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  • 特許-QPCR解析による胃がんの診断方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】QPCR解析による胃がんの診断方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20230911BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20230911BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20230911BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20230911BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12Q1/6851 Z ZNA
C12Q1/689 Z
C12N15/11 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021569458
(86)(22)【出願日】2020-05-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-25
(86)【国際出願番号】 KR2020006072
(87)【国際公開番号】W WO2020242082
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】10-2019-0061097
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516348577
【氏名又は名称】エムディー ヘルスケア インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MD HEALTHCARE INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ユン-クン
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】Digestive Diseases and Sciences, 2018年,Vol.63,p.2950-2958,https://doi.org/10.1007/s10620-018-5190-5
【文献】Gastroenterology, 2019年5月6日,Vol.156, Issue 6, Supplement 1,S-683,https://doi.org/10.1016/S0016-5085(19)38621-4
【文献】Rev Esp Enferm Dig, 2016年,Vol.108, No.9,p.530-540,DOI: 10.17235/reed.2016.4261/2016
【文献】Scientific Reports, 2018年,Vol.8, No.158,p.1-11,DOI:10.1038/s41598-017-18596-0
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)被検体の糞便試料から細菌を分離した後、分離した細菌からDNAを抽出する段階と、
(b)前記抽出したDNAに対してルミノコッカス(Ruminococcus)属細菌の16S rDNAに特異的な配列番号3および4からなるプライマーペアおよび配列番号5で表されるプローブ、
フソバクテリウム(Fusobacterium)属細菌の16S rDNAに特異的な配列番号6および7からなるプライマーペアおよび配列番号8で表されるプローブ、
バクテロイデス(Bacteroides)属細菌の16S rDNAに特異的な配列番号9および10からなるプライマーペアおよび配列番号11で表されるプローブ、
アシネトバクター(Acinetobacter)属細菌の16S rDNAに特異的な配列番号12および13からなるプライマーペアおよび配列番号14で表されるプローブ、およびカテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の16S rDNAに特異的な配列番号15および16からなるプライマーペアおよび配列番号17で表されるプローブからなる群から選ばれる1つ以上のプライマーペアおよびプローブを用いてqPCR(quantitative PCR)を行う段階と、
(c)前記qPCR解析を通じてDNAを定量し、健常者の糞便由来DNAの量と比較する段階と、を含む、胃がんの診断のための情報提供方法であって、
前記(c)段階は、前記(b)段階でqPCRを通じて定量した遺伝子量を、細菌の16S rDNA(bacterial universal 16S rDNA)に特異的な配列番号18および19からなるプライマーペアおよび配列番号20で表されるプローブ、またはヒト18S rDNAに特異的な配列番号21および22からなるプライマーペアおよび配列番号23で表されるプローブを用いてqPCRを行った結果、定量された遺伝子量で補正(normalization)する段階をさらに含み、
下記のいずれか1つ以上の場合、胃がんと判定することを特徴とする、情報提供方法:
i)細菌の16S rDNAまたはヒト18S rDNAで補正したルミノコッカス属細菌の遺伝子量が健常者に比べて減少している場合;
