(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20230911BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20230911BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230911BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230911BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20230911BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20230911BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M4/1391
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M10/054
H01M4/131
(21)【出願番号】P 2019031655
(22)【出願日】2019-02-25
【審査請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本間 剛
(72)【発明者】
【氏名】平塚 雅史
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 みゆり
(72)【発明者】
【氏名】飯野 颯真
(72)【発明者】
【氏名】山内 英郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史雄
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 良憲
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-052934(JP,A)
【文献】特開2010-015782(JP,A)
【文献】特表2014-517487(JP,A)
【文献】特開2008-047412(JP,A)
【文献】国際公開第2007/091483(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/090943(WO,A1)
【文献】特開2009-274935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-0587
H01M 4/13-62
H01B 1/06-08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光吸収成分を含有する粉末材料に対してレーザー光を照射することにより、前記粉末材料を焼結させ電極層を形成する二次電池の製造方法であって、
前記レーザー光吸収成分が、CrO、FeO、MnO、CoO、及びNiOからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記粉末材料が、酸化物換算のモル%で、Na
2O
15~55%、CrO+FeO+MnO+CoO+NiO
20~70%、P
2O
5+SiO
2+B
2O
3 15~
60%を含有する正極活物質粉末である、二次電池の製造方法。
【請求項2】
レーザー光吸収成分を含有する粉末材料に対してレーザー光を照射することにより、前記粉末材料を焼結させ電極層を形成する二次電池の製造方法であって、
前記レーザー光吸収成分が、TiO
2、V
2O
5、Cr
2O
3、MnO、FeO、CoO、NiO、CuO、Er
2O
3、Nd
2O
3、Sm
2O
3、及びDy
2O
3からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記粉末材料が、酸化物換算のモル%で
、Bi
2O
3 25~
70%、Nb
2O
5 0~
49%、TiO
2+V
2O
5+Cr
2O
3+MnO+FeO+CoO+NiO+CuO+Er
2O
3+Nd
2O
3+Sm
2O
3+Dy
2O
3 0.3~
50%、SiO
2
20~
50%、Na
2O
5~
20%を含有する負極活物質粉末である、二次電池の製造方法。
【請求項3】
レーザー光吸収成分を含有する粉末材料に対してレーザー光を照射することにより、前記粉末材料を焼結させ固体電解質層を形成する二次電池の製造方法であって、
前記レーザー光吸収成分が、TiO
2、V
2O
5、Cr
2O
3、MnO、FeO、CoO、NiO、CuO、Er
2O
3、Nd
2O
3、Sm
2O
3、及びDy
2O
3からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記粉末材料が、酸化物換算のモル%で、Na
2O 1~
32.7%、SiO
2+B
2O
3+P
2O
5 50~80%、TiO
2+V
2O
5+Cr
2O
3+MnO+FeO+CoO+NiO+CuO+Er
2O
3+Nd
2O
3+Sm
2O
3+Dy
2O
3 0.3~
30%を含有する固体電解質粉末である、二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記レーザー光の波長が750~1600nmであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記レーザー光が、半導体レーザー、YAGレーザー、YbファイバレーザーまたはYVO
4レーザーであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の二次電池の製造方法。
【請求項6】
レーザー光を照射して焼結させることにより、二次電池の電極層を形成するために使用され、レーザー光吸収成分を含有する粉末材料であって、
前記レーザー光吸収成分が、CrO、FeO、MnO、CoO、及びNiOからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記粉末材料が、酸化物換算のモル%で、Na
