(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】環状分子の一部にオキサゾリン由来の基を有するポリロタキサン、該ポリロタキサンを有する組成物、及び該ポリロタキサンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 37/16 20060101AFI20230911BHJP
C08G 65/04 20060101ALI20230911BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
C08B37/16
C08G65/04
C08L71/02
(21)【出願番号】P 2019071068
(22)【出願日】2019-04-03
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】505136963
【氏名又は名称】株式会社ASM
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝成
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特許第4521875(JP,B2)
【文献】国際公開第2009/136618(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/108411(WO,A1)
【文献】特開2012-172083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
C08G
C08L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群から選択される環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が下記式I
(式中、Rはメチル基、エチル基、1-プロピル基、2-プロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、又はベンジル基を表し;
Yは
-OH基、-NR
1
R
2
基(R
1
、R
2
は、それぞれ独立に炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアルキン基(アルキル基、アルケニル基又はアルキン基中の一部の水素がOH基、CN基又はNH
2
基で置換されていてもよい)を表す)、-N
3
基、及びピペリジン基からなる群から選ばれる1種の基である末端基を表し;
nは1~20を表す)
で表す第1の基を有するポリロタキサン。
【化1】
【請求項2】
前記第1の基が、オキサゾリンモノマ
ー由来である請求項
1記載のポリロタキサン。
【請求項3】
前記環状分子が水酸基を有し、該水酸基に代えて、又は該水酸基と反応させて前記第1の基を設ける請求項1
又は2記載のポリロタキサン。
【請求項4】
前記第1の基は、前記環状分子の前記水酸基の2%以上で設けられる請求項
3記載のポリロタキサン。
【請求項5】
前記第1の基が、
-CH
2
-CH
2
-、-CH
2
-CH
2
-CH
2
-、-CH
2
CH(OH)-CH
2
-、-CH
2
-CH
2
-CH
2
-CH
2
-、-CO-CH
2
-CH
2
-、-CO-C(CH
3
)
2
-CH
2
-、-CO-CH(OH)-CH
2
-、-CO-CH
2
-CH
2
-CH
2
-CH
2
-CH
2
-、及び-CO-CH
2
-CH
2
-CH
2
-CH(CH
3
)-からなる群から選ばれる第1の連結基を介して前記環状分子に結合する請求項1~
4のいずれか一項記載のポリロタキサン。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項記載のポリロタキサンを有する組成物。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか一項記載のポリロタキサンを含有する成形体。
【請求項8】
前記成形体100wt%中、前記ポリロタキサンは、その量が0.1~50wt%である請求項
7記載の成形体。
【請求項9】
I)
α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群から選択される環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が下記式II(式II中、Zはp-トルエンスルホニル基(Ts基)又はメシル基(Ms基)を表し、Xは、単結合又は
-CH
2
-CH
2
-、-CH
2
-CH
2
-CH
2
-、-CH
2
CH(OH)-CH
2
-、-CH
2
-CH
2
-CH
2
-CH
2
-、-CO-CH
2
-CH
2
-、-CO-C(CH
3
)
2
-CH
2
-、-CO-CH(OH)-CH
2
-、-CO-CH
2
-CH
2
-CH
2
-CH
2
-CH
2
-、及び-CO-CH
2
-CH
2
-CH
2
-CH(CH
3
)-からなる群から選ばれる第1の連結基を表す)で表される第2の基を有する第Iのポリロタキサンを準備する工程;
II)前記第Iのポリロタキサンに式III(式III中、Rは、メチル基、エチル基、1-プロピル基、2-プロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、又はベンジル基を表す)で表されるオキサゾリン誘導体を反応させて、式IV(式IV中、X、Z及びRは上述と同じ定義を有し、nは1~20を表す)で表される第3の基を有する第IIのポリロタキサンを得る工程;及び
III)前記第IIのポリロタキサンを反応させて式V(式中、X、R及びnは上述と同じ定義を有し、Yは
-OH基、-NR
1
R
2
基(R
1
、R
2
は、それぞれ独立に炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアルキン基(アルキル基、アルケニル基又はアルキン基中の一部の水素がOH基、CN基又はNH
2
基で置換されていてもよい)を表す)、-N
3
基、及びピペリジン基からなる群から選ばれる1種の基である末端基を表す)で表される第4の基を有する第IIIのポリロタキサンを得る工程;
を有することにより、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が式Vで表される第4の基を有するポリロタキサンを得る、式Vで表される第4の基を有する第IIIのポリロタキサンの製造方法。
【化2】
【請求項10】
I-2)前記工程I)の第2の基を有する第Iのポリロタキサンは、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって前記環状分子が-X-OH(式中、Xは上記と同じ定義を有する)で表される第1級アルコール基を有する第IaのポリロタキサンとZCl(式中、Zは上記と同じ定義を有する)とを反応して得られる請求項
