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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/18 20060101AFI20230911BHJP
   B60T 8/1761 20060101ALI20230911BHJP
   B60T 8/34 20060101ALI20230911BHJP
   B60T 8/48 20060101ALI20230911BHJP
   B60T 8/94 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T8/1761
B60T8/34
B60T8/48
B60T8/94
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019158325
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021037777
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(72)【発明者】
【氏名】余語 和俊
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-020101(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065380(WO,A1)
【文献】特開2019-043278(JP,A)
【文献】特開2006-007927(JP,A)
【文献】特開2018-122741(JP,A)
【文献】国際公開第2018/114275(WO,A1)
【文献】特開平06-056021(JP,A)
【文献】実公平07-017612(JP,Y2)
【文献】特開平09-254767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 13/00-17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制動操作部材の動きに連動して制動液を圧送可能なマスタシリンダと、
電気モータによって駆動される調圧ユニットと、
前記車両の前輪、後輪に設けられ、前記調圧ユニットによって加圧される前輪、後輪ホイールシリンダと、
前記電気モータを駆動するとともに、前記前輪、後輪の過大な減速スリップを抑制するアンチロックブレーキ制御を実行するコントローラと、
を備える車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、
前記マスタシリンダによって前記前輪ホイールシリンダが加圧され、前記調圧ユニットによって前記後輪ホイールシリンダが加圧される場合には、
前記前輪に対する前記アンチロックブレーキ制御の実行を禁止し、前記後輪に対する前記アンチロックブレーキ制御の実行を許可する、車両の制動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制動制御装置であって、
前記マスタシリンダの前輪、後輪液圧室と前記前輪、後輪ホイールシリンダとを接続する前輪、後輪接続路に設けられる常開型の前輪、後輪分離弁と、
前記調圧ユニットと前記前輪、後輪接続路とを接続する前輪、後輪連絡路に設けられる常閉型の前輪、後輪連絡弁と、
前記前輪に対して前記アンチロックブレーキ制御を実行する常開型の前輪インレット弁、及び、常閉型の前輪アウトレット弁と、
前記後輪に対して前記アンチロックブレーキ制御を実行する常開型の後輪インレット弁、及び、常閉型の後輪アウトレット弁と、を備え、
前記電気モータは、第1、第2モータコイルを有し、
前記コントローラは、
前記第1モータコイル、前記前輪分離弁、及び、前記前輪連絡弁を駆動する第1制御部と、
前記第2モータコイル、前記後輪分離弁、前記後輪連絡弁、前記後輪インレット弁、及び、前記後輪アウトレット弁を駆動する第2制御部と、を含んで構成される、車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「フェールセーフ時にブレーキ制御の不要な停止を抑制することができるブレーキ装置の駆動回路を提供すること」を目的に、「ブレーキ装置の駆動回路(30)は、車両に搭載された、ホイールシリンダの液圧を制御する複数の電磁弁(21、26,27,25,28)と、電磁弁(21等)に電力を供給する電源(10)と、電磁弁(21等)への電力供給を遮断可能なリレー(32)とを備え、複数の電磁弁(21等)は、アンチロックブレーキ制御用の第1のグループ(25、28)と、ポンプを駆動して運転者のブレーキ操作量に応じたホイールシリンダの液圧を発生させる倍力制御用の第2のグループ(21、26,27)とに分類され、リレー(32)は、各グループに対してそれぞれ設けられている」ことが記載されている。
【0003】
更に、特許文献1には、「駆動回路30は、ABS系ソレノイド34Aを駆動するための回路30Aと、プライマリ倍力系ソレノイド34Bを駆動するための回路30Bと、セカンダリ倍力系ソレノイド34Cを駆動するための回路30Cとを有している。プライマリ倍力系ソレノイド34Bが全て正常であり、セカンダリ倍力系ソレノイド34Cの少なくとも一部が異常であると判定すれば、(ABS系ソレノイド34Aが正常であるか否かにかかわらず、)リレー32AによりABS系ソレノイド34Aへの電力供給を遮断することで、ABS制御を禁止する。プライマリ倍力系ソレノイド34Bの少なくとも一部が異常であると判定すれば、(ABS系ソレノイド34Aが正常であるか否かにかかわらず、)リレー32AによりABS系ソレノイド34Aへの電力供給を遮断することで、ABS制御を禁止する」旨が記載されている。
【0004】
特許文献1の装置では、倍力系ソレノイドの一部が不調である場合には、ABS系ソレノイドが正常であっても、ABS制御(「アンチロックブレーキ制御」ともいう)の作動が禁止される。しかしながら、車両の方向安定性は、後輪の横力が確保されることによって維持されるが、ABS制御が禁止されてしまうと、安定性が損なわれる状況が生じ得る。このため、装置の一部に不調があっても、車両安定性が確保されるものが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-020101号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、制動制御装置が一部不調であっても、車両の方向安定性が確保され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両の制動制御装置は、「車両の制動操作部材(BP)の動きに連動して制動液(BF)を圧送可能なマスタシリンダ(CM)」と、「電気モータ(MT)によって駆動される調圧ユニット(YC)」と、「前記車両の前輪、後輪(WHf、WHr)に設けられ、前記調圧ユニット(YC)によって加圧される前輪、後輪ホイールシリンダ(CWf、CWr)」と、「前記電気モータ(MT)を駆動するとともに、前記前輪、後輪(WHf、WHr)の過大な減速スリップを抑制するアンチロックブレーキ制御を実行するコントローラ(ECU)」と、を備える。前記コントローラ(ECU)は、前記マスタシリンダ(CM)によって前記前輪ホイールシリンダ(CWf)が加圧され、前記調圧ユニット(YC)によって前記後輪ホイールシリンダ(CWr)が加圧される場合には、前記前輪(WHf)に対する前記アンチロックブレーキ制御の実行を禁止し、前記後輪(WHr)に対する前記アンチロックブレーキ制御の実行を許可する。
【0008】
