(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】選択波長反射体
(51)【国際特許分類】
G02B 5/26 20060101AFI20230911BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20230911BHJP
C03C 17/06 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
G02B5/26
G02B5/08 A
C03C17/06 Z
(21)【出願番号】P 2019556163
(86)(22)【出願日】2018-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2018040693
(87)【国際公開番号】W WO2019102813
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2017225325
(32)【優先日】2017-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】金森 義明
(72)【発明者】
【氏名】羽根 一博
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 正斉
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1688186(KR,B1)
【文献】特開昭58-140344(JP,A)
【文献】米国特許第6144512(US,A)
【文献】特開平07-242441(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0153367(US,A1)
【文献】特開2009-025558(JP,A)
【文献】特開2005-070156(JP,A)
【文献】特開2015-094861(JP,A)
【文献】特表2013-539059(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0146724(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0254002(US,A1)
【文献】国際公開第2012/121035(WO,A1)
【文献】西独国特許出願公開第3643704(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/26
G02B 5/08
C03C 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性の基体の表面に、1または複数の金属製の構造体を有する単位パターンを、前記基体の表面に沿って縦方向および横方向にそれぞれ規則的に複数並べて配置して成り、
前記単位パターンは、前記基体の表面に対して垂直方向から見たときの前記金属製の構造体の形状が+形状
を有する形状を成しており、その+形
状の縦線および横線の幅をw(nm)、前記縦線および前記横線の長さをl(nm)、前記単位パターン一辺の長さをΛ(nm)と
したとき、240≦l≦370、30≦w≦32、360≦Λ≦450であり、
780nm乃至1100nmの波長の光の最大反射率が40%以上であり、350nm乃至780nmの波長の光の最大透過率が50%以上であることを
特徴とする選択波長反射体。
【請求項2】
前記単位パターンは、隣り合う単位パターンと接するよう配置されていることを特徴とする請求項1記載の選択波長反射体。
【請求項3】
780nm乃至1100nmの波長の光の最大反射率が60%以上であり、350nm乃至780nmの波長の光の最大透過率が70%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の選択波長反射体。
【請求項4】
前記単位パターン中の前記金属製の構造体の、前記基体の表面に沿った長さおよび幅、ならびに前記基体の表面からの高さが、10nm以上650nm以下であることを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の選択波長反射体。
【請求項5】
前記金属製の構造体は、金、銀、銅またはアルミニウムから成ることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の選択波長反射体。
【請求項6】
前記基体は板状を成し、
前記基体と前記単位パターンとから成る反射層を、複数積層して成ることを
特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の選択波長反射体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択波長反射体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や建物の窓等からの熱線の侵入を防ぐため、赤外線を反射する熱線遮蔽材が開発されている。このような熱線遮蔽材として、例えば、少なくとも1種の金属粒子を含有する金属粒子含有層を有して成り、その金属粒子が、略六角形状又は略円盤形状の金属平板粒子を60個数%以上有し、金属平板粒子の主平面が、金属粒子含有層の一方の表面に対して0°~±30°の範囲で面配向しているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
なお、ガラスの表面に、光の反射等の光学的な目的のために、サブミクロンスケールのパターンのアレイを形成する方法(例えば、特許文献2参照)が開発されているが、アレイ状のパターンであり、面的な広がりを有するものではない。また、透明基板の表面に赤外線反射性の規則性を有する透明パターンが印刷された透明シート(例えば、特許文献3参照)が開発されているが、ディスプレイの前面に装着して使用されるものであり、自然光を対象とするものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-118347号公報
【文献】特表2009-517310号公報
【文献】特開2008-26958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の熱線遮蔽材は、赤外線などの選択した波長での反射率は優れているが、金属粒子をランダムに配置するため、他の波長での透過率が低下してしまうという課題があった。また、金属粒子をランダムに配置するため、反射させる波長や透過させる波長の選択、すなわち選択波長の最適化を精度良く行うのも困難であるという課題もあった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、反射させる波長以外の波長での透過率が高く、高精度で選択波長の最適化を行うことができる選択波長反射体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る選択波長反射体は、透光性の基体の表面に、1または複数の金属製の構造体を有する単位パターンを、前記基体の表面に沿って縦方向および横方向にそれぞれ規則的に複数並べて配置して成り、前記単位パターンは、前記基体の表面に対して垂直方向から見たときの前記金属製の構造体の形状が+形状を有する形状を成しており、その+形状の縦線および横線の幅をw(nm)、前記縦線および前記横線の長さをl(nm)、前記単位パターン一辺の長さをΛ(nm)としたとき、240≦l≦370、30≦w≦32、360≦Λ≦450であり、780nm乃至1100nmの波長の光の最大反射率が40%以上であり、350nm乃至780nmの波長の光の最大透過率が50%以上であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る選択波長反射体は、単位パターンの金属製の構造体の形状やサイズを調整することにより、任意の波長を反射させたり透過させたりすることができ、波長選択性に優れている。また、金属製の構造体の形状やサイズを細かく調整することにより、選択した波長の光の反射率を高めるとともに、その選択波長以外の波長での透過率を高めることができる。また、そのような単位パターンを規則的に並べて配置するため、ランダムに配置する場合と比べて、高精度で選択波長の最適化を行うことができる。