2O
15~55%、CrO+FeO+MnO+CoO+NiO
20~70%、P
2O
5+SiO
2+B
2O
3 15~
60%を含有する正極活物質粉末である、粉末材料。
【請求項7】
レーザー光を照射して焼結させることにより、二次電池の電極層を形成するために使用され、レーザー光吸収成分を含有する粉末材料であって、
前記レーザー光吸収成分が、TiO
2、V
2O
5、Cr
2O
3、MnO、FeO、CoO、NiO、CuO、Er
2O
3、Nd
2O
3、Sm
2O
3、及びDy
2O
3からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記粉末材料が、酸化物換算のモル%で
、Bi
2O
3 25~
70%、Nb
2O
5 0~
49%、TiO
2+V
2O
5+Cr
2O
3+MnO+FeO+CoO+NiO+CuO+Er
2O
3+Nd
2O
3+Sm
2O
3+Dy
2O
3 0.3~
50%、SiO
2
20~
50%、Na
2O
5~
20%を含有する負極活物質粉末である、粉末材料。
【請求項8】
レーザー光を照射して焼結させることにより、二次電池の固体電解質層を形成するために使用され、レーザー光吸収成分を含有する粉末材料であって、
前記レーザー光吸収成分が、TiO
2、V
2O
5、Cr
2O
3、MnO、FeO、CoO、NiO、CuO、Er
2O
3、Nd
2O
3、Sm
2O
3、及びDy
2O
3からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記粉末材料が、酸化物換算のモル%で、Na
2O 1~
32.7%、SiO
2+B
2O
3+P
2O
5 50~80%、TiO
2+V
2O
5+Cr
2O
3+MnO+FeO+CoO+NiO+CuO+Er
2O
3+Nd
2O
3+Sm
2O
3+Dy
2O
3 0.3~
30%を含有する固体電解質粉末である、粉末材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、携帯型電子機器や電気自動車に用いられる二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、モバイル機器や電気自動車等に不可欠な、高容量で軽量な電源としての地位を確立している。現行のリチウムイオン二次電池には、電解質として可燃性の有機系電解液が主に用いられているため、発火等の危険性が懸念されている。この問題を解決する方法として、有機系電解液に代えて固体電解質を使用したリチウムイオン全固体二次電池の開発が進められている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、リチウムは世界的な原材料の高騰の懸念があるため、リチウムに代わる材料としてナトリウムも注目されており、固体電解質としてNASICON型のNa3Zr2Si2PO12からなるナトリウムイオン伝導性結晶を使用したナトリウムイオン全固体電池が提案されている(例えば特許文献2参照)。その他、β-アルミナ(理論組成式:Na2O・11Al2O3)やβ’’-アルミナ(理論組成式:Na2O・5.3Al2O3)、Li2O安定化β’’-アルミナ(Na1.7Li0.3Al10.7O17)、MgO安定化β’’-アルミナ((Al10.32Mg0.68O16)(Na1.68O))といったベータアルミナ系固体電解質やNa5YSi4O12も高いナトリウムイオン伝導性を示すことが知られており、これらの固体電解質もナトリウムイオン全固体二次電池用として使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-205741号公報
【文献】特開2010-15782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二次電池を構成する電極層や固体電解質層は通常、原料粉末をペースト化またはグリーンシート化した後、焼成することにより作製される。しかしながら、このような方法では各層の作製に長時間を要するという問題がある。また、微細な構造を有する層を作製することが困難である。
【0006】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであり、二次電池を構成する電極層や固体電解質層を短時間で作製することが可能であり、また微細な構造を有する電極層や固体電解質層を作製することも可能である方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の二次電池の製造方法は、レーザー光吸収成分を含有する粉末材料に対してレーザー光を照射することにより、粉末材料を焼結させ電極層または固体電解質層を形成することを特徴とする。このようにすれば、粉末材料に含まれるレーザー光吸収成分がレーザー光を吸収し、粉末材料が軟化流動して融着結合(焼結)するため、二次電池を構成する電極層や固体電解質層を短時間で作製することができる。また、レーザー光をピンポイントで所定位置に照射することで、微細な構造を有する電極層や固体電解質層を作製することも可能である。
【0008】
本発明の二次電池の製造方法は、粉末材料が酸化物粉末であることが好ましい。
【0009】
本発明の二次電池の製造方法は、レーザー光吸収成分が、遷移金属酸化物及び希土類元素酸化物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
本発明の二次電池の製造方法は、レーザー光吸収成分が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Er、Nd、Sm及びDyから選択される少なくとも1種の酸化物であることが好ましい。
【0011】
本発明の二次電池の製造方法は、粉末材料が、酸化物換算のモル%でレーザー光吸収成分を0.3~70%含有することが好ましい。
【0012】
