(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】線状材の巻き取り方法及び整列巻きコイル
(51)【国際特許分類】
B65H 54/28 20060101AFI20230911BHJP
B65H 55/04 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
B65H54/28 K
B65H55/04
(21)【出願番号】P 2019177388
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】中本 将之
(72)【発明者】
【氏名】大川 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】原田 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】中浦 祐典
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-239528(JP,A)
【文献】特開2004-002012(JP,A)
【文献】特開平08-081126(JP,A)
【文献】特開昭56-065773(JP,A)
【文献】特開昭57-081058(JP,A)
【文献】特開2015-070016(JP,A)
【文献】実開平07-035456(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 54/00-54/553
55/00-55/04
61/00-63/08
75/00-75/50
H01F 41/00-41/04
41/08
41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻胴部の一方の端部に第1鍔部が設けられ、他方の端部に第2鍔部が設けられたボビンを回転させながら線状材を前記巻胴部の幅方向に移動して整列巻きする線状材の巻き取り方法であって、
前記ボビンにおける前記線状材の巻き取り開始端が配置される位置を前記巻胴部の周方向における0°位置とした場合において、前記ボビンの前記第1鍔部の端面に前記線状材の巻き取り開始端を当接させた状態で前記線状材を整列巻きし、該線状材の前記0°位置における最終巻き開始位置と前記第2鍔部の端面との間に前記線状材の外径の0.65~0.85倍の隙間を空けた状態で前記線状材を巻き取り、
前記0°位置において、1層目の上に形成される2層目の巻き取り開始位置を、前記第2鍔部の端面に当接させた状態で、前記線状材を前記1層目の外面の前記線状材間の凹部上に配置するように整列巻きして前記1層目と同じ巻き数の前記2層目を形成し、以後同様にそれ以降の層を積層することにより複数層を形成することを特徴とする線状材の巻き取り方法。
【請求項2】
円柱状の巻胴部と、前記巻胴部の一方側の端部に形成される第1鍔部と、他方側の端部に形成される第2鍔部とを備えるボビンと、整列巻きにより前記巻胴部に巻き付けられた線状材とを備える整列巻きコイルであって、
前記線状材は、各層の巻き数nが同じとなるように複数層に巻回されており、
前記巻胴部に巻き付けられた前記線状材は、1層目において、前記第1鍔部に当接しているとともに、前記第2鍔部との間に前記線状材の外径dの0.65~0.85倍の隙間を有し、
前記巻胴部に巻き付けられた前記線状材は、2層目において、前記1層目の外面の前記線状材間の凹部に配置するように整列巻きされており、前記第2鍔部に当接しているとともに、前記線状材間の整列方向の隙間の合計が前記外径dの0.65~0.85倍である
ことを特徴とする整列巻きコイル。
【請求項3】
巻胴部の一方の端部に第1鍔部が設けられ、他方の端部に第2鍔部が設けられたボビンの前記巻胴部に整列巻きによ
り複数層
に巻回された線状材からなる整列巻きコイルであって、前記複数層のそれぞれの巻き数は、各層において同じであり、
前記第1鍔部の端面または前記第2鍔部の端面から前記線状材の外周端までの距離で表される深さ寸法(mm)を有する前記線状材の整列方向に形成された側面側凹部
を有し、前記側面側凹部の深さが最大となる部分における前記深さ寸法が前記線状材の外径d(mm)×(0.65~0.85)であることを特徴とする整列巻きコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材や管材等の線状材のボビン等への巻き取り方法及び巻き取った後の整列巻きコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアコンなどの空調用冷凍機の伝熱管等に用いられる銅又は銅合金管や、線状のアルミニウム又はアルミニウム合金材は、製造工程において、例えば、コイル状に巻き取られた状態で保管され、また搬送される。このようなボビン等に巻き取られた線材や管材等の線状材(整列巻線状材)として、例えば、特許文献1に記載のLWC(レベルワウンドコイル:Level Wound Coil)が知られている。
