(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】レンズユニットおよびカメラモジュール
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20230911BHJP
H04N 23/57 20230101ALI20230911BHJP
G03B 30/00 20210101ALI20230911BHJP
G03B 15/00 20210101ALN20230911BHJP
【FI】
G02B7/02 D
G02B7/02 Z
H04N23/57
G03B30/00
G03B15/00 V
(21)【出願番号】P 2019083680
(22)【出願日】2019-04-25
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【氏名又は名称】栗林 和輝
(72)【発明者】
【氏名】平間 浩之
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-101091(JP,A)
【文献】特開2008-197584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02-7/16
H04N 23/57
G03B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、該レンズ群を収容保持するための内側収容空間を有する筒状の鏡筒とを有するレンズユニットにおいて、
前記レンズ群は、最も物体側に位置される第1のレンズと、この第1のレンズとその像側で隣接する第2のレンズとを有し、
前記第1のレンズは、前記第2のレンズと対向するその像側の裏面の中央が、前記光軸を中心にレンズ内側に向けて凹むように径方向で延在する空洞部を形成する凹面を成し、
前記第2のレンズは、前記第1のレンズの前記凹面と対向するその物体側の表面の中央に、前記光軸を中心に前記空洞部内に少なくとも部分的に入り込むように径方向で延在する凸状部を有し、
前記第1および第2のレンズは、
前記空洞部及び前記凸状部の径方向外側に、光軸方向で互いに当接してレンズの径方向に延びる当接面を有し、
前記第2のレンズは、前記第1および第2のレンズ同士の間の気密性を確保する流動性の気密材料が充填される凹部を前記当接面に有するとともに、前記凹部から前記第1のレンズ
の前記空洞部に入り込むように
物体側に突出する前記凸状部を前記凹部の径方向内側に隣接して有することを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
前記
凸状部は、前記凹部内に充填される気密材料の径方向内側への流動を防止する障壁として形成されることを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項3】
前記第2のレンズの前記凸状部は、前記空洞部を形成する前記凹面に圧着嵌合
することを特徴とする請求項
1または2に記載のレンズユニット。
【請求項4】
前記第2のレンズは、シクロオレフィンポリマーを母材とする樹脂により形成されることを特徴とする請求項1から
3のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか一項に記載のレンズユニットを備えることを特徴とするカメラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載される車載カメラを構成し得るレンズユニットおよびカメラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車に車載カメラを搭載し、駐車をサポートしたり、画像認識により衝突防止を図ったりすることが行なわれており、さらにそれを自動運転に応用する試みもなされている。また、このような車載カメラ等のカメラモジュールは、一般に、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、このレンズ群を収容保持する鏡筒(バレル)と、レンズ群の少なくとも一個所のレンズ間に配置される絞り部材とを有するレンズユニットを備える(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、特に車載カメラ用のレンズユニットでは、少なくとも一部が車外に設置される場合、防水および防塵のため、
