(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】導電性パターン領域を有する構造体及びその製造方法、積層体及びその製造方法、並びに、銅配線
(51)【国際特許分類】
H05K 1/02 20060101AFI20230908BHJP
H05K 3/10 20060101ALI20230908BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20230908BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20230908BHJP
【FI】
H05K1/02 A
H05K3/10 C
H05K1/09 A
H05K3/28 Z
(21)【出願番号】P 2021168193
(22)【出願日】2021-10-13
(62)【分割の表示】P 2019530558の分割
【原出願日】2018-07-18
【審査請求日】2021-11-12
(31)【優先権主張番号】P 2017139133
(32)【優先日】2017-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017139134
(32)【優先日】2017-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017141518
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017141519
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017145188
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018023239
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 正人
(72)【発明者】
【氏名】湯本 徹
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 雅典
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-253794(JP,A)
【文献】特開2014-222611(JP,A)
【文献】特開昭60-244093(JP,A)
【文献】特開2004-327703(JP,A)
【文献】特開平05-041575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H05K 3/10
H05K 1/09
H05K 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、前記支持体が構成する面上に配置された層と、を有し、
前記層中に、銅を含有する導電性パターン領域と、酸化銅とリン含有有機物を含む絶縁領域とが互いに隣接し、
前記リン含有有機物の分子量が300~300,000であり、
前記リン含有有機物が、ポリエチレングリコール構造、ポリプロピレングリコール構造、ポリアセタール構造、ポリブテン構造、及びポリスルフィド構造からなる群から選択される1つ以上の骨格を有することを特徴とする構造体。
【請求項2】
前記絶縁領域における前記酸化銅は、前記酸化銅を含む微粒子であり、
前記リン含有有機物の含有量は、前記微粒子の全体積を100体積部としたときの5体積部以上900体積部以下であることを特徴とする請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記層の上に、酸素バリア性を有する樹脂層を配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の構造体。
【請求項4】
前記樹脂層の一部に、前記導電性パターン領域に電気的な接続を行うための開口部が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の構造体。
【請求項5】
前記層は、立体面を有する前記支持体に配置されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項6】
支持体と、前記支持体が構成する面上に配置された、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗布層と、前記塗布層を覆うように配置された樹脂層と、を具備し、
前記リン含有有機物の分子量が300~300,000であ
り、
前記リン含有有機物は、ポリエチレングリコール構造、ポリプロピレングリコール構造、ポリアセタール構造、ポリブテン構造、及びポリスルフィド構造からなる群から選択される1つ以上の骨格を有することを特徴とする積層体。
【請求項7】
前記酸化銅は、前記酸化銅を含む微粒子であり、
前記リン含有有機物の含有量は、前記微粒子の全体積を100体積部としたときの5体積部以上900体積部以下であることを特徴とする請求項
6に記載の積層体。
【請求項8】
前記塗布層は、立体面を有する前記支持体に配置されていることを特徴とする請求項6
又は7に記載の積層体。
【請求項9】
支持体が構成する面上に、酸化銅とリン含有有機物と、を含む塗布層を配置する工程と、
光線を前記塗布層に選択的に照射して前記酸化銅を銅に還元し、前記支持体と、前記支持体が構成する面上に、前記酸化銅及びリン含有有機物を含む絶縁領域と、前記銅を含む導電性パターン領域と、が互いに隣接して配置された層と、を得る工程と、を具備し、
前記リン含有有機物の分子量が300~300,000であり、
前記リン含有有機物が、ポリエチレングリコール構造、ポリプロピレングリコール構造、ポリアセタール構造、ポリブテン構造、及びポリスルフィド構造からなる群から選択される1つ以上の骨格を有することを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項10】
前記塗布層を覆うように第一樹脂層を配置する工程をさらに有することを特徴とする請求項
9に記載の構造体の製造方法。
【請求項11】
前記光線は、前記第一樹脂層又は前記支持体のいずれか一方を介して、前記塗布層に選択的に照射することを特徴とする請求項
10に記載の構造体の製造方法。
【請求項12】
前記層から前記絶縁領域を除去する工程をさらに具備することを特徴とする請求項
9~
11のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項13】
少なくとも前記導電性パターン領域を覆うように第二樹脂層を配置する工程をさらに具備することを特徴とする請求項
12に記載の構造体の製造方法。
【請求項14】
前記光線が、中心波長が355nm以上532nm以下のレーザ光であることを特徴とする請求項
9~
13のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性パターン領域を有する構造体及びその製造方法、積層体及びその製造方法、並びに、銅配線に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板は、基板上に導電性の配線を施した構造を有する。回路基板の製造方法は、一般的に、次の通りである。まず、金属箔を貼り合せた基板上にフォトレジストを塗布する。次に、フォトレジストを露光及び現像して所望の回路パターンのネガ状の形状を得る。
次に、フォトレジストに被覆されていない部分の金属箔をケミカルエッチングにより除去してパターンを形成する。これにより、高性能の導電性基板を製造することができる。
【0003】
しかしながら、従来の方法は、工程数が多く、煩雑であると共に、フォトレジスト材料を要する等の欠点がある。
【0004】
これに対し、金属微粒子及び金属酸化物微粒子からなる群から選択された微粒子を分散させた分散体(以下、「ペースト材料」ともいう)で基板上に所望の配線パターンを直接印刷する直接配線印刷技術が注目されている。この技術は、工程数が少なく、フォトレジスト材料を用いる必要がない等、極めて生産性が高い。
【0005】
直接印刷配線技術の一例としては、ペースト材料をスクリーン印刷やインクジェット印刷に支持体上に印刷し、その後ペースト材料を熱焼成することで低抵抗な配線パターンを得ることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、ペースト材料を基板の全面に塗布し、ペースト材料にレーザ光をパターン状に照射して選択的に熱焼成することで、所望の配線パターンを得る方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0007】
また、ポリエチレンテレフタレート(PET)支持体上に、酸化第一銅の凝集体粒子を含む分散液を厚み10~20μmで塗布し、これをレーザで焼成することで銅配線を製造する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。この方法によれば、レーザ照射部以外は加熱されないため、PET支持体のような低耐熱樹脂材料を用いることができる。
【0008】
また、支持体と、銅ペーストを焼成して得られる金属質銅含有膜との密着性を向上させるため、下地層として酸化ケイ素の粒子であるコロイダルシリカを用いることが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
また、基板上に、第1塗布層を形成し、第1塗布層の一部に光を照射して第1導電部を形成し、続いて、第1塗布層上に第2塗布層を形成し、第2塗布層から第1導電部にかけて光を照射して第2導電部を形成する多層配線基板の製造方法が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0010】
また、基板上に、銅又は銅酸化物分散体を用いたパターン状の塗布膜を形成し、焼成処理することで、導電膜を得る方法が知られている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2010/024385号パンフレット
【文献】特開平5-37126号公報
【文献】特許5449154号公報
【文献】国際公開第2016/031860号パンフレット
【文献】特開2015-26681号公報
【文献】国際公開第2015/012264号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1~3に記載された、ペースト材料に対するレーザ照射により配線パターンを形成する直接配線印刷技術では、レーザ照射がされなかった領域に未焼成のペースト材料が残る。未焼成のペースト材料は導電性があり、そのままでは、配線パターン間での電気絶縁性を確保できない。このため、未焼成のペースト材料を除去し、ソルダーレジスト等の絶縁性材料を配線パターン間に充填することが行なわれている。
【0013】
このため、従来の直接配線印刷技術では、未焼成ペースト材料の除去及び絶縁材料の充填のための工程が必須であり、工程数の削減のメリットが少ない。また、未焼成ペースト材料の除去のための溶剤、リンス剤等を用意する必要があり、製造コストの増加につながる。
【0014】
従来の直接配線印刷技術をフレキシブルな基材の上への配線パターン形成に適用した場合、得られた回路基板について低温環境及び高温環境を行き来するヒートサイクル試験を実施した場合に、ソルダーレジストと配線との間にクラックが生じるという問題があった。
【0015】
さらに、特許文献4に開示された下地層に使用されるコロイダルシリカは、金属に対する密着性に優れるが、樹脂との密着性が悪い。このため、基材の材質が樹脂である場合、下地層と基材との間で剥離が生じることがあり、信頼性が低い。
【0016】
特許文献5に記載の方法は、レーザ照射がされなかった領域に酸化第二銅粒子と樹脂バインダーからなる未焼成のペースト材料が残るが、酸化第二銅粒子が大きく、樹脂バインダーと粒子が局在化しており、そのままの状態では配線パターン間の電気絶縁性が十分ではない。
【0017】
特許文献6に記載の構造は、配線パターン間に充填されるものはなく、そのままの状態では配線パターン間の電気絶縁性を確保できない。また、湿度が高い環境においては配線パターン間に水分を含んだ空気が入り込むことによって、絶縁破壊を生じ易く成ってしまう。
【0018】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、製造工程を極めて簡略にでき、導電性パターン領域間の電気絶縁性に優れ、且つ、長期信頼性に優れた導電性パターン領域を有する構造体及びその製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0019】
また、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、酸化銅の光焼成処理において、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気のための設備が不要になり、導電性パターン領域を有する構造体の製造コストを削減できる積層体及びその製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0020】
更に、本発明は、配線の導電性を高めることができる銅配線を提供することを目的の一つする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0022】
すなわち、本発明の構造体の一態様は、支持体と、前記支持体が構成する面上に配置された層と、を有し、前記層中に、銅を含有する導電性パターン領域と、酸化銅とリンを含有する絶縁領域とが互いに隣接することを特徴とする。
【0023】
また、本発明の構造体の別の一態様は、支持体と、前記支持体が構成する面上に配置された層と、を有し、前記層中に、銅を含有する導電性パターン領域と、酸化銅とヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含有する絶縁領域とが互いに隣接することを特徴とする。
【0024】
また、本発明の構造体の別の一態様は、支持体と、前記支持体が構成する面上に配置された層と、を有し、前記層中に、銅を含有する導電性パターン領域と、酸化銅とリンとヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含む絶縁領域とが互いに隣接することを特徴とする。
【0025】
また、本発明の構造体の別の一態様は、支持体と、前記支持体が構成する面上に配置された層と、を有し、前記層中に、銅とリンを含有する導電性パターン領域と、酸化銅とリンを含有する絶縁領域とが互いに隣接していることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の積層体の一態様は、支持体と、前記支持体が構成する面上に配置された、酸化銅及びリンを含む塗布層と、前記塗布層を覆うように配置された樹脂層と、を具備することを特徴とする。
【0027】
また、本発明の積層体の一態様は、支持体と、前記支持体が構成する面上に配置された、酸化銅及びヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含む塗布層と、前記塗布層を覆うように配置された樹脂層と、を具備することを特徴とする。
【0028】
また、本発明の積層体の一態様は、支持体と、前記支持体が構成する面上に配置された、酸化銅とリンとヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含む塗布層と、前記塗布層を覆うように配置された樹脂層と、を具備することを特徴とする。
【0029】
また、本発明の銅配線の一態様は、酸化銅が還元された還元銅とリンと炭素を含む銅配線であって、リン/銅の元素濃度比が0.02以上、0.30以下であり、炭素/銅の元素濃度比が1.0以上、6.0以下であることを特徴とする。
【0030】
また、本発明の構造体の製造方法の一態様は、支持体が構成する面上に、酸化銅とリン含有有機物と、を含む塗布層を配置する工程と、光線を前記塗布層に選択的に照射して前記酸化銅を銅に還元し、前記支持体と、前記支持体が構成する面上に、前記酸化銅及びリンを含む絶縁領域と、前記銅を含む導電性パターン領域と、が互いに隣接して配置された層と、を得る工程と、を具備することを特徴とする。
【0031】
また、本発明の構造体の製造方法の一態様は、支持体が構成する面上に、酸化銅とヒドラジンまたはヒドラジン水和物と、を含む塗布層を配置する工程と、光線を前記塗布層に選択的に照射して前記酸化銅を銅に還元し、前記支持体と、前記支持体が構成する面上に、前記酸化銅及び前記ヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含む絶縁領域と、前記銅を含む導電性パターン領域と、が互いに隣接して配置された層と、を得る工程と、を具備することを特徴とする。
【0032】
また、本発明の構造体の製造方法の一態様は、支持体が構成する面上に、酸化銅とリン含有有機物とヒドラジンまたはヒドラジン水和物と、を含む塗布層を配置する工程と、光線を前記塗布層に選択的に照射して前記酸化銅を銅に還元し、前記支持体と、前記支持体が構成する面上に、前記酸化銅及びリン及び前記ヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含む絶縁領域と、前記銅を含む導電性パターン領域と、が互いに隣接して配置された層と、を得る工程と、を具備することを特徴とする。
【0033】
また、本発明の積層体の製造方法の一態様は、支持体が構成する面上に、酸化銅とリン含有有機物と、を含む塗布層を配置する工程と、前記塗布層を覆うように樹脂層を配置する工程と、を具備することを特徴とする。
【0034】
また、本発明の積層体の製造方法の一態様は、支持体が構成する面上に、酸化銅とヒドラジンまたはヒドラジン水和物と、を含む塗布層を配置する工程と、前記塗布層を覆うように樹脂層を配置する工程と、を具備することを特徴とする。
【0035】
また、本発明の積層体の製造方法の一態様は、支持体が構成する面上に、酸化銅とリン含有有機物とヒドラジンまたはヒドラジン水和物と、を含む塗布層を配置する工程と、前記塗布層を覆うように樹脂層を配置する工程と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、製造工程を極めて簡略にでき、導電性パターン領域間の電気絶縁性に優れ、且つ、長期信頼性に優れた導電性パターン領域を有する構造体及びその製造方法を提供することができる。
【0037】
また、本発明によれば、酸化銅の光焼成処理において、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気のための設備が不要になり、導電性パターン領域を有する構造体の製造コストを削減できる積層体及びその製造方法を提供することができる。
【0038】
また、本発明によれば、配線の導電性を高めることができる銅配線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本実施の形態に係る導電性パターン領域を有する構造体における絶縁領域に含まれる酸化第一銅微粒子とリン酸エステル塩との関係を示す模式図である。
【
図2】第1の実施の形態に係る導電性パターン領域を有する構造体を示す断面模式図である。
【
図3】第2の実施の形態に係る導電性パターン領域を有する構造体を示す断面模式図である。
【
図4】
図3とは一部で異なる、導電性パターン領域を有する構造体を示す断面模式図である。
【
図5】本実施の形態に係る積層体の一例を示す断面模式図である。
