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特許7345836ひび割れ検知装置、ネットワークシステム、およびひび割れ検知装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】ひび割れ検知装置、ネットワークシステム、およびひび割れ検知装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20230911BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20230911BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20230911BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
G01N33/38
E04G23/02 A
G01N3/00 M
G01N17/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019214990
(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公開番号】P2021085764
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】506162828
【氏名又は名称】FSテクニカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】弁理士法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 正吾
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-4798(JP,A)
【文献】特開2015-108240(JP,A)
【文献】特開2019-183476(JP,A)
【文献】特開2019-164396(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0225509(US,A1)
【文献】特許第6046302(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
E04G 23/02
G01N 3/00
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造体に穿孔した下穴に設けられ、前記下穴に交差するように生ずる前記コンクリート構造体のひび割れを検知するひび割れ検知装置であって、
前記下穴に遊嵌されると共に、前記下穴の奥部において先端部が前記コンクリート構造体に定着される棒状アンカーと、
前記下穴の開口部側において前記コンクリート構造体に定着されるスリーブ部と、
外部側から前記スリーブ部に当接した状態で、前記棒状アンカーの基端部に設けられ、前記ひび割れが発生したときに、前記スリーブ部の外方への微小移動を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づく情報を、情報出力装置に出力する出力部と、を備えることを特徴とするひび割れ検知装置。
【請求項2】
前記出力部は、前記検知部により、前記スリーブ部の外方への所定の移動量閾値を超える移動が検知された検知日時を、前記情報として、前記情報出力装置に出力することを特徴とする請求項1に記載のひび割れ検知装置。
【請求項3】
前記情報出力装置は、表示装置であり、
前記表示装置をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載のひび割れ検知装置。
【請求項4】
前記情報出力装置は、外部装置であり、
前記出力部は、前記外部装置に前記情報を送信する通信インターフェースを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のひび割れ検知装置。
【請求項5】
前記出力部は、前記検知部により、前記スリーブ部の外方への所定の移動量閾値を超える移動が検知されたとき、前記情報出力装置に前記情報を出力することを特徴とする請求項1に記載のひび割れ検知装置。
【請求項6】
前記情報出力装置は、ひび割れ検知装置とネットワークを介して接続された外部サーバーであり、
前記出力部は、前記外部サーバーに前記情報を送信する通信インターフェースを含むことを特徴とする請求項5に記載のひび割れ検知装置。
【請求項7】
請求項6に記載のひび割れ検知装置と、
前記外部サーバーと、が前記ネットワークを介して接続されていることを特徴とするネットワークシステム。
【請求項8】
コンクリート構造体に穿孔した下穴に遊嵌されると共に、前記下穴の奥部において先端部が前記コンクリート構造体に定着される棒状アンカーと、
前記下穴の開口部側において前記コンクリート構造体に定着されるスリーブ部と、を備え、
前記下穴に交差するように生ずる前記コンクリート構造体のひび割れを検知するひび割れ検知装置の制御方法であって、
外部側から前記スリーブ部に当接した状態で、前記棒状アンカーの基端部に設けられた検知部により、前記ひび割れが発生したときに、前記スリーブ部の外方への微小移動を検知する検知ステップと、
前記検知部の検知結果に基づく情報を、情報出力装置に出力する出力ステップと、を実行することを特徴とするひび割れ検知装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造体に発生するひび割れを、コンクリート塊が剥落する前に検知する、ひび割れ検知装置、ネットワークシステム、およびひび割れ検知装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ひび割れを検知するものではないが、剥落を防止するコンクリート構造体の剥落防止構造が知られている(特許文献1参照)。
この剥落防止構造は、トンネル等のコンクリート構造物の壁面において、壁面から剥離したコンクリート片の落下を防止するものであり、壁面の全域に延展した格子状補強材と、格子状補強材の一部を押さえる補強材固定具と、補強材固定具をコンクリート構造体に固定するアンカー材と、を備えている。
格子状補強材は、メッシュ面と格子枠とから成るFRPメッシュシートで構成され、対象となるコンクリート構造物の壁面全域を被覆している。補強材固定具は、鋼板等で形成され、格子状補強材の1の格子枠に対応する枠状の支持部と、アンカー材用のボルト孔が形成された中央部と、対角線上において支持部と中央部とを連結する帯状の屈撓部と、を有している。支持部の内側には、中央部および屈撓部以外の部分として開放窓が形成されている。また、アンカー材は、心棒打ち込み式の拡張アンカーで構成されている。