【0003】
この特許文献1には、銅又は銅合金管を整列巻きして1層目コイルを形成し、その後、この1層目コイルの上に2層目コイルを1層目コイルの外面の銅又は銅合金管間の凹部上に配置した状態で整列巻きし、以後同様にして、2層目コイルの上に3層目コイル、及びそれ以降のコイルを順次整列巻きして積層した複数層のコイルからなり、一層あたりの巻き数が多く設定されている。このように一層あたりの巻き数が多くなると、銅又は銅合金管が絡まりやすくなるため、その外周面にシリコン油含む油を塗布することで、銅又は銅合金管が絡まることを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の構成では、奇数層の銅管(線状材)の巻き数をnとした場合に、偶数層の線状材の巻き数をn,n-1,n+1のいずれかにする例が示されているが、奇数層及び偶数層のいずれにおいても、巻き数を同じ(つまり、奇数層目及び偶数層目の巻き数がいずれもn)とすることが一般的である。このような複数層の巻き数を同じとする一般的な線状材の巻き取り方法について説明する。
【0006】
図7は、ボビン10の軸心を中心として巻胴部11の周方向における線状材20の巻き取り開始端が配置される位置を0°とした場合において、0°位置におけるボビン10に巻き取られた状態の線状材20のボビン10の軸方向に沿う断面図であり、
図8は、ボビン10の軸心を中心として巻胴部11の周方向における巻き取り開始端からボビン10の巻胴部11に1/4巻き進めた90°位置の断面図であり、
図9は、ボビン10の軸心を中心として巻胴部11の周方向における巻き取り開始端からボビン10の巻胴部11に1/2巻き進めた180°位置の断面図であり、
図10は、ボビン10の軸心を中心として巻胴部11の周方向における巻き取り開始端からボビン10の巻胴部11に3/4巻き進めた270°位置の断面図である。つまり、
図7~
図10では、90°ごとの断面が示されている。
なお、0°位置をn巻きそれぞれの巻き取り開始位置とし、最終巻きについては、最終巻き取り開始位置とする。
【0007】
なお、
図7~10は、説明をわかりやすくするため、各層4列巻きの図としており、
図7~10の線状材20の中央に付された数字は、位置の変化を番号の小さい順(昇順)で示したものである。また、
図7~10に一点鎖線で示した隙間k1は、1つの幅が線状材20の外径の1/4の大きさに設定され、例えば、隙間k1が2つ並んで配置されている場合には、その隙間の大きさは、線状材20の外径の1/2であることを示している。
【0008】
0°位置では、ボビン10に巻き取られた状態の線状材20は、
図7に示すように、1層目においては、
図7の右側から左側に整列巻きされ、線状材20(No.13)の端部とボビン10の第2鍔部13の端面130との間には、線状材20の外径の1/2の隙間が形成されている。また、2層目においては、
図7の左側から右側に整列巻きされ、線状材20(No.29)の端部とボビン10の第1鍔部12の端面120との間には、線状材20の外径の1/2の隙間が形成されている。さらに、3層目においては、
図7の右側から左側に整列巻きされ、線状材20(No.45)の端部とボビン10の第2鍔部13の端面130との間には、線状材20の外径の1/2の隙間が形成されている。
【0009】
つまり、0°位置では、各層の最終巻き開始位置と、各鍔部12,13の端面120,130との間には、いずれも1/2の隙間が形成され、複数層のいずれにおいても、同じ巻き取り数(4巻き)となっている。これは、
図9に示したボビン10の軸心を中心として巻胴部11の周方向における180°位置においても、同様である。
【0010】
しかしながら、90°位置では、ボビン10に巻き取られた線状材20は、
図8に示すように、1層目及び3層目においては、巻き数が4巻きであるものの、2層目においては、巻き数が3巻きと1巻き少なく、また2層目を構成する線状材20(No.18)と第2鍔部13の端面130との間には、線状材20の外径の3/4の隙間が形成されるとともに、線状材20(No.26)と第1鍔部12の端面120との間には、線状材20の外径の3/4の隙間が形成されている。この
図8において、線状材20(No.30)は、3層目の巻き取り開始位置に巻き取られているものの、その位置から1/4周巻き進めた180°位置では、
図9の二点鎖線で示したように、2層目に生じる隙間が線状材20の外径と同じ幅となるため、この隙間に線状材20(No.31)が落とし込まれて2層目の一部を構成している。
【0011】