9記載の方法。
【請求項11】
-X-OHで表される第1級アルコール基が、下記式IIaで表される基であり、ZClがTsClである請求項
10記載の方法。
【化3】
【請求項12】
I-1)前記工程I-2)の-X-OH(式中、Xは上記と同じ定義を有する)で表される第1級アルコール基を有する第Iaのポリロタキサンは、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって前記環状分子が水酸基を有するポリロタキサンにエチレンオキシド、環状カルボナート、T-X’-OH(式中、Tは、炭素数2~4の環状エーテル基、Cl基、又はBr基、又はI基を表し、X’は、第2の連結基を表す)で表される化合物を反応して得られる請求項
10又は
11記載の方法。
【請求項13】
上記T-X-OHで表される化合物が下記式IIbで表される化合物である請求項
12記載の方法。
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状分子の一部にオキサゾリン由来の基を有するポリロタキサン、該ポリロタキサンを有する組成物、及び該ポリロタキサンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に、環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンは、それを用いた材料が、優れた伸び率、優れた柔軟性などを示すことから種々の材料に応用することが期待されている。
例えば、特許文献1は、有機溶媒に可溶なポリロタキサンを得るために、ポリロタキサンのシクロデキストリンの水酸基の一部又は全部が、-O-C3H6-O-基と結合したカプロラクトン基(-CO(CH2)5-OH)を有する疎水性修飾ポリロタキサンを開示する。
【0003】
また、特許文献2は、環状分子が比較的長鎖のグラフト鎖を有するポリロタキサンを容易に得る方法を開示する。具体的には、該方法により得られる、ポリロタキサンの環状分子に、リビングラジカル重合開始部位を有するポリロタキサンを開示する。また、その開始部位からラジカル重合性モノマーが重合してなるグラフト鎖、具体的には、(メタ)アクリルモノマーの重合体を有するグラフト鎖を有することを開示する。
【0004】
さらに、特許文献3は、種々の溶媒に可溶なポリロタキサンを得るために、ポリロタキサンの環状分子に2種類の低分子量化合物由来の官能基を修飾することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4521875号。
【文献】WO2009/136618。
【文献】WO2008/108411。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のポリロタキサンは、種々の溶媒に可溶とし溶解性を向上させた一方、耐熱性、耐候性に劣る、という問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、種々の溶媒に可溶であり且つ耐熱性、耐候性に優れたポリロタキサンを提供することにある。
また、本発明の目的は、該ポリロタキサンの製造方法を提供することにある。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明者は、以下の発明を見出した。
<1> 環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が下記式I
(式中、Rはメチル基、エチル基、1-プロピル基、2-プロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、又はベンジル基を表し;
Yは末端基を表し;
nは1~20、好ましくは2~15、より好ましくは4~12を表す)
で表す第1の基を有するポリロタキサン。
【0009】
【0010】
<2> 上記<1>において、Yが、-OH基、-NR1R2基(R1、R2は、それぞれ独立に炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアルキン基(アルキル基、アルケニル基又はアルキン基中の一部の水素がOH基、CN基又はNH2基で置換されていてもよい)を表す)、-N3基、及びピペリジン基からなる群から選ばれる1種の基であるのがよい。-NR1R2基として、例えば-N(CH2CH2OH)2基、-N(CH2CH3)2、-N(CH2CH2CH3)、-N(CH2CH2CH2CH3)2、-N(CH2CH2CH2CH2CH3)2、-N(CH2CH2CH2CH2CH2CH3)2、-N(CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH3)2、-N(CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH3)2、-N(CH2CH(CH3)CH3)2、-N(CH2CH(CH3)CH3)2、-N(CH2CH(CH2CH3)CH2CH2CH2CH3)2、-N(CH2CHCH2)2基、-N(CH2CH2CN)2基、-N(C3H6NH2)2基、-NHCH2CH2NH2基、-N(CH2CCH)2基などを挙げることができるがこれらに限定されない。Yは、-OH基、-N(CH2CH2CH2CH3)2基、及び-N(CH2CH2OH)2基からなる群から選ばれる1種の基であるのが好ましい。
<3> 上記<1>又は<2>において、第1の基が、オキサゾリンモノマー又はその誘導体由来であるのがよい。具体的には、第1の基が、オキサゾリンモノマー又はその誘導体の開環重合で重合されてなるのがよい。
【0011】
<4> 上記<1>~<3>のいずれかにおいて、環状分子が水酸基を有し、該水酸基に代えて、又は該水酸基と反応させて前記第1の基を設けるのがよい。
<5> 上記<4>において、第1の基は、環状分子の水酸基の2%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは15%以上、最も好ましくは30%以上で設けられるのがよい。
<6> 上記<1>~<5>のいずれかにおいて、第1の基が、第1の連結基を介して環状分子に結合するのがよい。
該第1の連結基として、-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-、-CH2CH(OH)-CH2-、-CH2-CH2-CH2-CH2-、-CO-CH2-CH2-、-CO-C(CH3)2-CH2-、-CO-CH(OH)-CH2-、-CO-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-、-CO-CH2-CH2-CH2-CH(CH3)-を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0012】
