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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】チョコレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/54 20060101AFI20230911BHJP
   A23G 1/22 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
A23G1/54
A23G1/22
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019227804
(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公開番号】P2021093961
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】517254156
【氏名又は名称】株式会社ハネスト
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】韓 鐘洙
【審査官】河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-220155(JP,A)
【文献】特表2000-508545(JP,A)
【文献】特開平1-171436(JP,A)
【文献】特開平3-103144(JP,A)
【文献】特表2017-536818(JP,A)
【文献】米国特許第04382968(US,A)
【文献】特開2005-151936(JP,A)
【文献】特開平1-153044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デザインが表された第1チョコレートと、前記第1チョコレートと異なる色を有する第2チョコレートとにより構成されたチョコレートの製造方法であって、
(a1)溶融している前記第1チョコレートの生地を第1型に充填する工程、
(a2)溶融している前記第2チョコレートの生地を第2型に充填する工程、
(b)前記第1チョコレートの生地が充填された前記第1型と前記第2チョコレートの生地が充填された前記第2型とを、前記第1チョコレートの生地および前記第2チョコレートの生地が溶融している状態で接合させる工程、
(c)前記(b)工程の後に、接合させた前記第1型および前記第2型を、前記第1チョコレートの生地および前記第2チョコレートの生地が溶融している状態で振動させる工程、
(d)前記(c)工程の後に、接合させた前記第1型および前記第2型を冷却し、前記第1チョコレートの生地および前記第2チョコレートの生地を固化する工程、
を含む、チョコレートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のチョコレートの製造方法において、
前記(a1)工程の前に、
(e1)ココアバターを含む前記第1チョコレートの原材料を溶融して前記第1チョコレートの生地を準備する工程、
(f1)前記(e1)工程の後、前記第1チョコレートの生地を前記ココアバターのIII型多形の融点以上であり、かつ、前記ココアバターのIV型多形の融点以下である第1調温温度に冷却して、前記第1チョコレートの生地中に前記ココアバターのIV型多形の微結晶を生成する工程、
(g1)前記(f1)工程の後、前記第1チョコレートの生地を、前記ココアバターのIV型多形の融点以上であり、かつ、前記ココアバターのV型多形の融点以下である第2調温温度に加熱して、前記第1チョコレートの生地中の前記ココアバターのIV型多形を前記ココアバターのV型多形に融液媒介転移させる工程、
を含む、チョコレートの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のチョコレートの製造方法において、
前記(a1)工程の前に、
(h1)前記第1型を予熱する工程、
を含み、
前記(a1)工程では、
前記第1型の温度と、溶融している前記第1チョコレートの生地の温度とを一致させる、チョコレートの製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載のチョコレートの製造方法において、
前記(a1)工程では、
溶融している前記第1チョコレートの生地の温度は、前記第2調温温度である、チョコレートの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のチョコレートの製造方法において、
前記(a2)工程の前に、
