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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】ハードコート用樹脂組成物とその利用
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/00 20060101AFI20230911BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230911BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20230911BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
C09D4/00
C09D7/61
C08J7/046 A CER
B32B27/20 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019177653
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021054907
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】小出 茂弘
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/008645(WO,A1)
【文献】特開2012-041479(JP,A)
【文献】特開2011-157497(JP,A)
【文献】特開2001-240774(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0006630(KR,A)
【文献】特開2001-139888(JP,A)
【文献】特開2019-112603(JP,A)
【文献】特開2017-057297(JP,A)
【文献】特開2016-045448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
C08J7/046
B32B27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機微粒子とエネルギー硬化性樹脂とを少なくとも含有し、
前記無機微粒子は、少なくともシリカ粒子を含み、
前記シリカ粒子は、複数の球状粒子と、当該複数の球状粒子を連結する連結部とを有する連結シリカ粒子を含み、
前記無機微粒子の総量を100wt%としたときの前記連結シリカ粒子の含有量が15wt%以上50wt%以下である、ハードコート用樹脂組成物。
【請求項2】
無機微粒子とエネルギー硬化性樹脂とを少なくとも含有し、
前記無機微粒子は、少なくともシリカ粒子を含み、
前記シリカ粒子は、複数の球状粒子と、当該複数の球状粒子を連結する連結部とを有する連結シリカ粒子を含み、
前記無機微粒子は、アルミナ粒子をさらに含む、ハードコート用樹脂組成物
【請求項3】
前記アルミナ粒子は、球状のアルミナ粒子である、請求項2に記載のハードコート用樹脂組成物。
【請求項4】
無機微粒子とエネルギー硬化性樹脂とを少なくとも含有し、
前記無機微粒子は、少なくともシリカ粒子を含み、
前記シリカ粒子は、複数の球状粒子と、当該複数の球状粒子を連結する連結部とを有する連結シリカ粒子を含み、
重合禁止剤を含有する、ハードコート用樹脂組成物
【請求項5】
前記連結シリカ粒子は、BET法に基づく比表面積から算出される平均粒子径が5nm以上20nm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のハードコート用樹脂組成物。
【請求項6】
前記エネルギー硬化性樹脂の含有量を100wt%としたときの前記無機微粒子の含有量が80wt%以上140wt%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のハードコート用樹脂組成物。
【請求項7】
前記エネルギー硬化性樹脂は、ビニル基または(メタ)アクリロイル基を分子内に複数含む多官能モノマーを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のハードコート用樹脂組成物。
【請求項8】
光重合開始剤及び/又は熱重合開始剤を含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のハードコート用樹脂組成物。
【請求項9】
樹脂基材と、前記樹脂基材の表面に付与された未硬化層とを備えた未硬化基材であって、
前記未硬化層は、
無機微粒子とエネルギー硬化性樹脂とを少なくとも含有し、
前記無機微粒子は、少なくともシリカ粒子を含み、
前記シリカ粒子は、複数の球状粒子と、当該複数の球状粒子を連結する連結部とを有する連結シリカ粒子を含み、
前記無機微粒子の総量を100wt%としたときの前記連結シリカ粒子の含有量が15wt%以上50wt%以下である、未硬化基材。
【請求項10】
樹脂基材と、前記樹脂基材の表面に付与された未硬化層とを備えた未硬化基材であって、
前記未硬化層は
無機微粒子とエネルギー硬化性樹脂とを少なくとも含有し、
前記無機微粒子は、少なくともシリカ粒子を含み、
前記シリカ粒子は、複数の球状粒子と、当該複数の球状粒子を連結する連結部とを有する連結シリカ粒子を含み、
前記無機微粒子は、アルミナ粒子をさらに含む、未硬化基材
【請求項11】
樹脂基材と、前記樹脂基材の表面に付与された未硬化層とを備えた未硬化基材であって、
前記未硬化層は
無機微粒子とエネルギー硬化性樹脂とを少なくとも含有し、
前記無機微粒子は、少なくともシリカ粒子を含み、
前記シリカ粒子は、複数の球状粒子と、当該複数の球状粒子を連結する連結部とを有する連結シリカ粒子を含み、
重合禁止剤を含有する、未硬化基材
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項に記載のハードコート用樹脂組成物を樹脂基材の表面に付与して未硬化層を形成することによって未硬化基材を作製する工程と、
前記未硬化基材を所望の形状に成形する工程と、
前記未硬化層を硬化させる工程と