本発明の二次電池の製造方法は、粉末材料がガラスであることが好ましい。このようにすれば、レーザー光の照射により粉末材料を容易に軟化流動させることができる。
【0013】
本発明の二次電池の製造方法は、粉末材料が、電極活物質粉末、固体電解質粉末または固体電解質融着用粉末であることが好ましい。
【0014】
本発明の二次電池の製造方法は、レーザー光の波長が750~1600nmであることが好ましい。
【0015】
本発明の二次電池の製造方法は、レーザー光が、半導体レーザー、YAGレーザー、YbファイバレーザーまたはYVO4レーザーであることが好ましい。
【0016】
本発明の粉末材料は、レーザー光を照射して焼結させることにより、二次電池の電極層または固体電解質層を形成するために使用される粉末材料であって、レーザー光吸収成分を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば、二次電池を構成する電極層や固体電解質層を短時間で作製することが可能であり、また微細な構造を有する電極層や固体電解質層を作製することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の二次電池の製造方法は、レーザー光吸収成分を含有する粉末材料に対してレーザー光を照射することにより、粉末材料を焼結させ電極層または固体電解質層を形成することを特徴とする。粉末材料としては、例えば酸化物粉末が使用される。
【0019】
レーザー光吸収成分としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Er、Nd、Sm及びDyから選択される少なくとも1種の酸化物、具体的には、TiO2、V2O5、Cr2O3、MnO、FeO、CoO、NiO、CuO等の遷移金属酸化物や、Er2O3、Nd2O3、Sm2O3、Dy2O3等の希土類元素酸化物が挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して使用することができる。なかでもレーザー光の吸収能に優れるCuO、FeOまたはNiOが好ましい。
【0020】
粉末材料は、組成として酸化物換算のモル%でレーザー光吸収成分を0.3~70%、0.5~60%、特に1~50%含有することが好ましい。レーザー光吸収成分の含有量が少なすぎると、レーザー光を十分に吸収することができないため、粉末材料が軟化流動せず、電極層や固体電解質層の作製が困難になる傾向がある。一方、レーザー光吸収成分の含有量が多すぎても、粉末材料が軟化流動しにくい。また後述するように、粉末材料を電極活物質粉末や固体電解質粉末等の機能性粉末として使用した場合に、当該機能性粉末としての性能が得られない恐れがある。
【0021】
粉末材料の平均粒子径は0.01~15μm、0.05~12μm、特に0.1~10μmであることが好ましい。粉末材料の平均粒子径が小さすぎると、粉末材料同士の凝集力が強くなり、ペースト化した際に分散性に劣る傾向がある。その結果、均質な電極層や固体電解質層が得にくくなる。その結果、電池の内部抵抗が大きくなり作動電圧が低下しやすくなる、あるいは、電極密度が低下して電池の単位体積あたりの容量が低下する、等の不具合が発生する恐れがある。一方、粉末材料の平均粒子径が大きすぎると、電極層及び固体電解質層の緻密性や表面平滑性に劣る傾向がある。また、粉末材料が電極活物質粉末である場合、イオン拡散性が低下して内部抵抗が大きくなる傾向がある。
【0022】
なお、本発明において、平均粒子径はD50(体積基準の平均粒子径)を意味し、レーザー回折散乱法により測定された値を指すものとする。
【0023】
粉末材料としては、ガラスまたはセラミックスが挙げられる。粉末材料がガラスである場合は、軟化点が比較的低いため、レーザー光の照射により容易に軟化流動させることができる。
【0024】
粉末材料は、例えば電極活物質粉末(結晶化前の電極活物質前駆体ガラス粉末を含む)、固体電解質粉末、固体電解質融着用粉末としての形態を取り得る。以下、主にナトリウムイオン二次電池用に関する各形態について詳細に説明する。なお、上述したレーザー光吸収成分を含有する粉末材料であれば、リチウムイオン二次電池用等の電極活物質粉末、固体電解質粉末、固体電解質融着用粉末にも、本発明を適用することができる。
【0025】
(1)粉末材料が電極活物質粉末である場合
正極活物質粉末としては、例えばリン酸塩、珪酸塩及びホウ酸塩のうち少なくとも一種を含み、ナトリウムを吸蔵・放出可能であるもの、具体的には酸化物換算のモル%で、Na2O 8~55%、CrO+FeO+MnO+CoO+NiO 10~70%、P2O5+SiO2+B2O3 15~70%を含有するものが挙げられる。各成分をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。また本明細書において、「○+○+・・・」は該当する各成分の合量を意味する。
【0026】
Na2Oは、充放電の際に正極活物質と負極活物質との間を移動するナトリウムイオンの供給源となる。Na2Oの含有量は8~55%、15~45%、特に25~35%であることが好ましい。Na2Oが少なすぎると、吸蔵及び放出に寄与するナトリウムイオンが少なくなるため、放電容量が低下する傾向にある。一方、Na2Oが多すぎると、Na3PO4等の充放電に寄与しない異種結晶が析出しやすくなるため、放電容量が低下する傾向にある。
【0027】
CrO、FeO、MnO、CoO、NiOはレーザー光吸収成分である。また、充放電の際に各遷移元素の価数が変化してレドックス反応を起こすことにより、ナトリウムイオンの吸蔵及び放出の駆動力として作用する成分である。なかでも、NiO及びMnOは酸化還元電位を高める効果が大きい。また、FeOは充放電において特に構造を安定化させやすく、サイクル特性を向上させやすい。CrO+FeO+MnO+CoO+NiOの含有量は10~70%、15~60%、20~55%、23~50%、25~40%、特に26~36%であることが好ましい。CrO+FeO+MnO+CoO+NiOが少なすぎると、充放電に伴うレドックス反応が起こりにくくなり、吸蔵及び放出されるナトリウムイオンが少なくなるため放電容量が低下する傾向にある。またレーザー光吸収能に劣り、レーザー光を照射した際に粉末材料が十分に軟化流動しないおそれがある。一方、CrO+FeO+MnO+CoO+NiOが多すぎると、異種結晶が析出して放電容量が低下する傾向にある。