補強材固定具は、ボルト孔を介してコンクリート構造体に打ち込まれたアンカー材により、格子状補強材をコンクリート構造物の壁面に押し付けて固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6046302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、従来のコンクリート構造体の剥落防止構造では、FRPメッシュシート(格子状補強材)により、コンクリート片の剥落を防止することができると共に、FRPメッシュシート越しに壁面に生じたひび割れを視認することができる。しかし、設備が大掛かりとなり、コストが嵩む問題がある。また、アンカー材である拡張アンカーは、振動等による抜け落ちに関し信頼性が低く、且つアンカー材より深い位置に発生するひび割れには対応不能となる。すなわち、従来の剥落防止構造では、コンクリート構造体の狭い領域における剥落には対応できても、広い領域の剥落には対応できない問題がある。
一方、コンクリート構造体の剥落の原因であるひび割れは、コンクリート構造体の内部に発生し、内部から表面(壁面)に進行する。このため、コンクリート構造体の表面にひび割れが確認できたときには、何時剥落が生じてもおかしくない状態といえる。
【0005】
本発明は、コンクリート構造体の内部に発生したひび割れを検知し、その検知結果に基づく情報を管理者に通知することができる、ひび割れ検知装置、ネットワークシステム、およびひび割れ検知装置の制御方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のひび割れ検知装置は、コンクリート構造体に穿孔した下穴に設けられ、下穴に交差するように生ずるコンクリート構造体のひび割れを検知するひび割れ検知装置であって、下穴に遊嵌されると共に、下穴の奥部において先端部がコンクリート構造体に定着される棒状アンカーと、下穴の開口部側においてコンクリート構造体に定着されるスリーブ部と、外部側からスリーブ部に当接した状態で、棒状アンカーの基端部に設けられ、ひび割れが発生したときに、スリーブ部の外方への微小移動を検知する検知部と、検知部の検知結果に基づく情報を、情報出力装置に出力する出力部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明のひび割れ検知装置の制御方法は、コンクリート構造体に穿孔した下穴に遊嵌されると共に、下穴の奥部において先端部がコンクリート構造体に定着される棒状アンカーと、下穴の開口部側においてコンクリート構造体に定着されるスリーブ部と、を備え、下穴に交差するように生ずるコンクリート構造体のひび割れを検知するひび割れ検知装置の制御方法であって、外部側からスリーブ部に当接した状態で、棒状アンカーの基端部に設けられた検知部により、ひび割れが発生したときに、スリーブ部の外方への微小移動を検知する検知ステップと、検知部の検知結果に基づく情報を、情報出力装置に出力する出力ステップと、を実行することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、コンクリート構造体に設けられた棒状アンカーは、その先端部を下孔の奥部においてコンクリート構造体に定着されると共に、棒状アンカーの基端部に設けられた検知部により、下穴の開口部側に定着されたスリーブ部の外方への微小移動を検知する。つまり、検知部は、コンクリート構造体の内部にひび割れが発生すると、コンクリート構造体の表面に膨らみが生じ、この膨らみによるスリーブ部の外方への微小移動を検知する。また、ひび割れ検知装置は、検知部の検知結果に基づく情報を情報出力装置に出力するため、コンクリート構造体を管理する管理者は、情報出力装置から、ひび割れの発生の可能性を知ることができる。これにより、管理者は、コンクリート構造体の表面にひび割れが現れる前段階で、ひび割れの発生を把握することができ、ひいては、コンクリート片の剥落を防止することができる。
なお、金属製アンカーは、あと施工アンカー(後付け)であってもよいし、先付けのアンカーであってもよい。
【0009】
上記のひび割れ検知装置において、出力部は、所定の期間において、検知部により、スリーブ部の外方への所定の移動量閾値を超える移動が検知された検知日時を、情報として、情報出力装置に出力することが好ましい。
【0010】
この構成によれば、管理者は、スリーブ部の外方への所定の移動量閾値を超える移動が検知された検知日時、すなわちコンクリート構造体の内部にひび割れが発生した日時を知ることができる。
【0011】
上記のひび割れ検知装置において、情報出力装置は、表示装置であり、表示装置をさらに備えることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、管理者は、ひび割れ検知装置に備えられた表示装置から、コンクリート構造体の内部にひび割れが発生した可能性があるか否かを知ることができる。
なお、表示装置は、文字や画像を表示するディスプレーであってもよいし、光の発光状態で情報を出力するLED(Light Emitting Diode)等の照明器具であってもよい。
【0013】
上記のひび割れ検知装置において、情報出力装置は、外部装置であり、出力部は、外部装置に情報を送信する通信インターフェースを含むことが好ましい。
【0014】
この構成によれば、管理者は、外部装置を用いて、コンクリート構造体の内部にひび割れが発生した可能性があるか否かを知ることができる。
なお、通信インターフェースの通信手段は、有線通信であってもよいし、無線通信であってもよい。
【0015】
上記のひび割れ検知装置において、出力部は、検知部により、スリーブ部の外方への所定の移動量閾値を超える移動が検知されたとき、情報出力装置に情報を出力することが好ましい。
【0016】
この構成によれば、管理者は、スリーブ部の外方への所定の移動量閾値を超える移動が検知されたとき、すなわちコンクリート構造体の内部にひび割れが発生したとき、その旨を知ることができる。
【0017】
上記のひび割れ検知装置において、情報出力装置は、ひび割れ検知装置とネットワークを介して接続された外部サーバーであり、出力部は、外部サーバーに情報を送信する通信インターフェースを含むことが好ましい。
【0018】
この構成によれば、管理者は、ひび割れ検知装置とネットワークを介して接続された外部サーバーを用いて、コンクリート構造体の内部におけるひび割れの発生を知ることができる。つまり、管理者は、ひび割れ検知装置の設置場所から離れた場所で、ひび割れの発生を把握することができる。また、複数のひび割れ検知装置と外部サーバーとをネットワーク接続することにより、管理者は、複数個所におけるひび割れの発生の可能性を同時に把握することができる。
なお、通信インターフェースの通信手段は、有線通信であってもよいし、無線通信であってもよい。
【0019】
本発明のネットワークシステムは、上記のひび割れ検知装置と、外部サーバーと、がネットワークを介して接続されていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、管理者が、ひび割れ検知装置の設置場所から離れた場所でひび割れの発生を把握可能なネットワークシステムを構築することができる。
なお、ネットワークシステムは、ひび割れ検知装置と外部サーバーとの間に中継器を設けた構成でもよいし、ひび割れ検知装置と外部サーバーとが、複数のネットワークを介して接続された構成でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ひび割れ検知装置の使用状態を表した説明図であって、正面図(a)および側面図(b)である。
図2】ひび割れ検知装置の構造図である。
図3】ひび割れ検知装置の分解図である。
