IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サンコ テキスタイル イスレットメレリ サン ベ ティク エーエスの特許一覧

<>
  • 特許-繊維品の染色方法及び染色した繊維品 図1
  • 特許-繊維品の染色方法及び染色した繊維品 図2
  • 特許-繊維品の染色方法及び染色した繊維品 図3
  • 特許-繊維品の染色方法及び染色した繊維品 図4
  • 特許-繊維品の染色方法及び染色した繊維品 図5
  • 特許-繊維品の染色方法及び染色した繊維品 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】繊維品の染色方法及び染色した繊維品
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/00 20060101AFI20230911BHJP
   D06P 1/34 20060101ALI20230911BHJP
   D06M 11/74 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
D06P5/00 105
D06P1/34
D06M11/74
【請求項の数】 17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019172501
(22)【出願日】2019-09-24
(65)【公開番号】P2020076188
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】18197202.7
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507343327
【氏名又は名称】サンコ テキスタイル イスレットメレリ サン ベ ティク エーエス
【氏名又は名称原語表記】SANKO TEKSTIL ISLETMELERI SAN. VE TIC. A.S.
【住所又は居所原語表記】Organize Sanayi Bolgesi 3. Cadde 16400 Inegol-Bursa(TR)
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】オズギュル シバノグル
(72)【発明者】
【氏名】イトカ イルマズ
(72)【発明者】
【氏名】デニズ イイドアン
(72)【発明者】
【氏名】グーカン カプラン
(72)【発明者】
【氏名】レイラ ゼンギ
(72)【発明者】
【氏名】アイビエ アクダー
(72)【発明者】
【氏名】アガミレズ ハーミトべリィ
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106120382(CN,A)
【文献】特開昭61-225387(JP,A)
【文献】特表2005-539150(JP,A)
【文献】特開平09-279485(JP,A)
【文献】国際公開第2018/167917(WO,A1)
【文献】特開2006-138050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 1/00-7/00
D06M 11/74
C09D 1/00-10/00,
11/00-13/00,
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン粒子含有組成物を調製し、前記組成物を繊維品に塗布する工程を含む繊維品の染色方法において、前記カーボン粒子の少なくとも一部は、2次元のナノ粒子及び/又は2次元のマイクロ粒子であり、前記カーボン粒子は0.01~80μmの寸法を有しており、前記組成物により、前記カーボン粒子とは異なる少なくとも一種の追加の染料を前記繊維品に塗布するためのアンダーコーティングを形成することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記カーボン粒子は0.1~20.0μm寸法を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カーボン粒子とは異なる前記少なくとも一種の追加の染料により前記繊維品を染色する工程をさらに有することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記染料は、インジゴ又はインジゴ誘導体を含み、前記繊維品が糸の場合にはロープ染色法により、前記繊維品が布の場合には染色法により、前記繊維品に塗布されることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記カーボン粒子含有組成物を、一回以上前記繊維品に塗布することