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特許7346387義足ソール用ゴム組成物及び義足用ソール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】義足ソール用ゴム組成物及び義足用ソール
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/66 20060101AFI20230911BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20230911BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230911BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230911BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
A61F2/66
C08L9/06
C08L101/00
C08K3/04
C08L7/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020514422
(86)(22)【出願日】2019-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2019016541
(87)【国際公開番号】W WO2019203284
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2018079449
(32)【優先日】2018-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】桜井 秀之
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/145480(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106700157(CN,A)
【文献】特開2005-162777(JP,A)
【文献】特開平05-017624(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0009238(US,A1)
【文献】特開2011-255030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/66
C08L 9/06
C08L 101/00
C08K 3/04
C08L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンブタジエンゴムを50質量%以上含有するゴム成分と、
前記ゴム成分100質量部に対して50~90質量部の、窒素吸着比表面積(N2SA)が110~149m2/gであるカーボンブラックと、
を含み、
ゴム組成物全体でのオイル量が、前記ゴム成分100質量部に対して、40質量部以下であることを特徴とする、義足ソール用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分100質量部に対して5~40質量部の熱可塑性樹脂を、さらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の義足ソール用ゴム組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、石油系樹脂、石炭系樹脂、フェノール系樹脂、ロジン系樹脂及びテルペン系樹脂、からなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする、請求項2に記載の義足ソール用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ゴム成分が、天然ゴムをさらに含有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の義足ソール用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の義足ソール用ゴム組成物を用いたことを特徴とする、義足用ソール。
【請求項6】
前記義足用ソールが、直接又は間接的に、板ばねに装着されることを特徴とする、請求項5に記載の義足用ソール。
【請求項7】
前記義足用ソールは、湾曲部を介して爪先側へ延びる板ばね状の足部を有する競技用義足の、前記爪先から前記湾曲部側へ延在する接地域に装着され、複数の凹凸からなるパターンが形成された底面を有し、
前記義足用ソールの底面は、前記競技用義足を着用した着用者が直立した状態での、前記義足用ソールの底面と路面との接点を通って前記足部の幅方向に延びる線を境界線としたとき、前記境界線よりも前記湾曲部側のネガティブ比率が35~80%であり、且つ、前記境界線よりも前記爪先側のネガティブ比率が55%以下であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の義足用ソール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義足ソール用ゴム組成物及び義足用ソールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、義足は、安心して歩行及び走行できることが望まれている。これまで、義足のためのソールが特別に開発されることは少なく、市販のシューズのソールの一部を転用したものや、市販のゴムシートを切り貼りしたものが用いられていた。
