(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】多関節ロボット
(51)【国際特許分類】
B25J 19/00 20060101AFI20230911BHJP
【FI】
B25J19/00 D
(21)【出願番号】P 2018232651
(22)【出願日】2018-12-12
【審査請求日】2021-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増井 太志
(72)【発明者】
【氏名】姫野 元希
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-15875(JP,A)
【文献】実開昭60-138676(JP,U)
【文献】特開昭60-20887(JP,A)
【文献】特開2005-319550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリンクと、前記複数のリンクにおける互いに隣接する一対のリンクをそれぞれの回動軸線の周りに相対的に回動可能に連結する1以上の関節と、
各前記関節を駆動するモータと、を含むロボットアームと、
前記1以上の関節のうちの所定の回動軸線を有する関節によって当該所定の回動軸線の周りに回動可能に連結された一対のリンクの間に設けられ、当該一対のリンクのうちの先端に近い先端側リンクに前記ロボットアームの自重による前記所定の回動軸線周りの負荷モーメントに抗する重力対抗モーメントを発生させるバランサと、を備え、
前記バランサは、前記一対のリンクのうちの先端から遠い基端側リンク又は前記先端側リンクに一方の端部が直接又は間接に取り付けられ且つ長軸方向に延びる弾性部材としての板バネと、前記先端側リンク又は前記基端側リンクに設けられ、前記板バネの他方の端部に当接する少なくとも1つの規制部材と、を備え、前記先端側リンクが所定の基準姿勢にある場合の前記所定の回動軸線の周りの回動角である基準回動角から少なくとも一方への回動の角度範囲である不動作回動角範囲を超えて当該先端側リンクが前記少なくとも一方へ回動した場合に、前記少なくとも1つの規制部材が前記板バネの前記他方の端部に当接し、それによって前記板バネが前記重力対抗モーメントを前記先端側リンクに発生させるよう弾性変形するように構成されており、
前記先端側リンクが前記基準姿勢にある場合において、前記板バネが前記先端側リンクの延在方向に延在するとともに主面が前記所定の回動軸線に平行であるように前記一方の端部が前記先端側リンク又は前記基端側リンクに固定され、前記少なくとも1つの規制部材が前記板バネの他方の端部の少なくとも一方の側に隙間を有して設けられ、
前記少なくとも1つの規制部材が、前記先端側リンクが前記不動作回動角範囲を超えて前記少なくとも一方に回動した場合に、前記少なくとも1つの規制部材が前記板バネの前記他方の端部に当接し、それによって前記板バネが前記重力対抗モーメントを前記先端側リンクに発生させるよう弾性変形するように構成さ
れ、
前記不動作回動角範囲は、前記モータが前記ロボットアームの自重による前記所定の回動軸線周りの負荷モーメントを相殺できる回動角範囲である、多関節ロボット。
【請求項2】
複数のリンクと、前記複数のリンクにおける互いに隣接する一対のリンクをそれぞれの回動軸線の周りに相対的に回動可能に連結する1以上の関節と、
各前記関節を駆動するモ
ータと、を含むロボットアームと、
前記1以上の関節のうちの所定の回動軸線を有する関節によって当該所定の回動軸線の周りに回動可能に連結された一対のリンクの間に設けられ、当該一対のリンクのうちの先端に近い先端側リンクに前記ロボットアームの自重による前記所定の回動軸線周りの負荷モーメントに抗する重力対抗モーメントを発生させるバランサと、を備え、
前記バランサは、前記一対のリンクのうちの先端から遠い基端側リンク又は前記先端側リンクに一方の端部が直接又は間接に取り付けられた弾性部材としての捻りコイルバネと、前記先端側リンク又は前記基端側リンクに設けられ、前記捻りコイルバネの他方の端部に当接する少なくとも1つの規制部材と、を備え、前記先端側リンクが所定の基準姿勢にある場合の前記所定の回動軸線の周りの回動角である基準回動角から少なくとも一方への回動の角度範囲である不動作回動角範囲を超えて当該先端側リンクが前記少なくとも一方へ回動した場合に、前記少なくとも1つの規制部材が前記捻りコイルバネの前記他方の端部に当接し、それによって前記捻りコイルバネが前記重力対抗モーメントを前記先端側リンクに発生させるよう弾性変形するように構成されており、
前記先端側リンクが前記基準姿勢にある場合において、前記捻りコイルバネの一方の端部が、前記捻りコイルバネの中心軸が前記所定の回動軸線に平行であるように前記基端側リンク又は前記先端側リンクに固定され、前記少なくとも1つの規制部材が前記捻りコイルバネの他方の端部の少なくとも一方の側に隙間を有して設けられ、
前記少なくとも1つの規制部材が、前記先端側リンクが前記不動作回動角範囲を超えて前記少なくとも一方に回動した場合に、前記少なくとも1つの規制部材が前記捻りコイルバネの前記他方の端部に当接し、それによって前記捻りコイルバネが前記重力対抗モーメントを前記先端側リンクに発生させるよう弾性変形するように設けら
れ、
前記不動作回動角範囲は、前記モータが前記ロボットアームの自重による前記所定の回動軸線周りの負荷モーメントを相殺できる回動角範囲である、多関節ロボット。
【請求項3】
複数のリンクと、前記複数のリンクにおける互いに隣接する一対のリンクをそれぞれの回動軸線の周りに相対的に回動可能に連結する1以上の関節と、
各前記関節を駆動するモータと、を含むロボットアームと、
前記1以上の関節のうちの所定の回動軸線を有する関節によって当該所定の回動軸線の周りに回動可能に連結された一対のリンクの間に設けられ、当該一対のリンクのうちの先端に近い先端側リンクに前記ロボットアームの自重による前記所定の回動軸線周りの負荷モーメントに抗する重力対抗モーメントを発生させるバランサと、を備え、
