(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】CNT分散剤及びCNT分散液
(51)【国際特許分類】
C01B 32/174 20170101AFI20230911BHJP
【FI】
C01B32/174
(21)【出願番号】P 2019108016
(22)【出願日】2019-06-10
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】391003598
【氏名又は名称】富士化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】徳永 貴大
(72)【発明者】
【氏名】松田 貴文
(72)【発明者】
【氏名】須永 基男
(72)【発明者】
【氏名】笹原 茂生
(72)【発明者】
【氏名】金子 芳郎
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-172968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/158-32/174
C01B 33/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子
又はシルセスキオキサンと、
前記シリカ粒子
又は前記シルセスキオキサンに結合した、炭化水素を有するアミド基と、
を
含み、
前記炭化水素を有するアミド基は、下記式(1)により表され、
R1は、炭素数が9以上17以下の鎖式飽和炭化水素であり、
R2は水素又は炭化水素であり、
R3は、前記シリカ粒子又は前記シルセスキオキサンに結合する炭化水素であるCNT分散剤。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載のCNT分散剤であって、
アルキルカルボン酸をさらに含むCNT分散剤。
【請求項3】
請求項2に記載のCNT分散剤であって、
前記アルキルカルボン酸が有するアルキル基の炭素数は
9以上
17以下であるCNT分散剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のCNT分散剤であって、
前記シリカ粒子は、コロイダルシリカ
であるCNT分散剤。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のCNT分散剤と、CNTと、有機溶媒と、を含むCNT分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はCNT分散剤及びCNT分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
CNTは高い電気伝導性を有する。CNTを含む部材を製造するために、CNT分散液が使用される。CNT分散液は、CNTと、溶媒と、CNT分散剤とを含む。CNT分散剤は、特許文献1に開示されている。例えば、CNT分散液を基材上に塗布し、溶媒を揮発させることにより、CNTを含む部材を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CNT分散液を用いてCNTを含む部材を製造した場合、CNTを含む部材の中にCNT分散剤が残留する。CNTを含む部材から、CNT分散剤を除去することは容易でなかった。特許文献1記載の技術では、CNT分散剤を除去するために、CNTを含む部材を加熱する必要があった。
【0005】
本開示の1つの局面は、CNTを含む部材から容易に除去できるCNT分散剤、及びCNT分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの局面は、シリカ粒子と、前記シリカ粒子に結合した、炭化水素を有するアミド基と、を含むCNT分散剤である。本開示の1つの局面であるCNT分散剤は、CNTを含む部材から容易に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
1.CNT分散剤
CNT分散剤はシリカ粒子を含む。シリカ粒子として、例えば、コロイダルシリカ、シルセスキオキサン等が挙げられる。シルセスキオキサンは、単位組成中に1.5個の酸素を有するシロキサン系の有機-無機ハイブリッド化合物である。