を備える、ハードコート付樹脂基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート用樹脂組成物とその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン等の種々の分野において、デバイスの軽量化やフレキシブル化等の観点から、柔軟性に優れた樹脂基材をガラス基材の代わりに使用することが検討されている。しかし、樹脂基材は、ガラス基材と比べて耐衝撃性や耐擦傷性に劣るという問題を有している。このため、耐衝撃性や耐擦傷性に優れたハードコート層を樹脂基材の表面に形成することが提案されている。このハードコート層は、例えば、エネルギー硬化性樹脂と無機微粒子とを含むハードコート用樹脂組成物を基材表面に付与した後に、これを乾燥させ、光や熱を加えて硬化させることによって形成される。かかるハードコート用樹脂組成物の一例が特許文献1~3に開示されている。
【0003】
特許文献1には、有機-無機ハイブリッドのハードコート用樹脂組成物において、ハイブリッド材料が、チオール基を有するシランカップリング剤の前記チオール基と3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーのアクリロイル基及び/またはメタクリロイル基とがスルフィド結合(-R-S-R’-:R及びR’は脂肪族及び/又は芳香族炭化水素鎖)してなる多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤にて修飾された金属酸化物微粒子であるハードコート用樹脂組成物が開示されている。この特許文献1に開示された技術では、金属酸化物微粒子の一例として、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、チタニア(TiO)、ITO(スズドープ酸化インジウム)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アンチモン(Sb、Sb等)等が挙げられている。
【0004】
特許文献2には、(a)電離放射線により重合する化合物と、(b)抗菌成分を含有する平均粒径が0.005μm~0.8μmの抗菌性微粒子とを少なくとも含有する塗液(ハードコート用樹脂組成物)が開示されている。かかる特許文献2に開示された技術では、抗菌性微粒子として、抗菌性金属成分を含有する被覆層でシリカ-アルミナ複合酸化物が覆われた無機酸化物微粒子が使用されている。
【0005】
特許文献3には、(a)電離放射線により重合する化合物と、(b)電離放射線により重合する疎水性の多官能高分子樹脂と、(c)物理気相合成法により作製した真球状シリカ粒子とを少なくとも含有する塗液(ハードコート用樹脂組成物)が開示されている。この特許文献3では、透明性を損なうことなく表面に微細な凹凸形状を付与するために、無機微粒子として、アスペクト比が小さい真球状シリカ粒子を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5752947号
【文献】特許第5935133号
【文献】特開2014-85638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年では、様々な分野において、ハードコート層が形成された樹脂基材(以下、「ハードコート付基材」ともいう)を、大きく湾曲した形状や複雑な凹凸を有する形状等に成形することが求められている。このような種々の形状への成形に柔軟に対応できるように、未硬化のハードコート用樹脂組成物が付与された樹脂基材(以下、「未硬化基材」ともいう)を製造・流通させ、使用者が所望の形状に成形した後にハードコート用樹脂組成物を硬化させることが検討されている。
【0008】
しかしながら、未硬化のハードコート用樹脂組成物は、強い粘着性を有している(タックフリー性が低い)ため、流通や成形の際に指紋や異物が付着し、外観不良、透明性低下、凹凸の形成等の品質低下が生じる可能性がある。
【0009】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、その主な目的は、未硬化の状態で優れたタックフリー性を発揮し、未硬化基材の流通・成形を容易にすることができるハードコート用樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を実現するべく、本発明によって以下の構成のハードコート用樹脂組成物が提供される。
【0011】
ここに開示されるハードコート用樹脂組成物は、エネルギー硬化性樹脂と無機微粒子とを含有し、無機微粒子は、少なくともシリカ粒子を含む。そして、ここに開示されるハードコート用樹脂組成物のシリカ粒子は、複数の球状粒子と、当該複数の球状粒子を連結する連結部とを有する連結シリカ粒子を含む。
【0012】
本発明者らは、上述の課題を解決するために種々の実験と検討を行った結果、複数の球状粒子が連結部によって連結された連結シリカ粒子を無機微粒子として含むハードコート用樹脂組成物は、驚くべきことに、乾燥させたのみの未硬化の状態であっても、優れたタックフリー性を発揮することを発見した。ここに開示されるハードコート用樹脂組成物は、かかる知見に基づいてなされたものであり、未硬化基材の流通・成形を容易にすることに大きく貢献できる。
【0013】
ここに開示されるハードコート用樹脂組成物の好ましい一態様では、連結シリカ粒子は、BET法に基づく比表面積から算出される平均粒子径が5nm以上20nm以下である。
これによって、タックフリー性と硬化後の透明性とを高いレベルで両立させることができる。
【0014】
ここに開示されるハードコート用樹脂組成物の好ましい一態様では、無機微粒子の総量を100wt%としたときの連結シリカ粒子の含有量が15wt%以上50wt%以下である。
これによって、硬化前のタックフリー性と、成形時の延伸性と、硬化後の耐擦過性とを高いレベルで両立させることができる。
【0015】
ここに開示されるハードコート用樹脂組成物の好ましい一態様では、無機微粒子は、アルミナ粒子をさらに含む。
これによって、硬化後の耐衝撃性や耐擦傷性を向上させることができる。
【0016】
上記無機微粒子としてアルミナ粒子を含有させる態様において、アルミナ粒子は、球状のアルミナ粒子である。
これによって、硬化後の光拡散性(HAZE)を低下させ、透明性に優れたハードコートを形成できる。
【0017】
ここに開示されるハードコート用樹脂組成物の好ましい一態様では、エネルギー硬化性樹脂の含有量を100wt%としたときの無機微粒子の含有量が80wt%以上140wt%以下である。
エネルギー硬化性樹脂と無機微粒子との比率を上述の範囲に調節することによって、硬化前のタックフリー性を高いレベルに維持すると共に、硬化後に好適な透明性を確保することができる。さらに、本態様によると、成形後のハードコート層のクラック抑制にも貢献することができる。
