(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】永久電流スイッチ、超電導磁石装置、および超電導磁石装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
H10N 60/20 20230101AFI20230911BHJP
H01F 6/00 20060101ALI20230911BHJP
H01H 35/42 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
H10N60/20 Z
H01F6/00 180
H01H35/42 Z ZAA
(21)【出願番号】P 2019106901
(22)【出願日】2019-06-07
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小柳 圭
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 寛史
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(72)【発明者】
【氏名】高見 正平
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-022791(JP,A)
【文献】特開2014-192490(JP,A)
【文献】特開2010-283186(JP,A)
【文献】特開平10-107330(JP,A)
【文献】国際公開第2014/096798(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/20
H01F 6/00
H01H 35/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻回されたコイル要素と前記コイル要素の両外側の非巻回部を有し、互いに並列に配された複数のスイッチコイル用超電導フィラメントと前記複数のスイッチコイル用超電導フィラメントを保持するスイッチコイル用マトリクス材を有するスイッチコイル用超電導線材が用いられるスイッチコイルと、
前記非巻回部に沿って配されて前記スイッチコイル用超電導線材より熱伝導率の高い高熱伝導材と、
互いに並列に配された複数の外側接続部用超電導フィラメントと前記複数の外側接続部用超電導フィラメントを保持する外側接続部用マトリクス材を有し、前記複数のスイッチコイル用超電導フィラメントに対する前記スイッチコイル用マトリクス材の割合に比べて、前記複数の外側接続部用超電導フィラメントに対する前記外側接続部用マトリクス材の割合が小さな低マトリクス比超電導線材が用いられる外側接続部と、
前記コイル要素を加熱するヒータと、
を有することを特徴とする永久電流スイッチ。
【請求項2】
前記スイッチコイル用超電導線材および前記低マトリクス比超電導線材のそれぞれの断面において、前記複数の外側接続部用超電導フィラメントの断面積の総和が、前記スイッチコイル用超電導線材の前記複数のスイッチコイル用超電導フィラメントの断面積の総和よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の永久電流スイッチ。
【請求項3】
前記低マトリクス比超電導線材は、無誘導に巻回された低マトリクス比超電導線材コイルを有することを特徴とする請求項1または2に記載の永久電流スイッチ。
【請求項4】
前記低マトリクス比超電導線材コイルは、樹脂で含浸されていることを特徴とする請求項3に記載の永久電流スイッチ。
【請求項5】
前記高熱伝導材は、長手方向の熱伝導率よりも幅方向の熱伝導率のほうが高いことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の永久電流スイッチ。
【請求項6】
前記高熱伝導材は、複数の炭素繊維と前記複数の炭素繊維を保持するマトリクス材とを有し、
前記複数の炭素繊維は、前記高熱伝導材の長手方向に対して傾きを有するように配向していることを特徴とする請求項5に記載の永久電流スイッチ。
【請求項7】
前記請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の永久電流スイッチと、
主コイルと、
前記主コイルおよび前記永久電流スイッチを熱伝導により冷却する極低温冷凍機と、
を備えることを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の永久電流スイッチをオフ状態で、主回路を冷却する主回路冷却ステップと、
