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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】細胞移送システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230911BHJP
   C12N 5/074 20100101ALN20230911BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12N5/074
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019102799
(22)【出願日】2019-05-31
(65)【公開番号】P2020195320
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山形 仁
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0258488(US,A1)
【文献】静電気学会誌,2017年,Vol.41, No.1,pp.39-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12N 5/074
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
iPS細胞を収容可能なウェルが貫通して設けられウェルプレートと、
前記各ウェルに設けられ、印加された電圧に応じて、前記各ウェルの底部として機能し、又は、前記底部が抜けた状態を形成する静電型アクチュエータと、
前記静電型アクチュエータに印加される電圧を制御することで、前記静電型アクチュエータに載置されたiPS細胞を、培養系ウェルへ落下させる移送制御部と、
を具備する細胞移送システム。
【請求項2】
前記静電型アクチュエータは、静電型回転アクチュエータである
請求項記載の細胞移送システム。
【請求項3】
前記静電型アクチュエータは、静電型移動アクチュエータである
請求項記載の細胞移送システム。
【請求項4】
iPS細胞を収容可能な各ウェルが設けられたウェルプレートと、
前記各ウェルに設けられ、前記各ウェルの底部として機能し、印加された電圧に応じて前記底部が上昇する静電型アクチュエータと、
前記上昇した底部に載置されたiPS細胞を、培養系ウェルへ移送する移送機構と、
前記静電型アクチュエータに印加される電圧を制御することで、前記静電型アクチュエータに載置されたiPS細胞を持ち上げ、前記移送機構を制御することで、前記持ち上げられたiPS細胞を前記培養系ウェルへ移送する移送制御部と、
を具備する細胞移送システム。
【請求項5】
前記移送機構は、溶液を供給するポンプを有し、
前記移送制御部は、前記ポンプを制御して前記溶液を供給させることで、前記持ち上げられたiPS細胞を前記培養系ウェルへ押し流す
請求項記載の細胞移送システム。
【請求項6】
前記移送機構は、前記持ち上げられたiPS細胞を、液滴を用いて取り込むトラップウェルを有し、
前記移送制御部は、前記持ち上げられたiPS細胞を、前記トラップウェルの液滴に接触させて前記液滴に取り込み、前記iPS細胞を取り込んだ液滴を前記培養系ウェルの溶液に接触させることで、前記液滴に取り込まれたiPS細胞を前記培養系ウェルへ移送させる
請求項記載の細胞移送システム。
【請求項7】
前記トラップウェルは、トラップウェルプレートに複数設けられている
請求項記載の細胞移送システム。
【請求項8】
前記トラップウェルは、トラップウェルローラーの円周表面に複数設けられている
請求項記載の細胞移送システム。
【請求項9】
前記ウェルプレート前記各ウェルには、前記iPS細胞を引き付けるためのトラップ機構が設けられている
請求項1から8のいずれかに記載の細胞移送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、細胞移送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
iPS細胞等の多能性幹細胞を用いた再生医療が既に臨床利用され始めている。iPS細胞は、リプログラミング誘導因子を分化の進んだ体細胞に与えることで樹立される。iPS細胞の樹立培養過程では、識別に長けた研究者が細胞を1個ずつ観察し、良好な状態の細胞を次の培養過程へ進める。このとき、良好な状態のiPS細胞を細胞単位で次の培養過程へ移送することができれば、研究者の負担が軽減されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2003-514236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明が解決しようとする課題は、iPS細胞を細胞単位で移送することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、細胞移送システムは、ウェルプレート、移送機構、及び移送制御部を備える。ウェルプレートは、iPS細胞を収容可能なウェルが複数設けられる。移送機構は、前記ウェルに収容されるiPS細胞を電場を利用して培養系ウェルへ選択的に移送させる。移送制御部は、前記移送機構を制御し、前記ウェルに収容されるiPS細胞の少なくともいずれかを前記培養系ウェルへ移送させる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、第1の実施形態に係る細胞移送システムの構成を示す図である。
図2図2は、図1に示されるウェルプレートの上面図を表す図である。
図3図3は、図2に示されるウェルプレートのウェル近傍の構成を拡大して表した図である。
図4図4は、図3に示されるウェルプレートのA-Aにおける断面図である。
図5図5は、図3に示されるウェルプレートのB-Bにおける断面図である。
図6図6は、図4に示される可動電極部のその他の例を表す図である。
図7図7は、iPS細胞をウェルプレートのウェルでトラップする際のスイッチの接続を表す図である。
図8図8は、iPS細胞を効率的にトラップする機能を有するウェルプレートの断面図である。
図9図9は、ウェルでトラップされたiPS細胞を移送する際のスイッチの接続を表す図である。
図10図10は、第1電極と第2電極との間に直流電圧が印加された際の可動電極板の動作を表す図である。
図11図11は、図3に示されるウェル近傍のその他の構成を拡大して表した図である。
図12図12は、図11に示されるウェルプレートのA-Aにおける断面図である。
図13図13は、図11に示されるウェルプレートのB-Bにおける断面図である。
図14図14は、図11乃至図13に示されるウェルプレートへの電源及び交流電源の接続を表す図である。
図15図15は、第1電極と第2電極との間に同じ極性の電圧が印加された際の可動電極板の動作を表す図である。
図16図16は、図11乃至図13に示されるアクチュエータのその他の構成を表す上面図である。
図17図17は、図16に示されるアクチュエータのA-Aにおける断面図である。
図18図18は、第2の実施形態に係る細胞移送システムの構成を示す図である。
図19図19は、図18に示されるウェルプレートのウェルの構造を拡大して表した上面図である。
図20図20は、図19に示されるウェルプレートのA-Aにおける断面図である。
図21図21は、図19に示されるウェルプレートのB-Bにおける断面図である。
図22図22は、図19乃至図21に示されるアクチュエータへの電源及び交流電源の接続を表す図である。
図23図23は、第1電極と第2電極との間に直流電圧が印加された際の可動電極板の動作を表す図である。
図24図24は、図23に示される可動電極板を異なる断面で表す図である。
図25図25は、図19乃至図21に示されるアクチュエータのその他の構成を表す断面図である。
図26図26は、第2の実施形態に係る細胞移送システムのその他の構成を表す図である。
図27図27は、図26に示される可動電極板により押し上げられたiPS細胞と上方トラップウェルプレートに保持される液滴との接触を表す図である。
図28図28は、図27に示される可動電極板及び上方トラップウェルプレートを異なる断面で表す図である。
図29図29は、図26に示される上方トラップウェルプレートで保持される液滴と培養系ウェルプレートで保持される溶液との接触を表す図である。