【0028】
P2O5、SiO2及びB2O3は3次元網目構造を形成するため、正極活物質の構造を安定化させる効果を有する。特に、P2O5、SiO2がイオン伝導性に優れるために好ましく、P2O5が最も好ましい。P2O5+SiO2+B2O3の含有量は15~70%であり、20~60%、特に25~45%であることが好ましい。P2O5+SiO2+B2O3が少なすぎると、繰り返し充放電した際に放電容量が低下しやすくなる傾向にある。一方、P2O5+SiO2+B2O3が多すぎると、P2O5等の充放電に寄与しない異種結晶が析出する傾向にある。なお、P2O5、SiO2及びB2O3の各成分の含有量は各々0~70%、15~70%、20~60%、特に25~45%であることが好ましい。
【0029】
また、正極活物質としての効果を損なわない範囲で、上記成分に加えて種々の成分を含有させることでガラス化を容易にすることができる。このような成分としては、酸化物表記でMgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、CuO、Al2O3、GeO2、Nb2O5、ZrO2、Sb2O5が挙げられ、特に網目形成酸化物として働くAl2O3や活物質成分となるV2O5が好ましい。上記成分の含有量は、合量で0~30%、0.1~20%、特に0.5~10%であることが好ましい。
【0030】
負極活物質粉末としては、特にリン酸塩、珪酸塩及びホウ酸塩のうち少なくとも一種を含み、ナトリウムを吸蔵・放出可能であるもの、具体的には酸化物換算のモル%で、SnO 0~90%、Bi2O3 0~90%、Nb2O5 0~90%、TiO2+V2O5+Cr2O3+MnO+FeO+CoO+NiO+CuO+Er2O3+Nd2O3+Sm2O3+Dy2O3 0.3~70%、SiO2+B2O3+P2O5 5~75%、Na2O 0~80%を含有するものが挙げられる。上記構成にすることにより、負極活物質成分であるSnイオン、Biイオン、Tiイオン、FeイオンまたはNbイオンが、Si、BまたはPを含有する酸化物マトリクス中により均一に分散した構造が形成される。また、Na2Oを含有することにより、より一層ナトリウムイオン伝導性に優れた材料となる。結果として、ナトリウムイオンを吸蔵及び放出する際の体積変化を抑制でき、より一層サイクル特性に優れた負極活物質を得ることが可能となる。
【0031】
負極活物質粉末の組成を上記の通り限定した理由を以下に説明する。
【0032】
SnO、Bi2O3及びNb2O5は、アルカリイオンを吸蔵及び放出するサイトとなる負極活物質成分である。これらの成分を含有させることにより、負極活物質の単位質量当たりの放電容量がより大きくなり、かつ、初回充放電時の充放電効率(充電容量に対する放電容量の比率)がより向上しやすくなる。但し、これらの成分の含有量が多すぎると、充放電時のナトリウムイオンの吸蔵及び放出に伴う体積変化を緩和できずに、サイクル特性が低下する傾向がある。以上に鑑み、各成分の含有量範囲は以下の通りとすることが好ましい。
【0033】
SnOの含有量は、0~90%、45~85%、55~75%、特に60~72%であることが好ましい。
【0034】
Bi2O3の含有量は、0~90%、10~70%、15~65%、特に25~55%であることが好ましい。
【0035】
Nb2O5の含有量は、0~90%、7~79%、9~69%、11~59%、13~49%、特に15~39%であることが好ましい。なお、SnO+Bi2O3+Nb2O5は、0~90%、5~85%、特に10~80%であることが好ましい。
【0036】
TiO2、V2O5、Cr2O3、MnO、FeO、CoO、NiO、CuO、Er2O3、Nd2O3、Sm2O3及びDy2O3はレーザー光吸収成分である。またこれらの成分は、SnO、Bi2O3及びNb2O5と同様、アルカリイオンを吸蔵及び放出するサイトとなる負極活物質成分として機能し得る。TiO2+V2O5+Cr2O3+MnO+FeO+CoO+NiO+CuO+Er2O3+Nd2O3+Sm2O3+Dy2O3の含有量は0.3~70%、0.5~60%、特に1~50%であることが好ましい。これらの成分の含有量が少なすぎると、レーザー光を十分に吸収することができないため、負極活物質粉末(粉末材料)が軟化流動せず、電極層の作製が困難になる傾向がある。一方、これらの成分の含有量が多すぎても、負極活物質粉末が軟化流動せず、電極層の作製が困難になる傾向がある。また負極活物質としての性能が得られない恐れがある。
【0037】
SiO2、B2O3及びP2O5は、網目形成酸化物であり、上記負極活物質成分におけるナトリウムイオンの吸蔵及び放出サイトを取り囲み、サイクル特性をより一層向上させる作用がある。なかでも、SiO2及びP2O5は、サイクル特性をより一層向上させるだけでなく、ナトリウムイオン伝導性に優れるため、レート特性をより一層向上させる効果がある。
【0038】
SiO2+B2O3+P2O5は、5~85%、6~79%、7~69%、8~59%、9~49%、特に10~39%であることが好ましい。SiO2+B2O3+P2O5が少なすぎると、充放電時のナトリウムイオンの吸蔵及び放出に伴う負極活物質成分の体積変化を緩和できず構造破壊を起こすため、サイクル特性が低下しやすくなる。一方、SiO2+B2O3+P2O5が多すぎると、相対的に負極活物質成分の含有量が少なくなり、負極活物質の単位質量当たりの充放電容量が小さくなる傾向がある。
【0039】
なお、SiO2、B2O3及びP2O5の各々の含有量の好ましい範囲は以下の通りである。
【0040】
SiO2の含有量は、0~75%、5~75%、7~60%、10~50%、12~40%、特に20~35%であることが好ましい。SiO2の含有量が多すぎると、放電容量が低下しやすくなる。