ii)ヒト18S rDNAで補正したフソバクテリウム属細菌の遺伝子量が健常者に比べて増加している場合;
iii)ヒト18S rDNAで補正したバクテロイデス属細菌の遺伝子量が健常者に比べて増加している場合;
iv)細菌の16S rDNAで補正したアシネトバクター属細菌の遺伝子量が健常者に比べて減少している場合;または
v)細菌の16S rDNAまたはヒト18S rDNAで補正したカテニバクテリウム属細菌の遺伝子量が健常者に比べて減少している場合。
【請求項2】
(a)被検体の糞便試料から細菌を分離した後、分離した細菌からDNAを抽出する段階と、
(b)前記抽出したDNAに対してルミノコッカス(Ruminococcus)属細菌の16S rDNAに特異的な配列番号3および4からなるプライマーペアおよび配列番号5で表されるプローブ、
フソバクテリウム(Fusobacterium)属細菌の16S rDNAに特異的な配列番号6および7からなるプライマーペアおよび配列番号8で表されるプローブ、
バクテロイデス(Bacteroides)属細菌の16S rDNAに特異的な配列
番号9および10からなるプライマーペアおよび配列番号11で表されるプローブ、
アシネトバクター(Acinetobacter)属細菌の16S rDNAに特異的な配列番号12および13からなるプライマーペアおよび配列番号14で表されるプローブ、およびカテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の16S rDNAに特異的な配列番号15および16からなるプライマーペアおよび配列番号17で表されるプローブからなる群から選ばれる1つ以上のプライマーペアおよびプローブを用いてqPCR(quantitative PCR)を行う段階と、
(c)前記qPCR解析を通じてDNAを定量し、健常者の糞便由来DNAの量と比較する段階と、を含む、胃がんの発症を予測するための情報提供方法であって、
前記(c)段階は、前記(b)段階でqPCRを通じて定量した遺伝子量を、細菌の16S rDNA(bacterial universal 16S rDNA)に特異的な配列番号18および19からなるプライマーペアおよび配列番号20で表されるプローブ、またはヒト18S rDNAに特異的な配列番号21および22からなるプライマーペアおよび配列番号23で表されるプローブを用いてqPCRを行った結果、定量された遺伝子量で補正(normalization)する段階をさらに含み、
下記のいずれか1つ以上の場合、胃がんの発症リスクが高いと予測することを特徴とする、情報提供方法:
i)細菌の16S rDNAまたはヒト18S rDNAで補正したルミノコッカス属細菌の遺伝子量が健常者に比べて減少している場合;
ii)ヒト18S rDNAで補正したフソバクテリウム属細菌の遺伝子量が健常者に比べて増加している場合;
iii)ヒト18S rDNAで補正したバクテロイデス属細菌の遺伝子量が健常者に比べて増加している場合;
iv)細菌の16S rDNAで補正したアシネトバクター属細菌の遺伝子量が健常者に比べて減少している場合;または
v)細菌の16S rDNAまたはヒト18S rDNAで補正したカテニバクテリウム属細菌の遺伝子量が健常者に比べて減少している場合。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、qPCR解析による胃がんの診断方法に関し、より詳細には、qPCR解析を通じて糞便内に存在する微生物の遺伝子を解析し、胃がんを診断する方法に関する。
【0002】
本出願は、2019年05月24日付で出願された韓国特許出願第10-2019-0061097号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示されたすべての内容は、本出願に援用される。
【背景技術】
【0003】
胃がん(gastric cancer)は、全世界で大韓民国、中国、日本などの東アジア地域で多くの発生率を示し、アメリカ、ヨーロッパなどの西欧では、相対的に発生率の低いがんである。大韓民国の場合、男女をあわせて発病率1位、死亡率は、肺がんに次いで2位を占めており、60代で最も多くの発生率を示す。胃がんは、胃粘膜上皮から生じる胃腺がん(gastric adenocarcinoma)と粘膜下層から生じる悪性リンパ腫、筋肉腫、及び間質性腫瘍などがあるが、胃腺がんが全体胃がんの95%を占めている。殆どの胃がん患者が進行性段階にあり、大部分で予後が非常に良くないことが報告されている。胃は、食べ物が口から入って長時間接触する臓器であるため、食べ物に含まれている因子が胃がんの原因になる確率が高いものと予想しており、動物実験を通じて食べ物に含まれている発ガン物質が胃がんの最も重要な要因として知られている。ウイルス、細菌などの生物学的因子による慢性炎症ががんを起こすという事実は、古くから提起されており、胃に共生することが知られているヘリコバクターピロリ菌(Helicobacter pylori)によって胃がんが発生することが知られるようになった。
【0004】
胃がんは、胃の内壁(lining)から発生し、その後にがんは、身体の他の部位、特に肝臓、肺、骨、腹部の内壁及びリンパ節に拡散することがある。一般的に、治療には、手術、化学療法、放射線療法、及び標的療法が単独または併用して含まれる。胃がんは、内視鏡などの定期検診を通じて早期に発見することができ、早期胃がんの場合、適切な治療によって90%程度で完治が期待できるが、未だに、すでに胃がんが進行した場合に発見される場合が多く、死亡率も高いがんに分類されるのが実情である。したがって、胃がんの発症の有無をあらかじめ予測可能にすることにより、早期診断及び治療に対する対応方法を区別することが重要であり、これに対する研究及び技術開発が要求される。
