素原子を含むC~C(パー)フルオロオキシアルキルからなる群から選択され;Rf2は、好ましくは-CFCF(MOVE1);-CFCFOCF(MOVE2);又は-CF(MOVE3)である);
(h)C~C非フッ素化オレフィン(Ol)、例えばエチレン及びプロピレン;
からなる群から選択される少なくとも1種の追加のコモノマーと共重合されている);並びに
(2)TFE系コポリマー(ここで、TFEは、上で詳述されたとおりの(c)、(d)、(e)、(g)、(h)及び(i)からなる群から選択される少なくとも1種の追加のコモノマーと共重合されている)
の中で選択される。
【0022】
任意選択で、本発明のフルオロエラストマー(A)は、一般式:
(式中、R、R、R、R、R及びRは、互いに等しいか又は異なり、H又はC~Cアルキルであり;Zは、好ましくは少なくとも部分的にフッ素化された、酸素原子を任意選択で含有する直鎖又は分岐のC~C18炭化水素基(アルキレン又はシクロアルキレン基を含む)、又は1つ以上のカテナリーエーテル性結合を含む(パー)フルオロ(ポリ)オキシアルキレン基である)
を有するビス-オレフィン[ビス-オレフィン(OF)]由来の繰り返し単位も含んでいてもよい。
【0023】
ビス-オレフィン(OF)は、好ましくは、式(OF-1)、(OF-2)、及び(OF-3):
(式中、jは、2~10、好ましくは4~8の整数であり、互いに等しいか又は異なるR1、R2、R3、R4は、H、F、又はC1~5アルキル若しくは(パー)フルオロアルキル基である);
(式中、互いに及び出現ごとに等しいか又は異なる、Aの各々は、独立して、F、Cl、及びHから選択され;互いに及び出現ごとに等しいか又は異なる、Bの各々は、独立して、F、Cl、H及びOR(式中、Rは、部分的に、実質的に又は完全にフッ素化又は塩素化されていることができる分岐又は直鎖のアルキルラジカルである)から選択され;Eは、エーテル結合が挿入されていてもよい、任意選択的にフッ素化された、2~10個の炭素原子を有する二価の基であり;好ましくは、Eは、mが3~5の整数である、-(CF-基である;(OF-2)タイプの好ましいビス-オレフィンは、FC=CF-O-(CF-O-CF=CFである);
(式中、E、A、及びBは上記で定義されたものと同じ意味を有し;互いに等しいか又は異なるR5、R6、R7は、H、F又はC1~5アルキル若しくは(パー)フルオロアルキル基である)
に従うものからなる群から選択される。
【0024】
特定の好ましい実施形態によれば、フルオロエラストマー(A)は、有利には少なくとも3000及び/又は有利には最大45000の数平均分子量を有する。
【0025】
上で列挙した分子量を有しそのため低粘度のフルオロエラストマー(A)を使用すると、組成物(C)が、液体射出成形、スクリーン印刷、及び/又は現場施工技術による処理に特に適したものになる。これらの技術を使用することの課題は、合理的な処理速度及び適度に穏やかな処理条件で必要とされる機械的特性及びシーリング特性を有する完成品を得るために優れた硬化能力を確保しながらも、モールド中、ロールコーティング中、及び/又はディスペンサーノズル内の材料の適切な流動を有利に確保するために、フルオロエラストマー(A)の適切な低い液体粘度を実際に同時に達成することである。
【0026】
数平均分子量(M)は、数学的には以下のように定義される:
(式中、Nは、長さMを有する鎖のモル数であり;数平均分子量は、通常単分散ポリスチレン標準に対して、溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を使用して、GPCによって決定される)。
【0027】
とりわけGPCで測定することができる他の分子パラメータは、重量平均分子量(M):
及び
多分散指数(PDI)であり、多分散指数は本明細書では数平均分子量(M)に対する重量平均分子量(M)の比率として表現される。
【0028】
この実施形態のフルオロエラストマー(A)の数平均分子量は、好ましくは少なくとも5000、より好ましくは少なくとも6000、更により好ましくは少なくとも10000である。
【0029】
この実施形態のフルオロエラストマー(A)の数平均分子量は、好ましくは最大でも40000、より好ましくは最大でも35000、更により好ましくは最大でも30000である。
【0030】
別の好ましい実施形態によれば、フルオロエラストマー(A)は、45000を超える、好ましくは50000~500000の数平均分子量を有する。このタイプのフルオロエラストマーは、汎用技術によって処理することができ、及び/又は流動し易くするために溶媒又は可塑剤と混合することができる。
