(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】エンジンシステム及び気体燃料燃焼方法
(51)【国際特許分類】
F02D 19/08 20060101AFI20230908BHJP
F02D 41/40 20060101ALI20230908BHJP
【FI】
F02D19/08 C
F02D41/40
(21)【出願番号】P 2022199268
(22)【出願日】2022-12-14
(62)【分割の表示】P 2021153066の分割
【原出願日】2021-09-21
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】本田 祐介
(72)【発明者】
【氏名】壽 和輝
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-532273(JP,A)
【文献】特表2012-532272(JP,A)
【文献】特開2020-143577(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0122226(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0362791(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/00
F02D 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気及び気体燃料が供給される燃焼室を有し、前記気体燃料を燃焼させるエンジンシステムであって、
液体燃料を噴射して、前記気体燃料に着火する液体燃料噴射部と、
前記液体燃料噴射部を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、前記気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後にのみ、前記液体燃料の後続噴射を実行し燃焼させ、
前記液体燃料の後続噴射が、前記気体燃料の燃焼期間のうちの前半の期間内で開始されるように、前記液体燃料噴射部を制御する、エンジンシステム。
【請求項2】
所定期間において複数回の燃焼サイクルが実行され、
前記液体燃料噴射部は、前記燃焼サイクルごとに、前記気体燃料の着火と火炎伝播終了後の前記液体燃料の後続噴射とを実行し、
前記制御部は、前記所定期間内では、前記気体燃料に着火する際の前記液体燃料の噴射量の増加を禁止する、請求項1に記載のエンジンシステム。
【請求項3】
前記気体燃料に着火する際の前記液体燃料の噴射量の増加とは、エンジンに対する負荷の上昇に応じた前記液体燃料の噴射量の増加のことであり、
前記所定期間は、10秒間を示す、請求項2に記載のエンジンシステム。
【請求項4】
前記気体燃料の燃焼に起因して発生する排気物質を直接的又は間接的に示す物理量を計測する計測部を更に備え、
前記制御部は、前記計測部の計測結果に基づいて、火炎伝播終了後の前記液体燃料の後続噴射を制御する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のエンジンシステム。
【請求項5】
前記制御部は、火炎伝播終了後に前記液体燃料を後続噴射する際の条件に応じて、前記燃焼室内の空気過剰率を制御する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のエンジンシステム。
【請求項6】
前記燃焼室内で移動するピストンを更に備え、
前記ピストンの移動方向に対する前記液体燃料の噴射角度は、30度以上65度以下を示す、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のエンジンシステム。
【請求項7】
前記制御部は、火炎伝播終了後の前記液体燃料の後続噴射を、ピストンの上死点後において、クランク角度が30度以上60度未満の範囲で実行するように、前記液体燃料噴射部を制御する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のエンジンシステム。
【請求項8】
前記制御部は、火炎伝播終了後の前記液体燃料の噴射回数と、火炎伝播終了後の前記液体燃料の噴射量と、火炎伝播終了後の前記液体燃料の噴射タイミングとのうちの少なくとも1つを変更することで、エンジンからの排気物質の量を調整する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のエンジンシステム。
【請求項9】
空気及び気体燃料を燃焼室に供給して前記気体燃料を燃焼させるエンジンにおける気体燃料燃焼方法であって、
液体燃料を噴射して、前記気体燃料に着火するステップと、
前記気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後にのみ、前記液体燃料の後続噴射を実行し燃焼させるステップと
を含み、
前記液体燃料の後続噴射が、前記気体燃料の燃焼期間のうちの前半の期間内で開始される、気体燃料燃焼方法。
【請求項10】
所定期間において複数回の燃焼サイクルが実行され、
前記燃焼サイクルごとに、前記気体燃料の着火と火炎伝播終了後の前記液体燃料の後続噴射とが実行され、
前記所定期間内では、前記気体燃料に着火する際の前記液体燃料の噴射量の増加が禁止される、請求項9に記載の気体燃料燃焼方法。
【請求項11】
前記気体燃料に着火する際の前記液体燃料の噴射量の増加とは、前記エンジンに対する負荷の上昇に応じた前記液体燃料の噴射量の増加のことであり、
前記所定期間は、10秒間を示す、請求項10に記載の気体燃料燃焼方法。
【請求項12】
火炎伝播終了後の前記液体燃料の後続噴射は、ピストンの上死点後において、クランク角度が30度以上60度未満の範囲で実行される、請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の気体燃料燃焼方法。
【請求項13】
火炎伝播終了後の前記液体燃料の噴射回数と、火炎伝播終了後の前記液体燃料の噴射量と、火炎伝播終了後の前記液体燃料の噴射タイミングとのうちの少なくとも1つを変更することで、前記エンジンからの排気物質の量を調整する、請求項9から請求項12のいずれか1項に記載の気体燃料燃焼方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンシステム及び気体燃料燃焼方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されている内燃機関操作方法では、ディーゼルタイプの二元燃料内燃機関を操作する。内燃機関は、燃焼室と、第1燃料の第1燃料供給装置と、第2燃料の第2燃料供給装置とを含む。内燃機関操作方法は、第1ステップ~第4ステップを含む。
【0003】
第1ステップにおいて、燃焼室において第1燃料を予混合する。第2ステップにおいて、第1燃料を含む装入材料を、第2燃料の自己着火を可能にする条件まで圧縮する。第3ステップにおいて、燃焼室への第2燃料の第1噴射を実施して、第2燃料の自己着火を開始することにより、第1燃料を着火する。これによって、第1燃料の予混合火炎伝播燃焼の条件を開始する。第4ステップにおいて、少なくとも1回の後続噴射を実施するが、後続噴射によって追加の運動エネルギーを燃焼過程に供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている内燃機関操作方法では、火炎の伝播速度を高めることを目的として、後続噴射を実行している。火炎の伝播速度を高めることで燃焼速度が速くなると、燃焼時の最高温度が高温になる。その結果、第1燃料の燃焼の際に窒素酸化物の生成量が増加する。また、第1燃料の燃焼の際には、未燃焼の炭化水素が発生する場合がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、気体燃料を燃焼させる際に、窒素酸化物の生成の抑制と、未燃焼の炭化水素の残存の抑制とのうちの少なくとも一方を実現できるエンジンシステム及び気体燃料燃焼方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面によれば、エンジンシステムは、空気及び気体燃料が供給される燃焼室を有し、前記気体燃料を燃焼させる。エンジンシステムは、液体燃料噴射部と、制御部とを備える。液体燃料噴射部は、液体燃料を噴射して、前記気体燃料に着火する。制御部は、前記液体燃料噴射部を制御する。前記制御部は、前記気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後に前記液体燃料の噴射を実行するように、前記液体燃料噴射部を制御する。
