(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】切削装置及びその切削制御方法
(51)【国際特許分類】
B23B 1/00 20060101AFI20230911BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20230911BHJP
B23Q 17/12 20060101ALI20230911BHJP
B23B 47/18 20060101ALI20230911BHJP
B23B 25/06 20060101ALI20230911BHJP
B23B 5/40 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
B23B1/00 N
B23Q17/09 A
B23Q17/12
B23B47/18 B
B23B25/06
B23B5/40
(21)【出願番号】P 2020060193
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000100805
【氏名又は名称】アイシン高丘株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】服部 達也
(72)【発明者】
【氏名】神谷 国広
(72)【発明者】
【氏名】水野 辰哉
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-320339(JP,A)
【文献】特開平09-085586(JP,A)
【文献】特開2016-190276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00、25/06、47/18
B23Q 17/09、17/12
B23Q 15/00
G05B 19/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具の回転及びその中心軸線方向の送りを実施する駆動機構と、前記切削工具の回転により切削加工が施される被加工物を固定する固定部と、を備えている切削装置であって、
第1の切削加工と、前記第1の切削加工がなされた部位に対して実施される第2の切削加工と、を含む切削加工が前記被加工物に施され、
前記駆動機構に取り付けられ、前記切削工具の送り方向と直交する方向における前記切削工具の切削力を検出する切削力センサの検出
値である切削パラメータ値を取得する取得部と、
前記第1の切削加工が実施される期間に
おける前記切削パラメータ値の変動量に対する、前記第2の切削加工が実施される期間に
おける前記切削パラメータ値の変動量の比率である減衰比を算出する減衰比算出部と、
前記切削工具の送り速度及び前記切削工具の回転速度のうち少なくとも一方を含む前記切削加工の切削条件を
、前記減衰比に基づいて調整する調整部と、
を備え
、
前記第1の切削加工が実施される期間における前記切削パラメータ値の変動量は、前記第1の切削加工が実施される期間に取得された前記切削パラメータ値の極値と、所定の基準値との差に基づいて算出された値であり、
前記第2の切削加工が実施される期間における前記切削パラメータ値の変動量は、前記第2の切削加工が実施される期間に取得された前記切削パラメータ値の極値と、前記所定の基準値との差に基づいて算出された値であることを特徴とする切削装置。
【請求項2】
切削工具の回転及びその中心軸線方向の送りを実施する駆動機構と、前記切削工具の回転により切削加工が施される被加工物を固定する固定部と、を備えている切削装置であって、
第1の切削加工と、前記第1の切削加工がなされた部位に対して実施される第2の切削加工と、を含む切削加工が前記被加工物に施され、
前記駆動機構又は前記固定部に取り付けられ、その取付位置において前記切削工具の送り方向と直交する方向の振動加速度、振動速度若しくは振動変位を検出する振動センサの検出
値である切削パラメータ値を取得する取得部と、
前記第1の切削加工が実施される期間に
おける前記切削パラメータ値の変動量に対する、前記第2の切削加工が実施される期間に
おける前記切削パラメータ値の変動量の比率である減衰比を算出する減衰比算出部と、
前記減衰比に基づいて、前記切削加工の切削条件を調整する調整部と、
を備え
、
前記第1の切削加工が実施される期間における前記切削パラメータ値の変動量は、前記第1の切削加工が実施される期間に取得された前記切削パラメータ値の極値と、所定の基準値との差に基づいて算出された値であり、
前記第2の切削加工が実施される期間における前記切削パラメータ値の変動量は、前記第2の切削加工が実施される期間に取得された前記切削パラメータ値の極値と、前記所定の基準値との差に基づいて算出された値であることを特徴とする切削装置。
【請求項3】
前記振動センサは、その取付位置において、前記切削工具の送り方向と直交する第1方向、並びに前記送り方向及び前記第1方向それぞれと直交する第2方向の振動加速度、振動速度又は振動変位を検出し、
前記減衰比算出部は、
前記減衰比として、
前記第1の切削加工が実施される期間に
おける前記第1方向の
前記切削パラメータ値の変動量に対する、前記第2の切削加工が実施される期間に
おける前記第1方向の
前記切削パラメータ値の変動量の比率である第1減衰比
と、
前記第1の切削加工が実施される期間に
おける前記第2方向の
前記切削パラメータ値の変動量に対する、前記第2の切削加工が実施される期間に
おける前記第2方向の
前記切削パラメータ値の変動量の比率である第2減衰比
と、を算出し、
前記調整部は、前記第1減衰比及び前記第2減衰比に基づいて、前記切削加工の切削条件を調整する、請求項2に記載の切削装置。
【請求項4】
前記調整部は、
前記第1減衰比及び前記第2減衰比が同等でないと判定した場合、次回の前記切削加工で用いる送り速度及び前記切削工具の回転速度の少なくとも一方を低下させる調整を行い、
前記第1減衰比及び前記第2減衰比が同等であると判定した場合、今回の前記切削加工で用いた送り速度及び前記切削工具の回転速度を、次回からの前記切削加工で用いる送り速度及び前記切削工具の回転速度に決定する、請求項3に記載の切削装置。
【請求項5】
前記減衰比算出部は、前記第1減衰比に対する前記第2減衰比の比率である規格化減衰比を算出し、
前記調整部は、前記規格化減衰比が1近傍である場合に前記第1減衰比及び前記第2減衰比が同等であると判定し、前記規格化減衰比が1近傍でない場合に前記第1減衰比及び前記第2減衰比が同等でないと判定する、請求項4に記載の切削装置。
【請求項6】
前記減衰比算出部は、次回からの前記切削加工で用いる切削条件が決定された後、前記被加工物の前記切削加工が行われるたびに前記第1減衰比及び前記第2減衰比を算出し、
前記切削加工が行われるたびに算出される前記第1減衰比及び前記第2減衰比が同等でないと判定した場合、前記切削加工の異常が発生したことを報知する報知部を備えている、請求項4又は5に記載の切削装置。
【請求項7】
切削工具の回転及びその中心軸線方向の送りを実施する駆動機構と、前記切削工具の回転により切削加工が施される被加工物を固定する固定部と、を備えている切削装置であって、
第1の切削加工と、前記第1の切削加工がなされた部位に対して実施される第2の切削加工と、を含む切削加工が前記被加工物に施され、
前記駆動機構又は前記固定部に取り付けられ、その取付位置において前記切削工具の送り方向と直交する方向の振動加速度、振動速度若しくは振動変位を検出する振動センサの検出値、又は前記駆動機構に取り付けられ、前記切削工具の送り方向と直交する方向における前記切削工具の切削力を検出する切削力センサの検出値のいずれかである切削パラメータ値を取得する取得部と、
前記第1の切削加工が実施される期間に
おける前記切削パラメータ値の変動量に対する、前記第2の切削加工が実施される期間に
