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特許7346024洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能の評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20230911BHJP
【FI】
C12Q1/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018235529
(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公開番号】P2020096542
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-11-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】高岳 留美
(72)【発明者】
【氏名】林 昌義
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-236204(JP,A)
【文献】特開2015-021030(JP,A)
【文献】特開2020-083855(JP,A)
【文献】特開平05-007498(JP,A)
【文献】特開2011-190305(JP,A)
【文献】特開平08-245987(JP,A)
【文献】特開2017-039646(JP,A)
【文献】特開2003-253728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-5/28
C12Q 1/00-3/00
C12M 1/00-3/10
C12P
G01N
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/CAPLUS/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能の評価方法であって、
基板として、表面の少なくとも一部が、前記洗浄用組成物による洗浄対象表面を構成する材料と同一材料から構成される基板を選択すること、
前記基板上に、液状の培地と菌懸濁液又はカビ胞子液の混合物を塗布すること、
前記菌懸濁液又は前記カビ胞子液を含む前記培地を固化すること、
前記培地表面に前記洗浄用組成物を接触させること、
前記培地表面に不活化剤含有水溶液を接触させること、及び
所定時間経過後に前記培地におけるコロニーの生育状況を目視により観察すること
をこの順序で含む評価方法。
【請求項2】
洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能の評価方法であって、
基板として、表面の少なくとも一部が、前記洗浄用組成物による洗浄対象表面を構成する材料と同一材料から構成される基板を選択すること、
前記基板上に固体状の培地を形成すること、
前記培地上に菌懸濁液又はカビ胞子液を塗布すること、
前記培地表面に前記洗浄用組成物を接触させること、
前記培地表面に不活化剤含有水溶液を接触させること、及び
所定時間経過後に前記培地におけるコロニーの生育状況を目視により観察することをこの順序で含む評価方法。
【請求項3】
前記培地の厚さが3mm以下である、請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記培地が寒天培地である、請求項1~3のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項5】
前記洗浄用組成物が、硬質材料の表面を洗浄対象とする硬質表面洗浄用組成物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項6】
前記基板の表面の少なくとも一部を構成する前記材料が硬質材料である、請求項1~5のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項7】
前記硬質材料が、セラミックス、プラスチック、タイル又は金属である、請求項5又は6に記載の評価方法。
【請求項8】
前記培地表面と前記洗浄用組成物との接触が、前記培地表面を泡状で覆うように前記洗浄用組成物を付着させることによりなされる、請求項1~7のいずれか1項に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能の評価方法及び評価用試料に関する。
【背景技術】
【0002】
住環境設備には、便器、浴槽、洗面台、壁面等に使用されるセラミックス、プラスチック、タイル、金属等の硬質材料が多く存在する。これら硬質材料の表面(以下において、「硬質表面」という。)には、細菌類や真菌類(カビ等)など様々な菌種が付着する。これらの菌種の繁殖は衛生上問題となるだけではなく、黒ずみや赤色汚れなど、微生物に由来する汚れの発生を招くものである。硬質表面に付着する菌種の繁殖やこれに伴う汚れを防止するために、種々多様な抗菌抗カビ剤を含有する洗浄用組成物や、抗菌製品が開発されている。
【0003】
