(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】蓄光粒子および蓄光粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20230911BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
C09K11/08 G
C09K11/64
C09K11/08 A
(21)【出願番号】P 2023098712
(22)【出願日】2023-06-15
【審査請求日】2023-06-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502185582
【氏名又は名称】エルティーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 聡
(72)【発明者】
【氏名】中西 伸介
(72)【発明者】
【氏名】坂部 昌俊
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘毅
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/038687(WO,A1)
【文献】特開平9-48636(JP,A)
【文献】特開2000-282028(JP,A)
【文献】特開平9-316443(JP,A)
【文献】特開2009-13186(JP,A)
【文献】特表2011-503266(JP,A)
【文献】特表2014-519540(JP,A)
【文献】特表2011-504544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K11/00-11/89
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄光性蛍光体と、その表面に形成された被膜とを備えた蓄光粒子であって、
前記被膜は、アルミニウム原子とケイ素原子とを含む複合酸化物を有する、
蓄光粒子。
【請求項2】
前記複合酸化物は、アルミニウム原子とケイ素原子とが酸素原子を介して結合した骨格および複数のケイ素原子が酸素原子を介して結合した骨格を有する、
請求項1記載の蓄光粒子。
【請求項3】
前記複合酸化物は、ホウ素原子とケイ素原子とが酸素原子を介して結合した骨格を有する、
請求項2記載の蓄光粒子。
【請求項4】
前記被膜は、アルミニウムイオンおよびケイ酸イオンを含む酸性溶液と、ケイ酸アルカリ金属塩を含む塩基性溶液を前記蓄光性蛍光体と共に混合することによって形成される、
請求項1記載の蓄光粒子。
【請求項5】
前記蓄光性蛍光体は、ランタノイド系希土類元素を賦活剤としてドープしたアルミン酸ストロンチウム化合物である、
請求項1から4のいずれかに記載の蓄光粒子。
【請求項6】
ランタノイド系希土類元素を賦活剤としてドープしたアルミン酸ストロンチウム化合物である蓄光性蛍光体を準備する工程と、
アルミニウムイオンおよびケイ酸イオンを含む酸性溶液を準備する工程と、
ケイ酸アルカリ金属塩を含む塩基性溶液を準備する工程と、
前記蓄光性蛍光体と共に前記酸性溶液および前記塩基性溶液を混合する工程と、
を有する蓄光粒子の製造方法。
【請求項7】
前記ケイ酸アルカリ金属塩が、ケイ酸カリウムである、
請求項6記載の蓄光粒子の製造方法。
【請求項8】
前記塩基性溶液を混合する工程が、ホウ酸を含めて混合する、
請求項6記載の蓄光粒子の製造方法。
【請求項9】
前記蓄光性蛍光体の表面を処理する工程を有し、
前記処理は、前記蓄光性蛍光体を酸に分散させた処理液を調整し、前記処理液に還元剤を添加し、前記蓄光性蛍光体を前記処理液から分離し、前記蓄光性蛍光体の表面を酸化させる処理である、
