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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】スリットランプ顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/135 20060101AFI20230908BHJP
【FI】
A61B3/135
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022143501
(22)【出願日】2022-09-09
(62)【分割の表示】P 2021542016の分割
【原出願日】2020-06-01
(65)【公開番号】P2022168144
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2019156253
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】清水 仁
(72)【発明者】
【氏名】大森 和宏
(72)【発明者】
【氏名】塚田 央
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-526507(JP,A)
【文献】特開平11-276439(JP,A)
【文献】特開2016-159073(JP,A)
【文献】特開2019-024618(JP,A)
【文献】特開2007-307384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/135
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の前眼部をスリット光でスキャンして画像群を収集するスキャン部と、
前記前眼部のスキャン範囲に2回以上のスキャンを適用するように前記スキャン部を制御する制御部と、
前記2回以上のスキャンに対応して前記スキャン部により取得された、それぞれが前記スキャン範囲から収集された2以上の画像群から、前記スキャン範囲に対応する一連の画像を選択して画像セットを作成する画像セット作成部と
を含
前記画像セット作成部は、所定の条件を満足する画像を前記2以上の画像群から選択する選択部を含み、
前記制御部は、前記前眼部へのスキャンの適用と、当該スキャンで収集された画像群からの画像の選択とを交互に反復するように、前記スキャン部及び前記選択部を制御する、
スリットランプ顕微鏡。
【請求項2】
前記画像セット作成部は、前記選択部により選択された画像に基づいて前記画像セットを更新する、
請求項1のスリットランプ顕微鏡。
【請求項3】
前記選択部は、前記前眼部に照射された前記スリット光の反射像を含む画像を前記2以上の画像群から選択する、
請求項1又は2のスリットランプ顕微鏡。
【請求項4】
前記選択部は、隣接する画像の比較によって前記2以上の画像群から画像を選択する、
請求項1~3のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【請求項5】
前記スキャン範囲に対して複数の位置が設定されており、
前記選択部は、前記複数の位置のそれぞれに1以上の画像を割り当てるように画像の選択を行う、
請求項~4のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【請求項6】
前記前眼部を固定位置から撮影する撮影部を更に含み、
前記制御部は、第1スキャンの開始に対応して前記撮影部により取得された基準画像と略同じ画像が前記撮影部により取得されたことに対応して前記スキャン部に第2スキャンを開始させる、
請求項1~5のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【請求項7】
前記画像セット作成部により作成された前記画像セットの品質を評価する評価部を更に含む、
請求項1~のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【請求項8】
前記スキャン部は、
前記前眼部に前記スリット光を照射する照明系と、
前記照明系とは異なる方向から前記前眼部を撮影する撮影系と、
前記照明系及び前記撮影系を移動する移動機構と
を含み、
前記撮影系は、前記移動機構による前記照明系及び前記撮影系の移動と並行して繰り返し撮影を行う、
請求項1~のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【請求項9】
前記撮影系は、
前記スリット光が照射された前記前眼部からの光を導く光学系と、
前記光学系により導かれた前記光を撮像面で受光する撮像素子と
を含み、
前記照明系の光軸に沿う物面と前記光学系と前記撮像面とがシャインプルーフの条件を満足する、
請求項のスリットランプ顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スリットランプ顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科分野において画像診断は重要な位置を占める。画像診断には、様々な眼科撮影装置が用いられる。眼科撮影装置の種類には、スリットランプ顕微鏡、眼底カメラ、走査型レーザー検眼鏡(SLO)、光干渉断層計(OCT)などがある。
【0003】
これら様々な眼科装置のうち最も広く且つ頻繁に使用される装置がスリットランプ顕微鏡である。スリットランプ顕微鏡は、スリット光で被検眼を照明し、照明された断面を斜方や側方から顕微鏡で観察したり撮影したりするために使用される(例えば、特開2016-159073号公報、特開2016-179004号公報を参照)。
【0004】
スリットランプ顕微鏡の主な用途の1つに前眼部観察がある。前眼部観察において、医師は、スリット光による照明野やフォーカス位置を移動させつつ前眼部全体を観察して異常の有無を判断する。また、コンタクトレンズのフィッティング状態の確認など、視力補正器具の処方において、スリットランプ顕微鏡が用いられることもある。更に、オプトメトリスト、コメディカル、眼鏡店の店員のような医師以外の者が、眼疾患のスクリーニング等の目的でスリットランプ顕微鏡を用いることもある。
【0005】
ところで、近年の情報通信技術の進歩を受けて、遠隔医療に関する研究開発が発展を見せている。遠隔医療とは、インターネット等の通信ネットワークを利用して、遠隔地に居る患者に対して診療を行う行為である。特開2000-116732号公報及び特開2008-284273号公報には、スリットランプ顕微鏡を遠隔地から操作するための技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、スリットランプ顕微鏡を用いて良好な画像を得るには、照明角度や撮影角度の調整など、微細で煩雑な操作が必要とされる。特開2000-116732号公報又は特開2008-284273号公報に開示された技術では、目の前に居る被検者の眼を観察する場合であっても難しい操作を、遠隔地に居る検者が実施しなければならないため、検査時間が長くなったり、良好な画像が得られなかったりといった問題が生じる。
【0007】
また、上記のようにスリットランプ顕微鏡はスクリーニング等の検査に有効であるが、高品質なスリットランプ顕微鏡検査を多くの人に提供するには、同装置の操作に熟練した者が不足しているという現状がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の1つの目的は、高品質なスリットランプ顕微鏡検査を広く提供することを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
幾つかの例示的な態様は、被検眼の前眼部をスリット光でスキャンして画像群を収集するスキャン部と、前記前眼部に2回以上のスキャンを適用するように前記スキャン部を制御する制御部と、前記2回以上のスキャンに対応して前記スキャン部により収集された2以上の画像群から、スキャン範囲に対応する一連の画像を選択して画像セットを作成する画像セット作成部とを含む、スリットランプ顕微鏡である。
【0010】
幾つかの例示的な態様において、前記画像セット作成部は、所定の条件を満足する画像を前記2以上の画像群から選択する選択部を含んでよい。幾つかの例示的な態様において、前記選択部は、前記前眼部に照射された前記スリット光の反射像を含む画像を前記2以上の画像群から選択するように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記選択部は、隣接する画像の比較によって前記2以上の画像群から画像を選択するように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記スキャン範囲に対して複数の位置が設定されてよい。更に、前記選択部は、前記複数の位置のそれぞれに1以上の画像を割り当てるように画像の選択を行うように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記制御部は、前記前眼部へのスキャンの適用と、当該スキャンで収集された画像群からの画像の選択とを交互に反復するように、前記スキャン部及び前記選択部を制御するように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記選択部は、既に行われた1回以上のスキャンで収集された1つ以上の画像群から画像を選択して暫定的画像セットを作成するように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記選択部は、前記1回以上のスキャンの後に新たなスキャンが適用されたとき、前記新たなスキャンで収集された新たな画像群から画像を選択して前記暫定的画像セットを更新するように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記制御部は、前記暫定的画像セットに含まれる画像の個数が所定の個数に達したときに、スキャンの適用と画像の選択との交互反復を終了するように前記スキャン部及び前記選択部を制御するように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記制御部は、スキャンの適用及び画像の選択の交互反復の回数が所定の回数に達したときに、スキャンの適用と画像の選択との交互反復を終了するように前記スキャン部及び前記選択部を制御するように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記画像セット作成部は、前記交互反復が終了されたときの前記暫定的画像セットに基づいて前記画像セットを作成するように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記制御部は、前記2回以上のスキャンを前記前眼部に適用するように前記スキャン部を制御した後、前記2回以上のスキャンで収集された2つ以上の画像群から画像を選択するように前記選択部を制御するように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、スリットランプ顕微鏡は、前記前眼部を固定位置から撮影する撮影部を更に含んでよい。更に、前記制御部は、第1スキャンの開始に対応して前記撮影部により取得された基準画像と略同じ画像が前記撮影部により取得されたことに対応して前記スキャン部に第2スキャンを開始させるように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、スリットランプ顕微鏡は、前記画像セット作成部により作成された前記画像セットの品質を評価する評価部を更に含んでよい。幾つかの例示的な態様において、スリットランプ顕微鏡は、前記前眼部へのスキャンの適用と並行して前記前眼部を固定位置から動画撮影する動画撮影部を更に含んでよい。更に、前記評価部は、前記動画撮影部により取得された動画像に基づいて前記品質の評価を行うように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記評価部は、前記画像セットに含まれる前記一連の画像と前記動画像に含まれる一連のフレームとの間の対応関係に基づいて前記品質の評価を行うように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記評価部は、前記一連のフレーム中のランドマークと前記対応関係とに基づいて前記品質の評価を行うように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記評価部は、前記画像セットに含まれる前記一連の画像を解析して前記品質の評価を行うように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記評価部は、前記一連の画像中のランドマークに基づいて前記品質の評価を行うように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記評価部は、前記画像セットに含まれる前記一連の画像の配列順序を評価するように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記評価部は、前記画像セットに含まれる前記一連の画像における画像抜けを評価するように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記評価部は、前記画像セットに含まれる前記一連の画像の位置ずれを評価するように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、スリットランプ顕微鏡は、出力部を更に含んでよい。更に、前記制御部は、前記画像セットの品質が良好であると前記評価部により評価された場合に、前記画像セットを前記出力部に出力させるための制御を行うように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記制御部は、前記画像セットの品質が良好でないと前記評価部により評価された場合に、新たな画像セットを取得するための制御を行うように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記スキャン部は、前記前眼部に前記スリット光を照射する照明系と、前記照明系とは異なる方向から前記前眼部を撮影する撮影系と、前記照明系及び前記撮影系を移動する移動機構とを含んでよい。更に、前記撮影系は、前記移動機構による前記照明系及び前記撮影系の移動と並行して繰り返し撮影を行うように構成されてよい。幾つかの例示的な態様において、前記撮影系は、前記スリット光が照射された前記前眼部からの光を導く光学系と、前記光学系により導かれた前記光を撮像面で受光する撮像素子とを含んでよい。更に、前記照明系の光軸に沿う物面と前記光学系と前記撮像面とがシャインプルーフの条件を満足するように構成されてよい。
【0011】
幾つかの例示的な態様は、スリットランプ顕微鏡と情報処理装置と読影端末とを含む眼科システムである。前記スリットランプ顕微鏡は、被検眼の前眼部をスリット光でスキャンして画像群を収集するスキャン部と、前記前眼部に2回以上のスキャンを適用するように前記スキャン部を制御する制御部と、前記2回以上のスキャンに対応して前記スキャン部により収集された2以上の画像群から、スキャン範囲に対応する一連の画像を選択して画像セットを作成する画像セット作成部と、前記画像セットを含む第1送信情報を、通信回線を通じて前記情報処理装置に送信する送信部とを含む。前記情報処理装置は、前記第1送信情報を受信する受信部と、前記第1送信情報を記憶する記憶部と、前記第1送信情報に含まれる前記画像セットを少なくとも含む第2送信情報を、通信回線を通じて前記読影端末に送信する送信部とを含む。前記読影端末は、前記第2送信情報を受信する受信部と、前記第1送信情報に含まれる前記画像セットをユーザが読影するためのユーザーインターフェイスと、前記ユーザーインターフェイスを用いて入力された情報を含む第3送信情報を、通信回線を通じて前記情報処理装置に送信する送信部とを含む。前記情報処理装置は、前記受信部により前記第3送信情報を受信し、前記第3送信情報を前記第1送信情報に関連付けて前記記憶部に記憶する。
【0012】
幾つかの例示的な態様は、スリットランプ顕微鏡と情報処理装置と読影装置とを含む眼科システムである。前記スリットランプ顕微鏡は、被検眼の前眼部をスリット光でスキャンして画像群を収集するスキャン部と、前記前眼部に2回以上のスキャンを適用するように前記スキャン部を制御する制御部と、前記2回以上のスキャンに対応して前記スキャン部により収集された2以上の画像群から、スキャン範囲に対応する一連の画像を選択して画像セットを作成する画像セット作成部と、前記画像セットを含む第1送信情報を、通信回線を通じて前記情報処理装置に送信する送信部とを含む。前記情報処理装置は、前記第1送信情報を受信する受信部と、前記第1送信情報を記憶する記憶部と、前記第1送信情報に含まれる前記画像セットを少なくとも含む第2送信情報を、通信回線を通じて前記読影装置に送信する送信部とを含む。前記読影装置は、前記第2送信情報を受信する受信部と、前記第1送信情報に含まれる前記画像セットを読影する読影処理部と、前記読影処理部により取得された情報を含む第4送信情報を、通信回線を通じて前記情報処理装置に送信する送信部とを含む。前記情報処理装置は、前記受信部により前記第4送信情報を受信し、前記第4送信情報を前記第1送信情報に関連付けて前記記憶部に記憶する。
【0013】
幾つかの例示的な態様は、スリットランプ顕微鏡と情報処理装置とを含む眼科システムである。前記スリットランプ顕微鏡は、被検眼の前眼部をスリット光でスキャンして画像群を収集するスキャン部と、前記前眼部に2回以上のスキャンを適用するように前記スキャン部を制御する制御部と、前記2回以上のスキャンに対応して前記スキャン部により収集された2以上の画像群から、スキャン範囲に対応する一連の画像を選択して画像セットを作成する画像セット作成部と、前記画像セットを含む第1送信情報を、通信回線を通じて前記情報処理装置に送信する送信部とを含む。前記情報処理装置は、前記第1送信情報を受信する受信部と、前記第1送信情報を記憶する記憶部と、前記第1送信情報に含まれる前記画像セットを少なくとも含む第2送信情報を、通信回線を通じて所定の読影端末又は所定の読影装置に送信する送信部とを含む。前記情報処理装置は、前記所定の読影端末又は前記所定の読影装置により生成された情報を前記受信部により受信し、受信された前記情報を前記第1送信情報に関連付けて前記記憶部に記憶する。
【0014】
幾つかの例示的な態様は、プロセッサと、被検眼の前眼部をスリット光でスキャンして画像群を収集するスキャン部とを含むスリットランプ顕微鏡を制御する方法である。この制御方法は、前記前眼部に2回以上のスキャンを適用するための前記スキャン部の制御を前記プロセッサに実行させる。更に、この制御方法は、前記2回以上のスキャンに対応して前記スキャン部により収集された2以上の画像群から、スキャン範囲に対応する一連の画像を選択して画像セットを作成する処理を、前記プロセッサに実行させる。
【0015】
幾つかの例示的な態様は、この制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。幾つかの例示的な態様は、このプログラムが記録された、コンピュータ可読な非一時的記録媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【0017】
図2A】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の動作を説明するための概略図である。
【0018】
図2B】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の動作を説明するための概略図である。
【0019】
図3】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の動作を説明するための概略図である。
【0020】