【0003】
また、競技用の義足の1つとして、板ばねを備えるものが知られているが(例えば、特許文献1を参照。)、板ばねを有する義足を使用する場合、板ばねの路面とのグリップ性が低いことから、特に雨天での使用時に滑る可能性があり、防滑性の向上が望まれていた。
競技用の義足にソールを装着する技術としては、例えば特許文献2には、競技用の義足において、スパイクをカバーするためにラバーソールを装着する技術が開示されている。
しかしながら、義足のソールの防滑性を向上させるための技術ではなく、義足のソールのグリップ力を向上させるための技術について、開発が望まれていた。さらに、義足は、一度装着すると長期間使用することが多く、ソールの耐摩耗性についても、向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-35324号公報
【文献】特開2016-150189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのため、本発明の目的は、義足のソールに用いた際、防滑性及び耐摩耗性を向上させることができる義足ソール用ゴム組成物、並びに、防滑性及び耐摩耗性に優れた義足用ソール、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するべく検討を行った結果、ゴム組成物を構成する成分として、ゴム成分中に特定量のスチレンブタジエンゴムを含有させることで、乾燥路面及び湿潤路面におけるグリップ力を向上させるとともに、特定範囲の窒素吸着比表面積を有するカーボンブラックを含有させることによって、ゴム組成物の耐摩耗性を高めることができるため、防滑性及び耐摩耗性のいずれについても高いレベルで両立できることを見出した。
【0007】
本発明の要旨は以下の通りである。
本発明の義足ソール用ゴム組成物は、スチレンブタジエンゴムを50質量%以上含有するゴム成分と、前記ゴム成分100質量部に対して50~90質量部の、窒素吸着比表面積(N2SA)が110~149m2/gであるカーボンブラックと、を含むことを特徴とする。
上記構成を具えることによって、義足のソールに用いた際、防滑性及び耐摩耗性を向上させることができる。
【0008】
また、本発明の義足ソール用ゴム組成物では、前記ゴム成分100質量部に対して5~40質量部の熱可塑性樹脂を、さらに含むことが好ましく、前記熱可塑性樹脂が、石油系樹脂、石炭系樹脂、フェノール系樹脂、ロジン系樹脂及びテルペン系樹脂、からなる群より選択される少なくとも一種であることがより好ましい。義足のソールに用いた際の防滑性をより高めることができるためである。
【0009】
さらに、本発明の義足ソール用ゴム組成物では、前記ゴム成分が、天然ゴムをさらに含有することが好ましい。義足のソールに用いた際の耐摩耗性をより高めることができるためである。
【0010】
本発明の義足用ソールは、上記本発明の義足ソール用ゴム組成物を用いたことを特徴とする。
上記構成を具えることによって、優れた防滑性及び耐摩耗性を実現できる。
【0011】
また、本発明の義足用ソールでは、前記義足用ソールは、湾曲部を介して爪先側へ延びる板ばね状の足部を有する競技用義足の、前記爪先から前記湾曲部側へ延在する接地域に装着され、複数の凹凸からなるパターンが形成された底面を有し、
前記義足用ソールの底面は、前記競技用義足を着用した着用者が直立した状態での、前記義足用ソールの底面と路面との接点を通って前記足部の幅方向に延びる線を境界線としたとき、前記境界線よりも前記湾曲部側のネガティブ比率が35~80%であり、且つ、前記境界線よりも前記爪先側のネガティブ比率が55%以下であることが好ましい。防滑性及び耐摩耗性を、より高いレベルで両立できるためである。
【0012】
さらに、本発明の義足用ソールでは、該義足用ソールが、直接又は間接的に、板ばねに装着されることが好ましい。本発明の防滑性及び耐摩耗性を、より効果的に発揮できるためである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、義足のソールに用いた際、防滑性及び耐摩耗性を向上させることができる義足ソール用ゴム組成物、並びに、防滑性及び耐摩耗性に優れた義足用ソール、を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るソールが装着された競技用義足の側面図である。
図2A】競技用義足が着用され、着用者が直進走行を行った場合における、足部の動作と接地形態を段階的に説明するための図である。
図2B】競技用義足が着用され、着用者が直進走行を行った場合における、足部の動作と接地形態を段階的に説明するための図である。
図2C】競技用義足が着用され、着用者が直進走行を行った場合における、足部の動作と接地形態を段階的に説明するための図である。
図2D】競技用義足が着用され、着用者が直進走行を行った場合における、足部の動作と接地形態を段階的に説明するための図である。
図3】(a)及び(b)は、ソ本発明の一実施形態に係るソールの底面について模式的に示した図である。
図4】本発明の一実施形態に係る義足用ソールのソール底面のパターンの一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の義足ソール用ゴム組成物及び義足用ソールの実施形態について、詳細に例示説明する。