前記バランサは、前記一対のリンクのうちの先端から遠い基端側リンク又は前記先端側リンクに一方の端部が直接又は間接に取り付けられた弾性部材としての渦巻きコイルバネと、前記先端側リンク又は前記基端側リンクに設けられ、前記渦巻きコイルバネの他方の端部に当接する1つの規制部材と、を備え、前記先端側リンクが所定の基準姿勢にある場合の前記所定の回動軸線の周りの回動角である基準回動角から少なくとも一方への回動の角度範囲である不動作回動角範囲を超えて当該先端側リンクが前記少なくとも一方へ回動した場合に、前記1つの規制部材が前記渦巻きコイルバネの前記他方の端部に当接し、それによって前記渦巻きコイルバネが前記重力対抗モーメントを前記先端側リンクに発生させるよう弾性変形するように構成されており、
前記先端側リンクが前記基準姿勢にある場合において、前記渦巻きコイルバネの一方の端部が、前記渦巻きコイルバネの中心軸が前記所定の回動軸線に一致するように前記基端側リンク又は前記先端側リンクに固定され、前記1つの規制部材が前記渦巻きコイルバネの他方の端部に隙間を有して設けられ、
前記1つの規制部材が、前記先端側リンクが前記不動作回動角範囲を超えて前記少なくとも一方としての一方に回動した場合に、前記1つの規制部材が前記渦巻きコイルバネの前記他方の端部に当接し、それによって前記渦巻きコイルバネが前記重力対抗モーメントを前記先端側リンクに発生させるよう弾性変形するように設けら
れ、
前記不動作回動角範囲は、前記モータが前記ロボットアームの自重による前記所定の回
動軸線周りの負荷モーメントを相殺できる回動角範囲である、多関節ロボット。
【請求項4】
前記ロボットアームが、固定対象物に固定される前記リンクである基部と、旋回軸線の周りに回動可能に前記基部に連結された前記基端側リンクである旋回部と、前記所定の回動軸線であって前記旋回軸線に垂直な下腕回動軸線の周りに回動可能に前記旋回部に連結された前記先端側リンクである下腕部と、を含み、
前記バランサが、前記旋回部と前記下腕部との間に設けられ、且つ前記重力対抗モーメントを前記下腕部に発生させるものであり、
前記弾性部材の前記一方の端部が前記旋回部又は前記下腕部に設けられており、
前記規制部材が、前記下腕部又は前記旋回部に設けられている、請求項1乃至3のいずれかに記載の多関節ロボット。
【請求項5】
前記基準姿勢は、前記下腕部が略鉛直な姿勢である、請求項4に記載の多関節ロボット。
【請求項6】
前記ロボットアームが、固定対象物に固定される前記リンクである基部と、旋回軸線の周りに回動可能に前記基部に連結された前記リンクである旋回部と、前記旋回軸線に垂直な下腕回動軸線の周りに回動可能に前記旋回部に連結された前記基端側リンクである下腕部と、前記所定の回動軸線であって前記旋回軸線に垂直な上腕回動軸線の周りに回動可能に前記下腕部に連結された前記先端側リンクである上腕部と、を含み、
前記バランサが、前記下腕部と前記上腕部との間に設けられ、且つ前記重力対抗モーメントを前記上腕部に発生させるものであり、
前記弾性部材の前記一方の端部が前記下腕部又は前記上腕部に設けられており、
前記規制部材が、前記上腕部又は前記下腕部に設けられている、請求項1乃至3のいずれかに記載の多関節ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多関節ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
多関節ロボットでは、アームが受ける重力による負荷モーメントを相殺するためにバランサが用いられる。
【0003】
このようなバランサとして、ガスバランサ(例えば、特許文献1参照)及びバネバランサ(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-195854号公開特許公報
【文献】特開2001-225293号公開特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来のバランサは、例えば6軸の多関節ロボットの場合、アームの下腕部が鉛直な姿勢を取る場合にアームに力を作用させず、それ以外の場合には常にアームに力を作用させるように構成されている。しかし、このようなバランサは、多関節ロボットの動作にとって邪魔な力をアームに作用させる場合がある。例えば、多関節ロボットがアームを引こうとして下腕部が後方に傾斜した場合にバランサがアームを前方に押し出す力をアームに作用させる場合がある。また、多関節ロボットでは、関節を駆動するモータだけで、アームが受ける重力による負荷モーメント(以下、重力モーメントという)を相殺することができる姿勢の範囲が存在する。そのような姿勢の範囲において、バランサが機能すると、アームが重力モーメント以下のモーメントで重力モーメントと同じ方向に動作しようとした場合、関節を駆動するモータがバランサによるモーメントに対抗するモーメントを発生しなければならない。
【0006】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、アームに作用させる邪魔な力を低減することが可能なバランサを備える多関節ロボットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のある形態(aspect)に係る多関節ロボットは、複数のリンクと、前記複数のリンクにおける互いに隣接する一対のリンクをそれぞれの回動軸線の周りに相対的に回動可能に連結する1以上の関節と、を含むロボットアームと、前記1以上の関節のうちの所定の回動軸線を有する関節によって当該所定の回動軸線の周りに回動可能に連結された一対のリンクの間に設けられ、当該一対のリンクのうちの先端に近い先端側リンクに前記ロボットアームの自重による前記所定の回動軸線周りの負荷モーメントに抗する重力対抗モーメントを発生させるバランサと、を備え、前記バランサは、前記一対のリンクのうちの先端から遠い基端側リンク又は前記先端側リンクに一方の端部が直接又は間接に取り付けられた弾性部材と、前記先端側リンク又は前記基端側リンクに設けられ、前記弾性部材の他方の端部に当接する少なくとも1つの当接部材と、を備え、前記先端側リンクが所定の基準姿勢にある場合の前記所定の回動軸線の周りの回動角である基準回動角から少なくとも一方への回動の角度範囲である不動作回動角範囲を超えて当該先端側リンクが前記少なくとも一方へ回動した場合に、前記少なくとも1つの当接部材が前記弾性部材の前記他方の端部に当接し、それによって前記弾性部材が前記重力対抗モーメントを前記先端側リンクに発生させるよう弾性変形するように構成されている。ここで、「弾性部材」は、弾性材料からなる単一の部材と、弾性材料からなる素材の集合体との双方を含む。後者として、例えば、ばね材料からなる板状の素材を厚み方向に積層してなる「板バネ」が挙げられる。「不動作回動角範囲」は、バランサが重力対抗モーメントを先端側リンクに発生させない先端側リンクの回動角範囲を意味し、先端側リンクの動作等を考慮して適宜設定される。