(e2)ココアバターを含む前記第2チョコレートの原材料を溶融して前記第2チョコレートの生地を準備する工程、
(f2)前記(e2)工程の後、前記第2チョコレートの生地を前記ココアバターのIII型多形の融点以上であり、かつ、前記ココアバターのIV型多形の融点以下である第1調温温度に冷却して、前記第2チョコレートの生地中に前記ココアバターのIV型多形の微結晶を生成する工程、
(g2)前記(f2)工程の後、前記第2チョコレートの生地を、前記ココアバターのIV型多形の融点以上であり、かつ、前記ココアバターのV型多形の融点以下である第2調温温度に加熱して、前記第2チョコレートの生地中の前記ココアバターのIV型多形を前記ココアバターのV型多形に融液媒介転移させる工程、
を含む、チョコレートの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のチョコレートの製造方法において、
前記(a2)工程の前に、
(h2)前記第2型を予熱する工程、
を含み、
前記(a2)工程では、
前記第2型の温度と、溶融している前記第2チョコレートの生地の温度とを一致させる、チョコレートの製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載のチョコレートの製造方法において、
前記(a2)工程では、
溶融している前記第2チョコレートの生地の温度は、前記第2調温温度である、チョコレートの製造方法。
【請求項8】
請求項2~7のいずれか1項に記載のチョコレートの製造方法において、
前記(b)工程では、
前記第1チョコレートの生地の温度と、前記第2チョコレートの生地の温度とを一致させる、チョコレートの製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のチョコレートの製造方法において、
前記(d)工程では、
接合させた前記第1型および前記第2型を振動させながら冷却する、チョコレートの製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載のチョコレートの製造方法において、
前記(d)工程は、
(d1)接合させた前記第1型および前記第2型を、第1温度において冷却する工程、
(d2)前記(d1)工程の後に、接合させた前記第1型および前記第2型を、第2温度において冷却する工程、
を含み、
前記第2温度は、前記第1温度よりも高い、チョコレートの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のチョコレートの製造方法において、
前記(d)工程は、
(d3)前記(d2)工程の後に、接合させた前記第1型および前記第2型を、第3温度において冷却する工程、
をさらに含み、
前記第3温度は、前記第2温度よりも高い、チョコレートの製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載のチョコレートの製造方法において、
前記(a1)工程の前に、
(i)前記デザインの原板を通過した光によって感光性樹脂を露光させる工程、
(j)前記(i)工程の後に、露光させた前記感光性樹脂のうちの一部を除去し、凹凸を形成することによって、前記第1型を形成する工程、
を含む、チョコレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョコレートの製造方法に関し、特に文字、図形または絵画等のデザインが表されたチョコレートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、文字、図形または絵画等のデザインが表されたチョコレート(以下、デザインチョコレートという場合がある。)が存在する。例えば、特許文献1には、感光性樹脂層を有する樹脂板をデザインの型として用いるチョコレートの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭64-51044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、デザインチョコレートにおいて、デザインを表すチョコレートと、その土台となるチョコレートとを別の色とすることを検討した。この際、デザインが精細になればなるほど、そのデザインをチョコレート上に再現することが難しいことが判明した。具体的には、デザインチョコレートのデザインが精細になるにしたがって、デザインを表すチョコレート(例えばホワイトチョコレート)と、土台となるチョコレート(例えばダークチョコレート)との接合面積が小さくなるため、デザインを表すチョコレートが土台となるチョコレートに定着しにくく、問題となることが判明した。
【0005】