おける前記切削パラメータ値の変動量の比率である減衰比を算出する減衰比算出部と、
前記減衰比に基づいて、前記切削加工の切削条件を調整する調整部と、
を備え
、
前記切削工具は、前記被加工物の穴加工を行うドリルであり、
前記第1の切削加工は、第1の送り速度で前記ドリルを送る送り加工であり、
前記第2の切削加工は、前記第1の送り速度よりも高い第2の送り速度で前記ドリルを送る送り加工であり、
前記第1の切削加工が実施される期間における前記切削パラメータ値の変動量は、前記第1の切削加工が実施される期間に取得された前記切削パラメータ値の極値と、所定の基準値との差に基づいて算出された値であり、
前記第2の切削加工が実施される期間における前記切削パラメータ値の変動量は、前記第2の切削加工が実施される期間に取得された前記切削パラメータ値の極値と、前記所定の基準値との差に基づいて算出された値であることを特徴とする切削装置。
【請求項8】
前記切削工具は、前記被加工物の座面加工を行うカッタであり、
前記第1の切削加工は、前記カッタを用いた送り加工であり、
前記第2の切削加工は、前記送り加工の終了後に送りを停止させた状態における前記カッタの回転による加工である、請求項1~6のいずれか1項に記載の切削装置。
【請求項9】
前記所定の基準値は、前記被加工物に対する前記切削工具の送りを開始してから、前記切削工具が前記被加工物に当たって切削が開始されるまでの工程であるエアカットが行われている場合における前記切削パラメータ値である、請求項1~8のいずれか1項に記載の切削装置。
【請求項10】
切削工具の回転及びその中心軸線方向の送りを実施する駆動機構と、前記切削工具の回転により切削加工が施される被加工物を固定する固定部と、を備えている切削装置の切削制御方法であって、
前記切削装置は、第1の切削加工と、前記第1の切削加工がなされた部位に対して実施される第2の切削加工と、を含む切削加工を前記被加工物に施し、
前記駆動機構に取り付けられ、前記切削工具の送り方向と直交する方向における前記切削工具の切削力を検出する切削力センサの検出値
を切削パラメータ値とする場合、前記第1の切削加工を実施する期間に
おける前記切削パラメータ値の変動量に対する、前記第2の切削加工を実施する期間に
おける前記切削パラメータ値の変動量の比率である減衰比を算出し、
前記切削工具の送り速度及び前記切削工具の回転速度のうち少なくとも一方を含む前記切削加工の切削条件を
、前記減衰比に基づいて調整
し、
前記第1の切削加工が実施される期間における前記切削パラメータ値の変動量は、前記第1の切削加工が実施される期間に取得された前記切削パラメータ値の極値と、所定の基準値との差に基づいて算出された値であり、
前記第2の切削加工が実施される期間における前記切削パラメータ値の変動量は、前記第2の切削加工が実施される期間に取得された前記切削パラメータ値の極値と、前記所定の基準値との差に基づいて算出された値であることを特徴とする切削装置の切削制御方法。
【請求項11】
切削工具の回転及びその中心軸線方向の送りを実施する駆動機構と、前記切削工具の回転により切削加工が施される被加工物を固定する固定部と、を備えている切削装置の切削制御方法であって、
前記切削装置は、第1の切削加工と、前記第1の切削加工がなされた部位に対して実施される第2の切削加工と、を含む切削加工を前記被加工物に施し、
前記駆動機構又は前記固定部に取り付けられ、その取付位置において前記切削工具の送り方向と直交する方向の振動加速度、振動速度若しくは振動変位を検出する振動センサの検出値を切削パラメータ値とする場合、前記第1の切削加工を実施する期間における前記切削パラメータ値の変動量に対する、前記第2の切削加工を実施する期間における前記切削パラメータ値の変動量の比率である減衰比を算出し、
前記減衰比に基づいて、前記切削加工の切削条件を調整し、
前記第1の切削加工が実施される期間における前記切削パラメータ値の変動量は、前記第1の切削加工が実施される期間に取得された前記切削パラメータ値の極値と、所定の基準値との差に基づいて算出された値であり、
前記第2の切削加工が実施される期間における前記切削パラメータ値の変動量は、前記第2の切削加工が実施される期間に取得された前記切削パラメータ値の極値と、前記所定の基準値との差に基づいて算出された値であることを特徴とする切削装置の切削制御方法。
【請求項12】
切削工具の回転及びその中心軸線方向の送りを実施する駆動機構と、前記切削工具の回転により切削加工が施される被加工物を固定する固定部と、を備えている切削装置の切削制御方法であって、
前記切削装置は、第1の切削加工と、前記第1の切削加工がなされた部位に対して実施される第2の切削加工と、を含む切削加工を前記被加工物に施し、
前記駆動機構又は前記固定部に取り付けられ、その取付位置において前記切削工具の送り方向と直交する方向の振動加速度、振動速度若しくは振動変位を検出する振動センサの検出値、又は前記駆動機構に取り付けられ、前記切削工具の送り方向と直交する方向における前記切削工具の切削力を検出する切削力センサの検出値のいずれかを切削パラメータ値とする場合、前記第1の切削加工を実施する期間における前記切削パラメータ値の変動量に対する、前記第2の切削加工を実施する期間における前記切削パラメータ値の変動量の比率である減衰比を算出し、
前記減衰比に基づいて、前記切削加工の切削条件を調整し、
前記切削工具は、前記被加工物の穴加工を行うドリルであり、
前記第1の切削加工は、第1の送り速度で前記ドリルを送る送り加工であり、
前記第2の切削加工は、前記第1の送り速度よりも高い第2の送り速度で前記ドリルを送る送り加工であり、
前記第1の切削加工が実施される期間における前記切削パラメータ値の変動量は、前記第1の切削加工が実施される期間に取得された前記切削パラメータ値の極値と、所定の基準値との差に基づいて算出された値であり、
前記第2の切削加工が実施される期間における前記切削パラメータ値の変動量は、前記第2の切削加工が実施される期間に取得された前記切削パラメータ値の極値と、前記所定の基準値との差に基づいて算出された値であることを特徴とする切削装置の切削制御方法。
【請求項13】
前記所定の基準値は、前記被加工物に対する前記切削工具の送りを開始してから、前記切削工具が前記被加工物に当たって切削が開始されるまでの工程であるエアカットが行われている場合における前記切削パラメータ値である、請求項10~12のいずれか1項に記載の切削制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削装置及びその切削制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切削工具の回転により被加工物に切削加工が施される場合、その精度を確保するためには切削条件を適正なものとすることが要求される。特許文献1には、剛性の低い被加工物の切削加工の精度を確保できるような切削条件を調整する切削装置が開示されている。
【0003】
この切削装置は、切削工具を用いた被加工物の送り加工中において切削工具の振動を検出して監視信号を出力するセンサと、出力された監視信号の時間波形データを周波数波形データに変換する制御回路とを備えている。制御回路は、変換した周波数波形データに基づいて、送り加工中における衝撃量を周波数毎に抽出し、抽出した衝撃量の所定周波数領域における総和を算出し、算出した総和に基づいて切削条件を調整する。ここで、所定周波数領域は、切削工具の回転速度と切削工具の切れ刃の数とに基づいて設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
