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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】シール部の摩耗量推定装置及び工作機械
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/005 20190101AFI20230911BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20230911BHJP
   B25J 19/00 20060101ALI20230911BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20230911BHJP
   F16J 15/3236 20160101ALI20230911BHJP
   F16J 15/3296 20160101ALI20230911BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20230911BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20230911BHJP
   G01B 21/00 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
G01M13/005
B23Q17/00 A
B25J19/00 H
F16J15/3204 201
F16J15/3236
F16J15/3296
F16J15/18 C
G01M99/00 A
G01B21/00 W
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019183065
(22)【出願日】2019-10-03
(65)【公開番号】P2021060216
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉野 清
【審査官】目黒 大地
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0321808(US,A1)
【文献】特開平02-199374(JP,A)
【文献】特開平03-066588(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147841(WO,A1)
【文献】特開2017-053649(JP,A)
【文献】特開2018-187703(JP,A)
【文献】特開2004-136411(JP,A)
【文献】特開2011-089609(JP,A)
【文献】特開2004-257420(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109900468(CN,A)
【文献】独国特許出願公開第102017223418(DE,A1)
【文献】中国実用新案第202903483(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-13/045
G01M 99/00
B23Q 17/00-23/00
B25J 1/00-21/02
G01B 21/00-21/32
F16J 15/16-15/3296
F16J 15/46-15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械内に設けられた回転機構部のシール部の摩耗量を推定する装置であって、
前記シール部は、外部から前記回転機構部の内部への異物侵入を防止する接触式の回転シールを備え、
前記回転機構部を駆動するモータの回転速度、トルク、及び前記回転機構部の温度を検出する検出手段と、
検出された回転速度、トルク、及び温度に基づき、予め回転速度、トルク、温度と回転シールの抵抗値との関係を規定したマップを参照することで、検出した回転速度、モータトルク、及び温度に対応する回転シールの抵抗値を算出し、さらに算出した前記回転シールの抵抗値に対応する前記回転シールの摩耗量を推定する推定手段と、
を備え
前記回転機構部は、前記工作機械内に設けられた機内ロボットの関節部であり、
前記推定手段は、前記機内ロボットが特定姿勢である場合に前記回転シールの摩耗量を推定するシール部の摩耗量推定装置。
【請求項2】
前記回転シールの抵抗値と摩耗量との関係を予め記憶するメモリを備え、
前記推定手段は、前記メモリに記憶された前記関係を用いて前記回転シールの摩耗量を推定する
請求項1に記載のシール部の摩耗量推定装置。
【請求項3】
工作機械内に設けられた回転機構部のシール部の摩耗量を推定する装置であって、
