(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】義足膝継手
(51)【国際特許分類】
A61F 2/64 20060101AFI20230911BHJP
A61F 2/74 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
A61F2/64
A61F2/74
(21)【出願番号】P 2019114864
(22)【出願日】2019-06-20
【審査請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】奥田 正彦
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-167106(JP,A)
【文献】特開2002-058689(JP,A)
【文献】特許第2968597(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/64
A61F 2/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腿接続部と、
前記大腿接続部と連結される膝軸まわりに回転可能に設けられた下腿部と、
前記大腿接続部と前記下腿部との相対位置によって変形する多節リンク機構と、
前記多節リンク機構が所定以上変形したときに前記下腿部の運動を制動する制動部と、
を備える義足膝継手であって、
前記多節リンク機構は、前記大腿接続部と前記下腿部との相対位置に関わらず、前記大腿接続部との相対位置が略一定となる
瞬間中心を設定する
よう構成され、
前記制動部は、前記多節リンク機構で設定された
瞬間中心と前記下腿部との相対位置によって前記下腿部の運動を制動する
よう構成される、義足膝継手。
【請求項2】
前記多節リンク機構は、前記大腿接続部に設けられる上部リンク部と、前記制動部に設けられる下部リンク部と、前記上部リンク部および前記下部リンク部を連結する複数の接続リンク部から構成されることを特徴とする請求項
1に記載の義足膝継手。
【請求項3】
前記上部リンク部の長さと前記下部リンク部の長さが異なることを特徴とする請求項
2に記載の義足膝継手。
【請求項4】
前記上部リンク部の長さよりも前記下部リンク部の長さが短いことを特徴とする請求項
3に記載の義足膝継手。
【請求項5】
前記上部リンク部の長さよりも前記下部リンク部の長さが長いことを特徴とする請求項
3に記載の義足膝継手。
【請求項6】
前記接続リンク部は、前記上部リンク部の一部と前記下部リンク部の一部をつなぐ前部リンク部と、前記上部リンク部の他の一部と前記下部リンク部の他の一部とを接続する後部リンク部とを含むことを特徴とする請求項
2から
5のいずれかに記載の義足膝継手。
【請求項7】
前記
瞬間中心は、義足装着者の足底近傍から股関節近傍までの間に設定されていることを特徴とする請求項
4に記載の義足膝継手。
【請求項8】
前記
多節リンク機構は、前記大腿接続部に設けられる上部リンク部と、前記制動部に設けられる下部リンク部と、前記上部リンク部の一部と前記下部リンク部の一部をつなぐ接続リンク部と、前記上部リンク部の他の一部と前記下部リンク部の他の一部とをつなぐスライド要素とを備えることを特徴とする請求項1に記載の義足膝継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義足膝継手に関する。
【背景技術】
【0002】
義足膝継手には、立位(立脚相)の安定性が高く、安心して歩ける機能が不可欠である。従来より、義足装着者の体重によって作用する荷重ブレーキにより立脚相の安定化をはかる技術が知られている。特許文献1には、装着者の荷重が加わるニープレートを含む上部材と、足部が取り付けられる下部材と、この下部材に支持され、上部材と下部材とを揺動可能に連結する膝軸とを備える義足に用いるための荷重ブレーキが開示されている。この荷重ブレーキは、ニープレートにピンにより結合したブレーキブロックを含む。該ブレーキブロックには、膝軸を挿入する貫通孔があり、ニープレートを介して装着者の荷重が加わると、貫通孔の径が減少して膝軸が締め付けられ、膝軸の回転が制止される。
【0003】
特許文献1に開示された荷重ブレーキにおいては、立脚相後半の蹴りだし期にブレーキが効いてしまい、スムースに遊脚相に移行できないという事態を防ぐために、ブレーキブロックをニープレートに結合するピンを、遊脚移行期の荷重線の近傍に配置している。しかしながら、坂道を下るときなど後方に荷重をかけながら遊脚移行する場合は、荷重線が膝軸より後方に移動することにより一定以上の荷重が残留し、ブレーキが効いてしまうという所謂「ひっかかり」が発生することがあった。この荷重ブレーキにはコイルばねが設けられており、このコイルばね圧縮状態を調整することで、ブレーキの効き具合を調整することができるようになっている。この機能を用いて、遊脚移行時のブレーキ力を下げることで「ひっかかり」を防止するための調整がなされてきたが、同時に立脚相でのブレーキ力も低下してしまうため、微妙な調整を要するという課題が残っていた。義足装着者や場面ごとに歩き方が異なるので、「ひっかかり」を解消することができないときもあった。
【0004】