【
図6】本実施の形態に係る積層体を用いて製造される導電性パターン領域を有する構造体の一例を示す断面模式図である。
【
図7】第1の実施の形態に係る導電性パターン領域を有する構造体の製造方法を示す各工程の説明図(一例)である。
【
図8】第2の実施の形態に係る導電性パターン領域を有する構造体の製造方法を示す各工程の説明図(一例)である。
【
図9】実施例での塗布層におけるクラックの状態を説明するための電子顕微鏡写真である。
【
図10】実施例での塗布層におけるクラックの状態を説明するための電子顕微鏡写真である。
【
図11】実施例での支持体上に形成された層の断面を示す電子顕微鏡写真である。
【
図12A】ガラス表面に形成した導電性パターン領域を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。
【0041】
<本実施の形態の導電性パターン領域を有する構造体(導電性パターン領域付構造体)の概要>
本発明者らは、支持体の表面に酸化銅を含む塗布層を配置し、当該塗布層に選択的に光照射し、酸化銅を銅に還元して導電性パターン領域を形成する際、未還元の酸化銅を含む領域の電気絶縁性を高めれば、当該領域を除去せずにそのまま残すことで、導電性パターン領域間の絶縁を確保でき、且つ、当該領域を除去する工程が不要になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0042】
すなわち、本実施の形態に係る導電性パターン領域を有する構造体は、支持体の表面に配置する酸化銅を含む塗布層に、リンを含有させる。その後、塗布層を選択的に光照射し、導電性パターン領域を形成すると共に、導電性パターン領域間に酸化銅及びリンを含む絶縁領域を設けることを特徴とする。
【0043】
図1は、本実施の形態に係る導電性パターン領域を有する構造体における絶縁領域に含まれる酸化銅微粒子とリン酸エステル塩との関係を示す模式図である。
図1中に示すように、絶縁領域1において、酸化銅の一例である酸化銅微粒子2の周囲には、リン含有有機物の一例であるリン酸エステル塩3が、リン3aを内側に、エステル塩3bを外側にそれぞれ向けて取り囲んでいる。リン酸エステル塩3は電気絶縁性を示すため、隣接する酸化銅微粒子2との間の電気的導通は妨げられる。
【0044】
したがって、酸化銅微粒子2は半導体であり導電性であるが、電気絶縁性を示すリン酸エステル塩3で覆われている。よって、絶縁領域1は電気絶縁性を示し、断面視(
図2中に示す上下方向に沿った断面)で、絶縁領域1の両側に隣接する導電性パターン領域(後述)の間の絶縁を確保することができる。
【0045】
一方、導電性パターン領域は、酸化銅及びリンを含む塗布層の一部の領域に光照射し、当該一部の領域において、酸化銅を銅に還元する。このように酸化銅が還元された銅を還元銅という。また、当該一部の領域において、リン含有有機物は、リン酸化物に変性する。リン酸化物では、上述のエステル塩3b(
図1参照)のような有機物は、レーザ等の熱によって分解し、電気絶縁性を示さないようになる。
【0046】
また、
図1に示すように、酸化銅微粒子2が用いられている場合、レーザ等の熱によって、酸化銅が還元銅に変化すると共に焼結し、隣接する酸化銅微粒子2同士が一体化する。これによって、優れた電気導電性を有する領域(以下、「導電性パターン領域」という)を形成することができる。
【0047】
導電性パターン領域において、還元銅の中にリン元素が残存している。リン元素は、リン元素単体、リン酸化物及びリン含有有機物のうち少なくとも1つとして存在している。
このように残存するリン元素は導電性パターン領域中に偏析して存在しており、導電性パターン領域の抵抗が大きくなる恐れはない。
【0048】
<導電性パターン領域を有する構造体の構成:第1の実施の形態>
図2は、第1の実施の形態に係る導電性パターン領域を有する構造体を示す断面模式図である。
図2に示すように、構造体10は、支持体11と、支持体11が構成する面上に配置された層14と、を有して構成される。層14は、酸化銅及びリンを含む絶縁領域12と、銅を含む導電性パターン領域13と、が互いに隣接している。ここでいう銅は、上記の還元銅であることが好ましい。また、絶縁領域12に含まれるリンは、リン含有有機物として含まれることが好ましい。
【0049】
この構成により、銅を含む導電性パターン領域の間を、酸化銅及びリンを含む絶縁領域で絶縁できるので、製造のために、層14の未焼成部分を除去する必要がない。したがって、製造工程を削減でき、溶剤等が不要であるので製造コストを下げることができる。また、導電性パターン領域の絶縁のために絶縁領域を利用し、当該絶縁領域は、クラックを生じにくく、信頼性を向上できる。
【0050】
以下、第1の実施の形態の導電性パターン領域を有する構造体の各構成要素について説明する。
【0051】
<支持体>
支持体11は、層14を配置するための面を構成するものである。形状は、特に限定されない。
【0052】
支持体11の材質は、絶縁領域12により離間された導電性パターン領域13の間での電気絶縁性を確保するため、絶縁材料であることが好ましい。ただし、支持体11の全体が絶縁材料であることは必ずしも必要がない。層14が配置される面を構成する部分だけが絶縁材料であれば足りる。
【0053】
支持体11は、より具体的には、平板状体、フィルム又はシートであってもよい。平板状体は、例えば、プリント基板等の回路基板に用いられる支持体(基材とも呼ばれる)である。フィルム又はシートは、例えば、フレキシブルプリント基板に用いられる、薄膜状の絶縁体であるベースフィルムである。
【0054】
支持体11は、立体物であってもよい。立体物が有する曲面又は段差等を含む面、すなわち立体面に、導電性パターン領域を有する層を配置することもできる。
【0055】
立体物の一例としては、携帯電話端末、スマートフォン、スマートグラス、テレビ、パーソナルコンピュータ等の電気機器の筐体が挙げられる。また、立体物の他の例としては、自動車分野では、ダッシュボード、インストルメントパネル、ハンドル、シャーシ等が挙げられる。
【0056】
また、立体物の材質を限定するものではないが、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂及びポリフェニレンサルファイド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0057】
<支持体の面上に配置された層(導電性パターン領域を有する層)>
本実施の形態では、層14は、絶縁領域12と導電性パターン領域13とが混在してなると言える。以下、単に、「層」と表現する場合や、導電性パターン領域を有する層、支持体上に配置された層、と言い換えることがある。
【0058】
層14は、一体化層であると言える。また、層14は、多層構造でない単一層であるとも言える。「一体化」や「単一」とは、断面視で隣接する絶縁領域12と導電性パターン領域13とが、面上に沿って連続していることを意味する。「隣接」とは、絶縁領域12と導電性パターン領域13との間に別の層が含まれないことを意味する。「連続している」とは、例えば、プリント基板で見られるような、パターニングされた配線層の間をソルダーペーストで埋めて一層としているような状態を含まないことを意味する。
【0059】
本実施の形態では、絶縁領域12の表面と導電性パターン領域13の表面との間で、段差が生じてもよい。つまり、酸化銅から銅への還元過程で、膜厚が薄くなるため、連続する層であっても導電領域と絶縁領域の膜厚は違うことがある。
【0060】
また、絶縁領域12と導電性パターン領域13とが隣接するとは、層内では、電気導電性、粒子状態(焼成と未焼成)等が、支持体の面上に沿って漸次的に変化してもよいし、絶縁領域12と導電性パターン領域13との間に境界(界面)が存在していてもよいことを意味する。
【0061】
また、絶縁領域12と導電性パターン領域13とは、同じ組成由来の塗布層から形成されたものである。すなわち、導電性パターン領域13は、塗布層の一部をレーザ照射して形成されたものであり、したがって、絶縁領域12と導電性パターン領域13とでは、銅元素やリン元素等の同じ元素を含む。
【0062】
<絶縁領域>
絶縁領域12は、酸化銅及びリンを含み、電気絶縁性を示す。絶縁領域12は、光照射を受けていない未照射領域と言える。また、絶縁領域12は、光照射によって酸化銅が還元されていない未還元領域とも言える。また、絶縁領域12は、光照射によって焼成されていない未焼成領域とも言える。
【0063】
<導電性パターン領域>
導電性パターン領域13は、銅を含み、電気導電性を示す。導電性パターン領域13は、光照射を受けた被照射領域やレーザ照射領域と言える。また、導電性パターン領域13は、光照射によって酸化銅が還元された還元銅を含む還元領域とも言える。また、導電性パターン領域13は、絶縁領域12を光照射によって焼成した焼成体を含む焼成領域とも言える。
【0064】
導電性パターン領域13の、平面視における形状、すなわちパターンは、直線状、曲線状、円状、四角状、屈曲形状等のいずれであってもよく、特に限定されない。パターンは、マスクを介した光照射、又は、レーザによる描画により形成されるので、形状による制約は受けにくい。
【0065】
絶縁領域12と導電性パターン領域13との境界は、断面視において、層14の厚み方向(
図2に示す上下方向)に沿って直線であることが好ましいが、テーパ角がつけられていてもよく、特に限定されない。ただし、当該境界が明確であることは必須ではない。例えば、銅の組成比を境界付近で測定したとき、導電性パターン領域13側から絶縁領域12側にかけて漸次的に変化する組成変調領域があってもよい。
【0066】
導電性パターン領域13は、断面視において完全に還元されている必要はない。例えば、支持体11に近い部分に未還元部分があることが好ましい。これにより、導電性パターン領域13及び支持体11の間の密着性が高くなる。
【0067】
図2に示すように、本実施の形態では、導電性パターン領域13の膜厚と、絶縁領域12の膜厚とは、例えば、絶縁領域12の膜厚の方が厚いように、異なっていても良い。すなわち、レーザ照射による、酸化銅から銅への還元過程で、導電性パターン領域13は、絶縁領域12より膜厚が薄くなりやすい。膜厚が異なることにより、導電性パターン領域13と絶縁領域12を挟んで対向する導電性パターン領域13との沿面距離を長くすることが出来るため、絶縁性を高くすることが出来る。絶縁領域12の膜厚は、0.1μm以上30μm以下が好ましく、0.1以上15μm以下がより好ましく、0.1μm以上10μm以下がさらに好ましい。特に、1μm以上10μm以下の範囲内では、絶縁領域12として絶縁性を維持することができ、後述する光線照射によって基材密着性および導電性がより優れた導電性パターン領域13を製造することができるため好ましい。導電性パターン領域13の膜厚は、絶縁領域12の膜厚に対して、10%以上90%以下が好ましく、20%以上80%以下がより好ましく、30%以上70%以下がさらに好ましい。特に30%以上70%以下にすることによって、基材密着性を維持することができ、電気配線用途として十分な電気伝導性を得ることが出来るため好ましい。
【0068】
<密着層>
支持体11は、導電性パターン領域を有する層14との間に、密着層(不図示)を備えることが好ましい。密着層により、支持体11に対する層14の密着性を高め、絶縁領域12及び導電性パターン領域13の剥離を防止し、構造体10の長期安定性を高めることができる。
【0069】
密着層は、例えば、(i)支持体11が構成する面を粗面化したもの、及び、(ii)支持体11が構成する面にコーティング層を配置したもの、を包含する。(i)の例では、支持体11そのものの一部である。この場合において、密着層にその他の層(例えば、プライマー(下地)層)を組み合わせもよい。
【0070】
(ii)の例において、密着層は、コーティング層単独又はその他の層を積層したものであってもよい。また、コーティング層が、プライマー材料を含んでいてもよい。
【0071】
<導電性パターン領域を有する構造体の詳細>
以下、本実施の形態に係る構造体10の各構成について更に、具体的に説明する。しかし、各構成は、以下に挙げる具体例に限定されるものではない。
【0072】
(支持体)
支持体の具体例として、例えば、無機材料からなる支持体(以下、「無機支持体」)、または樹脂からなる支持体(以下、「樹脂支持体」という)が挙げられる。
【0073】
無機支持体は、例えば、ガラス、シリコン、雲母、サファイア、水晶、粘土膜、及び、セラミックス材料等から構成される。セラミックス材料は、例えば、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、イットリア及び窒化アルミニウム、並びに、これらのうち少なくとも2つの混合物である。また、無機支持体としては、特に光透過性が高い、ガラス、サファイア、水晶等から構成される支持体を用いることができる。
【0074】
樹脂支持体としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール(POM)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PENt)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、ポリシロキサン、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、ブチルゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)、シクロオレフィンポリマー(COP)、アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS)、ナイロン樹脂(PA6、PA66)ポリブチルテレフタレート樹脂(PBT)ポリエーテルスルホン樹脂(PESU)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びシリコーン樹脂等から構成される支持体を用いることができる。
【0075】
また、上記に区別されないが、セルロースナノファイバーを含有した樹脂シートを支持体として用いることもできる。
【0076】
特に、PI、PET及びPENからなる群から選択される少なくとも一種は、導電性パターン領域を有する層及び密着層との密着性に優れ、且つ、市場流通性が良く低コストで入手可能であり、事業の観点から有意であり、好ましい。
【0077】
さらに、PP、PA、ABS、PE、PC、POM、PBT、m-PPE及びPPSからなる群から選択される少なくとも一種は、特に筐体である場合、導電性パターン領域を有する層及び密着層との密着性に優れ、また、成型性や成型後の機械的強度に優れる。更に、これらは、導電性パターン領域を形成するときのレーザ照射等にも十分耐えうる耐熱性も有しているため、好ましい。
【0078】
樹脂支持体の荷重たわみ温度は、400℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、250℃以下であることがさらに好ましい。荷重たわみ温度が400℃以下の支持体は、低コストで入手可能であり、事業の観点から有意であり、好ましい。荷重たわみ温度は、例えば、JIS K7191に準拠したものである。
【0079】
支持体の厚さは、例えば、1μm~100mmとすることができ、好ましくは25μm~10mmであり、より好ましくは25μm~250μmである。支持体の厚さが250μm以下であれば、作製される電子デバイスを、軽量化、省スペース化及びフレキシブル化できるため、好ましい。
【0080】
なお、支持体が筐体である場合、その厚さは、例えば1μm~1000mmとすることができ、好ましくは、200μm~100mmであり、200μm~5mmである。この範囲を選択することで、成型後の機械的強度や耐熱性を発現させることが、本発明者らにより明らかになった。
【0081】
支持体又は支持体が密着層を備えている場合は密着層を含む支持体の波長445nmの光線透過率は30%以上であることが好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。光線透過率の上限は、98%以下であってもよい。波長は、445nmの他に、例えば、355nm、405nm、450nm、532nm、1064nmなどの近紫外から近赤外の波長を選択することもできる。このような波長における光線透過率を高くすることで、支持体側から光照射して塗布層を焼成して導電性パターン領域を有する層を形成することができる。
【0082】
(支持体の面上に配置された層(導電性パターン領域を有する層))
該層は、酸化銅及びリン含有有機物を含む絶縁領域と、銅を含む導電性パターン領域とが隣接してなる。
【0083】
(酸化銅)
本実施の形態において、酸化銅は、例えば、酸化第一銅及び酸化第二銅を包含する。酸化第一銅は、低温焼結しやすい傾向にあるので特に好ましい。酸化第一銅及び酸化第二銅は、これらを単独で用いてもよいし、これらを混合して用いてもよい。
【0084】
また、酸化銅微粒子は、コア/シェル構造を有し、コア又はシェルのいずれか一方が酸化第一銅であってもよく、他に酸化第二銅を含んでもよい。
【0085】
絶縁領域に含まれる酸化銅は、例えば、微粒子形状を成している。酸化銅を含む微粒子の平均粒子径は、1nm以上100nm以下、より好ましくは1nm以上50nm以下、さらに好ましくは1nm以上20nm以下である。粒子径が小さいほど、絶縁領域の電気絶縁性に優れるため、好ましい。
【0086】
絶縁領域に銅粒子が含まれていてもよい。すなわち、後述の分散体に銅を添加してもよい。銅粒子の表面にもリン含有有機物が吸着し、電気絶縁性を示すことができる。
【0087】
(リン含有有機物)
絶縁領域に含まれるリンは、リン含有有機物であることが好ましい。リン含有有機物は、絶縁領域において電気絶縁性を示す材料である。リン含有有機物は、酸化銅を、支持体又は密着層に固定できることが好ましい。リン含有有機物は、単一分子であってよいし、複数種類の分子の混合物でもよい。また、リン含有有機物は、酸化銅の微粒子に吸着していてもよい。
【0088】
リン含有有機物の数平均分子量は、特に制限はないが、300~300,000であることが好ましい。300以上であれば、電気絶縁性に優れる。
【0089】
リン含有有機物は、光や熱によって分解又は蒸発しやすいことが好ましい。光や熱によって分解又は蒸発しやすい有機物を用いることによって、焼成後に有機物の残渣が残りにくくなり、抵抗率の低い導電性パターン領域を得ることができる。
【0090】
リン含有有機物の分解温度は、限定されないが、600℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。リン含有有機物の沸点は、限定されないが、300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。
【0091】
リン含有有機物の吸収特性は、限定されないが、焼成に用いる光を吸収できることが好ましい。例えば、焼成のための光源としてレーザ光を用いる場合は、その発光波長(中心波長)の、例えば355nm、405nm、445nm、450nm、532nm、1064nmなどの光を吸収するリン含有有機物を用いることが好ましい。支持体が樹脂の場合、特に好ましくは、355nm、405nm、445nm、450nmの波長である。
【0092】
また、構造としては、酸化銅に親和性のある基を有する高分子量共重合物のリン酸エステル塩がよい。例えば、化学式(1)の構造は、酸化銅と吸着し、また支持体への密着性にも優れるため、好ましい。