【0008】
この構成によれば、先端側リンクが不動作回動角範囲を超えて少なくとも一方に回動した場合に、弾性部材が重力対抗モーメントを先端側リンクに発生させるので、先端側リンクが不動作回動角範囲内の回動角で回動した場合には、弾性部材が重力対抗モーメントを先端側リンクに発生させない。従って、バランサがアームに作用させる邪魔な力を、低減することができる。
【0009】
前記ロボットアームが、固定対象物に固定される前記リンクである基部と、旋回軸線の周りに回動可能に前記基部に連結された前記基端側リンクである旋回部と、前記所定の回動軸線であって前記旋回軸線に垂直な下腕回動軸線の周りに回動可能に前記旋回部に連結された前記先端側リンクである下腕部と、を含み、前記バランサが、前記旋回部と前記下腕部との間に設けられ、且つ前記重力対抗モーメントを前記下腕部に発生させるものであり、前記弾性部材の前記一方の端部が前記旋回部又は前記下腕部に設けられており、前記当接部材が、前記下腕部又は前記旋回部に設けられていてもよい。
【0010】
この構成によれば、バランサがアームの下腕部に作用させる邪魔な力を、低減することができる。
【0011】
前記基準姿勢は、前記下腕部が略鉛直な姿勢であってもよい。
【0012】
この構成によれば、バランサが下腕部を略鉛直な姿勢に戻すように重力対抗モーメントを発生させる場合に、バランサがアームの下腕部に作用させる邪魔な力を、低減することができる。
【0013】
前記ロボットアームが、固定対象物に固定される前記リンクである基部と、旋回軸線の周りに回動可能に前記基部に連結された前記リンクである旋回部と、前記旋回軸線に垂直な下腕回動軸線の周りに回動可能に前記旋回部に連結された前記基端側リンクである下腕部と、前記所定の回動軸線であって前記旋回軸線に垂直な上腕回動軸線の周りに回動可能に前記下腕部に連結された前記先端側リンクである上腕部と、を含み、前記バランサが、前記下腕部と前記上腕部との間に設けられ、且つ前記重力対抗モーメントを前記上腕部に発生させるものであり、前記弾性部材の前記一方の端部が前記下腕部又は前記上腕部に設けられており、前記当接部材が、前記上腕部又は前記下腕部に設けられていてもよい。
【0014】
この構成によれば、バランサがアームの上腕部に作用させる邪魔な力を、低減することができる。
【0015】
前記バランサは、長軸方向に延びる前記弾性部材としての板バネと前記少なくとも1つの当接部材としての少なくとも1つの規制部材とを備え、前記先端側リンクが前記基準姿勢にある場合において、前記板バネが前記先端側リンクの延在方向に延在するとともに主面が前記所定の回動軸線に平行であるように前記一方の端部が前記先端側リンク又は前記基端側リンクに固定され、前記少なくとも1つの規制部材が前記板バネの他方の端部の少なくとも一方の側に隙間を有して設けられ、前記少なくとも1つの規制部材が、前記先端側リンクが前記不動作回動角範囲を超えて前記少なくとも一方に回動した場合に、前記少なくとも1つの規制部材が前記板バネの前記他方の端部に当接し、それによって前記板バネが前記重力対抗モーメントを前記先端側リンクに発生させるよう弾性変形するように構成されていてもよい。
【0016】
この構成によれば、先端側リンクが不動作回動角範囲を超えて少なくとも一方に回動した場合に、少なくとも1つの規制部材が板バネの他方の端部に当接し、それによって板バネが重力対抗モーメントを先端側リンクに発生させるよう弾性変形する。一方、先端側リンクが不動作回動角範囲以内の回動角で回動した場合には、少なくとも1つの規制部材が板バネの他方の端部に当接しないので、板バネが重力対抗モーメントを先端側リンクに発生させない。従って、バランサがアームに作用させる邪魔な力を、低減することができる。しかも、簡単な構成で、バランサを実現できる。
【0017】
前記バランサは、前記弾性部材としての捻りコイルバネと前記少なくとも1つの当接部材としての少なくとも1つの規制部材とを備え、前記先端側リンクが前記基準姿勢にある場合において、前記捻りコイルバネの一方の端部が、前記捻りコイルバネの中心軸が前記所定の回動軸線に平行であるように前記基端側リンク又は前記先端側リンクに固定され、前記少なくとも1つの規制部材が前記捻りコイルバネの他方の端部の少なくとも一方の側に隙間を有して設けられ、前記少なくとも1つの規制部材が、前記先端側リンクが前記不動作回動角範囲を超えて前記少なくとも一方に回動した場合に、前記少なくとも1つの規制部材が前記捻りコイルバネの前記他方の端部に当接し、それによって前記捻りコイルバネが前記重力対抗モーメントを前記先端側リンクに発生させるよう弾性変形するように設けられていてもよい。
【0018】
この構成によれば、先端側リンクが不動作回動角範囲を超えて少なくとも一方に回動した場合に、少なくとも1つの規制部材が捻りコイルバネの他方の端部に当接し、それによって捻りコイルバネが重力対抗モーメントを先端側リンクに発生させるよう弾性変形する。一方、先端側リンクが不動作回動角範囲以内の回動角で回動した場合には、少なくとも1つの規制部材が捻りコイルバネの他方の端部に当接しないので、捻りコイルバネが重力対抗モーメントを先端側リンクに発生させない。従って、バランサがアームに作用させる邪魔な力を、低減することができる。しかも、簡単な構成で、バランサを実現できる。
【0019】
