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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】シフト装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 20/02 20060101AFI20230911BHJP
【FI】
B60K20/02 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019159974
(22)【出願日】2019-09-02
(65)【公開番号】P2021037826
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】591050970
【氏名又は名称】津田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129654
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 達也
(72)【発明者】
【氏名】和田 倫範
(72)【発明者】
【氏名】小森 誠
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-038226(JP,U)
【文献】特開2001-022461(JP,A)
【文献】特開平08-192653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 20/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機で選択されるシフトレンジを変更するため、少なくとも所定のシフト方向に沿って運転者が操作するシフトレバーを備えるシフト装置であって、
少なくとも前記シフト方向に沿って操作可能なように前記シフトレバーを貫通配置する開口部を設けたシフトパネルと、
前記シフトレバーを貫通させるための孔を有すると共に、前記開口部を覆う状態で前記シフトパネルの内側に収容され、前記シフト方向に沿う前記シフトレバーの操作に応じて該シフト方向に進退する略シート状のスライドカバーと、を有し、
前記スライドカバーの表面のうち、前記開口部に露出する側の表面には、凸状の突起部が立設され、
当該凸状の突起部は、前記シフトレバーの操作位置に関わらず、前記スライドカバーに対面する前記開口部の開口形状を前記シフト方向に沿って外側に延ばした領域の内側に位置するように設けられているシフト装置。
【請求項2】
請求項1において、前記スライドカバーが前記シフト方向に進退する際に該スライドカバーの端部の進退をガイドするよう、前記シフト方向に沿って互いに平行をなすように前記開口部の外側に延設された2本1組の断面凸状のガイドレールを有し、
該ガイドレールは、前記凸状の突起部が立設された側の前記スライドカバーの表面に当接するように構成され、
該凸状の突起部は、前記2本1組の断面凸状のガイドレールによって挟まれた間隙に向けて突出するように設けられているシフト装置。
【請求項3】
請求項2において、前記突起部の立設高さは、前記ガイドレールの高さよりも低いことを特徴とするシフト装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項において、前記突起部は、前記シフト方向における前記スライドカバーの両端側にそれぞれ配設されているシフト装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項において、前記シフト方向に面する前記突起部の両側面について、前記スライドカバーの端部側に当たる外側の側面の角部の面取り量が、反対側の内側の側面の角部の面取り量よりも大きく設定されているシフト装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項において、前記スライドカバーの幅方向に沿って、複数の前記突起部が配置されているシフト装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項において、前記シフト方向に直交するセレクト方向に前記シフトレバーを操作することにより、前記シフトレバーが位置する前記シフト方向の列を切替可能である一方、前記シフトレバーを貫通させるための前記スライドカバーの孔は、前記セレクト方向にシフトレバーが操作されたときに該スライドカバーが従動しないように該セレクト方向に長く穿設されており、
前記シフトパネルに設けられた開口部は、前記シフト方向の列毎に設けられた開口部分として、前記セレクト方向に隣り合うと共に前記シフト方向における形成範囲が異なる第1の開口列及び第2の開口列を含めて形成され、