【0008】
本発明の他の局面によれば、空気及び気体燃料を燃焼室に供給して前記気体燃料を燃焼させるエンジンにおける気体燃料燃焼方法は、液体燃料を噴射して、前記気体燃料に着火するステップと、前記気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後に、前記液体燃料の噴射を実行するステップとを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、気体燃料を燃焼させる際に、窒素酸化物の生成の抑制と、未燃焼の炭化水素の残存の抑制とのうちの少なくとも一方を実現できるエンジン及び気体燃料燃焼方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るエンジンシステムの構成を示す模式図である。
【
図2】本実施形態に係るエンジンシステムを示すブロック図である。
【
図3】(a)は、本実施形態に係る液体燃料の噴射タイミングの一例を示す図である。(b)は、本実施形態に係る液体燃料の噴射タイミングの他の例を示す図である。
【
図4】本実施形態に係るエンジンにおける気体燃料の燃焼特性を模式的に示す図である。
【
図5】(a)は、本実施形態に係るエンジンにおける未燃焼の炭化水素の残存量を模式的に示すグラフである。(b)は、本実施形態に係るエンジンにおける窒素酸化物の生成量を模式的に示すグラフである。
【
図6】本実施形態に係るエンジンの燃焼サイクルを模式的に示すタイムチャートである。
【
図7】本実施形態に係る液体燃料の噴射角度を模式的に示す図である。
【
図8】本実施形態に係る気体燃料燃焼方法を示すフローチャートである。
【
図9】本実施形態の変形例に係る気体燃料燃焼方法を示すフローチャートである。
【
図10】(a)は、本発明の実施例1~6に係るエンジンにおける未燃焼の炭化水素の残存量を示すグラフである。(b)は、本発明の実施例1~6に係るエンジンにおける窒素酸化物の生成量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図中、同一または相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0012】
図1~
図8を参照して、本発明の実施形態に係るエンジンシステム100を説明する。まず、
図1を参照して、本実施形態に係るエンジンシステム100を説明する。
図1は、エンジンシステム100の構成を示す模式図である。
図1に示すエンジンシステム100は、気体燃料を燃焼させる。具体的には、エンジンシステム100は、気体燃料を燃焼させて機械仕事を得る。気体燃料は、特に限定されないが、例えば、水素、アンモニア、又は、天然ガスである。天然ガスは、例えば、気化された液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas)である。エンジンシステム100は、例えば、乗り物に搭載されるか、建造物内に設置されるか、又は、屋外に設置される。乗り物は、例えば、船舶、自動車、鉄道車両、又は、飛行機である。
【0013】
以下、エンジンシステム100が搭載される乗り物として、船舶200を例に挙げて説明する。なお、本明細書において、船舶200を「乗り物」と読み替えることができる。
【0014】
図1に示すように、船舶200は、エンジンシステム100を備える。エンジンシステム100は、エンジン1と、気体燃料供給管3と、過給機5と、インタークーラー7と、給気管9と、給気マニホールド11と、排気管13とを備える。
【0015】
エンジン1は、気体燃料を燃焼させる。具体的には、エンジン1は、気体燃料を燃焼させて機械仕事を得る。エンジン1は、例えば、4ストロークエンジンである。エンジン1は、燃焼サイクルを繰り返し実行する。燃焼サイクルは、吸入工程、圧縮工程、燃焼行程、及び、排気工程を含む。エンジン1は、例えば、船舶200を推進させるためのエンジン、又は、発電機を駆動するためのエンジンである。
【0016】
気体燃料供給管3は、気体燃料をエンジン1に供給する。給気管9は、過給機5、インタークーラー7、及び、給気マニホールド11を介して、エンジン1の外部の空気をエンジン1に供給する。つまり、給気管9は給気通路91を有する。そして、給気通路91を空気が流れ、空気がエンジン1に供給される。
【0017】
具体的には、過給機5及びインタークーラー7が、この順番で、給気の上流から下流に向かって配置される。過給機5は、大気圧よりも大きい圧力の空気を、エンジン1に供給する。具体的には、過給機5は、給気管9を流れる空気を圧縮して、大気圧よりも大きい圧力の空気を給気管9に流す。以下、「圧縮された空気」は、大気圧よりも大きい圧力の空気を示す。
【0018】
インタークーラー7は、過給機5によって圧縮された空気を冷却して、給気マニホールド11に供給する。給気マニホールド11は、エンジン1に対して、圧縮及び冷却された空気を供給する。つまり、給気マニホールド11は給気通路111を有する。そして、エンジン1に対して、給気通路111を介して圧縮及び冷却された空気が供給される。具体的には、エンジン1は、複数の気筒1aを有する。
図1には、図面の簡略化のために、1つの気筒1aが図示されている。そして、給気マニホールド11は、圧縮及び冷却された空気を各気筒1aに供給する。なお、エンジン1は、1つの気筒1aを有していてもよい。この場合、給気マニホールド11は省略可能である。
【0019】
排気管13には、エンジン1から排出される排気ガスが流れる。つまり、排気管13は、排気ガスをエンジン1の外部に排出する。具体的には、排気管13は排気通路131を有する。そして、排気通路131を排気ガスが流れ、排気ガスがエンジン1から排出される。
【0020】
排気ガスは過給機5によって利用される。具体的には、過給機5は、タービン51と、コンプレッサー52とを含む。タービン51は排気管13に配置され、コンプレッサー52は給気管9に配置される。タービン51は、排気管13を流れる排気ガスによって回転し、回転力をコンプレッサー52に伝達する。そして、コンプレッサー52は、タービン51の回転力によって駆動され、給気管9を流れる空気を圧縮して、大気圧よりも大きい圧力の空気を生成する。
【0021】
エンジン1は、シリンダーヘッド61、シリンダーブロック62、給気バルブ63、排気バルブ64、気体燃料供給部65、液体燃料噴射部66、ライナ67、ピストン68、コネクティングロッド69、及び、クランクシャフト70を含む。また、エンジン1は燃焼室71を有する。燃焼室71は、シリンダーブロック62の内部に形成され、気体燃料を燃焼させる空間である。燃焼室71には、空気及び気体燃料が供給される。つまり、エンジン1は、空気及び気体燃料を燃焼室71に供給して気体燃料を燃焼させる。
【0022】
シリンダーヘッド61は、シリンダーブロック62の上部に固定される。シリンダーヘッド61は、給気通路72及び排気通路73を有する。
【0023】
給気通路72の入口には、給気マニホールド11が接続される。従って、給気通路72には、給気マニホールド11の給気通路111から、圧縮及び冷却された空気が供給される。給気通路72の出口は、燃焼室71に接続される。
【0024】