図30図30は、第2の実施形態に係る細胞移送システムのその他の構成を表す図である。
図31図31は、図30に示される上方トラップウェルローラーで保持される液滴と培養系ウェルプレートで保持される溶液との接触を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る細胞移送システムの構成の例を示す図である。図1に示される細胞移送システムは、アレイ装置10、及び制御装置20を備える。図1では、アレイ装置10の断面の模式図と、制御装置20のブロック図とが表されている。アレイ装置10と制御装置20とは、例えば、有線により接続されている。また、制御装置20は、電源30及び交流電源40、並びに、これらの接続を開閉するスイッチと接続されている。
【0009】
アレイ装置10は、iPS細胞を収容し、収容しているiPS細胞を後段の細胞培養系ウェルへ移送可能な装置である。アレイ装置10は、iPS細胞を収容するためのウェルプレート11、ウェルプレート11を密閉するように覆う蓋部12、及びiPS細胞を移送させるための培養系ウェルプレート13を有する。
【0010】
図2は、第1の実施形態に係るウェルプレート11の上面図の例を表す。なお、図1で示される断面図は、図2で示される1点鎖線におけるウェルプレート11のA-A断面を表す。ウェルプレート11は、上面にウェルと称される複数の凹部(孔)が、例えば、格子状に形成されている。このことは、ウェルプレート11にウェルアレイが形成されていると換言可能である。ウェルの開口部は、略円形となるように形成されている。ウェルの開口部の直径は、15μmから20μm程度であり、iPS細胞の直径よりも大径となっている。
【0011】
ウェルプレート11は、例えば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、又はSiを用いて作成される。ウェルプレート11の内部には、ウェルにiPS細胞をトラップするトラップ機構、及びウェル内にトラップしたiPS細胞を、電場を利用して選択的に移送させる移送機構が形成されている。トラップ機構、及び移送機構は、例えば、ウェルプレート11の内部に形成される、第1電極111、第2電極112、及び第3電極113により実現される。
【0012】
具体的には、ウェルプレート11内部において、第1電極111、第2電極112、及び第3電極113は、それぞれが予め設定された方向に形成されている。例えば、図2に示される例では、第1電極111は、破線により表され、y軸方向に沿い、ウェルの一方の側面の近傍に形成されている。第2電極112、及び第3電極113は、1点鎖線により表され、x軸方向に沿い、ウェルを挟むように形成されている。ウェルを挟んで形成される第2電極112と第3電極113との間の距離は、ウェルの直径よりも短い。
【0013】
第1電極111と第2電極112とは、第1電極111と第2電極112との間に電位差を発生可能なように、それぞれスイッチ31及びスイッチ32を介して電源30と接続されている。また、第2電極112と第3電極113とは、第2電極112と第3電極113との間に電位差を発生可能なように、それぞれスイッチ41及びスイッチ42を介して交流電源40と接続されている。
【0014】
図3は、図2に示されるウェルプレート11のウェル近傍の構成を拡大して表した図である。また、図4は、図3に示されるウェルプレート11のA-Aにおける断面図の例を表す。また、図5は、図3に示されるウェルプレート11のB-Bにおける断面図の例を表す。
【0015】
第1電極111は、第2電極112、及び第3電極113の上層に配設されている。第1電極111は、第2電極112、及び第3電極113により挟まれた領域と交差する位置に、駆動電極部1111を有する。駆動電極部1111は、ウェルプレート11内に設けられる空間に、例えば、一部が露出されている。駆動電極部1111のうち内部空間に露出されている部分は、例えば、三角柱部1112,1113である。三角柱部1112,1113は、断面が三角形の柱状の形状をしている。三角柱部1112,1113は、y軸方向に沿ってそれぞれ平行に形成される。駆動電極部1111が三角柱部1112,1113を有することで、効果的に静電力を働かせることが可能となる。なお、駆動電極部1111が必ずしも三角柱部1112,1113を有さなくても構わない。
【0016】
第2電極112は、可動電極板1121、ねじり棒1122、及び固定部1123を有する。可動電極板1121は、ウェル内における仕切板となるように、ウェル毎に形成されている。可動電極板1121は、各ウェルの底部として機能する。可動電極板1121は、導電性のねじり棒1122を介して固定部1123と接続している。ウェルプレート11内の可動電極板1121の周囲には、可動電極板1121がねじり棒1122を軸にして回転可能なように、空間が形成されている。可動電極板1121、ねじり棒1122、及び固定部1123により、移送機構としての静電型回転アクチュエータがウェル毎に形成される。
【0017】
なお、可動電極板1121の断面は、例えば、図6に示されるような形状をしていてもよい。すなわち、可動電極板1121の先端が鉛直方向上に斜面を有するように面取りされていてもよい。可動電極板1121の形状を工夫することで、より効率的にiPS細胞を移送することが可能となる。
【0018】
また、三角柱部1113の内部空間側の表面には、絶縁層が設けられていてもよい。絶縁層が設けられることにより、可動電極板1121が回転した場合であっても第1電極111と第2電極とが導通することを防ぐことが可能となる。
【0019】
ウェルを挟んで形成される第2電極112と第3電極113との間の距離はウェルの直径よりも短く、第2電極112及び第3電極113の一部は、ウェル内に露出されている。アレイ装置10内を緩衝液で満たした状態で、第2電極112と第3電極113との間に電圧を印加すると、図5に示されるようにウェルの内部へ向かう方向に誘電泳動力が発生する。第2電極112及び第3電極113により、トラップ機構が実現される。
【0020】
図1に示される蓋部12は、例えば、PDMS、又はSiを用いて作成される。蓋部12は、側壁部121を有している。側壁部121の下端部はウェルプレート11に接合される。ウェルプレート11の下面から、蓋部12の上面までの高さは、例えば、2mm程度である。
【0021】
蓋部12の、例えば、一端の上面には、第1孔122が設けられている。また、蓋部12の他端の上面には、第2孔123が設けられている。第1孔122は、例えば、アレイ装置10内へ緩衝液等の溶液を流入させる流入口として用いられる。また、第2孔123は、例えば、アレイ装置10から緩衝液等の溶液を排出させる排出口として用いられる。緩衝液としては、例えば、PBS(Phosphate Buffered Salts:リン酸緩衝生理食塩水)が用いられる。第1孔122、及び第2孔123の直径は、例えば、iPS細胞の直径よりも大径である。
【0022】
培養系ウェルプレート13は、上面に複数の培養系ウェルが、例えば、格子状に形成されている。培養系ウェルは、例えば、略円形の皿状に形成されている。培養系ウェルの直径は、例えば、ウェルプレート11に設けられるウェルの直径よりも大径である。なお、培養系ウェルの直径は、ウェルプレート11に設けられるウェルと同程度であっても構わない。培養系ウェルプレート13は、例えば、ウェルプレート11の鉛直方向下方に配置される。
【0023】
駆動機構131は、培養系ウェルプレート13を、水平方向に移動自在に支持する。駆動機構131は、例えば、レール等により実現される。駆動機構131は、制御装置20からの指示に従い、培養系ウェルプレート13を移動させる。
【0024】
図1に示される制御装置20は、ウェルプレート11に収容されるiPS細胞のうち少なくともいずれかを、培養系ウェルプレート13へ移送するための制御を実施する装置である。制御装置20は、処理回路21、メモリ22、入力インタフェース23、ディスプレイ24、及び接続インタフェース25を有する。処理回路21、メモリ22、入力インタフェース23、ディスプレイ24、及び接続インタフェース25は、例えば、バスを介して互いに通信可能に接続されている。
【0025】
処理回路21は、制御装置20の中枢として機能するプロセッサである。処理回路21は、メモリ22等に記憶されているプログラムを実行することにより、当該プログラムに対応する機能を実現する。