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記繊維品は、糸および布から選択されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも前記追加の染料の部分、または前記カーボン粒子および前記追加の染料の部分を除去する仕上げ工程により、前記布を処理する工程をさらに有することを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記カーボン粒子は、グラフェン、グラファイトおよびこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記カーボン粒子は、前記2次元のナノ粒子および2次元のマイクロ粒子とは異なる非2次元のアモルファスカーボンのナノ粒子をさらに含むことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の方法により得られる染色した繊維品であって、0.01~80μm範囲の寸法を有する複数の2次元のナノ粒子及び/又は2次元のマイクロ粒子を含むアンダーコーティングであって、前記カーボン粒子とは異なる少なくとも一種の追加の染料を前記繊維品に塗布するためのアンダーコーティングが形成されたことを特徴とする染色した繊維品。
【請求項11】
前記カーボン粒子とは異なる前記追加の染料をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の染色した繊維品。
【請求項12】
前記追加の染料は、インジゴ又はインジゴ誘導体を含むことを特徴とする請求項11に記載の染色した繊維品。
【請求項13】
前記繊維品は、少なくともリング染色されていることを特徴とする請求項12に記載の染色した繊維品。
【請求項14】
請求項1013のいずれか1項に記載の繊維品を含む衣服。
【請求項15】
前記追加の染料の部分、又は前記追加の染料および前記カーボン粒子の部分は、前記繊維品から除去されていることを特徴とする請求項14に記載の衣服。
【請求項16】
前記カーボン粒子並びに少なくともバインダー及び/又は補助化学物質を含み、前記カーボン粒子が前記繊維品に塗布されるように構成されている、請求項1~のいずれか1項に記載の繊維品の染色方法に用いる組成物であって、前記カーボン粒子は、0.01~80μm範囲の寸法を有する2次元のナノ粒子及び/又は2次元のマイクロ粒子であり、前記カーボン粒子とは異なる少なくとも一種の追加の染料を前記繊維品に塗布するためのアンダーコーティングを形成することを特徴とする組成物。
【請求項17】
繊維品の染色工程において、染料を塗布するためのアンダーコーティングを形成するための2次元のカーボンナノ又はマイクロ粒子の使用において、前記2次元のカーボンナノ及び/又はマイクロ粒子は0.01~80μmの寸法を有していることを特徴とする使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維品の染色方法およびその方法により染色した繊維品に関する。詳しくは、本発明は、カーボン粒子、すなわちカーボンマイクロ粒子及び/又はカーボンナノ粒子を含む改良した繊維品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
染色は、繊維品を着色するための公知の方法である。繊維品として、繊維,糸,布又は衣服が挙げられる。繊維品の染色の分野において、糸の外側肉厚部に染料を集中させる「リング染色」方法を行うことが知られている。リング染色は、「着古した」又は「色あせた」外観を最終的な衣服に示す必要があるデニムおよびその他のカジュアルな布に用いる糸の染色に特に有用である。
【0003】
公知の染色方法は、長く、幾つもの工程および大量の水を要する。そのような方法の例として、所望の色合いを得るために、幾つもの工程を要するインジゴ染色が挙げられる。さらに、公知の染色方法では、大量の水を使用する。インジゴ染色法における工程数を減らすために、染料で布を前処理して、引き続くインジゴ処理のための下地又はアンダーコートを形成することが提案されている。その「アンダーコート」は、より少ない染色工程で、インジゴの暗い色合いを提供すべきものである。しかし、種々の公知の「アンダーコーティング」方法は、所望の色のスペクトル応答の変化をもたらしてしまうものであった。
【0004】
合成高分子糸の染色方法を改良するために、ナノ粒子の染料を用いることが提案されている。米国特許出願公開第2003/0106160号(特許文献1)は、使用する染料のナノ粒子を用いて、合成繊維品を染色する方法を開示しており、その染料のナノ粒子は、繊維品の繊維の高分子中に拡散し、繊維品中、すなわち糸中に埋め込まれる。好ましくは、繊維の高分子中に拡散し、埋め込まれたナノ粒子の少なくとも約60%~約70%が、高分子の表面の直下に存在している。