【0041】
P2O5の含有量は、5~75%、7~60%、10~50%、12~40%、特に20~35%であることが好ましい。P2O5の含有量が少なすぎると、上記の効果が得られにくくなる。一方、P2O5の含有量が多すぎると、放電容量が低下しやすくなるとともに、耐水性が低下しやすくなる。また、水系電極ペーストを作製した際に、望まない異種結晶が生じてP2O5ネットワークが切断されるため、サイクル特性が低下しやすくなる。
【0042】
B2O3の含有量は、0~75%、5~75%、7~60%、10~50%、12~40%、特に20~35%であることが好ましい。B2O3の含有量が多すぎると、放電容量が低下しやすくなるとともに、化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0043】
Na2Oは、初回充電時に負極活物質中にナトリウムイオンを吸収させにくくさせることにより、初回放電容量を向上させる成分である。また、ナトリウムイオン伝導性を高め、負極の作動電圧を低下させる効果もある。Na2Oの含有量は0~80%、1~70%、特に5~60%であることが好ましい。Na2Oの含有量が多すぎると、ナトリウムイオンを含む異種結晶(Na4P2O7、NaPO4等)が多量に形成され、サイクル特性が低下しやすくなる。また活物質成分の含有量が相対的に少なくなるため、放電容量が低下する傾向にある。
【0044】
なお、電極活物質粉末に、後述する固体電解質粉末や、カーボン粉末等の導電助剤を混合して、電極合材として使用してもよい。
【0045】
(2)粉末材料が固体電解質粉末である場合
固体電解質粉末としては、酸化物換算のモル%で、Na2O 1~80%、SiO2+B2O3+P2O5 1~80%、TiO2+V2O5+Cr2O3+MnO+FeO+CoO+NiO+CuO+Er2O3+Nd2O3+Sm2O3+Dy2O3 0.3~70%、を含有するものが挙げられる。各成分をこのように限定した理由を以下に説明する。
【0046】
Na2Oはナトリウムイオン伝導性を高める成分である。Na2Oの含有量は1~80%、5~70%、特に10~60%であることが好ましい。Na2Oの含有量は0~80%、1~70%、特に5~60%であることが好ましい。Na2Oの含有量が少なすぎると、ナトリウムイオン伝導性に劣る傾向がある。一方、Na2Oの含有量が多すぎても、かえってナトリウムイオン伝導性に劣る傾向がある。
【0047】
SiO2、B2O3及びP2O5は、網目形成酸化物であり、網目形成酸化物であり、固体電解質粉末の軟化流動性を高める成分である。またナトリウムイオン伝導性を向上させる効果もある。SiO2+B2O3+P2O5は、1~80%、5~79%、10~79%、特に20~69%であることが好ましい。SiO2+B2O3+P2O5が少なすぎると、軟化流動しにくくなったり、化学的耐久性が低下する傾向がある。一方、SiO2+B2O3+P2O5の含有量が多すぎると、ナトリウムイオン伝導性が低下する傾向がある。
【0048】
なお、SiO2、B2O3及びP2O5の各成分の含有量は、0~80%、1~80%、5~79%、10~79%、特に20~69%であることが好ましい。
【0049】
TiO2、V2O5、Cr2O3、MnO、FeO、CoO、NiO、CuO、Er2O3、Nd2O3、Sm2O3及びDy2O3はレーザー光吸収成分である。TiO2+V2O5+Cr2O3+MnO+FeO+CoO+NiO+CuO+Er2O3+Nd2O3+Sm2O3+Dy2O3の含有量は0.3~70%、0.5~60%、特に1~50%であることが好ましい。これらの成分の含有量が少なすぎると、レーザー光を十分に吸収することができないため、固体電解質粉末(粉末材料)が軟化流動せず、固体電解質層の作製が困難になる傾向がある。一方、これらの成分の含有量が多すぎても、固体電解質粉末が軟化流動せず、固体電解質層の作製が困難になる傾向がある。また固体電解質としての性能が得られない恐れがある。
【0050】
(3)粉末材料が固体電解質融着用粉末である場合
固体電解質融着用粉末としては、酸化物換算のモル%で、Na2O 0~80%、SiO2+B2O3+P2O5 1~80%、TiO2+V2O5+Cr2O3+MnO+FeO+CoO+NiO+CuO+Er2O3+Nd2O3+Sm2O3+Dy2O3 0.3~70%、を含有するものが挙げられる。各成分をこのように限定した理由を以下に説明する。
【0051】
Na2Oはナトリウムイオン伝導性を高める成分である。Na2Oの含有量は0~80%、1~80%、5~70%、特に10~60%であることが好ましい。Na2Oの含有量が多すぎても、かえってナトリウムイオン伝導性に劣る傾向がある。
【0052】
SiO2、B2O3及びP2O5は、網目形成酸化物であり、固体電解質融着用粉末の軟化流動性を高める成分である。またナトリウムイオン伝導性を向上させる効果もある。SiO2+B2O3+P2O5は、1~80%、5~79%、10~79%、特に20~69%であることが好ましい。SiO2+B2O3+P2O5が少なすぎると、軟化流動しにくくなったり、化学的耐久性が低下する傾向がある。一方、SiO2+B2O3+P2O5の含有量が多すぎると、ナトリウムイオン伝導性が低下する傾向がある。
【0053】
なお、SiO2、B2O3及びP2O5の各成分の含有量は、0~80%、1~80%、5~79%、10~79%、特に20~69%であることが好ましい。
【0054】
TiO2、V2O5、Cr2O3、MnO、FeO、CoO、NiO、CuO、Er2O3、Nd2O3、Sm2O3及びDy2O3はレーザー光吸収成分である。TiO2+V2O5+Cr2O3+MnO+FeO+CoO+NiO+CuO+Er2O3+Nd2O3+Sm2O3+Dy2O3の含有量は0.3~70%、0.5~60%、特に1~50%であることが好ましい。これらの成分の含有量が少なすぎると、レーザー光を十分に吸収することができないため、固体電解質融着用粉末(粉末材料)が軟化流動せず、固体電解質層の作製が困難になる傾向がある。一方、これらの成分の含有量が多すぎても、固体電解質融着用粉末が軟化流動せず、固体電解質層の作製が困難になる傾向がある。