以上の課題を鑑み、本発明の目的は、精細なデザインを有するチョコレートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るチョコレートの製造方法は、デザインが表された第1チョコレートと、前記第1チョコレートと異なる色を有する第2チョコレートとにより構成されたチョコレートの製造方法であって、(a)溶融している前記第1チョコレートの生地を第1型に充填する工程、(b)溶融している前記第2チョコレートの生地を第2型に充填する工程、(c)前記第1チョコレートの生地が充填された前記第1型と前記第2チョコレートの生地が充填された前記第2型とを、前記第1チョコレートの生地および前記第2チョコレートの生地が溶融している状態で接合させる工程、(d)前記(c)工程の後に、接合させた前記第1型および前記第2型を、前記第1チョコレートの生地および前記第2チョコレートの生地が溶融している状態で振動させる工程、(e)前記(d)工程の後に、接合させた前記第1型および前記第2型を冷却し、前記第1チョコレートの生地および前記第2チョコレートの生地を固化する工程、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、精細なデザインを有するチョコレートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係るチョコレートの製造方法における製造工程を示すフローである。
図2】第1実施形態に係る製造工程中、デザイン型形成工程の一部を示す模式図である。
図3図2に続くデザイン型形成工程の一部を示す模式図である。
図4】第1実施形態に係る製造工程中、チョコレート溶融工程を示す模式図である。
図5】第1実施形態に係る製造工程中、チョコレート調温工程を示す模式図である。
図6】第1実施形態に係る製造工程中、チョコレート充填工程の一部を示す模式図である。
図7】第1実施形態に係る製造工程中、チョコレート充填工程の一部を示す模式図である。
図8】第1実施形態に係る製造工程中、チョコレート密着工程の一部を示す模式図である。
図9図8に続くチョコレート密着工程の一部を示す模式図である。
図10】第1実施形態に係る製造工程中、チョコレート冷却工程を示す模式図である。
図11】第1実施形態に係る製造工程中、チョコレート取出工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施の形態)
<第1実施形態に係るチョコレートの製造方法の特徴および効果>
以下、本発明に係るチョコレートの製造方法の主要な特徴について説明する。図1は、第1実施形態に係るチョコレートの製造方法における製造工程を示すフローである。図2は、第1実施形態に係る製造工程中、デザイン型形成工程の一部を示す模式図である。図3は、図2に続くデザイン型形成工程の一部を示す模式図である。図4は、第1実施形態に係る製造工程中、チョコレート溶融工程を示す模式図である。図5は、第1実施形態に係る製造工程中、チョコレート調温工程を示す模式図である。図6は、第1実施形態に係る製造工程中、チョコレート充填工程の一部を示す模式図である。図7は、第1実施形態に係る製造工程中、チョコレート充填工程の一部を示す模式図である。図8は、第1実施形態に係る製造工程中、チョコレート密着工程の一部を示す模式図である。図9は、図8に続くチョコレート密着工程の一部を示す模式図である。図10は、第1実施形態に係る製造工程中、チョコレート冷却工程の一部を示す模式図である。図11は、第1実施形態に係る製造工程中、チョコレート取出工程を示す模式図である。
【0010】
第1実施形態に係るチョコレートの製造方法は、デザインが表された第1チョコレートと、前記第1チョコレートと異なる色を有する第2チョコレートとにより構成されたチョコレートの製造方法である。第1実施形態に係るチョコレートの製造方法は、(a1)溶融している第1チョコレートの生地を第1型に充填する工程、(a2)溶融している第2チョコレートの生地を第2型に充填する工程、(b)前記第1チョコレートの生地が充填された前記第1型と前記第2チョコレートの生地が充填された前記第2型とを、前記第1チョコレートの生地および前記第2チョコレートの生地が溶融している状態で接合させる工程、(c)前記(b)工程の後に、接合させた前記第1型および前記第2型を、前記第1チョコレートの生地および前記第2チョコレートの生地が溶融している状態で振動させる工程、(d)前記(c)工程の後に、接合させた前記第1型および前記第2型を冷却し、前記第1チョコレートの生地および前記第2チョコレートの生地を固化する工程、を含む。
【0011】