前記バランサは、前記弾性部材としての渦巻きコイルバネと前記少なくとも1つの当接部材としての1つの規制部材とを備え、前記先端側リンクが前記基準姿勢にある場合において、前記渦巻きコイルバネの一方の端部が、前記渦巻きコイルバネの中心軸が前記所定の回動軸線に一致するように前記基端側リンク又は前記先端側リンクに固定され、前記1つの規制部材が前記渦巻きコイルバネの他方の端部に隙間を有して設けられ、前記1つの規制部材が、前記先端側リンクが前記不動作回動角範囲を超えて前記少なくとも一方としての一方に回動した場合に、前記1つの規制部材が前記渦巻きコイルバネの前記他方の端部に当接し、それによって前記渦巻きコイルバネが前記重力対抗モーメントを前記先端側リンクに発生させるよう弾性変形するように設けられていてもよい。
【0020】
この構成によれば、先端側リンクが不動作回動角範囲を超えて一方に回動した場合に、1つの規制部材が渦巻きバネの他方の端部に当接し、それによって渦巻きコイルバネが重力対抗モーメントを先端側リンクに発生させるよう弾性変形する。一方、先端側リンクが不動作回動角範囲以内の回動角で回動した場合には、1つの規制部材が渦巻きコイルバネの他方の端部に当接しないので、渦巻きコイルバネが重力対抗モーメントを先端側リンクに発生させない。従って、バランサがアームに作用させる邪魔な力を、低減することができる。しかも、簡単な構成で、バランサを実現できる。
【0021】
前記バランサは、シリンダと、前記シリンダの内部に一端が当該シリンダの一端の内面に接触して配置された前記弾性部材としての圧縮弾性体と、前記当接部材としてのピストンと、を備え、前記ピストンが前記シリンダの内周面に摺動自在な押圧部材及び前記シリンダの他端を貫通するとともに先端部が前記押圧部材に連結されたピストンロッドを備えるように構成されており、前記シリンダの前記一端が、前記基端側リンク又は前記先端側リンクに回動自在に取り付けられ、前記ピストンロッドの基端部が、前記押圧部材が前記圧縮弾性体との間に隙間を有するように前記基端側リンク又は前記先端側リンクに回動自在に取り付けられ、前記先端側リンクに取り付けられる前記シリンダの前記一端又は前記ピストンロッドの前記基端部が、前記先端側リンクが前記不動作回動角範囲を超えて前記少なくとも一方に回動した場合に、前記押圧部材が前記圧縮弾性体を押圧し、それによって前記圧縮弾性体が前記重力対抗モーメントを前記先端側リンクに発生させるような前記先端側リンクにおける位置に取り付けられていてもよい。
【0022】
この構成によれば、先端側リンクに取り付けられるシリンダの一端又はピストンロッドの基端部が、先端側リンクが不動作回動角範囲を超えて少なくとも一方に回動した場合に、押圧部材が圧縮弾性体を押圧し、それによって圧縮弾性体が重力対抗モーメントを先端側リンクに発生させる先端側リンクにおける位置に取り付けられているので、先端側リンクが不動作回動角範囲以内の回動角で回動した場合には、押圧部材が圧縮弾性体を押圧せず、圧縮弾性体が重力対抗モーメントを先端側リンクに発生させない。従って、バランサがアームに作用させる邪魔な力を、低減することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、アームに作用させる邪魔な力を低減することが可能なバランサを備える多関節ロボットを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態1に係る多関節ロボットの構成の一例を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図2(A)は、
図1の多関節ロボットのアーム部が下腕回動軸線の周りに前方に回動した状態を模式的に示す側面図、
図2(B)は、
図1の多関節ロボットのアーム部が下腕回動軸線の周りに後方に回動した状態を模式的に示す側面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態2に係る多関節ロボットの構成の一例を模式的に示す側面図であり、
図3(A)は、多関節ロボットが基準姿勢にある状態を示す図、
図3(B)は、多関節ロボットのアーム部が下腕回動軸線の周りに前方に回動した状態を模式的に示す側面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態3に係る多関節ロボットの構成の一例を模式的に示す側面図であり、
図4(A)は、多関節ロボットが基準姿勢にある状態を示す図、
図4(B)は、多関節ロボットのアーム部が下腕回動軸線の周りに前方に回動した状態を模式的に示す側面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態4に係る多関節ロボットの構成の一例を模式的に示す側面図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態5に係る多関節ロボットの構成の一例を模式的に示す側面図であり、
図6(A)は、バランサの圧縮弾性体が圧縮コイルバネである場合の図、
図6(B)は、バランサの圧縮弾性体がゴム状弾性体である場合の図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態6に係る多関節ロボットの構成の一例を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。また、以下の図は本発明を説明するための図であるので、本発明と無関係な要素が省略される場合、誇張等により寸法が正確でない場合、簡略化される場合、複数の図において、互いの要素が一致しない場合等がある。また、本発明は、以下の実施形態に限定されない。また、以下では、ロボットアーム4の基部1が、旋回軸線ASが鉛直になるように設置される場合を例示するので、
図1~
図7において、図の上下方向が鉛直方向を示す。また、便宜上、
図1~
図7において、図の右方向がロボットアームの前方向を示し、図の左方向がロボットアームの後方向を示す。
【0026】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る多関節ロボットの構成の一例を模式的に示す側面図である。
【0027】
[構成]
図1を参照すると、実施形態1の多関節ロボット100は、ロボットアーム4と、バランサ13と、を備える。多関節ロボット100は、例えば、垂直多関節ロボットで構成される。
【0028】
<ロボットアーム4>