【0093】
【0094】
エステル塩の一例として、化学式(2)の構造を挙げることができる。
【0095】
【0096】
また、リン含有有機物の一例として、化学式(3)の構造を挙げることができる。
【0097】
【0098】
リン含有有機物が有する有機構造としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PENt)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、ポリシロキサン、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、ブチルゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリスルフィド、シリコーン樹脂、アルドース、セルロース、アミロース、プルラン、デキストリン、グルカン、フルクタン、キチン等の構造を用いることができる。
これら構造の官能基を変性した構造を用いることもできるし、これら構造を修飾した構造を用いることもできるし、これら構造の共重合体を用いることもできる。ポリエチレングリコール構造、ポリプロピレングリコール構造、ポリアセタール構造、ポリブテン構造、及びポリスルフィド構造から選択される骨格を有するリン含有有機物は、分解しやすく、焼成後に得られる導電性パターン領域中に残渣を残し難いため、好ましい。
【0099】
リン含有有機物の具体例としては、市販の材料を用いることができ、具体的には、ビックケミー社製のDISPERBYK(登録商標)-102、DISPERBYK-103、DISPERBYK-106、DISPERBYK-109、DISPERBYK-110、DISPERBYK-111、DISPERBYK-118、DISPERBYK-140、DISPERBYK-145、DISPERBYK-168、DISPERBYK-180、DISPERBYK-182、DISPERBYK-187、DISPERBYK-190、DISPERBYK-191、DISPERBYK-193、DISPERBYK-194N、DISPERBYK-199、DISPERBYK-2000、DISPERBYK-2001、DISPERBYK-2008、DISPERBYK-2009、DISPERBYK-2010、DISPERBYK-2012、DISPERBYK-2013、DISPERBYK-2015、DISPERBYK-2022、DISPERBYK-2025、DISPERBYK-2050、DISPERBYK-2152、DISPERBYK-2055、DISPERBYK-2060、DISPERBYK-2061、DISPERBYK-2164、DISPERBYK-2096、DISPERBYK-2200、BYK(登録商標)-405、BYK-607、BYK-9076、BYK-9077、BYK-P105、第一工業製薬社製のプライサーフ(登録商標)M208F、プライサーフDBS等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0100】
絶縁領域において、酸化銅を含む微粒子(以下、「酸化銅微粒子」と記載する)とリン含有有機物とは混在し、リン含有有機物の含有量は、酸化銅微粒子の全体積を100体積部としたときの、5体積部以上900体積部以下であり得る。下限値は、好ましくは10体積部以上、より好ましくは30体積部以上、さらに好ましくは60体積部以上である。
上限値は、好ましくは480体積部以下、より好ましくは240体積部以下である。
【0101】
重量部に換算すると、酸化銅微粒子100重量部に対するリン含有有機物の含有量は、1重量部以上150重量部以下であることが好ましい。下限値は、好ましくは2重量部以上、より好ましくは5重量部以上、さらに好ましくは10重量部以上である。上限値は、好ましくは80重量部以下、より好ましくは40重量部以下である。
【0102】
酸化銅微粒子に対するリン含有有機物の含有量は、5体積部以上又は1重量部以上であれば、厚みサブミクロンの薄膜を形成することができる。また、リン含有有機物の含有量は、10体積部以上又は5重量部以上であれば、層として厚み数十μmの厚膜を形成することができる。リン含有有機物の含有量は、30体積部以上又は10重量部以上であれば曲げてもクラックが入りにくい可撓性の高い層を得ることができる。
【0103】
酸化銅微粒子に対するリン含有有機物の含有量は、900体積部以下又は150重量部以下であれば、焼成によって良好な導電性パターン領域を得ることができる。
【0104】
(ヒドラジンまたはヒドラジン水和物)
ヒドラジンまたはヒドラジン水和物は、塗布層中に含ませることができ、未焼成領域である絶縁領域にも残存する。ヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含むことで、酸化銅の分散安定性がより向上するとともに、焼成において酸化銅の還元に寄与し、導電膜の抵抗がより低下する。ヒドラジン含有量は下記が好ましい。
0.0001≦(ヒドラジン質量/酸化銅質量)≦0.10 (1)
還元剤の含有量は、ヒドラジンの質量比率が0.0001以上であると銅膜の抵抗が低下する。また、0.1以下であると酸化銅インクの長期安定性が向上する為好ましい。
【0105】
(絶縁領域中の銅粒子/酸化銅微粒子の質量比率)
絶縁領域には、酸化銅微粒子の他に銅粒子が含まれていてもよい。この場合、酸化銅微粒子に対する銅粒子の質量比率(以下、「銅粒子/酸化銅微粒子」と記載する)が、1.0以上7.0以下であることが好ましい。
【0106】
銅粒子/酸化銅微粒子が1.0以上7.0以下であることにより、導電性とクラック防止の観点で好ましい。
【0107】
(酸化銅微粒子中の平均粒子径)
酸化銅微粒子の平均二次粒子径は、特に制限されないが、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。当該微粒子の平均二次粒子径は、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは15nm以上である。
【0108】
平均二次粒子径とは、一次粒子が複数個集まって形成される凝集体(二次粒子)の平均粒子径のことである。この平均二次粒子径が500nm以下であると、支持体上に微細な導電性パターン領域を形成しやすい傾向があるので好ましい。平均二次粒子径が5nm以上であれば、分散体の長期保管安定性が向上するため好ましい。当該微粒子の平均二次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって測定することができる。
【0109】
二次粒子を構成する一次粒子の平均一次粒子径は、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。平均一次粒子径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは5nm以上である。
【0110】
平均一次粒子径が100nm以下の場合、後述する焼成温度を低くすることができる傾向にある。このような低温焼成が可能になる理由は、粒子の粒子径が小さいほど、その表面エネルギーが大きくなって、融点が低下するためと考えられる。
【0111】
また、平均一次粒子径が1nm以上であれば、良好な分散性を得ることができるため好ましい。支持体に配線パターンを形成する場合、下地との密着性や低抵抗化の観点で、2nm以上、100nm以下が好ましく、より好ましくは5nm以上、50nm以下がより好ましい。この傾向は下地が樹脂の時に顕著である。当該微粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって測定することができる。
【0112】
支持体上に配置された層中の酸化銅微粒子の含有率は、酸化銅及びリン含有有機物を含む領域の単位質量に対して、40質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。また、当該含有率は、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。
【0113】
また、支持体上に配置された層中の酸化銅微粒子の含有率は、単位体積に対して、10体積%以上であることが好ましく、15体積%以上であることがより好ましく、25体積%以上であることがさらに好ましい。また、当該含有率は、90体積%以下であることが好ましく、76体積%以下であることがより好ましく、60体積%以下であることがさらに好ましい。
【0114】
絶縁領域における酸化銅微粒子の含有率が、40質量%以上又は10体積%以上であれば、焼成によって微粒子同士が融着して導電性を発現し、より高濃度になるほど高い導電性を得ることができ、好ましい。また、当該含有率が、98質量%以下又は90体積%以下であれば、支持体上に配置された層は、膜として支持体又は密着層に付着することができ、好ましい。また、当該含有率が、95質量%以下又は76体積%以下であれば、より強く支持体又は密着層に付着することができ、好ましい。また、当該含有率が、90質量%以下又は60体積%以下であれば、層の可撓性が高くなり、折り曲げたときクラックが生じにくくなり、信頼性が高まる。また、絶縁領域における酸化銅微粒子の含有率が、90体積%以上であれば、絶縁領域の絶縁抵抗値が低くなり、電気絶縁性に優れるので、好ましい。酸化銅としては、酸化第一銅と酸化第二銅とがあり、低抵抗化と吸光度の観点から、酸化第一銅が好ましい。
【0115】
本実施の形態における絶縁領域に含まれる酸化銅は、市販品を用いてもよいし、合成物を用いてもよい。市販品としては、例えば、イーエムジャパン社より販売されている平均一次粒子径18nmの酸化第一銅微粒子が挙げられる。
【0116】
酸化第一銅を含む微粒子の合成法としては、例えば、次の方法が挙げられる。
(1)ポリオール溶剤中に、水及び銅アセチルアセトナト錯体を加え、一旦有機銅化合物を加熱溶解させ、反応に必要な量の水を更に添加し、有機銅の還元温度に加熱して還元する方法。
(2)有機銅化合物(銅-N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン錯体)を、ヘキサデシルアミン等の保護剤の存在下、不活性雰囲気中で、300℃程度の高温で加熱する方法。
(3)水溶液に溶解した銅塩をヒドラジンで還元する方法。
【0117】
上記(1)の方法は、例えば、アンゲバンテ・ケミ・インターナショナル・エディション、40号、2巻、p.359、2001年に記載の条件で行うことができる。
【0118】
上記(2)の方法は、例えば、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ・1999年、121巻、p.11595に記載の条件で行うことができる。
【0119】
上記(3)の方法において、銅塩としては、二価の銅塩を好適に用いることができ、その例として、例えば、酢酸銅(II)、硝酸銅(II)、炭酸銅(II)、塩化銅(II)、硫酸銅(II)等を挙げることができる。ヒドラジンの使用量は、銅塩1モルに対して、0.2モル~2モルとすることが好ましく、0.25モル~1.5モルとすることがより好ましい。
【0120】
銅塩を溶解した水溶液には、水溶性有機物を添加してもよい。該水溶液に水溶性有機物を添加することによって該水溶液の融点が下がるので、より低温における還元が可能となる。水溶性有機物としては、例えば、アルコール、水溶性高分子等を用いることができる。
【0121】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等を用いることができる。水溶性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体等を用いることができる。
【0122】
上記(3)の方法における還元の際の温度は、例えば-20~60℃とすることができ、-10~30℃とすることが好ましい。この還元温度は、反応中一定でもよいし、途中で昇温又は降温してもよい。ヒドラジンの活性が高い反応初期は、10℃以下で還元することが好ましく、0℃以下で還元することがより好ましい。還元時間は、30分~300分とすることが好ましく、90分~200分とすることがより好ましい。還元の際の雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気であることが好ましい。
【0123】
上記(1)~(3)の方法の中でも、(3)の方法は操作が簡便で、且つ、粒子径の小さい粒子が得られるので好ましい。
【0124】
上記に挙げた実施の形態では、絶縁領域に、酸化銅とリンが含まれていた。これに対し、別の実施の形態としては、絶縁領域に、酸化銅とヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含むもの、又は、絶縁領域に、酸化銅とヒドラジンまたはヒドラジン水和物とリンとを含むものを提示することができる。すなわち、層は、銅を含む導電性パターン領域と、酸化銅及びヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含む絶縁領域とが互いに隣接した構成とされている。あるいは、層は、銅を含む導電性パターン領域と、酸化銅とヒドラジンまたはヒドラジン水和物とリンとを含む絶縁領域とが互いに隣接した構成、又は、銅とリンを含む導電性パターン領域と、酸化銅とヒドラジンまたはヒドラジン水和物とリンとを含む絶縁領域とが互いに隣接した構成とすることもできる。
【0125】
このように、本実施の形態では、絶縁領域にヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含むことができる。ヒドラジンまたはヒドラジン水和物を、塗布層に含むことによって、光をあてた際に酸化銅が銅に還元しやすい。ヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含むことで、還元後の銅の低抵抗化が可能となる。光が照射されない絶縁領域には、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物が残存する。
【0126】
(導電性パターン領域)
導電性パターン領域における銅は、例えば、銅を含む微粒子同士が互いに融着した構造を示していてもよい。また、微粒子の形状が無く、全てが融着した状態になっていてもよい。さらに、一部分は微粒子の形状であって、大部分は融着した状態であってもよい。この銅は、既に記載したように還元銅であることが好ましい。また、導電性パターン領域は、絶縁領域を焼成した焼成体を含むことが好ましい。これにより、導電性パターン領域の導電性を高めることができる。また、絶縁領域を焼成することで、導電性パターン領域を形成することができるため、容易に導電性パターン領域を形成することができると共に、導電性パターン領域と絶縁領域とが混在した本実施の形態における「層」を精度よく形成することができる。
【0127】
また、導電性パターン領域は、銅の他に酸化銅(酸化第一銅、酸化第二銅、亜酸化銅)や、リン元素、リン酸化物、及びリン含有有機物の少なくともいずれか1つを含んでいてもよい。例えば、導電性パターン領域の表面側の部分は、銅を含む微粒子同士が互いに融着した構造であり、支持体側の部分は、酸化銅又はリン含有有機物を含む構造であってもよい。これにより、酸化銅又はリン含有有機物が銅粒子同士の強固な結合を生じ、さらに酸化銅又はリン含有有機物が支持体又は密着層との密着性を高めることができるため、好ましい。
【0128】
導電性パターン領域におけるリン元素の含有率は、リン/銅の元素濃度比が0.02以上、0.30以下であることが好ましく、0.05以上、0.28以下であることがより好ましく、0.1以上、0.25以下であることがさらに好ましい。リン/銅の元素濃度比を0.02以上とすることによって、銅の酸化抑制をすることができ、銅配線回路としての信頼性を向上させることが出来、好ましい。また、リン/銅の元素濃度比を0.30以下にすることで、導電性パターン領域の抵抗値を下げることが出来、好ましい。
【0129】
上記により、本実施の形態における層は、銅とリンを含有する導電性パターン領域と、酸化銅とリンを含有する絶縁領域とが互いに隣接した構成とすることができる。これにより、導電性パターン領域における導電性と、絶縁領域における絶縁性とを同時に向上させることが可能になる。導電性パターン領域では、製造工程において、銅が酸化される前にリンが酸化され、そのため、導電性パターン領域の抵抗変化を低く抑えることができると考えられる。
【0130】
導電性パターン領域における銅の含有率は、単位体積に対して、50体積%以上であることが好ましく、60体積%以上であることがより好ましく、70体積%以上がさらに好ましく、100体積%であってもよい。銅の含有率が50体積%以上あることで、導電率が高くなるため、好ましい。
【0131】
導電性パターン領域における、後述する樹脂層と接触する面は、表面が所定以上の粗さを有していても良い。具体的には表面粗さRaが、20nm以上500nm以下が好ましく、50nm以上300nm以下がより好ましく、50nm以上200nm以下がさらに好ましい。この範囲内にあることによって樹脂層の一部が、導電性パターン領域表面の凹凸部に侵入し、密着性を向上させることができ、好ましい。
【0132】
(密着層)
本実施の形態に係る配線パターン領域付構造体において、支持体は、導電性パターン領域を有する層との間に密着層を備えていることが好ましい。すなわち、支持体が構成する面上に密着層を有し、密着層を構成する面上に、導電性パターン領域を有する層が配置されていることが好ましい。
【0133】
支持体が構成する面は、密着層によって粗面化されていることが好ましい。
【0134】
支持体が構成する面が粗面化されていることによって、支持体の面に配置される層中の、酸化銅及びリン含有有機物並びに銅を、強固に支持体が構成する面に密着させることができる。
【0135】
密着層は、支持体の表面を、粗研磨処理、サンドブラスト処理、化学エッチング処理、反応性イオンエッチング処理、プラズマ処理、スパッタリング処理、UVオゾン処理等によって粗化加工して形成してもよい。また、密着層は、支持体が構成する面に、コーティング材料を塗布することで表面を粗化して形成してもよい。いずれにするかは、支持体の材質によって適宜選択することができる。
【0136】
(コーティング材料)
コーティング材料としては、例えば、有機材料、無機材料、及び有機無機複合材料が挙げられる。
【0137】
コーティング材料は、結合性構造を有することが好ましい。結合性構造としては、例えば、水酸基(-OH基)、アミノ基、チオール基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、スクシンイミド骨格を有する官能基、ピロリドン骨格を有する官能基、セレノール基、ポリスルフィド基、ポリセレニド基、カルボキシル基、酸無水物骨格を有する官能基、スルホン酸基、ニトロ基、シアノ基、イソシアネート基、アジド基、シラノール基、シリルエーテル基、及びヒドロシリル基等を挙げることができる。結合性構造としては、水酸基(-OH基)、アミノ基、ホスホン酸基、及びカルボン酸基からなる群から選択される少なくとも一つ以上の基であることが好ましい。-OH基は、Ar-OH基(Arは芳香族を指す)及び/又はSi-OH基であることがより好ましい。
【0138】
コーティング材料は、Ar-O構造(Arは芳香族を指す)及び/又はSi-O構造を有することもまた密着性の観点から好ましい。
【0139】
コーティング材料は、以下の化学式群に示す有機材料であってもよい。
【化4】
【0140】
