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特許7345527膜電極接合体、水素製造装置、触媒インクの製造方法、および膜電極接合体の製造方法
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  • 特許-膜電極接合体、水素製造装置、触媒インクの製造方法、および膜電極接合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】膜電極接合体、水素製造装置、触媒インクの製造方法、および膜電極接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/052 20210101AFI20230908BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20230908BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230908BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20230908BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20230908BHJP
【FI】
C25B11/052
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B11/081
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021148400
(22)【出願日】2021-09-13
(65)【公開番号】P2023041182
(43)【公開日】2023-03-24
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】高木 善則
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-012315(JP,A)
【文献】国際公開第2020/138800(WO,A1)
【文献】特開2015-228292(JP,A)
【文献】特開2020-20037(JP,A)
【文献】特開2001-106973(JP,A)
【文献】特開平11-292520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 9/23
C25B 1/04~1/044
C25B 9/00
C25B 11/04~11/097
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形水電解に使用される膜電極接合体であって、
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の表面に形成されたアノード触媒層と、
を有し、
前記アノード触媒層は、
触媒粒子と、
アイオノマーと、
撥水性粒子と、
を含み、
前記撥水性粒子は、フッ素基が付与されたセラミック粒子であり、
前記触媒粒子に対する前記撥水性粒子の割合が、2wt%以上かつ20wt%以下である、膜電極接合体。
【請求項2】
請求項に記載の膜電極接合体であって、
前記触媒粒子に対する前記撥水性粒子の割合が、5wt%以上かつ15wt%以下である、膜電極接合体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の膜電極接合体であって、
前記アイオノマーのEW値が、950以下である、膜電極接合体。
【請求項4】
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の膜電極接合体であって、
前記触媒粒子に対する前記アイオノマーの割合が、8wt%以上かつ45wt%以下である、膜電極接合体。
【請求項5】
固体高分子形水電解により水素を製造する水素製造装置であって、
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の膜電極接合体を備えた、水素製造装置。
【請求項6】
固体高分子形水電解に使用される膜電極接合体のアノード触媒層となる触媒インクの製造方法であって、
触媒粒子および水を調合することにより、第1調合液を生成する第1工程と、
前記第1調合液に、アルコール溶剤を添加することにより、第2調合液を生成する第2工程と、
前記第2調合液に、撥水性粒子を添加することにより、第3調合液を生成する第3工程と、
前記第3調合液に、アイオノマー溶液を添加することにより、第4調合液を生成する第4工程と、
を含み、
前記撥水性粒子は、フッ素基が付与されたセラミック粒子であり、
前記触媒粒子に対する前記撥水性粒子の割合が、2wt%以上かつ20wt%以下である、触媒インクの製造方法。
【請求項7】
請求項に記載の触媒インクの製造方法であって、
前記触媒インクに対する前記アルコール溶剤の割合が、15wt%以上である、触媒インクの製造方法。
【請求項8】
膜電極接合体の製造方法であって、
請求項または請求項に記載の製造方法により製造された触媒インクを、電解質膜の一方の表面に塗布して、乾燥させることにより、前記アノード触媒層を形成する工程