【0026】
メモリ22は、種々の情報を記憶するROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、及び集積回路記憶装置等の記憶装置である。また、メモリ22は、CD-ROMドライブ、DVDドライブ、及びフラッシュメモリ等の可搬性記憶媒体との間で種々の情報を読み書きする駆動装置等であってもよい。なお、メモリ22は、必ずしも単一の記憶装置により実現される必要は無い。例えば、メモリ22は、複数の記憶装置により実現されても構わない。また、メモリ22は、制御装置20にネットワークを介して接続された他のコンピュータ内にあってもよい。
【0027】
メモリ22は、本実施形態に係る移送プログラム等を記憶している。なお、これらのプログラムは、例えば、メモリ22に予め記憶されていてもよい。また、例えば、非一過性の記憶媒体に記憶されて配布され、非一過性の記憶媒体から読み出されてメモリ22にインストールされてもよい。
【0028】
入力インタフェース23は、ユーザから各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路21へ出力する。入力インタフェース23は、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、タッチパッド、及び操作面へ触れることで指示が入力されるタッチパネル等の入力機器に接続されている。また、入力インタフェース23に接続される入力機器は、ネットワーク等を介して接続された他のコンピュータに設けられた入力機器でもよい。
【0029】
ディスプレイ24は、処理回路21からの指示に従って種々の情報を表示する。ディスプレイは、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、及びCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ等、任意のディスプレイが適宜利用可能である。
【0030】
接続インタフェース25は、制御装置20とその他の機器との間のインタフェースである。具体的には、接続インタフェース25は、例えば、駆動機構131、電源30、電源30についてのスイッチ31,32、交流電源40、交流電源40についてのスイッチ41,42、及び図示しないポンプ等と接続する。接続インタフェース25は、例えば、処理回路21で生成される制御信号を、駆動機構131、電源30、電源30についてのスイッチ31,32、交流電源40、交流電源40についてのスイッチ41,42、又はポンプへ出力する。
【0031】
処理回路21は、メモリ22に記憶されている移送プログラム等を実行することで、当該プログラムに対応する機能を実現する。例えば、処理回路21は、移送プログラムを実行することで、トラップ制御機能211、移送制御機能212、及び位置制御機能213を有する。なお、本実施形態では、単一のプロセッサによってトラップ制御機能211、移送制御機能212、及び位置制御機能213が実現される場合を説明するが、これに限定されない。例えば、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することによりトラップ制御機能211、移送制御機能212、及び位置制御機能213を実現しても構わない。
【0032】
トラップ制御機能211は、ウェルプレート11によるiPS細胞のトラップを制御する機能である。例えば、トラップ制御機能211において処理回路21は、ウェルプレート11の第2電極112及び第3電極113への交流電圧の印加を制御することで、ウェル毎に設けられたトラップ機構を駆動し、ウェルにiPS細胞をトラップする。
【0033】
移送制御機能212は、ウェルプレート11に収容されるiPS細胞の移送を制御する機能である。例えば、移送制御機能212において処理回路21は、ウェルプレート11の第1電極111及び第2電極112への直流電圧の印加を制御することで、ウェル毎に設けられた移送機構を駆動し、ウェルに収容されるiPS細胞を培養系ウェルプレート13へ移送する。
【0034】
位置制御機能213は、培養系ウェルプレート13の位置を制御する機能である。例えば、位置制御機能213において処理回路21は、駆動機構131を制御することで、ウェルプレート11の所定のウェルの下方に、培養系ウェルプレート13のいずれかのウェルが位置するように、培養系ウェルプレート13を移動させる。
【0035】
次に、以上のように構成されたアレイ装置10によるiPS細胞の移送処理を詳細に説明する。
まず、例えば、分離されたiPS細胞は、緩衝液に含有され、緩衝液と共に第1孔122からアレイ装置10内へ導入される。
【0036】
アレイ装置10へiPS細胞が導入されると、例えば、操作者からiPS細胞をトラップする旨の指示が入力される。iPS細胞をトラップする旨の指示が入力されると処理回路21は、トラップ制御機能211を実行する。トラップ制御機能211において処理回路21は、スイッチ31,32,41,42の開閉を制御し、交流電源40を駆動させることで、ウェルプレート11の第2電極112及び第3電極113に交流電圧を印加する。
【0037】
図7は、iPS細胞をウェルプレート11のウェルでトラップする際のスイッチ31,32,41,42の接続例を表す図である。第2電極112と第3電極113との間に交流電圧を印加するため、処理回路21は、スイッチ31,32を開放し、スイッチ41,42を閉じる。
【0038】
iPS細胞を含有する緩衝液は、蓋部12の第1孔122から導入され、アレイ装置10内のウェルプレート11と、蓋部12との間を通過した後、第2孔123から排出される。緩衝液に含有されるiPS細胞は、緩衝液がウェル上を流れる際、図8で示されるように、第2電極112及び第3電極113により発生される誘電泳動力を受ける。これにより、iPS細胞は、ウェルにトラップされる。iPS細胞のトラップが終了すると、処理回路21は、スイッチ41,42を開き、交流電源40を停止する。
【0039】
ウェルプレート11のウェルにiPS細胞がトラップされた後、例えば、操作者から、移送するべきiPS細胞を収容しているウェルが指定される。ウェルが指定されると処理回路21は、位置制御機能213を実行する。位置制御機能213において処理回路21は、駆動機構131を制御し、培養系ウェルプレート13を移動させる。
【0040】
具体的には、例えば、移送するべきiPS細胞を収容しているウェルが指定されると処理回路21は、指定されたウェルに対して設定されている培養系ウェルを培養系ウェルプレート13から特定する。指定されたウェルに対して設定されている培養系ウェルは、予め設定されていても構わないし、操作者により指定されても構わない。処理回路21は、指定されたウェルの鉛直方向下方に、特定した培養系ウェルが位置するように、駆動機構131を制御する。
【0041】
培養系ウェルプレート13が移動された後、例えば、操作者からiPS細胞を移送する旨の指示が入力される。移送する旨の指示が入力されると処理回路21は、移送制御機能212を実行する。移送制御機能212において処理回路21は、スイッチ31,32,41,42の開閉を制御し、電源30を駆動させることで、ウェルプレート11の第1電極111及び第2電極112に直流電圧を印加する。
【0042】
図9は、ウェルでトラップされているiPS細胞を移送する際のスイッチ31,32,41,42の接続例を表す図である。図9では、操作者により、ウェルw11が指定される場合を例に示している。処理回路21は、ウェルw11の下方にウェルw11と対応する培養系ウェルが移動され、移送の指示が入力されると、スイッチ31-1,32-1を閉じ、スイッチ31-2~31-6,32-2~32-6,41,42を開放し、電源30を駆動させる。これにより、第1電極111-1と第2電極112-1との間に直流電圧が印加される。
【0043】
図10は、第1電極111-1と第2電極112-1との間に直流電圧が印加された際の可動電極板1121の動作の例を表す模式図である。第1電極111-1と第2電極112-1との間に直流電圧が印加されると、第1電極111-1に形成される駆動電極部1111と、第2電極112-1に形成される可動電極板1121との間に静電引力が発生し、可動電極板1121がねじり棒1122を軸として回転する。可動電極板1121が回転することで、ウェルw11の底部として機能している部分が鉛直下方向へ傾けられる。これにより、可動電極板1121に載置されているiPS細胞が鉛直下方向へ落下する。
