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  • 特許-モータ制御装置 図1
  • 特許-モータ制御装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20230911BHJP
   H02P 25/024 20160101ALI20230911BHJP
   B60L 9/18 20060101ALN20230911BHJP
【FI】
B60L15/20 J
H02P25/024
B60L9/18 J
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019141830
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021027627
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】植田 光男
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-191677(JP,A)
【文献】特開2015-154528(JP,A)
【文献】特開2006-034052(JP,A)
【文献】特開2005-073307(JP,A)
【文献】特開2018-167614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
H02P 25/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に走行用のモータとして搭載された永久磁石同期電動機を制御する装置であって、
前記モータが力行運転および回生運転されない空走時に、前記モータに供給される電流の指令値を零に設定する零指令手段と、
前記零指令手段により電流の指令値が零に設定されているときに、前記モータに生じる逆起電圧を検出する逆起電圧検出手段と、
前記逆起電圧検出手段による逆起電圧の検出時に、前記モータの回転数を検出する回転数検出手段と、
前記逆起電圧検出手段により検出される逆起電圧を前記回転数検出手段により検出される回転数で除算して得られる値を用いて、当該値が小さいほど前記モータのトルクを目標に一致させるための指示トルクが大きくなるように、前記指示トルクを算出する指示トルク算出部とを含む、モータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に走行用の駆動源として搭載されたモータを制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車(HV:Hybrid Vehicle)や電気自動車(EV:Electric Vehicle)には、走行用の駆動源としてのモータと、モータに対する電力の入出力を制御するPCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)とが搭載されている。
【0003】
モータには、永久磁石同期電動機(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)が広く採用されている。永久磁石同期電動機は、回転子に強磁性体である永久磁石を用いた同期電動機である。モータ(永久磁石同期電動機)が発生するトルクは、各個体に固有のトルク定数とモータに流れる電流との積に相関した値となる。トルク定数は、モータ個体間でばらつきがある。そのため、モータのトルク制御では、トルクの指示値(目標値)である指示トルクと実際のトルクである実トルクとに乖離が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/121373号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、目標トルクと実トルクとの乖離を抑制できる、モータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、本発明に係るモータ制御装置は、車両に走行用のモータとして搭載された永久磁石同期電動機を制御する装置であって、モータが力行運転および回生運転されない空走時に、モータに供給される電流の指令値を零に設定する零指令手段と、零指令手段により電流の指令値が零に設定されているときに、モータに生じる逆起電圧を検出する逆起電圧検出手段と、逆起電圧検出手段による逆起電圧の検出時に、モータの回転数を検出する回転数検出手段と、逆起電圧検出手段により検出される逆起電圧を回転数検出手段により検出される回転数で除算して得られる値を用いて、モータのトルクを目標トルクに一致させるための指示トルクを算出する指示トルク算出部とを含む。
【0007】
この構成によれば、車両の空走時に、永久磁石同期電動機であるモータに供給される電流の指令値が零に設定されて、その状態でモータに生じる逆起電圧が検出される。また、モータの回転数が検出される。そして、逆起電圧を回転数で除算して得られる値、つまり逆起電圧定数を用いて、モータのトルクを目標に一致させるための指示トルクが算出される。
【0008】
モータが車両に搭載された状態で個体ごとに逆起電圧定数が求められて、その逆起電圧定数を用いて指示トルクが算出されるので、モータ個体間での逆起電圧定数のばらつきに起因する指示トルクと実際のトルクである実トルクとに乖離を抑制(従来よりも低減)できる。