図4に示されるように、鏡筒102の内側収容空間S内にレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、レンズ群Lの最も物体側に位置される第1のレンズ100と鏡筒102との間にOリング104が介挿され、鏡筒102の内側のレンズ群L内に水や塵埃が侵入しないようにしている。この場合、第1のレンズ100の外周側面100aに、該レンズ100の像側部分で径が小さくなった段差状の縮径部100bが設けられ、この縮径部100bにOリング104が装着されて、第1のレンズ100の外周側面100aと鏡筒102の内周面102aとの間でOリング104が例えば径方向で圧縮されることにより、鏡筒102の物体側端部が封止された状態となっている。
【0004】
さらに、鏡筒102は、それが樹脂製であれば、例えば
図4に示されるようにその物体側の端部(
図4において上端部)にカシメ部123を有する形態が一般的であり、その場合、鏡筒102は、その内側収容空間S内にレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、カシメ部123が径方向内側にカシメられることにより、第1のレンズ100をこのカシメ部123で鏡筒102の物体側端部に固定する。
【0005】
ところで、前述したようにOリング104によって防水対策を行なっても、湿気(水蒸気)は様々な経路を通じてレンズユニット内に侵入し得る。そのため、外気温とレンズユニット内の温度との間の差が大きくなると、レンズユニット内の水蒸気が凝縮してレンズ表面に結露が生じる。特に、外部との温度差の影響が最も大きい第1のレンズ100とこれに隣接する第2のレンズ101との間のレンズ間空間S1内で、とりわけ第1のレンズ100の裏面100cに結露が生じ易い。
【0006】
外気温とレンズユニット内の温度との間の差が大きくなる要因としては、外気が冷たい冬期にレンズユニット内の温度が上昇すること、例えばレンズユニットを通じて集光される光を受光して電気信号に変換するための常時通電されたイメージセンサ(撮像素子)から伝わる熱によりレンズユニット内の温度が上昇すること、あるいは、前記イメージセンサや周囲環境(例えば車両のエンジン)からの熱によりレンズユニット内の温度が高い状態で第1のレンズ100の表面100dが雨に晒されたり路面上の水溜りの水しぶきを受けるなどして第1のレンズ100が冷却されることなどが挙げられる。
【0007】
また、レンズユニット内への水蒸気の侵入を許容する経路としては、例えば、鏡筒102のカシメ部123と第1のレンズ100との間の隙間からOリング104を透湿する経路が挙げられる。または、鏡筒102の樹脂を透湿し、第1のレンズ100と鏡筒102および/または第2のレンズ101との間の隙間を介して、レンズ間空間S1等へと至る経路、あるいは、鏡筒102およびレンズを形成する樹脂を透湿して順次に通り抜ける経路などを挙げることができる。
【0008】
いずれにしても、このような経路を通じて水蒸気がレンズユニット内に侵入し、前述したような要因により外気とレンズユニット内との間で温度差が生じると、結露が起こり、撮像画像がぼやけて、所望の解像度が得られなくなる。
【0009】
このような結露は、例えば加熱乾燥処理を行なうなどしてレンズユニット内部の水蒸気量を低下させることにより抑制できるが、使用環境において水蒸気はOリング104や樹脂鏡筒102等を通じて徐々にレンズユニット内へと透過するため、その抑制効果は一時的なものにすぎない。そのため、結露対策として、従来から、レンズユニット内部に吸湿部材を設置する方法(特許文献2参照)や、レンズ間(レンズ間空間S1)に液体を封入する方法(特許文献3参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2013-231993号公報
【文献】国際公開第2010/087270号パンフレット
【文献】特開2009-244391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1および特許文献2で提案されるようにレンズユニット内に吸湿部材や液体を設置・封入する方法では、構造が複雑になり、コストも増大してしまう。
