(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】工具マガジンの制御方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 3/155 20060101AFI20230911BHJP
【FI】
B23Q3/155 F
(21)【出願番号】P 2019231834
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(72)【発明者】
【氏名】石井 肇
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-309649(JP,A)
【文献】特開平11-277369(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0248128(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q3/155-3/157
G05B19/18-19/416
G05B19/42-19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械に付設されており、工作機械の主軸に装着可能な工具を保持する複数の工具保持部と、それらの工具保持部を所定の間隔で連結する連結稼働部と、その連結稼働部を駆動するための駆動手段とが設けられた工具マガジンにおいて、前記駆動手段を駆動して前記工具保持部の内の一つを所定の位置に位置決めするための制御方法であって、
記憶されている加工プログラム内の各工具準備指令から工具交換指令までの範囲をエリアとして区分し、その区分された各エリアの内の実行開始直前の直前エリアの動作内容を取得する動作内容取得ステップと、
その動作内容取得ステップにおいて取得された直前エリアの動作内容と、予め設定された駆動装置の駆動速度とから、直前エリアにおける工具準備指令から直前エリアにおいて指定されている工具を保持した工具保持部を工具交換準備位置に移動させるまでの
時間と、前記工具交換準備位置における工具交換のための動作に要する時間と、を合わせた所要時間である準備動作時間を算出する準備動作時間算出ステップと、
前記動作内容取得ステップにおいて取得された直前エリアの動作内容から、その直前エリアにおける工具交換の準備以外の動作の所要時間である
非準備動作時間を算出する
非準備動作時間算出ステップとを有しており、
前記準備動作時間算出ステップにおいて算出された準備動作時間と、前記
非準備動作時間算出ステップにおいて算出された
非準備動作時間とを比較し、その比較結果に応じて、工具交換の準備動作を行う際の駆動速度を決定することを特徴とする工具マガジンの制御方法。
【請求項2】
前記準備動作時間算出ステップが、前記動作内容取得ステップにおいて取得された直前エリアの動作内容と、予め設定された駆動装置の駆動速度とから、直前エリアにおける工具準備指令から直前エリアにおいて指定されている工具を保持した工具保持部を工具交換準備位置に移動させるまでの
時間と、前記工具交換準備位置における工具交換のための動作に要する時間と、を合わせた最短の所要時間である最短準備動作時間を算出するものであるとともに、
その準備動作時間算出ステップにおいて算出された最短準備動作時間が、前記
非準備動作時間算出ステップにおいて算出された
非準備動作時間よりも長い場合には、
工具交換の準備動作を行う際の駆動速度を、予め設定された最速の駆動速度とすることを特徴とする請求項1に記載の工具マガジンの制御方法。
【請求項3】
前記準備動作時間算出ステップが、前記動作内容取得ステップにおいて取得された直前エリアの動作内容と、予め設定された駆動装置の駆動速度とから、直前エリアにおける工具準備指令から直前エリアにおいて指定されている工具を保持した工具保持部を工具交換準備位置に移動させるまでの
時間と、前記工具交換準備位置における工具交換のための動作に要する時間と、を合わせた最長の所要時間である最長準備動作時間を算出するものであるとともに、
その準備動作時間算出ステップにおいて算出された最長準備動作時間が、前記
非準備動作時間算出ステップにおいて算出された
非準備動作時間よりも短い場合には、