【0018】
ここに開示されるハードコート用樹脂組成物の好ましい一態様では、エネルギー硬化性樹脂は、ビニル基または(メタ)アクリロイル基を分子内に複数含む多官能モノマーを含む。
これにより、硬化後のハードコートの耐衝撃性や耐擦傷性をさらに好適に向上させることができる。
【0019】
ここに開示されるハードコート用樹脂組成物の好ましい一態様では、光重合開始剤及び/又は熱重合開始剤を含有する。
ここに開示される技術は、光硬化型のハードコート用樹脂組成物と、熱硬化型のハードコート用樹脂組成物の何れにも適用できる。光硬化型のハードコート用樹脂組成物を調製する場合には光重合開始剤を添加することが好ましく、熱硬化型のハードコート用樹脂組成物を調製する場合には熱重合開始剤を添加することが好ましい。
【0020】
ここに開示されるハードコート用樹脂組成物の好ましい一態様では、重合禁止剤を含有する。
これにより、成形前のハードコート用樹脂組成物の硬化を抑制し、成形時の延伸性の低下を防止することができる。
【0021】
また、本発明の他の側面として、樹脂基材と、樹脂基材の表面に付与された未硬化層とを備えた未硬化基材が提供される。かかる未硬化基材の未硬化層は、無機微粒子とエネルギー硬化性樹脂とを少なくとも含有し、無機微粒子は、少なくともシリカ粒子を含み、シリカ粒子は、複数の球状粒子と、当該複数の球状粒子を連結する連結部とを有する連結シリカ粒子を含む。
【0022】
上記構成の未硬化基材は、未硬化層に連結シリカ粒子が含まれているため、優れたタックフリー性を発揮する。これにより、異物や指紋の付着による品質低下を防止でき、未硬化基材の流通・成形を容易にすることができる。
【0023】
また、本発明の他の側面として、ハードコート付樹脂基材の製造方法が提供される。かかる製造方法は、上述した何れかの態様のハードコート用樹脂組成物を樹脂基材の表面に付与して未硬化層を形成することによって未硬化基材を作製する工程と、未硬化基材を所望の形状に成形する工程と、未硬化層を硬化させる工程とを備える。
【0024】
かかる製造方法によると、未硬化層を硬化させる前に成形を行っているため、種々の形状への成形に柔軟に対応することができる。そして、ここに開示される製造方法では、優れたタックフリー性を発揮するハードコート用樹脂組成物を使用しているため、硬化前の未硬化層に指紋や異物等が付着して品質が低下することを好適に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係るハードコート用樹脂組成物に含まれるシリカ粒子を模式的に示す図である。
図2】ここに開示される未硬化基材を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0027】
1.ハードコート用樹脂組成物
本実施形態に係るハードコート用樹脂組成物は、樹脂基材の表面にハードコートを形成する際に使用される。このハードコート用樹脂組成物は、(1)無機微粒子と、(2)エネルギー硬化性樹脂とを少なくとも含有する。以下、ここに開示されるハードコート用樹脂組成物の成分について説明する。
【0028】
(1)無機微粒子
無機微粒子は、硬化時の体積減少によるクラックの発生を抑制するために添加される。また、無機微粒子は、硬化後のハードコートの耐衝撃性や耐擦傷性を向上させる機能も有している。本実施形態に係るハードコート用樹脂組成物は、この無機微粒子として、少なくともシリカ(SIO)粒子を含む。図1は、本実施形態に係るハードコート用樹脂組成物に含まれるシリカ粒子を模式的に示す図である。
【0029】
(a)シリカ粒子
図1に示すように、本実施形態において使用されるシリカ粒子は、複数の球状粒子12と、当該複数の球状粒子12を連結する連結部14とを有する連結シリカ粒子10である。かかる連結シリカ粒子10における連結部14による連結は、規則的であってもよいし、不規則的であってもよい。一例として、図1に示す連結シリカ粒子10は、複数の球状粒子12が連結部14によって不規則に連結された樹枝状の連結シリカ粒子である。連結シリカ粒子の他の例として、連結部によって複数の球状粒子が直線的に連結された線状の連結シリカ粒子が挙げられる。なお、連結部14に連結される球状粒子12は、真球形である必要はなく、ラグビーボールのような楕円球形であってもよいし、多面体や鱗片形などであってもよい。また、特に限定されないが、連結部14の太さは、球状粒子12の直径と同程度であってもよい。なお、球状粒子12は、その全てが連結部14を介して連結されている必要はなく、図1に示すように、連結部14を介さずに球状粒子12同士が直接連結している部分が存在していてもよい。なお、球状粒子12の球相当径(直径)は、例えば、5nm~20nm程度である。
【0030】
典型的には、連結シリカ粒子10は、実質的に非晶質のシリカから構成されている。なお、ここで「実質的に非晶質のシリカから構成されている」とは、非晶質のシリカ以外の成分が意図的に含まれていないことを指す。したがって、非晶質のシリカ以外の成分が原料や製造工程等に由来して微量に含まれるような場合は、本明細書における「実質的に非晶質のシリカから構成されている」の概念に包含される。例えば、連結シリカ粒子10は、一部が結晶化していてもよい。また、原料等に由来して、Ca、Mg、Sr、Ba、Zn、Sn、Pb、Cu、Fe、Ni、Co、Mn、Al、Cr、Y、TiなどのSi以外の金属元素が少量含まれていてもよい。
【0031】
上述の連結シリカ粒子10を含むハードコート用樹脂組成物は、未硬化の状態であるにもかかわらず、優れたタックフリー性を発揮できることが、本発明者らの実験によって確認されている。特に限定的に解釈されるものではないが、このような効果が得られる理由としては、例えば以下のように考えられる。シリカ粒子を含むハードコート用樹脂組成物を樹脂基材の表面に付与すると、層状に付与された組成物の表面近傍にシリカ粒子が偏在する傾向がある。そして、上述の連結シリカ粒子10は、後述のエネルギー硬化性樹脂の官能基(ビニル基や(メタ)アクリロイル基など)が付着しやすい性質を有している。このため、ハードコート用樹脂組成物に連結シリカ粒子10を添加することによって、粘着性の上昇に寄与するエネルギー硬化性樹脂の官能基が層状の組成物の表面に露出することを抑制し、優れたタックフリー性を発揮できると推測される。
【0032】