洗浄用組成物や抗菌製品の開発においては、その抗菌抗カビ性能(抗菌抗カビ効果)が評価される。その評価方法として、例えば、特許文献1では、カビ胞子を塗布した濾紙に洗浄用組成物を塗布して数分間放置した後、濾紙を水洗し、この濾紙をポテトデキストロース寒天培地(Potato Dextrose Agar培地;PDA培地)上で培養した後における黒色部分の発生状態を観察することで、抗菌抗カビ性能を評価している。
【0004】
また、特許文献2では、シャーレ内の寒天培地に黒カビを培養し、上から円筒形状のガラスチューブを嵌め込み、そのガラスチューブ内に漂白剤をたらし、30分放置後の黒カビ漂白の程度を評価している。
【0005】
また、特許文献3~5では、汚れの原因菌液に洗浄用組成物を添加後、シャーレ等に固化させた培地上で培養し、発生したコロニー数をカウントすることにより、初発菌数からの減少菌数を算出することで評価している。
【0006】
また、特許文献6では、便器等の衛生陶器表面における抗菌抗カビ性能の評価方法として、衛生陶器表面に寒天培地を形成し、この寒天培地に形成されたコロニーを目視にて観察することで衛生陶器の抗菌抗カビ性能を評価している。
【0007】
一方、上記硬質表面の洗浄用組成物として、洗浄対象である硬質表面に泡状に付着するよう洗浄用組成物を塗布することにより、硬質表面をこすることなく水で洗い流すタイプが近年増加している。例えば、「モコ泡わ(登録商標)トイレクリーナー」(エステー株式会社製)等のトイレ用洗剤、「バスマジックリン(登録商標)」(花王株式会社製)等の風呂用洗剤などの各種製品が挙げられる。
【0008】
これら洗浄用組成物は、泡の状態で被洗浄面に付着することにより、分離した汚れが洗浄対象物に再度付着することを防止するほか、洗浄対象物上に洗浄用組成物が滞留する時間を延ばし、汚れ成分に対する洗浄成分の接触時間を長くするといった効果が期待できる。このため、こするなどの機械的な力を加えることなく、所定時間放置した後、水で洗い流すことで容易に洗浄することができるという利点を有する。また、菌又はカビに由来する汚れに対しても同様に、抗菌抗カビ成分の接触時間を長くすることができるため、菌又はカビに由来する汚れの発生を防止することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-190305号公報(段落0049)
【文献】特開平08-245987号公報(段落0023~0028)
【文献】特開2017-039646号公報(段落0049~0050)
【文献】特開2015-113455号公報(段落0090)
【文献】特開2014-132063号公報(段落0052)
【文献】特開2003-253728号公報(段落0023~0028)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の通り、洗浄用組成物において、硬質表面などの洗浄対象表面に泡状に付着することにより、機械的な力を加えることなく、所定時間放置した後に水で洗い流すタイプの洗浄用組成物が近年増加している。このため、洗浄用組成物における抗菌抗カビ性能を、正確且つ簡便に評価することの重要性が高まっている。
【0011】
しかしながら、例えば、特許文献1~5に示される従来の抗菌抗カビ性能の評価方法は、洗浄用組成物が実際に使用される環境とはかけ離れた環境下でなされるものである。このため、評価での培養段階における菌種の生育状況が実態と異なり、実環境における菌又はカビに由来する汚れの抑制が可能であるかを確認できるものではない。また、特許文献6のように評価試料として洗浄対象物そのものを使用する場合、評価環境は洗浄用組成物が使用される実環境に近いものの、多数のサンプルの評価や有効成分のスクリーニングが困難であり、簡便な評価方法とは言い難い。
【0012】
本発明は、洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能に基づく菌又はカビに由来する汚れの抑制効果を簡便に視認評価することを可能とする評価方法を提供することを目的とする。また、本発明は、洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能に基づく菌又はカビに由来する汚れの抑制効果の簡便な視認評価を可能とする評価用試料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、評価環境を洗浄用組成物が実際に使用される環境に近づけるという観点から鋭意研究を重ねた。その結果、表面の少なくとも一部が、洗浄用組成物の洗浄対象表面を構成する材料と同一材料から構成される基板を、評価用試料に用いる基板として使用することにより、洗浄用組成物が実際に使用される環境を模擬した簡便な評価を実施することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の一側面によると、洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能の評価方法であって、基板として、表面の少なくとも一部が、前記洗浄用組成物による洗浄対象表面を構成する材料と同一材料から構成される基板を選択すること、前記基板上に、液状の培地と菌懸濁液又はカビ胞子液の混合物を塗布すること、前記菌懸濁液又は前記カビ胞子液を含む前記培地を固化すること、前記培地表面に前記洗浄用組成物を接触させること、前記培地表面に不活化剤含有水溶液を接触させること、及び、所定時間経過後に前記培地におけるコロニーの生育状況を目視により観察することをこの順序で含む第一の評価方法が提供される。
