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特許7346292酵素阻害剤をアッセイするための汎用キャリブレーション方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】酵素阻害剤をアッセイするための汎用キャリブレーション方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/56 20060101AFI20230911BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20230911BHJP
   C12Q 1/527 20060101ALI20230911BHJP
   C12Q 1/533 20060101ALI20230911BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230911BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230911BHJP
   G01N 33/86 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
C12Q1/56
C12Q1/34
C12Q1/527
C12Q1/533
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
G01N33/86
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019511813
(86)(22)【出願日】2017-05-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 FR2017051112
(87)【国際公開番号】W WO2017194876
(87)【国際公開日】2017-11-16
【審査請求日】2020-03-10
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】1654148
(32)【優先日】2016-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】518399184
【氏名又は名称】ダイアグノスティカ スターゴ
(74)【代理人】
【識別番号】100206335
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 和宏
(74)【代理人】
【識別番号】100120857
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】ケルデロ セバスチェン
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】天野 貴子
【審判官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第2818871(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接経口抗凝血剤で処置された患者における出血リスクを推定するための方法であって、前記方法は、以下のステップ:
- 前記患者からの生物試料中の直接経口抗凝血剤の量または濃度を、アッセイする方法を用いて、決定するステップと、
- この量または濃度を所定の閾値と比較するステップと、
- 直接経口抗凝血剤の量または濃度が前記所定の閾値を上回れば、出血リスクがあると結論するステップと
を含む、方法であって、
前記直接経口抗凝血剤は、リバーロキサバン、アピキサバン、及びエドキサバンから選択され、
前記アッセイする方法が、生物試料中の血液凝固の酵素Eの阻害剤をアッセイする方法であって、血液凝固の酵素Eの阻害剤が前記直接経口抗凝血剤であり、前記アッセイする方法が以下のステップ:
1)体積がV’’で、前記直接経口抗凝血剤を含む前記生物試料のアリコート、前記酵素Eを初期濃度[E]でまたは初期活性Aで、および前記酵素に特異的な標識化された基質Sを初期濃度[S]で含んだ、反応媒体Mの被検混合物について定常状態における残留酵素活性を決定するステップであって、
- 前記酵素に特異的な前記基質は、検出可能な物理的特性を有する標識で標識化され、
- 前記被検混合物の定常状態における前記残留酵素活性は、以下のステップ:
i)初期酵素濃度[E]の、または初期酵素活性A、および初期基質濃度[S]の混合物を得るために、前記生物試料の前記アリコートを前記酵素Eの溶液および前記基質Sの溶液と混合するステップ、
ii)前記標識の前記検出可能な物理的特性の値を測定し、曲線を得るために、この物理的特性の値を時間の関数として、グラフ上に、プロットするステップであって、前記曲線は、定常状態に対応する直線部分を有する、前記プロットするステップ、
iii)ステップii)で得られた前記曲線の前記直線部分の勾配を算出するステップ
によって決定され、ステップiii)で得られた前記勾配は、前記被検混合物の定常状態における前記残留酵素活性である、
前記残留酵素活性を決定するステップと、
2)汎用キャリブレーション曲線を用いて、前記被検混合物について前記ステップ1)で決定された定常状態における前記残留酵素活性から、前記生物試料の抗酵素活性を決定するステップと、
3)パーセンテージとして表現され、ステップ2)で得られた前記抗酵素活性を前記経口抗凝血剤に固有の変換曲線またはチャートを用いて、前記経口抗凝血剤の量または濃度に変換するステップと、
を含み、
ステップ2)で用いられる前記汎用キャリブレーション曲線が、以下のa)~c)のステップ:
a)前記酵素Eと、前記基質Sとを含んだ複数の混合物の各々について定常状態における残留酵素活性を決定するステップであって、
- 前記混合物の各々において、前記基質は、前記酵素と比較して過剰に存在し、
- 前記混合物は、同じ初期基質濃度[S]を含み、
- 前記混合物は、同じ総体積Vおよび同じ反応媒体Mを有し、
- 前記混合物は、最高初期酵素濃度が[E]である、既知の減少する初期酵素濃度を有するか、または最高初期酵素活性がAである、既知の減少する初期酵素活性を有し、
- 混合物の定常状態における前記残留酵素活性は、以下のa1)~a3)のステップ:
a1)既知の初期酵素濃度の、または既知の初期酵素活性の、および初期基質濃度[S]の混合物を得るために、前記酵素Eの溶液と前記基質Sの溶液とを混合するステップ、
a2)前記標識の前記検出可能な物理的特性の値を測定し、曲線を得るために、この物理的特性の値を時間の関数として、グラフ上に、プロットするステップであって、前記曲線は、定常状態に対応する直線部分を有する、前記プロットするステップ、および
a3)ステップa2)で得られた前記曲線の前記直線部分の勾配を算出するステップ
によって決定され、ステップa3)で得られた前記勾配は、前記混合物の定常状態における前記残留酵素活性である、
前記残留酵素活性を決定するステップと、
b)ステップa)の前記混合物の各々について、前記混合物の初期酵素濃度を前記最高初期酵素濃度[E]と比較して標準化することによって前記混合物の前記初期酵素濃度をパーセンテージとして表現された抗酵素活性へ変換するか、または前記混合物の初期酵素活性を前記最高初期酵素活性Aと比較して標準化することによって前記混合物の前記初期酵素活性をパーセンテージとして表現された抗酵素活性へ変換するステップと、
c)ステップb)で決定された前記抗酵素活性をステップa)で得られた定常状態における前記残留酵素活性の関数として、混合物ごとに、グラフ上に、プロットすることによって汎用キャリブレーション曲線を生成するステップ
を含むことにより得られ、
ステップ3)で用いられる前記変換曲線または前記チャートが、以下のステップd):
d)被検試料について決定された抗酵素活性を直接経口抗凝血剤の量または濃度に変換することを可能にする前記直接経口抗凝血剤に固有の変換曲線またはチャートを生成するステッ
より得られる、方法。
【請求項2】
前記生物試料は、血液の、血漿の、多血小板血漿の、少血小板血漿の、あるいは血小板もしくは赤血球微粒子または任意のその他の細胞を含んだ血漿の試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生物試料は、少血小板血漿試料である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素は、凝固因子、カリクレインおよびプラスミン、因子IIa、因子Xaおよびプラスミンから選択された血液凝固の酵素である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記直接経口抗凝血剤は、可逆的な直接阻害剤、または不可逆的な直接阻害剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記体積V’’は、体積Vと同一である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップb)では、初期酵素濃度[E]をもつ混合物について、パーセンテージとして表現された前記抗酵素活性[AntiEnzyme が、式:
AntiEnzyme=1-([E]/[E])、
によって算出され、初期酵素活性Aをもつ混合物については、パーセンテージとして表現された前記抗酵素活性が、式:
AntiEnzyme=1-(A/A
によって算出される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップc)では、前記キャリブレーション曲線は、式:
【数1】
をもつ直線であり、ここで、
AntiEnzyme(%)は、パーセンテージとして表現された前記抗酵素活性であり、
vは、定常状態における前記残留酵素活性であり、
1/vは、前記キャリブレーション曲線の前記勾配であり、vは、阻害剤の不在下で観測される定常状態における前記残留酵素活性である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップd)は、以下のサブステップ:
d1)各々が、前記直接経口抗凝血剤を既知の初期濃度で、前記酵素Eを前記初期濃度[E]でまたは前記初期活性Aで、および前記酵素に特異的な標識化された基質Sを前記濃度[S]で含んだ、少なくとも2つの標準化混合物について定常状態における前記残留酵素活性を決定するサブステップであって、
- 前記標準化混合物の各々において、前記酵素は、前記直接経口抗凝血剤と比較して過剰に存在し、
- 前記標準化混合物は、同じ体積V’および同じ反応媒体Mを有し、
- 混合物の定常状態における前記残留酵素活性は、以下のステップ:
d1’)前記直接経口抗凝血剤の既知の初期濃度をもつ標準化混合物を得るために、前記直接経口抗凝血剤を前記酵素Eの溶液および前記基質Sの溶液と混合するステップ、
d1’’)前記標識の前記検出可能な物理的特性の値を測定し、曲線を得るために、この物理的特性の値を時間の関数として、グラフ上に、プロットするステップであって、前記曲線は、定常状態に対応する直線部分を有する、前記プロットするステップ、および
d1’’’)d1’’)で得られた前記曲線の前記直線部分の前記勾配を算出するステップ
によって決定され、ステップd1’’’)で得られた前記勾配は、前記標準化混合物の定常状態における残留酵素活性である、
前記残留酵素活性を決定するサブステップと、
d2)前記混合物の前記抗酵素活性を前記標準化混合物についてステップd1’’’)で測定された定常状態における前記残留酵素活性から決定するために、前記標準化混合物の各々について、ステップc)で得られた前記汎用キャリブレーション曲線を用いるサブステップと、
d3)各標準化混合物について、前記標準化混合物の直接経口抗凝血剤の初期濃度をステップd2)で決定された前記抗酵素活性の関数としてグラフ上にプロットすることによって、標準曲線またはチャートを生成するサブステップと
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記体積V’は、体積Vと同一である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記体積V’’は、体積V’と同一である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップd)は、前記標準曲線の式をステップd3)で前記グラフ上にプロットされた対(抗酵素活性、直接経口抗凝血剤の濃度)の回帰によって決定することにあるサブステップd4)も含む、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
- 前記直接経口抗凝血剤が可逆的な直接阻害剤であれば、前記標準曲線の式は、以下の式:
【数2】
であり、ここで、
AntiEnzyme(%)は、前記抗酵素活性であり、
[I]は、前記被検試料中に存在する直接経口抗凝血剤の濃度であり、
iおよびeは、前記直接経口抗凝血剤に固有の2つの固定された定数である、
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法であって、以下のステップ:
- 前記患者に投与するための抗阻害剤化合物の量を前記患者からの生物試料中で測定された直接経口抗凝血剤の量または濃度の関数として決定するステップ
をさらに含む、方法。
【請求項15】
前記直接経口抗凝血剤で処置された患者は、直接経口抗凝血剤の過量投与を受けた疑いがある患者であるか、もしくは処置を抗ビタミンK剤から前記直接経口抗凝血剤へ最近変えられた患者であるか、または外科的介入をまさに受けようとしている患者である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特許出願
本国際出願は、その内容が全体として参照により本明細書に組み込まれる、2016年5月10日出願の仏国出願第1654148号の優先権を主張する。
【0002】
技術分野
本発明は、同じ酵素、例えば、血液凝固の酵素の阻害剤をアッセイするために用いる汎用キャリブレーション方法に関する。本発明は、生物試料中の酵素の阻害剤をアッセイするための方法におけるこの汎用キャリブレーションの使用にも関する。汎用キャリブレーションは、阻害剤を互いに比較することも可能にするので、本発明は、酵素を阻害できる化合物をスクリーニングするための方法における汎用キャリブレーションの使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
血液凝固は、いくつかの因子、特に、
- トロンビン発生の生理活性化物質である、組織因子、および
- トロンビンの活性化によってフィブリンへ変換される、フィブリノゲン
を伴う複雑な生理現象である。フィブリンの蓄積は、出血を止める血餅の形成につながる。血餅形成は、特に、多くの酵素およびそれらの阻害剤を伴う活性化と阻害との間のバランスによって調節される。活性化と阻害との間のこのバランスをくつがえすと、2つのタイプの疾患:血栓性疾患および出血性疾患、を誘発しかねない。これらの疾患のいずれか1つを診断すること、またはこれらの疾患を処置するために確立された治療法の働きを測定することを目標として、関与する酵素の1つまたはこの酵素の阻害剤の1つをアッセイすることが有益でありうる。
【0004】
血液凝固の酵素の阻害剤は、従来、その酵素について次のもの:血液試料中に存在する阻害剤と酵素に特異的な基質と、を競合に持ち込むことによってアッセイされる。かかるアッセイは、概して、阻害剤に固有の専用キットを用いて達成され、
- 特に、被検試料の希釈、固有の試薬濃度および精密な測定点を伴う、概して、阻害剤のアッセイに固有の最適化手法、および
- 線形、多項式または対数であってよいキャリブレーション曲線の数学的回帰モデル
に基づく。
【0005】
阻害剤に固有のこの専用キットは、一般に、
- キャリブレータ(典型的に、増加する濃度レベルのアッセイされる阻害剤を含んだ血漿)、および
- 一般に、低および高濃度レベルの阻害剤を含んだ品質管理
を備える。
【0006】
加えて、同じ酵素のいくつかの阻害剤のアッセイを、異なる試料で、並行して実行できることが必要な場合、ユーザは、阻害剤ごとに1つのアッセイキットを有さなければならない。そのうえ、阻害剤ごとに、測定システムを較正することが必要である。
【0007】