を含む、膜電極接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体、水素製造装置、触媒インクの製造方法、および膜電極接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水(HO)を電気分解することにより水素(H)を製造する、水電解と呼ばれる技術が知られている。水電解には、使用する電解質によって幾つかの種類が存在する。そのうちの1つが、電解質としてイオン交換膜(電解質膜)を用いた固体高分子形水電解である。固体高分子形水電解は、電解質膜の両面に触媒層が形成されたセルを使用する。水電解の実行時には、アノード側の触媒層とカソード側の触媒層との間に、電圧を印加するとともに、アノード側の触媒層に水を供給する。これにより、アノード側の触媒層と、カソード側の触媒層とにおいて、次の電気化学反応が生じる。その結果、カソード側の触媒層から、水素が排出される。
(アノード側) 2HO → 4H + O + 4e
(カソード側) 2H + 2e → H
【0003】
従来の固体高分子形水電解については、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-083085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、固体高分子形水電解では、アノード側の触媒層から、酸素が排出される。このため、アノード側の触媒層において、水の供給と、酸素の排出とを行う必要がある。その際、触媒層に供給される水の影響で、酸素の排出が阻害される場合がある。その場合、酸素の排出性が低下することにより、固体高分子形水電解による水素の製造効率が低下する、という問題がある。
【0006】
また、固体高分子形水電解では、アノード側の触媒層に満たされた水の一部が、電解質膜を通ってカソード側の触媒層へリークする。そして、カソード側の触媒層へ浸入した水が、生成された水素の排出を阻害する場合がある。これにより、水素の排出効率が低下する、という問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、触媒層において生成された物質の排出性を向上させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、固体高分子形水電解に使用される膜電極接合体であって、電解質膜と、前記電解質膜の一方の表面に形成されたアノード触媒層と、を有し、前記アノード触媒層は、触媒粒子と、アイオノマーと、撥水性粒子と、を含み、前記撥水性粒子は、フッ素基が付与されたセラミック粒子であり、前記触媒粒子に対する前記撥水性粒子の割合が、2wt%以上かつ20wt%以下である
【0010】
本願の第発明は、第発明の膜電極接合体であって、前記触媒粒子に対する前記撥水性粒子の割合が、5wt%以上かつ15wt%以下である。
【0011】
本願の第発明は、第1発明または第2発明の膜電極接合体であって、前記アイオノマーのEW値が、950以下である。
【0012】
本願の第発明は、第1発明から第発明までのいずれか1発明の膜電極接合体であって、前記触媒粒子に対する前記アイオノマーの割合が、8wt%以上かつ45wt%以下である。
【0014】
本願の第発明は、固体高分子形水電解により水素を製造する水素製造装置であって、第1発明から第4発明までのいずれか1発明の膜電極接合体を備える。
【0015】
本願の第発明は、固体高分子形水電解に使用される膜電極接合体のアノード触媒層となる触媒インクの製造方法であって、触媒粒子および水を調合することにより、第1調合液を生成する第1工程と、前記第1調合液に、アルコール溶剤を添加することにより、第2調合液を生成する第2工程と、前記第2調合液に、撥水性粒子を添加することにより、第3調合液を生成する第3工程と、前記第3調合液に、アイオノマー溶液を添加することにより、第4調合液を生成する第4工程と、を含み、前記撥水性粒子は、フッ素基が付与されたセラミック粒子であり、前記触媒粒子に対する前記撥水性粒子の割合が、2wt%以上かつ20wt%以下である
【0016】
本願の第発明は、第発明の触媒インクの製造方法であって、前記触媒インクに対する前記アルコール溶剤の割合が、15wt%以上である。
【0017】
本願の第発明は、膜電極接合体の製造方法であって、第発明または第発明の製造方法により製造された触媒インクを、電解質膜の一方の表面に塗布して、乾燥させることにより、前記アノード触媒層を形成する工程を含む。
【発明の効果】
【0018】
本願の第1発明~第発明によれば、アノード触媒層に撥水性粒子を添加することにより、アノード触媒層において生成される物質の排出性を向上させることができる。また、アノード触媒層において生成される物質の排出性を向上させ、かつ、フッ素基の影響でアノード触媒層の導電性が低下することを抑制できる。また、アノード触媒層において生成される酸素の排出性を向上させることにより、固体高分子形水電解の水素製造効率を向上させることができる。
【0020】
特に、本願の第発明によれば、アノード触媒層において生成される物質の排出性をより向上させ、かつ、フッ素基の影響でアノード触媒層の導電性が低下することをより抑制できる。