切削加工の精度は、被加工物及び切削工具のみならず、切削工具の回転及び送りを実施する駆動機構の剛性や、被加工物を固定する固定部の剛性にも依存し得る。このため、切削加工の精度を確保するためには、駆動機構及び固定部それぞれの剛性に応じた適正な切削条件を設定する必要がある。しかしながら、この場合、剛性に応じた適正な切削条件の設定を試行錯誤しなければならず、切削条件の設定に要する工数が増大するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、切削工具の回転及び送りを実施する駆動機構及び被加工物を固定する固定部等の剛性に応じた適正な切削条件を試行錯誤することなく設定できる切削装置及びその切削制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、第1の発明は、切削工具の回転及びその中心軸線方向の送りを実施する駆動機構と、前記切削工具の回転により切削加工が施される被加工物を固定する固定部と、を備えている切削装置であって、
第1の切削加工と、前記第1の切削加工がなされた部位に対して実施される第2の切削加工と、を含む切削加工が前記被加工物に施され、
前記駆動機構又は前記固定部に取り付けられ、その取付位置において前記切削工具の送り方向と直交する方向の振動加速度、振動速度若しくは振動変位を検出する振動センサの検出値、又は前記駆動機構に取り付けられ、前記切削工具の送り方向と直交する方向における前記切削工具の切削力を検出する切削力センサの検出値のいずれかである切削パラメータ値を取得する取得部と、
前記第1の切削加工が実施される期間に取得された前記切削パラメータ値の変動量に対する、前記第2の切削加工が実施される期間に取得された前記切削パラメータ値の変動量の比率である減衰比を算出する減衰比算出部と、
前記減衰比に基づいて、前記切削加工の切削条件を調整する調整部と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記取得部は、前記切削パラメータ値として、前記振動センサの検出値を取得することを特徴とする。
【0009】
第3の発明は、第2の発明において、前記振動センサは、その取付位置において、前記切削工具の送り方向と直交する第1方向、並びに前記送り方向及び前記第1方向それぞれと直交する第2方向の振動加速度、振動速度又は振動変位を検出し、
前記減衰比算出部は、
前記第1の切削加工が実施される期間に取得された前記第1方向の検出値に対する、前記第2の切削加工が実施される期間に取得された前記第1方向の検出値の比率である第1減衰比を算出し、
前記第1の切削加工が実施される期間に取得された前記第2方向の検出値に対する、前記第2の切削加工が実施される期間に取得された前記第2方向の検出値の比率である第2減衰比を算出し、
前記調整部は、前記第1減衰比及び前記第2減衰比に基づいて、前記切削加工の切削条件を調整することを特徴とする。
【0010】
第4の発明は、第3の発明において、前記調整部は、
前記第1減衰比及び前記第2減衰比が同等でないと判定した場合、次回の前記切削加工で用いる送り速度及び前記切削工具の回転速度の少なくとも一方を低下させる調整を行い、
前記第1減衰比及び前記第2減衰比が同等であると判定した場合、今回の前記切削加工で用いた送り速度及び前記切削工具の回転速度を、次回からの前記切削加工で用いる送り速度及び前記切削工具の回転速度に決定することを特徴とする。
【0011】
第5の発明は、第4の発明において、前記減衰比算出部は、前記第1減衰比に対する前記第2減衰比の比率である規格化減衰比を算出し、
前記調整部は、前記規格化減衰比が1近傍である場合に前記第1減衰比及び前記第2減衰比が同等であると判定し、前記規格化減衰比が1近傍でない場合に前記第1減衰比及び前記第2減衰比が同等でないと判定することを特徴とする。
【0012】
第6の発明は、第4又は第5の発明において、前記減衰比算出部は、次回からの前記切削加工で用いる切削条件が決定された後、前記被加工物の前記切削加工が行われるたびに前記第1減衰比及び前記第2減衰比を算出し、
前記切削加工が行われるたびに算出される前記第1減衰比及び前記第2減衰比が同等でないと判定した場合、前記切削加工の異常が発生したことを報知する報知部を備えていることを特徴とする。
【0013】
第7の発明は、第1~第6のいずれか1つの発明において、前記切削工具は、前記被加工物の座面加工を行うカッタであり、
前記第1の切削加工は、前記カッタを用いた送り加工であり、
前記第2の切削加工は、前記送り加工の終了後に送りを停止させた状態における前記カッタの回転による加工であることを特徴とする。
【0014】
第8の発明は、第1~第6のいずれか1つの発明において、前記切削工具は、前記被加工物の穴加工を行うドリルであり、
前記第1の切削加工は、第1の送り速度で前記ドリルを送る送り加工であり、
前記第2の切削加工は、前記第1の送り速度よりも高い第2の送り速度で前記ドリルを送る送り加工であることを特徴とする。
【0015】
第9の発明は、切削工具の回転及びその中心軸線方向の送りを実施する駆動機構と、前記切削工具の回転により切削加工が施される被加工物を固定する固定部と、を備えている切削装置の切削制御方法であって、
前記切削装置は、第1の切削加工と、前記第1の切削加工がなされた部位に対して実施される第2の切削加工と、を含む切削加工を前記被加工物に施し、
前記駆動機構又は前記固定部に取り付けられ、その取付位置において前記切削工具の送り方向と直交する方向の振動加速度、振動速度若しくは振動変位を検出する振動センサの検出値、又は前記駆動機構に取り付けられ、前記切削工具の送り方向と直交する方向における前記切削工具の切削力を検出する切削力センサの検出値のいずれかを切削パラメータ値とする場合、前記第1の切削加工を実施する期間に取得した前記切削パラメータ値の変動量に対する、前記第2の切削加工を実施する期間に取得した前記切削パラメータ値の変動量の比率である減衰比を算出し、
前記減衰比に基づいて、前記切削加工の切削条件を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明において、駆動機構に切削力センサが取り付けられる場合、切削工具の送り方向と直交する方向における切削工具の切削力がそのセンサにより検出される。ここで、切削加工の精度を確保できないような切削条件で切削加工が実施され得る。この場合、第1の切削加工(例えば、座面加工における荒加工)が実施される期間に検出された切削力の変動量に対する、第1の切削加工の後の第2の切削加工(例えば、座面加工におけるドウェル)が実施される期間に検出された切削力の変動量が減衰しなかったり、その減衰量が小さくなったりする。一方、切削加工の精度を確保できるような切削条件で切削加工が行われる場合、被加工物、切削工具、駆動機構及び固定部それぞれの剛性によらず、切削力の変動量の減衰量が大きくなる。
【0017】
以上から、検出された切削力の変動量の減衰量に基づいて、切削加工の精度を確保できているか否かを判定し、その判定結果に基づいて切削加工の切削条件を調整することも考えられる。しかしながら、駆動機構における切削力センサの取付位置によっては、同じ切削条件であったとしても、そのセンサにより検出される切削力の変動量が変化し得る。このため、検出された切削力の変動量の減衰量を用いる方法では、切削加工の精度を確保できているか否かの判定精度が低下し、ひいては精度を確保する上で適切な切削条件を設定できなくなり得る。
【0018】
ここで、第1の切削加工が実施される期間に検出された切削力の変動量に対する、第2の切削加工が実施される期間に検出された切削力の変動量の比率である減衰比に本願発明者は着目した。そして、本願発明者は、減衰比によれば、駆動機構における切削力センサの取付位置によらず、切削加工の精度を確保できているか否かの判定精度を確保できることを見出した。
【0019】
そこで、第1の発明では、切削力センサの検出値変動量に基づいて減衰比算出部により減衰比が算出され、算出された減衰比に基づいて切削加工の切削条件が調整される。これにより、被加工物、切削工具、駆動機構及び固定部の剛性に応じた適正な切削条件を試行錯誤することなく設定することができる。