【0005】
特許文献1のナノ粒子は、有機又は無機のナノ粒子でよい。使用に好適なナノ粒子は、金属酸化物,ナノサイズの金属,無機顔料,有機顔料,不溶性高分子等からなるものであり、さらに物理的又は化学的にナノサイズの粒子に加工可能な如何なる固体物質からなるでもよい。好ましい一態様では、ナノ粒子はカーボンブラックからなる。ナノ粒子の寸法として、1~100nmが請求されており、8nmの小さいナノ粒子が、より大きな粒子より、良好な結果を与える。適する好ましいナノ粒子は、例えば、銀,銅,鉄,ガラス,金,白金等のナノサイズの粒子である。特許文献1は、染色布に格別の光学的効果を与える2次元の粒子については言及していない。
【0006】
米国特許出願公開第2008/0155764号(特許文献2)は、織布または不織布からなる繊維ウェブを染色する方法を開示している。染料は、カーボンブラック,グラファイト,アルミナ,チタンおよび他の適用可能な金属から一種以上選択される少なくとも一種の成分を含む、溶媒ベースの染料であり、他の適用可能な金属は、磁鉄鉱,酸化ニッケルおよび類似物等の混合酸化物を含む追加の成分である。この発明もまた、インジゴ及び/又はインジゴ誘導体のためのアンダーコーティングについては言及していない。
【0007】
従って、上述の課題を解決又は軽減することができる新しい繊維品の染色方法が求められている。その新しい方法には、リング染色した繊維品を得るための染色方法を簡素化することも求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許出願公開第2003/0106160号
【文献】米国特許出願公開第2008/0155764号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、上記の課題を解決し、公知の方法より簡素かつ経済的であり、リング染色糸を形成するのにも好適な、繊維品の染色方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、請求項1に記載の繊維品の染色方法を提供する本発明により達成される。本発明のもう一つの目的は、請求項9に記載の繊維品を提供することである。本発明のさらにもう一つの目的は、請求項13に記載の衣服を提供することである。本発明のさらにもう一つの目的は、請求項15に記載の繊維品の染色用の組成物を提供することである。本発明のさらにもう一つの目的は、請求項16に記載の使用を提供することである。
【0011】
一実施態様では、本方法は、カーボン粒子、すなわちカーボンナノ粒子及び/又はカーボンマイクロ粒子を含有する組成物を調製する工程を含む。この組成物により繊維品に塗布されるカーボン粒子の少なくとも一部は、「2次元の」粒子、すなわち、「ナノ及び/又はマイクロシート」あるいは「ナノ及び/又はマイクロ表面」の形状を有する層状の粒子である。詳しくは、本発明で有用なカーボン粒子は、0.01~80μm、好ましくは0.1~20.0μm、より好ましくは0.5~2μmの寸法を有する2次元のナノ粒子及び/又は2次元のマイクロ粒子である。好適な2次元のナノ粒子及び/又は2次元のマイクロ粒子は、好ましくはグラフェンフレーク,グラファイトフレークおよびこれらの混合物から選択される、2次元の又はフレーク状の粒子である。カーボン粒子の寸法測定は、光学顕微鏡および原子間力顕微鏡(AFM)又は湿式法によるマルバーン動的光散乱法(乳化剤を含む湿式媒体中に粒子を浮遊させる)を用いて行うことができる。粒子測定の手法は技術常識であり、例えば「粒子特性評価のための基本ガイド」(2015,マルバーンインスツルメンツ社,オンラインで入手可能)に記載されている。
【0012】
用語「2次元のナノ粒子」および「2次元のマイクロ粒子」は、粒子の厚さが数ナノメートルで、長軸の長さが、数十から数百ナノメートルの範囲又は数マイクロメートルであるナノおよびマイクロ粒子を意味する。好適な2次元の粒子は、上記の寸法を有するπ-πスタック型の多層グラフェン又はグラファイトの粒子である。
【0013】
用語「アンダーコート」又は「アンダーコーティング」により、本明細書では、最終的な色を繊維品に適用する前に染色工程で使用されるカーボン粒子、特に2次元のカーボン粒子を用いるコーティング又はコーティング工程を定義する。
【0014】
上記特定の寸法を有するフレーク状のカーボンナノ粒子又はマイクロ粒子は、ロープ又は布中の糸のみについて、少なくとも糸の外側層における、繊維品の糸の繊維に付着し、少なくとも糸の外側肉厚部にカーボン粒子の層が形成されること、すなわち、糸の表面および内部の一部にリングが形成されることが見出された。この層は、その上に追加する染料が付着することができるアンダーコーティング、すなわち下地又は下塗りとして機能する。追加用の染料としては、インジゴが好ましい。