【0012】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、簡単な構造で安価にレンズユニット内への水蒸気の侵入を抑制してレンズ表面結露を防止できるレンズユニットおよびカメラモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明は、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、該レンズ群を収容保持するための内側収容空間を有する筒状の鏡筒とを有するレンズユニットにおいて、
前記レンズ群は、最も物体側に位置される第1のレンズと、この第1のレンズとその像側で隣接する第2のレンズとを有し、
前記第1および第2のレンズは、光軸方向で互いに当接してレンズの径方向に延びる当接面を有し、
前記第2のレンズは、前記第1および第2のレンズ同士の間の気密性を確保する流動性の気密材料が充填される凹部を前記当接面に有するとともに、前記凹部から前記第1のレンズ側に入り込むように延びる段差部を前記凹部の径方向内側に隣接して有することを特徴とする。
【0014】
本発明においては、レンズユニット内への水蒸気の侵入を許容する経路となり得る部位、すなわち、第1および第2のレンズ同士の間のレンズ間空間内へと水蒸気を導き得る第1のレンズおよび第2のレンズの当接面間に、具体的には、第1のレンズと当接する第2のレンズの当接面に設けられた凹部に気密材料が充填されているため、レンズユニット内に吸湿部材や液体を設置・封入する複雑かつ高コストな構造形態を伴うことなく、最も結露が生じ易い前記レンズ間空間内への水蒸気の侵入、ひいては更に像側へのレンズユニット内への水蒸気の侵入を抑えて(気密性を向上させて)、前記レンズ間空間内の水蒸気量を低下させ、レンズ表面結露、とりわけ、第1のレンズの像側の表面(裏面)に結露が生じることを簡単に抑制できる。
【0015】
また、本発明においては、第1および第2のレンズの当接面間にこれらを引き離すように気密材料が介挿されるのではなく、第1のレンズと当接する第2のレンズの当接面に凹部を設け、この凹部に気密材料を充填しているため、レンズ同士を確実に当接させてレンズ間の気密性向上に寄与し得るだけでなく、レンズ同士の当接によってレンズ間距離を所望の距離に正確に保つことができ、気密材料の介挿によって光学性能に悪影響が及ぶことを防止できる。
【0016】
また、本発明において、第2のレンズは、凹部から第1のレンズ側に入り込むように延びる段差部を凹部の径方向内側に隣接して有するため、段差部が、凹部内に充填される気密材料の径方向内側への流動を防止する障壁を成すことができ、したがって、流動性の気密材料が凹部から溢れて第1および第2のレンズ同士の間のレンズ間空間内へ向けて径方向内側に流れないようにすることができる。すなわち、凹部を安定した気密材料溜まりとして機能させることができる。
【0017】
なお、第2のレンズの段差部を第1のレンズ側に入り込ませる手段としては、例えば、第1のレンズと第2のレンズとの間に介挿されるシール部材のための第1のレンズのシール装着部位を像側に向けて延在させるように厚くしたり、第1のレンズの当接面を切り欠くなどして、段差部の受け入れスペースを確保するなど、様々な形態が考えられる。特に、シール部材のための第1のレンズのシール装着部位を像側に向けて延在させるように厚く形成すれば、シール部材のための装着面積が増大し、第1のレンズからのシール部材の脱落を防止できるという利点も得られる。
【0018】
また、第2のレンズの当接面に設けられる凹部は、当接面のどの部位(径方向に沿う任意の部位)に幾つ設けられてもよく、また、凹部に付随して設けられる段差部も1つに限らない。凹部の深さ寸法は例えば50~500ミクロンに設定されることが好ましい。また、凹部は、切り欠き状の溝など、そこに充填される気密材料が第1および第2のレンズ同士の当接状態を阻害しない形態であれば、どのような形態であってもよい。一方、凹部に充填される気密材料としては、半ゲル状の気密物質や接着剤などを挙げることができる。接着剤としては、例えば、アクリル系接着剤など低透湿性のものが好ましい。あるいは、凹部内にブチルシール(未加硫シール)やオレフィン系シール剤などシーリング部材を配置してもよい。第2のレンズの凹部に気密材料を充填した後にその上側から鏡筒内に第1のレンズを組み付ければ、第1および第2のレンズ間の気密性を確保でき、第1および第2のレンズ同士の間の空間を密閉空間にし得る。
【0019】