【0009】
シリカ粒子の平均粒径は0.3nm以上200nm以下であることが好ましく、1nm以上200nm以下であることが一層好ましい。シリカ粒子の平均粒径が0.3nm以上200nm以下である場合、シリカ粒子の表面に疎水基が効率よく導入され、CNTの分散性が向上する。シリカ粒子の平均粒径が1nm以上200nm以下である場合、シリカ粒子の表面に疎水基が一層効率よく導入され、CNTの分散性一層が向上する。シリカ粒子の平均粒径の測定方法はX線小角散乱法である。
CNT分散剤は、炭化水素を有するアミド基(以下では炭化水素含有アミド基とする)を含む。炭化水素含有アミド基はシリカ粒子に結合している。例えば、1つのシリカ粒子に対し、複数の炭化水素含有アミド基が結合している。
【0010】
炭化水素含有アミド基が有する炭化水素は、鎖式炭化水素であることが好ましい。炭化水素含有アミド基が有する炭化水素が鎖式炭化水素である場合、CNT分散剤は、CNT分散液においてCNTを一層分散させることができる。
【0011】
炭化水素含有アミド基が有する炭化水素は、鎖式飽和炭化水素であることが好ましい。炭化水素含有アミド基が有する炭化水素が鎖式飽和炭化水素である場合、CNT分散剤は、CNT分散液においてCNTを一層分散させることができる。
【0012】
炭化水素含有アミド基は、例えば、式(1)により表される。
【0013】
【化1】
式(1)において、R1は炭化水素である。R1は鎖式炭化水素であることが好ましい。R1が鎖式炭化水素である場合、CNT分散剤は、CNT分散液においてCNTを一層分散させることができる。
【0014】
R1は鎖式飽和炭化水素であることが好ましい。R1の炭素数は、9以上17以下であることが好ましい。R1が鎖式飽和炭化水素である場合、CNT分散剤は、CNT分散液においてCNTを一層分散させることができる。R2は水素又は炭化水素である。R3は、シリカ粒子に結合する炭化水素である。炭化水素含有アミド基が結合したシリカ粒子は、例えば、疎水性である。
【0015】
CNT分散剤は、アルキルカルボン酸をさらに含むことが好ましい。アルキルカルボン酸は、例えば、炭化水素含有アミド基が結合したシリカ粒子を製造するときの副生成物である。CNT分散剤は、例えば、炭化水素含有アミド基が結合したシリカ粒子と、アルキルカルボン酸とを含む混合物である。CNT分散剤がアルキルカルボン酸をさらに含む場合、CNT分散剤は、CNT分散液においてCNTを一層分散させることができる。
【0016】
アルキルカルボン酸が有するアルキル基の炭素数は、9以上17以下であることが好ましい。アルキルカルボン酸が有するアルキル基の炭素数が9以上17以下である場合、CNT分散剤は、CNT分散液においてCNTを一層分散させることができる。アルキルカルボン酸が有するアルキル基は、鎖式炭化水素であることが好ましく、鎖式飽和炭化水素であることがより好ましい。アルキル基が鎖式炭化水素である場合、CNT分散剤は、CNT分散液においてCNTを一層分散させることができる。
【0017】
CNT分散剤は、界面活性剤を含まないことが好ましい。CNT分散剤が界面活性剤を含まない場合、CNTを含む部材からCNT分散剤を一層容易に除去できる。炭化水素含有アミド基は、芳香族環化合物、及びハロゲンを含まないことが好ましい。炭化水素含有アミド基が芳香族環化合物、及びハロゲンを含まない場合、CNTを含む部材からCNT分散剤を一層容易に除去できる。
【0018】
2.CNT分散剤の製造方法
炭化水素含有アミド基が結合したシリカ粒子は、例えば、以下の第1の製造方法で製造できる。
(第1の製造方法)
まず、シリカ粒子を用意する。シリカ粒子として、例えば、酸性シリカゾルが挙げられる。酸性シリカゾルは、例えば、ケイ酸ナトリウムを塩酸で希釈して製造することができる。また、シリカ粒子は、市販のコロイダルシリカであってもよい。
【0019】
次に、シリカ粒子と、アミノ基を有するシランカップリング剤とを、酸性条件下で反応させる。アミノ基を有するシランカップリング剤として、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)等が挙げられる。その結果、シリカ粒子にアミノ基が導入される。