前記シール部は、外部から前記回転機構部の内部への異物侵入を防止する接触式の回転シールを備え、
前記回転機構部は、前記工作機械内に設けられた機内ロボットの関節部であり、
前記関節部を駆動するモータの回転速度、トルク、前記関節部の温度、及び前記機内ロボットの姿勢を入力すると前記回転シールの摩耗量を出力すべく学習されたニューラルネットワークに、前記関節部を駆動するモータの回転速度、トルク、前記関節部の温度、及び前記機内ロボットの姿勢を入力する入力部と、
前記ニューラルネットワークからの出力を、前記回転シールの摩耗量として出力する出力部と、
を備えるシール部の摩耗量推定装置。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載のシール部の摩耗量推定装置と、
前記シール部が関節部に設けられた機内ロボットと、
を備える工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール部の摩耗量推定装置及び工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工作機械にはさらなる自動化が求められており、その1つの解決策として、工作機械の機内にロボットを搭載することが提案されている。機内ロボットを用いることで、工具やワークの着脱、機内や工具、ワークの洗浄、切粉の巻き付き防止、ワークのビビリ防止等の多くの作業を自動化し得る。
【0003】
工作機械の機内にロボットを搭載する場合、機内ロボットは切粉や切削水に対する耐久性が必須となり、このため機内ロボットの関節の回転機構部等には接触式の回転シールが必要となる。但し、接触式の回転シールは時間の経過とともに少しずつ摩耗してしまい、そのまま放置すればいずれは切粉や切削水が外部から回転機構部の内部に侵入してしまう。
【0004】
特許文献1には、回転軸部と嵌合孔との摺動隙間内に異物が混入して堆積固化することに起因する不具合を防止することを目的として、摺動隙間内に流体の下流側方向への流動のみを選択的にシールするリップシールと、摺動隙間内の圧力を加圧する加圧手段を備えたロータリジョイントが記載されている。
【0005】
特許文献2には、シール特性の変化に伴うハウジングの漏洩検査が可能な流体機械の漏れ検査を行うことを目的として、ハウジング内にガスを封入して漏れ量を検出し、漏れ量に基づいてハウジングの可否を判定する工程と、ハウジング内に封入されたガスをハウジングの外部に放出し、ハウジング内の圧力を大気圧近傍に減圧する工程と、ハウジング内にガスを改めて封入して漏れ量を検出し、漏れ量に基づいてハウジングの可否を判定する工程を備えることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、シール装置の異常及び異常の原因である劣化原因及び劣化度を診断することを目的として、圧力計や流量計等の検出器群と、検出器群に接続され、内蔵したシール装置の計算モデルを使用して仮定状態のシール流量を算出するコンピュータを有し、異常がないと仮定したときの計算シール流量と実シール流量とを対比して異常兆候を検出することが記載されている。
【0007】
特許文献4には、軸封装置のシール機能の劣化による大量の漏洩の発生を事前に予知することを目的として、容量式リークセンサと、リークセンサに並列に接続された基準容量コンデンサと、リークセンサと基準容量コンデンサとの容量差を検出する差動増幅器を備えた軸封装置用漏れ検出装置が記載されている。
【0008】
特許文献5には、回転軸の伝達トルクから回転軸の回転トルクを検知して、シール部の異常摩耗や破損を検出するロータリジョイントが記載されている。
【0009】
特許文献6には、各種センサからの測定値を用いて部品交換修理等の状態出力を発生させるインテリジェント型バルブアクチュエータが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2014-9720号公報
【文献】特開2007-78630号公報
【文献】特開2001-241550号公報
【文献】特開平5-45246号公報
【文献】特開2004-136411号公報
【文献】特開2004-257420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
既述したように、接触式の回転シールは時間の経過とともに少しずつ摩耗するため、その摩耗状態を把握し、切粉や切削水が外部から侵入する前にメンテナンスを行い得ることが極めて重要である。
【0012】
