IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電子株式会社の特許一覧

特許7346333磁界レンズの制御方法および荷電粒子線装置
<>
  • 特許-磁界レンズの制御方法および荷電粒子線装置 図1
  • 特許-磁界レンズの制御方法および荷電粒子線装置 図2
  • 特許-磁界レンズの制御方法および荷電粒子線装置 図3
  • 特許-磁界レンズの制御方法および荷電粒子線装置 図4
  • 特許-磁界レンズの制御方法および荷電粒子線装置 図5
  • 特許-磁界レンズの制御方法および荷電粒子線装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】磁界レンズの制御方法および荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/141 20060101AFI20230911BHJP
   H01J 37/21 20060101ALI20230911BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
H01J37/141 Z
H01J37/21 B
H01L21/30 541A
H01L21/30 541F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020040661
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021144789
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】三島 了太
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-181786(JP,A)
【文献】特開平6-215714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界レンズの制御方法であって、
前記磁界レンズの励磁電流と前記磁界レンズの焦点距離との関係を表す関係式を用いて、前記磁界レンズを所定の焦点距離とする前記磁界レンズの励磁電流を算出する工程と、
算出された前記磁界レンズの励磁電流を、前記磁界レンズの加工誤差に基づき補正することによって、前記磁界レンズの焦点距離のずれを補正する工程と、
補正された前記磁界レンズの励磁電流を、前記磁界レンズに供給する工程と、
を含む、磁界レンズの制御方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記磁界レンズの焦点距離のずれを補正する工程では、次式を用いて、前記磁界レンズの励磁電流を補正する、磁界レンズの制御方法。
【数14】
ただし、sは前記関係式で用いた前記磁界レンズのレンズギャップであり、bは前記磁界レンズの上極のボア半径と下極のボア半径の和であり、δは前記磁界レンズの加工誤差であり、AおよびBは前記磁界レンズに固有の定数であり、Vは加速電圧であり、Eは前記関係式で算出された前記磁界レンズの励磁であり、Eは補正された前記磁界レンズの励磁である。
【請求項3】
請求項2において、
前記磁界レンズの加工誤差δは、次式で表される、磁界レンズの制御方法。
【数15】
ただし、fは、励磁Eにおける前記磁界レンズの焦点距離である。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記磁界レンズの焦点距離のずれを補正する工程では、
算出された前記磁界レンズの励磁電流を、前記磁界レンズの加工誤差および加速電圧の誤差に基づき補正することによって、前記磁界レンズの焦点距離のずれを補正する、磁界レンズの制御方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記磁界レンズの焦点距離のずれを補正する工程では、次式を用いて、前記磁界レンズの励磁電流を補正する、磁界レンズの制御方法。
【数16】
ただし、sは前記関係式で用いた前記磁界レンズのレンズギャップであり、bは前記磁界レンズの上極のボア半径と下極のボア半径の和であり、δは前記磁界レンズの加工誤差であり、AおよびBは前記磁界レンズに固有の定数であり、Vr1は前記関係式で用いた加速電圧であり、Vr2は誤差を含んだ加速電圧であり、Eは前記関係式で算出された前記磁界レンズの励磁であり、Eは補正された前記磁界レンズの励磁である。
【請求項6】
磁界レンズと、