【0009】
このように、本発明に係る選択波長反射体は、メタマテリアルの考えに基づき、所望の波長の光を反射したり透過したりするよう、最適な設計を行うことができる。本発明に係る選択波長反射体は、例えば、半導体微細加工技術またはナノインプリント技術を利用して製造することができ、大面積のものでも安価に製造することができる。
【0010】
本発明に係る選択波長反射体で、基体は、透光性のものであればいかなる素材および形状から成っていてもよく、例えば、透光性のガラスやプラスチックから成っている。本発明に係る選択波長反射体は、例えば、建築物や自動車の窓として利用することができる。また、例えば、紫外線領域の光を反射するよう設計することにより、携帯電話やパソコン、テレビ等のディスプレイ用の紫外線カットフィルタとして利用したり、斜め方向からの光を透過しにくく設計することにより、携帯電話やパソコン、テレビ等のディスプレイの覗き見防止フィルタとして利用したりすることもできる。また、本発明に係る選択波長反射体で、前記単位パターンは、隣り合う単位パターンと接するよう配置されていることが好ましい。
【0011】
本発明に係る選択波長反射体は、近赤外線領域の780nm乃至1100nmの波長を選択的に反射するのと同時に、350nm乃至780nmの波長の可視光に対しては高い透過性を有するよう構成されていてもよい。この場合、780nm乃至1400nmの波長の光の反射エネルギー量が、8.0W/m2以上であることが好ましく、10.0W/m2以上であることがより好ましく、さらに15.0W/m2以上であることがより好ましい。また、780nm乃至2500nmの波長の光の反射エネルギー量が、9.0W/m2以上であることが好ましく、10.0W/m2以上であることがより好ましく、さらに20.0W/m2以上であることがより好ましい。ここで、光の反射エネルギー量は、対象とする波長範囲において、波長ごとに、AM(エアマス)1.5の太陽光のエネルギーと、本発明に係る選択波長反射体の反射率とを掛けたものを、積分した値である。また、780nm乃至1100nmの波長の光の最大反射率が40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。また、350nm乃至780nmの波長の光の最大透過率が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。この場合、近赤外線反射フィルタとして使用することができる。例えば、建築物や自動車の窓として利用すると、夏場の太陽光による屋内や車内の温度上昇を防ぐことができ、エアコンなどの消費電力を抑えて、節電や省エネルギーに寄与することができる。
【0012】
また、本発明に係る選択波長反射体は、可視光領域の350nm乃至780nmの波長を選択的に反射するのと同時に、780nm乃至1100nmの波長の近赤外線に対しては高い透過性を有するよう構成されていてもよい。この場合、780nm乃至1100nmの波長の光の最大透過率が35%以上であり、350nm乃至780nmの波長の光の最小透過率が5%以下であることが好ましい。この場合、近赤外線透過フィルタとして使用することができる。例えば、建築物や工場の窓として利用すると、室内の照明の可視光は室内に反射させ、室内にこもった熱を効率的に室外に排出することができる。
【0013】
本発明に係る選択波長反射体は、金属製の構造体の+形状が、隣り合う単位パターン同士で接続して格子状を成していてもよく、隣り合う単位パターン同士で接続せずに、単位パターンごとに独立していてもよい。金属製の構造体が格子状を成しているとき、金属製の構造体に通電して加熱することができ、窓などに付着した曇り、霜、氷などを除去することができる。
【0015】
本発明に係る選択波長反射体は、前記単位パターン中の前記金属製の構造体の、前記基体の表面に沿った長さおよび幅、ならびに前記基体の表面からの高さが、10nm以上650nm以下であることが好ましい。この場合、近赤外線領域および可視光領域の波長を選択的に透過または反射するよう、構成することができる。
【0016】
本発明に係る選択波長反射体で、前記金属製の構造体は、金、銀、銅またはアルミニウムから成っていてもよい。この場合、反射させる波長の反射率を効果的に高めるとともに、その波長の透過率を効果的に低下させることができる。また、透過させる波長の透過率を効果的に高めるとともに、その波長の反射率を効果的に低下させることができる。
【0017】
本発明に係る選択波長反射体で、前記基体は板状を成し、前記基体と前記単位パターンとから成る反射層を、複数積層して成っていてもよい。この場合、層の数を増やすことにより、所望の波長の反射率を高めることができる。また、本発明に係る選択波長反射体は、基体の表面側または裏面側に、ITO(酸化インジウムスズ)から成る膜を有していてもよい。この場合、単位パターンで近赤外線領域の波長を選択的に反射するよう構成することにより、近赤外線領域から赤外線領域までの反射率を高めることができる。また、基体の表面と金属製の構造体とを覆うよう、透光性の被覆材を有していてもよく、金属製の構造体のみを覆うよう、透光性の被覆材を有していてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、反射させる波長以外の波長での透過率が高く、高精度で選択波長の最適化を行うことができる選択波長反射体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態の選択波長反射体の一例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、金属製の構造体が(a)格子状の穴を有する形状を成す変形例、(b)円形状を成す変形例、(c)+形状を成す変形例、(d)三角形状を成し、第1のパターンで配置された変形例、(e)三角形状を成し、第2のパターンで配置された変形例、(f)複数の異なるサイズの円形状を成す変形例、を示す平面図である。
【
図3】(a)~(f)は、本発明の実施の形態の選択波長反射体の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションに用いる(a)金属製の構造体が+形の穴を有する形状を成す構成の単位パターンを示す平面図、(b)その断面図、(c)金属製の構造体が+形状を成す構成の単位パターンを示す平面図、(d)その断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例1(金属製の構造体が金製で、+形の穴を成す構造)の結果を示す、光の波長と反射率および透過率との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例2(金属製の構造体が金製で、+形の穴を成す構造)の結果を示す、(a)lを変化させたときの、光の波長と透過率との関係を示すグラフ、(b)wを変化させたときの、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例3(金属製の構造体が金製で、+形を成す構造)の結果を示す、hを変化させたときの、(a)光の波長と反射率との関係を示すグラフ、(b)光の波長と透過率との関係を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例4(金属製の構造体が金製で、+形を成す構造)の結果を示す、θを変化させたときの、(a)光の波長と反射率との関係を示すグラフ、(b)光の波長と透過率との関係を示すグラフである(図中の数値はθの値を示す)。
【
図9】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例5(金属製の構造体が銀製で、+形を成す構造)の結果を示す、θを変化させたときの、(a)光の波長と反射率との関係を示すグラフ、(b)光の波長と透過率との関係を示すグラフである(図中の数値はθの値を示す)。