【0020】
次に、アミノ基が導入されたシリカ粒子と、アルキル基を有する酸クロリドとを反応させる。アルキル基を有する酸クロリドとして、例えば、デカノイルクロリド、ラウロイルクロリド、ステアロイルクロリド等が挙げられる。アルキル基の炭素数は、9以上17以下であることが好ましい。アルキル基は、鎖式炭化水素であることが好ましく、鎖式飽和炭化水素であることがさらに好ましい。
【0021】
アミノ基と酸クロリドとが反応し、アミド結合を形成することで、炭化水素含有アミド基が結合したシリカ粒子が得られる。炭化水素含有アミド基は、酸クロリドが有していた炭化水素と、アミド結合とを含む。アミノ基と酸クロリドとの反応の副生成物として、アルキルカルボン酸が生じる。
【0022】
また、炭化水素含有アミド基が結合したシリカ粒子は、例えば、以下の第2の製造方法でも製造できる。
(第2の製造方法)
アミノ基を有するシランカップリング剤を重合させることで、アミノ基が導入されたシリカ粒子を得る。アミノ基を有するシランカップリング剤として、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)等が挙げられる。次に、アミノ基が導入されたシリカ粒子と、アルキル基を有する酸クロリドとを反応させる。アルキル基を有する酸クロリドとして、例えば、デカノイルクロリド、ラウロイルクロリド、ステアロイルクロリド等が挙げられる。アルキル基の炭素数は、9以上17以下であることが好ましい。アルキル基は、鎖式炭化水素であることが好ましく、鎖式飽和炭化水素であることがさらに好ましい。
【0023】
アミノ基と酸クロリドとが反応し、アミド結合を形成することで、炭化水素含有アミド基が結合したシリカ粒子が得られる。炭化水素含有アミド基は、酸クロリドが有していた炭化水素と、アミド結合とを含む。アミノ基と酸クロリドとの反応の副生成物として、アルキルカルボン酸が生じる。
【0024】
3.CNT分散液
CNT分散液は、CNT分散剤と、CNTと、有機溶媒と、を含む。CNT分散剤は、前記「1.CNT分散剤」の項で述べたものである。CNTとして、例えば、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)等が挙げられる。有機溶媒として、例えば、2-プロパノール(IPA)、2-ブタノン(MEK)、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、トルエン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0025】
CNT分散液におけるCNTの濃度は、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上が一層好ましい。CNT分散液は、界面活性剤を含まないことが好ましい。
4.実施例
(4-1)実施例で使用した材料及び試薬
実施例で使用した材料及び試薬は以下のとおりである。
・3号ケイ酸ナトリウム(SiO2:29.03%、NaO2:9.29%、モル比:3.12)
・3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)(信越化学工業社製試薬)
・36%塩酸(富士フィルム和光純薬社製試薬)
・N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(富士フィルム和光純薬社製試薬)
・トリエチルアミン(Et3N)(富士フィルム和光純薬社製試薬)
・デカノイルクロリド(東京化成工業社製試薬)
・ラウロイルクロリド(東京化成工業社製試薬)
・ステアロイルクロリド(東京化成工業社製試薬)
・クロロホルム(富士フィルム和光純薬社製試薬)
・トルエン(富士フィルム和光純薬社製試薬)
・アセトン(富士フィルム和光純薬社製試薬)
・ラウリン酸(富士フィルム和光純薬社製試薬)
・2-プロパノール(IPA) (富士フィルム和光純薬社製試薬)
・シクロヘキサン(富士フィルム和光純薬社製試薬)
・2-ブタノン(MEK)(富士フィルム和光純薬社製試薬)
