(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】ガス発生器
(51)【国際特許分類】
B60R 21/264 20060101AFI20230911BHJP
【FI】
B60R21/264
(21)【出願番号】P 2020035003
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鹿浦 健司
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-046704(JP,A)
【文献】特開2014-240272(JP,A)
【文献】特開2016-130116(JP,A)
【文献】特開2018-122851(JP,A)
【文献】特開2008-105618(JP,A)
【文献】特開2010-167812(JP,A)
【文献】特開平09-207705(JP,A)
【文献】特開2009-039665(JP,A)
【文献】特開2011-152528(JP,A)
【文献】特開2017-087961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス噴出口が設けられた筒状の周壁部と、前記周壁部の軸方向の端部を閉塞する天板部および底板部とによって構成され、ガス発生剤が収容された燃焼室を内部に含むハウジングと、
前記底板部に組付けられ、作動時において着火する点火薬が収容された点火部を含む点火器と、
前記ハウジングの内部に位置し、前記ハウジングの径方向において前記燃焼室を取り囲むように配置された筒状のフィルタと、
前記フィルタと前記底板部との境目部分を覆うように前記燃焼室のうちの前記底板部側の端部に配置され、前記フィルタを支持するとともに前記ハウジングに対して相対的に移動不能に固定された下部側押さえ部材と、
前記底板部側の端部が開口した略筒形状を有するとともに伝火薬が収容された伝火室を内部に含み、前記点火部に前記伝火室が面するように前記燃焼室側に向けて突出して配置されたカップ状部材とを備え、
前記カップ状部材は、前記伝火室を規定する頂壁部および側壁部と、前記側壁部の前記
底板部側の端部から前記底板部の内底面に沿って外側に向けて延設された延設底部とを有し、
前記下部側押さえ部材は、前記フィルタの前記底板部側に位置する内周面を覆う立接部と、前記カップ状部材を覆って配置される筒状部と、前記立接部と前記筒状部を接続する接続部を備え、
前記接続部は弾性変形可能であり、前記ハウジング又は前記延設底部と接触する第2当接部と板ばね部を備え、前記第2当接部から前記内周面の径方向外側に向かうにつれて前記天板部側に向けて傾く傾斜形状を有し、
前記板ばね部と前記底板部の間に下部側間隙部を有する、ガス発生器。
【請求項2】
前記延設底部は前記下部側押さえ部材の前記第2当接部と前記ハウジングとで挟まれることで固定され
る、請求項1に記載のガス発生器。
【請求項3】
前記下部側押さえ部材は、前記フィルタの前記底板部側に位置する内周面に当接する第1当接部と、前記カップ状部材を覆って配置される筒状部と、前記第1当接部と前記筒状部を接続する接続部を備えている、請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項4】
前記延設底部が前記下部側押さえ部材の前記第2当接部と前記ハウジングとで挟まれることで固定され、
前記接続部は、舌片状の切り起こし部又は椀状の突起部を有する、請求項1又は3に記載のガス発生器。
【請求項5】
前記下部側押さえ部材は前記第1当接部の軸方向端部寄りの部分に位置しかつ径が一様な円筒部を有し、
前記押さえ部材は軸方向端部とは反対側に位置する軸方向端部寄りの部分に位置し、かつ先端側に向かうにつれて拡径した拡径筒部を有し、
前記円筒部の外径は、前記フィルタの内径と同じかそれよりも小さく、
前記拡径筒部の最大外径は、前記フィルタの内径よりも大きく構成された、
請求項
3に記載のガス発生器。
【請求項6】
前記点火器を前記底板部に固定する樹脂製の保持部をさらに備え、
前記保持部が、前記燃焼室側に向けて突出する突出部を有し、
前記接続部が、前記ハウジングの軸方向に沿って延びるとともに前記突出部の外周面を覆う筒状部を有し、
前記筒状部が前記突出部に圧入されることにより、前記下部側押さえ部材が前記保持部を介して前記ハウジングに対して相対的に移動不能に固定されている、請求項1から5のいずれかに記載のガス発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等衝突時に乗員を保護する乗員保護装置に組み込まれるガス発生器に関し、特に、自動車等に装備されるエアバッグ装置に組み込まれるガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の乗員の保護の観点から、乗員保護装置であるエアバッグ装置が普及している。エアバッグ装置は、車両等衝突時に生じる衝撃から乗員を保護する目的で装備されるものであり、車両等衝突時に瞬時にエアバッグを膨張および展開させることにより、エアバッグがクッションとなって乗員の体を受け止めるものである。
【0003】
ガス発生器は、このエアバッグ装置に組み込まれ、車両等衝突時にコントロールユニットからの通電によって点火器を発火し、点火器において生じる火炎によりガス発生剤を燃焼させて多量のガスを瞬時に発生させ、これによりエアバッグを膨張および展開させる機器である。
【0004】
ガス発生器には、種々の構造のものが存在するが、特にステアリングホイール等に装備される運転席側エアバッグ装置に好適に利用されるガス発生器として、いわゆるディスク型ガス発生器がある。ディスク型ガス発生器は、軸方向の端部が閉塞された短尺円筒状のハウジングを有し、ハウジングの周壁にガス噴出口が設けられるとともに、ハウジングの内部に位置する点火器の周囲を囲うようにガス発生剤が、またガス発生剤の周囲をさらに囲うようにフィルタが、それぞれハウジングの内部に収容されてなるものである。
【0005】
このディスク型ガス発生器においては、点火器にて生じた火炎によって確実にガス発生剤が着火されることとなるように、ガス発生剤が収容された燃焼室と点火器との間に燃焼促進剤としての伝火薬(エンハンサ)が配置されることが一般的である。通常、伝火薬は、カップ状部材の内部に設けられた伝火室に収容され、この伝火室が点火薬が収容された点火器の点火部に面することとなるように、上記カップ状部材が燃焼室内に突出した状態で配置される。
【0006】
なお、カップ状部材としては、ステンレス合金等の機械的強度の高い部材に予め開口を設けておき、当該開口をシールテープによって閉鎖することにより、作動時において当該シールテープの閉鎖が破られるように構成された、いわゆるエンハンサホルダと呼ばれるものと、アルミニウム等の機械的強度の低い部材を用い、作動時において伝火室を規定する部分の全面が破裂または溶融するように構成された、いわゆるエンハンサカップと呼ばれるものとが存在する。
【0007】
ここで、カップ状部材は、ガス発生器の作動時において意図した燃焼特性が得られることとなるように、伝火薬が収容された伝火室とガス発生剤が収容された燃焼室とを区画するものであり、少なくともこれら伝火薬とガス発生剤とが混ざり合うことがないようにハウジングに対して組付けられていることが必要である。当該観点から、従来においては、カップ状部材のハウジングに対する組付けはかしめ固定や圧入固定、挟み込み固定によって行なわれることが一般的である。
【0008】
たとえば、特開2014-046704号公報(特許文献1)に開示のガス発生器にあっては、カップ状部材に第1延設部が設けられるとともに第1宛がい部材とハウジングとの間に第1延設部を挟み込み保持することでカップ状部材はハウジングに対して固定されている。第1宛がい部材の当接部はガス発生器の作動時においてフィルタとハウジングとの間に生じる隙間を介してガスが漏れ出すことがないように、隙間を塞ぐべく、燃焼室に金属製の遮蔽材として配置される。天板部側の第2宛がい部材も同様に金属製の遮蔽材として配置される。このような場合、ガス発生剤として複数の粒状成型体からなるものを用いた場合には、ガス発生器に振動が加わること等によって当該ガス発生剤に意図しない破砕が生じてしまう恐れがある。このため、非作動時においてガス発生剤が破砕してしまうことを防止するために、ハウジングの内部においてガス発生剤を弾性的に保持すべく、燃焼室のガス発生剤が接触するようにクッション材が配置される場合が多い。
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に開示の如くのクッション材を用いることとした場合には、部品点数が増えることから、製造コストが増大する問題があった。
【0010】