【
図10】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例6(金属製の構造体がアルミニウム製で、+形を成す構造)の結果を示す、θを変化させたときの、(a)光の波長と反射率との関係を示すグラフ、(b)光の波長と透過率との関係を示すグラフである(図中の数値はθの値を示す)。
【
図11】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例7(金属製の構造体がアルミニウム製で、+形を成す構造)の、
図10のものよりもサイズが大きい構造での結果を示す、θを変化させたときの、(a)光の波長と反射率との関係を示すグラフ、(b)光の波長と透過率との関係を示すグラフである(図中の数値はθの値を示す)。
【
図12】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例8(金属製の構造体が金製で、+形を成す構造)の結果を示す、構造のサイズ(パラメータk)を変化させたときの、(a)光の波長と反射率との関係を示すグラフ、(b)光の波長と透過率との関係を示すグラフである。
【
図13】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例8(金属製の構造体が金製で、+形を成す構造)の結果を示す、構造のサイズ(パラメータp)を変化させたときの、(a)光の波長と反射率との関係を示すグラフ、(b)光の波長と透過率との関係を示すグラフである。
【
図14】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例9(金属製の構造体が金製で、+形を成す構造)の、(a)2層のときの単位パターンを示す断面図、(b)1層および2層のときの、光の波長と反射率との関係を示すグラフ、(c)1層および2層のときの、光の波長と透過率との関係を示すグラフである。
【
図15】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例10(金属製の構造体が金製で、+形を成す構造で、単位パターンの中に2行2列で4つ形成され、そのサイズが2種類)の、(a)単位パターンを示す平面図、(b)θを変化させたときのシミュレーションの結果を示す、光の波長と反射率との関係を示すグラフ、(c)光の波長と透過率との関係を示すグラフである(図中の数値はθの値を示す)。
【
図16】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例11(金属製の構造体が金製で、+形を成す構造で、単位パターンの中に2行2列で4つ形成され、そのサイズが2種類)の、
図15のものよりもサイズが大きい構造での、Λを変化させたときのシミュレーションの結果を示す、(a)光の波長と反射率との関係を示すグラフ、(b)光の波長と透過率との関係を示すグラフである(図中の数値はΛの値を示す)。
【
図17】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例12(金属製の構造体が金製で、+形を成す構造で、単位パターンの中に2行2列で4つ形成され、そのサイズが2種類)の、
図15のものよりもサイズが大きい構造での、θを変化させたときのシミュレーションの結果を示す、(a)光の波長と反射率との関係を示すグラフ、(b)光の波長と透過率との関係を示すグラフである(図中の数値はθの値を示す)。
【
図18】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例13(金属製の構造体が金製で、+形を成す構造で、単位パターンの中に2行2列で4つ形成され、そのサイズが2種類)の、
図17のものよりもサイズが大きい構造での、θを変化させたときのシミュレーションの結果を示す、(a)光の波長と反射率との関係を示すグラフ、(b)光の波長と透過率との関係を示すグラフである(図中の数値はθの値を示す)。
【
図19】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例14(金属製の構造体が銀製で、+形を成す構造で、単位パターンの中に2行2列で4つ形成され、そのサイズが2種類)の、
図17と同じサイズの構造でのシミュレーションの結果を示す、光の波長と反射率および透過率との関係を示すグラフである。
【
図20】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例15(金属製の構造体が金製で、+形を成す構造で、単位パターンの中に2行2列で4つ形成され、そのサイズが2種類)の、金属製の構造体と基体との間に、接着用のTi膜を有し、そのTi膜の膜厚を変化させたときのシミュレーションの結果を示す、(a)光の波長と反射率との関係を示すグラフ、(b)光の波長と透過率との関係を示すグラフである(図中の数値はTi膜の膜厚を示す)。
【
図21】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例15(金属製の構造体が金製で、+形を成す構造で、単位パターンの中に2行2列で4つ形成され、そのサイズが2種類)の、金属製の構造体と基体との間に、接着用のCr膜を有し、そのCr膜の膜厚を変化させたときのシミュレーションの結果を示す、(a)光の波長と反射率との関係を示すグラフ、(b)光の波長と透過率との関係を示すグラフである(図中の数値はCr膜の膜厚を示す)。
【
図22】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの実施例16(金属製の構造体が金製で、+形を成す構造で、単位パターンの中に3行3列で9つ形成され、そのサイズが3種類)の、(a)単位パターンを示す平面図、(b)θを変化させたときのシミュレーションの結果を示す、光の波長と反射率との関係を示すグラフ、(c)光の波長と透過率との関係を示すグラフである(図中の数値はθの値を示す)。
【
図23】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、クロス構造のシミュレーションの結果を示す、金属製の構造体のサイズが1種類、2種類(
図15)、3種類(
図22)の、θ=0°のときの、(a)光の波長と反射率との関係を示すグラフ、(b)光の波長と透過率との関係を示すグラフである。
【
図24】
図1に示す本発明の実施の形態の選択波長反射体の一例の、メッシュ構造のシミュレーションの実施例17(金属製の構造体が金製で、格子状を成す構造)の結果を示す、tを変化させたときの、光の波長と反射率および透過率との関係を示すグラフである。
【
図25】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、メッシュ構造のシミュレーションの実施例18(金属製の構造体が金製で、格子状を成す構造)の結果を示す、a、gを変化させたときの、光の波長と反射率および透過率との関係を示すグラフである。
【
図26】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、メッシュ構造のシミュレーションの実施例19(金属製の構造体が金製、銀製、アルミニウム製で、格子状を成す構造)の結果を示す、光の波長と反射率および透過率との関係を示すグラフである。
【
図27】本発明の実施の形態の選択波長反射体の、(a)基板の表面に、4つの異なるパターンの金属製の構造体(+形でアルミニウム製)をそれぞれ規則的に配置した領域を形成したときの平面図、(b) (a)に示す左から2番目の領域の一部を拡大した平面図である。
【
図28】
図27に示す選択波長反射体の、金属製の構造体が(a) (w、l)=(80nm、360nm)、(b) (w、l)=(60nm、340nm)のパターンでの、反射率および透過率の測定結果(測定値)およびシミュレーション結果(計算値)を示すグラフである。
【
図29】