工具交換の準備動作を行う際の駆動速度を、予め設定された最遅の駆動速度とすることを特徴とする請求項1、または2に記載の工具マガジンの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の主軸に装着される交換用の多数の工具を保持する工具マガジンの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタ等の工作機械には、主軸に装着される多数の交換用工具を保持した工具マガジンが付設されており、主軸に装着された工具と、工具マガジンに保持された工具とを、工具交換装置によって、適宜交換できるようになっている。従来の工具マガジンの一例としては、工具を保持する複数の工具保持部、その工具保持部を所定の間隔で固定し、工具保持部を所定位置に移動(稼働)可能な無端環状のチェーン等の連結稼働部、その連結稼働部を動作させるサーボモータ等の駆動手段等からなるものが知られている。かかる工具マガジンは、連結稼働部を駆動手段によって駆動させることにより、所定の工具保持部が工具交換準備位置に移動させられ、その工具交換準備位置の工具保持部に保持された工具と、工作機械の主軸に装着された工具とが、工具交換装置によって交換されるようになっている。
【0003】
上記したタイプの工具マガジンを付設した工作機械においては、従来から、工具準備時間の短縮化、すなわち、連結稼働部の高速稼働化が進められているが、連結稼働部の稼働速度を高速にすればするほど、その高速化に伴う振動が大きくなり、かつ、連結稼働部の稼働距離が長くなればなるほど、その振動が加工面に伝わって仕上がりに影響を与える可能性が高くなる。
【0004】
そのような問題点を解決するために、特許文献1の如く、次に準備する工具保持部の位置と工具交換準備位置(待機位置)との距離、すなわち、連結稼働部の移動量(稼働量)に着目し、その稼働量に応じて、工具マガジンの連結稼働部の稼働速度を変更する方法、すなわち、稼働量が大きい場合には連結稼働部の稼働速度を低くし、稼働量が小さい場合には稼働速度を早くして、振動の影響の低減を図る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の如き従来の工具保持部の稼働制御方法は、連結稼働部の稼働量のみに着目して連結稼働部の稼働速度を決定するものであるため、次の工具の交換までの時間が十分にあるような場合でも、一定以上の稼働速度で稼働することになってしまい、低速で稼働させれば防止可能な不必要な振動を生じさせてしまうので、加工内容によっては加工精度に不具合が生じることがあった。
【0007】
本発明の目的は、特許文献1の如き従来の工具保持部の稼働制御方法が有する問題点を解消し、工作機械の工具交換準備の際に、連結稼働部の稼働により生じる振動を効率的に低減することができ、不必要な振動の発生による加工精度の悪化を効果的に防止することが可能な工具マガジンの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の内の請求項1に記載の発明は、工作機械に付設されており、工作機械の主軸に装着可能な工具を保持する複数の工具保持部と、それらの工具保持部を所定の間隔で連結する連結稼働部と、その連結稼働部を駆動するための駆動手段とが設けられた工具マガジンにおいて、前記駆動手段を駆動して前記工具保持部の内の一つを所定の位置に位置決めするための制御方法であって、記憶されている加工プログラム内の各工具準備指令から工具交換指令までの範囲をエリアとして区分し、その区分された各エリアの内の実行開始直前の直前エリアの動作内容を取得する動作内容取得ステップと、その動作内容取得ステップにおいて取得された直前エリアの動作内容と、予め設定された駆動装置の駆動速度とから、直前エリアにおける工具準備指令から直前エリアにおいて指定されている工具を保持した工具保持部を工具交換準備位置に移動させるまでの時間と、工具交換準備位置における工具交換のための動作に要する時間と、を合わせた所要時間である準備動作時間を算出する準備動作時間算出ステップと、前記動作内容取得ステップにおいて取得された直前エリアの動作内容から、その直前エリアにおける工具交換の準備以外の動作の所要時間である非準備動作時間を算出する非準備動作時間算出ステップとを有しており、前記準備動作時間算出ステップにおいて算出された準備動作時間と、前記非準備動作時間算出ステップにおいて算出された非準備動作時間とを比較し、その比較結果に応じて、工具交換の準備動作を行う際の駆動速度を決定することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記準備動作時間算出ステップが、前記動作内容取得ステップにおいて取得された直前エリアの動作内容と、予め設定された駆動装置の駆動速度とから、直前エリアにおける工具準備指令から直前エリアにおいて指定されている工具を保持した工具保持部を工具交換準備位置に移動させるまでの時間と、工具交換準備位置における工具交換のための動作に要する時間と、を合わせた最短の所要時間である最短準備動作時間を算出するものであるとともに、その準備動作時間算出ステップにおいて算出された最短準備動作時間が、前記非準備動作時間算出ステップにおいて算出された非準備動作時間よりも長い場合には、工具交換の準備動作を行う際の駆動速度を、予め設定された最速の駆動速度とすることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1、または2に記載の発明において、前記準備動作時間算出ステップが、前記動作内容取得ステップにおいて取得された直前エリアの動作内容と、予め設定された駆動装置の駆動速度とから、直前エリアにおける工具準備指令から直前エリアにおいて指定されている工具を保持した工具保持部を工具交換準備位置に移動させるまでの時間と、工具交換準備位置における工具交換のための動作に要する時間と、を合わせた最長の所要時間である最長準備動作時間を算出するものであるとともに、その準備動作時間算出ステップにおいて算出された最長準備動作時間が、前記非準備動作時間算出ステップにおいて算出された非準備動作時間よりも短い場合には、工具交換の準備動作を行う際の駆動速度を、予め設定された最遅の駆動速度とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る工具マガジンの制御方法によれば、工具準備指令から工具交換指令間の動作内容の時間を前もって導出(算出)し、それに応じて工具マガジンの連結稼働部の稼働速度を決定し、工具準備動作を実行することで、工作機械の工具交換準備の際に、連結稼働部の稼働により生じる振動を効率的に低減することができ、不必要な振動の発生による加工精度の悪化を効果的に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】工具マガジンを搭載した工作機械を示す説明図(概念図)である。
【
図3】工具マガジンの稼働制御方法の内容を示すフローチャートである。
【
図4】工作機械の加工プログラムにおいてエリア(各工具の工具準備指令から工具交換指令まで)が区分されている様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る工具マガジンの制御方法の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
<工作機械、工具マガジンおよび制御装置の構成>
図1は、本発明に係る制御方法によって制御される工具マガジンを搭載した工作機械を示す概念図である。工作機械Mは、基台であるベッド、切削工具を装着可能な主軸S、主軸Sを装着するためのサドル、サドルを装着するための鉛直な柱状のコラム、被加工物を載置するためのテーブル等を備えている。また、当該工作機械Mには、主軸Sに装着するための複数の工具を保持し、主軸Sに装着されているものと交換するための工具マガジンTが併設されている。
【0015】
一方、
図2は、工具マガジンTを示す概念図であり、工具マガジンTは、工具を保持可能な複数の工具保持部2,2・・と、それらの工具保持部2,2・・を所定の間隔で連結するチェーン等の連結稼働部4,4・・と、それらの連結稼働部4,4・・を駆動するためのモータ等の駆動手段3等を有しており、当該駆動手段3によって連結稼働部4,4・・を駆動することによって、各工具保持部2,2・・を所定位置に位置決めするようになっている。
【0016】
また、それらの工作機械Mおよび工具マガジンTは、制御装置Cに接続されている。当該制御装置Cは、CPU11、RAM、ROM等の記憶手段12、タイマ13等を備えており、インターフェイス14を介して工作機械M、工具マガジンT、キーボード、タッチパネル等の入力手段(図示せず)、モニタ等の出力手段(図示せず)等と接続されている。そして、制御装置Cは、予め記憶手段12内に記憶されているプログラム(加工プログラム)にしたがって、工作機械Mおよび工具マガジンTの作動を制御するようになっている。
