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特許7345821加工シミュレーションシステム、および加工シミュレーションプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】加工シミュレーションシステム、および加工シミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4069 20060101AFI20230911BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
G05B19/4069
B23Q15/00 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019094659
(22)【出願日】2019-05-20
(65)【公開番号】P2020190837
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】西田 勇
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-008276(JP,A)
【文献】特開平06-004120(JP,A)
【文献】特開平10-049215(JP,A)
【文献】特開2002-207777(JP,A)
【文献】特開平02-198743(JP,A)
【文献】特開昭60-189011(JP,A)
【文献】特開平05-274024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/4069
B23Q 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象を所定の間隔で仮想的に切断する複数の第一切断面のそれぞれにおける加工対象の外形線である第一対象外形線を複数の点の座標で示した第一対象外形情報を生成する対象外形情報処理部と、
前記加工対象を加工する加工工具の外形形状を示す情報、前記加工対象に対する前記加工工具の相対的な移動に関する情報である移動情報を取得し、所定時刻における前記第一切断面上の加工工具の外形線である第一工具外形線を複数の点の座標で示した第一工具外形情報を生成する工具外形情報処理部と、
前記第一対象外形情報と前記第一工具外形情報とに基づき第一重複領域を生成し、前記第一対象外形情報から前記第一重複領域を除外して第一対象外形情報を更新する加工情報処理部と、を備え
前記対象外形情報処理部は、
前記第一切断面と交差する複数の第二切断面のそれぞれにおける前記加工対象の外形線
である第二対象外形線を複数の点の座標で示した第二対象外形情報を取得し、
前記工具外形情報処理部は、
所定時刻における前記第二切断面における前記加工工具の外形線である第二工具外形線を複数の点の座標で示した第二工具外形情報を生成し、
前記加工情報処理部は、
前記第二対象外形情報と前記第二工具外形情報との第二重複領域を生成し、前記第二対象外形情報から前記第二重複領域を除外して第二対象外形情報を更新する
加工シミュレーションシステム。
【請求項2】
前記第一工具外形情報は、少なくとも1つの矩形の頂点の座標で示した矩形情報により構成される
請求項1に記載の加工シミュレーションシステム。
【請求項3】
前記工具外形情報処理部は、
矩形情報で構成される複数の前記第一工具外形情報を生成し、
前記加工情報処理部は、
前記矩形情報の一つに基づき前記第一対象外形情報との第一重複領域を生成し、前記第一対象外形情報から前記第一重複領域を除外して前記第一対象外形情報を更新した後、前記矩形情報の他の一つに基づき更新後の前記第一対象外形情報との第一重複領域を生成し、更新後の前記第一対象外形情報から前記第一重複領域を除外して前記第一対象外形情報を更新する
請求項2に記載の加工シミュレーションシステム。
【請求項4】
前記第一重複領域に基づき加工負荷を算出する加工負荷処理部
を備える請求項1から3のいずれか一項に記載の加工シミュレーションシステム。
【請求項5】
前記加工情報処理部は、
前記第一対象外形情報から前記第一重複領域を除外して第一対象外形情報を更新し、更新された前記第一対象外形情報に一直線上に並んだ複数の点の座標が含まれている場合、中間に位置する点を削除して第一対象外形情報をさらに更新する
請求項1から4のいずれか一項に記載の加工シミュレーションシステム。
【請求項6】
前記対象外形情報処理部は、
加工対象の表面を三角形のメッシュを用いて表す表面形状情報を取得し、取得した前記表面形状情報と複数の第一切断面の情報とに基づきそれぞれの第一切断面に対する第一対象外形情報を生成する
請求項1から5のいずれか一項に記載の加工シミュレーションシステム。
【請求項7】
前記加工負荷処理部は、
算出された加工負荷が所定範囲外の場合、所定範囲内に加工負荷が収まるように、前記加工対象に対する前記移動情報を更新する
請求項4に記載の加工シミュレーションシステム。
【請求項8】
コンピュータを、
加工対象を所定の間隔で仮想的に切断する複数の第一切断面のそれぞれにおける加工対象の外形線である第一対象外形線を複数の点の座標で示した第一対象外形情報を生成する対象外形情報処理部