それゆえに、これらの制限のすべてを克服する方法が必要である。特に、実行するのが容易で問題の阻害剤に固有ではない、血液凝固の酵素の阻害剤をアッセイするための方法、すなわち、言い換えれば、汎用のアッセイ方法が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、実行するのが難しくなく比較的安価であり、酵素阻害剤が可逆的かまたは不可逆的かどうかに係わらず、同じ酵素の複数の阻害剤の並行アッセイを可能にするキャリブレーション方法を提供する。従来のキャリブレーション方法では、アッセイすることが望まれる阻害剤の増加する濃度からキャリブレーション曲線が生成されたのに対して、本発明によるキャリブレーション方法においては、標的酵素の減少する濃度からキャリブレーション曲線が生成される。本発明によるキャリブレーション方法は、酵素のすべての阻害剤に共通の汎用単位である、抗酵素活性のパーセンテージとして表現された結果を得ることを可能にし、それによって、酵素に対するこれらの阻害剤の阻害効果を比較することを可能にする。キャリブレーションは、それゆえに、阻害剤を互いに比較することを可能にするので、本発明は、酵素の阻害剤を同定するためのスクリーニング方法における汎用キャリブレーションの使用にも関する。本発明によるキャリブレーション方法は、変換チャートを固有の数学的推論に従って作ることによって、試験される試料中に存在する阻害剤の量または濃度を測定することも可能にする。本発明によるキャリブレーション方法を、それゆえに、生物試料中に存在する酵素の阻害剤のアッセイに適用できて、例えば、直接経口抗凝血剤によって処置された患者に由来する生物試料中に存在する直接経口抗凝血剤のアッセイに適用できる。
【0009】
より具体的には、本発明は、酵素の阻害剤をアッセイするための汎用キャリブレーションを得るための方法に関し、方法は、以下のステップ:
a)酵素Eと、標識化され、酵素に特異的な基質Sとを含んだ複数の混合物の各々について定常状態における残留酵素活性を決定するステップであって、
- 酵素に特異的な基質は、検出可能な物理的特性を有する標識で標識化され、
- 混合物の各々において、基質は、酵素と比較して過剰に存在し、
- 混合物は、同じ初期基質濃度[S]を含み、
- 混合物は、同じ総体積Vおよび同じ反応媒体Mを有し、
- 混合物は、最高初期酵素濃度が[E]である、既知の減少する初期酵素濃度を有するか、または最高初期酵素活性がAである、既知の減少する初期酵素活性を有し、
- 混合物の定常状態における残留酵素活性は、以下のステップ:
a1)既知の初期酵素濃度の、または既知の初期酵素活性の、および初期基質濃度[S]の混合物を得るために、酵素Eの溶液と基質Sの溶液とを混合するステップ、
a2)標識の検出可能な物理的特性の値を測定し、曲線を得るために、この物理的特性の値を時間の関数として、グラフ上に、プロットするステップであって、曲線は、定常状態に対応する直線部分を有する、プロットするステップ、および
a3)a2)で得られた曲線の直線部分の勾配を算出するステップ
によって決定され、a3)で得られた勾配は、混合物の定常状態における残留酵素活性である、
残留酵素活性を決定するステップと、
b)ステップa)の混合物の各々について、混合物の初期酵素濃度を最高初期酵素濃度[E]と比較して標準化することによって混合物の前記初期酵素濃度をパーセンテージとして表現された抗酵素活性へ変換するか、または混合物の初期酵素活性を最高初期酵素活性Aと比較して標準化することによって混合物の前記初期酵素活性をパーセンテージとして表現された抗酵素活性へ変換するステップと、
c)ステップb)で決定された抗酵素活性をステップa)で得られた定常状態における残留酵素活性の関数として、混合物ごとに、グラフ上に、プロットすることによって汎用キャリブレーション曲線を生成するステップと
を含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、汎用キャリブレーション方法に用いられる酵素は、ヒドロラーゼ類のクラスに、リアーゼ類のクラスに、またはイソメラーゼ類のクラスに属する。
【0011】
いくつかの実施形態において、キャリブレーション方法を用いてアッセイすることが望まれる阻害剤は、可逆的な直接もしくは間接阻害剤、または不可逆的な直接もしくは間接阻害剤である。
【0012】
いくつかの実施形態において、汎用キャリブレーション方法のステップb)では、初期酵素濃度[E]をもつ混合物について、パーセンテージとして表現された抗酵素活性は、式:
AntiEnzyme=1-([E]/[E])、
によって算出され、初期酵素活性Aをもつ混合物については、パーセンテージとして表現された抗酵素活性は、式:
AntiEnzyme=1-(A/A
によって算出される。
【0013】
いくつかの実施形態において、汎用キャリブレーション方法のステップc)では、キャリブレーション曲線は、式:
【0014】
【数1】
【0015】
をもつ直線であり、ここで、
AntiEnzyme(%)は、パーセンテージとして表現された抗酵素活性であり、
vは、定常状態における残留酵素活性であり、
1/vは、キャリブレーション曲線の勾配であり、vは、阻害剤の不在下で観測された定常状態における残留活性である。
【0016】
いくつかの実施形態において、汎用キャリブレーション方法は、酵素Eの阻害剤に固有であり、被検試料について決定された抗酵素活性を阻害剤の量または濃度へ変換することを可能性にする、変換チャートを生成することにあるステップd)も含む。好ましくは、ステップd)は、以下のサブステップ:
d1)各々が、阻害剤を既知の初期濃度で、酵素Eを初期濃度[E]でまたは初期活性Aで、および酵素に特異的な標識化された基質Sを濃度[S]で含んだ、少なくとも2つの標準化混合物について定常状態における残留酵素活性を決定するサブステップであって、
- 標準化混合物の各々において、酵素は、阻害剤と比較して過剰に存在し、
- 標準化混合物は、同じ体積V’および同じ反応媒体Mを有し、
- 混合物の定常状態における残留酵素活性は、以下のステップ:
d1’)阻害剤の既知の初期濃度をもつ標準化混合物を得るために、阻害剤を酵素Eの溶液および基質Sの溶液と混合するステップ、
d1’’)標識の検出可能な物理的特性の値を測定し、曲線を得るために、この物理的特性の値を時間の関数として、グラフ上に、プロットするステップであって、曲線は、定常状態に対応する直線部分を有する、プロットするステップ、および
d1’’’)d1’’)で得られた曲線の直線部分の勾配を算出するステップ
によって決定され、ステップd1’’’)で得られた勾配は、標準化混合物の定常状態における残留酵素活性である、
残留酵素活性を決定するサブステップと、
d2)標準化混合物の各々について、その混合物の抗酵素活性を標準化混合物についてステップd1’’’)で測定された定常状態における残留酵素活性から決定するために、汎用キャリブレーション方法のステップc)で得られた汎用キャリブレーション曲線を用いるサブステップと、
d3)各標準化混合物について、標準化混合物の阻害剤の初期濃度をステップd2)で決定された抗酵素活性の関数としてグラフ上にプロットすることによって、標準曲線またはチャートを生成するサブステップと
を含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、体積V’は、体積Vと同一である。
【0018】
いくつかの実施形態において、ステップd)は、標準曲線の式をステップd3)でグラフ上にプロットされた対(抗酵素活性、阻害剤の濃度)の回帰によって決定することにあるサブステップd4)も含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、
- 阻害剤が可逆的な直接阻害剤であれば、標準曲線の式は、以下の式:
【0020】
【数2】
【0021】
であり、ここで、
AntiEnzyme(%)は、抗酵素活性であり、
[I]は、被検試料中に存在する阻害剤の濃度であり、
iおよびeは、阻害剤に固有の2つの固定された定数であり、
- 阻害剤が不可逆的な間接阻害剤であれば、標準曲線の式は、以下の式:
[I]=e×AntiEnzyme(%)
であり、ここで、
AntiEnzyme(%)は、被検試料中における抗酵素活性であり、
[I]は、試料中に存在する阻害剤の濃度であり、
eは、阻害剤に固有の固定された定数である。
【0022】
本発明は、生物試料中の酵素の阻害剤をアッセイするための方法にも関し、方法は、以下のステップ:
1)体積がV’’で、阻害剤を含む生物試料のアリコート、酵素Eを初期濃度[E]でまたは初期活性Aで、および酵素に特異的な標識化された基質Sを初期濃度[S]で含んだ、反応媒体Mの被検混合物について定常状態における残留酵素活性を決定するステップであって、
- 酵素に特異的な基質は、検出可能な物理的特性を有する標識で標識化され、
- 被検混合物の定常状態における残留酵素活性は、以下のステップ:
i)初期酵素濃度[E]の、または初期酵素活性のA、および初期基質濃度[S]の混合物を得るために、生物試料のアリコートを酵素Eの溶液および基質Sの溶液と混合するステップ、
ii)標識の検出可能な物理的特性の値を測定し、曲線を得るために、この物理的特性の値を時間の関数として、グラフ上に、プロットするステップであって、曲線は、定常状態に対応する直線部分を有する、プロットするステップ、および
iii)ステップii)で得られた曲線の直線部分の勾配を算出するステップ
によって決定され、ステップiii)で得られた勾配は、被検混合物の定常状態における残留酵素活性である、
残留酵素活性を決定するステップと、
2)生物試料の抗酵素活性を被検混合物について測定された定常状態における残留酵素活性から決定するために、請求項1~5のいずれか一項に請求されるようなキャリブレーション方法のステップc)で得られた汎用キャリブレーション曲線を用いるステップと
を含む。
【0023】
いくつかの実施形態において、本発明によるアッセイ方法に用いられる生物試料は、血液の、血漿の、多血小板血漿の、少血小板血漿の、あるいは血小板もしくは赤血球微粒子またはその他の細胞を含んだ血漿の試料である。いくつかの好ましい実施形態において、生物試料は、少血小板血漿試料である。
【0024】
いくつかの実施形態において、本発明によるアッセイ方法に用いられる酵素は、凝固因子、カリクレインおよびプラスミンから選択され、好ましくは、因子IIa、因子Xaおよびプラスミンから選択される血液凝固の酵素である。
【0025】
酵素が血液凝固の酵素である実施形態において、本発明によるアッセイ方法によってアッセイされる阻害剤は、アンチトロンビン、ヘパリンコファクターII、α2マクログロブリン、ヒルジン、レピルジン、デシルジン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン、ベトリキサバン、ダビガトラン、ビバリルジン、アルガトロバン、非分画ヘパリン類、低分子量ヘパリン類、五糖類およびダナパロイドナトリウムから選択されてよい。
【0026】
いくつかの実施形態において、体積V’’は、体積Vと同一である。
【0027】
いくつかの実施形態において、本発明によるアッセイ方法は、以下のステップ:
3)請求項6~10のいずれか1つに請求されるようなキャリブレーション方法のステップd)で得られた阻害剤に固有のチャートを用いて、パーセンテージとして表現され、ステップ2)で得られた抗酵素活性を阻害剤の濃度へ変換するステップ
も含む。
【0028】
本発明は、直接経口抗凝血剤で処置された患者における出血リスクを推定するための本方法によるアッセイ方法の使用にも関する。
【0029】
本発明は、直接経口抗凝血剤で処置された患者における出血リスクを推定するための方法にも関し、方法は、以下のステップ:
- 患者からの生物試料中の直接経口抗凝血剤の量または濃度を、本発明のアッセイ方法を用いて、決定するステップと、
- この量または濃度を所定の閾値と比較するステップと、
- 直接経口抗凝血剤の量または濃度が所定の閾値を上回れば、出血リスクがあると見做すステップと
を含む。
【0030】
いくつかの実施形態において、直接経口抗凝血剤で処置された患者における出血リスクを推定するための方法は、以下のステップ:
- 患者に投与するための抗阻害剤化合物の量を患者からの生物試料中で測定された直接経口抗凝血剤の量または濃度の関数として決定するステップ
も含む。
【0031】
いくつかの実施形態において、直接経口抗凝血剤で処置された患者は、直接経口抗凝血剤の過量投与を受けた疑いがある患者であるか、もしくは処置を抗ビタミンK剤から直接経口抗凝血剤への最近変えられた患者であるか、または外科的介入をまさに受けようとしている患者である。
【0032】
本発明は、酵素の阻害剤を同定するためのスクリーニング方法にも関し、方法は、以下のステップ:
1)体積がV’’’で、試験化合物を初期濃度[C]で、酵素Eを初期濃度[E]でまたは初期活性Aで、および酵素に特異的な標識化された基質Sを初期濃度[S]で含んだ、反応媒体Mの混合物について定常状態における残留酵素活性を決定するステップであって、
- 酵素に特異的な基質は、検出可能な物理的特性を有する標識で標識化され、
- 酵素は、混合物中に試験化合物と比較して過剰に存在し、
- 混合物の定常状態における残留酵素活性は、以下のステップ:
i)初期酵素濃度[E]の、または酵素活性A、初期基質濃度[S]および試験化合物の濃度[C]の混合物を得るために、試験化合物を酵素Eの溶液および基質Sの溶液と混合するステップ、
ii)標識の検出可能な物理的特性の値を測定し、曲線を得るために、この物理的特性の値を時間の関数として、グラフ上に、プロットするステップであって、曲線は、定常状態に対応する直線部分を有する、プロットするステップ、および
iii)ステップii)で得られた曲線の直線部分の勾配を算出するステップ
によって決定され、ステップiii)で得られた勾配は、被検化合物の定常状態における残留酵素活性である、
残留酵素活性を決定するステップと、
2)試験化合物の抗酵素活性を混合物について測定された定常状態における残留酵素活性から決定するために、汎用キャリブレーション方法のステップc)で得られた汎用キャリブレーション曲線を用いるステップと、
3)ステップ2)で決定された試験化合物の抗酵素活性を酵素の標準的な阻害剤について濃度[C]で同じ条件下において決定された抗酵素活性と比較するか、またはステップ2)で決定された試験化合物の抗酵素活性を所定の閾値と比較するステップであって、試験化合物は、試験化合物の抗酵素活性が酵素の標準的な阻害剤の抗酵素活性より大きいかまたは試験化合物の抗酵素活性が所定の閾値より大きければ、酵素の阻害剤として同定される比較するステップと
を含む。
【0033】
いくつかの実施形態において、体積V’’’は、体積Vと同一である。
【0034】
いくつかの実施形態において、本発明によるスクリーニング方法に用いられる酵素は、ヒドロラーゼ類のクラスに、またはリアーゼ類のクラスに属する。
【0035】
最後に、本発明は、酵素Eの阻害剤を同定するための第1のキットであって、
- 酵素E、
- 酵素に特異的な標識化された基質S、および
- 本発明によるスクリーニング方法を実行するための使用説明書
を備える第1のキット、ならびに生物試料中の酵素Eの阻害剤のうちの少なくとも1つをアッセイするための第2のキットであって、
- 酵素E、
- 酵素に特異的な標識化された基質S、
- 酵素の少なくとも1つの阻害剤、および
- 本発明によるアッセイ方法を実行するための使用説明書
を備える第2のキットに関する。
【0036】
いくつかの実施形態において、第2のキットは、少なくとも1つの他の阻害剤も備える。
【0037】
本発明のいくつかの好ましい実施形態が以下にさらに詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】汎用キャリブレーション。グラフは、抗Xa活性(%)を10個の実験点で観測された対応するOD/分の関数として示す。(A)広い範囲の手法:これらの実験点の線形回帰は、直線の式y=1.053-0.999xを与え、決定係数は、R=0.994である。(B)狭い範囲の手法:これらの実験点の線形回帰は、直線の式y=1.034-1.081xを与え、決定係数は、R=0.996である。