<7> 上記<1>~<6>のいずれかのポリロタキサンを有する組成物。
<8> 上記<1>~<6>のいずれかのポリロタキサンを含有する成形体。
<9> 上記<8>において、成形体100wt%中、上記ポリロタキサンの量が0.1~50wt%、好ましくは0.3~30wt%、より好ましくは0.5~20wt%、最も好ましくは1~15wt%であるのがよい。
【0013】
<10> I)環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が下記式II
(式II中、Zはp-トルエンスルホニル基(Ts基)又はメシル基(Ms基)、好ましくはTs基を表す。
Xは、単結合又は第1の連結基を表す。第1の連結基としての-X-は、-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-、-CH2CH(OH)-CH2-、-CH2-CH2-CH2-CH2-、-CO-CH2-CH2-、-CO-C(CH3)2-CH2-、-CO-CH(OH)-CH2-、-CO-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-、-CO-CH2-CH2-CH2-CH(CH3)-からなる群から選択される1種であるのがよい)
で表される第2の基を有する第Iのポリロタキサンを準備する工程;
II)前記第Iのポリロタキサンに式III(式III中、Rは、メチル基、エチル基、1-プロピル基、2-プロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、又はベンジル基を表す)で表されるオキサゾリン誘導体を反応させて、式IV(式IV中、X、Z及びRは上述と同じ定義を有し、nは1~20を表す)で表される第3の基を有する第IIのポリロタキサンを得る工程;及び
III)前記第IIのポリロタキサンを反応させて式V(式中、X、R及びnは上述と同じ定義を有し、Yは末端基を表す。Yは、上述と同じ定義を有する。)で表される第4の基を有する第IIIのポリロタキサンを得る工程;
を有することにより、
環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が式Vで表される第4の基を有するポリロタキサンを得る、式Vで表される第4の基を有する第IIIのポリロタキサンの製造方法。
【0014】
【0015】
<11> 上記<10>のIII)工程において、前記第IIのポリロタキサンと、水、NHR1R2(式中、R1及びR2は、各々独立に、上述と同じ定義を有する。)、-N3基を有する化合物、及びピペリジンからなる群から選ばれる1種と反応させるのがよい。なお、NHR1R2として、例えば、NH(CH2CH2OH)2、NH(CH2CH3)2、NH(CH2CH2CH3)、NH(CH2CH2CH2CH3)2、NH(CH2CH2CH2CH2CH3)2、NH(CH2CH2CH2CH2CH2CH3)2、NH(CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH3)2、NH(CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH3)2、NH(CH2CH(CH3)CH3)2、NH(CH2CH(CH3)CH3)2、NH(CH2CH(CH2CH3)CH2CH2CH2CH3)2、NH(CH2CHCH2)2、NH(CH2CH2CN)2、NH(C3H6NH2)2、NHCH2CH2NH2、NH(CH2CCH)2を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0016】
<12> 上記<10>又は<11>において、I-2) 前記工程I)の第2の基を有する第Iのポリロタキサンは、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって前記環状分子が-X-OH(式中、Xは上記と同じ定義を有する)で表される第1級アルコール基を有する第IaのポリロタキサンとZCl(式中、Zは上記と同じ定義を有する)とを反応して得られるのがよい。
<13> 上記<12>において、-X-OHで表される第1級アルコール基が、下記式IIaで表される基であり、ZClがTsClであるのがよい。
【0017】
【0018】
<14> 上記<12>又は<13>において、I-1)前記工程I-2)の-X-OH(式中、Xは上記と同じ定義を有する)で表される第1級アルコール基を有する第Iaのポリロタキサンは、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって前記環状分子が水酸基を有するポリロタキサンにエチレンオキシド、環状カルボナート、T-X’-OH(式中、Tは、炭素数2~4の環状エーテル基、Cl基、Br基、又はI基を表し、X’は、第2の連結基を表す)で表される化合物を反応して得られるのがよい。
<15> 上記<14>において、T-X-OHで表される化合物が下記式IIbで表される化合物であるのがよい。
【0019】
【発明の効果】
【0020】
本発明により、種々の溶媒に可溶であり且つ耐熱性、耐候性に優れたポリロタキサンを提供することができる。
また、本発明により、該ポリロタキサンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】DMSO-d
6溶媒中で測定したPR-g-POX-2の
1H-NMRチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本願に記載する発明を詳細に説明する。
本発明は、環状分子の一部にオキサゾリン由来の基を有するポリロタキサン、該ポリロタキサンを有する組成物、及び該ポリロタキサンの製造方法を提供する。以下、順に説明する。
【0023】
<環状分子の一部にオキサゾリン由来の基を有するポリロタキサン>
本発明は、環状分子の一部にオキサゾリン由来の基を有するポリロタキサンを提供する。具体的には、本発明は、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が下記式Iで表す第1の基を有するポリロタキサンを提供する。
式中、Rはメチル基、エチル基、1-プロピル基、2-プロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、又はベンジル基を表す。