【0016】
<義足ソール用ゴム組成物>
本発明の義足ソール用ゴム組成物(以下、単に「ゴム組成物」ということがある。)は、スチレンブタジエンゴムを50質量%以上含有するゴム成分と、 前記ゴム成分100質量部に対して50~90質量部の、窒素吸着比表面積(N2SA)が110~149m2/gであるカーボンブラックと、を含む。
ゴム組成物を構成する成分として、ゴム成分中に50質量%以上のスチレンブタジエンゴムを含有させることで、乾燥路面及び湿潤路面におけるグリップ力を向上させることができ、さらに、N2SAが110~149m2/gの範囲のカーボンブラックを含有させることによって、耐摩耗性を高めることができる結果、ゴム組成物を義足のソールへ用いた際、防滑性及び耐摩耗性のいずれについても向上させることが可能となる。
【0017】
(ゴム成分)
本発明の義足ソール用ゴム組成物は、ゴム成分を含む。そして、前記ゴム成分は、スチレンブタジエンゴム(SBR)を50質量%以上含有する。
上述したように、スチレンブタジエンゴムを50質量%以上含有することで、ゴム組成物を義足のソールへ適用した際、ゴムの柔軟性が向上し、ソールのグリップ力を高めることができるため、高い防滑性を実現できる。前記ゴム成分中のスチレンブタジエンゴムの含有量が50質量%未満の場合には、グリップ力が低くなるため、十分な防滑性を得ることができない。
同様の観点から、前記ゴム成分中のスチレンブタジエンゴムの含有量は、60質量%以上であることが好ましい。また、高いレベルのグリップ力を維持する観点からは、前記ゴム成分中のスチレンブタジエンゴムの含有量は、100質量%以下であることが好ましい。
【0018】
なお、前記スチレンブタジエンゴムについては、乳化重合SBR、溶液重合SBRのいずれをも用いることができる。さらに、市販品を用いることもでき、要求される性能に応じて、適宜選択することができる。また、前記スチレンブタジエンゴムについては、変性したものであっても、未変性のものであってもよい。
【0019】
また、前記ゴム成分については、上述したスチレンブタジエンゴム以外にも、要求される性能に応じて、前記スチレンブタジエンゴム以外のゴム(以下、「その他のゴム成分」という。)を含むことができる。
その他のゴム成分については、特に限定はされず、目的に応じて適宜選択することが可能である。例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)イソプレンゴム(IR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ブチルゴム(IIR)等の非ジエン系ゴムが挙げられる。なお、前記その他のゴム成分については、変性したものであっても、未変性のものであってもよい。
【0020】
また、前記ゴム成分は、上述したその他のゴム成分の中でも、天然ゴムをさらに含有することが好ましい。より優れた耐摩耗性が得られるためである。
ここで、前記ゴム成分における天然ゴムの含有量については、特に限定はされないが、より優れた耐摩耗性が得られる観点からは、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。また、前記天然ゴムの含有量は、高いレベルの防滑性を維持する観点からは、50質量%以下であることが好ましい。
【0021】
(カーボンブラック)
本発明の義足ソール用ゴム組成物は、上述したゴム成分に加えて、カーボンブラックをさらに含む。
ここで、前記カーボンブラックについては、窒素吸着比表面積(N2SA)が110~149m2/gである。
N2SAが110~149m2/gであるカーボンブラックを用いることで、ゴム組成物の補強性と適度な柔軟性を両立することができ、防滑性を維持しつつ優れた耐摩耗性を得ることができる。
前記N2SAが149m2/gを超えると、加硫後のゴムの硬度が高くなるため、十分な防滑性を得ることができず、前記N2SA 110m2/g未満の場合には、ゴムの補強性が弱くなるため、十分な耐摩耗性を得ることができない。同様の観点から、前記カーボンブラックのN2SAは、110~149m2/gであることが好ましく、115~149m2/gであることがより好ましく、125~149m2/gであることが特に好ましい。
なお、前記窒素吸着比表面積については、ISO4652-1に準拠して単点法にて測定することができ、例えば脱気したカーボンブラックを液体窒素に浸漬させた後、平衡時においてカーボンブラック表面に吸着した窒素量を測定し、測定値から窒素吸着比表面積(m2/g)を算出できる。
【0022】
なお、前記カーボンブラックの種類については、上述したN2SAを有すること以外は、特に限定はされない。例えば、オイルファーネス法により製造された任意のハードカーボンを用いることができる。カーボンブラックの種類については、特に限定はされず、例えば、GPF、FEF、SRF、HAF、ISAF、IISAF、SAFグレード等のカーボンブラックを用いることができる。
【0023】
また、前記カーボンブラックについては、DBP(ジブチルフタレート)吸収量が80~160cm3/100gであることが好ましく、110~140cm3/100gであることがより好ましい。ストラクチャを適正範囲に収めたカーボンブラックを用いることで、ゴム組成物の補強性と防滑性をより高いレベル両立することができるためである。