請求項6から7のいずれかに記載の蓄光粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光粒子および蓄光粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄光粒子は、照明や太陽の光を吸収することで励起状態となって光のエネルギーを蓄え、その光の供給が断たれた後、励起状態から基底状態への電子遷移が一定期間継続する、つまり、一定期間発光し続けるものである。このような蓄光粒子は、ペンキ、塗料、インク、プラスチック等の様々な技術に使用されており、標識、防災機器、インテリア、照明、玩具等の様々な分野に応用されている。
このような蓄光粒子の一つとして、アルミン酸ストロンチウムにランタノイド系希土類元素(特に、ユウロピウムおよびジスプロシウム)を賦活剤としてドープした蓄光性蛍光体が知られている。この蓄光性蛍光体において、発光輝度を達成するためには、Eu3+へ遷移する蓄光を有効に活用することが必要であり、アルミン酸ストロンチウムの結晶に、Sr3Al2DyO7.5という位相を形成する方法が知られている。
しかし、Sr3Al2DyO7.5という位相は、異なる3以上の結晶構造が共存するため、それらの結晶構造の間には異相が存在している。これらは蓄光に関与しない領域であり、輝度の低下の要因となっている。
またこの蓄光性蛍光体は、水との接触によって変性を生じることが知られており、耐水性も問題となっている。
【0003】
本出願人は、アルミン酸ストロンチウム化合物にランタノイド系希土類元素をドープさせた蓄光粒子原料粉末に、所定の酸/リン酸処理を施し、それを洗浄または中和処理し、乾燥することにより、高い初期残光輝度および耐水性を有する蓄光性蛍光体を製造する方法を提供している(特許文献1)。
また特許文献2、3には、耐水性の向上を目的として、蓄光性蛍光体の表面にアルコキシシランを加水分解重縮合させた酸化ケイ素質の被覆を設けた蓄光粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5967787号
【文献】特開平11-106678号公報
【文献】特開2008-50548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の製造方法によって製造される蓄光粒子は、種々な分野において、耐水性および残光輝度特性を満足させてきたが、近年、さらなる改良が求められている。特に初期残光輝度の改良が求められている。また特許文献2、3の蓄光粒子も高い耐水性を示すが、残光輝度特性については課題を残す。
【0006】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、耐水性および残光輝度特性が優れた蓄光粒子およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蓄光粒子は、蓄光性蛍光体と、その表面に形成された被膜とを備えた蓄光粒子であって、前記被膜は、アルミニウム原子とケイ素原子とを含む複合酸化物を有することを特徴としている。
本発明の蓄光粒子であって、前記複合酸化物は、アルミニウム原子とケイ素原子とが酸素原子を介して結合した骨格および複数のケイ素原子が酸素原子を介して結合した骨格を有したものであるのが好ましい。また、前記複合酸化物は、ホウ素原子とケイ素原子とが酸素原子を介して結合した骨格をさらに有するのが好ましい。
本発明の蓄光粒子であって、前記被膜はアルミニウムイオンおよびケイ酸イオンを含む酸性溶液と、ケイ酸イオンを含む塩基性溶液を前記蓄光性蛍光体と共に混合することによって形成されたものであるのが好ましい。
本発明の蓄光粒子であって、前記蓄光性蛍光体がランタノイド系希土類元素を賦活剤としてドープしたアルミン酸ストロンチウム化合物であることが好ましい。
【0008】
本発明の蓄光粒子の製造方法は、ランタノイド系希土類元素を賦活剤としてドープしたアルミン酸ストロンチウム化合物である蓄光性蛍光体を準備する工程と、アルミニウムイオンおよびケイ酸イオンを含む酸性溶液を準備する工程と、ケイ酸アルカリ金属塩を含む塩基性溶液を準備する工程と、前記蓄光性蛍光体と共に前記酸性溶液および前記塩基性溶液を混合する工程とを有することを特徴としている。特に、アルミニウムイオンおよびケイ酸イオンを含む酸性溶液に、前記蓄光性蛍光体を分散させた分散液を準備し、当該分散液にケイ酸アルカリ金属塩を含む塩基性溶液を混合するのが好ましい。