気体燃料供給部65は、シリンダーヘッド61に配置される。そして、気体燃料供給部65は、気体燃料供給管3から供給される気体燃料を給気通路72に供給することで、給気通路72を介して燃焼室71に気体燃料を供給する。例えば、気体燃料供給部65は、給気通路72に対して気体燃料を供給する。
【0025】
具体的には、気体燃料は、給気マニホールド11の給気通路111から供給される空気と混合されて、燃焼室71に供給される。つまり、気体燃料と空気との混合気体が燃焼室71に供給される。気体燃料供給部65は、例えば、ガスアドミッションバルブ(GAV:Gas Admission Valve)、又は、ガスインジェクター(Gas Injector)である。混合気体は、好ましくは、リーン混合気である。この場合、エンジン1は、リーン混合気中の気体燃料を燃焼させる。
【0026】
更に具体的には、給気通路72の出口には、給気バルブ63が配置される。給気バルブ63は、給気通路72の出口を、開いたり、閉じたりする。給気バルブ63が給気通路72の出口を開くと、気体燃料と空気との混合気体が燃焼室71に供給される。詳細には、給気バルブ63が開いた時に、気体燃料供給部65は、気体燃料を給気通路72に噴射することで、給気通路72を介して燃焼室71に気体燃料を供給する。
【0027】
なお、例えば、気体燃料供給部65は、給気マニホールド11に配置されてもよいし、インタークーラー7よりも下流において給気管9に配置されてもよい。
【0028】
排気通路73の入口は燃焼室71に接続される。排気通路73の出口は排気管13に接続される。従って、燃焼室71からの排気ガスは、排気通路73を通って排気管13に排出される。具体的には、排気通路73の入口には、排気バルブ64が配置される。排気バルブ64は、排気通路73の入口を、開いたり、閉じたりする。排気バルブ64が排気通路73の入口を開くと、排気ガスが排気通路73を通って排気管13に排出される。
【0029】
液体燃料噴射部66は、気体燃料の着火を誘引する液体燃料を、燃焼室71に噴射する。つまり、液体燃料噴射部66は、燃焼室71に液体燃料を噴射して、燃焼室71に供給された気体燃料に着火する。液体燃料噴射部66が噴射する液体燃料の噴射量は、気体燃料の着火を誘引できる程度の少量である。液体燃料は、例えば、軽油又は重油である。液体燃料噴射部66は、例えば、インジェクターである。
【0030】
シリンダーブロック62は、気筒1aを構成する。シリンダーブロック62は、ピストン68、コネクティングロッド69、及び、クランクシャフト70を収容する。ライナ67は、シリンダーブロック62に嵌め込まれる円筒体である。ピストン68は、シリンダーブロック62の内部を、ライナ67に沿って上下に往復運動する。つまり、ピストン68は、燃焼室71内を往復移動する。コネクティングロッド69は、ピストン68とクランクシャフト70とを連結する。そして、コネクティングロッド69は、ピストン68の往復運動をクランクシャフト70に伝達する。クランクシャフト70は、ピストン68の往復運動を回転運動に変換する。
【0031】
例えば、ピストン68が下降し、排気バルブ64が閉じた状態で給気バルブ63が開くと、気体燃料と空気との混合気体が給気通路72から燃焼室71に供給される(吸入工程)。つまり、気体燃料供給部65は、給気バルブ63が開くタイミングで、気体燃料を噴射する。次に、排気バルブ64及び給気バルブ63が閉じた状態で、ピストン68が上昇する(圧縮工程)。次に、ピストン68の上死点において、液体燃料噴射部66が液体燃料を噴射し、気体燃料が着火して燃焼する(燃焼工程)。その結果、燃焼によってピストン68は下降する。次に、ピストン68が上昇し、給気バルブ63が閉じた状態で排気バルブ64が開く(排気工程)。その結果、排気ガスが燃焼室71から排気通路73に排出される。
【0032】
以上、
図1を参照して説明したように、エンジン1は、空気と混合された気体燃料を燃焼させて動力を発生する。
【0033】
次に、
図2を参照して、エンジンシステム100を説明する。
図2は、エンジンシステム100を示すブロック図である。
図3に示すように、エンジンシステム100は、エンジン制御装置21と、操作制御装置23と更に備える。計測部25については変形例として後述する。
【0034】
操作制御装置23は、操作者からの操作を受け付け、操作者からの操作に応じた操作信号をエンジン制御装置21に出力する。
【0035】
操作制御装置23は、例えば、入力装置と、表示装置と、コンピューターとを含む。入力装置は、例えば、キーボード、ポインティングデバイス、ダイヤル、及び、プッシュボタンを含む。表示装置は、例えば、液晶ディスプレイである。表示装置は、例えば、タッチパネルを含んでいてもよい。コンピューターは、例えば、プロセッサーと記憶装置とを含む。操作制御装置23は、例えば、操作制御盤である。
【0036】
エンジン制御装置21は、エンジン1を制御する。例えば、エンジン制御装置21は、操作制御装置23が出力した操作信号に応じてエンジン1を制御する。また、例えば、エンジン制御装置21は、コンピュータープログラムに従ってエンジン1を制御する。
【0037】
エンジン制御装置21は、例えば、コンピューターである。コンピューターは、例えば、ECU(Electronic Control Unit)である。具体的には、エンジン制御装置21は、制御部211と、記憶部212とを含む。制御部211は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーを含む。記憶部212は、記憶装置を含み、データ及びコンピュータープログラムを記憶する。記憶装置は、例えば、半導体メモリー等の主記憶装置及び補助記憶装置を含む。記憶装置は、リムーバブルメディアを含んでいてもよい。
【0038】
制御部211は、エンジン1を制御する。具体的には、制御部211は、気体燃料供給部65、及び、液体燃料噴射部66を制御する。更に具体的には、制御部211のプロセッサーは、記憶部212の記憶装置に記憶されたコンピュータープログラムを実行することで、気体燃料供給部65、及び、液体燃料噴射部66を制御する。
【0039】
特に、本実施形態では、制御部211は、気体燃料に着火するために、液体燃料を燃焼室71に噴射するように液体燃料噴射部66を制御する。その結果、液体燃料噴射部66は、液体燃料を燃焼室71に噴射する。よって、燃焼室71において、気体燃料に着火し、気体燃料が燃焼する。
【0040】
更に、制御部211は、気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後に、液体燃料の噴射を実行するように、液体燃料噴射部66を制御する。その結果、液体燃料噴射部66は、気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後に、液体燃料の噴射を実行する。よって、本実施形態に係るエンジンシステム100によれば、気体燃料を燃焼させる際に、窒素酸化物の生成の抑制と、未燃焼の炭化水素の残存の抑制とのうちの少なくとも一方を実現できる。この点は、後述する実施例において実証されている。また、例えば、気体燃料と空気との混合気体(つまり、燃焼室71に供給する混合気体)が有効リーン状態である場合は、気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後に液体燃料の噴射を実行することで、窒素酸化物の生成を抑制しつつ、未燃焼の炭化水素の残存を抑制できる。この点もまた、後述する実施例において実証されている。
【0041】
有効リーン状態とは、混合気体の空気過剰率λが規定範囲内の状態を示す。空気過剰率λの規定範囲は、「1」よりも大きく、エンジン1の仕様に応じた範囲である。空気過剰率λの規定範囲は、エンジン1の実用上有効な範囲を示す。例えば、空気過剰率λの規定範囲は、1.80以上2.00以下である。
【0042】