【0055】
レーザー光は近赤外領域~赤外領域、具体的には波長750~1600nm、900~1400nm、950~1200nm、特に1000~1100nmであると、レーザー光吸収成分に吸収させやすいため好ましい。
【0056】
レーザー光としては、上記のような領域の波長の光を照射できるものであることが好ましく、例えば半導体レーザー、YAGレーザー、Ybファイバレーザー、YVO4レーザーが挙げられる。
【0057】
なお粉末材料は、レーザー光照射後に必要に応じて、所定の温度及び雰囲気で焼成を行って結晶化させてもよい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1-1~1-11:粉末材料が正極活物質前駆体ガラス粉末である実施例)
(a)正極活物質前駆体粉末の作製
表1は実施例1-1~1-11を示す。
【0060】
【0061】
表1に示す組成になるよう、原料バッチを調製した。原料としては、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、メタリン酸ナトリウム(NaPO3)、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)、液体リン酸(H3PO4)、酸化ニッケル(NiO)、シュウ酸鉄(FeC2O4)、酸化マンガン(MnO)、酸化マグネシウム(MgO)またはシリカ(SiO2)を使用した。原料バッチを黒鉛坩堝に入れて、窒素雰囲気中1200℃で1時間溶融し、得られた溶融ガラスを水冷ローラーに流し込んで急冷することでフィルム状ガラスを得た。フィルム状ガラスをボールミルで粉砕することで、平均粒子径D50が0.6μmの正極活物質前駆体ガラス粉末(粉末材料)を得た。なお本実施例において、粉末材料中のレーザー光吸収成分はNiO、FeO、MnOである。
【0062】
(b)固体電解質粉末の作製
β’’-アルミナまたはNASICON結晶(Na3Zr2PSi2O12)をボールミルで粉砕して空気分級することで、平均粒子径2.5μmの固体電解質粉末を得た。
【0063】
(c)正極合材ペーストの作製
正極活物質前駆体ガラス粉末、固体電解質粉末、導電助剤としてアセチレンブラックを、質量比で71:25:4の割合で混合して正極合材を得た。正極合材100質量部に対して、バインダとしてポリプロピレンカーボネート(PPC)10質量部を添加し、溶剤としてN-メチルピロリドンを固形分濃度(正極合材及びバインダの合量)が60質量%になるように添加し、混練することで正極合材ペーストを作製した。
【0064】
(d)正極合材層の形成
正極合材ペーストを、正極合材中に用いた固体電解質粉末と同じ材質の厚み0.5mmの固体電解質層(固体電解質シート)上に、長さ4mm、線幅0.8mm、厚さ70μmとなるように印刷塗布することにより正極合材層を形成した。正極合材層に対して、大気中350℃で1時間焼成することでバインダ及び溶剤を除去した後、波長1080nmのYbファイバレーザーを用いて表1に記載の条件でレーザー光を照射した。SEM(走査型電子顕微鏡)観察により、レーザー光によりガラス粉末である正極活物質前駆体ガラス粉末が軟化流動し、正極合材同士、及び、正極合材層と固体電解質層が融着接合がされているのが確認できたものを「可」、正極活物質前駆体ガラス粉末が軟化流動せず融着接合されていなかったものを「否」として評価した。
【0065】
(e)試験電池の作製
正極合材層に対し、表1に記載の結晶化条件で焼成を行い、正極合材層中の正極活物質前駆体を結晶化させて正極活物質とした。X線回折装置により、正極合材層中の正極活物質結晶を同定した結果を表1に示す。なお正極活物質結晶の他、いずれの試料においても固体電解質由来の結晶が確認された。
【0066】
正極合材層表面に集電体である金属アルミニウム薄膜をスパッタ法により形成した後、固体電解質層の正極合材層が形成された面と反対側の面に金属ナトリウムを貼り付けCR2032型試験電池を作製した。試験電池について充放電試験を行ったところ、作動することが確認できた。
【0067】
(実施例2-1~2-10:粉末材料が正極活物質前駆体結晶粉末である実施例)
表2は実施例2-1~2-10を示す。
【0068】
【0069】
(a)正極活物質粉末の作製
表2に示す組成になるよう原料バッチを調製し、実施例1-1~1-11と同様にしてフィルム状ガラスを得た。フィルム状ガラスを窒素またはアルゴンの不活性雰囲気中、あるいは水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気中、500~600℃で予め結晶化させた後、ボールミルで粉砕することで平均粒子径D50が0.8μmの正極活物質前駆体結晶粉末(粉末材料)を得た。なお本実施例において、粉末材料中のレーザー光吸収成分はNiO、FeO、MnOである。
【0070】
(b)固体電解質粉末の作製
NASICON結晶(Na3Zr2PSi2O12)をボールミルで粉砕し空気分級することで平均粒子径2.5μmの固体電解質粉末を得た。
【0071】
(c)正極合材ペーストの作製
正極活物質前駆体ガラス粉末の代わりに、上記(a)で得られた正極活物質前駆体結晶粉末を使用したこと以外は、実施例1-1~1-11と同様にして正極合材ペーストを作製した。
【0072】
(d)正極合材層の形成
正極合材ペーストを、正極合材中に用いた固体電解質粉末と同じ材質の厚み0.5mmの固体電解質層(固体電解質シート)上に、長さ4mm、線幅0.8mm、厚さ70μmとなるように印刷塗布することにより正極合材層を形成した。正極合材層に対して、大気中350℃で1時間焼成することでバインダ及び溶剤を除去した後、波長1080nmのYbファイバレーザーを用いて表2に記載の条件でレーザー光を照射した。ここで各実施例とも、レーザー照射により正極活物質前駆体結晶粉末が融解して非晶質となり、正極合材同士、及び、正極合材層と固体電解質層が融着接合がされていることが確認された。