本発明の蓄光粒子の製造方法であって、前記塩基性溶液を混合する工程をホウ酸を含めて混合するのが好ましい。
本発明の蓄光粒子の製造方法であって、前記蓄光性蛍光体の表面を処理する工程を有し、前記処理は、前記蓄光性蛍光体を酸に分散させた処理液を調整し、前記処理液に還元剤を添加し、前記蓄光性蛍光体を前記処理液から分離し、前記蓄光性蛍光体の表面を酸化させる処理であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蓄光粒子は、耐水性が高く、残光輝度特性が優れている。特に、初期残光輝度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1a、cはそれぞれ本発明の蓄光粒子(実施例1)を示すSEM画像(300倍および5000倍)であり、
図1b、dはそれぞれ本発明の蓄光粒子(実施例2)を示すSEM画像(300倍および5000倍)である。
【
図2】
図2a、bはそれぞれ本発明の蓄光粒子(実施例1)をpH3の酢酸に5日間浸漬させた後の状態を示すSEM画像(300倍および5000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
「蓄光粒子」
本発明の蓄光粒子は、蓄光性蛍光体と、その表面に形成された被膜とを備えた蓄光粒子である。被膜は、アルミニウム原子とケイ素原子とを含む複合酸化物を含んでいる。特に、アルミニウム原子とケイ素原子とが酸素原子を介して結合した骨格(Si-O-Al骨格)および複数のケイ素原子が酸素原子を介して結合した骨格(Si-O-Si骨格)(シロキサン結合)を有する複合酸化物を含んだ被膜である。
【0012】
「蓄光性蛍光体」
蓄光性蛍光体は、アルミン酸ストロンチウム化合物、特にSrAl2O4やSr4Al14O25に、ランタノイド系希土類元素(ユウロピウム(Eu)および/またはジスプロシウム(Dy)を賦活剤としてドープしたものであり、特に、EuおよびDyをドープしたものが好ましく挙げられる。
このような蓄光性蛍光体は、原料粉末として、球形γ‐Al2O3、SrCO3、Eu2O3、Dy2O3及びH3BO3の粉末をそれぞれ準備し、Al/(Sr+Eu+Dy)のモル比率が1.90~1.99(好ましくは1.97~1.99)の範囲内で、しかも、H3BO3の配合量が0.5重量%~2.5重量%(好ましくは2.0重量%~2.5重量%)の範囲内となるように秤量した後、上記の粉末を混合し、得られた混合物をるつぼの中に入れて、還元雰囲気下にて1350~1450℃で2~4時間加熱することによって得ることができる。そして、得られた塊状体をボールミリング等により粉砕し、得られた粉砕物をスクリーニングして、均一粒度(好ましくは粒径約60μm~100μm)とすることにより、塗料等として好ましい形態とする。
この製造工程により得られた蓄光性蛍光体は、蛍光灯を用いて光照射を行った際に、暗所で黄緑色~青色に発光する。
なお、蓄光性蛍光体は、上記製造工程によって製造された蓄光性蛍光体に限定されるものではなく、市販のアルミン酸ストロンチウム系の蓄光性蛍光体であっても、他の製造工程によって製造される蓄光性蛍光体であっても良い。
【0013】
蓄光性蛍光体は、被膜を設ける前に表面処理を施して、蓄光性蛍光体の表面を再結晶化することが好ましい。
そのような表面処理は、蓄光性蛍光体を酸に分散させた処理液を調整し、所定の期間を経過させた後、当該処理液に還元剤を添加し、その後、蓄光性蛍光体を当該処理液から分離する。最後に当該蓄光性蛍光体の表面を酸化させることによって行うことができる。つまり、蓄光性蛍光体を酸に投入し、所定の期間放置することにより、少なくとも蓄光性蛍光体の表面の蓄光に関与しない異相領域が酸で修飾される。そして、その処理液に還元剤を添加することにより、酸で修飾された蓄光性蛍光体の表面を還元する。その後、蓄光性蛍光体を処理液から分離した後、蓄光性蛍光体の表面を酸化させることにより、アルミン酸ストロンチウムを再結晶化させていると考えられる。
酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸や有機酸のいずれでもよく特に限定されるものではないが、弱酸とするのが好ましい。特に、有機酸が好ましく、特に、炭素数が8以下の有機酸が好ましく挙げられる。具体的には、クエン酸、ギ酸、酢酸、乳酸等が挙げられる。蓄光性蛍光体を分散させる分散液のpHは、3~6、好ましくは4~6である。
還元剤としては、特に限定されるものではないが、ホウ素化水素ナトリウム、ヒドラジン、水素化ジイソブチルアルミニウム等が挙げられる。特に、還元剤をホウ素化水素ナトリウムとする場合、分散液を陽イオン交換樹脂に通して中和して還元剤を添加するのが好ましい。その場合、ホウ素化水素ナトリウムをイオン交換水に添加したホウ素化水素ナトリウム溶液を中和した分散液に加えるのが好ましい。なお、ホウ素化水素ナトリウムの添加量は、例えば、0.001重量%~0.05重量%、好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。
蓄光性蛍光体の表面への酸化処理は、例えば、イオン交換樹脂を通したイオン交換水でpH7に固定し、その水溶液中に蓄光性蛍光体を分散させ、水溶液中の溶存酸素にてよって酸化する方法が挙げられる。特に、得られた分散液の液温を40℃以上、特に45℃以上として溶存酸素で酸化するのが好ましい。例えば、分散理溶液を撹拌しながら加温し、10分~30分維持することにより好ましく酸化することができる。しかし、酸化処理は、上記に限定されるものではなく、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を用いてもよい。
このように蓄光性蛍光体の表面を再結晶化することにより、残光輝度特性を向上させることができる。つまり、表面処理により蓄光蛍光体の表面上に存在する異相を溶出させ、それを表面上に再結晶化させることにより、蓄光に関与しない異相を減少させ、Eu2+→Eu3+への電荷の遷移をより効率的に行わせているためと考えられる。
【0014】
「被膜」
被膜は、アルミニウム原子とケイ素原子とを含む複合酸化物を有する。特に、アルミニウム原子とケイ素原子とが酸素原子を介して結合した骨格および複数のケイ素原子が酸素原子を介して結合した骨格(シロキサン結合)を有する複合酸化物(特に、無機複合酸化物)を含んだ被膜である。
被膜は、アルミニウムイオンおよびケイ酸イオンを含む酸性溶液に、ケイ酸イオンを含む塩基性溶液を混合、特にpHが8~10となるように混合することによって形成させたものである。
このような被膜を設けることにより、蓄光性蛍光体に耐水性を付与し、かつ、残光輝度特性を向上させる。特に、無機複合酸化物の結晶構造がEu2+→Eu3+へ電荷の遷移をアシストし、残光輝度特性が向上されていると考えられる。
【0015】
「酸性溶液」
酸性溶液は、アルミニウムイオンおよびケイ酸イオンを含むpHが6以下、好ましくは3~5の水溶液である。
アルミニウムイオンは、後述するケイ酸イオンのケイ素原子と置き換わることにより、アルミニウム原子とケイ素原子とが酸素原子を介して結合した骨格を形成する。アルミニウムイオンとして、例えば、リン酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等が挙げられ、特に、リン酸アルミニウムが好ましく挙げられる。
酸性溶液中のケイ酸イオンは、オルトケイ酸イオン、および、2個以上の複数のケイ素原子が酸素原子を介して結合した骨格(シロキサン結合)を有するケイ酸イオンを含む。特に、シロキサン結合を1個以上、4個以下、好ましくは3個以下、特に好ましくは2個以下有するケイ酸イオンが好ましい。ケイ酸イオンの重合度(シロキサン結合)が大きいとイオンとしての溶解度が十分ではなくなり、また、酸性溶液と塩基性溶液とを混合する際にゲル化が生じやすくなる。
