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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】多層シートおよび転写材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20230908BHJP
   B29C 39/10 20060101ALI20230908BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20230908BHJP
【FI】
B32B27/00 101
B29C39/10
B32B27/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020559072
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2019046107
(87)【国際公開番号】W WO2020116231
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2018227127
(32)【優先日】2018-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】312016056
【氏名又は名称】ハリマ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】中井 亮一
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 裕
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 創一
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-056237(JP,A)
【文献】国際公開第01/025362(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/008224(WO,A1)
【文献】特開2012-213927(JP,A)
【文献】国際公開第2020/116234(WO,A1)
【文献】特開2010-241915(JP,A)
【文献】特開2016-190481(JP,A)
【文献】特開2016-190480(JP,A)
【文献】国際公開第2016/159119(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 39/00-39/44
45/00-48/96
C08J 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートと、前記基材シートの一方面に配置され、モールド樹脂の表面の少なくとも一部に、接着層を介さずに配置可能な層とを備え、接着層を備えていない多層シートであって、
前記層は、
前記多層シートの最表層であり、
熱硬化によりハードコート層を形成する未熱硬化層であり、
活性エネルギー線硬化性樹脂の活性エネルギー線による硬化物または半硬化物を含み、
さらに、前記層が、前記モールド樹脂の原料成分と熱硬化反応できる熱反応性基と、ポリシロキサン鎖とを有する
ことを特徴とする、多層シート。
【請求項2】
前記熱反応性基が、水酸基、エポキシ基、カルボキシ基および(メタ)アクリロイル基からなる群から選択される少なくとも1種である
ことを特徴とする、請求項1に記載の多層シート。
【請求項3】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂が、前記熱反応性基とポリシロキサン側鎖と活性エネルギー線硬化基とを有する(メタ)アクリル樹脂を含有する
ことを特徴とする、請求項1に記載の多層シート。
【請求項4】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂のエポキシ当量が、1000g/eq以上10000g/eq以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載の多層シート。
【請求項5】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂は、
リシロキサン含有化合物および反応性基含有化合物を含む中間原料成分を反応させて得られる中間体ポリマーと、活性エネルギー線硬化基含有化合物との反応生成物であり、
前記中間体ポリマーのガラス転移温度が、0℃以上70℃以下であることを特徴とする、請求項1に記載の多層シート。
【請求項6】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂の重量平均分子量が、5000以上100000以下であることを特徴とする、請求項1に記載の多層シート。
【請求項7】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂の原料成分が、ポリシロキサン含有化合物を含み、
前記活性エネルギー線硬化性樹脂の原料成分の総量に対して、前記ポリシロキサン含有化合物の割合が、0.10質量%以上10.0質量%以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載の多層シート。
【請求項8】
請求項1に記載の多層シートを備えることを特徴とする、転写材。
【請求項9】
さらに、前記多層シートの前記層の一方面に配置される剥離層を備えることを特徴とする、請求項に記載の転写材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層シートおよび転写材に関し、具体的には、多層シート、および、多層シートを備える転写材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形品は、例えば、金型内に溶融樹脂を注入および硬化させることにより、製造されている。
【0003】
しかし、このような方法で樹脂成形品を製造すると、溶融樹脂が金型の内面に付着し、金型を汚染するという不具合がある。
【0004】
そこで、金型に対する樹脂の付着(金型汚染)を抑制するため、例えば、金型に離型剤を塗布することが知られている。
【0005】
しかし、金型に離型剤を塗布すると、得られる樹脂成形品にも離型剤が付着し、汚損を生じるという不具合がある。
【0006】
そこで、離型剤に代えて、離型フィルムを用いることが検討されている。
【0007】
より具体的には、金型に押圧された樹脂成形体を金型から離型させる樹脂成形体の成形方法において、樹脂成形体と金型との間に、エラストマーフィルムからなる離型フィルムを介装させることが、提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
このような方法によれば、樹脂成形品に対する離型フィルムの付着を抑制でき、また、樹脂成形品に離型フィルムが付着する場合にも、樹脂成形品に離型剤が付着する場合とは異なり、樹脂成形品から離型フィルムを剥離できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平6-55546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、エラストマーフィルムは、樹脂成形品に対する易剥離性が十分ではなく、そのため、剥離時の応力などによって、樹脂成形品に損傷を生じる場合や、樹脂成形品の内部に封止された部材に損傷を生じる場合がある。
【0011】
そこで、樹脂成形品の損傷を抑制するため、離型フィルムとして多層フィルムを用い、その多層フィルムの一部の層(最表層)を、樹脂成形品に密着させた状態で、多層フィルムの残部の層を剥離することが検討される。
【0012】
このような方法によれば、金型と樹脂成形品との間に多層フィルムが介装されるため、金型に対する樹脂の付着を抑制でき、さらに、多層フィルムの一部の層と、残部の層とを剥離(層間剥離)することにより、樹脂成形品からフィルムを容易に剥離できる。
【0013】
一方、このような場合、層間剥離性の観点から、樹脂成形品と、多層フィルムの一部の層との密着性(密着強度)が、要求される。
【0014】
本発明は、樹脂成形品の製造において金型の汚染を抑制でき、かつ、層間剥離性に優れ、樹脂成形品に対する密着性に優れる層を有する多層シート、および、多層シートを備える転写材である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明[1]は、基材シートと、前記基材シートの一方面に配置され、モールド樹脂の表面の少なくとも一部に配置可能な層とを備える多層シートであって、前記層は、前記多層シートの最表層であり、活性エネルギー線硬化性樹脂の活性エネルギー線による硬化物または半硬化物を含み、前記モールド樹脂の原料成分と熱硬化反応できる熱反応性基と、ポリシロキサン鎖とを有する、多層シートを含んでいる。
【0016】
本発明[2]は、前記層が、前記モールド樹脂の表面を保護するための層である、上記[1]に記載の多層シートを含んでいる。
【0017】
本発明[3]は、前記熱反応性基が、水酸基、エポキシ基、カルボキシ基および(メタ)アクリロイル基からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]または[2]に記載の多層シートを含んでいる。
【0018】
本発明[4]は、前記活性エネルギー線硬化性樹脂が、熱反応性基とポリシロキサン側鎖と活性エネルギー線硬化基とを有する(メタ)アクリル樹脂を含有する、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の多層シートを含んでいる。
【0019】
本発明[5]は、前記活性エネルギー線硬化性樹脂のエポキシ当量が、1000g/eq以上10000g/eq以下である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の多層シートを含んでいる。
【0020】
本発明[6]は、前記活性エネルギー線硬化性樹脂は、前記ポリシロキサン含有化合物および前記熱反応性基含有化合物を含む中間原料成分を反応させて得られる中間体ポリマーと、活性エネルギー線硬化基含有化合物との反応生成物であり、前記中間体ポリマーのガラス転移温度が、0℃以上70℃以下である、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の多層シートを含んでいる。
【0021】
本発明[7]は、前記活性エネルギー線硬化性樹脂の重量平均分子量が、5000以上100000以下である、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の多層シートを含んでいる。
【0022】
本発明[8]は、前記活性エネルギー線硬化性樹脂の原料成分が、ポリシロキサン含有化合物を含み、前記活性エネルギー線硬化性樹脂の原料成分の総量に対して、前記ポリシロキサン含有化合物の割合が、0.10質量%以上10.0質量%以下である、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の多層シートを含んでいる。
【0023】
本発明[9]は、上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の多層シートを備える、転写材を含んでいる。
【0024】
本発明[10]は、さらに、前記多層シートの前記層の一方面に配置される剥離層を備える、上記[9]に記載の転写材を含んでいる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の多層シートおよび転写材では、層が、活性エネルギー線硬化性樹脂の活性エネルギー線による硬化物または半硬化物を含み、モールド樹脂の原料成分に対して熱硬化反応できる熱反応性基と、ポリシロキサン鎖とを有している。
【0026】
そのため、金型内に本発明の多層シートを備える転写材を配置し、金型内にモールド樹脂の原料成分を注入すると、モールド樹脂が形成されるとともに、層の熱反応性基と、モールド樹脂の原料成分とが熱硬化反応して互いに接着され、さらに、層が内部架橋(熱硬化)して、層(未熱硬化層)から、表層(熱硬化層)が形成される。これにより、接着層を設けることなく、表層(熱硬化層)とモールド樹脂とを接着することができる。
【0027】
その結果、表層(熱硬化層)と、モールド樹脂との密着性に優れる。
【0028】
また、本発明の多層シートおよび転写材では、層(未熱硬化層)が、ポリシロキサン鎖を有しているため、多層シートの基材シートを、表層(熱硬化層)およびモールド樹脂から、容易に剥離でき、剥離時の応力によるモールド樹脂の損傷や、モールド樹脂の内部に封止された部材の損傷などを抑制できる。
【0029】
さらに、本発明の多層シートおよび転写材では、層(未熱硬化層)が、ポリシロキサン鎖を有しているため、層(未熱硬化層)の表面が金型に接触しても、層(未熱硬化層)の金型への付着を抑制できる。そのため、金型の汚染を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本発明の多層シートの一実施形態を示す概略図である。
図2図2は、図1に記載の多層シートを用いて得られる層付樹脂成形品を示す概略図である。
図3図3は、図1に記載の多層シートを用いた層付樹脂成形品の製造方法の一実施形態を示すフロー図であり、図3Aは、準備工程、図3Bは、配置工程、図3Cは、転写工程、および図3Dは、剥離工程を、それぞれ示す。