前記スライドカバーの表面のうち、前記開口部に露出する側の表面では、前記シフトレバーの操作位置に関わらず前記第2の開口列が対面する開口形状をシフト方向に沿って外側に延ばした領域の内側に位置し、かつ、前記シフトレバーがいずれかの操作位置にあるときに前記第1の開口列に対して前記セレクト方向に隣接する領域に位置するよう、凸状の突起部が立設されているシフト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機で選択されるシフトレンジを変更するために運転者が操作するシフトレバーを備えるシフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、原動機の回転出力を変速して車輪側に伝達する自動変速機と、自動変速機の変速度合いを調節するためのシフト装置と、を備える車両が知られている。シフト装置としては、運転者が操作可能なように車室に突き出すシフトレバーを備える装置がある。シフト装置では、PレンジやDレンジなど自動変速機で設定できるシフトレンジに対応する複数のシフト位置のうちの何れかをシフトレバーを利用して選択可能である。
【0003】
シフト装置では、車室に面するシフトパネルに、シフトレバーを貫通配置するための開口部を設ける必要がある。開口部は、シフトレバーの操作ストロークに対応して大きく設ける必要がある一方、異物が内部に侵入する経路となり得る。そこで、開口部を覆うシート状のスライドカバーを設けたシフト装置が提案されている(例えば下記の特許文献1参照。)。スライドカバーは、シフトレバーの操作に応じて、開口部を覆う状態で進退する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-216527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来のシフト装置では、次のような問題が残されている。すなわち、開口部を覆うスライドカバーを備えるシフト装置の場合、スライドカバーの表面に沿う隙間を経由して、コインやボタン電池などの薄い扁平形状の異物が内部に侵入するおそれがある。
【0006】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、異物が内部に侵入するおそれを抑制可能なシフト装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、変速機で選択されるシフトレンジを変更するため、少なくとも所定のシフト方向に沿って運転者が操作するシフトレバーを備えるシフト装置であって、
少なくとも前記シフト方向に沿って操作可能なように前記シフトレバーを貫通配置する開口部を設けたシフトパネルと、
前記シフトレバーを貫通させるための孔を有すると共に、前記開口部を覆う状態で前記シフトパネルの内側に収容され、前記シフト方向に沿う前記シフトレバーの操作に応じて該シフト方向に進退する略シート状のスライドカバーと、を有し、
前記スライドカバーの表面のうち、前記開口部に露出する側の表面には、前記シフトレバーの操作位置に関わらず、前記開口部に対して前記シフト方向における外側に位置するように、凸状の突起部が立設されているシフト装置にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシフト装置では、シフトパネルの内側に収容されたスライドカバーによって開口部が覆われている。スライドカバーの表面には、凸状の突起部が立設されている。この凸状の突起部は、前記シフトレバーの操作位置に関わらず、開口部に対してシフト方向における外側に位置するように配置されている。この突起部によれば、開口部から侵入した小型の平板状の異物がシフト方向奥側に入り込んでしまうおそれを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1における、シフト装置の斜視図。
図2】実施例1における、ユニット本体とシフトパネルとの組み合わせ構造の説明図。シフト装置の構造を説明する図。
図3】実施例1における、シフトパネルの内部構造の説明図。
図4】実施例1における、トップパネルとスライドカバーとの組み合わせ構造の説明図。
図5】実施例1における、スライドカバーを収容するトップパネルを見込む斜視図。
図6】実施例1における、スライドカバーの斜視図。
図7】実施例1における、ダクト内部の隙間を見込む説明図。
図8】実施例1における、スライドカバーにおける突起部の控え寸法の説明図。
図9】実施例1における、前側及び後ろ側の突起部の控え寸法の仕様を説明する図。
図10】実施例2における、シフト装置の斜視図。