・テトラヒドロフラン(THF)(富士フィルム和光純薬社製試薬)
・クロロホルム(富士フィルム和光純薬社製試薬)
・単層カーボンナノチューブ(SWCNT)
・コロイダルシリカ(ST-OXS)(日産化学工業社製試薬、SiO2:10%、粒径:5nm)
・コロイダルシリカ(ST-OS)(日産化学工業社製試薬、SiO2:20%、粒径:10nm)
・コロイダルシリカ(ST-OL)(日産化学工業社製試薬、SiO2:20%、粒径:40~50nm)
(4-2)CNT分散剤A2の製造
氷冷下で撹拌している塩酸水溶液に、3号ケイ酸ナトリウムの水溶液を滴下した。塩酸水溶液の体積は10mLであった。塩酸水溶液における塩酸の濃度は3mol/Lであった。3号ケイ酸ナトリウムの水溶液は、5.0gの3号ケイ酸ナトリウムを純水12mLで希釈した水溶液であった。
【0026】
次に、室温で15分間撹拌し、無色透明の水溶液を得た。次に、塩酸水溶液で希釈したAPTMSを加え、1時間撹拌した。APTMSの量は4.51gであった。希釈に使用した塩酸水溶液の濃度は1mol/Lであり、希釈に使用した塩酸水溶液の体積は36mLであった。
【0027】
次に、開放系において60℃の温度で一晩加熱することで溶媒を蒸発させた。その結果、アンモニウム基が導入されたシリカ粒子A1が得られた。
次に、1.0gのA1を、80℃の純水100mLに溶解した。次に、10mLのDMFで溶媒置換した。次に、15mmolのEt3Nを溶液に加えた。15mmolのEt3Nの質量は1.52gである。
【0028】
次に、ラウロイルクロリドのDMF溶液を加えた。ラウロイルクロリドのDMF溶液は、10mmolのラウロイルクロリドを2mLのDMFに溶解したものであった。
次に、室温で10分間攪拌した。次に、濃度が1mol/Lである塩酸水溶液を30mL加えて30分間攪拌した。その結果、白色粘性体が析出した。
【0029】
次に、白色粘性体を純水で洗浄し、遠心分離を行ってから上澄みの除去を行う操作を3回行った。次に、一晩真空乾燥を行うことで、白色粉末状の生成物を2.4g得た。
次に、白色粉末状の生成物を100~200mLのMEKに溶解し、可溶部を抽出後冷却することで、白色結晶状の生成物が析出した。次に、白色結晶状の生成物を1晩真空乾燥することで、CNT分散剤A2を1.5g得た。
【0030】
CNT分散剤A2は、炭化水素含有アミド基が結合したシリカ粒子と、ラウリン酸とを含む。炭化水素含有アミド基が結合したシリカ粒子は、
図1に示すように、シリカ粒子1に、炭化水素含有アミド基3が結合した構造を有する。炭化水素含有アミド基3のうち、式(1)におけるR1に該当する炭化水素は、鎖式飽和炭化水素であり、炭素数は
11である。
【0031】
(4-3)CNT分散剤B2の製造
15.0gのコロイダルシリカST-OXSを室温で15分間攪拌した。次に、攪拌を続けながら、コロイダルシリカST-OXSに、塩酸で希釈したAPTMSを加え、1時間撹拌した。APTMSの量は4.67gであった。希釈に使用した塩酸水溶液の濃度は1mol/Lであり、希釈に使用した塩酸水溶液の体積は36mLであった。
【0032】
次に、開放系において60℃の温度で5時間加熱することで溶媒を蒸発させた。その結果、アンモニウム基が導入されたシリカ粒子B1が得られた。B1の収量は6.0gであった。
【0033】
次に、1.0gのB1を、80℃の純水100mLに溶解した。次に、10mLのDMFで溶媒置換した。次に、15mmolのEt3Nを溶液に加えた。15mmolのEt3Nの質量は1.52gである。
【0034】
次に、ラウロイルクロリドのDMF溶液を加えた。ラウロイルクロリドのDMF溶液は、10mmolのラウロイルクロリドを2mLのDMFに溶解したものであった。
次に、室温で10分間攪拌した。次に、濃度が1mol/Lである塩酸水溶液を30mL加えて30分間攪拌した。その結果、白色粘性体が析出した。
【0035】
次に、白色粘性体を純水で洗浄し、遠心分離を行ってから上澄みの除去を行う操作を3回行った。次に、一晩真空乾燥を行うことで、CNT分散剤B2を約2.5g得た。CNT分散剤B2は、基本的にはCNT分散剤A2と同様の構成を有する。ただし、CNT分散剤B2において、シリカ粒子1は、コロイダルシリカである。