なお、カーボンブラックのストラクチャとは、球状のカーボンブラック粒子がそれぞれ融着し、繋がった結果、形成された構造体(カーボンブラック粒子の凝集体)の大きさのことである。
また、前記カーボンブラックのDBP吸収量については、カーボンブラック100gが吸収するDBP(ジブチルフタレート)の量のことであり、JIS K 6217-4(2008年)に準拠して測定することができる。
【0024】
前記カーボンブラックの含有量については、前記ゴム成分100質量部に対して、50~90質量部である。防滑性を維持しつつ優れた耐摩耗性を得ることができるためである。
前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して50質量部未満の場合には、十分な耐摩耗性を得ることができず、一方、前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して90質量部を超えると、十分な防滑性を得ることができない。
同様の観点から、前記カーボンブラックの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、50~80質量部であることが好ましい。
【0025】
(熱可塑性樹脂)
本発明の義足ソール用ゴム組成物は、上述したゴム成分及びカーボンブラックに加えて、熱可塑性樹脂をさらに含むことが好ましい。
前記熱可塑性樹脂を含むことによって、ゴムの柔軟性を高めることができるため、本発明の義足ソール用ゴム組成物を義足のソールに用いた際、グリップ力を高め、より優れた防滑性を得ることができる。
【0026】
ここで、前記熱可塑性樹脂については、特に限定はされず、種々の天然樹脂及び合成樹脂を使用することができる。また、本発明の義足ソール用ゴム組成物を義足のソールに用いた際に、より優れた防滑性が得られる点からは、石油系樹脂、石炭系樹脂、フェノール系樹脂、ロジン系樹脂及びテルペン系樹脂、からなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましく、少なくともフェノール系樹脂を用いることがより好ましい。
【0027】
前記合成樹脂において、石油系樹脂は、例えば石油化学工業のナフサの熱分解により、エチレン、プロピレン等の石油化学基礎原料とともに副生するオレフィンやジオレフィン等の不飽和炭化水素を含む分解油留分を混合物のままフリーデルクラフツ型触媒により重合して得られる樹脂である。前記石油系樹脂としては、ナフサの熱分解によって得られるC留分を(共)重合して得られる脂肪族系石油樹脂(以下、「C系樹脂」と呼ぶことがある。)、ナフサの熱分解によって得られるC留分を(共)重合して得られる芳香族系石油樹脂(以下、「C系樹脂」と呼ぶことがある。)、前記C留分とC留分を共重合して得られる共重合系石油樹脂(以下、「C-C系樹脂」と呼ぶことがある。)、水素添加系やジシクロペンタジエン系等の脂環式化合物系石油樹脂、スチレン、置換スチレン又はスチレンと他のモノマーとの共重合体等のスチレン系樹脂等が挙げられる。
【0028】
ナフサの熱分解によって得られるC留分には、通常1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチル-1-ブテン等のオレフィン系炭化水素、2-メチル-1,3-ブタジエン、1,2-ペンタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,2-ブタジエン等のジオレフィン系炭化水素等が含まれる。また、C留分を(共)重合して得られる芳香族系石油樹脂は、ビニルトルエン、インデンを主要なモノマーとする炭素数9の芳香族を重合した樹脂であり、ナフサの熱分解によって得られるC留分の具体例としては、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、γ-メチルスチレン等のスチレン同族体やインデン、クマロン等のインデン同族体等が挙げられる。商品名としては、三井石油化学製ペトロジン、ミクニ化学製ペトライト、日本石油化学製ネオポリマー、東洋曹達製ペトコール等がある。
【0029】
さらに、本発明では、作業性の観点から、前記C留分からなる石油樹脂を変性した変性石油樹脂を好適に使用することができる。前記変性石油樹脂としては、不飽和脂環式化合物で変性したC系石油樹脂、水酸基を有する化合物で変性したC系石油樹脂、不飽和カルボン酸化合物で変性したC系石油樹脂等が挙げられる。
【0030】
また、水酸基を有する化合物としては、アルコール化合物やフェノール化合物等が挙げられる。アルコール化合物の具体例としては、例えば、アリルアルコール、2-ブテン-1,4ジオール等の二重結合を有するアルコール化合物が挙げられる。フェノール化合物としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、p-tert-ブチルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール等のアルキルフェノール類を使用できる。これらの水酸基を有する化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。また、水酸基を有するC系石油樹脂は、石油留分とともに(メタ)アクリル酸アルキルエステル等を熱重合して石油樹脂中にエステル基を導入した後、該エステル基を還元する方法、石油樹脂中に二重結合を残存又は導入した後、当該二重結合を水和する方法、等によって製造することができる。水酸基を有するC系石油樹脂としては、前記のように各種の方法により得られるものを使用できるが、性能面、製造面から見て、フェノール変性石油樹脂等を使用するのが好ましい。該フェノール変性石油樹脂は、C留分をフェノールの存在下でカチオン重合して得られ、変性が容易であり、低価格である。前記フェノール変性C系石油樹脂としては、例えば、ネオポリマー-E-130(新日本石油化学製)が挙げられる。