図4図4は、本発明の多層シートの他の実施形態を示す概略図である。
図5図5は、図1に示す多層シートにおいて、基材シートの他方面に金型付着防止層が配置された形態を示す概略図である。
図6図6は、図4に示す多層シートにおいて、基材シートの他方面に金型付着防止層が配置された形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1において、多層シート1は、最表面に接着層を備えておらず、基材シート2と、基材シート2の一方面に配置される層としての未熱硬化層3とを備えている。
【0032】
基材シート2としては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ-1-ブテンフィルム、ポリ-4-メチル-1-ペンテンフィルム、エチレン・プロピレン共重合体フィルム、エチレン・1-ブテン共重合体フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン・エチルアクリレート共重合体フィルム、エチレン・ビニルアルコール共重合体フィルムなどのオレフィンフィルム、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルムなどのポリエステルフィルム、例えば、ナイロン6フィルム、ナイロン6,6フィルム、部分芳香族ポリアミドフィルムなどのポリアミドフィルム、例えば、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルムなどの塩素系フィルム、例えば、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)フィルムなどのフッ素系フィルム、その他、例えば、ポリ(メタ)アクリレートフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルムなどのプラスチックフィルムなどが挙げられる。
【0033】
これらの基材シート2は、例えば、無延伸フィルム、例えば、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムなどの延伸フィルムとして得ることができる。
【0034】
また、これらの基材シート2には、必要に応じて、例えば、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系、脂肪酸アミド系などの離型剤やシリカ粉などによる離型処理、防汚処理、酸処理、アルカリ処理、プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理、電子線処理などの易接着処理、例えば、塗布型、練り込み型、蒸着型などの静電防止処理などを施すことができる。
【0035】
基材シート2として、好ましくは、オレフィンフィルム、フッ素系フィルムが挙げられ、より好ましくは、オレフィンフィルムが挙げられる。
【0036】
基材シート2の厚みは、例えば、5μm以上、好ましくは、10μm以上であり、例えば、300μm以下、好ましくは、100μm以下である。
【0037】
未熱硬化層3は、多層シート1の最表層であって、モールド樹脂13(後述)の表面の少なくとも一部に対して接触および配置可能に設けられている。より具体的には、未熱硬化層3は、熱硬化(後述)する前の層であって、多層シート1の最表面(図1における最上面)において、露出するように配置されている。
【0038】
未熱硬化層3は、活性エネルギー線硬化性樹脂から得られる。より具体的には、未熱硬化層3は、活性エネルギー線硬化性樹脂の活性エネルギー線による硬化物または半硬化物を含んでおり、好ましくは、活性エネルギー線硬化性樹脂の活性エネルギー線による硬化物または半硬化物からなる。
【0039】
活性エネルギー線硬化性樹脂は、例えば、後述するモールド樹脂の原料成分(以下、モールド原料と称する。)に対して熱硬化反応できる熱反応性基と、ポリシロキサン鎖と、活性エネルギー線硬化基とを有する樹脂である。
【0040】
熱反応性基は、モールド樹脂(後述)に対する未熱硬化層3の密着性を担保するために、活性エネルギー線硬化性樹脂に導入されている。
【0041】
熱反応性基(以下、層側熱反応性基と称する。)は、モールド原料の熱反応性基(以下、モールド側熱反応性基と称する。)に結合可能な官能基である。
【0042】
より具体的には、層側熱反応性基としては、例えば、水酸基(ヒドロキシ基)、エポキシ基(グリシジル基)、カルボキシ基、イソシアネート基、オキセタン基、1級アミノ基、2級アミノ基などが挙げられる。
【0043】
これら層側熱反応性基は、モールド側熱反応性基の種類に応じて、適宜選択される。
【0044】
例えば、モールド側熱反応性基(後述)がエポキシ基を含有する場合、層側熱反応性基としては、例えば、水酸基(ヒドロキシ基)、エポキシ基(グリシジル基)、カルボキシ基、イソシアネート基、オキセタン基、1級アミノ基、2級アミノ基が挙げられる。
【0045】
また、例えば、モールド側熱反応性基(後述)が水酸基を含有する場合、層側熱反応性基としては、例えば、水酸基(ヒドロキシ基)、エポキシ基(グリシジル基)、カルボキシ基、イソシアネート基が挙げられる。
【0046】
また、例えば、モールド側熱反応性基(後述)がカルボキシ基を含有する場合、層側熱反応性基としては、例えば、水酸基(ヒドロキシ基)、エポキシ基(グリシジル基)が挙げられる。
【0047】
また、例えば、モールド側熱反応性基(後述)がイソシアネート基を含有する場合、層側熱反応性基としては、例えば、水酸基(ヒドロキシ基)、エポキシ基(グリシジル基)が挙げられる。
【0048】
これら層側熱反応性基は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0049】
なお、活性エネルギー線硬化性樹脂における、層側熱反応性基の平均含有モル数は、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0050】
ポリシロキサン鎖は、未熱硬化層3および/または熱硬化層14と基材シート2との間の層間剥離性を担保し、さらに、未熱硬化層3の金型に対する非接着性(換言すれば、金型の非汚染性)を担保するために、活性エネルギー線硬化性樹脂に導入されている。
【0051】
より具体的には、ポリシロキサン鎖は、ジアルキルシロキサン構造(-(RSiO)-(R:炭素数1~4のアルキル基))の繰り返し単位であり、活性エネルギー線硬化性樹脂の主鎖および/または側鎖に含有され、好ましくは、活性エネルギー線硬化性樹脂の側鎖に含有される。
【0052】
換言すれば、活性エネルギー線硬化性樹脂は、好ましくは、ポリシロキサン側鎖を有している。
【0053】
ポリシロキサン鎖におけるシロキサン構造(-(RSiO)-)の繰り返し単位は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定されるが、例えば、10以上、好ましくは、100以上であり、例えば、300以下、好ましくは、200以下である。
【0054】
なお、活性エネルギー線硬化性樹脂における、ポリシロキサン鎖の平均含有モル数は、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0055】
活性エネルギー線硬化基は、活性エネルギー線(後述)の照射により硬化反応する基であって、例えば、(メタ)アクリロイル基などが挙げられる。
【0056】
なお、「(メタ)アクリロイル基」とは、「アクリロイル基」および/または「メタクリロイル基」と定義される。
【0057】
また、以下に記述される「(メタ)アクリル」も、上記と同じく、「アクリル」および/または「メタクリル」と定義され、「(メタ)アクリレート」も「アクリレート」および/または「メタクリレート」と定義される。
【0058】
活性エネルギー線硬化基として、好ましくは、(メタ)アクリロイル基が挙げられる。
【0059】
すなわち、活性エネルギー線硬化性樹脂は、好ましくは、活性エネルギー線硬化基として、(メタ)アクリロイル基を含有している。換言すれば、活性エネルギー線硬化性樹脂として、好ましくは、(メタ)アクリル樹脂が挙げられる。
【0060】
なお、活性エネルギー線硬化性樹脂における、活性エネルギー線硬化基の平均含有モル数は、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0061】
このような活性エネルギー線硬化性樹脂として、製造容易性の観点から、好ましくは、層側熱反応性基とポリシロキサン鎖(主鎖または側鎖)と活性エネルギー線硬化基とを有する(メタ)アクリル樹脂が挙げられ、より好ましくは、層側熱反応性基とポリシロキサン側鎖と活性エネルギー線硬化基とを有する(メタ)アクリル樹脂が挙げられる。
【0062】
層側熱反応性基とポリシロキサン側鎖と活性エネルギー線硬化基とを有する(メタ)アクリル樹脂を製造するには、例えば、以下に示すように、まず、層側熱反応性基とポリシロキサン鎖とを有し、活性エネルギー線硬化基を有しない(メタ)アクリル樹脂(以下、中間体ポリマーと称する。)を製造し、その後、得られた中間体ポリマーに、活性エネルギー線硬化基を導入する。
【0063】
より具体的には、この方法では、まず、ポリシロキサン含有化合物と熱反応性基含有化合物とを含む重合成分を重合させ、活性エネルギー線硬化基を有しないポリマー(中間体ポリマー)を得る。
【0064】
ポリシロキサン含有化合物としては、例えば、ポリシロキサン基および(メタ)アクリロイル基を併有する化合物が挙げられる。
【0065】
ポリシロキサン含有化合物として、より具体的には、例えば、3-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルポリシロキサン、3-(メタ)アクリロキシプロピルフェニルメチルポリシロキサンなどのポリシロキサン基含有(メタ)アクリル化合物が挙げられる。
【0066】
これらポリシロキサン含有化合物は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0067】
ポリシロキサン含有化合物として、好ましくは、3-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルポリシロキサンが挙げられ、より好ましくは、3-メタクリロキシプロピルジメチルポリシロキサンが挙げられる。
【0068】
ポリシロキサン含有化合物の含有割合は、重合成分の総量に対して、例えば、0.05質量%以上、好ましくは、0.1質量%以上であり、例えば、20質量%以下、好ましくは、10質量%以下である。
【0069】
熱反応性基含有化合物としては、例えば、水酸基含有重合性化合物、エポキシ基含有重合性化合物、カルボキシ基含有重合性化合物、イソシアネート基含有重合性化合物、オキセタン基含有重合性化合物、1級アミノ基含有重合性化合物、2級アミノ基含有重合性化合物などが挙げられる。
【0070】
水酸基含有重合性化合物としては、例えば、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1-メチル-2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリル化合物などが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0071】
エポキシ基含有重合性化合物としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル化合物などが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0072】
カルボキシ基含有重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのα,β-不飽和カルボン酸またはその塩などが挙げられる。
【0073】
これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0074】
イソシアネート基含有重合性化合物としては、例えば、イソシアナトメチル(メタ)アクリレート、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレート、1-メチル-2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、2-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレート、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレートなどのイソシアネート基含有(メタ)アクリル化合物などが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0075】
オキセタン基含有重合性化合物としては、例えば、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル(メタ)アクリレートなどのオキセタン基含有(メタ)アクリル化合物などが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0076】
1級アミノ基含有重合性化合物としては、例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレートなどの1級アミノ基含有(メタ)アクリル化合物などが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0077】
