(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】鋳造金型用の温度測定装置
(51)【国際特許分類】
B22D 17/22 20060101AFI20230911BHJP
G01J 5/00 20220101ALI20230911BHJP
G01J 5/48 20220101ALI20230911BHJP
B22C 9/06 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
B22D17/22 D
G01J5/00 101A
G01J5/48 C
B22C9/06 B
(21)【出願番号】P 2019165820
(22)【出願日】2019-09-12
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【氏名又は名称】中島 由布子
(74)【代理人】
【識別番号】100217696
【氏名又は名称】川口 英行
(72)【発明者】
【氏名】浅井 顕
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-001302(JP,A)
【文献】特開2011-079017(JP,A)
【文献】特開2005-246402(JP,A)
【文献】特開2013-212526(JP,A)
【文献】特開2019-084556(JP,A)
【文献】特開2008-249637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/22、17/32
B22C 9/06
G01J 5/00
B29C 45/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金型を接合して形成したキャビティ内に金属溶湯を射出して、前記キャビティの形状に対応した鋳造品を作製する鋳造金型用の温度測定装置であって、
鋳造金型の型開き時に、前記金型の熱画像を取得する熱画像取得手段と、
前記熱画像取得手段が取得した熱画像を用いて、前記鋳造金型の温度異常の有無を判定する判定手段と、を有し、
前記判定手段は、
前記熱画像取得手段が取得した熱画像と比較される基準熱画像を設定する基準熱画像設定部と、
前記熱画像取得手段が取得した熱画像を構成する画素毎に、前記基準熱画像の対応する画素との温度差を算出する温度差算出部と、
算出された温度差に基づいて前記温度異常の有無を判定する判定部と、を有し、
前記基準熱画像設定部は、
前記キャビティ内に前記金属溶湯を射出して前記鋳造金型を予熱する捨て打ち工程では、前記金型毎に用意された専用の熱画像を前記基準熱画像として設定し、
前記キャビティ内に前記金属溶湯を射出して前記鋳造品を作製する本打ち工程では、前記捨て打ち工程における予熱が完了した前記金型の熱画像を前記基準熱画像として設定
することを特徴とする鋳造金型用の温度測定装置。
【請求項2】
前記捨て打ち工程において前記判定部は、前記捨て打ちが所定回数終了した時点における前記金型の熱画像と、前記基準熱画像との温度差が、第1の閾値範囲外である場合に前記温度異常を判定することを特徴とする請求項1に記載の鋳造金型用の温度測定装置。
【請求項3】
前記基準熱画像設定部は、
前記捨て打ち工程前の前記鋳造金型の休止時間、および/または前記捨て打ち工程の開始時の前記鋳造金型の温度に応じて、前記所定回数を増減させることを特徴とする請求項2に記載の鋳造金型用の温度測定装置。
【請求項4】
前記捨て打ち工程において前記基準熱画像設定部は、前記捨て打ちが所定回数に達したのち、前記捨て打ち完了時の前記金型の熱画像であって、前回の捨て打ち完了時の前記金型の温度との差分が所定値未満であるときの熱画像を、前記本打ち工程での前記基準熱画像として設定することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の鋳造金型用の温度測
定装置。
【請求項5】
前記温度差算出部が算出した温度差に基づいて、前記熱画像取得手段が取得した熱画像と、前記基準熱画像との差分画像を生成する差分画像生成部と、
前記差分画像を表示する表示装置と、を有しており、
前記表示装置において前記差分画像を構成する画素の各々は、前記算出した温度差に応じて、前記温度差が異なる他の画素と識別可能に表示されていることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の鋳造金型用の温度測定装置。
【請求項6】
前記本打ち工程において前記判定部は、前記熱画像取得手段が取得した熱画像と、前記基準熱画像との温度差が、前記第1の閾値範囲よりも狭い第2の閾値範囲外である場合に、前記温度異常を判定することを特徴とする請求項
2に記載の鋳造金型用の温度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造金型用の温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鋳造金型の温度と、鋳造金型内に射出される溶湯の温度と、に基づいて、鋳造条件を制御することが開示されている。
特許文献2には、鋳造金型の熱画像を撮像し、基準画像と比較することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平08-309510号公報
【文献】国際公開第2008/120774号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鋳造品の連続鋳造に用いられる鋳造金型では、冷却水が通流する冷却ジャケットの一部に目詰まりなどが生じると、鋳造金型の一部の領域の温度が他の領域の温度よりも高くなり、鋳造品の品質に影響を及ぼすことがある。
【0005】
そこで、鋳造金型を用いた鋳造品の連続鋳造を、適切に行えるようにすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
複数の金型を接合して形成したキャビティ内に金属溶湯を射出して、前記キャビティの形状に対応した鋳造品を作製する鋳造金型用の温度測定装置であって、
鋳造金型の型開き時に、前記金型の熱画像を取得する熱画像取得手段と、
前記熱画像取得手段が取得した熱画像を用いて、前記鋳造金型の温度異常の有無を判定する判定手段と、を有し、