本発明は、接触式の回転シールの摩耗量を推定し、もってメンテナンスの時期を明らかにし得る装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、工作機械内に設けられた回転機構部のシール部の摩耗量を推定する装置であって、前記シール部は、外部から前記回転機構部の内部への異物侵入を防止する接触式の回転シールを備え、前記回転機構部を駆動するモータの回転速度、トルク、及び前記回転機構部の温度を検出する検出手段と、検出された回転速度、トルク、及び温度に基づき、予め回転速度、トルク、温度と回転シールの抵抗値との関係を規定したマップを参照することで、検出した回転速度、モータトルク、及び温度に対応する回転シールの抵抗値を算出し、さらに算出した前記回転シールの抵抗値に対応する前記回転シールの摩耗量を推定する推定手段とを備え、前記回転機構部は、前記工作機械内に設けられた機内ロボットの関節部であり、前記推定手段は、前記機内ロボットが特定姿勢である場合に前記回転シールの摩耗量を推定する。
【0015】
本発明の他の実施形態では、前記回転シールの抵抗値と摩耗量との関係を予め記憶するメモリを備え、前記推定手段は、前記メモリに記憶された前記関係を用いて前記回転シールの摩耗量を推定する。
【0016】
また、本発明は、工作機械内に設けられた回転機構部のシール部の摩耗量を推定する装置であって、前記シール部は、外部から前記回転機構部の内部への異物侵入を防止する接触式の回転シールを備え、前記回転機構部は、前記工作機械内に設けられた機内ロボットの関節部であり、前記関節部を駆動するモータの回転速度、トルク、前記関節部の温度、及び前記機内ロボットの姿勢を入力すると前記回転シールの摩耗量を出力すべく学習されたニューラルネットワークに、前記関節部を駆動するモータの回転速度、トルク、前記関節部の温度、及び前記機内ロボットの姿勢を入力する入力部と、前記ニューラルネットワークからの出力を、前記回転シールの摩耗量として出力する出力部とを備える。
【0017】
また、本発明の工作機械は、上記のいずれかに記載のシール部の摩耗量推定装置と、前記シール部が関節に設けられた機内ロボットとを備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、接触式の回転シールの摩耗量を推定することができる。また、本発明によれば、推定した摩耗量によりメンテナンスの時期を明らかにすることができ、加工時に生じる切粉や切削水の侵入をより確実に防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態の工作機械の構成図である。
図2】実施形態の回転シールの断面図である。
図3】実施形態の回転シールの摩耗説明図である。
図4】関節回転速度とモータトルクとの関係、及び関節回転速度と回転シール抵抗との関係を示すグラフ図である。
図5】実施形態の装置の構成ブロック図である。
図6】実施形態の処理フローチャートである。
図7】他の実施形態の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0021】
図1は、工作機械10の概略構成を示す図である。なお、以下の説明では、ワーク主軸装置14の回転軸方向をZ軸、刃物台4のZ軸と直交する移動方向をX軸、Z軸およびX軸に直交する方向をY軸と呼ぶ。
【0022】
工作機械10は、工具でワークを切削加工する機械である。具体的には、工作機械10は、ワーク3を回転させながら旋削工具を当ててワーク3を切削する旋削機能と、回転工具でワークを切削する転削機能とを有している。
【0023】
工作機械10の周囲は、カバー(図示せず)で覆われている。このカバーで区画される空間が、ワーク3の加工が行われる加工室となる。カバーを設けることで、切粉等が外部に飛散することが防止される。カバーには、少なくとも一つの開口部と、当該開口部を開閉するドア(いずれも図示せず)が設けられている。オペレータは、この開口部を介して、工作機械10の内部やワーク3等にアクセスする。加工中、開口部に設けられたドアは閉鎖される。これは、安全性や環境性等を担保するためである。
【0024】
工作機械10は、ワーク3を自転可能に保持するワーク主軸装置14と、工具100を保持する刃物台4を備えている。ワーク主軸装置14は、基台22に設置された主軸台と、当該主軸台に取り付けられたワーク主軸を備えている。ワーク主軸は、ワーク3を把持及び解放自在に保持するチャックを備えており、把持するワーク3を適宜、交換することができる。図では、チャックに設けられた3つの爪を開閉することでワーク3を把持/解放する構成を例示しているが、爪の数は任意であり、互いに対向する位置に設けられた2つの爪を開閉することでワーク3を把持/解放する構成でもよい。ワーク主軸は、水平方向(Z軸方向)に延びるワーク回転軸を中心として自転する。
【0025】
刃物台4は、旋削工具、例えば、バイトと呼ばれる工具を保持する。この刃物台4およびバイトは、駆動機構により、XZ軸方向に直線移動可能となっている。
【0026】