励磁電源から主コイルに所定のレベルまで電力を供給する電力上昇ステップと、
前記永久電流スイッチを冷却してオン状態とし、前記主コイルより高い温度に維持するスイッチコイル冷却ステップと、
前記励磁電源の出力を低下させ永久電流モードに移行する永久電流モード移行ステップと、
を有することを特徴とする超電導磁石装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、永久電流スイッチ、これを用いた超電導磁石装置、および超電導磁石装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長時間にわたって安定した磁場の発生が求められるMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置やNMR(Nuclear Magnetic Resonance)マグネットなどの超電導応用機器では、一般に超電導線材を無誘導に巻回した永久電流スイッチ(PCS:Persistent Current Switch)が多く使用される。超電導コイル(主コイル)とPCSとにより超電導の閉回路を構成して電流減衰を抑制することにより、極めて高い磁場の時間的安定性を得ている。
【0003】
PCSは、主コイルを予め励磁電源で励磁する際には常電導状態(オフ状態)とし、主コイルが定常的に磁場を発生する間は超電導状態(オン状態)にする必要があり、ヒータで超電導状態から常電導状態へと遷移させる熱的なオンオフ切り替え方式が一般的である。
【0004】
また、このような永久電流モード(PCモード)運転の超電導マグネットでは、マトリクス(母材)に高抵抗のたとえばCuNi合金を用いた超電導線材を使って、PCSを構成するのが一般的である。
【0005】
CuNiマトリクス線材を使うことで、オフ状態のPCSは高い電気抵抗を有することができ、主コイル励磁時にPCSへの電流分流を抑制することができる一方、CuNiマトリクス線材は一般的な銅マトリクスの超電導線材と比べると安定性が低く、磁気的不安定性によって常電導転移(クエンチ)を生じ易いという問題がある。特に、このPCS用線材のようにマトリクスにCuNi合金を使った線材あるいは機械的な補強の目的でマトリクスに合金を付与して純銅の断面積比を減らしたような超電導線材を冷凍機伝導冷却方式で設計しようとすると、線材の不安定性は液体ヘリウム浸漬冷却の場合よりもさらに顕著になり、機器の定格に満たない低い電流値でクエンチしてしまうリスクが高まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-119431号公報
【文献】特開2018-060926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、主コイル励磁時にPCSへの電流分流を抑制することが要請される一方、永久電流モード運転する伝導冷却式の超電導マグネットにおいて、PCSの熱磁気不安定性によるクエンチの発生を抑制する必要があるという課題があった。
【0008】
本発明の実施形態は、上記実情に鑑みてなされたものであり、超電導磁石装置の信頼性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本実施形態に係る永久電流スイッチは、巻回されたコイル要素と前記コイル要素の両外側の非巻回部を有し、互いに並列に配された複数のスイッチコイル用超電導フィラメントと前記複数のスイッチコイル用超電導フィラメントを保持するスイッチコイル用マトリクス材を有するスイッチコイル用超電導線材が用いられるスイッチコイルと、前記非巻回部に沿って配されて前記スイッチコイル用超電導線材より熱伝導率の高い高熱伝導材と、互いに並列に配された複数の外側接続部用超電導フィラメントと前記複数の外側接続部用超電導フィラメントを保持する外側接続部用マトリクス材を有し、前記複数のスイッチコイル用超電導フィラメントに対する前記スイッチコイル用マトリクス材の割合に比べて、前記複数の外側接続部用超電導フィラメントに対する前記外側接続部用マトリクス材の割合が小さな低マトリクス比超電導線材が用いられる外側接続部と、前記コイル要素を加熱するヒータと、を有することを特徴とする。
【0010】