【0015】
可能な一実施形態では、上記組成物は、アンダーコーティングの2次元カーボン粒子によりもたらされる効果を増進するために、アモルファスカーボンナノ粒子のような、他のカーボン粒子(すなわち、上述の2次元のナノ粒子及び/又は2次元のマイクロ粒子以外のカーボン粒子)をさらに含む。例えば、そのような非2次元のカーボンナノ粒子は、アモルファスカーボンのナノ粒子である。そのようなアモルファスカーボンのナノ粒子は、湿式法によるマルバーン動的光散乱法(乳化剤を含む湿式媒体中に粒子を浮遊させる)で測定した場合に、好ましくは1nm~1000nm,より好ましくは1~800nm,さらに好ましくは10~200nmの範囲の寸法を有する。
【0016】
本発明の一実施態様によれば、上記繊維品は、暗い色合いを呈するようにするために、少なくとも一回、好ましくは一回より多く,カーボン粒子の組成物で処理する。好ましくは、この工程は、浸漬-乾燥処理により行う。
【0017】
本発明はまた、上述の方法により得られる繊維品、およびその繊維品から得られる衣服に関する。本説明において、繊維品は、繊維,糸および布を指す。好ましくは、本発明の方法は、糸および布に対して実施する。よって、一実施態様によれば、本発明は、染料および複数のカーボン粒子を含む染色した繊維品に関し、そのカーボン粒子の少なくとも一部は、上述の寸法を有するのが好ましい2次元のナノ粒子及び/又は2次元のマイクロ粒子である。
【0018】
一実施態様では、上記染色した繊維品は、2次元のカーボンナノ粒子および2次元のカーボンマイクロ粒子とは異なる追加の染料を含む。好ましい追加の染料はインジゴであり、最も好ましくは、インジゴは、繊維品の糸の表面および糸断面の外側部にリング状に塗布される。ここで、用語「インジゴ」はインジゴ誘導体を含む。インジゴによる染色は、当技術分野において公知であるので、詳細な説明を省略する。
【0019】
驚いたことに、カーボン粒子、特に上述の寸法を有するグラフェン及び/又はグラファイトの2次元の粒子は、上記繊維品に塗布される染料のためにこれで処理した繊維品に、優れたアンダーコーティング又は下地を形成することができることを発見した。よって、上記アンダーコーティングは、処理した布のスペクトル応答の変化を伴わずに、追加する染料によるさらなる染色工程で、暗い色合いを達成するために用いることができる。換言すると、上記カーボン粒子は、その上に別の染料を追加することができる「下塗り」として、使用することができる。本発明に従ってカーボンの2次元粒子で事前に処理した布又は繊維品を、例えば色Aを付けるために染料で染色すると、布又は繊維品が示す色Aの色合いは、ナノ粒子のアンダーコートが存在しない場合に同量の染料で同じ布に対して得られる同色Aの色合いより暗くなる。アモルファスカーボンのナノ粒子、特に1nm~1000nm,より好ましくは1~800nm,さらに好ましくは10~200nmの範囲の寸法を有するものを、暗い又は黒い染料を用いる代わりに、2次元のカーボンナノ及び/又はマイクロ粒子のアンダーコーティングに加えて、布を染色するために使用すると、アンダーコーティング効果が向上することが示された。単一の組成物を用いて所望の暗い色を提供するために、アモルファスカーボンのナノ粒子は、2次元のカーボンナノ及びマイクロ粒子とともに有利に使用することができる。
【0020】
従って、本発明の一側面は、カーボンの2次元ナノ及び/又はマイクロ粒子を用いる、請求項1に記載の繊維品の染色方法を提供することである。この方法は、2次元のナノ及び/又はマイクロ粒子、好ましくは2次元のマイクロ粒子を用いる点において、従来技術とは異なる。一実施態様によれば、アモルファスカーボンのナノ粒子並びに2次元のカーボンマイクロ粒子及び/又はナノ粒子、好ましくはマイクロ粒子を含む組成物で処理した繊維品は、必ずしも、異なる「従来の」染料を用いる、さらなる染色処理に供さなくてもよい。本発明のもう一つの目的は、請求項16に記載の、染色工程におけるカーボンの2次元マイクロ及び/又はナノ粒子の使用である。
【0021】
本発明のもう一つの側面は、2次元のカーボン粒子、好ましくは上述の2次元のマイクロ粒子を含む組成物を調製し、得られた組成物を繊維品に塗布する工程を含む染色方法において、上記2次元のナノ粒子および2次元のマイクロ粒子とは異なる追加の染料により上記繊維品を染色する工程をさらに有することを特徴とする、請求項3に記載の染色方法を提供することである。本発明のさらにもう一つの側面は、カーボン粒子並びに少なくともバインダー及び/又は補助化学物質を含み、上記カーボン粒子が繊維品に塗布されるように構成されている組成物であって、上記カーボン粒子が、0.01~150μm、好ましくは0.1~20.0μm、より好ましくは0.5~2μmの範囲の寸法を有する2次元のナノ粒子及び/又は2次元のマイクロ粒子であることを特徴とする組成物に関する。