前記加工対象を加工する加工工具の外形形状を示す情報、前記加工対象に対する前記加工工具の相対的な移動に関する情報である移動情報を取得し、所定時刻における前記第一切断面上の加工工具の外形線である第一工具外形線を複数の点の座標で示した第一工具外形情報を生成する工具外形情報処理部
前記第一対象外形情報と前記第一工具外形情報とに基づき第一重複領域を生成し、前記第一対象外形情報から前記第一重複領域を除外して第一対象外形情報を更新する加工情報処理部として機能させる加工シミュレーションプログラムであって
前記対象外形情報処理部は、
前記第一切断面と交差する複数の第二切断面のそれぞれにおける前記加工対象の外形線である第二対象外形線を複数の点の座標で示した第二対象外形情報を取得し、
前記工具外形情報処理部は、
所定時刻における前記第二切断面における前記加工工具の外形線である第二工具外形線を複数の点の座標で示した第二工具外形情報を生成し、
前記加工情報処理部は、
前記第二対象外形情報と前記第二工具外形情報との第二重複領域を生成し、前記第二対象外形情報から前記第二重複領域を除外して第二対象外形情報を更新する
加工シミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象に対し切削加工などを実施し、所定の形状の結果物を得るための加工工程をシミュレーションする加工シミュレーションシステム、および加工シミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
NC(numerical control)加工を実施する場合、一定の加工条件で全てを加工するNCプログラムでは生産効率は上がらない。また、作成したNCプログラムを用いて実際に加工する場合、加工トラブルが発生する場合もある。そのため事前に加工状況を予測して評価することは重要である。
【0003】
そこで、加工対象の形状をボクセルモデルやZマップモデルを用い、加工工程をシミュレーションする方法が存在している(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-162149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ボクセルモデルでは加工対象が内部までボクセルと呼ばれる微小な立方体で埋め尽くされている。このため、ボクセルモデル、またはZマップモデルを用いて加工工程をシミュレーションする場合、コンピュータのメモリが大量に必要となる。またこれに伴い加工対象と加工工具との重複関係を算出するための計算時間が長くなっていた。さらに、Zマップモデルでは、オーバーハングのある加工対象についてはシミュレーションが困難になるなどといった課題があった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、加工対象を表現するための情報量を低く押さえ、高速で加工工程をシミュレートできる加工シミュレーションシステム、および加工シミュレーションプログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の1つである加工シミュレーションシステムは、加工対象を所定の間隔で仮想的に切断する複数の第一切断面のそれぞれにおける加工対象の外形線である第一対象外形線を複数の点の座標で示した第一対象外形情報を生成する対象外形情報処理部と、前記加工対象を加工する加工工具の外形形状を示す情報、前記加工対象に対する前記加工工具の相対的な移動に関する情報である移動情報を取得し、所定時刻における前記第一切断面上の加工工具の外形線である第一工具外形線を複数の点の座標で示した第一工具外形情報を生成する工具外形情報処理部と、前記第一対象外形情報と前記第一工具外形情報とに基づき第一重複領域を生成し、前記第一対象外形情報から前記第一重複領域を除外して第一対象外形情報を更新する加工情報処理部と、を備える。
【0008】
また上記目的を達成するために、本発明の1つである加工シミュレーションプログラムは、加工対象を所定の間隔で仮想的に切断する複数の第一切断面のそれぞれにおける加工対象の外形線である第一対象外形線を複数の点の座標で示した第一対象外形情報を生成する対象外形情報処理部と、前記加工対象を加工する加工工具の外形形状を示す情報、前記加工対象に対する前記加工工具の相対的な移動に関する情報である移動情報に基づき、前記第一切断面における所定時刻の加工工具の外形線である第一工具外形線を複数の点の座標で示した第一工具外形情報を取得する工具外形情報処理部と、前記第一対象外形情報と前記第一工具外形情報とに基づき第一重複領域を生成し、前記第一対象外形情報から前記第一重複領域を除外して第一対象外形情報を更新する加工情報処理部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加工対象、および加工工具を表現するための情報量を低く押さえ、加工対象と加工工具との重複領域、つまり加工工具による加工状態を容易にシミュレートできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】加工シミュレーションシステムの機能構成を示すブロック図である。