図27に示す選択波長反射体の、金属製の構造体の4つのパターンでの、反射率および透過率の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至29は、本発明の実施の形態の選択波長反射体を示している。
図1および
図2に示すように、選択波長反射体10は、基体11と、金属製の構造体12とを有している。
【0021】
基体11は、ガラスやプラスチック等の透光性の素材から成っている。
図1に示す具体的な一例では、基体11は、透明なSiO
2製の薄い板から成っている。
金属製の構造体12は、金、銀、銅またはアルミニウムから成り、基体11の表面に設けられている。
【0022】
選択波長反射体10においては、基体11の表面に、1または複数の金属製の構造体12を有する単位パターン13が、基体11の表面に沿って縦方向および横方向にそれぞれ規則的に複数並べて配置されている。選択波長反射体10においては、単位パターン13が、隣り合う単位パターン13と接するよう配置されており、所定の形状の金属製の構造体12が、縦方向および横方向に周期的に現れるよう配置されている。選択波長反射体10においては、単位パターン13中の金属製の構造体12の、基体11の表面に沿った長さおよび幅、ならびに基体11の表面からの高さが、10nm以上650nm以下である。
【0023】
選択波長反射体10においては、
図1に示すような、金属製の構造体12が格子状を成すものに限らず、単位パターン13および金属製の構造体12が、いかなる形状を成していてもよい。例えば、金属製の構造体12が、
図2(a)に示すように、正方形または正方形の穴(
図1と同じもの)を有する形状を成していてもよく、
図2(b)および(f)に示すように、円形状または円形の穴を有する形状を成していてもよく、
図2(c)に示すように、+形状または+形の穴を有する形状を成していてもよく、
図2(d)および(e)に示すように、三角形状または三角形の穴を有する形状を成していてもよい。なお、
図2(a)~(f)は、着色部分が金属製の構造体12を示し、背景が基体11を示しているが、その反転構造で、着色部分が基体11を示し、背景が金属製の構造体12を示す構成であってもよい。
【0024】
また、選択波長反射体10においては、
図2(d)および(e)に示すように、同じ形状で向きが異なる金属製の構造体12が組み合わされていてもよく、
図2(b)および(f)に示すように、同じ形状でサイズが異なる金属製の構造体12が組み合わされていてもよく、形状自体が異なる金属製の構造体12が組み合わされていてもよい。
図2(a)~(f)に示すように、選択波長反射体10においては、単位パターン13が縦方向および横方向にそれぞれ規則的に配置されている。
【0025】
選択波長反射体10は、半導体微細加工技術またはナノインプリント技術を利用して、例えば、
図3に示す方法で製造することができる。すなわち、まず、
図3(a)に示す透明なSiO
2製の基板から成る基体11の表面に、
図3(b)に示すように、スパッタリングにより、金属製の構造体12の材料であるAu膜、Ag膜、Cu膜、またはAl膜から成る金属膜21を成膜する。このとき、AuとSiO
2、AgとSiO
2との接着力が弱いため、Au膜やAg膜を成膜する際には、基体11の表面に、AuやAgをSiO
2に接着させるためのCr膜、Ti膜またはITO膜を薄く成膜した後、Au膜やAg膜を成膜してもよい。金属膜21の成膜後、
図3(c)に示すように、金属膜21の表面に、レジスト22を塗布する。
【0026】
レジスト22を塗布した後、
図3(d)に示すように、電子ビーム(EB)パターニングにより、電子ビームでレジスト22を一部露光し、現像工程を経て、残ったレジスト22で所望のパターンを形成する。このとき、残ったレジスト22で形成されるパターンは、
図2(a)~(f)に示すような、金属製の構造体12の平面形状のパターンである。なお、
図3(c)~(d)では、ポリマーを塗布後、モールドを用いてパターニングするナノインプリント技術を用いて、所望のパターンを形成してもよい。パターニングの後、
図3(e)に示すように、金属膜21(Au膜やAg膜の下に、Cr膜、Ti膜またはITO膜がある場合にはその膜も)をエッチングし、さらに
図3(f)に示すように、レジスト22を除去する。
【0027】
こうして、基体11の表面に金属製の構造体12が設けられた選択波長反射体10を製造することができる。このように、選択波長反射体10は、半導体微細加工技術またはナノインプリント技術を利用して製造することができ、大面積のものでも安価に製造することができる。
【0028】
選択波長反射体10は、単位パターン13中の金属製の構造体12の形状やサイズを調整することにより、任意の波長を反射させたり透過させたりすることができ、波長選択性に優れている。また、金属製の構造体12の形状やサイズを細かく調整することにより、選択した波長の光の反射率を高めるとともに、その選択波長以外の波長での透過率を高めることができる。また、そのような単位パターン13を規則的に並べて配置するため、ランダムに配置する場合と比べて、高精度で選択波長の最適化を行うことができる。
【0029】
このように、選択波長反射体10は、メタマテリアルの考えに基づき、所望の波長の光を反射したり透過したりするよう、最適な設計を行うことができる。選択波長反射体10は、金属製の構造体12が、メタマテリアルの材料として一般的に使用されている金、銀、銅またはアルミニウムから成っているため、反射させる波長の反射率を効果的に高めるとともに、その波長の透過率を効果的に低下させることができる。また、透過させる波長の透過率を効果的に高めるとともに、その波長の反射率を効果的に低下させることができる。
【0030】
選択波長反射体10は、例えば、建築物や自動車の窓として利用することができる。このとき、金属製の構造体12が格子状(
図1および
図2(a)の反転構造)、または、独立した所定の形の穴を有する形状(
図2(b)~(f)の反転構造)を成している場合、金属製の構造体12に通電して加熱することができ、窓に付着した曇り、霜、氷などを除去することができる。
【0031】
なお、選択波長反射体10は、基体11の表面側または裏面側に、ITO(酸化インジウムスズ)から成る膜を有していてもよい。この場合、単位パターン13で近赤外線領域の波長を選択的に反射するよう構成することにより、近赤外線領域から赤外線領域までの反射率を高めることができる。
【0032】
以下、単位パターン13の金属製の構造体12が+形状(
図1または
図2(c)の構造)または+形の穴(
図2(a)の構造または
図2(c)の反転構造)を成す選択波長反射体10について、金属製の構造体12が、隣り合う単位パターン13同士で接続せずに、単位パターン13ごとに独立した形状(以下、「クロス構造」と呼ぶ)、および、隣り合う単位パターン13同士で接続して格子状を成す形状(以下、「メッシュ構造」と呼ぶ)に対して、シミュレーションを行った。
【0033】
シミュレーションでは、金属製の構造体12のサイズを変化させて、反射率(0次反射)および透過率(0次透過)の波長依存性について計算を行った。なお、シミュレーションでは、基体11はSiO2製の透明な薄い板から成り、金属製の構造体12が金(Au)、銀(Ag)、またはアルミニウム(Al)から成るものとした。
【0034】
[クロス構造のシミュレーション]
ここでは、
図4(a)および(b)に示す+形の穴(
図2(c)の反転構造の場合)、および、
図4(c)および(d)に示す+形(
図2(c)の構造の場合)の、縦線および横線の幅をw、縦線および横線の長さをl、基体11からの高さをhとする。また、基体11の表面に沿った単位パターン13の形状が正方形を成し、その一辺の長さをΛとする。また、基体11の表面に対する光の入射角度(基体11の表面の法線に対する角度)をθとする。なお、以下のシミュレーションでは、透過率および反射率には、p偏光とs偏光の平均値、すなわち、(p偏光の透過率または反射率+s偏光の透過率または反射率)/2 の値を用いている。
【0035】
[シミュレーションの実施例1]