【0015】
また、本発明の他の側面によると、洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能の評価方法であって、基板として、表面の少なくとも一部が、前記洗浄用組成物による洗浄対象表面を構成する材料と同一材料から構成される基板を選択すること、前記基板上に固体状の培地を形成すること、前記培地上に菌懸濁液又はカビ胞子液を塗布すること、前記培地表面に前記洗浄用組成物を接触させること、前記培地表面に不活化剤含有水溶液を接触させること、及び、所定時間経過後に前記培地におけるコロニーの生育状況を目視により観察することをこの順序で含む第二の評価方法が提供される。
【0016】
上記第一の評価方法及び第二の評価方法は、一形態において、上記培地の厚さが3mm以下であってよく、1mm以下であってよい。
【0017】
また、上記第一の評価方法及び第二の評価方法は、他の形態において、上記培地が寒天培地であってよい。
【0018】
また、上記第一の評価方法及び第二の評価方法は、他の形態において、上記洗浄用組成物が硬質材料の表面を洗浄対象とする硬質表面洗浄用組成物であってよい。
【0019】
また、上記第一の評価方法及び第二の評価方法は、他の形態において、上記基板の表面の少なくとも一部を構成する上記材料が硬質材料であってよい。
【0020】
また、上記第一の評価方法及び第二の評価方法は、他の形態において、上記硬質材料が、セラミックス、プラスチック、タイル又は金属であってよい。
【0021】
また、上記第一の評価方法及び第二の評価方法は、他の形態において、上記培地表面と上記洗浄用組成物との接触が、上記培地表面を泡状で覆うように上記洗浄用組成物を付着させることによりなされる。
【0022】
また、本発明の他の側面によると、洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能評価に使用する評価用試料であって、表面の少なくとも一部が前記洗浄用組成物による洗浄対象表面を構成する材料と同一材料からなる基板と、前記基板上に菌又はカビを含む培地とを備える第一の評価用試料が提供される。
【0023】
また、本発明の他の側面によると、洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能評価に使用する評価用試料であって、表面の少なくとも一部が前記洗浄用組成物による洗浄対象表面を構成する材料と同一材料からなる基板と、前記基板上に培地とを備える第二の評価用試料が提供される。
【0024】
上記第一の評価用試料及び第二の評価用資料は、一形態において、上記培地の厚さが3mm以下であってよく、1mm以下であってよい。
【0025】
また、上記第一の評価用試料及び第二の評価用試料は、他の形態において、上記培地が寒天培地であってよい。
【0026】
また、上記第一の評価用試料及び第二の評価用試料は、他の形態において、上記洗浄用組成物が、硬質材料の表面を洗浄対象とする硬質表面洗浄用組成物であってよい。
【0027】
また、上記第一の評価用試料及び第二の評価用試料は、他の形態において、上記基板の表面の少なくとも一部を構成する上記材料が硬質材料であってよい。
【0028】
また、上記第一の評価用試料及び第二の評価用試料は、他の形態において、上記硬質材料が、セラミックス、プラスチック、タイル又は金属であってよい。
【0029】
また、上記第一の評価用試料及び第二の評価用試料は、他の形態において、上記洗浄用組成物は、洗浄対象表面へ泡状に付着するように塗布される用途に用いられる洗浄用組成物であってよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能に基づく菌又はカビに由来する汚れの抑制効果を簡便に視認評価する方法を提供することが可能となる。また、本発明により、洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能に基づく菌又はカビに由来する汚れの抑制効果の簡便な視認評価を可能とする評価用試料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態に係る洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能の評価方法(以下、「実施形態に係る評価方法」という。)と、そこで使用される評価用試料について説明する。
【0032】
<基板の選択工程>
実施形態に係る評価方法は、培地が形成される評価用基板として、表面の少なくとも一部が、洗浄用組成物による洗浄対象表面を構成する材料と同一材料から構成される基板を選択する工程を含むことを特徴の一つとする。評価用基板として上記基板を選択することにより、洗浄用組成物が実際に使用される環境を模擬することができ、評価での培養段階における菌種の生育状況が実態に近づくため、洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能に基づく菌又はカビに由来する汚れの抑制効果の簡便な視認評価が可能となる。
【0033】