図2】変換チャート。これらのチャートは、3つの直接経口抗凝血剤(DOA)の各々について測定された抗Xa活性(%)をng/mlで表現された濃度へ変換することを可能にする。(A)広い範囲の手法:いくつかの実験点における式2の非線形回帰は、それぞれ、リバーロキサバン(●)についてi=0.73およびe=16.43、アピキサバン(▲)についてi=1.35およびe=14.66ならびにエドキサバン(n)についてi=1.14およびe=15.66を与える。(B)狭い範囲の手法:いくつかの実験点における式2の非線形回帰は、それぞれ、リバーロキサバン(●)についてi=1.42およびe=15.36、アピキサバン(▲)についてi=2.91およびe=13.23ならびにエドキサバン(n)についてi=1.98およびe=14.96を与える。
図3】リバーロキサバン。(A)広い範囲の手法:本発明による汎用キャリブレーション原理を用いて20個の過負荷に関して測定されたリバーロキサバンのレベルのアッセイの結果の理論的なレベルとの比較は、直線の式y=6.91+0.98xを与え、決定係数は、R=0.998である。(B)狭い範囲の手法:本発明による汎用キャリブレーション原理を用いて8個の過負荷に関して測定されたリバーロキサバンのレベルのアッセイの結果の理論的なレベルとの比較は、直線の式y=1.63+0.96xを与え、決定係数R=0.995である。
図4図4:アピキサバン。(A)広い範囲の手法:本発明による汎用キャリブレーション原理を用いて24個の過負荷に関して測定されたアピキサバンのレベルのアッセイの結果の理論的なレベルとの比較は、直線の式y=10.41+0.97xを与え、決定係数R=0.999である。(B)狭い範囲の手法:本発明による汎用キャリブレーション原理を用いて10個の過負荷に関して測定されたアピキサバンのレベルのアッセイの結果の理論的なレベルとの比較は、直線の式y=2.79+0.97xを与え、決定係数R=0.999である。
図5】エドキサバン。(A)広い範囲の手法:本発明による汎用キャリブレーション原理を用いて24個の過負荷に関して測定されたエドキサバンのレベルのアッセイの結果の理論的なレベルとの比較は、直線の式y=0.99x+0.83を与え、決定係数R=0.996である。(B)狭い範囲の手法:本発明による汎用キャリブレーション原理を用いて10個の過負荷に関して測定されたエドキサバンのレベルのアッセイの結果の理論的なレベルとの比較は、直線の式y=1.00x-0.24を与え、決定係数R=0.997である。
図6】汎用キャリブレーションの回帰の改良。グラフは、抗Xa活性(%)を狭い範囲の手法を用いて10個の実験点で観測された対応するOD/分の関数として提示する。(A)線形回帰:これらの実験点の線形回帰は、式:y=1.034-1.081xをもつ直線を与え、決定係数R=0.9963である。(B)二次多項式を用いた回帰:これらの実験点の回帰は、式y=0.978-0.789x-0.281xの多項式を与え、決定係数R=0.9998である。
図7】血漿中における希釈-汎用キャリブレーション。グラフは、抗Xa活性(%)を広い範囲(●)および狭い範囲(▲)の手法を用いて10個の実験点で観測された対応するOD/分の関数として提示する。(A)緩衝液中の希釈:線形回帰は、広い範囲の手法(●)では、直線の式y=1.053-0.999xを与え、決定係数R=0.994であり、狭い範囲の手法(▲)では、直線の式y=1.034-1.081xを与え、決定係数R=0.996である。(B)血漿中における希釈:線形回帰は、それぞれ、広い範囲の手法(●)では、直線の式y=1.022-1.173xを与え、決定係数R=0.998であり、狭い範囲の手法(▲)では、直線の式y=1.020-1.198xを与え、決定係数R=0.998である。
図8】血漿中における希釈:リバーロキサバン。(A)広い範囲の手法:血漿中における希釈とともに本発明による汎用キャリブレーション原理を用いて20個の過負荷に関して測定されたリバーロキサバンのレベルのアッセイの結果の理論的なレベルとの比較は、直線の式y=1.03+0.96xを与え、決定係数R=0.999である。(B)狭い範囲の手法:血漿中における希釈とともに本発明による汎用キャリブレーション原理を用いて8個の過負荷に関して測定されたリバーロキサバンのレベルのアッセイの結果の理論的なレベルとの比較は、直線の式y=1.15+0.95xを与え、決定係数R=0.995である。
図9】汎用キャリブレーション。グラフは、抗Xa活性(%)を10個の実験点で観測された対応するOD/分の関数として示す。これらの実験点の線形回帰は、直線の式y=0.094-0.518xを与え、決定係数R=0.996であった。
図10】変換チャート。この図に提示されるチャートは、測定された抗Xa活性(%)をIU/ml単位の濃度へ変換することを可能にし、(A)非分画ヘパリンについて:実験点の線形回帰は、直線の式y=2.354x-0.02569を与え、決定係数R=0.992であり、(B)低分子量ヘパリンについて:これらの実験点の線形回帰は、直線の式y=1.621x-0.02827を与え、決定係数R=0.979であった。
図11】(A)非分画ヘパリン。汎用キャリブレーション原理を用いて11個の過負荷に関して測定された非分画ヘパリンのレベルのアッセイの結果の理論的なレベルとの比較は、直線の式y=1.025x-0.01107を与え、決定係数R=0.979であった。(B)低分子量ヘパリン。汎用キャリブレーション原理を用いて7個の過負荷に関して測定された低分子量ヘパリンのレベルのアッセイの結果の理論的なレベルとの比較は、直線の式y=0.9764x+0.01489を与え、決定係数R=0.985であった。
【発明を実施するための形態】
【0039】
上述のように、本発明は、酵素の阻害剤のためのキャリブレーション方法に関し、ならびに酵素の阻害剤をアッセイするための方法における、および酵素の阻害剤についてスクリーニングするための方法におけるこの汎用キャリブレーションの使用に関する。
【0040】
I-汎用キャリブレーション方法
A.酵素阻害剤をアッセイするための従来の方法の基礎をなす原理
酵素の阻害剤をアッセイするための従来の方法は、少なくとも3つの要素を伴い、2つの生化学反応を互いに競合に持ち込む。3つの要素は、酵素(E)、試験された試料中の量または濃度を測定することが望まれる阻害剤(I)、および酵素に特異的な基質(S)であり、この基質が標識化される(一般に、標識化は、酵素反応が標識の放出をもたらし、その検出を可能にするように選ばれる)。2つの競合する生化学反応は、阻害剤による酵素の阻害反応および酵素とその基質との間の酵素反応である。
【0041】
阻害剤が可逆的な阻害剤であるときに、可逆的な阻害剤による酵素の阻害反応は、次の通りであり、
【0042】
【数3】
【0043】
ここで、
EおよびIは、先に定義されたような、酵素および阻害剤を示し、
Iは、酵素と阻害剤との間で形成された不活性な複合体を示し、
i+は、酵素と可逆的な阻害剤との間の会合定数であり、
i-は、酵素と可逆的な阻害剤との間の解離定数である。
【0044】
阻害剤が不可逆的な阻害剤であるときには、不可逆的な阻害剤による酵素の阻害反応は、次の通りであり、
【0045】
【数4】
【0046】
ここで、
E、IおよびEIは、先に定義された通りであり、
は、酵素と不可逆的な阻害剤との間の会合定数である。
【0047】
酵素とその基質との間の酵素反応は、次の通りであり、
【0048】
【数5】
【0049】
ここで、
EおよびSは、先に定義されたように、酵素およびその標識化された基質を示し、
Sは、酵素および基質によって形成された不安定な複合体を示し、
Pは、酵素による基質の触媒から生じた生成物を示し、
は、アンリ・ミカエリス・メンテン定数であり、
catは、酵素の触媒定数である。
【0050】
阻害剤が間接的である場合には、アッセイは、第4の要素:阻害剤とともに複合体(AI)を形成する化合物A、を伴い、この複合体が酵素の不可逆的な阻害剤である。したがって、例えば、不可逆的な間接阻害剤の場合には、競合する反応は、以下のスキーム:
【0051】
【数6】
【0052】
で表され、ここで、
E、I、S、K、およびkcatは、先に定義された通りであり、
Aは、阻害剤と複合体AIを形成する化合物であり、
onは、複合体AIの会合定数であり、
offは、複合体AIの解離定数である。
は、酵素および阻害剤の会合定数である。
【0053】
アッセイ方法では、初めに、基質が酵素と比べて過剰に存在し、酵素は、それ自体が阻害剤と比べて過剰に存在する。測定の間に、阻害剤によって多かれ少なかれ阻害された酵素が基質を開裂して生成物を与える。これが標識の放出をもたらし、標識の出現および蓄積が試験された試料の少なくとも1つの物理的特性における観測可能な変化を誘起する。曲線を構築することによってこの物理的特性における変動を時間の関数として追跡すると、2つの競合する生化学反応の間の平衡の確立を追跡することが可能である。
【0054】
確かに、ある時間後には、2つの競合する生化学反応が定常状態、すなわち、酵素および阻害剤(または、間接阻害剤については、酵素および複合体AI)が生化学的な平衡状態にあり、酵素の、阻害剤のおよび複合体EIの(または、間接阻害剤については、酵素の、複合体AIのおよび複合体EIの)濃度が一定である状態、である局所平衡に達するであろう。酵素が初めに過剰であったので、この時点では、残留酵素活性が残っており、試験された試料中に存在する阻害剤の濃度をそれから推測するためにこの残留酵素活性を定量化することができる。確かに、残留酵素活性と阻害剤の初期濃度とは逆比例し、試験された試料中に存在する阻害剤の濃度が高いほど、測定の間に酵素がより多く阻害されて、定常状態の間に基質に対して活性がより低く、逆に、試料中に存在する阻害剤の濃度が低いほど、測定の間に酵素がより少なく阻害されて、定常状態の間に基質に対して活性がより高い。したがって、これら2つの値、定常状態における酵素の残留活性と阻害剤の濃度との間の関係は、全単射であり、それゆえに、試料中に存在する阻害剤の各濃度に対してユニークな等価残留酵素活性がある。定常状態は、物理的特性(標識の放出と関連する)における変動を時間の関数として提示する曲線の直線部分に対応する。この直線部分の勾配が阻害剤の初期濃度に逆比例する酵素の残留活性である。
【0055】
酵素阻害剤をアッセイするための従来の方法では、キャリブレーションは、阻害剤の既知の濃度を有するn個のキャリブレーション試料について、定常状態における残留酵素活性を決定することによって実行される。従来のアッセイ方法のキャリブレーション曲線は、得られたn個の対(残留酵素活性、阻害剤の濃度)を、グラフ上に、プロットすることによって生成される。これらn個の対の回帰に関する数学的な式が、試験された試料中に存在する阻害剤の濃度を、試験された試料について定常状態で測定された残留酵素活性から、決定することを可能性にする。
【0056】
B.汎用キャリブレーション
本発明は、酵素阻害剤を伴わないが、むしろ酵素のすべての阻害剤に共通の単一のキャリブレータ、すなわち、酵素それ自体を伴うキャリブレーション方法を提供する。本発明による汎用キャリブレーションの原理は、酵素の減少する初期濃度を含んだキャリブレーション試料について、定常状態における残留酵素活性を測定し、次に、得られた異なる対(残留酵素活性、初期酵素濃度)をグラフ上にプロットすることによってキャリブレーション曲線を生成することにある。これらの異なる対の回帰に関する式が、試験された試料について定常状態で測定された残留酵素活性を等価な酵素濃度へ変換することを可能にする。結果を等価な酵素濃度として提供するのではなく、むしろ本明細書では、パーセンテージで表現された、等価な抗酵素活性として結果が提供される。
【0057】
より具体的には、本発明は、酵素の阻害剤をアッセイするための汎用キャリブレーションを得るための方法に関し、方法は、以下のステップ:
a)酵素Eと、標識化され、酵素に特異的な基質Sとを含んだ複数の混合物の各々について定常状態における残留酵素活性を決定するステップであって、
- 酵素に特異的な基質は、検出可能な物理的特性を有する標識で標識化され、
- 混合物の各々において、基質は、酵素と比較して過剰に存在し、
- 混合物は、同じ初期基質濃度[S]を含み、
- 混合物は、同じ総体積Vおよび同じ反応媒体Mを有し、
- 混合物は、最高初期酵素濃度が[E]である、既知の減少する初期酵素濃度を有するか、または最高初期酵素活性がAである、既知の減少する初期酵素活性を有し、
- 混合物の定常状態における残留酵素活性は、以下のステップ:
a1)既知の初期酵素濃度の、または既知の初期酵素活性の、および初期基質濃度[S]の混合物を得るために、酵素Eの溶液と基質Sの溶液とを混合するステップ、
a2)標識の検出可能な物理的特性の値を測定し、曲線を得るために、この物理的特性の値を時間の関数として、グラフ上に、プロットするステップであって、曲線は、定常状態に対応する直線部分を有する、プロットするステップ、および
a3)a2)で得られた曲線の直線部分の勾配を算出するステップ
によって決定され、a3)で得られた勾配は、混合物の定常状態における残留酵素活性である、
残留酵素活性を決定するステップと、
b)ステップa)の混合物の各々について、混合物の初期酵素濃度を最高初期酵素濃度[E]と比較して標準化することによって混合物の前記初期酵素濃度をパーセンテージとして表現された抗酵素活性へ変換するか、または混合物の初期酵素活性を最高初期酵素活性Aと比較して標準化することによって混合物の前記初期酵素活性をパーセンテージとして表現された抗酵素活性へ変換するステップと、
c)ステップb)で決定された抗酵素活性をステップa)で得られた定常状態における残留酵素活性の関数として、混合物ごとに、グラフ上に、プロットすることによって汎用キャリブレーション曲線を生成するステップと
を含む。
【0058】
汎用キャリブレーション方法のステップa)
本発明による汎用キャリブレーション方法のステップa)は、キャリブレーションされる酵素と酵素に特異的な基質とを反応媒体M中に含んだ複数のキャリブレーション混合物の各々について定常状態における残留酵素活性を決定することにある。「複数の混合物」は、少なくとも2個の異なる混合物、好ましくは少なくとも4個の異なる混合物、例えば4、5、6、7、8もしくは9個の異なる混合物、あるいは少なくとも10個の異なる混合物、例えば、10、11、12、13、14もしくは15個の異なる混合物、または15個より多い異なるキャリブレーション混合物を意味することが意図される。
【0059】
酵素
酵素は、触媒特性をもつタンパク質または糖タンパク質である。本明細書に記載される汎用キャリブレーション方法は、その特異的な基質とともに、以下のタイプの酵素反応:
【0060】
【数7】
【0061】
に関与する任意の酵素に適用されてよく、ここでE、S、ES、P、K、kcatは、先に定義された通りである。
【0062】
より一般的に言えば、本発明によるキャリブレーション方法が適用されてよい酵素は、基質との酵素反応がそのためにいずれの補酵素も伴わない酵素である。かかる酵素は、当分野で知られ、以下のクラス:ヒドロラーゼ類、リアーゼ類およびイソメラーゼ類に属する。したがって、本発明による汎用キャリブレーション方法に用いられる酵素は、ヒドロラーゼ類のクラスに、リアーゼ類のクラスに、またはイソメラーゼ類のクラスに属する。好ましくは、キャリブレーション方法に用いられる酵素は、ヒドロラーゼ類のクラスに、またはリアーゼ類のクラスに属する。
【0063】
ヒドロラーゼ類は、加水分解反応を触媒する酵素のクラスを構成し、このクラスは、エステル類を加水分解するエステラーゼ類、オリゴ糖類または多糖類を加水分解するペプチダーゼ類、およびリン系生成物を加水分解するホスファターゼ類を含む。ペプチダーゼ類(またはプロテアーゼ類)のうちでも、(N末端アミノ酸を順次に放出する)アミノペプチダーゼ類、(C末端アミノ酸を順次に放出する)カルボキシペプチダーゼ類、(ジペプチドを加水分解する)ジペプチダーゼ類、および(タンパク質を加水分解する)プロテイナーゼ類の間で区別がなされる。本文書に提示する実施例では、本発明者は、プロテアーゼであり、それゆえに、ヒドロラーゼ類のクラスに属する酵素として因子Xaを用いた。
【0064】
リアーゼ類は、加水分解または酸化以外の手段による種々の化学結合の切断を触媒し、新しい二重結合または新しい環をしばしば形成する酵素のクラスを構成する。このクラスの酵素は、以下には限定されないが、炭素-炭素結合を切断するデカルボキシラーゼ類、アルドラーゼ類およびオキソ酸リアーゼ類のようなリアーゼ類、炭素-酸素結合を切断するデヒドラターゼ類のようなリアーゼ類、炭素-窒素結合を切断するフェニルアラニンアンモニアリアーゼのようなリアーゼ類、炭素-硫黄結合を切断するリアーゼ類などを含む。