これを解決すべく、たとえば、特開2016-130116号公報(特許文献2)に開示のガス発生器にあっては、クッション材を使用しないガス発生器が開示されている。押さえ部材により作動時におけるガスの漏れ出しと非作動時におけるガス発生剤の破砕とが防止でき、ハウジングの所定部位に燃焼室側に向けて突出する突状筒部が設けられ、当該突状筒部にカップ状部材の開口端が圧入されることでカップ状部材が底板部のハウジングに対して固定されている。押さえ部材は金属製の板状部材に曲げ加工を施すことで形成された成形品にて構成され、全体として天板部側に向けて凸のドーム状の湾曲板形状を有している。これにより、押さえ部材は天板部側に向けて弾性変形させる力が生じ、その復元力がガス発生剤を底板部側及び燃焼室の中央側に向けて弾性付勢する付勢力として作用することになる。そのため、非作動時におけるガス発生剤の破砕が未然に防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2014-046704号公報
【文献】特開2016-130116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献2に開示の如くの押さえ部材を用いることとした場合には、ペレット状のガス発生剤を湾曲板形状の押さえ部材で押さえる際に均等に荷重をかける必要があるが、押さえ部材は湾曲しているため、ガス発生剤との初期の密着が不十分である。そのため、ペレット状のガス発生剤と押さえ部材を密着させるため、振動を与えつつ、ガス発生剤を均す工程が必要であり、これに伴って歩留まりが低下することで製造コストが増大してしまう問題があった。
【0013】
そのため、押さえ部材の組付けに際しては、押さえ部材の表面に凹凸を設けてガス発生剤と押さえ部材がより密着することで、なるべく均等に荷重をかけ、歩留まりの低下を抑えたが、このような表面に凹凸を設けた構成の押さえ部材は比較的複雑な形状加工を要するものであり、製造が煩雑となって製造コストが増大してしまい、結果として製造コストの削減が十分には達成できない課題を招来してしまう。
【0014】
したがって、本発明は、上述した問題を解決すべくなされたものであり、非作動時におけるガス発生剤の粉砕を防止することができ、さらに、より安価にかつ容易に製造することができるガス発生器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に基づくガス発生器は、ハウジングと、点火器と、フィルタと、下部側押さえ部材と、上部側フィルタ支持部材と、カップ状部材とを備えている。上記ハウジングは、ガス噴出口が設けられた筒状の周壁部と、上記周壁部の軸方向の端部を閉塞する天板部および底板部とによって構成されており、ガス発生剤が収容された燃焼室を内部に含んでいる。上記点火器は、作動時において着火する点火薬が収容された点火部を含んでおり、上記底板部に組付けられている。上記フィルタは、上記ハウジングの内部に位置し、上記ハウジングの径方向において上記燃焼室を取り囲むように配置された筒状の部材からなる。上記下部側押さえ部材は、上記フィルタと上記底板部との境目部分を覆うように上記燃焼室のうちの上記底板部側の端部に配置されており、上記フィルタを支持するとともに上記ハウジングに対して相対的に移動不能に固定されている。上記カップ状部材は、上記底板部側の端部が開口した略筒形状を有するとともに伝火薬が収容された伝火室を内部に含んでおり、上記点火部に上記伝火室が面するように上記燃焼室側に向けて突出して配置されている。上記カップ状部材は、上記伝火室を規定する頂壁部および側壁部と、上記側壁部の上記底板部側の端部から上記底板部の内底面に沿って外側に向けて延設された延設底部とを有している。上記下部側押さえ部材は、上記フィルタの上記底板部側に位置する内周面を覆う立設部と、上記カップ状部材を覆って配置される筒状部と、上記立設部と上記筒状部を接続する接続部を備えている。上記接続部は弾性変形可能であり、上記ハウジング又は上記接続部と接触する第2当接部を備えている。
【0016】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記接続部が上記第2当接部と上記ハウジングとで挟まれることで固定され、上記接続部は、前記第2当接部から前記内周面の径方向外側に向かうにつれて前記天板部側に向けて傾く傾斜形状を有することが好ましい。
【0017】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記下部側押さえ部材は、上記フィルタの上記底板部側に位置する内周面に当接する第1当接部と、上記カップ状部材を覆って配置される筒状部と、上記第1当接部と上記筒状部を接続する接続部を備えていることが好ましい。
【0018】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記延設底部が上記下部側押さえ部材の上記第2当接部と上記ハウジングの軸方向において挟まれて固定され、上記接続部は、舌片状の切り起こし部又は椀状の突起部を有することが好ましい。
【0019】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記下部側押さえ部材は上記第1当接部の軸方向端部寄りの部分に位置しかつ径が一様な円筒部を有し、軸方向端部とは反対側に位置する軸方向端部寄りの部分に位置しかつ先端側に向かうにつれて拡径した拡径筒部を有し、上記円筒部の外径は、上記フィルタの内径と同じかそれよりも小さく、上記拡径筒部の最大外径は、上記フィルタの内径よりも大きく構成されていることが好ましい。
【0020】
上記本発明に基づくガス発生器は、さらに、上記点火器を上記底板部に固定する樹脂製の保持部を備えていてもよい。その場合には、上記保持部が、上記燃焼室側に向けて突出する突出部を有していることが好ましく、また、上記下部側押さえ部材が、上記ハウジングの軸方向に沿って延びるとともに上記突出部の外周面を覆う筒状部を有していることが好ましい。その場合においては、上記筒状部が上記突出部に圧入されることにより、上記下部側押さえ部材が上記保持部を介して上記ハウジングに対して相対的に移動不能に固定されていることが好ましい。
【0021】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記下部側押さえ部材の上記筒状部が、上記保持部において上記突出部の外周面を除く露出表面を取り囲んでいることが好ましい。
【0022】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記点火器が挿通するように配置された開口部が、上記底板部に設けられていることが好ましく、その場合には、上記保持部が、上記開口部を塞ぐように上記底板部の内面の一部および上記底板部の外面の一部に固着した樹脂成形部によって構成されていることが好ましい。
【0023】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記底板部が、上記天板部側に向けて突設された突状筒部を有していることが好ましく、その場合には、上記開口部が、上記突状筒部の上記天板部側に位置する軸方向端部に設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、伝火薬が収容されたカップ状部材をハウジングに対して容易に組付けることができ、下部側押さえ部材が天板部側へ弾性変形することで、ガス発生剤を保持しつつ、非作動時におけるガス発生剤の粉砕を防止することができ、さらに、より安価にかつ容易に製造することができることで、製造コストの削減が図られたガス発生器とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施の形態1におけるガス発生器1Aの概略断面図である。
【
図2】
図1に示すガス発生器1Aの要部拡大断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態2におけるガス発生器1Bの概略断面図である。
【
図5】
図3に示す下部側押さえ部材の非組付状態における一部破断側面図である。
【
図6】
図3に示すガス発生器1Bの組立手順を説明するための模式断面図である。
【
図7】
図3に示すガス発生器1Bの組立手順を説明するための模式断面図である。
【
図8】
図3に示すガス発生器1Bの組立手順を説明するための模式断面図である。
【
図9】
図3に示すガス発生器1Bの組立手順を説明するための模式断面図である。
【
図10】
図3に示すガス発生器1Bの組立手順を説明するための模式断面図である。
【
図11】本発明の実施の形態3におけるガス発生器1Cの概略断面図である。
【
図12】本発明の実施の形態4におけるガス発生器1Dの概略断面図である。
【
図13】第1変形例に係る下部側押さえ部材の平面図である。
【
図14】第1変形例に係る下部側押さえ部材の断面図である。
【
図15】第2変形例に係る下部側押さえ部材の平面図である
【