このように一層上の層から線状材20の一部が落とし込まれる(段落ちする)と、線状材の巻き取りトルクが不安定となることから、線状材が座屈したり、再度巻き出す際に引っかかったりする問題が生じやすい。また、このような問題を回避するため、線状材の巻き取り時に複雑な制御をおこなうことも考えられるが、コストも高くなることから、導入は容易ではない。
【0012】
また、90°位置では、3層目の線状材20(No.42)と線状材20(No.38)との間及び線状材20(No.34)と線状材20(No.30)との間に線状材20の外径の1/4の隙間が形成され、270°位置では、2層目の線状材20(No.16)と線状材20(No.20)との間及び線状材20(No.24)と線状材20(No.28)との間に線状材20の外径の1/4の隙間が形成されている。一方、0°位置及び180°位置では、各層の隙間は、第1鍔部及び第2鍔部のいずれかの端面との間に形成され、線状材20間には形成されていない。このように、0°位置及び180°位置では、各層を構成する線状材20間において隙間の分散が十分でないため、整列巻きコイルから線状材20を取り出す際に、線状材20の抵抗が高まり、引っかかったりする可能性がある。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、線状材を容易に巻き取りできる線状材の巻き取り方法及び線状材を取り出す際に線状材が絡まることを抑制できる整列巻きコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の線状材の巻き取り方法は、巻胴部の一方の端部に第1鍔部が設けられ、他方の端部に第2鍔部が設けられたボビンを回転させながら線状材を前記巻胴部の幅方向に移動して整列巻きする線状材の巻き取り方法であって、前記ボビンにおける前記線状材の巻き取り開始端が配置される位置を前記巻胴部の周方向における0°位置とした場合において、前記ボビンの前記第1鍔部の端面に前記線状材の巻き取り開始端を当接させた状態で前記線状材を整列巻きし、該線状材の前記0°位置における最終巻き開始位置と前記第2鍔部の端面との間に前記線状材の外径の0.65~0.85倍の隙間を空けた状態で前記線状材を巻き取り、前記0°位置において、1層目の上に形成される2層目の巻き取り開始位置を、前記第2鍔部の端面に当接させた状態で、前記線状材を前記1層目の外面の前記線状材間の凹部上に配置するように整列巻きして、前記1層目と同じ巻き数の前記2層目を形成し、以後同様にそれ以降の層を積層することにより複数層を形成する。
【0015】
本発明では、線状材をボビンに整列巻きして巻き付ける際に、1層目の巻き取り開始端を第1鍔部に当接させた状態で整列巻きし、1層目の最終巻き開始位置と第2鍔部の端面との間に線状材の外径の0.65~0.85倍の隙間を空けた状態で線状材を巻き取ると、上記0°位置においては、2層目の巻き取り開始位置が上記隙間上に位置し、その位置から1周巻き取られた後の線状材は、1層目の線状材間の凹部上に配置される。このため、この隙間上に配置される線状材とこれに隣接する線状材との間には、線状材の外径の1/4の隙間が形成される。この隙間ができることにより、これら線状材間の凹部上(隙間上)に巻き取られる3層目の線状材とこれに隣接する線状材との間にも線状材の外径の1/4の隙間が形成される。これは、3層目以上の層においても同様である。つまり、0°位置において上記隙間を空けて1層目を形成すると、複数層を構成する各層において、線状材間に隙間が生じる。また、各層において形成される隙間が線状材の外径の3/4を超えることがないため、一層下の段に線状材の一部が完全に落とし込まれることを抑制でき、巻き取りトルクを略一定にできる。このため、線状材が座屈したり、再度巻き出す際に引っかかったりすることを抑制できる。
【0016】
本発明の整列巻きコイルは、線状材が整列巻きにより巻き付けられた複数層からなり、前記複数層のそれぞれの巻き数は、各層において同じであり、前記線状材の外径をd(mm)、前記線状材の巻き数をnとした場合に、整列方向の幅寸法(mm)は、d×n+(0.65~0.85)×dである。
【0017】
本発明では、整列巻きコイルの線状材の整列方向の幅寸法(mm)は、線状材の外径d(mm)×巻き数n+(0.65~0.85)×線状材の外径d(mm)であることから、各層において線状材間に隙間が形成されており、巻き取り時に一層上の層から線状材が落ちたりしていないので、整列巻きコイルを構成する線状材は、座屈したり、再度巻き出す際に引っかかった状態になったりしていない。このため、内側の層から線状材を巻き取りから解いて使用する際に、線状材が絡まることがなく、適切に線状材を使用できる。
【0018】