図4A】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【0021】
図4B】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【0022】
図4C】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【0023】
図5】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の動作を表すフローチャートである。
【0024】
図6】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【0025】
図7A】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の動作を表すフローチャートである。
【0026】
図7B】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の動作を表すフローチャートである。
【0027】
図8A】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の動作を説明するための概略図である。
【0028】
図8B】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の動作を説明するための概略図である。
【0029】
図8C】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の動作を説明するための概略図である。
【0030】
図9】例示的な態様に係る眼科システムの構成を表す概略図である。
【0031】
図10】例示的な態様に係る眼科システムの構成を表す概略図である。
【0032】
図11】例示的な態様に係る眼科システムの構成を表す概略図である。
【0033】
図12】例示的な態様に係る眼科システムの構成を表す概略図である。
【0034】
図13】例示的な態様に係る眼科システムの構成を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
幾つかの例示的な態様について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本明細書にて引用した文献に開示された事項などの任意の公知技術を例示的な態様に組み合わせることができる。
【0036】
例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡は、設置型でも可搬型でもよい。例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡は、典型的には、同装置に関する専門技術保持者(熟練者)が側にいない状況や環境で使用される。なお、例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡は、熟練者が側にいる状況や環境で使用されてもよいし、熟練者が遠隔地から監視、指示、操作することが可能な状況や環境で使用されてもよい。
【0037】
スリットランプ顕微鏡が設置される施設の例として、眼鏡店、オプトメトリスト、医療機関、健康診断会場、検診会場、患者の自宅、福祉施設、公共施設、検診車などがある。
【0038】
例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡は、少なくともスリットランプ顕微鏡としての機能を有する眼科撮影装置であり、他の撮影機能(モダリティ)を更に備えていてもよい。他のモダリティの例として、前眼部カメラ、眼底カメラ、SLO、OCTなどがある。例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡は、被検眼の特性を測定する機能を更に備えていてもよい。測定機能の例として、視力測定、屈折測定、眼圧測定、角膜内皮細胞測定、収差測定、視野測定などがある。例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡は、撮影画像や測定データを解析するためのアプリケーションを更に備えていてもよい。例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡は、治療や手術のための機能を更に備えていてもよい。その例として光凝固治療や光線力学的療法がある。
【0039】
例示的な態様に係る眼科システム(第1の眼科システム)は、1以上のスリットランプ顕微鏡と、1以上の情報処理装置と、1以上の読影端末とを含んでいてよく、例えば遠隔医療のために使用可能である。スリットランプ顕微鏡は、いずれかの例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡であってもよいし、その少なくとも一部を具備したスリットランプ顕微鏡であってもよい。
【0040】
情報処理装置は、スリットランプ顕微鏡により取得された画像を受けてこれを読影端末に送信する。また、情報処理装置は、スリットランプ顕微鏡により取得された画像を管理する機能を有していてよい。
【0041】
読影端末は、医師(典型的には、眼科医又は読影医等の専門医)が、スリットランプ顕微鏡により取得された画像の読影(画像を観察して診療上の所見を得ること)を行うために使用されるコンピュータである。読影者が読影端末に入力した情報は、例えば、読影端末又は他のコンピュータにより読影レポート又は電子カルテ情報に変換されて情報処理装置に送信されてよい。他の例において、読影者が読影端末に入力した情報を情報処理装置に送信することができる。この場合、情報処理装置又は他のコンピュータは、読影者が入力した情報を読影レポート又は電子カルテ情報に変換することができる。情報処理装置は、読影レポート又は電子カルテ情報を自身で管理してもよいし、他の医療システム(例えば電子カルテシステム)に転送してもよい。
【0042】
他の例示的な態様に係る眼科システム(第2の眼科システム)は、1以上のスリットランプ顕微鏡と、1以上の情報処理装置と、1以上の読影装置とを含んでいてよい。スリットランプ顕微鏡及び情報処理装置の少なくとも一方は、第1の眼科システムのそれと同様であってよい。
【0043】
読影装置は、例えば画像処理プロセッサ又は人工知能エンジンを利用して、スリットランプ顕微鏡により取得された画像の読影を行うコンピュータである。読影装置が画像から導出した情報は、例えば、読影装置又は他のコンピュータにより読影レポート又は電子カルテ情報に変換されて情報処理装置に送信されてよい。他の例において、読影装置が画像から導出した情報を情報処理装置に送信することができる。この場合、情報処理装置又は他のコンピュータは、読影装置が画像から導出した情報を読影レポート又は電子カルテ情報に変換することができる。情報処理装置は、読影レポート又は電子カルテ情報を自身で管理してもよいし、他の医療システムに転送してもよい。
【0044】
このように例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡及び眼科システムは遠隔医療に使用可能であるが、前述のようにスリットランプ顕微鏡で良好な画像を得ることは容易ではなく、また、読影や診断を有効に行うには前眼部の広い範囲の画像を「予め」取得する必要がある。このような事情から、スリットランプ顕微鏡を用いた有効な遠隔医療は実現されていないと言える。その実現に寄与する技術を例示的な態様は提供する。なお、他の用途に例示的な態様を応用することも可能である。
【0045】
例示的な態様は、次のような問題に特に着目したものである。すなわち、例示的な態様が想定する利用形態(遠隔医療等)では、スリットランプ顕微鏡で前眼部の広域をスキャンして得られた一連の画像(画像セット)を直接的又は間接的に読影者に提供するため、低品質の画像セットが提供された場合でも再撮影を行うことができず、読影を全く行えない、又は不十分な読影しか行えない、といった問題が生じる。したがって、「良好な」品質の画像を「予め」取得する必要がある。つまり、診断(読影等)を有効に行うことが可能な品質を持った画像セットを、読影者に提供する前にまとめて取得する必要がある。しかし、スリットランプ顕微鏡の操作の難しさに加えて、撮影時の瞬きや眼球運動の発生を考慮すると、観察や読影の対象領域全体を良好な画質で表現した画像セットを得ることは極めて困難である。
【0046】
例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡は、前眼部の広い範囲を良好な画質で表現した画像セットを取得するために利用可能である。また、例示的な態様に係る眼科システムは、このようなスリットランプ顕微鏡を用いた遠隔医療において利用可能である。
【0047】
以下、幾つかの例示的な態様について説明する。これら態様のうちのいずれか2つ又はそれ以上を少なくとも部分的に組み合わせることが可能である。また、このような組み合わせに対して任意の公知技術に基づく変形(付加、置換、省略等)を施すことが可能である。
【0048】
以下に例示する態様において、「プロセッサ」は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array))等の回路(circuit)や回路構成(circuitry)を含む。例えば、プロセッサは、記憶回路や記憶装置に格納されているプログラムやデータを読み出し実行することで、その態様に係る機能を実現する。或いは、プロセッサは、人工知能やコグニティブ・コンピューティングにおいて用いられる回路を含んでいてよく、典型的には機械学習が適用されたコンピュータシステムを含む。
【0049】
<第1の態様>
第1の態様に係るスリットランプ顕微鏡の例を図1に示す。
【0050】
スリットランプ顕微鏡1は、被検眼Eの前眼部撮影に用いられ、照明系2と、撮影系3と、移動機構6と、制御部7と、データ処理部8と、通信部9とを含む。なお、符号Cは角膜を示し、符号CLは水晶体を示す。
【0051】
スリットランプ顕微鏡1は、単一の装置であってもよいし、2以上の装置を含むシステムであってもよい。後者の例として、スリットランプ顕微鏡1は、照明系2、撮影系3、及び移動機構6を含む本体装置と、制御部7、データ処理部8、及び通信部9を含むコンピュータと、本体装置とコンピュータとの間の通信を担う通信デバイスとを含む。コンピュータは、例えば、本体装置とともに設置されてもよいし、ネットワーク上に設置されていてもよい。
【0052】
<照明系2>
照明系2は、被検眼Eの前眼部にスリット光を照射する。符号2aは、照明系2の光軸(照明光軸)を示す。照明系2は、従来のスリットランプ顕微鏡の照明系と同様の構成を備えていてよい。例えば、図示は省略するが、照明系2は、被検眼Eから遠い側から順に、照明光源と、正レンズと、スリット形成部と、対物レンズとを含む。
【0053】
照明光源は照明光を出力する。照明系2は複数の照明光源を備えていてよい。例えば、照明系2は、連続光を出力する照明光源と、フラッシュ光を出力する照明光源とを含んでいてよい。また、照明系2は、前眼部用照明光源と後眼部用照明光源とを含んでいてよい。また、照明系2は、出力波長が異なる2以上の照明光源を含んでいてよい。典型的な照明系2は、照明光源として可視光源を含む。照明系2は、赤外光源を含んでいてもよい。照明光源から出力された照明光は、正レンズを通過してスリット形成部に投射される。
【0054】
スリット形成部は、照明光の一部を通過させてスリット光を生成する。典型的なスリット形成部は、一対のスリット刃を有する。これらスリット刃の間隔(スリット幅)を変更することで照明光が通過する領域(スリット)の幅を変更し、これによりスリット光の幅が変更される。また、スリット形成部は、スリット光の長さを変更可能に構成されてもよい。スリット光の長さとは、スリット幅に対応するスリット光の断面幅方向に直交する方向におけるスリット光の断面寸法である。スリット光の幅やスリット光の長さは、典型的には、スリット光の前眼部への投影像の寸法として表現されるが、これには限定されず、例えば、任意の位置におけるスリット光の断面における寸法として表現することや、スリット形成部により形成されるスリットの寸法として表現することも可能である。
【0055】
スリット形成部により生成されたスリット光は、対物レンズにより屈折されて被検眼Eの前眼部に照射される。
【0056】
照明系2は、スリット光のフォーカス位置を変更するための合焦機構を更に含んでいてもよい。合焦機構は、例えば、対物レンズを照明光軸2aに沿って移動させる。対物レンズの移動は、自動及び/又は手動で実行可能である。なお、対物レンズとスリット形成部との間の照明光軸2a上の位置に合焦レンズを配置し、この合焦レンズを照明光軸2aに沿って移動させることによってスリット光のフォーカス位置を変更可能としてもよい。
【0057】
なお、図1は上面図であり、同図に示すように、本態様では、被検眼Eの軸に沿う方向をZ方向とし、これに直交する方向のうち被検者にとって左右の方向をX方向とし、X方向及びZ方向の双方に直交する方向をY方向とする。典型的には、X方向は左眼と右眼との配列方向であり、Y方向は被検者の体軸に沿う方向(体軸方向)である。
【0058】
<撮影系3>
撮影系3は、照明系2からのスリット光が照射されている前眼部を撮影する。符号3aは、撮影系3の光軸(撮影光軸)を示す。本態様の撮影系3は、光学系4と、撮像素子5とを含む。
【0059】
光学系4は、スリット光が照射されている被検眼Eの前眼部からの光を撮像素子5に導く。撮像素子5は、光学系4により導かれた光を撮像面にて受光する。
【0060】
光学系4により導かれる光(つまり、被検眼Eの前眼部からの光)は、前眼部に照射されているスリット光の戻り光を含み、他の光を更に含んでいてよい。戻り光の例として、反射光、散乱光、蛍光がある。他の光の例として、スリットランプ顕微鏡1の設置環境からの光(室内光、太陽光など)がある。前眼部全体を照明するための前眼部照明系が照明系2とは別に設けられている場合、この前眼部照明光の戻り光が、光学系4により導かれる光に含まれてもよい。
【0061】
撮像素子5は、2次元の撮像エリアを有するエリアセンサであり、例えば、電荷結合素子(CCD)イメージセンサや相補型金属酸化膜半導体(CMOS)イメージセンサであってよい。
【0062】
光学系4は、例えば、従来のスリットランプ顕微鏡の撮影系と同様の構成を備えていてよい。例えば、光学系4は、被検眼Eに近い側から順に、対物レンズと、変倍光学系と、結像レンズとを含む。スリット光が照射されている被検眼Eの前眼部からの光は、対物レンズ及び変倍光学系を通過し、結像レンズにより撮像素子5の撮像面に結像される。
【0063】
撮影系3は、例えば、第1撮影系と第2撮影系とを含んでいてよい。典型的には、第1撮影系と第2撮影系とは同じ構成を有する。撮影系3が第1撮影系と第2撮影系とを含む場合については他の態様において説明する。
【0064】
撮影系3は、そのフォーカス位置を変更するための合焦機構を更に含んでいてもよい。合焦機構は、例えば、対物レンズを撮影光軸3aに沿って移動させる。対物レンズの移動は、自動及び/又は手動で実行可能である。なお、対物レンズと結像レンズとの間の撮影光軸3a上の位置に合焦レンズを配置し、この合焦レンズを撮影光軸3aに沿って移動させることによってフォーカス位置を変更可能としてもよい。
【0065】
照明系2及び撮影系3は、シャインプルーフカメラとして機能する。すなわち、照明光軸2aに沿う物面と、光学系4と、撮像素子5の撮像面とが、いわゆるシャインプルーフの条件を満足するように、照明系2及び撮影系3が構成される。より具体的には、照明光軸2aを通るYZ面(物面を含む)と、光学系4の主面と、撮像素子5の撮像面とが、同一の直線上にて交差する。これにより、物面内の全ての位置(照明光軸2aに沿う方向における全ての位置)にピントを合わせて撮影を行うことができる。
【0066】
本態様では、例えば、少なくとも角膜Cの前面と水晶体CLの後面とによって画成される範囲に撮影系3のピントが合うように、照明系2及び撮影系3が構成される。つまり、図1に示す角膜Cの前面の頂点(Z=Z1)から水晶体CLの後面の頂点(Z=Z2)までの範囲全体に撮影系3のピントが合っている状態で、撮影を行うことが可能である。なお、Z=Z0は、照明光軸2aと撮影光軸3aとの交点のZ座標を示す。
【0067】
このような条件は、典型的には、照明系2に含まれる要素の構成及び配置、撮影系3に含まれる要素の構成及び配置、並びに、照明系2と撮影系3との相対位置によって実現される。照明系2と撮影系3との相対位置を示すパラメータは、例えば、照明光軸2aと撮影光軸3aとがなす角度θを含む。角度θは、例えば、17.5度、30度、又は45度に設定される。なお、角度θは可変であってもよい。
【0068】
<移動機構6>
移動機構6は、照明系2及び撮影系3を移動する。移動機構6は、例えば、照明系2及び撮影系3が搭載された可動ステージと、制御部7から入力される制御信号にしたがって動作するアクチュエータと、このアクチュエータにより発生された駆動力に基づき可動ステージを移動する機構とを含む。他の例において、移動機構6は、照明系2及び撮影系3が搭載された可動ステージと、図示しない操作デバイスに印加された力に基づき可動ステージを移動する機構とを含む。操作デバイスは、例えばレバーである。可動ステージは、少なくともX方向に移動可能であり、更にY方向及び/又はZ方向に移動可能であってよい。
【0069】
本態様において、移動機構6は、例えば、照明系2及び撮影系3を一体的にX方向に移動する。つまり、移動機構6は、上記したシャインプルーフの条件が満足された状態を保持しつつ照明系2及び撮影系3をX方向に移動する。この移動と並行して、撮影系3は、例えば所定の時間間隔(撮影レート)で動画撮影を行う。これにより、被検眼Eの前眼部の3次元領域がスリット光でスキャンされ、この3次元領域内の複数の断面に対応する複数の画像(画像群)が収集される。
【0070】
<制御部7>
制御部7は、スリットランプ顕微鏡1の各部を制御する。例えば、制御部7は、照明系2の要素(照明光源、スリット形成部、合焦機構など)、撮影系3の要素(合焦機構、撮像素子など)、移動機構6、データ処理部8、通信部9などを制御する。また、制御部7は、照明系2と撮影系3との相対位置を変更するための制御を実行可能であってもよい。
【0071】
制御部7は、プロセッサ、主記憶装置、補助記憶装置などを含む。補助記憶装置には、制御プログラム等が記憶されている。制御プログラム等は、スリットランプ顕微鏡1がアクセス可能なコンピュータや記憶装置に記憶されていてもよい。制御部7の機能は、制御プログラム等のソフトウェアと、プロセッサ等のハードウェアとの協働によって実現される。
【0072】
制御部7は、被検眼Eの前眼部の3次元領域をスリット光でスキャンするために、照明系2、撮影系3及び移動機構6に対して次のような制御を適用することができる。
【0073】
まず、制御部7は、照明系2及び撮影系3を所定のスキャン開始位置に配置するように移動機構6を制御する(アライメント制御)。スキャン開始位置は、例えば、X方向における角膜Cの端部(第1端部)に相当する位置、又は、それよりも被検眼Eの軸から離れた位置である。図2Aの符号X0は、X方向における角膜Cの第1端部に相当するスキャン開始位置の例を示している。また、図2Bの符号X0’は、X方向における角膜Cの第1端部に相当する位置よりも被検眼Eの軸EAから離れたスキャン開始位置の例を示している。
【0074】
制御部7は、照明系2を制御して、被検眼Eの前眼部に対するスリット光の照射を開始させる(スリット光照射制御)。なお、アライメント制御の実行前に、又は、アライメント制御の実行中に、スリット光照射制御を行ってもよい。スリット光は、典型的には連続光であるが、断続光(パルス光)であってもよい。パルス光の点灯制御は、撮影系3の撮影レートに同期される。また、スリット光は、典型的には可視光であるが、赤外光であってもよいし、可視光と赤外光との混合光であってもよい。
【0075】