上記化学式群において、nは1以上の整数であり、Xは有機材料の主骨格であり、Rは官能基である。上記化学式群においてRで表される官能基としては、例えば、水素、ハロゲン、アルキル基(例えば、メチル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基、チエニル基等)、ハロアリール基(例えば、ペンタフルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、3,4,5-トリフルオロフェニル基等)、アルケニル基、アルキニル基、アミド基、アシル基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチル基等)、ハロアルキル基(例えば、パーフルオロアルキル基等)、チオシアノ基、水酸基、アミノ基、チオール基、ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、スクシンイミド骨格を有する官能基、ピロリドン骨格を有する官能基、セレノール基、ポリスルフィド基、ポリセレニド基、カルボン酸基、酸無水物骨格を有する官能基、スルホン酸基、ニトロ基、シアノ基、及びこれらを組み合わせた構造を挙げることができる。密着層がこれらの結合性構造を有する有機材料を含む場合、支持体及び導電性パターン領域を有する層との密着性が良好である傾向にある。
【0141】
有機材料としては、芳香族構造(Ar)を有する有機材料を好適に用いることができる。芳香族構造を有する有機材料は、軟化温度及び分解温度が高いため、焼成時の支持体の変形を抑制することができ、また支持体の分解ガスによる、支持体上に配置された導電性パターン領域を有する層の破れが生じにくい。このため、焼成によって低抵抗な導電性膜を得ることができる。芳香族構造としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン、及びトリフェニレン等の芳香族炭化水素;並びにチオフェン、チアゾール、ピロール、フラン、ピリジン、ピラゾール、イミダゾール、ピリダジン、ピリミジン、及びピラジン等の複素芳香族を用いることができる。芳香族構造のπ電子系に含まれる電子数は、22以下であることが好ましく、14以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。π電子系に含まれる電子数が22以下であると結晶性が高くなりすぎず、柔軟で平滑性の高い密着層を得ることができる。これら芳香族構造は、芳香環に結合した水素の一部が官能基に置換されていてもよい。官能基としては、例えば、ハロゲン、アルキル基(例えば、メチル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基、チエニル基等)、ハロアリール基(例えば、ペンタフルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、3,4,5-トリフルオロフェニル基等)、アルケニル基、アルキニル基、アミド基、アシル基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチル基等)、ハロアルキル基(例えば、パーフルオロアルキル基等)、チオシアノ基、及び水酸基等を挙げることができる。有機材料は、芳香族性水酸基(Ar-OH基)を有することが好ましく、特にフェノール基(Ph-OH基)が好ましい。また、芳香族性水酸基の酸素が他の構造と結合したAr-O構造を有する有機材料は、焼成時に分解しにくい傾向にあるため好ましい。
【0142】
有機材料としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PENt)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、ポリシロキサン、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、ニトリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)及びシリコーン樹脂等が挙げられる。有機材料としては、フェノール樹脂、フェノールノボラック、ポリビニルフェノール、及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0143】
無機材料としては、例えば、金属、合金、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属炭酸化物、及び金属フッ化物等が挙げられる。無機材料としては、具体的には、酸化ケイ素、酸化銀、酸化銅、酸化アルミニウム、ジルコニア、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化スズ、酸化カルシウム、酸化セリウム、酸化クロム、酸化コバルト、酸化ホルミウム、酸化ランタン、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化ニッケル、酸化アンチモン、酸化サマリウム、酸化テルビウム、酸化タングステン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズインジウム(ITO)、フッ化銀、フッ化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化ジルコニウム、フッ化チタン、フッ化ハフニウム、フッ化タンタル、フッ化スズ、フッ化カルシウム、フッ化セリウム、フッ化コバルト、フッ化ホルミウム、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、フッ化マンガン、フッ化モリブデン、フッ化ニッケル、フッ化アンチモン、フッ化サマリウム、フッ化テルビウム、フッ化タングステン、フッ化イットリウム、フッ化亜鉛、フッ化リチウム、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、窒化銅、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ハフニウム、窒化タンタル、窒化スズ、窒化カルシウム、窒化セリウム、窒化コバルト、窒化ホルミウム、窒化ランタン、窒化マグネシウム、窒化マンガン、窒化モリブデン、窒化ニッケル、窒化アンチモン、窒化サマリウム、窒化テルビウム、窒化タングステン、窒化イットリウム、窒化亜鉛、窒化リチウム、窒化ガリウム、SiC、SiCN、及びダイヤモンドライクカーボン(DLC)等が挙げられる。水酸基を有する無機材料は、支持体及び導電性パターン領域を有する層との密着性に優れるため好ましい。特に、金属酸化物表面には水酸基が存在するため、金属酸化物が好ましい。金属酸化物の中でも特に、Si-O構造を有する無機材料がより好ましい。
【0144】
無機材料は、より具体的には、酸化ケイ素、酸化チタン、ジルコニア、及び酸化スズインジウム、酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。特に、酸化ケイ素や酸化アルミニウムであることが好ましい。
【0145】
また、密着層は、粒子径が10nm~500nmの微粒子を含むことが好ましい。具体的には、密着層は、粒子径が10nm~500nmの、酸化ケイ素又は酸化アルミニウムの微粒子を含むことが好ましい。これにより、導電性パターン領域を有する層を成したときの比表面積を大きくでき、導電性パターン領域を有する層との密着性を向上させることができる。微粒子は、多孔質粒子であってもよい。
【0146】
無機材料としては、無機半導体を用いることもできる。無機半導体材料としては、例えば、単体元素半導体、酸化物半導体、化合物半導体、及び硫化物半導体等が挙げられる。
単体元素半導体としては、例えば、シリコン、及びゲルマニウムが例示される。酸化物半導体としては、例えば、IGZO(インジウム-ガリウム-亜鉛酸化物)、IZO(インジウム-亜鉛酸化物)、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化タングステン、酸化ニオブ、及び酸化第一銅等が例示される。化合物半導体としては、例えば、ガリウムヒ素(GaAs)、ガリウムヒ素リン(GaAsP)、ガリウムリン(GaP)、カドミウムセレン(CdSe)、炭化ケイ素(SiC)、インジウムアンチモン(InSb)、及び窒化ガリウム等が例示される。硫化物半導体としては、硫化モリブデン、及び硫化カドミウム等が例示される。
【0147】
有機無機複合材料としては、例えば、無機微粒子を分散した有機材料、及び有機金属化合物を用いることができる。無機微粒子としては、上述した無機材料の粒子を用いることができる。有機金属化合物としては、例えば、シリケート、チタネート、及びアルミナート等が挙げられる。シリケートとしては、メチルシリケート、及びエチルシリケート等を用いることができる。
【0148】
また、密着層の厚さは、20μm以下であることが好ましい。これにより、支持体の反りを防止できる。また、密着層の膜厚は、10μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが更に好ましく、密着性の観点から、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることが更に好ましい。
【0149】
(プライマー材料)
密着層は単独の材料で形成してもよいし、複数種類の材料を混合又は積層して形成してもよい。例えば、密着層がプライマー材料を含んでもよい。また、例えば、支持体とコーティング材料からなる層との間、又は、コーティング材料からなる層と導電性パターン領域を有する層との間に、プライマー材料からなる層を配置してもよい。
【0150】
密着層がプライマー材料からなる層を含むと、密着性がより向上する傾向にある。プライマー材料からなる層は、例えば、表面に薄いプライマー材料の層を形成するプライマー処理で形成することができる。
【0151】
プライマー材料は結合性構造を有することが好ましい。結合性構造としては、上記「(コーティング材料)」の項目で説明した結合性構造が挙げられる。プライマー材料が結合性構造を有することで、密着層に結合性構造が導入され、高い密着性が得られる傾向にある。
【0152】
支持体上にプライマー処理をしてからコーティング材料からなる層を配置して密着層を形成してもよい。あるいは、支持体上にコーティング材料からなる層を配置してから当該層の上にプライマー処理をして密着層を形成してもよい。または、コーティング材料とプライマー材料とを予め混合してから支持体上に配置することにより密着層を形成してもよく、支持体上にプライマー材料からなる層を配置して密着層を形成してもよい。コーティング材料からなる層の上にプライマー処理を施すと、表面の結合構造の密度を増加することができるため、より高い密着性が得られる。
【0153】
プライマー材料としては、例えば、シランカップリング剤、ホスホン酸系低分子材料、及びチオール系材料等が挙げられる。
【0154】
シランカップリング剤としては、例えば、末端にビニル基、アミノ基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、イソシアヌレート基、ウレイド基、チオール基、イソシアネート基、ホスホン酸基等の官能基を有する化合物が挙げられる。シランカップリング剤としては、具体的には、ビニルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、及び3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0155】
ホスホン酸系材料としては、例えば、末端にビニル基、アミノ基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、イソシアヌレート基、ウレイド基、チオール基、イソシアネート基、シリル基、シラノール基、シリルエーテル基等の官能基を有する化合物が挙げられる。ホスホン酸系材料としては、具体的には、アミノメチルホスホン酸、2-アミノエチルホスホン酸、O-ホスホリルエタノールアミン、12-アミノドデシルホスホン酸、12-アミノウンデシルホスホン酸塩酸塩、6-アミノヘキシルホスホン酸、6-アミノヘキシルホスホン酸塩酸塩、12-アジドドデシルホスホン酸、(12-ドデシルホスホン酸)N,N-ジメチル-N-オクタデシルアンモニウムブロミド、(12-ドデシルホスホン酸)N,N-ジメチル-N-オクタデシルアンモニウムクロリド、(12-ドデシルホスホン酸)ピリジニウムブロミド、(12-ドデシルホスホン酸)トリエチルアンモニウムブロミド、(12-ドデシルホスホン酸)トリエチルアンモニウムクロリド、11-ヒドロキシウンデシルホスホン酸、12-メルカプトドデシルホスホン酸、11-メルカプトウンデシルホスホン酸、11-メタクリロイルオキシウンデシルホスホン酸、4-ニトロベンジルホスホン酸、12-ホスホノ-1-ドデカンスルホン酸、(6-ホスホノヘキシル)ホスホン酸、11-ホスホノウンデカン酸、11-ホスホノウンデシルアクリレート、プロピレンジホスホン酸、4-アミノベンジルホスホン酸、1,8-オクタンジホスホン酸、1,10-デシルジホスホン酸、6-ホスホノヘキサン酸、(1-アミノ-2-メチルプロピル)ホスホン酸、(1-アミノプロピル)ホスホン酸、(3-ニトロフェニル)ホスホン酸、1-ヒドロキシエタン-1,1,-ジホスホン酸、3-アミノプロピルホスホン酸、4-アミノブチルホスホン酸、ニトリロトリス(メチレン)トリホスホン酸、及びメチレンジホスホン酸等が挙げられる。
【0156】
チオール系材料としては、例えば、末端にビニル基、アミノ基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、イソシアヌレート基、ウレイド基、イソシアネート基、シリル基、シラノール基、シリルエーテル基、ホスホン酸基等の官能基を有する化合物を好適に用いることができる。チオール系材料としては、具体的には、4-シアノ-1-ブタンチオール、1,11-ウンデカンジチオール、1,16-ヘキサデカンジチオール、1,2-エタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,4-ブタンジチオール、1,5-ペンタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,9-ノナンジチオール、2,2’-(エチレンジオキシ)ジエタンチオール、2,3-ブタンジチオール、5,5’-ビス(メルカプトメチル)-2,2’-ビピリジン、ヘキサ(エチレングリコール)ジチオール、テトラ(エチレングリコール)ジチオール、ベンゼン-1,4-ジチオール、(11-メルカプトウンデシル)ヘキサ(エチレングリコール)、(11-メルカプトウンデシル)テトラ(エチレングリコール)、1-メルカプト-2-プロパノール、11-アミノ-1-ウンデカンチオール、11-アミノ-1-ウンデカンチオール塩酸塩、11-アジド-1-ウンデカンチオール、11-メルカプト-1-ウンデカノール、11-メルカプトウンデカンアミド、11-メルカプトウンデカン酸、11-メルカプトウンデシルヒドロキノン、11-メルカプトウンデシルホスホン酸、12-メルカプトドデカン酸、16-アミノ-1-ヘキサデカンチオール、16-アミノ-1-ヘキサデカンチオール塩酸塩、16-メルカプトヘキサデカンアミド、16-メルカプトヘキサデカン酸、3-アミノ-1-プロパンチオール、3-アミノ-1-プロパンチオール塩酸塩、3-メルカプト-1-プロパノール、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト-1-ブタノール、6-アミノ-1-ヘキサンチオール、6-アミノ-1-ヘキサンチオール塩酸塩、6-メルカプト-1-ヘキサノール、6-メルカプトヘキサン酸、8-アミノ-1-オクタンチオール、8-アミノ-1-オクタンチオール塩酸塩、8-メルカプト-1-オクタノール、8-メルカプトオクタン酸、9-メルカプト-1-ノナノール、1,4-ベンゼンジメタンチオール、4,4’-ビス(メルカプトメチル)ビフェニル、4,4’-次メルカプトスチルベン、4-メルカプト安息香酸、ビフェニル-4,4-ジチオール等が挙げられる。
【0157】
コーティング材料からなる層の形成方法としては、塗布、蒸着、ゾルゲル法等が挙げられる。コーティング材料からなる層の厚みは、支持体の反り防止の観点から、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは1μm以下;密着性の観点から好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、更に好ましくは0.1μm以上である。
【0158】
本実施の形態において支持体が密着層を備える場合、リン含有有機物は、結合性構造を1種類以上有していてもよい。結合性構造としては、上記「(コーティング材料)」の項目で説明した結合性構造が挙げられる。結合性構造としては、特に水酸基、アミノ基、ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも一つを有するものが好ましい。導電性パターン領域を有する層がこれらの結合性構造を有するリン含有有機物を含むと、密着層との密着性が良好である傾向にある。
【0159】
<導電性パターン領域を有する構造体の構成:第2の実施の形態>
図3は、第2の実施の形態に係る導電性パターン領域を有する構造体を示す断面模式図である。
図3に示すように、導電性パターン領域を有する構造体20は、支持体21と、支持体21が構成する面上に配置された層24とを有する。そして、層24は、酸化銅及びリンを含む絶縁領域22と、還元銅を含む導電性パターン領域23と、が互いに隣接して配置されている。更に、酸素バリア層25が、層24を覆うようにして設けられている。酸素バリア層25は、光線透過性である。
【0160】
なお、絶縁領域22は、酸化銅及びヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含む構成であってもよく、或いは、酸化銅、リン及びヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含む構成であってもよい。また、導電性パターン領域23は、銅とリンを含有する構成であってもよい。本実施の形態における層24は、銅を含有する導電性パターン領域23と、酸化銅とリンを含有する絶縁領域22とが互いに隣接した構成、或いは、銅を含有する導電性パターン領域23と、酸化銅とヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含有する絶縁領域22とが互いに隣接する構成、又は、銅とリンを含有する導電性パターン領域23と、酸化銅とリンを含有する絶縁領域22とが互いに隣接する構成を提示できる。あるいは、層24は、銅を含む導電性パターン領域23と、酸化銅とヒドラジンまたはヒドラジン水和物とリンとを含む絶縁領域22とが互いに隣接した構成、又は、銅とリンを含む導電性パターン領域23と、酸化銅とヒドラジンまたはヒドラジン水和物とリンとを含む絶縁領域22とが互いに隣接した構成とすることもできる。
【0161】
第2の実施の形態における構造体20は、第1の実施の形態における構造体10に対し、樹脂層(酸素バリア層25)を有する点で異なる。
【0162】
第2の実施の形態の構成により、銅を含む導電性パターン領域の間を、酸化銅及びリン含有有機物を含む絶縁領域で絶縁できるので、製造のために、層24の未焼成部分を除去する必要がない。したがって、製造工程を削減でき、溶剤等が不要であるので製造コストを下げることができる。また、導電性パターン領域の絶縁のために絶縁領域を利用し、当該絶縁領域は、クラックを生じにくく、信頼性を向上できる。