前記判定手段は、
前記熱画像取得手段が取得した熱画像と比較される基準熱画像を設定する基準熱画像設定部と、
前記熱画像取得手段が取得した熱画像を構成する画素毎に、前記基準熱画像の対応する画素との温度差を算出する温度差算出部と、
算出された温度差に基づいて前記温度異常の有無を判定する判定部と、を有し、
前記基準熱画像設定部は、
前記キャビティ内に前記金属溶湯を射出して前記鋳造金型を予熱する捨て打ち工程では、前記金型毎に用意された専用の熱画像を前記基準熱画像として設定し、
前記キャビティ内に前記金属溶湯を射出して前記鋳造品を作製する本打ち工程では、
前記捨て打ち工程における予熱が完了した前記金型の熱画像を前記基準熱画像として設定する構成の鋳造金型用の温度測定装置とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、鋳造金型を用いる鋳造品の連続鋳造を、適切に行える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図7】捨て打ち工程から本打ち工程までの間での金型の温度変化と、温度異常の判定との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、鋳造装置1の構成を説明する模式図である。
なお、以下の説明においては、説明の便宜上、鋳造金型2が2つの金型(固定型21A、可動型21B)から構成される場合を例に挙げて説明する。
【0010】
図1に示すように鋳造装置1は、ダイカスト鋳造に用いられる鋳造金型2と、アルミニウム合金などの金属溶湯を、鋳造金型2内のキャビティCに射出する射出装置5と、鋳造金型2の温度測定装置6と、を備える。
【0011】
図1に示すように、鋳造金型2は、固定型21Aと、当該固定型21Aに対向配置された可動型21Bとを有している。
可動型21Bは、図示しない駆動機構により、型開き方向(
図1における左右方向)に進退移動して、当該可動型21Bの型分割面22bを、固定型21Aの型分割面22aに対して接離させる。
固定型21Aと可動型21Bの互いの型分割面22a、22bを接合して型締めすると、鋳造品の形状に対応したキャビティCが、固定型21Aと可動型21Bの間に形成される。
【0012】
図1に示すように固定型21Aには、射出スリーブ50が連結されている。射出スリーブ50は、鋳造金型2の設置状態を基準とした上下方向で、固定型21Aの下部に連結されている。
射出スリーブ50は、固定型21A側の内部の連絡路23と、可動型21B側の連絡路24と、を介して、キャビティCに連通している。
【0013】
射出スリーブ50は、固定型21Aから離れる方向に直線状に延びる筒状部材であり、射出スリーブ50の内部は、アルミニウム合金などの金属製の溶湯(金属溶湯M)の送出路500となっている。
【0014】
送出路500には、金属溶湯Mの押出部材51が、射出スリーブ50の他端50b側から挿入されている。押出部材51は、図示しない駆動機構により、送出路500の長手方向に進退移動可能である。
【0015】
射出スリーブ50では、長手方向における他端50b側の外周に、金属溶湯Mの注湯口501が開口している。本実施形態では、注湯口501から射出スリーブ50内に金属溶湯Mが注湯される。
【0016】
射出スリーブ50内に金属溶湯Mを注湯したのち、押出部材51を、図示しない駆動機構により固定型21A側(図中、左側)に変位させると、射出スリーブ50内の金属溶湯Mが、押出部材51の大径部510より押されて、キャビティC内に射出される。
【0017】
固定型21Aと可動型21Bの内部には、冷却水が通流する配管25、26が、複数設けられている。固定型21Aと可動型21Bは、配管25、26を通流する冷却水との熱交換により冷却される。
【0018】
鋳造金型2を用いた鋳造品の連続鋳造は、以下の工程(1)から工程(6)を繰り返し実施することで行われる。
【0019】
(1)固定型21Aと可動型21Bの型分割面22a、22b同士を接合する型締め工程、(2)キャビティCに金属溶湯Mを射出して固化させる射出工程、(3)固定型21Aと可動型21Bとを離間させる型開き工程、(4)金属溶湯Mの固化により鋳造された鋳造品を取り出す取出工程、(5)固定型21Aと可動型21Bを冷却する冷却工程、(6)固定型21Aと可動型21Bの型分割面22a、22bに離型剤を噴霧する噴霧工程。
【0020】
これら(1)から(6)までの工程が、キャビティC内に金属溶湯Mを射出して鋳造品を作製する本打ち工程である。この本打ち工程を繰り返すことで、鋳造品が連続的に作製される。
【0021】
なお、鋳造金型2を用いた鋳造品の連続鋳造を開始する前には、キャビティC内に金属溶湯Mを射出して鋳造金型2を予熱する捨て打ち工程が、複数回実施される。
【0022】
ここで、鋳造品の連続鋳造を安定的に行うためには、鋳造金型2を適切な温度に保持しつつ、鋳造を行う必要がある。
ここで、固定型21Aや可動型21Bの内部の冷却水の配管25、26に目詰まりなどの不具合が生じると、固定型21Aや可動型21Bの一部の領域の温度を、適切な温度に保持することができなくなる。
そうすると、キャビティC内に射出された金属溶湯Mの固化速度が、温度が高い領域において遅くなる結果、温度が高い領域に、金属溶湯Mに含まれる添加剤の偏析や、鋳巣の発生などが生じることがある。かかる場合、鋳造品の歩留まりが悪化する。
【0023】
例えば、金属溶湯が、アルミ合金鋼ADC12である場合、720度の金属溶湯がキャビティC内に射出されるため、冷却水の配管25、26に生じた目詰まりの影響は、鋳造品において大きくなる。
【0024】
本実施形態にかかる鋳造装置1は、鋳造金型2の温度異常(冷却不良)を判定するための温度測定装置6を備えている。
温度測定装置6は、熱画像を取得可能なカメラ10を有している。
温度測定装置6では、鋳造金型2の型開き時に、鋳造金型2を構成する各金型(固定型21A、可動型21B)をカメラ10で撮像して、熱画像を取得する。そして、取得した熱画像から、各金型(固定型21A、可動型21B)の温度異常(冷却不良)を判定する。
以下、固定型21Aと可動型21Bとを区別しない場合には、説明の便宜上、金型21と標記する。
【0025】
カメラ10は、撮像した対象物の熱画像データを出力することができる従来公知の赤外線カメラである。熱画像データは、撮像画像を構成する画素毎に、画素に対応する対象物の領域の温度を特定可能な情報(温度情報)を持っている。