制御部7は、撮影系3を制御して、被検眼Eの前眼部の動画撮影を開始させる(撮影制御)。なお、アライメント制御の実行前に、又は、アライメント制御の実行中に、撮影制御を行ってもよい。典型的には、スリット光照射制御と同時に、又は、スリット光照射制御よりも後に、撮影制御が実行される。
【0076】
アライメント制御、スリット光照射制御、及び撮影制御の実行後、制御部7は、移動機構6を制御して、照明系2及び撮影系3の移動を開始する(移動制御)。移動制御により、照明系2及び撮影系3が一体的に移動される。つまり、照明系2と撮影系3との相対位置(角度θなど)を維持しつつ照明系2及び撮影系3が移動される。典型的には、前述したシャインプルーフの条件が満足された状態を維持しつつ照明系2及び撮影系3が移動される。照明系2及び撮影系3の移動は、前述したスキャン開始位置から所定のスキャン終了位置まで行われる。スキャン終了位置は、例えば、スキャン開始位置と同様に、X方向において第1端部の反対側の角膜Cの端部(第2端部)に相当する位置、又は、それよりも被検眼Eの軸から離れた位置である。このような場合、スキャン開始位置からスキャン終了位置までの範囲がスキャン範囲となる。
【0077】
典型的には、X方向を幅方向とし且つY方向を長手方向とするスリット光を前眼部に照射しつつ、且つ、照明系2及び撮影系3をX方向に移動しつつ、撮影系3による動画撮影が実行される。
【0078】
ここで、スリット光の長さ(つまり、Y方向におけるスリット光の寸法)は、例えば、被検眼Eの表面において角膜Cの径以上に設定される。すなわち、スリット光の長さは、Y方向における角膜径以上に設定されている。また、前述のように、移動機構6による照明系2及び撮影系3の移動距離(つまり、スキャン範囲)は、X方向における角膜径以上に設定されている。これにより、少なくとも角膜C全体をスリット光でスキャンすることができる。
【0079】
このようなスキャンにより、スリット光の照射位置が異なる複数の前眼部画像が得られる。換言すると、スリット光の照射位置がX方向に移動する様が描写された動画像が得られる。このような複数の前眼部画像(つまり、動画像を構成するフレーム群)の例を図3に示す。
【0080】
図3は、複数の前眼部画像(フレーム群、画像群)F1、F2、F3、・・・、FNを示す。これら前眼部画像Fn(n=1、2、・・・、N)の添字nは、時系列順序を表している。つまり、第n番目に取得された前眼部画像が符号Fnで表される。前眼部画像Fnには、スリット光照射領域Anが含まれている。図3に示すように、スリット光照射領域A1、A2、A3、・・・、ANは、時系列に沿って右方向に移動している。図3に示す例では、スキャン開始位置及びスキャン終了位置は、X方向における角膜Cの両端に対応する。なお、スキャン開始位置及び/又はスキャン終了位置は本例に限定されず、例えば、角膜端部よりも被検眼Eの軸から離れた位置であってよい。また、スキャンの向きや回数についても任意に設定することが可能である。
【0081】
<データ処理部8>
データ処理部8は、各種のデータ処理を実行する。処理されるデータは、スリットランプ顕微鏡1により取得されたデータ、及び、外部から入力されたデータのいずれでもよい。例えば、データ処理部8は、撮影系3によって取得された画像を処理することができる。なお、データ処理部8の構成や機能については、本態様での説明に加え、他の態様においても説明する。
【0082】
データ処理部8は、プロセッサ、主記憶装置、補助記憶装置などを含む。補助記憶装置には、データ処理プログラム等が記憶されている。データ処理プログラム等は、スリットランプ顕微鏡1がアクセス可能なコンピュータや記憶装置に記憶されていてもよい。データ処理部8の機能は、データ処理プログラム等のソフトウェアと、プロセッサ等のハードウェアとの協働によって実現される。
【0083】
データ処理部8の幾つかの例を説明する。図4A図4B及び図4Cは、それぞれ、データ処理部8の第1、第2、及び第3の例であるデータ処理部8A、8B及び8Cを示す。なお、データ処理部8の構成はこれらに限定されない。例えば、データ処理部8は、データ処理部8A、8B及び8Cのいずれか2つを組み合わせを含んでいてよい。また、同じ結果又は類似の結果を得るための任意の要素をデータ処理部8に設けることが可能である。
【0084】
本態様のスリットランプ顕微鏡1は、被検眼Eの前眼部に2回以上のスキャンを適用する。2回以上のスキャンの開始位置及び終了位置(つまりスキャン範囲)は同じでもよいし、開始位置及び終了位置の一方又は双方が異なってもよい。典型的には、2回以上のスキャンは、同じスキャン範囲に対して適用される。それにより、図3に示す複数の前眼部画像F1~FNのような画像群が、スキャン回数と同じ個数だけ取得される。データ処理部8は、このようにして取得された2以上の画像群に処理を施す。
【0085】
なお、被検眼Eの眼球運動などを考慮すると、典型的には、スキャン範囲は、前眼部における位置や範囲ではなく、スリットランプ顕微鏡1の動作によって定義される。例えば、スキャンにおける照明系2及び撮影系3の移動の始点がスキャン開始位置とされ、終点がスキャン終了位置とされる。
【0086】
一方、前眼部における位置や範囲によってスキャン範囲を定義することも可能である。この場合、被検眼Eの動きに追従するように照明系2及び撮影系3を移動させる動作(トラッキング)が適用される。本例のスリットランプ顕微鏡1は、例えば従来と同様のトラッキング機能を備える。トラッキング機能は、例えば、前眼部の動画撮影と、各フレームからのランドマークの抽出と、ランドマークを用いたフレーム間の変位の算出と、変位を打ち消すための照明系2及び撮影系3の移動制御とを含む。
【0087】
スキャン範囲の定義(設定)に関する他の例として、既に収集された画像に対してスキャン範囲を設定することが可能である。すなわち、スキャン範囲の設定を事後的に(スキャン後に)行うように構成することができる。なお、本例におけるスキャン範囲は、後の処理に提供される画像の範囲を表すものである。
【0088】
このような事後的なスキャン範囲設定の第1の例を説明する。本例のスリットランプ顕微鏡は、前眼部撮影が可能であり、且つ、前眼部撮影用光学系とスキャン光学系(照明系2及び撮影系3)との位置関係を認識可能であるとする。本例では、まず、前眼部の十分広い範囲(特にX方向及びY方向)をスキャンして画像群(広域画像群)を収集しつつ、前眼部撮影を実行する。次に、前眼部撮影で得られた前眼部画像に対してスキャン範囲が設定される。この設定は手動及び自動のいずれで行われてもよい。自動設定は、例えば、前眼部画像を解析してランドマーク(例えば、瞳孔縁)を検出する処理と、このランドマークを参照してスキャン範囲を設定する処理とを含む。スキャン範囲が設定されると、上記した光学系の位置関係に基づいて、このスキャン範囲に相当する各広域画像の部分領域が特定される。最後に、この特定された部分領域を広域画像からクロッピングすることによって、当該スキャン範囲に相当する画像が形成される。これにより、設定されたスキャン範囲に対応する画像群が得られる。本例において、被検眼の固視が安定している場合(又は、そのように仮定する場合若しくは仮定できる場合)などには、前眼部撮影は静止画撮影であってよい。前眼部撮影が動画撮影である場合には、例えばスキャンと動画撮影との制御(同期情報など)に基づいて広域画像群と動画像中のフレーム群とが対応付けられ、対応付けられた広域画像とフレームとのペア毎に上記と同様の処理が実行される。
【0089】
事後的なスキャン範囲設定の第2の例を説明する。本例では、前眼部撮影を並行的に行わなくてもよく、前眼部の十分広い範囲(特にX方向及びY方向)をスキャンして広域画像群が収集される。次に、各広域画像に対して、所望のスキャン範囲に相当する部分領域が指定される。この指定は手動及び自動のいずれで行われてもよい。自動指定は、例えば、広域画像を解析してランドマーク(例えば、角膜縁又は隅角)を検出する処理と、このランドマークを参照してスキャン範囲を設定する処理とを含む。また、いずれかの広域画像(基準広域画像)に対して手動でランドマークを指定し、この基準広域画像とそれに隣接する広域画像とを解析して当該隣接広域画像にランドマークを指定してもよい。このような処理を順次に適用することで全ての広域画像に対してランドマークを指定することができる。更に、ランドマークに基づいてスキャン範囲に相当する広域画像の部分領域を特定し、この特定された部分領域を広域画像からクロッピングすることによって当該スキャン範囲に相当する画像を形成することができる。これにより、設定されたスキャン範囲に対応する画像群が得られる。
【0090】
図4Aに示すデータ処理部8Aは、画像セット作成部81を含む。画像セット作成部81には、被検眼Eの前眼部に適用された2回以上のスキャンで収集された2以上の画像群が提供される。画像セット作成部81は、入力された2以上の画像群から、スキャン範囲に対応する一連の画像を選択して画像セットを作成する。
【0091】
画像セットに含まれる当該一連の画像は、例えば、2以上のスキャンのいずれかのスキャンが適用された(前眼部の)範囲であってもよいし、2以上のスキャンのうちの少なくとも2つにおけるスキャン範囲に基づき設定される(前眼部の)範囲であってもよい。前者の例として、2以上のスキャンにおいて最大のスキャン範囲又は最小のスキャン範囲を採用することができる。後者の例として、少なくとも2つのスキャン範囲の和集合又は積集合を採用することができる。
【0092】
また、画像セットは、当該一連の画像のみを含んでいてもよいし、それ以外の情報を更に含んでいてもよい。一連の画像とともに画像セットに含まれる情報の例として、被検者情報、被検眼情報、撮影日時、撮影条件など、各種の付帯情報がある。また、他のモダリティで得られた画像や、検査装置により取得された検査データを、画像セットに含めることも可能である。
【0093】
図4Bは、画像セット作成部81の例を示す。本例の画像セット作成部81は、選択部81Aを含む。選択部81Aは、2以上の画像群のうちから所定の条件を満足する画像を選択する。
【0094】
所定の条件(画像選択条件)は、例えば、読影や診断を有効に行うために必要とされる画像品質に関する条件であり、例えば、被検眼Eに関する条件、スリットランプ顕微鏡1に関する条件、環境に関する条件などがある。本態様は、画像選択条件として、「評価対象の画像が、瞬きの影響を受けていないこと(瞬き条件)」及び「評価対象の画像が、眼球運動の影響を受けていないこと(眼球運動条件)」のいずれか一方及び双方を採用することができる。なお、画像選択条件はこれらに限定されず、任意に設定可能である。
【0095】
瞬き条件について説明する。2以上の画像群に含まれる画像について、選択部81Aは、例えば、被検眼Eの前眼部に照射されたスリット光の反射像が当該画像に含まれているか判定する。この判定は、瞬き中に撮影された画像にはスリット光の反射像が描出されないこと、及び、スリット光の反射像は他領域よりも顕著に明るく表現されることを利用した処理であり、例えば、当該画像における輝度分布に基づき実行される。
【0096】
一例として、選択部81Aは、当該画像から輝度ヒストグラムを作成し、所定閾値以上の輝度の画素が存在するか判断する。所定閾値以上の輝度が存在すると判定された場合、スリット光の反射像が当該画像に含まれていると判定される。本例は、処理が極めて簡便であるという利点を有するが、高輝度のノイズや外光の映り込みを誤検出するおそれがある。
【0097】
他の例として、選択部81Aは、当該画像から輝度ヒストグラムを作成し、所定閾値以上の輝度の画素が所定個数以上存在するか判定する。所定閾値以上の輝度の画素が所定個数以上存在するか判定すると判定された場合、スリット光の反射像が当該画像に含まれていると判定される。本例は、簡便な処理によって上記誤検出の防止を図ることができるという利点を有する。
【0098】
眼球運動条件について説明する。2以上の画像群に含まれる画像について、選択部81Aは、例えば、当該画像とこれに隣接する画像との比較によって眼球運動の影響の有無を判定する。この判定は、動画撮影中に眼球運動が発生すると「画像の飛び」が生じることを利用した処理である。
【0099】
一例として、選択部81Aは、当該画像及び隣接画像のそれぞれからランドマークを検出し、これらランドマークの変位量を算出し、この変位量が所定閾値以上であるか判断する。変位量が所定閾値以上であると判定された場合、眼球運動が発生したと判定される。ここで、ランドマークは、例えば、角膜、虹彩、瞳孔、隅角などであってよい。また、閾値は、例えば、撮影系3の撮影レートや、移動機構6による移動速度など、所定のスキャン条件に基づき算出される。
【0100】
他の例において、選択部81Aは、1つの画像から眼球運動の有無を判定するように構成されてもよい。例えば、撮影系3の撮影レートが低速である場合において、高速な眼球運動が発生すると、画像に「ブレ」が生じることがある。選択部81Aは、ブレ検出を利用することによって眼球運動の有無を判定することができる。ブレ検出は、典型的には、エッジ検出などの公知技術を用いて行われる。
【0101】
選択部81Aは、入力された画像が上記の画像選択条件を満足するか判定するための人工知能エンジンを含んでいてよい。この人工知能エンジンは、典型的には、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を含み、この畳み込みニューラルネットワークは、スリットランプ顕微鏡により取得された多数の画像と、各画像が画像選択条件を満足するか否かの判定結果とを含む訓練データを用いて、事前に訓練される。なお、回帰型ニューラルネットワーク、強化学習など、他の機械学習法を用いてもよい。
【0102】
画像セット作成部81により作成される画像セットに含まれる一連の画像は、スキャン範囲における複数の位置に関連付けられていてよい。更に、選択部81Aは、スキャン範囲における複数の位置のそれぞれに1以上の画像を割り当てるように画像の選択を行うように構成されてよい。
【0103】
具体例を説明する。X方向に沿ったスキャン範囲が(N-1)個の区間に区分され、スキャン開始位置が第1番目の位置に設定され、スキャン終了位置が第N番目の位置に設定される(Nは2以上の整数)。これにより、スキャン範囲にN個の位置が設定される。N個の位置をB1、B2、B3、・・・、BNで表す。被検眼Eの前眼部にスキャンが適用され、図3に示す画像群F1、F2、F3、・・・、FNが取得されたとする。選択部81Aは、位置Bnに画像Fnを割り当てることができる。これにより、N個の位置Bn(n=1、2、・・・、N)に対応するN個の画像Fn(n=1、2、・・・、N)が得られ、例えば、画像群Fnを「一連の画像」とする画像セットが作成される。
【0104】
なお、N個の画像F1~FNは、図3においては、1回のスキャンで得られた画像群として説明されているが、本明細書において任意の画像群(複数の画像)としてこれを参照することがある(以下同様)。例えば、ここでは、画像セットに含まれる一連の画像としてN個の画像F1~FNが参照されている。
【0105】
スリットランプ顕微鏡1は、前眼部に2回以上のスキャンを適用する動作と、それにより収集された2以上の画像群から一連の画像を選択する動作とを実行するが、これら動作の実行態様は任意であってよい。第1の例として、スリットランプ顕微鏡1は、前眼部に対するスキャンと、このスキャンにより取得された画像群からの画像の選択とを、交互に繰り返すように構成されてよい。第2の例として、スリットランプ顕微鏡1は、2回以上のスキャンをまとめて行った後に、それにより収集された2以上の画像群から一連の画像を選択するように構成されてよい。以下、これら2つの例について説明する。
【0106】
スキャン及び画像選択の実行態様の第1の例は、スキャンと画像選択との交互的な反復である。より具体的には、第1の例では、前眼部へのスキャンの適用と、このスキャンで得られた画像群からの画像の選択との組が、所定回数繰り返し実行される。つまり、第1の例では、第1番目の組の動作(スキャン及び画像選択)、第2番目の組の動作(スキャン及び画像選択)、・・・、第U番目の組の動作(スキャン及び画像選択)の順に、U個の組の動作が実行される(Uは2以上の整数)。
【0107】
ここで、第u番目の組におけるスキャンの回数は、1以上の任意の回数であってよい(u=1、2、・・・、U)。また、第u番目の組におけるスキャンの回数と、第u番目の組におけるスキャンの回数とは、等しくてもよいし、異なってもよい(u=1、2、・・・、U;u=1、2、・・・、U;u≠u)。
【0108】
第1の例において、選択部81Aは、既に行われた1回以上のスキャンで収集された1つ以上の画像群から画像を選択して暫定的画像セットを作成するように構成されてよい。つまり、スリットランプ顕微鏡1は、スキャンと画像選択との交互的な反復を実行中の任意の時点において、当該時点までに実施された1回以上のスキャンで得られた1以上の画像群から暫定的画像セットを作成するように構成されてよい。例えば、第u番目の組におけるスキャンが行われた後、選択部81Aは、第1番目の組から第u番目の組で得られた全ての画像のうちから暫定的画像セットを作成するように構成される。このような構成によれば、最終的な画像セットを構築するために、現時点までに得られた画像群から暫定的な画像セットを作成することができる。
【0109】
暫定的画像セットを作成する上記構成が適用される場合、次の構成を組み合わせることができる。被検眼Eの前眼部に新たなスキャンが適用されたとき、選択部81Aは、まず、この新たなスキャンで収集された新たな画像群から画像を選択する。続いて、選択部81Aは、この新たなスキャンよりも前に行われた1以上のスキャンに基づく暫定的画像セットに、この新たな画像群から選択された画像を付加することで新たな暫定的画像セットを作成する。例えば、第(u+1)番目の組におけるスキャンが行われた後、選択部81Aは、まず、第(u+1)番目の組で得られた画像群から画像を選択することができる。更に、選択部81Aは、第1番目の組から第u番目の組で得られた画像群に基づく暫定的画像セットに、第(u+1)番目の組で得られた画像群から選択された画像を付加することによって、新たな暫定的画像セットを作成することができる。このような構成によれば、前眼部にスキャンが適用される度に、このスキャンで得られた画像群に基づいて暫定的画像セットを逐次に更新することができる。これにより、最終的な画像セットの構築を確実且つ効率的に行うことが可能となる。
【0110】
暫定的画像セットを作成(及び更新)する上記構成が適用される場合、次の構成を組み合わせることができる。制御部7(又は画像セット作成部81(選択部81A))は、暫定的画像セットに含まれる画像の個数をカウントする画像個数カウンタを含む。暫定的画像セットに含まれる画像の個数が所定の個数に達したとき、制御部7は、スキャンの適用と画像の選択との交互反復を終了するようにスキャン部(照明系2、撮影系3、移動機構6)及び選択部81Aを制御する。ここで、所定の個数は、最終的な画像セットに含まれる一連の画像の個数であり、事前に又は処理状況から設定される。また、暫定的画像セットに含まれる画像の個数が所定の個数に達したか否かの判定は、制御部7により実行される。この判定は、個数の比較のみであってよい。或いは、スキャン範囲における複数の位置と一連の画像とが関連付けられている場合(前述)、複数の位置の全てについて対応画像が割り当てられたか否か判定してもよい。このような構成によれば、最終的な画像セットのために必要な個数が得られたら、スキャンと画像選択との交互反復を自動で終了することができる。
【0111】
暫定的画像セットを作成(及び更新)する上記構成が適用される場合、次の構成を更に組み合わせることができる。制御部7は、スキャンと画像選択との交互反復の回数をカウントする反復回数カウンタを含む。カウントされる回数は、スキャンと画像選択との組(第1番目の組~第U番目の組)を単位として定義してもよいし、スキャン回数を単位として定義してもよい。反復回数が所定の回数に達したとき、制御部7は、スキャンの適用と画像の選択との交互反復を終了するようにスキャン部(照明系2、撮影系3、移動機構6)及び選択部81Aを制御する。スキャンと画像選択との組を単位として反復回数が定義される場合、所定の回数は、事前に設定された組の総数(U)に等しい。スキャン回数を単位として反復回数が定義される場合、所定の回数は、事前に設定された総スキャン回数に等しい。また、反復回数が所定の回数に達したか否かの判定は、制御部7により実行される。このような構成によれば、事前に設定された回数だけスキャン及び画像選択が繰り返された段階でこれを自動で終了することができる。本構成を用いない場合、最終的な画像セットの構築に必要な個数の画像が選択されるまでスキャン及び画像選択が繰り返されるため、被検者を疲労させるとともに撮影効率が低減する。特に、複数の被検者の撮影を順次に行う場合、撮影のスループットが大きく毀損される。