また、本実施形態において好ましくは、制御部211は、火炎伝播終了後の液体燃料の噴射を、ピストン68の上死点後において、クランク角度が30度以上60度未満の範囲で実行するように、液体燃料噴射部66を制御する。その結果、液体燃料噴射部66は、火炎伝播終了後の液体燃料の噴射を、ピストン68の上死点後において、クランク角度が30度以上60度未満の範囲で実行する。よって、この好ましい例によれば、気体燃料を燃焼させる際に、窒素酸化物の生成の更なる抑制と、未燃焼の炭化水素の残存の更なる抑制とのうちの少なくとも一方を実現できる。この点は、後述する実施例において実証されている。また、例えば、混合気体が有効リーン状態である場合は、火炎伝播終了後の液体燃料の噴射を、ピストン68の上死点後において、クランク角度が30度以上60度未満の範囲で実行することで、窒素酸化物の生成を更に抑制しつつ、未燃焼の炭化水素の残存を更に抑制できる。この点もまた、後述する実施例において実証されている。なお、クランク角度が30度以上60度未満の範囲では、燃焼室71の状態は、気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した状態である。
【0043】
ここで、以下の説明では、「着火のための液体燃料の噴射」を「主噴射」と記載する場合がある。また、「火炎伝播終了後の液体燃料の噴射」は、「主噴射」の後に続く液体燃料の噴射である。従って、「火炎伝播終了後の液体燃料の噴射」を、「後続の液体燃料の噴射」、「後続の噴射」、又は、「後続噴射」と記載する場合がある。ただし、「後続」は、「主噴射」よりも「後」である限りは、「主噴射」の「次」に限られず、例えば、「主噴射」の「次」の更に「次」も含む。つまり、「主噴射」よりも「後」である限りは、「後続」である。また、本明細書では、「後続」は、「主噴射」の後、かつ、火炎伝播終了後を示す。
【0044】
次に、
図2及び
図3を参照して、液体燃料噴射部66による主噴射及び後続噴射を説明する。
図3(a)は、液体燃料噴射部66による液体燃料の噴射タイミングの一例を示す図である。横軸は、クランク角度を示す。クランク角度は、ピストン68の位相角である。横軸は、クランク角度によって時間を示していると捉えることもできる。
【0045】
図2及び
図3(a)に示すように、液体燃料噴射部66は、所定の主噴射期間P0において主噴射を実行し、所定の主噴射期間P0の満了時に主噴射を終了する。
図3(a)の例では、液体燃料噴射部66は、ピストン68の上死点よりも前に主噴射J0を実行する。
【0046】
更に、液体燃料噴射部66は、主噴射J0に対して時間間隔P01をあけて、火炎伝播が終了した後に、後続噴射J1を実行する。液体燃料噴射部66は、所定の後続噴射期間P1において後続噴射J1を実行し、所定の後続噴射期間P1の満了時に後続噴射を終了する。
【0047】
図3(b)は、液体燃料噴射部66による液体燃料の噴射タイミングの他の例を示す図である。
図2及び
図3(b)に示すように、液体燃料噴射部66は、時間間隔Pをあけて、複数回の後続噴射Jnを実行してもよい。本明細書において、参照符号の末尾の「n」は、1以上の整数を示す。複数回の後続噴射Jnを実行する場合、複数回の後続噴射Jnにそれぞれ対応して複数の所定の後続噴射期間Pnが設定される。この場合、複数の所定の後続噴射期間Pnは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、3以上の後続噴射Jnを実行する場合、時間的に隣り合う後続噴射Jnの時間間隔Pは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0048】
なお、後続噴射Jnは、主噴射J0に対して後続の噴射であることを示す。ただし、後続噴射Jnは、主噴射J0よりも後の噴射であればよく、主噴射J0の直後の噴射J1だけでなく、噴射J2、J3…、を含む。
【0049】
なお、本明細書において、主噴射J0と火炎伝播終了後の後続噴射J1との間に、1回又は複数回の液体燃料の噴射が実行されてもよい。
【0050】
次に、
図4を参照して、火炎伝播等の気体燃料の燃焼特性を説明する。
図4は、燃焼室71における気体燃料の燃焼特性を模式的に示す図である。
図4において、横軸は、クランク角度(deg.aTDC:After Top Dead Center)を示す。
図4では、クランク角度が0度であることは、ピストン68の上死点を示す。横軸は、クランク角度によって時間を示していると捉えることもできる。左側縦軸は、筒内圧力(a.u.)を示す。筒内圧力は、燃焼室71の内部圧力を示す。筒内圧力の単位は、例えば、「MPa」である。右側縦軸は、燃焼室71での熱発生率(a.u.)を示す。熱発生率は、燃焼室71での気体燃料の燃焼状態を示している。熱発生率の単位は、例えば、「J/deg.」である。
【0051】
図4に示すように、熱発生率曲線A1は、熱発生率を示す。圧力曲線A2は、筒内圧力を示す。なお、
図4において、熱発生率曲線A1及び圧力曲線A2と、クランク角度との関係は、例示に過ぎない。また、熱発生率曲線A1及び圧力曲線A2の形状も例示にすぎない。以下、熱発生率曲線A1に着目する。
【0052】
主噴射は、ピストン68の上死点よりも前のタイミングで開始される。
図4の例では、主噴射は、クランク角度が「-20度」である時に開始される。
【0053】
次に、気体燃料の燃焼開始は、熱発生率曲線A1によって示される熱発生率がゼロ(略ゼロ)から立ち上がるタイミングである。
図4の例では、クランク角度が「-10度」である時に、液体燃料によって気体燃料が着火し、気体燃料の燃焼が開始する。燃焼室71での気体燃料の燃焼開始と同時に、燃焼室71において火炎の伝播が開始する。
【0054】
次に、火炎伝播の終了は、概ね、熱発生率曲線A1によって示される熱発生率が最大値を示すタイミングである。
図4の例では、クランク角度が「10度」である時に、火炎伝播が終了する。火炎伝播の終了は、火炎が燃焼室71の内周面に到達するタイミングを示す。
【0055】
火炎伝播の期間T0は、火炎伝播の開始(例えば、クランク角度=-10度)から火炎伝播の終了(例えば、クランク角度=10度)までの期間を示す。
【0056】
火炎伝播の期間T0のうちの前半の期間は、火炎伝播の開始(例えば、クランク角度=-10度)から火炎伝播の中間時(例えば、クランク角度=0度)までの期間を示す。火炎伝播の期間T0のうちの後半の期間は、火炎伝播の中間時(例えば、クランク角度=0度)から火炎伝播の終了(例えば、クランク角度=10度)までの期間を示す。
【0057】
次に、気体燃料の燃焼終了は、熱発生率曲線A1によって示される熱発生率がゼロ(略ゼロ)よりも大きな値からゼロ(略ゼロ)になるタイミングである。
図4の例では、クランク角度が「50度」である時に、気体燃料の燃焼が終了する。
【0058】
気体燃料の燃焼期間T12は、気体燃料の燃焼開始(例えば、クランク角度=-10度)から燃焼終了(例えば、クランク角度=50度)までの期間を示す。気体燃料の燃焼期間T12のうちの前半の期間T1は、気体燃料の燃焼開始(例えば、クランク角度=-10度)から燃焼中間時(例えば、クランク角度=20度)までの期間を示す。気体燃料の燃焼期間T12のうちの後半の期間T2は、気体燃料の燃焼中間時(例えば、クランク角度=20度)から燃焼終了(例えば、クランク角度=50度)までの期間を示す。
【0059】
本実施形態では、液体燃料噴射部66(
図1)は、気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後に、主噴射に対して後続の液体燃料の噴射(後続噴射)を実行する。つまり、液体燃料噴射部66は、火炎伝播の終了時(10度)以降であって、気体燃料の燃焼終了(50度)よりも前において、主噴射に対して後続の液体燃料の噴射を実行する。「終了時以降」は、「終了時」を含む。
【0060】
好ましくは、制御部211(