図4】第1実施形態に係るひび割れ検知装置のブロック図である。
図5】第1実施形態に係るひび割れ検知装置に表示される情報の一例を示す図であって、定常状態の図(a)、および検知状態の図(b)である。
図6】ひび割れ検知装置による検知処理を示すフローチャートである。
図7】ひび割れ検知装置によるユーザー操作に対する処理を示すフローチャートである。
図8】第2実施形態に係るひび割れ検知システムのブロック図である。
図9】管理者端末に表示される情報の一例を示す図である。
図10】第2実施形態に係るひび割れ検知装置によるひび割れ検知装置側処理を示すフローチャートである。
図11】第3実施形態に係るネットワークシステムのシステム構成図である。
図12】第3実施形態に係るネットワークシステムの、ひび割れ検知装置および集中管理サーバーのブロック図である。
図13】第3実施形態に係る集中管理サーバーに表示される情報の一例を示す図である。
図14】第3実施形態に係る集中管理サーバーによる集中管理サーバー側処理を示すフローチャートである。
図15】第4実施形態に係るアンカーシステムの構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付の図面を参照して、本発明の一実施形態に係るひび割れ検知装置、ネットワークシステム、およびひび割れ検知装置の制御方法について説明する。ひび割れ検知装置は、コンクリート構造体の内部に生ずる初期段階のひび割れ(クラック)を検出するものである。コンクリート構造体の内部に生ずるひび割れが進行しコンクリート構造体の表面に現れると、コンクリート片の剥落に至ることが知られている。本実施形態に係るひび割れ検知装置は、剥落の原因となる初期段階のひび割れを検出する。また、ひび割れ検知装置は、ひび割れの発生を検知すると、その検知結果を示す情報を外部出力装置に出力する機能を有する。なお、ひび割れ検知装置は、ディスプレー(表示装置)を搭載した構成と、ディスプレーを搭載しない構成と、を示す。前者は、第1実施形態にて説明し、後者は、第2実施形態にて説明する。
【0023】
一方、ネットワークシステムは、上記のひび割れ検知装置と、集中管理サーバーと、がネットワーク接続された構成である。集中管理サーバーは、複数のひび割れ検知装置を集中管理するサーバーである。ネットワークシステムについては、第3実施形態にて説明する。
【0024】
[概要]
各実施形態を説明する前に、ひび割れ検知装置12Aおよびアンカーシステム14の概要を説明する。図1は、ひび割れ検知装置12Aの使用状態を表した説明図であって、正面図(a)および側面図(b)である。同図は、高速道路のトンネル内におけるジェットファンF廻りの構造であり、トンネルの天井を構成するコンクリート構造体Cには、6本の支持金具Sを介して、トンネル内を換気するためのジェットファンFが、吊設支持されている。各支持金具SのベースプレートSaに対応して、コンクリート構造体Cには、4本の金属製アンカー10が打ち込まれている。すなわち、コンクリート構造体Cに打ち込んだ1のベースプレートSa当たり、4本の金属製アンカー10により、支持対象物であるジェットファンFが、コンクリート構造体Cに吊設支持されている。
【0025】
一方、コンクリート構造体Cには、その全域において、例えば1m当たり1本の割合で第1ひび割れ検知装置12Aが設けられている。また、各金属製アンカー10に隣接して、第2ひび割れ検知装置12Bが設けられている。第1ひび割れ検知装置12Aは、コンクリート構造体Cにおいて、コンクリート片の剥落の原因となるひび割れの初期段階を検知するものであり、第2ひび割れ検知装置12Bは、コーン状破壊の初期段階(コーン状のひび割れ)を検知するものである。そして、ジェットファンFを支持する金属製アンカー10と第2ひび割れ検知装置12Bとにより、本実施形態のアンカーシステム14が構成されている。なお、第1ひび割れ検知装置12Aと第2ひび割れ検知装置12Bとは、同一の基本構造を有している。アンカーシステム14については、第4実施形態にて説明する。
【0026】
[第1実施形態]
図2および図3を参照し、第1ひび割れ検知装置12Aの構造を説明する。図2は、第1ひび割れ検知装置12Aの構造図であり、図3は、第1ひび割れ検知装置12Aの分解図である。なお、図2以降の各図は、図1の一部を上下反転し、拡大して表している。これらの図に示すように、第1ひび割れ検知装置12Aは、コンクリート構造体Cに穿孔した下穴BHに設けられている。
【0027】
下穴BHは、想定されるひび割れが交差するように穿孔され、且つ想定されるひび割れよりも深い位置まで延びている。また、下穴BHは、主体を為す長いストレート穴部BHaと、開口部側の短い定着孔部BHbとから成り、同軸上においてストレート穴部BHaと定着孔部BHbとは、環状段部BHcを存して連通している。そして、定着孔部BHbの開口部分には、逆円錐台形状に面取りされたザグリ部BHdが形成されている。
【0028】
図2および図3に示すように、第1ひび割れ検知装置12Aは、下穴BHに挿入された状態でコンクリート構造体Cに定着される棒状アンカー21と、下穴BHの定着孔部BHbにおいてコンクリート構造体Cに定着されるスリーブ部22と、外部側からスリーブ部22に当接した状態で棒状アンカー21の基端部に取り付けられた発生検知機構部23と、を備えている。発生検知機構部23は、「検知部」の一例である。また、棒状アンカー21およびスリーブ部22は、スチールやステンレススチール等で形成されている。
【0029】
棒状アンカー21は、全ネジボルトで構成され、下穴BHのストレート穴部BHaに遊嵌されるアンカー本体25と、アンカー本体25の先端部を、下穴BH(ストレート穴部BHa)の最奥部においてコンクリート構造体Cに定着させるアンカー定着部26と、を有している。アンカー本体25の先端部には、アンカー定着部26が螺合し、基端部には、スリーブ部22内に位置する発生検知機構部23が螺合している。
【0030】
詳細は後述するが、棒状アンカー21の先端部は、アンカー定着部26を介して下穴BHの最奥部に定着されている。また、棒状アンカー21の基端部に螺合された発生検知機構部23の一部は、スリーブ部22の基端面に当接している。なお、アンカー本体25は、基端部および先端部にのみ雄ネジが形成されていてもよい。
【0031】
アンカー定着部26は、先端側に拡張部32を有し、基端側がアンカー本体25に螺合する筒状本体31と、筒状本体31に挿入される拡張カラー33と、打ち込みにより拡張カラー33を介して拡張部32を拡開させる拡張コーン34と、を有している(図3参照)。このアンカー定着部26では、拡張カラー33および拡張コーン34を組み込んだ筒状本体31を、下穴BH(ストレート穴部BHa)の最奥部に挿入し、打込み棒を用いて拡張コーン34を打ち込むようにする。
【0032】
拡張コーン34を打ち込むと、拡張カラー33が拡開し、拡開した拡張カラー33により筒状本体31の拡張部32が拡開する。外方に広がった拡張部32は、下穴BHの周面に圧接され、筒状本体31が下穴BHの最奥部に定着される。そして、定着された筒状本体31(アンカー定着部26)に、アンカー本体25の先端部が螺合されるようになっている。なお、筒状本体31の定着を確実なものとし、且つアンカー本体25の先端部が筒状本体31に接着される(緩み止め)ように、予め下穴BHの最奥部に接着剤(図示省略)を注入しておくことが好ましい。