本発明の整列巻きコイルは、線状材が整列巻きにより巻き付けられた複数層からなり、前記複数層のそれぞれの巻き数は、各層において同じであり、前記線状材の整列方向に形成された側面側凹部の深さ寸法(mm)の最大値は、前記線状材の外径d(mm)×(0.65~0.85)である。
【0019】
本発明では、整列巻きコイルの側面に形成された側面側凹部の深さ寸法(mm)の最大値が線状材の外径d×(0.65~0.85)であるため、巻き取った後の整列巻きコイルの外観を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、線状材を容易に巻き取りでき、また、整列巻きコイルを適切に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態のボビンに巻き取られた状態の線状材を示す図である。
【
図2】
図1の線状材が巻き取られたボビンを鍔部側から見た平面図である。
【
図3】
図2のA位置におけるボビンに巻き取られた状態の線状材の断面図である。
【
図4】
図2のB位置におけるボビンに巻き取られた状態の線状材の断面図である。
【
図5】
図2のC位置におけるボビンに巻き取られた状態の線状材の断面図である。
【
図6】
図2のD位置におけるボビンに巻き取られた状態の線状材の断面図である。
【
図7】従来例におけるボビンの軸心を中心として巻胴部の周方向の0°位置におけるボビンに巻き取られた状態の線状材の断面図である。
【
図8】従来例におけるボビンの軸心を中心として巻胴部の周方向の90°位置におけるボビンに巻き取られた状態の線状材の断面図である。
【
図9】従来例におけるボビンの軸心を中心として巻胴部の周方向の180°位置におけるボビンに巻き取られた状態の線状材の断面図である。
【
図10】従来例におけるボビンの軸心を中心として巻胴部の周方向の270°位置におけるボビンに巻き取られた状態の線状材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る線状材の巻き取り方法及び整列巻きコイルの実施形態について、図面を用いて説明する。なお、
図1は、実際には、線状材20が複数層にわたってボビン10に形成されているが、説明をわかりやすくするため、線状材20の一層目のみが形成された状態を示しており、中央部分については、図示を省略している。また、
図3~6においては、線状材20の巻き取り順をわかりやすくするため、各層4列ずつ巻き取る例を示しているが、実際には任意の巻き列数となる。
【0023】
[線状材の構成]
本実施形態の線状材20は、例えば、銅又は銅合金により構成される管材や、アルミニウム又はアルミニウム合金により構成される線材からなる。なお、これら線材及び管材の組成は、銅やアルミニウムに限らず、ボビン10に巻き付けが可能な材料であればよい。また、線状材20の外径は、3mm以上14mm以下とされている。例えば、線状材20が銅又は銅合金からなる管材により構成されている場合には、後述する巻き取り方法によりボビン10に巻き取られた後、加熱されることにより、レベルワウンドコイルとして用いられる。
【0024】
このような線状材20は、ボビン10にコイル状に巻き付けられ、最終的にはボビン10から外されて出荷される。つまり、線状材20は、ボビン10に巻き取られた形状、すなわち、整列巻きコイル20A(
図3~6参照)として出荷される。この整列巻きコイル20Aは、線状材20が整列巻きにより巻き付けられた複数層からなり、複数層のそれぞれの巻き数は、各層において同じとされ、線状材20の外径をd(mm)、線状材20の巻き数をnとした場合に、整列巻きコイル20A(各層)の整列方向の隙間を含む幅寸法は、d×n+(0.65~0.85)×dに設定されている。換言すると、整列巻きコイル20Aの線状材20の整列方向に形成された側面側凹部21の深さ寸法(mm)の最大値は、線状材の外径d(mm)×(0.65~0.85)に設定される。この側面側凹部21の深さ寸法の最大値は、例えば、
図3における第2鍔部13の端面130から線状材20(No.13)の外周端までの距離や、
図4における第1鍔部12の端面120から線状材20(No.30)の外周端までの距離をいう。
なお、整列巻きコイル20Aの整列方向の隙間を含む幅寸法は、d×n+(0.65~0.85)×dであることとしたが、この式における(0.65~0.85)×dは、整列方向の隙間である。この整列巻きコイル20Aがボビン10に巻き付けられている状態において、1層目における(0.65~0.85)×dは、第2鍔部13の端面と線状材20の最終巻き開始位置との間における巻胴部11の幅方向における隙間を意味する。また、上記式の(0.65~0.85)を定数αという。
【0025】
[ボビンの構成]