加工室内の底部には、切削加工の際に飛散した切粉を、回収して排出する排出機構が設けられている。排出機構としては、種々の形態が考えられるが、例えば、排出機構は、重力により落下した切粉を、外部に搬送するコンベア等で構成される。
【0027】
工作機械10は、各種演算を行う制御装置を備えている。工作機械10における制御装置は、数値制御装置(NC装置)とも呼ばれており、オペレータからの指示に応じて、工作機械10の各部の駆動を制御する。制御装置は、例えば、各種演算を行う1個または複数個のCPUと、各種制御プログラムや制御パラメータを記憶するメモリと、入出力インターフェイスと、入力装置及び出力装置で構成される。入力装置は例えばタッチパネルやキーボードであり、出力装置は液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等である。入力装置と出力装置をともにタッチパネルで構成してもよい。また、制御装置は、通信機能を有しており、他の装置との間で各種データ、例えば、NCプログラムデータ等を授受できる。制御装置は、例えば、工具100やワーク3の位置を随時演算する数値制御装置を含んでもよい。制御装置は、単一の装置でもよいし、複数の演算装置を組み合わせて構成されてもよい。
【0028】
また、本実施形態の工作機械10は、機内ロボット20を備えている。機内ロボット20は、関節と、節と、ハンド20dとを備えている。本実施形態では、加工室内の所定位置に配置されたロボットを機内ロボットと称する。所定位置は必ずしも固定位置を意味するものではなく、初期状態ではある位置に配置されていても、ワークの加工中その他において所望の位置まで移動し得るものをその概念に含むものとする。機内ロボット20を駆動制御することで、工具やワーク3の着脱、機内、工具及びワーク3の洗浄、切粉の巻き付き防止、ワーク3のビビリ防止等を行うことができる。
【0029】
機内ロボット20の回転機構部、例えば関節には、外部からの切粉や切削水の侵入を防ぐためのシール部が設けられており、シール部は、例えば接触式の回転シールが用いられる。
【0030】
図2は、機内ロボット20の関節に用いられる接触式の回転シールの一例を示す断面図である。回転軸30と固定部32との間に接触式の回転シール40が設けられる。具体的には、固定部32の回転軸30の対向面に溝34が形成され、この溝34内に断面形状がU字型又はコの字型の回転シール40が配置される。回転シール40は、回転側シール部42及び固定側シール部44の2つのシール部が、外部側がU字あるいはコの字の開口側となるようにU字状あるいはコの字状に延出した断面形状を有しており、回転側シール部42の先端部の回転軸30の対向面には回転軸30側に突出する接触部46を有する。接触部46は、回転側シール部42から回転軸30に向かう方向に徐々に先細るようにテーパ状に形成される。また、回転側シール部42及び固定側シール部44は、回転シール40の屈曲内面に沿って配置された弾性部材等によりそれぞれ固定部32側及び回転軸30側に付勢されている。すなわち、回転側シール部42は、弾性部材により回転軸30側に押し付けられ、固定側シール部44は、弾性部材により固定部32側に押し付けられる。図では、弾性部材による付勢をばねとして示しているが、U字又はコの字の内側に配置されたバネ部材で構成され得る。
【0031】
回転シール40で密封された関節の内部には、さらに図示しないエア経路を介して圧縮エアが供給され、内部からエアパージが行われる。このエアパージは、通常は大気圧より若干高い程度の圧力(以下、この圧力をP0と称する)で行われる。エアパージにより、外部からの異物、すなわち切粉や切削水等の異物の侵入が防止される。
【0032】
通常状態では、回転シール40の回転側シール部42及び固定側シール部44はそれぞれ弾性部材により回転軸側と固定部側に付勢されているため圧縮エアによるエアパージでも接触状態が維持されて圧縮エアが外部に漏れることはない。
【0033】
ところが、接触部46は回転軸30に接触しているため、時間の経過とともに接触部46が徐々に劣化し、テーパ状の接触部46の接触面圧が低下することになる。
【0034】
図3は、接触部46の摩耗の様子を模式的に示す。図3(a)は未摩耗状態の回転シール40を示し、図3(b)は接触部46の一部拡大断面図を示す。テーパ状の接触部46は未摩耗であり、接触面圧は相対的に大きい。
【0035】
図3(c)は未摩耗状態から摩耗した接触部46の一部拡大断面図を示す。テーパ状の接触部46の接触部位が摩耗し、接触面圧は未摩耗状態に比べて相対的に小さくなる。図3(d)は未摩耗状態からさらに摩耗した接触部46の一部拡大断面図を示す。テーパ状の接触部46の接触部位がさらに摩耗し、接触面圧は図3(c)の場合と比べて相対的にさらに小さくなる。