【0033】
スリーブ部22は、スチールやステンレススチール等で形成され、内部に、後述する発生検知機構部23の接続部42を収容した状態で、下穴BHの定着孔部BHbに定着されている。スリーブ部22の外周面には、雄ネジ22a或いはリング状の凹凸が形成されており(図示のものは雄ネジ22a:図3参照)、定着孔部BHbに打ち込むようにして、コンクリート構造体Cに定着される。
【0034】
発生検知機構部23は、外部側からスリーブ部22の基端面22bに当接する直方体状の装置本体41と、棒状アンカー21の基端部に螺合する接続部42と、を有し、装置本体41および接続部42は、一体に形成されている。
【0035】
装置本体41は、下穴BHのザグリ部BHd内に位置すると共に、その底面はスリーブ部22の基端面22bに当接している。また、装置本体41の表面は外部に露出し、コンクリート構造体Cの表面と略面一に配設されている。これにより、装置本体41は、外力による破損から保護される一方、外部から視認および操作可能となっている。また、装置本体41の表面には、ディスプレー54と、操作ボタン55と、が配置されている(図3参照)。ディスプレー54は、「情報出力装置」および「表示装置」の一例である。
【0036】
接続部42は、いわゆる袋ナットの形態を有し、スリーブ部22内において棒状アンカー21の基端部に螺合している。この螺合により、発生検知機構部23が棒状アンカー21に取り付けられると共に、装置本体41がスリーブ部22の基端面22bに当接する。
【0037】
また、接続部42は、ストレート穴部BHaの径よりも大きい径に形成されている。このため、コンクリート片の剥落が生ずる場合があっても、ひび割れの発生から時間をおかず、下穴BHの環状段部BHcが接続部42につかえ、接続部42を介して棒状アンカー21がコンクリート片を支える状態になる。これにより、コンクリート片の重量が棒状アンカー21の引張り耐力以下であれば、コンクリート片の剥落を防止することができる。
【0038】
ここで、図3を参照して、第1ひび割れ検知装置12Aの施工手順について簡単に説明すると共に、発生検知機構部23の機能について説明する。この第1ひび割れ検知装置12Aは、先ず下穴BHの最奥部に、接着剤注入器等を用いて接着剤を注入する。次に、拡張カラー33および拡張コーン34を組み込んだ筒状本体31を、下穴BHの最奥部に挿入し、拡張コーン34を打ち込んで筒状本体31を下穴BHに定着させる。次に、接着剤が硬化する前に、アンカー本体25を下穴BHに挿入し、筒状本体31に螺合する。
【0039】
また、棒状アンカー21の施工と相前後して、スリーブ部22を定着孔部BHbに打ち込み、スリーブ部22をコンクリート構造体Cに定着させる。そして最後に、棒状アンカー21の基端部に発生検知機構部23をネジ込み、スリーブ部22の基端面22bに対する装置本体41の当接圧を調整する(図2参照)。
【0040】
このようにして、第1ひび割れ検知装置12Aを設置した状態において、コンクリート構造体Cの内部にひび割れが発生した場合、コンクリート構造体Cの表面がわずかに盛り上がる(天井面においては垂れ下がる)。コンクリート構造体Cの表面が盛り上がると、これに定着されているスリーブ部22が外方に微小移動し、スリーブ部22の基端面22bにより、装置本体41が押圧される。発生検知機構部23は、この押圧力を、装置本体41に組み込まれた圧力センサー52により測定する。また、発生検知機構部23は、圧力センサー52により所定の圧力閾値を超える圧力値を計測した場合、スリーブ部22が所定の移動量閾値を超えて移動したものと判定し、ひび割れの発生を検知する。
【0041】
次に、図4を参照し、第1実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12AA(第1ひび割れ検知装置12A)の制御系の構成を説明する。第1ひび割れ検知装置12AAは、制御系の構成として、制御部51と、圧力センサー52と、メモリー53と、ディスプレー54と、操作ボタン55と、を備えている。なお、これら制御系の構成は、いずれも発生検知機構部23の装置本体41に組み込まれている。
【0042】
制御部51は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーを含み、第1ひび割れ検知装置12AAの各部を制御する。また、制御部51は、RTC(Real Time Clock)を含み、現在日時を計測する。圧力センサー52は、上記のとおり、コンクリート構造体Cのひび割れに起因する圧力値を測定する。メモリー53は、ひび割れの発生を検知した検知日時を記憶する。ここで、検知日時とは、制御部51がひび割れの発生を検知した時点において、RTCで計測された現在日時を指す。ディスプレー54は、ひび割れの発生の有無を示す情報等を表示する。操作ボタン55は、ディスプレー54に情報を表示させたり、メモリー53をリセットさせたりする際に操作される。管理者は、操作ボタン55を短押しすることにより、ディスプレー54に情報を表示させ、操作ボタン55を長押しすることにより、メモリー53に記憶されている情報をリセットさせることができる。
【0043】
上記の構成により、制御部51は、圧力センサー52により計測された圧力値に基づいて、コンクリート構造体Cのひび割れの発生を検知し(検知部,検知ステップ)、その検知結果を示す情報として、ひび割れの発生を検知した場合の検知日時を、メモリー53に記憶させる。また、制御部51は、操作ボタン55の短押し操作に基づいて、メモリー53に記憶されている情報をディスプレー54に出力する(出力部,出力ステップ)。
【0044】
図5は、第1ひび割れ検知装置12AAのディスプレー54に表示される情報の一例を示す図であって、定常状態の図(a)、および検知状態の図(b)である。同図(a)に示すように、ひび割れが検知されていない場合(定常状態の場合)、第1ひび割れ検知装置12AA(発生検知機構部23)は、ユーザー操作にしたがって第1画面D1をディスプレー54に表示する。第1画面D1は、ひび割れが発生していない旨の情報を表示する。一方、同図(b)に示すように、ひび割れが検知されている場合(検知状態の場合)、ひび割れ検知装置12Aは、ユーザー操作にしたがって第2画面D2をディスプレー54に表示する。第2画面D2は、ひび割れが発生した旨と、ひび割れの発生を検知した検知日時と、を示す情報を表示する。
【0045】
なお、第1ひび割れ検知装置12AAは、前回メモリー53のリセット操作が行われてから、今回ディスプレー54の表示操作が行われるまでの間におけるひび割れの発生の有無をディスプレー54に表示する。すなわち、第1ひび割れ検知装置12AAは、前回メモリー53のリセット操作が行われてから、今回ディスプレー54の表示操作が行われるまでの間、ひび割れの発生が一度も検知されていない場合、第1画面D1を表示し、ひび割れの発生が一度でも検知された場合、第2画面D2を表示する。前回メモリー53のリセット操作が行われてから、今回ディスプレー54の表示操作が行われるまでの間は、「所定の期間」の一例である。なお、第1ひび割れ検知装置12AAは、前回メモリー53のリセット操作が行われてから、今回ディスプレー54の表示操作が行われるまでの間に、ひび割れの発生が複数回検知された場合、第2画面D2に、複数回分の検知日時を表示する。