【0031】
前述したように、フルオロエラストマー(A)はヨウ素硬化部位を含む。
【0032】
通常、ヨウ素及び/又は臭素硬化部位の量は、ヨウ素含有量がフルオロエラストマー(A)の総重量に対して0.04~10.0重量%になるような量である。
【0033】
これらの硬化部位は、フルオロエラストマー(A)ポリマー鎖の主鎖に結合されたペンダント基として含まれていてもよく、或いは前記ポリマー鎖の末端基として含まれていてもよい。
【0034】
第1の実施形態によれば、ヨウ素硬化部位は、フルオロエラストマー(A)ポリマー鎖の主鎖に対して結合されたペンダント基として含まれ;この実施形態によるフルオロエラストマー(A)は、通常、
- 2~10個の炭素を含むヨードアルファ-オレフィン;
- ヨードフルオロアルキルビニルエーテル(とりわけ、米国特許第4564662号明細書(MINNESOTA MINING)(1986年1月14日)及び欧州特許出願公開第199138A号明細書(DAIKIN IND LTD)(1986年10月29日)の特許に記載のとおり);
から選択される臭素化及び/又はヨウ素化硬化部位コモノマーに由来する繰り返し単位を含む。
【0035】
第2の好ましい実施形態によれば、ヨウ素硬化部位は、フルオロエラストマー(A)ポリマー鎖の末端基として含まれ;この実施形態によるフルオロエラストマーは、通常、
- ヨウ素連鎖移動剤;好適な鎖-鎖移動剤は、典型的には式R(I)(Br)(式中、Rは、1~8個の炭素原子を含有する(パー)フルオロアルキル又は(パー)フルオロクロロアルキルである一方で、x及びyは、1≦x+y≦2の0~2の整数である)のものである(例えば米国特許第4243770号明細書(DAIKIN IND LTD)(1981年1月6日)及び米国特許第4943622号明細書(NIPPON MEKTRON KK)(1990年7月24日)を参照されたい);並びに
- とりわけ米国特許第5173553号明細書(AUSIMONT SRL)(1992年12月22日)に記載のものなどの、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ヨウ化物;
のうちの少なくとも1つのフルオロエラストマー(A)製造中の重合媒体への添加によって得られる。
【0036】
有利には、許容される反応性を確保するために、フルオロエラストマー(A)中のヨウ素の含有量がフルオロエラストマー(A)の合計重量に対して少なくとも0.05重量%、好ましくは少なくとも0.06重量%でなければならないということが通常理解される。
【0037】
他方で、フルオロエラストマー(A)の合計重量に対して、好ましくは7重量%を超えない、より具体的には5重量%を超えない、又は更には4重量%を超えないヨウ素の量は、通常副反応及び/又は熱安定性に対する悪影響を回避するために選択されるものである。
【0038】
組成物(C)は、上述のように1種又は2種以上の化合物(U)を含み得る。
【0039】
三置換イソシアヌレート化合物(U-1)の中では、特にトリアリルイソシアヌレート(「TAIC」とも呼ばれる)、トリビニルイソシアヌレートを挙げることができ、TAICが最も好ましい。
【0040】
三置換シアヌレート化合物(U-2)の中では、特にトリアリルシアヌレート及びトリビニルシアヌレートを挙げることができる。
【0041】
好ましくは、化合物(U)はTAICである。
【0042】
化合物(U)の量は、通常、フルオロエラストマー(A)の100重量部当たり2.5~15.0重量部(phr)の範囲であり、好ましくはフルオロエラストマー(A)の100重量部当たり3.0~12重量部の範囲であり、より好ましくはフルオロエラストマー(A)の100重量部当たり3.0~10重量部の範囲である。
【0043】
第1の実施形態によれば、前記少なくとも1種の光開始剤(P)は、式:
(式中、
- R 及びR は、互いに等しいか又は異なり、独立にメチル基又はエチル基であり、好ましくは両方がメチル基であり;
- 各R は、互いに等しいか又は異なり、特に酸素、窒素、硫黄からなる群から選択される1個又は2個以上のヘテロ原子を含んでいてもよいC~C12炭化水素基であり;
- jは、ゼロ又は1~3の整数であり、好ましくはゼロである)
の少なくとも1種の光開始剤[開始剤(P-1)]であり、
前記開始剤(P-1)は、フルオロエラストマー(A)を基準として4.0~15.0phrの量で存在する。