【0026】
図2に示すように、本実施形態では、カメラ10は、鋳造金型2を構成する複数の金型21に1対1で設けられている。すなわち、一台のカメラから出力される熱画像データは、カメラ10に対応する1つの金型21の熱画像を生成するためのデータである。
なお、一台のカメラ10で複数の金型21を同時に撮像して、一台のカメラから出力される熱画像データから、一つの熱画像IMに、複数の金型21が含まれるようにしてもよい。
【0027】
カメラ10の各々は、鋳造金型2の型開き時に、金型21のキャビティC側の面21a、21bを撮像して、温度測定装置6に出力する。温度測定装置6にカメラ10から入力される撮像画像は、金型21の表面の温度分布を特定可能な熱画像データ(熱画像)である。
【0028】
温度測定装置6は、CPU60を備えており、このCPU60には、記憶部69や入出力ポートI/Oが、図示しないバスを介して接続されている。
【0029】
入出力ポートI/Oには、カメラ10と、鋳造金型2による鋳造を制御する鋳造制御装置70と、キーボード、マウス、スピーカなどの入出力装置71と、表示装置72と、が接続されている。
表示装置72は、カメラ10で撮像した金型の熱画像や、温度測定装置6での処理により生成された差分画像などを表示可能な従来公知のモニタである。
【0030】
記憶部69は、例えばHDD(ハードディスクドライブ)、SSD(ソリッドステートドライブ)、メモリなどの情報記録媒体から構成されている。
記憶部69には、CPU60による処理に必要なプログラムや、後記する基準熱画像(絶対マスタ画像、段取りマスタ画像)などが記憶されている。さらに、記憶部69には、CPU60による処理により生成された情報や差分画像、そしてカメラ10から入力された撮像画像(熱画像)が記憶される。
【0031】
CPU60では、記憶部69に記憶されたプログラムに基づいて、異常判定処理が実施される。異常判定処理は、鋳造金型2を構成する各金型21(固定型21A、可動型21B)での温度異常の有無を判定する処理である。
プログラムに基づいて異常判定処理を実施するCPU60が、本発明にかかる判定手段に相当する。
【0032】
温度測定装置6は、キャビティC内に金属溶湯Mを射出して鋳造金型2を予熱する捨て打ち工程において、少なくとも1回、異常判定処理を実施する。
さらに、温度測定装置6は、キャビティC内に金属溶湯Mを射出して鋳造品を作製する本打ち工程において、上記した工程(1)から工程(6)までの1サイクルが完了するたびに、異常判定処理を実施する。
すなわち、温度測定装置6は、鋳造金型2を用いた鋳造品の連続鋳造の過程で、鋳造品の鋳造が行われるたびに、異常判定処理を実施する。
【0033】
CPU60は、異常判定処理を実施するための機能ブロックとして、熱画像取得部61と、基準熱画像設定部62と、温度差算出部63と、差分画像生成部64と、判定部65と、を有している。
【0034】
熱画像取得部61は、鋳造金型2が型開きされたタイミングで、金型21のキャビティC側の面21a、21bの熱画像IMを、カメラ10、10から取得する。
【0035】
図3は、熱画像の一例を説明する模式図である。
図3の(a)は、カメラ10から出力される熱画像IMの一例を示した模式図である。
図3の(b)は、熱画像IMと比較される基準熱画像RFの一例を示した模式図である。
なお、
図3では、熱画像IM、基準熱画像RFにおける各画素Pxの位置を説明する都合で、数字とアルファベットを用いて行と列の位置を特定できるようにしている。
【0036】
カメラ10による撮像で得られる熱画像IMは、当該熱画像IMを構成する画素Px毎に、画素Pxに対応する金型21の表面表域の温度を示す情報(温度情報)を有している。
【0037】
例えば、
図3の(a)では、25行×25列の画素群からなる熱画像IMを一例として示しており、各画素Pxの温度の違いを、ハッチングの密度の違いで示している。
なお、
図3では、ハッチングの密度が薄くなるほど温度が高いことを示している。
【0038】
基準熱画像設定部62は、熱画像取得部61が取得した熱画像IMと比較される基準熱画像RFを決定する。
本実施形態では、絶対マスタ画像RFaと、段取りマスタ画像RFbと、が基準熱画像RFとして用いられる(
図2参照)。
【0039】
絶対マスタ画像RFaは、捨て打ち工程を実施している際に取得された金型21の熱画像IMとの比較に用いられる。
絶対マスタ画像RFaは、捨て打ち工程での金型21の温度異常の有無を判定するための熱画像データである。
【0040】
段取りマスタ画像RFbは、本打ち工程を実施している際に取得された金型21の熱画像との比較に用いられる。
段取りマスタ画像RFbは、本打ち工程での金型21の温度異常の有無を判定するための熱画像データである。
【0041】
絶対マスタ画像RFaは、鋳造金型2を構成する金型21毎に、予め用意されている。
本実施形態では、鋳造金型2が、固定型21Aと可動型21Bの2つから構成されるので、合計2つの絶対マスタ画像RFaが、記憶部69に予め記憶されている。
【0042】
絶対マスタ画像RFaは、カメラ10から入力される熱画像IMと同じサイズ、および同じ画素数で用意されている。
絶対マスタ画像RFaは、金型21の予熱が完了した時点における金型21の理想的な表面温度分布を規定した画像データである。
絶対マスタ画像RFaを構成する各画素Pxの温度は、実験やシミュレーションなどを通じて設定されたものである。
【0043】
段取りマスタ画像RFbは、予熱が完了した金型21の熱画像IMから作成される熱画像である。予熱が完了した金型21とは、金型21の温度が、本打ち工程を開始できる温度に到達していることを意味する。
【0044】
一例として、捨て打ち工程において、ある捨て打ちが完了した時点の金型21の温度と、一回前の捨て打ちが完了した時点の金型21の温度との温度差が、例えば10度未満(閾値温度Th未満)となった時点を、金型21の予熱が完了した時とすることができる。
【0045】
捨て打ちの開始直後は、金型21の温度が大きく上昇する。そして、捨て打ちの繰り返しにより、金型21の予熱が進行するにつれて、金型21の温度の上昇幅が小さくなって、金型21の温度が安定する。この状態を、金型の予熱が完了した状態としている。