このような酸性溶液としては、例えば、アルコキシシラン(特に、ケイ酸エチル)、アンモニアおよび塩酸をpH6以下、特に3~5となるように調整することによって生成することができる。この場合、アルコキシシランはアンモニアを触媒として脱アルコール反応を起こしてケイ酸イオンを形成し、そして、形成されたケイ酸イオン同士が加水分解重合することによって、シロキサン結合を有するケイ酸イオンを形成しているものと考えられる。
ケイ素原子のモル濃度は、10mol/L以下、特に好ましくは5mol/L以下であり、好ましくは2mol/L以上、特に好ましくは3mol/L以上である。
リン酸アルミニウムの濃度は、ケイ素原子の濃度に対して0.1%以上、好ましくは0.5%以上、特に0.7%以上、最も好ましくは0.8%以上であり、10%未満、好ましくは5%以下である。リン酸アルミニウムをケイ素原子の濃度に対して10%以上とすると、酸性溶液と塩基性溶液とを混合したときにゲル化が進む。一方、リン酸アルミニウムをケイ素原子の濃度に対して0.1%以下とすると被膜化への影響が見られない。
【0016】
「塩基性溶液」
塩基性溶液はケイ酸アルカリ金属塩を含むpHが8以上、好ましくは9~13の水溶液(水ガラスを含む)である。
塩基性溶液のケイ酸イオンは、オルトケイ酸イオン、および、2個以上の複数のケイ素原子が酸素原子を介して結合した骨格(シロキサン結合)を有するケイ酸イオンを含む。
アルカリ金属イオンは、カリウムイオン、ナトリウムイオンおよびリチウムイオンの群から選択される1つ以上であり、特に、カリウムイオンが好ましい。
塩基性溶液は、水ガラスの状態を呈しているのが好ましい。その場合、塩基性溶液において、ケイ酸アルカリ金属塩の固形分が1重量%~10重量%、好ましくは3重量~7重量%、特に好ましくは4重量~6重量%としたものが好ましい。
このような塩基性溶液は、例えば、エポキシシランと、メタクロロキシシランと、チタンイソプロポキシドおよび水酸化カリウムとの混合によって生成することができる。
また塩基性溶液は、ホウ酸を含んでいるのが好ましい。ホウ酸は、酸性溶液と塩基性溶液とを混合させたとき、2つのケイ酸イオンを結合する役割を有し、ケイ素原子とホウ素原子とを酸素原子を介して結合した骨格(Si-O-B骨格)が生じる。さらに、ケイ酸イオンのケイ素原子と置き換わるようにジルコニアイオンを含めてもよい。
【0017】
「酸性溶液と塩基性溶液の混合」
アルミニウムイオンおよびケイ酸イオンを含む酸性溶液と、ケイ酸アルカリ金属塩を含む塩基性溶液とをpH8~10となるように混合することによって、中和反応(水の生成)が生じて、酸性溶液中のケイ酸イオンと、塩基性溶液中のケイ酸イオンとが、アルミニウム原子によって複雑に重合される。そのため、アルミニウム原子とケイ素原子とが酸素原子を介して結合した骨格(Al-O-Si骨格)および複数のケイ素原子が酸素原子を介して結合した骨格(Si-O-Si骨格)を有している複合酸化物が形成されると考えられる。その中の一つとして例えば、一つのアルミニウム原子が複数のケイ素原子とそれぞれ異なる複数の酸素原子を介して結合した骨格を有する複合酸化物が形成されていると考えられる。特に、アルミニウム原子とケイ素原子とが酸素原子を介して結合した骨格(Al-O-Si骨格)を有し、かつ、アルミニウム原子が4つの酸素原子と結合した四面体形分子構造(結晶性アルミノ珪酸塩の構造のケイ素原子、酸素原子およびアルミニウム原子を有した骨格構造)を有した複合酸化物が形成されていると考えられる。また塩基性溶液がホウ酸を含む場合は、さらにケイ素原子とホウ素原子とを酸素原子を介して結合した骨格(B-O-Si骨格)を有した複合酸化物が形成されると考えられる。また酸性溶液または塩基性溶液にジルコニアイオンを含める場合、さらにケイ素子とジルコニア原子とを酸素原子を介して結合した骨格(Zr-O-Si骨格)を有した複合酸化物が形成されると考えられる。そのため、蓄光性蛍光体を上記酸性溶液および上記塩基性溶液と共に混合することにより、蓄光性蛍光体の表面にこれらの複合酸化物が被膜化しているものと考えられる。