【0021】
特に、本願の第発明によれば、アイオノマーの高分子鎖中のイオン交換基の数が多くなる。これにより、オキソニウムイオンを良好に伝搬させることができる。
【0022】
特に、本願の第発明によれば、触媒粒子をアイオノマーで良好に覆い、かつ、アノード触媒層内に空隙を残すことにより、生成される物質を良好に排出できる。
【0024】
また、本願の第発明~第発明によれば、アノード触媒層となる触媒インクに、撥水性粒子を添加する。これにより、アノード触媒層において生成される物質の排出性を向上させることができる。また、アルコール溶剤を添加した後に、撥水性粒子を添加する。これにより、撥水性粒子を均一に分散させることができる。
【0025】
特に、本願の第発明によれば、撥水性粒子を、より均一に分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】水素製造装置の模式図である。
図2】アノード触媒層の組成を、概念的に示した模式図である。
図3】撥水性粒子のイメージ図である。
図4】アノード触媒層における撥水性粒子の添加量と、水素製造装置の電圧特性との関係を示したグラフである。
図5】触媒インクの製造手順を示したフローチャートである。
図6】膜電極接合体の製造手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
<1.水素製造装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る水素製造装置1の模式図である。この水素製造装置1は、固体高分子形水電解により水素を製造する装置である。図1に示すように、水素製造装置1は、電解質膜10、アノード触媒層21、アノードガス拡散層22、アノードガスケット23、アノードセパレータ24、カソード触媒層31、カソードガス拡散層32、カソードガスケット33、およびカソードセパレータ34からなるセルを備える。当該セルの各層のうち、電解質膜10、アノード触媒層21、およびカソード触媒層31により構成される積層体は、本発明の一実施形態に係る膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode-Assembly)50である。
【0029】
電解質膜10は、イオン伝導性を有する薄板状の膜(イオン交換膜)である。電解質膜10には、フッ素系または炭化水素系の高分子電解質膜が用いられる。具体的には、電解質膜10として、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸を含む高分子電解質膜が使用される。電解質膜10の膜厚は、例えば、5μm~30μmとされる。
【0030】
アノード触媒層21は、アノード側の電極となる層である。アノード触媒層21は、電解質膜10のアノード側の表面に形成されている。アノード触媒層21は、多数の触媒粒子を含む。触媒粒子は、例えば、酸化イリジウム(IrOx)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)とルテニウム(Ru)の合金、イリジウム(Ir)と二酸化チタン(TiO)の合金などである。水素製造装置1の使用時には、アノード触媒層21に、水(HO)が供給される。そして、後述する電源40により、アノード触媒層21とカソード触媒層31との間に、電圧が印加される。そうすると、当該電圧と、触媒粒子の作用により、アノード触媒層21において、水が、水素イオン(H)、酸素(O)、および電子(e)に電気分解される。
【0031】
なお、アノード触媒層21のより詳細な組成については、後述する。
【0032】
アノードガス拡散層22は、アノード触媒層21へ水を均一に供給するとともに、アノード触媒層21で生成された酸素および電子をアノードセパレータ24へ送るための層である。アノードガス拡散層22は、アノード触媒層21の外側の面に積層されている。アノード触媒層21は、電解質膜10とアノードガス拡散層22との間に挟まれている。アノードガス拡散層22は、導電性を有し、かつ、多孔質の材料により形成される。アノードガス拡散層22には、例えば、カーボンペーパーが使用される。
【0033】
アノードガスケット23は、アノード触媒層21およびアノードガス拡散層22から、
水および酸素が周囲に漏れることを防止するための層である。図1に示すように、アノードガスケット23は、電解質膜10のアノード側の表面に形成され、かつ、アノード触媒層21およびアノードガス拡散層22の周囲を囲む。
【0034】
アノードセパレータ24は、アノードガス拡散層22へ水を供給するとともに、アノード触媒層21からアノードガス拡散層22を介して流れる電子を、電源40へ送るための層である。また、アノードセパレータ24は、アノード触媒層21で生成された酸素を、外部へ排出する役割も果たす。アノードセパレータ24は、アノードガス拡散層22およびアノードガスケット23の外側の面に形成されている。アノード触媒層21、アノードガス拡散層22、およびアノードガスケット23は、電解質膜10とアノードセパレータ24との間に挟まれている。
【0035】