また、本発明の上記構成において、第1のレンズは、その表面が物体側に向けて凸状を成す凸面として形成されるとともに、前記第2のレンズと対向するその裏面がレンズ内側に向けて凹む空洞部を形成する凹面を成し、第2のレンズの段差部は、第1のレンズの凹面と対向する第2のレンズの部位を空洞部内に少なくとも部分的に入り込ませることによって形成されることが好ましい。これによれば、第1および第2のレンズ同士の間のレンズ間空間である空洞部に一番近い部位(レンズ間空間を密閉し易い部位)で気密性を確保できるため、水蒸気の侵入を効果的に抑制できる。
【0020】
また、本発明の上記構成において、空洞部内に入り込む第2のレンズの部位は、空洞部を形成する凹面に圧着嵌合する凸状部として形成されることが好ましい。これによれば、段差部と凹部とによって安定した気密材料溜まりを形成する径方向外側の気密領域と第1のレンズの凹面と第2のレンズの凸状部とから成る径方向内側の圧着嵌合領域とによる二重気密状態を実現できるため、レンズ間の気密性が更に高まり、レンズ間空間を確実に密閉してレンズ間空間内への水蒸気の侵入を確実に防止できる。
【0021】
また、本発明の上記構成において、第2のレンズは、低透湿性(例えば、厚み0.025mmにおいて30g/m2・24h以下)のCOP(シクロオレフィンポリマー)などの材料により形成されることが好ましい。これによれば、第1および第2のレンズ間の気密性はもとより、第2のレンズ自体の透湿によるレンズ間空間内への水蒸気の侵入も防止できる。
【0022】
また、本発明に係るカメラモジュールは、前記レンズユニットを備えることを特徴とする。
このような構成によれば、前述のレンズユニットの作用効果をカメラモジュールで得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、互いに当接する第1のレンズおよび第2のレンズの当接面の一方に設けられる凹部に、第1および第2のレンズ同士の間の気密性を確保する気密材料が充填されるため、レンズユニット内への水蒸気の侵入を抑制してレンズ表面結露を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るレンズユニットの概略断面図である。
【
図2】(a)は、
図1のレンズユニットの要部拡大図、(b)はその変形例を示す要部拡大図である。
【
図3】
図1のレンズユニットを有するカメラモジュールの概略断面図である。
【
図4】従来のレンズユニットの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
なお、以下で説明される本実施の形態のレンズユニットは、特に車載カメラ等のカメラモジュール用のものであり、例えば、自動車の外表面側に固定して設置され、配線は自動車内に引き込まれてディスプレイやその他の装置に接続される。また、前述した
図4を含む全ての図において、レンズについてはハッチングを省略している。
【0026】
図1は、本発明の一実施の形態に係るレンズユニット11を示している。図示のように、本実施の形態のレンズユニット11は、例えば樹脂製の円筒状の鏡筒(バレル)12と、鏡筒12の段付きの内側収容空間S内に配置される複数のレンズ、例えば、物体側から、第1のレンズ13、第2のレンズ14、第3のレンズ15、第4のレンズ16および第5のレンズ17から成る5つのレンズと、絞り部材22とを備えている。絞り部材22は、本実施の形態では、第3のレンズ15と第4のレンズ16との間に介挿されており、透過光量を制限し、明るさの指標となるF値を決定する「開口絞り」またはゴーストの原因となる光線や収差の原因となる光線を遮光する「遮光絞り」である。このようなレンズユニット11を備える車載カメラは、レンズユニット11と、図示しないイメージセンサを有する基板と、当該基板を自動車等の車両に設置する図示しない設置部材とを備えるものである。
【0027】
鏡筒12の内側収容空間S内に組み込まれて収容保持される複数のレンズ13,14,15,16,17は、それぞれの光軸を一致させた状態で積み重ねられて配置されており、1つの光軸Oに沿って各レンズ13,14,15,16,17が並べられた状態となって、撮像に用いられる一群のレンズ群Lを構成している。この場合、レンズ群Lを構成する最も物体側に位置される第1のレンズ13は、その表面13dが物体側に向けて凸状を成す凸面として形成されるとともに、第2のレンズ14と対向するその裏面13eがレンズ内側に向けて凹む空洞部を形成する凹面を成す球面ガラスレンズであり、第2のレンズ14は、物体側に後述する凸状部14bを有する低透湿性の樹脂材料(例えば、COP(シクロオレフィンポリマー)などの樹脂)から成るレンズであり、その他のレンズ15,16,17は樹脂レンズであるが、これに限定されない(例えば、第1のレンズ13が樹脂レンズであっても構わない)。