2級アミノ基含有重合性化合物としては、例えば、モノメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モノブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モノメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、モノブチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどの2級アミノ基含有(メタ)アクリル化合物などが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0078】
これら熱反応性基含有化合物は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0079】
熱反応性基含有化合物として、好ましくは、水酸基含有重合性化合物、エポキシ基含有重合性化合物、カルボキシ基含有重合性化合物が挙げられる。
【0080】
熱反応性基含有化合物の含有割合は、重合成分の総量に対して、例えば、30質量%以上、好ましくは、50質量%以上であり、例えば、90質量%以下、好ましくは、80質量%以下である。
【0081】
また、重合成分は、さらに、ポリシロキサン鎖および熱反応性基のいずれも含有しない重合性化合物(以下、その他の重合性化合物と称する。)を含むことができる。
【0082】
その他の重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、芳香環含有重合性化合物などが挙げられる。
【0083】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、へプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、1-メチルトリデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート(ステアリル(メタ)アクリレート)、イソステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート(ベヘニル(メタ)アクリレート)、テトラコシル(メタ)アクリレート、トリアコンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの炭素数1~30の直鎖状、分岐状または環状アルキルの(メタ)アクリレートモノマーなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0084】
芳香環含有重合性化合物としては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸フェノキシジエチレングリコール、o-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環含有(メタ)アクリレート、例えば、スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン系モノマーなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0085】
その他の重合性化合物として、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0086】
重合成分の総量に対して、その他の重合性化合物の含有割合は、例えば、20質量%以上、好ましくは、30質量%以上であり、例えば、60質量%以下、好ましくは、50質量%以下である。
【0087】
そして、重合成分を重合させるには、例えば、溶剤中で上記の重合成分を上記割合で混合し、公知のラジカル重合開始剤(例えば、アゾ系化合物、パーオキサイド系化合物など)の存在下において加熱して、重合させる。
【0088】
溶剤としては、重合成分に対して安定であれば特に制限されず、例えば、ヘキサン、ミネラルスピリットなどの石油系炭化水素溶剤、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ―ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ピリジンなどの非プロトン性極性溶剤などの有機溶剤が挙げられる。
【0089】
また、溶剤として、例えば、水、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶剤、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶剤などの水系溶剤も挙げられる。
【0090】
また、溶剤は、市販品としても入手可能であり、具体的には、石油系炭化水素溶剤として、例えば、AFソルベント4~7号(以上、新日本石油社製)などが挙げられ、芳香族炭化水素系溶剤として、例えば、インキソルベント0号、エクソン化学社製のソルベッソ100、150、200(以上、新日本石油社製)などが挙げられる。
【0091】
これら溶剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0092】
なお、溶剤の配合割合は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0093】
重合条件は、重合成分の処方やラジカル重合開始剤の種類などにより異なるが、例えば、重合温度が、30℃以上、好ましくは、60℃以上であり、例えば、150℃以下、好ましくは、120℃以下である。また、重合時間は、例えば、2時間以上、好ましくは、4時間以上であり、例えば、20時間以下、好ましくは、8時間以下である。
【0094】
これにより、中間体ポリマーとして、活性エネルギー線硬化基を有しない(メタ)アクリル樹脂が得られる。
【0095】
すなわち、中間体ポリマーは、ポリシロキサン含有化合物と熱反応性基含有化合物とを含み、活性エネルギー線硬化基含有化合物を含まない中間原料成分(一次原料成分)の反応生成物である。
【0096】
なお、中間体ポリマーは、好ましくは、溶液および/または分散液として得られる。
【0097】
このような場合、中間体ポリマーの溶液および/または分散液において、固形分(不揮発分)濃度は、例えば、5質量%以上、好ましくは、10質量%以上であり、例えば、60質量%以下、好ましくは、50質量%以下である。
【0098】
また、必要に応じて、溶剤を添加または除去して、中間体ポリマーの固形分(不揮発分)濃度を上記範囲に調整することもでき、中間体ポリマーの溶液および/または分散液の粘度を調整することができる。
【0099】
例えば、中間体ポリマーの30質量%溶液の粘度(25℃)は、例えば、1mPa・s以上、好ましくは、5mPa・s以上であり、例えば、800mPa・s以下、好ましくは、400mPa・s以下である。
【0100】
なお、粘度の測定方法は、後述する実施例に準拠する(以下同様。)。
【0101】
また、中間体ポリマーの重量平均分子量(GPC測定:ポリスチレン換算)は、例えば、5000以上、好ましくは、10000以上であり、例えば、100000以下、好ましくは、50000以下である。
【0102】
また、中間体ポリマーの数平均分子量(GPC測定:ポリスチレン換算)は、例えば、1000以上、好ましくは、5000以上であり、例えば、50000以下、好ましくは、30000以下である。
【0103】
なお、重量平均分子量および数平均分子量の測定方法は、後述する実施例に準拠する(以下同様)。
【0104】
また、中間体ポリマーのガラス転移温度は、耐擦傷性(後述)の観点から、例えば、0℃以上、好ましくは、5℃以上、より好ましくは、15℃以上、さらに好ましくは、20℃以上であり、例えば、70℃以下、好ましくは、60℃以下、より好ましくは、45℃以下、さらに好ましくは、35℃以下である。
【0105】
なお、ガラス転移温度の測定方法は、後述する実施例に準拠する(以下同様。)。
【0106】
また、中間体ポリマーの酸価は、例えば、0.01mgKOH/g以上、好ましくは、0.05mgKOH/g以上であり、例えば、200mgKOH/g以下、好ましくは、100mgKOH/g以下である。
【0107】
なお、酸価の測定方法は、後述する実施例に準拠する(以下同様。)。
【0108】
また、重合成分が水酸基含有重合性化合物を含有する場合、中間体ポリマーの水酸基価は、例えば、10mgKOH/g以上、好ましくは、20mgKOH/g以上であり、例えば、90mgKOH/g以下、好ましくは、80mgKOH/g以下である。
【0109】
なお、水酸基価の測定方法は、後述する実施例に準拠する(以下同様。)。
【0110】
また、重合成分がエポキシ基含有重合性化合物を含有する場合、中間体ポリマーのエポキシ当量は、例えば、300g/eq以上、好ましくは、500g/eq以上であり、例えば、2000g/eq以下、好ましくは、1500g/eq以下である。
【0111】
なお、エポキシ当量の測定方法は、後述する実施例に準拠する(以下同様。)。
【0112】
次いで、この方法では、上記で得られた中間体ポリマーと、活性エネルギー線硬化基含有化合物とを反応させて、中間体ポリマーに活性エネルギー線硬化基を導入する。これにより、側鎖に活性エネルギー線硬化基を有する(メタ)アクリル樹脂を得る。
【0113】
活性エネルギー線硬化基含有化合物としては、例えば、上記水酸基含有(メタ)アクリル化合物、上記エポキシ基含有(メタ)アクリル化合物、上記α,β-不飽和カルボン酸、上記イソシアネート基含有(メタ)アクリル化合物、上記オキセタン基含有(メタ)アクリル化合物、上記1級アミノ基含有(メタ)アクリル化合物、上記2級アミノ基含有(メタ)アクリル化合物が挙げられる。
【0114】
これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0115】
また、活性エネルギー線硬化基含有化合物は、中間体ポリマーに含まれる熱反応性基に応じて、適宜選択される。
【0116】
すなわち、活性エネルギー線硬化基含有化合物は、中間体ポリマーに含まれる熱反応性基の一部に対して反応し、互いに結合することによって、活性エネルギー線硬化基を中間体ポリマーに導入し、活性エネルギー硬化性樹脂を製造する。
【0117】
そのため、この方法では、中間体ポリマー中の熱反応性基に結合可能な官能基(熱反応性基)を有している活性エネルギー線硬化基含有化合物が、選択される。
【0118】
例えば、中間体ポリマーが、熱反応性基としてエポキシ基を含有する場合、活性エネルギー線硬化基含有化合物が有する熱硬化性基としては、エポキシ基と反応可能な官能基(反応性基)が選択される。そのような活性エネルギー線硬化基として、具体的には、例えば、水酸基、エポキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、オキセタン基、1級アミノ基、2級アミノ基が挙げられる。また、活性エネルギー線硬化基含有化合物としては、エポキシ基と反応可能な官能基(反応性基)を有する活性エネルギー線硬化基含有化合物が選択される。具体的には、例えば、水酸基含有(メタ)アクリル化合物、エポキシ基含有(メタ)アクリル化合物、α,β-不飽和カルボン酸、イソシアネート基含有(メタ)アクリル化合物、オキセタン基含有(メタ)アクリル化合物、1級アミノ基含有(メタ)アクリル化合物、2級アミノ基含有(メタ)アクリル化合物などが挙げられ、好ましくは、α,β-不飽和カルボン酸が挙げられる。
【0119】
また、中間体ポリマーが、熱反応性基として水酸基を含有する場合、活性エネルギー線硬化基含有化合物が有する熱硬化性基としては、例えば、水酸基、エポキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基が挙げられる。また、活性エネルギー線硬化基含有化合物としては、例えば、水酸基含有(メタ)アクリル化合物、エポキシ基含有(メタ)アクリル化合物、α,β-不飽和カルボン酸、イソシアネート基含有(メタ)アクリル化合物が挙げられ、好ましくは、イソシアネート基含有(メタ)アクリル化合物が挙げられる。
【0120】
また、中間体ポリマーが、熱反応性基としてカルボキシ基を含有する場合、活性エネルギー線硬化基含有化合物が有する熱硬化性基としては、例えば、水酸基、エポキシ基が挙げられる。また、活性エネルギー線硬化基含有化合物としては、例えば、水酸基含有(メタ)アクリル化合物、エポキシ基含有(メタ)アクリル化合物が挙げられ、好ましくは、エポキシ基含有(メタ)アクリル化合物が挙げられる。
【0121】
また、中間体ポリマーが、熱反応性基としてイソシアネート基を含有する場合、活性エネルギー線硬化基含有化合物が有する熱硬化性基としては、例えば、水酸基、エポキシ基が挙げられる。また、活性エネルギー線硬化基含有化合物としては、例えば、水酸基含有(メタ)アクリル化合物、エポキシ基含有(メタ)アクリル化合物が挙げられ、好ましくは、水酸基含有(メタ)アクリル化合物が挙げられる。
【0122】
このようにして選択された活性エネルギー線硬化基含有化合物は、中間体ポリマーの熱反応性基の一部に対して結合する。これにより、中間体ポリマーに活性エネルギー線硬化基が導入される。
【0123】
活性エネルギー線硬化基含有化合物の配合割合は、中間体ポリマー中の熱反応性基が未反応(遊離)状態で残存するように、適宜選択される。
【0124】
より具体的には、中間体ポリマー中の熱反応性基100モルに対して、活性エネルギー線硬化基含有化合物中の熱反応性基が、例えば、10モル以上、好ましくは、20モル以上であり、例えば、90モル以下、好ましくは、80モル以下である。
【0125】
