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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】磁気歯車
(51)【国際特許分類】
   H02K 49/10 20060101AFI20230911BHJP
   F16H 49/00 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
H02K49/10 A
F16H49/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020055448
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021158742
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】赤津 観
(72)【発明者】
【氏名】相曽 浩平
(72)【発明者】
【氏名】青山 康明
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-61422(JP,A)
【文献】国際公開第2015/178111(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/109268(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 49/10
F16H 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に間隔をあけて配置され、磁性体で構成された複数のポールピースと、
前記複数のポールピースを挟んで両側に配置された第1回転子及び第2回転子とを備え、
前記第1回転子は、前記所定方向に間隔をあけて設けられた複数の突極を有し、磁性体で構成された回転体であり、
前記第2回転子は、前記所定方向に沿って複数の磁極を形成する第1永久磁石を有し、前記第1回転子よりも低速で回転する回転体であり、
前記第1回転子の前記複数の突極は、前記複数のポールピースから第1の距離だけ離れて配置され、
前記第2回転子の前記第1永久磁石は、前記複数のポールピースから第2の距離だけ離れて配置され、
前記第1の距離及び前記第2の距離は、前記第1の距離をD1、前記第2の距離をD2としたときに、D1/D2<1を満たすように設定されている
ことを特徴とする磁気歯車。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気歯車において、
前記複数のポールピースの間にそれぞれ配置されて前記複数のポールピースと共に構造体を形成し、非磁性体で構成された複数の保持部材を更に備えている
ことを特徴とする磁気歯車。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気歯車において、
前記複数のポールピースの間にそれぞれ配置された複数の第2永久磁石を更に備えている
ことを特徴とする磁気歯車。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気歯車において、
前記複数のポールピースにおける前記第2回転子側に前記複数のポールピースに亘って延在するように設けられた補強部材を更に備えている
ことを特徴とする磁気歯車。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気歯車において、
前記補強部材は、非磁性体で構成されている
ことを特徴とする磁気歯車。
【請求項6】
請求項4に記載の磁気歯車において、
前記補強部材は、磁性体で構成されている
ことを特徴とする磁気歯車。
【請求項7】
請求項4に記載の磁気歯車において、
前記複数のポールピースは、前記複数のポールピースと同一の材質によって形成された前記補強部材と一体に構成されている
ことを特徴とする磁気歯車。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気歯車において、
前記第2回転子は、前記第1永久磁石における前記複数のポールピース側とは反対側に設けられ、磁性体で構成されたヨークを更に有している
ことを特徴とする磁気歯車。
【請求項9】
請求項1に記載の磁気歯車において、
前記第2回転子の前記第1永久磁石は、ハルバッハ配列に配置された複数の磁石又は極異方性に着磁された部材により構成されている
ことを特徴とする磁気歯車。
【請求項10】
動力を発生する動力源と、
前記動力源の動力を変速して伝達する磁気歯車とを備え、
前記磁気歯車は、請求項1に記載の磁気歯車により構成されている
ことを特徴とする駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力を非接触で速度可変に伝達する磁気歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や鉄道の輸送用機器、産業機器、家電などの分野において、動力源として電動機や原動機が用いられている。電動機や原動機の出力は、トルクと回転数の積であらわされる。電動機や原動機の回転数を増加させることで、大きな出力が得られる。このため、小型かつ高出力が求められる機器では、電動機や原動機の高回転数化が進んでいる。高回転化した電動機や原動機の出力は、機械的なギアによって必要なトルクと回転数に変換して使用されることが多い。機械的なギアを使用する場合には、歯車同士の接触による騒音の発生、潤滑油などによる潤滑の必要性及びそれに伴うメンテナンスの手間などの問題点がある。
【0003】
そこで、電動機等の出力を必要なトルクと回転数に変換する装置として、上述した問題点を抱える機械的なギアに代えて、磁気の結合を利用した磁気歯車を用いることが提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。
【0004】
特許文献1に記載の磁気ギアは、周方向に配列された複数の固定子磁極片と、複数の固定子磁極片に対して第1エアギャップを介してかつ複数の固定子磁極片と同軸に配設され、多極の起磁力を持つ第1回転子と、複数の固定子磁極片に対して第2エアギャップを介してかつ複数の固定子磁極片と同軸に配設され、多極の起磁力を持つ第2回転子とを備えている。第1回転子および第2回転子の一方は、界磁巻線により界磁される界磁突極型回転子により構成されている。界磁突極型回転子は、周方向に隣り合う突極頭部間に、突極頭部間の漏れ磁束の向きと反対向きに着磁配向された極間磁石が配設されている。他方の回転子は、永久磁石により界磁する回転子により構成されている。