【0022】
本発明の2次元カーボン粒子含有組成物は、2次元のカーボン粒子,バインダーおよび補助化学物質を含む。好適なバインダーとして、例えばアクリレート,スチレンアクリレート,スチレン,アクリル酸エステル,アクリロニトリル等をベースとするものが挙げられる。好適な補助化学物質として、例えば増ちょう剤,湿潤剤,バインダー,柔軟剤および消泡剤等が挙げられる。2次元のカーボン粒子は、グラファイト,グラフェン等のカーボン源から得られ、機械的および化学的剥離により製造することができる。アモルファスカーボン粒子および好適な補助化学物質を含む組成物の例は、米国特許出願公開第2003/0106160号に開示されているので、詳細についてはこれを参照されたい。
【0023】
糸及び/又は布に塗布する組成物のカーボン含有量は、0.1重量%~30重量%、好ましくは1重量%~20重量%、より好ましくは5重量%~15重量%の範囲である。本発明の方法により処理することができる繊維品は、主として、特にセルロース,再生セルロース,竹,カポック,麻,亜麻,サイザル麻等の天然繊維からなるものである。さらに、ポリエチレンテレフタレート,ポリアミド(PA6,PA66,PA612,PA11を含む),およびこれらの混合物,並びに天然繊維と合成繊維の混合物からなる合成繊維,糸及び/又は布もまた、アンダーコートの効果が得られる。
【0024】
本発明はまた、従来技術に対して様々な優位性を提供する。実際、糸の外側層に2次元カーボン粒子のアンダーコーティングを形成すると、糸及び/又は布の機械的特性を変えることなく、コーティングの非常に薄い層により暗い色合いを達成することができ、同時に、他の化学物質に対するカーボンの不活性な性質のため、染料のような他の化学物質がさらに塗布されて繊維品に付着することを可能にする。まとめると、カーボン粒子は、2次元のナノ粒子及び/又は2次元のマイクロ粒子を含み、0.01~80μm、好ましくは0.1~20.0μm、より好ましくは0.5~2μmの寸法を有するのが有利である。これらのカーボン粒子は、染料のためのアンダーコーティングとして用いることができる。染料は、従来の染料でよく、インジゴ又は他の染料等が挙げられる。染料は、アンダーコーティングを塗布した後、繊維品に塗布される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
非限定的な実施例による添付の図面を参照して、本発明の特徴をさらに詳細に説明する。
【0026】
図1図1は、本発明の組成物により、糸を連続的に処理した効果を示す模式図である。
図2図2は、二種が本発明によるもの、一種が比較例によるものである三種の布を示す写真である。
図3図3は、図2の各布のスペクトルの帰属を示すグラフである。
図4図4は、本発明の方法により、どのようにリング効果が維持されるかを示すために、撚りを戻した糸を示す模式図である。
図5図5は、本発明による布と、二種の参照布との対比を示す写真である。
図6図6は、図5の三種の布の明度値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
上述のように、本発明の方法は、カーボン粒子含有組成物の調製およびその組成物による繊維品の処理を提供する。繊維品に好適な別の公知の染料で、処理した繊維品を染色する追加の工程も、本発明により提供される。追加の染色工程は、好ましくは2次元のナノ及び/又はマイクロ粒子を含む組成物で処理した繊維品に行う。繊維品はまた、2次元のナノ及び/又はマイクロ粒子並びに他のカーボン粒子、例えばアモルファスカーボンのナノ粒子を含む組成物で処理してもよい。
【0028】
好ましくは、繊維品は糸および布から選択される。より好ましくは、繊維品は糸である。糸は、ロープ染色法により、本発明の組成物を用いて処理することができる。処理した糸は、次いで、リング染色効果を得るためにインジゴ染色に供し、布を形成するために用いることができる。
【0029】
本発明の組成物で繊維品を処理することにより、例えば図1に示すように、糸の外側肉厚部又は外側層に本質的に位置する、カーボン粒子からなる「リング」の形状のアンダーコーティング層が得られる。図1はまた、カーボン粒子組成物で糸又は布の処理を繰り返した結果も示す。灰色/黒色の暗い色合いが漸次得られた。カーボン粒子によるアンダーコーティングは、好ましくは、それ自体は公知である浸漬染色法により行う。
【0030】