【0005】
一方、人体に共生する微生物は、100兆に達してヒトの細胞よりも10倍多く、微生物の遺伝子数は、ヒトの遺伝子数の100倍を超えることが知られている。微生物叢(microbiotaあるいはmicrobiome)は、与えられた居住地に存在する細菌(bacteria)、古細菌(archaea)、真核生物(eukarya)を含む微生物群集(microbial community)をいい、腸内微生物叢は、ヒトの生理現象に重要な役割を果たし、人体の細胞と相互作用を介してヒトの健康と疾病に大きな影響を及ぼすことが知られている。しかし、胃がんの診断において、糞便のような人体由来物から細菌のみを分離し、遺伝子解析を通じて胃がんを診断する方法については、まだ報告されていない。
【0006】
本発明者らは、高精度及び感度をもって、胃がんを予測または診断できる方法について研究した結果、獲得できる糞便から細菌を分離し、高精度及び感度を持つ胃がんの診断方法を開発することになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記のような従来の技術上の問題点を解決するために案出されたもので、容易に獲得できる糞便試料から微生物の遺伝子を分離し、これをqPCRで解析し、胃がんを予測または診断できる方法を提供することをその目的とする。
【0008】
しかし、本発明が解決しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は、下記から当業界で通常の知識を有する者が明確に理解できるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記のような目的を達成するため、本発明は、(a)被検体の糞便試料からDNAを抽出する段階と、
(b)前記抽出したDNAに対してルミノコッカス(Ruminococcuss)属、フソバクテリウム(Fusobacterium)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、及びカテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の16S rDNAからなる群から選ばれる1つ以上に特異的なプライマーペア及びプローブを用いてqPCR(quantitative PCR)を行う段階と、
(c)前記qPCR解析を通じてDNAを定量し、健常者の糞便由来DNAの量と比較する段階と、を含む、胃がんの診断のための情報提供方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、(a)被検体の糞便試料からDNAを抽出する段階と、
(b)前記抽出したDNAに対してルミノコッカス(Ruminococcuss)属、フソバクテリウム(Fusobacterium)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、及びカテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の16S rDNAからなる群から選ばれる1つ以上に特異的なプライマーペア及びプローブを用いてqPCR(quantitative PCR)を行う段階と、
(c)前記qPCR解析を通じてDNAを定量し、健常者の糞便由来DNAの量と比較する段階と、を含む、胃がんの診断方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、(a)被検体の糞便試料からDNAを抽出する段階と、
(b)前記抽出したDNAに対してルミノコッカス(Ruminococcuss)属、フソバクテリウム(Fusobacterium)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、及びカテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の16S rDNAからなる群から選ばれる1つ以上に特異的なプライマーペア及びプローブを用いてqPCR(quantitative PCR)を行う段階と、
(c)前記qPCR解析を通じてDNAを定量し、健常者の糞便由来DNAの量と比較する段階と、を含む、胃がんの判定のための情報提供方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、(a)被検体の糞便試料からDNAを抽出する段階と、
(b)前記抽出したDNAに対してルミノコッカス(Ruminococcuss)属、フソバクテリウム(Fusobacterium)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、及びカテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の16S rDNAからなる群から選ばれる1つ以上に特異的なプライマーペア及びプローブを用いてqPCR(quantitative PCR)を行う段階と、