前記(a1)工程および前記(a2)工程は、図1に示すチョコレート充填工程S4に相当し、前記(b)工程および前記(c)工程は、図1に示すチョコレート密着工程S5に相当し、前記(d)工程は、図1に示すチョコレート冷却工程S6に相当する。
【0012】
第1実施形態に係るチョコレートの製造方法にあっては、以上の特徴的な構成を有することで、精細なデザインを有するチョコレートを提供することができる。以下、その理由について説明する。
【0013】
前述したように、デザインチョコレートのデザインが精細になるにしたがって、デザインを表す第1チョコレート(例えばホワイトチョコレート)と、土台となる第2チョコレート(例えばダークチョコレート)との接合面積が小さくなるため、デザインを表す第1チョコレートが土台となる第2チョコレートに定着しにくく、問題となっていた。
【0014】
また、検討例のデザインチョコレートの製造方法として、デザインを表す第1チョコレートを型に入れた後に、土台となる第2チョコレートをその型の上から塗布して第1チョコレートと第2チョコレートとを結合させる方法も考えられる。しかし、この方法では、作業者の技量に依存した接合ムラやチョコレートの厚さが不均一となるおそれがある。また、型に充填された第1チョコレートが固化した状態で、第1チョコレートの上に第2チョコレートを塗布すると、第1チョコレートと第2チョコレートとの間の結合が弱くなり、デザインを表す第1チョコレートが土台となる第2チョコレートから剥離するおそれがある。一方、型に充填された第1チョコレートが溶融している状態で、第1チョコレートの上に第2チョコレートを塗布すると、第1チョコレートと第2チョコレートとが混じるおそれがある。これらの問題は、デザインが精細になればなるほど無視できなくなる。
【0015】
この点、第1実施形態に係るチョコレートの製造方法にあっては、前記(a1)工程および前記(a2)工程によって、デザインチョコレートのデザインを表す第1チョコレートの生地と、土台となる第2チョコレートの生地とのいずれもそれぞれの型に充填され、前記(b)工程によって、前記第1型と前記第2型とを接合し、さらに、前記(c)工程によって、接合させた前記第1型および前記第2型を振動させる。ここで、第1実施形態に係るチョコレートの製造方法にあっては、前記(b)工程および前記(c)工程において、前記第1チョコレートの生地および前記第2チョコレートの生地が溶融している状態を維持する。
【0016】
このように、第1実施形態にあっては、型に入れたチョコレートの生地が溶融している状態で型同士を接合することで、第1チョコレートの生地と第2チョコレートの生地とを接合するにあたり、作業者の技量に依存した接合ムラやチョコレートの厚さが不均一となる可能性を低減することができる。また、第1実施形態にあっては、型同士を接合するため、前述した検討例のように、第1チョコレートが溶融している状態で、第1チョコレートの上に第2チョコレートを塗布する場合に比べて、第1チョコレートの生地と第2チョコレートの生地とが混じる可能性を低減することができる。
【0017】
さらに、第1実施形態にあっては、チョコレートの生地を冷却する前に、型同士を接合させたものを振動させることで、デザインを表す第1チョコレートの生地と、土台となる第2チョコレートの生地とを効率よく均一に接合することができる。その結果、チョコレートの生地同士の接合ムラを防止することができる。
【0018】
以上より、第1実施形態に係るチョコレートの製造方法にあっては、精細なデザインを有するチョコレートを提供することができる。
【0019】
<第1実施形態に係るチョコレートの製造方法の詳細>
[第1実施形態に係るチョコレートの製造工程の概要]
図1に示すように、第1実施形態に係るチョコレートの製造方法は、デザイン型形成工程S1と、チョコレート溶融工程S2と、チョコレート調温工程S3と、チョコレート充填工程S4と、チョコレート密着工程S5と、チョコレート冷却工程S6と、チョコレート取出工程S7と、を含む。なお、ここで説明するチョコレートの製造工程は、一例であり、前述した本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部の工程を省略したり、適宜別の工程を含めたりすることが可能であることはいうまでもない。また、第1実施形態に係るチョコレートの製造工程に係る効果のうち、既に説明したものについては省略する。以下、第1実施形態に係るチョコレートの各製造工程を説明する。
【0020】
[デザイン型形成工程S1]
図1に示す第1実施形態に係るデザイン型形成工程S1は、図2に示すように、デザインの原板30を通過した光32によって感光性樹脂21aを露光させる工程と、この工程の後に、露光させた感光性樹脂のうちの一部を除去し、凹凸を形成することによって、第1型20を形成する工程と、を含む。