図2】加工対象から結果物に至る工程の概略を示す斜視図である。
図3】加工対象と第一切断面との関係を示す斜視図である。
図4】一の第一切断面における第一対象外形線、第一対象外形点を示す断面斜視図である。
図5】一の第一切断面における第一対象外形線、第一工具外形線順序、および第一重複領域の関係を示す図である。
図6】重複領域の第一発生パターンを示す図である。
図7】重複領域の第二発生パターンを示す図である。
図8】重複領域の第三発生パターンを示す図である。
図9】更新後の第一対象外形線を示す図である。
図10】重複領域の第四発生パターンを示す図である。
図11】一直線上に並んだ3以上の第一対象外形点を示す図である。
図12】加工シミュレーションシステムの動作の流れを説明するフローチャートである。
図13】一の第一切断面において複数の第一対象外形線が生成される場合を示す図である。
図14】加工シミュレーションシステムの他の動作の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る加工シミュレーションシステム、および加工シミュレーションプログラムの実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の位置関係、および接続状態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、各請求項に係る発明を限定する主旨ではない。以下では複数の発明を一つの実施の形態として説明する場合があるが、請求項に記載されていない構成要素については、その請求項に係る発明に関しては任意の構成要素であるとして説明している。また、図面は、本発明を説明するために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
【0012】
図1は、加工シミュレーションプログラムにより実現される加工シミュレーションシステムの機能構成を示すブロック図である。図2は、加工対象、中間状態、および結果物を順を追ってそれぞれ示す斜視図である。加工シミュレーションシステム100は、加工シミュレーションプログラムをコンピュータ上で実行することにより実現される装置であり、外部機器300からの情報に基づき、仮想的な加工工具210を用いて仮想的な加工対象200を加工する加工工程をシミュレーションする。図1に示すように、加工シミュレーションシステム100は、対象外形情報処理部101と、工具外形情報処理部102と、加工情報処理部103と、を備えている。本実施の形態の場合、加工シミュレーションシステム100は、加工負荷処理部104をさらに備えている。
【0013】
加工対象200は、加工工具210によって加工が施されて所定の形状の結果物になる素材である。加工対象200の形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、図2の上段に示すように、立方体として説明する。加工対象200の材質は、特に限定されるものではないが、後述の加工負荷を算出する場合のパラメータの一つとして材質に関連するパラメータが用いられる場合がある。
【0014】
加工工具210は、加工対象200を加工するための工具である。本実施の形態の場合、加工工具210は、切削工具であり、具体的にはスクエアエンドミル(普通刃)が想定されている。なお、加工工具210は、切削工具ばかりでなく、加工対象200を塑性変形させる工具、放電加工に用いられる工具などを例示できる。
【0015】
対象外形情報処理部101は、CAD(Computer Aided Design)システム、CAM(Computer Aided Manufacturing)システムなどの外部機器300から取得した情報に基づき第一対象外形情報を生成する。本実施の形態の場合、対象外形情報処理部101は、外部機器300が作成した加工プログラムに基づき第一対象外形情報を生成する。なお、本明細書、および特許請求の範囲において「取得する」の文言には「生成」が含まれるものとして「取得」および「生成」の文言を用いている。
【0016】
具体的に対象外形情報処理部101は、外部機器300から取得した加工プログラムの中から加工対象200の表面形状を示す表面形状情報を取得する。対象外形情報処理部101は、図3に示すように、所定の間隔で並んで配置されている複数の仮想的な第一切断面201を用いて加工対象200の表面形状を切断し、図4に示すように、それぞれの第一切断面201における加工対象200の外形線、つまり加工対象200の表面形状と第一切断面201との交線である第一対象外形線221を生成する。さらに対象外形情報処理部101は、第一対象外形線221を複数の点である第一対象外形点223の座標で示した第一対象外形情報を生成する。
【0017】
第一切断面201は、加工対象200を切断する仮想的な面である。本実施の形態の場合、平面である複数の第一切断面201が平行に配置されており、全ての第一切断面201が加工対象200を切断するように配置されている。隣り合う第一切断面201の間隔は、特に限定されるものではなく、要求される解析精度により決定される。例えば、隣り合う第一切断面201の間隔は、10μm程度に設定される場合がある。また、隣り合う第一切断面201の間隔は、加工対象200全体にわたって均一でなくてもよい。例えば、加工対象200の中で要求される加工精度が高い部分は間隔を狭くし、荒削り部分など比較的加工精度が低い部分は、間隔を広くするなどしても構わない。