(c)前記qPCR解析を通じてDNAを定量し、健常者の糞便由来DNAの量と比較する段階を含む、胃がんの発症を予測するための情報提供方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、(a)被検体の糞便試料からDNAを抽出する段階と、
(b)前記抽出したDNAに対してルミノコッカス(Ruminococcuss)属、フソバクテリウム(Fusobacterium)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、及びカテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の16S rDNAからなる群から選ばれる1つ以上に特異的なプライマーペア及びプローブを用いてqPCR(quantitative PCR)を行う段階と、
(c)前記qPCR解析を通じてDNAを定量し、健常者の糞便由来DNAの量と比較する段階と、を含む、胃がんの発症リスク予測方法を提供する。
【0014】
本発明の一具現例として、前記(a)段階のDNAは、糞便内の細菌由来細胞外小胞から分離されたDNAであってもよい。
【0015】
本発明の他の具現例として、前記(b)段階のプライマーペアは、下記のいずれか1つ以上であってもよい。
【0016】
ルミノコッカス(Ruminococcuss)属細菌の16S rDNAを特異的に増幅できる配列番号3及び4からなるプライマーペアと、
フソバクテリウム(Fusobacterium)属細菌の16S rDNAを特異的に増幅できる配列番号6及び7からなるプライマーペアと、
バクテロイデス(Bacteroides)属細菌の16S rDNAを特異的に増幅できる配列番号9及び10からなるプライマーペアと、
アシネトバクター(Acinetobacter)属細菌の16S rDNAを特異的に増幅できる配列番号12及び13からなるプライマーペアと、
カテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の16S rDNAを特異的に増幅できる配列番号15及び16からなるプライマーペア。
【0017】
本発明のさらに他の具現例として、前記(b)段階のプローブは、下記のいずれか1つ以上であってもよい。
【0018】
ルミノコッカス(Ruminococcuss)属細菌の16S rDNAに特異的に結合できる配列番号5で表されるプローブと、
フソバクテリウム(Fusobacterium)属細菌の16S rDNAを特異的に結合できる配列番号8で表されるプローブと、
バクテロイデス(Bacteroides)属細菌の16S rDNAを特異的に結合できる配列番号11で表されるプローブと、
アシネトバクター(Acinetobacter)属細菌の16S rDNAに特異的に結合できる配列番号14で表されるプローブと、
カテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の16S rDNAに特異的に結合できる配列番号17で表されるプローブ。
【0019】
本発明のさらに他の具現例として、前記(c)段階は、前記(b)段階でqPCRを通じて定量した遺伝子量を、細菌の16S rDNA(bacterial universal 16S rDNA)またはヒト18S rDNAに特異的なプライマーペア及びプローブを用いてqPCRを行った結果、定量された遺伝子量で補正(normalization)する段階をさらに含んでもよい。
【0020】
本発明のさらに他の具現例として、前記プライマーペアは、細菌の16S rDNA(bacterial universal 16S rDNA)を特異的に増幅できる配列番号18及び19からなるプライマーペアまたはヒト18S rDNAを特異的に増幅できる配列番号21及び22からなるプライマーペアであってもよい。
【0021】
本発明のさらに他の具現例として、前記プローブは、細菌の16S rDNA(bacterial universal 16S rDNA)に特異的に結合できる配列番号20で表されるプローブまたはヒト18S rDNAに特異的に結合できる配列番号23で表されるプローブであってもよい。
【0022】
本発明のさらに他の具現例として、前記(c)段階で細菌の16S rDNAで補正した場合、
ルミノコッカス(Ruminococcuss)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、及びカテニバクテリウム(Catenibacterium)属からなる群から選ばれる1つ以上の細菌の遺伝子量が健常者に比べて減少しているとき、胃がんと判定しうる。
【0023】
本発明のさらに他の具現例として、前記(c)段階でヒト18S rDNAで補正した場合、
フソバクテリウム(Fusobacterium)属またはバクテロイデス(Bacteroides)属細菌の遺伝子量が健常者に比べて増加しているとき、または
ルミノコッカス(Ruminococcuss)属またはカテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の遺伝子量が健常者に比べて減少しているとき、胃がんと判定しうる。
【発明の効果】
【0024】