金属製の構造体12が金(Au)製で、+形の穴を成し(
図2(c)の反転構造、
図4(a)および(b)参照)、w=30nm、l=240nm、h=20nm、Λ=360nm、θ=0°の場合のシミュレーション結果を、
図5に示す。
図5に示すように、近赤外線領域の780nm乃至1100nmでの特定の波長の光の反射率が高く、最大反射率が約85%であり、透過率が数%以下まで低下していることが確認された。また、可視光領域の350nm乃至780nmでの光の透過率が高く、最大透過率が約50%であり、反射率が20%程度まで低下していることが確認された。
【0036】
また、780nm乃至1400nmの波長の光の反射エネルギー量が、20.2W/m2であり、780nm乃至2500nmの波長の光の反射エネルギー量が、25.6W/m2であった。
【0037】
[シミュレーションの実施例2]
金属製の構造体12が金(Au)製で、+形の穴を成し(
図2(c)の反転構造、
図4(a)および(b)参照)、w=30nm、l=200~300nm、h=140nm、Λ=360nm、θ=0°の場合、および、w=40~100nm、l=240nm、h=140nm、Λ=360nm、θ=0°の場合のシミュレーション結果を、それぞれ
図6(a)および(b)に示す。
図6(a)および(b)に示すように、近赤外線領域の780nm乃至1100nmでの特定の波長の光の透過率が最大で20%~45%と高く、可視光領域の350nm乃至780nmでの光の透過率が5%以下まで低下していることが確認された。
【0038】
また、
図6(a)に示すように、lを大きくするに従って、透過する光の波長が長くなるとともに、最大透過率および透過エネルギーも大きくなることが確認された。また、
図6(b)に示すように、wを小さくするに従って、透過する光の波長が長くなることが確認された。
【0039】
[シミュレーションの実施例3]
金属製の構造体12が金(Au)製で、+形を成し(
図2(c)の構造、
図4(c)および(d)参照)、w=30nm、l=240nm、h=60~140nm、Λ=360nm、θ=0°の場合のシミュレーション結果を、
図7(a)および(b)に示す。
図7(a)および(b)に示すように、近赤外線領域の780nm乃至1100nmでの特定の波長の光の反射率が高く、最大反射率が約65~70%であり、透過率が10%以下まで低下していることが確認された。また、可視光領域の350nm乃至780nmでの光の透過率が高く、最大透過率が約70~90%であり、反射率が概ね10%以下であることが確認された。
【0040】
また、hの値が大きくなるに従って、最大反射率および最小透過率を示す波長が、近赤外線領域の780nm乃至1100nmの中で短波長側に移動し、その最大反射率の値がやや大きくなっていくことが確認された。また、780nm乃至1400nmの波長の光の反射エネルギー量が、h=60nmのとき9.5W/m2、h=100nmのとき12.2W/m2、h=140nmのとき13.3W/m2であった。また、780nm乃至2500nmの波長の光の反射エネルギー量が、h=60nmのとき10.2W/m2、h=100nmのとき12.9W/m2、h=140nmのとき13.4W/m2であった。
【0041】
[シミュレーションの実施例4]
金属製の構造体12が金(Au)製で、+形を成し(
図2(c)の構造、
図4(c)および(d)参照)、w=30nm、l=240nm、h=60nm、Λ=360nm、θ=0°~60°の場合のシミュレーション結果を、
図8(a)および(b)に示す。
図8(a)および(b)に示すように、近赤外線領域およびその近傍の780nm乃至1400nmでの特定の波長の光の反射率が高く、最大反射率が60%以上であり、透過率が10%以下まで低下していることが確認された。また、可視光領域の350nm乃至780nmでの光の透過率が高く、最大透過率が約75~90%であり、反射率が概ね15%以下であることが確認された。また、
図8(b)に示すように、可視光領域の350nm乃至780nmでの光の透過率がほぼ平坦になっており、可視光領域の光をほぼ均一に透過することが確認された。
【0042】
[シミュレーションの実施例5]
金属製の構造体12が銀(Ag)製で、+形を成し(
図2(c)の構造、
図4(c)および(d)参照)、w=30nm、l=240nm、h=60nm、Λ=360nm、θ=0°~60°の場合のシミュレーション結果を、
図9(a)および(b)に示す。
図9(a)および(b)に示すように、近赤外線領域およびその近傍の780nm乃至1200nmでの特定の波長の光の反射率が高く、最大反射率が65%以上であり、透過率が5%程度まで低下していることが確認された。また、可視光領域の350nm乃至780nmでの光の透過率が高く、最大透過率が約75~90%であり、反射率が概ね20%以下であることが確認された。また、780nm乃至1400nmの波長の光の反射エネルギー量が、11.2W/m
2であり、780nm乃至2500nmの波長の光の反射エネルギー量が、11.8W/m
2であった。
【0043】
[シミュレーションの実施例6]
金属製の構造体12がアルミニウム(Al)製で、+形を成し(
図2(c)の構造、
図4(c)および(d)参照)、w=30nm、l=240nm、h=60nm、Λ=360nm、θ=0°~60°の場合のシミュレーション結果を、
図10(a)および(b)に示す。
図10(a)および(b)に示すように、θ=0°~40°では、近赤外線領域と可視光領域との境界付近で、最も光の反射率が高くなっており、最大反射率が約35~40%であることが確認された。また、近赤外線領域の780nm乃至1100nmでの光の反射率が全体的に高く、透過率が全体的に低いことが確認された。また、可視光領域の350nm乃至780nmでの光の透過率が高く、最大透過率が約60~80%であり、反射率が15%以下まで低下していることが確認された。また、θの値が大きくなるに従って、その最大反射率の値が約40%から約35%まで小さくなっていき、最小透過率の値はやや大きくなっていくことが確認された。
【0044】
図8~
図10を比較すると、同じ条件では、近赤外線領域の反射率は、高い順に、銀、金、アルミニウムであることが確認された。また、可視光領域の透過率は、銀と金では全体的に高いが、θの値が大きくなるに従って低下しており、アルミニウムでは近赤外線領域に近い波長領域で低くなっていることが確認された。
【0045】
[シミュレーションの実施例7]
金属製の構造体12がアルミニウム(Al)製で、+形を成し(
図2(c)の構造、
図4(c)および(d)参照)、w=80nm、l=360nm、h=60nm、Λ=450nm、θ=0°~60°の場合のシミュレーション結果を、
図11(a)および(b)に示す。
図11(a)および(b)に示すように、近赤外線領域およびその近傍の780nm乃至1400nmでの光の反射率が高くなっており、最大反射率が約70%以上であり、透過率が10%以下まで低下していることが確認された。また、可視光領域の350nm乃至780nmでの光の透過率が高く、最大透過率が約50~70%であり、反射率が概ね20%以下であることが確認された。また、同じAl製の
図10の結果と比較すると、w、l、Λのサイズが大きくなると、最大反射率の値が大きく、最小透過率の値が小さくなると共に、最大反射率および最小透過率を示す波長が大きくなることが確認された。
【0046】
[シミュレーションの実施例8]
金属製の構造体12が金(Au)製で、+形を成し(
図2(c)の構造、
図4(c)および(d)参照)、kおよびpをパラメータとして、w=k(nm)、l=p×k(nm)、h=60nm、Λ=1.5×l(nm)、θ=0°とする。このとき、k=10~30、p=8(w=k=10~30nm、l=8k=80~240nm、h=60nm、Λ=12k=120~360nm、θ=0°)の場合のシミュレーション結果を、
図12(a)および(b)に示す。また、k=30、p=1~12(w=k=30nm、l=30p=30~360nm、h=60nm、Λ=45p=45~540nm、θ=0°)の場合のシミュレーション結果を、