【0044】
なお、ウェルプレート11上で満たされている緩衝液と、培養系ウェルプレート13上で満たされている緩衝液とが異なる場合がある。このような場合、ウェルプレート11の下部では異なる緩衝液間の界面で表面張力が発生するため、可動電極を回転させただけではiPS細胞が落下しない可能性がある。このため、可動電極を回転させるタイミングでウェルプレート11上で多量の緩衝液を流し、ウェルプレート11の上部側の密閉空間の内圧を上げることでiPS細胞の鉛直下方向への落下を促してもよい。また、可動電極を回転させるタイミングで、重力方向に加えて誘電泳動力が働くようにすることでiPS細胞の鉛直下方向への落下を促してもよい。
【0045】
ウェルプレート11と培養系ウェルプレート13との間は緩衝液で満たされている。図10に示されるようにウェルプレート11のウェルw11から落下したiPS細胞は、重力に従って緩衝液中を下方へ落ちていき、ウェルw11の下方に移動された培養系ウェルに着地する。これにより、iPS細胞の移送が完了する。
【0046】
移送するべきiPS細胞が複数存在する場合、操作者は、例えば、次の対象となるiPS細胞を収容しているウェルを指定する。操作者により次のウェルが指定されると処理回路21は、例えば、指定されたウェルに対して設定されている培養系ウェルを特定する。このとき、特定される培養系ウェルは、先に特定された培養系ウェルであってもよいし、異なる培養系ウェルであっても構わない。処理回路21は、指定されたウェルの鉛直方向下方に、特定した培養系ウェルを移動させる。続いて操作者は、指定したウェルに収容されているiPS細胞を移送する旨の指示を入力する。処理回路21は、スイッチ31,32,41,42、及び電源30を制御し、指定されたウェルに収容されているiPS細胞を、培養系ウェルへ落下させる。処理回路21は、例えば、移送するべきiPS細胞の数だけ、上記処理を繰り返す。
【0047】
以上のように、第1の実施形態では、細胞移送システムは、iPS細胞を収容可能なウェルが複数設けられるウェルプレート11と、ウェルに収容されるiPS細胞を、電場を利用して選択的に移送可能な移送機構111,112と、制御装置20を備える。制御装置20は、移送機構111,112を電場を利用して駆動させることで、ウェルに収容されるiPS細胞を培養系ウェルプレート13へ移送するようにしている。これにより、iPS細胞の作成時、及び分化段階において、iPS細胞を人の手を介さずに次のステージへ移行することが可能となる。
【0048】
(その他の実施例)
第1の実施形態で実装される静電型アクチュエータは、図3乃至図5で示されるものに限定されない。静電型アクチュエータは、例えば、図11乃至図13に示される構成をしていても構わない。このとき、静電型アクチュエータへは、例えば、電源30-1,30-2、及び交流電源40が図14で示されるように接続されている。電源30-1は、一端がスイッチ31に接続され、他端が接地されている。電源30-2は、一端がスイッチ32に接続され、他端が接地されている。電源30-1,30-2は、陽極及び陰極を任意に切り替え可能である。
【0049】
図11は、図14に示されるウェルプレート11aのウェル近傍の構成を拡大して表した図である。また、図12は、図11に示されるウェルプレート11aのA-Aにおける断面図の例を表す。また、図13は、図11に示されるウェルプレート11aのB-Bにおける断面図の例を表す。
【0050】
図11において、第1電極111aは、破線により表され、y軸方向に沿い、ウェルの一方の側面の近傍に形成されている。第2電極112a、及び第3電極113は、1点鎖線により表され、x軸方向に沿い、ウェルを挟むように形成されている。第1電極111aは、第2電極112a、及び第3電極113の上層に配設されている。第1電極111aは、第2電極112a、及び第3電極113により挟まれた領域と交差する位置に、駆動電極部1111aを有する。駆動電極部1111aは、ウェルプレート11内に設けられる空間に、例えば、一部が突出している。駆動電極部1111aのうち内部空間へ突出している部分は、例えば、断面が四角形の柱状の形状をしている。駆動電極部1111aの、側面部11212a側の側面には、絶縁層11111aが設けられている。駆動電極部1111の一部を突出させることで、効果的に静電力を働かせることが可能となる。
【0051】
第2電極112aは、可動電極板1121a、支持棒1124a-1,1124a-2、及び接触部1125aを有する。可動電極板1121aは、平面部11211a及び側面部11212aを有する。平面部11211aは、xy平面と略平行に、ウェル内における筒構造の仕切板となるように、ウェル毎に形成されている。側面部11212aは、平面部11211aに対して略垂直に形成されている。
【0052】
可動電極板1121aは、導電性の支持棒1124a-1,1124a-2を介して接触部1125aと接触している。第1電極111aと第2電極112aとの間に直流電圧が印加されると、側面部11212aは、駆動電極部1111aとの間に発生する静電引力により駆動電極部1111aに引き付けられる。側面部11212aが駆動電極部1111aに引き付けられ、絶縁層11111aの表面と接触している状態において、平面部11211aは、各ウェルの底部として機能する。ウェルプレート11a内の可動電極板1121aの周囲には、可動電極板1121aが支持棒1124a-1,1124a-2により並進移動可能なように、空間が形成されている。可動電極板1121a、支持棒1124a-1,1124a-2、及び接触部1125aにより、移送機構としての静電型移動アクチュエータがウェル毎に形成される。
【0053】
ウェルを挟んで形成される第2電極112aと第3電極113との間の距離はウェルの直径よりも短く、第2電極112a及び第3電極113の一部は、ウェル内に露出されている。アレイ装置10a内を緩衝液で満たした状態で、第2電極112aと第3電極113との間に電圧を印加すると、図13に示されるようにウェルの内部へ向かう方向に誘電泳動力が発生する。第2電極112a及び第3電極113により、トラップ機構が実現される。
【0054】
次に、以上のように構成されたウェルプレート11aによるiPS細胞の移送処理を詳細に説明する。
まず、例えば、処理回路21は、移送制御機能212を実行する。移送制御機能212において処理回路21は、スイッチ31,32を閉じ、スイッチ41,42を開く。そして、処理回路21は、電源30-1,30-2を制御し、第1電極111aと、第2電極112aとに異なる極性の電圧を印加する。これにより、側面部11212aと、駆動電極部1111aとの間に静電引力が発生し、側面部11212aが駆動電極部1111aに引き付けられる。側面部11212aが駆動電極部1111aに引き付けられた状態において、平面部11211aは、ウェルの底部として機能する。
【0055】
続いて、操作者からiPS細胞をトラップする旨の指示が入力される。iPS細胞をトラップする旨の指示が入力されると処理回路21は、トラップ制御機能211を実行する。トラップ制御機能211において処理回路21は、スイッチ31,32を開き、スイッチ41,42を閉じる。処理回路21は、交流電源40を駆動させることで、ウェルプレート11aの第2電極112a及び第3電極113に交流電圧を印加する。
【0056】
iPS細胞を含有する緩衝液は、蓋部12の第1孔122から導入され、アレイ装置10a内のウェルプレート11aと、蓋部12との間を通過した後、第2孔123から排出される。緩衝液に含有されるiPS細胞は、緩衝液がウェル上を流れる際、第2電極112a及び第3電極113間で発生される誘電泳動力を受ける。これにより、iPS細胞は、ウェルにトラップされる。iPS細胞のトラップが終了すると、処理回路21は、スイッチ41,42を開き、交流電源40を停止する。
【0057】
ウェルプレート11aのウェルにiPS細胞がトラップされた後、例えば、操作者から、移送するべきiPS細胞を収容しているウェルが指定される。ウェルが指定されると処理回路21は、位置制御機能213を実行する。位置制御機能213において処理回路21は、駆動機構131を制御し、培養系ウェルプレート13を移動させる。