【0046】
本実施形態では、金型21の温度が安定した時点の熱画像IMを、本打ち工程での熱画像IMとの比較に用いられる段取りマスタ画像RFb(基準熱画像RF)として設定する。
これにより、段取りマスタ画像RFbは、本打ち工程を開始する時点での金型21の現状を反映した熱画像となる。このようにして設定した段取りマスタ画像RFbと、カメラ10による撮像で得られた熱画像IMとを比較することで、本打ち工程における金型21の温度異常の有無を、より適切に判定できるようにしている。
なお、鋳造品の連続鋳造の度に、そのときの鋳造金型2の状態に応じた段取りマスタ画像RFbが生成されて、基準熱画像RFとして採用される。
【0047】
また、捨て打ちの前後での金型21の温度差を基準として予熱の完了を判断するのに代えて、捨て打ちの累積回数が所定回数に達した時点で、鋳造金型2の予熱が完了したと一律に判断するようにしてもよい。
【0048】
段取りマスタ画像RFbは、鋳造金型2を構成する金型21毎に用意される。
本実施形態では、鋳造金型2が、固定型21Aと可動型21Bの2つから構成されるので、合計2つの段取りマスタ画像RFbが、予熱が完了した時点で作成されて、記憶部69に記憶される。なお、段取りマスタ画像RFbは、本打ち工程の開始前までに作成されていればよい。
【0049】
段取りマスタ画像RFbは、カメラ10から入力される熱画像IMを用いて作成される。そのため、カメラ10から入力される熱画像IMと同じサイズ、および同じ画素数で作成される。
そして、段取りマスタ画像RFbは、前記した絶対マスタ画像RFaと同様に、段取りマスタ画像RFbを構成する画素Px毎に、画素Pxに対応する金型21の表面の温度を示す情報(温度情報)を有している。
【0050】
温度差算出部63は、金型21の熱画像IMが入力されると、入力された熱画像IMと、基準熱画像RF(絶対マスタ画像RFaまたは段取りマスタ画像RFb)と、を比較する。
具体的には、温度差算出部63は、カメラ10による撮像で得られた熱画像IMを構成する画素Px毎に、基準熱画像RFの対応する画素Pxとの温度差を算出する。
【0051】
一例として、
図3の(a)に示す熱画像IMにおいて3行目K列の位置にある画素Pxと、
図3の(b)に示す基準熱画像RFにおいて3行目K列の位置にある画素Pxとの温度差というように、熱画像IMに含まれる総ての画素pxについて、基準熱画像RFとの温度差を算出する。
【0052】
温度差算出部63は、温度差を算出する熱画像IMが、捨て打ち工程を実施しているときの金型21の熱画像IMである場合には、入力された熱画像IMと絶対マスタ画像RFaとを比較する。これにより、カメラ10による撮像で得られた熱画像IMを構成する画素Px毎に、絶対マスタ画像RFaの対応する画素Pxとの温度差が算出される。
【0053】
温度差算出部63は、温度差を算出する熱画像IMが、本打ち工程を実施しているときの金型21の熱画像IMである場合には、入力された熱画像IMと段取りマスタ画像RFbとを比較する。これにより、カメラ10による撮像で得られた熱画像IMを構成する画素Px毎に、段取りマスタ画像RFbの対応する画素Pxとの温度差が算出される。
【0054】
図4は、25行×25列の画素群からなる差分画像の一例を示した図である。
差分画像では、カメラ10による撮像で得られた熱画像IMを構成する画素毎に、画素Pxに対応する金型21の表面領域の温度が、基準熱画像RFの対応する領域の温度(基準温度)からどの程度乖離しているのか(基準熱画像RFで設定された温度との温度差)を示している。
図4では、ハッチングなしを中央値(温度差なし)として、ハッチングの密度が濃くなるほど、温度差が大きいことを示している。
そして、実線で示すハッチングの密度が濃くなると、熱画像IMの画素Pxの温度が、基準熱画像RFで規定された対応する画素Pxの温度よりも高くなることを示している。
また、鎖線で示すハッチングの密度が濃くなると、熱画像IMの画素Pxの温度が、基準熱画像RFで規定された対応する画素Pxの温度よりも低くなることを示している。
【0055】
図4の(a)は、金型21に温度異常が無いと判定された場合の差分画像を示した図である。
図4の(b)は、金型21に温度異常があると判定された場合の差分画像を示した図である。
【0056】
差分画像生成部64は、温度差算出部63で算出した温度差に基づいて、差分画像を生成する。差分画像生成部64が生成した差分画像は、表示装置72に出力されて、表示装置72が持つモニタ上に表示される。
この際に、差分画像を構成する各画素は、温度差算出部63で算出された誤差に基づいて、識別可能な形態でモニタ上に表示される。例えば、温度差の高低がカラーの違いで表示される。
この際に、差分画像が、金型21のどの部分に相当するのかを識別できるようにするために、差分画像に金型21の全体画像や、輪郭線を示す線画像が、差分画像に重畳して表示されるようにしてもよい。
【0057】
図4の(a)では、カメラ10による撮像で得られた熱画像IMにおける11行G列から11行N列までの画素Pxが、基準熱画像RFで設定された温度との温度差がない(=0)であることを示している。
図4の(b)では、15行J列の画素Pxと15行K列の画素Pxが、基準温度よりも高いことを示している。
【0058】
判定部65は、温度差算出部63で算出された温度差に基づいて、熱画像IMに対応する金型21における温度異常の有無を判定する。
判定部65は、温度差を算出した熱画像IMが、捨て打ち工程のときの金型21の熱画像IMである場合には、第1の閾値範囲△Tha(
図7参照)を用いて、金型21の温度異常の有無を判定する。
【0059】
具体的には、温度差を算出した熱画像IMを構成する各画素Pxについて、第1の閾値範囲内であるか否かを確認し、温度差が第1の閾値範囲を超えた画素がある場合には、金型21に温度異常があると判定する。
【0060】
また、判定部65は、温度差を算出した熱画像IMが、本打ち工程のときの金型21の熱画像IMである場合には、第2の閾値範囲△Thb(
図7参照)を用いて、金型21の温度異常の有無を判定する。
なお、第2の閾値範囲は、第1の閾値範囲よりも狭くなっている。捨て打ち工程よりも本打ち工程のほうが、鋳造品の歩留まりを低下させないようにするために、金型21の温度管理をより厳密に行う必要があるからである。