Yは末端基を表す。特に、Yは、-OH基、-NR1R2基(R1、R2は、それぞれ独立に炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアルキン基(アルキル基、アルケニル基又はアルキン基中の一部の水素がOH基、CN基又はNH2基で置換されていてもよい)を表す)、-N3基、及びピペリジン基からなる群から選ばれる1種の基であるのがよい。
-NR1R2基として、例えば-N(CH2CH2OH)2基、-N(CH2CH3)2、-N(CH2CH2CH3)、-N(CH2CH2CH2CH3)2、-N(CH2CH2CH2CH2CH3)2、-N(CH2CH2CH2CH2CH2CH3)2、-N(CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH3)2、-N(CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH3)2、-N(CH2CH(CH3)CH3)2、-N(CH2CH(CH3)CH3)2、-N(CH2CH(CH2CH3)CH2CH2CH2CH3)2、-N(CH2CHCH2)2基、-N(CH2CH2CN)2基、-N(C3H6NH2)2基、-NHCH2CH2NH2基、-N(CH2CCH)2基などを挙げることができるがこれらに限定されない。
Yは、-OH基、-N(CH2CH2CH2CH3)2基、及び-N(CH2CH2OH)2基からなる群から選ばれる1種の基であるのが好ましい。
nは1~20、好ましくは2~15、より好ましくは4~12を表す。
【0024】
【0025】
該ポリロタキサンの製造方法において後述するが、第1の基が、オキサゾリンモノマー又はその誘導体から由来するのがよく、具体的には、第1の基が、オキサゾリンモノマー又はその誘導体の開環重合で重合されてなるのがよい。
また、後述するように、環状分子が水酸基を有し、該水酸基に代えて、又は該水酸基と反応させて前記第1の基を設けるのがよい。
環状分子が水酸基を有する場合、第1の基は、該環状分子の水酸基の2%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは15%以上、最も好ましくは30%以上が置換されて設けられるのがよい。
【0026】
第1の基は、連結基を介して環状分子に結合してもよい。
連結基を設けることにより、例えば、以下の効果を奏することができる。(1)上記ポリロタキサンの製造方法において後述するが、重合開始点となる化合物と反応できる官能基を連結基に備えることができる;(2)重合開始点となる化合物が環状分子に設けやすくなり、その導入量を効率よく制御することができる;(3)連結基を設け且つその種類を変化させることにより、上記ポリロタキサンの製造方法において使用する溶媒、反応条件に適応させることができる;など。
該連結基として、-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-、-CH2CH(OH)-CH2-、-CH2-CH2-CH2-CH2-、-CO-CH2-CH2-、-CO-C(CH3)2-CH2-、-CO-CH(OH)-CH2-、-CO-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-、-CO-CH2-CH2-CH2-CH(CH3)-を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0027】
以下、ポリロタキサンを構成する「環状分子」、「直鎖状分子」、「封鎖基」について説明する。なお、これらは従来公知のものを用いることができる。
<<環状分子>>
本発明のポリロタキサンの環状分子は、環状であり、開口部を有し、直鎖状分子によって串刺し状に包接されるものであれば、特に限定されない。
環状分子は、上述の任意の連結基を介して第1の基を有する。
環状分子は、上記第1の基以外の基を有してもよい。例えば、上記第1の基以外の基として、フェニル基、ベンジルカルバモイル基、フェニルエチルカルバモイル基、ベンジルエステル基、ブチルベンジルエステル基などを挙げることができるがこれらに限定されない。
環状分子として、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群から選択されるのがよい。
例えば、α-シクロデキストリンなどの-OH基の一部を、上述の任意の連結基、及び/又は上述の第1の基で置換してもよく、上記第1の基以外の基で置換されてもよい。
【0028】
<<直鎖状分子>>
本発明のポリロタキサンの直鎖状分子は、用いる環状分子の開口部に串刺し状に包接され得るものであれば、特に限定されない。
例えば、直鎖状分子として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびその他オレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル-スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-メチルアクリレート共重合樹脂などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロンなどのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれるのがよい。例えばポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール及びポリビニルメチルエーテルからなる群から選ばれるのがよい。特にポリエチレングリコールであるのがよい。
【0029】
直鎖状分子は、その重量平均分子量が1,000以上、好ましくは3,000~100,000、より好ましくは6,000~50,000であるのがよい。
本願の、ポリロタキサンにおいて、(環状分子、直鎖状分子)の組合せが、(α-シクロデキストリン由来、ポリエチレングリコール由来)であるのがよい。
【0030】
<<封鎖基>>
本発明のポリロタキサンの封鎖基は、擬ポリロタキサンの両端に配置され、用いる環状分子が脱離しないように作用する基であれば、特に限定されない。
例えば、封鎖基として、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、シルセスキオキサン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、及びステロイド類からなる群から選ばれるのがよい。なお、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、シルセスキオキサン類、及びピレン類からなる群から選ばれるのが好ましく、より好ましくはアダマンタン基類又はシクロデキストリン類であるのがよい。
【0031】