また、本実施形態に係る超電導磁石装置は、上述の永久電流スイッチと、主コイルと、前記主コイルおよび前記永久電流スイッチを熱伝導により冷却する極低温冷凍機と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本実施形態に係る超電導磁石装置の運転方法は、上述の永久電流スイッチをオフ状態で、主回路を冷却する主回路冷却ステップと、励磁電源から主コイルに所定のレベルまで電力を供給する電力上昇ステップと、前記永久電流スイッチを冷却してオン状態とし、前記主コイルより高い温度に維持するスイッチコイル冷却ステップと、前記励磁電源の出力を低下させ永久電流モードに移行する永久電流モード移行ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、超電導磁石装置の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態に係る超電導磁石装置の構成を示す概念的な縦断面図である。
【
図2】第1の実施形態に係る超電導磁石装置の構成を示す回路図である。
【
図3】第1の実施形態に係る超電導磁石装置の永久電流スイッチのスイッチコイルに用いるスイッチコイル用超電導線材の構成を示す横断面図である。
【
図4】第1の実施形態に係る超電導磁石装置の永久電流スイッチの外側接続部に用いる低マトリクス比超電導線材の構成を示す横断面図である。
【
図5】第1の実施形態に係る超電導磁石装置の永久電流スイッチの外側接続部に用いる低マトリクス比超電導線材の変形例の構成を示す横断面図である。
【
図6】第1の実施形態に係る超電導磁石装置の主回路超電導材部に用いられる主回路用超電導線材の構成を示す横断面図である。
【
図7】第1の実施形態に係る超電導磁石装置の運転方法の手順を示すフロ―図である。
【
図8】第1の実施形態に係る永久電流スイッチがオン状態のときの永久電流スイッチ内の温度分布を示すグラフである。
【
図9】第1の実施形態に係る永久電流スイッチがオフ状態のときの永久電流スイッチ内の温度分布を示すグラフである。
【
図10】第2の実施形態に係る超電導磁石装置の構成を示す回路図である。
【
図11】第2の実施形態に係る永久電流スイッチがオフ状態のときの永久電流スイッチ内の温度分布を示すグラフである。
【
図12】第3の実施形態に係る超電導磁石装置の構成を示す回路図である。
【
図13】第3の実施形態に係る超電導磁石装置の永久電流スイッチの非巻回部に沿って設けられた高熱伝導材の構成を示す縦断面図である。
【
図14】第3の実施形態に係る永久電流スイッチがオフ状態のときの永久電流スイッチ内の温度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る永久電流スイッチ、これを用いた超電導磁石装置、および超電導磁石装置の運転方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重畳する説明は省略する。
【0015】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る超電導磁石装置10の構成を示す概念的な縦断面図である。
【0016】
超電導磁石装置10は、主コイル11、永久電流スイッチ(PCS:Persistent Current Switch)100、極低温冷凍機15、および冷凍容器18を有する。
【0017】
主コイル11および永久電流スイッチ100は、冷凍容器18内に収納されている。極低温冷凍機15は、冷凍容器18に取り付けられており、冷凍容器18の外部から内部に貫通している。主コイル11と極低温冷凍機15とは、伝導材16で接続されており、主コイル11は伝導材16を介して熱伝導により冷却される。永久電流スイッチ100と極低温冷凍機15とは、伝導材17で接続されており、永久電流スイッチ100は伝導材17を介して熱伝導により冷却される。
【0018】
図2は、第1の実施形態に係る超電導磁石装置10の構成を示す回路図である。
【0019】
超電導磁石装置10の主コイル11に励磁電力を供給する励磁電源1が、冷凍容器18の外側に設けられている。励磁電源1は、直流電源であり、たとえば、調整装置を有する蓄電池、交直変換機と調整装置の組み合わせなどを用いることができる。
【0020】
主コイル11および永久電流スイッチ100は、励磁電源1に対して互いに並列に接続されている。主コイル11と励磁電源1を含む主回路12は、主回路超電導材部12aと主回路常電導材部12bとを有する。
【0021】
主回路超電導材部12aと主回路常電導材部12bとの接続部12cは、冷凍容器18の外側に設けられている。したがって、主回路常電導材部12bは全て冷凍容器18の外側に配されている。また、冷凍容器18の内部に配されているのは、全て主回路超電導材部12aの範囲の部分である。
【0022】
主回路超電導材部12aのケーブルには、主回路用超電導線材13(