図2)は、後続の液体燃料の噴射(火炎伝播終了後の液体燃料の噴射)が、気体燃料の燃焼期間T12のうちの前半の期間T3内で開始されるように、液体燃料噴射部66を制御する。その結果、液体燃料噴射部66は、気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後において、気体燃料の燃焼期間T12のうちの前半の期間T3内に、後続の液体燃料の噴射を実行する。よって、この好ましい例によれば、燃焼室71の温度は、後続の液体燃料がクレビスボリューム近傍に到達するタイミングで、着火時よりも高温になる。従って、ピストン68が上死点から下死点に移動する際にクレビスボリュームから漏れ出す未燃焼の炭化水素を効果的に酸化させることができる。その結果、未燃焼の炭化水素の残存量を効果的に低減できる。なお、期間T3は、気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した状態における期間を示す。
【0061】
ここで、クレビスボリュームとは、ピストン68とライナ67との隙間又は隙間容積のことである。
【0062】
次に、
図5を参照して、本実施形態における窒素酸化物の生成量及び未燃焼の炭化水素の残存量を説明する。
図5(a)は、エンジン1における未燃焼の炭化水素の残存量を模式的に示すグラフである。縦軸は、未燃焼の炭化水素の残存量(ppmC1)を示す。
図5(b)は、エンジン1における窒素酸化物の生成量を模式的に示すグラフである。縦軸は、窒素酸化物の生成量(ppm)を示す。
図5(a)及び
図5(b)において、横軸は、後続噴射のタイミングをクランク角度(deg.aTDC)によって示している。クランク角度が0度であることは、ピストン68の上死点を示す。横軸は、クランク角度によって時間を示していると捉えることもできる。
【0063】
図5(a)において、破線L1は、後続噴射を実行しなかった場合(主噴射のみ、参考例)の未燃焼の炭化水素の残存量を示す。黒丸で示されるドットD1は、後続噴射を実行した場合の未燃焼の炭化水素の残存量を示す。以下、後続噴射を実行しない場合の残存量を「L1」と記載し、後続噴射を実行する場合の残存量を、ドットD1に対応して「D1」と記載する場合がある。
【0064】
後続噴射を実行する場合の未燃焼の炭化水素の残存量D1は、後続噴射を実行しない場合の未燃水素の残存量L1よりも少ない。特に、後続噴射を実行するクランク角度が大きくなるほど、未燃焼の炭化水素の残存量D1は少なくなる。つまり、気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後において、後続噴射のタイミングが遅い程、未燃焼の炭化水素の残存量D1は少なくなる。
【0065】
図5(b)において、破線L2は、後続噴射を実行しなかった場合(主噴射のみ、参考例)の窒素酸化物の生成量を示す。黒丸で示されるドットD2は、後続噴射を実行した場合の窒素酸化物の生成量を示す。以下、後続噴射を実行しない場合の生成量を「L2」と記載し、後続噴射を実行する場合の生成量を、ドットD2に対応して「D2」と記載する場合がある。
【0066】
後続噴射を実行する場合の窒素酸化物の生成量D2は、後続噴射を実行しない場合の窒素酸化物の生成量L2よりも少ない。特に、後続噴射を実行するクランク角度が小さくなるほど、窒素酸化物の生成量L2は少なくなる。つまり、気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後において、後続噴射のタイミングが早い程、窒素酸化物の生成量L2は少なくなる。
【0067】
以上、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、後続噴射を実行することで、未燃焼の炭化水素の残存量及び窒素酸化物の生成量を低減できる。ただし、未燃焼の炭化水素の残存量D1の低減幅(=L1-D1)が大きくなる後続噴射のタイミング(例えばクランク角度=60度)は、窒素酸化物の生成量D2の低減幅(=L2-D2)が小さくなる後続噴射のタイミング(例えばクランク角度=60度)である。一方、窒素酸化物の生成量D2の低減幅が大きくなる後続噴射のタイミング(例えばクランク角度=30度)は、未燃焼の炭化水素の残存量D1の低減幅が小さくなる後続噴射のタイミング(例えばクランク角度=30度)である。従って、後続噴射のタイミングを調整することで、未燃焼の炭化水素の残存量D1及び窒素酸化物の生成量D2を調整できる。
【0068】
未燃焼の炭化水素と窒素酸化物とは、エンジン1からの排気物質の一例である。
【0069】
特に、本実施形態では、制御部211(
図2)は、後続の液体燃料の噴射回数(火炎伝播終了後の液体燃料の噴射回数)と、後続の液体燃料の噴射量(火炎伝播終了後の液体燃料の噴射量)と、後続の液体燃料の噴射タイミング(火炎伝播終了後の液体燃料の噴射のタイミング)とのうちの少なくとも1つを変更することで、エンジン1からの排気物質(未燃焼の炭化水素及び窒素酸化物)の量を調整することが好ましい。この好ましい例によれば、後続噴射を実行しない場合よりも、未燃焼の炭化水素の残存量及び窒素酸化物の生成量を低減しつつも、未燃焼の炭化水素の残存量と窒素酸化物の生成量とのバランスを容易に調整できる。
【0070】
具体的には、制御部211は、未燃焼の炭化水素の残存量D1と後続噴射のタイミングとの関係性、及び、窒素酸化物の生成量D2と後続噴射のタイミングとの関係性に基づいて、後続噴射の回数と、後続噴射の噴射量と、後続噴射のタイミングとのうちの少なくとも1つを変更することで、未燃焼の炭化水素の残存量と窒素酸化物の生成量とを調整する。この場合、制御部211は、液体燃料噴射部66を制御することで、後続噴射の回数と、後続噴射の噴射量と、後続噴射のタイミングとを変更できる。
【0071】
一例として、制御部211は、窒素酸化物の生成量D2の低減幅(=L2-D2)が大きくなる後続噴射のタイミング(例えばクランク角度=30度)と、未燃焼の炭化水素の残存量D1の低減幅(=L1-D1)が大きくなる後続噴射のタイミング(例えばクランク角度=60度)との双方において、後続噴射を実行する。この例では、窒素酸化物の生成量D2の低減幅と、未燃焼の炭化水素の残存量D1の低減幅との双方を大きくできる。
【0072】
引き続き
図5を参照して、未燃焼の炭化水素及び窒素酸化物と、空気過剰率λ及び空燃比との関係を説明する。
【0073】
空気過剰率λは、燃焼室71に実際に供給された空気の質量Maを理論上必要な最小空気の質量Mbで除した値(Ma/Mb)であり、混合気体中の空気の余剰度を表す指標である。空気過剰率λは、実際の空燃比を理論空燃比で除した値にも等しい。例えば、空気過剰率λが「1」より小さい場合は、気体燃料と空気との混合気体は、リッチ混合気(気体燃料の濃い混合気)である。混合気体の空気過剰率λが「1」より小さい状態を「リッチ状態」と記載する場合がある。一方、例えば、空気過剰率λが「1」より大きい場合は、気体燃料と空気との混合気体は、リーン混合気(気体燃料の薄い混合気)である。混合気体の空気過剰率λが「1」より大きい状態を「リーン状態」と記載する場合がある。
【0074】
空燃比は、空気の質量Mxを気体燃料の質量Myで除した値(Mx/My)である。
【0075】
図5(a)において、白丸で示すドットD10は、後続噴射を実行した場合の未燃焼の炭化水素の残存量を示す。以下、後続噴射を実行した場合の未燃焼の炭化水素の残存量を、ドットD10に対応して「D10」と記載する場合がある。
【0076】
未燃焼の炭化水素の残存量が残存量D10を示すときの空気過剰率λ(例えば、有効リーン状態よりもリッチ側のリーン状態)は、未燃焼の炭化水素の残存量が残存量D1を示すときの空気過剰率λ(例えば、有効リーン状態)よりも小さい。従って、後続噴射のタイミングが同じ場合、空気過剰率λ(空燃比)が小さい程、未燃焼の炭化水素の残量が低減する。そこで、空気過剰率λ(空燃比)を制御することで、後続噴射のタイミングが同じ場合でも、未燃焼の炭化水素の残存量を調整できる。
【0077】
図5(b)において、白丸で示すドットD20は、後続噴射を実行した場合の窒素酸化物の生成量を示す。以下、後続噴射を実行した場合の窒素酸化物の生成量を、ドットD20に対応して「D20」と記載する場合がある。
【0078】