ロボットアーム4は、複数のリンクと、複数のリンクにおける互いに隣接する一対のリンクをそれぞれの回動軸線AS,AL,AUの周りに相対的に回動可能に連結する1以上の関節と、を含む。
【0029】
具体的には、ロボットアーム4は、例えば、6軸の多関節ロボットアームで構成され、基部1と、旋回部2と、アーム部3と、を備える。換言すると、ロボットアーム4は、下から順に、基部1を構成するリンク、旋回部2を構成するリンク、下腕部3aを構成するリンク、上腕部3bを構成するリンク(
図3~
図7参照)、手首部を構成するリンク(図に示さず)で構成されている。
【0030】
基部1は、固定対象物(例えば、床、台車等)に固定される。旋回部2は、旋回軸線ASの周りに回動可能に基部1に連結されている。旋回軸線ASは、例えば、基部1及び旋回部2の中心部を通るように延在している。基部1と旋回部2との連結構造が第1関節を構成している。
【0031】
そして、下腕部3aの下端部が、所定の下腕回動軸線ALの周りに回動可能に旋回部2に連結されている。旋回部2と下腕部3aとの連結構造が第2関節を構成している。下腕回動軸線ALは、例えば、下腕部3aの下端部の中央部を旋回軸線ASに垂直な方向に通るように延在している。下腕部3aは、下腕回動軸線ALが旋回軸線ASから離れて位置するように、旋回部2に連結されている。なお、下腕部3aは、下腕回動軸線ALが旋回軸線AS上に位置するように、旋回部2に連結されていてもよい。
【0032】
また、後述するように、上腕部3bの基端部が、所定の上腕回動軸線AUの周りに回動可能に下腕部3aに連結されている。下腕部3aと上腕部3bとの連結構造が第3関節を構成している。
【0033】
以下では、ロボットアーム4の基部1が、旋回軸線ASが鉛直になるように設置される場合を説明する。しかし、ロボットアーム4の設置態様はこれに限定されない。例えば、ロボットアーム4の基部1が、旋回軸線ASが水平になるように壁等に設置される場合等がある。これらの場合にも本実施形態が同様に適用される。
【0034】
<バランサ13>
バランサは、1以上の関節のうちの所定の回動軸線を有する関節によって当該所定の回動軸線の周りに回動可能に連結された一対のリンクの間に設けられる。本実施形態では、バランサ13は、旋回部2と下腕部3aとの間に設けられ、下腕部3aにロボットアーム4の自重による下腕回動軸線AL周りの負荷モーメント(重力モーメント)に抗する重力対抗モーメントを発生させる。
【0035】
バランサ13は、弾性部材11の一例としての板バネ(以下、板バネ11と記載する)と、当接部材12の一例として一対の規制部材12と、を備える。
【0036】
<板バネ11>
板バネ11は、一方の端部11aが、適宜な固定構造によって、下腕部3aに固定されている。板バネ11の長さは、他方の端部11bが旋回部2上に位置するような長さに設定(設計)される。板バネ11の厚さ、幅、及び弾性係数は、所定程度に曲がった場合に、下腕部3aに十分な重力対抗モーメントを発生させることができるように設定(設計)される。板バネ11の材料として、公知の板バネ用の材料を用いることができる。そのような材料として、ばね用冷間圧延鋼帯が例示される。板バネ11は、ばね材料からなる単一の板状の部材であってもよく、ばね材料からなる板状の素材を厚み方向に積層してなる部材であってもよい。
【0037】
板バネ11の一方の端部11aは、下腕部3aが基準姿勢にある場合に、下腕部3aの延在方向に延在するように下腕部3aに固定される。下腕部3aが基準姿勢にある場合とは、例えば、下腕部3aの基準線RLが鉛直方向に一致する場合を意味し、基準線RLは、例えば、下腕回動軸線ALと上腕回動軸線AUとの双方に直交する直線を意味する。具体的には、板バネ11の一方の端部11aは、板バネ11の主面が下腕回動軸線ALに平行であり、且つ、下腕回動軸線ALの延在方向から見て、板バネ11が基準線RL上に下腕回動軸線ALを超える位置まで延びるように、下腕部3aの適所に固定される。
【0038】
<規制部材>
規制部材12は、例えば、下腕部3aの側面に突設された円柱状のピンで構成されている。一対の規制部材12は、所定の態様で設けられている。この所定の態様とは、一対の規制部材12が、板バネ11の他方の端部11bの両側に隙間を有して設けられていて、下腕部3aが、基準回動角度から下腕回動軸線ALの周りに前方又は後方に不動作回動角範囲θRを超えて回動した場合に、一対の規制部材12の一方又は他方が板バネ11の他方の端部11bに当接し、それによって板バネ11が重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させるよう弾性変形する態様である。「基準回動角」とは、下腕部3aが、基準姿勢にある場合の回動角を意味する。「不動作回動角範囲θR」は、バランサ(ここではバランサ13)が、重力対抗モーメントを先端側リンク(ここでは、下腕部3a)に発生させない先端側リンクの回動角範囲を意味し、先端側リンクの動作等を考慮して適宜設定される。不動作回動角範囲θRは、例えば、第2関節を駆動するモータだけで重力モーメントを相殺することができる下腕部3aの回動角の範囲に設定される。また、不動作回動角範囲θRは、ここでは、基準回動角を含む範囲に設定される。
【0039】
[動作]
次に、以上のように構成された多関節ロボット100の動作を説明する。
図2(A)は、
図1の多関節ロボット100のアーム部3が下腕回動軸線ALの周りに前方に回動した状態を模式的に示す側面図、
図2(B)は、
図1の多関節ロボット100のアーム部3が下腕回動軸線ALの周りに後方に回動した状態を模式的に示す側面図である。
【0040】
図1を参照すると、アーム部3が、基準回動角から前方に、不動作回動角範囲θR内において、回動すると、板バネ11の他方の端部11bに規制部材12が当接せず、板バネ11は、重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させない。
【0041】
図1及び
図2aを参照すると、アーム部3が、さらに前方に、不動作回動角範囲θRを超えて回動すると、板バネ11の他方の端部11bに後側の規制部材12が当接する。それにより、板バネ11が曲がり、その曲がりの程度に応じた重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させる。