ここで、第2の閾値範囲は、一例として、閾値温度を基準とした±30度の温度範囲であり、第1の閾値範囲は、閾値温度を基準とした±50度の温度範囲である。
【0061】
さらに、判定部65は、熱画像取得部61が取得した熱画像IMと、差分画像生成部64が生成した差分画像とを関連付けて、記憶部69に記憶する。
【0062】
以下、温度測定装置6で実施される異常判定処理を説明する。
図5および
図6は、異常判定処理のフローチャートである。
【0063】
図5に示すように、鋳造金型2を用いた鋳造が開始されると(ステップS101、Yes)、基準熱画像設定部62が、捨て打ち工程が実施されるか否かを確認する(ステップS102)。
【0064】
捨て打ち工程が実施される場合(ステップS102、Yes)、基準熱画像設定部62は、熱画像IMと比較するための基準熱画像RFとして、絶対マスタ画像RFaを選択する(ステップS103)。
続いて、基準熱画像設定部62は、金型21の温度異常の有無を判定するタイミングを決定する(ステップS104)。
具体的には、何回目の捨て打ちが完了した時点で、金型21の温度異常の有無を判定するのかを決定する。
【0065】
鋳造品の鋳造が長時間に亘って行われていない場合には、金型21の温度が低下しているため、金型21の予熱に時間がかかる。
鋳造品の鋳造ラインが短時間だけ一時停止したような場合には、金型21の予熱にかかる時間は、鋳造品の鋳造が長時間に亘って行われていない場合よりも短くなる。
【0066】
そこで、基準熱画像設定部62は、例えば、鋳造金型2での鋳造が行われていない期間(停止時間)や、鋳造金型2の温度などに基づき、何回目の捨て打ちが完了した時点で、金型21の温度異常の有無を判定するのかを決定する。
一般に、鋳造品の鋳造が実施されていない時間が長くなるほど、金型21の温度異常の有無を判定するまでの捨て打ち回数が増加する。
【0067】
これにより、鋳造金型2における捨て打ちが、設定された捨て打ち回数まで繰り返される。
捨て打ち回数が設定された回数に到達して、金型21の温度異常の有無の判定タイミングであると判定されると(ステップS105、Yes)、熱画像取得部61が、型開き後の金型21の熱画像を取得する(ステップS106)。
【0068】
具体的には、設定された回数目の捨て打ちが完了して型開きがされた時点で、熱画像取得部61が、金型21の熱画像IMをカメラ10から取得する。
【0069】
温度差算出部63は、金型21の熱画像IMと、絶対マスタ画像RFaとを比較する(ステップS107)。
具体的には、温度差算出部63は、カメラ10が取得した熱画像IMを構成する画素Px毎に、絶対マスタ画像RFaの対応する画素Pxとの温度差を算出する。
【0070】
続いて、差分画像生成部64が、温度差算出部63で算出された温度差に基づいて、差分画像を生成する(ステップS108)。
生成された差分画像は、表示装置72に出力されて、表示装置72が備えるモニタ上に表示される。
【0071】
判定部65は、温度差算出部63で算出された温度差に基づいて、熱画像IMに対応する金型21における温度異常の有無を判定する(ステップS109)。
【0072】
具体的には、温度差を算出した熱画像IMを構成する画素Pxの各々について、第1の閾値範囲△Tha内であるか否かを確認し、温度差が第1の閾値範囲△Thaを超えた画素がある場合には、金型21の温度異常があると判定する。
【0073】
金型21に温度異常があると判定されると(ステップS109、Yes)、判定部65は、異常の発生を報知する(ステップS110)。
具体的には、判定部65は、異常発生を報知する信号を鋳造制御装置70に出力する。これにより、鋳造金型2における捨て打ちが異常を理由にして終了する。
【0074】
なお、以下のようにしてもよい。判定部65が、差分画像生成部64が生成した差分画像と共に、異常発生を報知する信号を表示装置72に出力する。表示装置72は、異常の発生を、表示装置72上に表示された差分画像と共に文字情報として周囲に報知する。
判定部65が、異常発生を報知する信号を入出力装置71に出力して、異常の発生を、音声情報として周囲に報知する。
【0075】
ここで、捨て打ち工程の開始から、異常発生の判定までの流れを、
図7を用いて説明する。
図7は、捨て打ち工程から本打ち工程までの間での金型21の温度変化と、温度異常の判定との関係を説明する図である。
【0076】
捨て打ちが開始されると、捨て打ちの回数の増加に伴って、金型21の温度が上昇する(図中、実線a参照)。
ここで、固定型21Aや可動型21Bの内部の冷却水の配管25、26に目詰まりなどの不具合が生じると、固定型21Aや可動型21Bの一部の領域の温度を、適切な温度に保持することができなくなる。
【0077】
そうすると、捨て打ち回数の増加に伴って、金型21における一部の領域の温度が、他の領域に比べて高くなる。
図7では、金型21の温度異常の有無を判定するタイミング(
図7におけるNb回目の捨て打ち完了時)で、温度差算出部63で算出された温度差が、第1の閾値範囲△Tha外に到達している(図中、鎖線b参照)。
【0078】
そのため、判定部65が、Nb回目の捨て打ち完了した時点で、金型21の温度異常があると判定することになる。
【0079】
一方、固定型21Aや可動型21Bが適切に冷却できている場合には、Nb回目の捨て打ち完了時に、温度差算出部63で算出された温度差が、第1の閾値範囲△Tha内に位置することになる(図中、実線a参照)。
かかる場合には、判定部65が、Nb回目の捨て打ち完了した時点で、金型21の温度異常がないと判定することになる。
【0080】
図5のフローチャートに戻って、ステップS109において、金型21に温度異常がないと判定されると、
図6のステップS111において基準熱画像設定部62が、金型21の予熱が完了したか否かを確認する。
具体的には、基準熱画像設定部62が、今回の捨て打ちが完了した時点の金型21の温度と、一回前の捨て打ちが完了した時点の金型21の温度との温度差Δtを確認する。そして、確認した温度差Δtが、例えば10度(閾値温度Th)未満である場合に、予熱が完了したと判定する(ステップS111、Yes)。
【0081】
そして、確認した温度差Δtが閾値温度Th以上である場合に、予熱が完了していないと判定する(ステップS111、No)。