【0009】
とくに、モータの温度が上昇し、それに伴って永久磁石の磁束が減少したときに、その減少した磁束に応じた逆起電圧定数を用いて指示トルクが算出されることにより、目標トルクと実トルクとの乖離を抑制でき、モータのトルク制御を高精度に実施できる。その結果、高精度なトルク制御により、ドライバビリティを向上できる。
【0010】
また、車両の工場出荷時に、モータ特性(永久磁石の特性など)を各々測定し、対となるPCUへソフトを書き込む必要をなくすことができる。これにより、モータまたはPCUの一方に故障が生じた場合に、それらの両方を一緒に交換する必要がなくなり、故障した方を単品で交換することが可能となる。
【0011】
逆起電圧定数は、モータの永久磁石の磁束と相関があり、また、モータのトルク定数とも相関がある。したがって、磁束またはトルク定数を用いて指示トルクを算出することは、逆起電圧定数を用いて指示トルクを算出することと同義である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、目標トルクと実トルクとの乖離を抑制できるので、モータのトルク制御を高精度に実施でき、その高精度なトルク制御により、ドライバビリティの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る車両の要部の構成を示す図である。
図2】指示トルク算出処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0015】
<車両の要部構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る車両1の要部の構成を示す図である。
【0016】
車両1は、モータ2を走行用の駆動源として搭載したハイブリッド車(HV:Hybrid Vehicle)である。車両1には、たとえば、シリーズ方式のハイブリッドシステムを採用している。シリーズ方式のハイブリッドシステムでは、エンジンの動力が発電用のモータで電力に変換され、その電力でモータ2が駆動されて、モータ2の動力が駆動輪に伝達される。
【0017】
モータ2は、回転子に強磁性体である永久磁石を用いた永久磁石同期電動機(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)である。モータ2は、電動機として機能し、また、発電機としても機能する。
【0018】
また、車両1には、駆動用バッテリ3と、PCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)4とが搭載されている。
【0019】
駆動用バッテリ3は、複数の二次電池を組み合わせた組電池であり、たとえば、リチウムイオン電池からなる。駆動用バッテリ3は、たとえば、約200~350Vの直流電力を出力する。
【0020】
PCU4は、モータ2と駆動用バッテリ3とに接続されている。PCU4は、インバータ5およびマイコン(マイクロコントローラユニット)6を内蔵している。インバータ5は、2個の半導体スイッチング素子の直列回路をモータ2のU相、V相およびW相の各相に対応して設け、それらの直列回路を互いに並列に接続して構成されている。
【0021】
モータ2が電動機として機能する力行運転時には、駆動用バッテリ3から出力される直流電力がインバータ5で交流電力に変換され、交流電力がインバータ5からモータ2に供給される。一方、モータ2が発電機として機能する回生運転時には、モータ2で駆動輪からの動力が交流電力に変換される。このとき、モータ2が駆動系の抵抗となり、その抵抗による回生制動力が駆動輪に作用する。モータ2で発生した交流電力は、インバータ5で直流電力に変換されて、駆動用バッテリ3に充電される。
【0022】
マイコン6は、モータ2の回転数を検出する。具体的には、モータ2には、モータ2の回転に同期したパルス信号を出力する回転センサ(図示せず)が設けられており、マイコン6は、回転センサから出力されるパルス信号の周期からモータ2の回転数を求める。また、マイコン6は、モータ2とインバータ5との間に現れる電圧を検出する。
【0023】
電圧の検出方法は、インバータ5のスイッチングを停止させて直接検出する方法でも、インバータ5のスイッチングを停止させずに、インバータ5への入力電圧とインバータ5からモータ2への出力電圧パルス幅から間接的に算出する方法でもよい。
【0024】
また、車両1には、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)7が搭載されている。ECU7には、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。図1には、1つのECU7のみが示されているが、車両1には、各部を制御するため、ECU7と同様の構成を有する複数のECUが搭載されている。ECU7を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。また、ECU7は、PCU4のマイコン6と通信可能に接続されている。
【0025】
ECU7は、他のECUやPCU4のマイコン6から受信した情報などに基づいて、モータ2のトルクが目標に一致するように、マイコン6を介してPCU4のインバータ5の動作を制御する。