【0031】
さらに、前記不飽和カルボン酸化合物で変性したC系石油樹脂は、C系石油樹脂をエチレン性不飽和カルボン酸で変性することができる。かかるエチレン性不飽和カルボン酸の代表的なものとして、(無水)マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、テトラヒドロ(無水)フタール酸、(メタ)アクリル酸又はシトラコン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸変性C系石油樹脂は、C系石油樹脂及びエチレン系不飽和カルボン酸を熱重合することで得ることができる。本発明においては、マレイン酸変性C系石油樹脂が好ましい。不飽和カルボン酸変性C系石油樹脂としては、例えば、ネオポリマー160(新日本石油化学製)が挙げられる。
【0032】
また、ナフサの熱分解によって得られるC留分とC留分の共重合樹脂を好適に使用することができる。ここで、C留分としては、特に制限はないが、ナフサの熱分解によって得られたC留分であることが好ましい。具体的には、SCHILL&SEILACHER社製Struktolシリーズの、TS30、TS30-DL、TS35、TS35-DL等が挙げられる。
【0033】
なお、前記合成樹脂において、石炭系樹脂としては、クマロンインデン樹脂等が挙げられる。
また、前記合成樹脂において、フェノール系樹脂としては、アルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂及びそのロジン変性体、アルキルフェノールアセチレン系樹脂、変性アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂等が挙げられ、具体的にはノボラック型アルキルフェノール樹脂のヒタノール1502(日立化成工業社製)、p-tert-ブチルフェノールアセチレン樹脂のコレシン(BASF社製)等が挙げられる。
これらの合成樹脂の中で、配合されたゴム組成物の耐摩耗性の観点から、C留分とC留分の共重合樹脂、C留分を(共)重合して得られる芳香族系石油樹脂、フェノール系樹脂及びクマロンインデン樹脂が好ましい。
【0034】
前記天然樹脂において、ロジン系樹脂としては、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、変性ロジンのグリセリン、ペンタエリスリトールエステル等が挙げられる。
【0035】
また、前記天然樹脂において、テルペン系樹脂としては、α-ピネン系、β-ピネン系、ジペンテン系等のテルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水素添加テルペン樹脂等が挙げられる。
これら天然樹脂の中でも、加硫ゴム組成物の耐摩耗性の観点から、重合ロジン、テルペンフェノール樹脂、水素添加テルペン樹脂が好ましい。
【0036】
前記熱可塑性樹脂の含有量については、特に限定はされないが、本発明の義足ソール用ゴム組成物を義足のソールに用いた際に、耐摩耗性を低下させることなく、より優れた防滑性が得られる点から は、前記ゴム成分100質量部に対して5~40質量部であることが好ましく、8~35質量部であることがより好ましく、10~30質量部であることが特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂の含有量を、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以上とすることで、より優れた防滑性が得られ、前記ゴム成分100質量部に対して40質量部以下とすることで、耐摩耗性の低下を抑えることができる。
【0037】
(その他の成分)
本発明の義足ソール用ゴム組成物は、上述したゴム成分、カーボンブラック及び熱可塑性樹脂の他にも、その他の成分を、発明の効果を損なわない程度に含むことができる。
その他の成分としては、例えば、前記カーボンブラック以外の充填材、老化防止剤、架橋促進剤、架橋剤、架橋促進助剤、オイル、ステアリン酸、オゾン劣化防止剤、界面活性剤等のゴム工業で通常使用されている添加剤を適宜含むことができる。
【0038】
前記カーボンブラック以外の充填材としては、例えば、シリカ、その他の無機充填材等が挙げられる。
【0039】
前記シリカとしては、例えば、湿式シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。
上述した中でも、前記シリカは、湿式シリカであることが好ましく、沈降シリカであることがより好ましい。これらのシリカは、分散性が高く、ゴム組成物の低ロス性及び耐摩耗性をより向上できるためである。なお、沈降シリカとは、製造初期に、反応溶液を比較的高温、中性~アルカリ性のpH領域で反応を進めてシリカ一次粒子を成長させ、その後酸性側へ制御することで、一次粒子を凝集させる結果得られるシリカのことである。
また、前記水酸化アルミニウムとしては、ハイジライト(登録商標、昭和電工製)等を用いることが好ましい。
【0040】