【0042】
一方、
図1を参照すると、アーム部3が、基準回動角から後方に、不動作回動角範囲θR内において、回動すると、板バネ11の他方の端部11bに規制部材12が当接せず、板バネ11は、重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させない。
【0043】
図1及び
図2bを参照すると、アーム部3が、さらに後方に、不動作回動角範囲θRを超えて回動すると、板バネ11の他方の端部11bに前側の規制部材12が当接する。それにより、板バネ11が曲がり、その曲がりの程度に応じた重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させる。
【0044】
以上に説明したように、本実施形態によれば、下腕部3aが不動作回動角範囲θR以内の回動角で回動した場合には、一対の規制部材12が板バネ11の他方の端部11bに当接しないので、板バネ11が重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させない。従って、バランサ13がアーム部3に作用させる邪魔な力を、低減することができる。しかも、簡単な構成で、バランサ13を実現できる。
【0045】
{変形例1}
変形例1は、実施形態1において、バランサ13が、下腕部3aの基準回動角から前方及び後方のうちのいずれか一方への回動についてのみ重力対抗モーメントを発生させる形態を例示するものである。
【0046】
図1を参照すると、バランサ13が、下腕部3aの基準回動角から前方への回動についてのみ重力対抗モーメントを発生させる場合、一対の規制部材12のうちの前側の規制部材12が省略される。この場合の下腕部3aの前方への回動におけるバランサ13の動作は、実施形態1と同様である。
【0047】
一方、バランサ13が、下腕部3aの基準回動角から後方への回動についてのみ重力対抗モーメントを発生させる場合、一対の規制部材12のうちの後側の規制部材12が省略される。この場合の下腕部3aの後方への回動におけるバランサ13の動作は、実施形態1と同様である。
【0048】
{変形例2}
変形例2では、実施形態1又は変形例1において、板バネ11の一方の端部11aが旋回部2に固定され、一対の規制部材12又は1つの規制部材12が下腕部3aに設けられる。
【0049】
本変形例によれば、実施形態1又は変形例1と同様の効果が得られる。
【0050】
(実施形態2)
図3は、本発明の実施形態2に係る多関節ロボット200の構成の一例を模式的に示す側面図であり、
図3(A)は、多関節ロボット200が基準姿勢にある状態を示す図、
図3(B)は、多関節ロボット200のアーム部3が下腕回動軸線ALの周りに前方に回動した状態を模式的に示す側面図である。なお、
図3~
図6では、多関節ロボット200~500の基部が省略され、且つ、各リンクが簡略化されて示されている。
【0051】
図1及び
図3(A)を参照すると、実施形態2は、バランサ13の弾性部材として板バネ11に代えて捻りコイルバネ11が用いられる点において実施形態1と相違し、その他の点においては、実施形態1と同様である。以下、この相違点を説明する。
【0052】
多関節ロボット200のバランサ13では、捻りコイルバネ11が、例えば、コイル本体の軸方向から見て、両端部11a,11bが互いに約90度の角度を成してコイル本体から延出するように形成されている。そして、捻りコイルバネ11の一方の端部11aが、捻りコイルバネ11の中心軸が下腕回動軸線ALに平行であるように、適宜な固定構造によって旋回部2に固定されている。捻りコイルバネ11の一方の端部11aは、下腕部3aが基準姿勢にある場合に、下腕回動軸線ALの延在方向から見て、他方の端部11bが下腕部3aの基準線RL上に延在するように、旋回部2に固定されている。
【0053】
また、一対の規制部材12が、捻りコイルバネ11の他方の端部11bの両側に所定の隙間を有して設けられている。この所定の隙間は、下腕部3aが、基準回動角度から下腕回動軸線ALの周りに前方又は後方に不動作回動角範囲θR(
図3(A)に不図示)を超えて回動した場合に、一対の規制部材12の一方又は他方が捻りコイル
バネ11の他方の端部11bに当接し、それによって捻りコイルバネ11が重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させるよう弾性変形(拡径又は縮径)するように設定(設計)されている。
【0054】
図3(A)及び
図3(B)を参照すると、このように構成された多関節ロボット200においては、下腕部3aが不動作回動角範囲θRを超えて前方又は後方に回動した場合に、一対の規制部材12の一方又は他方が捻りコイルバネ11の他方の端部11bに当接し、それによって捻りコイルバネ11が重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させる。一方、下腕部3aが不動作回動角範囲θR以内の回動角で回動した場合には、一対の規制部材12が捻りコイルバネ11の他方の端部11bに当接しないので、捻りコイルバネ11が重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させない。従って、バランサ13が、アームに作用させる邪魔な力を低減することができる。しかも、簡単な構成で、バランサ13を実現できる。
【0055】
{変形例3}
変形例3は、実施形態2において、バランサ13が、下腕部3aの基準回動角から前方又は後方への回動についてのみ重力対抗モーメントを発生させる形態を例示するものである。
【0056】
図3(A)を参照すると、バランサ13が、下腕部3aの基準回動角から前方への回動についてのみ重力対抗モーメントを発生させる場合、一対の規制部材12のうちの前側の規制部材12が省略される。この場合の下腕部3aの前方への回動におけるバランサ13の動作は、実施形態2と同様である。
【0057】
一方、バランサ13が、下腕部3aの基準回動角から後方への回動についてのみ重力対抗モーメントを発生させる場合、一対の規制部材12のうちの後側の規制部材12が省略される。この場合の下腕部3aの後方への回動におけるバランサ13の動作は、実施形態2と同様である。