ボビン10は、円柱状の巻胴部11と、巻胴部11の一方側の端部に形成される第1鍔部12と、他方側の端部に形成される第2鍔部13とを備えている。このボビン10は、巻胴部11の軸心を中心に回転可能に構成されており、巻胴部11には、線状材20が巻き付けられる。また、第1鍔部12及び第2鍔部13は、円盤状に形成され、それぞれが巻胴部11を挟んで対向して配置される。これら第1鍔部12及び第2鍔部13の少なくとも一方は、巻胴部11に着脱自在に構成されている。これにより、線状材20が巻き付けられて、コイル状となった整列巻きコイル20をボビン10から取り外すことが可能となる。
【0026】
[線状材の巻き取り方法]
本実施形態では、ボビン10を回転させながら線状材20を巻胴部11の幅方向(軸方向)に移動して巻き付けることにより、線状材20をボビン10の巻胴部11に軸方向に沿って整列させた状態に巻き取る。なお、以下では、この巻き取り方法を整列巻きとする。具体的には、
図1に示すように、ボビン10の一方側の鍔部12の端面120に線状材20の巻き取り開始端を当接させた状態で線状材20を整列巻きして1層目を形成する。この場合、線状材20は、ボビン10の巻胴部11を一周するごとに、線状材20の外径と同じ距離幅方向に移動させながらボビン10に巻き取られる。このため、線状材20が半周巻き取られた部分におけるボビン10の第1鍔部12の端面120と線状材20との間の距離w1は、
図1に示すように、線状材20の外径の1/2となる。また、線状材20の1層目における最終巻き開始位置と、第2鍔部13の端面130との間には、線状材20の外径dの0.65~0.85倍の隙間を空けた状態とされる。例えば線状材20の外径dが7.00mmの場合、端面130と最終巻き開始位置の線状材20との距離w2は、4.55mm~5.95mmとされる。この場合、最終巻き開始位置から半周巻き取られた部分における第2鍔部13の端面130と線状材20との距離w3は、線状材20の外径の1/4となる。
【0027】
そして、1層目の上に2層目を形成する。この2層目を構成する線状材20の巻き取り開始端は、第2鍔部13の端面130に線状材20を当接させた状態で、1層目の外面の線状材20間の凹部上に配置するように線状材20を整列巻きすることにより形成する。この2層目では、2層目を構成する線状材20間に生じる整列方向(上記軸方向)の隙間の合計幅を、線状材20の外径dの0.65~0.85倍とする。そして、2層目の上に形成される3層目の形成を開始し、以後同様に3層目以上の層を積層することにより複数層を形成する。この場合、複数層のそれぞれの巻き数は、同じとされる。つまり、複数層のうち、奇数層及び偶数層のいずれにおいても巻き数が同じに設定されている。
【0028】
ここで、
図3~6を用いて線状材20の巻き取り方法について、詳しく説明する。
図3は、
図2に示すA位置(ボビン10の軸心を中心として巻胴部11の周方向における0°位置であり、線状材20の巻き取り開始端が配置される位置のボビン10に巻き取られた状態の線状材20のボビン10の軸方向に沿う断面図であり、
図4は、
図2に示すB位置(ボビン10の軸心を中心として巻胴部11の周方向における90°位置であり、線状材20の巻き取り開始端からボビン10の巻胴部11に1/4周巻き進めた位置)の断面図であり、
図5は、
図2に示すC位置(ボビン10の軸心を中心として巻胴部11の周方向における180°位置であり、線状材20の巻き取り開始端からボビン10の巻胴部11に1/2周巻き進めた位置)の断面図であり、
図6は、
図2に示すD位置(ボビン10の軸心を中心として巻胴部11の周方向における270°位置であり、線状材20の巻き取り開始端からボビン10の巻胴部11に3/4周巻き進めた位置)の断面図である。つまり、
図3~
図6では、90°ごとの断面が示されている。
【0029】
なお、上述したように
図3~6は、説明をわかりやすくするため、各層4列巻きの図としているが、実際には任意の巻き列数となる。また、複数層も3層としているがこれに限らない。また、
図3~6の線状材20の中央に付された数字は、位置の変化を番号の小さい順(昇順)で示したものである。また、
図3~6に一点鎖線で示した隙間k1は、1つの幅が線状材20の外径の1/4の大きさに設定され、例えば、隙間k1が3つ並んで配置されている場合には、その隙間の大きさは、線状材20の外径の3/4であることを示している。
【0030】
まず、
図3に示すように、線状材20の巻き取り開始端を第1鍔部12の端面120に当接させた状態で整列巻きを開始する。この線状材20の巻き取り開始端(No.1)を端面120に当接させた状態で、ボビン10の巻胴部11に1/4周巻き進めると、
図4に示す状態となる。この
図4における線状材20(No.2)と、第1鍔部12の端面120との隙間は、線状材20の外径の1/4とされる。この
図4に示す状態から、線状材20を巻胴部11にさらに1/4周巻き進めると、