【0065】
イソメラーゼ類は、しばしば官能基の再配置および分子のその異性体のうちの1つへの変換によって、分子内の変化を触媒する酵素のクラスを構成する。このクラスの酵素は、以下には限定されないが、ラセマーゼ類、エピメラーゼ類、シス-トランスイソメラーゼ類、分子内オキシドレダクターゼ類、分子内トランスフェラーゼ類、分子内リアーゼ類およびトポイソメラーゼ類を含む。
【0066】
本発明によるキャリブレーション方法に用いられる酵素は、細菌、ウィルス、真菌または植物由来の酵素であってもよく、哺乳動物酵素(ヒトまたは動物)であってもよい。特に、本発明による汎用キャリブレーション方法は、例えば、ヒトまたは動物治療用阻害剤を開発することを目標として、阻害剤を同定することが有益な任意の酵素に適用されてもよく、あるいは生物試料中の阻害剤の存在、例えば、治療用阻害剤によって処置された患者に由来する生物試料中の治療用阻害剤の存在を定量化することが望ましい任意の酵素に適用されてもよい。
【0067】
酵素に特異的な標識化された基質
化学反応を触媒することが可能である前に、酵素は、初めにそれらの基質に結合しなければならない。「基質」および「酵素基質」という用語は、本明細書では同義で用いられる。それらの用語は、当分野で知られる意味を有し、酵素の作用を受けることが可能な任意の分子を示す。当業者は、キャリブレーション方法に用いられる基質がキャリブレーションの対象である酵素に特異的な基質でなければならないことを認識するであろう。当業者は、酵素の特異性が広いとき、すなわち、それがいくつかの基質を許容するときには、理想的な基質の選択が実際には酵素に対するこの基質の(測定の正確さを担う)特異性と、測定の感度および実用性に関連する解析上の制約との間の折衷であることも知っている。
【0068】
本発明によるキャリブレーション方法に用いられる基質は、検出可能な物理的特性を有する標識化された基質である。基質は、好ましくは、酵素と基質との間の酵素反応が標識の放出をもたらし、それによって、この標識を検出することを可能にするように標識化される。
【0069】
したがって、「標識化された基質」は、検出可能な標識を含む、もしくはそれと(例えば、非共有結合的に)会合するか、またはそれに(例えば、共有)結合した基質を示すことが意図される。
【0070】
種々のタイプの標識化および標識が当業者にはよく知られ、発色性、蛍光性、化学発光性、電気化学的または放射性標識などを含めて、本発明の文脈内でこれらを用いてよい。本文書に提示される実施例では、本発明者は、酵素F.Xa(ウシ因子Xa)および発色性基質MAPA-Gly-Arg-pNAを用いた、ここではペプチド配列MAPA-Gly-Arg(4-Methyl-2-Amino-[Methoxy-(Ethoxy)-Carbamate]-Pentanoyl-Glycine-Arginine)がパラ-ニトロアニリン(pNA:para-nitroaniline)に共有結合される。酵素反応がpNAを放出し、混合物におけるその光学濃度(または吸光度)を400nmと500nmとの間の波長、典型的に405nmでモニターできる。
【0071】
キャリブレーション混合物の特性
本発明による方法に用いられるキャリブレーション混合物は、最高初期酵素濃度が[E]である、既知の減少する初期酵素濃度を有する。代わりに、キャリブレーション混合物は、最高初期酵素活性がAである、既知の減少する初期酵素活性を有する。
【0072】
キャリブレーションのために用いられる最高初期酵素濃度[E]、および初期酵素濃度の範囲がキャリブレーション曲線の意図される用途(例えば、オペレータが試験化合物の初期濃度をそのために確定するスクリーニング方法における用途、または治療用阻害剤の濃度が所定の閾値と比較して非常に低いかまたは非常に高いことが知られている患者からの生物試料中の治療用阻害剤をアッセイするための方法における用途)に応じて選択されることを当業者は認識するであろう。しかしながら、[E]および初期酵素濃度の範囲は、生物試料中に(またはスクリーニング試料中に)、酵素が阻害剤と比較して常に過剰に存在するように選ばれなければならない。この過剰は、ゼロでない残留酵素活性の測定を保証する。「阻害剤と比較して過剰に存在する酵素」は、初期酵素濃度が、アッセイすることが望まれる阻害剤の濃度より(または試験することが望まれる試験化合物の濃度より)少なくとも1.25倍より高い、好ましくは少なくとも1.33倍より高い、より好ましくは少なくとも1.5倍よりさらに高いことを意味することが意図される。したがって、キャリブレーション混合物中の初期酵素濃度は、この条件を満たす任意の濃度であってよい。同様に、キャリブレーション混合物のうちの1つにおける最高初期酵素活性Aは、キャリブレーション曲線の意図される用途に応じて選ばれる。
【0073】
本発明によるキャリブレーション方法に用いられるキャリブレーション混合物は、それらの初期酵素濃度を除いて、同一である。特に、それらは、同じ初期基質濃度[S]を含む。そのうえ、すべてのキャリブレーション混合物において、基質は、酵素と比較して過剰に存在する。この過剰は、定常状態の間に極めて少ししか変動しない基質濃度を有することを可能にする。「酵素と比較して過剰に存在する基質」は、初期酵素濃度より少なくとも10倍より高い、好ましくは初期酵素濃度より少なくとも100倍より高い、より好ましくは初期酵素濃度よりも少なくとも1000倍より高いか、または少なくとも10000倍より高い初期基質濃度を意味することが意図される。言い換えれば、初期酵素濃度[E]を有するキャリブレーション混合物において、[E]/[S]比が10以上、好ましくは100以上、より好ましくは1000または10000以上であれば、酵素が基質と比較して過剰に存在する。
【0074】
すべてのキャリブレーション混合物が同じ総体積Vも有する。キャリブレーション方法は、任意の総体積Vを有するキャリブレーション混合物を用いて実行されてよい。明白なのは、コストの理由から、解析体積を最小限に抑えることが常に望ましいことである。したがって、例えば、体積Vは、数ミリリットル(例えば、1mlまたは2ml)と数100マイクロリットル(例えば500μl、400μl、300μlまたは300μl未満)との間であってよい。
【0075】
キャリブレーション混合物は、すべてが同じ反応媒体Mも有する。「反応媒体」は、阻害反応と酵素反応とがその中で競合に持ち込まれる溶媒を意味することが意図される。反応媒体は、かかる反応に適した任意の反応媒体であってよい。反応媒体が酵素反応に対して有しうる影響を所与として、当業者は、キャリブレーションおよびアッセイ(またはキャリブレーションおよびスクリーニング)が同じ反応媒体または実質的に同じ反応媒体中で実行されなければならないことを理解するであろう。したがって、例えば、目標が酵素の阻害剤によって処置された患者に由来する生物試料中に存在する阻害剤をアッセイすることであるときには、キャリブレーション混合物の反応媒体は、健康な患者からの生物試料(すなわち、阻害剤を含まない生物試料-以下を参照)のアリコートを含む。
【0076】
本文書の終わりに記載される実施例では、キャリブレーションは、350μlの総体積Vに対して50μlの健康な血漿、150μlの基質溶液および150μlの酵素溶液を含んだキャリブレーション混合物で実行された。かかるキャリブレーションを用いて、アッセイは、350μlの総体積Vに対して、酵素の阻害剤によって処置された患者から得られた50μlの血漿、150μlの基質溶液および150μlの酵素溶液を含んだ被検混合物で、またはより一般的に、酵素の阻害剤によって処置された患者から得られた血漿、基質溶液、および酵素溶液を1:3:3の体積比で含んだ被検混合物で実行されてよい。
【0077】
キャリブレーション混合物の調製
各キャリブレーション混合物は、初期基質濃度[S]および既知の初期酵素濃度または既知の初期酵素活性をもつ混合物を得るために、基質溶液と酵素溶液とを混合することによって調製される。例えば、既知の濃度の酵素の同じ貯蔵濃度の系列希釈によって混合物を得ることが可能である。系列希釈液には、緩衝液または血漿(以下を参照)が用いられてよい。
【0078】
健康な生物試料のアリコートが用いられる実施形態では、キャリブレーション混合物は、既知の初期酵素濃度、または既知の初期活性、および基質濃度[S]の混合物を得るために、健康な生物試料のアリコート(希釈ありまたはなし)を酵素Eの溶液および基質Sの溶液と混合することによって調製される。当業者は、酵素溶液のおよび基質溶液の健康な生物試料への添加の順序が直接阻害剤の場合には重要でないことを知っている。確かに、被検混合物は、
- 初めに健康な生物試料を酵素溶液と混合し、次に、標識化された基質溶液を添加することによる(インキュベーションは、基質溶液の添加前に実行されてよい)か、
- または、初めに健康な生物試料を標識化された基質溶液と混合し、次に、酵素溶液を添加することによるか(インキュベーションは、酵素溶液の添加前に実行されてよい)
のいずれかで得られてよい。しかしながら、間接阻害剤の場合には、健康な生物試料が初めに過剰な酵素の溶液と混合されて、反応の平衡相(すなわち、すべての複合体AIが酵素に固定された相)に達することを可能にするために混合物が十分な時間インキュベートされる。次に、インキュベーション期間の終わりに基質溶液が添加されて(実施例2を参照)、酵素反応を開始する。
【0079】
実験条件
阻害反応および酵素反応は、任意の適切な物理化学的実験条件(pH、温度、イオン強度など)下で実行されてよい。しかしながら、当業者は、すべてのキャリブレーション混合物の反応が(同じか、または実質的に同じ反応媒体中で実行されるのに加えて)同じ実験条件下で実行されなければならないことを認識するであろう。
【0080】
酵素反応の最適な実験条件は、当分野で知られるか、または当業者によって容易に決定されてよい。本明細書に提示される実施例では、本発明者は、35℃と40℃との間の温度、ならびにOwren Koller緩衝液(pH7.35)および/または血漿を含んだ反応媒体を用いた。
【0081】
定常状態における残留酵素活性の決定
先に示されたように、標識の検出可能な物理的特性における変化を時間の関数としてモニターすることが平衡状態の確立をモニターすることを可能にする。モニタリングは、標識の検出可能な物理的特性の値を時間の関数として測定することによって実行される。物理的特性を測定するために用いられる技術を標識の性質が決定する。したがって、標識が発色性標識であれば、物理的特性は、分光光度法によって測定されてよい光学濃度(または吸光度)であり、標識が蛍光性標識であれば、物理的特性は、分光蛍光法によって測定されるなどである。
【0082】
標識の検出可能な物理的特性における変化は、定常平衡に達してそれを観測するのに十分に長い期間にわたって、あるいは(例えば、かかる平衡に達する時間が既知か、または予め決定されたときには)定常平衡の期間のみにわたってモニターされる。より具体的には、物理的特性の値を時間の関数としてグラフ上にプロットすることによって得られた曲線は、ある時間後に直線部分を有し、この部分が定常状態に対応する。当業者は、それゆえに、標識の物理的特性における変化をモニターするために最適な期間をどのように決定すべきかを知っている。直接経口抗凝血剤(DOA)に係わる以下に提示される実施例では、本発明者は、DOAを含んだ試料を基質溶液と混合して、得られた混合物を240秒間インキュベートし、次に、酵素反応を開始する酵素溶液を添加した。標識pNAの光学濃度を酵素反応開始の50秒後に始めて30秒間、すなわち、50秒と80秒との間の継続時間にわたって経時的に405nmで測定することによって反応をモニターした。ヘパリン類に係わる以下に提示される実施例では、本発明者は、ヘパリンを含んだ試料を酵素溶液と混合して、得られた混合物を11.5分間インキュベートし、次に、酵素反応を開始する基質溶液を添加した。標識pNAの光学濃度を酵素反応開始の20秒後に始めて30秒間にわたって405nmで測定することによって反応をモニターした。
【0083】
標識化を時間の関数としてモニターするための曲線がキャリブレーション混合物ごとに得られる。
【0084】
本発明によるキャリブレーション方法は、その後に、標識の検出可能な物理的特性における変化の時間の関数としての曲線の直線部分の勾配を、混合物ごとに、算出することにあるステップを含む。所与のキャリブレーション混合物について、すなわち、所与の初期酵素濃度について、定常状態における残留酵素活性は、その混合物について生成された曲線の直線部分の勾配である。
【0085】
汎用キャリブレーション方法のステップb)
本発明による汎用キャリブレーション方法のステップb)は、キャリブレーション混合物の各々について、混合物の初期酵素濃度を最高初期酵素濃度[E]と比較して標準化することによって混合物の前記初期酵素濃度をパーセンテージとして表現された抗酵素活性へ変換することか、または混合物の初期酵素活性を最高初期酵素活性Aと比較して標準化することによって混合物の前記初期酵素活性をパーセンテージとして表現された抗酵素活性へ変換することにある。
【0086】
標準化は、任意の方法によって実行されてよい。しかしながら、好ましくは、初期酵素濃度[E]または初期酵素活性Aを有する混合物について、この混合物についてパーセンテージとして表現された抗酵素活性AntiEnzyme(%)は、以下の式:
AntiEnzyme(%)=1-([E]/[E])、またはAntiEnzyme(%)=1-(A/A
のうちの1つによって算出される。したがって、最高初期酵素濃度[E]または最高初期活性Aを有する試料については、抗酵素活性AntiEnzyme(%)がゼロである。
【0087】
例えば、最高酵素濃度[E]が10nMであれば、関連する抗酵素活性は、0%である。4つの測定が実行される場合に、3つの残りの測定結果が7.5nM、5nMおよび2.5nMの濃度について得られてよく、先に示されたように算出される、それらに関連する抗酵素活性は、それぞれ、0.25(すなわち、25%)、0.5(すなわち、50%)および0.75(すなわち、25%)である。
【0088】
汎用キャリブレーション方法のステップc)
本発明による汎用キャリブレーション方法のステップc)は、ステップb)で算出された抗酵素活性をステップa)で得られた定常状態における残留酵素活性の関数として、キャリブレーション混合物ごとに、グラフ上に、プロットすることによってキャリブレーション曲線を生成することにある。
【0089】
キャリブレーション曲線の式は、グラフ上にプロットされた対(抗酵素活性、定常状態における残留酵素活性)の回帰によって算出されてよい。回帰は、線形または多項式回帰であってよい。回帰が線形である場合には、キャリブレーション曲線の式は、形式:
【0090】
【数8】
【0091】
の「式1」であり、ここで、
AntiEnzyme(%)は、パーセンテージとして表現された抗酵素活性であり、
vは、定常状態で測定された残留酵素活性であり、
1/vは、キャリブレーション曲線の勾配であり、vは、試料中に存在する阻害剤の濃度がゼロであるときに観測される、定常状態で測定された残留酵素活性(すなわち、最大残留酵素活性)に対応する。
【0092】
結果は、パーセンテージとして表現され、したがって、単位が酵素のすべての阻害剤に共通であり、それらの阻害作用を互いに比較することを可能にする。
【0093】
チャート
先に示されたように、キャリブレーション方法は、酵素の阻害剤のアッセイに用いることが意図されてよい。「酵素の阻害剤」または「酵素阻害剤」は、酵素に結合してその活性を減少させる任意の分子を示す。阻害剤は、可逆的または不可逆的であってよい。「可逆的な阻害剤」は、(例えば、水素結合、疎水性相互作用および/またはイオン結合を介して)酵素と非共有結合的に会合し、酵素を非永続的に不活性化する阻害剤を意味することが意図される。本明細書では、阻害剤Iが酵素と直接的に会合する場合に「可逆的な直接阻害剤」が言及され、阻害剤と生物試料中に存在する化合物との複合体AIが酵素と会合する場合に「可逆的な間接阻害剤」が言及される。酵素の「不可逆的な阻害剤」は、少なくとも1つの共有結合を介して酵素と会合し、したがって、酵素と安定な複合体を形成し、それによって酵素を永続的に不活性化する阻害剤を意味することが意図される。阻害剤Iが酵素と直接的に会合する場合に「可逆的な直接阻害剤」が言及され、阻害剤と生物試料中に存在する酵素の自然阻害剤との複合体AIが酵素と会合する場合に「可逆的な間接阻害剤」が言及される。