更に、本発明に係る車両の制動制御装置は、「前記マスタシリンダ(CM)の前輪、後輪液圧室(Rmf、Rmr)と前記前輪、後輪ホイールシリンダ(CWf、CWr)とを接続する前輪、後輪接続路(HSf、HSr)に設けられる常開型の前輪、後輪分離弁(VMf、VMr)」と、「前記調圧ユニット(YC)と前記前輪、後輪接続路(HSf、HSr)とを接続する前輪、後輪連絡路(HRf、HRr)に設けられる常閉型の前輪、後輪連絡弁(VRf、VRr)」と、「前記前輪(WHf)に対して前記アンチロックブレーキ制御を実行する常開型の前輪インレット弁(VIf)、及び、常閉型の前輪アウトレット弁(VOf)」と、「前記後輪(WHr)に対して前記アンチロックブレーキ制御を実行する常開型の後輪インレット弁(VIr)、及び、常閉型の後輪アウトレット弁(VOr)」と、を備える。ここで、前記電気モータ(MT)は、第1、第2モータコイル(CL1、CL2)を有する。そして、前記コントローラ(ECU)は、「前記第1モータコイル(CL1)、前記前輪分離弁(VMf)、及び、前記前輪連絡弁(VRf)を駆動する第1制御部(EC1)」と、「前記第2モータコイル(CL2)、前記後輪分離弁(VMf)、前記後輪連絡弁(VRr)、前記後輪インレット弁(VIr)、及び、前記後輪アウトレット弁(VOr)を駆動する第2制御部(EC2)」と、を含んで構成される。
【0009】
上記構成によれば、ABS制御の実行が必要な状況では、後輪WHrに対してABS制御が実行され、車両の方向安定性が向上される。制動制御装置SCに一部不調があった場合であっても、車両の方向安定性が確保される。更に、前輪WHfに対しては不必要なABS制御の実行が回避されるため、前輪制動力が適切に確保され、十分な車両減速度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車両の制動制御装置SCの第1の実施形態を説明するための全体構成図である。
図2】コントローラECU、及び、電気モータMTの構成例を説明するための概略図である。
図3】コントローラECUの作動を説明するためのマトリクス図である。
図4】車両の制動制御装置SCの第2の実施形態を説明するための全体構成図である。
図5】車両の制動制御装置SCの第3の実施形態を説明するための全体構成図である。
【0011】
<構成部材等の記号、記号末尾の添字>
以下の説明において、「CW」等の如く、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。各車輪に係る記号末尾に付された添字「f」、「r」は、車両の前後方向において、それが何れに関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、「f」は前輪に、「r」は後輪に係るものである。例えば、ホイールシリンダにおいて、前輪ホイールシリンダCWf、及び、後輪ホイールシリンダCWrと表記される。更に、添字「f」、「r」は省略され得る。この場合には、各記号は総称を表す。
【0012】
接続路HSにおいて、マスタリザーバRVに近い側(又は、ホイールシリンダCWから遠い側)が「上部」と称呼され、ホイールシリンダCWに近い側が「下部」と称呼される。また、制動液BFが循環する還流路HKにおいて、流体ポンプHPの吐出部Btに近い側が「上流側(上流部)」と称呼され、吐出部Btから遠い側が「下流側(下流部)」と称呼される。
【0013】
<車両の制動制御装置の第1の実施形態>
図1の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの第1の実施形態について説明する。第1の実施形態では、2系統の流体路(制動系統)のうちで、前輪制動系統BKfは、左右前輪WHfのホイールシリンダCWfに接続され、後輪制動系統BKrは、左右後輪WHrのホイールシリンダCWrに接続される。つまり、2系統の流体路として、前後型(「II型」ともいう)のものが採用される。ここで、「流体路」は、作動液体である制動液BFを移動するための経路であり、制動配管、流体ユニットの流路、ホース等が該当する。
【0014】
制動制御装置SCを備える車両には、制動操作部材BP、回転部材KT、ホイールシリンダCW、マスタリザーバRV、マスタシリンダCM、制動操作量センサBA、及び、車輪速度センサVWが設けられる。
【0015】
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPが操作されることによって、車輪WHの制動トルクTqが調整され、車輪WHに制動力が発生される。具体的には、車両の車輪WHには、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTが固定される。そして、回転部材KTを挟み込むようにブレーキキャリパが配置される。
【0016】
ブレーキキャリパには、ホイールシリンダCWが設けられている。ホイールシリンダCW内の制動液BFの圧力(制動液圧)Pwが増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)が、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体となって回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルクTqが発生される。そして、制動トルクTqによって、車輪WHに制動力(摩擦制動力)が発生される。
【0017】
マスタリザーバ(「大気圧リザーバ」ともいう)RVは、作動液体用のタンクであり、その内部に制動液BFが貯蔵されている。マスタシリンダCMは、制動操作部材BPに、ブレーキロッドRD等を介して、機械的に接続されている。マスタシリンダCMとして、タンデム型のものが採用されている。マスタシリンダCMの内部には、プライマリピストンPG、及び、セカンダリピストンPHによって、2つの液圧室(「マスタシリンダ室」ともいう)Rmf、Rmrが形成されている。制動操作部材BPが操作されていない場合には、マスタシリンダCMの前輪、後輪液圧室Rmf、Rmr(=Rm)とマスタリザーバRVとは連通状態にある。制動制御装置SCにて、制動液BFの量が不足している場合には、マスタリザーバRVから液圧室Rmに制動液BFが補給される。
【0018】
制動操作部材BPが操作されると、マスタシリンダCM内のプライマリ、セカンダリピストンPG、PHが、前進方向Haに押され、マスタシリンダ室(液圧室)Rm(=Rmf、Rmr)は、マスタリザーバRVから遮断される。更に、制動操作部材BPの操作が増加されると、ピストンPG、PHは前進方向Haに移動され、液圧室Rmの体積は減少し、制動液(作動流体)BFは、マスタシリンダCMから排出される。即ち、マスタシリンダCMは、制動操作部材BPの操作に応じて、制動液BFをマスタシリンダCMの外部に圧送する。制動操作部材BPの操作が減少されると、ピストンPG、PHは後退方向Hbに移動され、液圧室Rmの体積は増加し、制動液BFはマスタシリンダCMに向けて戻される。
【0019】
タンデム型マスタシリンダCMの前輪液圧室Rmfと2つの(左右の)前輪ホイールシリンダCWfとは、前輪流体路HSfによって接続されている。また、後輪液圧室Rmrと2つの(左右の)後輪ホイールシリンダCWrとは、後輪接続路HSrによって接続されている。前輪、後輪接続路HSf、HSrは、マスタシリンダCM(特に、液圧室Rmf、Rmr)と前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrとを接続する流体路である。前輪、後輪接続路HSf、HSrは、分岐部Bbf、Bbrにて、2つに分岐され、前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrに接続される。
【0020】