実施形態に係る評価方法により抗菌抗カビ性能が評価される洗浄用組成物は、一形態において、硬質表面を洗浄対象とする硬質表面洗浄用組成物であってよい。ここで硬質表面は、特に限定されるものではないが、一例を挙げると、トイレ、浴室、台所、洗面台などの、壁や床、器具、機器等に設けられる表面であり、硬質材料の具体例として、例えば、セラミックス、プラスチック、金属、タイル等が挙げられる。
【0034】
したがって、実施形態に係る評価方法は、一形態において、硬質表面洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能の評価方法であり、評価用基板を選択する工程において選択される基板は、表面の少なくとも一部が、硬質表面洗浄用組成物による洗浄対象である硬質表面を構成する材料と同一材料から構成される基板である。例えば、表面の少なくとも一部がセラミックス、プラスチック、金属、タイル等の硬質表面から構成される基板が挙げられる。実施形態に係る評価方法において、滅菌後の基板が使用される。
【0035】
<培地の形成と、培地に対する菌/カビの仕込み工程>
実施形態に係る評価方法は、培地に対する菌又はカビの仕込み方の相違により、第一の評価方法と、第二の評価方法に分けることができる。ここで、培地としては、特に限定されるものではなく、寒天培地などであってよい。寒天培地としては、例えば、標準寒天培地、ポテトデキストロース寒天培地、R2A寒天培地、XM-G寒天培地、デゾキシコレート寒天培地等が挙げられ、一形態においてポテトデキストロース寒天培地が好ましい。
【0036】
第一の評価方法では、上述した評価用基板の選択工程で選択した基板上に、液状の培地と菌懸濁液又はカビ胞子液との混合物を塗布することにより、菌又はカビを含有する培地が形成される。次いで、菌懸濁液又はカビ胞子液を含む培地は固化される。このとき得られる試料が後述する第一の評価用試料である。培地が寒天培地である場合、一形態において、所定温度で加熱溶解した寒天培地に、評価を希望する菌種を含む液体(例えば、カビ胞子液等)を所定濃度で混合し、得られる混合物を評価用基板に滴下、あるいはスプレー等により塗布し、これを例えばクリーンベンチ内で培地が固化するまで放置する。
【0037】
第二の評価方法では、まず、上述した評価用基板の選択工程で選択した基板上に、液状の培地が塗布され、固化される。このとき得られる試料が後述する第二の評価用試料である。次いで、この固体状の培地上に菌懸濁液又はカビ胞子液が塗布されることにより、培地上に菌又はカビ含有層が形成される。培地が寒天培地である場合、一形態において、所定温度で加熱溶解した寒天培地を評価用基板に滴下、あるいはスプレー等により塗布し、これを例えばクリーンベンチ内で放置し培地を固化させる。次いで、評価を希望する菌種を含む液体(例えば、カビ胞子液等)を上記培地上に均一に塗布することにより菌又はカビ含有層が形成される。
【0038】
菌糸は、培地に対し下方に成長することがあり、培地の厚みが厚い場合、例えば便器等の硬質表面上での菌糸の生育の実態と異なってしまうため、正確な抗菌抗カビ性能の評価が困難となる。この観点から培地の厚みは適宜設定することが好ましい。第一の評価方法(第一の評価用試料)及び第二の評価方法(第二の評価用試料)では、上記培地の厚みは3mm以下であってよく、1mm以下であってよい。
【0039】
本発明の実施形態に係る洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能評価に使用する評価用試料(以下において、「実施形態に係る評価用試料」という。)は、実施形態に係る評価方法における上述した工程を経て得られる試料である。
【0040】
すなわち、第一の評価方法において作製され、使用される第一の評価用試料は、表面の少なくとも一部が上述した洗浄用組成物による洗浄対象表面を構成する材料と同一材料からなる基板と、この基板上に菌又はカビを含む培地を備える。
【0041】
第二の評価方法において作製され、使用される第二の評価用試料は、表面の少なくとも一部が上述した洗浄用組成物による洗浄対象表面を構成する材料と同一材料からなる基板と、この基板上に培地を備える。第二の評価用試料は、培地上に更に菌又はカビ含有層を更に備えていてもよい。
【0042】
<洗浄用組成物との接触工程>
実施形態に係る評価方法は、培地が形成され、菌又はカビが仕込まれた実施形態に係る上記評価用試料(第一の評価試料又は第二の評価試料)に対し、評価対象である任意の洗浄用組成物を接触させる工程を含む。接触の形態は、特に限定されるものではない。例えば、評価対象である洗浄用組成物が、洗浄対象表面へ泡状に付着するように塗布される用途に用いられるものである場合、当該接触は、上記評価用試料を泡で覆うように洗浄用組成物を付着させることによりなされることが好ましい。その手段として、例えば、内容物を泡状にして噴霧又は塗布することができるスプレー容器又はエアゾール容器を用いて作製される泡を評価用試料に付着させることによりなされる。
【0043】
<不活化剤含有水溶液との接触工程(抗菌抗カビ活性の不活化工程)>
実施形態に係る評価方法は、洗浄用組成物に接触させた後の上記評価用試料表面に対し、不活化剤含有水溶液を接触させる工程を含む。これは、洗浄用組成物における抗菌抗カビ活性を停止させるための工程であり、不活化剤含有水溶液としてレシチン・ポリソルベート80(LP)希釈液を用いて上記評価用試料表面を洗浄することにより実施することができる。