図6)が使用されている。また、主コイル11と永久電流スイッチ100が互いに並列に接続されていることから、後述するように超電導状態における主コイル11と永久電流スイッチ100を永久電流が流れる閉回路が形成可能な構成である。
【0023】
永久電流スイッチ100は、スイッチコイル110および外側接続部130を有する。
【0024】
スイッチコイル110は、コイル要素110aおよびコイル要素110bと、これらの外側に配されて巻回されていない非巻回部111を有する。コイル要素110aおよびコイル要素110bは、互いに逆向きに同じ巻き数が巻かれて電気的には互いに直列に配されている。この結果、スイッチコイル110は、無誘導に、すなわち、スイッチコイル110の外側には磁場が生じないように形成されている。コイル要素110a、110bと非巻回部111とは一体に、すなわち、互いに連続して形成されている。
【0025】
コイル要素110a、110bおよび非巻回部111には、スイッチコイル用超電導線材112(
図3)が用いられている。
【0026】
コイル要素110a、110bの近傍には、ヒータ115が設けられている。ここで、近傍とは、ヒータ115がコイル要素110a、110bのいずれかの箇所に接触しているか、あるいは、ヒータ115がオン状態の場合にヒータ115で生じた熱がスイッチコイル110の状態を変化させる位置にあることを言う。すなわち、スイッチコイル110が超電導状態から常電導状態に移行、すなわちクエンチするようにスイッチコイル110の温度が上昇する程度に、ヒータ115がスイッチコイル110に近いことをいうものとする。
【0027】
非巻回部111に沿って、高熱伝導材121が配されている。高熱伝導材121には、たとえば、Cu、Alあるいはこれらの合金など、スイッチコイル用超電導線材112に比べて熱伝導率が高い材料が用いられている。高熱伝導材121を配する形態は、たとえば、Wire in Channel方式、すなわち、高熱伝導材121に長手方向に延びた溝を形成し、その溝に非巻回部111のスイッチコイル用超電導線材112を嵌めこむ方式によってもよい。あるいは、非巻回部111のスイッチコイル用超電導線材112に高熱伝導材121をたとえばらせん状に巻きつける方式でもよい。この結果、非巻回部111の温度はコイル要素110a、110bの温度に速く追従する。すなわち、スイッチコイル110は、コイル要素110a、110bおよび非巻回部111が実質的に一体となった熱的挙動を示すことになる。
【0028】
それぞれの非巻回部111のコイル要素110aおよび110bとの接続側とは反対側の端部は、接続部141において外側接続部130と接続している。それぞれの外側接続部130の、接続部141とは反対側の端部は、接続部142において主回路12と接続されている。外側接続部130には、低マトリクス比超電導線材131(
図4)が用いられている。
【0029】
図3は、第1の実施形態に係る超電導磁石装置10の永久電流スイッチ100のスイッチコイル110に用いるスイッチコイル用超電導線材112の構成を示す横断面図である。
【0030】
スイッチコイル110に用いるスイッチコイル用超電導線材112は、
図3に示すように、互いに並列に配された複数のスイッチコイル用超電導フィラメント112aと、スイッチコイル用超電導フィラメント112aを保持するスイッチコイル用マトリクス材112bを有する。ここで、スイッチコイル用超電導フィラメント112aとしては、たとえば、NbTi線材またはNb
3Sn線材を用いることができる。
【0031】
また、スイッチコイル用マトリクス材112bとしては、CuNi合金を用いることができる。CuNi合金を用いるのは、前述のように、Cuに比べて電気抵抗の大きなCuNi合金を使うことで、オフ状態すなわち常電導状態で高い電気抵抗を有し、励磁電源1により主コイル11を励磁して主回路12で電流を流す際に、永久電流スイッチ100側への電流分流を抑制することができることによる。
【0032】
図4は、第1の実施形態に係る超電導磁石装置10の永久電流スイッチ100の外側接続部130に用いる低マトリクス比超電導線材131の構成を示す横断面図である。外側接続部130に用いる低マトリクス比超電導線材131は、
図4に示すように、互いに並列に配された複数の外側接続部用超電導フィラメント131aと、外側接続部用超電導フィラメント131aを保持する外側接続部用マトリクス材131bを有する。ここで、外側接続部用超電導フィラメント131aとしては、たとえば、NbTi線材またはNb
3Sn線材を用いることができる。また、外側接続部用マトリクス材131bとしては、永久電流モードでの運転の安定性を考慮してたとえば熱伝導性の良いCuを用いることができる。
【0033】