図11】実施例2における、スライドカバーにおける突起部の控え寸法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、図示しない車両の変速機である自動変速機をコントロールするためのシフト装置1に関する例である。このシフト装置1では、シフトレバー10が貫通配置された開口部200に入り込んでしまった異物を取出し可能とするための工夫がなされている。この内容について、図1図9を用いて説明する。
【0011】
シフト装置1(図1)は、図示しない車両の前後方向に当たるシフト方向にシフトレバー10を操作可能なストレート式のシフト装置である。このシフト装置1は、運転者がシフトレバー10を操作しやすいように運転席と助手席との間のセンターコンソールや、運転者に対面するインストルメントパネル等に設置される。シフト装置1によれば、車両の前側から進行方向に沿って配列されたパーキングレンジ(Pレンジ)、リバースレンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)、ドライブレンジ(Dレンジ)、エンジンブレーキレンジ(Bレンジ)のうちの何れかをシフト位置として選択できる。
【0012】
シフト装置1は、シフトレバー10を回動可能に軸支するユニット本体5と、ユニット本体5の上側に取り付けられ、車室に面するシフトパネル2と、を組み合わせた装置である。このシフト装置1は、シフトパネル2の意匠面であるパネル面20が、車両のインストルメントパネルの一部をなすように車載される。シフト装置1が車載されたとき、パネル面20を貫通してシフトレバー10が車室に突き出す状態になる。シフトレバー10の先端には、運転者の持ち手をなすシフトノブ(図示略)が取り付けられる。
【0013】
シフトパネル2は、図2及び図3のごとく、ユニット本体5に対する取り付け構造を備えるパネルベース2Bと、パネル面20が形成されたトップパネル2Aと、を組み合わせた部品である。このシフトパネル2では、パネルベース2Bとトップパネル2Aとの組み合わせにより、シフト方向に貫通する隙間が内部に形成されている。シフトパネル2では、開口部200を覆うスライドカバー3がこの隙間に進退可能に収容されている。ここで、シフト装置1では、コインやボタン電池などの薄い扁平形状の異物を開口部200に落としたとき、スライドカバー3の表面に沿ってその異物が奥に入り込んでしまい回収できなくなることがある。
【0014】
シフトパネル2(図2)は、パネル面20が設けられたセンターブロック21を有している。センターブロック21の両側には、シフト方向に沿ってダクト23が延設されている。センターブロック21には、シフトレバー10が貫通配置された開口部200と、DレンジやRレンジなどのシフトレンジが表記されたインジケータ窓201とが、設けられている。開口部200及びインジケータ窓201は、意匠面をなすパネル面20に開口している。開口部200とインジケータ窓201とは、互いに平行をなすようにシフト方向(本例では車両の前後方向)に沿って延設されている。
【0015】
ダクト23(図2及び図3)は、スライドカバー3を収容するための断面スリット状の隙間を形成している。シフトパネル2に収容されたスライドカバー3は、シフトレバー10の操作に応じてシフト方向に進退し、スライドカバー3の端部がダクト23内部の隙間を進退する。ダクト23は、シフト方向に沿っていると共に、徐々に下方に向かうように湾曲している。開口部200から侵入した小さなゴミや塵などは、スライドカバー3の表面に沿って移動し、斜め下方に向けて開口するダクト23から排出できる。
【0016】
ABS樹脂よりなるトップパネル2Aは、図2図5のごとく、センターブロック21を構成する中央部21Aと、中央部21Aの両側に延設されたダクトカバー23Aと、よりなる。ダクト23の蓋部分をなすダクトカバー23Aの裏側の内表面には、スライドカバー3の端部をダクト23内部でガイドするための2本1組のガイドレール238が立設されている。ガイドレール238は、断面凸状をなし、シフト方向に沿って延設されている。なお、図4及び図5は、トップパネル2Aとスライドカバー3との組み合わせを示している。図4では、トップパネル2Aが備えるガイドレール238を見易くするため、スライドカバー3を組み合わせる前の状態を示している。図5では、ガイドレール238がスライドカバー3の表面に接触してガイドする状態を把握できるよう、トップパネル2Aにスライドカバー3を組み合わせた状態を示している。
【0017】
車両の前側及び後ろ側のダクトカバー23Aのガイドレール238は、シフト方向に沿って形成されている。トップパネル2Aでは、開口部200の両側に位置するようにガイドレール238が形成されている。開口部200の開口幅(シフト方向に直交する方向の幅)である24.9mmに対して、2本1組のガイドレール238の間隔(後出の図7中の寸法w1。)は35.8mmとなっている。また、ガイドレール238の立設高さ(同図中の寸法h2。)は2.0mmである。