本発明による診断方法は、診断しようとする対象から痛みなく容易に獲得できる糞便を用いて高精度及び感度をもって胃がんを予測及び/又は診断できるため、胃がん診断分野において幅広く使用可能であるだけでなく、これにより胃がんの初期診断を可能にし、胃がん治療の効果を顕著に増加させることができることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1は、本発明の一実施例によるヒト糞便から細菌と細菌由来小胞(EV)を分離し、遺伝子量を比較した結果を示した図である。
図2は、本発明の一実施例によるRuminococcuss属、Fusobacterium属、Bacteroides属、Acinetobacter属、Catenibacterium属、bacterial universal 16S rDNA sequence及び18S rDNA特異的遺伝子プライマーの解析的性能を評価した結果を示した図である。
図3は、本発明の一実施例による胃がん患者及び正常対照群の糞便から細菌を分離し、Ruminococcuss属、Fusobacterium属、Bacteroides属、Acinetobacter属、Catenibacterium属細菌の遺伝子発現の程度をbacterial universal 16S rDNA及びヒト細胞の18S rDNA遺伝子で補正して確認した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、(a)被検体の糞便試料からDNAを抽出する段階と、
(b)前記抽出したDNAに対してルミノコッカス(Ruminococcuss)属、フソバクテリウム(Fusobacterium)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、及びカテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の16S rDNAからなる群から選ばれる1つ以上に特異的なプライマーペア及びプローブを用いてqPCR(quantitative PCR)を行う段階と、
(c)前記qPCR解析を通じてDNAを定量し、健常者の糞便由来DNAの量と比較する段階を含む、胃がんの診断のための情報提供方法を提供する。
【0027】
また、本発明は、(a)被検体の糞便試料からDNAを抽出する段階と、
(b)前記抽出したDNAに対してルミノコッカス(Ruminococcuss)属、フソバクテリウム(Fusobacterium)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、及びカテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の16S rDNAからなる群から選ばれる1つ以上に特異的なプライマーペア及びプローブを用いてqPCR(quantitative PCR)を行う段階と、
(c)前記qPCR解析を通じてDNAを定量し、健常者の糞便由来DNAの量と比較する段階と、を含む、胃がんの診断方法を提供する。
【0028】
また、本発明は、(a)被検体の糞便試料からDNAを抽出する段階と、
(b)前記抽出したDNAに対してルミノコッカス(Ruminococcuss)属、フソバクテリウム(Fusobacterium)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、及びカテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の16S rDNAからなる群から選ばれる1つ以上に特異的なプライマーペア及びプローブを用いてqPCR(quantitative PCR)を行う段階と、
(c)前記qPCR解析を通じてDNAを定量し、健常者の糞便由来DNAの量と比較する段階を含む、胃がんの判定のための情報提供方法を提供する。
【0029】
また、本発明は、(a)被検体の糞便試料からDNAを抽出する段階と、
(b)前記抽出したDNAに対してルミノコッカス(Ruminococcuss)属、フソバクテリウム(Fusobacterium)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、及びカテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の16S rDNAからなる群から選ばれる1つ以上に特異的なプライマーペア及びプローブを用いてqPCR(quantitative PCR)を行う段階と、
(c)前記qPCR解析を通じてDNAを定量し、健常者の糞便由来DNAの量と比較する段階と、を含む、胃がんの発症を予測するための情報提供方法を提供する。
【0030】
また、本発明は、(a)被検体の糞便試料からDNAを抽出する段階と、
(b)前記抽出したDNAに対してルミノコッカス(Ruminococcuss)属、フソバクテリウム(Fusobacterium)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、及びカテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の16S rDNAからなる群から選ばれる1つ以上に特異的なプライマーペア及びプローブを用いてqPCR(quantitative PCR)を行う段階と、
(c)前記qPCR解析を通じてDNAを定量し、健常者の糞便由来DNAの量と比較する段階を含む、胃がんの発症リスク予測方法を提供する。
【0031】
本発明において、前記(a)段階のDNAは、糞便内の細菌由来細胞外小胞から分離されたDNAであってもよい。