【0018】
具体的に例えば、外部機器300から取得する表面形状情報が加工対象200の表面を三角形のメッシュを用いて表す形式、いわゆるSTL(Standard Triangulated Language)形式である場合、対象外形情報処理部101は、取得した表面形状情報と第一切断面201との交線を第一対象外形線221として生成する。この場合、第一対象外形線221は、複数の線分により形成されており、対象外形情報処理部101は、隣り合う線分の交点(外向きの頂点、および内向きの頂点)を第一対象外形点223として第一対象外形情報を生成する。
【0019】
なお上記対象外形情報処理部101は、第一対象外形線221を生成したが、外部機器300から第一対象外形線221を所得し、これに基づき第一対象外形情報を生成しても構わない。
【0020】
工具外形情報処理部102は、加工対象200を加工する加工工具210の外形形状を示す情報、加工対象200に対する加工工具210の相対的な移動に関する情報である移動情報を取得し、所定時刻における第一切断面201上の加工工具210の外形線である第一工具外形線211を複数の点である第一工具外形点213の座標で示した第一工具外形情報を生成する。本実施の形態の場合、工具外形情報処理部102は、外部機器300が作成した加工プログラムに基づき第一工具外形情報を生成する。移動情報には加工対象200に対して加工工具210が移動する相対的な経路を示す経路情報、および前記経路の各区間における加工工具210の移動速度を示す速度情報等が含まれている。具体的に工具外形情報処理部102は、加工工具210の加工可能な部分(例えばエンドミルの刃の部分)の表面形状と、取得した移動情報とに基づき、所定の時刻において加工工具210を切断する第一切断面201を用いて加工工具210の外形線、つまり加工工具210の表面形状と第一切断面201との交線である第一工具外形線211を生成する。さらに工具外形情報処理部102は、第一工具外形線211を複数の点である第一工具外形点213の座標で示した第一工具外形情報を生成する。
【0021】
例えば、外部機器300から取得する加工工具210の加工可能な部分の表面形状を円柱として抽象化した場合、工具外形情報処理部102は、抽象化された円柱と第一切断面201との交線を第一工具外形線211として生成する。この場合、図5に示すように、第一工具外形線211は、矩形(正方形を含む)であり、工具外形情報処理部102は、矩形の頂点である第一工具外形点213の座標で示した矩形情報により構成される第一工具外形情報を生成する。
【0022】
なお本実施の形態の場合、工具外形情報処理部102は、加工工具210の加工可能な部分を円柱として抽象化して矩形の第一工具外形線211を生成したが、例えば加工工具210がドリルである場合、円柱の先端が円錐状に尖った形状として抽象化するなどしても構わない。また、外部機器300から抽象化された加工工具210の外形形状の情報を工具外形情報処理部102が取得して利用しても構わない。
【0023】
また、加工工具210の外形を示すSTL形式などを取得して、第一工具外形線211、および第一工具外形情報を生成してもかまわない。
【0024】
加工情報処理部103は、第一対象外形情報により第一切断面201に形成される第一対象外形線221と第一工具外形情報により第一切断面201に形成される第一工具外形線211との重複領域である第一重複領域230を生成する。本実施の形態の場合、加工情報処理部103の処理としては、図6に示すように、第一対象外形線221と第一工具外形線211との交点231を生成する。また、第一対象外形線221の内側に存在する第一工具外形点213を特定する。また、第一工具外形線211の内側に存在する第一対象外形点223を特定する。交点231、特定された第一工具外形点213、および第一対象外形点223をそれぞれ結ぶ第一工具外形線211、および第一対象外形線221で囲まれた領域を加工情報処理部103は第一重複領域230として生成する。
【0025】
なお、図7に示すように、第一工具外形線211の内側に第一対象外形点223が存在しない場合は、交点231、および特定された第一工具外形点213をそれぞれ結ぶ第一工具外形線211、および第一対象外形線221で囲まれた領域が第一重複領域230となる。また、図8に示すように、第一対象外形線221の内側に第一工具外形点213が存在しない場合は、交点231、および特定された第一対象外形点223をそれぞれ結ぶ第一対象外形線221で囲まれた領域も第一重複領域230となる。また、複数の第一重複領域230が生成される場合もある。
【0026】
次に加工情報処理部103は、第一対象外形情報で形成される第一対象外形線221から生成された第一重複領域230を除外して第一対象外形情報を更新する。図6に示すような第一重複領域230が生成された場合、加工情報処理部103は、図9に示す形状に第一対象外形情報を更新する。