前記磁界レンズを制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、
前記磁界レンズの励磁電流と前記磁界レンズの焦点距離との関係を表す関係式を用いて、前記磁界レンズを所定の焦点距離とする前記磁界レンズの励磁電流を算出する処理と、
算出された前記磁界レンズの励磁電流を、前記磁界レンズの加工誤差に基づき補正することによって、前記磁界レンズの焦点距離のずれを補正する処理と、
補正された前記磁界レンズの励磁電流を、前記磁界レンズに供給する処理と、
を行う、荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項6において、
荷電粒子線源と、
前記荷電粒子線源に、荷電粒子線を加速させるための加速電圧を供給する電源と、
を含み、
前記磁界レンズの焦点距離のずれを補正する処理では、
算出された前記磁界レンズの励磁電流を、前記磁界レンズの加工誤差および前記加速電圧の誤差に基づき補正することによって、前記磁界レンズの焦点距離のずれを補正する、荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界レンズの制御方法および荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡などの荷電粒子線装置では、磁界レンズが用いられる。磁界レンズを制御するためには、あらかじめ磁界シミュレーションや光学シミュレーションを行い、焦点距離と励磁電流の関係や、収差係数など、磁界レンズの種々の光学特性を把握しておく必要がある。
【0003】
磁界レンズの磁界発生源としては、一般的に、電流によって磁界を励起する電磁石が用いられる。そのため、磁界レンズが発生させる磁界の強度は、磁界レンズに供給される電流、すなわち励磁電流によって制御される(例えば、特許文献1参照)。電子顕微鏡では、磁界シミュレーションや光学シミュレーションで得られた結果に基づいて観察条件に応じた励磁電流を決定し、磁界レンズを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-65484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁界レンズの種々の光学特性を把握するための磁界シミュレーションや光学シミュレーションを行う場合、磁界シミュレーションでは、磁界レンズを構成する磁極の形状が理想的な形状と見なして計算が行われ、光学シミュレーションでは、理想的な磁界分布が得られるものと仮定して計算が行われる。
【0006】
しかしながら、実際の磁界レンズの形状は、加工誤差を含む。そのため、例えば、シミュレーションで得られた磁界レンズの励磁電流と焦点距離の関係と、実際の装置における磁界レンズの励磁電流と焦点距離の関係には、違いが生じてしまう。この場合、焦点距離を高い精度で制御できない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る磁界レンズの制御方法の一態様は、
磁界レンズの制御方法であって、
前記磁界レンズの励磁電流と前記磁界レンズの焦点距離との関係を表す関係式を用いて、前記磁界レンズを所定の焦点距離とする前記磁界レンズの励磁電流を算出する工程と、
算出された前記磁界レンズの励磁電流を、前記磁界レンズの加工誤差に基づき補正することによって、前記磁界レンズの焦点距離のずれを補正する工程と、
補正された前記磁界レンズの励磁電流を、前記磁界レンズに供給する工程と、
を含む。
【0008】
このような磁界レンズの制御方法では、加工誤差を含まない関係式を用いて算出された励磁電流を、加工誤差に基づき補正することによって、加工誤差に由来する磁界レンズの焦点距離のずれを補正できる。したがって、このような磁界レンズの制御方法では、磁界レンズの焦点距離を高い精度で制御できる。
【0009】
本発明に係る荷電粒子線装置の一態様は、
磁界レンズと、
前記磁界レンズを制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、
前記磁界レンズの励磁電流と前記磁界レンズの焦点距離との関係を表す関係式を用いて、前記磁界レンズを所定の焦点距離とする前記磁界レンズの励磁電流を算出する処理と、
算出された前記磁界レンズの励磁電流を、前記磁界レンズの加工誤差に基づき補正することによって、前記磁界レンズの焦点距離のずれを補正する処理と、
補正された前記磁界レンズの励磁電流を、前記磁界レンズに供給する処理と、