図13(a)および(b)に示す。なお、
図8が、k=30、p=8の場合のシミュレーション結果を示している。
【0047】
図12(a)および(b)に示すように、kの値が大きくなるに従って、最大反射率および最小透過率を示す特定の波長が、近赤外線領域の780nm乃至1100nmの中で長波長側に移動し、その最大反射率の値が約40%から約65%まで大きくなっていき、最小透過率の値が約20%から約5%まで小さくなっていくことが確認された。この結果から、kの値を調製することにより、反射させる波長の範囲および反射率を任意に設定することができるといえる。
【0048】
また、
図13(a)および(b)に示すように、pの値が大きくなるに従って、最大反射率および最小透過率を示す特定の波長が、可視光領域から近赤外線領域およびその近傍までの600nm乃至1500nmの中で長波長側に移動し、その最大反射率の値が約25%から約65%の間で変化し、最小透過率の値が約30%から約5%の間で変化することが確認された。特に、p=4~12のとき、最大反射率が約50%以上と高く、最小透過率が約10%以下と低下することが確認された。この結果から、kの値だけでなく、pの値を調整することによっても、反射させる波長の範囲および反射率を任意に設定することができるといえる。
【0049】
[シミュレーションの実施例9]
図14(a)に示すように、金属製の構造体12が金(Au)製で、+形を成し(
図2(c)の構造、
図4(c)および(d)参照)、w=30nm、l=240nm、h=60nm、Λ=360nmの選択波長反射体10を2枚積層したときの、θ=0°の場合のシミュレーション結果を、
図14(b)および(c)に示す。基体11に挟まれた金属製の構造体12の隙間には、基体11の材質と同じSiO
2を充填している。また、基体11の厚みdを、d=20nmとした。なお、比較のため、同じサイズで、選択波長反射体10が1層のもの(
図8(a)および(b)のθ=0°のもの)のシミュレーション結果も図中に示す。
図14(b)および(c)に示すように、近赤外線領域の780nm乃至1100nmでの特定の波長の光の反射率が、選択波長反射体10が1層のときよりも、2層のときの方が大きくなることが確認された。
【0050】
また、780nm乃至1400nmの波長の光の反射エネルギー量が、1層のとき9.5W/m2であり、2層のとき12.2W/m2であった。また、780nm乃至2500nmの波長の光の反射エネルギー量が、1層のとき10.2W/m2であり、2層のとき13.2W/m2であった。これらの結果から、選択波長反射体10を複数積層し、その層の数を増やすことにより、反射率を高めることができるといえる。
【0051】
[シミュレーションの実施例10]
図15(a)に示すように、金属製の構造体12が金(Au)製で、+形を成し(
図2(c)の構造、
図4(c)および(d)参照)、その金属製の構造体12を単位パターン13の中に2行2列で4つ形成したものについて、シミュレーションを行った。4つの金属製の構造体12のうち、対角に位置するもの2つずつを組とし、各組の金属製の構造体12を同じサイズとした。すなわち、1組目の金属製の構造体12を、w
1=20nm、l
1=160nm、h=60nmとし、2組目の金属製の構造体12を、w
2=25nm、l
2=200nm、h=60nmとした。また、Λ=270nm、θ=0°~60°とした。このときのシミュレーション結果を、
図15(b)および(c)に示す。
【0052】
図15(b)および(c)に示すように、最大反射率および最低透過率を示すピークが複数になっており、金属製の構造体12のサイズが1種類の場合(例えば、
図8参照)と比べると、反射率が高く透過率が低い波長領域の幅が広くなっていることが確認された。また、近赤外線領域の780nm乃至1100nmでの光の反射率が高く、最大反射率が約50%程度であり、透過率が約20%からそれ以下まで低下していることが確認された。また、可視光領域の350nm乃至780nmでの光の透過率が高く、最大透過率が約70~85%であり、反射率が概ね20%以下であることが確認された。また、可視光領域では、θの値が大きくなるに従って、透過率が低下しており、透過光が赤色に近くなっていくことが確認された。
【0053】
[シミュレーションの実施例11]
図15(a)に示すものと同様の2行2列のパターンで、1組目の金属製の構造体12を、w
1=40nm、l
1=200nm、h=80nmとし、2組目の金属製の構造体12を、w
2=50nm、l
2=260nm、h=80nmとし、Λ=300~380nm、θ=0°のときのシミュレーション結果を、
図16(a)および(b)に示す。
図16(a)および(b)に示すように、
図15と同様に、最大反射率および最低透過率を示すピークが複数になっていることが確認された。また、近赤外線領域およびその近傍の780nm乃至1200nmでの光の反射率が高く、最大反射率が約50~65%程度であり、透過率が約10%程度まで低下していることが確認された。また、可視光領域の350nm乃至780nmでの光の透過率が高く、最大透過率が約80%であり、反射率が10%以下まで低下していることが確認された。
【0054】
また、同じAu製の
図15の結果と比較すると、w、l、Λのサイズが大きくなると、反射率が高く透過率が低い波長領域の幅がさらに広くなると共に、最大反射率が大きくなることが確認された。また、Λのサイズによって、最大反射率および最低透過率を示すピークの数が変化することが確認された。
【0055】
[シミュレーションの実施例12]
図15(a)に示すものと同様の2行2列のパターンで、1組目の金属製の構造体12を、w
1=40nm、l
1=200nm、h=60nmとし、2組目の金属製の構造体12を、w
2=50nm、l
2=260nm、h=60nmとし、Λ=300nm、θ=0°~60°のときのシミュレーション結果を、
図17(a)および(b)に示す。
図17(a)および(b)に示すように、
図15と同様に、最大反射率および最低透過率を示すピークが複数になっていることが確認された。また、近赤外線領域およびその近傍の780nm乃至1200nmでの光の反射率が高く、最大反射率が約50~65%程度であり、透過率が約10%程度まで低下していることが確認された。また、可視光領域の350nm乃至780nmでの光の透過率が高く、最大透過率が約70%であり、反射率が20%以下まで低下していることが確認された。
【0056】
また、同じAu製の
図15の結果と比較すると、w、l、Λのサイズが大きくなると、反射率が高く透過率が低い波長領域の幅がさらに広くなると共に、最大反射率が大きくなることが確認された。また、780nm乃至1400nmの波長の光の反射エネルギー量が、11.5W/m
2であり、780nm乃至2500nmの波長の光の反射エネルギー量が、12.9W/m
2であった。また、可視光領域では、θの値が大きくなるに従って、透過率が低下しており、透過光が赤色に近くなっていくことが確認された。
【0057】
[シミュレーションの実施例13]
図15(a)に示すものと同様の2行2列のパターンで、1組目の金属製の構造体12を、w
1=70nm、l
1=240nm、h=60nmとし、2組目の金属製の構造体12を、w
2=90nm、l
2=280nm、h=60nmとし、Λ=350nm、θ=0°~60°のときのシミュレーション結果を、
図18(a)および(b)に示す。
図18(a)および(b)に示すように、
図15と同様に、最大反射率および最低透過率を示すピークが複数になっていることが確認された。また、近赤外線領域およびその近傍の780nm乃至1200nmでの光の反射率が高く、最大反射率が約60~70%程度であり、透過率が約5%程度まで低下していることが確認された。また、可視光領域の350nm乃至780nmでの光の透過率が高く、最大透過率が約50~70%であり、反射率が20%以下まで低下していることが確認された。
【0058】
また、同じAu製の
図15の結果と比較すると、w、l、Λのサイズが大きくなると、反射率が高く透過率が低い波長領域の幅がさらに広くなるが、