【0112】
以上のように、本態様は、スキャンと画像選択との交互反復を自動で終了するように構成されてよい。この自動終了の条件は上記の2つに限定されず、例えばユーザーからの指示入力であってもよい。或いは、スキャンと画像選択との交互反復の開始からの経過時間を計測し、所定の時間に達したときに交互反復を終了するようにしてもよい。なお、スキャンと画像選択との反復レートが一定である場合、経過時間に基づく自動終了制御は、上記した反復回数に基づく自動終了制御と同等である。画像セット作成部81は、スキャンと画像選択との交互反復が終了されたときの暫定的画像セットに基づいて画像セットを作成することができる。暫定的画像セットは、例えば、スキャン範囲に対応する一連の画像として画像セットに含まれる。スリットランプ顕微鏡1には、被検者ID、公的ID、氏名、年齢、性別など、所定の被検者情報が別途に入力される。画像セット作成部81は、このような被検者情報、被検眼情報(左眼/右眼を示す情報など)、撮影日時、撮影条件などを、一連の画像の付帯情報として構成することで、画像セットを作成することができる。また、画像セットは、スリットランプ顕微鏡1で得られた他の画像、他のモダリティで得られた画像、検査装置により取得された検査データなどを含んでいてもよい。以上で、スキャン及び画像選択の実行態様の第1の例の説明を終える。なお、本例に係る処理の具体例が後述される。
【0113】
次に、スキャン及び画像選択の実行態様の第2の例について説明する。本例は、被検眼Eの前眼部に対する全てのスキャンをまず実行し、それにより収集された全ての画像群から一連の画像を選択するように構成される。そして、選択された一連の画像を含む画像セットが作成される。
【0114】
このような処理の具体例を説明する。選択部81Aは、まず、各スキャンに対応する画像群と、スキャン範囲における複数の位置(前述)とを対応付ける。これにより、スキャン範囲における複数の位置のそれぞれに対し、異なるスキャンに対応する2以上の画像が割り当てられる。
【0115】
続いて、スキャン範囲における複数の位置のそれぞれについて、選択部81Aは、当該位置に割り当てられた2以上の画像のうちから1つの画像を選択する。本例に適用される画像選択条件は、例えば、前述した瞬き条件及び眼球運動条件であってよい。これにより、スキャン範囲における複数の位置に対して1つずつ画像が割り当てられる。このようにして複数の位置に対応付けられた複数の画像が、画像セットに含まれる一連の画像として採用される。以上で、スキャン及び画像選択の実行態様の第2の例の説明を終える。
【0116】
図4Cに示すデータ処理部8Cについて説明する。データ処理部8Cは、評価部82を含む。評価部82は、画像セット作成部81により作成された画像セットの品質を評価する。この評価は、診断を有効に行うために十分な品質を画像セットが有しているか判定するものであり、この観点から評価項目や評価基準が決定される。
【0117】
画像セットの態様に応じて異なる評価を行ってもよい。例えば、暫定的画像セットに含まれる画像の個数が所定の個数に達したことに対応して作成された画像セットに適用される評価と、スキャン及び画像選択の交互反復の回数が所定の回数に達したことに対応して作成された画像セットに適用される評価とは、互いに異なってよい。なお、画像セットの態様に関わらず同じ評価を適用してもよい。
【0118】
画像セットの品質評価の例として、一連の画像の「配列順序」の評価、「画像の飛び(抜け)」の評価、「位置ずれ」の評価などがある。配列順序の入れ替わり、画像の飛び、位置ずれ等の画像セットの不具合は、眼球運動や固視ずれなどに起因して生じる。
【0119】
一連の画像の配列順序の評価について説明する。幾つかの例において、一連の画像と、スキャン範囲における複数の位置との間には、前述の対応関係(一対一対応)が設定されている。評価部82は、この対応関係を利用して配列順序の評価を行うことができる。
【0120】
ここで、スキャン範囲における複数の位置には、実空間における位置関係に対応した順序付けがなされている。一例を説明する。前述したように、X方向に沿ったスキャン範囲が(N-1)個の区間に区分され、スキャン開始位置からスキャン終了位置に向かって順に、N個の位置B1、B2、B3、・・・、BNが設定されているとする。つまり、N個の位置B1~BNには、実空間における位置関係に対応した順序付けが施されている。また、N個の位置B1~BNに対してN個の画像F1~FN(一連の画像)が一対一の関係で対応付けられているとする。
【0121】
このような前提の下、評価部82は、例えば、N個の位置B1~BNの配列順序(相対位置関係)にしたがってN個の画像F1~FNを配置する。この処理は、例えば、或る3次元座標系内にN個の位置B1~BNの座標を設定し、設定されたN個の座標にしたがってN個の画像F1~FNを配置する(埋め込む)ことにより実現される。
【0122】
評価部82は、3次元座標系に埋め込まれた画像F1~FNを解析することで、配列順序が適切であるか評価することができる。例えば、評価部82は、画像F1~FNから注目領域(角膜前面、角膜後面、虹彩、瞳孔、水晶体前面、水晶体後面などの注目部位に対応する画像領域)を検出し、画像F1~FNの配列方向(本例ではX方向)における注目領域の形態(連結性、連続性など)に基づいて評価を行うことができる。例えば、所定寸法以上のギャップが注目領域に存在する場合、配列順序は適切でない(配列順序に入れ替わりが存在する)と判断される。
【0123】
他の例において、評価部82は、3次元座標系に埋め込まれた画像F1~FNから、X方向に沿った断面像を構築する。更に、評価部82は、この断面像の形態(連結性、連続性など)に基づいて評価を行うことができる。
【0124】
画像の飛びの評価や、位置ずれの評価についても、配列順序の評価と同じ要領で実行することが可能である。
【0125】
評価部82は、入力された画像セットが有効な診断のために十分な品質を有しているか評価するための人工知能エンジンを含んでいてよい。この人工知能エンジンは、典型的には、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を含み、この畳み込みニューラルネットワークは、スリットランプ顕微鏡により取得された多数の画像セットと、各画像セットの品質評価結果とを含む訓練データを用いて、事前に訓練される。なお、回帰型ニューラルネットワーク、強化学習など、他の機械学習法を用いてもよい。
【0126】
画像セットの評価の更なる具体例については、第2の態様において説明する。
【0127】
制御部7は、画像セットの品質が良好であると評価部82により評価された場合に、この画像セットを通信部9に送信させるための制御を行うように構成されてよい。例えば、制御部7は、この画像セットを含む送信用情報を準備し、この送信用情報を所定の外部装置に送信するように通信部9を制御する。
【0128】
スリットランプ顕微鏡1から画像セット等を出力する態様は、送信に限定されない。送信以外の出力態様の例として、記憶装置(データベース等)への保存、記録媒体への記録、印刷媒体への印刷などがある。
【0129】
制御部は、画像セットの品質が良好でないと評価部82により評価された場合に、新たな画像セットを取得するための制御を行うように構成されてよい。例えば、制御部7は、所定の出力情報を表示及び/又は音声出力するように構成されてよい。所定の出力情報は、例えば、撮影に失敗したこと、又は、再撮影の必要があることなど、ユーザーに再撮影を促すための内容を有する。
【0130】
或いは、制御部7は、再撮影(スキャン及び画像セット作成の再度の実行)を自動で開始するために、少なくともスキャン部(照明系2、撮影系3、移動機構6)及び画像セット作成部81に指令を送るように構成されてよい。
【0131】
<通信部9>
通信部9は、スリットランプ顕微鏡1と他の装置との間におけるデータ通信を行う。すなわち、通信部9は、他の装置へのデータの送信と、他の装置から送信されたデータの受信とを行う。
【0132】
通信部9が実行するデータ通信の方式は任意である。例えば、通信部9は、インターネットに準拠した通信インターフェイス、専用線に準拠した通信インターフェイス、LANに準拠した通信インターフェイス、近距離通信に準拠した通信インターフェイスなど、各種の通信インターフェイスのうちの1以上を含む。データ通信は有線通信でも無線通信でもよい。
【0133】
通信部9により送受信されるデータは暗号化されていてよい。その場合、例えば、制御部7及び/又はデータ処理部8は、通信部9により送信されるデータを暗号化する暗号化処理部、及び、通信部9により受信されたデータを復号化する復号化処理部の少なくとも一方を含む。
【0134】
<他の要素>
図1に示す要素に加え、スリットランプ顕微鏡1は、表示デバイスや操作デバイスを備えていてよい。或いは、表示デバイスや操作デバイスは、スリットランプ顕微鏡1の周辺機器であってもよい。
【0135】
表示デバイスは、制御部7の制御を受けて各種の情報を表示する。表示デバイスは、液晶ディスプレイ(LCD)などのフラットパネルディスプレイを含んでいてよい。
【0136】
操作デバイスは、スリットランプ顕微鏡1を操作するためのデバイスや、情報を入力するためのデバイスを含む。操作デバイスは、例えば、ボタン、スイッチ、レバー、ダイアル、ハンドル、ノブ、マウス、キーボード、トラックボール、操作パネルなどを含む。
【0137】
タッチスクリーンのように、表示デバイスと操作デバイスとが一体化したデバイスを用いてもよい。
【0138】
被検者や補助者は、表示デバイス及び操作デバイスを用いることで、スリットランプ顕微鏡1の操作を行うことができる。
【0139】
<アライメント>
被検眼Eに対するスリットランプ顕微鏡1のアライメントについて説明する。一般に、アライメントは、被検眼Eの撮影や測定のために好適な位置に装置光学系を配置させる動作である。本態様のアライメントは、図3に示すような動画像を取得するために好適な位置に照明系2及び撮影系3を配置させる動作である。
【0140】
眼科装置のアライメントには様々な手法がある。以下、幾つかのアライメント手法を例示するが、本態様に適用可能な手法はこれらに限定されない。
【0141】
本態様に適用可能なアライメント手法としてステレオアライメントがある。ステレオアライメントは、2以上の異なる方向から前眼部を撮影可能な眼科装置において適用可能であり、その具体的な手法は、本出願人による特開2013-248376号公報などに開示されている。ステレオアライメントは、例えば次の工程を含む:2以上の前眼部カメラが前眼部を異なる方向から撮影して2以上の撮影画像を取得する工程;プロセッサがこれら撮影画像を解析して被検眼の3次元位置を求める工程;求められた3次元位置に基づいてプロセッサが光学系の移動制御を行う工程。これにより、光学系(本例では照明系2及び撮影系3)が、被検眼に対して好適な位置に配置される。典型的なステレオアライメントでは、被検眼の瞳孔(瞳孔の中心又は重心)の位置が基準とされる。
【0142】
このようなステレオアライメントの他にも、アライメント光により得られるプルキンエ像を利用した手法や、光テコを利用した手法や、アライメント指標を利用した手法など、任意の公知のアライメント手法を採用することが可能である。プルキンエ像を利用した手法や光テコやアライメント指標を利用した手法では、被検眼の角膜頂点の位置が基準とされる。
【0143】
なお、以上の例示を含む従来の典型的なアライメント手法は、被検眼の軸と光学系の光軸とを一致させることを目的として行われるが、本態様では、スキャン開始位置に対応する位置に照明系2及び撮影系3を配置させるようにアライメントを実行することが可能である。
【0144】
本態様におけるアライメントの第1の例として、上記したアライメント手法のいずれかを適用して被検眼Eの瞳孔又は角膜頂点を基準としたアライメントを行った後、予め設定された角膜半径の標準値に相当する距離だけ照明系2及び撮影系3を(X方向に)移動することができる。なお、標準値を用いる代わりに、被検眼Eの角膜半径の測定値を用いてもよい。
【0145】
第2の例として、上記したアライメント手法のいずれかを適用して被検眼Eの瞳孔又は角膜頂点を基準としたアライメントを行った後、被検眼Eの前眼部の画像を解析して角膜半径を測定し、この測定値に相当する距離だけ照明系2及び撮影系3を(X方向に)移動することができる。本例で解析される前眼部の画像は、例えば、撮影系3により得られた前眼部画像、又は、他の画像である。他の画像は、前眼部カメラにより得られた画像、前眼部OCTにより得られた画像など、任意の画像であってよい。
【0146】
第3の例として、ステレオアライメント用の前眼部カメラ又は撮影系3により得られた前眼部の画像を解析して角膜の第1端部を求め、ステレオアライメントを適用してこの第1端部に対応する位置に照明系2及び撮影系3を移動することができる。
【0147】
なお、上記したアライメント手法のいずれかを適用して被検眼Eの瞳孔又は角膜頂点を基準としたアライメントを実行し、これにより決定された位置からスリット光による前眼部スキャンを開始するようにしてもよい。この場合においても、角膜Cの全体をスキャンするようにスキャンシーケンスを設定することができる。例えば、当該アライメントにより決定された位置から左方にスキャンを行った後、右方にスキャンを行うように、スキャンシーケンスが設定される。
【0148】
<その他の事項>
スリットランプ顕微鏡1は、被検眼Eを固視させるための光(固視光)を出力する固視系を備えていてよい。固視系は、典型的には、少なくとも1つの可視光源(固視光源)、又は、風景チャートや固視標等の画像を表示する表示デバイスを含む。固視系は、例えば、照明系2又は撮影系3と同軸又は非同軸に配置される。固視系は、装置光学系の光路を通じて固視標を被検者に提示する内部固視系、及び/又は、当該光路の外から固視標を被検者に提示する外部固視系を含んでいてよい。
【0149】
スリットランプ顕微鏡1により取得可能な画像の種別は、前述した前眼部の動画像(複数の前眼部画像)に限定されない。例えば、スリットランプ顕微鏡1は、この動画像に基づく3次元画像、この3次元画像に基づくレンダリング画像、徹照像、被検眼に装用されたコンタクトレンズの動きを表す動画像、蛍光剤適用によるコンタクトレンズと角膜表面との隙間を表す画像などがある。レンダリング画像については他の態様において説明する。徹照像は、照明光の網膜反射を利用して眼内の混濁や異物を描出する徹照法により得られる画像である。なお、眼底撮影、角膜内皮細胞撮影、マイボーム腺撮影などが可能であってもよい。
【0150】
<動作>
スリットランプ顕微鏡1の動作を説明する。動作の一例を図5に示す。
【0151】
図示は省略するが、任意の段階において、ユーザー(被検者、検者、補助者など)は、スリットランプ顕微鏡1に被検者情報を入力する。入力された被検者情報は、制御部7に保存される。被検者情報は、典型的には、被検者の識別情報(被検者ID)を含む。
【0152】
更に、背景情報の入力を行うことができる。背景情報は、被検者に関する任意の情報であって、その例として、被検者の問診情報、所定のシートに被検者が記入した情報、被検者の電子カルテに記録された情報などがある。典型的には、背景情報は、性別、年齢、身長、体重、疾患名、候補疾患名、検査結果(視力値、眼屈折力値、眼圧値など)、屈折矯正具(眼鏡、コンタクトレンズなど)の装用歴や度数、検査歴、治療歴などがある。これらは例示であって、背景情報はこれらに限定されない。
【0153】
また、撮影の準備として、スリットランプ顕微鏡1が設置されているテーブル、被検者が座るイス、スリットランプ顕微鏡1の顎受け台の調整が行われる(いずれも図示を省略する)。例えば、テーブル、イス、顎受け台の高さ調整が行われる。顎受け台には、被検者の顔を安定配置させるための顎受け部及び額当てが設けられている。
【0154】
準備が完了したら、被検者は、イスに腰掛け、顎受けに顎を載せ、額当てに額を当接させる。これらの動作の前又は後に、ユーザーは、被検眼の撮影を開始するための指示操作を行う。この操作は、例えば、図示しない撮影開始トリガーボタンの押下、指示音声の入力などであってよい。或いは、制御部7が準備フェーズの完了を検知して撮影フェーズに自動で移行してもよい。また、図示しない固視標を被検者(被検眼E又はその僚眼)に提示してもよい。
【0155】
(S1:アライメント)
撮影開始に対応し、スリットランプ顕微鏡1は、まず、被検眼Eに対する照明系2及び撮影系3のアライメントを行う。被検眼Eの角膜頂点や瞳孔中心に光学系光軸を合わせるための一般的なアライメントと異なり、ステップS1のアライメントは、ステップS2で行われる前眼部スキャンの開始位置に照明系2及び撮影系3を配置させるために実行される。
【0156】
ステップS1のアライメントの態様は任意であってよく、例えば、ステレオアライメント、プルキンエ像を用いた手動又は自動アライメント、光テコを用いた手動又は自動アライメント、及び、アライメント指標を用いた手動又は自動アライメントのうちのいずれかであってよい。
【0157】
幾つかの態様では、このような従来の手法により、角膜頂点又は瞳孔中心を目標としたアライメントが実行される。更に、制御部7は、角膜頂点や瞳孔中心を目標としたアライメントにより移動された照明系2及び撮影系3を、スキャン開始位置(これに対応する位置)まで更に移動する。
【0158】
他の幾つかの態様では、初めからスキャン開始位置を目標としてアライメントが実行される。このアライメントは、例えば、前眼部の画像(例えば、正面又は斜方からの画像)を解析してスキャン開始位置(例えば、前述した角膜の第1端部、又は、第1端部に対して被検眼Eの軸とは反対の方向に所定距離だけ離れた位置)を特定する処理と、特定されたスキャン開始位置に対応する位置に照明系2及び撮影系3を移動する処理とを含む。
【0159】
アライメントの開始前、実行中、及び/又は終了後に、所定の動作を実行するようにしてもよい。例えば、撮像素子5の調整、フォーカス調整を行ってもよい。
【0160】
(S2:前眼部スキャン及び画像選択)
スリットランプ顕微鏡1は、前述した要領で、照明系2によるスリット光の照射と、撮影系3による動画撮影と、移動機構6による照明系2及び撮影系3の移動とを組み合わせることで、被検眼Eの前眼部をスキャンする。1回のスキャン(スキャン開始位置からスキャン終了位置までのスキャン)により、例えば、図3に示す画像群(複数の前眼部画像)F1~FNが得られる。また、選択部81Aは、スキャンにより収集された画像群から、所定の条件を満足する1以上の画像を選択する。
【0161】
例えば、ステップS2の動作は、前述したように、スキャンと画像選択とを交互に反復する動作、及び、全てのスキャンの実行後に画像選択を行う動作のいずれか一方であってよい。このようなスキャンと画像選択との連係動作により、2以上のスキャンで得られた2以上の画像群から一連の画像が選択される。なお、スキャンと画像選択との交互反復については、第2の態様において具体例を説明する。
【0162】
データ処理部8は、スキャンで得られた画像に所定の処理を施してもよい。例えば、ノイズ除去、コントラスト調整、輝度調整、色補正など、任意の信号処理や任意の画像処理を適用することが可能である。
【0163】
(S3:画像セットを作成)
画像セット作成部81は、ステップS2で選択された一連の画像を含む画像セットを作成する。
【0164】
(S4:画像セットの品質を評価)
評価部82は、ステップS3で作成された画像セットの品質を評価する。
【0165】
(S5:品質良好か?)