【0046】
図6は、第1ひび割れ検知装置12AAによる検知処理を示すフローチャートである。同図のフローチャートは、定期的に繰り返し実行される処理である。第1ひび割れ検知装置12AAは、圧力センサー52の計測結果に基づいて、ひび割れの発生を検知したか否かを判別する(S01)。第1ひび割れ検知装置12AAは、ひび割れの発生を検知したと判定した場合(S01:Yes)、その検知日時をメモリー53に記憶する(S02)。一方、第1ひび割れ検知装置12AAは、ひび割れの発生を検知していないと判定した場合(S01:No)、検知処理を終了する。
【0047】
図7は、第1ひび割れ検知装置12AAによるユーザー操作に対する処理を示すフローチャートである。同図のフローチャートは、操作ボタン55が操作されたときに実行される処理である。第1ひび割れ検知装置12AAは、操作ボタン55が短押しされたか否かを判別する(S11)。なお、「短押し」とは、操作ボタン55の押下継続時間が時間T1以上時間T2(時間T2>時間T1)の押下操作を指す。第1ひび割れ検知装置12AAは、操作ボタン55が短押しされたと判定した場合(S11:Yes)、メモリー53に記憶されている情報に基づく画面をディスプレー54に表示する(S12)。ここでは、第1ひび割れ検知装置12AAは、メモリー53に検知日時が記憶されていない場合、第1画面D1を表示し、メモリー53に検知日時が記憶されている場合、第2画面D2を表示する。一方、第1ひび割れ検知装置12AAは、操作ボタン55が短押しされていないと判定した場合(S11:No)、S13に進む。
【0048】
続いて、第1ひび割れ検知装置12AAは、操作ボタン55が長押しされたか否かを判別する(S13)。なお、「長押し」とは、操作ボタン55の押下継続時間が時間T2を超える押下操作を指す。第1ひび割れ検知装置12AAは、操作ボタン55が長押しされたと判定した場合(S13:Yes)、メモリー53に記憶されている情報をリセットする(S14)。「リセットする」とは、情報を消去することを指す。一方、第1ひび割れ検知装置12AAは、操作ボタン55が長押しされていないと判定した場合(S13:No)、すなわち、操作ボタン55の押下継続時間が時間T1未満の場合、ユーザー操作に対する処理を終了する。
【0049】
なお、操作ボタン55の短押し操作により、ディスプレー54に表示された情報を確認した管理者は、例えば以下のような対応策を講ずる。先ず、管理者は、打鍵によりひび割れの領域を検査する。ひび割れの領域が狭く、且つひび割れの一部がコンクリート構造体Cの表面に現れている場合、管理者は、ひび割れに樹脂注入等を行ってこれを補修する。この場合、管理者は、操作ボタン55の長押し操作により、メモリー53に記憶されている情報をリセットさせる。一方、ひび割れの領域が広い場合、管理者は、ひび割れを境にコンクリート構造体Cの浮き部分をハツリ落とし、この部分をやり替える。この場合、管理者は、第1ひび割れ検知装置12AAを新たに設置する。
【0050】
以上説明したとおり、第1実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12AAは、コンクリート構造体Cの内部に発生したひび割れを検知し、その検知結果に基づく情報をディスプレー54に表示する。これにより、管理者は、コンクリート構造体Cの表面にひび割れが現れる前段階で、ひび割れの発生を把握することができ、ひいては、コンクリート片の剥落を防止することができる。
【0051】
なお、第1実施形態では、以下の変形例を採用可能である。
第1実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12AAは、前回メモリー53のリセット操作が行われてから、今回ディスプレー54の表示操作が行われるまでの間におけるひび割れの発生の有無をディスプレー54に表示したが、固定期間(例えば、表示操作が行われた時点から過去1か月、または過去1年)の間におけるひび割れの発生の有無をディスプレー54に表示してもよい。また、メモリー53のリセット手段を設けず、第1ひび割れ検知装置12AAの検知開始時(設置開始時)以降におけるひび割れの発生の有無をディスプレー54に表示する構成でもよい。
【0052】
また、第1実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12AAは、圧力センサー52の計測結果に基づいて、ひび割れの発生を検知したが、圧力センサー52以外のセンサーを用いて、ひび割れの発生を検知してもよい。例えば、第1ひび割れ検知装置12AAは、スリーブ部22の外方への微小移動に伴う移動量(移動長さ)を計測し、所定の移動量閾値を超える移動量を計測することにより、ひび割れの発生を検知してもよい。その他、発生検知機構部23に作用する荷重をロードセルや重量センサーにより計測し、所定の荷重閾値を超える荷重を計測することにより、ひび割れの発生を検知してもよい。
【0053】
また、第1実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12AAは、ディスプレー54を備えたが、光の発光状態で情報を出力するLED等の照明器具を、「表示装置」として用いてもよい。この場合、操作ボタン55が押下されたときのLEDの点灯の有無で、ひび割れの発生の有無を表示してもよい。
【0054】
[第2実施形態]
次に、図8ないし図10を参照し、第2実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12ABについて説明する。本実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12ABは、第1実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12AAと比較し、ディスプレー54および操作ボタン55を省略し、通信インターフェース56を追加した構成となっている。第1ひび割れ検知装置12ABは、ひび割れの検知結果に基づく情報を管理者端末100に送信する。管理者端末100は、管理者が、金属製アンカー10の点検時に所持するタブレット端末を想定している。管理者端末100は、「外部装置」の一例である。以下、第1実施形態と異なる点のみ説明する。なお、本実施形態において、第1実施形態と同様の構成部分については同様の符号を付し、詳細な説明を省略する。また、第1実施形態と同様の構成部分について適用される変形例は、本実施形態についても同様に適用される。
【0055】
図8は、本実施形態に係るひび割れ検知システムSY2のブロック図である。ひび割れ検知システムSY2は、第1ひび割れ検知装置12ABと、管理者端末100と、を備えている。第1ひび割れ検知装置12ABは、制御系の構成として、制御部51と、圧力センサー52と、メモリー53と、通信インターフェース56と、を備えている。通信インターフェース56は、「出力部」の一例である。通信インターフェース56は、管理者端末100と無線通信または有線通信を介して通信を行う。
【0056】
一方、管理者端末100は、制御系の構成として、制御部111と、記憶部112と、通信インターフェース113と、タッチパネル114と、を備えている。