なお、上述した作用を考慮すると、連結シリカ粒子10の表面には、ビニル基や(メタ)アクリロイル基などの粘着性を発揮する官能基が実質的に付与されていないことが好ましい。これにより、特に優れたタックフリー性を発揮するハードコート用樹脂組成物を得ることができる。なお、「粘着性を発揮する官能基が実質的に付与されていない」とは、粘着性を発揮し得る官能基(例えば、後述のエネルギー硬化性樹脂の項で説明する重合性官能基)が連結シリカ粒子10の表面に意図的に付与されていないことを指す。したがって、原料や製造工程等に由来して、「粘着性を発揮する官能基」と解釈され得る官能基が微量に付着したような連結シリカ粒子は、本明細書における「粘着性を発揮する官能基が実質的に付与されていない連結シリカ粒子」の概念に包含される。
【0033】
また、容易な流通・成形を実現できる程度の十分なタックフリー性を確保できれば、1個の連結シリカ粒子に含まれる球状粒子の個数(連結個数)は、特に限定されない。一例として、かかる連結シリカ粒子の連結個数の下限値は、2個以上であってもよい。但し、より適切なタックフリー性を発揮させるという観点から、ハードコート用樹脂組成物に含まれる連結シリカ粒子の連結個数は、5個以上が好ましく、7個以上がより好ましく、10個以上がさらに好ましい。一方、適切なタックフリー性を発揮させるという観点からは、連結シリカ粒子の連結個数の上限は、特に限定されず、200個以下であってもよく、150個以下であってもよく、100個以下であってもよい。但し、硬化後のハードコートの透明性を確保するという観点から、連結シリカ粒子の連結個数は、70個以下が好ましく、60個以下がより好ましく、50個以下がさらに好ましく、30個以下が特に好ましい。
【0034】
なお、本明細書における「連結シリカ粒子の連結個数」は、動的光散乱法に基づいて算出された「連結個数の最頻値」である。かかる「連結個数の最頻値」の具体的な測定手段は次の通りである。先ず、測定対象の連結シリカ粒子を所定の溶媒に分散させ、測定用の分散液を調製する。そして、当該測定用分散液に対して、動的光散乱式粒径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、型式:LB-550)を用い、下記の測定条件に従って測定を行う。これによって、動的光散乱法に基づいた連結シリカ粒子の粒度分布(散乱光分布)が測定される。そして、当該粒度分布を解析して「連結シリカ粒子の最大頻度粒子径(モード径)」を求める。次に、測定対象の連結シリカ粒子を電子顕微鏡(例えば、TEM)で観察(例えば20視野)し、当該連結シリカ粒子を構成する球状粒子の最大頻度粒子径を測定する。そして、「連結シリカ粒子の最大頻度粒子径」を「球状粒子の最大頻度粒子径」で割る。本明細書では、このようにして算出された値(連結シリカ粒子の最大頻度粒子径/球状粒子の最大頻度粒子径)を、1個の連結シリカ粒子に含まれる球状粒子の個数の最頻値(すなわち、「連結個数の最頻値」)とみなす。
【0035】
[連結シリカ粒子の粒度分布の測定条件]
データ取り込み回数 :100
反復回数 :50
粒子径基準 :散乱光強度
試料屈折率 :1.500~0.000i
分散媒屈折率 :1.378
分散媒粘度 :2.54(mPa・s)
測定温度 :23.3(23.2~23.4)(℃)
温度センサ :液センサ
散乱光強度(Static) :4.58
散乱光強度(Dynamic):8.67
ゲイン :HIGH
演算モード :標準
超音波動作 :なし
【0036】
また、連結シリカ粒子10の平均粒子径は、好適なタックフリー性を発揮させるという観点から、5nm以上が好ましく、7.5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。また、硬化後のハードコートの透明性を維持するという観点から、連結シリカ粒子10の平均粒子径の上限は、20nm以下が好ましく、17.5nm以下がより好ましく、15nm以下がさらに好ましい。なお、本明細書における「平均粒子径」は、特に説明がない限りにおいて、BET法によって計測された比表面積に基づいて算出された平均粒子径(BET平均粒子径)である。
【0037】
(b)他の無機微粒子
本実施形態に係るハードコート用樹脂組成物は、連結シリカ粒子以外の無機微粒子(ここでは、便宜上「他の無機微粒子」という)を含んでいてもよい。この他の無機微粒子としては、球形シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、チタニア(TiO)、ITO(スズドープ酸化インジウム)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アンチモン(Sb、Sb等)、及びこれらの複合微粒子等が挙げられる。
【0038】
上述の無機微粒子の中でも、アルミナ粒子は、硬化後のハードコートの耐衝撃性や耐擦傷性を向上させることができるため好適である。また、このアルミナ粒子の形状は、特に限定されず、球状、楕円球状、棒状、多面体、鱗片形などの種々の形状を採用できるが、硬化後の光拡散性(HAZE)を低下させて透明性に優れたハードコートを形成するという観点から球状が最も好ましい。本実施形態のように、ハードコート用樹脂組成物に連結シリカ粒子を添加すると、タックフリー性が向上する一方で、光拡散性が高くなりやすい傾向があるため、光拡散性の低下に寄与できる球状アルミナ粒子は、本実施形態に係るハードコート用樹脂組成物に特に好適に使用し得る。なお、他の無機微粒子として球状アルミナ粒子を添加する場合、当該球状アルミナ粒子の平均粒子径は、1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。これによって、タックフリー性の低下を好適に抑制できる。一方、透明性向上効果を好適に発揮させるという観点から、球状アルミナ粒子の平均粒子径の上限は、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、30nm以下がさらに好ましく、15nm以下が特に好ましい。このような球状アルミナ粒子は、例えば、気相法によって作製できる。
【0039】