【0017】
<工具マガジンの作動制御方法>
以下、本発明に係る工具マガジンの制御方法の一実施形態について、
図3のフローチャートにしたがって説明する。工具マガジンの作動制御においては、まず、S(ステップ)1で、制御装置Cの記憶手段12内に記憶されている加工に使用するプログラム(加工プログラム)が読み込まれる。
【0018】
続くS2では、S1で読み込まれた加工プログラム中に複数個含まれている各工具についての「工具準備指令」から「工具交換指令」までの範囲が、それぞれ、工具準備のエリアとして認識される。例えば、
図4は、加工プログラムの一例を示したものであり、当該加工プログラム例で示されているように、最初の工具交換用の工具NO.1の「準備指令(T1)」から「工具交換指令(M6)」までの間が「エリア1」として区分されて認識され、次の工具交換用の工具NO.2の「準備指令(T2)」から「工具交換指令(M6)」までの間が「エリア2」として区分されて認識され、加工プログラムにおいて使用されるすべての工具についての「準備指令(TN)」から「工具交換指令」までの間が「エリアN」として区分されて認識される。
【0019】
続くS3では、S2において区分された各エリア(エリアN)において、加工プログラム上でこれから実施するエリア(例えば、最初であればエリア1)の動作内容が呼び出される(取得される)。当該動作内容としては、主軸Sの移動距離やその移動速度(送り速度)、主軸Sの回転や停止を含むものとする。
【0020】
そして、続くS4では、S3で取得された各エリアの工具の「準備指令」の内容から、その工具を保持した工具保持部2を
工具交換準備位置(待機位置、
図2におけるP)まで移動させるために要する時間と、その工具交換準備位置における工具交換のための動作(工具の割り出し等)にかかる時間とを合わせた「
工具準備時間TP(N)」を算出し、工具マガジンTにおいて設定可能な最速の稼働速度による「最速
工具準備時間TPmin(N)」、および、最も遅い稼働速度による「最遅
工具準備時間TPmax(N)」を算出する(取得する)。なお、「N」はエリアの番号である。
【0021】
上記の如く、エリアNにおける「最速工具準備時間TPmin(N)」を算出する際には、交換準備指令がなされた工具を保持した工具保持部2の位置から工具交換準備位置Pまでの移動距離(稼働距離、
図2における破線L)と、工具マガジンTにおいて(作業者によって)前もって設定されている工具保持部2(マガジン)の稼働速度(移動速度)が最速となる設定値とを使用して、移動(稼働)完了までに要する時間(稼働時間)を算出するとともに、その稼働時間と、予め取得されている工具の割出時間とが加算される。
【0022】
また、エリアNにおける「最遅工具準備時間TPmax(N)」を算出する際には、交換準備指令がなされた工具を保持した工具保持部2の位置から工具交換準備位置までの移動距離Lと、工具マガジンTにおいて前もって設定されている工具保持部2の稼働速度が最遅となる設定値とを使用して、移動完了までに要する稼働時間を算出するとともに、その稼働時間と、予め取得されている工具の割出時間とが加算される。なお、それらの「最速工具準備時間TPmin(N)」および「最遅工具準備時間TPmax(N)」の算出は、前回までの作動時に同一の工具待機位置から交換した際に算出したデータ(記憶手段12に記憶されているもの)を用いて行うことも可能である。
【0023】
さらに、続くS5では、S3で取得された各エリアの工具準備指令を除く動作に要する時間である「非準備動作時間TA(N)」を算出する。ここで、工具準備指令を除く動作に要する時間とは、たとえば、加工プログラムにおいて、エリアの2行目が切削送りによる「主軸Sの移動」の指令であり、3行目が「主軸Sの回転」の指令である場合には、上記した「非準備動作時間TA(N)」は、「主軸Sの移動」に要する時間と「主軸Sの回転」に要する時間とを合算することにより算出される。すなわち、「主軸Sの移動」に要する時間として、加工プログラムにおいて設定されている主軸移動指令距離と送り速度とから主軸Sの移動にかかる時間T1を算出するとともに、「主軸Sの回転」に要する時間として、主軸Sの回転開始から回転速度が指令値に達するまでの時間と次の動作に移行するための待機時間とを含めた時間T2を算出し、それらの時間T1と時間T2とを加算することによって算出される。なお、主軸Sの回転開始から回転速度が指令値に達するまでの時間を算出する際には、加工プログラムにおいて設定されている主軸Sの回転速度と予め設定されている主軸Sの加減速の数値とを使用することもできる。すなわち、加工プログラムの各エリア内で指定されている工具準備以外のすべての動作について所要時間が算出され、それらの各動作の所要時間が加算されることによって「非準備動作時間TA(N)」が算出される。