図16】第2変形例に係る下部側押さえ部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。以下に示す実施の形態は、自動車のステアリングホイール等に搭載されるエアバッグ装置に好適に組み込まれるディスク型ガス発生器に本発明を適用したものである。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分に図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0027】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるガス発生器1Aの概略断面図であり、
図2は、
図1に示すガス発生器1Aの要部拡大断面図である。まず、これら
図1ないし
図2を参照して、本実施の形態におけるガス発生器1Aの構成について説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aは、軸方向の両端が閉塞された短尺略円筒状のハウジングを有しており、このハウジングの内部に構成部品としての保持部30、点火器40、カップ状部材50、伝火薬57、ガス発生剤61、下部側押さえ部材70、上部側フィルタ支持部材80、フィルタ90等が収容されることで構成されている。また、ハウジングの内部には、上述した構成部品のうちのガス発生剤61が主として収容された燃焼室60が位置している。
【0029】
短尺略円筒状のハウジングは、下部側シェル10と上部側シェル20とを含んでいる。下部側シェル10および上部側シェル20のそれぞれは、たとえば圧延された金属製の板状部材をプレス加工することによって形成されたプレス成形品からなる。下部側シェル10および上部側シェル20を構成する金属製の板状部材としては、たとえばステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等からなる金属板が利用され、好適には440[MPa]以上780[MPa]以下の引張応力が印加された場合にも破断等の破損が生じないいわゆる高張力鋼板が利用される。
【0030】
下部側シェル10および上部側シェル20は、それぞれが有底略円筒状に形成されており、これらの開口面同士が向き合うように組み合わされて接合されることによってハウジングが構成されている。下部側シェル10は、底板部11と周壁部12とを有しており、上部側シェル20は、天板部21と周壁部22とを有している。これにより、ハウジングの軸方向の一端部および他端部は、それぞれ底板部11と天板部21とによって閉塞されている。なお、下部側シェル10と上部側シェル20との接合には、電子ビーム溶接やレーザー溶接、摩擦圧接等が好適に利用できる。
【0031】
下部側シェル10の底板部11の中央部には、天板部21側に向かって突出する突状筒部13が設けられており、これにより下部側シェル10の底板部11の中央部には、窪み部14が形成されている。突状筒部13は、上述した保持部30を介して点火器40が固定される部位であり、窪み部14は、保持部30に雌型コネクタ部34を設けるためのスペースとなる部位である。
【0032】
突状筒部13は、有底略円筒状に形成されており、その天板部21側に位置する軸方向端部には、平面視した状態において点対称形状又は非点対称形状(たとえばD字状、樽型形状、長円形状等)の開口部15が設けられている。当該開口部15は、点火器40の一対の端子ピン42が挿通される部位である。
【0033】
点火器40は、火炎を発生させるためのものであり、点火部41と、上述した一対の端子ピン42とを備えている。点火部41は、その内部に、作動時において着火して燃焼することで火炎を発生する点火薬と、この点火薬を着火させるための抵抗体とを含んでいる。一対の端子ピン42は、点火薬を着火させるために点火部41に接続されている。
【0034】
より詳細には、点火部41は、カップ状に形成されたスクイブカップと、当該スクイブカップの開口端を閉塞し、一対の端子ピン42が挿通されてこれを保持する基部とを備えており、スクイブカップ内に挿入された一対の端子ピン42の先端を連結するように抵抗体(ブリッジワイヤ)が取付けられ、この抵抗体を取り囲むようにまたはこの抵抗体に近接するようにスクイブカップ内に点火薬が装填された構成を有している。
【0035】
ここで、抵抗体としては一般にニクロム線等が利用され、点火薬としては一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等が利用される。なお、上述したスクイブカップおよび基部は、一般に金属製またはプラスチック製である。
【0036】
衝突を検知した際には、端子ピン42を介して抵抗体に所定量の電流が流れる。抵抗体に所定量の電流が流れることにより、抵抗体においてジュール熱が発生し、点火薬が燃焼を開始する。燃焼により生じた高温の火炎は、点火薬を収納しているスクイブカップを破裂させる。抵抗体に電流が流れてから点火器40が作動するまでの時間は、抵抗体にニクロム線を利用した場合には一般に2ミリ秒以下である。
【0037】
点火器40は、突状筒部13に設けられた開口部15に端子ピン42が挿通するように下部側シェル10の内側から挿入された状態で底板部11に取付けられている。具体的には、底板部11に設けられた突状筒部13の周囲には、樹脂成形部からなる保持部30が設けられており、点火器40は、当該保持部30によって保持されることにより、底板部11に固定されている。
【0038】
保持部30は、型を用いた射出成形(より特定的にはインサート成形)によって形成されるものであり、下部側シェル10の底板部11に設けられた開口部15を経由して底板部11の内面の一部から外面の一部にまで達するように絶縁性の流動性樹脂材料を底板部11に付着させてこれを固化させることによって形成されている。
【0039】
点火器40は、保持部30の成形の際に、開口部15に端子ピン42が挿通するように下部側シェル10の内側から挿入された状態とされ、この状態において点火器40と下部側シェル10との間の空間を充填するように上述した流動性樹脂材料が流し込まれることにより、保持部30を介して底板部11に固定される。
【0040】
射出成形によって形成される保持部30の原料としては、硬化後において耐熱性や耐久性、耐腐食性等に優れた樹脂材料が好適に選択されて利用される。その場合、エポキシ樹脂等に代表される熱硬化性樹脂に限られず、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂(たとえばナイロン6やナイロン66等)、ポリプロピレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂等に代表される熱可塑性樹脂を利用することも可能である。これら熱可塑性樹脂を原材料として選択する場合には、成形後において保持部30の機械的強度を確保するためにこれら樹脂材料にガラス繊維等をフィラーとして含有させることが好ましい。しかしながら、熱可塑性樹脂のみで十分な機械的強度が確保できる場合には、上述の如くのフィラーを添加する必要はない。
【0041】
保持部30は、下部側シェル10の底板部11の内面の一部を覆う内側被覆部31と、下部側シェル10の底板部11の外面の一部を覆う外側被覆部32と、下部側シェル10の底板部11に設けられた開口部15内に位置し、上記内側被覆部31および外側被覆部32にそれぞれ連続する連結部33とを有している。このうち、内側被覆部31は、燃焼室60側に向けて突出する突出部に該当し、略円柱状の形状を有している。
【0042】
保持部30は、内側被覆部31、外側被覆部32および連結部33のそれぞれの底板部11側の表面において底板部11に固着している。また、保持部30は、点火器40の点火部41の下方端寄りの部分の側面および下面と、点火器40の端子ピン42の上方端寄りの部分の表面とにそれぞれ固着している。これにより、開口部15は、端子ピン42と保持部30とによって完全に埋め込まれた状態となり、当該部分におけるシール性が確保されることでハウジングの内部の空間の気密性が確保されている。なお、開口部15は、上述したように平面視非点対称形状に形成されてもよく、当該開口部15を連結部33で埋め込むことにより、これら開口部15および連結部33は、保持部30が底板部11に対して回転してしまうことを防止する回り止め機構としても機能する。
【0043】
保持部30の外側被覆部32の外部に面する部分には、雌型コネクタ部34が形成されている。この雌型コネクタ部34は、点火器40とコントロールユニット(不図示)とを結線するためのハーネスの雄型コネクタ(図示せず)を受け入れるための部位であり、下部側シェル10の底板部11に設けられた窪み部14内に位置している。この雌型コネクタ部34内には、点火器40の端子ピン42の下方端寄りの部分が露出して配置されている。雌型コネクタ部34には、雄型コネクタが挿し込まれ、これによりハーネスの芯線と端子ピン42との電気的導通が実現される。
【0044】
また、保持部30によって覆われることとなる部分の底板部11の表面の所定位置に予め接着剤層が設けられてなる下部側シェル10を用いて上述した射出成形を行なうこととしてもよい。当該接着剤層は、上記底板部11の所定位置に予め接着剤を塗布してこれを硬化させておくことにより、その形成が可能である。