特許文献2に開示された義足では、四節リンク機構を用いることにより、上記の課題を解決している。この義足では、制動部としてロータリー式の油圧制動回路が用いられている。油圧制動回路のハウジングと、人間の脛に相当するフレームは、フロントリンクおよびリヤリンクを介して連結されている。油圧制動回路のハウジングを上部リンク、フレームを下部リンクとすると、四節リンク機構が構成されている。フロントリンクにおける上部リンクとの結合部よりも上部には、油圧制動回路の切換え弁の作動子が設けられており、フロントリンクの小さい回転運動により発生する力により切換え弁が作動する。膝屈曲の回転軸である膝軸は、油圧制動回路の回転軸と一致しており、フレーム、足部、それらの接続部品で構成される下腿部に接続される。膝屈曲により下腿部が大きく回転運動をしたときは、この油圧制動回路および切換え弁は下腿部とともに回転運動する。この義足において、四節リンク機構の瞬間中心は足部の爪先と踵との間に置かれている。踵側に体重がかかった場合、荷重線(床反力)が瞬間中心よりも後方に位置するので、四節リンク機構の変形により切換え弁が閉状態となり、義足は油圧制動回路により制動がかかる状態となる。一方、爪先側に体重がかかった場合、荷重線が瞬間中心よりも前方に位置するので、四節リンク機構の変形により切換え弁が開状態となり、義足は油圧制動回路による制動が解除された状態となる。このように、特許文献2に開示された義足では、四節リンク機構の瞬間中心をセンシングポイントとして、義足装着者の荷重が足部のどこにかかっているか検知し、該検知結果に基づいて油圧制動回路を制御できるので、スムースな遊脚移行を可能である。また、ばねによる調整に対しても十分な制動作動力が得られるようになったので、立脚相の安定性が飛躍的に高まった。
【0005】
一方、急な坂を下るときなどには、爪先接地の状態で体重を支持できることが必要になる。そこで、特許文献3では、踵接地のときに発生した油圧を利用し、油圧の切換え弁が閉じた状態を持続させる機構を義足に搭載することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-107212号公報
【文献】特開2004-167106号公報
【文献】国際公開第2005/93305号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術では、爪先接地の前に踵接地がないときは、切換え弁が開いたままであるので油圧が発生せず、体重を支持できない可能性があった。例えば、遊脚相おいて義足の揺動中に足部の爪先を地面に接触させてしまったときや、静止立位時に大腿部切断端の伸展を忘れて爪先側に荷重をかけてしまったときなどにこのような事態が生じ得る。このようなときには、残存筋力で体重を支えきれず、意図に反した膝屈曲(すなわち膝折れ)を起こす可能性があった。
【0008】
本発明は、こうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、リンク機構を用いた義足膝継手において、爪先接地時の安定性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の義足膝継手は、大腿部側に設けられる大腿接続部と、大腿接続部と連結される膝軸まわりに回転可能に設けられた下腿部と、大腿接続部と下腿部との相対位置に関わらず、大腿接続部との相対位置が略一定となる基準位置を設定する基準位置設定部と、基準位置設定部で設定された基準位置と下腿部との相対位置によって下腿部の運動を制動する制動部とを備える。
【0010】
本発明のさらに別の態様も、義足膝継手である。この義足膝継手は、大腿部側に設けられる大腿接続部と、大腿接続部と連結される膝軸まわりに回転可能に設けられた下腿部と、大腿接続部と下腿部の相対位置に関わらず、大腿接続部との相対位置が略一定となる瞬間中心を義足装着者の足底近傍から股関節近傍までの間に設定する多節リンク機構と、多節リンク機構が変形することにより多節リンク機構で設定された瞬間中心と下腿部との相対位置が所定状態となったときに下腿部の運動を制動する制動部とを備える。多節リンク機構は、大腿接続部に設けられる上部リンク部と、制動部に設けられる下部リンク部と、上部リンク部の一部と下部リンク部の一部をつなぐ前部リンク部と、上部リンク部の他の一部と下部リンク部の他の一部とを接続する後部リンク部から構成される。上部リンク部の長さよりも下部リンク部の長さが短い。
【0011】
本発明の別の態様は、制動装置である。この装置は、大腿部側に設けられる大腿接続部と当該大腿接続部と連結される膝軸まわりに回転可能に設けられた下腿部との相対位置に関わらず、当該大腿接続部との相対位置が略一定となる基準位置を設定する基準位置設定部と、基準位置設定部で設定された基準位置と下腿部との相対位置によって当該下腿部の運動を制動する制動部とを備える。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、荷重位置検知装置である。この装置は、大腿部側に設けられる大腿接続部と当該大腿接続部と連結される膝軸まわりに回転可能な下腿部の当該大腿接続部に対する相対位置に関わらず、当該大腿接続部との相対位置が略一定となる基準位置を設定する基準位置設定部と、基準位置設定部で設定された基準位置と下腿部との相対位置を検知する検知部とを備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リンク機構を用いた義足膝継手において、爪先接地時の安定性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る義足膝継手を説明するための図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る義足膝継手において、膝を屈曲した状態で爪先接地したときの作用を説明するための図である。
【
図3】比較例に係る義足膝継手を説明するための図である。