なお、連結シリカ粒子以外の無機微粒子を添加する場合、無機微粒子の総量を100wt%としたときの連結シリカ粒子の含有量は、10wt%以上が好ましく、15wt%以上がより好ましく、20wt%以上がさらに好ましく、25wt%以上が特に好ましい。これによって、特に優れたタックフリー性を発揮させることができる。なお、優れたタックフリー性を発揮させるという観点からは、連結シリカ粒子のみで無機微粒子が構成されていてもよい。すなわち、無機微粒子の総量に対する連結シリカ粒子の含有量が100wt%であってもよい。但し、硬化後のハードコートの耐擦傷性や透明性等を考慮すると、連結シリカ粒子以外の無機微粒子が含まれていた方が好ましい。例えば、好適な耐擦傷性を発揮させるという観点から、無機微粒子の総量に対する連結シリカ粒子の含有量の上限は、75wt%以下が好ましく、60wt%以下がより好ましく、50wt%以下がさらに好ましく、40wt%以下が特に好ましい。
【0040】
また、本実施形態に係るハードコート用樹脂組成物における無機微粒子の総量は、後述のエネルギー硬化性樹脂の含有量との関係で適宜調節することが好ましい。例えば、エネルギー硬化性樹脂の含有量を100wt%としたときの無機微粒子の含有量は、80wt%以上が好ましく、90wt%以上がより好ましく、100wt%以上がさらに好ましい。これにより、より優れたタックフリー性を発揮させることができる。一方、硬化後に好適な透明性を確保すると共にハードコート層のクラックの発生を抑制するという観点から、エネルギー硬化性樹脂の含有量に対する無機微粒子の含有量の上限は、160wt%以下が好ましく、140wt%以下がより好ましく、120wt%以下がさらに好ましい。
【0041】
(2)エネルギー硬化性樹脂
上記した通り、本実施形態に係るハードコート用樹脂組成物は、エネルギー硬化性樹脂を含む。本明細書における「エネルギー硬化性樹脂」は、典型的には液状であり、光(典型的には紫外線)や熱などのエネルギーを加えられた際に重合(又は架橋)する官能基を有する有機化合物を指す。かかる重合性官能基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基などが挙げられる。エネルギー硬化性樹脂は、上述した重合性官能基を有する有機化合物であれば、特に限定されず、従来公知の光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂を特に制限なく使用することができる。かかるエネルギー硬化性樹脂の具体例として、上述の重合性官能基(典型的には、ビニル基または(メタ)アクリロイル基)を分子内に複数含む多官能モノマー、多官能オリゴマー、多官能ポリマー等が挙げられる。これらのエネルギー硬化性樹脂は、それぞれ単独で使用してもよいし、複数を組み合わせて使用してもよい。例えば、多官能(メタ)アクリレートモノマーと、多官能(メタ)アクリレートポリマーを混合したものをエネルギー硬化性樹脂として用いることによって、容易に硬化するハードコート用樹脂組成物を得ることができる。
【0042】
上記エネルギー硬化性樹脂の一例として、多官能(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。かかる多官能(メタ)アクリレートモノマーは、アクリロイル基(CH=CHCOO-)またはメタアクリロイル基(CH=CCHCOO-)を分子内に複数含むモノマーである。なお、好適な硬化性を発揮させるという観点から、多官能(メタ)アクリレートモノマーにおける(メタ)アクリロイル基の数は、3官能以上が好ましく、5官能以上がより好ましい。一方、優れたタックフリー性を確保するという観点から、(メタ)アクリロイル基の数の上限は、15官能以下が好ましく、10官能以下がより好ましく、7官能以下がさらに好ましい。かかる多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート等の分岐鎖状、環状の(メタ)アクリレート類が挙げられる。また、多官能(メタ)アクリレートモノマーの他の例として、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー等のウレタンアクリレート類等が挙げられる。また、上記多官能(メタ)アクリレートモノマーの一部が重合した多官能(メタ)アクリレートオリゴマーや、多官能(メタ)アクリレートポリマーを用いることもできる。
【0043】
(3)他の添加剤
ここに開示されるハードコート用樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲において、従来公知の添加剤を特に制限なく添加することができる。かかる添加剤の一例として、重合開始剤、重合禁止剤、防汚剤、消泡剤、滑剤、紫外線吸収剤、安定剤、分散剤、酸化防止剤、帯電防止剤、導電剤などが挙げられる。
【0044】
重合開始剤は、エネルギー硬化性樹脂の種類や後述する硬化処理で使用するエネルギーに応じて選択することができる。例えば、光硬化処理によってラジカル重合を生じさせる場合には、トリス(クロロメチル)トリアジン、2,4-トリクロロメチル-(4'-メトキシスチリル)-6-トリアジン、2-〔2-(フラン-2-イル)エテニル〕-4,6-ビス(トリクロロメチル)-S-トリアジン、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-S-トリアジンなどのトリアジン系化合物、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテルなどのベンゾイン系化合物、ジエトキシアセトフェノン、4-フェノキシジクロロラセトフェノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルアセトフェノンなどのアセトフェノン系化合物、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2-クロロチオキサントンなどのチオキサントン系化合物、ベンジルジメチルケタール、2,4,6-トリメチルベンゾインジフェニルフォスフィンオキサイド、N,N-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、アシルフォスヒンオキサイド等の一般的な熱ラジカル重合開始剤を特に制限なく使用できる。なお、これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
また、本実施形態に係るハードコート用樹脂組成物は、重合禁止剤を含んでいてもよい。これによって、成形処理前にエネルギー硬化性樹脂が硬化し、成形後の基材にクラックが生じることを抑制できる。重合禁止剤には、エネルギー硬化性樹脂の硬化性を著しく低下させない限りにおいて、ハードコート用樹脂組成物の分野において従来から使用されているものを特に制限なく使用できる。かかる重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、メトキノン、ジ-t-ブチルハイドロキノン、P-メトキシフェノール、ブチルヒドロキシトルエン、ニトロソアミン塩等が挙げられる。これらの中でもハイドロキノン(典型的には、メチルハイドロキノン)は、長期保存を行った場合でも、エネルギー硬化性樹脂の硬化を好適に抑制できるため特に好適である。