【0058】
培養系ウェルプレート13が移動された後、例えば、操作者からiPS細胞を移送する旨の指示が入力される。移送する旨の指示が入力されると処理回路21は、移送制御機能212を実行する。移送制御機能212において処理回路21は、スイッチ31,32を閉じ、第1電極111aと、第2電極112aとに同じ極性の電圧を印加する。これにより、側面部11212aと、駆動電極部1111aとの間に静電斥力が発生し、側面部11212aが駆動電極部1111aから引き離される。側面部11212aが駆動電極部1111aから離れると、ウェルの底部として機能していた平面部11211aに載置されていたiPS細胞が、図15で示されるように、鉛直下方向へ落下する。なお、処理回路21は、閉じるスイッチ31,32を選択することで、任意のウェルに設けられている底部を制御可能である。
【0059】
なお、ウェルプレート11a上で満たされている緩衝液と、培養系ウェルプレート13上で満たされている緩衝液とが異なる場合がある。このような場合、ウェルプレート11aの下部では異なる緩衝液間の界面で表面張力が発生するため、可動電極をシフトさせただけではiPS細胞が落下しない可能性がある。このため、可動電極をシフトさせるタイミングでウェルプレート11a上で多量の緩衝液を流し、ウェルプレート11aの上部側の密閉空間の内圧を上げることでiPS細胞の鉛直下方向への落下を促してもよい。また、可動電極をシフトさせるタイミングで、重力方向に加えて誘電泳動力が働くようにすることでiPS細胞の鉛直下方向への落下を促してもよい。
【0060】
また、静電型移動アクチュエータの構造は、例えば、図11乃至図13に示される構造に限定されない。静電型移動アクチュエータは、例えば、図16及び図17に示されるように構成されていても構わない。すなわち、駆動電極部1111aを、側面部11212aに対して内部空間の側壁側に設ける。平面部11211aをウェルの底部として機能させる場合には、駆動電極部1111aと、側面部11212aとの間に静電斥力を発生させ、駆動電極部1111aと、側面部11212aとを離した状態にしておく。そして、平面部11211aに載置されるiPS細胞を下方へ落下させる場合には、駆動電極部1111aと、側面部11212aとに静電引力を発生させて駆動電極部1111aに側面部11212aを引き付ける。
【0061】
(第2の実施形態)
図18は、第2の実施形態に係る細胞移送システムの構成の例を示す図である。図18に示される細胞移送システムは、アレイ装置10b、及び制御装置20bを備える。図18では、アレイ装置10bの断面の模式図と、制御装置20bのブロック図とが表されている。制御装置20bは、電源30、交流電源40、これらの接続を開閉するスイッチ31,32,41,42、及びポンプ50と接続されている。
【0062】
アレイ装置10bは、iPS細胞を収容し、収容しているiPS細胞を後段の細胞培養系ウェルへ移送可能な装置である。アレイ装置10bは、iPS細胞を収容するためのウェルプレート11b、及びウェルプレート11bを密閉するように覆う蓋部12を有する。
【0063】
ウェルプレート11bは、上面にウェルと称される複数の凹部が、例えば、格子状に形成されている。このことは、ウェルプレート11bにウェルアレイが形成されていると換言可能である。ウェルの開口部は、略円形となるように形成されている。ウェルの開口部の直径は、15μmから20μm程度であり、iPS細胞の直径よりも大径となっている。
【0064】
ウェルプレート11bは、例えば、PDMS、又はSiを用いて作成される。ウェルプレート11bの内部には、ウェルにiPS細胞をトラップするトラップ機構、及びウェル内にトラップしたiPS細胞を、電場を利用して選択的に移送させる第1移送機構が形成されている。トラップ機構、及び第1移送機構は、例えば、ウェルプレート11bの内部に形成される、第1電極111、第2電極112b、及び第3電極113により実現される。
【0065】
図19は、図18に示されるウェルプレート11bのウェルの構造を拡大して表した上面図である。また、図20は、図19に示されるウェルプレート11bのA-Aにおける断面図の例を表す。また、図21は、図19に示されるウェルプレート11bのB-Bにおける断面図の例を表す。
【0066】
図19において、第1電極111は、破線により表され、y軸方向に沿い、ウェルの一方の側面の近傍に形成されている。第2電極112b、及び第3電極113は、1点鎖線により表され、x軸方向に沿い、ウェルを挟むように形成されている。第1電極111は、第2電極112b、及び第3電極113の上層に配設されている。第1電極111は、第1の実施形態で示されるウェルプレート11と同様に、駆動電極部1111を有する。駆動電極部1111は、ウェルプレート11b内に設けられる空間に露出されている、三角柱部1112,1113を有する。
【0067】
第2電極112bは、可動電極板1121b、ねじり棒1122b、及び固定部1123を有する。ウェルプレート11内の可動電極板1121bの周囲には、可動電極板1121bがねじり棒1122bを軸にして回転可能なように、内部空間が形成されている。可動電極板1121bは、ウェル側に位置する第1平面部11211bと、内部空間の側面側に位置する第2平面部11212bとを有する。第1平面部11211bと第2平面部11212bとの間の角度は、例えば、図20で示されるように可動電極板1121bの断面が略くの字となるように、所定の角度となっている。
【0068】
第1平面部11211bは、幅が第2平面部11212bの幅よりも狭く、厚さが第2平面部11212bの厚さよりも厚くなるように形成されている。このように形成されることで、第1平面部11211bは、第2平面部11212bよりも重くなる。そのため、第1電極111と第2電極112bとに電圧が印加されていない状態においては、第1平面部11211bがウェル内に落ち込み、第1平面部11211bがウェルの底部として機能することになる。
【0069】
ねじり棒1122bは、導電性の部材から成る。ねじり棒1122bは、可動電極板1121bが折れ曲がっている領域の近傍に設けられている。可動電極板1121bは、ねじり棒1122bを介して固定部1123と接続している。可動電極板1121b、ねじり棒1122b、及び固定部1123により、第1移送機構としての静電型回転アクチュエータがウェル毎に形成される。
【0070】
ウェルプレート11bには、培養系ウェル114が形成されている。培養系ウェル114は、ウェルプレート11bの下流側に設けられたウェルであり、緩衝液により流されたiPS細胞を回収する。
【0071】
図18に示される制御装置20bは、ウェルプレート11bのウェルに収容されるiPS細胞のうち少なくともいずれかを、ウェルプレート11bの培養系ウェル114へ移送するための制御を実施する装置である。制御装置20bは、処理回路21b、メモリ22、入力インタフェース23、ディスプレイ24、及び接続インタフェース25を有する。処理回路21b、メモリ22、入力インタフェース23、ディスプレイ24、及び接続インタフェース25は、例えば、バスを介して互いに通信可能に接続されている。
【0072】
処理回路21bは、制御装置20bの中枢として機能するプロセッサである。処理回路21bは、メモリ22等に記憶されている移送プログラム等を実行することで、当該プログラムに対応する機能を実現する。例えば、処理回路21bは、移送プログラムを実行することで、トラップ制御機能211、及び移送制御機能212bを有する。なお、本実施形態では、単一のプロセッサによってトラップ制御機能211、及び移送制御機能212bが実現される場合を説明するが、これに限定されない。例えば、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することによりトラップ制御機能211、及び移送制御機能212bを実現しても構わない。
【0073】
移送制御機能212bは、ウェルプレート11bに収容されるiPS細胞の移送を制御する機能である。例えば、移送制御機能212bにおいて処理回路21bは、第1移送機構及び第2移送機構を駆動し、ウェルプレート11bのウェルに収容されるiPS細胞を培養系ウェル114へ移送する。より具体的には、処理回路21bは、例えば、可動電極板1121b、ねじり棒1122b、及び固定部1123により形成される第1移送機構としての静電型回転アクチュエータと、緩衝液等の溶液をアレイ装置10bへ供給する第2移送機構としてのポンプ50とを駆動する。処理回路21bは、ウェルプレート11bの第1電極111及び第2電極112bへの直流電圧の印加を制御し、ポンプ50を制御することで、ウェルに収容されるiPS細胞を培養系ウェル114へ移送する。