【
図4】比較例に係る義足膝継手において、膝を屈曲した状態で爪先接地したときの作用を説明するための図である。
【
図5】
図5(a)および(b)は、膝を屈曲した状態で爪先接地したときの制動部の安定作動域を比較した図である。
【
図6】本発明の別の実施形態に係る義足膝継手を説明するための図である。
【
図7】比較例に係る義足膝継手を説明するための図である。
【
図8】
図8(a)および(b)は、膝を屈曲した状態で爪先接地したときの制動部の安定作動域を比較した図である。
【
図9】本発明のさらに別の実施形態に係る義足膝継手を説明するための図である。
【
図10】スライド要素を用いたリンク機構を備える義足膝継手の実施例を示す側面図である。
【
図11】スライド要素を用いたリンク機構を備える義足膝継手の断面概略図である。
【
図12】
図12(a)および(b)は、実施例に係る義足膝継手の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の実施形態では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略する。
【0016】
本発明の実施形態に係る義足膝継手を具体的に説明する前に、概要を説明する。この義足膝継手は、義足装着者の大腿部側に設けられる大腿接続部と、大腿接続部と連結される膝軸まわりに回転可能に設けられた下腿部と、大腿接続部と下腿部の相対位置に関わらず大腿接続部との相対位置が膝軸から有限の距離内で略一定となる基準位置を設定する基準位置設定部と、基準位置設定部で設定された基準位置と下腿部との相対位置によって下腿部の運動を制動する制動部とを備える。基準位置は、義足装着者の足底近傍から股関節近傍までの間に設定されることが好ましい。この態様では、基準位置をセンシングポイントとして義足装着者の荷重がどこにかかっているかを検知し、検知結果に基づいて制動部を制御している。この態様においては、大腿接続部と下腿部の相対位置に関わらず、基準位置と大腿接続部との相対位置が膝軸から有限の距離内で略一定となる。すなわち膝伸展時だけでなく、膝屈曲時においても基準位置が殆ど移動しないので、制動部の安定作動域を広く確保することができる。これにより、爪先から後方に荷重がかかった場合や、爪先から垂直方向に荷重がかかった場合であっても制動力を発生させることができ、爪先接地時の安定性を向上することができる。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る義足膝継手10を説明するための図である。
図1に示すように、義足膝継手10は、大腿接続部12と、下腿部14と、制動部16と、四節リンク機構18とを備える。本実施形態に係る義足膝継手10においては、四節リンク機構18が基準位置設定部となり、四節リンク機構18により設定される瞬間中心Sが基準位置となる。制動部16は、四節リンク機構18が変形することにより瞬間中心Sと下腿部14との相対位置が所定状態となったときに下腿部14の運動を制動する。
【0018】
大腿接続部12は、膝の上側に位置し、義足装着者の大腿部に接続される。大腿接続部12は、例えばアルミニウム合金製のニープレート20と、ニープレート20上に設けられたアライメントブロック22とを含む。そのアライメントブロック22は、例えばチタン合金製であり、図示しないソケットを支持し、ソケットの中に入る大腿を通して義足装着者の荷重を支える。
【0019】
下腿部14は、膝の下側に位置し、膝軸24を介して大腿接続部12と連結されている。下腿部14は、大腿接続部12に対して膝軸24まわりに回転可能である。膝軸24まわりの回転により、大腿接続部12と下腿部14の相対位置が変化する。下腿部14は、大腿接続部12に対し、たとえば150°~160°という大きな回転が可能である。本実施形態に係る義足膝継手10は、膝軸24が単一の単軸義足膝継手である。下腿部14は、例えば炭素繊維強化プラスチック製の中空なフレーム26と、フレーム26の下部に設けられた締付け部材28とを含む。締付け部材28は、フレーム26に足パイプ30を連結するための部材である。足パイプ30の下端には、足部32が設けられる。
【0020】
制動部16は、膝軸24まわりの下腿部14の回転運動に対して(すなわち膝の屈曲に対して)制動力を生じさせる。本実施形態において、制動部16は、ロータリー式の油圧制動部であり、作動油が流れ込んだり流れ出したりする室を内部に有するハウジング部材34と、切換え弁36とを含む。制動部16の回転軸は、膝軸24と一致している。切換え弁36の作用により、膝軸24まわりの下腿部14の回転に対して制動力を生じる制動状態と、制動力を解除した非制動状態とが切り替えられる。切換え弁36は、義足装着者の荷重が、足部32のどこにかかっているかに応じて制御される。切換え弁36については、ノーマルオープンあるいはノーマルクローズドのいずれの形態のものをも適用することができるが、ここでは、ノーマルオープンのものを用いている。ロータリー式の油圧制動装置および切換え弁としては公知のものを用いることができ、例えば上述の特許文献2に記載のものを用いることができる。
【0021】