低マトリクス比超電導線材131の断面においては、スイッチコイル用超電導線材112の断面に比べて、マトリクス部分、すなわち外側接続部用マトリクス材131bの断面が小さくなっている。すなわち、外側接続部用超電導フィラメント131aの断面積の総和に対する外側接続部用マトリクス材131bの断面積の割合が、スイッチコイル用超電導フィラメント112aの断面積の総和に対するスイッチコイル用マトリクス材112bの断面積の割合に比べて小さい。
【0034】
長手方向の熱伝導は、主にマトリックス部分が担っていることから、外側接続部用マトリクス材131bの断面積の割合を小さくすることにより低マトリクス比超電導線材131の熱抵抗を大きくし、外側接続部130における熱伝導を低減することができる。
【0035】
図5は、低マトリクス比超電導線材の変形例の構成を示す横断面図である。当該変形例における低マトリクス比超電導線材132においては、外側接続部用超電導フィラメント132aがより多く設けられており、その分、外側接続部用マトリクス材132bが減っている。このように、外側接続部用マトリクス材132bの断面積の割合を小さくすることにより、同様に、外側接続部130における熱伝導を制限することができる。さらに、本変形例の場合は、外側接続部用超電導フィラメント132aがより多く設けられていることによって、低マトリクス比超電導線材132の負荷率を下げることができる。この結果、クエンチの発生に対する裕度を確保することができる。
【0036】
図6は、第1の実施形態に係る超電導磁石装置10の主回路超電導材部12aに用いられる主回路用超電導線材13の構成を示す横断面図である。主回路超電導材部12aに用いられる主回路用超電導線材13についても、互いに並列に配された複数の主回路用超電導フィラメント13aと、主回路用超電導フィラメント13aを保持する主回路用マトリクス材13bを有する。ここで、主回路用超電導フィラメント13aとしては、たとえば、NbTi線材またはNb
3Sn線材を用いることができる。また、主回路用マトリクス材13bとしては、Cu合金を用いることができる。
【0037】
なお、スイッチコイル用超電導線材112、低マトリクス比超電導線材131、132、および主回路用超電導線材13について、超電導線材の種類が互いに異なっていてもよい。
【0038】
図7は、第1の実施形態に係る超電導磁石装置10の運転方法の手順を示すフロ―図である。
【0039】
最初に、超電導磁石装置10の停止状態からの起動ステップS10について説明する。
【0040】
まず、永久電流スイッチ100をオフ状態とし、極低温冷凍機15により主回路12を冷却する(ステップS11)。詳細には、ヒータ115をオンとしてヒータ115により永久電流スイッチ100を加熱して、永久電流スイッチ100をオフ状態すなわち常電導状態とする。また、極低温冷凍機15を起動して、主コイル11を含む主回路12を冷却する。
【0041】
次に、主コイル11に励磁電源1から電力を供給し、所定のレベルまで電力量を徐々に増加する(ステップS12)。すなわち、励磁電源1により主コイル11を励磁し、主回路12に電流が流れる状態とする。その後、所定のレベルまで励磁電力を上昇させる。所定のレベルとしては、定格電力の場合、あるいは部分電力の場合もある。この状態においては、永久電流スイッチ100側のスイッチコイル110のスイッチコイル用マトリクス材112bがCuNi合金であり電気抵抗が十分に高いため、主回路12側から永久電流スイッチ100側への分流は十分に抑えられる。
【0042】
次に、永久電流スイッチ100を冷却しオン状態とし、主回路12側の温度より高い温度に維持する(ステップS13)。具体的には、ヒータ115の出力を下げて、永久電流スイッチ100を極低温冷凍機15により冷却して温度を下げ、永久電流スイッチ100をオン状態とする。
【0043】
図8は、永久電流スイッチ100がオン状態のときの永久電流スイッチ100内の温度分布を示すグラフである。
【0044】
永久電流スイッチ100がオン状態で、超電導状態にある主コイル11および永久電流スイッチ100を含む回路で運転される永久電流モードにおいては、永久電流スイッチ100の温度がヒータ115により制御され、主コイル11の温度より高くなるように設定されている。
【0045】