【0036】
このように、摩耗が進むにつれて接触部46の接触面圧が低下すると、切粉や切削水が外部から侵入する事態が生じ得る。
【0037】
そこで、本実施形態では、回転シール40の摩耗量を、機内ロボット20の関節部の検出値、より具体的には、関節部を駆動するモータ及び減速機の検出値から推定する。
【0038】
機内ロボット20の関節部は、モータを動力源とし、減速機によりモータの回転速度を減速とするとともにトルクを高めて、関節部に連結する2つのアームを相対的に回転させる。
【0039】
図4は、関節部のモータの回転速度とモータトルクとの関係を示す。モータの回転速度とモータトルクは、図4のグラフaに示すように、回転速度が上昇するとモータトルクが上昇する正の相関がある。図4には、モータの回転速度と回転シール40の抵抗値との関係をグラフbとして示す。モータの回転速度が上昇しても、回転シール40の抵抗値はほぼ一定値を示す。
【0040】
他方、減速機は、内部の潤滑油の粘度が温度により変化し、温度が上昇すると回転抵抗値が減少する。また、回転シール40の抵抗値は、温度が上昇すると低下する傾向がある。さらに、回転シール40の抵抗値は、摩耗が進むにつれて既述したように接触面圧が低下するためこれに応じて低下していく。
【0041】
従って、関節部におけるモータのトルク、回転速度、温度を検出し、これらを所定の運動方程式に代入することで、検出温度における回転シール40の抵抗値を算出することができる。そして、予め回転シール40の抵抗値と摩耗量との関係を測定してその関係をメモリに記憶しておき、算出された抵抗値に対応する摩耗量をメモリから読み出すことで、回転シール40の摩耗量を推定することができる。
【0042】
但し、機内ロボット20は、その姿勢によりモータの負荷が多様に変化し得るため、ある姿勢におけるモータトルクと回転速度との関係は、別の姿勢におけるモータトルクと回転速度との関係と異なり得る。このため、回転シール40の抵抗値を算出する際には、機内ロボット20があらかじめ定めた特定姿勢にある場合において算出することが望ましい。特定姿勢は任意であるが、例えば機内ロボット20の初期位置での姿勢とし得るがこれに限定されない。
【0043】
工作機械10の制御装置は、オペレータからの指示に応じて、工作機械10の各部(機内ロボット20を含む)の駆動を制御するが、同時に、上述した原理に基づいて、機内ロボット20の関節部のモータのトルク、回転速度、及び温度から当該関節部の回転シール40の抵抗値を算出し、さらに算出した抵抗値を用いて回転シール40の摩耗量を推定する。
【0044】
図5は、本実施形態における回転シール40の摩耗量推定装置の構成ブロック図を示す。
【0045】
回転速度センサ50、モータトルクセンサ51及び温度センサ52は、それぞれ回転シール40が設けられている関節部に埋め込まれたモータ及び減速機からなる駆動部の回転速度、トルク、及び温度を検出する。回転速度センサ50で検出された回転速度、モータトルクセンサ51で検出されたトルク、及び温度センサ52で検出された温度は、制御装置に供給される。
【0046】
制御装置の1つ又は複数のプロセッサは、メモリ56に記憶されたプログラムを読み出して実行することで摩耗量推定手段54として機能し、検出された回転速度、トルク、及び温度を用い、所定の運動方程式に基づいて回転シール40の抵抗値を算出する。所定の運動方程式には、減速機における検出温度での粘性抵抗値、特定姿勢におけるモータの負荷がパラメータとして含まれる。また、運動方程式により算出された回転シール40の抵抗値は、その温度における抵抗値であり、回転シール40の抵抗値は温度が上昇すると低下する傾向にあるので、当該傾向を利用して標準温度(例えば室温)における抵抗値に補正して算出する。
【0047】
プロセッサは、標準温度における抵抗値を算出すると、予め測定されてメモリ56に記憶されている、標準温度における回転シール40の抵抗値と摩耗量との関係を規定するテーブル58を参照し、算出した抵抗値に対応する摩耗量を読み出すことで回転シール40の摩耗量を推定する。
【0048】
なお、摩耗量は、算出した抵抗値に応じた数値として規定してもよいが、その程度の大小に応じて複数段階に分けてもよい。例えば、摩耗量を特大、大、中、小の4段階に分ける等である。プロセッサは、算出した抵抗値に応じて、摩耗量を特大、大、中、小のいずれかと推定して出力し得る。
【0049】
図6は、制御装置における処理フローチャートを示す。制御装置は、機内ロボット20の関節部におけるモータを駆動制御するが、所定の制御タイミングで図6に示す制御を実行して当該関節部における回転シール40の摩耗量を推定する。
【0050】
すなわち、当該関節部における回転速度、モータトルク、及び温度を検出する(S101、S102、S103)。