【0005】
特許文献2に記載の磁気ギアは、高速回転子と、高速回転子の外周側に配置された環状の低速回転子と、低速回転子の外周側に配置される環状の固定子とを備え、固定子が内周側に複数の突極を有する固定子鉄心と固定子鉄心の周方向に亘って配置される環状の巻線とを有する電磁石として構成されている。高速回転子は、円筒状の回転子鉄心の外周面に複数の永久磁石を固定した構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-059178号公報
【文献】特開2018-078714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の磁気ギアでは、高速回転子としての第1回転子が多極の起磁力を発生させるための界磁巻線(電磁石)又は永久磁石を備えている。第1回転子が界磁巻線を備えている場合には、界磁巻線に電力を供給するための構成部品が必要となり、高速回転子である第1回転子の構成が複雑になる。この場合、高速回転の影響を受ける構成部品が多くなるので、その分、第1回転子の不具合の発生が懸念される。例えば、界磁巻線やその他の周辺構成に対して、高速回転時における接触による損傷や遠心力に対する強度の問題等が懸念される。また、高速回転子である第1回転子が永久磁石を備えている場合には、第1回転子の高速回転時における遠心力による永久磁石の剥がれ等の問題が懸念される。すなわち、界磁巻線又は永久磁石を備えた高速回転子に対して、高速回転時における信頼性に懸念がある。
【0008】
特許文献2に記載の磁気ギアでは、高速回転子が回転子鉄心の外周面に接着等により固定された永久磁石を有している。したがって、高速回転子の高速回転時における遠心力による永久磁石の剥がれ等の問題が懸念される。すなわち、永久磁石を備えた高速回転子に対して、高速回転時における信頼性に懸念がある。
【0009】
また、特許文献1には、磁極間を流れる漏れ界磁磁束を低減して出力トルクに寄与する界磁磁束を多くすることで、小型化かつ高出力トルクを図ることが記載されている。しかし、特許文献1には、第1回転子や第2回転子と固定子磁極片との間のギャップの大きさに対する出力トルクの性能向上の関係についての記載はない。
【0010】
特許文献2には、固定子の巻線に通電する界磁電流量を制御することで、伝達トルク量を制御することが記載されている。しかし、特許文献2には、高速回転子や低速回転子と固定子との間のギャップの大きさに対する伝達トルク量(出力トルク)の性能向上の関係についての記載はない。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、信頼性の向上と共に性能の向上を図った磁気歯車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、所定方向に間隔をあけて配置され、磁性体で構成された複数のポールピースと、前記複数のポールピースを挟んで両側に配置された第1回転子及び第2回転子とを備え、前記第1回転子は、前記所定方向に間隔をあけて設けられた複数の突極を有し、磁性体で構成された回転体であり、前記第2回転子は、前記所定方向に沿って複数の磁極を形成する第1永久磁石を有し、前記第1回転子よりも低速の回転体であり、前記第1回転子の前記複数の突極は、前記複数のポールピースから第1の距離だけ離れて配置され、前記第2回転子の前記第1永久磁石は、前記複数のポールピースから第2の距離だけ離れて配置され、前記第1の距離及び前記第2の距離は、前記第1の距離をD1、前記第2の距離をD2としたときに、D1/D2<1を満たすように設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高速側の第1回転子を永久磁石や界磁巻線の無い簡素な構成の突極回転体として構成することで、高速回転の影響を受ける構成部品を減らし、不具合発生の懸念を軽減することができる。また、ポールピースに対する第1回転子の突極と第2回転子の第1永久磁石の相対的な位置関係をD1/D2<1を満たすように設定することで、磁気歯車の伝達可能なトルクが増加することを見出した。したがって、信頼性の向上と共に性能の向上を図ることができる。
上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る磁気歯車を含む駆動システムを示す縦断面図である。
図2図1に示す本発明の第1の実施の形態に係る磁気歯車をII-II矢視から見た断面図である。
図3図2に示す本発明の第1の実施の形態に係る磁気歯車を一部省略して示す拡大断面図である。
図4】本発明の第1の実施の形態に係る磁気歯車における伝達可能なトルクのシミュレーションの結果の一例を示す特性図である。
図5】本発明の第1の実施の形態に係る磁気歯車におけるポールピースに作用する磁気力のシミュレーションの結果の一例を示す特性図である。
図6】本発明の第1の実施の形態の変形例に係る磁気歯車を一部省略して示す横断面図である。
図7】本発明の第2の実施の形態に係る磁気歯車を一部省略して示す横断面図である。
図8】本発明の第2の実施の形態に係る磁気歯車における伝達可能なトルクのシミュレーションの結果の一例を示す特性図である。
図9】本発明の第3の実施の形態に係る磁気歯車を一部省略して示す横断面図である。
図10】本発明の第3の実施の形態に係る磁気歯車における伝達可能なトルクのシミュレーションの結果の一例を示す特性図である。
図11】本発明の第4の実施の形態に係る磁気歯車を一部省略して示す横断面図である。
図12】本発明の第5の実施の形態に係る磁気歯車を一部省略して示す横断面図である。
図13】本発明の第6の実施の形態に係る磁気歯車を一部省略して示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の磁気歯車の実施の形態について図面を用いて説明する。ここでは、本発明の磁気歯車をラジアルギャップ構造の磁気歯車に適用した構成を
例に挙げて説明する。