図17の結果と比較すると、w、l、Λのサイズが大きくなっても、反射率が高く透過率が低い波長領域の幅はほとんど変化しないことが確認された。また、
図15および
図17の結果と比較すると、w、l、Λのサイズが大きくなると、最大反射率が大きくなることが確認された。
【0059】
[シミュレーションの実施例14]
図15(a)に示すものと同様の2行2列のパターンで、金属製の構造体12が銀(Ag)製で、1組目の金属製の構造体12を、w
1=40nm、l
1=200nm、h=60nmとし、2組目の金属製の構造体12を、w
2=50nm、l
2=260nm、h=60nmとし、Λ=300nm、θ=0°のときのシミュレーション結果を、
図19に示す。
図19に示すように、Ag製の場合もAu製の場合と同様に、最大反射率および最低透過率を示すピークが複数になっていることが確認された。また、近赤外線領域およびその近傍の780nm乃至1200nmでの光の反射率が高く、最大反射率が約70%程度であり、透過率が10%以下まで低下していることが確認された。また、可視光領域の350nm乃至780nmでの光の透過率が高く、最大透過率が約80%であり、反射率が10%以下まで低下していることが確認された。
【0060】
また、同じ条件でのAu製の結果を示す
図17と比較すると、反射率が高く透過率が低い波長領域はほぼ同じ範囲であるが、最大反射率の値が大きくなっていることが確認された。また、780nm乃至1400nmの波長の光の反射エネルギー量が、12.1W/m
2であり、780nm乃至2500nmの波長の光の反射エネルギー量が、13.4W/m
2であった。
【0061】
[シミュレーションの実施例15]
図15(a)に示すものと同様の2行2列のパターンで、金属製の構造体12が金(Au)製で、1組目の金属製の構造体12を、w
1=40nm、l
1=200nm、h=60nmとし、2組目の金属製の構造体12を、w
2=50nm、l
2=260nm、h=60nmとし、Λ=300nm、θ=0°とし、各金属製の構造体12と基体11との間に、接着用の膜を1nm~10nmの厚さで成膜したときのシミュレーション結果を、
図20および
図21に示す。接着用の膜がTi膜の場合を、
図20(a)および(b)に、接着用の膜がCr膜の場合を、
図21(a)および(b)に示す。
【0062】
図20および
図21に示すように、Ti膜またはCr膜を有する以外は同じ条件での結果を示す
図17と比較すると、反射率が高く透過率が低い波長領域はほぼ同じ範囲であり、Ti膜またはCr膜の厚みが1nmおよび2nmの場合には、反射率および透過率ともに、Ti膜またはCr膜がない場合とほとんど同じ値を示すことが確認された。また、さらにTi膜またはCr膜が厚くなると、Ti膜またはCr膜の厚みが大きくなるに従って、近赤外線領域およびその近傍の780nm乃至1200nmでの反射率の低下量および透過率の上昇量が大きくなると共に、可視光領域の350nm乃至780nmおよび1200nmより高波長側での反射率の上昇量および透過率の低下量が大きくなることが確認された。また、
図20のTi膜と
図21のCr膜とを比較すると、Cr膜の方が反射率および透過率の変化量が若干大きいことが確認された。なお、これらの結果は、図示していないが、光の入射角度θが0°より大きく60°以下の場合にも認められることが確認されている。これらの結果から、接着用の膜は、厚みが2~3nm以下と薄い方が好ましく、Cr膜よりもTi膜の方が好ましいといえる。
【0063】
[シミュレーションの実施例16]
図22(a)に示すように、金属製の構造体12が金(Au)製で、+形を成し(
図2(c)の構造、
図4(c)および(d)参照)、その金属製の構造体12を、単位パターン13の中に3行3列で9つ形成したものについて、シミュレーションを行った。金属製の構造体12のサイズを3種類とし、各種類を各行および各列にそれぞれ1つずつ配置した。1種類目の金属製の構造体12を、w
1=20nm、l
1=160nm、h=60nmとし、2種類目の金属製の構造体12を、w
2=25nm、l
2=200nm、h=60nmとし、3種類目の金属製の構造体12を、w
3=30nm、l
3=240nm、h=60nmとした。また、Λ=300nm、θ=0°~60°とした。このときのシミュレーション結果を、
図22(b)および(c)に示す。
【0064】
図22(b)および(c)に示すように、最大反射率および最低透過率を示すピークが複数になっており、金属製の構造体12のサイズが1種類の場合(例えば、
図8参照)および2種類の場合(例えば、
図15参照)と比べると、反射率が高く透過率が低い波長領域の幅が広くなっていることが確認された。また、近赤外線領域およびその近傍の780nm乃至1300nmでの光の反射率が高く、最大反射率が約45%であり、透過率が約20%以下まで低下していることが確認された。また、可視光領域の350nm乃至780nmでの光の透過率が高く、最大透過率が約75~85%であり、反射率が概ね15%以下であることが確認された。また、可視光領域では、θの値が大きくなるに従って、透過率が低下しており、透過光が赤色に近くなっていくことが確認された。
【0065】
図23(a)および(b)に、金属製の構造体12のサイズの種類が1種類の場合、2種類の場合(
図15)、3種類の場合(
図22)の、θ=0°のときの反射率および透過率の結果をまとめて示す。なお、サイズが1種類の場合は、w=20nm、l=160nm、h=60nm、Λ=240nmとした。
図23(a)および(b)に示すように、金属製の構造体12のサイズの種類が増えるに従って、反射率が高く透過率が低い波長領域の幅が広くなっていることが明確にわかる。また、780nm乃至1400nmの波長の光の反射エネルギー量が、サイズが1種類のとき8.6W/m
2であり、サイズが2種類のとき9.3W/m
2であり、サイズが3種類のとき8.4W/m
2であった。また、780nm乃至2500nmの波長の光の反射エネルギー量が、サイズが1種類のとき9.0W/m
2であり、サイズが2種類のとき9.9W/m
2であり、サイズが3種類のとき9.0W/m
2であった。
【0066】
[メッシュ構造のシミュレーション]
ここでは、
図1に示すように、格子の内側が正方形であり、格子の線の幅をa、1つの格子の一辺の長さ(互いに平行で隣り合う線の中心間の距離)をg、基体11からの格子の高さをtとする。また、光は、基体11の表面に対して常に垂直方向から入射するものとした。なお、この場合、基体11の表面に沿った単位パターン13の形状は正方形となり、その一辺の長さをΛとすると、Λ=gとなる。
【0067】
[シミュレーションの実施例17]
金属製の構造体12が金(Au)製で、格子状を成し(
図1の構造および
図2(a)の反転構造)、a=100nm、g=450nm、t=100~200nmの場合のシミュレーション結果を、
図24に示す。
図24に示すように、近赤外線領域の780nm乃至2500nmでの光の反射率が全体的に高く、最大反射率が約45~75%であり、透過率が20~50%程度まで低下していることが確認された。また、可視光領域の350nm乃至780nmでの光の透過率が高く、最大透過率が約70~85%であり、反射率が10%以下まで低下していることが確認された。
【0068】
また、tの値が大きくなるに従って、近赤外線領域で、反射率が全体的に高くなり、透過率が全体的に低下することが確認された。また、780nm乃至1400nmの波長の光の反射エネルギー量が、t=100nmのとき10.3W/m2であり、t=150nmのとき15.0W/m2であり、t=200nmのとき17.7W/m2であった。また、780nm乃至2500nmの波長の光の反射エネルギー量が、t=100nmのとき14.5W/m2であり、t=150nmのとき21.1W/m2であり、t=200nmのとき25.0W/m2であった。
【0069】
[シミュレーションの実施例18]
金属製の構造体12が金(Au)製で、格子状を成し(
図1の構造および