図5に示す状態となる。この
図5における線状材20(No.3)と、第1鍔部12の端面120との隙間は、線状材20の外径の1/2とされる。
【0031】
この
図5に示す状態から、線状材20を巻胴部11にさらに1/4周巻き進めると、
図6に示す状態となる。この
図6における線状材20(No.4)と第1鍔部12の端面120との隙間は、線状材20の外径の3/4とされる。そして、
図6に示す状態から、線状材20を巻胴部11にさらに1/4周巻き進めると、
図3に示す状態となる。すなわち、線状材20を巻胴部11に1周巻き取ると、線状材20は、線状材20の外径と同じだけ巻胴部11の幅方向にずれて巻き取られることとなり、この線状材20の位置は、No.5の位置となる。この動作を繰り返すことにより、ボビン10を回転させながら、線状材20を
図3~6の右側から左側に移動して巻き付けて線状材20の1層目を形成する。なお、線状材20の1層目における最終巻き開始位置(No.13)と、第2鍔部13の端面130との間には、線状材20の外径の3/4倍の隙間が形成されている。
【0032】
2層目は、
図3に示すように、線状材20(No.17)の端部を第2鍔部13の端面130に当接させた状態で、整列巻きを開始する。そして、
図3に示す状態から、ボビン10の巻胴部11に1/4周巻き進めると
図4に示す状態となる。この2層目においては、線状材20の2層目の開始位置(No.17)及び1/4周巻き進めた位置(No.18)は同じ位置とされている。そして、
図4に示す状態から、線状材20を巻胴部11にさらに1/4周巻き進めると、
図5に示す状態となる。この
図5における線状材20(No.19)と、第2鍔部13の端面130との隙間は、線状材20の外径の3/4とされるとともに、1層目の線状材20(No.15及びNo.11)間の凹部の上側に位置している。
【0033】
そして、
図5に示す状態から、線状材20を巻胴部11にさらに1/4周巻き進めると、
図6に示す状態となる。
図6における線状材20(No.20)と、第2鍔部13の端面130との隙間は、線状材20の外径の1/2とされている。そして、
図6に示す状態から、線状材20を巻胴部11にさらに1/4周巻き進めると、
図3に示す状態となり、線状材20はNo.21の位置に配置される。この動作を繰り返すことにより、ボビン10を回転させながら、線状材20を
図3~6の左側から右側に移動して巻き付けて2層目を形成する。なお、線状材20の2層目における最終巻き開始位置(No.29)と、第1鍔部12の端面120との間には、線状材20の外径の1/2倍の隙間が形成されている。
【0034】
3層目は、
図3に示すように、線状材20(No.33)の端部を第1鍔部12の端面120に当接させた状態で、整列巻きを開始する。そして、
図3に示す状態から、ボビン10の巻胴部11に1/4周巻き進めると
図4に示す状態となる。この3層目においては、線状材20の3層目の開始位置(No.33)及び1/4周巻き進めた位置(No.34)は同じ位置とされている。そして、
図4に示す状態から、線状材20を巻胴部11にさらに1/4周巻き進めると、
図5に示す状態となる。この
図5における線状材20(No.35)と、第1鍔部12の端面120との隙間は、線状材20の外径の1/2とされるとともに、2層目の線状材20(No.27及びNo.31)間の凹部の上側に位置している。
【0035】
そして、
図5に示す状態から、線状材20を巻胴部11にさらに1/4周巻き進めると、
図6に示す状態となる。
図6における線状材20(No.36)と、第1鍔部12の端面120との隙間は、線状材20の外径の1/2とされている。そして、
図6に示す状態から、線状材20を巻胴部11にさらに1/4周巻き進めると、
図3に示す状態となり、線状材20はNo.37の位置に配置される。この動作を繰り返すことにより、ボビン10を回転させながら、線状材20を
図3~6の右側から左側に移動して巻き付けて3層目を形成する。なお、線状材20の3層目における最終巻き開始位置(No.45)と、第1鍔部12の端面120との間には、線状材20の外径の1/2倍の隙間が形成されている。
【0036】
[A位置における各層の状態]
1層目においては、
図3に示すように、線状材20(No.13)の端部と第2鍔部13の端面130との間には、線状材20の外径の3/4の隙間が形成されるとともに、線状材20の巻き数が「4」となっている。また、2層目においては、線状材20(No.17)と線状材20(No.21)との間には、線状材20の外径の1/4の隙間が形成されるとともに、線状材20(No.29)の端部と第1鍔部12の端面120との間には、線状材20の外径の1/2の隙間が形成されている。また、2層目においても線状材20の巻き数が「4」となっている。さらに、3層目においては、線状材20(No.45)の端部と第2鍔部13の端面130との間には、線状材20の外径の1/2の隙間が形成されているとともに、線状材20(No.45)と線状材20(No.41)との間には、線状材20の外径の1/4の隙間が形成されている。また、3層目においても線状材20の巻き数が「4」となっている。