超電導材料の定圧比熱は、超電導材料の温度が低下すると急激に小さくなり、単位熱量増加あたりの温度上昇が大きくなる。このため、主コイル11に比べて、一般的にクエンチを生じやすい永久電流スイッチ100については、定圧比熱を極端に低くしないように、たとえば、主コイル11の温度Tpcを4Kとする場合は、スイッチコイル110の温度Tmを、これより高い温度、たとえば5Kに近い温度とする。このように設定することにより、何らかの擾乱により、永久電流スイッチ100の超電導線材(スイッチコイル用超電導線材112および低マトリクス比超電導線材131)の温度上昇を抑え、永久電流スイッチ100のこれらの超電導線材がクエンチを生じやすいという状態を回避する。
【0046】
この後、励磁電源1の出力を順次低下させ、永久電流スイッチ100側の電流を増加させる(ステップS14)。励磁電源1の出力を順次低下させると、主コイル11を流れる電流は変わらず、励磁電源1を流れていた電流が減少する分だけ、永久電流スイッチ100に流れる電流が増加する。
【0047】
最終的に、超電導状態にある主コイル11および永久電流スイッチ100を含む回路を流れる永久電流モードでの運転状態に移行する(ステップS15)。励磁電源1の出力を順次低下させ、最終的に、励磁電源1の出力をゼロとした段階で、電流が主回路12を流れていた状態から、主コイル11と永久電流スイッチ100を含む回路を流れる永久電流モードに移行する。すなわち、ここで、全て超電導状態にある主コイル11と永久電流スイッチ100を含む回路を、永久電流が流れている状態となる。
【0048】
次に、超電導磁石装置10において永久電流モードから、永久電流スイッチ100をオフとしての停止状態への移行、すなわち停止ステップS20を説明する。
【0049】
まず、励磁電源1の出力を順次増加させ、主回路12側の運転に移行させる(ステップS21)。すなわち、励磁電源1の出力を順次増加させると、主コイル11を流れる電流は変わらず、励磁電源1を流れる電流が増加する分だけ、永久電流スイッチ100に流れていた電流が減少する。最終的に、永久電流スイッチ100側の電流をほぼゼロとする。
【0050】
次に、永久電流スイッチ100を加熱しオフ状態に移行させる(ステップS22)。この移行は、ヒータ115をオンとすることにより行われる。すなわち、ヒータ115をオンとすることにより、永久電流スイッチ100のスイッチコイル110を加熱し、クエンチを発生させ、永久電流スイッチ100側の抵抗を増大させる。
【0051】
図9は、永久電流スイッチ100がオフ状態のときの永久電流スイッチ100内の温度分布を示すグラフである。
【0052】
本第1の実施形態においては、コイル要素110a、110bの両側に配された非巻回部111には、これに沿って高熱伝導材121が設けられているため、前述のように、コイル要素110a、110bがヒータ115により加熱されてオフ状態となった状態で、コイル要素110a、110bと非巻回部111の温度は、接続部141までほぼ同様の温度となってしまう。しかしながら、接続部141から先の外側接続部130には、熱抵抗を大きくした低マトリクス比超電導線材131が用いられており、熱移動速度が抑制され、実質的に、低マトリクス比超電導線材131により熱が遮断される。
【0053】
すなわち、
図9に示すように、2つの接続部141の間に配されたコイル要素110a、110bおよびその両側の非巻回部111は、ほぼ均一の温度Tphとなっている。また、接続部141から接続部142に移るにつれて、温度が急激に低下し、接続部142において温度Tmとなる。温度Tmについての、永久電流モードでの運転時の温度からの温度上昇は、主コイル11側に影響しない程度に十分に低く抑えられる。このように、永久電流スイッチ100のオフ時の主回路12側との熱絶縁を確保することができる。
【0054】
次に、超電導磁石装置10を待機状態に移行する(ステップS23)。すなわち、励磁電源1の出力を徐々に減少させ、主コイル11を含む主回路12を流れる電流を減少させ、主コイル11に蓄積されたエネルギーを励磁電源1側に回収する。最終的に、主回路12を待機状態とする。
【0055】
この後、図示はしていないが、必要に応じて、極低温冷凍機15を停止して、主回路12の温度を常温として超電導磁石装置10を停止状態とする、あるいは、超電導磁石装置10を再起動する。
【0056】
以上のような本実施形態に係る超電導磁石装置10の構成および運転方法によって、以下のような効果を有する。
【0057】
永久電流モード運転における運転の安定性については、以下の点が言える。
【0058】
第1には、非巻回部111に高熱伝導材121を設けることにより、比較的クエンチが発生しやすい非巻回部111をコイル要素110a、110bと熱的に一体化させることにより、非巻回部111が起点となるクエンチのリスクを低減している。
【0059】