【0021】
ここで、図2に示すように、例えば、感光性樹脂21aは、基板22上に形成されており、第1型20は、基板22と、基板22上の感光性樹脂21aとにより構成されている。感光性樹脂21aは、例えばもともと水溶性であるが、露光によって硬化し、水に対して不溶性になる樹脂を用いることができる。図3に示すように、露光させた第1型20を水で洗浄すると、光32が当たらなかった感光性樹脂21aは水に溶けるため、基板22上から除去され凹部21cとなる一方で、光32によって硬化した感光性樹脂21bは水に溶けないため残存する。その結果、凹部21cを有する第1型20が完成する。
【0022】
[チョコレート溶融工程S2]
図1に示す第1実施形態に係るチョコレート溶融工程S2は、図4に示すように、チョコレート溶融装置40に、ホワイトチョコレート(第1チョコレート)の原材料11aを投入して溶融し、ホワイトチョコレートの生地11bを準備する工程を含む。また、図1に示す第1実施形態に係るチョコレート溶融工程S2は、図4に示すように、別のチョコレート溶融装置に、ダークチョコレート(第2チョコレート)の原材料12aを投入して溶融し、ダークチョコレートの生地12bを準備する工程を含む。ホワイトチョコレートの原材料11aを溶融する温度は、例えば30℃~35℃であり、好ましくは32℃である。ダークチョコレートの原材料12aを溶融する温度は、例えば40℃以上50℃以下であり、好ましくは44℃以上45℃以下である。図4に示すチョコレート溶融装置40は、一般的なものであればよく、特に限定されない。
【0023】
[チョコレート調温工程S3]
図1に示す第1実施形態に係るチョコレート調温工程S3は、図5に示すように、チョコレート調温装置50に、図4に示すホワイトチョコレートの生地11bを投入し、撹拌しながら、ココアバターのIII型多形の融点以上であり、かつ、ココアバターのIV型多形の融点以下である第1調温温度に冷却して、ホワイトチョコレートの生地中にココアバターのIV型多形の微結晶を生成する工程と、この工程の後、ホワイトチョコレートの生地を、ココアバターのIV型多形の融点以上であり、かつ、ココアバターのV型多形の融点以下である第2調温温度に加熱して、ホワイトチョコレートの生地中のココアバターのIV型多形をココアバターのV型多形に融液媒介転移させる工程と、を含む。また、図1に示す第1実施形態に係るチョコレート調温工程S3は、図5に示すように、別のチョコレート調温装置に、ダークチョコレートの生地12bを投入し、撹拌しながら、ココアバターのIII型多形の融点以上であり、かつ、ココアバターのIV型多形の融点以下である第1調温温度に冷却して、ダークチョコレートの生地中にココアバターのIV型多形の微結晶を生成する工程と、この工程の後、ダークチョコレートの生地を、ココアバターのIV型多形の融点以上であり、かつ、ココアバターのV型多形の融点以下である第2調温温度に加熱して、ダークチョコレートの生地中のココアバターのIV型多形をココアバターのV型多形に融液媒介転移させる工程と、を含む。図5に示すチョコレート調温装置50は、一般的なものであればよく、特に限定されない。
【0024】
図1に示す第1実施形態に係るチョコレート調温工程S3は、テンパリング工程ともよばれ、融液状のチョコレート生地中に安定結晶の結晶核を生じさせる工程である。チョコレート調温工程S3で生じる安定結晶の量が適正であれば、チョコレート生地の冷却時における固化速度が速くなり、チョコレート生地が固化する際に十分な体収縮を生じる。そのため、固化後のチョコレートは成形型から良好に剥離して型抜けが良い。さらに、ファットブルーム現象(チョコレート表面に白い斑点状の油脂結晶が生成する現象)の発生が抑えられる。
【0025】
以下、チョコレート調温工程S3を詳細に説明する。チョコレートは、固体脂食品であり、ココアバター(カカオ脂)と呼ばれる油脂中に、砂糖、カカオマス、乳粉末等が分散した固体コロイドである。ココアバターの結晶多形には、I型多形(融点17.3℃、不安定)、II型多形(融点23.3℃、不安定)、III型多形(融点25.5℃、不安定)、IV型多形(融点27.5℃、不安定)、V型多形(融点33.8℃、準安定)、VI型多形(融点36.3℃、最安定)がある。これらの結晶多形のうち、V型多形の密度・融点がチョコレート製品として最適である。そして、チョコレート製品がV型多形のみを含むようにすると、体温付近で一気に融解が進んで、チョコレート独自の味および香りを適切に感じることができるようになる。
【0026】