本発明のポリロタキサンは、式Iで表される第1の基を有することにより、溶媒に対する溶解性を向上させることができる。また、ポリロタキサンの材料としての特性を変化させることもできる。さらに、エチレンイミンの重合体部により親水性を付与させながら、アシル部位(RC=O)のRにより親水性の程度を容易に制御することができる。式Iにおけるnは、重合体部の重合度を表すが、該nによりポリロタキサンの修飾量を可変とすることができ、溶解性、相溶性の制御を行うことができる。また、Y、即ち末端基の存在により、反応、架橋するのに必要な官能基の付与が容易にできる。
つまり、本発明のポリロタキサンは、式Iで表される第1の基を有することにより、溶解性、相溶性を制御し、反応に必要な官能基の量も同時に制御することができる。
なお、本発明のポリロタキサンは、エステル基を有さないのが好ましい。エステル基を有さないことにより、エステル結合に由来する加水分解性への耐性を有するポリロタキサン及び該ポリロタキサンを有する材料を提供することができる。
【0032】
なお、式Vで表される第4の基におけるnは、オキサゾリン由来の鎖の平均重合度を表すが、該nは、次のように
1H-NMR測定により算出することができる。
平均重合度の算出の一例として、後述の実施例2で得られるPR-g-POX-2により説明する。
図1は、PR-g-POX-2の
1H-NMRの測定結果を示す。
2.0ppmのN-CH
3基の-CH
3プロトンの積分値をtとし、0.8ppmに示されるる側鎖末端ジブチルアミンの-CH
3のプロトンの積分値をpとする場合、以下の関係式で重合度nを算出することができる。
n=(t/3)/(p/6)
図1の場合、0.8ppmの積分値を6とすると、2.0ppmの積分値22.6になるため、重合度nは(24.3/3)/(6/6)=8.1となる。
なお、上述したとおり、nは、1~20、好ましくは2~18、より好ましくは3~10であるのがよい。
【0033】
<本発明のポリロタキサンを有する組成物>
本発明は、上述の環状分子の一部にオキサゾリン由来の基を有するポリロタキサン;を有する組成物を提供する。
該組成物は、上述の環状分子の一部にオキサゾリン由来の基を有するポリロタキサン以外の成分を有することができる。
上記ポリロタキサン以外の成分として、上記ポリロタキサン以外のポリロタキサン、ポリロタキサン以外のポリマー又は該ポリマーを形成するモノマー又はオリゴマー、溶媒などを挙げることができるが、これらの限定されない。
また、本発明の組成物から形成される成形体が、所望の特性を備えるための各種成分を挙げることができる。該各種成分として、酸化防止剤、UV吸収剤、架橋剤、架橋助剤、界面活性剤、乳化剤、可塑剤、重合開始剤、重合禁止剤、ポリマー微粒子、シリカ、アルミナなどの金属酸化物、表面調整剤、難燃剤を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0034】
<<本発明のポリロタキサン以外の成分>>
上記ポリロタキサン以外のポリロタキサンとして、上述の環状分子の一部にオキサゾリン由来の基を有さないポリロタキサンを挙げることができる。
ポリロタキサン以外のポリマーとして、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカルボナート、ポリアクリレート、ポリウレタン、ポリウレア、ポリシロキサン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアミド酸、ポリエン、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル及びこれらの共重合体、又はこれらの変性体を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0035】
可塑剤として、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)、リン酸トリクレジルなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0036】
架橋剤として、塩化シアヌル、トリメソイルクロリド、テレフタロイルクロリド、エピクロロヒドリン、ジブロモベンゼン、グルタールアルデヒド、脂肪族多官能イソシアネート、芳香族多官能イソシアネート、ジイソシアン酸トリレイン、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジビニルスルホン、1,1’-カルボニルジイミダゾール、エチレンジアミン四酢酸二無水物、meso-ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物などの酸無水物類、多官能酸ヒドラジン類、多官能カルボイミド類、アルコキシシラン類、およびそれらの誘導体を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0037】
UV吸収剤として、パラジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル、サリチル酸2-エチルヘキシル、2、4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクチルベンゾフェノン、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、ビス(2、2、6、6-テトラメチル-4-ピペリジル)-セバケート、パラメトキシケイ皮酸2エチルヘキシル、パラメトキシケイヒ酸イソプロピル、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、メトキシケイヒ酸オクチルなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0038】
光重合開始剤は、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド(Lucirin(登録商標) TPO)などのベンゾイルホスフィンオキシド化合物;又はビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド(Irgacure(登録商標)819)などのビスアシルホスフィンオキシド化合物;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Irgacure(登録商標)184)などの1-ヒドロキシフェニルケトンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0039】
熱重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-へキシルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等の有機過酸化物系重合開始剤;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤を挙げることができるが、これらに限定されない。