このような割合で反応させることにより、中間体ポリマーが有していた熱反応性基が、活性エネルギー線硬化基含有化合物中の熱反応性基と結合せずに、残存する。
【0126】
その結果、中間体ポリマー中に残存する熱反応性基により、後述するモールド原料との熱反応性が担保される。
【0127】
そして、中間体ポリマーと活性エネルギー線硬化基含有化合物との反応では、例えば、中間体ポリマーと活性エネルギー線硬化基含有化合物とを、中間体ポリマー中の熱反応性基と活性エネルギー線硬化基含有化合物中の熱反応性基とが上記割合となるように配合し、必要により公知の触媒および溶剤の存在下において、加熱する。
【0128】
触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ラウレート、ジオクチル錫ジラウレートなどの錫系触媒、例えば、トリフェニルホスフィンなどの有機リン系触媒などが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0129】
なお、触媒の配合割合は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0130】
反応条件は、例えば、空気雰囲気下、反応温度が、例えば、40℃以上、好ましくは、60℃以上であり、例えば、200℃以下、好ましくは、150℃以下である。また、反応時間は、例えば、1時間以上、好ましくは、2時間以上であり、例えば、20時間以下、好ましくは、12時間以下である。
【0131】
なお、この反応では、必要により、重合禁止剤を添加することもできる。
【0132】
重合禁止剤としては、例えば、p-メトキシフェノール、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、カテコール、tert-ブチルカテコール、2,6-ジ-tert-ブチル-ヒドロキシトルエン、4-tert-ブチル-1,2-ジヒドロキシベンゼン、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルカテコール)などのフェノール化合物、例えば、フェノチアジン、ジフェニルフェニレンジアミン、ジナフチルフェニレンジアミン、p-アミノジフェニルアミン、N-アルキル-N’-フェニレンジアミンなどの芳香族アミン類、例えば、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-アセトキシ-1-オキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイロキシ-1-オキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-アルコキシ-1-オキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ビス(1-オキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケートの2,2,6,6-テトラメチルピペリジンのN-オキシル誘導体、N-ニトロソジフェニルアミン、ジエチルジチオカルバミン酸の銅塩、p-ベンゾキノンなどが挙げられる。
【0133】
これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0134】
重合禁止剤として、好ましくは、p-メトキシフェノールが挙げられる。
【0135】
重合禁止剤の配合割合は、中間体ポリマーおよび活性エネルギー線硬化基含有化合物の総量100質量部に対して、例えば、0.0001質量部以上、好ましくは、0.01質量部以上であり、例えば、1.0質量部以下、好ましくは、0.1質量部以下である。
【0136】
これにより、中間体ポリマー中の熱反応性基の一部と、対応する活性エネルギー線硬化基含有化合物の熱反応性基とが反応し、中間体ポリマーの側鎖に、活性エネルギー線硬化基含有化合物が結合され、側鎖末端に活性エネルギー線硬化基(好ましくは、(メタ)アクリロイル基)が導入される。
【0137】
より具体的には、中間体ポリマーが熱硬化性基としてエポキシ基を含有し、活性エネルギー線硬化基含有化合物がα,β-不飽和カルボン酸である場合、エポキシ基とカルボキシ基とのエステル化反応によって、中間体ポリマーに活性エネルギー線硬化基が導入される。
【0138】
また、例えば、中間体ポリマーが熱硬化性基としてカルボキシ基を含有し、活性エネルギー線硬化基含有化合物が水酸基含有(メタ)アクリル化合物である場合、カルボキシ基とエポキシ基とのエステル化反応によって、中間体ポリマーに活性エネルギー線硬化基が導入される。
【0139】
また、例えば、中間体ポリマーが熱硬化性基として水酸基を含有し、活性エネルギー線硬化基含有化合物がイソシアネート基含有(メタ)アクリル化合物である場合、水酸基とイソシアネート基とのウレタン化反応によって、中間体ポリマーに活性エネルギー線硬化基が導入される。
【0140】
また、例えば、中間体ポリマーが熱硬化性基としてイソシアネート基を含有し、活性エネルギー線硬化基含有化合物が水酸基含有(メタ)アクリル化合物である場合、イソシアネート基と水酸基とのウレタン化反応によって、中間体ポリマーに活性エネルギー線硬化基が導入される。
【0141】
その結果、活性エネルギー線硬化性樹脂(層側熱反応性基とポリシロキサン鎖と活性エネルギー線硬化基とを有する活性エネルギー線硬化性樹脂)が得られる。
【0142】
すなわち、活性エネルギー線硬化性樹脂は、ポリシロキサン含有化合物と熱反応性基含有化合物と活性エネルギー線硬化基含有化合物とを含む原料成分(二次原料成分)の反応生成物である。
【0143】
上記した活性エネルギー線硬化性樹脂の製造において、中間体ポリマー中の熱反応性基の一部は、活性エネルギー線硬化基を中間体ポリマー側鎖に導入するための導入基であり、熱反応性基の残部(以下、残存熱反応性基という。)が、後述するモールド原料と反応するための層側熱反応性基である。
【0144】
また、例えば、中間体ポリマーが、導入基としてエポキシ基を含有している場合、そのエポキシ基と活性エネルギー線硬化基含有化合物(例えば、α,β-不飽和カルボン酸)との反応において、エポキシ基の開環により、水酸基が生成する。このような水酸基も層側熱反応性基であって、後述するモールド原料との熱反応に寄与する。
【0145】
また、必要に応じて、活性エネルギー線硬化基の導入時に、エポキシ基の開環により生じる水酸基を、さらに、他の活性エネルギー線硬化基を導入するための導入基として用いることもできる。
【0146】
活性エネルギー線硬化性樹脂の原料成分の不揮発分総量(中間体ポリマーの重合成分と、活性エネルギー線硬化基含有化合物との不揮発分総量(以下同じ))に対して、ポリシロキサン含有化合物の含有割合は、例えば、0.05質量%以上、好ましくは、0.10質量%以上であり、例えば、20.0質量%以下、好ましくは、10.0質量%以下である。
【0147】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂の原料成分の不揮発分総量に対して、熱反応性基含有化合物の含有割合は、例えば、30質量%以上、好ましくは、50質量%以上であり、例えば、90質量%以下、好ましくは、80質量%以下である。
【0148】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂の原料成分の不揮発分総量に対して、その他の重合性化合物の含有割合は、例えば、10質量%以上、好ましくは、20質量%以上であり、例えば、60質量%以下、好ましくは、50質量%以下である。
【0149】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂の原料成分の不揮発分総量に対して、活性エネルギー線硬化基含有化合物の含有割合は、例えば、5質量%以上、好ましくは、10質量%以上であり、例えば、40質量%以下、好ましくは、30質量%以下である。
【0150】
活性エネルギー線硬化性樹脂において、残存熱硬化性基、ポリシロキサン鎖および活性エネルギー線硬化基の割合は、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0151】
より具体的には、活性エネルギー線硬化性樹脂1g中、残存熱硬化性基が、モールド樹脂との密着性の観点から、例えば、0.20ミリモル以上、好ましくは、0.40ミリモル以上である。また、例えば、4.0ミリモル以下、好ましくは、3.0ミリモル以下である。
【0152】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂1g中、ポリシロキサン鎖が、層間剥離性および金型の非汚染性の観点から、例えば、0.00010ミリモル以上、好ましくは、0.0060ミリモル以上である。また、例えば、0.020ミリモル以下、好ましくは、0.010ミリモル以下である。
【0153】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂1g中、活性エネルギー線硬化基が、耐擦傷性(後述)の観点から、例えば、0.10ミリモル以上、好ましくは、0.25ミリモル以上、より好ましくは、0.5ミリモル以上、さらに好ましくは、1.0ミリモル以上、とりわけ好ましくは、1.5ミリモル以上である。また、引張伸度の観点から、例えば、5.0ミリモル以下、好ましくは、3.5ミリモル以下である。
【0154】
また、残存熱硬化性基とポリシロキサン鎖とのモル比率(残存熱硬化性基/ポリシロキサン鎖)が、例えば、50以上、好ましくは、100以上、より好ましくは、150以上であり、例えば、15000以下、好ましくは、10000以下、より好ましくは、1000以下、さらに好ましくは、400以下である。
【0155】
また、残存熱硬化性基と活性エネルギー線硬化基とのモル比率(残存熱硬化性基/活性エネルギー線硬化基)が、例えば、0.1以上、好ましくは、0.5以上であり、例えば、3.0以下、好ましくは、1.0以下である。
【0156】
また、活性エネルギー線硬化基とポリシロキサン鎖とのモル比率(活性エネルギー線硬化基/ポリシロキサン鎖)が、例えば、100以上、好ましくは、200以上であり、例えば、15000以下、好ましくは、10000以下である。
【0157】
なお、活性エネルギー線硬化性樹脂は、好ましくは、溶液および/または分散液として得られる。
【0158】
このような場合、活性エネルギー線硬化性樹脂の溶液および/または分散液において、固形分(不揮発分)濃度は、例えば、5質量%以上、好ましくは、10質量%以上であり、例えば、60質量%以下、好ましくは、50質量%以下である。
【0159】
また、必要により、溶剤を添加または除去して、活性エネルギー線硬化性樹脂の固形分(不揮発分)濃度を調整することもでき、活性エネルギー線硬化性樹脂の溶液および/または分散液の粘度を調整することができる。
【0160】
例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂の30質量%溶液の粘度(25℃)は、例えば、5mPa・s以上、好ましくは、10mPa・s以上であり、例えば、800mPa・s以下、好ましくは、400mPa・s以下である。
【0161】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂の重量平均分子量(GPC測定:ポリスチレン換算)は、耐擦傷性(後述)の観点から、例えば、2500以上、好ましくは、5000以上、より好ましくは、10000以上であり、引張伸度の観点から、例えば、100000以下、好ましくは、50000以下である。
【0162】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂の数平均分子量(GPC測定:ポリスチレン換算)は、耐擦傷性(後述)の観点から、例えば、1000以上、好ましくは、2000以上、より好ましくは、5000以上であり、引張伸度の観点から、例えば、50000以下、好ましくは、20000以下である。
【0163】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂のガラス転移温度は、耐擦傷性(後述)の観点から、例えば、0℃以上、好ましくは、5℃以上であり、引張伸度の観点から、例えば、70℃以下、好ましくは、60℃以下である。
【0164】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂の酸価は、耐擦傷性(後述)の観点から、例えば、0.1mgKOH/g以上、好ましくは、0.5mgKOH/g以上であり、引張伸度の観点から、例えば、200mgKOH/g以下、好ましくは、100mgKOH/g以下である。
【0165】
とりわけ、耐擦傷性(後述)の観点から、酸価は、より高いことが好ましい。具体的には、酸価は、好ましくは、2mgKOH/g以上、好ましくは、10mgKOH/g以上、さらに好ましくは、20mgKOH/g以上、さらに好ましくは、40mgKOH/g以上、とりわけ好ましくは、60mgKOH/g以上である。
【0166】
一方、引張伸度の観点から、酸価は、より低いことが好ましい。具体的には、酸価は、好ましくは、60mgKOH/g以下、より好ましくは、40mgKOH/g以下、さらに好ましくは、20mgKOH/g以下、とりわけ好ましくは、10mgKOH/g以下である。
【0167】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂の水酸基価は、例えば、5mgKOH/g以上、好ましくは、10mgKOH/g以上、より好ましくは、20mgKOH/g以上であり、例えば、90mgKOH/g以下、好ましくは、80mgKOH/g以下である。