【0024】
そして、続くS6では、S4において算出された「最速工具準備時間TPmin(N)」と、S5で算出された「非準備動作時間TA(N)」とが比較され、「最速工具準備時間TPmin(N)」の数値が「非準備動作時間TA(N)」の数値以上であると判断された場合には(すなわち、「最速工具準備時間TPmin(N)」の数値が「非準備動作時間TA(N)」の数値と同じか大きい場合には)、S7が実行され、工具マガジンTを、所要時間が「最速工具準備時間TPmin(N)」となるように工具保持部2を最速となる稼働速度で移動(稼働)させた後に工具の割出しを行う態様(すなわち、最高速態様)での工具準備動作を開始する。
【0025】
また、S6において「最速工具準備時間TPmin(N)」の数値が「非準備動作時間TA(N)」の数値より小さいと判断された場合には、S8が実行され、S4において算出された「最遅工具準備時間TPmax(N)」と、S5で算出された「非準備動作時間TA(N)」とが比較される。そして、「最遅工具準備時間TPmax(N)」の数値が「非準備動作時間TA(N)」の数値より小さいと判断された場合には、S9が実行され、工具マガジンTを、所要時間が「最遅工具準備時間TPmax(N)」となるように工具保持部2を最遅となる稼働速度で移動(稼働)させた後に工具の割出しを行う態様(すなわち、最低速態様)での工具準備動作を開始する。
【0026】
一方、S8において「NO」と判断された場合(すなわち、「最遅工具準備時間TPmax(N)」の数値が「非準備動作時間TA(N)」の数値以上であると判断された場合)には、S10で、エリアNの工具準備時間TP(N)が工具準備指令を除く動作に要する時間TA(N)を上回らない工具保持部2の移動速度(稼働速度)を算出する。かかる移動速度の算出方法としては、例えば、「非準備動作時間TA(N)」から工具の割出時間の差をとり、残りの時間で工具保持部2を工具交換準備位置まで移動させる稼働速度を算出する方法を用いることができる。
【0027】
さらに、上記の如くS10を実行した後には、S11が実行され、S10で算出された稼働速度に基づいて、エリアNの工具準備時間TP(N)が「非準備動作時間TA(N)」以下となるような態様(中速態様)での工具準備動作を開始する。
【0028】
上記の如くS7,S9,S11で所定の態様で工具準備動作を実行した後には、S12で、エリアNで指定されている動作を実行する。そして、続くS13では、加工プログラム内に、次の工具交換準備指令を含むエリアが存在するか否かを判断し、存在すると判断した場合には、S3以降のステップを繰り返し実行し、存在しないと判断した場合には、工作機械MによるワークWの加工動作を完了する。
【0029】
工具マガジンTは、上記S1~S11の内容で制御されるため、工具交換準備以外の動作に長い時間を要する場合には、駆動手段3が連結稼働部4を遅い速度で駆動(稼働)させる一方、工具交換準備以外の動作にあまり時間を要さない場合には、駆動手段3が連結稼働部4を速い速度で駆動(稼働)させることになる。したがって、駆動手段3を不必要に高速で作動させることによって不必要な振動を発生させたりしないので、加工面への振動の影響を抑制することが可能である。
【0030】
<工具マガジンの制御方法による効果>
工具マガジンTの制御方法は、上記の如く、記憶されている加工プログラム内の各工具準備指令から工具交換指令までの範囲をエリアとして区分し、その区分された各エリアの内の実行開始直前の直前エリアの動作内容を取得する動作内容取得ステップ(S2,S3)と、その動作内容取得ステップ(S2,S3)において取得された直前エリアの動作内容と、予め設定された駆動手段3の駆動速度とから、直前エリアにおける工具準備指令から直前エリアにおいて指定されている工具を保持した工具保持部2を工具交換準備位置Pに移動させるまでの時間と、工具交換準備位置Pにおける工具交換のための動作に要する時間と、を合わせた所要時間である準備動作時間を算出する準備動作時間算出ステップ(S4)と、動作内容取得ステップ(S2,S3)において取得された直前エリアの動作内容から、その直前エリアにおける工具交換の準備以外の動作の所要時間である非準備動作時間を算出する非準備動作時間算出ステップ(S5)とを有しており、準備動作時間算出ステップ(S4)において算出された準備動作時間と、非準備動作時間算出ステップ(S5)において算出された非準備動作時間とを比較し、その比較結果に応じて、工具交換の準備動作を行う際の駆動速度を決定するものである。