【0020】
駆動機構に切削力センサが取り付けられる構成に代えて、駆動機構又は固定部に振動センサが取り付けられる構成が採用されることがある。振動センサは、切削工具の送り方向と直交する方向の振動加速度、振動速度若しくは振動変位を検出する。ここで、第1の切削加工が実施される期間における切削力センサの検出値変動量と振動センサの検出値変動量との間に相関があることを本願発明者は見出した。また、第2の切削加工が実施される期間における切削力センサの検出値変動量と振動センサの検出値変動量との間にも相関があることを本願発明者は見出した。
【0021】
そこで、第1,第2の発明では、切削力センサの検出値に代えて、振動センサの検出値を用いて切削加工の精度を確保できる切削条件を設定することもできる。詳しくは、第1の切削加工が実施される期間に取得された振動センサの検出値変動量に対する、第2の切削加工が実施される期間に取得された振動センサの検出値変動量の比率が減衰比として算出される。そして、算出された減衰比に基づいて、切削加工の切削条件が調整される。これにより、振動センサの検出値を用いて、被加工物、切削工具、駆動機構及び固定部の剛性に応じた適正な切削条件を試行錯誤することなく設定することができる。
【0022】
第3の発明では、切削工具の送り方向と直交する第1方向、並びに送り方向及び第1方向それぞれと直交する第2方向の振動加速度、振動速度又は振動変位が振動センサにより検出される。
【0023】
第3の発明では、第1減衰比に加え、第2減衰比が算出される。第2減衰比は、第1の切削加工が実施される期間に取得された第2方向の検出値に対する、第2の切削加工が実施される期間に取得された第2方向の検出値の比率である。第1減衰比と第2減衰比とが同等であることは、切削加工の精度が確保できていることを示す。
【0024】
そこで、第3の発明では、第1減衰比及び第2減衰比に基づいて切削条件が調整される。これにより、切削加工の精度をさらに高めることができる。
【0025】
第4の発明では、第1減衰比及び第2減衰比が同等でないと判定された場合、次回の切削加工で用いる送り速度及び切削工具の回転速度の少なくとも一方を低下させる調整が行われる。この調整により、次回の切削加工の精度を今回の送り加工の精度よりも高める。一方、第1減衰比及び第2減衰比が同等であると判定された場合、今回の切削加工で用いた送り速度及び切削工具の回転速度が、次回からの切削加工で用いる送り速度及び回転速度に決定される。このように、第4の発明によれば、切削加工の精度を確保できる切削条件を自動的に決定することができる。
【0026】
第5の発明では、第1減衰比に対する第2減衰比の比率である規格化減衰比が算出される。算出された規格化減衰比が1近傍である場合に第1減衰比及び第2減衰比が同等であると判定され、規格化減衰比が1近傍でない場合に第1減衰比及び第2減衰比が同等でないと判定される。規格化減衰比が用いられる第5の発明によれば、第1減衰比及び第2減衰比それぞれが閾値と比較される構成に比べて、閾値との比較対象が規格化減衰比のみであるため、調整部における判定処理の簡素化を図ることができる。
【0027】
ここで、切削条件が決定された後、その条件を用いて複数の被加工物それぞれに対して切削加工が順次行われると、切削工具の劣化等が進行し、切削加工の異常が発生し得る。この場合、切削加工の精度が低下し、第1減衰比と第2減衰比とのずれが大きくなる。
【0028】
この点に鑑み、第6の発明では、次回からの切削加工で用いる切削条件が決定された後、被加工物の切削加工が行われるたびに第1減衰比及び第2減衰比が算出される。そして、切削加工が行われるたびに算出される前記第1減衰比及び前記第2減衰比が同等でないと判定された場合、切削加工の異常が発生したことを報知できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】第1実施形態に係る球面カッタを備える切削装置の構成を示す図。
【
図2】球面カッタの第1切削部を駆動軸側から見た図。
【
図4】切削加工の精度が低い場合におけるX,Y軸切削力を示す図。
【
図5】切削加工の精度が高い場合におけるX,Y軸切削力を示す図。
【
図6】逃がし加工を含む座面加工の加工工程を説明する図。
【
図7】切削加工の精度が低い場合のX,Y軸振動加速度を示すタイムチャート。
【
図8】切削加工の精度が高い場合のX,Y軸振動加速度を示すタイムチャート。
【
図9】切削条件の決定処理の手順を示すフローチャート。
【
図10】切削条件決定後の工程管理態様を説明する図。
【
図11】第2実施形態に係る切削条件の決定処理の手順を示すフローチャート。
【
図12】切削条件決定後の工程監視態様を説明する図。
【
図13】第3実施形態に係る平面カッタを備える切削装置の構成を示す図。
【
図14】第4実施形態に係るドリルを備える切削装置の構成を示す図。
【
図16】切削条件の決定処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1実施形態)
以下、本発明の切削装置を具体化した第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態の切削装置は、ディファレンシャルケースに加工される鋳造品を被加工物(ワーク)とし、その内面(座面)を加工する。
【0031】
<切削装置の構成>
図1に示すように、切削装置10は、切削工具の回転及び送りを実施する工具側ユニット30を備えている。工具側ユニット30は、主軸31、駆動軸32、従動軸33、切削工具としての球面カッタ34及び駆動部35を有している。主軸31には、駆動軸32の基端部が連結されている。駆動軸32の先端部には、球面カッタ34の第1切削部34aが連結されている。
【0032】
球面カッタ34において、第1切削部34aには連結部34cを介して第2切削部34bが連結されている。第2切削部34bには、従動軸33の先端部が連結されている。主軸31、駆動軸32、従動軸33及び球面カッタ34のそれぞれは、その中心軸線が同軸となるように配置されている。
【0033】
駆動部35は、主軸31を回転させる主軸モータを備えている。主軸モータの回転により、主軸31、駆動軸32、従動軸33及び球面カッタ34は、主軸31の中心軸線を中心として一体に回転する。
【0034】
駆動部35は、主軸31、駆動軸32、従動軸33及び球面カッタ34をその送り方向(切削方向、Z軸方向)に移動させる送り機構を備えている。送り機構は、例えば、主軸31の送りを制御するモータと、従動軸33の送りを制御する油圧機構とを有している。なお、以降、球面カッタ34の送り方向をZ軸方向と称し、
図2に示すように、Z軸方向と直交する方向をY軸方向と称し、Y,Z軸方向と直交する方向をX軸方向と称すこととする。
図2は、球面カッタ34を駆動軸32側から見た図である。
【0035】
切削装置10は、ワーク20を固定する固定ユニット40を備えている。ワーク20は、その中心軸線方向に延びる本体部21と、環状部22とを有している。環状部22は、本体部21においてその中心軸線方向の中間部から外方へ円環状をなすように突出している。
【0036】
固定ユニット40は、載置部41及びクランプ部42を備えている。載置部41の平坦面には、ワーク20の環状部22の第1面が当接している。環状部22の第2面は、クランプ部42により載置部41側に押し付けられる。これにより、ワーク20は、固定ユニット40に固定される。ワーク20の本体部21の一端には、芯出し治具43が取り付けられている。
【0037】
本体部21には中空部が形成されている。本体部21には、その中心軸線方向と直交するZ軸方向において、外周面から中空部まで貫通する第1軸孔23a及び第2軸孔23bが形成されている。駆動軸32が第1軸孔23aに挿通されるとともに従動軸33が第2軸孔23bに挿通された状態で、球面カッタ34が駆動軸32及び従動軸33に連結されている。