【0044】
好ましくは、開始剤(P-1)は、式中のjがゼロであり、R 及びR である上の式を満たす化合物、すなわち2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オンであり、これは特に商品名DAROCUR(登録商標)1173として市販されているが、他の供給元から供給されている場合もある。
【0045】
第2の実施形態によれば、組成物(C)は、式:
(式中、
- 各R1’ は、互いに等しいか又は異なり、特に酸素、窒素、硫黄からなる群から選択される1個又は2個以上のヘテロ原子を含んでいてもよいC~C12炭化水素基であり;
- R2’ は、メチル基、エチル基、及びフェニル基から選択される基であり;
- R3’ は、メチル基及びエチル基から選択される基であり;
- j’は、ゼロ又は1~3の整数であり、好ましくはゼロである)
の少なくとも1種の光開始剤[開始剤(P-2)]を含有し、
前記開始剤(P)は、フルオロエラストマー(A)を基準として4.0~15.0phrの量で存在する。
【0046】
好ましくは、開始剤(P-2)は、式中のjが3であり、各R1’ がメチル基であり、前記R1’ 基がカルボニル基に対してオルト位及びパラ位に位置しており、R2’ がフェニル基であり、R3’ がエチルである上の式に従う化合物、すなわち2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィネートであり、これは特にIRGACURE(登録商標)TPO-Lの商品名で市販されているが、他の供給元から供給されている場合もある。
【0047】
開始剤(P)の量は、通常、フルオロエラストマー(A)の100重量部当たり4.0~15.0重量部(phr)の範囲であり、好ましくはフルオロエラストマー(A)の100重量部当たり5.0~12.0重量部の範囲であり、より好ましくはフルオロエラストマー(A)の100重量部当たり6.0~10.0重量部の範囲である。フルオロエラストマー(A)を基準として約9.0phrの量の開始剤(P)を使用すると、非常に優れた結果が得られた。
【0048】
組成物(C)は更に、フルオロエラストマーの硬化において一般的に使用され得る成分を追加して含んでいてもよく;より具体的には、組成物(C)は、通常、
(a)フルオロエラストマー(A)の100重量部に対して、通常0.5~15.0phr、好ましくは1~10phr、より好ましくは1~5phrの量の、1種又は2種以上の金属塩基性化合物;金属塩基性化合物は、通常、(j)二価金属の酸化物又は水酸化物、例えばMg、Zn、Ca又はPbの酸化物又は水酸化物、並びに(jj)弱酸の金属塩、例えばBa、Na、K、Pb、Caのステアリン酸塩、安息香酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩又は亜リン酸塩からなる群から選択される;
(b)フルオロエラストマー(A)100重量部に対して通常0.5~15.0phr、好ましくは1~10.0phr、より好ましくは1~5phrの量での、金属塩基性化合物でない1種又は2種以上の酸受容体;これらの酸受容体は、通常窒素含有有機化合物、例えば、特に欧州特許出願公開第708797A号明細書(DU PONT)1996年5月1日に記載されたとおりの、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、オクタデシルアミンなどから選択される;
(c)フィラー、増粘剤、顔料、酸化防止剤、安定剤、加工助剤/可塑剤などの、他の従来の添加剤;
を更に含んでいてもよい。
【0049】
特定の実施形態によれば、組成物(C)は、少なくとも1種の有機溶媒を更に含んでいてもよく、適切な有機溶媒は、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン溶媒;アセトニトリル、ジメチルフルマミド(dimethylfrmamide)(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの極性溶媒;酢酸エチルなどのエステル;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテルであるが、これらに限定されない。より好ましい溶媒は、アセトン及びメチルエチルケトンである。
【0050】