【0031】
したがって、工具マガジンTの制御方法によれば、工具準備指令から工具交換指令間の動作内容の時間を前もって導出し、それに応じて工具マガジンTの連結稼働部4の稼働速度を決定し、工具準備動作を実行することで、工作機械Mの工具交換の際に、加工速度に影響を与えることなく連結稼働部4の稼働により生じる振動を効率的に低減することができ、不必要な振動の発生による加工精度の悪化を効果的に防止することができる。
【0032】
また、工具マガジンTの制御方法は、準備動作時間算出ステップ(S4)が、動作内容取得ステップ(S2,S3)において取得された直前エリアの動作内容と、予め設定された駆動手段3の駆動速度とから、直前エリアにおける工具準備指令から直前エリアにおいて指定されている工具を保持した工具保持部2を工具交換準備位置Pに移動させるまでの時間と、工具交換準備位置Pにおける工具交換のための動作に要する時間と、を合わせた最短の所要時間である最短準備動作時間(すなわち、「最速工具準備時間TPmin(N)」)を算出するものであるとともに、その準備動作時間算出ステップ(S4)において算出された最短準備動作時間(「最速工具準備時間TPmin(N)」)が、非準備動作時間算出ステップ(S5)において算出された非準備動作時間(すなわち、「非準備動作時間TA(N)」)よりも長い場合には、工具交換の準備動作を行う際の駆動速度を、予め設定された最速の駆動速度とするものである。
【0033】
したがって、工具マガジンTの制御方法によれば、工具交換準備以外の動作にあまり時間を要さない場合には、駆動手段3が連結稼働部4を速い速度で駆動(稼働)させることにより、工具交換に長時間を要することによって全体的な加工速度が低下してしまう事態を非常に効果的に防止することが可能となる。
【0034】
さらに、工具マガジンTの制御方法は、準備動作時間算出ステップ(S4)が、動作内容取得ステップ(S2,S3)において取得された直前エリアの動作内容と、予め設定された駆動手段3の駆動速度とから、直前エリアにおける工具準備指令から直前エリアにおいて指定されている工具を保持した工具保持部2を工具交換準備位置Pに移動させるまでの時間と、工具交換準備位置Pにおける工具交換のための動作に要する時間と、を合わせた最長の所要時間である最長準備動作時間(すなわち、「最遅工具準備時間TPmax(N)」)を算出するものであるとともに、その準備動作時間算出ステップ(S4)において算出された最長準備動作時間(「最遅工具準備時間TPmax(N)」)が、非準備動作時間算出ステップ(S5)において算出された非準備動作時間(すなわち、「非準備動作時間TA(N)」)よりも短い場合には、工具交換の準備動作を行う際の駆動速度を、予め設定された最遅の駆動速度とするものである。
【0035】
したがって、工具マガジンTの制御方法によれば、工具交換準備以外の動作に長い時間を要する場合には、駆動手段3が連結稼働部4を遅い速度で駆動(稼働)させることにより、不必要な振動の発生による加工精度の悪化をきわめて効果的に防止することが可能となる。
【0036】
<工具マガジンの制御方法の変更例>
本発明に係る工具マガジンの制御方法の内容は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、動作内容取得ステップ、準備動作時間算出ステップ、非準備動作時間算出ステップ等の内容を必要に応じて、適宜変更することができる。また、本発明に係る制御方法によって制御される工具マガジンも、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、駆動装置、工具保持部、連結稼働部、制御装置等の形状・構造等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0037】
M・・工作機械
T・・工具マガジン
2・・工具保持部
3・・駆動手段
4・・連結稼働部
C・・制御装置
12・・記憶手段