窒素酸化物の生成量が生成量D20を示すときの空気過剰率λ(例えば、有効リーン状態よりもリッチ側のリーン状態)は、窒素酸化物の生成量が生成量D2を示すときの空気過剰率λ(例えば、有効リーン状態)よりも小さい。従って、後続噴射のタイミングが同じ場合、空気過剰率λ(空燃比)が小さい程、窒素酸化物の生成量が増加する。そこで、空気過剰率λ(空燃比)を制御することで、後続噴射のタイミングが同じ場合でも、窒素酸化物の生成量を調整できる。
【0079】
特に、本実施形態では、制御部211(
図2)は、後続の液体燃料を噴射する際の条件(後続噴射の条件)に応じて、燃焼室71内の空気過剰率λを制御する。つまり、制御部211は、火炎伝播終了後に液体燃料を噴射する際の条件に応じて、燃焼室71内の空気過剰率λを制御する。その結果、排気物質低減の目的に応じて、未燃焼の炭化水素の残量低減の効果と、窒素酸化物の生成量低減の効果とのバランスを調整できる。
【0080】
後続噴射の条件は、例えば、後続噴射のタイミングである。
図5(a)及び
図5(b)から理解できるように、後続噴射のタイミングに依存して、後続噴射が、未燃焼の炭化水素の低減効果と窒素酸化物の低減効果とのうちのいずれの低減効果に寄与するかが変化する。そこで、例えば、窒素酸化物の低減量の多いクランク角度(例えば30度のタイミング)で後続噴射が実行される場合は、制御部211は、空気過剰率λを、リーンに維持しつつもリッチ側にシフトさせる。その結果、法規制値のレベルを余裕でクリアしていた窒素酸化物の生成量を法規制値のレベルに戻し、未燃焼の炭化水素の残存量の低減効果を大きくできる。
【0081】
ここで、空気過剰率λを制御するための制御量として、例えば、混合気体流量、気体燃料流量、又は、空気流量がある。従って、制御部211は、制御量を制御することで、空気過剰率λを制御できる。
【0082】
次に、
図2及び
図6を参照して、エンジン1の燃焼サイクルBCYについて説明する。
図6は、エンジン1の燃焼サイクルBCYを模式的に示すタイムチャートである。横軸は、時間を示す。時間は、例えば、クランク角度によって示される。パルス形状C1は、気体燃料を供給する期間を模式的に示している。曲線A1は、
図4の熱発生率曲線A1に相当し、熱の発生状態を模式的に示している。また、期間T0は
図4の火炎伝播の期間T0に相当し、期間T12は
図4の燃焼期間T12に相当する。
【0083】
図2及び
図6に示すように、エンジン1は、燃焼サイクルBCYを繰り返す。所定期間Tに着目する。エンジン1は、所定期間Tにおいて複数回の燃焼サイクルBCYを実行する。液体燃料噴射部66は、燃焼サイクルBCYごとに、気体燃料の着火(主噴射)と、後続の液体燃料の噴射(火炎伝播終了後の液体燃料の噴射)とを実行する。制御部211は、所定期間T内では、気体燃料に着火する際の液体燃料の噴射量(主噴射の噴射量)の増加を禁止する。「気体燃料に着火する際の液体燃料の噴射量の増加」とは、エンジン1に対する負荷の上昇に応じた液体燃料の噴射量の増加のことである。負荷の上昇は、例えば、エンジン1に対する負荷が閾値を超えることを示す。負荷上昇の原因は、例えば、船速増加、舵角変更、又は、船体が受ける強い波風である。所定期間Tは、10秒間を示す。
【0084】
すなわち、本実施形態では、負荷の上昇による、気体燃料に着火する際の液体燃料の噴射量(主噴射の噴射量)の10秒以内の増加が禁止される。つまり、エンジン1に対する負荷の上昇に起因する噴射量の短期的な増加が禁止される。
【0085】
従って、過給機5を有するエンジンシステム100において、急激な給気圧上昇を伴うほどの液体燃料の噴射が禁止される。その結果、空気過剰率λ(空燃比)が目標値に対して大きく変動することを抑制できて、排気エミッションの悪化を防止できる。排気エミッションの悪化は、例えば、窒素酸化物の生成量が増加すること、又は、未燃焼の炭化水素の残存量が増加することを示す。
【0086】
なお、
図6において、火炎伝播の期間T0は、例えば、約4.6ミリ秒(=クランク角度約20度)である。気体燃料の燃焼期間T12は、例えば、約13.4ミリ秒(=クランク角度約60度)である。燃焼サイクルBCYは、例えば、1/6秒(=クランク角度720度)である。
【0087】
次に、
図7を参照して、液体燃料噴射部66による液体燃料の噴射角度θを説明する。
図7は、本実施形態に係る液体燃料の噴射角度θを模式的に示す図である。
図7に示すように、クレビスボリュームVLに押し込まれていた未燃焼の炭化水素THCは、ピストン68が上死点から下死点に移動する際にクレビスボリュームVLから漏れ出す。
【0088】
そこで、本実施形態では、液体燃料噴射部66による液体燃料の噴射角度θ、つまり、ピストン68の移動方向に対する液体燃料の噴射角度θは、30度以上65度以下を示す。従って、ピストン68が上死点から下死点に移動する際にクレビスボリュームVLから未燃焼の炭化水素THCが漏れ出すタイミングで、液体燃料噴射部66から噴射された液体燃料(例えば、後続噴射による液体燃料)がクレビスボリュームVLの近傍に到達する。その結果、液体燃料によって、クレビスボリュームVLから漏れ出す未燃焼の炭化水素THCを効果的に酸化させることができる。よって、未燃焼の炭化水素THCの残存量を効果的に低減できる。
【0089】
なお、制御部211(
図2)は、エンジン1の諸元及び/又は液体燃料噴射部66の諸元に応じて、後続噴射における液体燃料の噴射量の制御と、後続噴射のタイミングの制御とのうちの少なくとも一方について、制限を設けてもよい。後続噴射における液体燃料の噴射量、及び/又は、後続噴射のタイミングによっては、液体燃料がライナ67へ衝突し、ライナ67表面の潤滑油が液体燃料によって希釈される可能性があり得るからである。エンジン1の諸元は、例えば、エンジン1のボア又はストロークである。液体燃料噴射部66の緒元は、例えば、液体燃料噴射部66の噴口径、噴射角度θ、又は、噴射量である。
【0090】
次に、
図2及び
図8を参照して、エンジン1における気体燃料燃焼方法を説明する。
図8は、本実施形態に係る気体燃料燃焼方法を示すフローチャートである。気体燃料燃焼方法は、
図2に示すエンジンシステム100によって実行される。
図8に示すように、気体燃料燃焼方法は、ステップS1~ステップS4を含む。
【0091】
まず、ステップS1において、エンジンシステム100の制御部211は、主噴射のタイミングが到来したか否かを判定する。
【0092】
ステップS1で主噴射のタイミングが到来していないと判定された場合(No)、処理はステップS1を待機する。
【0093】
一方、ステップS1で主噴射のタイミングが到来したと判定された場合(Yes)、処理はステップS2に進む。
【0094】
次に、ステップS2において、制御部211は、主噴射を実行するように、液体燃料噴射部66を制御する。その結果、液体燃料噴射部66は、主噴射を実行する。つまり、液体燃料噴射部66は、液体燃料を噴射して、気体燃料に着火する。その結果、気体燃料が燃焼する。
【0095】
次に、ステップS3において、制御部211は、後続噴射のタイミングが到来したか否かを判定する。
【0096】
ステップS3で後続噴射のタイミングが到来していないと判定された場合(No)、処理はステップS3を待機する。
【0097】
一方、ステップS3で後続噴射のタイミングが到来したと判定された場合(Yes)、処理はステップS4に進む。
【0098】
次に、ステップS4において、制御部211は、後続噴射を実行するように、液体燃料噴射部66を制御する。その結果、液体燃料噴射部66は、後続噴射を実行する。具体的には、液体燃料噴射部66は、気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後に、液体燃料の噴射を実行する。そして、処理はステップS1に進む。
【0099】
ステップS1~ステップS4は、1燃焼サイクルで実行される。従って、繰り返し実行される燃焼サイクルごとに、ステップS1~ステップS4が実行される。つまり、ステップS1~ステップS4が繰り返される。
【0100】
以上、