を行う。
【0010】
このような荷電粒子線装置では、加工誤差を含まない関係式を用いて算出された励磁電流を、加工誤差に基づき補正することによって、加工誤差に由来する磁界レンズの焦点距離のずれを補正できる。したがって、このような荷電粒子線装置では、磁界レンズの焦点距離を高い精度で制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
図2】磁界レンズを模式的に示す図。
図3】光源、磁界レンズ、および試料の位置関係を示す図。
図4】制御部の処理の一例を示すフローチャート。
図5】光源、集束レンズ、対物レンズ、および試料の位置関係を示す図。
図6】制御部の処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0013】
以下では、本発明に係る荷電粒子線装置として、電子顕微鏡を例に挙げて説明するが、本発明に係る荷電粒子線装置は、電子顕微鏡に限定されない。
【0014】
1. 第1実施形態
1.1. 電子顕微鏡
まず、第1実施形態に係る電子顕微鏡について説明する。図1は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成を示す図である。
【0015】
電子顕微鏡100は、走査電子顕微鏡である。電子顕微鏡100は、図1に示すように、電子銃10(荷電粒子線源の一例)と、高圧電源12と、集束レンズ20と、偏向器30と、対物レンズ40と、試料ステージ50と、電子検出器60と、制御部70と、を含む。
【0016】
電子銃10は、電子線(荷電粒子線の一例)を発生させる。電子銃10は、陰極と陽極とを有し、陰極から放出された電子を、陰極と陽極との間に印加された加速電圧により加速し放出する。高圧電源12は、電子銃10に加速電圧を供給する。加速電圧は、電子を加速させるための電圧である。
【0017】
集束レンズ20は、電子銃10から放出された電子線を集束させるためのレンズである。集束レンズ20は、磁界レンズである。集束レンズ20は、コイル22と、ヨーク24と、を有している。集束レンズ20では、コイル22に励磁電流を流して形成された磁界
をヨーク24に閉じ込め、ヨーク24に形成されたレンズギャップ26から、磁界を漏洩させて、光軸L上に磁界をつくる。レンズギャップ26は、ヨーク24に形成された隙間である。
【0018】
偏向器30は、電子線を二次元的に偏向させる。偏向器30によって、電子線を試料S上で走査させることができる。
【0019】
対物レンズ40は、電子線を試料S上で集束させるためのレンズである。集束レンズ20および対物レンズ40で電子線を集束させることによって電子プローブが形成される。対物レンズ40は、磁界レンズである。対物レンズ40は、コイル42と、ヨーク44と、を有している。対物レンズ40では、コイル42に励磁電流を流して形成された磁界をヨーク44に閉じ込め、ヨーク44に形成されたレンズギャップ46から、磁界を漏洩させて、光軸L上に磁界をつくる。
【0020】
電子銃10、集束レンズ20、偏向器30、および対物レンズ40は、光軸Lに沿って配置されている。
【0021】
試料ステージ50は、試料Sを支持している。試料ステージ50上には、試料Sが載置される。試料ステージ50は、試料Sを移動させるための移動機構を備えている。試料ステージ50で試料Sを移動させることにより、試料S上での電子線が照射される位置を移動させることができる。
【0022】
電子検出器60は、電子線が照射されることによって試料Sから放出された電子を検出するための検出器である。偏向器30で電子線(電子プローブ)を試料S上で走査し、電子検出器60で試料Sから放出された電子を検出することによって、走査電子顕微鏡像(SEM像)を取得できる。電子検出器60は、反射電子を検出する反射電子検出器であってもよいし、二次電子を検出する二次電子検出器であってもよい。
【0023】
制御部70は、電子顕微鏡100を構成する各部を制御する。制御部70は、例えば、CPU(Central Processing Unit)および記憶装置(RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)など)を含むコンピューターである。制御部70では、CPUで記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、各種計算処理、各種制御処理を行うことができる。
【0024】