特定の別の実施形態によれば、組成物(C)は、通常フルオロゴムについて公知のものから選択される少なくとも1種の可塑剤(P)を含んでいてもよい。可塑剤(P)は、通常、グルタル酸エステル(例えばグルタル酸ジイソデシル)、アジピン酸エステル(例えばアジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジメチル、アジピン酸モノメチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジブトキシエトキシエチル、アジピン酸ジブトキシエチル、アジピン酸ジイソデシル)、マレイン酸エステル(例えばマレイン酸ジブチル、マレイン酸ジイソブチル)、アゼライン酸エステル、セバシン酸エステル(例えばセバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル)、トリメリット酸エステル(例えばトリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル)、クエン酸エステル(例えばクエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、クエン酸トリオクチル、クエン酸アセチルトリオクチル、クエン酸トリヘキシル、クエン酸アセチルトリヘキシル)、リン酸エステル(例えばリン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル)などのエステル系可塑剤の中から選択される。
【0051】
組成物(C)は、任意の公知の混合方法によって調製することができる。フルオロエラストマー(A)が高粘度エラストマーである場合、混練は、オープンロール又はニーダーミキサーなどの密閉式ミキサーで行うことができ、低粘度のフルオロエラストマー(A)では、プラネタリーミキサーやポータブルミキサーなどで行う場合に、混合をより効果的にすることができる。更に、上で詳述したような有機溶媒が存在する場合、混合は、任意の撹拌容器などの液体混合に適した適切な混合デバイスにより行うことができる。
【0052】
組成物(C)は、開始剤(P)を活性化させる光エネルギーへの曝露が実質的に生じ得ない条件下で調製することが通常推奨される。
【0053】
本発明はまた、上で記載されたような、組成物(C)を硬化させることを含む、成形品の製造方法にも関する。
【0054】
組成物(C)は、例えば、成形(射出成形、押出成形)、カレンダー加工、コーティング、スクリーン印刷、現場施工によって、望まれる成形品へと加工することができ、成形品は、有利には、加工それ自体中に及び/又はその後の工程(後処理又は後硬化)において加硫(硬化)を受け、有利には、比較的柔らかく、弱い、フルオロエラストマー未硬化組成物を、非粘着性の、強い、不溶性の、耐化学薬品性の、且つ耐熱性の硬化したフルオロエラストマー材料でできた完成品へ変換される。
【0055】
本発明の方法は、UV放射への曝露下で硬化させることを含む。
【0056】
適切な紫外線は、420~150nm、好ましくは400~200nmの波長を有するものである。通常、硬化反応を起こすために使用される放射の波長スペクトルは、UV開始剤の吸収極大に対応するように選択される。
【0057】
適切なUV源としては、中圧水銀ランプ、無電極ランプ、パルスキセノンランプ、ハイブリッドキセノン/水銀ランプ、及び紫外範囲の放射を放出するように設計された発光ダイオード(LED)が挙げられる。
【0058】
照射量は、通常、組成物(C)を硬化させるのに十分であるように選択され、線量は、通常予め成形された形態の組成物(C)のUV源からの距離、曝露時間、及びUV源の出力レベルに依存する。
【0059】
必要な照射量は、日常的な実験に従って当業者が決定することができる。通常、許容できる硬化度は、約800Wの出力を供給するUV源を使用する場合、30~1000秒間、好ましくは50~800秒間の暴露によって得ることができる。
【0060】
UV硬化は、通常、100℃を超えない、好ましくは80℃を超えない、より好ましくは50℃を超えない温度で行うことができる。
【0061】
既に説明したように、硬化される部品を高温で露光する必要なくUV照射下で硬化した成形品を与える組成物(C)の能力は、本発明の特に有益な効果である。
【0062】
更に、本発明は、上で詳述されたような、組成物(C)から得られた硬化した物品に関する。前記硬化した物品は、一般に、上で詳述されたような、フルオロエラストマー組成物を成形し、硬化させることによって得られる。これらの硬化した物品は、O(角)-リング、パッキン、ガスケット、ダイヤフラム、シャフトシール、バルブ軸シール、ピストンリング、クランクシャフトシール、カムシャフトシール、及びオイルシールなどの、シーリング物品であっても、パイピング及び管材料、特に、炭化水素流体及び燃料の送達用の導管などの、フレキシブルホース又は他の品目であってもよい。