ステップS4において画像セットの品質は良好であると判定された場合(S5:Yes)、動作はステップS6に移行する。一方、ステップS4において画像セットの品質は良好でないと判定された場合(S5:No)、動作はステップS7に移行する。
【0166】
(S6:画像セットを出力)
ステップS4において画像セットの品質は良好であると判定された場合(S5:Yes)、制御部7は、この画像セットを出力するための制御を行う。本例では、制御部7は、通信部9を制御して、画像セットを他の装置に送信する。
【0167】
画像セットの送信先となる装置の例として情報処理装置や記憶装置がある。情報処理装置は、例えば、広域回線上のサーバ、LAN上のサーバ、コンピュータ端末などである。記憶装置は、広域回線上に設けられた記憶装置、LAN上に設けられた記憶装置などである。
【0168】
ステップS6で出力される画像セットは、前述した背景情報を含んでいてよい。或いは、背景情報は画像セットの付帯情報であってもよい。一般に、ステップS6で出力される情報のデータ構造は任意である。
【0169】
また、ステップS6で送信される画像セットは、典型的には、被検者の右眼の前眼部の一連の画像と、左眼の前眼部の一連の画像とを含む。右眼の一連の画像及び左眼の一連の画像は、本例の動作を右眼及び左眼にそれぞれ適用することにより得られる。右眼の一連の画像及び左眼の一連の画像には前述の被検眼情報がそれぞれ付帯され、それにより右眼の一連の画像と左眼の一連の画像とが判別される。
【0170】
画像セットとともに被検者の識別情報が送信される。この識別情報は、スリットランプ顕微鏡1に入力された被検者IDでもよいし、被検者IDに基づき生成された識別情報でもよい。例えば、スリットランプ顕微鏡1が設置されている施設内での個人識別に用いられる被検者ID(内部識別情報)を、当該施設外にて用いられる外部識別情報に変換することができる。これにより、画像セットや背景情報などの個人情報に関する情報セキュリティの向上を図ることができる。
【0171】
(S7:再撮影を促す)
ステップS4において画像セットの品質は良好でないと判定された場合(S5:No)、制御部7は、新たな画像セットを取得するための制御を行う。本例では、制御部7は、ユーザーに再撮影を促すための情報を表示及び/又は音声出力する。ユーザーは、再撮影を開始するための指示操作、又は、再撮影を行わないための指示操作を行う。
【0172】
再撮影を開始するための指示操作をユーザーが行った場合、制御部7は、ステップS2(又はステップS1)からの動作を再度実行するための制御を行う。再撮影は、例えば、所定の回数を上限として繰り返される。
【0173】
一方、再撮影を行わないための指示操作をユーザーが行った場合、制御部7は、例えば、良好な品質ではないと判定された画像セットを他の装置に送信するための制御を行ってよい。或いは、制御部7は、良好な品質ではないと判定された画像セットを削除、保存、又は記録するための制御を行ってもよい。
【0174】
ステップS6(又はS7)でスリットランプ顕微鏡1から送信された画像セットは、直接的又は間接的に情報処理装置に送られる。この情報処理装置の典型的な例が、医師(又はオプトメトリスト)が使用する前述の読影端末である。
【0175】
医師は、読影端末を用いて、画像セットに含まれる一連の画像(例えば、図3に示す一連の画像F1~FN)の読影を行うことができる。また、一連の画像に基づく3次元画像を構築することや、この3次元画像のレンダリング画像を表示することや、背景情報を表示することが可能である。更に、一連の画像のいずれかを解析することや、3次元画像を解析することや、レンダリング画像を解析することや、背景情報を解析することが可能である。
【0176】
医師は、読影端末を用いて、読影で得た情報が記録されたレポート(読影レポート)を作成することができる。読影レポートは、例えば、スリットランプ顕微鏡1が設置されている施設、被検者等が指定した医療機関、被検者等が指定した医師が使用する情報処理装置、被検者が登録したアドレス(電子メールアドレス、住所など)などに提供される。また、所定のデータベースシステムに読影レポートを送信し、読影レポートを保管・管理するようにしてもよい。
【0177】
ステップS6(又はS7)でスリットランプ顕微鏡1から送信された画像セットの送信先となる情報処理装置の他の例として読影装置がある。読影装置は、読影プロセッサを含む。読影プロセッサは、例えば、読影用のプログラムにしたがって動作し、画像セットに含まれる一連の画像を解析して所見を得る。更に、読影プロセッサは、取得された所見に基づきレポートを作成する。
【0178】
読影プロセッサは、人工知能エンジンを含んでいてよい。この人工知能エンジンは、典型的には、スリットランプ顕微鏡により取得された多数の画像及びそれらの読影情報を含む訓練データを用いて訓練された畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を含む。なお、回帰型ニューラルネットワーク、強化学習など、他の機械学習法を用いてもよい。
【0179】
読影装置が人工知能エンジンを含み、且つ、スリットランプ顕微鏡1(データ処理部8)が人工知能エンジンを含む場合、これら人工知能エンジンが同等の能力を有するように調整することができる。つまり、読影装置の人工知能エンジンとスリットランプ顕微鏡1の人工知能エンジンとの間に差が無いように(差が小さいように)調整を行うことが可能である。
【0180】
例えば、双方の人工知能エンジンに、同じニューラルネットワークモデルと、同じパラメータとを適用することができる。また、双方の人工知能エンジンにおけるモデルやパラメータの更新を同期させることができる。
【0181】
このような人工知能エンジンの統一的調整により、スリットランプ顕微鏡1の人工知能エンジンによる出力と、読影装置の人工知能エンジンによる出力との間に矛盾や誤差が発生する不都合を防止することが可能となる。
【0182】
なお、このような人工知能エンジンの統一的調整がなされない場合や、他の読影装置(モデル及び/又はパラメータが異なる人工知能エンジンを含む)に読影を依頼する場合などにおいては、スリットランプ顕微鏡1の人工知能エンジンの処理条件(モデル、パラメータなどを表す)を画像セットに付帯させることや、読影装置の人工知能エンジンの処理条件を画像セットに付帯させることが可能である。
【0183】
以上で、本例に係る動作の説明を終える。
【0184】
<効果>
本態様のスリットランプ顕微鏡1が奏する幾つかの効果について説明する。
【0185】
スリットランプ顕微鏡1は、スキャン部(照明系2、撮影系3、及び移動機構6)と、制御部7と、画像セット作成部81とを含む。スキャン部は、被検眼Eの前眼部をスリット光でスキャンして画像群を収集する。制御部7は、前眼部に2回以上のスキャンを適用するようにスキャン部を制御する。画像セット作成部81は、前眼部に適用された2回以上のスキャンに対応してスキャン部により収集された2以上の画像群から、スキャン範囲に対応する一連の画像を選択して画像セットを作成する。
【0186】
前述したように、従来のスリットランプ顕微鏡を用いて良好な画像を得るには微細で煩雑な操作が必要とされる一方、特開2000-116732号公報又は特開2008-284273号公報に開示されたような遠隔操作技術では、このような難しい操作を遠隔地から行わねばならなかったため、診断に耐えうる品質の画像を得ることは極めて困難と考えられる。また、スリットランプ顕微鏡はスクリーニング等においてその威力を発揮するが、遠隔操作の困難性を考慮すると、スリットランプ顕微鏡を遠隔医療に用いることは従来の技術では実用上不可能とさえ言える。
【0187】
これに対し、本態様のスリットランプ顕微鏡1によれば、まず、被検眼Eの前眼部をスキャンして画像セットを作成するため、従来のような医師による遠隔操作を行う必要がない。
【0188】
更に、2回以上のスキャンを前眼部に適用し、それにより得られた2以上の画像群から画像セット作成用の画像を選択するため、良好な品質の画像セットが得られる可能性が向上する。例えば、或るスキャン時に瞬きや眼球運動が発生して良好が画像が得られなかった場合においても、他のスキャンで得られた画像によってこれを補完することが可能である。
【0189】
このように、本態様のスリットランプ顕微鏡1によれば、前眼部に対する2回以上のスキャンに基づき作成された良好な品質の画像セットを医師に提供することができるため、高品質なスリットランプ顕微鏡検査を広く提供することが可能となる。
【0190】
また、従来においては、医師が遠隔地から操作を行いつつ診察を行っているが、本態様では、医師は、事前に取得された画像セットを読影するだけでよい。つまり、本態様では、撮影の手間や時間から医師を解放することができ、読影に集中することが可能となる。よって、本態様は、高品質なスリットランプ顕微鏡検査の提供範囲の拡大に寄与する。
【0191】
本態様において、画像セット作成部81は、所定の条件を満足する画像を2以上の画像群から選択する選択部81Aを含んでいてよい。
【0192】
この構成によれば、画像セット作成のために、所定の条件を満足する良好な画像を選択することができる。
【0193】
例えば、選択部81Aは、被検眼Eの前眼部に照射されたスリット光の反射像を含む画像を2以上の画像群から選択するように構成されてよい。これにより、瞬き発生時に撮影された画像(前眼部が描出されていない画像)を排除して画像セットを作成することが可能になる。
【0194】
選択部81Aは、隣接する画像の比較によって2以上の画像群から画像を選択するように構成されてよい。
【0195】
この構成によれば、眼球運動発生時に撮影された画像(位置の不整合が生じた画像)を排除して画像セットを作成することが可能になる。
【0196】
本態様において、スキャン範囲に対して複数の位置(B1~BN)が設定されていてよい。更に、選択部81Aは、複数の位置(B1~BN)のそれぞれに1以上の画像を割り当てるように画像の選択を行うように構成されてよい。
【0197】
この構成によれば、複数の位置(B1~BN)にそれぞれ対応する複数の画像(F1~FN)が得られる。
【0198】
なお、典型的には、複数の位置(B1~BN)に対して1つずつ画像が割り当てられるが、複数の位置(B1~BN)のいずれかに対して2以上の画像を割り当てることができる。例えば、或る位置Bnに割り当てられた2以上の画像を加算平均してノイズ低減を図ることができる。また、医師は、或る位置Bnに割り当てられた2以上の画像を比較して取捨選択を行うことができる。また、或る位置Bnに対して、互いに異なる条件(波長、蛍光剤投与の有無など)で撮影された2以上の画像を割り当てることができる。
【0199】
本態様において、制御部7は、被検眼Eの前眼部への1回(以上)のスキャンの適用と、この1回(以上)のスキャンで収集された1つ(以上)の画像群からの画像の選択とを交互に(一部並行もOK)反復するように、スキャン部及び選択部81Aを制御するように構成されてよい。つまり、スリットランプ顕微鏡1は、画像セットに含まれる一連の画像を取得するために、スキャンと画像選択との交互反復を行うように構成されてよい。
【0200】
スキャンと画像選択との交互反復において、スキャン期間と画像選択期間とは一部重複してもよいし、互いに分離されてもよい。つまり、スキャンと画像選択とを部分的に並行的に実行してもよいし、時間的に排他的に実行してもよい。
【0201】
選択部81Aは、スキャンと画像選択との交互反復において、既に行われた1回以上のスキャンで収集された1つ以上の画像群から画像を選択して暫定的画像セットを作成するように構成されてよい。つまり、選択部81Aは、現時点までに行われた1以上のスキャンで収集された1以上の画像群から暫定的画像セットを作成するように構成されてよい。
【0202】
更に、選択部81Aは、スキャンと画像選択との交互反復において、被検眼Eの前眼部に新たなスキャンが適用されたとき、この新たなスキャンで収集された新たな画像群から画像を選択する処理と、この新たなスキャンよりも前に行われた1以上のスキャンに基づく暫定的画像セットにこの新たな画像群から選択された画像を付加することで新たな暫定的画像セットを作成する処理とを実行するように構成されてよい。つまり、選択部81Aは、前眼部にスキャンが適用される度に、それにより収集された画像群からの画像選択を逐次に行って暫定的画像セットに追加するように構成されてよい。
【0203】
以上のようなスキャンと画像選択との交互反復を行う構成によれば、各スキャンで得た画像群から画像を逐次に選択しつつスキャン範囲に対応する一連の画像を取得し、画像セットを作成することができる。更に、各スキャンで得た画像群から良好な画像を逐次に選択することが可能である。
【0204】
制御部7は、暫定的画像セットに含まれる画像の個数が所定の個数に達したときに、スキャンの適用と画像の選択との交互反復を終了するようにスキャン部及び選択部81Aを制御するように構成されてよい。更に、画像セット作成部81は、スキャンの適用及び画像の選択の交互反復が終了されたときの暫定的画像セットに基づいて画像セットを作成するように構成されてよい。
【0205】
この構成によれば、画像セット作成のために十分な個数の画像が得られたらスキャンと画像選択との交互反復を自動で終了することができるので、撮影及び画像セット作成を効率的に行うことが可能である。
【0206】
制御部7は、スキャンの適用及び画像の選択の交互反復の回数が所定の回数に達したときに、スキャンの適用と画像の選択との交互反復を終了するようにスキャン部及び選択部81Aを制御するように構成されてよい。更に、画像セット作成部81は、スキャンの適用及び画像の選択の交互反復が終了されたときの暫定的画像セットに基づいて画像セットを作成するように構成されてよい。
【0207】
この構成によれば、画像セット作成のための撮影が長時間にわたる事態を防止することが可能である。
【0208】
以上のようなスキャンと画像選択との交互反復の代わりに、スリットランプ顕微鏡1は、全てのスキャンをまとめて行った後に画像選択を行うように構成されてもよい。具体的には、制御部7は、2回以上のスキャンを前眼部に適用するようにスキャン部を制御した後、この2回以上のスキャンで収集された2つの画像群から画像を選択するように選択部81Aを制御するように構成されてよい。更に、画像セット作成部81は、選択部81Aにより選択された一連の画像を含む画像セットを作成するように構成されてよい。
【0209】
本態様のスリットランプ顕微鏡1は、画像セット作成部81により作成された画像セットの品質を評価する評価部82を更に含んでいてよい。例えば、評価部82は、画像セットに含まれる一連の画像について、配列順序、画像抜け、及び位置ずれのいずれかについて評価を行うことが可能である。この評価は、画像セット中の一連の画像を解析することで行われる。例えば、一連のフレーム中のランドマーク(角膜、虹彩、瞳孔などの組織に対応する画像領域)に基づいて一連の画像の品質評価が行われる。
【0210】
このような画像セットの評価を行うことによって、医師や読影装置による読影を有効的に実施可能な品質の画像セットを準備することができる。
【0211】
本態様のスリットランプ顕微鏡1は、出力部を更に含んでいてよい。更に、制御部7は、画像セットの品質が良好であると評価部82により評価された場合に、この画像セットを出力部に出力させるための制御を行うように構成されてよい。ここで、出力部は、例えば、画像セットを外部装置に送信するための通信部9、画像セットを保存する記憶装置(データベース等)、画像セットを記録媒体に書き込む記録デバイス(データライター、ドライブ装置等)、及び、画像セットに含まれる情報を印刷媒体に記録するプリンターのいずれかであってよい。
【0212】
この構成によれば、医師や読影装置に提供するために、良好な品質の画像セットを出力することが可能である。
【0213】
本態様において、制御部7は、画像セットの品質が良好でないと評価部82により評価された場合に、新たな画像セットを取得するための制御を行うように構成されてよい。この制御は、例えば、ユーザーに再撮影を促すための制御、又は、再撮影(スキャン及び画像セット作成の再度の実行)を自動で開始するための制御であってよい。
【0214】
本態様のスリットランプ顕微鏡1は、次のような構成によって、スリット光による前眼部のスキャンを実現している。すなわち、スキャン部は、照明系2と、撮影系3と、移動機構6とを含む。照明系2は、被検眼Eの前眼部にスリット光を照射する。撮影系3は、照明系2とは異なる方向から前眼部を撮影する。移動機構6は、照明系2及び撮影系3を移動する。撮影系3は、移動機構6による照明2及び撮影系3の移動と並行して繰り返し撮影を行う。この繰り返し撮影は、例えば、所定の撮影レートの動画撮影である。
【0215】
本態様では、移動機構6は、スリット光による前眼部のスキャンにおいて、照明系2及び撮影系3をX方向に移動している。また、移動機構6は、アライメントにおいて、照明系2及び撮影系3を3次元的に移動可能であってよい。
【0216】
更に、本態様のスリットランプ顕微鏡1は、例えば角膜前面から水晶体後面までの範囲を一度に撮影するために、シャインプルーフカメラとしての機能を有していてよい。そのために、撮影系3は、スリット光が照射された前眼部からの光を導く光学系4と、光学系4により導かれた光を撮像面で受光する撮像素子5とを含んでいてよい。更に、スリットランプ顕微鏡1は、照明系2の光軸に沿う物面と光学系4と撮像素子5(撮像面)とがシャインプルーフの条件を満足するように構成されていてよい。
【0217】
〈第2の態様〉
本態様では、第1の態様のスリットランプ顕微鏡1に適用可能な光学系の構成及びその応用について説明する。本態様の光学系の構成の一例を図6に示す。なお、図6に示す要素群に加えて、他の態様に示す要素が設けられていてよい。例えば、第1の態様の制御部7、データ処理部8、通信部9などが設けられていてよい。特に言及しない限り、第1の態様に係る事項を適用可能である。
【0218】
図6に示す照明系20は第1の態様の照明系2の例であり、左撮影系30L及び右撮影系30Rは撮影系3の例である。以下、照明系20を照明系2と記載することや、左撮影系30L及び/又は右撮影系30Rを撮影系3と記載することがある。幾つかの態様において、左撮影系30L及び右撮影系30Rの一方のみを設け、これを撮影系3の例として構成してもよい。符号20aは照明系20の光軸(照明光軸)を示し、符号30Laは左撮影系30Lの光軸(左撮影光軸)を示し、符号30Raは右撮影系30Rの光軸(右撮影光軸)を示す。左撮影光軸30Laと右撮影光軸30Raとは、互いに異なる向きに配置されている。照明光軸20aと左撮影光軸30Laとがなす角度をθLで示し、照明光軸20aと右撮影光軸30Raとがなす角度をθRで示す。角度θLと角度θRとは、互いに等しくてもよいし異なってもよい。照明光軸20aと左撮影光軸30Laと右撮影光軸30Raとは、一点で交差する。図1と同様に、この交点のZ座標をZ0で示す。
【0219】
移動機構6は、照明系20、左撮影系30L及び右撮影系30Rを、矢印49で示す方向(X方向)に移動可能である。典型的には、照明系20、左撮影系30L及び右撮影系30Rは、少なくともX方向に移動可能なステージ上に載置されており、且つ、移動機構6は、制御部7からの制御信号にしたがって、この可動ステージを移動させる。
【0220】
照明系20は、被検眼Eの前眼部にスリット光を照射する。照明系20は、従来のスリットランプ顕微鏡の照明系と同様に、被検眼Eから遠い側から順に、照明光源21と、正レンズ22と、スリット形成部23と、対物レンズ群24及び25とを含む。
【0221】
照明光源21から出力された照明光(典型的には可視光)は、正レンズ22により屈折されてスリット形成部23に投射される。投射された照明光の一部は、スリット形成部23が形成するスリットを通過してスリット光となる。生成されたスリット光は、対物レンズ群24及び25により屈折された後、ビームスプリッタ47により反射され、被検眼Eの前眼部に照射される。
【0222】
左撮影系30Lは、反射器31Lと、結像レンズ32Lと、撮像素子33Lとを含む。反射器31L及び結像レンズ32Lは、照明系20によりスリット光が照射されている前眼部からの光(左撮影系30Lの方向に進行する光)を撮像素子33Lに導く。
【0223】
前眼部から左撮影系30Lの方向に進行する光は、スリット光が照射されている前眼部からの光であって、照明光軸20aから離れる方向に進行する光である。反射器31Lは、当該光を照明光軸20aに近づく方向に反射する。結像レンズ32Lは、反射器31Lにより反射された光を屈折して撮像素子33Lの撮像面34Lに結像する。撮像素子33Lは、当該光を撮像面34Lにて受光する。
【0224】
第1の態様と同様に、左撮影系30Lは、移動機構6による照明系20、左撮影系30L及び右撮影系30Rの移動と並行して繰り返し撮影を行う。これにより複数の前眼部画像(画像群)が得られる。
【0225】