制御部70は、集束レンズ20を制御する。制御部70は、設定された集束レンズ20の焦点距離に基づいて集束レンズ20の励磁電流を算出し、算出された励磁電流を集束レンズ20に供給する。具体的には、制御部70は、集束レンズ20の励磁電流と集束レンズ20の焦点距離との関係を示す関係式を用いて、集束レンズ20を設定された焦点距離としたときの励磁電流を算出する。次に、制御部70は、算出された励磁電流を、集束レンズ20の加工誤差に基づき補正することによって、集束レンズ20の加工誤差に由来する集束レンズ20の焦点距離のずれを補正する。そして、制御部70は、補正された励磁電流を、集束レンズ20に供給する。
【0025】
補正された励磁電流の情報を含む制御データは、制御部70からDAC(digital to analog converter)80に送られて、アナログ信号に変換される。当該アナログ信号はドライバ82に送られ、ドライバ82から集束レンズ20に励磁電流が供給される。
【0026】
制御部70は、対物レンズ40を制御する。制御部70は、設定された対物レンズ40の焦点距離に基づいて対物レンズ40の励磁電流を算出し、算出された励磁電流を対物レンズ40に供給する。具体的には、制御部70は、対物レンズ40の励磁電流と対物レン
ズ40の焦点距離との関係を示す関係式を用いて、対物レンズ40を設定された焦点距離としたときの励磁電流を算出する。次に、制御部70は、算出された励磁電流を、対物レンズ40の加工誤差に基づき補正することによって、対物レンズ40の加工誤差に由来する対物レンズ40の焦点距離のずれを補正する。そして、制御部70は、補正された励磁電流を、対物レンズ40に供給する。
【0027】
補正された励磁電流の情報を含む制御データは、制御部70からDAC90に送られて、アナログ信号に変換される。当該アナログ信号はドライバ92に送られ、ドライバ92から対物レンズ40に励磁電流が供給される。
【0028】
制御部70は、高圧電源12を制御する。制御部70は、ユーザーから入力された加速電圧の値を受け付けると、当該値を設定値として、設定値の情報を含む制御信号を高圧電源12に送る。これにより、設定値に応じた加速電圧が高圧電源12から電子銃10に供給される。
【0029】
1.2. 磁界レンズの制御方法
次に、電子顕微鏡100における磁界レンズの制御方法について説明する。
【0030】
1.2.1. 励磁電流の補正
まず、磁界レンズの励磁電流を補正する手法について説明する。第1実施形態では、理想的なレンズにおける励磁電流と焦点距離との関係を表す関係式で求めた励磁電流を、磁界レンズの加工誤差を考慮した補正式を用いて補正する。以下、この補正式について説明する。
【0031】
図2は、磁界レンズ2を模式的に示す図である。
【0032】
磁界レンズ2は、図2に示すように、コイル4と、ヨーク6と、を有している。磁界レンズ2は、上極2aと、下極2bと、を有している。上極2aと下極2bとは、光軸Lに沿って配置されており、上極2aが電子銃10側に位置している。上極2aと下極2bとの間には、隙間、すなわち、レンズギャップ8が形成されている。
【0033】
磁界レンズ2の焦点距離f[mm]、磁界レンズ2の励磁E[AT]、および相対論補正加速電圧Vr[V]の関係は、次式(1.1)で表される。
【0034】
【数1】
【0035】
なお、sは、磁界レンズ2のレンズギャップ8の大きさである。すなわち、sは、磁界レンズ2の上極2aと下極2bとの間の距離である。raは、磁界レンズ2の上極2aのボア半径である。すなわち、raは、上極2aと光軸Lとの間の距離である。rbは、磁界レンズ2の下極2bのボア半径である。すなわち、rbは、下極2bと光軸Lとの間の距離である。bは、上極2aのボア半径と下極2bのボア半径の和である。A、Bは、磁界レンズ2のレンズ固有の定数である。励磁Eの単位は、アンペア回数(ampere turn)である。すなわち、励磁Eは、コイルの巻回数とコイルに流れる電流のアンペア数との積で表される。
【0036】
加工誤差の無い理想的な磁界レンズ(以下、「理想レンズ」ともいう)では、上記式(1.1)は、次式(1.2)で表される。
【0037】
【数2】
【0038】
なお、sは、理想レンズのレンズギャップの大きさである。bは、理想レンズの上極のボア半径と理想レンズの下極のボア半径の和である。A、Bは、理想レンズのレンズ固有の定数である。Eは、理想レンズの励磁である。
【0039】
加工誤差を含んだ実際の磁界レンズ(以下、「実レンズ」ともいう)では、上記式(1.1)は、次式(1.3)で表される。