【0063】
参照により本明細書に援用される特許、特許出願及び刊行物のいずれかの開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0064】
本発明はこれから、以下の実施例に関連してより詳細に説明されるが、その目的は、例示的であるに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0065】
原料
TPO-Lは、IGM ResinsからOMNIRAD(登録商標)TPO-Lとして商業的に供給されているエチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィネートであり、受け取ったままの状態で使用される。
【0066】
D-1173は、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オンであり、これはAldrichから供給され、受け取ったままの状態で使用した。
【0067】
D-MBFは、フェニルグリオキシル酸メチルエステル(メチルベンゾイルホルメートとも呼ばれる)であり、これはSigma Aldrichから供給され、受け取ったままの状態で使用した。
【0068】
TAICは、DegussaからTAICROS(登録商標)として市販されているトリアリルイソシアヌレートであり、受け取ったままの状態で使用される。
【0069】
Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.からTECNOFLON(登録商標)P457として市販されているヨウ素含有過酸化物硬化性フルオロエラストマーを使用した。以降、これを(A-2)という。
【0070】
調製実施例1:フルオロエラストマー(A-1)の製造
545rpmで動作する機械撹拌機を備えた10リットルの反応器に、5.4リットルの脱塩水、及び式:CFClO(CF-CF(CF)O)(CFO)CFCOOH(式中、n/m=10であり、600の平均分子量を有する)の酸性末端基を有する8.8mlのパーフルオロポリオキシアルキレンと、5.6mlの30体積/体積%のNHOH水溶液と、20.0mlの脱塩水と、n/m=20の、450の平均分子量を有する式:CFO(CFCF(CF)O)(CFO)CFの5.5mlのGALDEN(登録商標)D02パーフルオロポリエーテルとを混合することによって予め得られた、40mlのマイクロエマルジョンを導入した。反応器を加熱し、80℃の設定点温度に維持した。次いで、テトラフルオロエチレン(TFE)(11モル%)と、フッ化ビニリデン(VDF)(70モル%)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)(19モル%)との混合物を添加して30bar(3.0MPa)の最終圧力に到達させた。次いで、連鎖移動剤としての54mlの1,4-ジヨードパーフルオロブタン(C)と開始剤としての1.8gの過硫酸アンモニウム(APS)を導入した。合計3150gまで、TFE(11モル%)と、VDF(70モル%)と、HFP(19モル%)との混合ガスを連続的に供給することにより、圧力を30barの設定点に維持した。その後、反応器を冷却し、排気し、ラテックスを回収した。液相が完全に除去されるまで、真空下でロータリーエバポレーターでラテックスを乾燥してポリマーを回収した。
【0071】
このようにして、以下のモル組成を有するフルオロエラストマーを回収した:TFE:12モル%;VDF:70.5モル%;HFP:17.5モル%、2.3重量%のヨウ素を含有。このフルオロエラストマーを、GPCによって分析する際に、そのサンプルを室温で磁気撹拌しながら6時間、約0.5%wt/volの濃度でテトラヒドロフランに溶解し、そのようにして得た溶液を0.45μmの孔径を有するPTFEフィルターで濾過し、濾過した溶液をGPCシステムに注入した。GPC条件の詳細を以下に記載する:
移動相 テトラヒドロフラン;流量 1.0mL/分;温度 35℃;注入システム Autosamplerモデル717プラス;注入量 200μl;ポンプ Isocratic Pumpモデル515;カラムセット:プレカラム+4本のWaters Styragel HR:10、10、10及び10Å;検出器 Waters Refractive Indexモデル2414;データ取得及び処理のためのソフトウェア:Waters Empower3。フルオロエラストマーは、12398のM、23355のM、及び1.9の多分散指数を有していることが判明した。1000未満の分子量を有するフラクションは実質的にみられなかった。
【0072】
ASTM D1646に従って121℃(1+10分)で測定されたムーニー粘度は、測定不可能な値、より正確には装置の検出限界未満の値を与え、分子量に関連する非常に低い粘度を示した。
【0073】
配合及び架橋手順
調製実施例1のフルオロエラストマーを、以下に詳述する手順に従って、以下の表に記載のとおりに添加剤と配合した。
【0074】
特性評価用の最終的なシートの作製の基本手順は、完全に均一になるまで硬化剤と硬化開始剤をポリマーと混合することを含む。混合は、手作業による混合によって、又はスピードミキサーの中で、又は溶媒中で撹拌容器内で行った。
【0075】
具体的には、組成物が溶媒を含む場合には、磁気撹拌子を備えた100mlのガラスベッカー中で、成分を以下の手順に従って導入した:フルオロエラストマーを40℃で溶媒に溶解し、フルオロエラストマーが完全に溶解するまで600rpmで撹拌し、次いで多官能性化合物と光開始剤を添加し、ブレンドの均質化を5分間行った。その後、組成物をペトリ皿の中に注ぎ入れ、溶媒を除去するために40℃の静止オーブンで乾燥した。次いで、乾燥したコンパウンドを紫外線照射により硬化させた。
【0076】
組成物が溶媒を含まない場合には、FlackTek Inc社から購入したSpeedMixer(商標)ブレードレス遠心混合装置、モデルDAC400 FVZを使用した。組成物の全ての成分(フルオロエラストマー;多官能性化合物及び光開始剤)を300mlのポリプロピレンジャーの中に入れ、完全に均一になるまでSpeedMixer装置で混合した。その後、組成物をペトリ皿の中に注ぎ入れ、紫外線照射により硬化させた。
【0077】
紫外線照射条件
UV硬化は、UVランプHMPLを備えたHelios Italquartz S.r.I.「硬化試験」の「硬化試験」と呼ばれるUV硬化装置で行った。HMPLは、366nmのUVA範囲にピーク発光を有する紫外光(UVA、UVB、及びUVC)のスペクトル全体にわたって発光する中圧水銀ランプである。
【0078】
コンパウンドを硬化させるために、試験片を「硬化試験」の内側に置き、窒素環境で照射した。Nは、0.5barの一定の流束で供給した。照射サイクルは9分間継続した。サンプル温度は、50℃を超えて加熱されないように制御した。装置は、100%出力の照射(800ワット)で使用した。
【0079】
UV照射後、硬化したサンプルを後硬化(PC)することができた。UVで硬化したサンプルのPCには、50℃で48時間の静的な熱処理が含まれていた。
【0080】
下の表では、成分の量は、100重量部のフルオロゴムベースを基準とした重量部として示されている。
【0081】
硬化サンプルについての機械的特性の決定
引張特性は、ASTM D638 タイプV規格に従って、積み重ねたフィルムから打ち抜いた試験片について決定した。
100は、100%の伸びにおけるMPa単位での引張強さであり、
TSはMPa単位での引張強さであり;
EBは%単位での破断伸びである。
【0082】
ショア(Shore)A硬度(3”)(HDS)は、ASTM D 2240法に従って積み重ねられた3片のプレートに関して決定した。
【0083】
架橋効率の評価
試験片を、閉じたガラス容器(50mLのMEK中に1gのポリマーの比率)の中のMEKに室温で撹拌せずに16時間(一晩)浸漬する。試験に適したポリマー量は2gである。
【0084】
浸漬後、サンプルを110℃のオーブンで4時間真空乾燥する。乾燥プロセスは、吸収された液体を蒸発させ、サンプルの部分的な溶解が生じたか否かを決定するために必要とされる。その後、試験片の最終重量と初期重量との間のパーセント重量比としての試験片の不溶分パーセントとして架橋効率を決定する。
【0085】
【0086】
【0087】
比較として、従来の過酸化物硬化成分を添加し、170℃で10分間成形し、その後230℃で4時間後硬化した、同じフルオロエラストマー生ゴムを使用して標準的な配合(実施例 14Cを参照)により硬化した試験片を作製した;以下に示す結果は、本発明の組成物の低温UV硬化で実質的に同様の製品性能が得られることを実証している。
【0088】