四節リンク機構18は、大腿接続部12と制動部16とを連結している。四節リンク機構18は、大腿接続部12と下腿部14の相対位置によって変形する。四節リンク機構18は、大腿接続部12と、制動部16との間に相対的な小さな回転を可能とするものであり、しかもまた、足部32の爪先32aと踵32bとの間に瞬間中心Sをもつものでもある。小さな回転とは、たとえば5°~6°以下の非常に小さな回転角のことであり、膝軸24まわりの150°~160°という大きな回転との対比による表現である。なお、小さな回転は2°~3°以下としたり、6°~9°以下、10°~20°以下、20°~30°以下とすることもできるが、義足装着者に不安感や違和感を与えないためには小さいほうがよく、大きな変位を得ようとする場合は大きい方がよい。いずれにせよ、小さな回転は、義足装着者に不安感や違和感を与えないような回転になるように設定するのが望ましい。四節リンク機構18は、機械的な構成であり、それを構成する構成要素の外に瞬間中心Sをもっている。本実施形態に係る義足膝継手10では、四節リンク機構18の外部の所定域に位置する瞬間中心Sをセンシングポイントとして、義足装着者の荷重が足部32のどこにかかっているか、すなわち荷重が足部32の踵32bと爪先32aのどちらにかかっているか、を検知している。そのため、義足装着者の歩行する姿勢のいかんにかかわらず、平地での歩行の場合は勿論のこと、階段や下り坂を降りるような場合でも常に正しい検知を行うことができる。そして、その検知に基づいて、制動部16を適切に制御し、柔軟な膝制動機能を得ることができる。本実施形態において、四節リンク機構18は、瞬間中心Sと下腿部との相対位置を検知する検知部として機能しているとみなすことができる。
【0022】
本実施形態において、四節リンク機構18は、大腿接続部12に設けられる上部リンク部39と、制動部16のハウジング部材34に設けられる下部リンク部41と、上部リンク部39と下部リンク部41を連結する複数の接続リンク部と、から構成される。接続リンク部は、上部リンク部39の一部と下部リンク部41の一部をつなぐ前部リンク部40と、上部リンク部39の他の一部と下部リンク部41の他の一部とを接続する後部リンク部42とを含む。下部リンク部41の前端と前部リンク部40の下端は軸Aで連結され、上部リンク部39の前端と前部リンク部40の上端は軸Bで連結されている。また、上部リンク部39の後端と後部リンク部42の上端は軸Cで連結され、下部リンク部41の後端と後部リンク部42の下端は軸Dで連結されている。このように、本実施形態の四節リンク機構18は、軸A、B、C、Dの4点に回転軸を有する。
【0023】
前部リンク部40における軸Aより上側の部分は、切換え弁36の作動子となっており、四節リンク機構18の変形により(より具体的には前部リンク部40の軸Aまわりの小さな回転運動により)、瞬間中心Sと下腿部14との相対位置が所定状態となったときに制動部16が作動する。
【0024】
本実施形態に係る義足膝継手10においては、上部リンク部39の長さと下部リンク部41の長さが異なっている。リンク部の長さとは、当該リンク部と他のリンク部とを連結する軸間の距離である。すなわち、上部リンク部39の長さは、軸Bと軸C間の距離であり、下部リンク部41の長さは、軸Aと軸D間の距離である。このように上部リンク部39の長さと下部リンク部41の長さとを異ならせることにより、前部リンク部40の軸Aと軸Bとを結んだ直線(以下、直線ABと称する)と、後部リンク部42の軸Cと軸Dとを結んだ直線(以下、直線CDと称する)とを、膝軸24から有限の距離L内の1点で交差させ易くなり、その点が下部リンク部41に対する上部リンク部39の小さな回転運動の瞬間中心Sとなる。膝軸24からの有限の距離Lは、瞬間中心Sが足部32の足底近傍から義足装着者の股関節近傍までの間に位置するように設定することが好適である。この場合、より安定した踵接地荷重と爪先離床荷重との区別が可能となるので、義足装着者の意図によらず、安定した制動力を発揮させることができる。
【0025】
仮に上部リンク部39の長さと下部リンク部41の長さが同じ場合、直線ABと直線CDはそれらの長さを異ならせた場合と比較して平行に近づくので、膝軸24から有限の距離L内に瞬間中心Sを設定することが難しくなる。この場合、有限の距離Lの範囲外で無限距離に近づくほど、一定以上の大きな制動作用力(切換弁押さえ力やブレーキ押さえ力)が得られなくなるので、安定した膝制動機能を得ることが難しくなる。
【0026】
本実施形態に係る義足膝継手10では、上部リンク部39の長さよりも下部リンク部41の長さが短くなっている。このように上部リンク部39の長さよりも下部リンク部41の長さを短くすることにより、直線ABと直線CDの交点である瞬間中心Sを膝軸24よりも下方に位置させることが容易となる。この場合、瞬間中心Sは、
図1に示すように足部32の爪先32aと踵32bとの間に置くことが好適であり、この場合、踵接地荷重と爪先離床荷重とを明確に区別することができる。すなわち、足部32の踵32b側に体重がかかった場合、荷重線(床反力)が瞬間中心Sよりも後方に位置するので、四節リンク機構18の変形により切換え弁36が閉状態となり、義足膝継手10は制動部16による制動がかかった状態となる。一方、爪先32a側に体重がかかった場合、荷重線が瞬間中心Sよりも前方に位置するので、前の場合とは逆に、四節リンク機構18の変形により切換え弁36が開状態となり、義足膝継手10は制動部16による制動が解除された状態となる。
【0027】
図2は、本実施形態に係る義足膝継手10において、膝を屈曲した状態で爪先接地したときの作用を説明するための図である。上述したように膝軸24は、制動部16の回転軸と一致しており、膝屈曲時は膝軸24より下方の下腿部14が大きな回転運動をする。義足膝継手10において、制動部16は四節リンク機構18によって大腿接続部12側に連結されているので、膝屈曲の際に制動部16は殆ど移動せず、瞬間中心Sは概ね元の位置(
図1で示す位置)にとどまる。この状態で