第1の態様と同様に、照明光軸20aに沿う物面と、反射器31L及び結像レンズ32Lを含む光学系と、撮像面34Lとは、シャインプルーフの条件を満足する。より具体的には、反射器31Lによる撮影系30Lの光路の偏向を考慮すると、照明光軸20aを通るYZ面(物面を含む)と、結像レンズ32Lの主面と、撮像面34Lとが、同一の直線上にて交差する。これにより、左撮影系30Lは、物面内の全ての位置(例えば、角膜前面から水晶体後面までの範囲)にピントを合わせて撮影を行うことができる。
【0226】
右撮影系30Rは、反射器31Rと、結像レンズ32Rと、撮像素子33Rとを含む。左撮影系30Lと同様に、右撮影系30Rは、照明系20によりスリット光が照射されている前眼部からの光を、反射器31R及び結像レンズ32Rによって、撮像素子33Rの撮像面34Rに導く。更に、左撮影系30Lと同様に、右撮影系30Rは、移動機構6による照明系20、左撮影系30L及び右撮影系30Rの移動と並行して繰り返し撮影を行うことで、複数の前眼部画像(画像群)を取得する。左撮影系30Lと同様に、照明光軸20aに沿う物面と、反射器31R及び結像レンズ32Rを含む光学系と、撮像面34Rとは、シャインプルーフの条件を満足する。
【0227】
制御部7は、左撮影系30Lによる繰り返し撮影と、右撮影系30Rによる繰り返し撮影とを同期させることができる。これにより、左撮影系30Lにより得られた複数の前眼部画像と、右撮影系30Rにより得られた複数の前眼部画像との間の対応関係が得られる。この対応関係は、時間的な対応関係であり、より具体的には、実質的に同時に取得された画像同士をペアリングするものである。
【0228】
或いは、制御部7又はデータ処理部8は、左撮影系30Lにより得られた複数の前眼部画像と、右撮影系30Rにより得られた複数の前眼部画像との間の対応関係を求める処理を実行することができる。例えば、制御部7又はデータ処理部8は、左撮影系30Lから逐次に入力される前眼部画像と、右撮影系30Rから逐次に入力される前眼部画像とを、それらの入力タイミングによってペアリングすることができる。
【0229】
本態様は、動画撮影部40を更に含む。動画撮影部40は、左撮影系30L及び右撮影系30Rによる撮影と並行して、被検眼Eの前眼部を固定位置から動画撮影する。「固定位置から動画撮影」とは、前眼部スキャンのために照明系20、左撮影系30L及び右撮影系30Rが移動されるときに、動画撮影部40は移動されないことを表す。なお、動画撮影部40は、静止画撮影を行うことも可能である。
【0230】
本態様の動画撮影部40は、照明系20と同軸に配置されているが、その配置はこれに限定されない。例えば、照明系20と非同軸に動画撮影部を配置することができる。また、動画撮影部40が感度を有する帯域の照明光で前眼部を照明する光学系が設けられていてもよい。
【0231】
ビームスプリッタ47を透過した光は、反射器48により反射されて動画撮影部40に入射する。動画撮影部40に入射した光は、対物レンズ41により屈折された後、結像レンズ42によって撮像素子43の撮像面に結像される。撮像素子43はエリアセンサである。撮像素子43は、例えば、可視光及び赤外光のいずれか一方又は双方の帯域に感度を有する。
【0232】
動画撮影部40が設けられている場合、被検眼Eの動きをモニタすることや、トラッキングを行うことができる。また、動画撮影部40を用いてアライメントを行うことも可能である。
【0233】
照明系20の出力波長及び動画撮影部40の検出波長に応じ、ビームスプリッタ47は、例えばダイクロイックミラー又はハーフミラーである。
【0234】
本態様のスリットランプ顕微鏡が奏する幾つかの効果について説明する。
【0235】
本態様は、第1の態様の撮影系3の例として、左撮影系30Lと右撮影系30Rとを提供する。左撮影系30L及び右撮影系30Rは、前述した第1撮影系及び第2撮影系の例である。左撮影系30Lは、スリット光が照射されている前眼部からの光を導く反射器31L及び結像レンズ32L(第1光学系)と、導かれた光を撮像面34L(第1撮像面)で受光する撮像素子33L(第1撮像素子)とを含む。同様に、右撮影系30Rは、スリット光が照射されている前眼部からの光を導く反射器31R及び結像レンズ32R(第2光学系)と、導かれた光を撮像面34R(第2撮像面)で受光する撮像素子33R(第2撮像素子)とを含む。
【0236】
左撮影系30Lの光軸(左撮影光軸30La)と右撮影系30Rの光軸(右撮影光軸30Ra)とは、互いに異なる向きに配置されている。更に、照明系20の光軸(照明光軸20a)に沿う物面と、反射器31L及び結像レンズ32Lと、撮像面34Lとは、シャインプルーフの条件を満足する。同様に、当該物面と、反射器31L及び結像レンズ32Lと、撮像面34Lとは、シャインプルーフの条件を満足する。
【0237】
左撮影系30Lは、移動機構6による照明系20、左撮影系30L及び右撮影系30Rの移動と並行して繰り返し撮影を行うことにより第1画像群を取得する。同様に、右撮影系30Rは、移動機構6による照明系20、左撮影系30L及び右撮影系30Rの移動と並行して繰り返し撮影を行うことにより第2画像群を取得する。
【0238】
図示しない制御部7は、左撮影系30L及び右撮影系30Rが並行して被検眼Eの前眼部に2回以上のスキャンを適用するように照明系20、左撮影系30L、右撮影系30R、及び移動機構6の制御を行うことができる。これにより、左撮影系30Lは、2回以上のスキャンに対応した2以上の第1画像群を収集し、且つ、右撮影系30Rは、2回以上のスキャンに対応した2以上の第2画像群を収集する。図示しない画像セット作成部81は、例えば、2以上の第1画像群から、スキャン範囲に対応する第1の一連の画像を選択して第1画像セットを作成し、且つ、2以上の第2画像群から、スキャン範囲に対応する第2の一連の画像を選択して第2画像セットを作成することができる。或いは、画像セット作成部81は、2以上の第1画像群及び2以上の第2画像群から、スキャン範囲に対応する一連の画像を選択して画像セットを作成するように構成されてもよい。前述した第1の態様における任意の事項(構成、制御、処理、作用、機能など)を、このような第2の態様に組み合わせることが可能である。
【0239】
このような第2の態様によれば、スリット光が照射されている前眼部を、互いに異なる方向からそれぞれ動画撮影することができる。一方の撮影系により取得された画像にアーティファクトが含まれる場合であっても、他方の撮影系により当該画像と実質的に同時に取得された画像にはアーティファクトが含まれない場合がある。また、双方の撮影系により実質的に同時に取得された一対の画像の双方にアーティファクトが含まれる場合であって、一方の画像中のアーティファクトが注目領域(例えばスリット光照射領域)に重なっている場合でも、他方の画像中のアーティファクトが注目領域に重なっていない場合がある。したがって、好適な画像を取得できる可能性が高まる。したがって、良好な品質の画像セットが得られる確率の更なる向上を図ることが可能になる。
【0240】
なお、撮影系3は、第1撮影系及び第2撮影系に加え、同様の構成の第3撮影系、・・・、第K撮影系(Kは3以上の整数)を含んでいてもよい。これにより、光学系の構造は複雑化するが、良好な品質の画像セットが得られる確率を更に向上させることが可能になる。本態様を実施しようとする者は、トレードオフの関係にあるこれらの事項(光学系の複雑度、及び、高品質な画像セットが得られる確率)を勘案してスリットランプ顕微鏡を設計することができる。
【0241】
本態様の左撮影系30Lは、反射器31Lと結像レンズ32Lとを含む。反射器31Lは、スリット光が照射されている前眼部からの光であって、照明光軸20aから離れる方向に進行する光を、照明光軸20aに近づく方向に反射する。更に、結像レンズ32Lは、反射器31Lにより反射された光を撮像面34Lに結像させる。ここで、結像レンズ32Lは、1以上のレンズを含む。
【0242】
同様に、右撮影系30Rは、反射器31Rと結像レンズ32Rとを含む。反射器31Rは、スリット光が照射されている前眼部からの光であって、照明光軸20aから離れる方向に進行する光を、照明光軸20aに近づく方向に反射する。更に、結像レンズ32Rは、反射器31Rにより反射された光を撮像面34Rに結像させる。ここで、結像レンズ32Rは、1以上のレンズを含む。
【0243】
このような構成によれば、装置の小型化を図ることが可能である。すなわち、撮像素子33L(33R)により取得された画像は、撮像面34L(34R)の反対側の面から延びるケーブルを通じて出力されるが、本構成によれば、照明光軸20aに比較的近接して位置する撮像素子33L(33R)の背面から被検眼Eとは反対方向に向かって、ケーブルを配置することができる。したがって、ケーブルの引き回しを好適に行うことができ、装置の小型化を図ることが可能になる。
【0244】
また、本構成によれば、角度θL及び角度θRを大きく設定することが可能となるため、一方の撮影系により取得された画像にアーティファクトが含まれる場合において、他方の撮影系により当該画像と実質的に同時に取得された画像にアーティファクトが含まれない可能性を高めることができる。また、双方の撮影系により実質的に同時に取得された一対の画像の双方にアーティファクトが含まれる場合であって、一方の画像中のアーティファクトが注目領域(例えばスリット光照射領域)に重なっている場合において、他方の画像中のアーティファクトが注目領域に重なっている可能性を低減することができる。
【0245】
本態様は、動画撮影部40を含む。左撮影系30L及び右撮影系30Rは、移動機構6による照明系20、左撮影系30L及び右撮影系30Rの移動と並行して、前眼部を繰り返し撮影する。この繰り返し撮影と並行して、動画撮影部40は、前眼部を固定位置から動画撮影する。
【0246】
このような構成によれば、スリット光による前眼部のスキャンと並行して固定位置(例えば正面)から動画撮影を行うことで、スキャン中における被検眼Eの状態を把握することや、被検眼Eの状態に応じた制御を行うことが可能である。
【0247】
例えば、本態様のスリットランプ顕微鏡が第1の態様の評価部82を含む場合、本態様のスリットランプ顕微鏡は、左撮影系30L及び/又は右撮影系30Rにより取得された画像セットが読影に耐えうる品質か否か評価することができる。本態様の評価部82は、動画撮影部40との組み合わせにより、次のような動作を行うことが可能である。なお、ステレオアライメントのための2以上の前眼部カメラや、類似の撮影手段を用いて、同様の動作を行うことも可能である。
【0248】
動画撮影部40は、被検眼Eの前眼部へのスキャンの適用と並行して前眼部を固定位置から動画撮影する。この動画撮影は、例えば、制御部7の制御の下に行われる。つまり、制御部7は、被検眼Eの前眼部スキャンのために、照明系2(照明系20)と撮影系3(左撮影系30L及び/又は右撮影系30R)と移動機構6と動画撮影部40とを連係的に制御することができる。
【0249】
この連係制御において、制御部7は、撮影系3の撮影レートと動画撮影部40の撮影レートとを同期させることが可能である。例えば、撮影系3の撮影レートと動画撮影部40の撮影レートとが等しく設定され、且つ、撮影系3の撮影タイミングと動画撮影部40の撮影タイミングとが一致される。これにより、スキャンにおいて撮影系3に取得されたフレーム群と、動画撮影部40に取得されたフレーム群とを、時間的に対応付けることができる。
【0250】
なお、撮影レート及び撮影タイミングの一方又は双方が異なる場合においても、例えば所定範囲内の時間差を許容することにより、スキャンにおいて撮影系3に取得されたフレーム群と、動画撮影部40に取得されたフレーム群とを、時間的に対応付けることが可能である。
【0251】
時間的に対応付けられた一対のフレーム(撮影系3により得られたフレームと、動画撮影部40により得られたフレームとの組)は、実質的に同時に取得されたと考えることができる。したがって、時間的に対応付けられた一対のフレームを考慮する際には、眼球運動による位置ずれを無視することができる。
【0252】
このような前提の下、評価部82は、動画撮影部40により取得された動画像(フレーム群)に基づいて、画像セット(一連の画像)の品質の評価を行うように構成されてよい。
【0253】
このとき、評価部82は、画像セットに含まれる一連の画像と、動画撮影部40により取得された動画像に含まれる一連のフレームとの間の対応関係に基づいて、画像セットの品質の評価を行うように構成されてよい。すなわち、評価部82は、撮影系3により得られたフレーム群と、動画撮影部40により取得されたフレーム群との間の時間的な対応関係に基づいて、画像セットの品質の評価を行うように構成されてよい。更に、評価部82は、一連のフレーム中のランドマークと当該対応関係とに基づいて画像セットの品質の評価を行うように構成されてよい。
【0254】
1つの具体例を説明する。本例では、撮影系3により得られたフレーム群F1~FN(前述)と、これと並行して動画撮影部40により取得されたフレーム群D1~DNとについて、フレームFnとフレームDnとが対応付けられているとする(n=1、2、・・・、N)。
【0255】
評価部82は、フレーム群D1~DNのそれぞれにおけるランドマークを特定する。ランドマークは、例えば虹彩に対応する画像領域(虹彩領域)であってよい。
【0256】
次に、評価部82は、フレーム群D1~DNにおいてそれぞれ特定されたN個のランドマークの位置(例えば、空間的な位置の変化)に基づいて、フレーム群D1~DNの配列順序(空間的配列順序)を求める。
【0257】
前述したように、フレーム群D1~DNは、この順序で時間的に配列されている(時間的配列順序)。時間的配列順序と空間的配列順序とが異なる場合、眼球運動の影響により順序が入れ替わったり位置ずれが生じた可能性がある。また、瞬きの影響によりフレームの飛びが発生した可能性がある。
【0258】
このような不具合が検出された場合、つまり時間的配列順序と空間的配列順序とが異なる場合、評価部82は、この画像セットの品質は良好でないと判定する。
【0259】
このような構成によれば、スリット光による前眼部のスキャンと並行して(少なくともX方向及びY方向において)前眼部を広く描出した動画像を取得し、画像セットに含まれる一連の画像の不具合を当該動画像を利用して検出することが可能である。
【0260】
画像セットに含まれる一連の画像のそれぞれは、深さ方向(Z方向)に延びる画像である。そのため、Z方向に直交するX方向及びY方向における一連の画像の配置や配列を一連の画像自体から認識するには、第1の態様のような画像処理(画像解析)を利用する必要がある。
【0261】
本例は、一連の画像に画像解析を適用することなく、スキャンと並行して別途に取得した動画像を利用して一連の画像の品質評価を実現するものである。なお、本例の評価項目は、第1の態様と同様に、一連の画像の配列順序、画像抜け、及び位置ずれのいずれかであってよい。また、本例の評価処理と、第1の態様の評価処理とを組み合わせることも可能である。
【0262】
動画撮影部40の他の応用について説明する。本例は、2以上のスキャンの開始タイミングを調整することにより、スキャン間における被検眼Eの位置ずれを防止することを目的とする。
【0263】
本例においても、動画撮影部40は、被検眼Eの前眼部を固定位置から撮影する。制御部7は、第1スキャンの開始に対応して動画撮影部40により取得された基準画像と略同じ画像が動画撮影部40により取得されたことに対応してスキャン部に第2スキャンを開始させるように構成される。
【0264】
より具体的に説明する。画像セット作成のために前眼部に適用される2以上のスキャンのいずれかを第1スキャンと呼ぶ。本例では、2以上のスキャンのうち最初に実行されるスキャンが第1スキャンとされる。
【0265】
まず、制御部7は、第1スキャンの開始タイミングにおいて動画撮影部40により取得された画像(基準画像)を記憶する。基準画像は、例えば、第1スキャンの開始前に撮影が開始された動画像のフレーム群のうち、第1スキャンの開始時に最も近い時間に取得されたフレームであってよい。或いは、動画撮影部40は、制御部7の制御の下に、第1スキャンの開始時(直前、同時、又は直後)に前眼部を静止画撮影することで、基準画像を取得してもよい。
【0266】
第1スキャンよりも後に実行される任意のスキャン(第2スキャン)は、動画撮影部40による前眼部動画撮影が行われているときに開始される。制御部7(又はデータ処理部8)は、動画撮影部40により逐次に取得されるフレームを基準画像と比較する。この比較は、例えば、ランドマークを特定するセグメンテーション、画像マッチング、画像相関など、任意の画像処理を含んでよい。
【0267】
基準画像と略同じフレームが得られたと判定されると、制御部7は、第2スキャンを開始するように、照明系2、撮影系3及び移動機構6を制御する。
【0268】
本例のスリットランプ顕微鏡は、前眼部に対するスキャン適用回数が、画像セット作成のためのスキャン反復回数に達するまで、上記した一連の処理を繰り返し実行する。これにより、スキャン間における被検眼Eの位置ずれを低減することができ、眼球運動による画像セットの品質低下を防止することが可能となる。また、画像選択の効率化や容易化を図ることが可能となる。
【0269】
本態様のスリットランプ顕微鏡の動作及び使用形態について説明する。動作及び使用形態の一例を図7A及び図7Bに示す。第1の態様の動作例において説明した各種の準備(図5のステップS1よりも前に行われる動作)は既に行われたものとする。本例において、1回の前眼部スキャンで得られる画像の枚数(画像群に含まれる画像の個数)は256枚とし、画像セットに含まれる一連の画像の枚数も同じく256枚とする。また、スキャンの反復回数の上限は5回とする。なお、特に言及しない限り、第1の態様に係る事項を適用可能である。
【0270】
(S11:アライメント)
まず、第1の態様のステップS1と同じ要領でアライメントが実行される。これにより、照明系2(照明系20)及び撮影系3(左撮影系30L及び右撮影系30Rの一方。双方でもよい。)がスキャン開始位置これに対応する位置に配置され、動画撮影部40が例えば被検眼Eの正面位置に配置される。
【0271】
(S12:動画撮影を開始)
アライメントの完了後動画撮影部40による前眼部の動画撮影が開始される。この動画撮影の撮影レートは、後述の前眼部スキャンにおける撮影系3の撮影レートと等しくてよい。
【0272】
前眼部スキャンのために照明系2及び撮影系3は移動されるが、動画撮影部40は固定位置から前眼部を動画撮影する。また、動画撮影と並行して前眼部スキャンが行われると、前眼部スキャンで収集された画像群と、動画撮影部40で収集されたフレーム群との間に、前述の対応関係が割り当てられる。
【0273】
動画撮影の開始タイミングは任意であってよく、例えばアライメントの実行前又は実行中であってもよい。
【0274】
(S13:前眼部スキャン)
スリットランプ顕微鏡1は、第1の態様と同様に、照明系2によるスリット光の照射と、撮影系3による動画撮影と、移動機構6による照明系2及び撮影系3の移動とを組み合わせることで、被検眼Eの前眼部をスキャンする。
【0275】
本例では、1回のスキャン(スキャン開始位置からスキャン終了位置までのスキャン)により、256枚の画像が取得される。第1回目のスキャンで得られた256枚の画像(画像群)をH1(1)~H1(256)で示す。256枚の画像H1(1)~H1(256)は、スキャン範囲(スキャン開始位置及びスキャン終了位置を両端とするX方向の範囲)において順序付けられた256個の位置に割り当てられている。
【0276】
(S14:良質な画像を選択)
選択部81Aは、第1の態様と同じ要領で、ステップS13で取得された256枚の画像H1(1)~H1(256)のうちから、所定の画像選択条件を満足する画像を選択する。
【0277】
本例では、図8Aに示すように、第71枚目~第170枚目の100枚の画像H1(71)~H1(170)が画像選択条件を満足せず、第1枚目~第70枚目及び第171枚目~第256枚目の156枚の画像H1(1)~H1(70)及びH1(171)~H1(256)が画像選択条件を満足したとする。この場合、選択部81Aは、256枚の画像H1(1)~H1(256)のうちから、第1枚目~第70枚目及び第171枚目~第256枚目の156枚の画像H1(1)~H1(70)及びH1(171)~H1(256)を選択する。
【0278】
(S15:暫定的画像セットを作成)
選択部81Aは、現時点までに得られた(1以上の)画像群に基づく暫定的画像セットを作成する。本例の現段階では、156枚の画像H1(1)~H1(70)及びH1(171)~H1(256)を含む暫定的画像セットが作成される。
【0279】
(S16:選択画像枚数=所定数?)
選択部81Aは、直前のステップS15で作成された暫定的画像セットに含まれる画像の枚数(選択された画像の枚数)を所定の枚数と比較する。上記のように、本例では、所定の枚数(画像セットに含まれる画像の枚数)は256枚に設定されている。
【0280】
暫定的画像セットに含まれる画像の枚数が256枚に達した場合(S16:Yes)、動作はステップS18に移行する。また、暫定的画像セットに含まれる画像の枚数が256枚に達しない場合(S16:No)、動作はステップS17に移行する。
【0281】
(S17:スキャン回数=所定数?)