【0027】
また本実施の形態の場合、加工情報処理部103は、図10に示すような第一重複領域230が生成され、図11に示す形状に第一対象外形情報を更新した場合において、更新された第一対象外形情報に一直線上に並んだ3以上の第一対象外形点223の座標が含まれている場合、中間に位置する第一対象外形点223を削除して第一対象外形情報をさらに更新する。これにより第一対象外形情報の情報量を抑制することが可能となる。
【0028】
以上、一つの第一切断面201に着目して説明したが、加工シミュレーションシステム100は、取得した移動情報に基づき、所定の第一時刻の加工工具210を切断する全ての第一切断面201に対して上記処理を行い、第一対象外形情報を更新する処理を行う。次に、第一時刻より後の第二時刻の加工工具210を切断する全ての第一切断面201に対して上記処理を行い、第一対象外形情報をさらに更新する処理を行う。この処理を順次行う事で、加工シミュレーションシステム100は、加工工具210による加工対象200の加工工程をシミュレーションする。
【0029】
なお、第一時刻と第二時刻との間隔(時間)は、特に限定されるものではなく、要求される解析精度により決定すればよい。例えば、隣り合う第一切断面201の一方から他方に加工工具210が移動する時間を移動情報から生成して第一時刻と第二時刻との間隔に設定しても構わない。
【0030】
加工負荷処理部104は、加工情報処理部103が生成した第一重複領域230に基づき加工工具210が加工対象200を加工する際の加工負荷を算出する。例えば加工負荷処理部104は、所定時刻において加工工具210を切断する全ての第一切断面201について生成される第一重複領域230のそれぞれの面積に対し、隣り合う第一切断面201の間隔を乗算することにより加工工具210の加工量を加工負荷として算出しても構わない。
【0031】
また、加工負荷処理部104は、工具外形情報処理部102が取得した移動情報と第一重複領域230とに基づき加工負荷を算出しても構わない。具体的には、移動情報に基づき加工工具210の単位時間あたりの移動量を算出し、算出された移動量に基づき繰り返し生成される第一重複領域230の面積を積算した値を加工負荷としても構わない。
【0032】
また、加工負荷処理部104は、算出された加工負荷が所定範囲外の場合、所定範囲内に加工負荷が収まるように、加工対象200に対する移動情報を更新して外部機器300にフィードバックしても構わない。例えば、算出された加工負荷が第一閾値を超えている場合、加工負荷処理部104は、加工工具210の単位時間あたりの移動量を抑制するように移動情報を更新する。また、算出された加工負荷が第二閾値に満たない場合、加工負荷処理部104は、加工工具210の単位時間あたりの移動量が増加するように移動情報を更新する。以上の更新された情報を外部機器300にフィードバックすることにより、外部機器300が作成した加工プログラムを更新することができ、加工対象200を加工する加工時間の短縮を図ることが可能となる。
【0033】
次に、加工シミュレーションシステム100の動作を説明する。図12は、加工シミュレーションシステム100の動作の流れを説明するフローチャートである。同図に示すように、対象外形情報処理部101は、外部機器300から加工対象200の表面形状情報を取得する(S101)。次に対象外形情報処理部101は、加工対象200の表面形状を複数の第一切断面201で切断し、第一切断面201と表面形状との交線である第一対象外形線221を複数の第一対象外形点223の座標で示した第一対象外形情報を生成する(S102)。第一対象外形情報は、一つの第一切断面201については二次元の座標で表される第一対象外形点223の集合であるため、加工対象200をボックスモデルで表現した場合に比べ、データ量を抑制することができる(例えば20分の1程度)。従って、メモリ容量の少ないコンピュータを用いても加工工程をシミュレーションすることができる。
【0034】
次に、工具外形情報処理部102は、外部機器300から加工工具210の外形形状を示す情報、および移動情報を取得する(S103)。なお、加工工具210の外形形状を示す情報としては、工具の径や長さなどを示す情報ばかりでなく工具の型番などでもよい。
【0035】
次に、第n時刻における、第一切断面201上の加工工具210の外形線を示す第一工具外形情報を工具外形情報処理部102が生成する(S104)。第n時刻は、外部機器300から取得した加工工具210の移動情報に対応付けられている。例えば、加工工具210の移動開始時刻をn=0とし、所定の時間が経過する毎にnがカウントアップされる。また、ある時刻では、加工工具210が第一切断面201に切断されていない場合もあり得る。
【0036】
次に、加工情報処理部103は、対象外形情報処理部101が生成した第一対象外形情報と工具外形情報処理部102が生成した第一工具外形情報とに基づき第一重複領域230を生成する(S105)。定常的な加工が行われている加工工程などにおいては同一時刻に複数の第一重複領域230が生成される。なお、第一対象外形情報が生成されても第一重複領域230が生成されない場合もある。