【0040】
【数3】
【0041】
なお、sは、実レンズのレンズギャップの大きさである。bは、実レンズの上極のボア半径と実レンズの下極のボア半径の和である。A、Bは、実レンズのレンズ固有の定数である。Eは、実レンズの励磁である。
【0042】
ある加速電圧Vにおいて、理想レンズと実レンズの焦点距離fが等しくなるためには、励磁Eと励磁Eが異なる値となる。
【0043】
式(1.2)と式(1.3)から焦点距離fを消去する。
【0044】
【数4】
【0045】
ここで、sとs、bとbは、加工誤差の差異であるため、AとAは近い値となり、BとBは近い値となる。よって、近似的に、A=A=A、B=B=Bと見做す。また、s+bとs+bの差を、加工誤差δとする。すなわち、加工誤差δは、上極のボア半径と下極のボア半径の和の誤差であり、s+b=s+b+δと表される。このとき、式(1.4)は、次式のように表される。
【0046】
【数5】
【0047】
式(1.4)をEについて解くと次式のように表される。
【0048】
【数6】
【0049】
式(1.6)は、加工誤差を含んだ実レンズが理想レンズと等しい焦点距離を持つための励磁を求めるための補正式である。例えば、所定の焦点距離を得るための理想レンズの励磁Eを式(1.6)に代入することによって、当該所定の焦点距離を得るための実レンズの励磁Eを求めることができる。このように、式(1.6)によって、磁界レンズ2の加工誤差に由来する焦点距離のずれを補正できる励磁電流を求めることができる。
【0050】
1.2.2. 磁界レンズの加工誤差の測定方法
加工誤差を含んだ実レンズに理想レンズと等しい焦点距離を持たせるためには、式(1.6)を用いて励磁Eを計算すればよい。
【0051】
ここで、式(1.6)の右辺において、加工誤差δ以外の変数は、既知または任意に定めることができる。例えば、sおよびbは、設計値であり、既知の値である。また、AおよびBは、理想レンズにおいて光学シミュレーションを行うことで、その値を決定できる。また、励磁Eは、焦点距離fが決まれば、式(1.2)から求めることができる。そのため、式(1.6)において、補正された励磁Eを計算するためには、加工誤差δを知る必要がある。
【0052】
加工誤差δの値を知るためには、3次元測定器などの測定器を用いて、実レンズの寸法を、直接、測定すればよい。しかしながら、実レンズの寸法を正確に測定することは困難である。また、実レンズが装置に組み込まれている場合には、測定がより困難になると考えられる。そのため、実レンズがある焦点距離のときの励磁電流を測定することによって、加工誤差δを求める。
【0053】
式(1.3)のs+bをs+b+δと置き換えて、加工誤差δについて解くと、次式(2.1)のように表される。
【0054】
【数7】
【0055】
式(2.1)から、任意の焦点距離fが実現されているときの励磁Eの値がわかれば、加工誤差δを求めることができる。
【0056】
図3は、光源1、磁界レンズ2、および試料Sの位置関係を示す図である。
【0057】
図3に示すように、光源1と磁界レンズ2(磁界レンズ2の主面)との間の距離Lo、磁界レンズ2(磁界レンズ2の主面)と試料Sとの間の距離Liとすると、焦点距離fは
、次式(2.2)のように表される。
【0058】
【数8】
【0059】
そのため、距離Loおよび距離Liが任意の値をとるように、光源1、磁界レンズ2、および試料Sを配置する。この状態で、試料S上にフォーカスがあうように磁界レンズ2の励磁電流を調整する。このときの、距離Loの値および距離Liの値を式(2.2)に代入することで、焦点距離fを求めることができる。
【0060】
また、このときの磁界レンズ2の励磁電流を測定することで、焦点距離fが実現されているときの励磁Eの値を求めることができる。求めた焦点距離fの値および励磁Eの値を、式(2.1)に代入することで、磁界レンズ2の加工誤差δを求めることができる。
【0061】
例えば、図1に示す対物レンズ40の加工誤差δを求める場合、対物レンズ40以外のレンズの励磁を零とする。すなわち、集束レンズ20の励磁を零とする。そして、対物レンズ40の励磁電流を調整して、試料S上にフォーカスを合わせる。このときの距離Loの値、および距離Liの値を取得して、その値を式(2.2)に代入する。これにより、焦点距離fを求める。また、このときの対物レンズ40の励磁電流を測定し、測定した励磁E、および求めた焦点距離fの値を、式(2.1)に代入する。この結果、対物レンズ40の加工誤差δを求めることができる。