選択部81Aは、現段階までに行われたスキャンの回数(スキャンと画像選択との交互反復の回数)を所定の回数と比較する。上記のように、本例では、所定の回数は5回に設定されている。
【0282】
現段階までに行われたスキャン回数が5回に達した場合(S16:Yes)、動作はステップS18に移行する。また、現段階までに行われたスキャン回数が5回に達しない場合(S16:No)、動作はステップS13に戻る。
【0283】
ステップS16又はS17で「Yes」と判定されるまで、ステップS13~ステップ17が繰り返し実行される。ステップS16で「Yes」と判定されることは、画像セットの作成に必要な枚数(256枚)の画像が準備されたことに相当する。また、ステップS17で「Yes」と判定されることは、スキャン及び画像選択が上限回数だけ反復されたことに相当する。
【0284】
(S18:画像セットを作成)
ステップS16又はS17で「Yes」と判定されると、画像セット作成部81は、第1の態様と同じ要領で、直前のステップS15で作成された暫定的画像セットに基づいて画像セットを作成する。
【0285】
ここで、ステップS13~S18について具体例を説明する。前述のように、図8Aの例では、第1回目のスキャン(ステップS13)及び第1回目の画像選択(ステップS14)に基づき、156枚の画像H1(1)~H1(70)及びH1(171)~H1(256)を含む暫定的画像セットが作成された(ステップS15)。
【0286】
この段階では、暫定的画像セットに含まれる画像の枚数が256枚に達していないので(S16:No)、動作はステップS17に移行する。この段階では、スキャンは1回しか行われていないので(S17:No)、動作はステップS13に戻る。
【0287】
動作がステップS13に戻ると、第2回目の前眼部スキャンが行われる。第2回目のスキャンで得られた256枚の画像をH2(1)~H2(256)で示す。第1回目のスキャンで得られた画像群と同様に、256枚の画像H2(1)~H2(256)は、スキャン範囲において順序付けられた256個の位置に割り当てられている。更に、256個の位置を介して、第1回目のスキャンで得られた画像H1(n)と第2回目のスキャンで得られた画像H2(n)とが対応付けられている(n=1、2、・・・、256)。これ以降のスキャンで得られる画像群についても同様である。
【0288】
ステップS14において、選択部81Aは、ステップS13で取得された256枚の画像H2(1)~H2(256)のうちから、所定の画像選択条件を満足する画像を選択する。本例では、図8Bに示すように、第1枚目~第100枚目の100枚の画像H2(1)~H2(100)が画像選択条件を満足せず、第101枚目~第256枚目の156枚の画像H2(101)~H2(256)が画像選択条件を満足したとする。この場合、選択部81Aは、256枚の画像H2(1)~H2(256)のうちから、第101枚目~第256枚目の156枚の画像H2(101)~H2(256)を選択する。
【0289】
ここで、スキャン範囲の或る位置に対応する画像が2つ以上選択された場合、選択部81Aは、それら画像のうちから1つを選択することができる。図8A及び図8Bに示す例においては、例えば、第256番目の位置に対応する画像として、画像H1(256)と画像H2(256)とが選択されている。
【0290】
選択部81Aは、画像H1(256)及び画像H2(256)の一方を選択する処理を実行するように構成されてよい。例えば、選択部81Aは、先に取得された画像H1(256)を選択するように、又は、後に取得された画像H2(256)を選択するように構成されてよい。なお、本例では、選択部81Aは、先に取得された画像を選択するように構成されているものとする。
【0291】
他の例として、選択部81Aは、画像H1(256)と画像H2(256)との比較によって一方を選択するように構成されてよい。例えば、画像H1(256)の画質評価値を算出し、画像H2(256)の画質評価値を算出し、これら画質評価値を比較して画像H1(256)及び画像H2(256)の一方を選択するように構成されてよい。典型的には、画質評価値が最も高い画像が選択される。
【0292】
このような処理により、スキャン範囲における256個の位置のそれぞれに対し、最大1枚の画像が割り当てられる。つまり、暫定的画像セットに含まれる画像の枚数は、最大で256枚である。
【0293】
選択部81Aは、現時点までに得られた2つの画像群(画像群H1(1)~H1(256)及び画像群H2(1)~H2(256))に基づく暫定的画像セットを作成する。本例の現段階では、第1回目のスキャンに基づく156枚の画像H1(1)~H1(70)及びH1(171)~H1(256)と、第2回目のスキャンに基づく70枚の画像H2(101)~H2(170)とを含む暫定的画像セットが作成される。
【0294】
つまり、この段階で得られる暫定的画像セットは、スキャン範囲における256個の位置のうち第1番目~第70番目及び第101番目~第256番目の位置(226個の位置)に対応する226枚の画像H1(1)~H1(70)、H2(101)~H2(170)、及びH1(171)~H1(256)を含んでいる。
【0295】
この段階では、暫定的画像セットに含まれる画像の枚数が256枚に達していないので(S16:No)、動作はステップS17に移行する。この段階では、スキャンは2回しか行われていないので(S17:No)、動作は再度ステップS13に戻る。
【0296】
動作がステップS13に戻ると、第3回目の前眼部スキャンが行われる。第3回目のスキャンで得られた256枚の画像をH3(1)~H3(256)で示す。
【0297】
ステップS14において、選択部81Aは、ステップS13で取得された256枚の画像H3(1)~H3(256)のうちから、所定の画像選択条件を満足する画像を選択する。本例では、図8Cに示すように、第227枚目~第256枚目の30枚の画像H3(227)~H3(256)が画像選択条件を満足せず、第1枚目~第226枚目の226枚の画像H3(1)~H3(226)が画像選択条件を満足したとする。この場合、選択部81Aは、256枚の画像H3(1)~H3(256)のうちから、第1枚目~第226枚目の226枚の画像H3(1)~H3(226)を選択する。
【0298】
更に、選択部81Aは、スキャン範囲における256個の位置のうち既に画像が割り当てられている第1番目~第70番目及び第101番目~第256番目の位置を除く、第71番目~第100番目に対応する30枚の画像H3(71)~H3(100)を、226枚の画像H3(1)~H3(226)のうちから選択する。
【0299】
選択部81Aは、現時点までに得られた3つの画像群(画像群H1(1)~H1(256)、画像群H2(1)~H2(256)、及び、画像群H3(1)~H3(256))に基づく暫定的画像セットを作成する。本例の現段階では、第1回目のスキャンに基づく156枚の画像H1(1)~H1(70)及びH1(171)~H1(256)と、第2回目のスキャンに基づく70枚の画像H2(101)~H2(170)と、第3回目のスキャンに基づく30枚の画像H3(71)~H3(100)とを含む暫定的画像セットが作成される。
【0300】
つまり、この段階で得られる暫定的画像セットは、スキャン範囲における256個の位置の全てに対応する256枚の画像H1(1)~H1(70)、H3(71)~H3(100)、H2(101)~H2(170)、及びH1(171)~H1(256)を含んでいる。したがって、ステップS16において「Yes」と判断されて、動作はステップS18に移行する。
【0301】
ステップS18では、画像セット作成部81が、直前のステップ15で作成された暫定的画像セットに含まれる256枚の画像H1(1)~H1(70)、H3(71)~H3(100)、H2(101)~H2(170)、及びH1(171)~H1(256)に基づいて画像セットを作成する。
【0302】
図7Aに示す動作は、スキャンと画像選択との交互反復を用いて画像セットを作成する処理の例を提供する。これに引き続き図7Bに示す動作が実行される。
【0303】
(S19:画像セットの品質を評価)
評価部82は、第1の態様と同じ要領で、ステップS18で作成された画像セットの品質を評価する。
【0304】
或いは、本態様では、前述した要領で、動画撮影部40により取得された動画像を利用して画像セットの品質を評価してもよい。例えば、図8A図8Cに示す例に基づく画像セットは、256枚の画像H1(1)~H1(70)、H3(71)~H3(100)、H2(101)~H2(170)、及びH1(171)~H1(256)からなる一連の画像を含む。これらの画像を収集するために3回のスキャンが行われ、各スキャンと並行して動画撮影部40による動画撮影が行われた。
【0305】
第1回目のスキャンと並行した動画撮影で得られたフレーム群のうち、画像H1(n)に対応付けられたフレームをJ1(n)で示す(n=1、2、・・・、256)。また、第2回目のスキャンと並行した動画撮影で得られたフレーム群のうち、画像H2(n)に対応付けられたフレームをJ2(n)で示す(n=1、2、・・・、256)。また、第3回目のスキャンと並行した動画撮影で得られたフレーム群のうち、画像H3(n)に対応付けられたフレームをJ3(n)で示す(n=1、2、・・・、256)。
【0306】
よって、本例の画像セットに含まれる256枚の画像H1(1)~H1(70)、H3(71)~H3(100)、H2(101)~H2(170)、及びH1(171)~H1(256)には、それぞれ、フレームJ1(1)~J1(70)、J3(71)~J3(100)、J2(101)~J2(170)、及びJ1(171)~J1(256)が対応付けられている。
【0307】
評価部82は、前述したフレーム群D1~DNに対する処理と同様の処理を、本例の画像セットに含まれる256枚の画像に対応付けられた256枚のフレームに適用することで、この画像セットの評価を行うことができる。
【0308】
(S20:品質良好か?)
ステップS19において画像セットの品質は良好であると判定された場合(S20:Yes)、動作はステップS23に移行する。一方、ステップS19において画像セットの品質は良好でないと判定された場合(S20:No)、動作はステップS21に移行する。
【0309】
(S21:再撮影を促す)
ステップS19において画像セットの品質は良好でないと判定された場合(S20:No)、制御部7は、第1の態様と同じ要領で、ユーザーに再撮影を促すための情報を表示及び/又は音声出力する。
【0310】
(S22:再撮影するか?)
ユーザーは、ステップS21で表示及び/又は音声出力された情報への応答として、再撮影を開始するための指示操作、又は、再撮影を行わないための指示操作を行う。
【0311】
再撮影を開始するための指示操作をユーザーが行った場合(S22:Yes)、動作はステップS1に戻る。この場合、スリットランプ顕微鏡は、ここまでの一連の処理を再度実行する。なお、再撮影は、例えば、所定の回数を上限として繰り返される。
【0312】
一方、再撮影を行わないための指示操作をユーザーが行った場合(S22:No)、動作はステップS23に移行する。
【0313】
(S23:画像セットを送信)
ステップS19において画像セットの品質は良好であると判定された場合(S20:Yes)、又は、ステップS22において再撮影を行わないための指示操作をユーザーが行った場合(S22:No)、制御部7は、読影端末及び/又は読影装置に画像セットを送信するように通信部9を制御する。
【0314】
(S24:画像セットを読影)
読影端末は、医師が読影を行うために使用するコンピュータである。また、読影装置は、読影機能を有するコンピュータである。
【0315】
ステップS23で読影端末に画像セットが送信された場合、医師は、読影端末を用いて、この画像セットに含まれる一連の画像の読影を行う。ステップS23で読影装置に画像セットが送信された場合、読影装置は、この画像セットの読影を行う。
【0316】
(S25:読影レポートを作成)
ステップS24で医師が読影を行った場合、医師は読影の結果を所定のレポートテンプレートに入力する。ステップS24で読影装置が読影を行った場合、読影装置は読影の結果を所定のレポートテンプレートに入力する。これにより、画像セットに関する読影レポートが作成される。
【0317】
(S26:画像セット・読影レポートを保存)
画像セット及び読影レポートは、例えば、スリットランプ顕微鏡1が設置されている施設、被検者等が指定した医療機関、被検者等が指定した医師が使用する情報処理装置、被検者が登録したアドレス(電子メールアドレス、住所など)などに提供され、保存される。また、所定のデータベースシステムに画像セット及び読影レポートを送信して保管・管理するようにしてもよい。
【0318】
以上で、本例に係る動作の説明を終える。
【0319】
本態様のスリットランプ顕微鏡が奏する幾つかの効果について説明する。なお、第1の態様のスリットランプ顕微鏡1と共通の効果については、特に言及しない限り説明を省略する。
【0320】
本態様のスリットランプ顕微鏡は、スキャンと画像選択との交互反復において、スキャン開始時の前眼部像を一致させてスキャン間における被検眼のずれを防ぐことができる。そのために、本態様のスリットランプ顕微鏡は、第1の態様の要素に加え、被検眼の前眼部を固定位置から撮影する動画撮影部40(撮影部)を含む。制御部7は、第1スキャンの開始に対応して動画撮影部40により取得された基準画像と略同じ画像が動画撮影部40により取得されたことに対応してスキャン部に第2スキャンを開始させるように構成される。
【0321】
本態様のスリットランプ顕微鏡は、画像セットの品質評価において、動画撮影部40により取得された動画像(フレーム群)を利用することができる。そのために、本態様のスリットランプ顕微鏡は、第1の態様の要素に加え、被検眼の前眼部へのスキャンの適用と並行して前眼部を固定位置から動画撮影する動画撮影部40を含む。評価部82は、動画撮影部40により取得された動画像に基づいて画像セット品質の評価を行うように構成される。
【0322】
このとき、評価部82は、画像セットに含まれる一連の画像と動画撮影部40により取得された動画像に含まれる一連のフレームとの間の対応関係に基づいて、画像セットの品質の評価を行うように構成されてよい。
【0323】
更に、評価部82は、動画撮影部40により取得された動画像に含まれる一連のフレーム中のランドマークと、画像セットに含まれる一連の画像と動画像に含まれる一連のフレームとの間の対応関係と、に基づいて、画像セットの品質の評価を行うように構成されてよい。
【0324】
本態様の画像セット評価によれば、第1の態様とは異なる評価手法を提供することができる。なお、本態様の評価手法と第1の態様の評価手法のいずれを採用するかは任意である。
【0325】
<第3の態様>
本態様では、眼科撮影装置と情報処理装置と読影端末とを含む眼科システムについて説明する。眼科撮影装置は、少なくともスリットランプ顕微鏡としての機能を有する。眼科撮影装置に含まれるスリットランプ顕微鏡は、第1又は第2の態様のスリットランプ顕微鏡であってよい。以下、第1及び/又は第2の態様の要素や構成や符号を適宜に準用しつつ説明を行う。
【0326】
図9に例示された眼科システム1000は、眼科撮影が行われるT個の施設(第1施設~第T施設)のそれぞれと、サーバ4000と、読影端末5000mとを結ぶ通信路(通信回線)1100を利用して構築されている。
【0327】
ここで、眼科撮影は、スリットランプ顕微鏡を用いた前眼部撮影を少なくとも含む。この前眼部撮影は、少なくとも、第1及び/又は第2の態様で説明した、スリット光を用いた前眼部スキャンを含む。
【0328】
各施設(第t施設:t=1~T、Tは1以上の整数)には、眼科撮影装置2000-i(i=1~K、Kは1以上の整数)が設置されている。つまり、各施設(第t施設)には、1以上の眼科撮影装置2000-iが設置されている。眼科撮影装置2000-iは、眼科システム1000の一部を構成する。なお、眼科以外の検査を実施可能な検査装置が眼科システム1000に含まれていてもよい。
【0329】
本例の眼科撮影装置2000-iは、被検眼の撮影を実施する「撮影装置」としての機能と、各種データ処理や外部装置との通信を行う「コンピュータ」としての機能の双方を備えている。他の例において、撮影装置とコンピュータとを別々に設けることが可能である。この場合、撮影装置とコンピュータとは互いに通信可能に構成されてよい。更に、撮影装置の数とコンピュータの数とはそれぞれ任意であり、例えば単一のコンピュータと複数の撮影装置とを設けることができる。
【0330】
眼科撮影装置2000-iにおける「撮影装置」は、少なくともスリットランプ顕微鏡を含む。このスリットランプ顕微鏡は、第1又は第2の態様のスリットランプ顕微鏡であってよい。
【0331】
更に、各施設(第t施設)には、補助者や被検者により使用可能な情報処理装置(端末3000-t)が設置されている。端末3000-tは、当該施設において使用されるコンピュータであり、例えば、タブレット端末やスマートフォン等のモバイル端末、当該施設に設置されたサーバなどであってよい。更に、端末3000-tは、無線型イヤフォン等のウェアラブルデバイスを含んでいてもよい。なお、端末3000-tは、当該施設においてその機能を使用可能なコンピュータであれば十分であり、例えば、当該施設の外に設置されたコンピュータ(クラウドサーバ等)であってもよい。
【0332】
眼科撮影装置2000-iと端末3000-tとは、第t施設内に構築されたネットワーク(施設内LAN等)や、広域ネットワーク(インターネット等)や、近距離通信技術を利用して通信を行えるように構成されてよい。
【0333】
眼科撮影装置2000-iは、サーバ等の通信機器としての機能を備えていてよい。この場合、眼科撮影装置2000-iと端末3000-tとが直接に通信を行うように構成することができる。これにより、サーバ4000と端末3000-tとの間の通信を眼科撮影装置2000-iを介して行うことができるので、端末3000-tとサーバ4000との間で通信を行う機能を設ける必要がなくなる。
【0334】
サーバ4000は、典型的には、第1~第T施設のいずれとも異なる施設に設置され、例えば管理センタに設置されている。サーバ4000は、ネットワーク(LAN、広域ネットワーク等)を介して、読影端末5000m(m=1~M、Mは1以上の整数)と通信が可能である。更に、サーバ4000は、第1~第T施設に設置された眼科撮影装置2000-iの少なくとも一部との間で、広域ネットワークを介して通信が可能である。
【0335】
サーバ4000は、例えば、眼科撮影装置2000-iと読影端末5000mとの間の通信を中継する機能と、この通信の内容を記録する機能と、眼科撮影装置2000-iにより取得されたデータや情報を記憶する機能と、読影端末5000mにより取得されたデータや情報を記憶する機能とを備える。サーバ4000は、データ処理機能を備えてもよい。
【0336】
読影端末5000mは、眼科撮影装置2000-iによって取得された被検眼の画像(例えば、画像セットに含まれる複数の前眼部画像、又は、これらに基づく3次元画像のレンダリング画像)の読影と、レポート作成とに使用可能なコンピュータを含む。読影端末5000mは、データ処理機能を備えてもよい。
【0337】
サーバ4000について説明する。図10に例示されたサーバ4000は、制御部4010と、通信確立部4100と、通信部4200とを備える。
【0338】
制御部4010は、サーバ4000の各部の制御を実行する。制御部4010は、その他の演算処理を実行可能であってよい。制御部4010はプロセッサを含む。制御部4010は、更に、RAM、ROM、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブなどを含んでいてよい。
【0339】
制御部4010は、通信制御部4011と転送制御部4012とを含む。
【0340】
通信制御部4011は、複数の眼科撮影装置2000-iと複数の端末3000-tと複数の読影端末5000mとを含む複数の装置の間における通信の確立に関する制御を実行する。例えば、通信制御部4011は、眼科システム1000に含まれる複数の装置のうちから後述の選択部4120によって選択された2以上の装置のそれぞれに向けて、通信を確立するための制御信号を送る。
【0341】
転送制御部4012は、通信確立部4100(及び通信制御部4011)により通信が確立された2以上の装置の間における情報のやりとりに関する制御を行う。例えば、転送制御部4012は、通信確立部4100(及び通信制御部4011)により通信が確立された少なくとも2つの装置のうちの一方の装置から送信された情報を他の装置に転送するように機能する。
【0342】
具体例として、眼科撮影装置2000-iと読影端末5000mとの間の通信が確立された場合、転送制御部4012は、眼科撮影装置2000-iから送信された情報(例えば、画像セット)を読影端末5000mに転送することができる。逆に、転送制御部4012は、読影端末5000mから送信された情報(例えば、眼科撮影装置2000-iへの指示、読影レポートなど)を眼科撮影装置2000-iに転送することができる。
【0343】