予熱が完了していない場合(ステップS111、No)、温度差Δtが閾値温度Th未満になるまで、捨て打ちが繰り返される(ステップS112)。
【0082】
図7の場合には、Nb回目の捨て打ちが完了した時点では、前回(Na回目)の捨て打ちが完了した時点との温度差Δtbが、閾値温度Th以上の温度であるので、捨て打ちが継続されている。
そして、Ng回目の捨て打ちの次の捨て打ち(Ng回目)において、温度差Δtgが閾値温度Th未満となって、金型21の予熱が完了したと判定される。
【0083】
予熱が完了したと判断されると(ステップS111、Yes)、ステップ113において、熱画像取得部61が、予熱が完了したと判断された時点の金型21の熱画像IMを取得する。そして、基準熱画像設定部62が、熱画像取得部61が取得した熱画像IMを、本打ち工程において熱画像IMとの比較に用いされる段取りマスタ画像RFbとして、記憶部69に登録する(ステップS114)。
【0084】
図7の場合には、Ng回目の捨て打ちが完了した時点での金型21の熱画像IMが、段取りマスタ画像RFbとして登録される。
【0085】
本打ち工程が開始されると(ステップS115、Yes)、鋳造金型2を用いた鋳造品の鋳造が実施される(ステップS116)。
【0086】
本実施形態では、以下の(1)から(6)までの工程が繰り返されることで、鋳造品が連続的に作製される。
(1)固定型21Aと可動型21Bの型分割面22a、22b同士を接合する型締め工程、(2)キャビティCに金属溶湯Mを射出して固化させる射出工程、(3)固定型21Aと可動型21Bとを離間させる型開き工程、(4)金属溶湯Mの固化により鋳造された鋳造品を取り出す取出工程、(5)固定型21Aと可動型21Bを冷却する冷却工程、(6)固定型21Aと可動型21Bの型分割面22a、22bに離型剤を噴霧する噴霧工程。
【0087】
鋳造品の連続鋳造が開始されると、熱画像取得部61は、上記した工程(1)から工程(6)までの1サイクルが完了するたびに、型開き時の金型21の熱画像を取得する(ステップS117)。
【0088】
続いて、温度差算出部63が、カメラ10による撮像で得られた金型21の熱画像IMと、段取りマスタ画像RFbとを比較する。
すなわち、カメラ10が取得した熱画像IMを構成する画素Px毎に、段取りマスタ画像RFbの対応する画素Pxとの温度差が算出される(ステップS118)。
【0089】
続いて、差分画像生成部64が、温度差算出部63で算出された温度差に基づいて、差分画像を生成する(ステップS119)。
生成された差分画像は、表示装置72に出力されて、表示装置72が備えるモニタ上に表示される。
【0090】
そして、判定部65が、温度差算出部63で算出された温度差に基づいて、熱画像IMに対応する金型21における温度異常の有無を判定する(ステップS120)。
【0091】
具体的には、温度差を算出した熱画像IMを構成する画素Pxの各々について、第2の閾値範囲内であるか否かを確認し、温度差が第2の閾値範囲を超えた画素がある場合には、金型21の温度異常があると判定する。
金型21に温度異常があると判定されると(ステップS120、Yes)、判定部65は、異常の発生を報知する(ステップS122)。
【0092】
金型21に温度異常がないと判定されると(ステップS120、No)、判定部65は、異常が無い旨を報知する信号を、鋳造制御装置70に出力する。
これにより、以下の条件を満たしている間、ステップS116からステップ120までの処理が繰り返される。(a)予定数の鋳造品が作製されていない(ステップS121、No)、(b)金型21に温度異常が発生していない。
【0093】
例えば、
図7において、実線cで示す波形で温度差が変化した場合には、Nz回目の型開きが完了するまでの間、第2の閾値範囲内に温度差が収まっているので、鋳造品が適切に作製される。
【0094】
また、なお、連続鋳造の途中で、固定型21Aや可動型21Bの内部の冷却水の配管25、26に目詰まりなどの不具合が生じると、固定型21Aや可動型21Bの一部の領域の温度を、適切な温度に保持することができなくなる。
【0095】
そうすると、型開き回数(鋳造回数)の増加に伴って、金型21における一部の領域の温度が、他の領域に比べて高くなる。
図7では、Ny回目の型開き(鋳造)の完了時に、温度差算出部63で算出された温度差が、第2の閾値範囲△Thb外に到達している(図中、鎖線d参照)。
【0096】
そのため、判定部65が、Ny回目の型開き(鋳造)が完了した時点で、金型21の温度異常があると判定することになる。
【0097】
なお、本実施形態では、絶対マスタ画像RFaや段取りマスタ画像RFbとの比較に用いられる熱画像IMが、金型21の熱画像であるとして説明をした。
本実施形態では、鋳造金型2が固定型21Aと可動型21Bと2つの金型から構成されるので、絶対マスタ画像RFaや段取りマスタ画像RFbとの比較に用いられる熱画像IMは、固定型21Aと可動型21Bのそれぞれについて取得されたものである。
【0098】
そのため、本実施形態にかかる鋳造金型2では、固定型21Aと可動型21Bのそれぞれについて、熱画像IMが取得されると共に、金型の温度異常の有無は、固定型21Aと可動型21Bのそれぞれについて独立に判定される。
【0099】
このように、鋳造金型2を予熱する捨て打ちから、鋳造品を連続的に鋳造する本打ちの終了までの間で、金型21における温度異常の有無を定期的に確認するので、鋳造の途中で生じた不具合を、金型の温度異常という因子を通して間接的に把握できる。
これにより、不具合に気付かずに鋳造品の鋳造を継続する事態を好適に防止できる。
【0100】
金型21が冷却不良のままで作製された鋳造品は、欠肉や鋳巣などが生じた鋳造品となる。例えば、鋳造品が車両用の自動変速機の構成部品である場合には、オイルの漏れ、油圧回路の動作不良などを生じる可能性があり、自動変速機の完成後にかかる不具合が認められると、原因の特定に時間を要することになる。
金型の温度異常を速やかに把握できるので、かかる事態の発生を好適に防止できる。
さらに、欠肉や鋳巣などが生じた鋳造品が、市場に投入されることを好適に防止できるので、鋳造品の歩留まり改善が期待できる。
【0101】
以上の通り、本実施形態にかかる鋳造金型2用の温度測定装置6は、以下の構成を有している。
(1)温度測定装置6は、複数の金型21(固定型21A、可動型21B)を接合して形成したキャビティC内に金属溶湯Mを射出して、キャビティCの形状に対応した鋳造品を作製する鋳造金型2を有する。