【0018】
66ナイロン(ガラス入り)よりなるパネルベース2B(図3)は、センターブロック21をなす中央部21Bと、中央部21Bの両側に延設されたスロープ23Bと、よりなる。中央部21Bは、トップパネル2Aの中央部21Aとの組み合わせによりセンターブロック21(図2)をなす。ダクト23の樋部分をなすスロープ23Bは、トップパネル2Aのダクトカバー23Aとの組み合わせによりダクト23をなす。中央部21Bの内表面、及びスロープ23Bの内表面は、スライドカバー3がシフト方向に進退する際の摺動面をなしている。
【0019】
スライドカバー3(図3図6)は、シフトパネル2の内部に収容されて開口部200を覆う厚さ1mmのシート状の部材である。スライドカバー3は、長さL=222mm、幅W=39.8mmの短冊状を呈している。スライドカバー3は、熱可塑性エラストマー(Thermoplastic Elastomer、TPE)の成形品であり、適度な柔軟性を備えている。シフト装置1におけるスライドカバー3は、その長手方向がシフト方向に沿うように組み込まれている。
【0020】
スライドカバー3は、シフトレバー10を貫通配置するための丸孔(孔)30を長手方向の中央近くに有している。丸孔30は、シフトレバー10の断面形状と略一致する形状である。シフトレバー10は、丸孔30に対して遊び少なく貫通配置されている。それ故、シフトレバー10がシフト方向に操作されたとき、その操作に従動してスライドカバー3がシフト方向に進退する。スライドカバー3の裏面では、幅方向の両側に脚部38が設けられている。長手方向に沿って延設された脚部38は、パネルベース2Bの内表面に対する摺動抵抗を低減するために役立つ。スライドカバー3の表面では、図6のごとく、凸状の突起部31(前側の突起部31F、後ろ側の突起部31B)が両端近くに立設されている。突起部31は、スライドカバー3の幅方向の略中央に配置されている。
【0021】
突起部31は、スライドカバー3の表面における占有領域が略正方形の凸部である。突起部31の側面形状(スライドカバー3の幅方向から見込む側面形状)において上部に位置する2か所の角部のうち、スライドカバー3の端部側に当たる外側の角部は、断面円弧状をなすように大きく面取りされている。これにより、この角部に対応する外側の側面31Tは、断面円弧状をなす滑らかな凸状湾曲面になっている。この滑らかな凸状湾曲面である側面31Tは、この側面31Tが面する側に突起部31が前進する際の摺動抵抗の抑制に効果的である。一方、スライドカバー3の端部とは反対側の内側の角部は、面取り量が抑えられ、対応する内側の側面31Sが略垂直面となっている。スライドカバー3の表面に対してほぼ垂直の側面31Sは、スライドカバー3の表面に沿って移動する異物を堰き止めるために効果的に作用する。
【0022】
上記の各部品を組み合わせたシフト装置1におけるダクト23内部の構造について、ダクト23の開口側から内部の隙間を見込む図7を参照して説明する。ダクト23内部では、上記のごとくスライドカバー3が長手方向(シフト方向に一致)に進退可能なように収容されている。スライドカバー3の端部は、トップパネル2Aに設けられた2本1組のガイドレール238によって進退可能にガイドされている。2本1組のガイドレール238は、開口部200に露出する側の表面であるスライドカバー3の外側の表面に、摺動可能な状態で接触する。
【0023】
スライドカバー3の表面のうち、開口部200に露出する側に当たる外側の表面に立設された突起部31は、2本1組のガイドレール238に挟まれた空間に向かって突出する状態にある。両側のガイドレール238の間隔w1が35.8mmであるのに対し、突起部31の横幅t1は1.5mmになっている。したがって、突起部31の両側には、ガイドレール238との間にw2=17.6mmの間隙が形成される。また、ガイドレール238の立設高さh2=2.0mmに対して、突起部31の立設高さh1は1.5mmである。したがって、突起部31と、トップパネル2Aの内周面と、の間には、高さ方向に0.5mmの隙間が形成されている。
【0024】
例えば異物の一例として想定される1円玉(日本の硬貨)は直径20mmであるので、突起部31の両側のw2=17.6mmの間隙を通過できない。また、例えば1円玉は厚さ1.5mmであるので、突起部31の高さ方向の0.5mmの隙間を通過できず、突起部31を乗り越えることができない。このように例えば1円玉は、突起部31によって堰き止められ、スライドカバー3の表面に沿ってシフト方向奥側に侵入することがない。一方、突起部31とガイドレール238との間では、小さなごみや塵などに対しては十分な隙間が確保されている。それ故、開口部200から侵入した小さなゴミや塵などは確実性高くダクト23から排出できる。