図2に示すように爪先32aを接地し体重をかけると、概ね爪先接地点と股関節を結んだ線で表される荷重線Fが生じ、荷重線Fは膝軸24の後方を通るので膝屈曲角が増大する方向に動こうとする。しかしながら、本実施形態に係る義足膝継手10では、爪先接地時の荷重加重線Fはセンシングポイントである瞬間中心Sよりも後方に位置するので、四節リンク機構18の変形により切換え弁36が閉状態となり、制動部16による制動力が発生するので、屈曲角度の増大、すなわち膝折れを防ぐことができる。しかも、瞬間中心Sの位置を適切に選べば、屈曲角度が大きくなるほど爪先接地点と瞬間中心Sと間の距離も大きくなるので、より確実に制動力を発生させることができる。
【0028】
ここで、本実施形態に係る義足膝継手10の構成およびその作用をより明確にするために、比較例について説明する。
図3は、比較例に係る義足膝継手100を説明するための図である。比較例に係る義足膝継手100は、上述の特許文献2に記載された義足に対応する。
【0029】
比較例に係る義足膝継手100は、四節リンク機構118が下腿部14と制動部16とを連結している点で、本実施形態に係る義足膝継手10と相違する。すなわち、比較例に係る義足膝継手100では、制動部16のハウジング部材34に上部リンク部139を設け、下腿部14のフレーム26に下部リンク部141を設けた場合、上部リンク部139と下部リンク部141が前部リンク部140および後部リンク部142を介して連結されている。上部リンク部139の前端と前部リンク部140の上端は軸Aで連結され、下部リンク部141の前端と前部リンク部140の下端は軸Bで連結されている。また、下部リンク部141の後端と後部リンク部142の下端は軸Cで連結され、上部リンク部139の後端と後部リンク部142の上端は軸Dで連結されている。このように、比較例の四節リンク機構118も軸A、B、C、Dの4点に回転軸を有する。
【0030】
また、比較例に係る義足膝継手100では、前部リンク部140における軸Aより上側の部分は、切換え弁36の作動子となっており、四節リンク機構118の変形により、制動部16が作動する。下部リンク部141に対する上部リンク部139の小さな回転運動の瞬間中心Sは、前部リンク部140の軸Aと軸Bとを結んだ直線と、後部リンク部142の軸Cと軸Dとを結んだ直線との交点である。この瞬間中心Sをセンシングポイントとし、足部32の爪先32aと踵32bとの間に置く。足部32の踵32b側に体重がかかった場合、荷重線(床反力)が瞬間中心Sよりも後方に位置するので、四節リンク機構118の変形により切換え弁36が閉状態となり、義足膝継手100は制動部16による制動がかかった状態となる。一方、爪先32a側に体重がかかった場合、荷重線が瞬間中心Sよりも前方に位置するので、前の場合とは逆に、四節リンク機構118の変形により切換え弁36が開状態となり、義足膝継手100は制動部16による制動が解除された状態となる。
【0031】
図4は、比較例に係る義足膝継手100において、膝を屈曲した状態で爪先接地したときの作用を説明するための図である。比較例に係る義足膝継手100においては、制動部16は、四節リンク機構118によって下腿部14側に連結されているので、膝屈曲の際には制動部16も一緒に回転する。したがって、膝屈曲時の瞬間中心Sは、本実施形態に係る義足膝継手10とは異なり、
図4に示すように、元の位置(
図3で示す位置)から後方に移動する。この状態で
図4に示すように爪先32aを接地し体重をかけると、荷重線Fが生じ、荷重線Fは膝軸24の後方を通るので膝屈曲角が増大する方向に動こうとする。ここで、比較例に係る義足膝継手100では、膝屈曲とともに瞬間中心Sも大きく後方に移動したので、荷重線Fは瞬間中心Sよりも前方に位置している。これにより、切換え弁36が開状態となるので、制動部16による制動力が発生せず、屈曲角度の増大、すなわち膝折れが生じるおそれがある。
【0032】
義足膝継手100との比較から、本実施形態に係る義足膝継手10によれば、大腿接続部12と下腿部14の相対位置に関わらず、瞬間中心Sと大腿接続部12との相対位置が膝軸から有限の距離L内で略一定となるので、膝を屈曲した状態で爪先接地しても制動部16を確実に作動させることができ、高い立脚安定性を得ることができることが分かる。なお、四節リンク機構18の変形に伴って瞬間中心Sは僅かにずれるが、この場合も、瞬間中心Sと大腿接続部との相対位置を略一定とみなすことに留意されたい。
【0033】
図5(a)および(b)は、膝を屈曲した状態で爪先接地したときの制動部16の安定作動域を比較した図である。
図5(a)は、本実施形態に係る義足膝継手10における制動部16の安定作動域ORを示す。
図5(b)は、比較例に係る義足膝継手10における制動部16の安定作動域ORを示す。足部32の爪先32aを通る荷重線が安定作動域OR内にあるとき、制動部16は制動力を発揮し、荷重線が安定作動域ORから外れると、制動部16は制動力を発揮しない。
【0034】
図5(b)に示す比較例に係る義足膝継手100においては、制動部16が四節リンク機構118によって下腿部14側に連結されているので、膝屈曲時の瞬間中心Sは、膝伸展時と比較して後方に移動する。したがって、
図5(b)に示すように、膝伸展時と比較して制動部16の安定作動域ORが縮小している。そのため、爪先32aから後方に荷重がかかった場合(荷重線F1)は制動部16による制動力が生じ、膝折れを防ぐことはできるが、爪先32aから垂直方向に荷重がかかった場合(荷重線F2)は、制動部16による制動力が発生せず、膝折れが生じるおそれがある。
【0035】
一方、