【0168】
とりわけ、耐擦傷性(後述)の観点から、水酸基価は、より高いことが好ましい。具体的には、水酸基価は、好ましくは、5mgKOH/g以上、より好ましくは、10mgKOH/g以上、さらに好ましくは、20mgKOH/g以上、さらに好ましくは、30mgKOH/g以上、とりわけ好ましくは、40mgKOH/g以上である。
【0169】
一方、引張伸度の観点から、水酸基価は、より低いことが好ましい。具体的には、水酸基価は、好ましくは、60mgKOH/g以下、より好ましくは、50mgKOH/g以下、さらに好ましくは、40mgKOH/g以下、とりわけ好ましくは、30mgKOH/g以下である。
【0170】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂のエポキシ当量は、例えば、500g/eq以上、好ましくは、1000g/eq以上であり、例えば、20000g/eq以下、好ましくは、10000g/eq以下である。
【0171】
とりわけ、耐擦傷性(後述)の観点から、エポキシ当量は、より高いことが好ましい。具体的には、エポキシ当量は、好ましくは、500g/eq以上、より好ましくは、1000g/eq以上、さらに好ましくは、2000g/eq以上、さらに好ましくは、4000g/eq以上、とりわけ好ましくは、10000g/eq以上である。
【0172】
一方、引張伸度の観点から、エポキシ当量は、より低いことが好ましい。具体的には、エポキシ当量は、好ましくは、10000g/eq以下、より好ましくは、5000g/eq以下、さらに好ましくは、3000g/eq以下、とりわけ好ましくは、2000g/eq以下である。
【0173】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂の(メタ)アクリロイル当量は、引張伸度の観点から、例えば、50g/eq以上、より好ましくは100g/eq以上、さらに好ましくは200g/eq以上、とりわけ好ましくは、300g/eq以上であり、耐擦傷性(後述)の観点から、例えば、2000g/eq以下、より好ましくは、1500g/eq以下、さらに好ましくは、1000g/eq以下、とりわけ好ましくは、800g/eq以下である。
【0174】
そして、このようにして得られた活性エネルギー線硬化性樹脂(層側熱反応性基とポリシロキサン鎖とを有する活性エネルギー線硬化性樹脂)によれば、金型の汚染を抑制して、モールド樹脂13(後述)と熱硬化層14(後述)とを接着できる多層シート1を得ることができる。
【0175】
多層シート1を得るには、特に制限されないが、まず、上記の活性エネルギー線硬化性樹脂を含むコート剤を調製する。
【0176】
コート剤は、活性エネルギー線硬化性樹脂と、上記溶剤とを、適宜の割合で含むことができる。
【0177】
また、コート剤は、必要に応じて、重合開始剤を含むことができる。
【0178】
重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-シクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、4-メチルベンゾフェノン、ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オンなどの光重合開始剤などが挙げられる。
【0179】
これら重合開始剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0180】
重合開始剤の配合割合は、活性エネルギー線硬化性樹脂100質量部に対して、例えば0.01質量部以上、好ましくは、0.5質量部以上であり、例えば、10質量部以下、好ましくは、5質量部以下である。
【0181】
さらに、コート剤は、必要に応じて、例えば、架橋剤、染料、顔料、乾燥剤、防錆剤、可塑剤、塗膜表面調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、分散剤、帯電防止剤などの各種添加剤を含有することができる。なお、添加剤の含有割合は、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0182】
コート剤の固形分(不揮発分)濃度は、例えば、10質量%以上、好ましくは、20質量%以上であり、例えば、70質量%以下、好ましくは、50質量%以下である。
【0183】
次いで、この方法では、得られたコート剤を基材シート2の一方面に塗布し、乾燥させる。
【0184】
コート剤を基材シート2に塗布する方法としては、特に制限されず、例えば、ロールコーター、バーコーター、ドクターブレード、メイヤーバー、エアナイフなど、塗布の際に、一般的に使用される機器を用いた塗布や、スクリーン印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、はけ塗り、スプレー塗工、グラビア塗工、リバースグラビア塗工といった公知の塗布方法が採用される。
【0185】
なお、コート剤は、基材シート2の表面の全面に塗布されてもよく、また、基材シート2の表面の一部の面に塗布されてもよい。塗布工程における塗布効率の観点から、好ましくは、コート剤は、基材シート2の表面の全面に塗布される。
【0186】
乾燥条件としては、乾燥温度が、例えば、40℃以上、好ましくは、60℃以上であり、例えば、180℃以下、好ましくは、140℃以下であり、乾燥時間が、例えば、0.5分以上、好ましくは、1分以上であり、例えば、60分以下、好ましくは、30分以下である。
【0187】
また、乾燥後の膜厚は、例えば、50nm以上、好ましくは、500nm以上であり、例えば、30μm以下、好ましくは、10μm以下、より好ましくは、5μm以下である。
【0188】
その後、この方法では、乾燥塗膜に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化性樹脂を、硬化または半硬化させる。
【0189】
活性エネルギー線としては、例えば、紫外線(UV(波長10nm~400nm))、電子線などが挙げられる。
【0190】
紫外線により硬化させる場合には、光源として、例えば、キセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプなどを有する紫外線照射装置が用いられる。
【0191】
紫外線照射量、紫外線照射装置の光量、光源の配置などは、必要に応じて、適宜調整される。
【0192】
具体的には、乾燥塗膜中の活性エネルギー線硬化性樹脂にUVを照射して硬化させ、Cステージの硬化物を得る場合には、UV照射量は、積算光量として、例えば、300mJ/cm以上、好ましくは、500mJ/cm以上であり、例えば、1000mJ/cm以下である。
【0193】
また、例えば、乾燥塗膜中の活性エネルギー線硬化性樹脂にUVを照射して半硬化させ、Bステージの半硬化物を得る場合には、UV照射量は、積算光量として、例えば、100mJ/cm以上、好ましくは、200mJ/cm以上であり、例えば、300mJ/cm未満である。
【0194】
このような活性エネルギー線の照射によって、乾燥塗膜中の活性エネルギー線硬化性樹脂が架橋し、三次元構造を形成する。これにより、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物または半硬化物として、未熱硬化層3が得られる。
【0195】
なお、活性エネルギー線硬化性樹脂が有する熱硬化性基は、通常、活性エネルギー線によっては反応しないため、活性エネルギー線による硬化または半硬化後も、反応性を維持している。
【0196】
つまり、未熱硬化層3は、活性エネルギー線により硬化または半硬化され、かつ、熱硬化されていない状態の活性エネルギー線硬化性樹脂を含有している。そのため、未熱硬化層3は、後述するように、熱硬化性基によってモールド原料と熱硬化反応可能とされている。
【0197】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂を、上記のように半硬化させ、Bステージの半硬化物を得る場合、未熱硬化層3は、熱硬化性基の他に、遊離(余剰)の活性エネルギー線硬化基、例えば、(メタ)アクリロイル基などを有する。
【0198】
このような遊離(余剰)の活性エネルギー線硬化基は、熱硬化性基として作用し、後述するように、モールド原料と熱硬化反応可能とされている。例えば、モールド側熱反応性基がアリル基を含有する場合、(メタ)アクリロイル基が、層側熱反応性基として作用する。
【0199】
換言すれば、層側熱反応性基としては、上記した通り、例えば、水酸基(ヒドロキシ基)、エポキシ基(グリシジル基)、カルボキシ基、イソシアネート基、オキセタン基、1級アミノ基、2級アミノ基などが挙げられ、さらに、(メタ)アクリロイル基も挙げられる。
【0200】
モールド樹脂(後述)としてエポキシ樹脂および/またはシリコーン樹脂が好ましく用いられる観点から、対応する層側熱反応性基として、好ましくは、水酸基、エポキシ基、カルボキシ基、(メタ)アクリロイル基が挙げられる。
【0201】
また、モールド樹脂(後述)としてポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂および/またはアクリル樹脂が用いられる観点から、対応する層側熱反応性基として、好ましくは、水酸基、エポキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、オキセタン基、1級アミノ基、2級アミノ基が挙げられる。
【0202】
これら層側反応性基は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0203】
なお、層側熱反応性基として、(メタ)アクリロイル基を単独使用する場合には、中間体ポリマー中に含まれる(メタ)アクリロイル基以外の熱反応性基(例えば、水酸基(ヒドロキシ基)、エポキシ基(グリシジル基)、カルボキシ基、イソシアネート基、オキセタン基、1級アミノ基、2級アミノ基など)のすべてを、(メタ)アクリロイル基を導入するための導入基とすることができる。
【0204】
より具体的には、まず、中間体ポリマーの合成において上記熱反応性基含有化合物を所定割合で用いることにより、中間体ポリマーに(メタ)アクリロイル基以外の熱反応性基(例えば、水酸基(ヒドロキシ基)、エポキシ基(グリシジル基)、カルボキシ基、イソシアネート基、オキセタン基、1級アミノ基、2級アミノ基など)を導入する。
【0205】
次いで、(メタ)アクリロイル基以外の熱反応性基のすべてと、上記活性エネルギー線硬化基含有化合物とを反応させることにより、中間体ポリマーに(メタ)アクリロイル基を導入し、活性エネルギー線硬化性樹脂を得る。
【0206】
その後、活性エネルギー線硬化性樹脂に活性エネルギー線を照射して、上記したように半硬化させる。
【0207】
これにより、(メタ)アクリロイル基の一部を光硬化反応させて、未熱硬化層3を得るとともに、未熱硬化層3内において、(メタ)アクリロイル基の残部を遊離の状態で保持し、層側熱反応基とすることができる。
【0208】
さらに、(メタ)アクリロイル基の残部を、層側熱反応基として、モールド側熱反応性基と反応させるのではなく、自己硬化のために使用することもできる。
【0209】
すなわち、モールド側熱反応性基がアリル基を含有する場合、活性エネルギー線硬化性樹脂が半硬化した場合に残存する(メタ)アクリロイル基は、層側熱反応性基として作用し、モールド側熱反応性基に対して反応する。一方、モールド側熱反応性基がアリル基を含有しない場合や、アリル基に対して(メタ)アクリロイル基が過剰である場合などには、(メタ)アクリロイル基は、例えば、加熱により自己架橋し、半硬化された活性エネルギー線硬化性樹脂をさらに硬化させることができる。
【0210】
未熱硬化層3の厚みは、例えば、10nm以上、好ましくは、30nm以上、より好ましくは、50nm以上、さらに好ましくは、0.1μm以上、さらに好ましくは、0.2μm以上、さらに好ましくは、0.5μm以上、さらに好ましくは、1.0μm以上であり、例えば、30μm以下、好ましくは、20μm以下、より好ましくは、10μm以下、さらに好ましくは、5.0μm以下、さらに好ましくは、3.0μm以下である。
【0211】
とりわけ、活性エネルギー線硬化基のモル数、中間体ポリマーのガラス転移温度、活性エネルギー線硬化性樹脂の重量平均分子量などに応じて、未熱硬化層3の厚みを調整することにより、熱硬化(後述)により形成される熱硬化層14(後述)を、ハードコート層(後述)とすることができ、モールド樹脂13(後述)の表面を、保護することができる。
【0212】
このように、熱硬化によりハードコート層(後述)を形成する未熱硬化層3は、モールド樹脂13(後述)の表面を保護するための層としての保護層(未熱硬化のハードコート層)である。好ましくは、未熱硬化層3は、保護層(未熱硬化のハードコート層)である。
【0213】
保護層(未熱硬化のハードコート層)としての未熱硬化層3の厚みは、活性エネルギー線硬化基のモル数、中間体ポリマーのガラス転移温度、活性エネルギー線硬化性樹脂の重量平均分子量などにもよるが、耐擦傷性(後述)の観点から、例えば、0.2μm以上、好ましくは、0.3μm以上、より好ましくは、0.4μm以上、さらに好ましくは、0.5μm以上、さらに好ましくは、0.8μm以上、さらに好ましくは、1.0μm以上であり、例えば、30μm以下、好ましくは、20μm以下、より好ましくは、10μm以下、さらに好ましくは、5.0μm以下、さらに好ましくは、3.0μm以下である。