【0057】
制御部111は、プロセッサーを含み、管理者端末100の各部を制御する。記憶部112は、管理アプリケーション61を始め、各種プログラムおよび各種データを記憶する。管理アプリケーション61は、第1ひび割れ検知装置12ABと通信し、第1ひび割れ検知装置12ABから取得した情報(検知日時)をタッチパネル114に表示させるためのアプリケーションである。通信インターフェース113は、第1ひび割れ検知装置12ABと通信を行う。タッチパネル114は、各種情報を表示したり、各種操作を行ったりするために用いられる。
【0058】
図9は、管理者端末100のタッチパネル114に表示される情報の一例を示す図である。同図は、第1ひび割れ検知装置12ABから取得した情報を表示する第1ひび割れ検知結果画面D3の表示例を示している。管理者端末100のタッチパネル114に対し、管理者が所定の操作を行うと、管理者端末100は、第1ひび割れ検知装置12ABに対し情報送信命令を送信する。第1ひび割れ検知装置12ABは、この情報送信命令に対し、メモリー53に記憶されている情報を管理者端末100に送信する。第1ひび割れ検知装置12ABは、メモリー53に検知日時が記憶されている場合、情報として、検知日時を管理者端末100に送信し、メモリー53に検知日時が記憶されていない場合、情報として、その旨を示す情報(例えば、「ゼロ」)を管理者端末100に送信する。
【0059】
管理者端末100は、第1ひび割れ検知装置12ABから情報を取得すると、第1ひび割れ検知結果画面D3を表示する。第1ひび割れ検知結果画面D3は、「ひび割れ検知装置ID」と、「検知結果」と、を対応付けて表示する。ここで、「ひび割れ検知装置ID」とは、第1ひび割れ検知装置12ABを特定するための識別情報である。特に図示しないが、第1ひび割れ検知装置12ABの装置本体41の表面(外部から視認可能な面)には、ひび割れ検知装置IDが印刷されたラベルが貼付されている。管理者端末100が、複数の第1ひび割れ検知装置12ABと、無線通信を介して同時通信可能である場合、管理者は、ひび割れ検知装置IDを用いて、第1ひび割れ検知結果画面D3に表示された情報と、第1ひび割れ検知装置12ABとを対応付ける。図9は、管理者端末100が、1台の第1ひび割れ検知装置12ABから情報を取得した場合の表示例を示している。
【0060】
また、「検知結果」は、ひび割れの発生の有無を示す情報である。管理者端末100は、第1ひび割れ検知装置12ABから検知日時を取得した場合、ひび割れの発生が検知された旨と、検知日時と、を「検知結果」欄に表示する。また、管理者端末100は、第1ひび割れ検知装置12ABから検知日時を取得しなかった場合(情報として、「ゼロ」を取得した場合)、ひび割れの発生が検知されていない旨を「検知結果」欄に表示する。
【0061】
図10は、本実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12ABによるひび割れ検知装置側処理を示すフローチャートである。なお、第1ひび割れ検知装置12ABは、定期的に検知処理(図6参照)を行っているものとする。図10に示すフローチャートは、第1ひび割れ検知装置12ABが、管理者端末100から命令を受信したときに実行される処理である。
【0062】
第1ひび割れ検知装置12ABは、管理者端末100から情報送信命令を取得したか否かを判別する(S21)。第1ひび割れ検知装置12ABは、管理者端末100から情報送信命令を取得したと判定した場合(S21:Yes)、管理者端末100に対し、メモリー53に記憶されている情報(検知日時または「ゼロ」)を送信する(S22)。一方、第1ひび割れ検知装置12ABは、管理者端末100から情報送信命令を取得していないと判定した場合(S21:No)、S23に進む。
【0063】
続いて、第1ひび割れ検知装置12ABは、管理者端末100からリセット命令を取得したか否かを判別する(S23)。管理者端末100は、管理者がタッチパネル114に対してリセット操作を行った場合、このリセット命令を第1ひび割れ検知装置12ABに送信する。第1ひび割れ検知装置12ABは、管理者端末100からリセット命令を取得したと判定した場合(S23:Yes)、メモリー53に記憶されている情報をリセットする(S24)。また、第1ひび割れ検知装置12ABは、管理者端末100からリセット命令を取得していないと判定した場合(S23:No)、ひび割れ検知装置側処理を終了する。
【0064】
以上説明したとおり、第2実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12ABによれば、表示機能および操作機能を備える必要がないため、装置構成を簡素化でき、ひいては第1ひび割れ検知装置12ABの低廉化を図ることができる。また、管理者端末100は、通信可能な範囲に複数の第1ひび割れ検知装置12ABが含まれる場合、複数の第1ひび割れ検知装置12ABに対し、同時に情報送信命令を送信可能であるため、管理者は、複数個所におけるひび割れの発生の有無を迅速に把握することができる。
【0065】
なお、第2実施形態では、以下の変形例を採用可能である。
第2実施形態において、管理者端末100は、タッチパネル114を備えたタブレット端末であるものとしたが、ディスプレーおよび操作機能を備えた情報処理端末を、管理者端末100として用いてもよい。また、スマートフォンなど、通話機能を備えた情報処理端末を、管理者端末100として用いてもよい。
【0066】
[第3実施形態]
次に、図11ないし図14を参照し、第3実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12ACと、これを備えたネットワークシステムSY3について説明する。ネットワークシステムSY3は、第1ひび割れ検知装置12ACの設置場所から離れた場所でひび割れの発生を把握可能とするものである。本実施形態においても、第2実施形態と同様に、第1実施形態と同様の構成部分については同様の符号を付し、詳細な説明を省略する。また、第1実施形態と同様の構成部分について適用される変形例は、本実施形態についても同様に適用される。
【0067】
図11は、本実施形態に係るネットワークシステムSY3のシステム構成図である。ネットワークシステムSY3は、1台以上の第1ひび割れ検知装置12ACと、中継器310と、集中管理サーバー320と、作業者端末330と、を備えている。集中管理サーバー320は、「外部サーバー」の一例である。
【0068】
第1ひび割れ検知装置12ACと中継器310は、無線通信または有線通信を介して接続されている。また、中継器310と集中管理サーバー320は、インターネット通信網NWを介して接続されている。インターネット通信網NWは、「ネットワーク」の一例である。なお、第1ひび割れ検知装置12ACと中継器310は、無線ネットワークまたは有線ネットワークを介して接続された構成でもよい。また、中継器310と集中管理サーバー320は、インターネット通信網NWだけでなく、社内LAN等のネットワークを介して接続された構成でもよい。作業者端末330は、コンクリート構造体Cの補修を行う作業者が所持する情報処理端末である。作業者端末330としては、例えばスマートフォン、タブレット端末、携帯電話等を適用可能である。
【0069】