制動操作量センサBAによって、運転者による制動操作部材(ブレーキペダル)BPの操作量Baが検出される。具体的には、制動操作量センサBAとして、液圧室Rm内の液圧(マスタシリンダ液圧)Pm(=Pmf、Pmr)を検出するマスタシリンダ液圧センサPM(=PMf、PMr)、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSP、及び、制動操作部材BPの操作力Fpを検出する操作力センサFPのうちの少なくとも1つが採用される。つまり、操作量センサBAは、マスタシリンダ液圧センサPM、操作変位センサSP、及び、操作力センサFPの総称であり、操作量Baは、マスタシリンダ液圧Pm、操作変位Sp、及び、操作力Fpの総称である。
【0021】
車輪速度センサVWによって、各車輪WHの回転速度である、車輪速度Vwが検出される。車輪速度Vwの信号は、車輪WHのロック傾向(即ち、過大な減速スリップ)を抑制するアンチロックブレーキ制御(「ABS制御」ともいう)等に採用される。車輪速度センサVWによって検出された各車輪速度Vwは、コントローラECUに入力される。コントローラECUでは、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。上記のABS制御は、車輪速度Vw、及び、車体速度Vxに基づいて行われる。
【0022】
≪制動制御装置SC≫
制動制御装置SCは、ストロークシミュレータSS、シミュレータ弁VS、流体ユニットHU、及び、コントローラECUにて構成される。
【0023】
ストロークシミュレータ(単に、「シミュレータ」ともいう)SSが、制動操作部材BPに操作力Fpを発生させるために設けられる。換言すれば、制動操作部材BPの操作特性(操作変位Spに対する操作力Fpの関係)は、シミュレータSSによって形成される。シミュレータSSは、マスタシリンダCM(例えば、前輪液圧室Rmf)に接続される。シミュレータSSの内部には、シミュレータピストン及び弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。制動液BFが、前輪液圧室RmfからシミュレータSS内に移動されると、流入する制動液BFによってシミュレータピストンが押される。シミュレータピストンには、弾性体によって制動液BFの流入を阻止する方向に力が加えられるため、制動操作部材BPが操作される場合に、その操作変位Spに応じた操作力Fpが発生される。
【0024】
前輪液圧室RmfとシミュレータSSとの間には、シミュレータ弁VSが設けられる。シミュレータ弁VSは、開位置と閉位置とを有する、常閉型の電磁弁(オン・オフ弁)である。「オン・オフ弁」では、開位置と閉位置とが選択的に実現される。制動制御装置SCが起動されると、シミュレータ弁VSが開弁され、マスタシリンダCMとシミュレータSSとは連通状態にされる。なお、前輪液圧室Rmfの容量が、前輪ホイールシリンダCWfの容量に比較して、十分に大きい場合には、シミュレータ弁VSは省略されてもよい。また、シミュレータSSは、後輪液圧室Rmrに接続されてもよい。この場合、シミュレータ弁VSは、後輪液圧室RmrとシミュレータSSとの間に設けられる。
【0025】
流体ユニットHUは、前輪、後輪分離弁VMf、VMr、前輪、後輪マスタシリンダ液圧センサPMf、PMr、調圧ユニットYC、前輪、後輪連絡弁VRf、VRr、前輪、後輪調整液圧センサPPf、PPr、前輪、後輪インレット弁VIf、VIr、及び、前輪、後輪アウトレット弁VOf、VOrを含んで構成される。
【0026】
前輪分離弁VMfが前輪接続路HSfに設けられる。後輪分離弁VMrが、シミュレータSSが後輪接続路HSrに接続される部位Bfの下部で、後輪接続路HSrに設けられる。前輪、後輪分離弁VMf、VMrは、開位置と閉位置とを有する、常開型の電磁弁(オン・オフ弁)である。制動制御装置SCの起動時に、前輪、後輪分離弁VMf、VMrは閉弁され、マスタシリンダCMと前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrとは遮断状態(非連通状態)にされる。つまり、前輪、後輪分離弁VMf、VMrの閉位置によって、マスタシリンダCMと前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrとの接続が分離される。
【0027】
前輪、後輪分離弁VMf、VMrの上部には、前輪、後輪液圧室Rmf、Rmrの液圧(マスタシリンダ液圧)Pmf、Pmrを検出するよう、前輪、後輪マスタシリンダ液圧センサPMf、PMrが設けられる。マスタシリンダ液圧センサPM(=PMf、PMr)は操作量センサBAに相当し、マスタシリンダ液圧Pmは操作量Baに相当する。なお、前輪、後輪マスタシリンダ液圧Pmf、Pmrは、実質的には同一であるため、前輪、後輪マスタシリンダ液圧センサPMf、PMrのうちの何れか1つは省略することができる。
【0028】
前輪制動系統BKfでは、前輪流体ポンプHPfが、前輪還流路HKfに設けられる。前輪還流路HKfは、前輪接続路HSfに対して並列に設けられた流体路であり、前輪流体ポンプHPfの吸入部Bsfと吐出部Btfとを接続している。前輪流体ポンプHPfは、電気モータMTによって駆動される。前輪流体ポンプHPfと電気モータMTとが一体となって回転するよう、電気モータMTと前輪流体ポンプHPfとが固定される。電気モータMTが回転駆動されると、前輪還流路HKfでは、破線矢印で示す様に、制動液BFの還流KNf(「Btf→Bvf→Bwf→Bxf→Bsf→Btf」の流れ)が生じる。ここで、「還流」とは、制動液BFが循環して、再び元の流れに戻ることである。前輪還流路HKfには、制動液BFが逆流しないよう、逆止弁(「チェック弁」ともいう)が設けられる。
【0029】
前輪還流路HKfには、前輪調圧弁UAfが設けられる。前輪調圧弁UAfは、その開弁量(リフト量)が連続的に制御されるリニア型の電磁弁(「比例弁」、又は、「差圧弁」ともいう)である。前輪調圧弁UAfとして、常開型電磁弁が採用される。前輪調圧弁UAfによって、前輪還流KNfが絞られて、前輪調圧弁UAfの上流側の液圧(前輪流体ポンプHPfの吐出部Btfと前輪調圧弁UAfとの間の液圧であり、「前輪調整液圧」という)Ppfが調節される。換言すれば、前輪流体ポンプHPfが吐出する制動液BFの圧力が、前輪調圧弁UAfによって、前輪調整液圧Ppfに調節される。
【0030】
前輪還流路HKfは、前輪連絡路HRfを介して、前輪接続路HSfに接続される。換言すれば、前輪連絡路HRfは、前輪接続路HSfの分離弁VMfの下部Buf(前輪分離弁VMfと前輪ホイールシリンダCWfとの間の部位)と、前輪還流路HKfの前輪調圧弁UAfの上流側(部位Bvfであって、前輪吐出部Btfと前輪調圧弁UAfとの間)とを結ぶ流体路である。前輪連絡路HRfには、前輪連絡弁VRfが設けられる。前輪連絡弁VRfは、開位置と閉位置とを有する、常閉型の電磁弁(オン・オフ弁)である。制動制御装置SCの起動時に、前輪連絡弁VRfは開弁され、前輪接続路HSfと前輪還流路HKfとは連通状態にされる。つまり、前輪連絡弁VRfの開位置によって、前輪調整液圧Ppfに調節された制動液BFが、2つの前輪ホイールシリンダCWfに供給される。
【0031】
前輪制動系統BKfに係る構成と同様に、後輪制動系統BKrでは、後輪流体ポンプHPrが、後輪還流路HKrに設けられる。後輪還流路HKrは、後輪流体ポンプHPrの吸入部Bsrと吐出部Btrとを接続する流体路である。後輪流体ポンプHPrは、電気モータMTによって駆動される。電気モータMTが回転駆動されると、後輪還流路HKrでは、破線矢印で示す様に、制動液BFの還流KNr(「Btr→Bvr→Bwr→Bxr→Bsr→Btr」の流れ)が生じる。後輪還流路HKrには、制動液BFが逆流しないよう、逆止弁が設けられる。
【0032】