【0073】
(e)試験電池の作製
正極合材層に対し、表2に記載の結晶化条件で焼成を行った。これにより、レーザー照射により溶解して非晶質化した正極活物質前駆体結晶粉末を結晶化させて正極活物質とした。X線回折装置により、正極合材層中の正極活物質結晶を同定した結果を表2に示す。なお正極活物質結晶の他、いずれの試料においても固体電解質由来の結晶が確認された。
その後、実施例1-1~1-11と同様の手順で試験電池を作製し、充放電試験を行ったところ、作動することが確認できた。
【0074】
(実施例3-1~3-2:粉末材料が負極活物質粉末である実施例)
表3は実施例3-1~3-2を示す。
【0075】
【0076】
(a)負極活物質粉末の作製
表3に示す組成になるよう、原料バッチを調製した。原料としては、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、酸化ビスマス(Bi2O3)、酸化エルビウム(Er2O3)、酸化銅(CuO)、酸化ホウ素(B2O3)またはシリカ(SiO2)を使用した。原料バッチを白金坩堝に入れて、1100℃で1時間溶融し、得られた溶融ガラスを水冷ローラーに流し込んで急冷することでフィルム状ガラスを得た。フィルム状ガラスをボールミルで粉砕することで、平均粒子径D50が0.8μmの負極活物質粉末(粉末材料)を得た。なお本実施例において、粉末材料中のレーザー光吸収成分はEr2O3、CuOである。
【0077】
(b)固体電解質粉末の作製
β’’-アルミナをボールミルで粉砕し空気分級することで平均粒子径2.5μmの固体電解質粉末を得た。
【0078】
(c)負極合材ペーストの作製
負極活物質粉末、固体電解質粉末、導電助剤としてアセチレンブラックを、質量比で89:10:1の割合で混合して負極合材を得た。負極合材100質量部に対して、バインダとしてポリプロピレンカーボネート7質量部を添加し、溶剤としてN-メチルピロリドンを固形分濃度(負極合材及びバインダの合量)が65質量%になるように添加し、混練することで負極合材ペーストを作製した。
【0079】
(d)負極合材層の形成
負極合材ペーストを、負極合材中に用いた固体電解質粉末と同じ材質の厚み0.5mmの固体電解質層(固体電解質シート)上に、長さ4mm、線幅0.8mm、厚さ70μmとなるように印刷塗布することにより負極合材層を形成した。負極合材層に対して、大気中320℃で1時間焼成することで、バインダ及び有機溶剤を除去した後、波長1080nmのYbファイバレーザーを用いて表3に記載の条件でレーザー光を照射した。ここで各実施例とも、レーザー照射により負極活物質粉末が融解流動して、負極合材同士、及び、負極合材層と固体電解質層が融着接合がされていることが確認された。また、X線回折装置により負極合材層における結晶の同定を行った結果、いずれの試料においても負極活物質は非晶質であることが確認されるとともに、固体電解質粉末由来の結晶が確認された。
【0080】
(e)試験電池の作製
負極合材層表面に集電体である金属アルミニウム薄膜をスパッタ法により形成した後、固体電解質層の負極合材層が形成された面と反対側の面に金属ナトリウムを貼り付けCR2032型試験電池を作製した。試験電池について充放電試験を行ったところ、作動することが確認できた。
【0081】
(実施例4-1~4-3:粉末材料が固体電解質融着用粉末である実施例)
表4は実施例4-1~4-3を示す。
【0082】
【0083】
(a)固体電解質融着用粉末の作製
表4に示す組成になるよう原料バッチを調製し、実施例1-1~1-11と同様にしてフィルム状ガラスを得た。フィルム状ガラスをボールミルで粉砕することで平均粒子径D50が1.5μmの固体電解質融着用粉末(粉末材料)を得た。なお本実施例において、粉末材料中のレーザー光吸収成分はCuOである。
【0084】
(b)固体電解質粉末の作製
NASICON結晶(Na3Zr2PSi2O12)をボールミルで粉砕し空気分級することで平均粒子径2.5μmの固体電解質粉末を得た。
【0085】
(c)固体電解質合材ペーストの作製
固体電解質粉末と固体電解質融着用粉末を、質量比72:28で混合して固体電解質合材を作製した。固体電解質合材100質量部に対して、バインダとしてポリプロピレンカーボネート10質量部を添加し、溶剤としてN-メチルピロリドンを固形分濃度(固体電解質合材及びバインダの合量)が70質量%になるように添加し、混練することで固体電解質合材ペーストを作製した。
【0086】
(d)正極合材層の作製
実施例1-1~1-11で作製した正極合材ペーストをポリエチレンテレフタレート(PET)シート上に厚さ100μmで塗布し、大気中80℃で1時間乾燥して正極合材グリーンシートを作製した。正極合材グリーンシートをプレスし、45mm×45mmのサイズに切断してPETシートから離型した後、H2/N2=4/96(体積%)雰囲気中、500℃で焼成することにより結晶化させて正極合材層(正極合材シート)を作製した。
【0087】
(e)固体電解質合材層の形成
正極合材層の表面に固体電解質合材ペーストを、長さ20mm、線幅0.8mm、厚み150μmのラインが30列×2行、間隔0.5mmで並ぶように印刷塗布することにより固体電解質合材層を形成した。固体電解質合材層を大気中80℃で乾燥し、窒素中350℃で焼成することでバインダ及び有機溶剤を除去した後、波長1080nmのYbファイバレーザーを用いて表4に記載の条件でレーザー光を照射した。ここで各実施例とも、レーザー照射により固体電解質融着用粉末が軟化流動して、固体電解質合材同士、及び、正極合材層と固体電解質合材層が融着接合がされていることが確認された。
【0088】
(f)試験電池の作製
正極合材層の表面に集電体である金属アルミニウム薄膜をスパッタ法により形成した後、固体電解質合材層の正極合材層が形成された面と反対側の面に金属ナトリウムを貼り付けCR2032型試験電池を作製した。試験電池について充放電試験を行ったところ、作動することが確認できた。
【0089】
(実施例5-1~5-3:粉末材料が固体電解質粉末である実施例)