1台以上の第1ひび割れ検知装置12ACは、各設置場所において、ひび割れの発生を検知する。集中管理サーバー320は、1台以上の第1ひび割れ検知装置12ACを統括管理する。なお、1台以上の第1ひび割れ検知装置12ACは、必ずしもその全てが1台の中継器310と接続される必要はなく、それぞれ異なる中継器310と接続される構成でもよい。
【0070】
図12は、本実施形態に係るネットワークシステムSY3の、第1ひび割れ検知装置12ACおよび集中管理サーバー320のブロック図である。本実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12ACの制御系の構成は、第2実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12ABと同様である。但し、本実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12ACの通信インターフェース56は、インターネット通信網NWおよび中継器310を介して、集中管理サーバー320と通信を行う。また、本実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12ACは、メモリー53のリセット機能を有しないものとする。
【0071】
集中管理サーバー320は、制御系の構成として、制御部321と、記憶部322と、通信インターフェース323と、ディスプレー324と、を備えている。
【0072】
制御部321は、プロセッサーを含み、集中管理サーバー320の各部を制御する。記憶部322は、管理アプリケーション61を記憶すると共に、検知結果記憶領域62を有している。管理アプリケーション61は、第1ひび割れ検知装置12ACから取得した情報(第1ひび割れ検知装置12ACの検知結果に基づく情報)をディスプレー324に表示させたり、第1ひび割れ検知装置12ACから、ひび割れの発生を示す情報を取得した場合に、作業者端末330に対して補修指示を行ったりするためのアプリケーションである。また、検知結果記憶領域62は、第1ひび割れ検知装置12ACごとに(ひび割れ検知装置IDごとに)、第1ひび割れ検知装置12ACから取得した情報(検知日時等)を記憶する領域である。一方、通信インターフェース113は、インターネット通信網NWおよび中継器310を介して、第1ひび割れ検知装置12ACと通信を行う。また、通信インターフェース113は、インターネット通信網を介して、作業者端末330と通信を行う。ディスプレー324は、各種情報を表示する。
【0073】
図13は、本実施形態に係る集中管理サーバー320のディスプレー324に表示される情報の一例を示す図である。集中管理サーバー320は、第1ひび割れ検知装置12ACから取得した情報に基づいて、同図に示す第2ひび割れ検知結果画面D4を表示する。第2ひび割れ検知結果画面D4は、「ひび割れ検知装置ID」と、「設置場所」と、「検知結果」と、「作業者通知」と、を対応付けて表示する。「ひび割れ検知装置ID」および「検知結果」については、第1ひび割れ検知結果画面D3(図9参照)と同様である。
【0074】
「設置場所」は、第1ひび割れ検知装置12ACの設置場所を示す情報である。「設置場所」は、「ひび割れ検知装置ID」と紐づけられて、記憶部322内の所定の領域に記憶されている情報である。つまり、集中管理サーバー320は、第1ひび割れ検知装置12ACから情報を取得した際、その第1ひび割れ検知装置12ACの「ひび割れ検知装置ID」に紐づけられた「設置場所」を示す情報を記憶部322内の所定の領域から読み出し、読み出した情報を第2ひび割れ検知結果画面D4の「設置場所」の欄に表示する。
【0075】
また、「作業者通知」は、「検知結果」がひび割れの発生を示すものである場合に、作業者端末330に対してその旨の通知を行ったか否かを示す情報である。ひび割れの発生が検知されている状態において、「作業者通知」の欄には、作業者端末330に対して通知が行われた場合、「通知完了」が表示され、通知が行われていない場合、「通知未完了」が表示される。また、ひび割れの発生が検知されていない状態において、「作業者通知」の欄には、「不要」が表示される。
【0076】
図14は、本実施形態に係る集中管理サーバー320による集中管理サーバー側処理を示すフローチャートである。なお、第1ひび割れ検知装置12ACは、定期的に検知処理(図6参照)を行い、ひび割れの発生が検知されたとき、検知日時を示す情報を、集中管理サーバー320に送信するものとする。図14に示すフローチャートは、集中管理サーバー320が、第1ひび割れ検知装置12ACから情報を取得可能な状態にある場合(管理アプリケーション61が起動されている場合)、定期的に実行される処理である。
【0077】
集中管理サーバー320は、第1ひび割れ検知装置12ACから情報(検知日時)を取得したか否かを判別する(S31)。集中管理サーバー320は、第1ひび割れ検知装置12ACから情報を取得していないと判定した場合(S31:No)、集中管理サーバー側処理を終了する。一方、集中管理サーバー320は、第1ひび割れ検知装置12ACから情報を取得したと判定した場合(S31:Yes)、検知結果記憶領域62の情報を更新する(S32)。すなわち、検知結果記憶領域62に、情報を取得した第1ひび割れ検知装置12ACのひび割れ検知装置IDと紐づけられた「検知結果」として、検知日時を示す情報を記憶させる。
【0078】
続いて、集中管理サーバー320は、作業者端末330に対し、修繕指示を行う(S33)。修繕指示とは、ひび割れの発生を検知した第1ひび割れ検知装置12ACのひび割れ検知装置IDを含む情報を、作業者端末330に送信する処理である。なお、フローチャートには図示しないが、集中管理サーバー320は、第1ひび割れ検知装置12ACから情報を取得したと判定したとき(S31:Yes)、および作業者端末330に対して修繕指示を行ったとき(S33)、第2ひび割れ検知結果画面D4(図13参照)の「検知結果」および「作業者通知」の欄の表示を更新する。
【0079】
以上説明したとおり、第3実施形態に係るネットワークシステムSY3によれば、管理者は、集中管理サーバー320を用いて、第1ひび割れ検知装置12ACの設置場所から離れた場所で、ひび割れの発生を把握することができる。また、集中管理サーバー320は、複数の第1ひび割れ検知装置12ACとネットワーク接続可能であるため、複数の第1ひび割れ検知装置12ACを一括管理することができる。さらに、集中管理サーバー320は、第1ひび割れ検知装置12ACから検知日時を示す情報を取得した場合、作業者端末330に対し補修指示を行うため、コンクリート構造体Cの補修を迅速に行うことができる。これにより、ひび割れの進行に伴うコンクリート片の剥落を未然に防止することができる。
【0080】
なお、第3実施形態では、以下の変形例を採用可能である。
第3実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12ACは、ひび割れの発生が検知されたとき、その検知結果に基づく情報を、集中管理サーバー320に送信したが、定期的に(1日に1回、1時間に1回など)、メモリー53に記憶されている情報を集中管理サーバー320に送信する構成でもよい。また、第3実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12ACも、第2実施形態に係る第1ひび割れ検知装置12ABと同様に、集中管理サーバー320から情報送信命令を取得したときに、メモリー53に記憶されている情報を返信する構成でもよい。