後輪還流路HKrには、後輪調圧弁UArが設けられる。後輪調圧弁UArは、その開弁量(リフト量)が連続的に制御されるリニア型の電磁弁である。後輪調圧弁UArとして、常開型電磁弁が採用される。後輪調圧弁UArによって、後輪還流KNrが絞られて、後輪調圧弁UArの上流側の液圧(後輪流体ポンプHPrの吐出部Btrと後輪調圧弁UArとの間の液圧であり、「後輪調整液圧」という)Pprが調節される。換言すれば、後輪流体ポンプHPrが吐出する制動液BFの圧力が、後輪調圧弁UArによって、後輪調整液圧Pprに調節される。
【0033】
後輪還流路HKrは、後輪連絡路HRrを介して、後輪接続路HSrに接続される。換言すれば、後輪連絡路HRrは、後輪接続路HSrの分離弁VMrの下部Bur(後輪分離弁VMrと後輪ホイールシリンダCWrとの間の部位)と、後輪還流路HKrの後輪調圧弁UArの上流側(部位Bvrであって、後輪吐出部Btrと後輪調圧弁UArとの間)とを結ぶ流体路である。後輪連絡路HRrには、後輪連絡弁VRrが設けられる。後輪連絡弁VRrは、開位置と閉位置とを有する、常閉型の電磁弁(オン・オフ弁)である。制動制御装置SCの起動時に、後輪連絡弁VRrは開弁され、後輪接続路HSrと後輪還流路HKrとは連通状態にされる。つまり、後輪連絡弁VRrの開位置によって、後輪調整液圧Pprに調節された制動液BFが、2つの後輪ホイールシリンダCWrに供給される。
【0034】
前輪、後輪流体ポンプHPf、HPrに制動液BFを供給するよう、前輪、後輪還流路HKf、HKrには、部位Bxf、Bxrにて、前輪、後輪低圧リザーバRWf、RWrが接続される。低圧リザーバRW(=RWf、RWr)のシリンダ内部には、リザーバピストンが設けられる。リザーバピストンによって、シリンダの内部は、制動液BFが満たされる前輪、後輪液体室Rwf、Rwr(「前輪、後輪リザーバ室」ともいう)と、気体が満たされる気体室とに区画されている。液体室Rwf、Rwrの内部には、リザーバピストンを気体室に向けて押圧するよう、圧縮ばねが収容されている。
【0035】
流体ポンプHP(=HPf、HPr)の駆動開始時には、低圧リザーバRW(特に、液体室Rw)から、制動液BFが吸入される。つまり、制動液BFが低圧リザーバRW(=RWf、RWr)から供給されることによって、還流路HKf、HKrにおいて、制動液BFの還流KNf、KNrが形成される。前輪、後輪低圧リザーバRWf、RWrは、流体ポンプHPf、HPrの吸入部Bsf、Bsrの近傍に配置される。このため、流体ポンプHPにおいて、制動液BFの吸い込み性能が向上される。
【0036】
低圧リザーバRWの容積を減少し、小型化するために、前輪、後輪還流路HKf、HKrが、前輪、後輪リザーバ路HVf、HVr(破線で示す)を介して、マスタリザーバRVに接続されてもよい。この場合、流体ポンプHPの駆動初期(即ち、電気モータMTの回転数が「0」から増加する時であって、制動開始時)には、制動液BFは、先ずは、低圧リザーバRW(特に、リザーバ室Rw)から吸い込まれる。制動液BFの昇圧において流体抵抗等が少ないため、その応答性が向上される。そして、低圧リザーバRWからの制動液BFの供給が制限される状態になると、制動液BFはマスタリザーバRVから供給される。なお、流体ポンプHPにおいて、制動液BFの吸込みがマスタリザーバRVからで、十分に足りる場合には、低圧リザーバRWは省略されてもよい。
【0037】
制動操作部材BPの操作が開始されると、電気モータMTが駆動される。このとき、電磁弁VS、VRf、VRrは開弁され、電磁弁VMf、VMrは閉弁されている。電気モータMTの回転開始によって、前輪、後輪流体ポンプHPf、HPrが制動液BFを吐出し、制動液BFの循環する流れである前輪、後輪還流KNf、KNrが発生される。前輪、後輪調圧弁UAf、UArの夫々に通電が行われると、常開型の前輪、後輪調圧弁UAf、UArの開弁量が減少され、制動液BFの流れが絞られる。このときのオリフィス効果によって、前輪、後輪調整液圧Ppf、Pprは、「0」から増加するよう、独立して調節される。前輪、後輪接続路HSf、HSrには、前輪、後輪調整液圧Ppf、Pprを検出するよう、前輪、後輪調整液圧センサPPf、PPrが設けられる。
【0038】
前輪、後輪接続路HSf、HSrにおいて、分岐部Bbf、Bbrから下部(ホイールシリンダCWに近い側)の構成は同じである。接続路HS(=HSf、HSr)には、インレット弁VI(=VIf、VIr)が設けられる。インレット弁VIとして、常開型のオン・オフ電磁弁が採用される。
【0039】
インレット弁VIの下部Bgf、Bgr(即ち、インレット弁VIとホイールシリンダCWとの間)にて、前輪、後輪減圧路HGf、HGrに接続される。減圧路HGf、HGrは、低圧リザーバRWf、RWr(又は、マスタリザーバRV)に接続される。減圧路HG(=HGf、HGr)には、アウトレット弁VO(=VOf、VOr)が設けられる。アウトレット弁VOとして、常閉型のオン・オフ電磁弁が採用される。
【0040】
アンチロックブレーキ制御(ABS制御)によって、ホイールシリンダCW内の液圧(制動液圧)Pwを減少するためには、インレット弁VIが閉位置にされ、アウトレット弁VOが開位置される。制動液BFのインレット弁VIからの流入が阻止され、ホイールシリンダCW内の制動液BFは、低圧リザーバRW(又は、マスタリザーバRV)に流出し、制動液圧Pwは減少される。また、制動液圧Pwを増加するため、インレット弁VIが開位置にされ、アウトレット弁VOが閉位置される。制動液BFの低圧リザーバRW(又は、マスタリザーバRV)への流出が阻止され、調整液圧Ppが、ホイールシリンダCWに導入され、制動液圧Pwが増加される。更に、ホイールシリンダCW内の液圧(制動液圧)Pwを保持するためには、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOが、共に閉弁される。つまり、電磁弁VI、VOを制御することによって、制動液圧Pw(即ち、制動トルクTq)が、各車輪WHのホイールシリンダCWで独立に調整可能である。
【0041】
コントローラ(「電子制御ユニット」ともいう)ECUによって、電気モータMT、及び、電磁弁UA、VM、VR、VS、VI、VOが制御される。コントローラECUには、マイクロプロセッサMP等が実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサMPにプログラムされた制御アルゴリズム(例えば、ABS制御のアルゴリズム)とが含まれている。コントローラECUは、車載通信バスBSを介して、運転支援コントローラ等の他システムのコントローラ(電子制御ユニット)とネットワーク接続されている。
【0042】
コントローラECUによって、各種信号(Ba、Pp、Vw等)に基づいて、電気モータMT、及び、電磁弁(VM等)が制御される。具体的には、マイクロプロセッサMP内の制御アルゴリズムに基づいて、電気モータMTを制御するためのモータ駆動信号Mtが演算される。同様に、電磁弁UA、VM、VR、VS、VI、VOを制御するための電磁弁駆動信号Ua、Vm、Vr、Vs、Vi、Voが演算される。そして、これらの駆動信号(Mt、VM等)に基づいて、電気モータ及び複数の電磁弁が駆動される。
【0043】
制動制御装置SCの電源が完全に失陥した場合には、シミュレータ弁VS、前輪、後輪連絡弁VRf、VRrが閉弁され、前輪、後輪分離弁VMf、VMrが開弁される。つまり、制動操作部材BPの操作特性は、ブレーキキャリパ、摩擦材等の剛性によって形成される。また、運転者の操作力Fp(筋力)のみによって、マスタシリンダCMから前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrに制動液BFが圧送され、4つの車輪WHのマニュアル制動によって、車両が減速される。ここで、「マニュアル制動」とは、運転者の筋力のみで行われる制動のことである。マニュアル制動によって発生する制動液圧Pwが「マニュアル液圧」と称呼される。