溶媒として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、水、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、アセトニトリルを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0040】
<本発明のポリロタキサンを含有する成形体>
本発明は、上述のポリロタキサンを含有する成形体を提供する。
本発明の成形体は、該成形体の重量を100wt%とした場合、本発明のポリロタキサンの量は、100wt%中、0.1~50wt%、好ましくは0.3~30wt%、より好ましくは0.5~20wt%、最も好ましくは1~15wt%であるのがよい。
【0041】
成形体として、上述のポリロタキサン同士の架橋体;上述のポリロタキサンとポリロタキサン以外の材料との架橋体;などを挙げることができる。
上述のポリロタキサンとポリロタキサン以外の材料との架橋体を形成するために、上述のポリロタキサン及びポリロタキサン以外の材料の双方に、双方が反応できる官能基を有し、該官能基同士が反応して架橋するのがよい。また、官能基同士が架橋剤を介して反応する場合も考えられる。官能基として、水酸基、アミノ基、チオール基、イソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸基、酸無水物基、ラジカル重合性基などが挙げられる。
【0042】
これらの官能基は、上述のポリロタキサン、特に式Iで表される第1の基のY上に設けるか、連結基を有する場合には該連結基に有するか、環状分子が備える他の基に有する、などであるのがよい。例えば、官能基をY上に設ける場合であってYがジエタノールアミン由来の基である場合、末端にOH基を有することとなり、該OH基が上述の架橋反応の際の官能基として作用することができる。また、例えば、末端にOH基を有するYだけでなく、該OH基をラジカル重合性基などへと置換し、該ラジカル重合性基を、架橋反応の際の官能基として作用させることもできる。
【0043】
上述のような双方が反応できる官能基を有する場合の他、架橋剤の種類、具体的には反応できる官能基が複数ある架橋剤を用いることにより、上述のポリロタキサンとポリロタキサン以外の材料との架橋体を形成することができる。
そのような架橋剤の例として、例えば、ポリイソシアネート化合物、多官能性カルボキシル化合物、多官能性酸無水物などを挙げることができるがこれらに限定されない。
上記ポリロタキサンを有する材料の架橋反応は、溶媒中または無溶媒で行うことができる。溶媒として、用途、加工方法に依存するが、公知の有機溶媒、水系溶媒、水などを使用することができる。
【0044】
本発明のポリロタキサン、該ポリロタキサンを有する組成物、ポリロタキサンを含有する成形体は、その特性から、種々の応用がある。応用として、例えば、粘着剤・接着剤、耐キズ性膜、防振・制振・免振材料、吸音材量、塗料、コーティング剤、シール材、インク添加物・バインダー、電気絶縁材料、電気・電子部品材料、光学材料、摩擦制御剤、化粧品材料、ゴム添加剤、発泡材料、樹脂改質・強靭化剤、樹脂の相溶化剤、電解質材料、レオロジー制御剤、増粘剤、繊維、医療用生体材料、化粧品材料、機械・自動車材料、建築材料、衣料・スポーツ用品などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0045】
<本発明のポリロタキサンの製造方法>
本発明のポリロタキサンは、例えば、次のような方法により製造することができる。
即ち、
I)環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が下記式II
(式II中、Zはp-トルエンスルホニル基(Ts基)又はメシル基(Ms基)、好ましくはTs基を表す。
Xは、単結合又は第1の連結基を表す。第1の連結基としての-X-は、-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-、-CH2CH(OH)-CH2-、-CH2-CH2-CH2-CH2-、-CO-CH2-CH2-、-CO-C(CH3)2-CH2-、-CO-CH(OH)-CH2-、-CO-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-、-CO-CH2-CH2-CH2-CH(CH3)-からなる群から選択される1種であるのがよい)
で表される第2の基を有する第Iのポリロタキサンを準備する工程;
II)前記第Iのポリロタキサンに式III(式III中、Rは、メチル基、エチル基、1-プロピル基、2-プロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、又はベンジル基を表す)で表されるオキサゾリン誘導体を反応させて、式IV(式IV中、X、Z及びRは上述と同じ定義を有し、nは1~20を表す)で表される第3の基を有する第IIのポリロタキサンを得る工程;及び
III)前記第IIのポリロタキサンを反応させて式V(式中、X、R及びnは上述と同じ定義を有し、Yは末端基を表し、上述と同じ定義を有する。)で表される第4の基を有する第IIIのポリロタキサンを得る工程;
を有することにより、本発明のポリロタキサンを、具体的には、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって、前記環状分子が式Vで表される第4の基を有する第IIIのポリロタキサンを得ることができる。
【0046】
【0047】
工程I)は、環状分子が下記式IIで表される第2の基を有する第Iのポリロタキサンを準備する工程である。
第Iのポリロタキサンは、次のように得ることができる。
I-1)環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなるポリロタキサンであって前記環状分子が水酸基を有するポリロタキサンにエチレンオキシド、環状カルボナート、T-X’-OH(式中、Tは、炭素数2~4の環状エーテル基、Cl基、Br基、又はI基を表し、X’は、第2の連結基を表す)で表される化合物を反応させて、-X-OH(式中、Xは上記と同じ定義を有する)で表される第1級アルコール基を有する第Iaのポリロタキサンを得るのがよい。
なお、T-X-OHで表される化合物が下記式IIbで表される化合物であり、得られる-X-OH(式中、Xは上記と同じ定義を有する)で表される第1級アルコール基が下記式IIaで表される基であるのがよい。
【0048】
【0049】