つまり、A位置では、各層に線状材20の外径の3/4の隙間が形成され、複数層のいずれにおいても、同じ巻き取り数(4巻き)となっている。
【0037】
[B位置における各層の状態]
1層目においては、
図4に示すように、線状材20(No.2)の端部と第1鍔部12の端面120との間には、線状材20の外径の1/4の隙間が形成されるとともに、線状材20(No.14)の端部と第2鍔部13の端面130との間には、線状材20の外径の1/2の隙間が形成されている。また、1層目における線状材20の巻き数は、「4」となっている。また、2層目においては、線状材20(No.30)の端部と第1鍔部12の端面120との間には、線状材20の外径の3/4の隙間が形成されているとともに、線状材20の巻き数が「4」となっている。さらに、3層目においては、線状材20(No.46)の端部と第2鍔部13の端面130との間には、線状材20の外径の1/2の隙間が形成されているとともに、線状材20(No.38)の端部と線状材20(No.34)との間には、線状材20の外径の1/4の隙間が形成されている。また、3層目においても線状材20の巻き数が「4」となっている。
つまり、B位置においても、各層に線状材20の外径の3/4の隙間が形成され、複数層のいずれにおいても、同じ巻き取り数(4巻き)となっている。
【0038】
[C位置における各層の状態]
1層目においては、
図5に示すように、線状材20(No.3)の端部と第1鍔部12の端面120との間には、線状材20の外径の1/2の隙間が形成されるとともに、線状材20(No.15)の端部と第2鍔部13の端面130との間には、線状材20の外径の1/4の隙間が形成されている。また、1層目における線状材20の巻き数は、「4」となっている。また、2層目においては、線状材20(No.19)の端部と第2鍔部13の端面130との間には、線状材20の外径の3/4の隙間が形成されているとともに、線状材20の巻き数が「4」となっている。さらに、3層目においては、線状材20(No.47)の端部と線状材20(No.43)との間には、線状材20の外径の1/4の隙間が形成されているとともに、線状材20(No.35)と第1鍔部12の端面120との間には、線状材20の外径の1/2の隙間が形成されている。また、3層目においても線状材20の巻き数が「4」となっている。
つまり、C位置においても、各層に線状材20の外径の3/4の隙間が形成され、複数層のいずれにおいても、同じ巻き取り数(4巻き)となっている。
【0039】
[D位置における各層の状態]
1層目においては、
図6に示すように、線状材20(No.4)の端部と第1鍔部12の端面120との間には、線状材20の外径の3/4の隙間が形成されるとともに、線状材20の巻き数は、「4」となっている。また、2層目においては、線状材20(No.20)の端部と第2鍔部13の端面130との間には、線状材20の外径の1/2の隙間が形成されているとともに、線状材20(No.28)と線状材20(No.32)との間には、線状材20の外径の1/4の隙間が形成されている。また、2層目においても、線状材20の巻き数が「4」となっている。さらに、3層目においては、線状材20(No.40)と線状材20(No.36)との間には、線状材20の外径の1/4の隙間が形成されているとともに、線状材20(No.36)と第1鍔部12の端面120との間には、線状材20の外径の1/2の隙間が形成されている。また、3層目においても線状材20の巻き数が「4」となっている。
つまり、D位置においても、各層に線状材20の外径の3/4の隙間が形成され、複数層のいずれにおいても、同じ巻き取り数(4巻き)となっている。
【0040】
以上のことから、本実施形態では、A位置、B位置、C位置及びD位置のいずれの位置においても、各層の隙間の合計値が線状材20の外径の3/4であり、巻き取り数が同じに設定されている。この点、いずれの位置においても、ボビン10の各鍔部12,13の端面120,130との間に、線状材の外径の3/4の隙間が形成されている位置では、その真上に巻き取られる線状材20(No.17,34,47,32)とこれに隣接する線状材20(No.21,38,43,28)との間には、線状材20の外径の1/4の隙間ができる。この隙間ができることにより、これら線状材20間の凹部の上に巻き取られる線状材20(No.45,36)と、これに隣接する線状材20(No.41,40)との間にも線状材20の外径の1/4の隙間ができる。つまり、本実施形態では、A~D位置のいずれの位置においても、いずれかの層を構成する線状材20間に隙間が形成されているため、線状材20が密になりすぎることを抑制し、整列巻きコイル20Aから線状材20を取り出す際に、線状材20の抵抗が高まり、引っかかったりすることを抑制できる。