第2には、ヒータ115によって、永久電流スイッチ100の温度Tmを主コイル11の温度Tpより高い温度に維持することにより定圧比熱を確保し、何らかの擾乱によっても、永久電流スイッチ100の超電導線材の温度上昇を抑え、永久電流スイッチ100の超電導線材がクエンチを生じやすいという状態を回避している。
【0060】
さらに、変形例として示した低マトリクス比超電導線材132においては、外側接続部用超電導フィラメント132aがより多く設けられていることによって、低マトリクス比超電導線材132の負荷率を下げることができる。この結果、永久運転モードで運転されている状態において、外側接続部130が起点となるクエンチのリスクを低減することができる。
【0061】
また、停止中の段階においては、次の点が言える。
【0062】
すなわち、接続部141から先の外側接続部130に熱抵抗の大きな低マトリクス比超電導線材131または低マトリクス比超電導線材132を用いることにより、スイッチコイル110がヒータ115により加熱されオフ状態にあるときにおいて、接続部142を介して主回路12側への熱の移動をほぼ遮断し、超電導磁石装置10の停止過程における主コイル11からのエネルギー回収を乱すような影響が抑制される。このように、永久電流スイッチ100側の温度上昇が主回路12との接続部142の温度を上昇させないようにすることにより、主回路12側に影響を与えずに、この主コイル11に蓄積されたエネルギーの励磁電源1側への回収ステップの運転をスムーズに行うことができる。
【0063】
以上のように、本実施形態による超電導磁石装置10においては、永久電流運転状態においての永久電流スイッチ100の安定化と、停止段階においての、常電導状態にある永久電流スイッチ100側と主回路12側との熱絶縁とを実現し、超電導磁石装置10の信頼性を向上させることができる。
【0064】
[第2の実施形態]
図10は、第2の実施形態に係る超電導磁石装置10の構成を示す回路図である。
【0065】
本第2の実施形態は、第1の実施形態の変形である。本実施形態の永久電流スイッチ100aは、接続部141および接続部142を接続する外側接続部130において、低マトリクス比超電導線材131(
図4)の一部が無誘導に巻回され、互いに反対方向に巻回された2つのコイルからなる低マトリクス比超電導線材コイル135が形成されている。このように形成することにより低マトリクス比超電導線材131(
図4)の十分な長さが確保される。
【0066】
低マトリクス比超電導線材コイル135は、エポキシ樹脂,フェノール樹脂,メラミン樹脂,ポリエステル樹脂,シリコーン樹脂,パラフィンのいずれかあるいはこれらを含む樹脂で含浸された構造となっている。この場合、樹脂が、低マトリクス比超電導線材コイル135内の互いに隣接する層の間に充填されるようにする。
【0067】
以上のように構成された本実施形態の作用を説明する。
【0068】
低マトリクス比超電導線材コイル135が樹脂で含浸されたことにより、巻回されている部分での層間の熱移動を抑制し、熱伝導の経路を、実質的に、低マトリクス比超電導線材コイル135の長手方向のみに制限する。
【0069】
図11は、第2の実施形態に係る永久電流スイッチ100aがオフ状態のときの永久電流スイッチ内の温度分布を示すグラフである。
【0070】
コイル要素110a、110bの両側の非巻回部111に高熱伝導材121が配されているため、スイッチコイル110がヒータ115により加熱されてオフ状態となった状態で、高熱伝導材121がスイッチコイル110からの熱拡散を促進するように作用する。この結果、接続部141まではほぼ均一の温度となってしまう。一方、接続部141から外側の外側接続部130には、低マトリクス比超電導線材コイル135が用いられ、さらに、低マトリクス比超電導線材コイル135の長さの効果が発揮されることにより、接続部142に至るまでに温度は十分に低減する。
【0071】
この結果、本第2の実施形態に係る超電導磁石装置10においては、第1の実施形態における効果に加えて、主回路12との接続部142においての温度が殆ど上昇せず、永久電流モードでの運転状態時の温度とほぼ変わらない温度が維持される。すなわち、低マトリクス比超電導線材コイル135が形成された低マトリクス比超電導線材131(
図4)により熱をほとんど遮断することができる。
【0072】
これにより、超電導磁石装置10の停止過程において、永久電流スイッチ100側から主コイル11側への負荷を軽減し、超電導磁石装置10の信頼性を向上させることができる。
【0073】
[第3の実施形態]
図12は、第3の実施形態に係る超電導磁石装置10の構成を示す回路図である。
【0074】