図2(a)の反転構造)、a=140~160nm、g=a×4(560~640nm)、t=200nmの場合のシミュレーション結果を、
図25に示す。
図25に示すように、近赤外線領域の780nm乃至1100nmでの光の透過率が高く、最大透過率が約70~80%であり、反射率が10%程度まで低下していることが確認された。また、可視光領域の350nm乃至780nmでは、光の透過率も反射率も低く、ほぼ20%以下になっていることが確認された。
【0070】
また、近赤外線領域の長波長側の1100nm乃至2500nmでの光の反射率が全体的に高く、波長が長くなるに従って、反射率が増加し、最大反射率が約90%以上になるとともに、透過率は減少し、最大透過率が5%程度以下になることが確認された。また、aおよびgの値が大きくなるに従って、反射率曲線および透過率曲線ともに、全体的に長波長側にシフトしていくことが確認された。
【0071】
[シミュレーションの実施例19]
金属製の構造体12が金(Au)、銀(Ag)またはアルミニウム(Al)製で、格子状を成し(
図1の構造および
図2(a)の反転構造)、a=100nm、g=400nm、t=200nmの場合のシミュレーション結果を、
図26に示す。
図26に示すように、金、銀、アルミニウムともに、近赤外線領域の780nm乃至1000nmでの光の反射率が全体的に高く、反射率が概ね約60%以上であり、透過率が約30%以下であることが確認された。この領域での反射率は、アルミニウムと銀が、金よりもやや高くなっていることが確認された。
【0072】
また、可視光領域の400nm乃至780nmでの光の透過率が高く、最大透過率が約80~90%であり、反射率が数%以下まで低下していることが確認された。この領域での透過率は、高い順に、銀、金、アルミニウムであることが確認された。また、金属製の構造体12が金(Au)製のとき、780nm乃至1400nmの波長の光の反射エネルギー量が、22.5W/m2であり、780nm乃至2500nmの波長の光の反射エネルギー量が、30.5W/m2であった。
【0073】
以上のシミュレーション結果のうち、シミュレーションの実施例1(
図5参照)、実施例3~17(
図7~
図12、
図14~
図24参照)、実施例19(
図26参照)の選択波長反射体10は、近赤外線領域の780nm乃至1100nmの波長を選択的に反射するのと同時に、350nm乃至780nmの波長の可視光に対しては高い透過性を有している。このため、これらの選択波長反射体10は、近赤外線反射フィルタとして使用することができ、建築物や自動車の窓として利用すると、夏場の太陽光による屋内や車内の温度上昇を防ぐことができ、エアコンなどの消費電力を抑えて、節電や省エネルギーに寄与することができる。
【0074】
また、シミュレーションの実施例2(
図6参照)の選択波長反射体10は、可視光領域の350nm乃至780nmの波長を選択的に反射するのと同時に、780nm乃至1100nmの波長の近赤外線に対しては高い透過性を有している。このため、これらの選択波長反射体10は、近赤外線透過フィルタとして使用することができ、建築物や工場の窓として使用すると、室内の照明の可視光は室内に反射させ、室内にこもった熱を効率的に室外に排出することができる。
【0075】
また、シミュレーションの実施例18(
図25参照)の選択波長反射体10は、近赤外線領域の長波長側の1100nm乃至2500nmの波長を選択的に反射するのと同時に、近赤外線領域の短波長側の780nm乃至1100nmでの光に対しては高い透過性を有している。このように、選択波長反射体10は、金属製の構造体12の形状やサイズを調整することにより、任意の波長を反射させたり透過させたりすることができる。
【0076】
また、シミュレーションの実施例4(
図8参照)、5(
図9参照)、7(
図11参照)、10(
図15参照)、12(
図17参照)、13(
図18参照)、16(
図22参照)の選択波長反射体10は、可視光領域で、θの値が大きくなるに従って、透過率が低下している。このことから、これらの選択波長反射体10は、携帯電話やパソコン、テレビ等のディスプレイの覗き見防止フィルタ等として使用すると効果的であると考えられる。
【実施例1】
【0077】
図3に示す方法で選択波長反射体10を製造し、反射率および透過率の測定を行った。
図27に示すように、製造した選択波長反射体10は、基板11が透明なSiO
2製であり、金属製の構造体12がアルミニウム(Al)製で、+形を成している(
図2(c)の構造、
図4(c)および(d)参照)。また、選択波長反射体10は、基板11の表面の1.5mm×1.5mmの4つの領域に、それぞれ金属製の構造体12を有する複数の単位パターン13を規則的に並べて配置している。選択波長反射体10は、
図27の左の領域から順に、金属製の構造体12のサイズが、(w、l)=(60nm、340nm)、(70nm、350nm)、(80nm、360nm)、(90nm、370nm)の4つの異なるパターンのものを形成している。なお、4つの全てのパターンで、h=60nm、Λ=450nmである。
【0078】
反射率および透過率の測定は、400~1700nmの波長領域で、
図27に示す4つの全てのパターンの選択波長反射体10について行った。測定には、対物レンズおよび分光器を用いた。400~860nmの波長領域のとき、反射率の測定では、積分時間を6msecとし、50回測定した値を平均化した。透過率の測定では、積分時間を20msecとし、20回測定した値を平均化した。また、860~1700nmの波長領域のとき、反射率の測定では、積分時間を650msecとし、2回測定した値を平均化した。透過率の測定では、積分時間を850msecとし、2回測定した値を平均化した。また、光の入射角度θは、いずれも0°とした。
【0079】
なお、400~860nmの波長領域での測定には、対物レンズとして、オリンパス株式会社製の「MSPlan20(NA0.4)」を使用し、分光器として、Ocean Optics, Inc. 社製の「HR4000CG-UV-NIR」を使用した。また、860~1700nmの波長領域での測定には、対物レンズとして、オリンパス株式会社製の「MIRPlan20(NA0.4)」を使用し、分光器として、Ocean Optics, Inc. 社製の「NIR512」を使用した。
【0080】
(w、l)=(80nm、360nm)および(60nm、340nm)のパターンを有する選択波長反射体10の反射率および透過率の測定結果を、それぞれ
図28(a)および(b)に示す。また、それぞれのパターンで、反射率および透過率のシミュレーションを行った計算結果も、
図28(a)および(b)中に破線で示す。なお、
図28(a)の反射率および透過率のシミュレーション結果は、
図11(a)のθ=0°および
図11(b)のθ=0°のシミュレーション結果と同じものである。また、
図27に示す4つのパターンでの反射率および透過率の測定結果を、
図29にまとめて示す。
【0081】
図28(a)および(b)に示すように、どちらのパターンでも、反射率および透過率とも、測定値とシミュレーションでの計算値とがよく一致していることが確認された。このことから、シミュレーション結果に基づいて、所望の透過率および反射率を有する金属製の構造体12のパターンを設計することができると考えられる。また、
図29に示すように、これら4つのパターンでは、近赤外線領域およびその近傍の780nmから1200~1500nmまでの光の反射率が高くなっており、最大反射率が約60~80%であり、透過率が10%程度からそれ以下まで低下していることが確認された。また、wおよびlのサイズが大きくなるほど、その最大反射率が大きくなることも確認された。また、可視光領域の680nm以下での光の透過率が特に高く、概ね60~80%であり、反射率が概ね20%以下であることが確認された。また、wおよびlのサイズが小さくなるほど、その透過率が高くなり、より小さい波長領域まで高い透過率が維持されることも確認された。
【符号の説明】
【0082】
10 選択波長反射体
11 基体
12 金属製の構造体
13 単位パターン
21 金属膜
22 レジスト