【0074】
次に、以上のように構成された細胞移送システムによるiPS細胞の移送処理を詳細に説明する。なお、本説明において、ウェルプレート11bの内部に形成される、第1電極111、第2電極112b、及び第3電極113へは、例えば、電源30-1,30-2、及び交流電源40が図22で示されるように接続されている。
【0075】
まず、第1電極111と第2電極112bとに電圧が印加されていない初期状態において、第1平面部11211bは自重によりウェル内に落ち込み、ウェルの底部として機能する。
【0076】
続いて、操作者からiPS細胞をトラップする旨の指示が入力される。iPS細胞をトラップする旨の指示が入力されると処理回路21bは、トラップ制御機能211を実行し、緩衝液に含有されるiPS細胞を、第2電極112b及び第3電極113間で発生される誘電泳動力により、ウェルにトラップする。
【0077】
ウェルプレート11bのウェルにiPS細胞がトラップされた後、例えば、操作者から、移送するべきiPS細胞を収容しているウェルが指定される。ウェルが指定されると処理回路21bは、移送制御機能212bを実行する。移送制御機能212bにおいて処理回路21bは、指定されたウェルにおける第1電極111と、第2電極112bとに同じ極性の電圧を印加するように、スイッチ31,32を閉じる。これにより、指定されたウェルにおける第2平面部11212bと、駆動電極部1111との間に静電斥力が発生し、第2平面部11212bが駆動電極部1111から引き離される。第2平面部11212bが駆動電極部1111から離れると、指定されたウェルの底部として機能していた第1平面部11211bに載置されていたiPS細胞が、図23及び図24で示されるように、上方へ持ち上げられる。第1平面部11211bにより持ち上げられることで、iPS細胞は、ウェル内からウェルプレート11bの表面に晒されることになる。このとき、指定されたウェルの第2電極112bと、第3電極113とに誘電泳動力が上向きに掛かるように、加える交流電源の周波数を変えて、交流電圧を印加してもよい。
【0078】
可動電極板1121bが回転し、iPS細胞が持ち上げられている状態において、例えば、操作者からiPS細胞を移送する旨の指示が入力される。移送する旨の指示が入力されると処理回路21bは、移送制御機能212bを実行し、ポンプ50を駆動させる。ポンプ50が駆動されることで、アレイ装置10b内へ緩衝液等の溶液が供給され、ウェルプレート11bの表面に晒されているiPS細胞が溶液により押し流される。押し流されたiPS細胞は、培養系ウェル114で回収される。
【0079】
以上のように、第2の実施形態では、細胞移送システムは、アレイ装置10b及び制御装置20bを備える。アレイ装置10bは、iPS細胞を収容可能なウェルが複数設けられるウェルプレート11b、及びウェルに収容されるiPS細胞を、電場を利用して選択的に移送可能な第1移送機構111,112b及び第2移送機構50を備える。アレイ装置10bは、第1移送機構111,112及び第2移送機構50を駆動させることで、ウェルに収容されるiPS細胞を培養系ウェル114へ移送するようにしている。これにより、iPS細胞の作成時、及び分化段階において、iPS細胞を人の手を介さずに次のステージへ移行することが可能となる。
【0080】
なお、iPS細胞を培養系ウェル114へ移送する際の処理回路21bの処理は上記に限定されない。処理回路21bは、例えば、ポンプ50によりアレイ装置10b内へ溶液を供給する際、トラップ制御機能211を実行しても構わない。具体的には、トラップ制御機能211において処理回路21bは、操作者により指定されていないウェルの第2電極112bと第3電極113との間に誘電泳動力を発生させる。こうすることで、培養系ウェル114への移送が望まれていないiPS細胞が誤って押し流されることを抑えることが可能となる。
【0081】
また、静電型回転アクチュエータの構造は、例えば、図19乃至図21に示される構造に限定されない。静電型回転アクチュエータは、例えば、図25に示されるように構成されていても構わない。すなわち、可動電極板1121bが回転した際に第2平面部11212bが接触する内部空間の底面に、駆動電極部1111を設ける。このとき、アクチュエータへは、例えば、電源30、及び交流電源40が図2で示されるように接続されている。
【0082】
第1平面部11211bをウェルの底部として機能させる場合には、第1電極111と第2電極112bとに電圧は印加せず、第1平面部11211bを自重によりウェル内へ落ち込ませる。そして、第1平面部11211bに載置されるiPS細胞を上方へ持ち上げる場合に、駆動電極部1111と、第2平面部11212bとに静電引力を発生させて駆動電極部1111に第2平面部11212bを引き付ける。
【0083】
(その他の実施例)
第2の実施形態では、ウェルプレート11bのウェルに収容されたiPS細胞が可動電極板1121bにより持ち上げられ、持ち上げられたiPS細胞が押し流されて培養系ウェル114で回収される場合を例に説明した。しかしながら、持ち上げられたiPS細胞を移送する手段はこれに限定されない。持ち上げられたiPS細胞は、例えば、上方トラップウェルプレートでトラップされ、培養系ウェルに移送されてもよい。
【0084】
図26は、第2の実施形態に係る細胞移送システムの構成のその他の例を示す図である。図26に示される細胞移送システムは、アレイ装置としてのウェルプレート11c、制御装置20c、及び上方トラップウェルプレート60を備える。図26では、ウェルプレート11c及び上方トラップウェルプレート60の断面の模式図と、制御装置20cのブロック図とが表されている。制御装置20cは、電源30、交流電源40、これらの接続を開閉するスイッチ31,32,41,42、及び上方トラップウェルプレート60を上下方向に駆動するための駆動機構70と接続されている。
【0085】
ウェルプレート11cは、上面にウェルと称される複数の凹部が、例えば、格子状に形成されている。このことは、ウェルプレート11cにウェルアレイが形成されていると換言可能である。ウェルの開口部は、略円形となるように形成されている。ウェルの開口部の直径は、15μmから20μm程度であり、iPS細胞の直径よりも大径となっている。ウェルプレート11cの各ウェルには、例えば、図19乃至図21、又は図25で示される構造のアクチュエータが設けられている。
【0086】
制御装置20cは、ウェルプレート11cのウェルに収容されるiPS細胞のうち少なくともいずれかを、ウェルプレート11cと替えて配置される培養系ウェルプレート80へ移送するための制御を実施する装置である。制御装置20cは、処理回路21c、メモリ22、入力インタフェース23、ディスプレイ24、及び接続インタフェース25を有する。処理回路21c、メモリ22、入力インタフェース23、ディスプレイ24、及び接続インタフェース25は、例えば、バスを介して互いに通信可能に接続されている。
【0087】
処理回路21cは、制御装置20cの中枢として機能するプロセッサである。処理回路21cは、メモリ22等に記憶されている移送プログラム等を実行することで、当該プログラムに対応する機能を実現する。例えば、処理回路21cは、移送プログラムを実行することで、トラップ制御機能211、及び移送制御機能212cを有する。なお、本実施形態では、単一のプロセッサによってトラップ制御機能211、及び移送制御機能212cが実現される場合を説明するが、これに限定されない。例えば、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することによりトラップ制御機能211、及び移送制御機能212cを実現しても構わない。
【0088】