本発明において、前記(b)段階のプライマーペアは、下記のいずれか1つ以上であってもよい。
ルミノコッカス(Ruminococcuss)属細菌の16S rDNAを特異的に増幅できる配列番号3及び4からなるプライマーペアと、
フソバクテリウム(Fusobacterium)属細菌の16S rDNAを特異的に増幅できる配列番号6及び7からなるプライマーペアと、
バクテロイデス(Bacteroides)属細菌の16S rDNAを特異的に増幅できる配列番号9及び10からなるプライマーペアと、
アシネトバクター(Acinetobacter)属細菌の16S rDNAを特異的に増幅できる配列番号12及び13からなるプライマーペアと、
カテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の16S rDNAを特異的に増幅できる配列番号15及び16からなるプライマーペア。
【0032】
本発明において、「プライマー(Primer)」とは、短い自由3末端水酸化基(free 3’hydroxyl group)を有する核酸配列で相補的な鋳型(template)と作用する塩基対(base pair)を形成し得、鋳型のコピーのための開始地点であって、短い核酸配列を意味する。プライマーは、適切な緩衝溶液及び温度で重合反応(即ち、DNAポリメラーゼまたは逆転写酵素)のための試薬及び異なる4つのヌクレオシドトリホスフェートの存在下でDNA合成を開始しうる。PCR条件、センス及びアンチセンスプライマーの長さは、当業界に公知されたことに基づいて変形しうる。前記プライマーペアは、正配列プライマー及び逆配列プライマーが1つのペアから構成される。
【0033】
本発明において、前記(b)段階のプローブは、下記のいずれか1つ以上であってもよい。
ルミノコッカス(Ruminococcuss)属細菌の16S rDNAに特異的に結合できる配列番号5で表されるプローブと、
フソバクテリウム(Fusobacterium)属細菌の16S rDNAを特異的に結合できる配列番号8で表されるプローブと、
バクテロイデス(Bacteroides)属細菌の16S rDNAを特異的に結合できる配列番号11で表されるプローブと、
アシネトバクター(Acinetobacter)属細菌の16S rDNAに特異的に結合できる配列番号14で表されるプローブと、
カテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の16S rDNAに特異的に結合できる配列番号17で表されるプローブ。
【0034】
本発明において、「プローブ(Probe)」とは、DNAまたはRNAの特定の塩基配列に相補的な切片(または断片)であり、放射線元素または蛍光で標識された末端塩基を有するDNAまたはRNA切片を意味する。おおよそ100-1000bp程度の長さで多様であり、分子生物学の領域においてDNAもしくはRNAサンプル内の特定のヌクレオチド配列を探すための相補的な配列を持つ。Probeは、ターゲット遺伝子との相補的な結合によって一本鎖のDNAもしくはRNAの中から探そうとする遺伝子配列を確認するのに用いられる。
【0035】
本発明のさらに他の具現例として、前記(c)段階は、前記(b)段階において、qPCRを通じて定量した遺伝子量を、細菌の16S rDNA(bacterial universal 16S rDNA)またはヒト18S rDNAに特異的なプライマーペア及びプローブを用いてqPCRを行った結果、定量された遺伝子量で補正(normalization)する段階をさらに含んでもよく、このとき、前記プライマーペアは、細菌の16S rDNA(bacterial universal 16S rDNA)を特異的に増幅できる配列番号18及び19からなるプライマーペアまたはヒト18S rDNAを特異的に増幅できる配列番号21及び22からなるプライマーペアであってもよく、前記プローブは、細菌の16S rDNA(bacterial universal 16S rDNA)に特異的に結合できる配列番号20で表されるプローブまたはヒト18S rDNAに特異的に結合できる配列番号23で表されるプローブであってもよい。
【0036】
本発明において、前記(c)段階で細菌の16S rDNAで補正した場合、ルミノコッカス(Ruminococcuss)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、及びカテニバクテリウム(Catenibacterium)属からなる群から選ばれる1つ以上の細菌の遺伝子量が健常者に比べて減少しているときに胃がんと診断し得、前記(c)段階でヒト18S rDNAで補正した場合、フソバクテリウム(Fusobacterium)属またはバクテロイデス(Bacteroides)属細菌の遺伝子量が健常者に比べて増加しているとき、またはルミノコッカス(Ruminococcuss)属またはカテニバクテリウム(Catenibacterium)属細菌の遺伝子量が健常者に比べて減少しているときに胃がんと診断しうる。
【0037】
本発明において用いられる用語の「胃がん診断」とは、患者に対して胃がんが発症する可能性があるのか、胃がんが発症する可能性が比較的高いのか、または胃がんが既に発症したかどうかを判別することを意味する。本発明の方法は、任意の特定の患者に対する胃がん発症リスクの高い患者で、特別かつ適切な管理により発症時期を遅らせるか、または発症しないようにするのに使用してもよい。また、本発明の方法は、胃がんを早期に診断し、最も適切な治療方式を選択することにより、治療を決定するために臨床的に使用されてもよい。