表5は実施例5-1~5-3を示す。
【0090】
【0091】
(a)固体電解質粉末の作製
実施例4-1~4-3で作製した固体電解質融着用粉末を、本実施例では固体電解質粉末(粉末材料)として使用した。
【0092】
(b)固体電解質ペーストの作製
固体電解質粉末100質量部に対して、バインダとしてポリプロピレンカーボネート10質量部を添加し、溶剤としてN-メチルピロリドンを固形分濃度(固体電解質粉末及びバインダの合量)が70質量%になるように添加し、混練することで固体電解質ペーストを作製した。
【0093】
(c)正極合材層の作製
実施例4-1~4-3で作製した正極合材層(正極合材シート)を使用した。
【0094】
(d)固体電解質層の形成
固体電解質合材ペーストの代わりに上記(b)で作製した固体電解質ペーストを使用したこと以外は、実施例4-1~4-3と同様にして、正極合材層上に固体電解質層を形成した。固体電解質合材層を大気中80℃で乾燥し、窒素中350℃で焼成することでバインダ及び有機溶剤を除去した後、波長1080nmのYbファイバレーザーを用いて表5に記載の条件でレーザー光を照射した。ここで各実施例とも、レーザー照射により固体電解質粉末が軟化流動して、固体電解質粉末同士、及び、正極合材層と固体電解質層が融着接合がされていることが確認された。
【0095】
(e)試験電池の作製
実施例4-1~4-3と同様の手順で試験電池を作製し、充放電試験を行ったところ、作動することが確認できた。
【0096】
(比較例6-1:粉末材料が正極活物質前駆体ガラス粉末である比較例)
表6は比較例6-1を示す。
【0097】
【0098】
(a)正極活物質前駆体ガラス粉末の作製
表6に示す組成になるよう原料バッチを調製し、実施例1-1~1-11と同様にして平均粒子径D50が0.8μmの正極活物質前駆体ガラス粉末(粉末材料)を得た。なお本実施例において、粉末材料中にレーザー光吸収成分は含まれていない。
【0099】
(b)固体電解質粉末の作製
NASICON結晶(Na3Zr2PSi2O12)をボールミルで粉砕し空気分級することで平均粒子径2.5μmの固体電解質粉末を得た。
【0100】
(c)正極合材ペーストの作製
上記(a)で得られた正極活物質前駆体ガラス粉末を使用して、実施例1-1~1-11と同様にして正極合材ペーストを作製した。
【0101】
(d)正極合材層の形成
正極合材ペーストを、正極合材中に用いた固体電解質粉末と同じ材質の厚み0.5mmの固体電解質層(固体電解質シート)上に、長さ4mm、線幅0.8mm、厚さ70μmとなるように印刷塗布することにより正極合材層を形成した。正極合材層に対して、大気中350℃で1時間焼成することでバインダ及び溶剤を除去した後、波長1080nmのYbファイバレーザーを用いて表6に記載の条件でレーザー光を照射した。その結果、レーザー照射により正極活物質前駆体ガラス粉末が融解せず、正極合材同士、及び、正極合材層と固体電解質層が融着接合されていなかった。
【0102】
(比較例7-1~7-2:粉末材料が負極活物質粉末である比較例)
表7は比較例7-1~7-2を示す。
【0103】
【0104】
(a)負極活物質粉末の作製
表7に示す組成になるよう原料バッチを調製し、実施例3-1~3-3と同様にして、平均粒子径D50が0.8μmの負極活物質粉末(粉末材料)を得た。なお本実施例において、粉末材料中にレーザー光吸収成分は含まれていない。
【0105】
(b)固体電解質粉末の作製
β’’-アルミナをボールミルで粉砕し空気分級することで平均粒子径2.5μmの固体電解質粉末を得た。
【0106】
(c)負極合材ペーストの作製
上記の負極活物質粉末及び固体電解質粉末を使用し、実施例3-1~3-3と同様にして負極合材ペーストを作製した。
【0107】
(d)負極合材層の形成
上記負極合材ペーストを用いて実施例3-1~3-3と同様の方法で、負極合材中に用いた固体電解質粉末と同じ材質の厚み0.5mmの固体電解質層(固体電解質シート)上に負極合材層を形成した。
【0108】
次に、負極合材層表面に、波長1080nmのYbファイバレーザーを用いて表7に記載の条件でレーザー光を照射した。その結果、レーザー照射により負極活物質粉末が融解せず、負極合材同士、及び、負極合材層と固体電解質層が融着接合されていなかった。
【0109】
(比較例8-1:粉末材料が固体電解質融着用粉末である比較例)
表8は比較例8-1を示す。
【0110】
【0111】
(a)固体電解質融着用粉末の作製
表8に示す組成になるよう原料バッチを調製し、実施例1-1~1-11と同様にしてフィルム状ガラスを得た。フィルム状ガラスをボールミルで粉砕することで平均粒子径D50が1.5μmの固体電解質融着用粉末(粉末材料)を得た。なお本実施例において、粉末材料中にレーザー光吸収成分は含まれていない。
【0112】
(b)固体電解質粉末の作製
β’’アルミナをボールミルで粉砕し空気分級することで平均粒子径2.5μmの固体電解質粉末を得た。
【0113】
(c)固体電解質合材ペーストの作製
上記の固体電解質融着用粉末と固体電解質粉末を用いて、実施例4-1~4-3と同様にして固体電解質合材ペーストを作製した。
【0114】
(d)正極合材層の作製
実施例4-1~4-3と同様にして正極合材層(正極合材シート)を作製した。
【0115】
(e)固体電解質合材層の形成
上記固体電解質合材ペーストを用いて実施例4-1~4-3と同様の方法で、上記正極合材層上に固体電解質合材前駆体層を形成した。
【0116】
次に、固体電解質前駆体層に波長1080nmのYbファイバレーザーを用いて表8に記載の条件でレーザー光を照射した。その結果、レーザー照射により固体電解質融着用粉末が融解せず、固体電解質合材同士、及び、正極合材層と固体電解質合材層が融着接合されていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、例えば、移動体通信機器、携帯用電子機器、電動自転車、電動二輪車、電気自動車等の主電源等に使用される二次電池の製造に好適である。