【0016】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態に係る磁気歯車を含む駆動システムの構成を図1図3を用いて説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係る磁気歯車を含む駆動システムを示す縦断面図である。図2図1に示す本発明の第1の実施の形態に係る磁気歯車をII-II矢視から見た断面図である。図3図2に示す本発明の第1の実施の形態に係る磁気歯車を一部省略して示す拡大断面図である。図2及び図3中、黒塗り矢印は、永久磁石の磁化方向を示している。
【0017】
図1において、駆動システム100は、動力を発生する動力源101と、動力源101の動力を変速して伝達する磁気歯車1とを備えている。駆動システム100は、例えば、自動車の構成要素を駆動するものである。動力源101としては、エンジン等の原動機や電動機が挙げられる。自動車の構成要素としては、例えば、冷媒圧縮機やオイルポンプ、ウォーターポンプ、エアコンディショニング用のコンプレッサ等が挙げられる。
【0018】
磁気歯車1は、磁気歯車1の外郭を形成する筐体2、筐体2に収容されたポールピース3、第1回転子4、第2回転子5を備えている。第1回転子4は、第2回転子5よりも高速に回転する高速回転体であり、例えば、動力源101の回転動力が入力される第1シャフト6に固定されている。第2回転子5は、第1回転子4よりも低速で回転する低速回転体であり、動力源101の回転動力を減速して出力する。本実施の形態に係る磁気歯車1は、詳細は後述するが、高速回転子としての第1回転子4が界磁巻線や永久磁石の無い突極回転体として構成されていることを特徴としている。加えて、突極回転体としての第1回転子4とポールピース3との距離(ギャップ)が第2回転子5とポールピース3との距離(ギャップ)よりも小さくなるように設定されていることを特徴としている。
【0019】
筐体2は、例えば、筒状のケース21と、ケース21の一方側(図1中、右側)の開口を閉塞する第1カバー22と、ケース21の他方側(図1中、左側)の開口を閉塞する第2カバー23とで構成されている。第1カバー22の中央部及び第2回転子5にはそれぞれ第1軸受7が設けられている。第1軸受7は、第1シャフト6を介して第1回転子4を回転可能に支持するものである。第2カバー23の中央部には、複数(図1中、2つ)の第2軸受8が軸方向に間隔をあけて設けられている。第2軸受8は、第2回転子5を回転可能に支持するものである。
【0020】
ポールピース3は、図1及び図2に示すように、周方向(所定方向)に沿って間隔をあけて複数配置されている。例えば、14個のポールピース3が軸線Aを中心に所定の半径で周方向に等間隔に配列されている。各ポールピース3は、磁性体で構成された部材であり、例えば、軸線Aの延びる方向(軸方向)に対して略平行な方向に延在している。各ポールピース3は、その一方側端部(図1中、右側端部)が第1カバー22に固定され、片持ち状態で第1カバー22に支持されている。各ポールピース3は、第2回転子5の後述の第1永久磁石53から発生する磁束を変調するものである。
【0021】
第1回転子4と第2回転子5は、周方向に配列された複数のポールピース3を挟んで両側に配置されている。具体的には、第1回転子4は、環状に配列された複数のポールピース3の内周側に配置されている。一方、第2回転子5は、環状に配列された複数のポールピース3の外周側に配置されている。第1回転子4と第2回転子5は、同一の軸線A上に配置されている。
【0022】
第1回転子4は、第1シャフト6に固定されるベース部41と、ベース部41の外周部から径方向外側に突出し、周方向(所定方向)に間隔(図2中、180°)をあけて設けられた複数(図2中、2つ)の突極42とを有しており、磁性体で構成された部材である。複数の突極42は、複数のポールピース3に対してギャップを設けて対向するように配置されている。
【0023】
第2回転子5は、第2軸受8に回転可能に支持される第2シャフト部51と、第2シャフト部51の一方側端部(図1中、右側端部)に一体に設けられたカップ状の保持部52と、保持部52によって保持された第1永久磁石53及びヨーク54とを有している。第2シャフト部51と保持部52の一体部材は、第1永久磁石53からの磁束が保持部52及び第2シャフト部51を通過することを抑制するために、非磁性体で構成されている。第1永久磁石53は、周方向(所定方向)に沿って複数の磁極(N極とS極)を形成する環状の構造体である。具体的には、第1永久磁石53は、例えば、磁化方向が径方向外側を向く磁石53aと径方向内側を向く磁石53bとが周方向に交互に配置されている。第1永久磁石53は、磁極数が第1回転子4の突極の極数よりも大きくようになるように構成されている。例えば、第1永久磁石53は、第1回転子4の突極42の極数2に対して、極数12(極対数6)となるように構成されている。第1永久磁石53は、周方向に配列された複数のポールピース3に対してギャップを設けて対向するように配置されている。第1永久磁石53の外周側、すなわち、第1永久磁石53の複数のポールピース3側とは反対側に磁性体で構成された環状のヨーク54が設けられている。ヨーク54は、周方向に交互に並んだ複数の磁石53a及び磁石53bを保持する保持部材としても機能する。
【0024】
本実施の形態の特徴の1つは、次のとおりである。図3に示すように、第1回転子4の複数の突極42は、その外周の先端面が複数のポールピース3の内周側の対向面から径方向に第1の距離D1だけ離れるように配置されている。一方、第2回転子5の第1永久磁石53は、その内周面が複数のポールピース3の外周側の対向面から径方向に第2の距離D2だけ離れるように配置されている。第2の距離D2は、第1の距離D1よりも大きくなるように設定されている。すなわち、第1の距離D1及び第2の距離D2は、次の式(1)を満たすように設定されている。
D1/D2<1 … (1)
【0025】
本実施の形態においては、第1回転子4の複数の突極42と複数のポールピース3との間には他の部材が介在しておらず、第1の距離D1は両者間のエアギャップ(磁気的なギャップ)と同義である。同様に、第2回転子5の第1永久磁石53と複数のポールピース3との間には他の部材が介在しておらず、第2の距離D2は両者間のエアギャップ(磁気的なギャップ)と同義である。
【0026】