図5(a)に示す本実施形態に係る義足膝継手10においては、制動部16が四節リンク機構18によって大腿接続部12側に連結されているので、膝屈曲時であっても瞬間中心S(センシングポイント)は殆ど移動せず、足部32の爪先32aの前方に位置している。したがって、
図5(a)に示すように、膝伸展時と同様に、義足膝継手10の周囲のほぼ全域が制動部16の安定作動域ORとなっている。そのため、爪先32aから後方に荷重がかかった場合(荷重線F1)や、爪先32aから垂直方向に荷重がかかった場合(荷重線F2)であっても制動部16による制動力が生じ、膝折れを防ぐことができる。
【0036】
上述の実施形態では、例えば大腿接続部12の一部を上部リンク部39として利用し、制動部16のハウジング部材34の一部を下部リンク部41として利用するなど、義足の構成要素を用いて四節リンク機構18を構成している。しかしながら、義足の構成要素を用いずに、リンク機構を構成するためだけの部材(リンク専用部材と呼ぶ)を用いて四節リンク機構を構成してもよい。本実施形態のように、義足の構成要素を用いて四節リンク機構を構成した場合、別途リンク専用部材を配置する必要がないため、構成をコンパクトにすることができる。
【0037】
図6は、本発明の別の実施形態に係る義足膝継手60を説明するための図である。
図6に示す義足膝継手60も、基準位置設定部として四節リンク機構18を備える。四節リンク機構18は、大腿接続部12と制動部16とを連結している。大腿接続部12と下腿部14の相対位置によって四節リンク機構18が変形し、該変形により瞬間中心Sと下腿部14との相対位置が所定状態となったときに制動部16が作動する。
【0038】
本実施形態に係る義足膝継手60は、上部リンク部39の長さよりも下部リンク部41の長さが長い点が、上述した義足膝継手10と異なる。このように上部リンク部39の長さよりも下部リンク部41の長さを長くすることにより、直線ABと直線CDの交点である瞬間中心Sを膝軸24よりも上方に位置させることが容易となる。
【0039】
図7は、比較例に係る義足膝継手160を説明するための図である。この比較例に係る義足膝継手160は、四節リンク機構118が下腿部14と制動部16とを連結している点で、
図6に示す義足膝継手60と相違する。義足膝継手160においても、上部リンク部139の長さよりも下部リンク部141の長さが長くなっている。これにより、直線ABと直線CDの交点である瞬間中心Sは、膝軸24よりも上方に位置している。
【0040】
図8(a)および(b)は、膝を屈曲した状態で爪先接地したときの制動部16の安定作動域を比較した図である。
図8(a)は、本実施形態に係る義足膝継手60における制動部16の安定作動域ORを示す。
図8(b)は、比較例に係る義足膝継手160における制動部16の安定作動域ORを示す。足部32の爪先32aを通る荷重線が安定作動域OR内にあるとき、制動部16は制動力を発揮し、荷重線が安定作動域ORから外れると、制動部16は制動力を発揮しない。瞬間中心Sが膝軸24より上方に位置している場合、爪先接地点と瞬間中心Sを結ぶ線より前方に安定作動域がある。
【0041】
図8(b)に示す比較例に係る義足膝継手160においては、制動部16が四節リンク機構118によって下腿部14側に連結されているので、膝屈曲時の瞬間中心Sは、
図7に示す膝伸展時と比較して前方に移動する。したがって、
図8(b)に示すように、膝屈曲時の安定作動域ORは、膝軸24よりもかなり前方にある。そのため、爪先32aから膝軸24のやや前方に荷重がかかった場合(荷重線F1)や、爪先32aから垂直方向に荷重がかかった場合(荷重線F2)は、制動部16による制動力が発生せず、膝折れが生じるおそれがある。
【0042】
一方、
図8(a)に示す本実施形態に係る義足膝継手60においては、制動部16が四節リンク機構18によって大腿接続部12側に連結されているので、膝屈曲時であっても瞬間中心Sは殆ど移動しない。したがって、
図8(a)に示すように、安定作動域ORは比較例に係る義足膝継手160のように前方に移動せず、膝軸の周囲が安定作動域ORに含まれる。そのため、爪先32aから膝軸24のやや前方に荷重がかかった場合(荷重線F1)や、爪先32aから垂直方向に荷重がかかった場合(荷重線F2)であっても制動部16による制動力が生じ、膝折れを防ぐことができる。
【0043】
図1に示す義足膝継手10のように、上部リンク部39の長さよりも下部リンク部41の長さを短くすることにより、瞬間中心Sを膝軸24よりも下方に位置させることができる。一方、
図6に示す義足膝継手60のように、上部リンク部39の長さよりも下部リンク部41の長さを長くすることにより、瞬間中心Sを膝軸24よりも上方に位置させることができる。瞬間中心Sを膝軸24よりも上方、下方のいずれに位置させるかは、義足膝継手の装着者に応じて設定することが好ましい。
【0044】
義足装着者の中には、活動能力が高く、自分の意図によって制動力の作用をコントロールしたい人がいる。一般に活動能力が高い人は、股関節の切断部に残っている筋力が強い。このような活動能力が高い義足装着者は、自分の意図によらず制動力がはたらいてしまうことを好まない傾向がある。このような活動能力が高い義足装着者の場合は、膝軸24よりも上方に瞬間中心Sを設定することが好適である。上述したように、瞬間中心Sが膝軸24より上方に位置している場合、爪先接地点と瞬間中心Sを結ぶ線より前方に安定作動域がある(