【0038】
本発明において、「ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction、PCR)」は、特定のDNA配列を迅速に増幅させる技術であって、系統発生学的解析、遺伝子検査、及びDNA cloningなどが多様に使用されている。特にリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(Real-time PCR)としても知られている「定量的ポリメラーゼ連鎖反応(quantitative PCR、qPCR)」は、多数の標的遺伝子の発現変化を確認し、高速大量の実験結果をスクリーニングするのに主に使用される。
【0039】
本発明の一実施例では、糞便微生物からDNAを分離し(実施例1参照)、Ruminococcuss属、Fusobacterium属、Bacteroides属、Acinetobacter属、Catenibacterium属細菌及び補正マーカーとして使用されるbacterial universal 16S rDNA sequence及びHuman 18S rDNA遺伝子に特異的なプライマー及びプローブを作製した(実施例2参照)。
【0040】
本発明の他の実施例では、前記プライマー及びプローブの解析的感度と特異度を調べるため、解析的性能試験を行った結果、濃度依存的に細菌を定量することを確認し、糞便から分離した細菌の遺伝子の含量を胃がん患者と正常対照群を比較したとき、16Sで補正する場合、Ruminococcuss属、Acinetobacter属、及びCatenibacterium属が有意差を示し、18Sで補正する場合、Fusobacterium属、Bacteroides属、Ruminococcuss属、及びCatenibacterium属が有意差を示すことを確認した(実施例3参照)。
【0041】
本発明のさらに他の実施例では、qPCR結果に基づいてそれぞれの微生物遺伝子の含量を変数としてロジスティック方法により胃がん診断模型を作製し、これを用いて解析試料である糞便から獲得されたRuminococcuss属、Fusobacterium属、Bacteroides属、Acinetobacter属、及びCatenibacterium属微生物の量を変数とし、胃がんを診断しうることを確認した(実施例4参照)。
【0042】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのもので、本発明の要旨に基づいて、本発明の範囲がこれらの実施例にによって制限されないということは、当業界で通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0043】
実施例
実施例1:糞便から微生物分離及び前記微生物の遺伝子定量
糞便試料から微生物を分離するため、一次的にガーゼを用いて糞便に存在する大きな粒子を除去した後、10mlチューブに糞便を添加した。その後、遠心分離法(3,500xg、10min、4℃)で浮遊物(pellet)と上澄み液(supernatant)を分離して、新しい10mlチューブにpellet部分と上澄み液部分をそれぞれ分けて添加した。上澄み液は、0.22μmのフィルタを使用して細菌及び異物を除去した後、セントリーフラップチューブ(centripreigugal filters 50kD)に移して1500xg、4℃で15分間遠心分離して50kDより小さい物質は除去し、10mlまで濃縮させた。そして、再び0.22μm filterを使用して微生物と異物を除去した後、Type 90tiローターで150,000xg、4℃で3時間高速遠心分離方法を使用して上澄み液を捨て、塊状のpelletを生理食塩水(PBS)に溶解させた。
【0044】
前記方法により分離された細胞外小胞(extracellular vesicle;EV)100μlをheatblock 100℃で加熱して内部のDNAを脂質外に出し、その後、氷で冷やした。そして、Nanodropを用いてDNA量を定量した。その結果、遠心分離した後、pellet部分から抽出される遺伝子量は、大きな粒子を除去した大便1mlでは、9.4ng gDNAが抽出され、超遠心分離方法により抽出した細胞外小胞から抽出された遺伝子量は、大便1mlから3.5ng gDNAが抽出された(図1参照)。
【0045】
以後、糞便細菌から分離した遺伝子において細菌由来DNA存在の有無を確認するため、下記表1に示した16S rDNA PrimerでPCRを行い、前記抽出された遺伝子に細菌由来遺伝子が存在することを確認した。
【0046】
【表1】
【0047】
実施例2:微生物遺伝子プライマー作製
前記実施例1の方法により糞便から分離したDNAからバイオマーカーそれぞれのDNA量をquantitative PCR(qPCR)方法(Taqman assay)で定量するため、各16S rDNA配列に対して特異的なTaqman ProbeとPrimerを作製した。先ず、NCBI databaseに投稿された配列情報を収集した後、Multiple alignmentを通じて各バイオマーカーの16S rDNA配列において保存的な区間(Conserved region)と多様性の高い区間(Hypervariable region)を把握した。そして、多様性の高い区間でBLASTを介して各マーカーに特異的なTaqman ProbeとPrimerを作製した。補正マーカーとして使用されるbacterial universal 16S rDNA sequence特異的Primer及びTaqman Probeの場合、保存的区間(Conserved region)でBLASTを介して作製した。さらに他の補正マーカーとして使用されるHuman 18S rDNA特異的Primer及びProbeの場合、文献を参考して作製した。作製したプライマー及び検出用プローブ配列は、表2に示した。