【0028】
本実施の形態を含む本発明は、第1のレンズ13と第2のレンズ14との間の当接面に形成される気密形態に特徴があり、レンズの数、レンズおよび鏡筒の素材等については用途等に応じて任意に設定できる。また、本実施の形態において、像側に位置される2つの第4および第5のレンズ16,17は貼り合わせレンズであるが、そうである必要はない。なお、これらのレンズ13,14,15,16,17の表面には、必要に応じて、反射防止膜、親水膜、撥水膜等が設けられる。
【0029】
また、本実施の形態において、最も物体側に位置される第1のレンズ13と鏡筒12との間にはシール部材としてのOリング26が介挿され、鏡筒12の内側のレンズ群L内に水や塵埃が侵入しないようにしている。この場合、第1のレンズ13の外周面13aに、該レンズ13の像側部分で径が小さくなった段差状の縮径部13bが設けられ、この縮径部13bにOリング26が装着されて、第1のレンズ13の外周面13aと鏡筒12の内周面12aとの間でOリング26が径方向で圧縮されることにより、鏡筒12の物体側端部が封止された状態となっている。なお、第1のレンズ13と鏡筒12との間に介挿されるシール部材は、Oリングに限定されず、第1のレンズ13と鏡筒12との間をシールできる環状体であればどのような形態であっても構わない。
【0030】
また、鏡筒12は、その内側収容空間S内にレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、その物体側の端部(
図1において上端部)のカシメ部23が径方向内側に熱的にカシメられることにより、レンズ群Lの最も物体側に位置される第1のレンズ13をこのカシメ部23により鏡筒12の物体側端部に光軸方向で固定する。この場合、安定したカシメを行なえるように、カシメ部23が圧接されるガラスレンズ13の部位は平面状に斜めにカットされた平坦部13cとして形成される。
【0031】
また、鏡筒12の像側の端部(
図1において下端部)には、第5のレンズ17よりも径の小さい開口部を有する内側フランジ部24が設けられている。この内側フランジ部24とカシメ部23とにより、鏡筒12内にレンズ群Lを構成する複数のレンズ13,14,15,16,17と絞り部材22とが光軸方向で保持固定されている。
【0032】
また、
図2の(a)に拡大して明確に示されるように、レンズ群Lの第1のレンズ13は、その像側で、第2のレンズ14と光軸方向で互いに当接しており、互いに当接してレンズ13,14の径方向に延びる第1のレンズ13および第2のレンズ14の円環状の当接面13f,14aの一方、本実施の形態では第2のレンズ14の当接面14aには、例えば切り欠き溝状の環状凹部14cが設けられる。したがって、この環状凹部14cを伴う当接面14aの部位は、第1のレンズ13の当接面13fと当接していない。なお、環状凹部14cの深さ寸法は例えば50~500ミクロンに設定される。
【0033】
そして、この環状凹部14cには、第1および第2のレンズ13,14同士の間の気密性を確保する流動性の気密材料30が充填される。すなわち、本実施の形態では、レンズユニット11内への水蒸気の侵入を許容する経路となり得る部位、つまり、鏡筒12のカシメ部23と第1のレンズ13との間の隙間からOリング26を通じ、または、鏡筒12の透湿性の樹脂を直接に通じ、第1のレンズ13と鏡筒12および/または第2のレンズ14との間の隙間を介して、第1および第2のレンズ13,14同士の間に形成されるレンズ間空間S1(第1のレンズ13の像側の凹面13eと第2のレンズ14の物体側の凸状部14bとによって画定される)内へと水蒸気を導き得る第1のレンズ13および第2のレンズ14の当接面13f,14a間で、環状凹部14c内に気密材料30としての例えば接着剤が充填される。なお、接着剤としては、例えば、アクリル系接着剤など低透湿性で粘性が1~500Pa・s程度のものが好ましい。
【0034】