移送制御機能212cは、ウェルプレート11cに収容されるiPS細胞の移送を制御する機能である。例えば、移送制御機能212cにおいて処理回路21cは、第1移送機構及び第2移送機構を駆動し、ウェルプレート11cのウェルに収容されるiPS細胞を培養系ウェルプレート80へ移送する。より具体的には、処理回路21cは、例えば、可動電極板1121b、ねじり棒1122b、及び固定部1123により形成される第1移送機構としての静電型回転アクチュエータと、上方トラップウェルプレート60、及び上方トラップウェルプレート60を駆動させる駆動機構70を有する第2移送機構とを駆動する。処理回路21cは、ウェルプレート11cの第1電極111及び第2電極112bへの直流電圧の印加を制御し、駆動機構70を制御することで、ウェルに収容されるiPS細胞を培養系ウェルプレート80へ移送する。
【0089】
上方トラップウェルプレート60は、下面に複数のトラップウェルが、例えば、格子状に形成されている。トラップウェルには、例えば、ウェルプレート11cに設けられるウェルの直径よりもわずかに大径の液滴が表面張力により保持されている。トラップウェルは、例えば、ウェルプレート11cに設けられるウェルと同数存在し、ウェルプレート11cにおけるウェルと同じ配列で上方トラップウェルプレート60に設けられている。上方トラップウェルプレート60は、例えば、ウェルプレート11cの鉛直方向上方に配置される。
【0090】
駆動機構70は、上方トラップウェルプレート60を、鉛直方向に移動自在に支持する。駆動機構70は、例えば、ステッピングモータ等を用いて実現される。駆動機構70は、制御装置20cからの指示に従い、上方トラップウェルプレート60を鉛直方向に移動させる。
【0091】
次に、以上のように構成された細胞移送システムによるiPS細胞の移送処理を詳細に説明する。
まず、第1電極111と第2電極112bとに電圧が印加されていない初期状態において、第1平面部11211bは自重によりウェル内に落ち込み、ウェルの底部として機能する。
【0092】
続いて、iPS細胞をトラップする旨の指示が操作者から制御装置20cに入力され、iPS細胞を含有する溶液がウェルプレート11cに供給される。iPS細胞をトラップする旨の指示が入力されると処理回路21cは、トラップ制御機能211を実行し、緩衝液に含有されるiPS細胞を、第2電極112b及び第3電極113間で発生される誘電泳動力により、ウェルにトラップする。
【0093】
ウェルプレート11cのウェルにiPS細胞がトラップされた後、例えば、操作者から、移送するべきiPS細胞を収容しているウェルが指定される。ウェルが指定されると処理回路21cは、移送制御機能212cを実行する。移送制御機能212cにおいて処理回路21cは、指定されたウェルにおいて、第2平面部11212bと、駆動電極部1111との間に静電斥力を発生させ、第2平面部11212bと駆動電極部1111とを引き離す。第2平面部11212bが駆動電極部1111から離れると、指定されたウェルの底部として機能していた第1平面部11211bに載置されていたiPS細胞が、上方へ持ち上げられる。
【0094】
可動電極板1121bが回転し、iPS細胞が持ち上げられている状態において、例えば、操作者からiPS細胞を回収する旨の指示が入力される。回収する旨の指示が入力されると処理回路21cは、移送制御機能212cを実行し、駆動機構70を駆動させる。駆動機構70は、処理回路21cからの制御に従い、上方トラップウェルプレート60を予め設定された位置まで下降させる。
【0095】
上方トラップウェルプレート60が予め設定された位置まで下降すると、例えば、図27及び図28で示されるように、可動電極板1121bにより持ち上げられているiPS細胞に、トラップウェルに保持されている液滴が接触する。iPS細胞は液滴に接触すると、液滴の表面張力により液滴内に取り込まれる。処理回路21cは、上方トラップウェルプレート60を下降させた後、一旦停止させると、上方トラップウェルプレート60を予め設定した位置まで上昇させる。
【0096】
上方トラップウェルプレート60を下降させる際、処理回路21cは、例えば、トラップ制御機能211を実行しても構わない。具体的には、トラップ制御機能211において処理回路21cは、操作者により指定されていないウェルの第2電極112bと第3電極113との間に誘電泳動力を発生させる。こうすることで、上方トラップウェルプレート60への移送が望まれていないiPS細胞が誤って上方トラップウェルプレート60の液滴内に取り込まれることを防ぐことが可能となる。
【0097】
上方トラップウェルプレート60が所定の位置まで上昇されると、細胞移送システムのステージにおいて、ウェルプレート11cが培養系ウェルプレート80に交換される。
【0098】
培養系ウェルプレート80は、上面に複数の培養系ウェルが、例えば、格子状に形成されている。培養系ウェルは、例えば、略円形の皿状に形成されている。培養系ウェルの直径は、例えば、上方トラップウェルプレート60に設けられるトラップウェルの直径よりも大径である。培養系ウェルには、例えば、トラップウェルで保持される液滴よりも大量の溶液が保持されている。なお、培養系ウェルの直径は、トラップウェルと同程度であっても構わない。
【0099】
培養系ウェルプレート80が設置された後、例えば、操作者から、iPS細胞を開放する旨の指示が入力される。開放する旨の指示が入力されると処理回路21cは、移送制御機能212cを実行し、駆動機構70を駆動させる。駆動機構70は、処理回路21cからの制御に従い、上方トラップウェルプレート60を予め設定された位置まで下降させる。
【0100】
上方トラップウェルプレート60が予め設定された位置まで下降すると、例えば、図29で示されるように、上方トラップウェルプレート60のトラップウェルに保持される液滴と、培養系ウェルプレート80の培養系ウェルで保持される溶液とが接触し、2液混合状態となる。2液混合状態となると、表面張力が失効する。これにより、トラップウェルの液滴に取り込まれていたiPS細胞が、接触する溶液へ重力により移動する。したがって、iPS細胞の作成時、及び分化段階において、iPS細胞を人の手を介さずに次のステージへ移行することが可能となる。
【0101】
なお、可動電極板1121bで持ち上げられたiPS細胞を上方でトラップするのは、上方トラップウェルプレート60に限定されない。iPS細胞は、上方トラップウェルローラーでトラップされてもよい。
【0102】
図30は、第2の実施形態に係る細胞移送システムの構成のその他の例を示す図である。図30に示される細胞移送システムは、ウェルプレート11c、制御装置20d、及び上方トラップウェルローラー60dを備える。図30では、ウェルプレート11c及び上方トラップウェルローラー60dの断面の模式図と、制御装置20dのブロック図とが表されている。制御装置20dは、電源30、交流電源40、これらの接続を開閉するスイッチ31,32,41,42、及び上方トラップウェルローラー60dを駆動するための駆動機構70dと接続されている。
【0103】
制御装置20dは、ウェルプレート11cのウェルに収容されるiPS細胞のうち少なくともいずれかを、ウェルプレート11cと替えて配置される培養系ウェルプレート80へ移送するための制御を実施する装置である。制御装置20dは、処理回路21d、メモリ22、入力インタフェース23、ディスプレイ24、及び接続インタフェース25を有する。処理回路21d、メモリ22、入力インタフェース23、ディスプレイ24、及び接続インタフェース25は、例えば、バスを介して互いに通信可能に接続されている。
【0104】
処理回路21dは、制御装置20dの中枢として機能するプロセッサである。処理回路21dは、メモリ22等に記憶されている移送プログラム等を実行することで、当該プログラムに対応する機能を実現する。例えば、処理回路21dは、移送プログラムを実行することで、トラップ制御機能211、及び移送制御機能212dを有する。
【0105】
移送制御機能212dは、ウェルプレート11cに収容されるiPS細胞の移送を制御する機能である。例えば、移送制御機能212dにおいて処理回路21dは、第1移送機構及び第2移送機構を駆動し、ウェルプレート11cのウェルに収容されるiPS細胞を培養系ウェルプレート80へ移送する。より具体的には、処理回路21dは、例えば、可動電極板1121b、ねじり棒1122b、及び固定部1123により形成される第1移送機構としての静電型回転アクチュエータと、上方トラップウェルローラー60d、及び上方トラップウェルローラー60dを駆動させる駆動機構70dを有する第2移送機構とを駆動する。処理回路21dは、ウェルプレート11cの第1電極111及び第2電極112bへの直流電圧の印加を制御し、駆動機構70dを制御することで、ウェルに収容されるiPS細胞を培養系ウェルプレート80へ移送する。