【0038】
切削装置10は、加速度センサ50を備えている。本実施形態において、加速度センサ50は、主軸31に取り付けられており、その取付位置におけるX,Y軸方向の振動加速度(m/sec^2)を検出する。以下、X軸方向の振動加速度をX軸振動加速度Accxと称し、Y軸方向の振動加速度をY軸振動加速度Accyと称す。検出された振動加速度Accx,Accyは、切削装置10が備えるコントローラ60に入力される。
【0039】
コントローラ60は、CPU等を有する周知のマイクロコンピュータを主体に構成され、ワーク20の切削加工制御を行う。詳しくは、コントローラ60は、駆動部35の主軸モータの駆動制御を行うことにより、球面カッタ34(主軸31)の回転速度を目標回転速度に制御する。また、コントローラ60は、駆動部35の送り機構の駆動制御を行うことにより、球面カッタ34の送り速度を目標送り速度に制御する。
【0040】
ワーク20の中空部において第1軸孔23a近傍の部分は第1切削部34aにより切削加工され、その後、中空部において第2軸孔23b近傍の部分は第2切削部34bにより切削加工される。これらの切削加工面は、球面座とされ、ディファレンシャルギアを構成する一対のピニオンギアが当接する。
【0041】
切削装置10は、報知部61を備えている。本実施形態において、報知部61はアラーム音を出力できるようになっている。この出力制御は、コントローラ60により行われる。
【0042】
コントローラ60は、
図3に示すように、エアカット、荒加工、仕上加工及びドウェルを順に実施することにより、ワーク20の球座面の切削加工を行う。ここで、エアカットは、ワーク20に対する球面カッタ34の切削部の送りを開始してから、球面カッタ34の切削部が切削対象面に当たって切削が開始されるまでの工程のことである。荒加工及びそれに続く仕上加工は、送り加工の工程であり、荒加工の送り速度は、仕上加工の送り速度よりも高い。ドウェルは、送り速度を0にした状態で球面カッタ34を回転させる工程のことである。本実施形態では、エアカット、荒加工、仕上加工及びドウェルそれぞれにおいて、球面カッタ34の目標回転速度が同じ回転速度に設定されている。
【0043】
コントローラ60は、ドウェル及び荒加工を行っている場合に加速度センサ50により検出されたX軸振動加速度Accxと、ドウェル及び荒加工を行っている場合に加速度センサ50により検出されたY軸振動加速度Accyとに基づいて、切削加工により形成される球座面の真球度の精度を確保できる切削条件を自動的に決定する処理を行う。以下、X軸振動加速度Accx及びY軸振動加速度Accyに基づいて切削条件を決定できる理由について説明する。
【0044】
<振動加速度に基づいて切削条件を決定できる理由>
本願発明者は、まず、精度を確保できる切削条件及び精度を確保できない切削条件それぞれにおいて球面カッタ34に作用する切削力を検出するために、工具側ユニット30に切削力センサを取り付けた。切削力センサは、球面カッタ34のX軸方向の切削力(以下、X軸切削力Fx)及びY軸方向の切削力(以下、Y軸切削力Fy)を検出する。
【0045】
精度を確保できないような切削条件が用いられる場合、荒加工が行われているときに検出されたX,Y軸切削力Fx,Fyの変動量に対する、ドウェルが行われているときに検出されたX,Y軸切削力Fx,Fyの変動量が減衰しなかったり、その減衰量が小さくなったりする。
【0046】
図4(a)~(c)は、荒加工、仕上加工及びドウェルそれぞれにおいて、精度を確保できないような切削条件が用いられる場合に検出されたX,Y軸切削力Fx,Fyの時系列をプロットしたものである。
図4の横軸はX軸切削力Fxを示し、縦軸はY軸切削力Fyを示す。
図4(a)~(c)それぞれにおいて、縦軸の1目盛りのスケールは互いに同じであり、横軸の1目盛りのスケールも互いに同じである。
図4に示す例では、ワーク20及び球面カッタ34の剛性が低いことに起因して、切削加工中にびびり振動が発生する。その結果、切削加工によるワーク20の仕上面性状が悪化し、球面座の真球度の精度を確保できていない。
【0047】
一方、精度を確保できるような切削条件が用いられる場合、ワーク20、球面カッタ34、工具側ユニット30及び固定ユニット40それぞれの剛性によらず、X,Y軸切削力Fx,Fyの変動量の減衰量が大きくなる。
【0048】
図5(a),(b)は、仕上加工及びドウェルそれぞれにおいて、精度を確保できるような切削条件が用いられる場合に検出されたX,Y軸切削力Fx,Fyの時系列をプロットしたものである。
図5(a),(b)それぞれにおいて、縦軸の1目盛りのスケールは互いに同じであり、横軸の1目盛りのスケールも互いに同じである。また、
図5の各軸の1目盛りのスケールは、
図4の各軸の1目盛りのスケールと同じである。
【0049】
図5に示す例では、
図6に示すように、びびり振動を防止するために荒加工と仕上加工との間に逃がし加工が追加されている。
図5と
図4とを比較すると、仕上加工及びドウェルそれぞれにおいて、
図5の方がX,Y軸切削力Fx,Fyの変動量が小さくなっている。
【0050】
以上から、荒加工が行われている場合に検出されたX,Y軸切削力Fx,Fyの変動量に対する、ドウェルが行われている場合に検出されたX,Y軸切削力Fx,Fyの変動量の減衰量に基づいて、精度を確保できているか否かを判定し、その判定結果に基づいて座面加工の切削条件を調整することも考えられる。しかしながら、工具側ユニット30における切削力センサの取付位置によっては、同じ切削条件であったとしても、そのセンサにより検出されるX,Y軸切削力Fx,Fyの変動量が変化し得る。このため、検出されたX,Y軸切削力Fx,Fyの変動量の減衰量を用いる方法では、精度を確保できているか否かの判定精度が低下する懸念がある。
【0051】
ここで、第1力減衰比Rfx及び第2力減衰比Rfyによれば、工具側ユニット30における切削力センサの取付位置の影響を抑制できることを本願発明者は見出した。第1力減衰比Rfxは、荒加工が行われている場合に検出されたX軸切削力Fxの変動量に対する、ドウェルが行われている場合に検出されたX軸切削力Fxの変動量の比率である。また、第2力減衰比Rfyは、荒加工が行われている場合に検出されたY軸切削力Fyの変動量に対する、ドウェルが行われている場合に検出されたY軸切削力Fyの変動量の比率である。本願発明者は、これら第1力減衰比Rfx及び第2力減衰比Rfyが同等であれば、精度を確保できていることを見出した。
【0052】
ただし、切削力センサは高価なセンサであるため、本願発明者は、切削力の代わりになる特性値を用いて、精度を確保できているか否かを判定する方法について検討した。その結果、その特性値として振動加速度を用いることができ、荒加工が行われている場合に検出されたX軸切削力Fxの変動量と、荒加工が行われている場合に検出されたX軸振動加速度Accxとの間に相関があることを本願発明者は見出した。また、ドウェルが行われている場合に検出されたY軸切削力Fyの変動量と、ドウェルが行われている場合に検出されたY軸振動加速度Accyの変動量との間にも相関があることを本願発明者は見出した。
【0053】
図7(a),(b)は、一連の切削加工工程において精度を確保できないような切削条件が用いられる場合に検出されたX,Y軸振動加速度Accx,Accyの推移を示す。
図8(a),(b)は、一連の切削加工工程において精度を確保できるような切削条件が用いられる場合に検出されたX,Y軸振動加速度Accx,Accyの推移を示す。精度を確保できない
図7に示す例では、ドウェルが行われている場合の振動加速度の変動量が、荒加工が行われている場合の振動加速度の変動量に対して減衰していない、又はその減衰量が小さいものとなっている。これに対し、精度を確保できる