【0025】
なお、本例の構成では、ガイドレール238の立設高さh2に対して突起部31の立設高さh1を低く設定してある。このように寸法設定すれば、トップパネル2Aの内表面に対する突起部31の接触を回避できる。突起部31の接触を回避できれば、突起部31に起因して起こり得るスライドカバー3の摺動抵抗の増加や、トップパネル2Aの傷つき等を未然に回避できる。
【0026】
ここで、シフト装置1における突起部31の位置的な仕様について、図8を参照して説明する。同図では、スライドカバー3に対面する開口部200の開口形状を点線により示している。開口形状Pは、車両の進行方向における最も前側のPレンジにシフトレバー10が操作され、スライドカバー3が最も前側に変位したときの開口部200に対応している。また、開口形状Bは、車両の進行方向における最も後ろ側のBレンジにシフトレバー10が操作され、スライドカバー3が最も後ろ側に変位したときの開口部200に対応している。
【0027】
図8に示すごとく、車両の前側の突起部31Fは、開口形状Bに対して17.9mmの隙間k1(以下、控え寸法という。)を確保できるように配設されている。また、車両の後ろ側の突起部31Bは、開口形状Pに対して控え寸法k2が11.4mmとなるように配設されている。
【0028】
例えば異物の一例として想定される1円玉の直径は20mmである。シフトレバー10の前側に1円玉が落下した場合、シフトレバー10をBレンジに操作すると良い。シフトレバー10をBレンジに操作すると、スライドカバー3に対面する開口部200の開口形状が図8中の符号Bのようになる。シフトレバー10をBレンジに操作すれば、前側の突起部31Fにより1円玉を開口部200に引き出すことができる。ここで、前側の突起部31Fは開口形状Bに対する控え寸法が17.9mmであるので、直径20mmの1円玉は、その一部が開口部200に張り出すまで引き出し可能である。このときの張り出し量は、1円玉の直径である20mmから、突起部31Fの控え寸法k1=17.9mmを差し引いた2.1mmとなる。このように開口部200に一部が張り出す状態であれば、1円玉を比較的容易に取出しできる。
【0029】
一方、シフトレバー10の後ろ側に1円玉が落下した場合、シフトレバー10をPレンジに操作すると良い。後ろ側の突起部31Bにより1円玉を開口部200に引き出すことができ、その結果、1円玉の一部が開口部200に張り出す状態を形成できる。このときの張り出し量は、1円玉の直径である20mmから、開口形状Pに対する突起部31Bの控え寸法k2=11.4mmを差し引いた8.6mmとなる。このように開口部200に張り出す状態であれば、1円玉を比較的容易に取出しできる。
【0030】
ここで、本例のシフト装置1では、前側の突起部31Fと、後ろ側の突起部31Bと、で異なる控え寸法k1、k2を設定している。図9を参照してこの理由を説明する。同図は、シフト方向に沿うシフトパネル2の断面構造を示す断面図である。シフト装置1のパネル面20は、運転者の目の位置に対して、前側斜め下方に設置される。開口部200に対しては、斜め上方から運転者の視線が侵入する。そのため、開口部200の前側では、後ろ側と比べて、隙間の奥まで運転者の視線が入り込む。一方、開口部200の後ろ側では、隙間の奥まで運転者の視線が入り込むおそれが少ない。そこで、本例では、前側の突起部31Fの控え寸法k1を、後ろ側の突起部31Fの控え寸法k2に比べて大きく設定している。
【0031】
なお、上記のごとく、突起部31では、シフト方向(スライドカバー3の長手方向に一致。)に面する両側面31S、31Tの仕様が異なっている(図6)。スライドカバー3の端部とは反対側の内側に面する側面31Sは、垂直面となっている。垂直面をなす側面31Sによれば、スライドカバー3の表面に沿って移動する異物を確実性高く堰き止めることが可能であり、突起部31を超えて異物が侵入するおそれを少なくできる。一方、反対側の側面31Tは、断面円弧状の凸状湾曲面により形成されている。凸状湾曲面の側面31Tによれば、この側面31Tが面する側に突起部31が前進する際、シフトパネル2の内周面との摺動抵抗を抑制できる。
【0032】
以上のような構成のシフト装置1は、シフトパネル2の内側に収容されたスライドカバー3によって開口部200が覆われているシフト装置である。このスライドカバー3の両端近くには、凸状の突起部31が立設されている。この凸状の突起部31は、運転者によるシフトレバー10の操作位置に関わらず、開口部200に対してシフト方向における外側に位置するように配置されている。この突起部31によれば、開口部200から侵入した異物がシフト方向奥側に入り込んでしまうおそれを未然に抑制できる。