なお、前記無機充填材としては、例えば、水酸化アルミニウム、クレー、アルミナ、タルク、マイカ、カオリン、ガラスバルーン、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、チタン酸カリウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
【0041】
前記老化防止剤としては、公知のものを用いることができ、特に制限されない。例えば、フェノール系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、アミン系老化防止剤等を挙げることができる。これら老化防止剤は、1種又は2種以上を併用することができる。
【0042】
前記架橋促進剤としては、公知のものを用いることができ、特に制限されるものではない。例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等のチアゾール系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラドデシルチウラムジスルフィド、テトラオクチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系加硫促進剤;ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛等のジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤;ジアルキルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0043】
前記架橋剤についても、特に制限はされない。例えば、硫黄、ビスマレイミド化合物等が挙げられる。
前記ビスマレイミド化合物の種類については、例えば、N,N’-o-フェニレンビスマレイミド、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、N,N’-p-フェニレンビスマレイミド、N,N’-(4,4’-ジフェニルメタン)ビスマレイミド、2,2-ビス-[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタンなどを例示することができる。本発明では、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド及びN,N’-(4,4’-ジフェニルメタン)ビスマレイミド等を好適に用いることができる。
【0044】
前記架橋促進助剤については、例えば、亜鉛華(ZnO)や脂肪酸等が挙げられる。脂肪酸としては、飽和若しくは不飽和、直鎖状若しくは分岐状のいずれの脂肪酸であってもよく、脂肪酸の炭素数も特に制限されないが、例えば炭素数1~30、好ましくは15~30の脂肪酸、より具体的にはシクロヘキサン酸(シクロヘキサンカルボン酸)、側鎖を有するアルキルシクロペンタン等のナフテン酸;ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸(ネオデカン酸等の分岐状カルボン酸を含む)、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)等の飽和脂肪酸;メタクリル酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸;ロジン、トール油酸、アビエチン酸等の樹脂酸などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明においては、亜鉛華及びステアリン酸を好適に用いることができる。
【0045】
また、前記充填材としてシリカを含有する場合には、シランカップリング剤をさらに含有することが好ましい。シリカによる補強性及び低ロス性の効果をさらに向上させることができるからである。なお、シランカップリング剤は、公知のものを適宜使用することができる。好ましいシランカップリング剤の含有量については、シランカップリング剤の種類などにより異なるが、シリカに対して、好ましくは2~25質量%の範囲であることが好ましく、2~20質量%の範囲であることがより好ましく、5~18質量%であることが特に好ましい。含有量が2質量%未満ではカップリング剤としての効果が充分に発揮されにくく、また、25質量%を超えるとゴム成分のゲル化を引き起こすおそれがある。
【0046】
前記オイルは、主に軟化剤として用いられる。本発明においては、本発明の義足ソール用ゴム組成物の耐摩耗性等の補強性を低下させない範囲で含有することもできる。
前記オイルの種類としては、従来公知のものが挙げられ、例えば、アロマティック油、ナフテニック油、パラフィン油等のプロセスオイルや、やし油等の植物油、アルキルベンゼンオイル等の合成油等がある。
なお、ここでいうオイルとは、軟化剤として添加するオイルであり、油展SBRに含まれるオイルや、ゴム組成物中に不可避的に含まれるオイルについては含まれない。
【0047】
なお、本発明の義足ソール用ゴム組成物では、前記SBRとして、非油展のSBR及び油展SBRのいずれも用いることができるが、優れた耐摩耗性を維持する点からは、ゴム組成物全体でのオイル量が、前記ゴム成分100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましい。
前記ゴム組成物全体のオイル量を調整する方法については、特に限定はされないが、例えば、油展SBRのオイル量を調整したり、上述した軟化剤としてのオイルの量を調整することによって行うことができる。