このように複数のケイ酸イオンが重合した複合酸化物が蓄光性蛍光体の表面に被覆形成されているため、10nm~100nm、好ましくは20nm以上、特に30nm以上という比較的厚い被膜を設けることができる。
【0018】
「蓄光粒子の製造方法」
次に蓄光粒子の製造方法について説明する。
蓄光粒子の製造方法は、ランタノイド系希土類元素を賦活剤としてドープしたアルミン酸ストロンチウム化合物である蓄光性蛍光体を準備する第1工程と、アルミニウムイオンおよびケイ酸イオンを含む酸性溶液に、蓄光性蛍光体を分散させた分散液を準備する第2工程と、分散液にケイ酸アルカリ金属塩を含む塩基性溶液を混合する第3工程とを有する。
【0019】
第1工程は、ランタノイド系希土類元素を賦活剤としてドープしたアルミン酸ストロンチウム化合物である蓄光性蛍光体を準備する工程である。この蓄光性蛍光体は、上述した通りである。
第2工程は、アルミニウムイオンおよびケイ酸イオンを含む酸性溶液を準備し、その酸性溶液に蓄光性蛍光体の分散させる工程である。例えば、イオン交換水に蓄光性蛍光体を分散させ、その中にアルミニウムイオンおよびケイ酸イオンを含む濃縮な酸性溶液を投入してもよい。
第3工程は、酸性の分散液にリン酸アルカリ金属塩を含む塩基性溶液を混合する工程である。混合は、pHが8~10となるようにするのが好ましい。これにより、蓄光性蛍光体の表面にSi-O―Si骨格、Al-O-Si骨格等を含む複合酸化物合からなる被膜を形成させることができる。なお、これらを混合させるときにホウ酸を含めて混合してもよい。
また第1工程と第2工程との間に蓄光性蛍光体の表面を処理する工程を設けるのが好ましい。このような表面処理としては、上述したような蓄光性蛍光体を酸に分散させ、所定の期間を経過させた後、その酸に還元剤を添加し、そして、酸から分離した蓄光性蛍光体の表面への酸化処理が挙げられる。またこの製造方法では、酸性溶液に蓄光性蛍光体を分散させて、塩基性溶液を混合しているが、塩基性溶液に蓄光性蛍光体を分散させて酸性溶液を混合してもよい。
【実施例】
【0020】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。
【0021】
[実施例1]
[蓄光性蛍光体の製造工程]
蓄光性蛍光体としては、EuとDyがドープされたアルミン酸ストロンチウム蓄光粒子(エルティーアイ株式会社製の商品名:GDk130100WP(耐水性処理品)、平均粒度100μ)(以下、LTI製蓄光性蛍光体)を準備した。
【0022】
[蓄光性蛍光体の表面処理]
100gのイオン交換水をビーカーに入れ、この中にLTI製蓄光性蛍光体10gを分散させ、その分散液のpHが5.0となるように10%クエン酸溶液を1ml添加した。
次いでこの処理溶液を陽イオン交換樹脂に通して中和し、ホウ素化水素ナトリウムをイオン交換水に添加した1重量%のホウ素化水素ナトリウム溶液を0.5g加えた。
還元後、両性イオン交換樹脂を3g加えてホウ素化水素ナトリウムをトラップし、300μmのメッシュを用いて処理溶液から両性イオン交換樹脂を分離した。
再度、蓄光性蛍光体が10重量%となるようにイオン交換水を加え、撹拌しながら液温を50℃とした状態を30分間維持し、溶存酸素で蓄光性蛍光体の粒子表面を酸化した。
【0023】
[被膜形成工程]
酸化後の処理溶液を常温に戻し、リン酸アルミニウム、ケイ酸エチル、アンモニアおよび塩酸を混ぜたpHが4.2の酸性溶液(加藤化学工業所社製RE015-5A)を1gと、リン酸カリウムを含むpH12の塩基性溶液(リン酸カリウム系の水ガラス、固形分5%)(加藤化学工業所社製PK09-5B)を1gとをpH10となるように逐次添加し、蓄光性蛍光体の表面に複合酸化物を被覆させた蓄光粒子を製造した。これを実施例1とする。
【0024】
[実施例2]
LTI製蓄光性蛍光体が10重量%となるようにイオン交換水を加えた溶液に、リン酸アルミニウム、ケイ酸エチル、アンモニアおよび塩酸を混ぜたpHが4.2の酸性溶液(加藤化学工業所社製RE015-5A)を1gと、リン酸カリウムを含むpH12の塩基性溶液(リン酸カリウム系の水ガラス、固形分5%)(加藤化学工業所社製PK09-5B)を1gとをpH10となるように逐次添加し、蓄光性蛍光体の表面に複合酸化物を被覆させた蓄光粒子を製造した。これを実施例2とする。