また、このような環状凹部14cを有する第2のレンズ14は、環状凹部14cから第1のレンズ13側に入り込むように延びる段差部14dを環状凹部14cの径方向内側に隣接して有する。具体的に、本実施の形態において、この段差部14dは、第1のレンズ13の凹面(裏面)13eと対向する第2のレンズ14の部位を凹面13eにより形成される空洞部内に少なくとも部分的に入り込ませることによって形成され、環状凹部14c内に充填される気密材料30の径方向内側への流動を防止する障壁としての機能を有する。そして、このようにして第1のレンズ13の空洞部内に入り込んで段差部14dを形成する第2のレンズ14の部位は、環状凹部14cの径方向内側で物体側へと突出する略円形状の凸状部14bを形成する。なお、このようにして第2のレンズ14の凸状部14b(段差部14d)を第1のレンズ13側に入り込ませるために、本実施の形態では、例えば、第1のレンズ13の縮径部13bを像側に向けて延在させるように厚くしている。縮径部13bを像側に向けて延在させるように厚く形成すれば、Oリング26のための装着面積が増大し、第1のレンズ13からのOリング26の脱落を防止できるという利点も得られる。
【0035】
言い換えると、本実施の形態では、第1および第2のレンズ13,14同士が当接面13f,14aで当接する環状の当接領域40と、気密材料30が環状凹部14cに充填されることにより当接面13f,14a同士の当接状態を維持しつつ気密材料30が第1のレンズ13の当接面13cと当接して成る気密領域50とが、第1および第2のレンズ13,14の径方向に沿って隣接して位置されている。つまり、本実施の形態では、水蒸気の通り道となり得る経路、すなわち、鏡筒12のカシメ部23と第1のレンズ13との間の隙間からレンズ間空間S1内へと至る経路中に、その上流側から、Oリング26を伴う防水領域60と、当接領域40と、気密領域50とが順に設けられることにより、この経路の防水性および気密性が高く維持されている。
【0036】
なお、本実施の形態では、
図2の(a)に示されるように、第1のレンズ13の凹面(裏面)13eにより形成される空洞部内に入り込む第2のレンズ14の凸状部14bが凹面13eとの間に若干の隙間を存して位置されているが、
図2の(b)に示されるように、凸状部14bが凹面13eに圧着嵌合してもよい。
【0037】
また、
図3は、以上のような構成を成すレンズユニット11を有する本実施の形態のカメラモジュール300の概略断面図である。図示のように、このカメラモジュール300は、フィルタ99が装着された
図1のレンズユニット11を含んで構成される。フィルタ99は接着剤などにより鏡筒24に固定されている。接着剤としては例えばアクリル系の接着剤などが用いられる。
【0038】
カメラモジュール300は、外装部品である上ケース(カメラケース)301と、レンズユニット11を保持するマウント(台座)302とを備えている。また、カメラモジュール300は、シール部材303およびパッケージセンサ(撮像素子)304を備えている。
【0039】
上ケース301は、鏡筒12の外周面12bに鍔状に設けられるフランジ部25に係合されるとともに、レンズユニット11の物体側の端部を露出させて他の部分を覆う部材である。マウント302は、上ケース301の内部に配置されており、レンズユニット11の雄ねじ11aと螺合する雌ねじ302aを有する。シール部材303は、上ケース301の内面とレンズユニット11の鏡筒12の外周面12bとの間に介挿された部材であり、上ケース301の内部の気密性を保持するための部材である。
【0040】
パッケージセンサ304は、マウント302の内部に配置されており、かつ、レンズユニット11により形成される物体の像を受光する位置に配置されている。また、パッケージセンサ304は、CCDやCMOS等を備えており、レンズユニット11を通じて集光されて到達する光を電気信号に変換する。変換された電気信号は、カメラにより撮影された画像データの構成要素であるアナログデータやデジタルデータに変換される。
【0041】