アノードセパレータ24は、導電性を有し、かつ、気体を透過しない材料により形成される。また、アノードセパレータ24には、多数の溝241が形成されている。水は、アノードセパレータ24の当該溝241を通って、アノードガス拡散層22へ供給される。また、アノード触媒層21で生成された酸素は、アノードガス拡散層22を通過し、アノードセパレータ24の溝241を通って、外部へ排出される。
【0036】
カソード触媒層31は、カソード側の電極となる層である。カソード触媒層31は、電解質膜10のカソード側の表面(アノード触媒層21とは反対側の表面)に形成されている。カソード触媒層31は、触媒粒子を担持した多数のカーボン粒子を含む。触媒粒子は、例えば、白金の粒子である。ただし、触媒粒子は、白金の粒子に、微量のルテニウムまたはコバルトの粒子を混合したものであってもよい。水素製造装置1の使用時には、カソード触媒層31に、水素イオン(H)と電子(e)とが供給される。そして、後述する電源40により、アノード触媒層21とカソード触媒層31との間に、電圧が印加される。そうすると、当該電圧と、触媒粒子の作用により、カソード触媒層31において、還元反応が生じ、水素イオンおよび電子から水素ガス(H)が生成される。
【0037】
カソードガス拡散層32は、カソードセパレータ34からカソード触媒層31へ電子を送るとともに、カソード触媒層31で生成された水素をカソードセパレータ34へ送るための層である。カソードガス拡散層32は、カソード触媒層31の外側の面に積層されている。カソード触媒層31は、電解質膜10とカソードガス拡散層32との間に挟まれている。カソードガス拡散層32は、導電性を有し、かつ、多孔質の材料により形成される。カソードガス拡散層32には、例えば、カーボンペーパーが使用される。
【0038】
カソードガスケット33は、カソード触媒層31およびカソードガス拡散層32から、水素が周囲に漏れることを防止するための層である。図1に示すように、カソードガスケット33は、電解質膜10のカソード側の表面に形成され、かつ、カソード触媒層31およびカソードガス拡散層32の周囲を囲む。
【0039】
カソードセパレータ34は、電源40から供給される電子を、カソードガス拡散層32へ送るとともに、生成された水素を外部へ排出するための層である。カソードセパレータ34は、カソードガス拡散層32およびカソードガスケット33の外側の表面に形成されている。カソード触媒層31、カソードガス拡散層32、およびカソードガスケット33は、電解質膜10とカソードセパレータ34との間に挟まれている。カソードセパレータ34は、導電性を有し、かつ、気体を透過しない材料により形成される。また、カソードセパレータ34には、多数の溝341が形成されている。水素は、カソードガス拡散層32から当該溝341を通って、外部へ排出される。
【0040】
電源40は、アノードセパレータ24とカソードセパレータ34との間に、接続される。具体的には、電源40の正極側の端子は、アノードセパレータ24と電気的に接続される。電源40の負極側の端子は、カソードセパレータ34と電気的に接続される。電源40は、水の電気分解に必要な電圧を、アノードセパレータ24とカソードセパレータ34との間に印加する。
【0041】
水素製造装置1の使用時には、アノードセパレータ24から、アノードガス拡散層22を介してアノード触媒層21に、水が供給される。そうすると、電源40による電圧と、アノード触媒層21の触媒粒子の作用とにより、水が、水素イオン、酸素、および電子に分解される。水素イオンは、電解質膜10を通って、カソード触媒層31へ伝搬する。酸素は、アノードガス拡散層22およびアノードセパレータ24を通って、外部へ排出される。電子は、アノードガス拡散層22、アノードセパレータ24、電源40、カソードセパレータ34、およびカソードガス拡散層32を通って、カソード触媒層31へ流れる。そして、カソード触媒層31において、水素イオンと電子が結合して、水素が生成される。生成された水素は、カソードガス拡散層32およびカソードセパレータ34を通って、外部へ排出される。これにより、水素が製造される。
【0042】
<2.アノード触媒層の組成>
続いて、上述したアノード触媒層21の、より詳細な組成について説明する。
【0043】
図2は、アノード触媒層21の組成を、概念的に示した模式図である。図2に示すように、アノード触媒層21は、複数の触媒粒子51、アイオノマー52、および複数の撥水性粒子53を含む。
【0044】
触媒粒子51は、水の電気分解を引き起こすための粒子である。触媒粒子51には、例えば、酸化イリジウム、白金、イリジウムとルテニウムの合金、イリジウムと二酸化チタンの合金、などが使用される。
【0045】
アイオノマー52は、触媒粒子51を覆う電解質ポリマーである。アイオノマー52は、水の電気分解により生成される水素イオンを、アノード触媒層21内で輸送する役割を果たす。アイオノマー52には、例えば、ナフィオン(パーフルオロカーボンスルホン酸)が使用される。アイオノマー52は、スルホン基等のイオン交換基を有する高分子鎖構造をもつ。水素イオンは、カソード触媒層31内の水と結合して、オキソニウムイオン(H)となる。そして、当該オキソニウムイオンが、アイオノマー52のイオン交換基を伝って伝搬する。
【0046】