【0163】
さらに、層24を樹脂層(酸素バリア層25)で覆っているため、導電性パターン領域及び絶縁領域を外部のストレスから保護し、導電性パターン領域を有する構造体の長期信頼性を向上できる。
【0164】
構造体20を構成する支持体21、絶縁領域22、導電性パターン領域23、及び層24の各構成については、上記で説明した支持体11、絶縁領域12、導電性パターン領域13、及び層14の各構成が適用される。また、構造体20においても、上述した密着層を含むことができる。
【0165】
樹脂層について詳しく説明する。
<樹脂層>
図3に示すように、層24の表面を覆うようにして樹脂層が配置されている。
【0166】
(酸素バリア層)
樹脂層の一例は、酸素バリア層25である。酸素バリア層25は、後述の構造体20の製造方法において、光照射の際に塗布層(後述)が酸素に触れるのを防止し、酸化銅の還元を促進できる。これにより、光照射のときに塗布層の周囲を無酸素又は低酸素雰囲気にする、例えば、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気のための設備が不要になり、製造コストを削減できる。
【0167】
また、酸素バリア層25は、光照射の熱等によって導電性パターン領域23が剥離又は飛散するのを防止できる。これにより、構造体20を歩留まりよく製造できる。
【0168】
(封止材層)
樹脂層の他の例は、封止材層である。
図4は、
図3とは一部で異なる、導電性パターン領域を有する構造体の他の例を示す断面模式図である。
図4に示す導電性パターン領域を有する構造体30は、酸素バリア層25(
図3参照)に代わって、封止材層31が、層24の表面を覆っていることを除き、
図3に示す構造体20と同様の構成である。
【0169】
封止材層31は、例えば、酸素バリア層25を剥離した後に新たに配置される。
【0170】
酸素バリア層25(
図3参照)は、主に製造時に重要な働きをする。これに対して、封止材層31は、製造後の完成品(導電性パターン領域を有する構造体30そのもの及びそれを含む製品)において、導電性パターン領域23を外部からのストレスから保護し、導電性パターン領域を有する構造体30の長期安定性を向上することができる。
【0171】
この場合、樹脂層の一例である封止材層31は、透湿度が1.0g/m2/day以下であることが好ましい。これは、長期安定性を確保するものであって、透湿度を十分低くすることで、封止材層31の外部からの水分の混入を防ぎ、導電性パターン領域23の酸化を抑制するためである。
【0172】
封止材層31は、酸素バリア層25を剥離した後に、導電性パターン領域を有する構造体30に機能を与える機能層の一例であり、これ以外にも、導電性パターン領域を有する構造体30を取り扱った際の耐傷性を持たせたり、外界からの汚染から守るために防汚性を持たせたり、強靭な樹脂を用いることで構造体20に剛性を持たせることもできる。
【0173】
なお、本明細書では、酸素バリア層以外の封止材層等の機能層を単に「他の樹脂層」ともいう。
【0174】
本実施の形態では、導電性パターン領域を有する構造体の製造方法(後述)において、塗布層を覆うようにして酸素バリア層25(
図3参照)を配置し、光焼成処理後に、酸素バリア層25を除去し、層24を覆うようにして他の樹脂層の一例である封止材層31(
図4参照)を配置する場合を例に挙げて説明する。すなわち、構造体20(
図3参照)は、完成品としての導電性パターン領域を有する構造体30(
図4参照)を得るための前駆構造体と言える。しかしながら、酸素バリア層25をそのまま残した構造体20(
図2参照)を完成品としてそのまま使用しても構わない。
【0175】
上述の樹脂層を構成する樹脂は、融点が150℃以上300℃以下であることが好ましい。このような樹脂を用いることによって、実使用温度域(最大75℃)の2倍以上の安全率を確保すると共に、樹脂層を形成するときに熱溶させてラミネートコーティングさせることができるため、好ましい。
【0176】
樹脂層には、開口部を設けることが好ましい。これは、外部から導電性パターン領域に電気的な接続を行うためのものであって、開口部には金属めっきやはんだ付けなどの方法によって電気コンタクト部を取り付けることができる。
【0177】
樹脂層について更に詳細に説明する。まず、酸素バリア層について説明する。酸素バリア層は、光線を照射中に外界から塗布層に酸素が混入することを防止する。例えば、以下に挙げる材料を酸素バリア層の材料として用いることができる。ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール(POM)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PENt)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、ポリシロキサン、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、ブチルゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)、シクロオレフィンポリマー(COP)、アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS)、ナイロン樹脂(PA6、PA66)ポリブチルテレフタレート樹脂(PBT)ポリエーテルスルホン樹脂(PESU)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びシリコーン樹脂等から構成される樹脂材料を用いることができる。
【0178】
また、酸素バリア層と塗布層の間に、粘着層を設けて酸素バリア層を塗布層に貼り合わせてもよい。
【0179】
次に、他の樹脂層について説明する。他の樹脂層の一例である封止材層は、長期安定性を確保するものである。封止材層は、透湿度を十分低くすることが好ましい。封止材層の外部からの水分の混入を防ぎ、導電性パターン領域の酸化を抑制するためである。封止材層の透湿度は1.0g/m2/day以下であることが好ましく、より好ましくは0.5g/m2/day以下であって、さらに好ましくは0.1g/m2/day以下である。
このような範囲の封止材層を用いることで、例えば、85℃、85%環境における長期安定性試験において、導電性パターン領域の酸化による抵抗変化を抑止することができる。
【0180】
封止材層に用いることができる材料は、例えば、前述の酸素バリア層と同じ材料の中から選択することができ、さらにそれらの材料に酸化ケイ素や酸化アルミニウムからなる微粒子を混合させたり、それらの材料の表面に酸化ケイ素や酸化アルミニウムからなる層を、水分バリア層として設けることで透湿度を下げることができる。
【0181】
また、封止材層は、単一の材料からなる必要はなく、前述の材料を複数用いてもよい。
【0182】
上記にて説明した導電性パターン領域を有する構造体は、次に説明する中間体としての積層体を用いて製造される。すなわち、所望の導電性パターン領域を有する構造体を得るには、中間体としての積層体の構成を適正化することが必要である。そこで、以下では、本実施の形態における積層体の構成について説明する。
【0183】
<本実施の形態の積層体の概要>
本発明者らは、支持体の表面に酸化銅を含む塗布層を配置し、当該塗布層に選択的に光照射し、酸化銅を銅に還元して導電性パターン領域を形成した。この際、未還元の酸化銅を含む領域の電気絶縁性を高めれば、当該領域を除去せずにそのまま残すことで、導電性パターン領域間の絶縁を確保でき、且つ、当該領域を除去する工程が不要になることを見出した。
【0184】
さらに、塗布層上に樹脂層を配置することにより、光線を照射して酸化銅を焼成する処理(以下、「光焼成処理」という)の際に、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気のための設備が不要になり、前述した導電性パターン領域を有する構造体の製造コストを削減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0185】
すなわち、本実施の形態における積層体40は、
図5に示すように、支持体41と、支持体41が構成する面上に配置された、酸化銅及びリンを含む塗布層44と、塗布層44を覆うように配置された樹脂層の一例である酸素バリア層45と、を具備することを特徴とする。酸素バリア層45は、光線透過性である。
【0186】
図5に示すように、塗布層44及び酸素バリア層45の間には、必要に応じて粘着層46が配置されている。
【0187】
図5に示すように、塗布層44を樹脂層(酸素バリア層45)で覆っているため、光焼成時に塗布層44が酸素に触れるのを防止し、酸化銅の還元を促進できる。これにより、光照射のときに塗布層44の周囲を無酸素又は低酸素雰囲気にするための設備が不要になり、製造コストを削減できる。したがって、本実施の形態の積層体を用いることで、所望の導電性パターン領域付積層体を精度よく且つ低コストで製造することが可能になる。
【0188】
積層体40を構成する支持体41、及び樹脂層(
図5では一例としての酸素バリア層45)については上記で説明した支持体11、及び樹脂層(酸素バリア層25)の各構成が適用される。また、積層体40においても、支持体41と塗布層44との間に、上述した密着層を含むことができる。
【0189】
以下、塗布層44、及び、粘着層46について詳述する。
【0190】
<塗布層>
塗布層44は、酸化銅を分散剤としても作用するリンのうち特にリン含有有機物を用いて分散媒に分散した分散体を支持体41が構成する面に塗布して形成される。
【0191】
リン含有有機物、分散媒及び分散体の調製方法の詳細については後述する。
【0192】
塗布層44は、
図3の絶縁領域22と実質的に同じ組成を有して構成される。
【0193】
また、
図1や
図3に示す絶縁領域12、22と同様に、塗布層44において、酸化銅を含む微粒子とリン含有有機物とが混在し、リン含有有機物の含有量は、酸化銅微粒子の全体積を100体積部としたときの、5体積部以上900体積部以下であることが好ましい。これにより、可撓性が高く曲げてもクラックが入りにくく、また、焼成によって良好な導電性パターン領域を形成することが可能な塗布層44を得ることができる。
【0194】
また、塗布層44は、銅粒子をさらに含み、塗布層中の銅粒子/酸化銅微粒子の質量比率が、1.0以上7.0以下であることが好ましい。これにより、クラックの発生を抑制できるとともに、焼成によって良好な導電性パターン領域を形成することができる。
【0195】
また、塗布層44に対する酸化銅微粒子の含有率は、10体積%以上90体積%以下であることが好ましい。これにより、塗布層44を焼成したときに、微粒子同士を融着させて導電性を発現させやすい。また、塗布層44を支持体又は密着層に効果的に付着させることができる。
【0196】
また、塗布層44中に含まれる酸化銅微粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)は、1nm以上50nm以下であることが好ましい。これにより、塗布層44に対する焼成温度を低くすることができるとともに、塗布層44中での酸化銅微粒子の分散性を向上させることが出来る。
【0197】
また、塗布層44は、酸化銅とヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含む構成、或いは、酸化銅とリン含有有機物とヒドラジンまたはヒドラジン水和物とを含む構成であってもよい。ヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含むことによって、光をあてた際に酸化銅を銅に還元しやすい。
【0198】
<粘着層>
粘着層46は、必要に応じて、塗布層44及び酸素バリア層45の間に配置され、酸素バリア層45を塗布層44の表面に貼り合わせる。
【0199】
粘着層46の粘着力は、5mN/10mm以上10N/10mm以下であることが好ましい。5mN/10mm以上1N/10mm未満であることによって、塗布層44に粘着層46を介して酸素バリア層45を固定することができ、且つ、その後の工程で酸素バリア層45を簡単に剥離することができる。さらに、1N/10mm以上10N/10mm以下であることによって、塗布層44に粘着層46を介して酸素バリア層45を強固に固定することができる。
【0200】
粘着層46は、粘着シート、粘着フィルム、或いは、粘着材料である。粘着層46に含まれる粘着剤は、特に限定されないが、アクリレート樹脂やエポキシ樹脂、シリコーン樹脂などを例示することができる。
【0201】
酸素バリア層45が、粘着層46を備えた樹脂フィルムである場合、塗布層44の表面に樹脂フィルムを貼り合わせることによって、簡便に酸素バリア層45を形成することができるため好ましい。また、前述のように粘着力を選択することで、必要に応じて酸素バリア層45を剥離することができる。このように、酸素バリア層45を剥離することで、
図2に示すような構造の構造体10を得ることができる。
【0202】
なお、酸素バリア層45が、樹脂硬化物によって形成される層や、または熱可塑性樹脂を加熱して押圧ラミネートすることによって形成される層の場合は、粘着層を省略することができる。
【0203】
また、本実施の形態では、塗布層44と樹脂層との間に、酸化ケイ素又は酸化アルミニウムを含有する層を有することが好ましい。酸化ケイ素又は酸化アルミニウムを含有する層を、水分バリア層として機能させることができ、透湿度を下げることができる。
【0204】
図6は、
図5に示す積層体を用いて形成した導電性パターン領域を有する構造体50の断面図である。
図6に示すように、導電性パターン領域を有する構造体50は、支持体51と、支持体51が構成する面上に、酸化銅及びリン含有有機物を含む絶縁領域52と、還元銅を含む導電性パターン領域53と、が互いに隣接して配置された層54と、層54を覆うようにして設けられた樹脂層の一例である酸素バリア層55と、層54と酸素バリア層55の間に介在する粘着層56と、を具備する。
【0205】
図6に示す導電性パターン領域を有する構造体50は、
図3に示す構造体20と基本的に同じ構造であるが、
図6では、層54と酸素バリア層55の間に粘着層56を介在する点で異なる。
図6では、粘着層56を有することで、酸素バリア層55と層54間の密着性を向上させることができ、耐久性に優れた導電性パターン領域を有する構造体50を実現できる。また、酸素バリア層55と層54の間に、酸化ケイ素や酸化アルミニウムを含有する層を介在させることで、水分バリア性を向上させることもできる。
【0206】
また、
図6では、必要に応じて酸素バリア層55を他の樹脂層に置き換えることもできる。このとき、粘着層56に予め粘着力の弱い粘着剤を用いることで、酸素バリア層55を層54から簡単に引き剥がすことができる。他の樹脂層と、層54との間には、粘着層56を介在させたり、酸化ケイ素や酸化アルミニウムを含有する層を介在させることもできる。粘着層56や、酸化ケイ素や酸化アルミニウムを含有する層を介在させず、他の層を、直接、層54の表面に貼り合わせる場合は、
図3に示す構造に準じた導電性パターン領域を有する構造体50となる。
【0207】
<本実施の形態の銅配線の概要>
本発明者らは、上記した構造体のうち、導電性パターン領域からなる銅配線を開発するに至った。すなわち、本実施の形態では、導電性パターン領域と絶縁領域とが隣接した層の導電性パターン領域が以下に説明する銅配線である。また、本実施の形態では、絶縁領域を除去して銅配線を得ることもできる。
【0208】
本実施の形態における銅配線は、酸化銅が還元された還元銅とリンと炭素を含む。そして、リン/銅の元素濃度比が0.02以上、0.30以下であり、炭素/銅の元素濃度比が1.0以上、6.0以下であることを特徴とする。銅配線の表面の算術平均粗さRaは、20nm以上、500nm以下であることが好ましい。
【0209】
上記のように、リン元素の含有率は、銅の元素に対して、0.02以上、0.30以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは0.05以上、0.28以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.1以上、0.25以下の範囲である。リン/銅の元素濃度を、0.02以上とすることで、銅の酸化抑制をすることができ、銅配線回路としての信頼性を向上させることが出来、好ましい。また、リン/銅の元素濃度を、0.30以下とすることで、配線の抵抗値を下げることが出来、好ましい。
【0210】
上記のように、炭素元素の含有率は、銅の元素に対して、1.0以上6.0以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは1.5以上、5.5以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは2.0以上、5.0以下の範囲である。炭素/銅の元素濃度を、1.0以上とすることで、銅配線の屈曲性を担持させることができる。また、炭素/銅の元素濃度を、6.0以下とすることで、配線の抵抗値を下げることが出来、好ましい。
【0211】
炭素は、塗布層中のリン含有有機物やグリコール類などの有機成分が、酸化銅を還元する際に生じた残渣に由来する。
【0212】
上記のように、Raは、20nm以上500nm以下であることが好ましい。50nm以上300nm以下がより好ましく、50nm以上200nm以下がさらに好ましい。Raは、銅配線表面の算術平均粗さであり、銅配線を樹脂層で覆う場合は、樹脂層と接触する面の表面粗さを指す。Raが、20nm以上500nm以下とすることで、樹脂層との密着性を向上させることが出来、好ましい。
【0213】
さらに銅配線は、窒素を含んでいても良い。窒素/銅の元素濃度比は、0.04以上、0.6以下であることが好ましく、0.1以上、0.55以下であることがより好ましく、0.2以上、0.5以下であることがさらに好ましい。窒素/銅の元素濃度比を、0.04以上とすることで銅配線の耐腐食性を向上させることができ、窒素/銅の元素濃度比を、0.6以下にすることで配線の抵抗値を下げることが出来、好ましい。窒素は、塗布層中のヒドラジンまたはヒドラジン水和物が、酸化銅を還元する際に生じた残渣に由来する。
【0214】
銅配線は、酸化銅が還元された還元銅とリンと炭素を含み、それぞれの元素濃度比は、リン:炭素:銅が、0.02:1:1から0.3:6:1の範囲内であることが好ましい。0.05:1.5:1から0.28:5.5:1の範囲内であることがより好ましく、0.1:2:1から0.25:5:1の範囲内であることがさらに好ましい。なお、前記の範囲は、銅の元素濃度を1とした規定した比率である。この範囲で還元銅とリンと炭素を含むことによって、配線の抵抗値を下げ、かつ銅の酸化抑制と銅の屈曲性を最大限共に担持させることが出来る。
【0215】
銅配線は、酸化銅が還元された還元銅とリンと炭素と窒素を含み、それぞれの元素濃度比は、リン:炭素:窒素:銅が、0.02:1:0.04:1から0.3:6:0.6:1の範囲内であることが好ましい。0.05:1.5:0.1:1から0.28:5.5:0.55:1の範囲内であることがより好ましく、0.1:2:0.2:1から0.25:5:0.5:1の範囲内であることがさらに好ましい。なお、前記の範囲は、銅の元素濃度を1とした規定した比率である。この範囲で還元銅とリンと炭素と窒素を含むことによって、配線の抵抗値を下げ、かつ銅の酸化抑制と銅の屈曲性と耐腐食性を最大限共に担持させることが出来る。