【0051】
そして、機内ロボット20が特定姿勢であるか否かを判定し(S104)、特定姿勢であれば(S104でYES)、検出した回転速度、モータトルク、及び温度を用いて回転シール40の抵抗値を算出する(S105)。回転シール40の抵抗値は、所定の運動方程式を用いて算出されるが、予め回転速度、モータトルク、温度と回転シール40の抵抗値との関係をマップとして規定してメモリ56に記憶しておき、当該マップを参照することで検出した回転速度、モータトルク、及び温度に対応する回転シール40の抵抗値を読み出すことにより算出してもよい。当該マップは、テーブル58と一体化していてもよい。
【0052】
抵抗値を算出した後、予め測定されメモリ56に記憶されているテーブル58を参照して、算出した抵抗値に対応する摩耗量を読み出すことで回転シール40の摩耗量を推定し、工作機械10の出力装置に表示して出力する(S106)。制御装置は、推定した摩耗量を工作機械10の出力装置に表示して出力するが、推定した摩耗量の出力態様は任意であり、例えば推定した摩耗量の絶対値、例えば摩耗量=1mm等と出力してもよく、推定した摩耗量を相対的に、例えば摩耗量=小、摩耗量=中、あるいは摩耗量=大等と出力してもよい。さらに、摩耗量がある閾値を超えた場合に、回転シール40の交換が必要であるとしてその旨のメッセージを摩耗量とともに出力してもよい。要するに、摩耗量とともに、当該摩耗量に基づくメンテナンス時期をメッセージとして出力してもよい。具体的には、摩耗量=特大と推定された場合に
「回転シールが摩耗しています。直ちに交換して下さい」
等のメッセージを出力し、摩耗量=大と推定された場合に
「回転シールの摩耗量は大です。交換して下さい」
等のメッセージを出力し、摩耗量=中と推定された場合に
「回転シールの摩耗量は中です。もうすぐ交換が必要です」
等のメッセージを出力し、摩耗量=小と推定された場合に
「回転シールの摩耗量は小です」
等のメッセージを出力してもよい。
【0053】
このように、本実施形態によれば、簡易に回転シール40の摩耗量を推定して出力することができる。特に、本実施形態では、モータの回転速度、トルク、及び温度を用いて回転シール40の摩耗量を推定するものであり、モータの回転速度、トルク、及び温度は、通常、機内ロボット20を駆動制御するためにセンサで検出されるパラメータであるため当初から機内ロボット20に設けられているから、特別なセンサや装置を追加することなく、回転シール40の摩耗量を推定できる利点がある。
【0054】
なお、関節部の温度を検出する温度センサとして、モータの焼損等を防止するためにモータの巻線温度を検出する温度センサを用いた場合、モータの巻線温度と関節部、特に関節部における回転シール40の存在部位の温度は異なるため、予め両者の間の関係を実験で測定しておき、モータの巻線温度を関節部の温度に補正した上で用いればよい。勿論、モータの巻線温度を検出する温度センサ以外に、機内ロボット20の関節部の温度を検出する温度センサを設けてもよく、あるいは工作機械10内の温度を検出する温度センサで代用することも可能であろう。温度が影響するパラメータは、減速機内部の潤滑油の粘度と回転シール40の抵抗値であり、これらの感度に応じた精度で関節部の温度を検出すればよいのは言うまでもない。
【0055】
また、摩耗量推定処理は、定期的または非定期の任意タイミングで実行することができ、実際に回転シール40の摩耗による劣化で切粉や切削水が内部に侵入してしまう前に、回転シール40の摩耗量を把握して必要なメンテナンス時期を明確にし得る。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0057】
例えば、本実施形態では、制御装置を構成する1つ又は複数のプロセッサが、メモリ56に記憶されたプログラムに従って検出されたモータの回転速度、トルク、温度を用いて回転シール40の抵抗値を算出し、さらに回転シール40の摩耗量を推定する処理を実行しているが、関節部の回転速度情報、モータのトルク情報、温度情報、機内ロボット20の姿勢情報、及び回転シール40の摩耗量情報の組を教師データとしてニューラルネットワークを学習させ、学習後のニューラルネットワークを用いて、検出された回転速度、モータトルク、温度、及び機内ロボット20の姿勢から回転シール40の摩耗量を推定してもよい。機内ロボット20の姿勢情報は、機内ロボット20の動作における代表的な姿勢を複数抽出して用い得る。勿論、上記の実施形態に準じ、特定姿勢情報を用いてもよい。
【0058】
また、機内ロボット20の姿勢情報は、モータの負荷が姿勢により変化し得ることを考慮した情報であるから、姿勢情報に代えて、より直接的にモータの負荷情報を用いてもよい。
【0059】