【0094】
パーセンテージとして表現された抗酵素活性の観点からではないが、厳密な定量的単位に相当する、阻害剤の量または濃度の形で(例えばng/mlで)表現されたアッセイの結果を提供することを目標として、本発明によるキャリブレーション方法は、チャートを生成する追加のステップも含んでよい。したがって、いくつかの実施形態において、本発明によるキャリブレーション方法は、酵素Eの阻害剤に固有であり、被検試料について決定された抗酵素活性を阻害剤の量または濃度へ(例えば、ng/mlで表現された濃度として)変換することを可能にする、変換チャートを生成することにあるステップd)も含む。
【0095】
好ましくは、本発明によるキャリブレーション方法は、酵素Eの阻害剤に固有の少なくとも1つのチャートを生成することにあるステップd)も含み、ステップd)は、以下のステップ:
d1)各々が、阻害剤を既知の初期濃度で、酵素Eを濃度[E]で、および酵素に特異的な標識化された基質Sを濃度[S]で含んだ、少なくとも2つの標準化混合物について、定常状態における残留酵素活性を決定するステップであって、
- 標準化混合物の各々において、酵素は、阻害剤と比較して過剰に存在し、
- 標準化混合物は、同じ体積V’および同じ反応媒体Mを有し、
- 混合物の定常状態における残留酵素活性は、以下のステップ:
d1’)阻害剤の既知の初期濃度をもつ標準化混合物を得るために、阻害剤を酵素Eの溶液および基質Sの溶液と混合するステップ、
d1’’)標識の検出可能な物理的特性の値を測定し、曲線を得るために、この物理的特性の値を時間の関数として、グラフ上に、プロットするステップであって、曲線は、定常状態に対応する直線部分を有する、プロットするステップ、および
d1’’’)d1’’)で得られた曲線の直線部分の勾配を算出するステップ
によって決定され、ステップd1’’’)で得られた勾配は、標準化混合物の定常状態における残留酵素活性である、
残留酵素活性を決定するステップと、
d2)標準化混合物の各々について、その混合物の抗酵素活性を標準化混合物についてステップd1’’’)で測定された定常状態における残留酵素活性から決定するために、汎用キャリブレーション方法のステップc)で得られた汎用キャリブレーション曲線を用いるステップと、
d3)各標準化混合物について、標準化混合物の阻害剤の初期濃度をステップd2)で決定された抗酵素活性の関数としてグラフ上にプロットすることによって、標準曲線またはチャートを生成するステップと
を含む。
【0096】
いくつかの実施形態において、方法は、標準曲線の式をグラフ上にプロットされた対(抗酵素活性、阻害剤の濃度)の回帰によって決定することにある追加のステップd4)も含んでよい。回帰は、線形、多項式または他の回帰であってよい。
【0097】
キャリブレーション方法のステップd1)
本発明によるキャリブレーション方法のステップd1)は、各々が、既知の濃度の阻害剤を含み、酵素Eを濃度[E](すなわち、キャリブレーション方法のステップa)~d)で用いられる最高初期酵素濃度と同一の濃度)で、または初期活性A(すなわち、キャリブレーション方法のステップa)~d)で用いられる初期酵素活性と同一の活性)で、および基質Sを濃度[S](すなわち、キャリブレーション方法のステップa)~d)で用いられる初期基質濃度と同一の濃度)で含む、少なくとも2つの標準化混合物について定常状態における残留酵素活性を決定することにある。標準化混合物中には、酵素が阻害剤と比較して過剰に存在する(上記を参照)。
【0098】
例えば、チャートを生成するために用いられる標準化混合物は、典型的に0および600ng/mlの間の、阻害剤の増加する初期濃度を有してよい。例えば、用いられる標準化混合物は、0、100、200、300、400および任意選択で500ng/mlに等しい初期濃度を有してよい。代わりに、0および200ng/mlの間の濃度を有する標準化混合物が用いられてもよい。典型的に、前記濃度は、0、30、65および100ng/ml、あるいは0、50、100および150ng/mlに等しくてよい。
【0099】
キャリブレーション方法のステップd)で用いられる標準化混合物は、キャリブレーション方法のa)~c)で用いられる混合物の体積Vと同一であってもなくてもよい同じ体積V’を有する。好ましくは、体積V’は、体積Vと同一である。標準化試料の反応媒体Mは、キャリブレーション方法のステップa)~c)で用いられる試料の反応媒体と好ましくは同一かまたは実質的に同一である。
【0100】
一般的に言って、チャートの生成のために、阻害反応と酵素反応とが汎用キャリブレーション方法に用いられるのと同一の、任意の適切な物理化学的実験条件(pH、温度、イオン強度など)下で競合に持ち込まれる。
【0101】
汎用キャリブレーションのステップa)について記載された操作条件は、特に混合の順序に関して(上記を参照)、ステップd1)に適用可能である。混合する前に、阻害剤は、好ましくは、既知の濃度の阻害剤の溶液の形態にある(例えば、阻害剤が健康な生物試料に添加される)。ステップd1’’)(標識の検出可能な物理的特性の値を時間の関数として測定し、直線部分を有する曲線を生成するステップ)およびステップd1’’’)(定常状態における残留酵素活性を得るために、この曲線の直線部分の勾配を算出するステップ)は、キャリブレーション方法のステップa2)およびa3)のように実行される。
【0102】
キャリブレーション方法のステップd2)
本発明によるキャリブレーション方法のステップd2)は、標準化混合物の各々について、その混合物の抗酵素活性を標準化混合物について測定された定常状態における残留酵素活性から決定するために、汎用キャリブレーション方法のステップc)で得られた汎用キャリブレーション曲線を用いることにある。これは、標準化混合物について測定された定常状態における残留酵素活性をグラフ上にプロットすることによって、および関連する抗酵素活性を決定することによって手作業で決定されてよい。代わりに、キャリブレーション曲線が直線であれば、標準化混合物の抗酵素活性は、キャリブレーション曲線の式、例えば、式1を用いて算出されてもよい。
【0103】
キャリブレーション方法のステップd3)およびd4)
本発明によるキャリブレーション方法のステップd3)は、各標準化混合物について、標準化混合物の阻害剤の初期濃度をステップd2)で決定された抗酵素活性の関数としてグラフ上にプロットすることによって、標準曲線またはチャートを生成することにある。
【0104】
本発明によるキャリブレーション方法は、ステップd3)でグラフ上にプロットされた対(抗酵素活性、阻害剤の濃度)の回帰によって標準曲線の式を決定することにある追加のステップd4)も含んでよい。回帰は、線形、多項式または他の回帰であってよい。当業者は、標準曲線の式をどのように決定すべきかを知っている。
【0105】
本発明のいくつかの実施形態において、阻害剤が可逆的な直接阻害剤であれば、チャートは、対(抗酵素活性、阻害剤の濃度)が決定された標準化試料に関して以下の式(式2)の非線形回帰を実行することによって得られ、
【0106】
【数9】
【0107】
ここで、
AntiEnzyme(%)は、抗酵素活性であり、
[I]は、試料中に存在する阻害剤の濃度であり、
iおよびeは、各阻害剤に固有の2つの固定された定数である。
代わりのモデリング、例えば、多項式が用いられてもよい。
【0108】
本発明の他の実施形態において、阻害剤が生物試料中に存在する化合物Aと複合体AIを形成する不可逆的な間接阻害剤であれば、チャートは、
対(抗酵素活性、阻害剤の濃度)が決定された標準化試料に関して以下の式(「式3」)の線形回帰
を実行することによって得られ、
[I]=e×AntiEnzyme(%)
ここで、
AntiEnzyme(%)は、抗酵素活性であり、
[I]は、試料中に存在する阻害剤の濃度であり、
eは、各阻害剤に固有の固定された定数であり、
式3は、阻害剤の初期濃度が各々の標準化混合物における複合体Aの初期濃度以下である場合にのみ有効である。代わりのモデリング、例えば、多項式が用いられてもよい。
【0109】
キャリブレーション方法のステップd)が固有のチャートを有することが望まれる酵素の任意の阻害剤について繰り返されてよい。
【0110】
C.自動化
いくつかの実施形態において、本発明による汎用キャリブレーション方法(およびさらにアッセイまたはスクリーニング方法)のいくつかのステップは、自動化診断デバイス上で実行される。好ましくは、本発明による汎用キャリブレーション方法(およびさらにアッセイまたはスクリーニング方法)のすべてのステップがかかる自動化デバイス上で実行される。例えば、本明細書に提示される実施例に記載されるように、本発明による汎用キャリブレーション方法およびアッセイまたはスクリーニング方法は、Stago社からのSTA-R(登録商標)Evolution Expert Series自動化デバイス上で実行される。かかる自動化デバイスは、試料を同時にロードし、混合およびインキュベーションを実行して、光学濃度を測定することを可能にする。これは、迅速で信頼性および再現性のあるキャリブレーションまたはアッセイ方法をもたらす。
【0111】
本発明による方法は、遠隔バイオデバイスまたは患者のベッドにおけるポータブルデバイス上で用いられてもよい。
【0112】
II-汎用キャリブレーション方法の使用
先に示されたように、本発明による汎用キャリブレーション方法によって得られるキャリブレーション曲線は、酵素に固有であり、生物試料中の酵素の阻害剤をアッセイするため、およびスクリーニング方法において酵素を阻害できる化合物を同定するために用いられてよい。
【0113】
A.生物試料中の酵素阻害剤をアッセイするための方法
生物試料中の酵素の阻害剤をアッセイするための方法は、以下のステップ:
1)体積がV’’で、阻害剤を含む生物試料のアリコート、酵素Eを初期濃度[E]でまたは初期活性Aで、および酵素に特異的な標識化された基質Sを初期濃度[S]で含んだ、反応媒体Mの被検混合物について定常状態における残留酵素活性を決定するステップであって、
- 酵素に特異的な基質は、検出可能な物理的特性を有する標識で標識化され、
- 被検混合物の定常状態における残留酵素活性は、以下のステップ:
i)初期酵素濃度[E]の、または初期酵素活性のA、および初期基質濃度[S]の混合物を得るために、生物試料のアリコートを酵素Eの溶液および基質Sの溶液と混合するステップ、
ii)標識の検出可能な物理的特性の値を測定し、曲線を得るために、この物理的特性の値を時間の関数として、グラフ上に、プロットするステップであって、曲線は、定常状態に対応する直線部分を有する、プロットするステップ、および
iii)ステップii)で得られた曲線の直線部分の勾配を算出するステップ
によって決定され、ステップiii)で得られた勾配は、被検混合物の定常状態における残留酵素活性である、
残留酵素活性を決定するステップと、
2)生物試料の抗酵素活性を被検混合物について測定された定常状態における残留酵素活性から決定するために、汎用キャリブレーション方法のステップc)で得られた汎用キャリブレーション曲線を用いるステップと
を含む。
【0114】
好ましくは、本発明によるアッセイ方法は、パーセンテージとして表現され、ステップ2)で得られた抗酵素活性を、汎用キャリブレーション方法のステップd)で得られた、阻害剤に固有のチャート(または標準曲線)を用いて阻害剤の濃度へ変換することにあるステップ3)も含む。確かに、本発明によるアッセイ方法は、阻害剤を
- パーセンテージとして表現された活性の形、これは、所与の酵素に関して、異なる阻害剤の作用を互いに比較することを可能にする汎用単位に相当する、か、
- あるいは、量または濃度の形(例えば、ng/ml)、これは、厳密な定量的単位に相当する、で、
アッセイすることを可能にする。
【0115】
アッセイ方法のステップ1)
本発明によるアッセイ方法のステップ1)は、被検生物試料のアリコート、キャリブレーション方法に用いられるものと同じ酵素E、およびキャリブレーション方法に用いられるものと同じ標識化された特異的な基質Sを含んだ混合物について定常状態における残留酵素活性を決定することにある。被検混合物では、初期基質濃度が[S]、すなわち、キャリブレーション方法に用いられるものと同じ濃度であり、初期酵素濃度が[E]、すなわち、キャリブレーション方法に用いられる最高初期酵素濃度であるか、または初期酵素活性がA、すなわち、キャリブレーション方法に用いられる最高初期酵素活性である。被検混合物では、基質が酵素と比較して過剰に存在し、酵素は、アッセイされる阻害剤と比べてそれ自体が過剰に存在する。
【0116】
被検試料の体積V’’は、キャリブレーション方法のステップa)~c)で用いられる混合物の体積Vと同一であってもなくてもよく、キャリブレーション方法のステップd)で用いられる標準化混合物の体積V’と同一であってもなくてもよい。好ましくは、体積V’’は、体積Vおよび体積V’と同一である。被検混合物の反応媒体は、キャリブレーション試料のおよび標準化試料の反応媒体と好ましくは同一かまたは実質的に同一である。
【0117】
酵素および阻害剤
先に示されたように、本発明は、阻害剤の存在、例えば、治療用阻害剤によって処置された患者に由来する生物試料中のその治療用阻害剤の存在を定量化することが望ましい(先に定義されたような)任意の酵素に適用されてよい。
【0118】
本発明のいくつかの実施形態において、アッセイ方法に用いられる酵素は、血液凝固の酵素である。「血液凝固の酵素」は、例えば、凝固因子、カリクレインまたはプラスミンのような、血液の凝固に関与する任意の酵素を意味することが意図される。血液凝固の酵素は、好ましくは哺乳動物酵素、好ましくはウシまたはヒト酵素である。酵素は、組み換え型または血漿由来であってよく、精製されていてもいなくてもよい。いくつかの実施形態において、血液凝固の酵素は、因子IIa、因子Xaおよびプラスミンから選択される。
【0119】
本発明による方法によってアッセイされてよい血液凝固の酵素の不可逆的な直接阻害剤は、アンチトロンビン、ヘパリンコファクターII、α2マクログロブリン、ヒルジン、レピルジンおよびデシルジンから選択されてよい。本発明による方法によってアッセイされてよい血液凝固の酵素の可逆的な直接阻害剤は、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン、ベトリキサバン、ダビガトラン、ビバリルジンおよびアルガトロバンから選択されてよい。本発明による方法によってアッセイされてよい血液凝固の酵素の不可逆的な間接阻害剤は、非分画ヘパリン類、低分子量ヘパリン類、フォンダパリヌクスのような五糖類およびダナパロイドナトリウムから選択されてよい。
【0120】
本発明の他の実施形態では、酵素は、アンジオテンシン変換酵素(ACE:angiotensin-converting enzyme)である。ACEは、カルボキシペプチダーゼ類のファミリーに属する金属酵素である。ACEは、アンジオテンシンIの開裂を触媒して、効力のある血管収縮薬アンジオテンシンIIを与える。ACEは、効力のある血管拡張薬ブラジキニンの不活性化にも関与する。この酵素の阻害剤は、独自の治療クラスを構成する。それらは、動脈高血圧、心不全および糖尿病性腎症の処置に重要な役割を果たす最近の治療群を形成する。臨床的に用いられ、本発明による方法によってアッセイされてよいACE阻害剤の例は、以下には限定されないが、ベナゼプリル、カプトプリル、エナラプリル、モノプリル、リシノプリル、モエキシプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリルおよびトラドラプリルを含む。ACEは、ヒップリル-ヒスチジル-ロイシン(HHL:hippuryl-histidyl-leucine)または3-(2-フリルアクリロイル)-L-フェニルアラニル-グリシル-グリシン(FAPGG:3-(2-furylacryloyl)-L-phenylalanyl-glycyl-glycine)のような人工基質を用いてキャリブレーションされる。後者の場合には、340nmにおける吸光度の減少が加水分解された基質の量に比例する。