【0044】
<電気モータMT、コントローラECU等の構成>
図2の概略図を参照して、冗長性を考慮した、電気モータMT、コントローラECU等の構成について説明する。
【0045】
電気モータMTには、2系統の巻線組(第1、第2モータコイル)CL1、CL2が含まれる。例えば、電気モータMTとして、3相ブラシレスモータが採用される。ブラシレスモータMTには、モータのロータ位置(回転角)Kaを検出する回転角センサKAが設けられる。ブラシレスモータMTの第1、第2モータコイルCL1、CL2には、3相(U相、V相、W相)の巻線組(モータコイル)が、夫々、形成される。即ち、電気モータMTには、2系統の3相モータコイル(第1、第2モータコイル)CL1、CL2が設けられている。回転角(実際値)Kaに基づいて、2つの3相モータコイルCL1、CL2の通電方向(即ち、励磁方向)が、順次切り替えられ、ブラシレスモータMTが回転駆動される。なお、冗長性を確保するため、回転角センサKAにも、2組の検出部が採用され得る。
【0046】
実際の回転角Kaは、公知の方法(例えば、120度通電を行い誘起電圧のゼロクロスを検出する方法、中性点電位を利用する方法、dq回転座標モデルの推定誘起電圧を利用する方法、αβ固定座標モデルに対して拡張カルマンフィルタを適用する方法、状態オブザーバを利用した方法)によって推定可能である。従って、回転角Kaが推定演算される場合には、回転角センサKAは省略されてもよい。
【0047】
コントローラECUは、2つの制御部(第1、第2制御部)EC1、EC2にて構成される。第1制御部EC1には、第1マイクロプロセッサMP1、及び、第1駆動回路DR1が含まれる。また、第2制御部EC2には、第2マイクロプロセッサMP2、及び、第2駆動回路DR2が含まれる。第1、第2マイクロプロセッサMP1、MP2には、電気モータMT、及び、電磁弁(UA、VM等)を制御する制御アルゴリズムがプログラムされている。第1マイクロプロセッサMP1と第2マイクロプロセッサMP2との間では、信号(検出値、演算値等)が共有されている。第1、第2マイクロプロセッサMP1、MP2での演算結果に基づいて、第1、第2駆動回路DR1、DR2が制御される。第1、第2駆動回路DR1、DR2には、スイッチング素子(MOS-FET、IGBT等のパワー半導体デバイス)によって電気回路が形成されている。第1、第2駆動回路DR1、DR2によって、電気モータMT、及び、電磁弁(UA、VM等)に通電が行われ、それらが駆動される。以上で説明したように、コントローラECU(=MP+DR)、及び、電気モータMTは、電気的に二重化されている。
【0048】
第1制御部EC1(即ち、第1駆動回路DR1)によって、第1モータコイル(2系統のうちの第1系統のモータコイル)CL1、前輪調圧弁UAf、前輪分離弁VMf、前輪連絡弁VRf、及び、シミュレータ弁VSに通電が行われ、それらが駆動される。また、第2制御部EC2(即ち、第2駆動回路DR2)によって、第2モータコイル(2系統のうちの第2系統のモータコイル)CL2、後輪調圧弁UAr、後輪分離弁VMr、後輪連絡弁VRr、前輪インレット弁VIf、前輪アウトレット弁VOf、後輪インレット弁VIr、及び、後輪アウトレット弁VOrに通電が行われ、それらが駆動される。従って、第1制御部EC1、及び、第2制御部EC2のうちで何れか一方が不調になった場合(例えば、電気的に失陥した場合)でも、適正に作動する他方の制御部(駆動回路等)によって、電気モータMT、及び、調圧弁UAが駆動されるため、液圧サーボ制御が継続され得る。ここで、「液圧サーボ制御」とは、制動操作量Ba等に基づいて演算された前輪、後輪目標液圧Ptf、Ptrに、実際の前輪、後輪調整液圧Ppf、Ppr(=Pwf、Pwr)を一致させる制御である。例えば、液圧サーボ制御では、制動操作量Baの増加に従って、目標液圧Ptf、Ptrが増加するように決定され、目標液圧Ptf、Ptrと調整液圧Ppf、Ppr(検出値)との偏差が「0」に近づくように、前輪、後輪調圧弁UAf、UArへの通電量がフィードバック制御される。液圧サーボ制御による制動が「サーボ制動」と称呼される。
【0049】
破線で示す様に、シミュレータ弁VSは、第2駆動回路DR2によって駆動されてもよい。また、前輪インレット弁VIf、前輪アウトレット弁VOfは、第1駆動回路DR1によって駆動されてもよい。しかしながら、左右の後輪WHrにてアンチロックブレーキ制御を作動させるための、少なくとも、後輪インレット弁VIr、及び、後輪アウトレット弁VOrは、第2制御部EC2(即ち、第2駆動回路DR2)によって駆動されなければならない。即ち、制動制御装置SCでは、後輪インレット弁VIr、後輪アウトレット弁VOrが第2駆動回路DR2によって通電されることが必須の要件である。
【0050】
<コントローラECUの作動>
図3のマトリクス図を参照して、コントローラECUについて、作動の適正時/不調時について説明する。
【0051】
図3(a)を参照して、第1、第2制御部EC1、EC2が共に適正に作動する場合について説明する。この場合、第1制御部EC1によって、第1モータコイルCL1、前輪調圧弁UAf、前輪分離弁VMf、前輪連絡弁VRf、シミュレータ弁VSに通電が行われる。第2制御部EC2によって、第2モータコイルCL2、後輪調圧弁UAr、後輪分離弁VMr、及び、後輪連絡弁VRrに通電が行われる。これにより、第1、第2モータコイルCL1、CL2によって、電気モータMTが回転駆動される。前輪、後輪調圧弁UAf、UArによって、制動液BFの前輪、後輪還流KNf、KNrが絞られて、前輪、後輪調整液圧Ppf、Pprが調整される。前輪、後輪分離弁VMf、VMrが閉弁され、マスタシリンダCMと前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrとは、非連通状態にされる。前輪、後輪連絡弁VRf、VRrが開弁され、前輪、後輪制動液圧Pwf、Pwrが、前輪、後輪調整液圧Ppf、Pprによって調節される。シミュレータ弁VSが開弁され、制動操作部材BPの操作力Fpが、シミュレータSSによって発生される。なお、第1、第2制御部EC1、EC2が正常の場合には、第1、第2モータコイルCL1、CL2のうちの何れか一方によって、電気モータMTが駆動されてもよい。
【0052】
第1、第2制御部EC1、EC2が共に適正に作動する場合には、前輪インレット弁VIf、前輪アウトレット弁VOf、後輪インレット弁VIr、及び、後輪アウトレット弁VOrは、作動可能な状態にされる。即ち、各車輪WHに過大な減速スリップ(車輪のロック傾向)が生じた場合には、ABS制御(車輪速度Vw、及び、車体速度Vxに基づいて過大な減速スリップを抑制する制御)が実行されるよう、ABS制御の実行(作動)が許可されている。
【0053】
図3(b)を参照して、第2制御部EC2は適正に作動するが、第1制御部EC1が不調である場合について説明する。この場合、第1制御部EC1は不調であるため、第1モータコイルCL1、前輪調圧弁UAf、前輪分離弁VMf、前輪連絡弁VRf、及び、シミュレータ弁VSには通電が行われない。従って、前輪調圧弁UAf、及び、前輪分離弁VMfは開弁状態にされ、前輪連絡弁VRf、及び、シミュレータ弁VSは、閉弁状態にされる。第2制御部EC2によって、第2モータコイルCL2、後輪調圧弁UAr、後輪分離弁VMr、及び、後輪連絡弁VRrに通電が行われる。電気モータMTは、第2モータコイルCL2によって駆動され、前輪、後輪還流路HKf、HKr内に制動液BFの還流KNf、KNrが生じる。後輪調圧弁UArによって、後輪還流KNrが絞られて、後輪調整液圧Pprが調整される。このとき、後輪分離弁VMrが閉弁され、後輪連絡弁VRrが開弁されている。従って、後輪制動液圧Pwrは、液圧サーボ制御による後輪調整液圧Pprによって調節される。マスタシリンダCMの前輪液圧室Rmfは、前輪ホイールシリンダCWfに、直接接続され、前輪制動液圧Pwfは、運転者の筋力のみ(即ち、マニュアル制動)によって調整される。