図2および3は、三種の異なる布、すなわち、布A,BおよびC間の比較を示す。布Aは、2次元のカーボン粒子を含有する組成物を用い、かつインジゴによる追加の染色工程を行うことにより、本発明の方法で染色した布であり、布Bは、従来法によりインジゴのみで染色した布であり、布Cは、追加の染料による処理を伴わずに、本発明の組成物のみで処理した布である。図3は、データカラー分光光度計(K/Sは周波数の関数である)から得られた布A~CのK/S読取り値を示す。点線は、本発明のカーボン粒子の組成物で処理した淡褐色の布CのK/S値を示す。
【0031】
2次元のカーボン粒子、特に2次元のマイクロ粒子は、可視スペクトル領域において、生地による吸収をほぼフラットにすることが分かる。1点鎖線は、布B、すなわち、淡褐色の布に施した通常のインジゴ染色のスペクトル応答を示す。実線は、布A、すなわち、カーボン源でアンダーコートを形成した淡褐色の布Cをインジゴで染色した布のK/S値を示す。アンダーコートによるフラットな吸収の結果、所望の色のスペクトル応答の変化を伴わず、かつ従来の染色システムおよび工程を用いた場合に必要となるであろう、染料自体(本ケースではインジゴ)の高濃度化を伴わずに、暗い色合いが達成される。
【0032】
図4は、カーボンの2次元粒子で処理し、さらにインジゴで染色した糸における、本発明の方法で得られるリング効果を模式的に示す。この図面は、染色された外側繊維および白色の内側コアがよく見える、部分的に撚りが戻されたカーボン+インジゴ染色糸を示す。本発明により得られる、増進されたリング染色効果のため、本発明による布は、洗浄、並びにすすぎ洗浄、酵素洗浄およびストーンウォッシュを含む他の既知の仕上げ処理に対して、既知の布より幅広い種類の効果を提供することができる。
【実施例1】
【0033】
本発明の組成物を用いて、5枚の布を連続的な浸漬-乾燥処理に供し、カーボン粒子、すなわちグラフェン粒子を含む、異なるアンダーコーティングを各々形成した。カーボン粒子を含むアンダーコーティングは、浸漬-乾燥法により行った。組成物中のグラフェン濃度を3.7g/Lとした。トップ染料(すなわち追加の染料)として用いた製剤中のインジゴの濃度は、インジゴ含有製剤を基準として1.10重量%とした。グラフェン粒子として、0.5~2.0μmの範囲の寸法を有する2次元のナノおよびマイクロ粒子を用いた。グラフェン組成物は水をベースとし、ナノおよびマイクロ粒子に加えて、組成物には、2g/Lの乳化剤、10g/Lのバインダー、5g/Lの増ちょう剤、5g/Lの湿潤剤、20g/Lの柔軟剤および0.5g/Lの消泡剤を添加した。
全てのサンプルを、同じグラフェン粒子組成物で処理した。布サンプル#1は、一回のみ浸漬-乾燥処理し、サンプル#2は二回、サンプル#3は三回、サンプル#4は四回、サンプル#5は五回、各々浸漬-乾燥処理した。
次いで、5個のサンプル全てを、同じインジゴ染色処理に供した。同じインジゴ染色処理を非処理の布(参照布)にも実施した。
絶対値Lを測定した(データカラー分光光度計により検出)。参照布のL値は25.9であり、サンプル1~5のL値は25.0から23.8まで減少しており、浸漬-乾燥処理は、それぞれの連続的な処理により、暗い色合いを布に与えた。
【0034】
図5は、参照であるインジゴ染色布Fを含む三種の布の写真を示す。布Fは、前処理をせずに、布をインジゴ染色することにより得られたものである。布Eは、本発明の処理に供した布、すなわち、本実施例で開示のグラフェンの2次元粒子によるアンダーコーティングを有し、インジゴ染色した布である。参照布Dは、カーボン粒子を含まない他の化学物質、すなわち補助化学物質(湿潤剤、柔軟剤等)によりインジゴのためのアンダーコーティングを形成する処理に供したものである。
【0035】
図6から明らかなように、明度値(L)は、カーボン源の存在に由来する布の暗い色合いを示している。暗色化した布(E)は、参照のインジゴ染色布(F)より、8.4%暗い色合いを示し、参照布は(D)は、参照より2.2%明るい色合いを示した。
【0036】
以上より、染料を塗布する前に、繊維品を処理するために、2次元のカーボンマイクロ粒子およびナノ粒子(0.5~2.0μm、すなわち500nm~2.0μmの好ましい範囲の寸法を有する2次元の粒子)を使用することが、染色方法に様々な優位性をもたらすことは、明らかである。すなわち、2次元のカーボンナノ及び/又はマイクロ粒子により形成される着色用の下地又はアンダーコーティングのため、染色工程中に使用する染料、水および化学物質の各消費量の低減化がもたらされる。同時に、繊維品の最終的な色は、本発明のカーボン粒子の使用によって損なわれない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6