本実施の形態に係る磁気歯車1は、図2に示すように、第1回転子4の極数が2、第2回転子5の極数が12(極対数が6)、ポールピース3の極数が14となる組合せの構成である。この構成の磁気歯車1は、ギア比が6:1となる。すなわち、第1回転子4の回転数:第2回転子5の回転数=6:1のギア比となる磁気歯車1が構成されている。各ギア比に対する第1回転子4の極数Z1、第2回転子5の磁極数Z2(極対数ZL)、ポールピース3の極数(個数)Zpの関係を表1に示す。表1は、第1回転子4(突極回転体)の極数Z1が2である場合における各ギア比の例を示したものである。本発明は、表1に示した組合せに限定されるわけではなく、他の組合せに対しても適用可能である。第1回転子4(突極回転体)の極数Z1を変更した場合、第1回転子4(突極回転体)の極数Z1に応じて第2回転子5の磁極数Z2(極対数ZL)及びポールピース3の極数Zpも変更すればよい。
【0027】
【表1】
【0028】
次に、本発明の第1の実施の形態に係る磁気歯車の効果を図3図5を用い従来の磁気歯車と比較することで説明する。図4は本発明の第1の実施の形態に係る磁気歯車における伝達可能なトルクのシミュレーションの結果の一例を示す特性図である。図5は本発明の第1の実施の形態に係る磁気歯車におけるポールピースに作用する磁気力のシミュレーションの結果の一例を示す特性図である。
【0029】
従来の磁気歯車として、表面磁石(SPM:Surface Permanent Magnet)型の磁気歯車が挙げられる。従来のSPM型の磁気歯車は、周方向に配列された複数のポールピースを挟んで内周側と外周側とに配置された一対の円筒状のロータ表面にそれぞれ永久磁石を貼り付けたものである。従来のSPM型の磁気歯車において、複数のポールピースと内周側の回転子(高速側の回転体)との間の距離(エアギャップ)を第1の距離D1、複数のポールピースと外周側の回転子(低速側の回転体)との間の距離(エアギャップ)を第2の距離D2とする。
【0030】
図4には、従来のSPM型の磁気歯車における第1の距離D1及び第2の距離D2をそれぞれ0.5mmとした場合、すなわち、D1=D2の場合の伝達可能なトルクを基準として、第1の距離D1及び第2の距離D2を変化させたときの伝達可能なトルクTの特性が示されている。同様に、図4には、本実施の形態と同様な構成の磁気歯車における第1の距離D1及び第2の距離D2をそれぞれ0.5mmとした場合の伝達可能なトルクを基準値として、第1の距離D1及び第2の距離D2を変化させたときの伝達可能なトルクTの特性が示されている。なお、ここでは、第1の距離D1と第2の距離D2の合計が1.0mmという条件下で、第1の距離D1及び第2の距離D2を変更している。
【0031】
従来のSPM型の磁気歯車では、図4を参照すると、第2の距離D2が第1の距離D1よりも相対的に小さくなるにしたがって、伝達可能なトルクTが徐々に増加することがシミュレーションの結果から分かる。すなわち、従来のSPM型の磁気歯車では、外周側の回転子を内周側の回転子よりも相対的に複数のポールピースに対して接近するように構成することで、伝達可能なトルクTが増加する。
【0032】
それに対して、図3に示す高速側の第1回転子4(内周側の回転子)としての突極回転体と低速側の第2回転子5(外周側の回転子)としての永久磁石回転体とを組み合わせた本実施の形態と同様な構成の磁気歯車においては、図4を参照すると、第1の距離D1が第2の距離D2よりも相対的に小さくなるにしたがって、伝達可能なトルクTが徐々に増加することがシミュレーションの結果から判明した。すなわち、本実施の形態に係る磁気歯車1においては、従来のSPM型の磁気歯車のトルク特性とは逆に、内周側の第1回転子4を外周側の第2回転子5よりも相対的に複数のポールピース3に対して接近するように構成することで、伝達可能なトルクTが増加する。これは、外周側の第2回転子5が永久磁石により起磁力を有している一方、内周側の第1回転子4が起磁力を有していないので、第1回転子4とポールピース3間と第2回転子5とポールピース3間の磁気的な結合に非平衡が生じているためであると推察される。
【0033】
本実施の形態の磁気歯車1においては、複数のポールピース3に対する第1回転子4の複数の突極42の第1の距離D1及び複数のポールピース3に対する第2回転子5の第1永久磁石53の第2の距離D2がD1/D2<1を満たすように設定されている。したがって、上述した図4に示す新たな知見により、本実施の形態の磁気歯車1の伝達可能なトルクを増加させることができることが分かる。
【0034】
また、図5には、本実施の形態の磁気歯車1における第1の距離D1及び第2の距離D2をそれぞれ0.2mm及び0.8mmとした場合のポールピース3に作用する磁気力Rの特性が示されている。さらに、比較例として、第1の距離D1及び第2の距離D2をそれぞれ0.5mmとした場合、すなわち、D1=D2の場合のポールピース3に作用する磁気力Rの特性が示されている。図5中、横軸tは時間を示している。なお、図5に示す正の磁気力Rは径方向外側に向かう力を示している。
【0035】
本実施の形態に係る磁気歯車1においては、図5に示すように、第1の距離D1が第2の距離D2よりも相対的に小さくなると、ポールピース3に作用する磁気力Rの正のピークが低下することがシミュレーションの結果から判明した。正の磁気力は、周方向に配列された複数のポールピース3を外周側に押し広げる力となる。一方、第1の距離D1が第2の距離D2よりも相対的に小さくなると、ポールピース3に作用する磁気力Rの負のピークが上昇することがシミュレーションの結果から判明した。負の磁気力は、周方向に配列された複数のポールピース3を内周側に押し縮める力となる。
【0036】
各ポールピース3に作用する負の磁気力(内周側に押し縮める力)の増加に対しては、例えば、図6に示す第1の実施の形態の変形例の構成により対応が可能である。図6は本発明の第1の実施の形態の変形例に係る磁気歯車を一部省略して示す横断面図である。図6中、黒塗り矢印は第1永久磁石の磁化方向を示している。
【0037】
図6に示す第1の実施の形態の変形例に係る磁気歯車1Aは、周方向に間隔をあけて配置された複数のポールピース3間に非磁性体で構成された保持部材11を配置し、複数のポールピース3と複数の保持部材11とで環状の構造体を形成するものである。
【0038】
本構成の場合、各ポールピース3に負の磁気力(内周側に押し縮める力)が作用すると、環状の構造体を構成する各ポールピース3及び各保持部材11には周方向の圧縮力が生じ、隣接する部材3、11間で支え合うようになる。したがって、ポールピース3に作用する負の磁気力の増加に対しては、構造的な安定性を確保することが可能である。
【0039】
