(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】車両用スライドドア
(51)【国際特許分類】
B60J 5/06 20060101AFI20230911BHJP
B60J 5/04 20060101ALI20230911BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
B60J5/06 A
B60J5/04 R
B60J5/00 P
(21)【出願番号】P 2019040686
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】染谷 紀樹
(72)【発明者】
【氏名】荒井 克利
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-018233(JP,A)
【文献】特開2008-037401(JP,A)
【文献】実開昭60-182229(JP,U)
【文献】特開2013-112058(JP,A)
【文献】特開2006-035881(JP,A)
【文献】特開平10-058980(JP,A)
【文献】特開2013-091359(JP,A)
【文献】実開昭62-095926(JP,U)
【文献】特開2014-196031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00 - 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に対してスライド可能に連結される車両用スライドドアであって、
前記車体に対する少なくとも2つの固定点と、
前記少なくとも2つの固定点のうち車体前側の固定点と車体後側の固定点との間を延び、両端部が前記各固定点の位置でそれぞれ固定され
、前記両端部以外の部分が固定されていない補強部材と、を有し、
前記補強部材は、前記スライドドアの内部側面からの押圧力により前記各固定点を中心に回転しようとする動きを抑制することを特徴とする車両用スライドドア。
【請求項2】
前記車体前側の固定点は、クレビス部に位置し、前記車体後側の固定点は、ドアストライカーとロックがかみ合って固定されている部分である請求項1に記載の車両用スライドドア。
【請求項3】
樹脂製スライドドアである請求項1又は2に記載の車両用スライドドア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドドア強度及び軽量化の点で優れた車両用スライドドアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用ドアとしては、そのアウターパネル及びインナーパネルが鋼板からなる鉄製ドアが一般的であった。しかし、近年の車両の軽量化の要請から、鋼板に代えて樹脂材料を用いてアウターパネル及びインナーパネルを成形してなる樹脂製ドアが提案されている。また、バックドア等の特定種類の車両用ドアにおいては、実際に樹脂製ドアが実用化されている例もある。
【0003】
特許文献1及び2には、アウターパネル材料が特定の樹脂材料からなり、インナーパネルが特定の繊維強化樹脂材料からなる自動車用パネル構造体が開示されている。また、この自動車用パネル構造体は、サイドドア、バックドア、スライドドア、フード、ルーフ等のパネル構造体として用いられることが説明されている。
【0004】
特許文献3には、アウターパネルにリブにより構成される溝を設けてその溝に補強部材を取り付けた樹脂製ドアの補強構造が開示されている。また図面には、その補強部材を取り付けたスイングドア(ヒンジドア)が図示されている。
【0005】
特許文献4には、アウターパネルにリブを設けてそのリブにサイドインパクトバーを取り付けた樹脂製ドアが開示されている。また図面には、そのサイドインパクトバーを取り付けたスイングドア(ヒンジドア)が図示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-119380号公報
【文献】特開2010-195399号公報
【文献】実開昭62-165121号公報
【文献】実開昭62-95926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
樹脂製ドアは軽量化の点で優れているが、通常、鉄製ドアに比べて強度が劣る。したがって樹脂製ドアの実用化の為には、その強度を向上する工夫が必要になる。
【0008】
先に説明した特許文献3及び4においては、スイングドア(ヒンジドア)にサイドインパクトバー等の補強部材を取り付けることにより強度を向上している。しかし、スイングドアのアウターパネルにリブを設けると、アウターパネルのヒケ等の外観不良を引き起こす恐れがある。
【0009】
また車両用ドアに要求される強度は、ドアの種類によって様々である。例えばスライドドアについては、車両等の型式認定相互承認協定における協定規則第11号附則6(スライド式側面扉)で規定される試験法に合格する必要がある。しかし、通常の樹脂製スライドドアでは、この試験法に合格することは困難であると考えられていた。
【0010】
本発明は、以上の課題を解決する為になされたものである。すなわち本発明の目的は、スライドドア強度及び軽量化の点で優れた車両用スライドドアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、スライドドアに特定の樹脂製補強部材を設けることが非常に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の事項により特定される。
【0012】
[1]車体に対してスライド可能に連結される車両用スライドドアであって、
前記車体に対する少なくとも2つの固定点と、
前記少なくとも2つの固定点のうち車体前側の固定点と車体後側の固定点との間を延び、両端部が前記各固定点の位置でそれぞれ固定され、前記両端部以外の部分が固定されていない補強部材と、を有し、
前記補強部材は、前記スライドドアの内部側面からの押圧力により前記各固定点を中心に回転しようとする動きを抑制することを特徴とする車両用スライドドア。
【0013】
[2]前記車体前側の固定点は、クレビス部に位置し、前記車体後側の固定点は、ドアストライカーとロックがかみ合って固定されている部分である[1]に記載の車両用スライドドア。
【0014】
[3]樹脂製スライドドアである[1]又は[2]に記載の車両用スライドドア。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スライドドア強度及び軽量化の点で優れた車両用スライドドアを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の車両用スライドドアの一実施形態を示す図である。