また、各層に形成される隙間が線状材20の外径の3/4を超えることがないため、二層目以上の各層において一層下の段に線状材の一部が完全に落とし込まれて、落とし込まれた層の一部を構成することを抑制でき、巻き取りトルクを一定にできる。このため、線状材20が座屈したり、再度巻き出す際に引っかかったりすることを抑制できる。
【0041】
すなわち、本実施形態の整列巻きコイル20Aは、線状材20が整列巻きにより巻き付けられた複数層からなり、複数層のそれぞれの巻き数は、各層において同じであり、線状材20の外径をd、線状材の巻き数をnとした場合に、整列巻きコイル20Aの整列方向の幅寸法(mm)は、d×n+(0.65~0.85)×d(mm)となる。換言すると、整列巻きコイル20Aにおいて、線状材20の整列方向に形成された側面側凹部21の深さ寸法(mm)の最大値は、線状材の外径d(mm)×(0.65~0.85)となる。
【0042】
本実施形態の整列巻きコイル20Aにおける線状材20の整列方向の幅寸法(mm)は、線状材20の外径d×巻き数n+(0.65~0.85)×線状材20の外径dであることから、各層において線状材20間に隙間が形成されており、巻き取り時に一層上の層から線状材が落とし込まれていないので、整列巻きコイル20Aを構成する線状材20は、座屈したり、再度巻き出す際に引っかかった状態になったりしていない。このため、内側の層から線状材20を巻き取りから解いて使用する際に、線状材20が絡まることがなく、適切に線状材20を使用できる。また、整列巻きコイル20Aの側面に形成された側面側凹部21の深さ寸法(mm)の最大値が線状材20の外径d×(0.65~0.85)であるため、整列巻きコイル20Aの外観を向上させることができる。
【0043】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、第1層目及び第3層目(奇数層)を
図3~
図6の左側から右側に線状材20を移動させながら整列巻きし、第2層目(偶数層)を
図3~
図6の右側から左側に線状材20を移動させながら整列巻きすることとしたが、これに限らず、その整列巻き方向は、逆であってもよい。
【実施例】
【0044】
実施例1、2及び比較例1~3の整列巻きコイルは、JIS1050アルミニウム合金からなる外径6.0mmの管材を、上記実施形態に記載の巻き取り方法を用いて巻き取ることにより製造した。この際、整列巻きコイルの1層目における第2鍔部の端面と管材の最終巻き開始位置との間における巻胴部の幅方向の隙間(mm)は、上述したように、管材の外径d(mm)×定数αであり、この定数αは、表1に示す通りとした。つまり、実施例1、2及び比較例1~3における上記隙間(mm)は、管材の外径d(mm)に表1に示す定数αを乗じた値となる。
なお、ボビンの第1鍔部の端面と第2鍔部の端面との幅は、300mmとし、一層につき48巻きした。また、複数層は、17層まで形成した。
【0045】
(複数層における隙間の評価)
複数層における隙間の評価は、隙間を変量した際の巻き姿にて評価した。この場合、48巻きができている場合を良好「〇」と評価し、48巻きから変動した場合を不良「×」と評価した。
【0046】
(巻き取り性の評価)
巻き取り性の評価は、巻き姿確認による目視評価とした。この場合、所定の量を最後まで巻き取れた場合を良好「〇」と評価し、途中で乱巻きとなった場合を不良「×」と評価した。
これらボビン幅方向の空隙、複数層における隙間の評価及び巻き取り性の評価については、表1に示すとおりである。
【0047】
【0048】
表1に示すように、実施例1及び2は、整列巻きコイルの1層目の第2鍔部の端面と管材の最終巻き開始位置との間における巻胴部の幅方向の隙間がいずれも管材の外径dに定数α(0.75)を乗じた値、つまり、管材の外径dの0.75倍であるため、複数層での隙間の評価及び巻き取り性の評価が良好「〇」であった。
一方、比較例1~3は、整列巻きコイルの1層目の第2鍔部の端面と管材の最終巻き開始位置との間における巻胴部の幅方向の隙間がいずれも管材の外径dに定数α(0.5)を乗じた値、つまり、管材の外径dの0.5倍と隙間が小さかったため、複数層での隙間の評価及び巻き取り性の評価のいずれも評価が不良「×」であった。
【符号の説明】
【0049】
10 ボビン
11 巻胴部
12 第1鍔部
120 端面
13 第2鍔部
130 端面
20 線状材
20A 整列巻きコイル
21 側面側凹部
k1 隙間