【0214】
また、多層シート1の総厚みは、例えば、5μm以上、好ましくは、10μm以上であり、例えば、300μm以下、好ましくは、100μm以下である。
【0215】
そして、このような多層シート1は、未熱硬化層3が、活性エネルギー線硬化性樹脂の活性エネルギー線による硬化物または半硬化物を含み、モールド原料(後述)の熱反応性基(モールド側熱反応性基)に対して熱硬化反応できる熱反応性基(層側熱反応性基)と、ポリシロキサン鎖とを有している。
【0216】
そのため、後述するように金型20(後述)に多層シート1を配置し、金型20(後述)内にモールド原料(後述)を注入すると、モールド樹脂としてのモールド樹脂13(後述)が形成されるとともに、未熱硬化層3の熱反応性基と、モールド原料の熱反応性基とが熱硬化反応して、接着され、さらに、未熱硬化層3が内部架橋(熱硬化)して、未熱硬化層3から表層としての熱硬化層14(後述)が形成される。これにより、接着層を設けることなく、熱硬化層14(後述)とモールド樹脂とを接着することができる。
【0217】
つまり、上記の多層シート1は、多層シート1の熱硬化層14(後述)と、モールド樹脂13(後述)との密着性に優れる。
【0218】
また、上記の多層シート1では、未熱硬化層3が、ポリシロキサン鎖を有しているため、多層シート1の基材シート2を、熱硬化層14(後述)およびモールド樹脂13(後述)から容易に剥離でき、剥離時の応力によるモールド樹脂の損傷や、モールド樹脂の内部に封止された部材の損傷などを抑制できる。
【0219】
さらに、上記の多層シート1では、未熱硬化層3が、ポリシロキサン鎖を有しているため、未熱硬化層3の表面が金型20(後述)に接触しても、未熱硬化層3の金型20(後述)への付着を抑制できる。そのため、金型20(後述)の汚染を抑制できる。
【0220】
そのため、上記の多層シート1は、表層付モールド樹脂を製造するための転写材として、好適に用いられる。
【0221】
以下において、図2および図3を参照して、転写材、表層付モールド樹脂およびその製造方法について、詳述する。
【0222】
図2において、表層付樹脂成形品10は、表層付モールド樹脂の一実施形態である。
【0223】
表層付樹脂成形品10は、モールド樹脂13と、モールド樹脂13の表面の少なくとも一部(好ましくは、上面全面および側面全面)を保護する表層としての熱硬化層14とを備えている。
【0224】
モールド樹脂13は、金型成形されたモールド樹脂であって、後述するようにモールド原料(樹脂組成物)を成形および硬化することによって得ることができる。
【0225】
モールド樹脂13としては、樹脂成形品として使用される公知の樹脂が挙げられ、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0226】
より具体的には、例えば、エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂組成物を熱硬化することにより得ることができる。このような場合において、エポキシ樹脂組成物はモールド原料であり、通常、エポキシ基を、モールド側熱反応性基として含有する。
【0227】
また、シリコーン樹脂は、シリコーン樹脂組成物を熱硬化することにより得ることができる。このような場合において、シリコーン樹脂組成物はモールド原料であり、通常、エポキシ基、水酸基およびアリル基を、モールド側熱反応性基として含有する。
【0228】
また、ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂組成物を熱硬化することにより得ることができる。このような場合において、ポリエステル樹脂組成物はモールド原料であり、通常、水酸基およびカルボキシ基を、モールド側熱反応性基として含有する。
【0229】
また、ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂組成物を熱硬化することにより得ることができる。このような場合において、ポリカーボネート樹脂組成物はモールド原料であり、通常、水酸基を、モールド側熱反応性基として含有する。
【0230】
また、フェノール樹脂は、フェノール樹脂組成物を熱硬化することにより得ることができる。このような場合において、フェノール樹脂組成物はモールド原料であり、通常、水酸基を、モールド側熱反応性基として含有する。
【0231】
また、アクリル樹脂は、アクリル樹脂組成物を熱硬化することにより得ることができる。このような場合において、アクリル樹脂組成物はモールド原料であり、通常、水酸基、カルボキシ基およびエポキシ基を、モールド側熱反応性基として含有する。
【0232】
また、ジアリルフタレート樹脂は、ジアリルフタレート樹脂組成物を熱硬化することにより得ることができる。このような場合において、ジアリルフタレート樹脂組成物はモールド原料であり、通常、アリル基を、モールド側熱反応性基として含有する。
【0233】
また、ポリウレタン樹脂は、ポリウレタン樹脂組成物を熱硬化することにより得ることができる。このような場合において、ポリウレタン樹脂組成物はモールド原料であり、通常、イソシアネート基および水酸基を、モールド側熱反応性基として含有する。
【0234】
これらモールド樹脂13は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0235】
モールド樹脂13として、好ましくは、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。
【0236】
また、モールド樹脂13は、必要に応じて着色されていてもよく、また、光透過性であってもよい。
【0237】
熱硬化層14は、ポリシロキサン鎖を有する活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物を含んでいる。
【0238】
このような熱硬化層14は、上記の多層シート1における未熱硬化層3を熱硬化させることにより得ることができる。熱硬化層14は、好ましくは、未熱硬化層3が熱硬化した硬化物からなる。
【0239】
また、熱硬化層14は、必要に応じて着色されていてもよく、また、光透過性であってもよい。
【0240】
熱硬化層14の厚みは、例えば、10nm以上、好ましくは、30nm以上、より好ましくは、50nm以上、さらに好ましくは、0.1μm以上、さらに好ましくは、0.2μm以上、さらに好ましくは、0.5μm以上、さらに好ましくは、1.0μm以上であり、例えば、30μm以下、好ましくは、20μm以下、より好ましくは、10μm以下、さらに好ましくは、5.0μm以下、さらに好ましくは、3.0μm以下である。
【0241】
また、熱硬化層14は、接着層などを介することなく、モールド樹脂13に直接接着されており、具体的には、熱硬化層14とモールド樹脂13とが、活性エネルギー線硬化性樹脂の熱反応性基と、モールド原料の熱硬化性基との化学結合で、接合されている。
【0242】
このような表層付樹脂成形品10を得るには、例えば、まず、図3Aが参照されるように、まず、上記多層シート1を備える転写材5を準備する(準備工程)。
【0243】
転写材5は、上記多層シート1を備えており、換言すれば、転写材5は、基材シート2と、基材シート2の一方面に配置される未熱硬化層3とを備えている。
【0244】
また、転写材5は、最表面に接着層を備えておらず、必要に応じて、多層シート1の未熱硬化層3の一方面に配置される剥離層15を備えることができる。
【0245】
すなわち、転写材5としては、最表面に接着層を備えていない多層シート1からなり、剥離層15を備えていない形態(すなわち、未熱硬化層3が露出されている形態)と、最表面に接着層を備えていない多層シート1を備え、かつ、その未熱硬化層3を被覆する剥離層15を備えている形態(すなわち、未熱硬化層3が露出されていない形態)とが挙げられる。
【0246】
剥離層15は、図3Aにおいて仮想線で示されるように、未熱硬化層3の一方面に配置される樹脂製の可撓性シートである。剥離層15は、未熱硬化層3を被覆するように配置されており、一方側から他方側に向けて湾曲するように未熱硬化層3から剥離可能とされている。
【0247】
そして、剥離層15は、転写材5の使用時に未熱硬化層3から剥離され、以下の各工程では、剥離層15が剥離された転写材5(剥離層15を除いた残部)が用いられる。
【0248】
次いで、この方法では、図3Bが参照されるように、未熱硬化層3が露出するように転写材5を金型20内に配置する(配置工程)。
【0249】
より具体的には、この工程では、まず、モールド原料18を注型するための金型20を準備する。金型20は、上側金型21と下側金型22とを備える公知の金型であって、表層付樹脂成形品10の形状に応じて、設計されている。
【0250】
そして、この工程では、下側金型22の凹部に対して、転写材5の基材シート2が接触するように配置する。これにより、未熱硬化層3を、金型の内側に向けて露出する。
【0251】
次いで、この方法では、図3Cが参照されるように、金型20内に、モールド樹脂13の原料成分であるモールド原料18を注入し、未熱硬化層3の層側熱硬化性基と、モールド原料18のモールド側熱硬化性基とを、熱硬化反応させる(転写工程)。
【0252】
より具体的には、この工程では、まず、転写材5が配置された下側金型22にモールド原料18を注入する。
【0253】
その後、上側金型21を下側金型22と合わせ、モールド原料18を、金型20内に封入するとともに、金型20を加熱する。これにより、モールド原料18を熱反応させ、樹脂成形品としてのモールド樹脂13を得る。
【0254】
熱反応条件としては、反応温度が、例えば、40℃以上、好ましくは、60℃以上であり、例えば、200℃以下、好ましくは、150℃以下である。また、反応時間は、例えば、1時間以上、好ましくは、2時間以上であり、例えば、20時間以下、好ましくは、12時間以下である。
【0255】
これにより、未熱硬化層3に含まれる活性エネルギー線硬化性樹脂の熱反応性基(層側熱反応性基)と、モールド原料18に含まれる熱反応性基(モールド側熱反応性基)とを熱反応させることができ、それらを、化学結合で接合することができる。
【0256】
また、これとともに、未熱硬化層3を内部架橋させることができ、未熱硬化層3の熱硬化物として、熱硬化層14を得ることができる。
【0257】
つまり、この工程では、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物として熱硬化層14を得るとともに、その熱硬化層14とモールド樹脂13とを、化学結合で接合することができる。
【0258】
その後、この方法では、図3Dに示されるように、熱硬化層14を基材シート2から剥離する(剥離工程)。
【0259】
また、必要に応じて、図3Dにおいて矢印線で示されるように、余剰の熱硬化層14を切断および除去する。これにより、表層付樹脂成形品10が得られる。
【0260】
このような表層付樹脂成形品10の製造方法では、上記の多層シート1を備える転写材5が用いられている。
【0261】
そのため、金型20内に多層シート1を備える転写材5を配置し、金型20内にモールド原料18を注入すると、モールド樹脂13が形成されるとともに、未熱硬化層3の熱反応性基と、モールド原料18の熱反応性基とが熱硬化反応して互いに接着され、さらに、未熱硬化層3が内部架橋(熱硬化)して、未熱硬化層3から熱硬化層14が形成される。これにより、接着層を設けることなく、熱硬化層14とモールド樹脂13とを接着することができる。
【0262】
また、未熱硬化層3が、ポリシロキサン鎖を有しているため、未熱硬化層3および熱硬化層14と、基材シート2との層間剥離性に優れ、また、未熱硬化層3および熱硬化層14の表面が上側金型20の下面に接触しても、互いの接着を抑制できる。そのため、金型20の汚染を抑制できる。
【0263】
つまり、上記の表層付樹脂成形品10の製造方法では、金型20の汚染を抑制し、モールド樹脂13と熱硬化層14との密着性に優れる表層付樹脂成形品10を、効率よく製造することができる。
【0264】
そして、得られる表層付樹脂成形品10は、金型20の汚染を抑制して製造されており、接着層を介することなく、モールド樹脂と熱硬化層14とが接着されている。
【0265】
より具体的には、後述する実施例に準拠した密着性の試験(クロスカット試験法)において、熱硬化層14とモールド樹脂13との密着性は、例えば、10/100以上、好ましくは、20/100以上、30/100以上、より好ましくは、40/100以上、さらに好ましくは、50/100以上、さらに好ましくは、60/100以上、さらに好ましくは、70/100以上、さらに好ましくは、80/100以上、さらに好ましくは、90/100以上、とりわけ好ましくは、100/100である。
【0266】
また、多層シート1において、熱硬化層14の鉛筆硬度(JIS K5600-5-4(1999)「引っ掻き硬度(鉛筆法)」の試験法に準拠)は、例えば、6B以上、好ましくは、5B以上、より好ましくは、4B以上、さらに好ましくは、3B以上、さらに好ましくは、2B以上、さらに好ましくは、B以上、さらに好ましくは、HB以上、さらに好ましくは、F以上、とりわけ好ましくは、H以上であり、通常、10H以下である。
【0267】
また、後述する実施例に準拠した耐擦傷性の試験において、熱硬化層14の濁度変化ΔEは、例えば、10以下、好ましくは、10未満、より好ましくは、5未満、さらに好ましくは、3未満、とりわけ好ましくは、1未満である。
【0268】
そのため、多層シート1、転写材5、表層付樹脂成形品10およびその製造方法は、各種成形樹脂産業において、好適に用いられる。