【0033】
本例の構成では、開口部200での突起部31の露出を回避しつつ、例えば突起部31によって異物を開口部200に引き出すことができるよう、開口部200に対する突起部31の控え寸法(図8中のk1、k2)が適切に設定されている。このように突起部31が適切に配置されたシフト装置1によれば、例えばスライドカバー3の表面に沿って異物が奥に入り込んでしまったような場合にも、突起部31によってその異物を堰き止めることができる。そして、シフトレバー10をPレンジあるいはBレンジに操作すれば、突起部31によって堰き止められた異物を開口部200に引き出すことができ、比較的容易にその異物を取り出しできる。
【0034】
さらに、このシフト装置1では、シフトレバー10の操作位置に関わらず、突起部31が開口部200に露出することがない。それ故、突起部31が、意匠面をなすパネル面20の美観に影響を与えることがない。特に、本例では、開口部200に対する運転者の視線の入射方向を考慮し、前側の突起部31Fの控え寸法と、後ろ側の突起部31Bの控え寸法と、を異ならせている。このような控え寸法の設定によれば、開口部200に突起物31を露出させないという仕様を実現しつつ、異物の取出し易さを最大限近くに高めることができる。
【0035】
(実施例2)
本例は、実施例1のシフト装置に基づいて、シフト方向(前後方向)に加えてセレクト方向(左右方向)にもシフトレバー10を操作可能なシフト装置1に変更した例である。このシフト装置1では、セレクト方向にシフトレバー10を操作することにより、運転者自身が駆動ギアを選択できるマニュアルモードでのシフト操作が可能になる。この内容について、図10及び図11を参照して説明する。
【0036】
本例のシフト装置1では、第1のシフト方向の列に沿ってPレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジが配列されていると共に、第2のシフト方向の列に沿ってシフトアップポジション(+ポジション)、マニュアルレンジ(Mレンジ)、シフトダウンポジション(-ポジション)が配置されている。+ポジションは、1段上のギアに切り替えるための操作ポジションである。-ポジションは、1段下のギアに切り替えるための操作ポジションである。+ポジションが車両の前側に配置され、-ポジションが車両の後ろ側に配置されている。
【0037】
第1及び第2のシフト方向の列のうち、第2のシフト方向の列は、シフト方向におけるシフトレバー10の操作範囲が他の列(第1のシフト方向の列)よりも短い列である。パネル面20(シフトパネル2)に設けられた開口部200は、第1のシフト方向の列に対応する開口部分である第1の開口列200Aと、第2のシフト方向の列に対応し第1の開口列200Aよりもシフト方向における形成範囲が短い開口部分である第2の開口列200Bと、を含めて形成されている。第1の開口列200Aと第2の開口列200Bとは、シフト方向における形成範囲が異なっており、第2の開口列200Bは後ろ側に寄って位置し、第1の開口列200Aは前側に延びている。パネル面20では、第2の開口列200Bに対してシフト方向前側に位置し、かつ、第1の開口列200Aに対してセレクト方向に隣接する領域として、開口部200以外の領域20Rが形成されている。開口部200から1円玉等が侵入したとき、この領域20Rの裏側の空間がポケットのように作用し、1円玉等がすっぽりと収まってしまうおそれがある。
【0038】
第1のシフト方向の列と第2のシフト方向の列とを切り替えるためのシフトレバー10のセレクト方向の操作は、DレンジとMレンジとの間でのみ可能である。第2のシフト方向の列では、中央のMレンジに向けてシフトレバー10が付勢されており、シフトダウンポジションにシフトレバー10を操作した後、手を離すとシフトレバー10は自動的にMレンジに復帰する。
【0039】
このシフト装置1のスライドカバー3(図11)は、長さL=214mm、幅W=58.4mmであり、実施例1のスライドカバーに比べて幅広である。スライドカバー3の端部をガイドするガイドレール(図示略。図4中の符号238に相当。)は、実施例1と比べて、間隔が拡大されている。本例のシフト装置1では、スライドカバー3の幅W=58.4mmに対して、互いに平行をなす2本1組のガイドレールの間隔w1が54.3mmとなっている。なお、スライドカバー3の正面を示す図11では、ガイドレールが接する領域238Rを破線により示している。
【0040】
本例のシフト装置1では、スライドカバー3の両端に2つずつ突起部31が設けられている。各突起部31は、実施例1の突起部と形状仕様が共通しており、突起部31の横幅t1は、実施例1と同様、1.5mmである。スライドカバー3の幅方向に隣り合う突起部31間の隙間w3は16.8mmであり、突起部31とガイドレールとの間の隙間w2も17.7mmである。