【0048】
【表2】
【0049】
実施例3:糞便から抽出したDNAを用いたqPCR解析
前記実施例2で作製したPrimer及びTaqman Probeの解析的感度と特異度を調べるために解析的性能試験を行った。解析的性能試験のため、各ターゲットマーカーのDNA配列が含まれているDNA Plasmidを作製した(表3)。
【0050】
【表3】
【0051】
作製したPlasmidを10 copy単位でSerial Dilution(10~106)し、それをTemplateにqPCRを行って解析的感度試験を行った。qPCR実験は、Premix Ex TaqTM(Probe qPCR)(TAKARA#RR390A)とABI Quantstudio 3 Real-Time PCR System、96-well、0.2ml(A28137)を使用して行った。その結果、Ruminococcuss属、Fusobacterium属、Bacteroides属、Acinetobacter属、Catenibacterium属、bacterial universal 16S rDNA sequence及び18S rDNA特異的プライマーの性能が濃度依存的に細菌を定量することを確認した(図2参照)。
【0052】
その後、正常対照群105人、胃がん患者79人の糞便から細菌を分離した後、DNAを抽出した。次に、前記表2のRuminococcuss、Fusobacterium、Bacteroides、Acinetobacter、Catenibacteriumプライマーと補正マーカーである18S rDNA及びbacterial universal 16S rDNA sequenceのプライマー、プローブを使用してqPCRを行った後、相対定量法により両群を比較した。wellあたりDNA template4μl、PrimerとProbeは、それぞれ18pmol、5pmolずつ使用して計20μlで反応した。このとき、PCR条件は、初期50℃2分、95℃10分待機後、95℃15秒、60℃1分のcycleを40回繰り返した(Quantstudio standard run mode default件)。相対定量時、各検体の18S rDNAとbacterial universal 16S rDNA sequenceにより補正(normalization)し、各バイオマーカーの補正値について、対照群(n=105)と胃がん群(n=79)の各平均値(±標準誤差)をt-test検定を通じて比較した。その結果、糞便から分離した細菌の遺伝子含量を胃がん患者と正常対照群において比較したとき、16Sで補正する場合、Ruminococcuss属、Acinetobacter属、及びCatenibacterium属が有意差を示し、18Sで補正する場合、Fusobacterium属、Bacteroides属、Ruminococcuss属、及びCatenibacterium属が有意差を示した(表4及び図3参照)。前記結果を通じて、診断しようとする対象の糞便試料からRuminococcuss属、Fusobacterium属、Bacteroides属、Acinetobacter属、及びCatenibacterium属微生物の量を確認する場合、胃がんを診断できることが確認できた。
【0053】
【表4】
【0054】
実施例4:糞便内の微生物遺伝子解析による胃がん診断模型の開発
前記実施例3の結果に基づいて、糞便試料からRuminococcuss属、Fusobacterium属、Bacteroides属、Acinetobacter属、及びCatenibacterium属微生物の量を確認して胃がんを診断する方法に対するモデルを開発した。このために実施例3のqPCR結果に基づいて、それぞれの微生物の遺伝子含量を変数とし、ロジスティック方法により胃がん診断模型を作製した(表5)。
【0055】
【表5】
【0056】
その結果、診断的有用性の指標であるAUC(area-under-curve)が0.551332~0.761118であることを確認した。
【0057】
前記結果から、本発明の胃がん診断模型を用いて解析試料である糞便から獲得されたRuminococcuss属、Fusobacterium属、Bacteroides属、Acinetobacter属、及びCatenibacterium属微生物の量を変数として診断すると、診断精度が非常に高い胃がんの診断方法として使用可能であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明による胃がんの診断方法は、診断しようとする対象から痛みなく容易に獲得できる糞便を用いて高精度及び感度をもって胃がんを予測及び/又は診断できるため、胃がん診断分野において幅広く利用可能であることが期待される。
図1
図2
図3
【配列表】
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