【0269】
また、表層付樹脂成形品10が、各種成形樹脂産業で用いられる場合、要求される性質に応じて、例えば、熱硬化層14の厚みが、適宜調整される。
【0270】
より具体的には、表層付樹脂成形品10に、優れた耐擦傷性(ハードコート性)が要求される場合、熱硬化層14の厚みは、ハードコート性を担保するため、熱硬化層14の特性(活性エネルギー線硬化基のモル数、中間体ポリマーのガラス転移温度、活性エネルギー線硬化性樹脂の重量平均分子量など)などに応じて、所定値以上に調整される。
【0271】
なお、ハードコート性とは、所定以上の耐擦傷性を有する性質を示し、より具体的には、後述する実施例に準拠した耐擦傷性の試験において、ヘイズメーターNDH5000(日本電色工業社製)を用いて測定される濁度変化ΔEが、3未満であることを示す。
【0272】
ハードコート層としての熱硬化層14の厚みは、活性エネルギー線硬化基のモル数、中間体ポリマーのガラス転移温度、活性エネルギー線硬化性樹脂の重量平均分子量などにもよるが、耐擦傷性の観点から、例えば、0.2μm以上、好ましくは、0.3μm以上、より好ましくは、0.4μm以上、さらに好ましくは、0.5μm以上、さらに好ましくは、0.8μm以上、さらに好ましくは、1.0μm以上であり、例えば、30μm以下、好ましくは、20μm以下、より好ましくは、10μm以下、さらに好ましくは、5.0μm以下、さらに好ましくは、3.0μm以下である。
【0273】
そして、このような表層付樹脂成形品10は、例えば、通信機器、家電、住宅設備、自動車などの各種産業分野において、好適に用いられる。また、必要に応じて、モールド樹脂13に、電子部品などの種々の部品を封止することもできる。このような場合、上記した転写工程(図3C)において、モールド原料18を注入した後、封止する部品をモールド原料18中に埋設する。
【0274】
なお、上記した説明では、多層シート1の基材シート2は、プラスチックフィルムなどから形成されているが、例えば、層間剥離性の向上を図るため、例えば、基材シート2に、易剥離層8を備えることができる。
【0275】
このような場合、基材シート2は、図4に示すように、支持層7と、支持層7の一方面に積層配置される易剥離層8とを備えており、さらに、易剥離層8の一方面に、未熱硬化層3が積層配置されている。
【0276】
支持層7としては、例えば、基材シート2として上記したプラスチックフィルムなどが挙げられる。
【0277】
また、易剥離層8としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、セルロース誘導体樹脂、尿素樹脂、ポリオレフィン樹脂、パラフィン樹脂などの撥水性樹脂からなる表層などが挙げられる。
【0278】
基材シート2が易剥離層8を備えていれば、より簡易に未熱硬化層3(熱硬化層14)を基材シート2から剥離することができ、表層付樹脂成形品10の製造効率の向上を図ることができる。
【0279】
また、本発明の多層シート1は、例えば、図5および図6に示されるように、さらに、基材シート2の上記未熱硬化層3が配置される一方側に対する他方側の面(裏面)に、金型付着防止層9を備えることができる。
【0280】
なお、図5は、図1に示す多層シート1が、さらに、金型付着防止層9を備える形態を示し、また、図6は、図4に示す多層シート1が、さらに、金型付着防止層9を備える形態を示す。
【0281】
金型付着防止層9は、多層シート1の基材シート2が、金型20(とりわけ、下側金型22)に接触し、例えば、基材シート2の一部が融解して金型20に付着することなどを防止するための層である。
【0282】
金型付着防止層9は、基材シート2において未熱硬化層3が形成される一方側に対する他方側面(以下、他方面)に、備えられている。
【0283】
金型付着防止層9としては、特に制限されないが、撥水樹脂を含むコート層が挙げられる。撥水樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、セルロース誘導体樹脂、尿素樹脂、ポリオレフィン樹脂、パラフィン樹脂などが挙げられる。これら撥水樹脂は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0284】
また、金型付着防止層9としては、例えば、上記した活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物または半硬化物も挙げられる。
【0285】
好ましくは、金型付着防止層9は、上記した活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物または半硬化物を含んでいる。
【0286】
金型付着防止層9を得るには、例えば、上記の未熱硬化層3の形成に使用されるコート剤(活性エネルギー線硬化性樹脂を含むコート剤)を、基材シート2の他方面に塗工し、乾燥させた後、金型付着防止層9に活性エネルギー線を照射し、上記の活性エネルギー線硬化性樹脂を、硬化または半硬化させる。
【0287】
これにより、上記の未熱硬化層3と同じ樹脂を含有する金型付着防止層9が得られる。
【0288】
多層シート1が金型付着防止層9を有していれば、基材シート2が、下側金型22に付着することを防止できる。
【0289】
なお、金型付着防止層9は、上記の未熱硬化層3が形成される前に形成されていてもよく、また、未熱硬化層3が形成された後に形成されていてもよく、さらには、未熱硬化層3と同時に形成されていてもよい。好ましくは、金型付着防止層9は、未熱硬化層3が形成される前に形成される。
【0290】
さらに、図示しないが、多層シート1および転写材5は、基材シート2および未熱硬化層3の他、必要に応じて、絵柄層、シールド層、エンボス層などの機能層を備えることもできる。
【0291】
このような場合、機能層は、基材シート2の他方側(未熱硬化層3が形成される側に対する他方側)面に形成されるか、または、基材シート2および未熱硬化層3の間に介在される。これにより、未熱硬化層3が、多層シート1の最表面に露出される。多層シート1は、好ましくは、基材シート2および未熱硬化層3からなる。
【実施例
【0292】
次に、本発明を、実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0293】
1.測定方法
<重量平均分子量、数平均分子量>
(メタ)アクリル樹脂からサンプルとして0.2mgを採取し、これをテトラヒドロフラン10mLに溶解させ、示差屈折率検出器(RID)を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)によってサンプルの分子量分布を測定し、クロマトグラム(チャート)を得た。
【0294】
次に、得られたクロマトグラム(チャート)から、標準ポリスチレンを検量線として、サンプルの重量平均分子量及び数平均分子量を算出した。測定装置及び測定条件を以下に示す。
【0295】
データ処理装置:製品名HLC-8220GPC(東ソー社製)
示差屈折率検出器:製品名HLC-8220GPCに内蔵されたRI検出器
カラム:製品名TSKgel GMHXL(東ソー社製)3本
移動相:テトラヒドロフラン
カラム流量:0.5mL/min
注入量:20μL
測定温度:40℃
標準ポリスチレン分子量:1250、3250、9200、28500、68000、165000、475000、950000、1900000
<ガラス転移温度>
(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度は、フォックスの式により算出した。
<粘度>
JIS K5600-2-3(2014年)に準拠し、粘度を測定した。
<酸価>
JIS K5601-2-1(1999年)に準拠し、酸価を測定した。
<不揮発分濃度>
JIS K5601-1-2(2008年)に準拠し、不揮発分濃度を測定した。
<エポキシ当量>
JIS K7236(2001年)に準拠し、エポキシ当量を測定した。
<水酸基価>
(メタ)アクリル樹脂の水酸基価は、JIS K1557-1:2007(ISO14900:2001)「プラスチック-ポリウレタン原料ポリオール試験方法-第1部:水酸基価の求め方」の4.2B法に準拠して測定した。
【0296】
なお、(メタ)アクリル樹脂の水酸基価とは、固形分の水酸基価を示す。
<(メタ)アクリロイル当量>
(メタ)アクリル樹脂の(メタ)アクリロイル当量は、(メタ)アクリル樹脂の原料であるモノマー組成から、下記式(I)に従って算出した。
【0297】
【数1】
【0298】
なお、式(I)中、(メタ)アクリル樹脂の原料に用いたモノマーの全使用量(g)を「W」とし、(メタ)アクリル樹脂の合成時において、最終的に得られる(メタ)アクリル樹脂の主鎖に側鎖として(メタ)アクリロイル基を導入するために用いられたモノマーのうちから、任意に選択されたモノマーのモル数(mol)を「M」とし、任意に選択された上記モノマー1分子あたりの(メタ)アクリロイル基の個数を「N」とし、(メタ)アクリル樹脂の合成時において、最終的に得られる(メタ)アクリル樹脂の主鎖に側鎖として(メタ)アクリロイル基を導入するために用いられたモノマー種の数を「k」とする。
【0299】
2.中間体ポリマーおよび活性エネルギー線硬化性樹脂の合成
合成例1~14
反応容器中に、溶剤としてメチルイソブチルケトン(MIBK)400重量部を供給して90℃まで加熱して、温度を維持した。
【0300】
グリシジルメタクリレート(熱硬化性基含有化合物、GMA)、アクリル酸(熱硬化性基含有化合物、AA)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(熱硬化性基含有化合物、2-HEA)、FM-0721(ポリシロキサン含有化合物、商品名、JNC製、3-メタクリロキシプロピルジメチルポリシロキサン)、メチルメタクリレート(その他の重合性化合物、MMA)、ブチルアクリレート(その他の重合性化合物、BA)、および、ラジカル重合開始剤としてのアゾビス-2-メチルブチロニトリル(ABN-E)を、表1~4に示した配合量で混合し、重合成分を得た。
【0301】
次に、重合成分を2時間かけて徐々に反応容器中に滴下しながら混合し、2時間放置した後、110℃で2時間加熱することによりラジカル重合させた。
【0302】
これにより、中間体ポリマーの溶液を得た。中間体ポリマーの溶液を、60℃まで冷却した。
【0303】
得られた中間体ポリマーのガラス転移温度を、上記の方法で測定した。
【0304】
次いで、中間体ポリマーの溶液に、アクリル酸(活性エネルギー線硬化基含有化合物、AA)、グリシジルメタクリレート(活性エネルギー線硬化基含有化合物、GMA)、2-イソシアナトエチルアクリレート(活性エネルギー線硬化基含有化合物、AOI)、p-メトキシフェノール(重合禁止剤、MQ)、トリフェニルホスフィン(触媒、TPP)およびジブチル錫ジラウレート(触媒、DBTDL)を、それぞれ表1~4に示した配合量で混合した。
【0305】
その後、反応容器中に酸素を吹き込みながら、混合物を110℃で8時間加熱し、中間体ポリマーの熱反応性基に、アクリル酸(活性エネルギー線硬化基含有化合物、AA)、グリシジルメタクリレート(活性エネルギー線硬化基含有化合物、GMA)および/または2-イソシアナトエチルアクリレート(活性エネルギー線硬化基含有化合物、AOI)を付加させた。
【0306】
より具体的には、中間体ポリマー中のエポキシ基の一部に対して、アクリル酸のカルボキシ基を反応させ、側鎖に活性エネルギー線硬化基としてのアクリロイル基を付加した。
【0307】
また、これとともに、エポキシ基の残部、および、エポキシ基の開環により生成した水酸基を、熱硬化性基として未反応(遊離)状態で保持した。
【0308】
また、中間体ポリマー中のカルボキシ基の一部に対して、グリシジルメタクリレートのエポキシ基を反応させ、側鎖に活性エネルギー線硬化基としてのメタクリロイル基を付加した。また、これとともに、カルボキシ基の残部、および、エポキシ基の開環により生成した水酸基を、熱硬化性基として未反応(遊離)状態で保持した。
【0309】
また、中間体ポリマー中の水酸基の一部に対して、2-イソシアナトエチルアクリレートのイソシアネート基を反応させ、側鎖に活性エネルギー線硬化基としてのアクリロイル基を付加した。また、これとともに、水酸基の残部を、熱硬化性基として未反応(遊離)状態で保持した。
【0310】
これにより、活性エネルギー線硬化性樹脂としての(メタ)アクリル樹脂を得た。なお、必要により溶剤を添加または除去して、活性エネルギー線硬化性樹脂の不揮発分濃度を、30質量%に調整した。
【0311】
また、得られた活性エネルギー線硬化性樹脂の水酸基価、(メタ)アクリル当量、重量平均分子量を測定した。また、活性エネルギー線硬化性樹脂1gに残存する熱硬化性基(残存熱硬化性基)、ポリシロキサン鎖、活性エネルギー線硬化基の量を、仕込み比から計算で求めた。その結果を表1~4に示す。
【0312】
3.多層シートおよび表層付モールド樹脂
実施例1~15および比較例1~2
・多層シート
表5~表9に記載の(メタ)アクリル樹脂を、バーコーターを用いて、基材シート(王子エフテックス社製、50μm厚のオレフィンフィルム)の一方面に塗布し、60℃で1分加熱し、溶剤を除去した。
【0313】
その後、UV照射し、(メタ)アクリル樹脂を硬化させ、膜厚1μmの層を形成した。
【0314】
これにより、基材シートと層(未熱硬化層)とを備える多層シートを得た。
【0315】
なお、実施例1~12および実施例15では、高圧水銀ランプを用いて、主波長365nmの紫外線(UV)を、積算光量が500mJ/cmとなるように照射して(メタ)アクリル樹脂中のアクリロイル基の全部を反応させ、全硬化物として層(未熱硬化層)を得た。