【0048】
<義足用ソール>
次に本発明の義足用ソールについて説明する。
本発明の義足用ソールは、上述した本発明の義足ソール用ゴム組成物を用いたことを特徴とする。
本発明の義足ソール用ゴム組成物を用いることによって、優れた防滑性及び耐摩耗性を実現できる。
【0049】
ここで、本発明用の義足用ソールについては、ソールを備えるあらゆる義足へ適用することができるが、本発明の優れた防滑性及び耐摩耗性をより効果的に発揮できる観点からは、競技用義足のような、板ばね(板ばね状の義足)に、直接又は間接的に装着されることが好ましい。
【0050】
図1は、本発明の一実施形態に係る義足用ソール5が装着された競技用義足1の側面図である。競技用義足1は、板ばね状の足部2を有し、該足部2の先端側の接地域にソール5が装着されている。
なお、図示は省略しているが、足部2の基端部は、アダプタを介してソケットに接続され、ソケットに着用者の足の断端を収容することによって、着用させることができる。アダプタ及びソケットは、大腿義足、下腿義足等、足の断端位置に応じたものが用いられる。図1は、競技用義足1を着用した着用者の直立状態における足部2及び義足用ソール5を示している。
【0051】
以下、本実施形態では、競技用義足の高さ方向(義足装着時の高さ方向)において、足部2がアダプタと接続される側を接続側といい、路面Sと接地する側を接地側という。また、競技用義足1の爪先Tとは、足部2が接続側から延びて終端する最先の点を指す。さらに、爪先Tから路面Sに平行に延在する方向を、義足進行前後方向という。さらに、足部2の幅方向にわたる向きを、幅方向Wという。
【0052】
本実施形態において、前記競技用義足1の足部2は、少なくとも1の湾曲部、図示例では1の湾曲部3を介して、爪先T側へ板状に延びる形状を有している。加えて、図1に示すように、前記足部2は、接続側から接地側へ順に、直線部2a、爪先T側へ凸の曲線部2b、義足進行前後方向後側へ凸の湾曲部3、接地側に凹の曲線部2c及び接地側に凸となる弧状に爪先T側に延びる接地部4から構成されている。ただし、前記競技用義足1については、競技の種類や、競技者の意志によって、図1に示した以外の形状を有する足部2とすることも可能である。
また、足部2の材質は限定されないが、強度及び軽量化の観点から、炭素繊維強化プラスチック等を用いることが好適である。
【0053】
前記足部の接地部4は、接地側に、爪先Tから湾曲部3側へ延在する接地域4sを有し、この接地域4sに義足用ソール5が装着されている。前記接地域4sは、競技用義足1を着用した着用者が直進走行動作を行った際に、路面Sと当接する全領域を指し、ソール5が装着された状態では、接地域4sは、ソール5を介して路面Sと当接する。
なお、義足用ソール5は、接地域4sに接着剤を介して装着されているが、装着手段は接着剤に限られず、ベルト等の締結具を用いて装着されてもよい。また、前記接着剤を介して義足用ソール5が接地域4sに装着される場合、接着剤は、少なくとも接地域4sを覆ように塗布されるが、端部の接着性を確保する観点からは、接地域4sから曲線部2cの方向へはみ出していてもよい。
さらに、本実施形態では、ソール5が接地域4sと直接当接して装着されるが、義足用ソール5と接地域4sとの間にクッション材(図示せず)が介在していてもよい。ここで、クッション材の材料としては、EVAやウレタン系樹脂を好適に用いることができる。
【0054】
本発明の義足用ソール5の一実施形態は、複数の凹凸からなるソール底面5sを有している。また、本実施形態では、図1に示すとおり、前記ソール底面5sが、爪先T側から湾曲部3側へ、弧X1及びX2が連なる形状を有しており、前記足部2の接地域4sの延在形状に従って形状を有している。なお、本実施形態では、前記足部2の接地域4sにおける、弧X1と弧X2とが、互いに異なる曲率半径を有しているが、同じ曲率半径を有していてもよく、また、接地域4sが弧状有していなくてもよい。
【0055】
また、本発明の義足用ソール5のソール底面(以下、「義足用ソールの底面」ということがある。)5sは、競技用義足1が着用され、着用者が直立した状態での、前記義足用ソールの底面5sと路面Sとの接点Cを通って、前記足部2の幅方向Wに延びる線を境界線CL(図3(a)及び(b)を参照。)としたとき、一方側と他方側で、異なる性能を備えている。ここで、前記義足用ソールの底面5sと路面Sとの接点Cは、着用者が直立に至る際に、最初に路面Sと接触する点である。前記着用者の直立状態とは、着用者が、一方のみが義足の場合は義足を着用しない健常足で、両方が義足の場合は一方の義足で体を支えた状態から、競技用義足1を路面Sに降ろして最初に路面Sと接触した状態を指す。
なお、前記義足用ソールの底面5sと路面Sとの接点Cは義足の形状や装着態様等によって決定されものである。(例えば、本実施形態では、図1Bに示すように、ソール底面5sの爪先Tを始端とする義足進行前後方向最大長さL1の60%~70%の点から幅方向Wに延びる領域に位置している。)つまり、後述する実験により得られた接地形態に関する知見により、前記義足用ソールの底面5sの境界線CLは、着用者の直立状態における路面Sとの接点である点Cが基準となる。
【0056】