【
図2】(a)は、
図1に示した補強部材22の斜視図であり、(b)は、そのA-A'線断面図である。
【
図3】車両等の型式認定相互承認協定における協定規則第11号附則6(スライド式側面扉)で規定される試験法を説明するための模式図である。
【
図4】車両用スライドドアの試験において作用する力を説明する為の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の車両用スライドドアの一実施形態を示す図である。この
図1に示す車両用スライドドア1は、アウターパネル11及びインナーパネル12を備え、車体(不図示)に対して2つの固定点11によりスライド可能に連結されている。固定点21の一つは車体前側のクレビス部に位置し、固定点21の他の一つは車体後ろ側のドアストライカーとロックがかみ合って固定されている部分である。この2つの固定点21の間には、補強部材22が設けられている。
【0018】
図2(a)は、
図1に示した補強部材22の斜視図であり、
図2(b)は、そのA-A'線断面図である。
図2(a)に示すように、補強部材22の形状は横方向に延びる帯形状であり、補強部材22の両端部は2つの固定点21の位置で固定されている。補強部材22の両端部以外の部分(張り部分)は固定されていない。補強部材22の張り部分がアウターパネル11に当たって音がするのを防止する為に、アウターパネル11と補強部材22の間にエプトシーラー等のシーリング材を設けても良い。
図2(b)に示すように、補強部材12の断面形状は2つの凹部を有する。
【0019】
図1及び
図2に示すような補強部材22を車両用スライドドア1に設けることは、強度を向上する点において非常に効果的である。以下、その点について説明する。
【0020】
図3は、車両等の型式認定相互承認協定における協定規則第11号附則6(スライド式側面扉)で規定される試験法を説明するための模式図である。この試験法においては、車両用スライドドア2の内部側面の車体前側及び後ろ側の所定の2つの位置を加圧装置91により所定圧力で押圧した際に、車両用スライドドア2と車両との隙間が100mm以下であることが合格の条件である。
【0021】
図4は、車両用スライドドアの試験において作用する力を説明する為の模式図である。
図4に示すように、上述した試験においては、車両用スライドドア2の内部側面からの押圧力により固定点21を中心に回転しようとする動き(
図4に示す矢印方向の動き)が生じる。そして本発明における補強部材22は、このような固定点21を中心に回転しようとする動きを抑制する為の部材である。
【0022】
本発明における補強部材22の全体形状並びに断面形状は、
図1及び
図2に示したような形状であることが好ましい。ただし本発明はこれに限定されず、車両用スライドドア1の内部側面からの押圧力により固定点21を中心に回転しようとする動きを抑制できるのであれば、どのような形状でも構わない。例えば、
図1及び
図2に示した補強部材22の断面形状の凹部は2つであるが、この凹部が3つ以上であっても良いし、凹部が1つでも良いし、凹部が無い平板であっても良い。
【0023】
本発明における補強部材22の材質は特に限定されず、車両用スライドドア1の内部側面からの押圧力により固定点21を中心に回転しようとする動きを抑制できるのであれば、どのような材質でも構わない。例えば、金属製の補強部材は強度に優れており、樹脂製の補強部材は軽量化の点で有利である。本発明においては、特に、強度及びコストの点で優れている鋼板製の補強部材が好ましい。
【0024】
さらに
図1においては、車両用樹脂製スライドドア1の窓
31の周囲のアウターパネル側の窓枠周縁部11a(
図1においては不図示)とインナーパネル側の窓枠周縁部12aにより窓枠の周縁部が構成されている。そして、アウターパネル側の窓枠周縁部11aとインナーパネル側の窓枠周縁部12aがリベット
13により固定されている。このリベット
13は窓
31の上側の位置の2か所、窓の左側及び右側の位置の各々3か所に使用されている。これにより、窓枠の固定強度が向上する。
【0025】
本発明のスライドドアは、樹脂製スライドドアであっても良いし、鉄製スライドドアであっても良い。樹脂製スライドドアは軽量化の点で有利である。鉄製スライドドアは、補強部材12によって強度が向上するので補強部材12以外の部分を薄くしたり省略したりすることにより軽量化が図れる。ただし本発明においては、樹脂製スライドドアが好ましい。樹脂製スライドドアにおいて、アウターパネル11を構成する材料としては、ポリプロピレンコンパウンドが好ましい。インナーパネル12を構成する材料としては、シートモールディングコンパウンド(SMC:樹脂を繊維に含浸させたシート)が好ましい。シートモールディングコンパウンドの樹脂の具体例としては、不飽和ポリエステル樹脂が挙げられる。シートモールディングコンパウンドの繊維の具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維が挙げられる。
【実施例】
【0026】
図1に示した本発明の車両用スライドドアにおいて、補強部材22を設けた場合の車両用スライドドア(実施例1)と、補強部材22を設けない場合の車両用スライドドア(比較例1)に対するCAEによる強度(最大変位量)の解析を実施した。
【0027】
CAE解析は、協定規則第11号附則6(スライド式側面扉)で規定される試験法に基づいて行なった。但し、解析モデルの簡略化の為にドアとボディの勘合部、つまりクレビスとウトライカーは完全固定とした。なお、スライドドアのインナーパネルはガラス繊維を用いたSMCによって成形し、アウターパネルはポリプロピレンコンパウンドによって成形したものとし、補強部材22はSPC270相当の冷間圧延用鋼材で構成されるものと仮定して解析した。解析結果を表1に示す。
【0028】
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の車両用スライドドアは、スライドドア強度及び軽量化の点で優れているので、自動車等の各種車両のスライドドアとして非常に有用である。
【符号の説明】
【0030】
1 車両用スライドドア
2 車両用スライドドア
11 アウターパネル
11a アウターパネル側の窓枠周縁部
12 インナーパネル
12a インナーパネル側の窓枠周縁部
13 リベット
21 固定点
22 補強部材
31 窓
32 窓ガラス保持用弾性部材
33 窓ガラス
91 加圧装置