【0054】
第2制御部EC2は適正に作動するが、第1制御部EC1が不調である場合(即ち、マスタシリンダCMによって前輪ホイールシリンダCWfが加圧され、調圧ユニットYCによって後輪ホイールシリンダCWrが加圧される場合)には、コントローラECUの第2制御部EC2によって、前輪WHfでは、アンチロックブレーキ制御が実行されないよう、その制御の実行(作動)が禁止される。つまり、前輪インレット弁VIf、及び、前輪アウトレット弁VOfが作動不可状態にされ、それらの駆動が禁止される。一方、第2制御部EC2によって、後輪WHrでは、アンチロックブレーキ制御が実行されるよう、その制御の実行(作動)が許可される。つまり、後輪インレット弁VIr、及び、後輪アウトレット弁VOrが作動可能な状態にされ、それらの駆動が許可される。
【0055】
図3(c)を参照して、第1制御部EC1は適正に作動するが、第2制御部EC2が不調である場合について説明する。この場合、第2制御部EC2は不調であるため、第2モータコイルCL2、後輪調圧弁UAr、後輪分離弁VMr、及び、後輪連絡弁VRrには通電が行われない。後輪調圧弁UAr、後輪分離弁VMrは、開弁状態にされ、後輪連絡弁VRrは閉弁状態にされている。第1制御部EC1によって、第1モータコイルCL1、前輪調圧弁UAf、前輪分離弁VMf、及び、前輪連絡弁VRfに通電が行われる。しかし、シミュレータ弁VSには通電が行われない。電気モータMTは、第1モータコイルCL1によって駆動され、前輪、後輪還流路HKf、HKr内に制動液BFの還流KNf、KNrが生じる。前輪調圧弁UAfによって、前輪還流KNfが絞られて、前輪調整液圧Ppfが調整される。このとき、前輪分離弁VMfが閉弁され、前輪連絡弁VRfが開弁されている。従って、前輪制動液圧Pwfは、前輪調整液圧Ppfによって調節される。つまり、前輪制動系統BKfでは、第1制御部EC1によって、液圧サーボ制御が実行される。一方、後輪制動系統BKrでは、シミュレータ弁VSは閉弁されているため、後輪液圧室Rmrからの制動液BFはシミュレータSSに消費されない。このため、後輪ホイールシリンダCWrにおいて、マニュアル液圧が効果的に増加される。なお、制動装置の諸元に起因して、操作力Fpに対して操作変位Spが小さくなり過ぎる場合には、第1制御部EC1によって、シミュレータ弁VSへの通電が行われ、シミュレータ弁VSが開弁されてもよい。
【0056】
第1制御部EC1は適正に作動するが、第2制御部EC2が不調である場合には、前輪インレット弁VIf、前輪アウトレット弁VOf、後輪インレット弁VIr、及び、後輪アウトレット弁VOrは駆動され得ないため、アンチロックブレーキ制御の実行(作動)は不能状態である。
【0057】
制動制御装置SCでは、複数の構成部材による冗長化ではなく、電気系統が二重化されることによって、その冗長性が確保される。この冗長化によって、コントローラECU、電気モータMT等の一部が不調になっても、直ちに、全ての車輪WHがマニュアル制動には切り替えられず、正常に作動する側で液圧サーボ制御が継続される。結果、制動制御装置SCの一部不調時において、十分な車両減速度が確保され得る。
【0058】
上記の液圧サーボ制御では、第1制御部EC1、及び、第2制御部EC2のうちで何れか一方が不調になった場合には、第1、第2制御部EC1、EC2が適正作動する場合に比較して、制動操作量Baに対する目標液圧Ptが、より大きくなるように演算されることが好適である。具体的には、第1制御部EC1が不調である場合には、それが適正作動する場合の前輪目標液圧Ptfとマニュアル制動による制動液圧(マニュアル液圧)との差分だけ、後輪目標液圧Ptrが大きくなるように決定される。逆に、第2制御部EC2が不調である場合には、それが適正作動する場合の後輪目標液圧Ptrとマニュアル液圧との差分だけ、前輪目標液圧Ptfが大きくなるように決定される。これにより、第1、第2制御部EC1、EC2のうちで何れか一方が不調になった際の車両減速度の不足分が、適正に補償され得る。
【0059】
また、図3(b)で示す様に、マスタシリンダCMによって前輪ホイールシリンダCWfが加圧される場合(マニュアル制動の場合)には、前輪WHfに対するアンチロックブレーキ制御の実行が不能(禁止状態)にされる。調圧ユニットYCによって後輪ホイールシリンダCWrが加圧される場合(サーボ制動の場合)には、後輪WHrに対するアンチロックブレーキ制御の実行が可能(許可状態)にされる。これにより、前輪制動液圧Pwfが運転者の筋力のみによって増加されている場合には、不必要にアンチロックブレーキ制御が作動されない。例えば、車輪が濡れたマンホールの蓋の上を通過した様な場合に、アンチロックブレーキ制御による前輪制動液圧Pwfの不必要な減圧が回避され、十分な前輪制動力が確保される。
【0060】
後輪制動液圧Pwrは、調圧ユニットYCによってサーボ制動(液圧サーボ制御による制動)されているため、車両全体に作用する総制動力において、制動制御装置が適正に作動する場合に比較して、前輪制動力の寄与度が相対的に低下し、後輪制動力の寄与度が相対的に高まる。後輪WHrに対してアンチロックブレーキ制御の実行(作動)は許可され、後輪WHrの過大な減速スリップが抑制されるため、十分な後輪横力が確保される。以上のことから、制動制御装置SCに一部不調があった場合であっても、車両の方向安定性が向上される。加えて、前輪制動力が適切に確保されるため、十分な車両減速度が得られる。
【0061】
<車両の制動制御装置の第2実施形態>
図4の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの第2の実施形態について説明する。第2の実施形態でも、2系統の流体路として、前後型のものが採用される。
【0062】
第1の実施形態の調圧ユニットYCでは、2つの流体ポンプHPf、HPrを含む、2つの還流路HKf、HKrにおいて、2つの調圧弁UAf、UArによって、前輪、後輪調整液圧Ppf、Ppr(=Pwf、Pwr)がサーボ制御された。第2の実施形態の調圧ユニットYCでは、1つの流体ポンプHPを含む、1つの還流路HKにおいて、2つの調圧弁(第1、第2調圧弁)UA1、UA2によって、調整液圧Pp(=Pwf、Pwr)が液圧サーボ制御される。
【0063】
上述したように、同一記号を付された構成部材、要素、信号等は同一機能のものである。記号末尾に付された添字「f」、「r」は、前後の制動系統の何れに関するものであるかを示し、「f」は前輪制動系統BKf、「r」は後輪制動系統BKrを示す。添字「f」、「r」は省略され得る。添字「f」、「r」が省略された場合には、その記号は総称を表す。接続路HSにおいて、マスタシリンダCMに近い側が「上部」、ホイールシリンダCWに近い側が「下部」と称呼される。また、還流路HKにおいて、流体ポンプHPの吐出部Btに近い側が「上流側(上流部)」、吐出部Btから遠い側が「下流側(下流部)」と称呼される。以下、第1の実施形態に係る制動制御装置SCとの相違点について説明する。
【0064】
-調圧ユニットYC(第2実施形態)-
第2の実施形態に係る調圧ユニットYCには、流体ポンプHP、第1、第2調圧弁UA1、UA2、及び、低圧リザーバRWが設けられる。調圧ユニットYCでは、電気モータMTによって駆動される流体ポンプHPによって、制動液BFの循環流KNが形成される。この循環流KNが、第1、第2調圧弁UA1、UA2によって、絞られることで、調整液圧Ppが調整される。そして、調整液圧Ppに調節された制動液BFは、前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrの夫々に供給される。