【0316】
一方、実施例13および実施例14では、高圧水銀ランプを用いて、主波長365nmの紫外線(UV)を、積算光量が200mJ/cmとなるように照射して(メタ)アクリル樹脂中のアクリロイル基の一部を反応させ、半硬化物として層(未熱硬化層)を得た。なお、アクリロイル基の残部は、未反応状態で保持した。
【0317】
・金型付着防止層の形成
実施例15では、さらに、基材シートにおいて、層が形成される一方側に対する他方側の面に、金型付着防止層を形成した。
【0318】
より具体的には、金型付着防止層を形成するためのコート剤として、合成例3で得られた(メタ)アクリル樹脂B-3の溶液を用いた。そして、この溶液を、バーコーターを用いて、基材シート(王子エフテックス社製、50μm厚のオレフィンフィルム)の他方面に塗布し、60℃で1分加熱し、溶剤を除去した。
【0319】
その後、高圧水銀ランプを用いて、主波長365nmの紫外線(UV)を、積算光量が500mJ/cmとなるように照射し、(メタ)アクリル樹脂B-3を硬化させ、膜厚1μmの金型付着防止層を形成した。
【0320】
・表層付モールド樹脂
上側金型および下側金型のセットからなる注型用金型を用意し、その下側金型に多層シートを保護層が金型内側を向くようにセットした。なお、金型から成形される表層付モールド樹脂に対し、JIS K 5600-5-6(1999)に基づいて密着性を正確に評価できるよう、下側金型として、平らで滑らかな表面の金型を用いた。
【0321】
その後、実施例1~13および実施例15では、金型に、モールド原料としてのエポキシ樹脂組成物(丸本ストルアス社製 エポキシ樹脂 商品名エポフィックス)を注入および充填し、上側金型をセットして、100℃で1時間硬化させた。これにより、モールド樹脂(エポキシ樹脂成形品)を得るとともに、そのモールド樹脂と、多層シートの層とを、熱硬化反応により接合した。
【0322】
なお、実施例13では、この加熱によって、残存したアクリロイル基を自己架橋させ、層をさらに硬化させた。
【0323】
また、実施例14では、モールド原料としてジアリルフタレート樹脂組成物(大阪ソーダ製 ジアリルフタレート樹脂 商品名:ダイソーダップA)を使用した以外は、実施例1~13および実施例15と同様にして、モールド樹脂と、多層シートの層とを、熱硬化反応により接合した。
【0324】
その後、金型からモールド樹脂(成形品)を取り出すとともに、基材シートを表層(熱硬化層)から剥離させ、表層(熱硬化層)付モールド樹脂を得た。
【0325】
比較例3
表8に記載の(メタ)アクリル樹脂を、バーコーターを用いて、基材シート(王子エフテックス社製、50μm厚のオレフィンフィルム)の一方面に塗布し、60℃で1分加熱し、溶剤を除去した。
【0326】
その後、UV照射し、(メタ)アクリル樹脂を硬化させ、膜厚1μmの層を形成した。
【0327】
その後、層の一方面に、ハリアクロン350B(商品名、アクリル粘着剤組成物、ハリマ化成製)を、バーコーターを用いて塗布し、60℃で1分加熱し、膜厚1μmの接着層を形成した。
【0328】
これにより、基材シートと層(未熱硬化層)と接着層とを備える多層シートを得た。
【0329】
また、実施例1と同じ方法で、表層(熱硬化層)付モールド樹脂を得た。
【0330】
比較例4
モールド樹脂の物性を評価するため、基材シートにモールド樹脂を積層した。
【0331】
すなわち、モールド原料としてのエポキシ樹脂組成物(丸本ストルアス社製 エポキシ樹脂 商品名エポフィックス)を、バーコーターを用いて、基材シート(王子エフテックス社製、50μm厚のオレフィンフィルム)の一方面に塗布し、乾燥により溶剤を除去した。
【0332】
これにより、基材シート上に、膜厚1μmのモールド原料層(未熱硬化のエポキシ樹脂層)を形成し、多層シートを得た。
【0333】
そして、上側金型および下側金型のセットからなる注型用金型を用意し、その下側金型に多層シートを、モールド原料層が金型内側を向くようにセットした。なお、金型から成形されるモールド樹脂に対し、JIS K 5600-5-6(1999)に基づいて密着性を正確に評価できるよう、下側金型として、平らで滑らかな表面の金型を用いた。
【0334】
その後、金型に、モールド原料としてのエポキシ樹脂組成物(丸本ストルアス社製 エポキシ樹脂 商品名エポフィックス)を注入および充填し、上側金型をセットして、100℃で1時間硬化させた。
【0335】
これにより、モールド樹脂(エポキシ樹脂成形品)を得るとともに、モールド原料層を熱硬化させ、モールド樹脂層(熱硬化したエポキシ樹脂層)を形成した。これにより、成形樹脂としてのモールド樹脂と、多層シート中のモールド樹脂層(熱硬化したエポキシ樹脂層)とを、熱硬化反応により接合した。
【0336】
その後、金型からモールド樹脂(成形品)を取り出すとともに、基材シートをモールド樹脂層から剥離させ、モールド樹脂層付モールド樹脂を得た。
【0337】
実施例16
・多層シート
表9に記載の(メタ)アクリル樹脂を、バーコーターを用いて、基材シート(王子エフテックス社製、50μm厚のオレフィンフィルム)の一方面に塗布し、60℃で1分加熱し、溶剤を除去した。
【0338】
その後、高圧水銀ランプを用いて、主波長365nmの紫外線(UV)を、積算光量が500mJ/cmとなるように照射し、膜厚0.1μmの層(未熱硬化層)を形成した。これにより、基材シートと層(未熱硬化層)とを備える多層シートを得た。
【0339】
・表層付モールド樹脂
上側金型および下側金型のセットからなる注型用金型を用意し、その下部金型に多層シートを保護層が金型内側を向くようにセットした。なお、金型から成形される表層付モールド樹脂に対し、JIS K 5600-5-6(1999)に基づいて密着性を正確に評価できるよう、下側金型として、平らで滑らかな表面の金型を用いた。
【0340】
その後、金型に、モールド原料としてのエポキシ樹脂組成物(丸本ストルアス社製 エポキシ樹脂 商品名エポフィックス)を注入および充填し、上部金型をセットして、100℃で1時間硬化させた。これにより、モールド樹脂(エポキシ樹脂成形品)を得るとともに、そのモールド樹脂と、多層シートの層(未熱硬化層)とを、熱硬化反応により接合した。
【0341】
その後、金型からモールド樹脂(成形品)を取り出すとともに、基材シートを表層から剥離させ、表層付モールド樹脂を得た。
【0342】
比較例5
多層シートに代えて、基材シート(王子エフテックス社製、50μm厚のオレフィンフィルム)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、モールド樹脂を得た。
【0343】
4.評価
(1)引張伸度
多層シートの引張伸度を、プラスチック-引張特性の試験方法(JIS K7127(1999)))に準拠して、測定した。なお、比較例5では、多層シートに代えて、基材シートの引張伸度を測定した。
【0344】
具体的には、厚さ30μm、幅25mm、長さ115mmの試験片を用い、引張速度100mm/分、チャック間距離80mm、標線間距離25mm、温度23℃の条件で破断するまでの引張伸度(%)を測定した。
【0345】
評価の基準を下記する。
【0346】
A:引張伸度10%以上
B:引張伸度5%以上10%未満
C:引張伸度5%未満
(2)鉛筆硬度
表層(熱硬化層)の鉛筆硬度を、JIS K5600-5-4(1999)「引っ掻き硬度(鉛筆法)」の試験法に準拠して、評価した。なお、比較例4では、表層(熱硬化層)に代えて、モールド樹脂層(熱硬化したエポキシ樹脂層)の鉛筆硬度を評価した。また、比較例5では、表層(熱硬化層)に代えて、表層を有しないモールド樹脂の表面の鉛筆硬度を評価した。
【0347】
評価の基準は、硬度が低い方から高い方へ向かって、B、HB、F、Hの順であり、また、「H」の前に付く数字が大きいほど硬度が高く、「B」の前に付く数字が大きいほど硬度が低いことを示す。
(3)密着性(接着性)
表層(熱硬化層)とモールド樹脂との密着性を、JIS K5600-5-6(1999)の「クロスカット法」の試験法に準拠して、評価した。
【0348】
具体的には、上記の表層付モールド樹脂の表層(熱硬化層)を、カッターナイフで縦横方向に切断し、モールド樹脂に達するようにクロスカットして、100個の切断片とした。
【0349】
そして、クロスカット上に粘着テープ(ニチバン製「ニチバンテープ1号」)を貼り付けた。そして、貼り付けられた粘着テープを剥離し、その後に、剥離せずに残ったクロスカットの数を数えた。
【0350】
なお、比較例4では、上記と同様にして、モールド樹脂層(熱硬化したエポキシ樹脂層)とモールド樹脂(成形樹脂)との密着性を評価した。
【0351】
(4)耐擦傷性
表層付モールド樹脂の代替として、表層(熱硬化層)付の試験板を準備した。すなわち、試験板(アクリル板)の表面に、各実施例および比較例1~3の条件で、(メタ)アクリル樹脂を塗布し、光硬化させ、その後、モールド樹脂の成形条件と同じ条件で、熱硬化させた。これにより、試験板(アクリル板)の表面に、表層(熱硬化層)を得た。
【0352】
また、比較例4および比較例5について評価するため、試験板(アクリル板)の表面に、モールド原料(エポキシ樹脂組成物)を塗布し、熱硬化させた。これにより、試験板(アクリル板)の表面に、モールド樹脂層(熱硬化したエポキシ樹脂層)を得た。
【0353】
そして、表層(熱硬化層)およびモールド樹脂層(熱硬化したエポキシ樹脂層)の表面に対して、スチールウール(ボンスター販売製 品番#0000)を、水平方向に10往復させた。なお、荷重は、1cm当たり100gとした。
【0354】
その後、ヘイズメーターNDH5000(日本電色工業社製)を用いて、スチールウール摩擦前後の表層(熱硬化層)およびモールド樹脂層(熱硬化したエポキシ樹脂層)のヘーズ(濁度)を測定し、色差ΔEを算出した。
【0355】
評価の基準を下記する。
【0356】
A:ΔEが0以上1未満
B:ΔEが1以上3未満
C:ΔEが3以上10未満
(5)金型汚染
表層付モールド樹脂の成形時において、上側金型に対して接触する接触層が、上側金型に転写(付着)される量を観察し、評価した。
【0357】
より具体的には、各実施例および比較例1~3では、表層(熱硬化層)の上側金型に対する転写(付着)を観察し、評価した。
【0358】
また、比較例4では、上記と同様にして、モールド樹脂層(熱硬化したエポキシ樹脂層)の上側金型に対する転写(付着)を観察し、評価した。
【0359】
また、比較例5では、上記と同様にして、基材シートの上側金型に対する転写(付着)を観察し、評価した。
【0360】
評価の基準を下記する。なお、以下において、接触層とは、モールド成形時に上側金型に接触する層であり、各実施例および比較例1~3では、表層(熱硬化層)を示し、比較例4では、モールド樹脂層(熱硬化したエポキシ樹脂層)を示し、比較例5では、基材シートを示す。
【0361】
A:接触層のすべてが上側金型に転写されなかった(転写面積率0%)。
【0362】
B:接触層の内0%超過10%以下の面積の塗膜が上側金型に転写された。
【0363】
C:接触層の内10%超過の面積の塗膜が上側金型に転写された。
【0364】
(6)剥離性(応力抑制)
表層付きモールド樹脂から、基材シートを剥離させる際の応力(剥離力)を測定した。
【0365】
より具体的には、各実施例および各比較例の多層シートを、100℃で1時間加熱して、多層シートの表層を硬化させた。そして、硬化した表層と基材シートとを剥離するための剥離力を、剥離試験機TE-1003(テスター産業社製)により測定した。これにより、層間剥離性を評価した。
【0366】
なお、比較例4では、上記と同様にして、モールド樹脂層と基材シートとを剥離するための剥離力を測定した。これにより、層間剥離性を評価した。
【0367】
また、比較例5では、モールド樹脂と基材シートとを剥離するための剥離力を測定した。これにより、基材シートの剥離時にモールド樹脂にかかる応力(剥離性)を評価した。
【0368】
なお、評価の基準を下記する。
【0369】
A:剥離力 0.1N/25mm未満
B:剥離力 0.1N/25mm以上0.3N/25mm未満
C:剥離力 0.3N/25mm以上
【0370】
【表1】
【0371】
【表2】
【0372】
【表3】
【0373】
【表4】
【0374】
【表5】
【0375】
【表6】
【0376】
【表7】
【0377】
【表8】
【0378】
【表9】
【0379】
なお、表中の略号の詳細を下記する。
【0380】
GMA:グリシジルメタクリレート
AA:アクリル酸
2-HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
FM-0721:商品名、JNC製、3-メタクリロキシプロピルジメチルポリシロキサン
MMA:メチルメタクリレート
BA:ブチルアクリレート
ABN-E:ラジカル重合開始剤、アゾビス-2-メチルブチロニトリル
MIBK:メチルイソブチルケトン
カレンズAOI:商品名、昭和電工製、イソシアナトメチルアクリレート
イルガキュア127:商品名、BASF製、重合開始剤、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記特許請求の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0381】
本発明の多層シートおよび転写材は、各種成形樹脂産業において好適に用いられる。
【符号の説明】
【0382】
1 多層シート
2 基材シート
3 未熱硬化層
図1
図2
図3
図4
図5
図6