以上説明したように、本実施の形態によれば、レンズユニット11内への水蒸気の侵入を許容する経路となり得る部位、すなわち、第1および第2のレンズ13,14同士の間のレンズ間空間S1内へと水蒸気を導き得る第1のレンズ13および第2のレンズ14の当接面13f,14a間に、具体的には、第1のレンズ13と当接する第2のレンズ14の当接面14aに設けられた環状凹部14cに気密材料30が充填されているため、レンズユニット内に吸湿部材や液体を設置・封入する複雑かつ高コストな構造形態を伴うことなく、最も結露が生じ易いレンズ間空間S1内への水蒸気の侵入、ひいては更に像側へのレンズユニット11内への水蒸気の侵入を抑えて(気密性を向上させて)、レンズ間空間S1内の水蒸気量を低下させ、レンズ表面結露、とりわけ、第1のレンズ13の像側の表面(裏面)13eに結露が生じることを簡単に抑制できる。
【0042】
また、本実施の形態によれば、第1および第2のレンズ13,14の当接面13f,14a間にこれらを引き離すように気密材料30が介挿されるのではなく、第1のレンズ13と当接する第2のレンズ14の当接面14aに環状凹部14cを設け、この環状凹部14cに気密材料30を充填しているため、レンズ13,14同士を確実に当接させてレンズ13,14間の気密性向上に寄与し得るだけでなく、レンズ13,14同士の当接によってレンズ間距離を所望の距離に正確に保つことができ、気密材料30の介挿によって光学性能に悪影響が及ぶことを防止できる。
【0043】
また、本実施の形態において、第2のレンズ14は、環状凹部14cから第1のレンズ13側に入り込むように延びる段差部14dを環状凹部14cの径方向内側に隣接して有するため、段差部14dが、環状凹部14c内に充填される気密材料30の径方向内側への流動を防止する障壁を成すことができ、したがって、流動性の気密材料30が環状凹部14cから溢れて第1および第2のレンズ13,14同士の間のレンズ間空間S1内へ向けて径方向内側に流れないようにすることができる。すなわち、環状凹部14cを安定した気密材料溜まりとして機能させることができる。
【0044】
また、本実施の形態において、第2のレンズ14の段差部14dは、第1のレンズ13の凹面13eと対向する第2のレンズ14の部位を凹面13eにより形成される空洞部内に少なくとも部分的に入り込ませることによって形成されるため、空洞部に一番近い部位、すなわち、レンズ間空間S1を密閉し易い部位で気密性を確保でき、水蒸気の侵入を効果的に抑制できる。なお、前述した
図2の(b)に示されるように、凸状部14bを凹面13eに圧着嵌合させれば、段差部14dと凹部14cとによって安定した気密材料溜まりを形成する径方向外側の気密領域50と第1のレンズ13の凹面13eと第2のレンズ14の凸状部14bとから成る径方向内側の圧着嵌合領域70とによる二重気密状態を実現できるため、レンズ13,14間の気密性が更に高まり、レンズ間空間S1を確実に密閉してレンズ間空間S1内への水蒸気の侵入を確実に防止できる。
【0045】
また、本実施の形態によれば、第2のレンズ14が低透湿性の樹脂(例えば、シクロオレフィンポリマーを母材とする樹脂)で構成されるため、第1および第2のレンズ13,14間の気密性はもとより、第2のレンズ14自体の透湿によるレンズ間空間S1内への水蒸気の侵入も防止できる。
【0046】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、本発明において、レンズ、鏡筒などの形状は、前述した実施の形態の形状に限定されない。また、前述した実施の形態では、凹部14cが切り欠き状の環状溝として形成されているが、凹部は、そこに充填される気密材料が第1および第2のレンズ同士の当接状態を阻害しない形態であれば、どのような形態であってもよい。要は、レンズ間空間S1へと至る水蒸気の侵入を気密領域50によって抑制(防止)できればよい。また、前述した実施の形態では、環状の凹部14cがレンズ間空間S1に隣接して1つ設けられているが、第2のレンズ14の当接面14aに設けられる凹部は、当接面14aのどの部位(径方向に沿う任意の部位)に幾つ設けられてもよく、また、凹部に付随して設けられる段差部も1つに限らない。また、凹部に充填される気密材料は、接着剤に限定されず、半ゲル状の気密物質、更にはブチルシール(未加硫シール)などシーリング部材であっても構わない。
【符号の説明】
【0047】
11 レンズユニット
12 鏡筒
13 第1のレンズ
13d 表面(凸面)
13e 裏面(凹面)
13f 当接面
14 第2のレンズ
14a 当接面
14b 凸状部
14c 環状凹部(凹部)
14d 段差部
30 気密材料
300 カメラモジュール
L レンズ群
O 光軸
S 内側収容空間
S1 レンズ間空間