図8に示す例では、ドウェルが行われている場合の振動加速度の変動量が、荒加工及び仕上加工が行われている場合の振動加速度の変動量に対して大きく減衰している。なお、
図7及び
図8では、縦軸における振動加速度のゼロ点がずれているが、エアカットが行われている場合の振動加速度が実際には0(m/sec^2)となる。
【0054】
本実施形態では、荒加工が行われている場合に検出されたX軸振動加速度Accxの変動量に対する、ドウェルが行われている場合に検出されたX軸振動加速度Accxの変動量の比率である第1加速度減衰比Rxが用いられる。また、荒加工が行われている場合に検出されたY軸振動加速度Accyの変動量に対する、ドウェルが行われている場合に検出されたY軸振動加速度Accyの変動量の比率である第2加速度減衰比Ryが用いられる。各加速度減衰比Rx,Ryによれば、各力減衰比Rfx,Rfyと同様に、工具側ユニット30における加速度センサ50の取付位置の影響を抑制できる。取付位置の影響を抑制できることは、工具側ユニット30における加速度センサ50の取付位置に制約がある場合であっても、精度を確保できているか否かの判定精度の向上に寄与する。これら第1加速度減衰比Rx及び第2加速度減衰比Ryが同等である場合、精度を確保できるような切削条件で切削加工が行われたことを把握できる。
【0055】
<切削条件の決定処理>
図9を用いて、コントローラ60により実行される切削条件の決定処理について説明する。
【0056】
ステップS10では、今回加工対象とされるワーク20の切削加工(座面加工)を開始するか否かを判定する。ステップS10において開始すると判定した場合には、駆動部35の駆動制御を行うことにより、エアカット、荒加工、仕上加工及びドウェルを順に行う。ステップS11では、これら加工中に検出されたX軸振動加速度Accx及びY軸振動加速度Accyを取得する。
【0057】
続くステップS12では、ドウェルが完了して今回の切削加工が終了したか否かを判定する。
【0058】
ステップS12において切削加工が終了したと判定した場合には、ステップS13に進み、ドウェルを行っている場合に検出されたX軸振動加速度Accxの変動量を、荒加工を行っている場合に検出されたX軸振動加速度Accxの変動量で除算することにより、第1加速度減衰比Rxを算出する。ここで、荒加工及びドウェルそれぞれにおけるX軸振動加速度Accxの変動量は、所定の基準値(例えば、エアカットを行っている場合のX軸振動加速度Accx)と、荒加工及びドウェルそれぞれを行っている場合のX軸振動加速度Accxの極値との差として算出すればよい。また、X軸振動加速度Accxの変動量は、荒加工を行っている場合を例に説明すると、荒加工を行っている場合における複数のX軸振動加速度Accxの変動量のうち、大きい方から選択した一部の各変動量の平均値として算出すればよい。
【0059】
また、ステップS13では、ドウェルを行っている場合に検出されたY軸振動加速度Accyの変動量を、荒加工を行っている場合に検出されたY軸振動加速度Accyで除算することにより、第2加速度減衰比Ryを算出する。ここで、荒加工及びドウェルそれぞれにおけるY軸振動加速度Accyの変動量は、所定の基準値(例えば、エアカットを行っている場合のY軸振動加速度Accy)と、荒加工及びドウェルそれぞれを行っている場合のY軸振動加速度Accyの極値との差として算出すればよい。また、Y軸振動加速度Accyの変動量は、荒加工を行っている場合を例に説明すると、荒加工を行っている場合における複数のY軸振動加速度Accyの変動量のうち、大きい方から選択した一部の各変動量の平均値として算出すればよい。
【0060】
続くステップS14では、算出した第1加速度減衰比Rx及び第2加速度減衰比Ryが同等であるか否かを判定する。詳しくは、第1,第2加速度減衰比Rx,Ryのそれぞれが「Rth-ΔR」以上であってかつ「Rth+ΔR」以下であるか否かを判定する。Rthは目標減衰比であり、切削加工の精度(例えば、球面座の球面度)を目標精度にするために要求される値であり、予め実験等により定められている。ΔRは管理幅であり、「Rth+ΔR」は例えば1未満の値に設定されている。
【0061】
ステップS14において否定判定した場合には、第1加速度減衰比Rx及び第2加速度減衰比Ryが同等でないと判定し、ステップS15に進む。ステップS15では、次回のワーク20の荒加工、仕上加工及びドウェルで用いる球面カッタ34(主軸31)の回転速度を、今回のワーク20の荒加工、仕上加工及びドウェルで用いた回転速度よりも低減する第1処理を行う。ただし、第1処理を行ったとしても、荒加工の送り速度を仕上加工の送り速度よりも高くするとの関係は維持される。また、ステップS15では、次回のワーク20の荒加工及び仕上加工で用いる球面カッタ34の送り速度を、今回のワーク20の荒加工及び仕上加工で用いた送り速度よりも低減する第2処理を行う。さらに、ステップS15では、次回のワーク20の加工時に用いるドウェルの継続時間を、今回のワーク20の加工時に用いた継続時間よりも長くする第3処理を行う。ステップS15の処理は、次回のワーク20の加工時における球面座の球面度の精度を高めることを目的とした処理である。ステップS15の処理の完了後、ステップS10に移行し、次回のワーク20の切削加工を開始するか否かを判定する。
【0062】
一方、ステップS14において肯定判定した場合には、第1加速度減衰比Rx及び第2加速度減衰比Ryが同等であると判定し、ステップS16に進む。ステップS16では、今回のワーク20の加工時に用いた球面カッタ34の回転速度、送り速度及びドウェルの継続時間を、次回からのワーク20の加工時に用いる回転速度、送り速度及び継続時間に決定する。これにより、次回からの切削加工の切削条件が決定されることとなる。
【0063】
図9に示す処理によって切削条件が決定されると、その切削条件を用いて量産工程における切削加工が実施される。本実施形態において、コントローラ60は、第1加速度減衰比Rx及び第2加速度減衰比Ryが同等でないと複数回(例えば2回)連続して判定した場合、切削加工の異常が発生した旨を報知部61に報知させる処理を行う。報知部61は、アラーム音により異常が発生した旨を報知する。
【0064】
図10は、量産工程において各ワーク20が切削加工されるたびに算出される第1加速度減衰比Rx及び第2加速度減衰比Ryの推移を示す。球面カッタ34の摩耗等の劣化が進行していない場合、第1加速度減衰比Rx及び第2加速度減衰比Ryの双方が「Rth-ΔR」以上であってかつ「Rth+ΔR」以下になると判定される。その後、球面カッタ34の各切削部34a,34bの劣化が進行することにより、タイミングt1において第1加速度減衰比Rxが「Rth+ΔR」を上回ったと判定される。その後、タイミングt2において第2加速度減衰比Ryが「Rth+ΔR」を上回ったと判定される。このため、コントローラ60は、報知部61にアラーム音を出力させる。
【0065】
以上説明した切削装置10によれば、以下に示す作用効果が得られる。
【0066】
荒加工が行われている場合に検出されたX軸振動加速度Accxの変動量に対する、ドウェルが行われている場合に検出されたX軸振動加速度Accxの変動量の比率である第1加速度減衰比Rxが算出される。また、荒加工が行われている場合に検出されたY軸振動加速度Accyの変動量に対する、ドウェルが行われている場合に検出されたY軸振動加速度Accyの変動量の比率である第2加速度減衰比Ryが算出される。各加速度減衰比Rx,Ryによれば、工具側ユニット30における加速度センサ50の取付位置が、切削加工の精度を確保できているか否かの判定に及ぼす影響を抑制できる。そして、算出された第1,第2加速度減衰比Rx,Ryが同等であると判定された場合、今回の切削加工で用いた回転速度、送り速度及びドウェルの継続時間を、次回からの切削加工でも用いるようにする。これにより、ワーク20、球面カッタ34、工具側ユニット30及び固定ユニット40の剛性に応じた適正な切削条件を試行錯誤することなく設定することができる。