【0046】
2.樹脂成形体の製造方法
以上、本発明の一実施形態に係るハードコート用樹脂組成物について説明した。次に、かかるハードコート用樹脂組成物を用いて樹脂成形体を製造する方法を説明する。この製造方法は、(1)未硬化層形成工程と、(2)成形工程と、(3)硬化工程とを備えている。
【0047】
(1)未硬化層形成工程
本工程では、本実施形態に係るハードコート用樹脂組成物を樹脂基材の表面に付与して未硬化層を形成する。樹脂基材は、ハードコート層が形成され得る樹脂製の部材であれば特に限定されない。かかる樹脂基材の一例として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂基材が挙げられる。また、ハードコート用樹脂組成物を付与する手段も特に限定されず、スピンコート、スプレーコート、ディップコート、バーコート、フローコート、キャップコート、ナイフコート、ダイコート、ロールコート、グラビアコート法、スクリーン印刷、刷毛塗り等の従来公知の手段を採用できる。また、ハードコート用樹脂組成物を付与する前の樹脂基材に対して種々の表面処理(例えば、コロナ放電、プラズマ処理など)を行ってもよい。これによって、ハードコートと樹脂基材との密着性を向上させることができる。
【0048】
また、本工程では、基材表面に付与されたハードコート用樹脂組成物を乾燥させる乾燥処理を実施してもよい。これによって、さらにタックフリー性に優れた未硬化基材を得ることができる。なお、乾燥処理の条件は、エネルギー硬化性樹脂の重合・硬化が開始せず、かつ、溶媒を好適に除去できる条件であることが好ましい。例えば、乾燥処理の温度は、60℃~90℃の範囲内に設定することが好ましく、乾燥時間は1分~30分の範囲内に設定することが好ましい。
【0049】
図2に示すように、本工程で作製される未硬化基材100は、樹脂基材20と、当該樹脂基材20の表面に付与された未硬化層40とを備えている。この未硬化層40は、上述した実施形態に係るハードコート用樹脂組成物によって形成されている。すなわち、未硬化層40は、無機微粒子とエネルギー硬化性樹脂とを少なくとも含有し、無機微粒子は、少なくともシリカ粒子を含む。そして、シリカ粒子は、複数の球状粒子12と、当該複数の球状粒子を連結する連結部14とを有する連結シリカ粒子10を含む(図1参照)。この未硬化基材100は、未硬化層40が優れたタックフリー性を発揮し、指紋や異物が付着することによる品質低下を好適に防止できる。このため、エネルギー硬化性樹脂を硬化させる前の状態であるにもかかわらず、容易に流通させることができる。
【0050】
(2)成形工程
本工程では、未硬化基材を所望の形状に成形する。本工程における成形手段は、特に限定されず、折り曲げ成形などの一般的な手段を採用できる。このとき、本実施形態に係る未硬化基材100は、未硬化層40が硬化していないため、大きな湾曲面や凹凸を有する複雑な形状に成形する場合でも、クラックなどを生じさせることなく容易に成形することができる。さらに、この未硬化基材100は、未硬化層40が優れたタックフリー性を有しているため、成形時に異物や指紋が付着して品質が低下することを防止できる。
【0051】
(3)硬化工程
本工程では、成形後の未硬化基材100に硬化処理を施して未硬化層40を硬化させる。本工程における硬化処理は、エネルギー硬化性樹脂を硬化させることができれば、特に限定されない。かかる硬化処理の一例として、光硬化処理と熱硬化処理が挙げられる。光硬化処理を行う場合には、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線などの光を未硬化層40に照射する。これによって、エネルギー硬化性樹脂が光重合し、未硬化層40が硬化することによって、樹脂基材20の表面にハードコートが形成される。一方、熱硬化処理を行う場合には、未硬化基材100に熱処理を加える。このときの加熱温度は、樹脂基材20と未硬化層40の溶融温度のうち、低い方の温度よりも10℃~50℃低い温度に設定することが好ましい。これによって、樹脂基材20やハードコートに熱劣化が生じることを抑制した上で、ハードコート用樹脂組成物を適切に硬化させることができる。なお、ハードコート用樹脂組成物の重合開始温度は、熱重合開始剤の種類によって調節することができる。なお、未硬化層形成工程における乾燥処理で未硬化層40の硬化が開始して延伸性が低下する可能性や、熱硬化処理において樹脂基材20が熱劣化する可能性等を考慮すると、本工程においては光硬化処理を採用した方が好ましい。
【0052】
[試験例]
以下、本発明に関する試験例を説明するが、かかる試験例は本発明を限定することを意図したものではない。
【0053】
A.第1の試験
本試験では、10種類のハードコート用樹脂組成物を準備し、各々のハードコート用樹脂組成物の硬化前のタックフリー性について評価した。
【0054】
1.サンプルの準備
(1)サンプル1
サンプル1では、連結シリカ粒子を無機微粒子として含むハードコート用樹脂組成物を調製した。具体的には、エネルギー硬化性樹脂として、59gの多官能ウレタンアクリレートモノマー(共栄社化学株式会社製、型式:UA-306H、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー)と、228gのアクリロイル基付与ポリマー(共栄社化学株式会社製、型式:SMP-220A、溶剤:メチルイソブチルケトン、樹脂成分:50wt%)とを室温にて攪拌混合したものを使用した。そして、連結シリカ粒子の含有量が20wt%の連結シリカ分散液(日産化学工業株式会社製、型式:MEK-ST-UP、溶媒:メチルエチルケトン)をエネルギー硬化性樹脂に添加した。このとき、188.2gの連結シリカ粒子が含まれるように、上述の連結シリカ粒子分散液の添加量を941gに調節した。なお、この連結シリカ分散液に含まれる連結シリカ粒子のBET平均粒子径は、9nm~15nmである。また、本サンプルでは、エネルギー硬化性樹脂と無機微粒子以外の添加物として、10gの光ラジカル重合開始剤(IGM Resins B.V.社製、オムニラッド184)と、2gのフッ素系防汚剤(信越化学工業社製、X-71-1203M)を添加した。