【0065】
以下、調圧ユニットYCの詳細について述べる。流体ポンプHPが、還流路HKに設けられる。還流路HKは、前輪、後輪接続路HSf、HSrに対して並列に設けられた流体路であり、流体ポンプHPの吸入部Bsと吐出部Btとを接続している。流体ポンプHPは、電気モータMTによって駆動される。電気モータMTには、2系統の巻線組(第1、第2モータコイル)CL1、CL2が含まれる。流体ポンプHPと電気モータMTとが一体となって回転するよう、電気モータMTと流体ポンプHPとが固定される。電気モータMTの回転によって、還流路HKでは、破線矢印で示す様に、制動液BFの還流KNが発生される。還流路HKには、逆流防止のため、逆止弁が設けられる。
【0066】
還流路HKには、2つの調圧弁(第1、第2調圧弁)UA1、UA2が、直列に設けられる。具体的には、還流路HKにおいて、第1調圧弁UA1が、第2調圧弁UA2に対して下流側に配置される。第1、第2調圧弁UA1、UA2は、常開型のリニア電磁弁(開弁量が連続的に調整される電磁弁であり、「比例弁」、「差圧弁」とも称呼される)である。調圧ユニットYCは、2つの第1、第2調圧弁UA1、UA2によって、装置の冗長化が達成されている。
【0067】
還流路HKは、流体ポンプHP(特に、吸入部Bs)に近接した部位Bxにて、低圧リザーバRWが接続される。第1の実施形態での前輪、後輪低圧リザーバRWf、RWrと同様に、低圧リザーバRWは、流体ポンプHPに制動液BFを供給するための、マスタリザーバRVとは別の制動液BFを貯蔵する容器である。低圧リザーバRWを小型化するため、還流路HKが、リザーバ路HVを介して、マスタリザーバRVに接続されてもよい。
【0068】
第1調圧弁UA1、及び、第2調圧弁UA2のうちの少なくとも1つによって、制動液BFの循環流KNが絞られて、第2調圧弁UA2の上流部の液圧(調整液圧)Ppが調節される。換言すれば、第1調圧弁UA1、及び、第2調圧弁UA2のうちの少なくとも1つによって、流体ポンプHPと第2調圧弁UA2との間の液圧Ppが制御される。
【0069】
還流路HKと前輪、後輪接続路HSf、HSrとは、前輪、後輪連絡路HRf、HRrによって接続される。具体的には、前輪連絡路HRfは、前輪接続路HSfの前輪分離弁VMfの下部Buf、及び、流体ポンプHPの吐出部Btの下流部(第2調圧弁UA2の上流部)Bvfを結ぶ流体路である。後輪連絡路HRrは、後輪接続路HSrの後輪分離弁VMrの下部Bur、及び、流体ポンプHPの吐出部Btの下流部(第2調圧弁UA2の上流部)Bvrを結ぶ流体路である。前輪、後輪連絡路HRf、HRrには、常閉型の前輪、後輪連絡弁VRf、VRrが設けられる。前輪、後輪接続路HSf、HSrには、前輪、後輪調整液圧Ppf、Pprを検出するよう、前輪、後輪調整液圧センサPPf、PPrが設けられる。
【0070】
<第2の実施形態に係るコントローラECU等の構成と作動>
第2の実施形態に係る制動制御装置SCのコントローラECU等の構成と作動について説明する。第2の実施形態に係る制動制御装置SCのコントローラECU等の構成、及び、作動は、図2、3を参照して説明した第1の実施形態に係る制動制御装置SCに係るものにおいて、「前輪調圧弁UAf」を「第1調圧弁UA1」に、「後輪調圧弁UAr」を「第2調圧弁UA2」に読み替えたものと同じである。以下、簡単に説明する。
【0071】
第1、第2制御部EC1、EC2が共に適正に作動する場合には、制動液圧Pw(=Pwf、Pwr)は、液圧サーボ制御(即ち、サーボ制動)によって調節(加圧、減圧等)される。第2制御部EC2は適正に作動するが、第1制御部EC1が不調である場合には、前輪制動液圧Pwfはマニュアル制動(マスタシリンダCMによる加圧)によって調節され、後輪制動液圧Pwrはサーボ制動(調圧ユニットYCによる加圧)で調節される。このとき、前輪WHfでは、第2制御部EC2によって、ABS制御の作動は禁止され、その作動は不可とされる。一方、後輪WHrでは、第2制御部EC2によって、ABS制御の作動は許可され、その作動は可能とされる。第1制御部EC1は適正に作動するが、第2制御部EC2が不調である場合には、前輪制動液圧Pwfは調圧ユニットYCによってサーボ制動され、後輪制動液圧PwrはマスタシリンダCMによってマニュアル制動される。このとき、インレット弁VI、アウトレット弁VOを駆動する第2制御部EC2は不調であるため、ABS制御は作動不可(不能)である。
【0072】
第2の実施形態でも、第1の実施形態と同様の効果を奏する。つまり、制動制御装置SCでは、電気系統が二重化されることによって、その冗長性が確保される。装置の一部が不調になっても、直ちに、全ての車輪WHがマニュアル制動には切り替えられず、正常に作動する側で液圧サーボ制御が継続される。結果、制動制御装置SCの一部不調時において、十分な車両減速度が確保され得る。
【0073】
また、マスタシリンダCMによって前輪ホイールシリンダCWfが加圧され、調圧ユニットYCによって後輪ホイールシリンダCWrが加圧される場合には、前輪WHfに対するABS制御の実行が禁止にされ、後輪WHrに対するABS制御の実行が許可される。後輪WHrに対してABS制御の作動は可能であるため、必要な場合には、ABS制御が実行され、後輪WHrの横力が確保される。このため、制動制御装置SCに一部不調があった場合であっても、車両の方向安定性が向上され得る。加えて、前輪WHfに対するABS制御の作動禁止により、前輪制動力が確保され、適切な車両減速が達成される。
【0074】
<車両の制動制御装置の第3実施形態>
図5の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの第3の実施形態について説明する。第3の実施形態でも、2系統の流体路は前後型である。第1、第2の実施形態の調圧ユニットYCでは、流体ポンプHPf、HPr、HPを含む還流路HKf、HKr、HKにおいて、調圧弁UAf、UAr、UA1、UA2によって、調整液圧Ppf、Ppr、Ppが調節された。第3の実施形態の調圧ユニットYCでは、調整液圧Ppが、電気モータMTの回転動力によって、直接、液圧サーボ制御される。調圧ユニットYC以外は、第2の実施形態に係る制動制御装置SCと同じであるため、相違点について説明する。
【0075】
-調圧ユニットYC(第3実施形態)-
調圧ユニットYCは、電気モータMT、減速機GS、回転・直動変換機構(例えば、ねじ機構であり、単に、「変換機構」ともいう)NJ、調圧ピストンPC、及び、調圧シリンダCCにて構成される。
【0076】
電気モータMTは、2系統の巻線組(第1、第2モータコイル)CL1、CL2を含んで構成される。電気モータMTの回転動力が、減速機GSによって、減速されて、回転・直動変換機構(ねじ機構)NJに伝達される。例えば、小径歯車が、電気モータMTの出力軸に固定される。小径歯車が、大径歯車にかみ合わされ、その回転軸がねじ機構(変換機構)NJのボルト部材Ojに固定される。ねじ機構NJは、ボルト部材Oj、及び、ナット部材Mjで構成される。ねじ機構NJにて、減速機GSの回転動力が、調圧ピストンPCの直線動力に変換される。ねじ機構NJのナット部材Mjによって調圧ピストンPCが押されることによって、調圧ピストンPCの直線動力に変換される。ねじ機構NJとして、台形ねじ等の「滑りねじ」が採用される。また、ねじ機構NJとして、ボールねじ等の「転がりねじ」が採用され得る。
【0077】