温度測定装置6は、鋳造金型2の型開き時に、金型21の熱画像を取得するカメラ10(熱画像取得手段)と、カメラ10が取得した熱画像を用いて、鋳造金型2の温度異常の有無を判定する処理を実施するCPU60(判定手段)と、を有する。
判定手段は、
カメラ10が取得した熱画像IMと比較される基準熱画像RFを設定する基準熱画像設定部62と、
カメラ10が取得した熱画像IMを構成する画素Px毎に、基準熱画像RFの対応する画素Pxとの温度差を算出する温度差算出部63と、
算出された温度差に基づいて、金型21の温度異常の有無を判定する判定部65と、を有する。
基準熱画像設定部62は、キャビティC内に金属溶湯Mを射出して鋳造金型2を予熱する捨て打ち工程では、金型21毎に用意された専用の絶対マスタ画像RFa(熱画像)を基準熱画像RFとして設定する。
基準熱画像設定部62は、キャビティC内に金属溶湯Mを射出して鋳造品を作製する本打ち工程では、捨て打ち工程における予熱が完了した金型21の熱画像IMを、金型21毎に用意して、基準熱画像RFとして、それぞれ設定する。
【0102】
このように構成すると、本打ち工程を開始する前の捨て打ち工程において、金型21における温度異常の有無を判定し、異常がない場合に本打ち工程が開始される。
本打ち工程の開始前の段階で金型21に温度異常がある場合には、本打ち工程を中止することで、金型21に生じた温度異常が、本打ち工程で作成される鋳造品に影響することを好適に防止できる。よって、鋳造品の歩留まりが向上する。
また、本打ち工程では、予熱が完了した金型21の熱画像IMを用いて、金型21の温度異常の有無が判定される。
金型21の温度は、温度や湿度等の周囲の環境、金属溶湯MのキャビティCへの射出条件、金属溶湯Mの構成素材のロット誤差などの、外部因子の影響を受けて、本打ち工程の繰り返しによる鋳造品の連続鋳造の度に微妙に変化する。
鋳造金型2の予熱が完了した金型21の熱画像IMは、そのときの外部因子の影響を受けたものである。
そのため、予熱が完了した金型21の熱画像IMを基準熱画像RFとし、この基準熱画像RFとの比較により、金型21における温度異常の有無を判定すると、温度異常の有無を、より正確に判定できることになる。
【0103】
このように、金型21の熱画像IMを構成する画素毎に、基準熱画像RFの対応する画素との温度差を算出し、算出した温度差に基づいて、金型21における温度異常の有無を判定するので、金型21における温度異常の有無を、鋳造の途中で速やかに判断できる。
また、鋳造金型2の型開き時に、金型21の熱画像IMが取得されるので、金型21のキャビティC側の面の全体の熱画像を得ることができる。これにより、鋳造金型2を構成する複数の金型21(固定型21A、可動型21B)の総てに対して、温度異常の有無を均等に判定できる。
【0104】
本実施形態にかかる温度測定装置6は、以下の構成を有している。
(2)捨て打ち工程において判定部65は、捨て打ちが所定回数終了した時点における金型21の熱画像IMと、基準熱画像RFとの温度差が、第1の閾値範囲△Tha外である場合に、金型21において温度異常が発生したと判定する。
温度差が、第1の閾値範囲△Tha内である場合に、金型21において温度異常が発生していないと判定する。
【0105】
このように構成すると、捨て打ちの段階での金型21における温度異常の有無を適切に判定できる。
【0106】
本実施形態にかかる温度測定装置6は、以下の構成を有している。
(3)基準熱画像設定部62は、捨て打ち工程前の鋳造金型2の休止時間(鋳造休止期間)、および/または捨て打ち工程の開始時の鋳造金型2の温度に応じて、金型21における温度異常の有無を判定するまでの捨て打ちの実施回数である所定回数を増減させる。
【0107】
予熱が不十分であるために金型21の温度が低いときの熱画像を、基準熱画像RFと比較しても、金型21における温度異常の有無を適切に判定できない。
金型21の熱画像の取得は、金型21の予熱が進んで、金型21の温度が基準熱画像との比較に適した温度に達した時点であることが好ましい。
【0108】
鋳造品の鋳造が長時間に亘って行われていない場合には、鋳造金型2の温度が低下しているため、金型21の予熱に時間がかかる。また、鋳造品の鋳造ラインが短時間だけ停止した場合には、金型21の予熱がより短時間で済む。
上記のように構成すると、捨て打ち工程での金型21の熱画像IMの取得のタイミング(温度異常の有無を判定するタイミング)を、適切に調整できる。
よって、無駄な捨て打ちとなる回数を抑えつつ、より適切な温度に予熱された金型21の熱画像IMに基づいて、金型21における温度異常の有無を判定できる。
【0109】
本実施形態にかかる温度測定装置6は、以下の構成を有している。
(4)捨て打ち工程において基準熱画像設定部62は、捨て打ちが所定回数に達したのち、捨て打ち完了時の金型21の熱画像IMであって、前回の捨て打ち完了時の金型21の温度との温度差(差分)が所定値(閾値温度Th)未満になった時点の金型21の熱画像IMを、本打ち工程での基準熱画像として設定する。
【0110】
捨て打ち工程での金型21の予熱が進行するにつれて、金型21の温度の上昇幅が小さくなって、金型21の温度が安定する。
金型21の温度が安定した時点の熱画像IMを、本打ち工程での基準熱画像として設定することで、本打ち工程における金型21における温度異常の有無をより適切に判定できる。
【0111】
本実施形態にかかる温度測定装置6は、以下の構成を有している。
(5)判定手段は、
温度差算出部63が算出した温度差に基づいて、カメラ10により取得した熱画像IMと、基準熱画像RFとの差分画像を生成する差分画像生成部64と、
差分画像を表示する表示装置72と、を有している。
表示装置72において差分画像を構成する画素Pxの各々は、算出した温度差に応じて、温度差が異なる他の画素に対して識別可能に表示されている。
【0112】
このように構成すると、金型21における温度異常の有無を、作業者に視覚的に認識させることができる。
差分画像を構成する各画素Pxは、金型21の表面上のどの位置に対応する画素であるのかが特定できるようになっている。