オキソニウムイオンを良好に伝搬するためには、アイオノマー52の高分子鎖中のイオン交換基の数を多くすることが望ましい。具体的には、イオン交換基1mol当たりのアイオノマー52の乾燥質量(アイオノマー52の単位質量あたりのイオン交換基の数の逆数)を示すEW値を、950以下とすることが望ましい。例えば、EW値を、650以上かつ950以下にするとよい。
【0047】
触媒粒子51に対するアイオノマー52の割合が少なすぎると、触媒粒子51をアイオノマー52で十分に被覆できなくなる。そうすると、アイオノマー52によりオキソニウムイオンを良好に伝搬することが困難となる。一方、触媒粒子51に対するアイオノマー52の割合が多すぎると、カソード触媒層31内の空隙が少なくなる。そうすると、アノード触媒層21内における水の拡散や、アノード触媒層21で生成された酸素の排出が、阻害されてしまう。
【0048】
したがって、触媒粒子51に対するアイオノマー52の割合は、触媒粒子51をアイオノマー52で良好に覆うことができ、かつ、水の拡散および酸素の排出を良好に行うことができるような割合とすることが望ましい。具体的には、触媒粒子51に対するアイオノマー52の割合(重量比)を、8wt%以上かつ45wt%以下とすることが望ましい。また、触媒粒子51に対するアイオノマー52の割合(重量比)を、10wt%以上かつ25wt%以下とすることが、より望ましい。
【0049】
撥水性粒子53は、アノード触媒層21における酸素の排出性を向上させるための添加物である。図3は、撥水性粒子53のイメージ図である。図3に示すように、撥水性粒子53は、本体粒子531の表面に、撥水性を有する複数のフッ素基(F)が付与されたものである。本体粒子531は、例えば、セラミック粒子または金属粒子である。セラミック粒子は、例えば、酸化チタン(TiO)の粒子である。金属粒子は、例えば、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)等の貴金属の粒子である。撥水性粒子53の直径は、例えば、2nm以上かつ500nm以下である。
【0050】
アノード触媒層21には水が存在し、かつ、2V程度の高電圧が印加される。このため、仮に、本体粒子531としてカーボン粒子を使用すると、電気分解と並行して、カーボンの酸化(電子放出)が進行する。具体的には、次式の化学反応が生じ、カーボン(C)が消失してしまう。このため、本体粒子531には、カーボン粒子を使用せず、上述の通り、セラミック粒子または金属粒子を使用することが望ましい。
C + HO → CO + 2H + 2e
【0051】
図4は、アノード触媒層21における撥水性粒子53の添加量と、水素製造装置1の電圧特性との関係を示したグラフである。図4のグラフにおいて、横軸は、触媒粒子51に対する撥水性粒子53の割合(重量比)を示している。縦軸は、所定量の水素を生成するために電源40から印加すべき電圧値を示している。なお、図4のグラフでは、電流密度が2.0A/cmのときの電圧値を示している。
【0052】
アノード触媒層21に撥水性粒子53を添加すると、フッ素基の撥水作用により、アノード触媒層21内の水が弾かれる。これにより、アノード触媒層21において生成された酸素の移動が、水に阻害されにくくなる。したがって、アノード触媒層21から、酸素を効率よく排出することができる。そして、酸素の排出性が向上すると、アノード触媒層21における水の電気分解が、より促進される。
【0053】
また、アノード触媒層21に撥水性粒子53を添加すると、アノード触媒層21内の水が、電解質膜10を通ってカソード触媒層31へ浸入することが、抑制される。このため、カソード触媒層31において生成された水素の移動が、水に阻害されにくくなる。したがって、カソード触媒層31から、水素を効率よく排出することができる。
【0054】
これらの作用により、図4のように、アノード触媒層21に撥水性粒子53を添加すると、撥水性粒子53を添加しない場合と比べて、電源40から印加すべき電圧値を下げることができる。すなわち、固体高分子形水電解による水素の製造効率を、向上させることができる。
【0055】
ただし、撥水性粒子53の添加量が多すぎると、絶縁性を有するフッ素基の影響で、アノード触媒層21の電気抵抗が大きくなる。これにより、図4において、触媒粒子51に対する撥水性粒子53の重量比が25wt%の場合のように、電源40から印加すべき電圧値が、却って増加する。
【0056】
したがって、撥水性粒子53の添加量は、アノード触媒層21において生成される酸素の排出性を向上させることができ、かつ、フッ素基の影響でアノード触媒層21の導電性が低下することを抑制できるような量とすることが望ましい。具体的には、触媒粒子51に対する撥水性粒子53の割合(重量比)を、2wt%以上かつ20wt%以下とすることが望ましい。また、触媒粒子51に対する撥水性粒子53の割合(重量比)を、5wt%以上かつ15wt%以下とすることが、より望ましい。例えば、触媒粒子51に対する撥水性粒子53の割合(重量比)を、10wt%とするとよい。
【0057】