チョコレート調温工程S3では、まず例えば50℃前後で融解しているチョコレートの生地を、ココアバターのIII型多形の融点以上であり、かつ、ココアバターのIV型多形の融点以下である第1調温温度(27℃~28℃)に冷却する。このとき、第1調温温度は、I型多形~III型多形の融点以上であるため、これらの結晶多形に結晶化することはない。一方、IV型多形~VI型多形のいずれかに結晶化する可能性があるが、IV型多形~VI型多形の中で最も密度が小さく結晶化速度が大きいIV型多形にのみ結晶化が進行し、チョコレートの生地中にココアバターのIV型多形の微結晶が生成される。
【0027】
次に、チョコレート調温工程S3では、チョコレートの生地を、ココアバターのIV型多形の融点以上であり、かつ、ココアバターのV型多形の融点以下である第2調温温度(29℃~31℃)に加熱する。第2調温温度は、IV型多形の融点以上であるため、チョコレートの生地中に生じたIV型多形の微結晶は融解するが、このような融液であるとV型多形の微結晶が融液媒介転移により生じやすいことがわかっている。また、VI型多形は、最密充填構造であるため、結晶化速度は小さい。そのため、チョコレートの生地中にV型多形の微結晶が生じる。その後、チョコレートの生地を冷却すると、この微結晶が種結晶となり、チョコレートの生地全体にV型多形の結晶化が進行する。この際、チョコレートの生地中に生じるV型多形の量が適正であれば、チョコレート生地の冷却時における固化速度が速くなるというメリットが生じる。また、チョコレートの生地中に生じるV型多形の量が適正であれば、チョコレート生地は固化する際に十分な体収縮を生じるため、固化後のチョコレートは成形型から良好に剥離して型抜けが良いというメリットも生じる。さらに、チョコレートの生地中に生じるV型多形の量が適正であれば、ファットブルーム現象の発生が抑えられ、得られたチョコレートは、優れた光沢を有するばかりではなく、その保存中におけるブルーム耐性もよくなる。
【0028】
以上のチョコレート調温工程S3により、チョコレートに含まれる油脂(ココアバター)の結晶構造を安定化することができる。
【0029】
なお、チョコレート調温工程S3で生じるV型多形の量が少なすぎると、多くの場合、冷却固化後のチョコレートにブルームが発生する。また、得られたチョコレートは、保存中におけるブルーム耐性も低下している。製造時にブルームの発生がなくても、保存中のチョコレートに短期間でブルームが発生する可能性がある。一方、チョコレート調温工程S3で生じるV型多形の量が多すぎると、チョコレートの粘度が上昇し、チョコレートのキメが粗くなる。そのため、チョコレートの保存中におけるブルーム耐性も低下する可能性がある。
【0030】
[チョコレート充填工程S4]
図1に示す第1実施形態に係るチョコレート充填工程S4は、図6に示すように、第2型25の凹部25cに、チョコレート調温工程S3を経たダークチョコレートの生地12cを充填する工程を含む。また、図1に示す第1実施形態に係るチョコレート充填工程S4は、図7に示すように、第1型20の凹部21cに、チョコレート調温工程S3を経たホワイトチョコレートの生地11cを充填する工程を含む。
【0031】
また、好ましい形態として、図1に示す第1実施形態に係るチョコレート充填工程S4の前に、図6に示す第1型20を予熱する工程を含み、この工程では、第1型20の温度と、溶融しているホワイトチョコレートの生地の温度とを一致させる。同様に、図1に示す第1実施形態に係るチョコレート充填工程S4の前に、第2型25を予熱する工程を含み、この工程では、第2型25の温度と、溶融しているダークチョコレートの生地の温度とを一致させる。
【0032】
こうすることで、チョコレートの生地を型に充填してから、型同士を接合するまでの間に、チョコレートの生地が型によって冷却されて固化するのを防止できる。特に、第1実施形態における第1型20は、デザインの型であり、充填されるホワイトチョコレートの体積が小さい。そのため、第1型20を予熱して、溶融しているホワイトチョコレートの生地と同じ温度にしておかないと、ホワイトチョコレートの生地が型または外気によって冷却されて固化するおそれがある。したがって、少なくともデザインの型である第1型20を予熱する工程を含むことが好ましい。
【0033】
また、チョコレートの生地を充填する温度、ならびに、第1型20および第2型25の予熱温度は、前述した第2調温温度(29℃~31℃)が好ましい。こうすることで、チョコレート調温工程S3で説明したように、チョコレートの生地が冷却されるまでの間に、チョコレートの生地中に生じるV型多形の量を適正にすることができる。
【0034】