図8を参照して説明したように、本実施形態に係る気体燃料燃焼方法によれば、気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後に液体燃料の噴射(後続噴射)が実行される。その結果、窒素酸化物の生成の抑制と、未燃焼の炭化水素の残存の抑制とのうちの少なくとも一方を実現できる。特に、燃焼室71に供給する混合気体が有効リーン状態であると、窒素酸化物の生成を抑制しつつ、未燃焼の炭化水素の残存を抑制できる。
【0101】
なお、液体燃料噴射部66が、1燃焼サイクルにおいて複数回の後続噴射を実行する場合は、ステップS3及びステップS4と同様の処理が、複数回実行される。
【0102】
(変形例)
図2及び
図9を参照して、本実施形態の変形例に係るエンジンシステム100を説明する。変形例に係るエンジンシステム100が計測部25を備えている点で、変形例は上記の本実施形態と主に異なる。以下、変形例が上記の本実施形態と異なる点を主に説明する。
【0103】
図2に示すように、変形例では、エンジンシステム100は、計測部25を更に備える。計測部25は、気体燃料の燃焼に起因して発生する排気物質を直接的又は間接的に示す物理量を計測する。そして、制御部211は、計測部25の計測結果に基づいて、液体燃料噴射部66による後続の液体燃料の噴射(火炎伝播終了後の液体燃料の噴射)を制御する。つまり、変形例では、排気物質を直接的又は間接的に示す物理量の計測結果に応じて、後続噴射のフィードバック制御が実行される。従って、気体燃料の燃焼状態に応じて後続噴射を最適化できる。その結果、排気物質の量を効果的に低減できる。つまり、窒素酸化物の生成を効果的に抑制しつつ、未燃焼の炭化水素の残存を効果的に抑制できる。
【0104】
計測部25が計測する「排気物質を直接的に示す物理量」は、例えば、排気物質の濃度又は質量である。この場合、例えば、計測部25は、窒素酸化物(NOx)の濃度を検出するNOxセンサである。濃度の単位は、例えば、%又はppmである。質量の単位は、例えば、g又はkgである。なお、排気物質が煤塵である場合は、計測部25は、例えば、煤塵量を検出するスートセンサである。
【0105】
制御部211は、排気物質を直接的に示す物理量に基づいて、液体燃料噴射部66による後続噴射を制御する。例えば、制御部211は、排気物質を直接的に示す物理量に基づいて、後続噴射における液体燃料の噴射量と、後続噴射のタイミングと、後続噴射の回数とのうちの少なくとも1つを制御する。
【0106】
また、計測部25が計測する「排気物質を間接的に示す物理量」は、例えば、筒内圧力(燃焼室71の内部圧力)、排気ガスの温度、又は、空気過剰率λである。この場合、例えば、計測部25は、圧力センサ、又は、温度センサである。又は、計測部25は、空気過剰率λを検出するための、O2センサ、λセンサ、又は、A/Fセンサである。
【0107】
制御部211は、排気物質を間接的に示す物理量に基づいて、気体燃料の燃焼状態を推定する。そして、制御部211は、気体燃料の燃焼状態の推定結果に基づいて、液体燃料噴射部66による後続噴射を制御する。例えば、制御部211は、気体燃料の燃焼状態の推定結果に基づいて、後続噴射における液体燃料の噴射量と、後続噴射のタイミングと、後続噴射の回数とのうちの少なくとも1つを制御する。
【0108】
なお、計測部25が排気ガスの温度を計測する場合、制御部211は、排気ガスの温度を監視することで、排気ガスの温度が閾値温度以下になる制御を実行する。その結果、後続噴射時に排気ガスの温度が過剰に上昇することを抑制できる。
【0109】
次に、
図2及び
図9を参照して、変形例に係る気体燃料燃焼方法を説明する。
図9は、変形例に係る気体燃料燃焼方法を示すフローチャートである。気体燃料燃焼方法は、
図2に示すエンジンシステム100によって実行される。
図9に示すように、気体燃料燃焼方法は、ステップS11~ステップS15を含む。
【0110】
まず、ステップS11において、エンジンシステム100の制御部211は、主噴射を実行するように、液体燃料噴射部66を制御する。その結果、液体燃料噴射部66は、主噴射を実行する。その結果、気体燃料が燃焼する。
【0111】
次に、ステップS12において、制御部211は、後続噴射を実行するように、液体燃料噴射部66を制御する。その結果、液体燃料噴射部66は、後続噴射を実行する。具体的には、液体燃料噴射部66は、気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後に、液体燃料の噴射を実行する。
【0112】
次に、ステップS13において、所定サイクル数の燃焼サイクルが実行されたか否かを判定する。
【0113】
ステップS13で所定サイクル数の燃焼サイクルが実行されていないと判定された場合(No)、処理はステップS11に進む。
【0114】
一方、ステップS13で所定サイクル数の燃焼サイクルが実行されたと判定された場合(Yes)、処理はステップS14に進む。
【0115】
次に、ステップS14において、制御部211は、計測部25から計測データを取得する。計測データは、排気物質を直接的又は間接的に示す物理量の計測結果を示す。
【0116】
次に、ステップS15において、制御部211は、計測データに基づいて、液体燃料噴射部66による後続噴射の制御パラメータを決定する。制御パラメータは、後続噴射の回数と、後続噴射における液体燃料の噴射量と、後続噴射のタイミングとのうちの少なくとも1つを含む。
【0117】
そして、ステップS15の後、処理はステップS11に進む。次に、ステップS11において、制御部211は、主噴射を実行するように、液体燃料噴射部66を制御する。次に、ステップS12において、制御部211は、前回のステップS15で決定された制御パラメータに従って後続噴射を実行するように、液体燃料噴射部66を制御する。この場合も、気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後に液体燃料の噴射(後続噴射)が実行される。以降、ステップS13~ステップS15が実行される。更に、燃焼サイクルが繰り返されることで、ステップS11~ステップS15が繰り返される。
【0118】
以上、
図9を参照して説明したように、変形例では、燃焼サイクルが繰り返され、燃焼サイクルごとに、主噴射及び後続噴射が実行される。
【0119】
次に、本発明が実施例に基づき具体的に説明されるが、本発明は以下の実施例によって限定されない。
【実施例】
【0120】
図1及び
図10を参照して、本発明の実施例1~6及び比較例を説明する。実施例1~6では、
図1に示すエンジンシステム100を使用した。また、実施例1~6においては、気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後に、後続噴射を実行した。一方、比較例では、後続噴射を実行しなかった。実施例1~6及び比較例では、気体燃料として、液化天然ガスを気化した天然ガスを使用した。
【0121】
図10(a)は、本発明の実施例1~実施例6に係る未燃焼の炭化水素の残存量を示すグラフである。縦軸は、未燃焼の炭化水素の残存量(ppmC1)を示す。
図10(b)は、本発明の実施例1~実施例6に係る窒素酸化物の生成量を示すグラフである。縦軸は、窒素酸化物の生成量(ppm)を示す。
図10(a)及び
図10(b)において、横軸は、後続噴射のタイミングをクランク角度(deg.aTDC)によって示している。クランク角度が0度であることは、ピストン68の上死点を示す。
【0122】
図10(a)において、破線L1は、後続噴射を実行しなかった場合(主噴射のみ、比較例)の未燃焼の炭化水素の残存量(以下、L1)を示す。実線で結ばれるドットDaは、実施例1において後続噴射を実行した場合の未燃焼の炭化水素の残存量(以下、Da)を示す。破線で結ばれるドットDbは、実施例2において後続噴射を実行した場合の未燃焼の炭化水素の残存量(以下、Db)を示す。一点鎖線で結ばれるドットDcは、実施例3において後続噴射を実行した場合の未燃焼の炭化水素の残存量(以下、Dc)を示す。
【0123】