【0058】
{変形例4}
変形例4では、実施形態2又は変形例3において、捻りコイルバネ11の一方の端部11aが下腕部3aに固定され、一対の規制部材12又は1つの規制部材12が旋回部2に設けられる。
【0059】
本変形例によれば、実施形態2又は変形例3と同様の効果が得られる。
【0060】
(実施形態3)
図4は、本発明の実施形態3に係る多関節ロボット300の構成の一例を模式的に示す側面図であり、
図4(A)は、多関節ロボット300が基準姿勢にある状態を示す図、
図4(B)は、多関節ロボット300のアーム部3が下腕回動軸線ALの周りに前方に回動した状態を模式的に示す側面図である。
【0061】
図1及び
図4(A)を参照すると、実施形態3は、バランサ13の弾性部材として板バネ11に代えて渦巻きコイルバネ11が用いられる点において実施形態1と相違し、その他の点においては、実施形態1と同様である。以下、この相違点を説明する。
【0062】
多関節ロボット300のバランサ13では、渦巻きコイルバネ11の一方の端部(中心側の端部)11aが、渦巻きコイルバネ11の中心軸が下腕回動軸線ALに一致するように、固定部材10によって旋回部2に固定されている。渦巻きコイルバネ11の一方の端部11aは、下腕部3aが基準姿勢にある場合に、他方の端部(外周側の端部)11bが、下腕回動軸線ALの延在方向から見て、下腕部3a上に位置するように、旋回部2に固定されている。
【0063】
また、1つの規制部材12が、渦巻きコイルバネ11の他方の端部11bに対し、渦巻きコイルバネ11の周方向において、所定の隙間を有して設けられている。この所定の隙間は、下腕部3aが、基準回動角度から下腕回動軸線ALの周りに前方に不動作回動角範囲θR(
図4(A)に不図示)を超えて回動した場合に、規制部材12が渦巻きコイル
バネ11の他方の端部11bに当接し、それによって渦巻きコイルバネ11が重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させるよう弾性変形(拡径)するように設定(設計)されている。
【0064】
図4(A)及び
図4(B)を参照すると、このように構成された多関節ロボット300においては、下腕部3aが不動作回動角範囲θRを超えて前方に回動した場合に、規制部材12が渦巻きコイルバネ11の他方の端部11bに当接し、それによって渦巻きコイルバネ11が重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させる。一方、下腕部3aが不動作回動角範囲θR以内の回動角で回動した場合には、規制部材12が渦巻きコイルバネ11の他方の端部11bに当接しないので、渦巻きコイルバネ11が重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させない。従って、バランサ13がアームに作用させる邪魔な力を、低減することができる。しかも、簡単な構成で、バランサ13を実現できる。
【0065】
{変形例5}
変形例5では、実施形態3において、渦巻きコイルバネ11の一方の端部11aが下腕部3aに固定され、規制部材12が旋回部2に設けられる。
【0066】
本変形例によれば、実施形態3と同様の効果が得られる。
【0067】
(実施形態4)
図5は、本発明の実施形態4に係る多関節ロボット400の構成の一例を模式的に示す側面図である。
【0068】
図5を参照すると、実施形態4は、実施形態3において、バランサ23がさらに設けられている点において実施形態3と相違し、その他の点においては実施形態3と同じである。以下、この相違点を説明する。
【0069】
多関節ロボット400は、
図5の紙面手前側の側面に実施形態3のバランサ13を備える。
図5では、もう1つのバランサ23を説明し易くするために、このバランサ13が図示されていない。以下、バランサ13の不動作回動角範囲θRを、「前方不動作回動角範囲θRF」という。
【0070】
バランサ23は、多関節ロボット400の
図5の紙面奥側の側面に設けられ、渦巻きコイルバネ21と規制部材22とを備える。バランサ23は、端的にいうと、概ね、下腕回動軸線ALの延在方向から見て、下腕部3aの基準線RLに対してバランサ13と線対称に形成されている。つまり、渦巻きコイルバネ21は、渦巻きコイルバネ11と逆方向に巻かれており、一方の端部21aが固定部材20によって旋回部2に固定されている。また、規制部材2
2が、渦巻きコイルバネ21の他方の端部21bに対し、渦巻きコイルバネ21の周方向において、所定の隙間を有して設けられている。この所定の隙間は、下腕部3aが、基準回動角度から下腕回動軸線ALの周りに後方に後方不動作回動角範囲θRB(
図5に不図示)を超えて回動した場合に、規制部材22が渦巻きコイル
バネ21の他方の端部21bに当接し、それによって渦巻きコイルバネ21が重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させるよう弾性変形(拡径)するように設定(設計)されている。
【0071】
図5を参照すると、このように構成された多関節ロボット400においては、下腕部3aが後方不動作回動角範囲θRBを超えて後方に回動した場合に、規制部材22が渦巻きコイルバネ21の他方の端部21bに当接し、それによって渦巻きコイルバネ21が重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させる。一方、下腕部3aが後方不動作回動角範囲θRB以内の回動角で回動した場合には、規制部材
22が渦巻きコイルバネ21の他方の端部21bに当接しないので、渦巻きコイルバネ21が重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させない。
【0072】
このような本実施形態によれば、下腕部3aが基準角度から前方又は後方に回動する場合において、バランサ23がアームに作用させる邪魔な力を、低減することができる。
【0073】
{変形例6}
変形例6では、実施形態4において、渦巻きコイルバネ11の一方の端部11a及び渦巻きコイルバネ21の一方の端部21aが下腕部3aに固定され、規制部材12及び規制部材22が旋回部2に設けられる。