【0036】
なお、15.0gのコロイダルシリカST-OXSの代わりに、7.5gのコロイダルシリカST-OSを用いても、CNT分散剤B2と同様のCNT分散剤を得ることができる。また、15.0gのコロイダルシリカST-OXSの代わりに、7.5gのコロイダルシリカST-OLを用いても、CNT分散剤B2と同様のCNT分散剤を得ることができる。
【0037】
(4-4)CNT分散剤C2の製造
5.6gのAPTMSに、濃度0.5mol/Lの塩酸水溶液90mLを加え、室温で2時間攪拌した。5.6gのAPTMSは、30mmolである。濃度0.5mol/Lの塩酸水溶液90mLに含まれる塩酸は、45mmolである。
【0038】
次に、開放系において90℃の温度で3時間半加熱することで溶媒を蒸発させた。その結果、無色透明の膜状の生成物が得られた。次に、無色透明の膜状の生成物をアセトンで洗浄し、吸引濾過で濾別する操作を3回行った。次に、残渣を一晩真空乾燥することで、4.7gのC1が得られた。C1は、アンモニウム基含有ラダー型ポリシルセスキオキサンである。C1は親水性であった。
【0039】
次に、2.9gのC1を、80℃の純水150mLに溶解した。次に、10mLのDMFで溶媒置換した。次に、50mmolのEt3Nを溶液に加えた。50mmolのEt3Nの質量は5.06gである。
【0040】
次に、ラウロイルクロリドのDMF溶液を加えた。ラウロイルクロリドのDMF溶液は、30mmolのラウロイルクロリドを2mLのDMFに溶解したものであった。
次に、室温で10分間攪拌した。次に、濃度が1mol/Lである塩酸水溶液を100mL加えて30分間攪拌した。その結果、白色粘性体が析出した。
【0041】
次に、白色粘性体を純水で洗浄し、遠心分離する操作を3回繰り返した。次に、白色粘性体をアセトンで洗浄し、遠心分離を行う操作を3回繰り返した。
次に、残渣を、100~200mLのトルエンに溶解し、可溶部を抽出後冷却することで、白色結晶状の生成物が析出した。次に、白色結晶状の生成物を1晩真空乾燥することで、CNT分散剤C2を4.3g得た。CNT分散剤C2は、基本的にはCNT分散剤A2と同様の構成を有する。ただし、CNT分散剤C2において、シリカ粒子1は、ポリシルセスキオキサンである。
【0042】
(4-5)CNT分散剤D2の製造
CNT分散剤D2の製造方法は、基本的には、CNT分散剤A2の製造方法と同様である。ただし、CNT分散剤A2の製造方法では、ラウロイルクロリドを使用したのに対し、CNT分散剤D2の製造方法では、デカノイルクロリドを使用する点で相違する。
【0043】
また、CNT分散剤A2の製造方法では、水洗浄後の抽出溶媒としてMEKを使用したのに対し、CNT分散剤D2の製造方法では、THFを使用する点で相違する。
CNT分散剤D2は、基本的にはCNT分散剤A2と同様の構成を有する。ただし、CNT分散剤D2において、式(1)におけるR1に該当する炭化水素の炭素数は9である。また、CNT分散剤D2が含むアルキルカルボン酸はデカン酸である。
【0044】
(4-6)のCNT分散剤E2の製造
CNT分散剤E2の製造方法は、基本的には、CNT分散剤A2の製造方法と同様である。ただし、CNT分散剤A2の製造方法では、ラウロイルクロリドを使用したのに対し、CNT分散剤E2の製造方法では、ステアロイルクロリドを使用する点で相違する。
【0045】
また、CNT分散剤A2の製造方法では、水洗浄後の抽出溶媒としてMEKを使用したのに対し、CNT分散剤E2の製造方法では、トルエンを使用する点で相違する。
CNT分散剤E2は、基本的にはCNT分散剤A2と同様の構成を有する。ただし、CNT分散剤E2において、式(1)におけるR1に該当する炭化水素の炭素数は17である。また、CNT分散剤E2が含むアルキルカルボン酸はステアリン酸である。
【0046】
(4-7)CNT分散性評価試験
CNT分散剤A2~E2と、比較例の分散剤R1とのそれぞれについて、以下の方法でCNT分散性を評価した。分散剤R1は、ラウリン酸のみから成る。
【0047】