なお、第1型20(第2型25)の温度と、溶融しているホワイトチョコレート(ダークチョコレート)の生地の温度とを一致させる場合において、これらの温度が完全に一致していることが好ましいが、±1℃程度の誤差は許容される。
【0035】
[チョコレート密着工程S5]
図1に示す第1実施形態に係るチョコレート密着工程S5は、図8に示すように、ホワイトチョコレートの生地11cが充填された第1型20と、ダークチョコレートの生地12cが充填された第2型25とを接合させる工程と(以下、チョコレートを充填させた状態で接合させた第1型20および第2型25を、接合させた型100aという。)、図9に示すように、振動装置60に接合させた型100aを載置して、接合させた型100aを振動させる工程と、を含む。ここで、前述したように、第1実施形態にあっては、これらの工程において、ホワイトチョコレートの生地11cおよびダークチョコレートの生地12cが溶融している状態を維持する。
【0036】
前述したように、第1実施形態に係るチョコレート密着工程S5にあっては、型に入れたチョコレートの生地が溶融している状態で型同士を接合することで、ホワイトチョコレートの生地とダークチョコレートの生地とを接合するにあたり、作業者の技量に依存した接合ムラやチョコレートの厚さが不均一となる可能性を低減することができる。また、第1実施形態にあっては、型同士を接合するため、前述した検討例のように、ホワイトチョコレートが溶融している状態で、ホワイトチョコレートの上にダークチョコレートを塗布する場合に比べて、ホワイトチョコレートの生地とダークチョコレートの生地とが混じる可能性を低減することができる。
【0037】
さらに、第1実施形態に係るチョコレート密着工程S5にあっては、チョコレートの生地を冷却する前に、型同士を接合させたものを振動させることで、デザインを表すホワイトチョコレートの生地と、土台となるダークチョコレートの生地とを効率よく均一に接合することができる。その結果、チョコレートの生地同士の接合ムラを防止することができる。
【0038】
また、第1実施形態に係るチョコレート密着工程S5では、ホワイトチョコレートの生地の温度と、ダークチョコレートの生地の温度とを一致させる。こうすることで、デザインを表すホワイトチョコレートの生地と土台となるダークチョコレートの生地とを接合させる際に、互いのチョコレートの温度が同じであるため、接合ムラをより効果的に防止できる。
【0039】
さらに、第1実施形態に係るチョコレート密着工程S5において、ホワイトチョコレートの生地の温度、および、ダークチョコレートの生地の温度は、前述した第2調温温度(29℃~31℃)が好ましい。特に、チョコレート調温工程S3から、チョコレート充填工程S4およびチョコレート密着工程S5を経てチョコレート冷却工程S6に至るまで、ホワイトチョコレートの生地の温度、および、ダークチョコレートの生地の温度を、前述した第2調温温度(29℃~31℃)に維持することがより好ましい。こうすることで、チョコレート調温工程S3で説明したように、チョコレートの生地が冷却されるまでの間に、チョコレートの生地中に生じるV型多形の量を適正にすることができる。
【0040】
[チョコレート冷却工程S6]
まず、図1に示す第1実施形態に係るチョコレート冷却工程S6で用いる冷却装置の一例について説明する。
【0041】
図10に示す第1実施形態に係る冷却装置70は、振動ベルトコンベア71と、冷却部72とを有している。冷却部72は、複数の領域をそれぞれ異なる温度に冷却することができる。振動ベルトコンベア71は、ベルトコンベア上に載置された冷却対象物を、外部から冷却部72内を通して冷却し、再び外部へと送り出すように構成されている。
【0042】
図1に示す第1実施形態に係るチョコレート冷却工程S6は、図10に示すように、接合させた型100aを冷却装置70の振動ベルトコンベア71に載置し、接合させた型100aを振動させながら冷却部72によって冷却する工程を含む。より具体的には、冷却対象物である接合させた型100aが、室温(好ましくは20℃~22℃)の領域Aから冷却部72内に入り、第1温度(好ましくは3℃~4℃)の領域Bを好ましくは5分かけて通過し、接合させた型100bとなる(以下、接合させた型の冷却度合いによって便宜上符号を変えて説明する。)。続いて、接合させた型100bは、第2温度(好ましくは5℃~6℃)の領域Cを好ましくは5分かけて通過し、接合させた型100cとなる。続いて、接合させた型100cは、第3温度(好ましくは9℃)の領域Dを好ましくは5分かけて通過し、接合させた型100dとなる。その後、接合させた型100dは、室温(好ましくは20℃~22℃)の領域Eへと送り出され、最終的に接合させた型100eとなる。
【0043】