【0067】
第1,第2加速度減衰比Rx,Ryが同等でないと判定された場合、次回の切削加工で用いる送り速度及び球面カッタ34の回転速度それぞれを低下させる調整が行われる。この調整により、次回のワーク20の加工時における球座面の球面度の精度を今回のワーク20の加工時における球面度の精度よりも高める。また、この調整は、第1加速度減衰比Rx及び第2加速度減衰比Ryが同等であると判定されるまで実施される。そして、第1加速度減衰比Rx及び第2加速度減衰比Ryが同等であると判定された場合、今回のワーク20の加工時に用いた送り速度及び球面カッタ34の回転速度が、次回からのワーク20の加工時に用いる送り速度及び回転速度に決定される。これにより、切削加工の精度を確保できる切削条件を自動的に決定することができる。
【0068】
量産工程の切削加工で用いる切削条件が決定された後、ワーク20の切削加工が行われるたびに第1加速度減衰比Rx及び第2加速度減衰比Ryが算出される。そして、切削加工が行われるたびに算出される第1加速度減衰比Rx及び第2加速度減衰比Ryが同等でないと判定された場合、切削加工の異常が発生したことを報知部61により報知する。これにより、各加速度減衰比Rx,Ryを用いて工程の異常を監視することができる。その結果、例えば、球面カッタ34の摩耗の進行を把握でき、球面カッタ34の取り換えを工程の作業者に促すことができる。これにより、切削加工工程の予知保全を実施することができる。
【0069】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、第1,第2加速度減衰比Rx,Ryが同等であるか否かの判定方法を変更する。
【0070】
図11を用いて、コントローラ60により実行される切削条件の決定処理について説明する。なお、ステップS20~S23の処理は、先の
図9のステップS10~S13の処理と同様の処理である。
【0071】
ステップS24では、第1加速度減衰比Rxを第2加速度減衰比Ryで除算することにより、規格化減衰比βを算出する。なお、第2加速度減衰比Ryを第1加速度減衰比Rxで除算することにより、規格化減衰比βを算出してもよい。
【0072】
続くステップS25では、算出した規格化減衰比βが1近傍であるか否かを判定する。具体的には、規格化減衰比βが「1-ΔC」以上であってかつ「1+ΔC」以下であるか否かを判定する。ここで、ΔCは管理幅であり、切削加工の精度を目標精度にするために要求される値であり、予め実験等により定められている。管理幅ΔCは、例えば0.2に設定されている。
【0073】
ステップS25において否定判定した場合には、規格化減衰比βが1近傍でない、つまり第1加速度減衰比Rx及び第2加速度減衰比Ryが同等でないと判定し、ステップS26に進む。ステップS26の処理は、
図9のステップS15の処理と同様の処理である。
【0074】
一方、ステップS25において肯定判定した場合には、規格化減衰比βが1近傍である、つまり第1加速度減衰比Rx及び第2加速度減衰比Ryが同等であると判定し、ステップS27に進む。ステップS27の処理は、
図9のステップS16の処理と同様の処理である。
【0075】
図11に示す処理によって切削条件が決定されると、その切削条件を用いて量産工程における切削加工が実施される。本実施形態において、コントローラ60は、規格化減衰比βが1近傍でないと複数回(例えば2回)連続して判定した場合、切削加工の異常が発生した旨を報知部61に報知させる処理を行う。
【0076】
図12は、量産工程において各ワーク20が切削加工されるたびに算出される規格化減衰比βの推移を示す。球面カッタ34の摩耗等の劣化が進行していない場合、規格化減衰比βが「1-ΔC」以上であってかつ「1+ΔC」以下になると判定される。その後、球面カッタ34の各切削部34a,34bの劣化が進行することにより、タイミングt1において規格化減衰比βが「1+ΔC」を上回ったと判定される。その後、タイミングt2において規格化減衰比βが「1-ΔC」を下回ったと判定される。このため、コントローラ60は、報知部61にアラーム音を出力させる。
【0077】
以上説明した本実施形態によれば、第1加速度減衰比Rx及び第2加速度減衰比Ryそれぞれが閾値と比較される第1実施形態に比べて、閾値との比較対象が規格化減衰比βのみである。このため、切削加工の精度を確保できているか否かの判定処理の簡素化を図ることができる。
【0078】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について、第1,第2実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、切削工具として、球面カッタに代えて平面カッタ36が用いられる。
【0079】
図13に、本実施形態に係る切削装置10の構成を示す。なお、
図13において、先の
図1に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0080】
駆動軸32の先端部には、平面カッタ36の第1切削部36aが連結されている。平面カッタ36において、第1切削部36aには連結部36cを介して第2切削部36bが連結されている。第2切削部36bには、従動軸33の先端部が連結されている。主軸31、駆動軸32、従動軸33及び平面カッタ36のそれぞれは、その中心軸線が同軸となるように配置されている。
【0081】
本実施形態において、ワーク20は、その中心軸線方向がZ軸方向となるように固定ユニット40に固定されている。ワーク20の本体部21には、その中心軸線方向に貫通する貫通孔24が形成されている。本体部21において中心軸線方向の中間部は、貫通孔24よりも孔径が大きい拡径部とされている。
【0082】
本体部21において第1端側から貫通孔24に駆動軸32が挿通されるとともに第2端側から貫通孔24に従動軸33が挿通された状態で、平面カッタ36は駆動軸32及び従動軸33に連結されている。
【0083】
本体部21の拡径部において駆動軸32側の段差部分は第1切削部36aにより切削加工され、その後、拡径部において従動軸33側の段差部分は第2切削部36bにより切削加工される。これらの切削加工面は円環状の平面座とされ、ディファレンシャルギアを構成し、かつ、車輪軸に連結される一対のサイドギアが当接する。
【0084】
コントローラ60は、第1,第2実施形態と同様の切削条件の決定処理を行う。これにより、平面座の平面度の精度を確保できる切削条件を自動的に設定することができる。
【0085】
(第4実施形態)
以下、第4実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、切削工具として、球面カッタに代えてドリルが用いられる。
【0086】
図14に、本実施形態に係る切削装置10の構成を示す。なお、
図14において、先の
図1に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0087】
駆動軸32の先端部には、ドリル37の基端部が連結されている。ドリル37、主軸31、駆動軸32及び従動軸33のそれぞれは、その中心軸線が同軸となるように配置されている。
【0088】
コントローラ60は、ワーク20の環状部22に貫通孔を形成する切削加工制御を行う。コントローラ60は、
図15に示すように、エアカット、進入時加工及び本加工を順に実施することにより、環状部22に貫通孔を形成する。ここで、進入時加工及びそれに続く本加工は、送り加工の工程であり、進入時加工の送り速度(第1の送り速度)は、本加工の送り速度(第2の送り速度)よりも高い。
【0089】