転送制御部4012は、送信元の装置から受信した情報を加工する機能を有していてもよい。この場合、転送制御部4012は、受信した情報と、加工処理により得られた情報との少なくとも一方を転送先の装置に送信することができる。
【0344】
例えば、転送制御部4012は、眼科撮影装置2000-i等から送信された情報の一部を抽出して読影端末5000m等に送信することができる。例えば、転送制御部4012は、眼科撮影装置2000-iから送信された画像セットから一連の画像を抽出して読影端末5000mに送信することができる。
【0345】
また、眼科撮影装置2000-i等から送信された情報(例えば、画像セット)をサーバ4000又は他の装置によって解析し、その解析結果(及び元の情報)を読影端末5000m等に送信するようにしてもよい。例えば、眼科撮影装置2000-iから送信された画像セットの読影を人工知能エンジン等を用いて実行し、その結果を画像セットとともに読影端末5000mに送信することができる。
【0346】
眼科撮影装置2000-iから画像セットが送信された場合、サーバ4000又は他の装置が、この画像セットに含まれる一連の画像から3次元画像(例えば、スタックデータ又はボリュームデータ)を構築し、転送制御部4012が、構築された3次元画像を読影端末5000mに送信するように構成することが可能である。
【0347】
眼科撮影装置2000-iからスタックデータが送信された場合、サーバ4000又は他の装置が、このスタックデータからボリュームデータを構築し、転送制御部4012が、構築されたボリュームデータを読影端末5000mに送信するように構成することが可能である。
【0348】
サーバ4000又は他の装置により実行可能なデータ加工処理は、上記した例には限定されず、任意のデータ処理を含んでいてよい。例えば、サーバ4000又は他の装置は、3次元画像のレンダリング、アーティファクト除去、歪み補正、計測などを実行可能であってよい。
【0349】
通信確立部4100は、複数の眼科撮影装置2000-iと複数の端末3000-tと複数の読影端末5000mとを含む複数の装置のうちから選択された少なくとも2つの装置の間における通信を確立するための処理を実行する。本態様において「通信の確立」とは、例えば、(1)通信が切断された状態から一方向通信を確立すること、(2)通信が切断された状態から双方向通信を確立すること、(3)受信のみが可能な状態から送信も可能な状態に切り替えること、(4)送信のみが可能な状態から受信も可能な状態に切り替えること、のうちの少なくとも1つを含む概念である。
【0350】
更に、通信確立部4100は、確立されている通信を切断する処理を実行可能である。本態様において「通信の切断」とは、例えば、(1)一方向通信が確立された状態から通信を切断すること、(2)双方向通信が確立された状態から通信を切断すること、(3)双方向通信が確立された状態から一方向通信に切り替えること、(4)送信及び受信が可能な状態から受信のみが可能な状態に切り替えること、(5)送信及び受信が可能な状態から送信のみが可能な状態に切り替えること、のうちの少なくとも1つを含む概念である。
【0351】
眼科撮影装置2000-i、端末3000-t、及び読影端末5000mのそれぞれは、他の装置(そのユーザー)を呼び出すための通信要求(呼び出し要求)と、他の2つの装置の間の通信に割り込むための通信要求(割り込み要求)とのうちの少なくとも一方をサーバ4000に送信することができる。呼び出し要求及び割り込み要求は、手動又は自動で発信される。サーバ4000(通信部4200)は、眼科撮影装置2000-i、端末3000-t、又は読影端末5000mから送信された通信要求を受信する。
【0352】
本態様において、通信確立部4100は選択部4120を含んでいてよい。選択部4120は、例えば、眼科撮影装置2000-i、端末3000-t、又は読影端末5000mから送信された通信要求に基づいて、眼科撮影装置2000-i、端末3000-t、及び読影端末5000mのうちから、当該通信要求を送信した装置以外の1以上の装置を選択する。
【0353】
選択部4120が実行する処理の具体例を説明する。眼科撮影装置2000-i又は端末3000-tからの通信要求(例えば、眼科撮影装置2000-iにより取得された画像の読影の要求)を受けた場合、選択部4120は、例えば、複数の読影端末5000mのうちのいずれかを選択する。通信確立部4100は、選択された読影端末5000mと、眼科撮影装置2000-i及び端末3000-tの少なくとも一方との間の通信を確立する。
【0354】
通信要求に応じた装置の選択は、例えば、予め設定された属性に基づいて実行される。この属性の例として、検査の種別(例えば、撮影モダリティの種別、画像の種別、疾患の種別、候補疾患の種別など)や、要求される専門度・熟練度や、言語の種別などがある。本例では、例えば、読影者の専門分野や熟練度が参照される。本例に係る処理を実現するために、通信確立部4100は、予め作成された属性情報が記憶された記憶部4110を含んでいてよい。属性情報には、読影端末5000m及び/又はそのユーザー(医師、オプトメトリスト等)の属性が記録されている。
【0355】
ユーザーの識別は、事前に割り当てられたユーザーIDによって行われる。また、読影端末5000mの識別は、例えば、事前に割り当てられた装置IDやネットワークアドレスによって行われる。典型的な例において、属性情報は、各ユーザーの属性として、専門分野(例えば、診療科、専門とする疾患など)、専門度・熟練度、使用可能な言語の種別などを含む。
【0356】
選択部4120が属性情報を参照する場合、眼科撮影装置2000-i、端末3000-t、又は読影端末5000mから送信される通信要求は、属性に関する情報を含んでいてよい。例えば、眼科撮影装置2000-iから送信される読影要求(診断要求)は、次のいずれかの情報を含んでいてよい:(1)撮影モダリティの種別を示す情報;(2)画像の種別を示す情報;(3)疾患名や候補疾患名を示す情報;(4)読影の難易度を示す情報;(5)眼科撮影装置2000-i及び/又は端末3000-tのユーザーの使用言語を示す情報。
【0357】
このような読影要求を受信した場合、選択部4120は、この読影要求と記憶部4110に記憶された属性情報とに基づいて、いずれかの読影端末5000mを選択することができる。このとき、選択部4120は、読影要求に含まれる属性に関する情報と、記憶部4110に記憶された属性情報に記録された情報とを照合する。それにより、選択部4120は、例えば、次のいずれかの属性に該当する医師(又はオプトメトリスト)に対応する読影端末5000mを選択する:(1)当該撮影モダリティを専門とする医師;(2)当該画像種別を専門とする医師;(3)当該疾患(当該候補疾患)を専門とする医師;(4)当該難易度の読影が可能な医師;(5)当該言語を使用可能な医師。
【0358】
なお、医師やオプトメトリストと、読影端末5000mとの間の対応付けは、例えば、読影端末5000m(又は眼科システム1000)へのログイン時に入力されたユーザーIDによってなされる。
【0359】
通信部4200は、他の装置(例えば、眼科撮影装置2000-i、端末3000-t、及び読影端末5000mのいずれか)との間でデータ通信を行う。データ通信の方式や暗号化については、眼科撮影装置2000-iに設けられた通信部(第1の態様の通信部9)と同様であってよい。
【0360】
サーバ4000は、データ処理部4300を含む。データ処理部4300は、各種のデータ処理を実行する。データ処理部4300は、眼科撮影装置2000-i(特に、スリットランプ顕微鏡)により取得された複数の前眼部画像又は3次元画像を処理することができる。データ処理部4300は、プロセッサ、主記憶装置、補助記憶装置などを含む。補助記憶装置には、データ処理プログラム等が記憶されている。データ処理部4300の機能は、データ処理プログラム等のソフトウェアと、プロセッサ等のハードウェアとの協働によって実現される。
【0361】
サーバ4000は、データ処理部4300により得られたデータを他の装置に提供することができる。例えば、データ処理部4300が、眼科撮影装置2000-iにより取得された複数の前眼部画像から3次元画像を構築した場合、サーバ4000は、通信部4200により、この3次元画像を読影端末5000mに送信することができる。データ処理部4300が、眼科撮影装置2000-i又はデータ処理部4300により構築された3次元画像をレンダリングした場合、サーバ4000は、通信部4200により、構築されたレンダリング画像を読影端末5000mに送信することができる。データ処理部4300が、1以上の前眼部画像又は3次元画像に計測処理を適用した場合、サーバ4000は、通信部4200により、得られた計測データを読影端末5000mに送信することができる。データ処理部4300が、1以上の前眼部画像又は3次元画像に歪み補正を適用した場合、サーバ4000は、通信部4200により、補正された画像を読影端末5000mに送信することができる。
【0362】
続いて、読影端末5000mについて説明する。図11に例示された読影端末5000mは、制御部5010と、データ処理部5100と、通信部5200と、操作部5300とを備える。
【0363】
制御部5010は、読影端末5000mの各部の制御を実行する。制御部5010は、その他の演算処理を実行可能であってよい。制御部5010は、プロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブなどを含む。
【0364】
制御部5010は表示制御部5011を含む。表示制御部5011は、表示装置6000mを制御する。表示装置6000mは、読影端末5000mに含まれてもよいし、読影端末5000mに接続された周辺機器であってもよい。表示制御部5011は、被検眼Eの前眼部の画像(例えば、画像セットに含まれる一連の画像)を表示装置6000mに表示させる。
【0365】
制御部5010はレポート作成制御部5012を含む。レポート作成制御部5012は、表示制御部5011により表示された情報に関するレポートを作成するための各種の制御を実行する。例えば、レポート作成制御部5012は、レポートを作成するための画面やグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)を表示装置6000mに表示させる。また、レポート作成制御部5012は、ユーザーが入力した情報や、前眼部の画像や、計測データや、解析データなどを、所定のレポートテンプレートに入力する。
【0366】
データ処理部5100は、各種のデータ処理を実行する。データ処理部5100は、眼科撮影装置2000-i(特に、スリットランプ顕微鏡)により取得された複数の前眼部画像又は3次元画像を処理することができる。また、データ処理部5100は、サーバ4000等の他の情報処理装置により構築された3次元画像又はレンダリング画像を処理することができる。データ処理部5100は、プロセッサ、主記憶装置、補助記憶装置などを含む。補助記憶装置には、データ処理プログラム等が記憶されている。データ処理部5100の機能は、データ処理プログラム等のソフトウェアと、プロセッサ等のハードウェアとの協働によって実現される。
【0367】
通信部5200は、他の装置(例えば、眼科撮影装置2000-i、端末3000-t、及びサーバ4000のいずれか)との間でデータ通信を行う。データ通信の方式や暗号化については、眼科撮影装置2000-iの通信部と同様であってよい。
【0368】
操作部5300は、読影端末5000mの操作、読影端末5000mへの情報入力などに使用される。本態様では、操作部5300はレポートの作成に使用される。操作部5300は、操作デバイスや入力デバイスを含む。操作部5300は、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、操作パネル、スイッチ、ボタン、ダイアルなどを含む。操作部5300は、タッチスクリーンを含んでもよい。
【0369】
本態様の眼科システム1000は、次のような動作を実行可能である。
【0370】
まず、眼科撮影装置2000-i(スリットランプ顕微鏡)が、被検眼の前眼部をスリット光でスキャンして画像群を収集する。本例では、前眼部に2回以上のスキャンが適用される。眼科撮影装置2000-iは、2回以上のスキャンに対応して収集された2以上の画像群から、スキャン範囲に対応する一連の画像を選択して画像セットを作成する。更に、眼科撮影装置2000-iは、作成された画像セットを含む第1送信情報を、通信回線1100を通じてサーバ4000に送信する。このような眼科撮影装置2000-iの動作は、第1又は第2の態様と同じ要領で実行されてよい。また、眼科撮影装置2000-iは、第1又は第2の態様における任意の処理を実行可能であってよい。
【0371】
サーバ4000は、眼科撮影装置2000-iから送信された第1送信情報を通信部4200(受信部)によって受信し、この第1送信情報を記憶部4110に記憶する。更に、サーバ4000は、通信部4200(送信部)を用いて、第1送信情報に含まれる画像セットを少なくとも含む第2送信情報を、通信回線1100を通じて読影端末5000mに送信する。
【0372】
読影端末5000mは、サーバ4000から送信された第2送信情報を通信部5200(受信部)によって受信する。読影端末5000mのユーザー(読影者)は、ユーザーインターフェイス(操作部5300、表示装置6000m、レポート作成制御部5012等)を利用して、画像セットの読影を行う。読影端末5000mは、通信部5200(送信部)によって、ユーザーインターフェイスを用いて入力された情報(読影レポート等)を含む第3送信情報を、通信回線1100を通じてサーバ4000に送信する。
【0373】
サーバ4000は、読影端末5000mから送信された第3送信情報を通信部4200(受信部)により受信し、この第3送信情報を第1送信情報に関連付けて記憶部4110に記憶する。
【0374】
このような眼科システム1000によれば、被検眼の前眼部に対する2回以上のスキャンに基づき作成された良好な品質の画像セットを医師(読影者)に提供することができるため、高品質なスリットランプ顕微鏡検査を広く提供することが可能となる。
【0375】
また、従来においては、医師が遠隔地から操作を行いつつ診察を行っているが、本態様では、医師は、事前に取得された画像セットを読影するだけでよい。つまり、本態様では、撮影の手間や時間から医師を解放することができ、読影に集中することが可能となる。よって、本態様は、高品質なスリットランプ顕微鏡検査の提供範囲の拡大に寄与する。
【0376】
<第4の態様>
本態様では、眼科撮影装置と情報処理装置と読影装置とを含む眼科システムについて説明する。第3の態様との相違は、読影端末の代わりに読影装置が設けられている点である。なお、第3の態様と第4の態様とを組み合わせ、読影端末及び読影装置の双方を含む眼科システムを構築することも可能である。以下、第1、第2及び第3の態様のいずれかの要素や構成や符号を適宜に準用しつつ説明を行う。
【0377】
図12に例示された眼科システム1000Aは、前述したように、第3の態様の眼科システム1000の読影端末5000mを読影装置7000mに置き換えたものである。読影装置7000mは、例えば画像処理プロセッサ又は人工知能エンジンを利用して、眼科撮影装置2000-i(スリットランプ顕微鏡)により取得された画像セットの読影を行うコンピュータである。
【0378】
読影装置7000mの構成例を図13に示す。本例の読影装置7000mは、読影処理部7100と通信部7200とを含む。通信部7200は、他の装置(例えば、眼科撮影装置2000-i、端末3000-t、及びサーバ4000のいずれか)との間でデータ通信を行う。
【0379】
読影処理部7100は、例えば、読影用のプログラムにしたがって動作する読影プロセッサを含み、画像セットに含まれる一連の画像を解析して所見を得る。幾つかの態様において、読影処理部7100は、画像セットに含まれる一連の画像から所見を得るために、第1の態様における人工知能エンジンを含んでいてもよい。更に、読影処理部7100は、取得された所見に基づきレポートを作成する。
【0380】
本態様の眼科システム1000Aは、次のような動作を実行可能である。
【0381】
まず、眼科撮影装置2000-i(スリットランプ顕微鏡)が、被検眼の前眼部をスリット光でスキャンして画像群を収集する。本例では、前眼部に2回以上のスキャンが適用される。眼科撮影装置2000-iは、2回以上のスキャンに対応して収集された2以上の画像群から、スキャン範囲に対応する一連の画像を選択して画像セットを作成する。更に、眼科撮影装置2000-iは、作成された画像セットを含む第1送信情報を、通信回線1100を通じてサーバ4000に送信する。このような眼科撮影装置2000-iの動作は、第1又は第2の態様と同じ要領で実行されてよい。また、眼科撮影装置2000-iは、第1又は第2の態様における任意の処理を実行可能であってよい。
【0382】
サーバ4000は、眼科撮影装置2000-iから送信された第1送信情報を通信部4200(受信部)によって受信し、この第1送信情報を記憶部4110に記憶する。更に、サーバ4000は、通信部4200(送信部)を用いて、第1送信情報に含まれる画像セットを少なくとも含む第2送信情報を、通信回線1100を通じて読影端末5000mに送信する。
【0383】
読影装置7000mは、サーバ4000から送信された第2送信情報を通信部7200(受信部)によって受信する。読影装置7000mは、読影処理部7100により画像セットの読影を行う。読影装置7000mは、通信部7200(送信部)によって、読影処理部7100により取得された情報を含む第4送信情報を、通信回線1100を通じてサーバ4000に送信する。
【0384】
サーバ4000は、読影装置7000mから送信された第4送信情報を通信部4200(受信部)により受信し、この第4送信情報を第1送信情報に関連付けて記憶部4110に記憶する。
【0385】
このような眼科システム1000Aによれば、被検眼の前眼部に対する2回以上のスキャンに基づき作成された良好な品質の画像セットを読影装置に提供することができるため、高品質なスリットランプ顕微鏡検査を広く提供することが可能となる。
【0386】
また、読影装置を用いた自動読影により医師(読影者)の作業を支援することができるので、本態様は、高品質なスリットランプ顕微鏡検査の提供範囲の拡大に寄与する。
【0387】
読影装置7000mが人工知能エンジンを含み、且つ、眼科撮影装置2000-i(スリットランプ顕微鏡)が人工知能エンジンを含む場合、画像セットを作成した眼科撮影装置2000-i(スリットランプ顕微鏡)と同等の能力の人工知能エンジンが搭載された読影装置7000mを選択して当該画像セットを提供するようにしてもよい。
【0388】
これにより、眼科撮影装置2000-i(スリットランプ顕微鏡)の人工知能エンジンによる出力と、読影装置7000mの人工知能エンジンによる出力との間に矛盾や誤差が発生する不都合を防止することが可能となる。
【0389】
また、読影端末5000m及び読影装置7000mの双方を含む眼科システムにおいて、画像セットを作成した眼科撮影装置2000-i(スリットランプ顕微鏡)と同等の能力の人工知能エンジンが搭載された読影装置7000mが存在しない場合、当該画像セットを読影端末5000mに送信するようにしてもよい。
【0390】
〈その他の事項〉
以上に説明した幾つかの態様は本発明の例示に過ぎない。したがって、本発明の要旨の範囲内における任意の変形(省略、置換、付加等)を上記の態様に対して適宜に施すことが可能である。
【0391】
いずれかの態様に係るスリットランプ顕微鏡を制御する方法を提供することができる。スリットランプ顕微鏡は、プロセッサと、被検眼の前眼部をスリット光でスキャンして画像群を収集するスキャン部とを含む。本制御方法は、まず、被検眼の前眼部に2回以上のスキャンを適用するためのスキャン部の制御をプロセッサに実行させる。更に、本制御方法は、2回以上のスキャンに対応してスキャン部により収集された2以上の画像群から、スキャン範囲に対応する一連の画像を選択して画像セットを作成する処理を、プロセッサに実行させる。
【0392】
この制御方法をコンピュータに実行させるプログラムを構成することが可能である。更に、このプログラムを記録したコンピュータ可読な非一時的記録媒体を作成することが可能である。この非一時的記録媒体は任意の形態であってよく、その例として、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリなどがある。
【0393】
同様に、第1~第4の態様のいずれかにおいて開示された任意の制御方法を提供することができる。また、第1~第4の態様のいずれかにおいて開示された任意の処理方法(演算方法、画像処理方法、画像解析方法等)を提供することができる。更に、この処理方法をコンピュータに実行させるプログラムを構成することが可能である。加えて、このプログラムを記録したコンピュータ可読な非一時的記録媒体を作成することが可能である。

図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13