【0216】
次に、
図2に示す第1の構造体10の製造方法について説明する。第1の構造体10の製造方法は、主に以下の工程を備える。
(A)支持体が構成する面上に、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗布層を配置する工程、
(B)光線を塗布層に選択的に照射して前記酸化銅を銅に還元し、支持体と、支持体が構成する面上に、酸化銅及び前記リン含有有機物を含む絶縁領域と、銅を含む導電性パターン領域と、が互いに隣接して配置された層と、を具備する導電性パターン領域を有する構造体を得る工程。
【0217】
上記(A)では、支持体が構成する面上に、酸化銅及びヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含む塗布層を配置してもよい。または、支持体が構成する面上に、酸化銅、リン含有有機物、及びヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含む塗布層を配置してもよい。ヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含むことで、光による還元をより進行させることが出来、抵抗の低い銅膜を得ることができる。
【0218】
上記(A)に示したように、まず、支持体が構成する面上に、酸化銅及びリンを含む塗布層を配置する。この方法としては、(a)酸化銅及びリン含有有機物を含有する分散体を塗布する方法、(b)酸化銅微粒子を散布し、次いで、リン含有有機物を塗布する方法、(c)リン含有有機物を塗布し、次いで酸化銅微粒子を散布する方法等が挙げられる。
以下、(a)の方法を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではない。
【0219】
(分散体の調製方法)
次に、分散体の調製方法について説明する。まず、酸化銅微粒子をリン含有有機物と共に分散媒に分散させた酸化銅分散体を調製する。
【0220】
例えば、上記(3)の方法で合成された酸化銅微粒子は、軟凝集体であり、このままでは塗布に適さないため、分散媒に分散させる必要がある。
【0221】
上記(3)の方法で合成が終了した後、合成溶液と酸化銅微粒子との分離を、例えば、遠心分離のような公知の方法で行う。得られた酸化銅微粒子に、分散媒、及びリン含有有機物を加え、例えば、ホモジナイザのような公知の方法で撹拌し、酸化銅微粒子を分散媒に分散させる。
【0222】
本実施の形態に係るリン含有有機物は、分散剤として機能する。しかし、絶縁領域(
図2に示す絶縁領域12)の電気絶縁性に影響がない範囲であれば、他の分散剤を追加しても構わない。
【0223】
なお、分散媒によっては、酸化銅微粒子が分散しにくく、分散が不充分な場合がある。
このような場合は、例えば、分散しやすいアルコール類、例えば、ブタノールなどを用い、酸化銅を分散させた後、所望の分散媒への置換と所望の濃度への濃縮を行う。一例として、UF膜による濃縮、並びに、所望の分散媒による希釈及び濃縮を繰り返す方法が挙げられる。
【0224】
(塗布)
上述のような支持体の表面に、本実施の形態に係る分散体からなる薄膜を形成する。より具体的には、例えば、分散体を支持体上に塗布し、必要に応じて乾燥により分散媒を除去し、塗布層を形成する。当該塗布層の形成方法は、特に限定されないが、ダイコート、スピンコート、スリットコート、バーコート、ナイフコート、スプレーコート、ディツプコート等の塗布法を用いることができる。これらの方法を用いて、支持体上に均一な厚みで分散体を塗布することが望ましい。
【0225】
支持体上に配置された塗布層を覆うように、酸素バリア層を配置することが好ましい。
ただし、
図2に示す構造体10の製造方法としては、酸素バリア層の配置を必須とするものではない。
【0226】
(焼成処理)
上記(B)に示すように、本実施の形態では、塗布層中の酸化銅を還元し、銅粒子を生成させると共に、生成された銅粒子同士の融着による一体化が生じる条件下で加熱処理を施し、導電性パターン領域を形成する。この処理を焼成処理と呼ぶ。
【0227】
本実施の形態では、焼成処理の方法には、選択的な光照射法を用いる。本実施の形態において、光焼成法としては、例えば、光源としてキセノンなどの放電管を用いたフラッシュ光方式又はレーザ光方式が適用可能である。これらの方法は、強度の大きい光を短時間露光し、支持体上に形成した塗布層を短時間高温に上昇させ、焼成することができる。焼成時間が短時間であるため支持体へのダメージが少なく、耐熱性が低い樹脂フィルム基板への適用が可能である。
【0228】
フラッシュ光方式とは、例えば、キセノンランプ(放電管)を用い、コンデンサに蓄えられた電荷を瞬時に放電する方式である。この方式によれば、大光量のパルス光(キセノンランプ光)を発生させ、支持体上に形成された塗布層に照射することにより塗布層を瞬時に高温に加熱する。露光量は、光強度、発光時間、光照射間隔及び回数で調整可能である。
【0229】
導電性パターン領域を形成するため、塗布層に光源からマスクを介して選択的に光照射することが可能である。
【0230】
発光光源は異なるが、レーザ光源を用いても同様な効果が得られる。レーザ光源の場合は、フラッシュ光方式の調整項目に加え、波長選択の自由度があり、塗布層の光吸収波長又は支持体の吸収波長を考慮し、選択することも可能である。
【0231】
また、レーザ光方式によれば、ビームスキャンによる露光が可能であり、露光範囲の調整が容易であり、マスクを使用せず、塗布層に選択的に光照射(描画)が可能である。
【0232】
レーザ光源の種類としては、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)、YVO(イットリウムバナデイト)、Yb(イッテルビウム)、半導体レーザ(GaAs,GaAlAs,GaInAs)、炭酸ガスなどを用いることができる。レーザとしては、基本波だけでなく必要に応じ、高調波を取り出して使用してもよい。
【0233】
本実施の形態において、光線が、中心波長が355nm以上、532nm以下のレーザ光であることが好ましい。本波長にすることで、酸化第一銅を含有する塗布層が吸収する波長のため、酸化第一銅の還元が均一に起こり、抵抗が低い領域(導電性パターン領域)を得ることができる。
【0234】
本実施の形態では、支持体を光線透過性とすることで、光線が、支持体を透過するため、塗布層の一部を適切に焼成することが可能になる。
【0235】
なお、塗布層の表面に酸素バリア層を有する構成であれば、支持体、或いは、塗布層の一方を光線透過性とし、支持体、或いは、酸素バリア層を介して塗布層に光線を透過させることで、塗布層の一部を適切に焼成することが可能である。
【0236】
また、酸素バリア層を、塗布層の表面に配置した構成では、導電性パターン領域を形成した後、該酸素バリア層を除去することで、
図2に示す構造体10を得ることができる。
【0237】
図7を参照して、第1の実施の形態に係る導電性パターン領域を有する支持体の製造方法について、より具体的に説明する。
図7は、第1の実施の形態に係る導電性パターン領域付支持体の製造方法の各工程を示す説明図である。
図7中(a)において、水、プロピレングリコール(PG)の混合溶媒中に酢酸銅を溶かし、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物を加えて攪拌する。
【0238】
次に、
図7中(b)、(c)において、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。次に、
図7中(d)において、得られた沈殿物に、分散剤及びアルコールを加え、分散する。
【0239】
次いで、
図7中(e)、(f)において、UF膜モジュールによる濃縮及び希釈を繰り返し、溶媒を置換し、酸化銅微粒子を含有する分散体Iを得る。
【0240】
図7中(g)、(h)において、分散体Iをスプレーコート法によりPET製の支持体(
図7(h)中、「PET」と記載する)上に塗布し、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗布層(
図7(h)中、「Cu
2O」と記載する)を形成する。
【0241】
次に、
図7中(i)において、塗布層に対してレーザ照射を行い、塗布層の一部を選択的に焼成し、酸化銅を銅(
図7(i)中、「Cu」と記載する)に還元する。この結果、
図7中(j)において、支持体上に、酸化銅及びリンを含む絶縁領域(
図7(j)中、「A」と記載する)と、銅を含む導電性パターン領域(
図7(j)中、「B」と記載する)と、が互いに隣接して配置された層が形成された導電性パターン領域を有する構造体が得られる。
【0242】
本実施の形態では、さらに絶縁領域を洗浄することにより除去してもよい。銅配線(
図7(K)中、「C」と記載する)が支持体上にパターン形成された形態を得ることができる。なお、銅配線Cは、導電性パターン領域Bと同じ層である。また、銅配線C上から銅配線C間の支持体上にかけて、第二樹脂層(
図7(l)中、「D」と記載する)で封止することができる。なお、少なくとも、導電性パターン領域Bとしての銅配線C上を覆うように第二樹脂層Dを形成することができる。第二樹脂層は、上記に挙げた「他の樹脂層」に該当する。
【0243】
絶縁領域を除去する場合は、水またはエタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、メタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類や、ケトン類、エステル類、エーテル類などの有機溶媒を用いることができる。特に、絶縁領域の洗浄性能の点で、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。また、上記溶媒にリン系の分散剤を添加しても良い。添加することでさらに洗浄性能が向上する。
【0244】
図2に示す構造体10を製造するにあたり、
図5に示すような積層体40を用いず、例えば、真空雰囲気中等であれば、樹脂層の一例としての酸素バリア層が無くても(
図7(h))、構造体10は可能である。ただし、当然のことながら、酸素バリア層を含む積層体を用いることで、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気のための設備が不要になり、導電性パターン領域を有する構造体の製造コストを削減できるといったメリットを得ることができる。
【0245】
次に、説明する
図3や
図4、
図6に示す第2の構造体20、30、50の製造方法では、
図5で示した積層体40を用いることが好ましい。
【0246】
すなわち、第2の導電性パターン領域を有する構造体の製造方法は、以下の工程を有する。
(C) 支持体が構成する面上に、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗布層を配置する工程、
(D) 塗布層を覆うように樹脂層(第一樹脂層)を配置する工程、
(E) 樹脂層又は支持体のいずれか一方を介して光線を前記塗布層に選択的に照射して酸化銅を銅に還元し、支持体と、支持体が構成する面上に、酸化銅及びリン含有有機物を含む絶縁領域と、銅を含む導電性パターン領域と、が互いに隣接して配置された層と、当該層を覆うように形成された樹脂層と、を具備する導電性パターン領域を有する構造体を得る工程。
【0247】
上記(C)では、支持体が構成する面上に、酸化銅及びヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含む塗布層を配置してもよい。または、支持体が構成する面上に、酸化銅、リン含有有機物、及びヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含む塗布層を配置してもよい。ヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含むことで、光による還元をより進行させることが出来、抵抗の低い銅膜を得ることができる。
【0248】
ここで、(C)の工程は、既に記載の上記(A)の工程と同じである。(D)の工程では、樹脂層を塗布層の表面に形成する。(C)及び(D)の工程を得ることで、
図5に示す中間体としての積層体40を製造することが出来る。
【0249】
すなわち、積層体40の製造方法は、支持体が構成する面上に、酸化銅とリン含有有機物と、を含む塗布層を配置する工程と、塗布層を覆うように樹脂層(酸素バリア層45)を配置する工程と、を具備する。あるいは、積層体40の製造方法は、支持体が構成する面上に、酸化銅とヒドラジンまたはヒドラジン水和物と、を含む塗布層を配置する工程と、塗布層を覆うように樹脂層(酸素バリア層45)を配置する工程と、を具備する。または、積層体40の製造方法は、支持体が構成する面上に、酸化銅とリン含有有機物とヒドラジンまたはヒドラジン水和物と、を含む塗布層を配置する工程と、塗布層を覆うように樹脂層(酸素バリア層45)を配置する工程と、を具備する。
【0250】
図5に示す積層体40では、酸素バリア層45を、塗布層44に粘着層46を介して貼り付ける。ただし、粘着層46は必須でない。例えば、酸素バリア層45を、樹脂硬化物によって形成する場合や、熱可塑性樹脂を加熱して押圧ラミネートする場合、必ずしも粘着層46が必要ではない。例えば、酸素バリア層を構成する材料を、加熱して軟化させ、圧力を加えながら塗布層に押し当ててラミネート加工して形成することができる。
【0251】
上記では、樹脂層の一例として酸素バリア層45を例示したが、好ましい形態としては、樹脂層は、酸素バリア層であって、粘着層を備えた樹脂フィルムである。これにより、樹脂フィルムを塗布層44の表面に貼り付けることで、簡単且つ適切に、
図5に示す積層体40を製造することができる。
【0252】
なお、粘着剤は特に限定されず、アクリレート樹脂やエポキシ樹脂、シリコーン樹脂などを例示できる。
【0253】
また、粘着層の粘着力は、5mN/10mm以上10N/10mm以下であることが好ましい。これによって、塗布層に粘着層を介して適切に酸素バリア層を固定することができ、且つ、その後の工程で酸素バリア層を簡単に剥離することができる。さらに、1N/10mm以上10N/10mm以下であることによって、塗布層に粘着層を介して酸素バリア層を強固に固定することができる。
【0254】
上記の(C)及び(D)の工程を経て形成された積層体に対して、上記した焼成処理を施し、導電性パターン領域を形成する。
【0255】
本実施の形態では、酸素バリア層又は支持体のいずれか一方を光線透過性とする。これにより、光照射法の際、光線が、酸素バリア層又は支持体を透過し、塗布層の一部を焼成することができる。
【0256】
以上により、
図3に示す構造体20や、
図6に示す導電性パターン領域を有する構造体50を製造することができる。
【0257】
(他の樹脂層の配置)
次に、必要に応じて酸素バリア層を他の樹脂層に置き換えてもよい。まず、酸素バリア層を、溶剤で溶解除去する。このとき、上述の粘着層を用いて形成している場合は、粘着層だけを溶剤で溶解除去してもよい。また、予め粘着力の弱い粘着剤を用いることにより、酸素バリア層を、導電性パターン領域を有する層から引き剥がすことにより、溶剤を用いずとも、酸素バリア層を剥離させることもできる。
【0258】
その後、露出した導電性パターン領域を有する層を覆うように、他の樹脂層の一例である封止材層を配置する。封止材層は、上述の封止材層を構成する材料からなる樹脂シートを、別に用意する粘着剤によって塗布層に貼り合わせて形成することができる。
【0259】
また、封止材層は、上述の封止材層を構成する材料を、加熱して軟化させ、圧力を加えながら塗布層に押し当ててラミネート加工して形成してもよい。さらに、光硬化や熱硬化する硬化性材料を選択して、露出した導電性パターン領域を有する層の上に硬化性材料からなる塗布層を形成し、その後光や熱で硬化させて形成してもよい。
【0260】
図8を参照して、第2の実施の形態に係る導電性パターン領域付支持体の製造方法について、より具体的に説明する。
図8は、本実施の形態に係る導電性パターン領域付支持体の製造方法の各工程を示す説明図である。
図8中(a)において、水、プロピレングリコール(PG)の混合溶媒中に酢酸銅を溶かし、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物を加えて攪拌する。
【0261】
次に、
図8中(b)、(c)において、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。次に、
図8中(d)において、得られた沈殿物に、分散剤及びアルコールを加え、分散する。
【0262】
次いで、
図8中(e)、(f)において、UF膜モジュールによる濃縮及び希釈を繰り返し、溶媒を置換し、酸化銅微粒子を含有する分散体Iを得る。
【0263】
図8中(g)、(h)において、分散体Iをスプレーコート法によりPET製の支持体(
図8(h)中、「PET」と記載する)上に塗布し、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗布層(
図8(h)中、「Cu
2O」と記載する)を形成する。
【0264】
次に、
図8中(i)において、塗布層上に酸素バリア層(
図8(i)中、「バリア」と記載する)を配置する。
【0265】
次に、
図8中(j)において、酸素バリア層を介して塗布層に対してレーザ照射を行い、塗布層の一部を選択的に焼成し、酸化銅を銅(
図8(j)中、「Cu」と記載する)に還元する。この結果、
図8中(k)において、支持体上に、酸化銅及びリン含有有機物を含む絶縁領域(
図8(k)中、「A」と記載する)と、銅を含む導電性パターン領域(
図8(k)中、「B」と記載する)と、が互いに隣接して配置された層が得られる。
【0266】
次に、
図8(l)、(m)において、酸素バリア層を溶剤で除去し、導電性パターン領域と絶縁領域とが隣接する層を露出させる。その後、
図8(n)において、封止材層(
図8(n)中、「封止」と記載する)で、導電性パターン領域と絶縁領域とが隣接する層の表面を覆うことで、
図4に示す、導電性パーン領域を有する構造体を得ることができる。
【0267】
本実施の形態では、さらに絶縁領域を洗浄することにより除去してもよい。銅配線(
図8(o)中、「C」と記載する)が支持体上にパターン形成された形態を得ることができる。なお、銅配線Cは、導電性パターン領域Bと同じ層である。また、銅配線C上から銅配線C間の支持体上にかけて、第二樹脂層(
図8(p)中、「D」と記載する)で封止することができる。なお、少なくとも、導電性パターン領域Bとしての銅配線C上を覆うように第二樹脂層Dを形成することができる。第二樹脂層は、上記に挙げた「他の樹脂層」に該当する。
【0268】
絶縁領域を除去する場合は、水またはエタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、メタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類や、ケトン類、エステル類、エーテル類などの有機溶媒を用いることができる。特に、絶縁領域の洗浄性能の点で、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。また、上記溶媒にリン系の分散剤を添加しても良い。添加することでさらに洗浄性能が向上する。
【0269】
なお、酸素バリア層を除去せずに封止材層として機能させることも可能である。このとき、
図3及び