よって、差分画像における基準画像との温度差が大きい領域を視覚的に把握すると、温度差が大きい領域の画素の位置から、金型21におけるどの領域に温度異常が発生しているのかを容易に把握できる。よって、温度異常の原因特定に要する時間を短縮できる。
【0113】
本実施形態にかかる温度測定装置6は、以下の構成を有している。
(6)本打ち工程において判定部65は、カメラ10により取得した熱画像IMと、基準熱画像RFとの温度差が、第1の閾値範囲△Thaよりも狭い第2の閾値範囲ΔThb外である場合に、金型21において温度異常が発生したと判定する。
温度差が、第2の閾値範囲△Thb内である場合に、金型21において温度異常が発生していないと判定する。
【0114】
このように構成すると、本打ち工程における金型の温度異常の有無の判定が、捨て打ち工程における金型の温度異常の有無の判定よりも、厳密に行われる。
これにより、本打ち工程で作製される鋳造品に、金型の温度異常の影響が及ぶことを好適に防止できる。
【0115】
本実施形態にかかる温度測定装置6は、以下の構成を有している。
(7)本打ち工程において温度差算出部63は、鋳造金型2の型開きの度に、金型21の熱画像IMと、基準熱画像RF(段取りマスタ画像RFb)とを比較して、熱画像IMを構成する画素Px毎に、基準熱画像RFの対応する画素Pxとの温度差を算出する。
本打ち工程において判定部65は、鋳造金型2の型開きの度に、算出された温度差に基づいて、金型21の温度異常の有無を判定する。
【0116】
このように構成すると、鋳造品が鋳造されて型開きが行われる度に、金型21における温度異常の有無が判断される。鋳造品の鋳造時に不具合の発生を速やかに把握できる。
また、基準熱画像RFと熱画像IMとの比較により、温度異常が発生した金型の特定と、特定された金型における温度異常の原因の推定を速やかに行える。
【0117】
よって、温度測定装置6を備えていない従来公知の鋳造金型に比べて、金型における異常の発生の把握までに要する時間や、異常の原因の特定および対処に要する時間を短縮できる。これにより、不具合に対処するために鋳造を中断する時間が短くなるので、歩留まりの改善と生産効率の改善が期待できる。
【0118】
本実施形態にかかる温度測定装置6は、以下の構成を有している。
(8)判定部65は、金型21に温度異常が発生した場合に、表示装置72上で、差分画像と共に温度異常の発生を報知する。
【0119】
このように構成すると、温度異常が発生した箇所を、表示装置72の各画素の表示上の違い、例えば濃淡やカラーで認識できるので、温度異常の発生箇所の特定に要する時間を短縮できる。
【0120】
本実施形態にかかる温度測定装置6は、以下の構成を有している。
(9)差分画像生成部64が生成した差分画像は、表示装置72が持つモニタ上に表示される。
差分画像を構成する各画素は、温度差算出部63で算出された誤差に基づいて、識別可能な形態、例えば色別でモニタ上に表示される。
金型21の全体画像や、輪郭線を示す線画像が、差分画像に重畳して表示される。
【0121】
このように構成すると、温度異常が発生した箇所が金型21におけるどの部分であるのかを視覚的に把握できる。
また、温度異常のみならず、温度異常の原因となる冷却水の配管による冷却効率の低下や、配管の交換時期も知ることもできる。
また、差分画像を確認することで、冷却水の配管各々での冷却水の流量の調整が可能になる。これにより、作成される鋳造品に、鋳巣、焼き付き、そして欠肉などの不具合を生じさせ難くすることができるので、鋳造品の品質向上が期待できる。
【0122】
前記した実施形態では、金型21の予熱を行う捨て打ち工程において、金型21における温度異常の有無の判定を1回行う場合を例示した。捨て打ち工程において温度異常の有無を複数回判定するようにしても良い。
【0123】
これにより、捨て打ち工程において温度異常の有無を判断する機会が増えることで、温度異常の発生を見逃して、本打ち工程が開始されることを好適に防止できる。
【0124】
前記した実施形態では、温度差算出部63が算出した温度差が第1の閾値範囲ΔTha外や第2の閾値範囲ΔThb外となる画素Pxが、熱画像IMを構成する画素群にひとつでも含まれている場合に、金型21において温度異常が発生したと判定する場合を例示した。
画素群に含まれるがそのうちの所定数の画素Pxが、第1の閾値範囲ΔTha外や第2の閾値範囲ΔThb外となる場合に、金型21において温度異常が発生したと判定するようにしても良い。
【0125】
画素Pxの一点のみで温度異常の有無を判定する場合よりも判定の確度が向上すると共に、温度異常が発生したと頻繁に判定される事態の発生を好適に防止できるので、誤判定による鋳造装置1の停止を防止できる。
【0126】
前記した実施形態では、鋳造金型2が、固定型21Aと可動型21Bの2つの金型から構成される場合を例示したが、鋳造金型2は、この態様にのみ限定されない。
例えば、鋳造金型は、上型、下型、左右サイドコア、および分割金型(中子)の6組で構成されるものであっても良い。
この鋳造金型の場合、溶湯流入による各金型の摩耗を防止するために、金型の内部に冷却ジャケット(配管)が40本以上埋め込まれており、冷却ジャケットには、金属溶湯の冷却と、キャビティC内での金属溶湯の流動性を確保するために流調弁が設けられている。
【0127】
そのため、一部の配管に目詰まりなどの不具合が生じた場合であっても、各金型の熱画像IMと、基準熱画像RF(絶対マスタ画像RFa、段取りマスタ画像RFb)との比較により、不具合の生じた配管を持つ金型を容易に特定できる。
これにより、不具合の生じた配管を持つ金型の特定に要する時間を短縮できるので、不具合の生じた配管の交換までに要する時間を短縮できる。
【0128】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0129】
1 鋳造装置
10 カメラ
2 鋳造金型
21(21A、21B) 固定側
23、24 連絡路
25、26 配管
5 射出装置
6 温度測定装置
50 射出スリーブ
51 押出部材
60 CPU
61 熱画像取得部
62 基準熱画像設定部
63 温度差算出部
64 差分画像生成部
65 判定部
69 記憶部
70 鋳造制御装置
71 入出力装置
72 表示装置
C キャビティ
IM 熱画像
M 金属溶湯
Px 画素
RF 基準熱画像
RFa 絶対マスタ画像
RFb 段取りマスタ画像
S116 テップ
T 温度
Th 閾値温度