【0026】
<指示トルク算出処理>
図2は、指示トルク算出処理の流れを示すフローチャートである。
【0027】
ECU7は、モータ2のトルク制御に使用する指示トルクを算出するため、車両1の走行中に、図2に示される指示トルク算出処理を実行する。
【0028】
指示トルク算出処理では、モータ2が力行運転および回生運転されない状態で車両1が走行している空走中であるか否かが判定される(ステップS1)。車両1が空走中でない場合(ステップS1のNO)、指示トルク算出処理は次に進まない。
【0029】
車両1が空走中である場合(ステップS1のYES)、PCU4のインバータ5からモータ2に供給される電流の指令値が零(0)に設定される(ステップS2)。そして、その零指令値がECU7からPCU4のマイコン6に伝達されて、マイコン6によりインバータ5の動作が制御されることにより、インバータ5からモータ2に供給される電流が零になる。
【0030】
零指令値の設定は、一定の期間にわたって継続される。この期間に、マイコン6により、モータ2とインバータ5との間に現れる電圧が検出される。インバータ5からモータ2に電流が供給されていないので、このときモータ2とインバータ5との間に現れる電圧は、モータ2の回転子の回転により発生する逆起電圧である。すなわち、零指令値が設定されている期間に、マイコン6によって、モータ2に発生する逆起電圧が検出される(ステップS3)。
【0031】
また、マイコン6によって、モータ2の回転数が検出される。マイコン6により検出されるモータ2の逆起電圧および回転数は、マイコン6からECU7に送信される。ECU7にモータ2の逆起電圧および回転数が入力されると、その逆起電圧を回転数で除算することにより、モータ2の逆起電圧定数が算出される(ステップS4)。
【0032】
その後、その算出された逆起電圧定数を用いて、モータ2のトルクを目標に一致させるための指示トルクが算出されて(ステップS5)、指示トルク算出処理が終了される。
【0033】
<作用効果>
以上のように、車両1の空走時に、永久磁石同期電動機であるモータ2に供給される電流の指令値が零に設定されて、その状態でモータ2に生じる逆起電圧が検出される。また、モータ2の回転数が検出される。そして、逆起電圧を回転数で除算して得られる値、つまり逆起電圧定数を用いて、モータ2のトルクを目標に一致させるための指示トルクが算出される。
【0034】
モータ2が車両1に搭載された状態で個体ごとに逆起電圧定数が求められて、その逆起電圧定数を用いて指示トルクが算出されるので、モータ2の個体間での逆起電圧定数のばらつきに起因する指示トルクと実際のトルクである実トルクとに乖離を抑制(従来よりも低減)できる。
【0035】
モータ2のトルクは、トルク定数とモータ2を流れるモータ電流との積で求まる。モータ2の逆起電圧定数はモータ2のトルク定数と大略的に一致するので、トルク定数を逆起電圧定数に置き換えて考える。たとえば、モータ2のトルクの目標である指示トルクが100(N・m)であり、PCU4のマイコン6が逆起電圧定数を1.0(N・m/Arms)であると認識している場合、マイコン6は、モータ電流の目標を100(Arms)に設定する。しかしながら、モータ2の永久磁石の温度上昇により、逆起電圧定数が90(N・m/Arms)に低下している場合、モータ電流の目標が100(Arms)に設定されると、モータ2の実トルクは90(N・m)となり、指示トルクと実トルクとが乖離する。この場合に、逆起電圧定数が90(N・m/Arms)であることに応じて、指示トルクが110(N・m)に設定されると、PCU4のマイコン6は、モータ電流の目標を110(Arms)に設定する。その結果、モータ2の実トルクが99(N・m)となり、目標トルクと実トルクとの乖離が低減する。
【0036】
目標トルクと実トルクとの乖離を抑制できるので、モータ2のトルク制御を高精度に実施できる。その結果、高精度なトルク制御により、ドライバビリティを向上することができる。
【0037】
また、永久磁石の温度が一時的に上昇し、逆起電圧定数が低下した状態でも、目標トルクと実トルクの乖離を低減させることができる。
【0038】
また、車両1の工場出荷時に、モータ2特性(永久磁石の特性など)をPCU4のソフトに書き込む必要をなくすことができる。これにより、モータ2またはPCU4の一方に故障が生じた場合に、それらの両方を一緒に交換する必要がなくなり、故障した方を単品で交換することが可能となる。
【0039】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0040】
たとえば、前述の実施形態では、本発明に係る技術がシリーズ方式を採用したハイブリッド車に適用された場合を例にとったが、本発明に係る技術は、他の方式を採用したハイブリッド車に適用されてもよいし、ハイブリッド車に限らず、モータを走行用の駆動源として搭載した車両であれば、エンジンを搭載していない電気自動車に適用することもできる。
【0041】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1:車両
2:モータ
6:マイコン(逆起電圧検出手段、回転数検出手段)
7:ECU(モータ制御装置、零指令手段、逆起電圧検出手段、回転数検出手段)
図1
図2