【0062】
なお、集束レンズ20の加工誤差δは、集束レンズ20以外のレンズの励磁、すなわち、対物レンズ40の励磁を零とする点を除いて、上記の対物レンズ40の加工誤差を求める場合と同様に求めることができる。
【0063】
1.3. 処理
次に、制御部70の処理について説明する。ここでは、対物レンズ40を制御する処理について説明する。
【0064】
図4は、制御部70の処理の一例を示すフローチャートである。
【0065】
制御部70は、対物レンズ40の焦点距離を、第1焦点距離(所定の焦点距離)とする指示を受け付けると、対物レンズ40の励磁電流と対物レンズ40の焦点距離との関係を表す関係式を用いて、対物レンズ40を第1焦点距離とする励磁電流を算出する(S10)。
【0066】
前記関係式としては、式(1.2)を用いることができる。式(1.2)の焦点距離fに、第1焦点距離を代入することで、対物レンズ40を第1焦点距離とする励磁Eを算出できる。
【0067】
次に、制御部70は、処理S10で算出された対物レンズ40の励磁Eを対物レンズ40の加工誤差δに基づいて補正する(S12)。
【0068】
励磁電流の補正は、式(1.6)を用いて行われる。式(1.6)の励磁Eに、処理S10で算出された励磁電流の値を代入することで、処理S10で算出された励磁電流を
補正できる。これにより、加工誤差に由来する対物レンズ40の焦点距離のずれを補正できる。なお、式(1.6)のsは、処理S12で用いた式(1.2)のsの値である。また、式(1.6)のbは、処理S12で用いた式(1.2)のbの値である。また、式(1.6)のA,Bは、処理S12で用いた式(1.2)のA,Bの値である。
【0069】
次に、制御部70は、補正された対物レンズ40の励磁電流を対物レンズ40に供給する(S14)。制御部70は、補正された励磁電流の情報を含む制御データを、DAC90に送る。当該制御データは、アナログ信号に変換され、当該アナログ信号はドライバ92に送られ、ドライバ92から対物レンズ40に励磁電流が供給される。これにより、対物レンズ40の焦点距離を、第1焦点距離にすることができる。
【0070】
なお、上記では、対物レンズ40を制御する場合について説明したが、集束レンズ20を制御する場合についても同様であり、その説明を省略する。
【0071】
1.4. 作用効果
電子顕微鏡100では、制御部70は、磁界レンズの励磁電流と磁界レンズの焦点距離との関係を表す関係式を用いて、磁界レンズを所定の焦点距離とする磁界レンズの励磁電流を算出する処理と、算出された磁界レンズの励磁電流を磁界レンズの加工誤差に基づき補正することによって、磁界レンズの焦点距離のずれを補正する処理と、補正された磁界レンズの励磁電流を、磁界レンズに供給する処理と、を行う。
【0072】
このように、電子顕微鏡100では、加工誤差を含まない関係式を用いて算出された励磁電流を、加工誤差に基づき補正することによって、加工誤差に由来する磁界レンズの焦点距離のずれを補正できる。したがって、電子顕微鏡100では、磁界レンズの焦点距離を高い精度で制御できる。
【0073】
ここで、焦点距離は、レンズの光学特性のうち特に重要なものである。焦点距離が精度よく制御できない場合、像の結像位置の制御や、電子線の開き角の制御において、必要な精度が得られないおそれがある。例えば、電子線の開き角の制御において必要な精度が得られない場合、分解能が低下したり、照射電流量のずれが生じたりする。また、個々の電子顕微鏡において、磁界レンズが同じ設計値で製造されているにも関わらず、個々の電子顕微鏡ごとに性能が異なることとなり、品質の安定性が低下する。
【0074】
電子顕微鏡100では、上記のように、加工誤差に由来する磁界レンズの焦点距離のずれを補正できるため、像の結像位置の制御や、電子線の開き角の制御において、高い精度を実現できる。また、電子顕微鏡100では、個々の電子顕微鏡ごとに、磁界レンズの加工誤差δを求めることで、磁界レンズの焦点距離を高い精度で制御できるため、品質の安定性を容易に向上できる。
【0075】
また、電子顕微鏡100では、磁界レンズの加工精度を上げることなく、磁界レンズの焦点距離を高い精度で制御できる。そのため、電子顕微鏡100では、容易に、磁界レンズの焦点距離を高い精度で制御できる。
【0076】
1.5. 変形例
上述した実施形態では、集束レンズ20の加工誤差δを求めるための励磁電流の測定は、対物レンズ40の励磁を零として行い、対物レンズ40の加工誤差δを求めるための励磁電流の測定は、集束レンズ20の励磁を零として行った。