【0045】
このようにすれば、底板部11と保持部30との間に硬化した接着剤層が位置することになるため、樹脂成形部からなる保持部30をより強固に底板部11に固着させることが可能になる。したがって、底板部11に設けられた開口部15を囲うように上記接着剤層を周方向に沿って環状に設けることとすれば、当該部分においてより高いシール性を確保することが可能になる。
【0046】
ここで、底板部11に予め塗布しておく接着剤としては、硬化後において耐熱性や耐久性、耐腐食性等に優れた樹脂材料を原料として含むものが好適に利用され、たとえばシアノアクリレート系樹脂やシリコーン系樹脂を原料として含むものが特に好適に利用される。なお、上述の樹脂材料以外にも、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン系樹脂、アクリロニトリルスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネイト系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリブチレンテレフタラート系樹脂、ポリエチレンテレフタラート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンスルファイド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルサルフォン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、液晶ポリマー、スチレン系ゴム、オレフィン系ゴム等を含むものが、上述した接着剤として利用可能である。
【0047】
なお、ここでは、樹脂成形部からなる保持部30を射出成形することで下部側シェル10に対する点火器40の固定を可能にした場合の構成例を例示したが、下部側シェル10に対する点火器40の固定に他の代替手段を用いることも可能である。
【0048】
カップ状部材50は、下部側シェル10の突状筒部13を含む部分と、保持部30の突出部としての内側被覆部31と、点火器40の点火部41とを覆うように配置されている。カップ状部材50は、底板部11側の端部が開口した有底略円筒形状を有しており、内部に伝火薬57が収容された伝火室56を含んでいる。カップ状部材50は、その内部に設けられた伝火室56が点火器40の点火部41に面することとなるように、ガス発生剤61が収容された燃焼室60内に向けて突出して位置するように配置されている。
【0049】
図1ないし
図2に示すように、カップ状部材50は、上述した伝火室56を規定する頂壁部51および側壁部52と、側壁部52の開口端側の部分から外側に向けて延設された環状の延設底部54とを有している。本実施の形態においては、カップ状部材50が、上述した延設底部54として、筒状部53と延設底部54とを主として含んでいる。筒状部53は、底板部11のうちの突状筒部13が設けられた部分を囲むように位置しており、延設底部54は、突状筒部13が設けられた部分の近傍における底板部11の内底面に沿うように位置している。
【0050】
カップ状部材50は、いわゆるエンハンサカップと称されるものであり、頂壁部51および側壁部52のいずれにも開口を有しておらず、その内部に設けられた伝火室56を取り囲んでいる。このカップ状部材50は、点火器40が作動することによって伝火薬57が着火された場合に伝火室56内の圧力上昇や発生した熱の伝導に伴って破裂または溶融するものであり、その機械的強度は比較的低いものが使用される。
【0051】
そのため、カップ状部材50としては、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属製の部材や、エポキシ樹脂等に代表される熱硬化性樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂(たとえばナイロン6やナイロン66等)、ポリプロピレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂等に代表される熱可塑性樹脂等の樹脂製の部材からなるものが好適に利用される。
【0052】
なお、カップ状部材50としては、このようなものの他にも、鉄や銅等に代表されるような機械的強度の高い金属製の部材からなり、その側壁部52に開口を有し、当該開口を閉鎖するようにシールテープが貼着されたもの(いわゆるエンハンサホルダ)等を利用することも可能である。
【0053】
ここで、本実施の形態においては、カップ状部材50が下部側押さえ部材70によって保持されることになるが、その詳細な組付構造については、後述することとする。
【0054】
伝火室56に充填された伝火薬57は、点火器40が作動することによって生じた火炎によって点火され、燃焼することによって熱粒子を発生する。伝火薬57としては、ガス発生剤61を確実に燃焼開始させることができるものであることが必要であり、一般的には、B/KNO3等に代表される金属粉/酸化剤からなる組成物などが用いられる。伝火薬57は、粉状のものや、バインダによって所定の形状に成形されたもの等が利用される。バインダによって成形された伝火薬57の形状としては、たとえば顆粒状、円柱状、シート状、球状、単孔円筒状、多孔円筒状、タブレット状など種々の形状がある。
【0055】
ハウジングの内部の空間のうち、カップ状部材50が配置された部分を取り巻く空間には、ガス発生剤61が収容された燃焼室60が位置している。具体的には、カップ状部材50は、ハウジングの内部に形成された燃焼室60内に突出して配置されており、このカップ状部材50の側壁部52の外表面に面する部分に設けられた空間ならびに頂壁部51の外表面に面する部分に設けられた空間が燃焼室60として構成されている。
【0056】
また、ガス発生剤61が収容された燃焼室60をハウジングの径方向に取り巻く空間には、ハウジングの内周に沿ってフィルタ90が配置されている。フィルタ90は、円筒状の形状を有しており、その中心軸がハウジングの軸方向と実質的に合致するように配置されている。
【0057】
ガス発生剤61は、点火器40が作動することによって生じた熱粒子によって着火され、燃焼することによってガスを発生させる薬剤である。ガス発生剤61としては、非アジド系ガス発生剤を用いることが好ましく、一般に燃料と酸化剤と添加剤とを含む成形体としてガス発生剤61が形成される。燃料としては、たとえばトリアゾール誘導体、テトラゾール誘導体、グアニジン誘導体、アゾジカルボンアミド誘導体、ヒドラジン誘導体等またはこれらの組み合わせが利用される。具体的には、たとえばニトログアニジンや硝酸グアニジン、シアノグアニジン、5-アミノテトラゾール等が好適に利用される。また、酸化剤としては、たとえば塩基性硝酸銅等の塩基性硝酸塩や、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム等の過塩素酸塩、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アンモニアから選ばれたカチオンを含む硝酸塩等が利用される。硝酸塩としては、たとえば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等が好適に利用される。また、添加剤としては、バインダやスラグ形成剤、燃焼調整剤等が挙げられる。バインダとしては、たとえばカルボキシメチルセルロースの金属塩、ステアリン酸塩等の有機バインダや、合成ヒドロタルサイト、酸性白土等の無機バインダが好適に利用可能である。スラグ形成剤としては窒化珪素、シリカ、酸性白土等が好適に利用可能である。また、燃焼調整剤としては、金属酸化物、フェロシリコン、活性炭、グラファイト等が好適に利用可能である。
【0058】
ガス発生剤61の成形体の形状には、顆粒状、ペレット状、円柱状等の粒状のもの、ディスク状のものなど様々な形状のものがある。また、円柱状のものでは、成形体内部に貫通孔を有する有孔状(たとえば単孔筒形状や多孔筒形状等)の成形体も利用される。これらの形状は、ガス発生器1Aが組み込まれるエアバッグ装置の仕様に応じて適宜選択されることが好ましく、たとえばガス発生剤61の燃焼時においてガスの生成速度が時間的に変化する形状を選択するなど、仕様に応じた最適な形状を選択することが好ましい。また、ガス発生剤61の形状の他にもガス発生剤61の線燃焼速度、圧力指数などを考慮に入れて成形体のサイズや充填量を適宜選択することが好ましい。
【0059】