【0055】
(2)サンプル2
サンプル2では、連結シリカ粒子と球形アルミナ粒子の混合物を無機微粒子として含むハードコート用樹脂組成物を調製した。具体的には、サンプル1と同様の組成のエネルギー硬化性樹脂に、連結シリカ含有量が20wt%の連結シリカ分散液(日産化学工業株式会社製、型式:IPA-ST-UP、溶媒:イソプロパノール)と、球状アルミナ粒子の含有量が30wt%の球形アルミナ分散液(CIKナノテック株式会社製、ALMIBK30WT%-M47、溶媒:メチルイソブチルケトン)とを添加した。このとき、48.2gの連結シリカ粒子が含まれるように、連結シリカ分散液の添加量を321gに調節すると共に、140gの球状アルミナ粒子が添加されるように球形アルミナ分散液の添加量を467gに調節した。なお、本サンプルで使用した球状アルミナ粒子の平均一次粒子径は、10nmである。また、サンプル2では、ラジカル重合禁止剤(キシダ化学株式会社製、メチルハイドロキノン)も添加した。なお、上述の条件を除いてサンプル1と同じ条件に設定した。
【0056】
(3)サンプル3
サンプル3では、エネルギー硬化性樹脂の組成と、球状アルミナ粒子の平均一次粒子径を異ならせた点を除いてサンプル2と同じ条件のハードコート用樹脂組成物を調製した。具体的には、エネルギー硬化性樹脂として、59gの多官能ウレタンアクリレートモノマー(共栄社化学株式会社製、型式:UA-510H、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー)と、228gのアクリロイル基付与ポリマー(共栄社化学株式会社製、型式:SMP-220A)とを攪拌混合したものを使用した。さらに、平均一次粒子径が15nmの球状アルミナ粒子を含む球形アルミナ分散液(CIKナノテック株式会社製、ALMIBK30WT%-H06、溶媒:メチルイソブチルケトン、Al含有量:30wt%)を使用した。
【0057】
(4)サンプル4
サンプル4では、エネルギー硬化性樹脂の組成と、無機微粒子(連結シリカ粒子、球状アルミナ粒子)を分散させる分散液を異ならせた点を除いて、サンプル2と同じ条件のハードコート用樹脂組成物を調製した。具体的には、エネルギー硬化性樹脂として、59gの多官能ウレタンアクリレートモノマー(共栄社化学株式会社製、型式:UA-306H、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー)と、228gのアクリロイル基付与ポリマー(共栄社化学株式会社製、型式:SMP-250A、溶剤:メチルイソブチルケトン、樹脂成分:50wt%)とを混合したものを使用した。そして、このエネルギー硬化性樹脂に、連結シリカ分散液(日産化学工業株式会社製、型式:PGM-ST-UP、溶媒:プロピレングリコールモノメチルエーテル、連結シリカ含有量:20wt%)と、平均一次粒子径が10nmの球状アルミナ粒子の分散液(CIKナノテック株式会社製、ALPGM30WT%-H23、溶媒:プロピレングリコールモノメチルエーテル、Al含有量:30wt%)とを添加した。
【0058】
(5)サンプル5
サンプル5では、無機微粒子(連結シリカ粒子、球状アルミナ粒子)を分散させる分散液を異ならせた点を除いて、サンプル2と同じ条件のハードコート用樹脂組成物を調製した。具体的には、サンプル2と同様のエネルギー硬化性樹脂に、連結シリカ分散液(日産化学工業株式会社製、型式:MA-ST-UP、溶媒:メタノール、シリカ含有量:20wt%)と、平均一次粒子径が15nmの球状アルミナ粒子の分散液(CIKナノテック株式会社製、ALPGM30WT%-H27、溶媒:プロピレングリコールモノメチルエーテル、Al含有量:30wt%)とを添加した。
【0059】
(6)サンプル6
サンプル6では、エネルギー硬化性樹脂の組成を異ならせた点を除いて、サンプル2と同じ条件のハードコート用樹脂組成物を調製した。具体的には、サンプル6では、173gの多官能のウレタンアクリレートモノマー(共栄社化学株式会社製、型式:UA-306H、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー)のみをエネルギー硬化性樹脂として使用した。
【0060】
(7)サンプル7
サンプル7では、エネルギー硬化性樹脂の組成を異ならせた点を除いて、サンプル2と同じ条件のハードコート用樹脂組成物を調製した。サンプル7では、59gの多官能ウレタンアクリレートモノマー(根上工業株式会社製、型式:UN-3320HA)と、228gのアクリロイル基付与ポリマー(共栄社化学株式会社製、型式:SMP-220A、溶剤:メチルイソブチルケトン、樹脂成分:50wt%)とを混合したものをエネルギー硬化性樹脂として使用した。
【0061】
(8)サンプル8
サンプル8では、重合禁止剤を添加しなかったことを除き、サンプル2と同じ条件でハードコート用樹脂組成物を調製した。
【0062】
(9)サンプル9
サンプル9では、連結シリカ粒子を含まない無機微粒子を使用した点を除いて、サンプル2と同じ条件に設定した。具体的には、サンプル9では、無機微粒子として、サンプル2と同様の球状アルミナ粒子を含むアルミナ分散液(CIKナノテック株式会社製、ALMIBK30WT%-M47、溶媒:メチルイソブチルケトン)を使用した。なお、本サンプルでは、固形分(アルミナ粒子の含有量)が188.2gになるように、当該アルミナ分散液の添加量を調節した。
【0063】
(10)サンプル10
サンプル10では、連結シリカ粒子を球形シリカ粒子に変更した点を除き、サンプル2と同じ条件でハードコート用樹脂組成物を調製した。具体的には、球形シリカ含有量が30wt%の球形シリカ分散液(日産化学工業株式会社製、型式:MIBK-ST、溶媒:メチルイソブチルケトン)と、球状アルミナ粒子(平均一次粒子径:10nm)の含有量が30wt%の球形アルミナ分散液(CIKナノテック株式会社製、ALMIBK30WT%-M47、溶媒:メチルイソブチルケトン)とをエネルギー硬化性樹脂に添加した。
【0064】
2.評価試験
上記サンプル1~10のハードコート用樹脂組成物を、厚さ3mmの透明なPMMA基材(旭化成テクノプラス株式会社製、デラグラス)の表面にバーコーターを用いて塗工した後、乾燥処理(80℃、5分間)を行うことによって未硬化基材を作製した。そして、未硬化基材の塗工面(未硬化層)を指先で触れて、塗工面に指先の跡が付くか否かを観察することによって、タックフリー性を評価した。本試験では、未硬化層の表面に触れた跡が全くつかないものを「優」、実用上問題ない程度の僅かな跡がつくものを「良」、触れた跡がつくものを「可」、未硬化樹脂層の表面に触れた跡がつき、かつ、指先に樹脂材料が付着したものを「不可」と評価した。評価結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