工程I-1)は、用いるポリロタキサン、用いるT-X’-OHに依存するが、例えば常圧から加圧下、常温から150℃の加熱下、触媒存在下、溶剤中という条件下で行うのがよい。
【0050】
次いで、I-2) 得られた第Iaのポリロタキサンを、ZCl(式中、Zは上記と同じ定義を有する)と反応させることにより、第Iのポリロタキサンを得ることができる。
ここで、ZClとして、TsClであることが好ましい。
工程I-1)は、用いる第Iaのポリロタキサン、用いるZClに依存するが、例えば常圧下、常温から80℃の加熱下、塩基触媒下、溶媒中という条件下で行うのがよい。
【0051】
工程II)は、上記式IIで表される第2の基を有する第Iのポリロタキサンに式IIIで表されるオキサゾリン誘導体を反応させて、式IVで表される第3の基を有する第IIのポリロタキサンを得る工程である。
工程II)は、換言すると、重合開始点としてのZ基(ZはTs又はMsを表す)に、モノマーであるオキサゾリン誘導体を反応させて、該オキサゾリン誘導体から形成されるオキサゾリウムカチオンの誘導体が活性種となり、リビング重合、好ましくはリビングカチオン重合を行う工程である。
式IIIで表されるオキサゾリン誘導体として、2-メチル-2-オキサゾリン、2-エチル-2-オキサゾリン、2-プロピル-2-オキサゾリン、2-イソプロピル-2-オキサゾリン、2-シクロプロピル-2-オキサゾリン、2-ブチル-2-オキサゾリンなどを挙げることができるがこれらに限定されない。なお、オキサゾリン誘導体を2種類以上混合して使用し、ランダム共重合ポリオキサゾリンを得てもよい。また、一種類のオキサゾリン誘導体を反応させてから、異なる種類のオキサゾリンを次に反応させ、ブロック共重合ポリオキサゾリンを得てもよい。
工程II)は、用いる第Iのポリロタキサン、用いるオキサゾリン誘導体に依存するが、常圧下、50℃から150℃の加熱下、溶媒中という条件下で行うことができる。
【0052】
工程III)は、前記第IIのポリロタキサンから、式Vで表される第4の基を有する第IIIのポリロタキサンを得る工程である。
換言すると、工程III)は、上記工程II)の重合反応を停止させる工程ということができる。
重合反応を停止させる化合物、即ちYとなる化合物として、水(詳細には水とアルカリ)、
NHR1R2(式中、R1及びR2は、各々独立に、上述と同じ定義を有する。)、-N3基を有する化合物、及びピペリジンからなる群から選ばれる1種と反応させるのがよい。
なお、NHR1R2として、例えば、NH(CH2CH2OH)2、NH(CH2CH3)2、NH(CH2CH2CH3)、NH(CH2CH2CH2CH3)2、NH(CH2CH2CH2CH2CH3)2、NH(CH2CH2CH2CH2CH2CH3)2、NH(CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH3)2、NH(CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH3)2、NH(CH2CH(CH3)CH3)2、NH(CH2CH(CH3)CH3)2、NH(CH2CH(CH2CH3)CH2CH2CH2CH3)2、NH(CH2CHCH2)2、NH(CH2CH2CN)2、NH(C3H6NH2)2、NHCH2CH2NH2、NH(CH2CCH)2を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0053】
本発明の製造方法は、上記の工程以外の工程を設けてもよい。
例えば、上記工程III)後に、得られた第IIIのポリロタキサンをさらに修飾する工程を設けてもよい。例えば、第IIIのポリロタキサンの末端基Yをさらに修飾してもよい。
【0054】
(実施例)
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
各化合物の分析装置
1H-NMR測定は、400MHz JEOL JNM-AL400(日本電子株式会社製)によって測定した。
分子量、分子量分布の測定は、TOSOH HLC-8220GPC装置で行った。カラム:TSKガードカラムSuper AW-HとTSKgel Super AWM-H(2本連結)、溶離液:ジメチルスルホキシド(DMSO)/0.01M LiBr、カラムオーブン:50℃、流速:0.5ml/min、試料濃度を約0.2wt/vol%、注入量:20μl、前処理:0.2μmフィルターでろ過、スタンダード分子量:PEO、の条件下で測定した。
水酸基価、酸価の測定は、JIS 0070-1992に準ずる方法で測定した。
ガスクロマトグラフ(GC)は、島津製作所製のGC-2014で測定した。
UVスペクトルは、ダイオードアレイ分光光度計Agilent8453(Agilent Technology製)によって測定した。
熱分析、熱分解温度は、差動型示差熱天秤TG8120-1C(リガク製)で測定し、評価した。
【0055】
<合成例1:未修飾ポリロタキサンX1の調製>
直鎖状分子:ポリエチレングリコール(Mw:20,000)、環状分子:α-シクロデキストリン(以下、単に「α-CD」と略記する場合がある)、封鎖基:アダマンタン基からなるポリロタキサン(以下、単に「APR20」又は「未修飾ポリロタキサンX1」と略記する場合がある)(重量平均分子量Mw=65,000)をWO2005/052026又はWO2013/147301に記載されている方法で作製した。
なお、1H-NMR測定によって計算されたAPR20の包接率は27%であった。ここで、包接率は、α-CDがポリエチレングリコールにより串刺し状に包接される際にα-CDが最大限に包接される量を1として得た(Macromolecules 1993, 26, 5698-5703を参照のこと。なお、この文献の内容はすべて本明細書に組み込まれる)。
GPCにより平均重量分子量Mwは65,000であった。
【0056】
<合成例2:グリシドール修飾ポリロタキサンGAPRの合成>
ポリロタキサンAPR20 5gを反応容器に入れ、その後、1.5N NaOH水溶液25gを入れて溶解させた。得られた溶液を撹拌、氷浴で冷やしながら、グリシドール25gをゆっくり滴下し、一晩攪拌した。その後、6N塩酸を用いて反応水溶液を中和した。得られた水溶液を透析チューブにより3日間透析を行った。次いで水溶液を凍結乾燥で乾燥し、白色粉末固体を6.3g得て、グリシドール修飾ポリロタキサンであるGAPRを得た。なお、透析チューブによる透析の代わりに、得られた反応水溶液をメタノールに注ぎ、固体を析出させた後、得られた固体をさらに純粋で洗浄し、乾燥しても同様なGAPRが得られた。
GPCで分析した結果、重量平均分子量Mw=68,000であった。滴定による水酸基価を測定した結果、693mgKOH/gであった。
【0057】
<合成例3:トシル基修飾ポリロタキサンTsGAPRの合成>