フィルタ90は、たとえばステンレス鋼や鉄鋼等の金属線材を巻き回して焼結したものや、金属線材を編み込んだ網材をプレス加工することによって押し固めたもの、あるいは孔あき金属板を巻き回したもの等が利用される。ここで、網材としては、具体的にはメリヤス編みの金網や平織りの金網、クリンプ織りの金属線材の集合体等が利用される。また、孔あき金属板としては、たとえば、金属板に千鳥状に切れ目を入れるとともにこれを押し広げて孔を形成して網目状に加工したエキスパンドメタルや、金属板に孔を穿つとともにその際に孔の周縁に生じるバリを潰すことでこれを平坦化したフックメタル等が利用される。この場合において、形成される孔の大きさや形状は、必要に応じて適宜変更が可能であり、同一金属板上において異なる大きさや形状の孔が含まれていてもよい。なお、金属板としては、たとえば鋼板(マイルドスチール)やステンレス鋼板が好適に利用でき、またアルミニウム、銅、チタン、ニッケルまたはこれらの合金等の非鉄金属板を利用することもできる。
【0060】
フィルタ90は、燃焼室60にて発生したガスがこのフィルタ90中を通過する際に、ガスが有する高温の熱を奪い取ることによってガスを冷却する冷却手段として機能するとともに、ガス中に含まれる残渣(スラグ)等を除去する除去手段としても機能する。したがって、ガスを十分に冷却しかつ残渣が外部に放出されないようにするためには、燃焼室60内にて発生したガスが確実にフィルタ90中を通過するようにすることが必要である。なお、フィルタ90は、ハウジングの周壁部を構成する上部側シェル20の周壁部22および下部側シェル10の周壁部12との間で所定の大きさの間隙部25が構成されることとなるように、当該周壁部12、22から離間して配置されている。
【0061】
フィルタ90に対面する部分の上部側シェル20の周壁部22には、ガス噴出口23が複数設けられている。このガス噴出口23は、フィルタ90を通過したガスをハウジングの外部に導出するためのものである。
【0062】
上部側シェル20の周壁部22のフィルタ90側に位置する主面には、上記ガス噴出口23を閉鎖するようにシールテープ24が貼付されている。このシールテープ24としては、片面に粘着部材が塗布されたアルミニウム箔等が利用される。これにより、燃焼室60の気密性が確保されている。
【0063】
燃焼室60のうちの底板部11側に位置する端部には、下部側押さえ部材70が配置されている。下部側押さえ部材70は、全体として環状の形状を有しており、フィルタ90と底板部11との境目部分を覆うように、これらフィルタ90と底板部11とに宛がわれて配置されている。これにより、下部側押さえ部材70は、燃焼室60の上記端部近傍において、底板部11とガス発生剤61との間に位置している。
【0064】
図1及び
図2に示すように、下部側押さえ部材70は、フィルタ90の底板部11側に位置する軸方向端部付近の内周面を覆う筒状の立設部76と、筒状部73と、前記立設部76と前記筒状部73とを接続する接続部74を有している。本実施の形態においては、下部側押さえ部材70において、上述した接続部74は、板ばね部75、第2当接部72とで構成されている。第2当接部72は、下部側シェル10の底板部11の内底面又はカップ状部材50の延設底部54に接触して位置している。筒状部73は、第2当接部72からハウジングの径方向内側に向かって延びて存在しており、縮径している上部及び拡径している下部で構成されている。そのうちの下部がカップ状部材50の側壁部52を囲むように、突状筒部13に沿って位置しており、そのうちの上部がカップ状部材50の側壁部52の外周面を覆うように位置している。
【0065】
尚、本実施の形態においては、接続部74は、板ばね部75と第2当接部72とで構成されているが、弾性変形可能な構成及び第2当接部72を備えていれば、本実施の形態の構造に限定されない。例えば、接続部74は、第2当接部72と、底板部11及び延設底部54から距離をもって存在している非当接面と、第2当接部72と非当接面を連接する連接部とを有していればよい。このような場合、当該連接部が、弾性変形可能である。このような構成は、例えば、ヘアピン形状、板バネ形状、バネ形状等が存在する。
【0066】
また、下部側押さえ部材70の中央部には、点火器40の点火部41が挿通配置された挿通用開口部65が設けられている。
【0067】
ここで、下部側押さえ部材70の筒状部73の下部は、カップ状部材50の側壁部52に圧入されている。これにより、下部側押さえ部材70は、カップ状部材50が圧入固定されている保持部30を介して下部側シェル10に対して相対的に移動不能に固定されている。
【0068】
本実施の形態においては、下部側押さえ部材70の接続部74は、板ばね部75と、第2当接部72とで構成されている。第2当接部72は、底板部11の内底面又はカップ状部材50の延設底部54に接触して位置している。筒状部73は、第2当接部72からハウジングの径方向内側に向かって延びて存在しており、縮径している上部及び拡径している下部で構成されている。筒状部73の下部はカップ状部材50の側壁部52を囲むように、突状筒部13に沿って位置しており、そのうちの上部がカップ状部材50の側壁部52の外周面を覆うように位置している。
【0069】
立設部76は、筒板状の形状を有しており、その外周面がフィルタ90の内周面に覆うように配置されている。第2当接部72は、略環状の形状を有しており、少なくともその周縁部が底板部11又は延設底部54の内面に当接している。板バネ部75は、立設部76の底板部11側の軸方向端部と第2当接部72の周縁部とを接続する接続部74を有しており、立設部76と第2当接部72との間に位置している。なお、立設部76の底板部11側の軸方向端部は、底板部11に非接触となっており、板ばね部75と底板部11の間は下部側間隙部78の空間が存在する。
【0070】
接続部74は、ガス発生剤61に接触している。接続部74を構成する板ばね部75は、底板部11から距離をもって位置しており、第2当接部72の周縁部から立設部76の底板部11側の軸方向端部に向かうにつれて底板部11との間の距離が漸増するように設けられている。これにより、板ばね部75は、全体として底板部11側に向けて凸の中空円錐台状の湾曲板形状を有している。なお、本実施の形態においては、立設部76の底板部11側の軸方向端部と第2当接部72の周縁部とを接続する接続部74の全体が、板ばね部75によって構成されている。
【0071】
板バネ部75は、下部側押さえ部材70の一部を構成しており、前述の通り立設部76と第2当接部72を接続して、逆ハの字状の形状となっている。
【0072】
図1に示すように、第2当接部72および板ばね部75の上方に存在する燃焼室60には、複数の粒状成形体からなるガス発生剤61が収容されている。これにより、燃焼室60に装填されたガス発生剤61の底板部11側の薬剤面(複数の粒状成形体からなるガス発生剤61が集まることで形成されるガス発生剤群のおおよその外形面)は、第2当接部72および板ばね部75に沿った山なりの形状を有しており、当該薬剤面の天板部21からの高さは、燃焼室60の外周部において低く、燃焼室60の中央部において高い、ハの字状の形状でもよい。
【0073】
下部側押さえ部材70の接続部74はカップ状部材50の延設底部54上に重ね合わされるとともに、接続部74は内周面の径方向外側に向かうにつれて天板部側の方向への傾斜部を有し、カップ状部材50が下部側押さえ部材70に固定されている。
【0074】
下部側押さえ部材70はフィルタ90の底板部11側の部分に内挿されており、フィルタ90と底板部11との境目部分を覆うように、これらフィルタ90と底板部11とに宛がわれて配置されている。これにより、下部側押さえ部材70は、燃焼室60の上記端部近傍において、底板部11とガス発生剤61との間に位置している。
【0075】
下部側押さえ部材70は、主として、非作動時において、粒状の成型体からなるガス発生剤61の天板部21側に向けて弾性付勢しつつ復元力を保持することにより、ガス発生剤61が破砕することを防止するための破砕防止部材として機能するとともに、作動時において、燃焼室60にて発生したガスが、フィルタ90の下端と底板部11との間の隙間からフィルタ90の内部に経由することなく流出してしまうことを防止するための遮蔽部材として機能する。即ち、当該下部側押さえ部材70は、作動時において、燃焼室60にて発生したガスが、フィルタ90の下端と底板部11との間の隙間からフィルタ90の内部を経由することなく流出してしまうことを防止するための流出防止手段として機能する。
【0076】
作動時において、燃焼室60にて発生したガスにより、燃焼室60内の圧力が高まるにつれ、下部側押さえ部材70の接続部74に加わる弾性付勢の力Aが強くなる。弾性付勢の力Aが強くなるにつれ、立設部76はフィルタ90の内周面に当接することでフィルタ90の下端と底板部11との間の隙間からフィルタ90の内部を経由することなく流出してしまうことを防止する。
【0077】
下部側押さえ部材70は、たとえば金属製の板状部材をプレス加工等することによって形成されたものであり、好適には普通鋼や特殊鋼等の鋼板(たとえば、冷間圧延鋼板やステンレス鋼板等)からなる部材にて構成される。
【0078】
そのため、下部側押さえ部材70は、カップ状部材50に比べて十分に機械的強度が高い部材にて構成されていることになり、当該下部側押さえ部材70の保持部30への圧入の際に、これが座屈するといったおそれはない。