【0121】
生物試料
酵素阻害剤をアッセイするための方法は、生物試料、特に、患者に由来する生物試料に対して実行される。
【0122】
本明細書に用いられる「患者」という用語は、ヒトを示す。「患者」という用語は、特定の年齢を示さず、それゆえに、小児、青年および成人を包含する。一般的に言って、本発明によるアッセイ方法において、患者は、生物試料中の量を決定することが望まれる酵素阻害剤に基づく処置を受けている被検者である。本発明の文脈では、酵素阻害剤、または酵素阻害剤によって阻害される酵素に(活性化のまたは阻害の)効果を有しうるその他の薬を患者が投与されていないときに、「正常な患者」または「健康な患者」が言及される。血液凝固の酵素の阻害薬をアッセイするための方法の場合には、健康な患者は、凝血促進剤または抗凝血剤の処置を受けていない患者である。
【0123】
「生物試料」という用語は、本明細書ではその最も広い意味で用いられる。生物試料は、阻害剤がその中に存在し、アッセイされてよい任意の生体液であってよい。本発明によるアッセイ方法に用いられてよい生体液の例は、以下には限定されないが、血液、血清、血漿、尿、唾液、胃液、汗などを含む。いくつかの好ましい実施形態において、本発明によるアッセイ方法は、患者からの単なる血液生物試料を用いる。血液生物試料は、血液の、血漿の、多血小板血漿の、少血小板血漿の、血小板もしくは赤血球微粒子またはその他の細胞を含んだ血漿の試料であってよい。
【0124】
いくつかの実施形態において、本発明によるアッセイ方法は、全血試料(すなわち、そのすべての成分をもつ血液)に対して実行される。クエン酸塩加の全血であってもよい。この場合、血液サンプリングによって取られた全血がクエン酸塩チューブ中に採取される。
【0125】
他の実施形態では、本発明によるアッセイ方法は、血液試料から得られた血漿試料に対して実行される。ヒト血液から血漿を得るための方法は、当分野で知られる。好ましくは、生物試料は、少血小板血漿(PPP:platelet-poor plasma)試料である。この場合、試料は、特に、患者の血液試料を含むクエン酸塩チューブを18℃と22℃との間の温度の恒温遠心分離器において、2000~2500gの速度で15分間遠心分離することによって得られてよい。PPP試料が保存されなければならない場合には、次のプロトコルを用いることが可能であり、このプロトコルは、
- 血漿を迅速にデカントし、白血球および血小板の細胞層の上におよそ0.5cmの血漿を残すステップと、
- 溶血チューブまたはプラスチックチューブ中に血漿を回収するステップと、
- このチューブを再び18℃と22℃との間の温度の恒温遠心分離器において、2000~2500gの速度で15分間遠心分離するステップと、
- (細胞破片を含む)チューブの底部を取ることなく0.5~1mLの部分に等分するステップと、
- -70℃と-90℃との間、好ましくは-80℃で迅速に凍結させるステップと
にある。
【0126】
本発明によるアッセイを任意の適切な体積の生物試料に対して実行できる。一般に、本発明に用いられる生物試料のアリコートは、小体積である。したがって、生物試料は、2μlと500μlとの間、好ましくは3μlと400μlとの間、または3μlと100μlとの間、あるいは5μlと50μlとの間の体積を有してよい。生物試料のかかる体積は、実際、日常的な装置上の解析にとって十分であるが、遠隔バイオデバイス上では削減されてよい。この生物試料は、基質Sの溶液のおよび酵素Eの溶液の添加前に、特に、緩衝液(例えば、Owren Koller緩衝液)中または血漿中に希釈されてよい。
【0127】
この文書の終わりに提示される実施例では、定型的に、生物試料が、基質Sの溶液のおよび酵素Eの溶液の添加前に、350μlの総体積Vを有する被検混合物のおよそ1.8体積%に相当する、最終体積の12.5体積%(すなわち、50μlの最終体積中の6.25μlの試料)か、あるいは350μlの総体積を有する被検混合物のおよそ7.1体積%に相当する、最終体積の50体積%(すなわち、50μlの最終体積中の25μlの試料)を表すように希釈された。
【0128】
被検試料の調製および競合反応条件
被検混合物は、初期酵素濃度[E]の、または初期活性A、および初期基質濃度[S]の混合物を得るために、阻害薬の性質に応じて決定される順序(上記を参照)で生物試料のアリコート(希釈ありまたはなし)を酵素Eの溶液および基質Sの溶液と混合することによって調製される。一般的に言って、汎用キャリブレーション方法に用いられるものと同一の任意の適切な物理化学的実験条件(pH、温度、イオン強度など)下で阻害反応と酵素反応とが競合に持ち込まれる。
【0129】
ステップii)(標識の検出可能な物理的特性の値を時間の関数として測定し、直線部分を有する曲線を生成するステップ)およびステップiii)(定常状態における残留酵素活性を得るために、この曲線の直線部分の勾配を算出するステップ)は、キャリブレーション方法のステップa2)およびa3)のように実行される。
【0130】
アッセイ方法のステップ2)
本発明によるアッセイ方法のステップ2)は、生物試料の抗酵素活性を被検混合物について測定された定常状態における残留酵素活性から決定するために汎用キャリブレーション方法のステップc)で得られた汎用キャリブレーション曲線を用いることにあり、チャートを生成するための方法のステップd2)のように実行される。
【0131】
アッセイ方法のステップ3)
アッセイ結果を阻害剤の量またはその濃度の形で得ることが望ましい場合には、アッセイ方法は、追加のステップ3)を含み、このステップは、パーセンテージとして表現され、ステップ2)で得られた抗酵素活性を、汎用キャリブレーション方法のステップd)で得られた、阻害剤に固有のチャート(または標準曲線)を用いて阻害剤の濃度へ変換することにある。
【0132】
これは、被検混合物について測定された抗酵素活性をグラフ上にプロットすることによって、および阻害剤の対応する量または濃度を決定することによって手作業で決定されてよい。代わりに、阻害剤の濃度が標準曲線の式を用いて算出されてもよい。例えば、阻害剤が可逆的な直接阻害剤であれば、被検混合物中の阻害剤の濃度は、式2(またはその他の適切な式)によって算出されてよく、阻害剤が不可逆的な間接阻害剤であれば、被検混合物中の阻害剤の濃度は、式3(またはその他の適切な式)によって算出されてよい。
【0133】
したがって、本発明のアッセイ方法のステップ3)の終わりには、試験された生物試料、例えば、酵素阻害剤によって処置された患者からの生物試料中に存在する阻害剤の濃度を決定することが可能である。
【0134】
臨床使用
直接経口抗凝血剤(DOA)の分野では、本発明によるキャリブレーション/アッセイ方法は、過量投与を診断することを目標として、例えば、患者がそれらの薬用量を超過した場合、薬物相互作用の場合、処置を抗ビタミンK剤(VKA:antivitamin K medicament)から直接経口抗凝血剤へ変えた場合に、あるいは、外科的介入または侵襲的手技の前に、DOAによって処置された患者からの生物試料中のDOAをアッセイするために用いられてよい。確かに、例えば、DOAの投与を停止した後に、DOAのレベルが依然として高ければ、外科手術中の患者には出血のリスクがあり、その時にはDOAのレベルが減少するのを待つか、または解毒剤のアプローチを用いて、阻害剤の不利な点を打ち消すために患者に抗阻害剤化合物を投与するかのいずれかが必要である。
【0135】
したがって、本発明の対象は、DOAによって処置された患者における出血リスクを推定するための本発明によるアッセイ方法の使用である。特に、本発明の対象は、DOAによって処置された患者における過量投与を診断するための本発明によるアッセイ方法の使用である。本発明の別の対象は、DOAによって処置された患者における出血リスクを外科的介入の前に決定するための本発明によるアッセイ方法の使用である。
【0136】
本発明は、直接経口抗凝血剤(例えば、因子Xa阻害剤または因子IIa阻害剤)によって処置された患者における出血リスクを推定するための方法にも関し、方法は、以下のステップ:
- 患者からの生物試料中の直接経口抗凝血剤の量または濃度を、本発明のアッセイ方法を用いて、決定するステップと、
- この量または濃度を所定の閾値と比較するステップと、
- 直接経口抗凝血剤の量または濃度が所定の閾値を上回れば、出血リスクがあると見做すステップと、
- 任意選択で、患者からの生物試料中で測定された直接経口抗凝血剤の量または濃度に応じて患者に投与するための抗阻害剤化合物の量を決定するステップと
を含む。
【0137】
いくつかの実施形態において、DOAによって処置された患者は、DOAの過量投与を受けた疑いがある。他の実施形態では、DOAによって処置された患者は、処置を抗ビタミンK剤(VKA)から直接経口抗凝血剤へ最近変えられている。さらに他の実施形態では、DOAによって処置された患者は、外科的介入をまさに受けしようとしている。
【0138】
「所定の閾値」とは、当分野で知られる阻害剤の量または濃度か、または所与の状況(例えば、切迫した外科的介入があるとき)にある患者には阻害剤がそれを超えると過剰である量または濃度に相当すると判断された阻害剤の量または濃度を意味することが本明細書では意図される。かかる閾値は、臨床的に用いられるDOAごとに科学および/または医学界によって確定され、各DOAの臨床使用でより多くの経験が得られるにつれてよく再定義される。したがって、例えば、直接経口抗凝血剤(DOA)処置を受けている患者に外科的介入を許容するための判定閾値は、(リバーロキサバンについての最小値として、Pernodら,Annales francaises danesthesie et de reanimation,2013,32(10):691-700)30ng/ml以下のレベルである。
【0139】
本発明による方法において、出血リスクを伴うDOAを服用している患者に投与されてよい抗阻害剤化合物は、止血剤を含む。
【0140】
B.酵素阻害剤をスクリーニングするための方法
先に示されたように、本発明によるキャリブレーション方法は、キャリブレーションされる酵素のすべての阻害剤に共通の汎用単位である、抗酵素活性のパーセンテージとして表現された結果を得ることを可能にし、それによって酵素に対するこれらの阻害剤の阻害効果を比較することを可能にする。本発明によるキャリブレーション方法は、それゆえに、酵素の阻害剤を同定するためのスクリーニング方法に用いられてよい。
【0141】
一般的に言って、本発明によるスクリーニング方法は、試験化合物の所与の濃度について測定された抗酵素活性を決定するステップと、この抗酵素活性を酵素の既知の阻害剤の同じ濃度について同じ条件下で測定された抗酵素活性と比較するステップとを含む。
【0142】
本発明は、それゆえに、酵素の阻害剤を同定するためのスクリーニング方法にも関し、方法は、以下のステップ:
1)総体積がV’’’で、試験化合物を初期濃度[C]で、酵素Eを初期濃度[E]でまたは初期活性Aで、および酵素に特異的に標識化された基質Sを初期濃度[S]で含んだ、反応媒体Mの混合物について定常状態における残留酵素活性を決定するステップであって、
- 酵素に特異的な基質は、検出可能な物理的特性を有する標識で標識化され、
- 酵素は、混合物中に試験化合物と比較して過剰に存在し、
- 混合物の定常状態における残留酵素活性は、以下のステップ:
i)初期酵素濃度[E]の、または酵素活性Aの、初期基質濃度[S]のおよび試験化合物の濃度[C]の混合物を得るために、試験化合物を酵素Eの溶液および基質Sの溶液と混合するステップ、
ii)標識の検出可能な物理的特性の値を測定し、曲線を得るために、この物理的特性の値を時間の関数として、グラフ上に、プロットするステップであって、曲線は、定常状態に対応する直線部分を有する、プロットするステップ、および
iii)ステップii)で得られた曲線の直線部分の勾配を算出するステップ
によって決定され、ステップiii)で得られた勾配は、被検化合物の定常状態における残留酵素活性である、
残留酵素活性を決定するステップと、
2)試験化合物の抗酵素活性を混合物について測定された定常状態における残留酵素活性から決定するために、汎用キャリブレーション方法のステップc)で得られた汎用キャリブレーション曲線を用いるステップと、
3)ステップ2)で決定された試験化合物の抗酵素活性を酵素の標準的な阻害剤について濃度[C]で同じ条件下において決定された抗酵素活性と比較するか、またはステップ2)で決定された試験化合物の抗酵素活性を所定の閾値と比較するステップであって、試験化合物は、試験化合物の抗酵素活性が酵素の標準的な阻害剤の抗酵素活性より大きいかまたは試験化合物の抗酵素活性が所定の閾値より大きければ、酵素の阻害剤として同定される、比較するステップと
を含む。
【0143】
スクリーニング方法のステップ1)
本発明によるスクリーニング方法のステップ1)は、試験化合物、同じ酵素Eおよび酵素に特異的な標識化された基質Sを含む混合物について定常状態における残留酵素活性を決定するステップにあり、アッセイ方法のステップ1)と同様に実行される。
【0144】
試験化合物を含んだ混合物の体積V’’’は、キャリブレーション方法のステップa)~c)で用いられる混合物の体積Vと同一であってもなくてもよく、キャリブレーション方法のステップd)で用いられる標準混合物の体積V’と同一であってもなくてもよい。好ましくは、体積V’’’は、体積Vおよび体積V’と同一である。試験化合物を含んだ混合物の反応媒体Mは、キャリブレーション試料のおよび標準化試料の反応媒体と好ましくは同一かまたは実質的に同一である。
【0145】
酵素
すでに示されたように、本発明は、例えば、ヒトまたは動物治療用阻害剤を開発することを目標として、阻害剤を同定することが有益な(先に定義されたような)任意の酵素に適用されてよい。したがって、本発明によるキャリブレーション/スクリーニング方法において、酵素は、同定された治療標的である。より具体的には、本発明によるキャリブレーション/スクリーニング方法において、酵素は、ヒドロラーゼ類の、リアーゼ類のまたはイソメラーゼ類のクラスに属し、治療標的として同定された任意の酵素であってよい。
【0146】
治療標的として同定されたリアーゼ類の例は、以下には限定されないが、ドパ脱炭酸酵素(または芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素、酵素、その既知の臨床用阻害剤は、パーキンソン病の状況で用いられるカルビドパおよびベンセラジド、ならびに妊娠性高血圧の処置に用いられるメチルドパを含む);炭酸脱水酵素(赤血球の細胞内原形質膜表面に存在する酵素、その臨床的阻害剤は、抗緑内障薬、利尿剤、反てんかん薬として用いられ、胃十二指腸潰瘍、神経障害または骨粗鬆症の処置にも用いられる);ヒスチジン脱炭酸酵素(その既知の臨床用阻害剤であるカテキンおよびトリトカリンなどは、抗ヒスタミン剤として用いられる);ならびにオルニチン脱炭酸酵素(その既知の臨床用阻害剤であるエフロルニチンは、がん処置に用いられる)を含む。
【0147】
治療標的として同定されたヒドロラーゼ類の例は、以下には限定されないが、ウィルスアスパルチルプロテアーゼ類(またはアスパラギン酸プロテアーゼ類)(それらの既知の臨床用阻害剤は、以下には限定されないが、HIV感染の処置に用いられるサキナビルおよびインジナビル、ならびにC型肝炎の処置に用いられるテラプレビルおよびバセプレビルを含む);セリンプロテアーゼ類、例えば、トリプシン、キモトリプシンおよびエラスターゼなどの膵臓消化酵素を含むヒトセリンプロテアーゼ類(それらの阻害剤は、気腫、嚢胞性線維症またはがんの発生および進行など重篤な疾患の処置に用いられてよい)、血液凝固に関与する酵素、例えば、トロンビン、カリクレイン、因子Xa(上記を参照)、およびプラスミンなどの線維素溶解に関与する酵素類;ヒトアンジオテンシン変換酵素(上記を参照)、HMG-CoAリダクターゼ(その既知の臨床用阻害剤は、血中コレステロール値を下げるための薬物として用いられるスタチンを含む)、ヒトエンケファリナーゼ(その阻害剤は、鎮痛剤、抗うつ薬、鎮静剤、および止痢薬として用いられる)を含むが、それらには限定されない、メタロプロテアーゼ類;ならびに、例えば、エステラーゼ類、ウィルスグリコシダーゼ類、ヒトグリコシダーゼ類、リパーゼ類、ホスファターゼ類およびホスホリラーゼ類などの他のヒドロラーゼ類を含む。