かかる構成の場合、制御装置は、工作機械10の各部(機内ロボット20を含む)を制御する1つ又は複数のプロセッサに加え、ニューラルネットワークを構成するAI処理部を備える。AI処理部は、GPU(Graphics Processing Unit)又は専用回路等のプロセッサ及びメモリを備え、プロセッサからの制御指示に応じて摩耗量推定処理を実行する。また、AI処理部のメモリ(図5に示すメモリ56と同一でもよく、別個のメモリでもよい)は、例えばフラッシュメモリが用いられ、ニューラルネットワークとしての機能を発揮させるライブラリ、ニューラルネットワークを定義する情報、学習済ニューラルネットワークにおける各層の重み係数を含むパラメータ情報が記憶される。
【0060】
ニューラルネットワークには、例えば畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network: CNN)が用いられ得る。CNNは、定義データにより定義される複数段の畳み込み層、プーリング層、及び全結合層を含み、入力データの特徴量を取り出し、取り出された特徴量に基づいて分類する。
【0061】
制御装置は、CNNを学習し、学習済のCNNを用いて回転シール40の摩耗量を推定してもよく、あるいは既に学習済のCNNを用いて回転シール40の摩耗量を推定してもよい。CNNを学習する場合、教師データをCNN全体に入力して得られる出力データと、既知の出力との誤差(二乗誤差、絶対値誤差、交差エントロピー誤差等)を最小にする処理を実行して重みを更新する。
【0062】
なお、制御装置は、学習済CNNを用いて摩耗量を推定する場合、学習済CNNとして機能するAI処理部に検出した回転速度、モータトルク、温度、機内ロボット20の姿勢を入力し、学習済CNNで推定された摩耗量を工作機械10の出力装置に表示して出力する他に、クラウドサーバ上に存在する学習済CNNを用いてもよい。
【0063】
図7は、この場合の構成図を示す。工作機械10は、機内ロボット20、制御装置70及び出力装置80を備える。制御装置70は、機内ロボット20の動作を制御するとともに、機内ロボット20の関節部におけるモータの回転速度、トルク、温度を検出する各センサからの検出信号を入力する。制御装置70は、インターネット等の公衆回線、あるいは社内LAN等の専用回線でクラウドサーバ200に通信可能に接続され、クラウドサーバ200上に実装された学習済のCNN210に対して、検出した回転速度、モータトルク、温度、及び機内ロボット20の姿勢を送信してCNN210に入力し、CNN210で推定された摩耗量を受信して工作機械10の出力装置80に表示して出力する。
【0064】
また、本実施形態では図2に示すようなU字型又はコの字型の断面形状を有する回転シール40を例示したが、これに限らず、方向性を有する回転シールであれば任意の形状を用いることができ、Uパッキン状のものやオイルシール状のものを用いることができる。
【0065】
ここで、「方向性を有する」とは、回転機構部の外部から内部への異物の侵入を防止することを意味する。また、回転シール40は多段とすることもでき、ラビリンスシール等と組み合わせてもよい。
【0066】
また、本実施形態では、回転シール40の摩耗量を推定しているが、推定した摩耗量から回転シール40の寿命をさらに推定して出力してもよい。すなわち、推定した摩耗量からあとどの程度寿命(摩耗量が所定の閾値に達した時点を寿命=0とする)が残っているかを推定して出力してもよい。
【0067】
また、本実施形態では、制御装置が定期的あるいは非定期で図6に示す処理を実行して回転シール40の摩耗量を推定して出力しているが、工作機械10のオペレータからの操作指示に応じて図6の処理を実行してもよい。この場合、オペレータは、例えばワーク3を加工する際に当該加工に先立って制御装置に図6の処理の実行開始を指示し、推定された摩耗量の出力結果を確認した後に加工を行ってもよい。勿論、制御装置は、加工に先立って自動的に図6の処置を実行し、回転シール40の摩耗量の推定結果に応じてワーク3の加工を実行するか否かを判定してもよい。
【0068】
さらに、機内ロボット20に複数の関節部が存在し、各関節部に回転シール40が存在する場合に、複数の関節毎に回転シール40の摩耗量推定処理を実行することができる。
【符号の説明】
【0069】
3 ワーク、4 刃物台、10 工作機械、14 ワーク主軸装置、20 機内ロボット、50 回転速度センサ、51 モータトルクセンサ、52 温度センサ、54 摩耗量推定手段、56 メモリ、58 テーブル、70 制御装置、80 出力装置、100 工具、200 クラウドサーバ、210 CNN(畳み込みニューラルネットワーク)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7