【0079】
図1に示すように、下部側シェル10を覆うように上部側シェル20が組付けられて、これが下部側シェル10に接合されることにより、
図2に示すように、ガス発生剤61を介して底板部11側の板ばね部75に加えられた力Aの一部は、接続部74である板ばね部75を介して立設部76に伝達され、当該立設部76をフィルタ90の内周面に向けて弾性付勢する付勢力A1となる。一方で、上述の通り底板部11から第2当接部72に加えられた力Aの残る一部のA2は、立設部76がフィルタ90に当接することなく、その行き場を失い、板ばね部75を底板部11側に向けて弾性変形させる力となる。これにより、板ばね部75が上記の如くの湾曲した形状に弾性変形することになり、その復元力がガス発生剤61を中央部側および燃焼室60の天板部21側に向けて弾性付勢する付勢力B2として作用することになる。
【0080】
そのため、下部側押さえ部材70は、その立設部76がフィルタ90の内周面に所定の付勢力A1をもって弾性付勢された状態で接触配置されることになるとともに、その板ばね部75がガス発生剤61に所定の付勢力A2をもって弾性付勢された状態で接触配置されることになる。したがって、燃焼室60に装填された複数の粒状成形体からなるガス発生剤61は、下部側押さえ部材70によって主として底板部11側に向けて弾性付勢された状態で保持されることになり、非作動時におけるガス発生剤61の破砕が未然に防止できることになる。さらに、作動時におけるガス発生により、燃焼室60内の圧力が高まるにつれ、弾性付勢する付勢力A1及びA2の力が増すことになる。このため、下部側押さえ部材70とフィルタ90の第1当接部71と下部側押さえ部材70と底板部11の第2当接部72は強固に固定されることで、フィルタ90の内部に経由することなく流出してしまうことを防止する。
【0081】
上述したように、本実施の形態においては、下部側押さえ部材70として金属製の板状部材に曲げ加工を施すことで形成された成形品を用いている。これにより、下部側押さえ部材70は、適度な弾性を有することになり、上述した付勢力B2の大きさは、当該下部側押さえ部材70の非組付状態における形状や、当該下部側押さえ部材70の非組付状態における寸法と当該下部側押さえ部材70が内挿されるフィルタ90の寸法との相対的な関係等によって主として決まることになる。
【0082】
図1に示すように、燃焼室60のうち、天板部21側に位置する端部には、上部側フィルタ支持部材80が配置されている。上部側フィルタ支持部材80は、略円盤状の形状を有しており、フィルタ90の天板部21側に位置する軸方向端部の内周面に当接する筒状の第3当接部81と、当該第3当接部81から内側に向けて延設された円盤状の第4当接部82とを有している。
【0083】
上部側フィルタ支持部材80は、フィルタ90と天板部21との境目部分を覆うようにこれらフィルタ90と天板部21とに宛がわれて配置されている。これにより、上部側フィルタ支持部材80は、燃焼室60の上記端部近傍において、天板部21とガス発生剤61との間に位置している。
【0084】
当該上部側フィルタ支持部材80は、作動時において、燃焼室60にて発生したガスが、フィルタ90の上端と天板部21との間の隙間からフィルタ90の内部を経由することなく流出してしまうことを防止するための流出防止手段として機能する。上部側フィルタ支持部材80は、下部側押さえ部材70と同様に、たとえば金属製の板状部材をプレス加工等することによって形成されたものであり、好適には普通鋼や特殊鋼等の鋼板(たとえば、冷間圧延鋼板やステンレス鋼板等)からなる部材にて構成される。
【0085】
(実施形態2)
図3は、本発明の実施の形態2におけるガス発生器1Bの概略断面図である。
図4は、
図3に示すガス発生器1Bの要部拡大断面
図IIであり、
図5は
図3に示す下部側押さえ部材の非組付状態における一部破断側面図である。まず、これら
図3ないし
図4を参照して、本実施の形態2におけるガス発生器1Bの構成について説明する。
【0086】
図3及び
図4に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Bは、実施の形態1におけるガス発生器1Aと比較した場合に、下部側押さえ部材70の構造が相違している。
【0087】
図4に示すように、下部側押さえ部材70は金属製の板状部材に曲げ加工が施されることにより、下部側押さえ部材70は、フィルタ90の内周面に当接する第1当接部71と、底板部11又は延設底部54に当接する第2当接部72と、これら第1当接部71および第2当接部72を接続する接続部74とを形成することとなる。
【0088】
下部側押さえ部材70は、フィルタ90の底板部11側に位置する軸方向端部付近の内周面に当接する筒状の第1当接部71と、筒状部73と、前記第1当接部71と前記筒状部73とを接続する接続部74を有している。
【0089】
図3に示すように、下部側シェル10を覆うように上部側シェル20が組付けられて、これが下部側シェル10に接合されることにより、
図4に示すように、ガス発生剤61を介して底板部11側の板ばね部75に加えられた力Aの一部は、接続部74である板ばね部75を介して第1当接部71に伝達され、当該第1当接部71をフィルタ90の内周面に向けて弾性付勢する付勢力A1となる。一方で、上述の通り底板部11から第2当接部72に加えられた力Aの残る一部のA2は、第1当接部71がフィルタ90に当接することでその行き場を失い、接続部74である板ばね部75を底板部11側に向けて弾性変形させる力となる。これにより、板ばね部75が上記の如くの湾曲した形状に弾性変形することになり、その復元力がガス発生剤61を中央部側に向けて弾性付勢する付勢力B1として作用しつつ、および燃焼室60の天板部21側に向けて弾性付勢する付勢力B2として作用することになる。
【0090】
そのため、下部側押さえ部材70は、その第1当接部71がフィルタ90の内周面に所定の付勢力A1をもって弾性付勢された状態で接触配置されることになるとともに、その板ばね部75がガス発生剤61に所定の付勢力A2をもって弾性付勢された状態で接触配置されることになる。したがって、燃焼室60に装填された複数の粒状成形体からなるガス発生剤61は、下部側押さえ部材70によって主として底板部11側に向けて弾性付勢された状態で保持されることになり、非作動時におけるガス発生剤61の破砕が未然に防止できることになる。さらに、作動時におけるガス発生により、燃焼室60内の圧力が高まるにつれ、弾性付勢する付勢力A1及びA2の力が増すことになる。このため、下部側押さえ部材70とフィルタ90の第1当接部71と下部側押さえ部材70と底板部11の第2当接部72は強固に固定されることで、フィルタ90の内部に経由することなく流出してしまうことを防止する。
【0091】
上述したように、本実施の形態においては、下部側押さえ部材70として金属製の板状部材に曲げ加工を施すことで形成された成形品を用いている。これにより、下部側押さえ部材70は、適度な弾性を有することになり、上述した付勢力B1,B2の大きさは、当該下部側押さえ部材70の非組付状態における形状や、当該下部側押さえ部材70の非組付状態における寸法と当該下部側押さえ部材70が内挿されるフィルタ90の寸法との相対的な関係等によって主として決まることになる。
【0092】
図5に示すように、下部側押さえ部材70は、非組付状態において、その第1当接部71が筒板状の形状を有しており、その第2当接部72が環状の形状を有しており、その接続部74である板ばね部75が、第1当接部71の軸方向端部から第2当接部72側に向けて凸の中空円錐台状の湾曲板形状を有している。
【0093】
ここで、第2当接部72は、下部側押さえ部材70の軸方向に沿って、板ばね部75が接続された方の第1当接部71の軸方向端部よりもさらに外側に位置するように突出して設けられており、第2当接部72に接続する部分の板ばね部75も当該第1当接部71の軸方向端部よりも底板部11側に位置している。
【0094】
一方、第1当接部71は、板ばね部75に連続する方の軸方向端部寄りの部分に位置しかつ径が一様な円筒部76aと、当該軸方向端部とは反対側に位置する軸方向端部寄りの部分に位置しかつ先端側に向かうにつれて拡径した拡径筒部76bとを含んでいる。ここで、円筒部76aの外径は、フィルタ90の内径と同じかそれよりも僅かに小さい大きさとされており、拡径筒部76bの最大外径は、フィルタ90の内径よりも僅かに大きい大きさとされている。
【0095】
これにより、後述する下部側押さえ部材70のフィルタ90への組付けの際に、第1当接部71の外周面がフィルタ90の内周面に確実に当接するとともに、第2当接部72が底板部11によって押し込まれることで当該第2当接部72に加えられる力A2が十分に第1当接部71と板ばね部75とに印加され力A1になり、上述した付勢力B1,B2が適度に得られることになる。
【0096】
したがって、
図5に示す如くの非組付状態における構造を有する下部側押さえ部材70を用いることにより、