従来、チョコレート生地の冷却は、1℃~2℃において10分程度で行われていた。しかし、チョコレートの生地を急激に冷却させると、接合させた型100aにおいて冷却ムラが発生し、繊細なデザインを表すホワイトチョコレートが土台のダークチョコレートから剥がれる可能性がある。この点、第1実施形態に係るチョコレート冷却工程S6では、接合させた型100aを第1温度で冷却した後、第1温度よりも高い第2温度で冷却している。さらに、より好ましい形態として、接合させた型100bを第2温度で冷却した後、第2温度よりも高い第3温度で冷却している。このように、冷却を続けながらも、段階的に(2段階で、より好ましくは3段階で)冷却温度を高くし、室温に近づけていくことで、まず型自体が冷却され、その後、チョコレートの生地が冷却されていく途中で周囲の温度が上昇するため、チョコレートの生地の温度と、周囲の温度との差を小さくすることができる。その結果、繊細なデザインを表すホワイトチョコレートが土台のダークチョコレートから剥がれる可能性を防止することができる。
【0044】
また、第1実施形態に係るチョコレート冷却工程S6は、好ましい形態として、接合させた型100a(接合させた型100b等も同様)を振動させながら冷却する。前述したように、チョコレート接合工程S5では、チョコレートの生地を冷却する前に、型同士を接合させたものを振動させているが、この振動させる工程を長時間行うと、ホワイトチョコレートの生地とダークチョコレートの生地とをより均一に接合することができる一方で、ホワイトチョコレートの生地とダークチョコレートの生地とが混じる可能性が高まってしまう。
【0045】
この点、第1実施形態に係るチョコレートの製造方法にあっては、チョコレート接合工程S5においてチョコレートの生地を振動させる工程を長時間行う代わりに、チョコレート冷却工程S6においてチョコレートの生地を冷却しながら振動させる工程を行う。こうすることで、振動によって第1チョコレートの生地と第2チョコレートの生地との一体化を促進しながら、冷却によってこれらのチョコレートの固化を進行させ、これらのチョコレートが混じる可能性を低減することができる。そして、チョコレート接合工程S5とチョコレート冷却工程S6とを連続して行うことで、ホワイトチョコレートの生地とダークチョコレートの生地とが一体化してから固化するまで振動を与え、これらのチョコレートをムラなく接合させることができる。
【0046】
なお、チョコレート接合工程S5でチョコレートの生地を振動させる工程を行うことなく、チョコレート冷却工程S6を行ってしまうと、ホワイトチョコレートの生地とダークチョコレートの生地とが十分に接合する前に、冷却によるチョコレートの生地の固化が進行してしまう可能性がある。そのため、第1実施形態のチョコレート接合工程S5において、冷却をすることなく型を振動させる工程は必須である。
【0047】
さらに、チョコレート冷却工程S6によれば、第1型20および第2型25を冷却しながら振動させることで、一体化させたチョコレートがこれらの型から外れやすくなるという効果も奏する。
【0048】
[チョコレート取出工程S7]
図1に示す第1実施形態に係るチョコレート取出工程S7は、図11に示すように、冷却後の接合させた型100eをチョコレートから剥がす(図8で第1型20および第2型25を接合させた方向と逆方向にこれらの型を剥がす)ことによって、デザインチョコレート10を取り出す工程を含む。以上の工程によって、デザインチョコレート10が完成する。
【0049】
なお、第1型20および第2型25は、デザインチョコレート10を取り出した後に、例えば40℃~50℃まで加熱し洗浄することで、わずかに残るチョコレートを容易にこれらの型から剥離・洗浄することができる。その後、洗浄後の第1型20および第2型25は、前述した第1実施形態に係るチョコレート充填工程S4において使用することができる。すなわち、第1型20および第2型25は、図11に示すデザインチョコレート10と同じデザインを有するチョコレートの製造に再利用することができる。
【0050】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 デザインチョコレート
11a,12a 原材料
11b,11c,12b,12c 生地
20 第1型
21a,21b 感光性樹脂
21c 凹部
22 基板
25 第2型
25c 凹部
30 原板
32 光
40 チョコレート溶融装置
50 チョコレート調温装置
60 振動装置
70 冷却装置
71 振動ベルトコンベア
72 冷却部
100a,100b,100c,100d,100e 接合させた型
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11