調圧ピストンPCは、調圧シリンダCCの内孔に挿入され、「ピストン/シリンダ」の組み合わせが形成されている。具体的には、「調圧シリンダCCの内周面、底面」、及び、「調圧ピストンPCの端面」によって液圧室Rc(「調圧室」という)が形成される。調圧室Rcは、前輪、後輪連絡路HRf、HRrを介して、前輪、後輪接続路HSf、HSrに接続される。調圧ピストンPCが移動されることによって、調圧室Rcの体積が変化する。このとき、前輪、後輪連絡弁VRf、VRrが開弁され、前輪、後輪分離弁VMf、VMrが閉弁されているため、制動液BFは、前輪、後輪液圧室Rmf、Rmrには戻されず、前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrに対して移動される。
【0078】
電気モータMTが正転方向に回転駆動されると、調圧室Rcの体積が減少し、調整液圧Pp(即ち、制動液圧Pw)が増加される。一方、電気モータMTが逆転方向に回転駆動されると、調圧室Rcの体積が増加し、制動液BFが前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrから調圧シリンダCCに戻される。これによって、調整液圧Pp(=Pw)が減少される。なお、調圧室Rc内には、戻しばね(弾性体)が設けられ、電気モータMTへの通電が停止された場合には、調圧ピストンPCは、その初期位置に戻される。また、調圧室Rcは、逆止弁を介して、減圧路HGに接続される。
【0079】
第3の実施形態に係る制動制御装置SCにおいて、電気モータMT、コントローラECU等の構成は、図2を参照して説明した第1の実施形態から、前輪、後輪調圧弁UAf、UArを省いたものと同じである。また、コントローラECUの適正時/不調時の作動は、図3を参照して説明した第1の実施形態から、前輪、後輪調圧弁UAf、UArを省いたものと同じである。第3の実施形態においても、第1、第2の実施形態と同様の効果を奏する。即ち、電気的な二重化によって、制動制御装置SCの冗長性が確保される。また、制動制御装置SCの一部不調時において、車両の安定性と減速度が適切に確保され得る。
【0080】
<他の実施形態>
以下、他の実施形態について説明する。
第1~第3の実施形態では、コントローラECUは、2つの制御部(第1、第2制御部)EC1、EC2を含んで構成された。そして、コントローラECUについての適正時/不調時の作動について説明した。しかしながら、制動制御装置SCの一部不調は、コントローラECUの不調には限定されない。例えば、第1~第3の実施形態では、前輪分離弁VMf、及び、前輪連絡弁VRfのうちの少なくとも1つが不調であり、他の電磁弁が適正である場合には、前輪ホイールシリンダCWfはマスタシリンダCMによって加圧され、後輪ホイールシリンダCWrは調圧ユニットYCによって加圧される。また、第1の実施形態では、前輪調圧弁UAfが不調であり、他の電磁弁が適正である場合には、前輪ホイールシリンダCWfはマスタシリンダCMによって加圧され、後輪ホイールシリンダCWrは調圧ユニットYCによって加圧される。
【0081】
第1~第3の実施形態では、コントローラECUとして、電気的な二重化構成が採用された。これに代えて、コントローラECUは、1つの制御部(即ち、1つのマイクロプロセッサMPと1つの駆動回路DR)を有する構成であってもよい。該構成では、電気モータMTは、1つのモータコイルCLを有し、全ての電磁弁(VM、VR等)、モータコイルCLは、1つの駆動回路DRによって駆動される。該構成でも、前輪分離弁VMf、及び、前輪連絡弁VRfのうちの少なくとも1つが不調であり、他の電磁弁が適正である場合には、前輪ホイールシリンダCWfはマスタシリンダCMによって加圧され、後輪ホイールシリンダCWrは調圧ユニットYCによって加圧される。或いは、前輪調圧弁UAfが不調であり、他の電磁弁が適正である場合には、前輪ホイールシリンダCWfはマスタシリンダCMによって加圧され、後輪ホイールシリンダCWrは調圧ユニットYCによって加圧される。
【0082】
<実施形態と作用・効果のまとめ>
以下、実施形態と、その作用・効果についてまとめる。
制動制御装置SCには、「車両の制動操作部材BPの動きに連動して(応じて)制動液BFを圧送可能なマスタシリンダCM」と、「電気モータMTによって駆動される調圧ユニットYC」と、「車両の前輪WHf、後輪WHrに設けられ、調圧ユニットYCによって加圧される前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWr」と、「電気モータMTを駆動するとともに、前輪WHf、後輪WHrの過大な減速スリップを抑制するアンチロックブレーキ制御を実行するコントローラECU」と、が備えられる。コントローラECUでは、マスタシリンダCMによって前輪ホイールシリンダCWfが加圧され、調圧ユニットYCによって後輪ホイールシリンダCWrが加圧される場合には、前輪WHfに対するアンチロックブレーキ制御の実行が禁止され、後輪WHrに対するアンチロックブレーキ制御の実行が許可される。
【0083】
例えば、制動制御装置SCには、「マスタシリンダCMの前輪、後輪液圧室Rmf、Rmrと前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrとを接続する前輪、後輪接続路HSf、HSrに設けられる常開型の前輪、後輪分離弁VMf、VMr」と、「調圧ユニットYCと前輪、後輪接続路HSf、HSrとを接続する前輪、後輪連絡路HRf、HRrに設けられる常閉型の前輪、後輪連絡弁VRf、VRr」と、「前輪WHfに対してアンチロックブレーキ制御を実行する常開型の前輪インレット弁VIf、及び、常閉型の前輪アウトレット弁VOf」と、「後輪WHrに対してアンチロックブレーキ制御を実行する常開型の後輪インレット弁VIr、及び、常閉型の後輪アウトレット弁VOr」と、が備えられる。ここで、電気モータMTは、第1、第2モータコイルCL1、CL2を有する。そして、コントローラECUは、「第1モータコイルCL1、前輪分離弁VMf、及び、前輪連絡弁VRfを駆動する第1制御部EC1」と、「第2モータコイルCL2、後輪分離弁VMf、後輪連絡弁VRr、後輪インレット弁VIr、及び、後輪アウトレット弁VOrを駆動する第2制御部EC2」と、を含んでいる。第1制御部EC1が不調であって、第2制御部EC2が正常である場合には、マスタシリンダCMによって前輪ホイールシリンダCWfが加圧され、調圧ユニットYCによって後輪ホイールシリンダCWrが加圧される。このとき、コントローラECUの第2制御部EC2は、前輪WHfに対するアンチロックブレーキ制御の実行を禁止し、後輪WHrに対するアンチロックブレーキ制御の実行を許可する。
【0084】
上述した様に、マスタシリンダCMによって前輪ホイールシリンダCWfが加圧され、調圧ユニットYCによって後輪ホイールシリンダCWrが加圧される場合には、前輪WHfに対するABS制御の作動が禁止にされ、後輪WHrに対するABS制御の作動が許可される。該構成では、ABS制御の実行が必要な状況では、後輪WHrに対してABS制御が実行され、車両の方向安定性が向上され得る。また、前輪WHfに対しては不必要なABS制御の実行が回避されるため、前輪制動力が適切に確保される。従って、制動制御装置SCに一部不調があった場合であっても、車両の方向安定性が維持されるとともに、車両減速度が適切に確保される。
【符号の説明】
【0085】
SC…制動制御装置、BP…制動操作部材、CM…マスタシリンダ、CWf、CWr…前輪、後輪ホイールシリンダ、SS…ストロークシミュレータ、HU…流体ユニット、YC…調圧ユニット、BA…操作量センサ、ECU…コントローラ(電子制御ユニット)、EC1、EC2…第1、第2制御部、MT…電気モータ、CL1、CL2…第1、第2モータコイル、UA…調圧弁、VM…分離弁、VR…連絡弁、VS…シミュレータ弁、VI…インレット弁、VO…アウトレット弁、HP…流体ポンプ、HS…接続路、HR…連絡路、HK…還流路。


図1
図2
図3
図4
図5