【0148】
治療標的として同定されたイソメラーゼ類の例は、以下には限定されないが、アラニンイソメラーゼを含む(この酵素は、とりわけ細菌中に存在し、そのことがこの酵素を抗菌薬の開発にとって好都合な標的にする)。
【0149】
試験化合物
本発明によるスクリーニング方法においては、任意のタイプの化合物が試験されてよい。したがって、試験化合物は、天然産物または合成品であってよく、単一分子かあるいは異なる分子の混合物または複合体であってもよい。
【0150】
いくつかの実施形態において、試験化合物は、化学ライブラリ(すなわち、分子のライブラリ)に属する。化学ライブラリは、何千万個もの化合物を含みうる。細菌もしくは真菌抽出物の形態のまたは植物抽出物の形態の天然化合物の化学ライブラリは、例えば、Pan Laboratories(ボセル,ワシントン州)またはMycoSearch(ダーラム,ノースカロライナ州)から入手可能である。合成化合物の化学ライブラリも、例えば、Comgenex(プリンストン,ニュージャージー州)、Brandon Associates(メリマック,ニューハンプシャー州)、Microsource(ニューミルフォード,コネチカット州)およびAldrich(ミルウォーキー,ウィスコンシン州)から、またはMerck、Glaxo Welcome、Bristol-Myers Squibb、Novartis、Monsanto/Searle、およびPharmacia UpJohnなどの大手の化学会社から市販されている。
【0151】
試験化合物は、任意の分子クラス、例えば、タンパク質類、ペプチド類、ペプチド模倣薬、ペプトイド類、サッカリド類、ステロイド類などに属してよい。試験化合物は、小分子、または概しておよそ50およびおよそ2500ダルトンの間、例えば、500および700ダルトンの間、ならびに350ダルトン未満などの低分子量の分子であってもよい。
【0152】
操作条件
汎用キャリブレーションのステップa)についてまたはアッセイ方法のステップ1)について記載された操作条件は、スクリーニング方法のステップ1)に適用可能である。
【0153】
いくつかの手順では、単一の化合物が本発明の同定方法によって試験される。他の手順では、いくつかの化合物が並行して試験される。この場合、酵素反応は、いくつかの試験を同時に行うことを可能にするマルチウェルプレートの上で実行されてよい。典型的な支持体のうちには、取り扱いが容易なマイクロタイトレーションプレート、より詳しくは12、24、48、96、もしくは384(またはそれ以上の)ウェルプレートがある。
【0154】
化合物は、単一濃度で試験されてもよい。代わりに、化合物は、いくつかの濃度、例えば、対照として用いられる酵素の既知の阻害剤が活性である濃度の範囲内の濃度で試験されてもよい。
【0155】
酵素を阻害する化合物の同定
本発明によるスクリーニング方法において、試験化合物は、試験化合物の抗酵素活性が酵素の標準的な阻害剤について同じ条件下で測定された抗酵素活性より大きいか、または試験化合物の抗酵素活性が所定の閾値より大きければ、酵素の阻害剤として同定される。
【0156】
「酵素の標準的な阻害剤」は、本明細書では酵素の既知の阻害剤を示す。当業者は、臨床的な関心を担う試験化合物を同定するために標準的な阻害剤をどのように選択すべきかを知っている。例えば、標準的な阻害剤は、臨床的に用いられる酵素阻害剤であってよい。
【0157】
「所定の閾値」は、試験される濃度において、試験化合物がそれを超えると臨床的な関心を担う酵素の阻害剤であると考えられてよい抗酵素活性の値として同定された、阻害剤の量または濃度を意味することが本明細書では意図される。
【0158】
治療用阻害剤の開発
本発明によるスクリーニングプロセスの目標は、酵素を阻害し、臨床的な関心を担う化合物を同定することである。本発明によるスクリーニング試験は、その後に他の試験、例えば、酵素の他の既知の阻害剤と、および/または同じクラスに属する他の酵素と比較して実行される本発明による1つ以上のスクリーニング試験が続いてもよい。代わりにまたは加えて、本発明によるスクリーニング試験は、その後に細胞モデルまたは動物モデルに関するin vivo毒性研究が続いてもよい。試験化合物が酵素に対して阻害活性を有するとして同定されたときには、同定された試験化合物と比較して改善された特性を有する新しい基礎をなす阻害剤構造を同定することを目標として、構造-活性関連性研究が行われてもよい。
【0159】
III-キット
本発明は、本発明による方法を実行するために用いる装置を備えるキットも対象とする。特に、本発明は、酵素の阻害剤をアッセイするためのキットおよび酵素を阻害することが可能な化合物のスクリーニングのためのキットに関する。キットは、概して、所与の酵素について設計される。しかしながら、1つのキットが、1つより多い酵素について設計されてもよい。例えば、キットは、共有される生物学的機序に関与する少なくとも2つの酵素について、特に、血液凝固の少なくとも2つの酵素について設計されてもよい。キットは、アッセイ方法に用いることが意図されるときには、酵素の単一の阻害剤の場合に用いられるように設計されてもよい。代わりに、キットは、酵素のいくつかの異なる阻害剤(例えば、2つの異なる阻害剤または2つより多い異なる阻害剤)をアッセイするために設計されてもよい。そのうえ、キットは、阻害剤をアッセイするための方法に用いることが意図されるときには、単一のアッセイを可能にするようにも設計されてよい。あるいは、キットは、有限数のアッセイ、例えば、2回のアッセイまたは5回のアッセイまたは10回のアッセイまたは20回のアッセイまたは50回のアッセイなどを行うように設計されてもよい。
【0160】
一般的に言って、本発明によるキットは、酵素および特異的な基質を備える。いくつかの実施形態において、キットに含まれる特異的な基質は、標識化される。他の実施形態では、キットに含まれる特異的な基質は、標識化されないが、キットは、その標識化のために必要とされる少なくとも1つの試薬を備える。酵素および基質は、キャリブレーションおよび予想される数のアッセイを行うために適切な量で提供される。
【0161】
キットは、酵素の阻害剤をアッセイするための方法に用いることが意図されるときには、阻害剤の標準化のための1つ以上の試料を備えてよい。キットは、酵素の異なる阻害剤をアッセイするために用いることが意図されるときには、酵素の異なる阻害剤の各々の標準化のための1つ以上の試料を備えてよい。
【0162】
キットは、酵素の阻害剤を同定するためのスクリーニング方法に用いることが意図されるときには、酵素の少なくとも1つの標準的な阻害剤を備えてよい。
【0163】
本発明によるキットは、本発明によるキャリブレーション/アッセイ方法またはキャリブレーション/スクリーニング方法を実行するための試薬または溶液、例えば、生物試料を希釈するための試薬または溶液なども備えてよい。特に、キットは、生物試料を希釈するための緩衝液、例えば、OKB緩衝液を備えてよい。これらの試薬および/または溶液を用いるためのプロトコルもキットに含まれてよい。
【0164】
本発明によるキットは、品質管理も備えてよい。
【0165】
キットの異なる成分は、固体形態(例えば、凍結乾燥形態で)または液体形態で提供されてよい。キットは、任意選択で、試薬もしくは溶液の各々を含んだ容器、および/または本発明のキャリブレーション/アッセイ方法もしくはキャリブレーション/スクリーニング方法のいくつかのステップを実行するための容器を備えてよい。
【0166】
一般的に言って、本発明によるキットは、本発明によるキャリブレーション/アッセイ方法もしくはキャリブレーション/スクリーニング方法を実行するための使用説明書も備える。
【0167】
本発明によるキットは、バイオ製品の調製、販売および使用を規制する行政機関によって要求される形式の使用説明書も備えてよい。
【0168】
本明細書に用いられるすべての技術および科学用語は、特段の記載がない限り、当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。同様に、本明細書に挙げられるすべての刊行物、特許出願、すべての特許、すべての他の参考文献は、参照により組み込まれる。
【0169】
以下の実施例および図は、本発明のいくつかの実施形態を記載する。しかしながら、実施例は、説明のために提示されるに過ぎず、本発明の範囲を決して限定しないことが認識されよう。
【実施例
【0170】
実施例1:可逆的な直接阻害剤
ビタミンK拮抗薬(VKA:vitamin K antagonist)は、経口で投与される抗凝血剤の歴史的に最初で唯一のクラスである。多くの食品および薬物相互作用を加えられ得る、このタイプの処置に対する患者の反応における大きな変動性は、多くの血液試料を患者から採取することを伴う、処置の定期的なin vitroモニタリングを必要とする。この所見は、理論的には、定期的なモニタリングを必要とせず、比較的少ない食品および薬物相互作用のみを有する、直接経口抗凝血剤(DOA)と呼ばれる抗凝血薬の新しいファミリーを製薬業界が開発することにつながった。抗凝血剤のこのファミリーは、2つのクラスに分けられる:
- 抗Xa、因子Xaの直接阻害剤、および
- 抗IIa、トロンビンの直接阻害剤。
【0171】
先に示されたように、例えば、緊急の外科的介入の前、過量投与が疑われる場合、または原因不明の出血の場合になど、直接経口抗凝血剤(DOA)をアッセイすることが有用ないくつかの状況がある。本明細書に提示される研究は、抗Xaのファミリーに焦点を合わせ、その主な分子は、以下の通りである:
- リバーロキサバン、Xarelto(登録商標)の名称でBayer/Janssen Pharmaceutical社が販売;
- アピキサバン、Eliquis(登録商標)の名称でBristol-Myers Squibb/Pfizer社が販売;および
- エドキサバン、Savaysa(登録商標)またはLixiana(登録商標)の名称でDaiichi Sankyo社が販売。
【0172】
I.実験プロトコル
1.材料
血漿試料(Etablissement Francais du Sang,ラ・プレンヌ・サン・ドニ,フランス)は、凝血促進剤または抗凝血剤処置に従っていない健康な患者に由来した。2011年/01月、2012年/03月、2014年/04月、2014年/11月および2015年/02月付けの血漿の異なるプールを実験に用いた。血漿バッグからプールを作る前に、プロトロンビンレベル(PT:prothorombin level)の値、活性化物質によるセファリン時間(CTA:cephalin times with activator)、およびさらに凝血因子の濃度に一貫性があったことを検証するために試験を実行した。血漿バッグをその後に37℃で50分間解凍し、室温で30分間放置して安定化した。プールを作り、血漿を分割する前に153回転/分で35分間撹拌した。フラクションをおよそ-70℃で保存した。使用前に、それらを37℃で5分間解凍した。
【0173】
抗凝血剤の過負荷を400μg/mlに濃縮したアピキサバン(Eliquis,Bristol-Myers Squibb社,ニューヨーク,米国)の溶液、500μg/mlに濃縮したエドキサバントシラート(Lixiana,Daiichi Sankyo社,東京,日本)の溶液、および393μg/mlに濃縮したリバーロキサバン(Xarelto,Bayer社、レーヴァークーゼン,ドイツ)の溶液から作った。
【0174】
市販キットSTA(登録商標)-Liquid Anti-Xa(Diagnostica Stago社,アニエール・シュル・セーヌ,フランス)からの試薬、F.Xa(ウシ由来の因子Xa)および基質(MAPA-Gly-Arg-pNA)を用いた。これらの市販試薬およびさらに正常ヒト血漿のプールPool Norm(Diagnostica Stago社,アニエール・シュル・セーヌ,フランス)、Owren Koller緩衝液(OKB:Owren Koller buffer)(pH7.35,STA(登録商標)-Owren-Koller,Diagnostica Stago社,アニエール・シュル・セーヌ,フランス)、ならびに脱着溶液(DU:desorption solution)STA(登録商標)-Desorb U(Diagnostica Stago社,アニエール・シュル・セーヌ,フランス)を、製造業者によって推奨されるように、室温で30分間再生した。
【0175】
脱ミネラル水中で5%に希釈したジメチルスルホキシド(DMSO:dimethylsulfoxide)(Carlo Erba社,ヴァル・ド・ルイユ,フランス)を実験に用いた。
【0176】
すべての測定をSTA(登録商標)自動化デバイス(Diagnostica Stago社,アニエール・シュル・セーヌ,フランス)AUT00460(ヘースティング番号)上で実行した。これらの実験に用いた自動化デバイスのためのソフトウェアバージョンは、バージョンv3.04.05であった。
【0177】
2.方法
抗Xa酵素アッセイ。比色分析によってカイネティクスを405nmでモニターし、パラニトロアニリド(pNA:para-nitroanilide)の放出を検出した。光学濃度(OD)を2秒ごとに測定した。3つの直接経口抗Xa抗凝血剤をアッセイするために、2つの手法:広い範囲の手法および狭い範囲の手法を最適化した。これは、広い範囲の手法が所望の範囲全体にわたって抗凝血剤をアッセイすることを可能にするためであるが、しかし、これらの抗凝血剤の低濃度の測定が高精度を必要とするので、狭い範囲の手法もそれゆえに開発した。
【0178】
広い範囲では、6.25μlの生物試料(血漿)をOKBで50μlの最終体積に希釈した。150μlの基質の存在下でマイクロキュベットを37℃で240秒間インキュベートした。予め37℃でインキュベートした150μlのF.Xaの添加によって反応を開始した。狭い範囲では、25μlの試料を25μlのOKBで希釈した。基質および酵素の添加のための実験条件は、広い範囲の手法と同じである。勾配を50秒と80秒との間で決定した。
【0179】
汎用キャリブレーション。キャリブレーションを、90%~0%に及ぶ抗Xa活性に対応する10%~100%のF.Xaに及ぶ、10点からなるF.Xaの範囲から実行した。この範囲をキットSTA(登録商標)Liquid Anti-Xaからの試薬から生成した。F.Xa(2ml,1.8ml,・・・,0.2ml)を2mlの最終体積に向けてOKB(0ml,0.2ml,・・・,1.8ml)中に希釈した。2014年/04月付けの健康な血漿のプールをこの実験に用いた。5%のDMSOを血漿中で20分の1に希釈した。結果(50秒と80秒との間のOD/分の測定結果)を2回の反復試験で決定した。
【0180】
10個のキャリブレーション点について測定したカイネティクスの勾配が抗Xa活性(%)のグラフをOD/分の関数としてプロットすることを可能にする。試験された試料のOD/分をパーセンテージとしての抗Xa活性へ変換するために得た線の式を用いる。線の式は、1次のまたは2次の多項式回帰によって与える。
【0181】
変換チャートの生成。両方の手法(広い範囲の手法および狭い範囲の手法)について、各直接経口抗凝血剤(DOA)に固有のチャートのパラメータを少数の実験点上の式2の非線形回帰によって決定した。広い範囲では、0、100、200、300および400ng/mlのDOAで過負荷を与えた試料を用いてリバーロキサバンと関連するチャートを生成した。0、100、200、300、400および500ng/mlで過負荷を与えた試料を用いてアピキサバンと、およびエドキサバンと関連するチャートを生成した。狭い範囲では、0、30、65、および100ng/mlのDOAで過負荷を与えた試料を用いてリバーロキサバンと関連するチャートを生成した。0、50、100、および150ng/mlのDOAで過負荷を与えた試料を用いてアピキサバンと、およびエドキサバンと関連するチャートを生成した。試料ごとにOD/分を50秒と80秒との間で測定した。
【0182】