10mLガラスサンプル容器中に、最初にCNT分散剤を投入し、次に10mLの有機溶媒を投入し、最後に、SWCNTを投入した。その結果、CNT分散液が得られた。CNT分散液におけるCNT分散剤の濃度は1質量%とした。有機溶媒の種類は、IPA、MEK、THF、クロロホルム、トルエン、及びシクロヘキサンのうちのいずれかとした。CNT分散液におけるSWCNTの濃度は0.01~0.05質量%の範囲で変化させた。
【0048】
次に、CNT分散液に対し、超音波ホモジナイザー(家田貿易株式会社製、VCX-500)を用いて、15分間分散処理を行った。超音波ホモジナイザーの出力は100Wとした。分散処理のとき、1秒間のオンと、1秒間のオフとを交互に繰り返した。オンとは、超音波ホモジナイザーが動作している状態である。オフとは、超音波ホモジナイザーが停止している状態である。
【0049】
次に、CNT分散液中のSWCNTの分散状態を目視で確認し、SWCNTの凝集体の有無を確認した。評価結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
◎:SWCNTの濃度が0.05質量%のときに凝集体が無かった。
○:SWCNTの濃度が0.01質量%のときには凝集体が無く、SWCNTの濃度が0.05質量%のときには凝集体があった。
【0052】
×:SWCNTの濃度が0.01質量%のときに凝集体があった。
CNT分散剤A2~E2と、いずれかの有機溶媒とを併用することで、凝集体が生じ難いCNT分散液を製造することができた。
【0053】
(4-8)分散剤の除去性の評価
CNT分散剤A2~E2と、比較例の分散剤R2とのそれぞれについて、以下の方法で分散剤の除去性を評価した。分散剤R2はポリビニルピロリドン(PVP)であった。
【0054】
分散溶媒と、分散剤と、SWCNTとを含むCNT分散液を調製した。分散溶媒の種類は、表2に示すとおりとした。
【0055】
【表2】
CNT分散液における分散剤の濃度は1質量%とした。CNT分散液におけるSWCNTの濃度は0.05質量%とした。
【0056】
次に、バーコートを用いてCNT分散液を基材の表面に塗布し、風乾することで、CNTフィルムを形成した。バーコートにおいて6番のワイヤーバーを使用した。基材の材質はポリエチレンテレフタレート(PET)であった。CNTフィルムはCNTを含む部材に対応する。CNTフィルムの形態は薄膜であった。
【0057】
次に、4端子抵抗計(ロレスタGP MCP-T610、三菱化学アナリテック製)を用いて、CNTフィルムの表面抵抗値を測定した。このときの測定値を以下では洗浄前の測定値とする。
【0058】
次に、CNTフィルムを洗浄した。洗浄の方法は、CNTフィルムを洗浄液に10分間浸漬する方法であった。洗浄液を上記表2に示す。洗浄液は、CNT分散液が含む分散溶媒と同じであった。
【0059】
次に、CNTフィルムを洗浄液から取り出し、風乾した。次に、洗浄前の測定方法と同様の測定方法で、CNTフィルムの表面抵抗値を測定した。このときの測定値を以下では洗浄後の測定値とする。洗浄前の測定値と洗浄後の測定値とを上記表2に示す。
【0060】
CNT分散剤A2~E2を使用した場合は、洗浄後の測定値が、洗浄前の測定値に比べて大きく低下していた。このことは、CNT分散剤A2~E2は、CNTフィルムから容易に除去できることを示す。
【0061】
5.CNT分散剤及びCNT分散液が奏する効果
(1A)本開示のCNT分散液を用いて、CNTを含む部材を製造することができる。CNTを含む部材から、本開示のCNT分散剤を容易に除去することができる。
【0062】
(1B)本開示のCNT分散液は、CNTの凝集体を生じ難い。本開示のCNT分散剤と有機溶媒とを併用することで、CNTの凝集体が生じ難いCNT分散液を製造することができる。
【0063】
6.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0064】
(1)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0065】
(2)上述したCNT分散剤の他、当該CNT分散剤を構成要素とする製品、CNT分散剤の製造方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0066】
1…シリカ粒子、3…炭化水素含有アミド基