図3および
図4において示した下部側押さえ部材70の組付構造を実現することができる。
【0097】
このように、本実施の形態におけるガス発生器1Bにおいては、カップ状部材50の延設底部54が下部側押さえ部材70の接続部74を構成する第2当接部72と、底板部11とで重ね合わされるとともに、カップ状部材50が下部側押さえ部材70に対して固定されている。そして、上述したように、カップ状部材50は、下部側シェル10にインサート成形によって一体化された保持部30の突出部としての内側被覆部31を介して下部側シェル10に固定されているため、結果として、カップ状部材50は、下部側押さえ部材70および保持部30を介してハウジングに対して相対的に移動不能に固定されることになる。なお、第2当接部72は延設底部54を介して底板部11に重ね合わされている必要はなく、直接、第2当接部72と底板部11が接触してもよい。
【0098】
次に、
図3を参照して、上述した本実施の形態におけるガス発生器の動作について説明する。
【0099】
本実施の形態におけるガス発生器が搭載された車両が衝突した場合には、車両に別途設けられた衝突検知手段によって衝突が検知され、これに基づいて車両に別途設けられたコントロールユニットからの通電によって点火器40が作動する。伝火室56に収容された伝火薬57は、点火器40が作動することによって生じた火炎によって点火されて燃焼し、多量の熱粒子を発生させる。この伝火薬57の燃焼によってカップ状部材50は破裂または溶融し、上述の熱粒子が燃焼室60へと流れ込む。
【0100】
流れ込んだ熱粒子により、燃焼室60に収容されたガス発生剤61が着火されて燃焼し、多量のガスを発生させる。燃焼室60にて発生したガスは、フィルタ90の内部を通過し、その際、フィルタ90によって熱が奪われて冷却されるとともに、ガス中に含まれる残渣がフィルタ90によって除去されて間隙部25に流れ込む。
【0101】
ハウジングの内部の空間の圧力上昇に伴い、上部側シェル20に設けられたガス噴出口23を閉鎖していたシールテープ24が開裂し、当該ガス噴出口23を介してガスがハウジングの外部へと噴出される。噴出されたガスは、ガス発生器に隣接して設けられたエアバッグの内部に導入され、エアバッグを膨張および展開する。
【0102】
図6~
図10は、本実施の形態2におけるガス発生器1Bの組立手順を説明するための模式断面図である。次に、
図6~
図10を参照して、本実施の形態2におけるガス発生器1Bの組立手順について説明する。
【0103】
ガス発生器1Bの組立に際しては、予めプレス成形することで製作された下部側シェル10と、予め製作された点火器40とがインサート成形用の型にセットされ、この状態においてインサート成形が行なわれることで下部側シェル10の底板部11に樹脂成形部としての保持部30が形成され、これにより点火器40が下部側シェル10の突状筒部13に固定される。
【0104】
次に、
図6に示すように、治具100で位置決めされた状態で、予めプレス成形で製造されたカップ状部材50の内部に所定量の伝火薬57が充填された状態とし、下部側押さえ部材70が固定された状態にある下部側シェル10の突状筒部13近傍の部分が、カップ状部材50の開口端側から当該カップ状部材50の内部に沿って挿入される。ここで、当該挿入作業は、伝火薬57がカップ状部材50から零れ落ちることを防止するために、カップ状部材50および下部側シェル10のいずれもがその天地が逆とされた状態で行なわれる。
【0105】
次に、予めプレス成形で製作された下部側押さえ部材70が、点火器40にカップ状部材50が組付けられた状態にある下部側シェル10に挿入される。その際、下部側押さえ部材70の先端部は天板部側へ反り曲がっている。
【0106】
予め製作されたフィルタ90が下部側シェル10に対して組付けられる。より詳細には、フィルタ90が、その内周面が下部側押さえ部材70の第1当接部71の外周面に当接するように外挿される。これにより、フィルタ90が、下部側押さえ部材70によって支持されることになり、フィルタ90が下部側シェル10に組付けられることになる。カップ状部材50の延設底部54が下部側押さえ部材70の第2当接部72に当接した状態とされる。
【0107】
次に、
図7に示すように、カップ状部材50、下部側押さえ部材70、上部側フィルタ支持部材80及びフィルタ90によって規定される空間であってかつ下部側押さえ部材70上に位置する空間にガス発生剤61が所定量充填される。
【0108】
次に、
図8に示すように、治具100で位置決めされた状態で、上部側フィルタ支持部材80がフィルタ90に対して組付けられる。より詳細には、上部側フィルタ支持部材80が、フィルタ90の内周面に挿入される。
【0109】
次に、
図9に示すように、治具100が取り除かれ、下部側シェル10を覆うように上部側シェル20が組付けられて、これが下部側シェル10に接合されることにより、
図10に示すように、ガス発生器1Bの製造が完了する。その際、下部側押さえ部材70が上部側シェル20の圧入により、押さえつけられることで、下部側押さえ部材70の弾性付勢の力Aが働き、薬容量が増しつつ、復元力の力Bが付与され、ガス発生剤61が抑えつけられる。
【0110】
以上において説明したように、本実施の形態におけるガス発生器1Bとすることにより、カップ状部材50が下部側シェル10に対して確実に固定されることになるとともに、簡便な組付作業で容易にカップ状部材50を下部側シェル10に対して固定することが可能になる。
【0111】
ここで、本実施の形態におけるガス発生器1A、1B、および後述する1C、1Dにおいては、比較的機械的強度が低く脆弱な部材であるエンハンサカップをカップ状部材50として用いた場合にも、これを保持部30等に圧入する必要がないため、カップ状部材50としてのエンハンサカップの外形寸法を必要以上に厳格に管理することが不要になり、この点において製造コストが大幅に削減できることになる。また、カップ状部材50としてのエンハンサカップを保持部30等に圧入する必要がないため、その座屈等の問題が発生することもない。
【0112】
さらには、本実施の形態におけるガス発生器1A~1Dにおいては、かしめ用の鍔部を下部側シェル10に設ける必要もないため、当該鍔部を形成するための切削加工等も一切不要であり、この点においても製造コストが大幅に削減できることになる。
【0113】
また、本実施の形態におけるガス発生器1A~1Dとすることにより、上述したように樹脂成形部からなる保持部30のハウジングの内部における露出表面が、下部側押さえ部材70によって囲われた構成とすることができる。当該構成を採用することにより、作動時において当該樹脂形成部からなる保持部30が火炎に晒されることが回避できることになるため、一酸化炭素等の有害なガス成分が生成されることを大幅に抑制できる効果も得られる。
【0114】
したがって、本実施の形態におけるガス発生器1A~1Dとすることにより、製造コストが削減されるばかりでなく、より高性能のガス発生器とすることもできる。
【0115】
(実施形態3)
図11は、本発明の実施の形態3におけるガス発生器1Cの概略図である。
図11を参照して、本実施の形態3におけるガス発生器1Cの構成について説明する。
【0116】
図11に示すように、本実施の形態3におけるガス発生器1Cは、上述した実施の形態2におけるガス発生器1Bと比較した場合に、上部側フィルタ支持部材80とは異なる構造の上部側押さえ部材80aを具備している点において相違している。
【0117】
具体的には、上部側押さえ部材80aにあっては、カップ状部85、カップ状部85の上端部であって上部側シェル21と接触する部位の第4当接部82、カップ状部85の径方向端部であってフィルタと接触する部位の第4当接部82、及び第4当接部82と第3当接部81を接続する接続部83を有している。ここで、前記接続部83が、第3当接部81の周縁部から外側に向けて延びる板ばね部84となっている。
【0118】
これにより、前記カップ状部85の底面にガス発生剤61が接触するようにガス発生剤61が充填されるため、インフレータの組立時に治具100が不要になる。ここで、ガス発生剤61がフィルタ90上端以下になるように充填し、上部側押さえ部材80aの一部がフィルタ90上端から挿入される。
【0119】
本実施の形態3におけるガス発生器1Cの上部側押さえ部材80aは、カップ状部85の側壁部と前記第4当接部82と、前記接続部83とでヘアピン状の形状を有している。このように、第4当接部82とカップ状部85の底板部11にあたる円板部との間には上部側間隙部86の空隙があり、弾性形状を備えさせることで、ガス発生剤61を上部側押さえ部材80aによって付勢させて保持することができる。
【0120】
(実施形態4)
図12は、本発明の実施の形態4におけるガス発生器1Dの概略図である。
図12を参照して、本実施の形態4におけるガス発生器1Dの構成について説明する。
【0121】