反応容器にグリシドール修飾ポリロタキサンGAPR 3g及びピリジン20mlを入れ、GAPRを溶解させた。得られた溶液を含む容器を氷水で冷却しながら、ピリジン10mlに溶解したトシルクロリド4.3gをゆっくり滴下し、撹拌しながら5時間反応させた。反応液を水300mlに注ぎ、反応生成物を析出させ、遠心分離機で固体を分離した。得られた固体を1N HClで洗浄した後、数回純水で洗浄後、遠心分離機で固体を回収し、乾燥させ、トシル基で修飾されたポリロタキサンTsGAPR 7.8gを得た。
GPCで分析した結果、Mw=113,800、Mw/Mn=1.3であった。UV分光法の測定により、導入されたトシル基の量が3.9mmol/gであった。
【0058】
(実施例1)
80℃、2時間減圧乾燥したトシル基修飾ポリロタキサンTsGAPR 1.0gを18.2gのDMFに溶解し、80℃、窒素ブローしながら、2-メチル-2-オキサゾリン1.7gを加えて一晩反応させた。その後、ジブチルアミン1.1gを添加し、さらに一晩反応を継続した。反応液を水で薄めて、透析膜で透析を2日間行い、凍結乾燥し、白色固体(PR-g-POX-1)1.2gを得た。
GPC測定により、Mw=399,000、Mw/Mn=1.5であった。1H-NMR分析により、CDにポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)側鎖を有し、側鎖末端に-N(CH2CH2CH2CH3)2基が付与されたことが分かり、ポリ(2-メチル-2オキサゾリン)の側鎖の重合度nは約4.0であった。
【0059】
(実施例2)
実施例1の2-メチル-2-オキサゾリン「1.7g」及びジブチルアミン「1.1g」の代わりに、2-メチル-2-オキサゾリン「3.4g」及びジブチルアミン「2.1g」を用いた以外、実施例1と同様にして、白色固体(PR-g-POX-2)1.8gを得た。
GPC測定により、Mw=628,000、Mw/Mn=1.7であった。1H-NMR分析により、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)の側鎖の重合度nは約8.1であった。水酸基価を測定した結果、80mgKOH/gであった。
【0060】
(実施例3)
実施例1の2-メチル-2-オキサゾリン「1.7g」及びジブチルアミン「1.1g」の代わりに、2-メチル-2-オキサゾリン「6.8g」及びジブチルアミン「4.1g」を用いた以外、実施例1と同様にして、白色固体(PR-g-POX-3)2.8gを得た。
GPC測定により、Mw=510,000、Mw/Mn=2.5であった。1H-NMR分析により、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)の側鎖の重合度nは約7.8であった。水酸基価を測定した結果、53mgKOH/gであった。
【0061】
(実施例4)
実施例1のジブチルアミン1.1gの代わりに、ジアタノールアミン0.84gを使用する以外、実施例1と同様にして、白色固体(PR-g-POX-4)1.4gを得た。
GPC測定により、Mw=321,000、Mw/Mn=2.6であった。1H-NMR分析により、CDにポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)側鎖を有し、側鎖末端に-N(CH2CH2OH)2基が付与されたことが分かり、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)の側鎖の重合度nは約8.0であった。
【0062】
(実施例5)
実施例1のジブチルアミン1.1gの代わりに、水4g及び炭酸ナトリウム4.24gを使用する以外、実施例1と同様にして、白色固体(PR-g-POX-5)2.1gを得た。
GPC測定により、Mw=462,000、Mw/Mn=2.9であった。1H-NMR分析により、CDにポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)側鎖を有し、側鎖末端に-OH基が付与されたことが分かり、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)の側鎖の重合度nは約8.0であった。
【0063】
(実施例6)
実施例2で得られたPR-g-POX-2を用いて、各種溶媒への溶解性を測定した。その結果を表1に示す。なお、溶解性について、10wt%の濃度で、5℃、25℃及び60℃で行った。
表1における評価◎、○及び×は次のとおりである。
◎:溶解して透明;
○:溶解して濁る;
×:不溶物がある。
【0064】
(比較例1)
合成例1で得られた未修飾ポリロタキサンX1を用いて、実施例6と同様に、各種溶媒への溶解性を測定した。その結果についても、表1に示す。
【0065】
(比較例2)
合成例2で得られたGAPRを用いて、実施例6と同様に、各種溶媒への溶解性を測定した。その結果についても、表1に示す。
【0066】
表1から次のことがわかる。即ち、本発明のポリロタキサンは、ジクロロメタン、クロロホルム、メタノールなどのアルコール系、水、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなど、一般的に用いられる溶媒への溶解性が向上したことがわかる。
【0067】
【0068】
(実施例7)
実施例2で得られたポリロタキサンPR-g-POX-2 0.62g、分子量530のポリカプロラクトンジオール0.22g、両末端イソシアネート基変性したポリカプロラクトンジオール(分子量530のプレポリマー)0.31g、ジブチルジラウリル酸スズ0.7mg、メチルセロソルブ0.96gを均一に混合し、基板に塗布し、150℃、3h加熱架橋したところ、柔軟性のある透明なエラストマーシートを得た。
【0069】
(実施例8)
実施例3で得られたPR-g-POX-3を用いて、空気中におけるTG/DTA熱分析を行い、室温から500℃まで、加熱速度5℃/分で、質量の5%減量、10%減量の温度を測定した。その結果を表2に示す。
【0070】
(比較例3)
α-シクロデキストリンの水酸基の一部を2-ヒドロキシプロピル基で修飾し、その後、ε-カプロラクトンモノマーでグラフト重合したポリカプロラクトン(ポリエステル)側鎖を有するポリロタキサン、SH3400P(アドバンスト・ソフトマテリアルズ製)を用いて、実施例8と同様な測定を行った。その結果を表2に示す。
表2から、エステル結合をもたない実施例8のポリロタキサンは、エステル結合を有する比較例3のポリロタキサンよりも、分解温度が高くなり、耐熱性、耐候性に優れることがわかる。また、実施例3で得られたPR-g-POX-3を含む実施例で得られたポリロタキサンは、エステル基を有さないポリロタキサンであるので、エステル結合に由来する加水分解性への耐性を有する材料を提供することができる。
【0071】