一方、各ポールピース3に作用する正の磁気力(外周側に押し広げる力)に対しては、図6に示す変形例の磁気歯車1Aのように複数のポールピース3と複数の保持部材11とで環状の構造体を形成しても、負の磁気力(内周側に押し縮める力)の場合とは異なり、ポールピース3が保持部材11によって支持されることはない。もし、正の磁気力によって複数のポールピース3の一部が基準位置よりも外周側にずれると、第2回転子5との接触が懸念される。したがって、正の磁気力(外周側に押し広げる力)に対して、ポールピース3の構造的な安定性を図る必要がある。
【0040】
本実施の形態の磁気歯車1においては、上述したように、第1の距離D1及び第2の距離D2が、D1/D2<1を満たすように設定されている。この場合、図5を参照すると、内周側(高速側)の第1回転子4及び外周側(低速側)の第2回転子5のポールピース3の一般的な配置関係(D1=D2)と比較して、各ポールピース3に作用する磁気力Rの正のピークを低下させることが分かる。したがって、本実施の形態においては、第1の距離D1及び第2の距離D2をD1/D2<1を満たすように設定することで、各ポールピース3に作用する磁気力の正のピークが低下するので、ポールピース3の構造的な信頼性を向上させることができる。
【0041】
上述したように、本発明の第1の実施の形態に係る磁気歯車1は、所定方向(周方向)に間隔をあけて配置され、磁性体で構成された複数のポールピース3と、複数のポールピース3を挟んで両側に配置された第1回転子4及び第2回転子5とを備え、第1回転子4は、所定方向(周方向)に間隔をあけて設けられた複数の突極42を有し、磁性体で構成された回転体であり、第2回転子5は、所定方向(周方向)に沿って複数の磁極を形成する第1永久磁石53を有し、第1回転子4よりも低速の回転体であり、第1回転子4の複数の突極42は、複数のポールピース3から第1の距離だけ離れて配置され、第2回転子5の第1永久磁石53は、複数のポールピース3から第2の距離だけ離れて配置され、第1の距離及び第2の距離は、第1の距離をD1、第2の距離をD2としたときに、D1/D2<1を満たすように設定されている。
【0042】
本構成によれば、高速側の第1回転子4を永久磁石や界磁巻線の無い簡素な構成の突極回転体として構成することで、高速回転の影響を受ける構成部品を減らし、不具合発生の懸念を軽減することができる。また、ポールピース3に対する第1回転子4の突極42と第2回転子5の第1永久磁石53の相対的な位置関係をD1/D2<1を満たすように設定することで、磁気歯車1の伝達可能なトルクが増加することを見出した。すなわち、本構成により、信頼性の向上と共に性能の向上を図ることができる。
【0043】
また、本実施の形態の磁気歯車1においては、第2回転子5が、第1永久磁石53における複数のポールピース3側とは反対側に設けられ、磁性体で構成されたヨーク54を更に有している。この構成によれば、第1永久磁石53からの磁束がヨーク54を通過することで動力伝達に寄与しない磁束の漏れを低減することができると共に、ヨーク54によって第1永久磁石53を保持することができる。したがって、磁気歯車1の性能の向上と共に信頼性の向上を図ることができる。
【0044】
また、本実施の形態の変形例に係る磁気歯車1Aは、複数のポールピース3の間にそれぞれ配置されて複数のポールピース3と共に構造体を形成し、非磁性体で構成された複数の保持部材11を更に備えている。この構成によると、保持部材11によって複数のポールピース3の構造的な安定性を確保することができる。すなわち、磁気歯車1Aの信頼性の更なる向上を図ることができる。
【0045】
また、本発明の第1の実施の形態に係る駆動システム100は、動力を発生する動力源101と動力源101の動力を変速して伝達する磁気歯車とを備え、磁気歯車は上述した第1の実施の形態に係る磁気歯車1により構成されている。本構成によれば、上述した第1の実施の形態に係る磁気歯車1と同様に、信頼性の向上と共に性能の向上を図ることができる。
【0046】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係る磁気歯車について図7及び図8を用いて説明する。図7は本発明の第2の実施の形態に係る磁気歯車を一部省略して示す横断面図である。図8は本発明の第2の実施の形態に係る磁気歯車における伝達可能なトルクのシミュレーションの結果の一例を示す特性図である。図7中、黒塗り矢印は、第1永久磁石及び第2永久磁石の磁化方向を示している。なお、図7及び図8において、図1図6に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0047】
図7に示す本発明の第2の実施の形態に係る磁気歯車1Bが第1の実施の形態に係る磁気歯車1(図3参照)と相違する点は、周方向に間隔をあけて配置された複数のポールピース3間にそれぞれ第2永久磁石12を配置し、複数のポールピース3と複数の第2永久磁石12とで環状の構造体を形成したことである。各第2永久磁石12は、磁化方向がポールピース3側である周方向を向くように構成されている。複数の第2永久磁石12は、磁化方向が周方向に沿って交互に入れ替わるように配置されている。すなわち、複数の第2永久磁石12のうち隣接する第2永久磁石12は、磁化方向が互いに逆方向(図7中、時計回りの方向と反時計回りの方向)を向くように構成されている。
【0048】
図8には、図4に示した従来のSPM型の磁気歯車のトルク特性及び第1の実施の形態の磁気歯車1のトルク特性と共に、第2の実施の形態の磁気歯車1Bのトルク特性が示されている。すなわち、第2の実施の形態と同様な構成の磁気歯車における第1の距離D1及び第2の距離D2をそれぞれ0.5mmとした場合の伝達可能なトルクを基準値として、第1の距離D1及び第2の距離D2を変化させたときの伝達可能なトルクTの特性が示されている。ここでも、第1の距離D1と第2の距離D2の合計が1.0mmという条件下で、第1の距離D1及び第2の距離D2を変更している。
【0049】
複数のポールピース3間にそれぞれ第2永久磁石12を配置した図7に示す第2の実施の形態の磁気歯車1Bにおいては、図8を参照すると、第1の実施の形態の磁気歯車1と同様に、第1の距離D1が第2の距離D2よりも相対的に小さくなるにしたがって、伝達可能なトルクTが徐々に増加することがシミュレーションの結果から判明した。すなわち、第2の実施の形態に係る磁気歯車1Bにおいては、従来のSPM型の磁気歯車の特性とは逆に、内周側の第1回転子4を外周側の第2回転子5よりも相対的に複数のポールピース3に対して接近するように構成することで、伝達可能なトルクTが増加する。