【0106】
上方トラップウェルローラー60dは、軸を中心に回転する円柱状のローラーである。上方トラップウェルローラー60dの円周表面には、複数のトラップウェルが、例えば、格子状に形成されている。トラップウェルには、例えば、ウェルプレート11cに設けられるウェルの直径よりもわずかに大径の液滴が表面張力により保持されている。トラップウェルは、例えば、ウェルプレート11cに設けられるウェルと同数存在し、ウェルプレート11cにおけるウェルと同じ配列で上方トラップウェルローラー60dに設けられている。上方トラップウェルローラー60dは、例えば、ウェルプレート11cの鉛直方向上方に配置される。
【0107】
駆動機構70dは、上方トラップウェルローラー60dを移動自在に支持する。駆動機構70dは、制御装置20cからの指示に従い、上方トラップウェルローラー60dを鉛直方向に移動させる。また、駆動機構70dは、制御装置20cからの指示に従い、上方トラップウェルローラー60dを、軸を中心に回転させながら、平面方向へ移動させる。このとき、平面方向への移動速度は、上方トラップウェルローラー60dの回転速度と対応している。
【0108】
次に、以上のように構成された細胞移送システムによるiPS細胞の移送処理を詳細に説明する。
まず、処理回路21dは、移送制御機能212dにより、指定されたウェルに設けられている可動電極板1121bを回転させ、このウェルに収容されているiPS細胞を持ち上げる。そして、iPS細胞が持ち上げられている状態において、例えば、操作者からiPS細胞を回収する旨の指示が入力される。回収する旨の指示が入力されると処理回路21dは、移送制御機能212dにより、駆動機構70dを駆動させる。駆動機構70dは、処理回路21dからの制御に従い、上方トラップウェルローラー60dを予め設定された位置まで下降させる。
【0109】
上方トラップウェルローラー60dが予め設定された位置まで下降すると、上方トラップウェルローラー60dの表面に軸心方向に形成される所定のトラップウェル列に保持されている液滴が、ウェルプレート11cの対応するウェル列で可動電極板1121bにより持ち上げられているiPS細胞に接触する。iPS細胞は液滴に接触すると、液滴の表面張力により液滴内に取り込まれる。
【0110】
処理回路21dは、上方トラップウェルローラー60dを下降させた後、一旦停止させると、上方トラップウェルローラー60dを所定の回転速度で回転させながら、この回転速度と対応する速度で平面方向へ移動させる。処理回路21dは、上方トラップウェルローラー60dの最後のトラップウェル列が、ウェルプレート11cの最後のウェル列に到達すると、上方トラップウェルローラー60dを予め設定した位置まで上昇させる。
【0111】
上方トラップウェルローラー60dを下降させ、ウェルプレート11c上を平面移動させる際、処理回路21dは、例えば、トラップ制御機能211を実行しても構わない。具体的には、トラップ制御機能211において処理回路21dは、操作者により指定されていないウェルの第2電極112bと第3電極113との間に誘電泳動力を発生させる。こうすることで、上方トラップウェルローラー60dへの移送が望まれていないiPS細胞が誤って上方トラップウェルローラー60dの液滴内に取り込まれることを防ぐことが可能となる。
【0112】
上方トラップウェルローラー60dが所定の位置まで上昇されると、細胞移送システムのステージにおいて、ウェルプレート11cが培養系ウェルプレート80に交換される。培養系ウェルプレート80が設置された後、例えば、操作者から、iPS細胞を開放する旨の指示が入力される。開放する旨の指示が入力されると処理回路21dは、移送制御機能212dを実行し、駆動機構70dを駆動させる。駆動機構70dは、処理回路21dからの制御に従い、上方トラップウェルローラー60dを予め設定された位置まで下降させる。
【0113】
上方トラップウェルローラー60dが予め設定された位置まで下降すると、上方トラップウェルローラー60dの表面に形成される所定のトラップウェル列に保持されている液滴と、培養系ウェルプレート80の培養系ウェルで保持される溶液とが接触し、2液混合状態となる。これにより、表面張力が失効し、トラップウェルの液滴に取り込まれていたiPS細胞が、接触する溶液へ重力により移動する。
【0114】
処理回路21dは、上方トラップウェルローラー60dを下降させた後、一旦停止させると、上方トラップウェルローラー60dを所定の回転速度で回転させながら、この回転速度と対応する速度で平面方向へ移動させる。上方トラップウェルローラー60dの回転移動により、例えば、図31に示されるように、上方トラップウェルローラー60dのトラップウェルに保持されている液滴と、培養系ウェルプレート80の培養系ウェルで保持される溶液とが列ごとに順次接触する。これにより、トラップウェルの液滴に取り込まれていたiPS細胞が、接触する溶液へ重力により移動する。したがって、iPS細胞の作成時、及び分化段階において、iPS細胞を人の手を介さずに次のステージへ移行することが可能となる。
【0115】
第2の実施形態におけるその他の実施例では、ウェルプレート11cのウェルに収容されたiPS細胞が、上方トラップウェルプレート60、及び上方トラップウェルローラー60dのトラップウェルで保持される液滴に、表面張力を利用して取り込まれる場合を例に説明した。しかしながら、トラップウェルの液滴にiPS細胞を取り込む力は、表面張力に限定されない。上方トラップウェルプレート60、及び上方トラップウェルローラー60dの内部に電極層を設け、電極間に誘電泳動力を発生させるようにしてもよい。
【0116】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、細胞移送システムは、iPS細胞を細胞単位で移送することができる。
【0117】
実施形態の説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(central processing unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC))、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、上記各実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、上記各実施形態における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0118】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0119】
10,10a,10b…アレイ装置
11,11a~11c…ウェルプレート
111,111-1,111a…第1電極
1111,1111a…駆動電極部
11111a…絶縁層
1112,1113…三角柱部
112,112-1,112a,112b…第2電極
1121,1121a,1121b…可動電極板
1122,1122b…ねじり棒
1123…固定部
1124a-1,1124a-2…支持棒
1125a…接触部
11211a…平面部
11211b…第1平面部
11212a…側面部
11212b…第2平面部
113…第3電極
114…培養系ウェル
12…蓋部
121…側壁部
122…第1孔
123…第2孔
13…培養系ウェルプレート
131…駆動機構
20,20b~20d…制御装置
21,21b~21d…処理回路
211…トラップ制御機能
212,212b~212d…移送制御機能
213…位置制御機能
22…メモリ
23…入力インタフェース
24…ディスプレイ
25…接続インタフェース
30,30-1,30-2…電源
31,31-1~31-6,32,32-1~32-6…スイッチ
40…交流電源
41,42…スイッチ
50…ポンプ
60…上方トラップウェルプレート
60d…上方トラップウェルローラー
70,70d…駆動機構
80…培養系ウェルプレート
図1
図2
図3
図4
図5
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