図8(a)参照)。義足装着者が股関節伸展筋をはたらかせると、荷重線は(股関節HにおけるモーメントMと釣り合うように)前方に傾き、安定作動域OR内に入る(荷重線F1参照)。義足装着者が意図的に膝を屈曲させたいときには、股関節伸展筋の力を弱め、場合によっては股関節Hを屈曲させる。これにより、荷重線は不安定域(安定作動域OR外)に入るので、制動部16による制動力を解除することができる。このように、活動能力が高い義足装着者にとっては、瞬間中心Sが膝軸24より上方にある場合の方が、意図的に制動力の発生を選択できるので、スポーツやレクレーションを含む多様な生活を送る上で好適である。なお、上述したように、比較例に係る義足膝継手160では、膝屈曲時には瞬間中心Sが前方に移動しているので、膝軸24よりもかなり前方に安定作動域ORがある(
図8(b)参照)。そのため、安定作動域ORに荷重線をコントロールするのは過大な股関節伸展モーメントが必要であり、事実上不可能である。
【0045】
一方、切断初期のリハビリ中の使用者や高齢者などは、股関節の筋力が弱く、上記のようなコントロールを行うことは難しい。したがって、このような義足装着者の場合は、瞬間中心Sを膝軸24より下において広い安定作動域ORを設定し、義足装着者の意図によらず、安定した制動力を発揮させることが好ましい。
【0046】
リンク専用部材が配置されている場合、当該部材と義足の構成要素の双方でリンク機構を構成することが可能である。この場合、義足の構成要素によるリンク機構に関しては、上部リンク部の長さよりも下部リンク部の長さを短くして瞬間中心を膝軸よりも下方に設定し、リンク専用部材によるリンク機構に関しては、上部リンク部の長さよりも下部リンク部の長さを長くして瞬間中心を膝軸よりも上方に設定することが可能である。
【0047】
図9は、本発明のさらに別の実施形態に係る義足膝継手90を説明するための図である。
図9に示す義足膝継手90は、基準位置設定部として、スライド要素92を用いたリンク機構94を備える点が、上述した義足膝継手10と異なる。リンク機構94は、大腿接続部12と制動部16とを連結している。大腿接続部12と下腿部14の相対位置によってリンク機構94が変形することにより瞬間中心Sと下腿部14との相対位置が所定状態となったときに、制動部16により下腿部14の運動が制動される。
【0048】
リンク機構94は、大腿接続部12に設けられる上部リンク部39と、制動部16に設けられる下部リンク部41と、上部リンク部39の一部と下部リンク部41の一部をつなぐ接続リンク部としての前部リンク部40と、上部リンク部39の他の一部と下部リンク部41の他の一部とをつなぐスライド要素92とを備える。本実施形態において、スライド要素92は、大腿接続部12の後端に設けられたハウジング93内で軸Cが所定方向にスライド可能なスライドベアリングである。下部リンク部41の前端と前部リンク部40の下端は軸Aで連結され、上部リンク部39の前端と前部リンク部40の上端は軸Bで連結されている。また、上部リンク部39の後端と下部リンク部41の後端は、スライド要素92の軸Cで連結されている。
【0049】
前部リンク部40における軸Aより上側の部分は、切換え弁36の作動子となっており、リンク機構94の変形により、瞬間中心Sと下腿部14との相対位置が所定状態となったときに制動部16が作動する。リンク機構94の瞬間中心Sは、前部リンク部40の軸Aと軸Bとを結んだ直線(直線AB)と、スライド要素92の軸Cを通る、スライド方向に対して垂直な直線との交点であり、膝軸24から有限の距離L内に設定される。本実施形態では、瞬間中心Sは、
図9に示すように足部32の爪先32aと踵32bとの間に置かれている。本実施形態においても、瞬間中心Sがセンシングポイントとなり、義足装着者の荷重が足部32のどこにかかっているか、すなわち荷重が足部32の踵32bと爪先32aのどちらにかかっているか、を検知し、その検知結果に基づいて制動部16が制御される。本実施形態においても、リンク機構94は、瞬間中心Sと下腿部との相対位置を検知する検知部として機能しているとみなすことができる。
【0050】
本実施形態に係る義足膝継手90においても、大腿接続部12と下腿部14の相対位置に関わらず、瞬間中心Sと大腿接続部12との相対位置が膝軸24から有限の距離L内で略一定となるので、膝を屈曲した状態で爪先接地しても制動部16を確実に作動させることができ、高い立脚安定性を得ることができる。
【0051】
図10は、義足膝継手の実施例を示す側面図である。
図11は、義足膝継手の実施例を示す断面概略図である。
【0052】
図10および
図11に示す義足膝継手80は、
図9に示す義足膝継手90と同様に、基準位置設定部として、スライド要素92を用いたリンク機構94を備える義足膝継手である。
【0053】
図10および
図11に示すように、義足膝継手80は、膝屈曲角に応じて膝部の動きを補助する補助駆動部としてのシリンダ装置82を備える。シリンダ装置82は、エアシリンダや油圧シリンダであってよい。シリンダ装置82は、シリンダチューブ84と、シリンダチューブ84に対して移動可能であるピストンロッド86とを備える。シリンダ装置82は、ニープレート20と下腿部14とを連結するように設けられる。より具体的には、シリンダチューブ84は、下腿部14に設けられた下軸87により回転可能に支持され、ピストンロッド86は、ニープレート20に設けられた上軸8により回転可能に支持される。不図示のセンサにより検出された膝軸24まわりの膝屈曲角に応じてシリンダ装置82を制御することにより、例えば遊脚時に足の振り出しに合わせて下腿部14をスイングさせ、義足装着者の快適な歩行を実現することができる。
【0054】