【0044】
実施形態に係る評価方法は、不活化剤含有水溶液を接触させる工程の後、更に水(好ましくは滅菌水)を上記評価用試料表面に接触させ、洗浄する工程を更に含んでもよい。
【0045】
<培養及び目視による観察工程>
実施形態に係る評価方法は、上記評価用試料表面を洗浄した後、培養のために所定時間評価用試料を放置し、培地におけるコロニーの生育状況を目視により観察する工程を含む。
【0046】
実施形態に係る評価方法により評価することができる菌種は、増殖した際、視認できる菌又はカビであればよい。具体的には、カビの一例として、クロカワカビ(Cladosporium cladosporioides)等のクラドスポリウム(Cladosporium)属、アオカビ(Penicillium citrinum)等のペニシリウム(Penicillium)属、コウジカビ(Aspergillus brasiliensis)等のアスペルギルス(Aspergillus)属、ススカビ(Alternaria alternata)等のアルテルナリア(Alternaria)属、アカカビ(Fusarium solani)等のフザリウム(Fusarium)属、Eurotium herbariorum等のユーロチウム(Eurotium)属、ロドトルラ属(Rhodotorula mucilaginosa)等の赤色酵母類、アウレオバシジウム(Aureobasidium)属、エキソフィアラ(Exophiala)属等の黒色酵母類、フォーマ(Phoma)属、カンジダ(Candida)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属等が挙げられる。
【0047】
菌の一例としては、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属等、黄色ブドウ球菌等のブドウ球菌(Staphylococcus)属、枯草菌等のバシラス(Bacillus)属等のグラム陽性菌、緑膿菌等のシュードモナス(Pseudomonas)属、メチロバクテリウム(Methylobacterium)属、肺炎桿菌等のクラブシエラ(Klebsiella)属、サルモネラ(Salmonella)属、モラクセラ(Moraxella)属等のグラム陰性菌が挙げられる。
【0048】
培養は、一形態において、蓋つきの透明容器に評価用試料を配置し、外部からの菌の混入を防ぐために蓋を閉めた状態で、菌種の育成状況の経過を容器外から観察しながら行うことができる。培養時間は菌種により異なるが、例えば3日~4日、室温((例えば、20~25℃)で培養することができる。菌種の生育に適した湿度を維持するために、容器内には水を設置することが好ましい。また、評価用試料以外の器具はエタノール消毒をした上で使用することが好ましい。
【実施例
【0049】
次に本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
<評価用試料の作製>
基板として、滅菌したセラミック製タイル(サイズ:20cm×20cm)を用いた。このセラミック製タイルの表面に、ポテトデキストロース寒天培地を厚さ1mmになるよう均一に塗布した後、クリーンベンチ内で寒天培地が固まるまで放置し、寒天培地タイルを得た。
【0051】
菌種として、下記に示すカビおよび菌を使用し、3種のカビ胞子液または菌懸濁液を調製した。
・例1:Cladosporium sp.(環境分離カビ)
・例2:Exophiala sp.(環境分離カビ)
・例3:Methylobacterium sp.(環境分離菌)
【0052】
各寒天培地タイルの上に、上記カビ胞子液又は菌懸濁液の各々を0.1μL滴下し、コーンラージ棒を用いて均一に塗り広げ、3種の評価用試料を得た。
【0053】
<洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能の評価>
トイレ用洗剤「モコ泡わトイレクリーナー」(エステー株式会社製)を、100mLビーカー内に噴霧し、泡状の洗剤でビーカー内を満たした。この泡状洗剤を、上記評価用試料各々の表面にコーンラージ棒を用いて均一に満遍なく塗り広げた。1分間放置した後、LP(レシチン・ポリソルベート80)希釈液10mLで各評価用試料の表面を洗浄し、次いで滅菌水10mLで洗浄した。
なお、ブランク用として、カビ胞子懸濁の各々を塗布後の各評価用試料に、上記泡状洗剤を塗布しない試料3種を用意した。
【0054】
各評価用試料及び各ブランク用試料を、縦20cm×横28cm×高さ10cmの蓋付透明プラスチック容器にそれぞれ別々に設置し、25℃にて4日間培養した。この際、培地の乾燥を防ぐために、滅菌水20mLを入れた50mLビーカーを上記蓋付透明プラスチック容器に入れた。培養後、各試料に形成されたコロニーを目視により観察し、ブランクとの差を確認した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1の評価結果から、本発明の実施形態にかかる評価方法では、洗浄用組成物の抗菌抗カビ性能に基づく菌又はカビに由来する汚れの抑制効果を簡便に視認評価することが可能であることがわかる。