上記表1の通り、サンプル1~8において優れたタックフリー性が確認された一方で、サンプル9、10では未硬化状態での流通・成形が困難なほどタックフリー性が低下していた。このことから、サンプル1~8のように、無機微粒子として連結シリカ粒子を含むハードコート用樹脂組成物は、硬化前に優れたタックフリー性を発揮できることが分かった。さらに、サンプル1~10を比較した結果、タックフリー性向上効果は、エネルギー硬化性樹脂、連結シリカ粒子以外の無機微粒子、その他の添加物に大きな影響を受けず、連結シリカ粒子を添加すれば一定の効果が発揮されることが分かった。
【0067】
B.第2の試験
本試験では、上述の第1の試験において、優れたタックフリー性が確認されたサンプル1~8の延伸性を評価した。
【0068】
1.サンプルの準備
厚さ3mmの透明なPMMA基材の表面に10mm間隔で格子状の線を引き、当該PMMA基材の表面にサンプル1~8のハードコート用樹脂組成物を塗工した。そして、乾燥処理(80℃、5分間)を行うことによって試験用未硬化基材を作製した。
【0069】
2.評価試験
オーブンで試験用未硬化基材を加熱(140℃、30分間)し、PMMA基材を軟化させた後、加熱した金属柱に押し付けることによって山型に成形した。そして、成形後の基材に空気雰囲気化で紫外線(900mJ/cm)を照射して未硬化層を硬化させた。そして、PMMA基材の表面に描いていた格子状の線のうち、最も間隔が広くなった部分を測定し、成形前の間隔(10mm)に対する成形後の間隔の比率(%)を計算し、これを延伸率とした。評価結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
上記表2の通り、サンプル1~8のうち、サンプル2~7において好適な延伸性が確認された。このことから、重合禁止剤を添加することによって、成形時の延伸性を向上できることが分かった。
【0072】
C.第3の試験
本試験では、アルミナ粒子とシリカ粒子との混合比を変えたサンプル11、12を加え、硬化後のハードコートに関する種々の性能について評価した。
【0073】
1.サンプルの準備
アルミナ粒子とシリカ粒子との混合比を変更したことを除いて、サンプル2と同じ条件でサンプル11、12のハードコート用樹脂組成物を調製した。そして、上述した第2の試験と同じ手順に沿って、未硬化基材の作製、成形、未硬化層の硬化を行い、試験用のハードコート付基材を得た。
【0074】
2.評価試験
(1)鉛筆硬度試験
ハードコート付基材のハードコート付与面に対して、JIS-K-5600に従った鉛筆硬度試験を実施した。具体的には、円筒状の芯が5~6mm分露出するように鉛筆の木部分を削り取った後、研磨紙で芯の先端を平坦にし、芯がハードコートに対して45±1°の角度をなすように鉛筆を試験器に固定した。そして、鉛筆の芯をハードコートに接触させて、750±10gの荷重の維持しながら、試験器を7mm以上移動させた(移動速度:0.5~1mm/s)。本評価では、この試験を、3mm以上の傷跡が生じるまで鉛筆の芯の硬度を上げて繰り返し実施し、傷跡が生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を鉛筆硬度とした。なお、鉛筆の芯は、下記の順で硬度が高くなるものを使用した。
(柔かい)6B・5B・4B・3B・2B・B・HB・F・H・2H・3H・4H・5H・6H(硬い)
【0075】
(2)耐スチールウール性試験
ハードコート付基材のハードコート付与面をスチールウールで擦り、ハードコート表面に生じた傷を観察した。具体的には、#0000スチールウール(ボンスター販売株式会社製、ボンスター)を試験器に取り付け、1.5kg/cmの荷重を掛けながら、ハードコートの表面をストローク長10cm、1往復/秒の条件で100往復させた。そして、最も多くの傷が形成された領域(5mm角)における傷の本数を目視で計測し、下記の評価基準に基づいて評価した。
傷なし :A
傷はないが曇りがある :AB
傷が1~5本 :B
傷が6~10本 :C
傷が11~15本 :D
傷が16~20本 :E
傷が21本以上 :F
【0076】
(3)外観試験
ハードコート付基材のHAZE値をJIS K7105に基づいて測定し、透明性を評価した。なお、上記HAZE値は、値が小さくなるほど透明性が高いことを示す。
【0077】
【表3】
【0078】
表3に示すように、サンプル2~5およびサンプル7、11において、鉛筆硬度とスチールウール試験において好適な結果が確認された。この結果から、使用するエネルギー硬化性樹脂の種類によって耐擦過性や耐衝撃性が変化することが分かった。また、無機微粒子の総量に対するアルミナ粒子の含有量を増加させた場合も、耐擦過性や耐衝撃性が向上する傾向があることが分かった。一方、サンプル11を除くサンプルにおいて、HAZEが低く透明性が高いハードコートが形成されていることが確認された。このことから、アルミナ粒子の含有量を増加させすぎると、硬化後の透明性が低下する傾向があることが分かった。
【0079】
D.第4の試験
本試験では、上述のサンプル1~12と異なり、熱硬化性のハードコート用樹脂組成物を調製した。具体的には、光ラジカル重合開始剤の代わりに、熱ラジカル重合開始剤(キシダ化学株式会社製、アゾビスイソブチロニトリル)を使用したことを除いて、サンプル1と同じ組成でハードコート用樹脂組成物(サンプル13)を調製した。そして、このサンプル13について、第1の試験と同様の条件で、未硬化基材を作製してタックフリー性を評価した。サンプル1、13のタックフリー性の評価結果を表4に示す。
【0080】
【表4】
【0081】
表4に示すように、サンプル1、13の何れにおいても、優れたタックフリー性が確認された。このことから、無機微粒子として連結シリカ粒子を含ませることによるタックフリー性向上効果は、光硬化性と熱硬化性に関わらず、どのような種類のハードコート用樹脂組成物でも発揮されることが分かった。
【0082】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0083】
10 連結シリカ粒子
12 球状粒子
14 連結部
20 樹脂基材
40 未硬化層
100 未硬化基材
図1
図2