ここで、進入時加工の送り速度は、ドリル37による穴加工の真直度の精度に大きな影響を及ぼす。このため、コントローラ60は、進入時加工の送り速度を最適化するために切削条件の決定処理を行う。
【0090】
図16を用いて、切削条件の決定処理について説明する。
【0091】
ステップS30では、今回加工対象とされるワーク20の切削加工(穴加工)を開始するか否かを判定する。ステップS30において開始すると判定した場合には、駆動部35の駆動制御を行うことにより、エアカット、進入時加工及び本加工を順に行う。ステップS31では、これら加工中に検出されたX軸振動加速度Accx及びY軸振動加速度Accyを取得する。
【0092】
続くステップS32では、本加工が完了して今回の切削加工が終了したか否かを判定する。
【0093】
ステップS32において切削加工が終了したと判定した場合には、ステップS33に進み、本加工を行っている場合に検出されたX軸振動加速度Accxの変動量を、進入時加工を行っている場合に検出されたX軸振動加速度Accxの変動量で除算することにより、第1加速度減衰比Rxを算出する。ここで、進入時加工及び本加工それぞれにおけるX軸振動加速度Accxの変動量は、所定の基準値(例えば、エアカットを行っている場合のX軸振動加速度Accx)と、進入時加工及び本加工それぞれを行っている場合のX軸振動加速度Accxの極値との差として算出すればよい。また、X軸振動加速度Accxの変動量は、進入時加工を行っている場合における複数のX軸振動加速度Accxの変動量のうち、大きい方から選択した一部の各変動量の平均値として算出すればよい。
【0094】
また、ステップS33では、本加工を行っている場合に検出されたY軸振動加速度Accyの変動量を、進入時加工を行っている場合に検出されたY軸振動加速度Accyで除算することにより、第2加速度減衰比Ryを算出する。ここで、進入時加工及び本加工それぞれにおけるY軸振動加速度Accyの変動量は、所定の基準値(例えば、エアカットを行っている場合のY軸振動加速度Accy)と、進入時加工及び本加工それぞれを行っている場合のY軸振動加速度Accyの極値との差として算出すればよい。また、Y軸振動加速度Accyの変動量は、進入時加工を行っている場合における複数のY軸振動加速度Accyの変動量のうち、大きい方から選択した一部の各変動量の平均値として算出すればよい。
【0095】
続くステップS34では、
図9のステップS14と同様に、算出した第1,第2加速度減衰比Rx,Ryが同等であるか否かを判定する。
【0096】
ステップS34において否定判定した場合には、第1,第2加速度減衰比Rx,Ryが同等でないと判定し、ステップS35に進む。ステップS35では、次回のワーク20の進入時加工で用いるドリル37の送り速度を、今回のワーク20の進入時加工で用いた送り速度よりも低減する処理を行う。ただし、この処理を行ったとしても、進入時加工の送り速度が本加工の送り速度よりも高いとの関係は維持される。ステップS35の処理により、次回のワーク20の加工時における貫通孔の真直度の精度を高めることができる。ステップS35の処理の完了後、ステップS30に移行し、次回のワーク20の切削加工を開始するか否かを判定する。
【0097】
一方、ステップS34において肯定判定した場合には、第1,第2加速度減衰比Rx,Ryが同等であると判定し、ステップS36に進む。ステップS36では、今回のワーク20の加工時に用いたドリル37の回転速度及び送り速度を、次回からのワーク20の加工時に用いる回転速度及び送り速度に決定する。
【0098】
以上説明した本実施形態によれば、ドリル37により形成される貫通孔の真直度の精度を確保できる切削条件を自動的に設定することができる。
【0099】
<変形例>
上記実施の形態の変形例を以下に説明する。
【0100】
(1)第4実施形態において、第2実施形態で用いた規格化減衰比を用いて切削条件を自動的に決定してもよい。
【0101】
(2)加速度センサ50の取付位置としては、工具側ユニット30に限らず、例えば固定ユニット40(具体的には例えば載置部41)であってもよい。
【0102】
(3)第1実施形態の
図9のステップS15において、第3処理が実施されなくてもよい。また、ステップS15において、第1処理又は第2処理のいずれか一方のみが実施されてもよい。
【0103】
(4)第1,第2加速度減衰比Rx,Ryの算出に用いられるX,Y軸振動加速度Accx,Accyの変動量は、荒加工に代えて、仕上加工が行われている場合の変動量が用いられてもよい。
【0104】
また、例えば一連の切削加工工程でドウェルが実施されない場合、第1,第2加速度減衰比Rx,Ryの算出に用いられるX,Y軸振動加速度Accx,Accyの変動量は、ドウェルに代えて、仕上加工が行われている期間(例えば、この期間の後半)における変動量が用いられてもよい。
【0105】
(5)第1,第2加速度減衰比Rx,Ryの算出に用いられるX,Y軸振動加速度Accx,Accyの変動量は、例えば、荒加工を行っている場合を例に説明すると、荒加工を行っている場合における複数のX,Y軸振動加速度Accx,Accyの実効値と、所定の基準値との差として算出されてもよい。
【0106】
(6)工具側ユニット30に切削力センサが取り付けられている場合、
図9のステップS13,S14及び
図11のステップS23,S24において、第1,第2加速度減衰比Rx,Ryに代えて、第1,第2力減衰比Rfx,Rfyが用いられてもよい。この場合、第1,第2力減衰比Rfx,Rfyが、荒加工に代えて、仕上加工が行われている場合に検出されたX,Y軸切削力Fx,Fyの変動量に対する、ドウェルが行われている場合に検出されたX,Y軸切削力Fx,Fyの変動量の比率として算出されてもよい。
【0107】
(7)工具側ユニット30又は固定ユニット40に、加速度センサ50に代えて、X,Y軸方向の振動速度(以下、X,Y軸振動速度Vx,Vy(m/sec))を検出する速度センサが取り付けられていてもよい。この場合、
図9のステップS13,S14及び
図11のステップS23,S24において、第1,第2加速度減衰比Rx,Ryに代えて、第1,第2速度減衰比Rvx,Rvyが用いられてもよい。第1,第2速度減衰比Rvx,Rvyは、荒加工又は仕上加工が行われている場合に検出されたX,Y軸振動速度Vx,Vyの変動量に対する、ドウェルが行われている場合に検出されたX,Y軸振動速度Vx,Vyの変動量の比率である。
【0108】
また、工具側ユニット30又は固定ユニット40に、速度センサに代えて、X,Y軸方向の基準位置からの振動変位(以下、X,Y軸振動変位Dx,Dy(m))を検出する変位センサが取り付けられていてもよい。この場合、
図9のステップS13,S14及び
図11のステップS23,S24において、第1,第2加速度減衰比Rx,Ryに代えて、第1,第2変位減衰比Rdx,Rdyが用いられてもよい。第1,第2変位減衰比Rdx,Rdyは、荒加工又は仕上加工が行われている場合に検出されたX,Y軸振動変位Dx,Dyの変動量に対する、ドウェルが行われている場合に検出されたX,Y軸振動変位Dx,Dyの変動量の比率である。
【0109】
(8)第1,第2加速度減衰比Rx,Ryのうちいずれか一方のみを用いた切削条件の決定処理が行われてもよい。この場合、
図9を例にして説明すると、ステップS14の処理を、例えば第1加速度減衰比Rxが「Rth-ΔR」以上であってかつ「Rth+ΔR」以下であるか否かを判定する処理に置き換えればよい。
【0110】
(9)切削装置の加工対象となるワークは、ディファレンシャルケースになるものに限らない。また、加工対象となるワークは、鋳造品に限らない。
【符号の説明】
【0111】
10…切削装置、30…工具側ユニット(駆動機構)、35…駆動部(駆動機構)、40…固定ユニット(固定部)、50…加速度センサ(振動センサ)、60…コントローラ(取得部、減衰比算出部、調整部)。