上述の通り、アノード触媒層21においては、水素イオンが、水と結合することにより、オキソニウムイオンの形態で伝搬する。このため、水素イオンの伝搬効率を高めるためには、アノード触媒層21内に、ある程度の水分が均一に保持されていることが望ましい。ただし、水分が多すぎると、アノード触媒層21における酸素の排出性が阻害されてしまう。このため、アノード触媒層21においては、保持される水分量を最適化することが望ましい。
【0058】
この点において、上述したアイオノマー52のEW値を小さくすることは、アノード触媒層21における含水率を増加させる方向に作用する。一方、撥水性粒子53を添加することは、アノード触媒層21における含水率を低下させる方向に作用する。したがって、上述の通り、アイオノマー52のEW値を950以下とし、かつ、撥水性粒子53を添加することで、アノード触媒層21に保持される水分量を、適切な範囲に維持することができる。これにより、固体高分子形水電解による水素の製造効率を、より向上させることができる。
【0059】
<3.触媒インクの製造手順>
アノード触媒層21は、電解質膜10の表面に、ペースト状の触媒インクを塗布することにより、形成される。以下では、アノード触媒層21となる触媒インクの製造方法について、説明する。
【0060】
図5は、触媒インクの製造手順を示したフローチャートである。図5に示すように、触媒インクを製造するときには、まず、触媒粒子51および水を調合することにより、第1調合液を生成する(第1工程S1)。この第1工程S1では、水を加えることにより、触媒粒子51の発火を防止する。
【0061】
次に、第1調合液に、アルコール溶剤を添加することにより、第2調合液を生成する(第2工程S2)。アルコール溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、または2-プロパノールなどである。
【0062】
続いて、第2調合液に、撥水性粒子53を添加することにより、第3調合液を生成する(第3工程S3)。撥水性粒子53は、フッ素基が付与されたセラミック粒子またはフッ素基が付与された金属粒子である。この第3工程S3では、第2工程S2で加えたアルコール溶剤中において、撥水性粒子53が分散する。
【0063】
仮に、上述した第1工程S1で、撥水性粒子53を加えると、フッ素基の撥水作用により、第1調合液中において、撥水性粒子53が分散せず、塊となりやすい。これに対し、本実施形態では、第2工程S2において、予め接触角の小さい(撥水性粒子53に対する親和性が高い)アルコール溶液を添加した後に、第3工程S3において撥水性粒子53を添加する。これにより、第3調合液中において、撥水性粒子53を、均一に分散させることができる。
【0064】
その後、第3調合液に、アイオノマー溶液を添加することにより、第4調合液を生成する(第4工程S4)。アイオノマー溶液は、水およびアルコール中にアイオノマー52を溶解した溶液である。アイオノマー溶液は、水の比率が高いため、第3工程S3において撥水性粒子53を添加して分散させた後に、添加する。
【0065】
その後、第4調合液に対して、さらに分散処理を行う(第5工程S5)。この第5工程S5では、例えば、第4調合液を撹拌する。これにより、第4調合液中において、撥水性粒子53が、より均一に分散する。その結果、触媒インクが生成される。なお、最終的に生成される触媒インクに対するアルコール溶剤の割合(重量比)は、15wt%以上とすることが望ましい。これにより、触媒インクにおける撥水性粒子53の分散性を、さらに向上させることができる。
【0066】
<4.膜電極接合体の製造方法>
続いて、上述した触媒インクを用いて、膜電極接合体50を製造する方法について、説明する。
【0067】
図6は、膜電極接合体50の製造手順を示したフローチャートである。図6に示すように、膜電極接合体50を製造するときには、電解質膜10の一方の表面に、上述した手順により製造されたアノード用の触媒インクを塗布する(第6工程S6)。そして、塗布された触媒インクを乾燥させる(第7工程S7)。これにより、電解質膜10の一方の表面に、アノード触媒層21が形成される。
【0068】
また、電解質膜10の他方の表面に、カソード用の触媒インクを塗布する(第8工程S8)。そして、塗布された触媒インクを乾燥させる(第9工程S9)。これにより、電解質膜10の他方の表面に、カソード触媒層31が形成される。その結果、電解質膜10、アノード触媒層21、およびカソード触媒層31により構成される膜電極接合体50が得られる。
【0069】
なお、アノード触媒層21を形成する第6工程S6および第7工程S7と、カソード触媒層31を形成する第8工程S8および第9工程S9とは、順序が逆であってもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 水素製造装置
10 電解質膜
21 アノード触媒層
22 アノードガス拡散層
23 アノードガスケット
24 アノードセパレータ
25 アノード電極
31 カソード触媒層
32 カソードガス拡散層
33 カソードガスケット
34 カソードセパレータ
40 電源
50 膜電極接合体
51 触媒粒子
52 アイオノマー
53 撥水性粒子
241 アノードセパレータの溝
341 カソードセパレータの溝
531 本体粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6