本第3の実施形態は、第1の実施形態の変形である。本第3の実施形態における永久電流スイッチ100bは、第1の実施形態における高熱伝導材121に代えて、高熱伝導材122を有する。
【0075】
図13は、第3の実施形態に係る超電導磁石装置10の永久電流スイッチ100bの非巻回部111に沿って設けられた高熱伝導材122の構成を示す縦断面図である。
【0076】
高熱伝導材122は、第1の実施形態における高熱伝導材121と同様に、非巻回部111に沿って設けられている。高熱伝導材122は、基材122bと、基材122b中に配された複数の炭素繊維122aを有する。基材122bとしては、たとえば、ポリエステルなどの樹脂を用いることができる。
【0077】
それぞれの炭素繊維122aは、高熱伝導材122の長手方向に対して傾きを有するように配向して、基材122bを貫通している。この場合、炭素繊維122aは、
図13に示すように互いに平行となるように配されている。たとえば、高熱伝導材122の幅をdとするとき、垂直方向に対しての傾きがθ(長手方向に対する傾きが(90度-θ))である場合、炭素繊維122aの長さLは直線で(d/cosθ)となる。傾きθが45度なら炭素繊維の長さLは、約1.4dとなる。その分、炭素繊維122aの熱容量は増加する。
【0078】
なお、炭素繊維122aは、必ずしも、互いに平行である必要はなく、傾きθに分布があってもよい。また、同じ方向である必要はなく、傾きθがプラスのもの、マイナスのものが混在していてもよい。
【0079】
このような構成においては、炭素繊維122aの熱伝導率の方が、基材122bの熱伝導率よりも大きいため、高熱伝導材122は、熱伝導率に異方性を有する。すなわち、高熱伝導材122の幅方向の熱伝導率のほうが、長手の熱伝導率よりも高くなる。
【0080】
図14は、第3の実施形態に係る永久電流スイッチ100bがオフ状態のときの永久電流スイッチ100b内の温度分布を示すグラフである。
【0081】
ヒータ115により加熱されたコイル要素110a、110bからの熱が、非巻回部111および高熱伝導材122を、長手方向に伝導する際に、その側面からの放熱を伴い、一方、長手方向の熱伝導は抑制される。この結果、接続部141に至るまでの放熱によって、接続部141における温度は、コイル要素110a、110bにおける温度より低くなっている。
【0082】
すなわち、本第3の実施形態に係る超電導磁石装置10においては、第1の実施形態における効果に加えて、高熱伝導材122が、コイル要素110a、110bおよび非巻回部111からの放熱を促進するように作用する一方で、高熱伝導材122の幅方向の熱伝導率より長手方向の熱伝導率が低いため、スイッチコイル110側から接続部141側への熱を遮断するように作用する。
【0083】
これにより、超電導磁石装置10の停止過程において、永久電流スイッチ100側から主コイル11側への負荷を軽減し、超電導磁石装置10の信頼性を向上させることができる。
【0084】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0085】
また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。たとえば、外側接続部130に低マトリクス比超電導線材コイル135が形成されている第2の実施形態の特徴と、非巻回部111に熱的に異方性のある高熱伝導材122が取り付けられている第2の実施形態の特徴とを組み合わせてもよい。
【0086】
さらに、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0087】
1…励磁電源、10…超電導磁石装置、11…主コイル、12…主回路、12a…主回路超電導材部、12b…主回路常電導材部、12c…接続部、13…主回路用超電導線材、13a…主回路用超電導フィラメント、13b…主回路用マトリクス材、15…極低温冷凍機、16、17…伝導材、18…冷凍容器、100、100a、100b…永久電流スイッチ、110…スイッチコイル、110a、110b…コイル要素、111…非巻回部、112…スイッチコイル用超電導線材、112a…スイッチコイル用超電導フィラメント、112b…スイッチコイル用マトリクス材、115…ヒータ、121、122…高熱伝導材、122a…炭素繊維、122b…基材、130…外側接続部、131…低マトリクス比超電導線材、131a…外側接続部用超電導フィラメント、131b…外側接続部用マトリクス材、132…低マトリクス比超電導線材、132a…外側接続部用超電導フィラメント、132b…外側接続部用マトリクス材、135…低マトリクス比超電導線材コイル、141、142…接続部