【0050】
本実施の形態の磁気歯車1Bにおいても、第1の距離D1及び第2の距離D2がD1/D2<1を満たすように設定されている。したがって、上述した図8に示す新たな知見により、本実施の形態の磁気歯車1Bの伝達可能なトルクを増加させることができることが分かる。
【0051】
さらに、本実施の形態に係る磁気歯車1Bは、図8を参照すると、第1の距離D1と第2の距離D2の関係がD1/D2<1の範囲内である場合、第1の実施の形態に係る磁気歯車1よりも伝達可能なトルクTが増加することが判明した。すなわち、複数のポールピース3間にそれぞれ第2永久磁石12を更に配置することで、磁気歯車1Bの性能が第1の実施の形態の場合よりも向上することがわかる。
【0052】
また、実施の形態においては、環状に配列された複数のポールピース3間に第2永久磁石12をそれぞれ配置することで、複数のポールピース3と複数の第2永久磁石12とで環状の構造体を形成している。これにより、前述した第1の実施の形態の変形例(図6参照)と同様に、各ポールピース3に負の磁気力(内周側に押し縮める力)が作用すると、各ポールピース3及び各第2永久磁石12に圧縮力が生じ、隣接するポールピース3と第2永久磁石12とで支え合うようになる。したがって、ポールピース3に作用する負の磁気力に対しては、ポールピース3の構造的な安定性を確保することが可能であり、信頼性の向上を図ることができる。
【0053】
上述した本発明の第2の実施の形態に係る磁気歯車1B及びそれを備えた駆動システム100によれば、第1の実施の形態と同様に、信頼性の向上と共に性能の向上を図ることができる。
【0054】
また、本実施の形態に係る磁気歯車1Bにおいては、複数のポールピース3の間にそれぞれ配置された複数の第2永久磁石12を更に備えている。この構成によると、第1の実施の形態に係る磁気歯車1よりも伝達可能なトルクが増加することを見出した。したがって、磁気歯車1Bの性能の更なる向上を図ることができる。
【0055】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態に係る磁気歯車について図9及び図10を用いて説明する。図9は本発明の第3の実施の形態に係る磁気歯車を一部省略して示す横断面図である。図10は本発明の第3の実施の形態に係る磁気歯車における伝達可能なトルクのシミュレーションの結果の一例を示す特性図である。図9中、黒塗り矢印は、第1永久磁石及び第2永久磁石の磁化方向を示している。なお、図9及び図10において、図1図8に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0056】
図9示す本発明の第3の実施の形態に係る磁気歯車1Cが第2の実施の形態に係る磁気歯車1B(図7参照)と相違する点は、複数のポールピース3における第2回転子5側に複数のポールピース3に亘って延在するように補強部材13を設けたことである。具体的には、補強部材13は、環状に配列された複数のポールピース3と複数のポールピース3間にそれぞれ配置された複数の第2永久磁石12とで形成された環状の構造体の外周面の全周に亘って延在する環状且つ薄板状の部材である。補強部材13は、周方向に交互に並ぶポールピース3と第2永久磁石12の外周側の枠として機能し、複数のポールピース3及び複数の第2永久磁石12を外周側から保持して補強するものである。
【0057】
本実施の形態においても、第1及び第2の実施の形態と同様に、第1の距離D1及び第2の距離D2がD1/D2<1を満たすように設定されている。すなわち、ポールピース3と第2回転子5間の距離(ギャップ)D2がポールピース3と第1回転子4間の距離(ギャップ)D1よりも相対的に広くなっている。このため、相対的に広い第2回転子5とポールピース3間のギャップ内に補強部材13を配置する空間を確保することができる。補強部材13の外周面と第2回転子5の内周面とのギャップ、すなわち、両者間の径方向の距離D3は、第2回転子5の回転時に補強部材13との接触を回避することが可能な範囲内で設定される。
【0058】
本実施の形態においては、各ポールピース3に正の磁気力(外周側に押し広げる力)が作用しても、補強部材13によって各ポールピース3の外周側への広がりを抑制することができる。したがって、ポールピース3の構造的な信頼性を向上させることができる。
【0059】
補強部材13を非磁性体で構成することが可能である。補強部材13は、例えば、樹脂により構成されている。この場合、補強部材13が磁気的な影響および電磁気的な性能への影響を与えることはない。すなわち、ポールピース3と第2回転子5間の磁気的なギャップは、補強部材13と第2回転子5間の距離D3ではなく、第2の距離D2に相当する。したがって、本実施の形態の磁気歯車1Cは、第2の実施の形態の磁気歯車1Bと同等のトルク特性を有する。
【0060】
一方、補強部材13を磁性体で構成することも可能である。この場合、非磁性体の補強部材13よりも高強度な部材とすることが可能である。これにより、正の磁気力の作用による各ポールピース3の外周側への広がりを更に抑制することができ、ポールピース3の構造的な信頼性を更に向上させることができる。ただし、非磁性体の補強部材13を用いると、磁気的な影響および電磁気的な性能への影響が生じる。
【0061】
図10には、比較例の磁気歯車及び第2の実施の形態の磁気歯車1Bのトルク特性と共に、補強部材13を磁性体で構成した第3の実施の形態に係る磁気歯車1Cのトルク特性が示されている。具体的には、第1の距離D1及び第2の距離D2をそれぞれ0.5mmと同じとした場合の比較例の磁気歯車の伝達可能なトルクTが示されている。また、第1の距離D1及び第2の距離D2をそれぞれ0.3mm及び0.7mmとした場合であって補強部材13が存在しない第2の実施の形態の磁気歯車1Bの伝達可能なトルクTが示されている。さらに、第1の距離D1及び第2の距離D2をそれぞれ0.3mm及び0.7mmとすると共に、補強部材13と第2回転子5とのギャップ、すなわち、両者間の径方向の距離D3及び補強部材13の厚みをそれぞれ0.35mmとした場合における第3の実施の形態の磁気歯車1Cの伝達可能なトルクの特性が示されている。
【0062】