図12に示すように、本実施の形態4におけるガス発生器1Dは、上述した実施の形態1におけるガス発生器1Aと比較した場合に、カップ状部材50とは異なる構造を具備している点において相違している。
【0122】
具体的には、カップ状部材50にあっては、筒状部53、延設底部54、先端部55がなく、側壁部52が軸方向底板部11側へ延設し、先端部はフランジ部58を有し、内側被膜部31を覆っている。フランジ部58は周縁部から外側に向けて延びている。カップ状部材50は内側被膜部31に圧入固定している。
【0123】
これにより、カップ状部材50は下部側押さえ部材70と底板部11に挟み込まずに固定されているため、ガス発生剤61を充填する燃焼室60の空間容積が増し、多量のガス発生剤61を充填することができる。
【0124】
(第1変形例)
図13は、第1変形例に係る下部側押さえ部材の平面図である。また、
図14は、第1変形例に係る下部側押さえ部材の平面図の断面図である。
図13及び
図14を参照して、第1変形例における下部側押さえ部材70の構成について説明する。
【0125】
図13に示すように、第1変形例に係る下部側フィルタ支持部材70は、切り起こし部72aの形状において、上述した実施形態1のガス発生器1Aに係る下部側フィルタ支持部材70と相違している。具体的には、第1変形例においては、切り起こし部72aが第2当接部72の周方向に沿って等間隔に12個設けられており、その各々が略台形状の舌片にて構成されている。即ち、本第1変形例においては、第2当接部72が複数の舌片状底部として存在している。そして、
図14に示すように、当該第1当接部71と第2当接部72との接続部74は、筒状部から延びる環状板部77、環状板部77に形成された切り起こし部72a、環状板部77の径方向外側端面から立設された立設部76によって構成されている。なお、立設部76はフィルタ90の内周面との第1当接部71と当接する必要はなく、適宜選択できる。
【0126】
この場合には、
図14に示すように、下部側押さえ部材70の一部を切り起こすことで、上部側シェル20の圧入時に切り起こして生じた空間を弾性変形させることで下部側間隙部78の空隙を埋めることになる。切り起こし部72aの反力によりガス発生剤61は弾性付勢の復元力が作用する。切り起こし部72aの大きさはガス発生剤61の直径よりも小さいことが好ましく、これにより、ガス発生剤61が下部側間隙部78の空間への流入を防ぐことができ、接続部74の弾性付与の妨げにならないように構成される。
【0127】
本第1変形例においては、切り起こし部72aが環状板部77の周方向に沿って等間隔に12個設けられている構成としているが、切り起こし部72aは何個存在していてもよく、また、どのような配置であっても構わない。ここで、切り起こし部72aは周方向に沿って等間隔で設けられていることが好ましいが、これに限られない。
【0128】
本第1変形例においては、切り起こし部72aが舌片で構成されているが、当該形状に限られない。例えば、矩形、円形、台形等の形状によって構成されていても構わない。
【0129】
(第2変形例)
図15は、第2変形例に係る下部側押さえ部材の平面図である。また、
図16は、第2変形例に係る下部側押さえ部材の断面図である。
図15及び
図16を参照して、第2変形例に係る下部側押さえ部材70の構成について説明する。
【0130】
図15に示すように、第2変形例に係る下部側フィルタ支持部材70は、接続部74の形状において、上述した実施形態1のガス発生器1Aに係る下部側フィルタ支持部材70と相違している。具体的には、第2変形例においては、接続部74には突起部72bが存在し、当該突起部72bが環状板部77の周方向に沿って等間隔に12個設けられており、その各々が椀状にて構成されている。即ち、本第2変形例の形態においては、第2当接部72が椀状の底部として、底板部11と接触して存在している。そして、
図16に示すように、当該第1当接部71と第2当接部72との接続部74は、筒状部から延びる環状板部77、環状板部77に形成された椀状の突起部72b、環状板部77の径方向外側端面から立設された立設部76によって構成されている。なお、立設部76はフィルタ90の内周面との第1当接部71と当接する必要はなく、適宜選択できる。
【0131】
この場合には、
図16に示すように、下部側フィルタ支持部材70の一部に突起部72bを設けることで、上部側シェル20の圧入時に突起部72bを変形させ、突起部72bが潰れることで下部側間隙部78の空隙を埋めることになる。突起部72bの反力によりガス発生剤61は弾性付勢の復元力Bが作用する。
【0132】
本第2変形例においては、突起部72bが環状板部77の周方向に沿って等間隔に12個設けられている構成としているが、突起部72bは何個存在していてもよく、またどのような配置であっても構わない。ここで、突起部72bは周方向に沿って等間隔で設けられていることが好ましいが、これに限られない。
【0133】
本第2変形例においては、突起部72bが椀状で構成されているが、当該形状に限られない。例えば、多角柱状、多角錐状、円柱状、円錐状等の形状によって構成されていても構わない。
【0134】
上述した第1ないし第2変形例の如くの構成を採用した場合にも、上述した実施の形態において説明した効果と同様の効果が得られることになる。
【0135】
このように、上述した実施の形態において説明した係止部の形状やその向き、あるいは数、大きさ、形成位置等は、当該係止部によってカップ状部材が係止される限りにおいては、種々その変更が可能である。また、当該係止部によって係止される部分のカップ状部材の形状等も、当該係止部によってカップ状部材が係止される限りにおいては、種々その変更が可能である。
【0136】
また、上述した実施の形態およびその変形例においては、下部側押さえ部材70を保持部30に圧入することにより、当該保持部30を介してこれを下部側シェル10に対して相対的に移動不能に固定した場合を例示して説明を行なったが、下部側押さえ部材70を下部側シェル10の突状筒部13に圧入することにより、これを下部側シェル10に対して相対的に移動不能に固定してもよいし、下部側押さえ部材70の所定位置を下部側シェル10に溶接することにより、これを下部側シェル10に対して相対的に移動不能に固定してもよい。また、保持部30のインサート成形の際に、下部側シェル10のみならず下部側押さえ部材70にもこれが固着するように一体的に成形してもよい。このように、下部側押さえ部材70の下部側シェルに対する固定には、種々の方法を採用することができる。
【0137】
また、上述した実施の形態およびその変形例においては、下部側押さえ部材70の接続部74によって、保持部30のハウジングの内部における露出表面がすべて覆われるように構成した場合を例示して説明を行なったが、必ずしもそのように構成する必要はない。
【0138】
また、上述した実施の形態およびその変形例においては、金属製の部材をプレス加工することによって成形されたプレス成形品にて下部側シェル10および上部側シェル20を構成した場合を例示したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、プレス加工と他の加工(鍛造加工や絞り加工、切削加工等)との組み合わせによって形成された下部側シェル10および上部側シェル20を使用することとしてもよいし、上記他の加工のみによって形成された下部側シェル10および上部側シェル20を使用することとしてもよい。
【0139】
また、上述した実施の形態およびその変形例において示した各部の形状等についても、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当然に適宜その変更が可能である。
【0140】
このように、今回開示した上記実施の形態およびその変形例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0141】
1A,1B,1C,1D ガス発生器、10 下部側シェル、11 底板部、12 周壁部、13 突状筒部、14 窪み部、15 開口部、20 上部側シェル、21 天板部、22 周壁部、23 ガス噴出口、24 シールテープ、25 間隙部、30 保持部、31 内側被覆部、32 外側被覆部、33 連結部、34 雌型コネクタ部、40 点火器、41 点火部、42 端子ピン、50 カップ状部材、51 頂壁部、52 側壁部、53 筒状部、54 延設底部、55 先端部、56 伝火室、57 伝火薬、58 フランジ部、60 燃焼室、61 ガス発生剤、65 挿通用開口部、70 下部側押さえ部材、71 第1当接部、72 第2当接部、72a 切り起こし部、72b 突起部、73 筒状部、74 接続部、75 板ばね部、76 立設部、76a 円筒部、76b 拡径筒部、77 環状板部、78 下部側間隙部、80 上部側フィルタ支持部材、80a 上部側押さえ部材、81 第3当接部、82 第4当接部、83 接続部、84 板ばね部、85 カップ状部、86 上部側間隙部、90 フィルタ、100 治具