【0081】
また、ネットワークシステムSY3が、複数の作業者が所持する複数の作業者端末330を備える構成としてもよい。この場合、集中管理サーバー320は、第1ひび割れ検知装置12ACから、ひび割れの発生を示す情報を取得したとき、情報の取得元となる第1ひび割れ検知装置12ACの設置場所に近い位置にいる作業者の作業者端末330に対して、補修を指示する通知を行ってもよい。また、この場合、集中管理サーバー320は、複数の作業者端末330の位置情報を取得し、取得した位置情報に基づいて、第1ひび割れ検知装置12ACの設置場所から最も近い位置に存在する作業者端末330を特定すればよい。
【0082】
[第4実施形態]
次に、図15を参照し、第4実施形態に係るアンカーシステム14について説明する。本実施形態においても、上記の各実施形態と同様の構成部分については同様の符号を付し、詳細な説明を省略する。図15は、アンカーシステム14の構造図である。同図に示すように、アンカーシステム14は、ジェットファンF(図1参照)を支持する金属製アンカー10と、上記の第1ひび割れ検知装置12Aと同一基本形態の第2ひび割れ検知装置12Bとにより、構成されている。図示の第2ひび割れ検知装置12Bは、第1実施形態の第1ひび割れ検知装置12Aの構造を踏襲したものであり、このアンカーシステム14が、他の実施形態の第1ひび割れ検知装置12AB,12ACを適用できることは、言うまでもない。
【0083】
第2ひび割れ検知装置12Bは、金属製アンカー10に生ずるコーン状破壊の初期段階(コーン状のひび割れ)を検知する。一方、金属製アンカー10は、いわゆるあと施工アンカーにおける金属拡張アンカー(メカニカルアンカー)であり、後述するアンカーボルト71を始めとする主要部品が、スチールやステンレススチール等で形成されている。
【0084】
コンクリート構造体Cには、奥部に拡径部AHaを形成したアンカー穴AHが穿孔されており、金属製アンカー10は、このアンカー穴AHに打ち込まれるようにして定着される。アンカー穴AH(コンクリート構造体C)に定着された金属製アンカー10は、そのアンカーボルト71の基端部がコンクリート構造体Cの表面から突出しており、ワッシャーWを介してこの部分に螺合した固定ナットNにより、ジェットファンF(固定対象物)のベースプレートSaが締結される。
【0085】
そして、金属製アンカー10は、全ネジボルトで構成されたアンカーボルト71と、アンカーボルト71の先端部をアンカー穴AHの拡径部AHaに定着させる定着機構部72と、を備えている。
【0086】
定着機構部72は、アンカーボルト71の先端部に螺合した拡開ナット74と、アンカーボルト71を囲繞するように配設された打込みスリーブ75と、を有している。拡開ナット74は、アンカーボルト71に螺合する図示下半部のナット本体76と、スリット77aにより4分割された図示上半部の拡開部77と、で一体に形成されている。打込みスリーブ75の先端部には、コーン部78が形成されており、打込みスリーブ75を打ち込むことにより拡開ナット74の拡開部77が径方向外方に拡開する。拡開した拡開部77は、拡径部AHaの周壁に向かって広がり、拡径部AHaに定着される。そして、この拡開部77と拡径部AHaの協働により、アンカーボルト71がクサビ効果を発揮する。
【0087】
一方、第2ひび割れ検知装置12Bは、上述した第1ひび割れ検知装置12Aと同様の構造を有している。すなわち、第2ひび割れ検知装置12Bは、下穴BHに挿入された状態でコンクリート構造体Cに定着される棒状アンカー21と、下穴BHの定着孔部BHbにおいてコンクリート構造体Cに定着されるスリーブ部22と、外部側からスリーブ部22に当接した状態で棒状アンカー21の基端部に設けられた破壊検知機構部81と、を備えている。破壊検知機構部81は、発生検知機構部23(図2参照)と同様の構成である。
【0088】
この場合の下穴BHは、アンカー穴AHに隣接するようにして穿孔されると共に、アンカー穴AHと平行且つ略同長に形成されている。また、ジェットファンFのベースプレートSaには、スリーブ部22が遊挿される円形開口Saaが形成されている。そして、この場合のスリーブ部22は、その図示下半部を定着孔部BHbに打ち込むようにして、コンクリート構造体Cに定着されている。また、この状態でスリーブ部22は、円形開口Saaの部分でベースプレートSaを貫通し、ベースプレートSaの表面から突出している。なお、第2ひび割れ検知装置12Bの位置が、ベースプレートSaから外れる場合には、上記のようにザグリ部BHdを設け、これに、破壊検知機構部81を収容することが好ましい。
【0089】
本実施形態において、コンクリート構造体Cにコーン状破壊が発生した場合とは、金属製アンカー10(アンカーボルト71)に大きな引張り荷重が作用し、アンカーボルト71の引張り耐力に対しコンクリート構造体Cの耐力が負けた状態である。この状態では、コンクリート構造体Cの内部において、アンカー穴AHの拡径部AHaを起点にコーン状のひび割れが生ずる。このひび割れは、徐々にコンクリート構造体Cの表面に向かって進行するが、一方でこのひび割れにより、コンクリート構造体Cの表面に盛り上がりが生ずる。
【0090】
コンクリート構造体Cの表面に盛り上がると、コンクリート構造体Cに定着されているスリーブ部22が外方に移動し、下穴BHの最奥部に先端部が定着されている棒状アンカー21に引張り力が作用する。このとき、破壊検知機構部81に組み込まれた圧力センサー52により所定の圧力閾値を超える圧力値が計測され、スリーブ部22が所定の移動量閾値を超えて移動したものと判定される。すなわち、第2ひび割れ検知装置12Bは、スリーブ部22の所定の移動量閾値を超える移動によりひび割れの発生を検知し、これに伴って、隣接配置された金属製アンカー10によりコンクリート構造体Cにコーン状破壊が発生したことを検知することができる。これにより、アンカーボルト71がコンクリート構造体Cから抜け落ちてしまうのを未然に防止することができる。
【0091】
以上、4つの実施形態を示したが、各実施形態および各変形例に示したひび割れ検知装置12(12AA,12AB,12AC,12B)、管理者端末100および集中管理サーバー320の各処理を実行する方法、各処理を実行するためのプログラム(管理アプリケーション61)、またそのプログラムを記録したコンピューター読み取り可能な記録媒体も、本発明の権利範囲に含まれる。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0092】
12A…第1ひび割れ検知装置、21…棒状アンカー、22…スリーブ部、22b…基端面、23…発生検知機構部、25…アンカー本体、26…アンカー定着部、41…装置本体、42…接続部、BH…下穴、BHa…ストレート穴部、BHb…定着穴部、BHc…環状段部、BHd…ザグリ部、C…コンクリート構造体

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