【0025】
[実施例3]
100gのイオン交換水をビーカーに入れ、この中にLTI製蓄光性蛍光体10gを分散させ、その分散液のpHが5.0となるように10%ギ酸溶液を8ml添加した。そして、この処理溶液に還元剤としてホウ素化水素ナトリウムをイオン交換水に添加した1重量%のホウ素化水素ナトリウム溶液を0.5g加え、還元後、両性イオン交換樹脂を3g加えてホウ素化水素ナトリウムをトラップし、300μmのメッシュを用いて処理溶液から両性イオン交換樹脂を分離した。再度、蓄光性蛍光体が10重量%となるようにイオン交換水を加え、撹拌しながら液温を50℃とした状態を30分間維持し、溶存酸素で蓄光性蛍光体の粒子表面を酸化した。
その後、実施例1の蓄光粒子の被膜形成工程と同じ条件で蓄光性蛍光体の表面に複合酸化物を被覆させ、蓄光粒子を製造した。これを実施例3とする。この実施例3の蓄光粒子は、蓄光性蛍光体の表面処理の有機酸をクエン酸からギ酸に代えたものであり、それ以外は実施例1の蓄光粒子と同様にして製造している。
【0026】
[比較例1]
LTI製蓄光性蛍光体(エルティーアイ株式会社製の商品名:GDk130100WP(耐水性処理品)、平均粒度100μ)を準備した。これを比較例1とする。
【0027】
「残光輝度特性の測定」
実施例1、2、3の蓄光粒子および比較例1の蓄光粒子を厚さ5mmのケースに入れて、200LuxのD65光源を20分間照射し、色彩輝度計(株式会社トプコンテクノハウス社製BM-5AS)で2分後および20分後の輝度を測定した。その結果を表1に示す。
【0028】
【0029】
実施例1、2、3の蓄光粒子は、比較例1の蓄光粒子に対して2分後の輝度が1000mcd/m2以上大きかった。これから蓄光粒子に被覆された複合酸化物が発光に大きく影響していることがわかる。なお、20分後の輝度は、比較例1に比べて若干劣る結果となったが、いずれも250mcd/m2以上であった。これは実施例の蓄光粒子に被覆された複合酸化物がEu2+→Eu3+へ電荷の遷移をアシストしているからと考えられ、複合酸化物がアシストする発光と、複合酸化物がアシストしない発光とで反応速度が異なっているためと考えられる。
【0030】
次に実施例1の蓄光粒子と実施例2の蓄光粒子のSEM画像を
図1に示す。
図1a、cは、実施例1の蓄光粒子の300倍、5000倍であり、
図1b、dは、実施例2の蓄光粒子の300倍、5000倍の画像である。これらのSEM画像から実施例1の蓄光粒子の方が、表面上にびっしりきれいに被膜が形成されているのがわかる。一方、表面処理を行わない実施例2の蓄光粒子は、
図1dに示すように、複数のクラックが見られた。
【0031】
「耐水性の評価」
実施例1および実施例2の蓄光粒子をpH3の酢酸に5日間浸漬した後の状態、および、実施例1の蓄光粒子をpH10のアンモニア水に5日間浸漬した後の状態を調べた。いずれも蓄光性蛍光体表面の状態に変化は見られず、残光輝度特性も変化が見られなかった。
図2に、実施例1の蓄光粒子をpH3の酢酸に5日間浸漬させた後の状態のSEM画像(
図2aが300倍、
図2bが5000倍)を示す。
また耐水実験後の実施例2の蓄光粒子(表面処理無し)の輝度を測定した。その結果を表2に示す。
【0032】
【0033】
耐水後の蓄光粒子は、耐水前の蓄光粒子に比べて2分後および20分後の輝度が若干低下したが、以前高い水準の残光輝度特性が見られた。
【要約】
【課題】耐水性および残光輝度特性が優れた蓄光粒子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】蓄光性蛍光体と、その表面に形成された被膜とを備えた蓄光粒子であって、被膜がアルミニウム原子とケイ素原子とを含む無機複合酸化物を有する蓄光粒子。被膜は、アルミニウムイオンおよびケイ酸イオンを含む酸性溶液に、ケイ酸アルカリ金属塩を含む塩基性溶液を混合することによって形成されている。
【選択図】
図1