【0037】
本実施の形態の場合、加工負荷処理部104は、生成された第一重複領域230に基づき第n時刻における加工負荷を算出する(S106)。なお、加工負荷処理部104は、時刻毎に加工負荷を算出するのではなく、各時刻の第一重複領域230の記録に基づき加工負荷を算出しても構わない。
【0038】
次に、加工情報処理部103は、第一対象外形情報から第一重複領域230を除外して第一対象外形情報を更新する(S107)。
【0039】
加工シミュレーションシステム100において実行される加工シミュレーションプログラムは、上記S104からS107までの工程を加工工具210の移動情報の最初から最後まで繰り返し実行し加工工程をシミュレーションする(S108)。
【0040】
最後に、加工負荷処理部104は、記録された各時刻における加工負荷に基づき加工負荷が所定の範囲内に収まるように移動情報を更新し、外部機器300にフィードバックする(S109)。
【0041】
以上の加工シミュレーションプログラムを加工シミュレーションシステム100で実行することにより、オーバーハングのある複雑な形状の加工対象200などであっても従来に比べコンピュータが処理するメモリ容量を大幅に削減しつつ、加工工程を正確にシミュレーションすることが可能となる。
【0042】
また、加工工程の各段階において加工負荷が容易に算出されるため、加工負荷が所定の範囲に収まるように移動情報を更新することができる。従って、加工工具210の負担を軽減して加工工具210の寿命を延ばすことができ、また加工工具210の負担の最適化を図って加工時間の短縮化を行うことが可能となる。
【0043】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0044】
例えば、上記実施の形態では、加工工具210として第一工具外形線211が矩形になるスクエアエンドミルを例示して説明したが、図13の左側に示すように第一工具外形線211が矩形にならない例えばボールエンドミルなどが加工工具210の場合でも、図13の右側に示すように一枚の第一切断面201において矩形情報(211a、211b、211c、211d)からなる複数の第一工具外形情報で近似することにより上記実施の形態で説明した各処理を繰り返すだけで加工工程をシミュレーションすることができる。
【0045】
具体的には、図14に示すように、工程S201からS203までは上記S101からS103と同様の処理を行い、次に、工具外形情報処理部102が、第n時刻における第一工具外形情報の1つである第一工具外形情報mを生成する(S204)。第一工具外形情報mは図13における211a、211b、211c、211dのいずれかに対応する。
【0046】
次に、加工情報処理部103は、第一工具外形情報mに基づき重複領域mを生成し(S205)、第一対象外形情報を更新する(S206)。以上、S204からS206の工程を全ての矩形情報について実行する(S207)。
【0047】
次に、全ての第一工具外形情報によって精製される重複領域mを積算して第一重複領域230を加工情報処理部103が生成する(S208)。以上の各処理を加工工具の移動が終了するまで実行する(S209)ことにより、複雑な形状の加工工具であっても加工工程を従来よりも少ないメモリでシミュレーションすることが可能となる。
【0048】
また、加工シミュレーションシステム100、および加工シミュレーションプログラムは、第一切断面201と交差する複数の第二切断面により異なる視点から加工シミュレーションを実行しても構わない。これにより、シミュレーションの精度を向上させることが可能となる。また、加工シミュレーションシステム100、および加工シミュレーションプログラムは、第一切断面201に関するシミュレーションの終了後に第二切断面に関するシミュレーションを実行してもよく、第n時刻において、第一切断面201に関する処理と第二切断面に関する処理を実行しても構わない。
【0049】
また、外部機器300が実際に存在する加工対象200から第一外形情報を生成し、対象外形情報処理部101は、当該情報を外部機器300から取得しても構わない。
【0050】
また、対象外形情報処理部101は、曲線を直線で近似し、第一対象外形情報を生成しても構わない。
【0051】
また、各処理部、および各処理部で実行される処理は、一つの装置で実現される場合ばかりでなく、複数の装置が分担して処理しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、NC加工機などに提供される加工プログラムの確認、更新などに利用可能である。
【符号の説明】
【0053】
100 加工シミュレーションシステム
101 対象外形情報処理部
102 工具外形情報処理部
103 加工情報処理部
104 加工負荷処理部
200 加工対象
201 第一切断面
210 加工工具
211 第一工具外形線
213 第一工具外形点
221 第一対象外形線
223 第一対象外形点
230 第一重複領域
231 交点
300 外部機器
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