図10(b)において、破線L2は、後続噴射を実行しなかった場合(主噴射のみ、比較例)の窒素酸化物の生成量(以下、L2)を示す。実線で結ばれたドットDAは、実施例1において後続噴射を実行した場合の窒素酸化物の生成量(以下、DA)を示す。破線で結ばれたドットDBは、実施例2において後続噴射を実行した場合の窒素酸化物の生成量(以下、DB)を示す。一点鎖線で結ばれたドットDCは、実施例3において後続噴射を実行した場合の窒素酸化物の生成量(以下、DC)を示す。
【0124】
図10(a)及び
図10(b)に示すように、実施例1~3の各々では、30度、50度、70度、及び、90度のクランク角度で後続噴射を実行した。実施例1(残存量Da、生成量DA)では、後続噴射の噴射量が「20mm
3」であった。実施例2(残存量Db、生成量DB)では、後続噴射の噴射量が「40mm
3」であった。実施例3(残存量Dc、生成量DC)では、後続噴射の噴射量が「60mm
3」であった。実施例1~3及び比較例では、燃焼室71に供給する混合気体が有効リーン状態であった。具体的には、λ=約1.81であった。実施例1~3及び比較例において、有効リーン状態を定義する空気過剰率λの規定範囲は、1.80以上2.00以下の範囲を示す。
【0125】
図10(a)に示すように、実施例1~3において、後続噴射を実行する場合の未燃焼の炭化水素の残存量Da~Dcは、後続噴射を実行しない場合の未燃水素の残存量L1(比較例)よりも少なかった。特に、実施例1~3においては、後続噴射を実行するクランク角度が大きくなるほど、未燃焼の炭化水素の残存量Da~Dcは少なくなった。つまり、実施例1~3においては、気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後において、後続噴射のタイミングが遅い程、未燃焼の炭化水素の残存量Da~Dcは少なくなった。また、実施例1~3から、後続噴射の噴射量が大きい程、未燃焼の炭化水素の残存量Da~Dcが少なくなった。
【0126】
図10(b)に示すように、実施例1~3において、後続噴射を実行する場合の窒素酸化物の生成量DA~DCは、後続噴射を実行しない場合の窒素酸化物の生成量L2(比較例)よりも少なかった。特に、実施例1~3では、後続噴射を実行するクランク角度が小さくなるほど、窒素酸化物の生成量DA~DCは少なくなった。つまり、実施例1~3においては、気体燃料の着火後の火炎伝播が終了した後において、後続噴射のタイミングが早い程、窒素酸化物の生成量DA~DCは少なくなった。また、実施例1~3から、後続噴射の噴射量が大きい程、窒素酸化物の生成量DA~DCが少なくなった。
【0127】
以上、
図10(a)及び
図10(b)に示すように、実施例1~3では、比較例と比較して、未燃焼の炭化水素の残存量Da~Dc及び窒素酸化物の生成量DA~DCを低減できた。実施例1では、未燃焼の炭化水素の残存量Daの低減幅(=L1-Da)が大きくなる程、窒素酸化物の生成量DAの低減幅(=L2-DA)が小さくなった。また、実施例1では、窒素酸化物の生成量DAの低減幅が大きくなる程、未燃焼の炭化水素の残存量Daの低減幅が小さくなった。これらの点は、実施例2、3についても同様であった。
【0128】
次に、引き続き
図10を参照して、空気過剰率λが実施例1~3と異なる場合の実施例4~6を説明する。
【0129】
図10(a)において、白丸で示すドットdaは、実施例4において後続噴射を実行した場合の未燃焼の炭化水素の残存量(以下、da)を示す。白三角で示すドットdbは、実施例5において後続噴射を実行した場合の未燃焼の炭化水素の残存量(以下、db)を示す。白四角で示すドットdcは、実施例6において後続噴射を実行した場合の未燃焼の炭化水素の残存量(以下、dc)を示す。
【0130】
図10(b)において、白丸で示すドットdAは、実施例4において後続噴射を実行した場合の窒素管化物の生成量(以下、dA)を示す。白三角で示すドットdBは、実施例5において後続噴射を実行した場合の窒素酸化物の生成量(以下、dB)を示す。白四角で示すドットdCは、実施例6において後続噴射を実行した場合の窒素酸化物の生成量(以下、dC)を示す。
【0131】
図10(a)及び
図10(b)に示すように、実施例4~6(残存量da~dc、生成量dA~dC)では、30度のクランク角度で後続噴射を実行した。また、実施例4~6では、燃焼室71に供給する混合気体が、有効リーン状態よりもリッチ側のリーン状態であった。具体的には、λ=1.76であった。実施例4~6において、有効リーン状態を定義する空気過剰率λの規定範囲は、1.80以上2.00以下の範囲を示す。リーン状態は、空気過剰率λが「1」より大きい状態を示す。実施例4のその他の条件は実施例1と同じあり、実施例5のその他の条件は実施例2と同じあり、実施例6のその他の条件は実施例3と同じであった。
【0132】
図10(a)に示すように、同じクランク角度(=30度)での実施例4~6(残存量da~dc)と実施例1~3(残存量Da~Dc)との比較の結果、「有効リーン状態よりもリッチ側のリーン状態」での未燃焼の炭化水素の残存量da~dcは、有効リーン状態での未燃焼の炭化水素の残存量Da~Dcよりも少なかった。つまり、空気過剰率λ(空燃比)を小さくすると、未燃焼の炭化水素の残存量da~dcが少なくなった。
【0133】
図10(b)に示すように、同じクランク角度(=30度)での実施例4~6(生成量dA~dC)と実施例1~3(生成量DA~DC)との比較の結果、「有効リーン状態よりもリッチ側のリーン状態」での窒素酸化物の生成量dA~dCは、有効リーン状態での窒素酸化物の生成量DA~DCよりも多かった。つまり、空気過剰率λ(空燃比)を小さくすると、窒素酸化物の生成量dA~dCが多くなった。
【0134】
以上、図面を参照して本発明の実施形態及び実施例について説明した。ただし、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施できる。また、上記の実施形態に開示される複数の構成要素は適宜改変可能である。例えば、ある実施形態に示される全構成要素のうちのある構成要素を別の実施形態の構成要素に追加してもよく、または、ある実施形態に示される全構成要素のうちのいくつかの構成要素を実施形態から削除してもよい。
【0135】
また、図面は、発明の理解を容易にするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の厚さ、長さ、個数、間隔等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合もある。また、上記の実施形態で示す各構成要素の構成は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の効果から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【0136】
図1を参照して説明したエンジンシステム100は、気体燃料モードのみを有していた。気体燃料モードは、気体燃料の燃焼によって機械仕事を得るモードである。ただし、エンジンシステム100は、気体燃料モードと、液体燃料モードとを有していてもよい。液体燃料モードは、液体燃料の燃焼によって機械仕事を得るモードである。この場合は、エンジンシステム100は、着火のための液体燃料を噴射する液体燃料噴射部66に加えて、燃焼により機械仕事を得るための液体燃料を燃焼室71に噴射する別の液体燃料噴射部を備える。また、エンジンシステム100は、混焼モードを有していてもよい。混焼モードは、気体燃料と液体燃料との双方を略同時に燃焼させて機械仕事を得るモードである。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は、エンジンシステム及び気体燃料燃焼方法に関するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0138】
1 エンジン
21 エンジン制御装置
25 計測部
65 気体燃料供給部
66 液体燃料噴射部
68 ピストン
71 燃焼室
100 エンジンシステム
211 制御部