【0074】
本変形例によれば、実施形態4と同様の効果が得られる。
【0075】
(実施形態5)
図6は、本発明の実施形態5に係る多関節ロボット500の構成の一例を模式的に示す側面図であり、
図6(A)は、バランサ31の圧縮弾性体34が圧縮コイルバネである場合の図、
図6(B)は、バランサ31の圧縮弾性体34がゴム状弾性体である場合の図である。
【0076】
図1及び
図6を参照すると、実施形態5は、多関節ロボット500がシリンダ型のバランサ31を備える点で、多関節ロボット100がバネ型のバランサ13を備える実施形態1と相違し、その他の点においては、実施形態1と同様である。以下、この相違点について説明する。
【0077】
図6(A)及び
図6(B)を参照すると、バランサ31は、シリンダ32と、シリンダ32の内部に一端が当該シリンダ32の一端の内面に接触して配置された弾性部材としての圧縮弾性体34と、当接部材としてのピストン33と、を備える。ピストン33は、シリンダ32の内周面に摺動自在な円板状の押圧部材33aとシリンダ32の他端を貫通するとともに先端部が押圧部材33aに連結され
たピストンロッド33bと、を備える。圧縮弾性体34は、例えば、圧縮バネ(
図6(A)参照)又はゴム状の弾性体(
図6(B)参照)で構成される。ゴム状の弾性体の材料として、合成ゴム、天然ゴム等が例示される。
【0078】
シリンダ32の上記一端は、基端側リンクである旋回部2に、適宜なロッドを介して、回動自在に取り付けられている。また、ピストンロッド33bの基端部は、押圧部材33aが圧縮弾性体34との間に隙間を有するように先端側リンクである下腕部3aに回動自在に取り付けられている。
【0079】
このピストンロッド33bの基端部は、下腕部3aが不動作回動角範囲θR(
図6(A)及び
図6(B)に不図示)を超えて一方又は他方に回動した場合に、押圧部材33aが圧縮弾性体34を押圧し、それによって圧縮弾性体34が重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させるような下腕部3aにおける位置に取り付けられている。
【0080】
具体的には、ピストンロッド33bの基端部は、下腕部3aが基準回動角に位置する場合において、シリンダ32の中心軸CLが下腕回動軸線ALに直交するように下腕部3aに回動自在に取り付けられている。また、圧縮弾性体34と押圧部材33aとの隙間が、下腕部3aが基準回動角から所定の不動作回動角範囲θRの半分の回動角だけ回動した場合に、押圧部材33aが圧縮弾性体34に当接するように設定(設計)される。
【0081】
このように構成された多関節ロボット500によれば、下腕部3aが、前方又は後方に不動作回動角範囲θRを超えて回動すると、ピストン33の押圧部材33aが圧縮弾性体34を押圧し、それによって圧縮弾性体34が重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させる。一方、下腕部3aが不動作回動角範囲θR以内の回動角で回動すると、押圧部材33aが圧縮弾性体34を押圧せず、圧縮弾性体34が重力対抗モーメントを下腕部3aに発生させない。従って、バランサ31がアーム部3に作用させる邪魔な力を、低減することができる。
【0082】
{変形例7}
変形例7では、実施形態5において、ピストンロッド33bの基端部が、下腕部3aが基準回動角に位置する場合において、シリンダ32の中心軸CLが下腕回動軸線ALに直交する位置から外れるように下腕部3aに回動自在に取り付けられる。また、圧縮弾性体34と押圧部材33aとの隙間が、下腕部3aが、前方又は後方に所定の不動作回動角範囲θRの限度まで回動した場合に、押圧部材33aが圧縮弾性体34に当接するように設定(設計)される。
【0083】
このような本変形例によれば、バランサ31が重力対抗モーメント発生させない下腕部3aの回動角範囲を、前方への回動と後方への回動とで、異ならせることができる。
【0084】
(実施形態6)
図7は、本発明の実施形態6に係る多関節ロボット600の構成の一例を模式的に示す側面図である。
【0085】
図7を参照すると、実施形態6の多関節ロボット600は、実施形態1の多関節ロボット100において、さらに、下腕部3aと上腕部3bとの間にバランサ43が設けられている。これ以外の構成は実施形態1の多関節ロボット100と同じである。バランサ43は、板バネ41と一対の規制部材42とを備える。バランサ43の構成は、実施形態1のバランサ13と同様である。なお、上腕部3bの規準姿勢及び基準線は、アーム部3の動作等を考慮して適宜決定される。
【0086】
このような多関節ロボット600によれば、下腕部3aと上腕部3bとの間に設けられたバランサ43がアーム部3に作用させる邪魔な力を、低減することができる。
【0087】
なお、実施形態6について、実施形態1の変形例1及び変形例2と同様の変形例を構成してもよい。
【0088】
(その他の実施形態)
実施形態2~5のいずれかにおいて、実施形態6のバランサ43と同様に、旋回部2と下腕部3aとの間に設けられたバランサ13と同様のもう1つのバランサを、下腕部3aと上腕部3bとの間に設けてもよい。
【0089】
上記説明から、当業者にとっては、多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の多関節ロボットは、アームに作用させる邪魔な力を低減することが可能なバランサを備える多関節ロボットとして有用である。
【符号の説明】
【0091】
1 基部
2 旋回部
3 アーム部
3a 下腕部
3b 上腕部
4 ロボットアーム
10,20 固定部材
11 弾性部材、板バネ、捻りコイルバネ、渦巻きコイルバネ
11a 一方の端部
11b 他方の端部
12 当接部材、規制部材
23 バランサ
31 バランサ
32 シリンダ
33 ピストン
33a 押圧部材
33b ピストンロッド
34 圧縮弾性体
41 板バネ
42 規制部材
43 バランサ
100,200,300,400,500,600 多関節ロボット
AL 下腕回動軸線
CL 中心線
RL 基準線
θR 不動作回動角範囲