磁性体で構成された補強部材13を更に備える本実施の形態の磁気歯車1Cの伝達可能なトルクは、図10を参照すると、比較例の磁気歯車と比較した場合に、第2の実施の形態の磁気歯車1Bよりも伝達可能なトルクの上昇率が低下するものの、トルクが上昇することがわかる。すなわち、内周側の第1回転子4を外周側の第2回転子5よりも相対的にポールピース3に対して接近させたことによるトルク上昇の方が、磁性体で構成された補強部材13の磁気的な影響によるトルク低下よりも上回る。したがって、磁性体で構成された補強部材13によってポールピース3を補強しても、磁気歯車1Cの性能向上が可能である。
【0063】
上述した本発明の第3の実施の形態に係る磁気歯車1C及びそれを備えた駆動システム100によれば、第2の実施の形態と同様に、信頼性の向上と共に性能の向上を図ることができる。
【0064】
また、本実施の形態に係る磁気歯車1Cにおいては、複数のポールピース3における第2回転子5側に複数のポールピース3に亘って延在するように設けられた補強部材13を更に備えている。この構成によれば、磁気力が作用する複数のポールピース3の全てを補強部材13によって支持することができるので、複数のポールピース3を補強することができる。
【0065】
さらに、本実施の形態に係る磁気歯車1Cにおいては、補強部材13を非磁性材で構成することが可能である。この構成によれば、磁気的な影響および電磁気的な性能への影響を及ぼすことなく、補強部材13によって複数のポールピース3を補強することができる。
【0066】
また、本実施の形態に係る磁気歯車1Cにおいては、補強部材13を磁性体で構成することが可能である。この構成によれば、補強部材13によるポールピース3の補強と磁気歯車1Cの伝達可能なトルクの増加との両立を図ることができる。
【0067】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態に係る磁気歯車について図11を用いて説明する。図11は本発明の第4の実施の形態に係る磁気歯車を一部省略して示す横断面図である。図11中、黒塗り矢印は第1永久磁石及び第2永久磁石の磁化方向を示している。なお、図11において、図1図10に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0068】
図11に示す本発明の第4の実施の形態に係る磁気歯車1Dが第3の実施の形態に係る磁気歯車1C(図9参照)と相違する点は、複数のポールピースがポールピースと同一の材質で形成された補強部材と一体に構成されていることである。
【0069】
具体的には、ポールピース3Dは、内周側が櫛歯状に形成された筒状の部材として構成されている。すなわち、ポールピース3Dでは、第3の実施の形態の複数のポールピース3に相当する周方向に配列された複数のポールピース本体部31と、ポールピース3の第2回転子5側、すなわち外周側で複数のポールピース本体部31を接続する環状且つ薄板状の接続部32とが一体に構成されている。接続部32は、第3の実施の形態の補強部材13をポールピース3と同一の磁性体の材質で形成したものに相当する部分である。本実施の形態においては、ポールピース3Dにおける接続部32を除いた各ポールピース本体部31の外周側と第2回転子5の内周面との径方向の距離が第2の距離D2として規定されている。また、ポールピース3Dの接続部32の外周面と第2回転子5の内周面との径方向の距離(エアギャップ)が距離D3として規定される。すなわち、本実施の形態の磁気歯車1Dは、ポールピース3と同一の磁性体の材質で形成した補強部材13を更に備える第3の実施の形態の磁気歯車1Cと同等の構成である。
【0070】
本実施の形態においては、接続部32によって複数のポールピース本体部31の全てが外周側で接続されているので、ポールピース3Dに正の磁気力(外周側に押し広げる力)が作用しても、ポールピース3Dの外周側への広がりを抑制することができる。したがって、ポールピース3Dの構造的な信頼性を向上させることができる。
【0071】
また、本実施の形態においては、ポールピース3Dの複数のポールピース本体部31間にそれぞれ第2永久磁石12が配置されている。この構成により、伝達可能なトルクの増加と共にポールピース3Dの補強が可能となる。
【0072】
上述した本発明の第4の実施の形態に係る磁気歯車1D及びそれを備えた駆動システム100によれば、第3の実施の形態と同様に、信頼性の向上と共に性能の向上を図ることができる。
【0073】
また、本実施の形態に係る磁気歯車1Dにおいては、複数のポールピース(ポールピース本体部31)が複数のポールピース(ポールピース本体部31)と同一の材質によって形成された補強部材(接続部32)と一体に構成されている。この構成によれば、一体構造のポールピース3Dは、強度が向上すると共に組立が容易となる。
【0074】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態に係る磁気歯車について図12を用いて説明する。図12は本発明の第5の実施の形態に係る磁気歯車を一部省略して示す横断面図である。図12中、黒塗り矢印は、第1永久磁石及び第2永久磁石の磁化方向を示している。なお、図12において、図1図11に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0075】
図12に示す本発明の第5の実施の形態に係る磁気歯車1Eが第4の実施の形態に係る磁気歯車1D(図11参照)と相違する点は、第2回転子5Eの第1永久磁石53Eがハルバッハ配列に配置された複数の磁石53a、53b、53c、53dにより構成されていること及び第2回転子5Eがヨークを有していないことである。具体的には、第1永久磁石53Eは、磁化方向が径方向を向く磁石53a、53bと磁化方向が周方向を向く磁石53c、53dが周方向に交互に配置されるように構成されている。磁化方向が径方向を向く隣り合う磁石53a、53bの磁化方向は互いに逆向きであり、且つ、磁化方向が周方向を向く隣り合う磁石53c、53dの磁化方向は互いに逆向きである。第1永久磁石53Eは、第2回転子5の保持部52に直接保持されている。
【0076】
上述した本発明の第5の実施の形態に係る磁気歯車1E及びそれを備えた駆動システム100によれば、第4の実施の形態と同様に、信頼性の向上と共に性能の向上を図ることができる。
【0077】