【0041】
図11では、シフトレバー10がPレンジに操作されたときの開口部200の形状を開口形状Pにより示している。ここで、開口部200は、図10を参照して上記した通り、PレンジやDレンジが配置された第1のシフト方向の列に対応する第1の開口列200Aと、マニュアルレンジが配置された第2のシフト方向の列に対応する第2の開口列200Bと、を含んで形成されている。開口形状Pは、以下の開口形状Dや開口形状Mと同様、第1の開口列200Aに対応する形状と、第2の開口列200Bに対応する形状と、の組合せにより形成されている。
【0042】
開口形状Pに対して、後ろ側の突起部31Bの控え寸法k2は、実施例1と同様、11.4mmとなっている。なお、図11では、開口形状Pのほか、シフトレバー10がDレンジに操作されたときの開口部200の形状を示す開口形状D、シフトレバーが-ポジションに操作されたときの開口部200の形状を示す開口形状M-が図示されている。
【0043】
前側の突起部31Fは、開口形状Dに対する控え寸法k1が17.9mmとなるように配置されている。シフトレバー10が-ポジションに操作されたとき、開口部200の開口形状M-に対する突起部31Fの控え寸法k1sは、控え寸法k1よりもさらに小さくなる。このときの突起部31Fの控え寸法k1sは、開口形状Dに対する突起部31Fの控え寸法k1=17.9mmから、Mレンジと-ポジションとの間の操作ストローク量3mmを差し引いた14.9mmとなる。前側の突起部31Fについて、14.9mmの控え量を確保すれば、-ポジションにシフトレバー10が操作されたとき、運転者側から突起部31Fが見えてしまうことがない。
【0044】
さらに、本例のシフト装置1のスライドカバー3では、図11中の領域300Rに突起部31Mが追加されている。この領域300Rは、シフトレバー10がDレンジに操作されてスライドカバー3に対する開口部200(図10参照。)の対面形状が開口形状D(図11)になったとき、第2の開口列200Bに対してシフト方向前側(外側)に位置し、かつ、第1の開口列200Aに対してセレクト方向に隣接する領域である。この領域300Rは、シフトレバー10がDレンジに操作されたときにパネル面20(図10)の領域20Rに対面する。
【0045】
領域300Rにおいて、シフト方向に沿って突起部31Mが3カ所設けられている。3カ所の突起部31Mのうちの最も後ろ側の突起部は、シフトレバー10の操作位置に関わらず第2の開口列200Bに対してシフト方向における外側に位置するよう、開口形状Dに対して控え寸法k3=7mmで設けられている。
【0046】
突起部31Mのセレクト方向(左右方向)の位置は、前側の突起部31Fのうちの一方と同じになっている。それ故、前側の突起部31Fの一方と、3カ所の突起部31Mと、で合計4カ所の突起部31がシフト方向に沿って一列に並ぶことになる。前側の突起部31Fと隣の突起部31Mとの間隔S1が16mmで、隣り合う突起部31Mの間隔S2が16mmとなっている。
【0047】
セレクト方向にシフトレバー10を操作可能なシフト装置1の場合、パネル面20において開口部200を取り囲む領域が拡くなり易い。例えば図10における領域20Rは、マニュアルモードに対応する第2の開口列200Bに対してシフト方向前側に隣接すると共に、Dレンジ等が配置された第1の開口列200Aに対してセレクト方向に隣接して形成されている。そして、この領域20Rの裏側には、ポケットのように作用する空間が形成されている。
【0048】
そこで、本例のシフト装置1のスライドカバー3では、シフトレバー10がDレンジに操作されたときに領域20R(パネル面20)に対面する領域300Rに突起部31Mが立設されている。突起部31Mによれば、パネル面20の領域20Rの裏側に、例えば1円玉等の薄い扁平形状の異物がすっぽり収まってしまう状況を回避でき、異物の回収を容易にできる。
なお、その他の構成及び作用効果については、実施例1と同様である。
【0049】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。
【符号の説明】
【0050】
1 シフト装置
10 シフトレバー
2 シフトパネル
20 パネル面
20R 領域
200 開口部
200A、B 開口列
21 センターブロック
2A トップパネル
2B パネルベース
23 ダクト
23A ダクトカバー
23B スロープ
238 ガイドレール
3 スライドカバー
30 丸孔(孔)
300R 領域
31 突起部
31F 前側の突起部
31B 後ろ側の突起部
5 ユニット本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11