図6に示す導電性パターン領域を有する構造体を製造することができる。したがって、酸素バリア層の除去以降の工程は、本実施の形態の導電性パターン領域を有する構造体の製造方法で必須ではない。
【0270】
本実施の形態の構造体の製造方法では、光線を照射して導電性パターン領域と絶縁領域とを有する層を得た後、
図7(k)や、
図8(o)に示すように、導電性パターン領域と絶縁領域とが密接した層から絶縁領域を除去することも可能である。例えば、導電性パターン領域は溶けず、絶縁領域を溶解させるエッチング液を用いるなどして、選択的に、絶縁領域を洗浄、除去することができる。本実施の形態では、導電性パターン領域と絶縁領域との境界を明確に区別でき、上記した絶縁領域のみの選択的な除去を適切に行うことができる。
【0271】
また、本実施の形態では、上記のように、層から絶縁領域を除去した後、
図7(l)や
図8(p)に示すように、導電性パターン領域の表面を覆うように第二樹脂層を配置してもよい。これにより、導電性パターン領域上及び導電性パターン領域間の絶縁性を確保することができる。また、バリア膜として銅配線の耐久性にも効果がある。なお、第二樹脂層には、上記に挙げた「他の樹脂層」を適用することができる。
【0272】
本実施の形態では、例えば、上記のように、絶縁領域を除去し、支持体上に銅配線を残すことができる。支持体上に残された、酸化銅が還元された還元銅とリンと炭素を含む導電性パターン領域を、本実施の形態の銅配線として製造することができる。或いは、絶縁領域を除去しなくとも、導電性パターン領域と絶縁領域のうち、導電性パターン領域を銅配線と見做すことができる。このとき、本実施の形態では、銅配線において、リン/銅の元素濃度比を0.02以上、0.30以下とし、炭素/銅の元素濃度比を1.0以上、6.0以下とし、好ましくは、Raを20nm以上、500nm以下することができる。リン/銅の元素濃度比を0.02以上、0.30以下とするには、一例として、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗布層を配置し、光線を照射して酸化銅から還元銅を得ることで製造することができる。酸化銅とリン含有有機物との比率を調整することで、リン/銅の元素濃度比を調整することが出来る。炭素/銅の比を1.0以上、6.0以下とするには、一例として、酸化銅及び有機物を含む塗布層を配置し、光線を照射して酸化銅から還元銅を得ることで製造することができる。酸化銅と有機物との比率を調整することで、炭素/銅の元素濃度比を調整することが出来る。また、銅配線の表面のRaを20nm以上、500nm以下するには、一例として、光線を照射するときの光線照射強度と照射速度、照射間隔を調節することにより、所望のRaを得ることが出来る。
【0273】
また、本実施の形態の導電性パターン領域を有する構造体、或いは積層体の製造方法では、樹脂層又は支持体の波長445nmの光線透過率は30%以上であることが好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。光線透過率の上限は、98%以下であってもよい。波長は、445nmの他に、例えば、355nm、405nm、450nm、532nm、1064nmなどの近紫外から近赤外の波長を選択することもできる。このような波長における光線透過率を高くすることで、支持体側から光照射して塗布層を焼成し、導電性パターン領域を形成することができる。
【0274】
また、本実施の形態の導電性パターン領域を有する構造体、或いは積層体の製造方法では、塗布層中に含まれる酸化銅は、酸化第一銅であることが好ましい。これにより、焼成処理により、還元銅を得ることができ、導電性パターン領域と絶縁領域とが混在した層を精度よく形成することが可能になる。
【0275】
また、本実施の形態の導電性パターン領域を有する構造体、或いは積層体の製造方法では、塗布層中に含まれるリン含有有機物は、下記化学式(1)(化学式(1)中、Rはエステル塩である)で示す骨格を有することが好ましい。
【化5】
【0276】
上記した化学式(1)の構造は、酸化銅と吸着し、また支持体への密着性にも優れる。
これにより、絶縁性の確保とともに、支持体と塗布層との間の剥離を効果的に防止することができる。
【0277】
また、本実施の形態の導電性パターン領域を有する構造体、或いは積層体の製造方法では、支持体が立体物であることを例示することができる。すなわち、本実施の形態では、平坦な支持体のみが対象でなく、曲面や段差等であってもよく、例えば、筐体やシャーシ等の表面を支持体表面として、本実施の形態における導電性パターン領域を有する構造体を形成することが可能である。
【0278】
<適用例>
本実施の形態に係る導電性パターン領域を有する構造体は、例えば、電子回路基板等の配線材(プリント基板、RFID、自動車におけるワイヤハーネスの代替など)、携帯情報機器(スマートフォン等)の筐体に形成されたアンテナ、メッシュ電極(静電容量式タッチパネル用電極フィルム)、電磁波シールド材、及び、放熱材料、に好適に適用することができる。
【0279】
以上説明したように、本実施の形態に係る導電性パターン領域を有する構造体によれば、銅を含む導電性パターン領域の間を、酸化銅及びリンを含む絶縁領域で絶縁できる。したがって、製造のために、支持体上に配置された層の未焼成部分を除去する必要がないため、製造工程を削減でき、溶剤等が不要であるので製造コストを下げることができる。また、導電性パターン領域の絶縁のために絶縁領域を利用し、当該絶縁領域は、クラックを生じにくく、信頼性を向上できる。
【0280】
また、本実施の形態に係る導電性パターン領域を有する構造体の製造方法によれば、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗布層の一部をレーザで焼成して導電性パターン領域とすると共に、未焼成部分を導電性パターン領域の絶縁のために使用できる。したがって、塗布層の未焼成部分を除去する必要がない。このため、製造工程を削減でき、溶剤等が不要であるので製造コストを下げることができる。また、導電性パターン領域の絶縁のためにソルダ―レジスト等を設ける必要がないので、その分も製造工程を削減できる。
【0281】
また、本実施の形態に係る積層体によれば、樹脂層で塗布層を覆うことにより、光焼成時に塗布層が酸素に触れるのを防止し、酸化銅の還元を促進できる。これにより、光照射のときに塗布層の周囲を無酸素又は低酸素雰囲気にするための設備が不要になり、製造コストを削減できる。また、塗布層を樹脂層で覆っているため、塗布層を外部のストレスから保護し、ハンドリング性を向上できる。
【0282】
また、本実施の形態に係る積層体の製造方法によれば、支持体の面上に、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗布層を形成する工程、及び、塗布層の表面に樹脂層を形成する工程、を用いることで、簡単且つ適切に積層体を製造することが可能である。
【実施例】
【0283】
以下、具体的な実施例により、本発明をより詳細に説明する。
【0284】
<分散体の製造>
水800g及び1,2-プロピレングリコール(和光純薬製)400gからなる混合溶媒中に、酢酸銅(II)一水和物(和光純薬製)80gを溶解し、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物水和物(和光純薬製)20gを加えて攪拌した後、遠心分離を用いて上澄みと沈殿物とに分離した。
【0285】
得られた沈殿物2.8gに、リン含有有機物としてDISPERBYK-145(商品名、ビックケミー社製)(表1中、BYK-145)0.05g及び分散媒としてエタノール(和光純薬製)6.6gを加え、ホモジナイザを用いて分散した。さらにエタノールによる希釈と濃縮を繰り返し、これにより、酸化第一銅(酸化銅(I))を含む酸化第一銅微粒子を含有する分散体(a)を得た。沈殿物を真空乾燥することで沈殿物中の酸化第一銅微粒子の重量を測定したところ、沈殿物2.8g中に酸化第一銅微粒子は2.0g含有されていた。
【0286】
なお、真空乾燥によって得られた酸化第一銅微粒子を、透過型電子顕微鏡観察しエネルギー分散型X線分光法によって解析することで、酸化第一銅微粒子中の酸化第一銅の含有率(体積%)は100体積%であった(表1参照)。
【0287】
沈殿物2.8gに加えるリン含有有機物の量を、それぞれ表1に記載の通りに変更した他は上記と同様の操作により、酸化第一銅微粒子を含有する分散体(b)~(g)を得た。分散体(b)~(g)に含まれる全微粒子中の酸化銅の含有率(体積%)を測定した結果、100体積%であった(表1参照)。
【0288】
【0289】
また、分散体(c)に、銅粉(平均粒径1μm、球状粒子)を表1に記載の通りの量で添加することにより、分散体(h)、(i)を得た。分散体(h)、(i)に含まれる全微粒子(酸化銅微粒子及び銅粉)中の酸化銅の含有率(体積%)を測定した結果、それぞれ、59.7体積%及び42.6体積%であった(表1参照)。
【0290】
<試料の製造>
[試料1~19]
支持体の表面にUVオゾン処理を施した後、分散体を所定の厚みになるようにバーコートし、室温で10分間乾燥することで、支持体上に塗布層が形成された試料を得た。
【0291】
支持体の種類、分散体の種類及び塗布層の厚みをそれぞれ表2に示す通りに変更し、試料1~19を得た。
【0292】
支持体PETとしては、厚み100μmのPETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100)を用いた。
【0293】
[試料20]
支持体として、厚み100μmのPETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100)の表面にUVオゾン処理を施した後、酸素ガスによる反応性イオンエッチング(RIE)処理によって表面を粗化して密着層を形成した。
【0294】
次いで、密着層上に分散体(c)を所定の厚み0.5μmになるようにバーコートし、室温で10分間乾燥することで、試料20を得た。
【0295】
[試料21~23]
支持体の種類を表2に記載の通りに変更した他は、上記試料20の場合と同様の操作により、試料21~23を得た。得られた密着層の比表面積及び表面粗さを測定し、表2に示した。
【0296】
支持体として、PENフィルムとPIフィルム、m-PPEシートは下記を用いた。
PENフィルム(帝人フィルムソリューション社製、テオネックスQ65H、厚み100μm)
PIフィルム (東レ・デュポン社製、カプトン500H、厚み125μm)
m-PPEシート (旭化成社製、E1000、厚み125μm)
【0297】
[試料24]
支持体として、厚み100μmのPETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100)の表面にUVオゾン処理を施した後、酸化シリコン微粒子(平均粒子径25nm)を含有するコーティング液を塗布した。そして、室温で30分乾燥させて、厚みが5μmの密着層を形成した。
【0298】
その後、分散体(a)を分散体(c)に変更した他は、上記試料1~19の場合と同様の操作により、試料24を得た。
【0299】
[試料25]
支持体として、厚み100μmのPETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100)の表面にUVオゾン処理を施した後、酸化アルミニウム微粒子(平均粒子径110nm)を含有するコーティング液をブレードコーターで塗布した。そして、室温で30分乾燥させて、厚みが10μmの密着層を形成した。
【0300】
その後、分散体(a)を分散体(c)に変更した他は、上記試料1~19の場合と同様の操作により、試料25を得た。
【0301】
<評価及び測定方法>
(分散体の成膜性評価)
得られた試料の、塗布層の成膜性を、形状測定レーザーマイクロスコープ(キーエンス社製、VK-9510)で観察した。このとき、10倍の対物レンズを用いた。評価基準は以下の通りである。
図9及び
図10は、実施例での塗布層におけるクラックの状態を説明するための電子顕微鏡写真である。
図9にクラックのない塗布層の例を、
図10にクラックのある塗布層の例を示す。
【0302】
(レーザによる焼成及び導電性評価)
ガルバノスキャナーを用いて、最大速度300mm/分で焦点位置を動かしながらレーザ光(波長445nm、出力1.2W、連続波発振(Continuous Wave:CW))を、アルゴンガス雰囲気の試料の基板に照射することで、所望とする25mm×1mmの寸法の銅を含む導電性パターン領域を得た。
【0303】
導電性の評価方法を以下に述べる。導電性パターン領域の両端にテスタを当て、導電性を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:抵抗値が1kΩ未満
△:抵抗値が1kΩ以上1MΩ未満
×:抵抗値が1MΩ以上
【0304】
(キセノンフラッシュによる焼成及び導電性評価)
30mm角の試料をアルゴンガス雰囲気にしたステージ上に設置した。その上に25mm×1mmの寸法で開口部を設けた遮光マスクを載せ、さらにその上からキセノンフラッシュ(照射エネルギー3J/cm2、照射時間4m秒)を照射した。これによって、25mm×1mmの寸法の銅を含む導電性パターン領域を得た。遮光マスクの開口部ではない部分は、キセノンフラッシュを照射する前と同じ状態であった。
【0305】
導電性パターン領域の両端にテスタを当て、導電性を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:抵抗値が1kΩ未満
△:抵抗値が1kΩ以上1MΩ未満
×:抵抗値が1MΩ以上
【0306】
レーザによる焼成及びキセノンフラッシュによる焼成のうち、いずれか一方で、導電性パターン領域で導電性を発現することができれば、導電性パターン領域付支持体として使用することができる。
【0307】
(絶縁抵抗の測定)
焼成後の各試料の未焼成部分である酸化第一銅及びリン含有有機物を含む絶縁領域に、針式プローバーを、5mmの間隔を置いて2本設置した。菊水電子工業株式会社製の絶縁抵抗試験機TOS7200を用いて、2本の針式プローバーの間に直流500Vの電圧を1分間印加し、そのときの抵抗値を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:5000MΩ以上
△:1MΩ以上5000MΩ未満
×:1MΩ未満
【0308】
(平均粒子径)
酸化第一銅微粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって測定することができる。具体的な操作を説明する。試料を適当なサイズに切り分け、日立ハイテクノロジーズ社製、イオンミリング装置E-3500を用いてブロードイオンビーム(BIB)加工した。この際、必要に応じて試料を冷却しながらBIB加工を行った。加工した試料に導電処理を施し、導電性粘着剤部の断面を、日立製作所社製、走査型電子顕微鏡S-4800にて観察した。1視野内に10点以上の一次粒子が存在する画像内のすべての一次粒子径を測定し、その平均値を、平均一次粒子径とした。
【0309】
酸化第一銅微粒子の平均二次粒子径は、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって測定することができる。具体的な操作を説明する。試料を適当なサイズに切り分け、日立ハイテクノロジーズ社製、イオンミリング装置E-3500を用いてBIB加工した。
この際、必要に応じて試料を冷却しながらBIB加工を行った。加工した試料に導電処理を施し、導電性粘着剤部の断面を、日立製作所社製、走査型電子顕微鏡S-4800にて観察した。1視野内に10点以上の二次粒子が存在する画像内のすべての二次粒子径を測定し、その平均値を、平均二次粒子径とした。
【0310】
(荷重たわみ温度)
支持体の荷重たわみ温度は、JIS7191に準拠した方法で測定することができる。
【0311】
(酸化第一銅微粒子、銅粉及びリン含有有機物の含有率(体積%)の測定)
走査型電子顕微鏡(SEM)で、支持体上に配置された層の断面を観察することにより、層中の絶縁領域における酸化第一銅微粒子、含まれている場合は銅粉及びリン含有有機物の含有率(体積%)を測定した。
【0312】
図11は、実施例での、支持体上に配置された層の断面を示す電子顕微鏡写真である。
図11に示すように、電子顕微鏡写真においては、電子密度が大きい材料ほど明るく観察されるため、無機物は有機物より明るく、導電性の金属は酸化物より明るく観察される。
したがって、電子顕微鏡写真の層中のある観察領域において、無機物の酸化第一銅微粒子及び銅粉(以下、「全粒子」と記載する)とリン含有有機物とを、形状、サイズ及びコントラストで区別することが可能である。当該観察領域に含まれる層の断面の画像(以下、「断面画像」と記載する)中の全粒子が占める面積と、断面画像中の層の総面積との商をとって100を乗じることで全粒子の含有率(体積%)を求めることができた。
【0313】
また、酸化第一銅微粒子及び銅粉も同様に、形状、サイズ、及びコントラストで区別することが可能である。したがって、断面画像中の酸化第一銅微粒子が占める面積と、断面画像中の全粒子が占める面積との商をとって100を乗じることで、全粒子中の酸化銅の含有率(体積%)を求めることができた。また、断面画像中の銅粉が占める面積と、断面画像中の全粒子が占める面積との商をとって100を乗じることで、全粒子中の銅粉の含有率(体積%)を求めることができた。
【0314】
また、リン含有有機物の含有率(体積%)は、断面画像中のリン酸有機物の占める面積と、断面画像中の層の総面積との商をとって100を乗じることで求めることができた。
【0315】
画像の解析には、画像解析ソフトを用いることができ、例えば、ImageJ(アメリカ国立衛生研究所製)が挙げられる。実施例においては、ImageJに断面画像を読み込み、白黒8ビット画像に変換し、デフォルトの閾値設定を行い、粒子解析すること酸化第一銅微粒子及び銅粉の含有率を求めた。
【0316】
(酸化第一銅微粒子、銅粉及びリン含有有機物の含有率(重量%)の測定)
断面画像から求めた含有率(体積%)と、それぞれの酸化銅、銅及びリン含有有機物の比重から含有率(重量%)を計算することができる。酸化銅、銅及びリン含有有機物の比重はそれぞれ以下の値を用いることができる。
酸化銅:6.0g/cm3
銅:8.9g/cm3
リン含有有機物:1.0g/cm3
【0317】
これら以外の材料については、化学便覧、理化年表等に記載の数値を用いてもよい。
【0318】
このようにして求めた層中の絶縁領域における酸化第一銅微粒子、銅粉及びリン含有有機物の含有率(体積%)に基づいて、層の絶縁領域中の、酸化第一銅微粒子、又は、銅粉が含まれている場合は酸化第一銅微粒子及び銅粉の全体積を100体積部としたときのリン含有有機物の体積部を計算し、表2に示した。同様に、層の絶縁領域中の、酸化第一銅微粒子、又は、銅粉が含まれている場合は酸化第一銅微粒子及び銅粉の全質量を100質量部としたときのリン含有有機物の質量部を計算し、表2に示した。
【0319】
(支持体密着性)
焼成によって得られた導電性パターン領域の、支持体との密着性は、目視によって下記の評価基準によって行った。
○:導電性パターン領域が支持体と密着している状態
△:一部に剥離が見られるものの、全体としては支持体に密着している状態
×:導電性パターン領域が支持体から剥離している状態
【0320】
【0321】
表2中の略号はそれぞれ以下の化合物を指す。
PET:ポリエチレンテレフタラート樹脂
PEN:ポリエチレンナフタレート樹脂
PI:ポリイミド樹脂
PP:ポリプロピレン樹脂
PA:ポリアミド樹脂