また、本実施の形態に係る磁気歯車1Eにおいては、第2回転子5Eの第1永久磁石53Eがハルバッハ配列に配置された複数の磁石53a、53b、53c、53dにより構成されている。この構成によれば、第1永久磁石53Eにより発生する磁界が強化されるので、第1永久磁石53Eの磁界を強化するためのヨークが不要となる。したがって、第2回転子5Eの部品点数及び重量を削減することができる。
【0078】
さらに、この構成によれば、第1永久磁石53Eとポールピース3D間の磁束変化の勾配が第4の実施の形態の場合よりもなだらかになる。ポールピース3Dに作用する磁気力は磁束の変化量に応じて変化するものなので、ポールピース3に作用する急峻な力の変化を抑制することができ、磁気歯車1Eの信頼性が更に向上する。
【0079】
なお、本実施の形態においては、第1永久磁石53Eを補強するヨークの代わりに、非磁性体で構成された補強部材を第1永久磁石53Eの外周側に設けてもよい。
【0080】
[第6の実施の形態]
次に、本発明の第6の実施の形態に係る磁気歯車について図13を用いて説明する。図13は本発明の第6の実施の形態に係る磁気歯車を一部省略して示す横断面図である。図13中、太い矢印は第1永久磁石の磁化方向を、黒塗り矢印は第2永久磁石の磁化方向を示している。なお、図13において、図1図12に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0081】
図13に示す本発明の第6の実施の形態に係る磁気歯車1Fが第5の実施の形態に係る磁気歯車1D(図11参照)と相違する点は、第2回転子5Fの第1永久磁石53Fが極異方性に着磁されたものであること及び第2回転子5Fがヨークを有していないことである。具体的には、第1永久磁石53Fは、例えば、円筒状の一部材に対して、2つの磁極(N極とS極)が径方向内側(ポールピース3D側)を向き且つ周方向に交互に並ぶように極異方性に着磁したものである。第1永久磁石53Fは、第2回転子5Fの保持部52に直接保持されている。
【0082】
上述した本発明の第6の実施の形態に係る磁気歯車1F及びそれを備えた駆動システム100によれば、第4の実施の形態と同様に、信頼性の向上と共に性能の向上を図ることができる。
【0083】
また、本実施の形態に係る磁気歯車1Fにおいては、第2回転子5Fの第1永久磁石53Fが極異方性に着磁された部材により構成されている。この構成によれば、第1永久磁石53Fにより発生する磁界が強化されるので、第1永久磁石53Fの磁界を強化するためのヨークが不要となる。したがって、第2回転子5Fの部品点数及び重量を削減することができる。
【0084】
さらに、この構成によれば、第1永久磁石53Fとポールピース3間の磁束の変化が第4の実施の形態の場合よりもなだらかになる。ポールピース3に作用する力は磁束の変化量に応じて変化するので、ポールピース3に作用する急峻な力の変化を抑制することができ、磁気歯車1Fの信頼性が更に向上する。
【0085】
[その他の実施の形態]
なお、本発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0086】
例えば、上述した第1~第6の実施の形態においては、本発明の磁気歯車をラジアルギャップ構造の磁気歯車に適用した例を説明した。しかし、本発明はアキシャルギャップ構造やリニア構造の磁気歯車に対しても適用可能である。
【0087】
例えば、本発明をアキシャルギャップ構造の磁気歯車に適用した場合、第1回転子と第2回転子は、周方向に配列された複数のポールピースを挟んで、径方向の両側ではなく、軸方向の両側(軸方向の一方側と他方側)に配置される。すなわち、第1回転子及び第2回転子は、複数のポールピースに対して、径方向ではなく、軸方向で対向する。したがって、第1の距離D1及び第2の距離D2も、径方向の距離ではなく、軸方向の距離として規定される。また、複数のポールピースに対する磁気力は、径方向ではなく、軸方向に作用するので、第3の実施形態の補強部材は、ポールピースの外周側でなく、ポールピースの軸方向他方側である第2回転子側に設けられる。また、第4の実施形態においては、複数のポールピース本体部に対して補強部材としての接続部が、ポールピース本体部の外周側でなく、ポールピース本体部の軸方向他方側である第2回転子側に設けられる。
【0088】
一方、本発明をリニア構造の磁気歯車に適用した場合、ラジアルギャップ構造の磁気歯車において、第1回転子の突極、第2回転子の第1永久磁石、ポールピースの位置関係(D1/D2<1)を維持した状態で、第1回転子の突極から軸線までの距離(半径)、第2回転子の第1永久磁石から軸線までの距離(半径)、ポールピースから軸線までの距離(半径)をそれぞれ無限大に拡張したような構造となる。すなわち、複数のポールピースが所定方向に間隔をあけて配置され、第1回転子の複数の突極が所定方向に間隔をあけて設けられ、第2回転子の第1永久磁石が所定方向に沿って複数の磁極を形成した上で、第1回転子の突極、第2回転子の第1永久磁石、ポールピースの位置関係(D1/D2<1)が維持される。
【0089】
また、上述した実施の形態においては、第1回転子4が2つの突極42を有する回転体として構成した例を示した。しかし、第1回転子は、変速比に応じた任意の数の突極42を有する回転体として構成することが可能である。
【0090】
また、上述した第4の実施の形態においては、複数のポールピース本体部31間に第2永久磁石12が配置された構成の例を示したが、複数のポールピース本体部31間に第2永久磁石12を配置しない構成も可能である。
【0091】
また、上述した第5及び第6の実施の形態においては、ポールピース3Dが複数のポールピース本体部31と複数のポールピース本体部31を接続する接続部32とが一体に構成されると共に、複数のポールピース本体部31間に第2永久磁石12が配置された構成の例を示した。しかし、ポールピースは、第1の実施の形態のように、周方向に複数配列された構成が可能である。また、複数のポールピース本体部31間に第2永久磁石12を配置しない構成も可能である。
【符号の説明】
【0092】
1、1A、1B、1C、1D、1E、1F…磁気歯車、 3、3D…ポールピース、 4…第1回転子、 5、5E、5F…第2回転子、 11…保持部材、 12…第2永久磁石、 13…補強部材、 31…ポールピース本体部、 32…接続部(補強部材)、 42…突極、 53、53E、53F…第1永久磁石、 54…ヨーク、 100…駆動システム、 101…動力源、 D1…第1の距離、 D2…第2の距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13