血漿過負荷。2014年/04月付けの血漿のプールを用いて過負荷を作った。直接経口抗凝血剤(DOA)の貯蔵溶液をDMSO%中に希釈した。種々の過負荷用の希釈範囲を作るために10μg/mlの中間溶液を用いた。血漿中におけるDOAの希釈は、20分の1であった。過負荷の濃度は、リバーロキサバンについて0、10、20、30、40、50、65、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400ng/ml、ならびにアピキサバンおよびエドキサバンについて0、10、20、30、40、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500ng/mlであった。過負荷の最終体積は、1mlであった。エドキサバンを含んだ溶液を暗所に保存した。結果(50秒と80秒との間のOD/分の測定結果)を過負荷ごとに3回の反復試験で決定した。
【0183】
汎用キャリブレーションのための試験の構成。広い範囲および狭い範囲の手法のための試験構成をF.Xaの希釈によって生成した。実験条件は、「抗Xa酵素アッセイ」の節に記載したものと同じである。
【0184】
チャートの生成のための試験の構成。上記のように、「抗Xa酵素アッセイ」の節に記載した広い範囲および狭い範囲の手法に従って異なる測定結果を得た。
【0185】
血漿過負荷のための試験の構成。「抗Xa酵素アッセイ」の節に記載した広い範囲および狭い範囲の手法に従ってDOAで過負荷を与えた血漿に関する測定を実行した。
【0186】
ブランク上限の決定。ブランク上限(LoB:limit of blanlk)を標準的な手順に従って決定した。用いた5つの異なる血漿は、2011年/01月、2012年/03月、2014年/04月、2014年/11月および2015年/02月付けのものであった。毎日4つの反復試験を3日にわたって同じ自動化デバイス上で実行した。広い範囲および狭い範囲の手法について試験を実行した。
【0187】
検出限界の決定。検出限界(LoD:limit of detection)を標準的な手順に従って決定した。低アナライト血漿を調製した。過負荷を20分の1まで実行した。2014年/04月付けの血漿を用いた。汎用キャリブレーションの回帰が一次多項式であったときに、広い範囲におけるアナライトの濃度は、リバーロキサバンのおよびアピキサバンの10ng/ml、ならびにエドキサバンについては15ng/mlであった。狭い範囲では、過負荷の濃度は、3つの抗凝血剤について5ng/mlであった。900μlの最終体積に向けて5つの過負荷を作った。汎用キャリブレーションの回帰が二次多項式であったときに、広い範囲におけるおよび狭い範囲におけるアナライトの濃度は、3つの直接経口抗凝血剤(DOA)について2ng/mlであった。過負荷の最終体積は、1000μlであった。各過負荷を3つのチューブに分離した。試料をそれらの使用まで-70℃で凍結させた。1日当たり過負荷ごとに4つの分析反復試験を伴う分析を3日にわたって同じ自動化デバイス上で実行した。
【0188】
血漿中における希釈を用いた抗Xa酵素アッセイ。希釈を緩衝液中ではなく血漿中で実行したという事実を除いて、実験条件は、前節に記載したものと同一である。用いた希釈剤は、Pool Normであった。とはいえ、汎用キャリブレーションは、F.XaをOKB中に希釈することによって「汎用キャリブレーション」の節に記載したものと同じ条件下で得た。
【0189】
II.結果
1.汎用キャリブレーション
図1は、それぞれ広い範囲および狭い範囲の手法で得た本発明による汎用キャリブレーションの例を提示し、結果を測定したOD/分の関数として抗Xa活性(%)で表現する。異なる実験点の線形回帰は、以下の式:
y=1.053-0.999x(R=0.994)、およびy=1.034-1.081x(R=0.996)
を与える。
【0190】
これらの汎用キャリブレーションの理論式は、発明を実施するための形態において先に記載したように式1の直線が与え、本明細書で得た結果は、この表現と完全に一致する、すなわち、1に非常に近い決定係数と1に近いインターセプトポイントとを有する線形回帰を得る。これら2つの直線の式が異なることに注目すると興味深い。試料の希釈が2つの手法の間で異なり(広い範囲の手法について1/8、および狭い範囲の手法について1/2)、マトリクス効果が観測されるという事実がこれを説明する。
【0191】
2.変換チャート
図2は、3つの直接経口抗凝血剤(DOA)の各々について測定した抗Xa活性(%)をng/mlで表現した濃度へ変換することを可能にするチャートを示す。対(抗Xa活性、抗凝血剤の濃度)が既知の試料に関して式2の非線形回帰を実行することによって、これらのチャートを生成した。広い範囲の手法では、これらの非線形回帰は、それぞれ、リバーロキサバンについて0.997、アピキサバンについて0.995、およびエドキサバンについて0.993の決定係数Rを有する。狭い範囲の手法では、これらの非線形回帰は、それぞれ、リバーロキサバンについて0.993、アピキサバンについて0.997、およびエドキサバンについて0.992の決定係数Rを有する。これらすべての決定係数値が、開発した数学的モデルの妥当性を際立たせる。加えて、等しい濃度では、リバーロキサバンが最も高いin vitro抗Xa活性を有するのに対して、エドキサバンは、最も低い抗Xa活性を有し、これは、ng/mlで表現した濃度が抗XaDOAをアッセイするための汎用単位ではないことを確認する。
【0192】
3.直接経口抗凝血剤(DOA)で過負荷を与えた血漿のアッセイ
この節では、DOA(リバーロキサバン、アピキサバンおよびエドキサバン)で過負荷を与えた血漿のレベルのアッセイの結果を本発明による汎用キャリブレーション原理を用いて得て、理論的なレベルと比較した。結果は、線形回帰の勾配が0.9と1.1との間にあるとき、および決定係数Rが0.95以上であるときに満足するものであると考えられる。
【0193】
リバーロキサバン。図3は、汎用キャリブレーション原理を用いて広い範囲の手法(20個の過負荷)および狭い範囲の手法(8個の過負荷)で測定し、理論的なレベルと比較したリバーロキサバンのレベルのアッセイの比較の結果を提示する。これらの比較により、それぞれ、0.98および0.96の勾配ならびに0.998および0.995の決定係数が得られ、それによって、結果を検証した。
【0194】
アピキサバン。図4は、汎用キャリブレーション原理を用いて広い範囲の手法(24個の過負荷)および狭い範囲の手法(10個の過負荷)で測定し、理論的なレベルと比較したアピキサバンのレベルのアッセイの比較の結果を提示する。これらの比較により、それぞれ、0.97および0.97の勾配ならびに0.999および0.999の決定係数が得られ、それによって、結果を検証した。
【0195】
エドキサバン。図5は、汎用キャリブレーション原理を用いて広い範囲の手法(24個の過負荷)および狭い範囲の手法(10個の過負荷)で測定し、理論的なレベルと比較したエドキサバンのレベルのアッセイの比較の結果を提示する。これらの比較により、それぞれ、0.99および1.00の勾配ならびに0.996および0.997の決定係数が得られ、それによって、結果を検証する。
【0196】
4.ブランク上限および検出限界
この節では、ブランク上限(LoB)および測定検出限界(LoD)を汎用キャリブレーション原理を用いて広い範囲および狭い範囲の手法で得た。そのうえ、これらの値を狭い範囲の手法で改善するための方法を提案する。心覚えに、直接経口抗凝血剤(DOA)の処置を受けている患者に外科的介入を許容するための判定閾値は、(リバーロキサバンについての最小値として、Pernodら,Annales francaises danesthesie et de reanimation,2013,32(10):691-700)30ng/ml以下のレベルである。
【0197】
広い範囲の手法。以下の表1は、本発明による汎用キャリブレーション原理を用いて広い範囲の手法で得たブランク上限および検出限界を示す。観測したLoD値は、それぞれ、リバーロキサバンについて21.5ng/ml、アピキサバンについて21.8ng/ml、およびエドキサバンについて28.8ng/mlであった。これらの結果が示すのは、低レベルの抗XaDOAを緊急の外科的介入の状況で要求される精度で測定することを広い範囲の手法は可能にしないということである。
【0198】
【表1】
【0199】
狭い範囲の手法。以下の表2は、本発明による汎用キャリブレーション原理を用いて狭い範囲の手法で得たブランク上限および検出限界を示す。観測したLoD値は、それぞれ、リバーロキサバンについて6.9ng/ml、アピキサバンについて6.9ng/ml、およびエドキサバンについて8.7ng/mlであった。これらの結果は、狭い範囲の手法が、非常に低レベルの抗XaDOAを正確に測定するのに十分に良好な性能を有することを実証する。
【0200】
【表2】
【0201】
狭い範囲の手法における最適化。汎用キャリブレーションは、式1が与える直線に従うことを実証し、実験的に検証した。しかしながら、経験的に、二次多項式による汎用キャリブレーションの回帰は、実験点を線形回帰よりも良好に表現するはずである。このことを実験的に確認した-図6を参照。二次多項式による汎用キャリブレーションの回帰は、LoBおよびLoDを狭い範囲の手法で改善することを可能にする(以下の表3を参照)が、測定レベルと理論的なレベルとの比較の品質には影響を与えない(結果は示さない)。
【0202】
【表3】
【0203】
5.血漿中における希釈
広い範囲の手法(希釈=1/8)と狭い範囲の手法(希釈=1/2)との間の試料希釈値の差がマトリクス効果を誘起する。これを克服するための方法をここで提案する。このために、汎用キャリブレーションでは、試料をもはや緩衝液(OKB)中には希釈しないが、希釈係数を変えないまま血漿(Pool Norm)中に希釈する。図7は、試料を緩衝液中に希釈したときの汎用キャリブレーションの外観と試料を血漿中に希釈したときの汎用キャリブレーションの外観とを比較する。広い範囲の手法および狭い範囲の手法における実験点の線形回帰は、それぞれ、試料を緩衝液中に希釈したときに、直線の式:
y=1.053-0.999x、および
y=1.034-1.081x+
を与え、ならびに試料を血漿中に希釈したときには、直線の式:
y=1.022-1.173x、および
y=1.020-1.198x
を与える。
【0204】
これらの結果は、試料を血漿中に希釈したときに、汎用キャリブレーションの2つの直線の式が互いに重なることを示す。この構成において必要なのは、もはや2つのキャリブレーションを実行することではなく、2つの手法(広い範囲の手法および狭い範囲の手法)に共通する1つのキャリブレーションを単に実行することである。同様に強調すべきは、リバーロキサバンの理論的なレベルと、試料の血漿中における希釈とともに、汎用キャリブレーション原理を用いて過負荷を与えた血漿中で測定したレベルとの比較により、広い範囲の手法では0.96の勾配および0.999の決定係数が得られ、狭い範囲の手法では0.95の勾配と0.995の決定係数が得られることである。図8を参照。これらの結果は、血漿中に希釈した試料における直接経口抗凝血剤のレベルをin vitroで測定することが可能なことを実証する。
【0205】
実施例2:不可逆的な間接阻害剤
I.実験プロトコル
1.材料
実施例2における血漿試料(Etablissement Francais du Sang,ラ・プレンヌ・サン・ドニ,フランス)および試薬は、実施例1に用いたものと同じである。
【0206】
ヘパリンの過負荷を5000IU/0.2mlに濃縮したヘパリンカルシウム(Cari-parine(登録商標),Sanofi-Aventis,パリ,フランス)、および10000IU/0.5mlに濃縮したチンザパリンナトリウム(Innohep(登録商標),Leo Pharma,バレルプ,デンマーク)の溶液から作った。
【0207】
2.方法
抗Xa酵素アッセイ。実施例1におけるようにカイネティクスをモニターした。非分画ヘパリンおよび低分子量ヘパリンのアッセイのために手法を最適化した。二(2)μlの血漿をOKB中で100mlの最終体積に希釈した。100mlのF.Xaの存在下でマイクロキュベットを37℃で690秒間インキュベートした。予め37℃でインキュベートした、100mlの基質の添加によって測定フェーズをトリガーした。勾配を20秒と50秒との間で決定した。
【0208】
汎用キャリブレーション。測定を20秒と50秒との間で実行したという事実を除いて、キャリブレーションを実施例1におけるように実行した。
【0209】
変換チャートの生成。各ヘパリンに固有のチャートのパラメータを少数の実験点上の式3の線形回帰によって決定した。0、0.3、0.6、および1.0IU/mlで過負荷を与えた試料を用いてヘパリンカルシウムと関連するチャートを生成した。0、0.2、0.4、および0.6IU/mlで過負荷を与えた試料を用いてチンザパリンナトリウムと関連するチャートを生成した。試料ごとにOD/分を20秒と50秒との間で測定した。
【0210】
血漿過負荷。過負荷を作るために血漿のプールを用いた。ヘパリンの貯蔵溶液を生理的血清中に希釈した。過負荷の濃度は、ヘパリンカルシウムについて0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、および1.0IU/ml、ならびにチンザパリンナトリウムについて0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、および0.6IU/mlであった。過負荷の最終体積は、0.5mlであった。結果(20秒と50秒との間のOD/分の測定結果)を過負荷ごとに3回の反復試験で決定した。
【0211】
汎用キャリブレーションのための試験の構成、チャートを生成するための試験の構成、および血漿過負荷のための試験の構成。実験条件は、「抗Xa酵素アッセイ」の節に記載したものと同じである。
【0212】
II.結果
1.汎用キャリブレーション
図9は、結果を、測定したOD/分の関数として抗Xa活性(%)で表現する汎用キャリブレーションを示す。異なる実験点の線形回帰は、式y=0.994-0.518x=(R=0.996)を与える。このキャリブレーションの理論式を式1の直線が与える。得られた結果は、この式、すなわち、1に非常に近い決定係数と1に近いインターセプトポイントとをもつ線形回帰と完全に一致する。
【0213】
2.変換チャート
図10は、ヘパリンの2つのファミリーの各々について、測定した抗Xa活性(%)をIU§/ml単位の濃度へ変換するために生成したチャートを提示する。対(抗Xa活性、抗凝血剤の濃度)が既知の試料に関して線形回帰を実行することによって、これらのチャートを生成した。実験点の線形回帰は、非分画ヘパリンについて直線の式y=2.354x-0.01569を与え、低分子量ヘパリンについて直線の式y=1.621x-0.028247を与えた。これらの式は、(ゼロに近いインターセプトをもつ直線であり)式2と完全に一致している。そのうえ、式3は、ヘパリン濃度がアンチトロンビン濃度以下であるときに理論的に妥当である。反対の場合に、ヘパリンが血漿アンチトロンビンを完全に飽和させるならば、ヘパリンは、もはや測定可能でない。図10のチャートでこの挙動を見ることができる。確かに、線形回帰は、非分画ヘパリンについて52.75%以下、および低分子量ヘパリンについて52.85%以下の抗Xa活性にのみ当て嵌まる。これらの値は、独立して決定したとはいえ、極めて一貫性がある。したがって、得られたすべての結果が本明細書において開発した数学的モデルの妥当性を確認する。
【0214】
3.ヘパリンで過負荷を与えた血漿のアッセイ
本発明による汎用キャリブレーション原理を用いて得た、非分画ヘパリンでおよび低分子量ヘパリンで過負荷を与えた血漿のレベルのアッセイの結果をここでは理論的なレベルとの比較によって提示する。結果は、線形回帰の勾配が0.9と1.1との間にあるとき、および決定係数Rが0.95以上であるときには満足するものであると考えられる。
【0215】
非分画ヘパリン。図11(A)は、11個の非分画ヘパリン過負荷を用いて得られた結果を提示する。汎用キャリブレーション原理を用いて測定したレベルの理論的なレベルとの比較により、結果を検証する1.025の勾配および0.987の決定係数を得た。
【0216】
低分子量ヘパリン。図11(B)は、7個の低分子量ヘパリン過負荷を用いて得られた結果を提示する。汎用キャリブレーション原理を用いて測定したレベルの理論的なレベルとの比較により、結果を検証する0.9764の勾配および0.985の決定係数を得た。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11