【0077】
これに対して、集束レンズ20および対物レンズ40の両方を励磁して、集束レンズ20の励磁電流および対物レンズ40の励磁電流の両方を測定してもよい。
【0078】
図5は、光源1、集束レンズ20、対物レンズ40、および試料Sの位置関係を示す図である。ここでは、光源1と集束レンズ20との間の距離をLoCLとし、集束レンズ20と集束レンズ20の像面ICLとの間の距離をLiCLとし、像面ICLと対物レンズ40との間の距離をLoOLとし、対物レンズ40と試料Sとの間の距離をLiOLとしている。
【0079】
まず、集束レンズ20を強励磁にして、対物レンズ40のフォーカスを試料Sに合わせる。このときの距離LoOLの値および距離LiOLの値を式(2.2)に代入して焦点距離fを求め、このときの対物レンズ40の励磁電流を測定し、求めた焦点距離fの値および励磁Eの値を、式(2.1)に代入することで、対物レンズ40の加工誤差δOLを求める。
【0080】
次に、集束レンズ20を強励磁から弱励磁にする。このとき、対物レンズ40にフォーカスフィードバックをかける。すなわち、図5に示す距離LiOLが変化しないように対物レンズ40の励磁電流を変化させる。集束レンズ20を弱励磁にしてフォーカスがずれている場合には、フォーカスが合うように集束レンズ20の加工誤差δCLを設定する。
【0081】
加工誤差δCLおよび加工誤差δOLに変化がなくなるまで、上記の処理を繰り返す。この結果、加工誤差δCLおよび加工誤差δOLを求めることができる。
【0082】
2. 第2実施形態
2.1. 電子顕微鏡
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡について説明する。
【0083】
上述した第1実施形態に係る電子顕微鏡100では、制御部70は、磁界レンズの焦点距離のずれを補正する処理において、算出された磁界レンズの励磁電流を磁界レンズの加工誤差に基づき補正した。
【0084】
これに対して、第2実施形態に係る電子顕微鏡では、制御部70は、磁界レンズの焦点距離のずれを補正する処理において、算出された磁界レンズの励磁電流を磁界レンズの加工誤差および加速電圧の誤差に基づき補正する。これにより、磁界レンズの加工誤差に由来する焦点距離のずれおよび加速電圧の誤差に由来する焦点距離のずれを補正できる。
【0085】
第2実施形態に係る電子顕微鏡の構成は、図1に示す電子顕微鏡100の構成と同じであり、その説明を省略する。
【0086】
2.2. 磁界レンズの制御方法
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡における磁界レンズの制御方法について説明する。
【0087】
第2実施形態では、理想的なレンズにおける励磁電流と焦点距離との関係を表す関係式で求めた励磁電流を、磁界レンズの加工誤差および加速電圧の誤差を考慮した補正式を用いて補正する。以下、補正式について説明する。
【0088】
理想的な装置での加速電圧をVr1、実際の装置での誤差を含んだ加速電圧をVr2とすると、式(1.2)は次式(3.1)となり、式(1.3)は次式(3.2)となり、式(1.4)は次式(3.3)となり、式(1.5)は次式(3.4)となり、式(1.6)は次式(3.5)となる。
【0089】
【数9】
【0090】
【数10】
【0091】
【数11】
【0092】
【数12】
【0093】
【数13】
【0094】
式(3.5)は、加速電圧の誤差および磁界レンズの加工誤差の両方を考慮して、磁界レンズの励磁を補正するための式である。すなわち、加速電圧の誤差を含んだ実際の電子顕微鏡において加工誤差を含んだ実レンズが、加速電圧の誤差の無い理想的な電子顕微鏡において理想レンズと等しい焦点距離を持つための励磁を求めるための式である。
【0095】
例えば、所定の焦点距離を得るための理想レンズの励磁Eを式(3.5)に代入することによって、当該所定の焦点距離を得るための実際のレンズの励磁Eを求めることができる。なお、加速電圧Vr2の値は、高圧電源12の出力を測定することによって、得られる。すなわち、加速電圧Vr2は、加速電圧の測定値である。
【0096】
加速電圧の測定値、すなわち、加速電圧Vr2の値は、加速電圧を任意の値(加速電圧Vr1)に設定し、このときの高圧電源12の出力を測定することによって取得できる。
【0097】