本実施例に係る義足膝継手80において、制動部16は、ロータリー式の油圧制動装置であり、作動油が流れ込んだり流れ出したりする室を内部に有するハウジング部材34と、切換え弁36とを含む。制動部16の回転軸は、膝軸24と一致している。切換え弁36の作用により、膝軸24まわりの下腿部14の回転に対して制動力を生じる制動状態と、制動力を解除した非制動状態とが切り替えられる。切換え弁36は、義足装着者の荷重が、足部のどこにかかっているかに応じて制御される。
【0055】
図11に示すように、制動部16には戻しばね85および調整プラグ88が設けられている。戻しばね85は、非荷重状態(ノーマル状態)において、切換え弁36を開状態とするためのばねである。調整プラグ88は、戻しばね85の初期たわみ量を調整するためのものである。
【0056】
リンク機構94は、ニープレート20に設けられる上部リンク部39と、制動部16に設けられる下部リンク部41と、上部リンク部39の一部と下部リンク部41の一部をつなぐ前部リンク部40と、上部リンク部39の他の一部と下部リンク部41の他の一部とをつなぐスライド要素92とを備える。本実施例において、スライド要素92は、ニープレート20の後端に設けられてたハウジング93内で軸Cが所定方向にスライド可能なスライドベアリングである。下部リンク部41の前端と前部リンク部40の下端は軸Aで連結され、上部リンク部39の前端と前部リンク部40の上端は軸Bで連結されている。また、上部リンク部39の後端と下部リンク部41の後端は、スライド要素92の軸Cで連結されている。
【0057】
前部リンク部40における軸Aより上側の部分は、切換え弁36の作動子83となっており、リンク機構94の所定以上の変形により、瞬間中心Sと下腿部14との相対位置が所定状態となったときに制動部16が作動する。
図9において説明したように、前部リンク部40の軸Aと軸Bとを結んだ直線と、スライド要素92の軸Cを通る、スライド方向に対して垂直な直線との交点がリンク機構94の瞬間中心となり、膝軸24から有限の距離内に設定される。瞬間中心は、足部の爪先と踵との間に置かれる。この瞬間中心がセンシングポイントとなり、義足装着者の荷重が足部の踵にかかる場合と、爪先にかかる場合とを区別し、その検知結果に基づいて制動部16が制御される。
【0058】
図12(a)および(b)は、実施例に係る義足膝継手90の動作を説明するための図である。
図12(a)は、非荷重状態(ノーマル状態)の義足膝継手80を示し、
図12(b)は、荷重状態の義足膝継手80を示す。
【0059】
図12(a)に示すように、非荷重状態では、スライド要素92の軸Cは、ハウジング93内の一端に位置している。この状態では、戻しばね85の力により切換え弁36は開状態となっており、制動部16による制動力は発生しない。一方、荷重状態では、
図12(b)に示すように、スライド要素92の軸Cは、ハウジング93内を他端に向かってスライドする。軸Cのスライドにより、リンク機構94が変形し、この変形により前部リンク部40に設けられた作動子83を介して切換え弁36が閉状態となり、制動部16による制動力が発生する。このとき、戻しばね85は圧縮されている。荷重が解除されると、圧縮された戻しばね85の力が作用してリンク機構94がノーマル状態に戻り、その結果として切換え弁36が開状態となる。調整プラグ88を回転させて戻しばね85の初期たわみ量を調整することにより、上記一連の制動部16の動作の感度を調整することができる。
【0060】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素あるいは各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、また、そうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0061】
例えば、上述の実施形態では、制動部として、油圧抵抗を利用したロータリー式の油圧制動回路を採用したが、制動部の方式は油圧式に限定されず、例えば摩擦抵抗を利用するもの(ドラム式、バンド式、ディスク式、バネ式)であってもよいし、メカニカルストッパ(カム式、リンク式、クラッチ)を駆動させるものであってもよい。
【0062】
また、上述の実施形態では、膝軸が単一の単軸義足膝継手について説明したが、本発明は、膝軸が複数の軸から成る多軸義足膝継手にも適用することができる。すなわち、多軸膝継手の複数の軸のうち一つの軸に制動部の回転軸が一致するよう制動部を配置し、前部リンク部または後部リンク部の小さい回転運動を制動部に作用させればよい。
【0063】
また、上述の実施形態では、単一の制動部を配置したが、複数の制動部が配置されてもよい。
【0064】
また、上述の実施形態では、大腿接続部と制動部を連結する多節リンク機構として四節リンク機構を採用したが、リンク機構は四節リンク機構に限定されず、少なくとも上部リンク部および下部リンク部を含む複数のリンク部を有する多節リンク機構を採用することができる。
【0065】
また、上述の実施形態では、前部リンク部の小さな回転運動を利用して制動部を作動させたが、後部リンク部の小さな回転運動を利用して制動部を作動させてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10,60,80,90 義足膝継手、 12 大腿接続部、 14 下腿部、 16 制動部、 18,94 リンク機構、 20 ニープレート、 24 膝軸、 26 フレーム、 30 足パイプ、 32 足部、 34 ハウジング部材、 36 切換え弁、 39 上部リンク部、 40 前部リンク部、 41 下部リンク部、 42 後部リンク部、 82 シリンダ装置、 83 作動子。