ABS:アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂
PE:ポリエチレン樹脂
PC:ポリカーボネート樹脂
POM:ポリアセタール樹脂
PBT:ポリブチレンテレフタレート樹脂
m-PPE:変性ポリフェニレンエーテル樹脂
PPS:ポリフェニレンサルファイド樹脂
【0322】
[試料35~40]
上記に挙げた分散体(a)、(c)、(d)と、分散体(j)(沈殿物2.8g、銅粉0g、有機物BYK145 2.0g、溶媒エタノール 6.6g)と、分散体(c)にヒドラジン水和物を添加した分散体(k)(沈殿物2.8g、銅粉0g、有機物BYK145 2.0g、溶媒エタノール 6.6g、ヒドラジン水和物0.01g)と、分散体(c)にヒドラジン水和物を添加した分散体(l)(沈殿物2.8g、銅粉0g、有機物BYK145 2.0g、溶媒エタノール 6.6g、ヒドラジン水和物0.1g)を用いて、試料1と同様の方法によって、支持体PIフィルムの上に厚み0.8μmの塗布層を形成した試料35~40を得た。尚、分散体(k)(l)におけるヒドラジン質量/酸化銅質量は、分散体(k)が0.003で、分散体(l)が0.03であった。
【0323】
各試料の塗布層表面の平滑性を測定した。測定方法は、触針式膜厚測定機(株式会社アルバック DektakXT)を用いて1000μmの長さにおける算術平均高さRaを測定した。評価基準は以下の通りである。
○:Raが30nm未満
△:Raが30nm以上100nm未満
×:Raが100nm以下
【0324】
ガルバノスキャナーを用いて最大速度100mm/秒で焦点位置を動かしながらレーザ光(波長532nm、出力0.45W、連続波発振(Continuous Wave:CW))を、アルゴンガス雰囲気の試料の基板に照射することで、所望とする25mm×1mmの寸法の銅を含む導電性パターン領域を得た。
【0325】
各試料の導電性パターン領域の膜厚を測定した。測定方法は、導電性パターン領域の一部を剥離して支持体を露出させ、支持体から残った導電性パターン領域の段差を、触針式膜厚測定機(株式会社アルバック DektakXT)を用いて測定した。さらに未焼成である絶縁領域との比を算出した。
【0326】
各試料の導電性パターン領域の表面粗さを測定した。測定方法は、触針式膜厚測定機(株式会社アルバック DektakXT)を用いて1000μmの長さにおける算術平均高さRaを測定した。評価基準は以下の通りである。
○:Raが50nm以上200nm未満
△:Raが20nm以上50nm未満、200nm以上500nm未満
×:Raが20nm未満、500nm以上
【0327】
導電性パターン領域の両端を、4端子測定法を用いて抵抗値評価した。評価基準は以下の通りである。
○:抵抗値が30μΩcm未満
△:抵抗値が30μΩcm以上100μΩcm未満
×:抵抗値が100μΩcm以上
【0328】
(耐電圧の測定)
前述の25mm×1mmの寸法の導電性パターン領域を、1mmの間隔を開けて2本配置し、その間にある、未焼成部分である酸化第一銅及びリン含有有機物及びヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含む絶縁領域に対して耐電圧測定を行った。
【0329】
測定の方法は、針式プローバーを2本の導電性パターン領域に接続し、菊水電子工業株式会社製の耐電圧試験機TOS5300を用いて、2本の針式プローバーの間に交流電圧を印加した。徐々に電圧を上げ、絶縁破壊を生じる電圧値を測定した。評価基準は以下の通りである。
○: 耐電圧が1.7kV/mm以上
△: 耐電圧が1kV/mm以上1.7kV/mm未満
×: 耐電圧が1kV/mm未満
【0330】
(評価結果)
[試料1~25]
分散体(a)~(i)は、目視評価において凝集沈殿物が発生することなく、すべて分散性の良好な分散体であった。
【0331】
試料1は、レーザ焼成では導電性パターン領域の一部に剥離が見られるものの、全体としては支持体に密着しており、導電性の確認を行うことができた。キセノンフラッシュ焼成では、焼成中に塗布した分散体が吹き飛んでしまい、導電性パターン領域を得ることができなかった。
【0332】
試料2~4、7、9~17は、レーザ焼成では導電性パターン領域と支持体が密着しており、導電性の確認を行うことができた。キセノンフラッシュ焼成では、焼成中に塗布した分散体が吹き飛んでしまい、導電性パターン領域を得ることができなかった。
【0333】
試料5、6は、層中のリン含有有機物の含有量が多く、導電性の評価結果は△であった。酸化第一銅焼成後の、支持体上に配置された層は支持体と密着している状態であった。
【0334】
試料8は、レーザ焼成及びキセノンフラッシュ焼成の両方ともに、支持体に密着した導電性に優れた導電性パターン領域を得ることができた。
【0335】
試料18、19は、レーザ焼成によって導電性パターン領域を得ることができたが、支持体との密着性はレーザ焼成中に一部が剥離した状態であった。
【0336】
試料20~25は密着層を有し、レーザ焼成及びキセノンフラッシュ焼成の両方とも、支持体に密着した導電性パターン領域を得ることができた。
【0337】
[試料26~34]
支持体として、表2に示す材質が異なる、密着層のない筐体を用意した。筐体の形状は、曲率半径500mmのすり鉢形状を有する曲面体である。用意した筐体に、スプレーコート法を用いて分散体(c)を乾燥膜厚5μmになるように塗布し、試料26~34を得た。この後、試料26~34に対して、ガルバノスキャナーを用いて最大速度300mm/分で、焦点位置を筐体のすり鉢形状の表面に焦点が合うように動かしながら、レーザ光(波長445nm、出力1.5W、連続波発振(Continuous Wave:CW))をアルゴン雰囲気で照射することで、筐体の表面に所望とする25mm×1mmの寸法の銅を含む導電性パターン領域を得た。得られた導電性パターン領域は、一部に細かいクラックが生じているが、筐体と密着し、導電性に優れていた。
【0338】
[試料35~40]
分散体(j)(k)(l)は、目視評価において凝集沈殿物が発生することなく、分散性の良好な分散体であった。
【0339】
試料35~40の塗布層の平滑性を評価した。評価結果は表3に示す。平滑であることにより、光線を照射したときに塗布層の表面で乱反射されることなく好適に光を吸収することが出来る。
【0340】
試料35~40の導電性パターン領域の抵抗値を評価した。評価結果は表3に示す。試料38は、レーザ光を照射すると塗布層がアブレーションしてしまい、好適な導電性パターン領域を得ることが出来なかった。
【0341】
試料35~37、39、40の導電性パターン領域の膜厚を測定し、未焼成である絶縁領域との膜厚比を算出した。評価結果は表3に示す。膜厚比は45~50%の範囲内であった。
【0342】
試料35~37、39、40の導電性パターン領域の表面粗さを評価した。評価結果は表3に示す。いずれも好適な表面粗さを有していた。
【0343】
試料35~37、39,40の絶縁領域の耐電圧評価を行った。評価結果は表3に示す。試料36、37、39、40は良好な耐電圧を有していた。
【0344】
試料36に封止層としての機能を有する樹脂層(PETフィルム:東洋紡社製、コスモシャインA4100、厚み100um)を配置した。樹脂層には、酸化ケイ素を含む層を水分バリア層として設け、支持体上に配置された導電性パターン領域を有する層と接着させるために、接着層(リンテック株式会社 光学粘着シートMOシリーズ)を設けた。また、樹脂層の縁からの水分混入を防ぐために熱硬化型封止材(味の素ファインテクノ株式会社 AES-210)で封止した。さらに、樹脂層の一部を開口して導電性パターン領域を露出させて、そこに低温はんだ(千住金属工業株式会社 エコソルダーLEO)を用いて電極を設けた。この状態で85℃85RH%の環境におき、導電性パターン領域の導電性劣化の加速試験を実施した。1000時間経過後に抵抗値を評価した結果、抵抗変化率が+5%以下で、良好であった。これは、加速試験中に封止した内部に微量に混入する酸素と水分により、銅が酸化される前にリンが酸化されたことで、導電性パターン領域の抵抗変化が低く抑えられたためと考えられる。
【0345】
試料41として、立体的な曲面を有する支持体として、ガラス製のワイングラスを用意した。ワイングラスの曲率半径は35mmであった。分散体(c)で満たした容器にワイングラスを浸し、一定速度で引き上げることで、ワイングラスの外側表面に乾燥膜厚2μmの塗布層を得た。この後、塗布層にレーザーマーカー(キーエンス株式会社レーザーマーカーMD-S9910A)を用いて、レーザ光(波長532nm、出力0.22W、パルス繰返し周波数260kHz)を空気中で速度20mm/秒の速さで照射した。これにより、ワイングラスの表面に還元銅を含む導電性パターン領域を得た。
図12Aにその写真を示す。
図12Bに、その模式図を示す。得られた導電性パターン領域はガラスと密着し、導電性パターン領域の抵抗値評価は○であり、絶縁パターン領域の耐電圧評価は○であった。
【0346】
さらに銅配線を得るために、レーザ光を照射していない部分である絶縁領域にある塗布層を、洗浄溶媒であるエタノールを用いて除去した。除去後の写真を
図12Cに示す。除去後の銅配線の抵抗値評価は○であり、良好であった。
【0347】
また上記の実験と同様に、試料42として、立体的な曲面を有する支持体として、ガラス製のワイングラスを用意した。ワイングラスの曲率半径は35mmであった。分散体(c)で満たした容器にワイングラスを浸し、一定速度で引き上げることで、ワイングラスの外側表面に乾燥膜厚2μmの塗布層を得た。この後、塗布層に、上記実験とは異なるレーザーマーカー(キーエンス株式会社レーザーマーカーMD-U1000C)を用いて、レーザ光(波長355nm、出力0.25W、パルス繰返し周波数300kHz)を空気中で速度20mm/秒の速さで照射した。これにより、ワイングラスの表面に還元銅を含む導電性パターン領域を得た。得られた導電性パターン領域はガラスと密着し、導電性に優れていた。
【0348】
試料43として、試料36の塗布層の表面に、酸素バリア性を有する樹脂層として微粘着PETフィルム(リンテック社製SRL-0753)を貼り付け、レーザーマーカー(キーエンス株式会社レーザーマーカーMD-S9910A)を用いて、レーザ光(波長532nm、出力0.22W、パルス繰返し周波数260kHz)を、空気中で速度20mm/秒の速さで、樹脂層を透過させて塗布層に照射した。その後、樹脂層を取り外した。
得られた導電性パターン領域はPIフィルムと密着し、導電性パターン領域の抵抗値評価は○であり、絶縁領域の耐電圧評価は○であった。
【0349】
さらに、樹脂層を取り外したことで露出した導電性パターン領域と絶縁領域の上に、他の樹脂層の一例である封止材層として、樹脂層(PETフィルム:東洋紡社製、コスモシャインA4100、厚み100um)を配置した。樹脂層には、酸化ケイ素を含む層を水分バリア層として設け、支持体上に配置された導電性パターン領域を有する層と接着させるために、接着層(リンテック株式会社 光学粘着シートMOシリーズ)を設けた。また、樹脂層の縁からの水分混入を防ぐために熱硬化型封止材(味の素ファインテクノ株式会社 AES-210)で封止した。さらに、樹脂層の一部を開口して導電性パターン領域を露出させて、そこに低温はんだ(千住金属工業株式会社 エコソルダーLEO)を用いて電極を設けた。この状態で85℃85RH%の環境におき、導電性パターン領域の導電性劣化の加速試験を実施した。1000時間経過後に抵抗値を評価した結果、抵抗変化率が+5%以下であり、良好であった。これは、加速試験中に封止した内部に微量に混入する酸素と水分により、銅が酸化される前にリンが酸化されたことで、導電性パターン領域の抵抗変化が低く抑えられたためと考えられる。
【0350】
[比較例1]
リン含有有機物の代わりにポリビニルビロリドン(以下、PVP)を用いること以外は分散体(a)と同様の操作により、酸化第一銅微粒子を含有する分散体(x)を得た。なお、分散体(x)の組成は、沈殿物2.8g、ポリビニルピロリドン0.2g、エタノール分散媒6.6gであって、酸化第一銅微粒子中の酸化銅の含有率は100体積%である。
【0351】
試料1~19と同様の操作により、支持体として、厚み100μmのPETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100)の上に分散体(x)の塗布層が厚み0.5umで形成された比較例1を得た。
【0352】
比較例1に、ガルバノスキャナーを用いて、最大速度300mm/分で焦点位置を動かしながらレーザ光(波長445nm、出力1.2W、連続波発振(Continuous Wave:CW))を、試料の基板に照射することで、所望とする25mm×1mmの寸法の銅を含む導電性パターン領域を得た。
【0353】
焼成後の比較例1の未焼成部分である絶縁領域に、針式プローバーを、5mmの間隔を置いて2本設置した。菊水電子工業株式会社製の絶縁抵抗試験機TOS7200を用いて、2本の針式プローバーの間に直流500Vの電圧を1分間印加し、そのときの抵抗値を評価した結果、抵抗値は1MΩ未満であって、絶縁性は不十分であった。
【0354】
さらに前述の操作と同様にして、未焼成部分である酸化第一銅を含み、リン含有有機物及びヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含まない絶縁領域に対して耐電圧測定を行った。その結果、耐電圧は0.9kV/mmで評価は×であった。
【0355】
[比較例2]
酸化第一銅粒子とリン含有有機物とヒドラジンまたはヒドラジン水和物と、を含む分散体の代わりに、酸化第二銅粒子を含む分散体としてNovacentrix社Metalon ICI-021を用いて、試料1~19と同様の操作により、支持体PIフィルム((東レ・デュポン社製、カプトン500H厚み125μm)の上に塗布層の厚みが1.0μmで形成された比較例2を得た。
【0356】
試料35~38と同様の操作により、レーザ光を照射して導電性パターン領域を得た。
【0357】
試料35~38と同様に、各項目の評価を行った結果を表3に記す。塗布層の平滑性は×であった。塗布層を形成する工程において、分散体と支持体との濡れ性が悪く、またヒドラジンまたはヒドラジン水和物とリン含有有機物を含まない為、塗布層にした状態での酸化銅粒子の分散性が悪く、凝集したものと考えられる。
【0358】
導電性パターン領域の抵抗値は×であった。塗布層の平滑性が悪く、またヒドラジンまたはヒドラジン水和物とリン含有有機物を含まない為、好適にレーザ光による酸化銅粒子の還元と焼結が行えなかったものと考えられる。
【0359】
導電性パターン領域の膜厚を測定し、未焼成である絶縁領域との膜厚比を算出した。膜厚比は68%であった。
【0360】
導電性パターン領域の表面粗さは×であった。比較例2では、塗布層の平滑性が悪く、またヒドラジンまたはヒドラジン水和物とリン含有有機物を含まない為、好適にレーザ光による酸化銅粒子の還元と焼結が行えず、故に粒子と粒子の結合が進まずに表面が粗くなってしまったと考えられる。なお、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物及びリン含有有機物の少なくとも一方を含まないことでも、レーザ光による酸化銅粒子の還元と焼結が行えないと考えられる。
【0361】
絶縁領域の耐電圧評価した結果、△であった。比較例2では、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物とリン含有有機物を含まない為、塗布層にした状態での酸化銅粒子の分散性が悪く、絶縁性を十分に発現出来できていないと考えられる。なお、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物及びリン含有有機物の少なくとも一方を含まないことでも、塗布層にした状態での酸化銅粒子の分散性が悪くなると考えられる。
【0362】
[比較例3]
分散体(c)を用いて、支持体ホウケイ酸ガラス基板(SCHOTT社テンパックス)に、反転転写法によって25mm×1mmパターンを、間隔を1mm開けて平行に2本並べた塗布層(厚さ0.8μm)を形成した。さらに、プラズマ焼成法により、塗布層を還元し、還元銅、リンを含む25mm×1mmの2本の導電性パターン領域を得た。
【0363】
得られた2本の導電性パターン領域に、耐電圧評価を行った結果、×であった。これは、2本の導電性パターン領域の間に絶縁領域を含まず空気だけの状態であるため、絶縁性を発現出来できていないと考えられる。
【0364】
[導電性パターン領域中のリンの測定]
試料8に対して、上記の通りレーザ焼成を行った後、形成された導電性パターン領域中のリン元素の測定を行った。
【0365】
1)試料調製、XPS測定
レーザ焼成後の試料8から約3mm四方の小片を切り出して、5mmφのマスクを被せてXPS測定を実施した。XPS測定は、Ar+イオンスパッターによる深さ方向分析を行った。
【0366】
<XPS測定条件>
使用機器 :アルバックファイ Versa probeII
励起源 :mono.AlKα 15kV×3.3mA
分析サイズ :約200μmφ
光電子取出角 :45°±20°
取込領域 :Cu 2p3/2、P 2p、C 1s、O 1s、N 1s
Pass Energy:93.9eV
【0367】
<Ar+イオンスパッター条件>
加速電圧 :3kV
試料電流 :1.6μA
ラスターサイズ :2mm×2mm
試料回転 :あり
【0368】
XPS測定の結果、試料8については、銅に対するリン元素の含有量が、原子組成百分率で0.127atom/atom%、質量百分率で0.062w/w%であることが確認された。
【0369】
試料35~37に対して、上記の通りレーザ焼成を行った後、形成された導電性パターン領域中のリン元素の測定を行った。評価結果は表3に示す。いずれの試料もリン/銅の元素濃度比が0.02以上、0.30以下であることが示された。また、同様に導電性パターン領域中の炭素元素の測定、及び、窒素元素の測定を行った。評価結果は表3に示す。いずれの試料も炭素/銅の元素濃度比が1以上、6以下であることが示された。また、いずれの試料も窒素/銅の元素濃度比が、0.04以上、0.6以下であった。
以下、表3を示す。
【0370】
【0371】
なお、本発明は、上記実施の形態や実施例に限定されるものではない。当業者の知識に基づいて上記実施の形態や実施例に設計の変更等を加えてもよく、また、上記実施の形態や実施例を任意に組み合わせてもよく、そのような変更等を加えた態様も本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0372】
本発明により、製造工程を極めて簡略にでき、導電性パターン領域間の電気絶縁性に優れ、且つ、信頼性が高い導電性パターン領域を有する構造体を提供することができる。
【0373】
また、本発明により、酸化銅の光焼成処理において、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気のための設備が不要になり、構造体の製造コストを削減できる積層体及びその製造方法を提供することができる。
【0374】
以上により、本発明の構造体や積層体を、電子回路基板等の配線材、メッシュ電極、電磁波シールド材、及び、放熱材料に好適に利用できる。
【0375】
本出願は、2017年7月18日出願の特願2017-139133、特願2017-139134、2017年7月21日出願の特願2017-141518、特願2017-141519、2017年7月27日出願の特願2017-145188号、2018年2月13日の特願2018-023239号に基づく。この内容は全てここに含めておく。