このように式(3.5)によって、磁界レンズの加工誤差に由来する焦点距離のずれ、および加速電圧の誤差に由来する焦点距離のずれを補正できる励磁電流を求めることができる。
【0098】
2.3. 処理
次に、制御部70の処理について説明する。ここでは、対物レンズ40を制御する処理について説明する。
【0099】
図6は、制御部70の処理の一例を示すフローチャートである。
【0100】
制御部70は、対物レンズ40の焦点距離を、第1焦点距離(所定の焦点距離)とする指示を受け付けると、対物レンズ40の励磁電流と対物レンズ40の焦点距離との関係を表す関係式(3.1)を用いて、対物レンズ40を第1焦点距離とする励磁電流を算出する(S20)。
【0101】
処理S20は、上述した図4に示す処理S10と同様に行われる。
【0102】
次に、制御部70は、処理S20で算出された対物レンズ40の励磁Eを対物レンズ40の加工誤差δおよび加速電圧の誤差に基づいて補正する(S22)。
【0103】
励磁電流の補正は、式(3.5)を用いて行われる。式(3.5)の励磁Eに、処理S20で算出された励磁電流の値を代入することで、処理S20で算出された励磁電流を補正できる。これにより、加工誤差に由来する対物レンズ40の焦点距離のずれおよび加速電圧の誤差に由来する対物レンズ40の焦点距離のずれを補正できる。
【0104】
次に、制御部70は、補正された対物レンズ40の励磁電流を、対物レンズ40に供給する(S24)。これにより、対物レンズ40の焦点距離を、第1焦点距離にすることができる。
【0105】
処理S24は、上述した図4に示す処理S14と同様に行われる。
【0106】
2.4. 作用効果
第2実施形態に係る電子顕微鏡では、制御部70は、磁界レンズの焦点距離のずれを補正する処理(S22)において、算出された磁界レンズの励磁電流を磁界レンズの加工誤差および加速電圧の誤差に基づき補正することによって、磁界レンズの焦点距離のずれを補正する。
【0107】
このように、第2実施形態に係る電子顕微鏡では、加工誤差および加速電圧の誤差を含まない関係式を用いて算出された励磁電流を、加工誤差および加速電圧の誤差に基づき補正することによって、加工誤差に由来する磁界レンズの焦点距離のずれおよび加速電圧の誤差に由来する磁界レンズの焦点距離のずれを補正できる。したがって、第2実施形態に係る電子顕微鏡では、磁界レンズの焦点距離を高い精度で制御できる。
【0108】
ここで、実際に高圧電源12から出力される加速電圧には、設定値に対して誤差が含まれる。例えば、加速電圧を10kVに設定したとしても、実際に高圧電源12から出力される加速電圧は、10.1kVとなってしまう場合がある。加速電圧に誤差が含まれる場合、磁界レンズの励磁電流と焦点距離との関係を表す関係式(3.1)を用いて、励磁電流を算出しても、焦点距離にずれが生じてしまう。
【0109】
第2実施形態では、上述したように、関係式(3.1)を用いて算出した、加速電圧の誤差の無い理想的な装置における理想レンズの励磁電流を、加速電圧の誤差を考慮した式(3.5)を用いて補正する。そのため、加速電圧の誤差に由来する磁界レンズの焦点距離のずれを補正できる。これにより、磁界レンズの焦点距離を高い精度で制御できる。
【0110】
3. その他
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0111】
上述した実施形態では、本発明に係る荷電粒子線装置が走査電子顕微鏡である場合について説明したが、本発明に係る荷電粒子線装置は、走査電子顕微鏡に限定されず、磁界レンズを含む装置であれば特に限定されない。本発明に係る荷電粒子線装置としては、例えば、透過電子顕微鏡、走査透過電子顕微鏡、電子ビーム描画装置などが挙げられる。
【0112】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0113】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0114】
1…光源、2…磁界レンズ、2a…上極、2b…下極、4…コイル、6…ヨーク、8…レンズギャップ、10…電子銃、12…高圧電源、20…集束レンズ、22…コイル、24…ヨーク、26…レンズギャップ、30…偏向器、40…対物レンズ、42…コイル、44…ヨーク、46…レンズギャップ、50…試料ステージ、60…電子検出器、70…制御部、80…DAC、82…ドライバ、90…DAC、92…ドライバ、100…電子顕微鏡
図1
図2
図3
図4
図5
図6