上述した、本発明の義足用ソール5のソールの底面5sの接地形態の実験結果について、図2A図2Dを用いて、以下に説明する。ここで、図2A図2Dは、上記の構成を有する競技用義足1を着用した着用者が直進走行を行った場合における、足部2の動作とソール底面5sの接地形態を段階的に説明するための図である。各図面の上部は、競技用義足1の足部2及びソール5の側面図であり、各図面の下部は、競技用義足1を着用した着用者が直進走行動作を行った際の、前記義足用ソールの底面5sの接地形態の変遷を示している。
【0057】
接地形態の実験結果について、図2Aは、着用者が持ち上げた競技用義足1を路面Sに降ろし、全体重が競技用義足1に負荷された状態を示している。図面の下部に示すとおり、ソール底面5sの、点Cよりも湾曲部3側が接地している。
また、図2Bは、図2Aの後に、着用者が全体重を競技用義足1に負荷したままで、踏み込んだ状態を示す図である。図2Bから、健常者の走行の場合、靴のソールの底面は、ソールの踵側から爪先側に向けて順に接地していく踏み込み形態が一般的であるが、競技用義足1の場合、前記義足用ソールの底面5sは、最初に接地したところから、爪先T側とは逆の湾曲部3側で路面Sと接触していることがわかる。
さらに、図2Cは、図2Bの後に、着用者が、競技用義足1を着用した側と反対の足を前方に振り出し、競技用義足1の蹴り出し動作を開始した状態を示す図である。図2Cから、蹴り出し動作に入ると、競技用義足1では、前記義足用ソールの底面5sの、点Cよりも爪先T側で路面Sと接触していることがわかる。
さらにまた、図2Dは、図2Cの後に、着用者が競技用義足1を路面Sから離して蹴り出す、離陸直前の状態を示す図である。図2Dから、前記義足用ソールの底面5sの爪先Tから蹴り出すために、図2Cよりもさらに爪先T側で接地していることがわかる。
【0058】
そして、上述した図2A図2Dに示す結果を踏まえ、本発明の一実施形態に係る義足用ソール5では、図3(a)及び(b)に示すように、前記義足用ソールの底面5sを、前記競技用義足を着用した着用者が直立した状態での、前記義足用ソールの底面5sと路面との接点Cを通って前記足部の幅方向に延びる線を境界線CLとして、湾曲部側Q1と爪先側Q2とに分割した。
さらに、本発明の一実施形態に係る義足用ソール5では、より高いレベルで防滑性と耐摩耗性とを両立できる観点から、前記境界線CLよりも前記湾曲部側Q1のネガティブ比率が35~80%であり、且つ、前記境界線CLよりも前記爪先側Q2のネガティブ比率が55%以下(0%も含む)であることが好ましい。
【0059】
前記義足用ソールの底面5sの湾曲部側Q1は、図2A及び図2Bに示しているように、着用者が最初に着地し、全体重が競技用義足1に負荷された状態で踏み込み動作を行う領域である。そのため、着用者が競技用義足1に全体重を負荷しても体全体のバランスを保つため、路面Sと十分にグリップし、高い防滑性を実現することが重要である。
一方、前記義足用ソールの底面5sの爪先側Q2は、着用者が、競技用義足1を着用した側と反対の足を前方に振り出し、競技用義足1の蹴り出し動作を行うための領域である。爪先側Q2は、爪先Tに向けて順に接地し、着用者がソール底面5sで路面Sを押して滑らせるように接地していくため、特に摩耗が進展しやすい領域となっていた。そのため、前記義足用ソールの底面5sの爪先側Q2は、耐摩耗性能を湾曲部側Q1よりも高める必要がある。
したがって、前記境界線CLよりも前記湾曲部側Q1のネガティブ比率(35~80%)を、前記爪先側Q2のネガティブ比率(55%以下)よりも大きくなることで、防滑性と耐摩耗性のいずれも向上させることができる。
【0060】
ここで、ネガティブ比率とは、凹凸を有する前記義足用ソールのソール底面5sの平面視での総面積中における、路面Sに対して凹となる部分の平面視での面積の割合を指す。上記構成により、走行時に高い推進力を発揮させることができる。
【0061】
さらに、前記義足用ソールの底面5sについては、図3(b)に示すように、前記義足用ソールの底面5sの湾曲部側Q1及び爪先側Q2を、それぞれさらに義足進行前後方向に二分割することがより好ましい。
具体的には、前記義足用ソールの底面5sの湾曲部側Q1のうち、義足進行前後方向最大長さL1の中心M1よりも爪先T側の部分Q1-1のネガティブ率が40~80%、湾曲部側Q1の他の部分Q1-2のネガティブ率が35~60%であり、前記義足用ソールの底面5sの爪先側Q2のうち、より爪先側に位置する部分Q2-1のネガティブ率が、0~15%、より湾曲部側に位置する部分Q2-2のネガティブ率が、25~55%であることが、特に好ましい。
【0062】
前記義足用ソールの底面5sの湾曲部側Q1については、義足進行前後方向最大長さL1の中心M1よりも爪先T側の部分Q1-1は、最初に着地する領域であり、着用者が体のバランスを取るために、確実にスリップを防止することが必要である。よって、前記義足用ソールの底面5sの湾曲部側Q1の他の部分Q1-2よりも、ネガティブ率を高かめ、より高い排水性能を備えることによって、より確実にスリップを防止し、さらに安定した走行を実現することができる。また、前記義足用ソールの底面5sの湾曲部側Q1において、義足進行前後方向最大長さL1の中心M1よりも湾曲部側の部分Q1-2は、競技用義足1において、最初に接地した部分Q1-1よりも湾曲部3側、即ち進行方向とは反対側に接地部分が変遷している。義足進行前後方向最大長さL1の中心M1よりも湾曲部側の部分Q1-2では、着用者が前に進もうとする上半身の動きと、接地部分の動きとが一時的に逆になっており、接地形態の後半の蹴り出し動作に向けて、高い推進力が必要となる。そこで、まず、部分Q1-2については、部分Q1-1よりも高い剛性を備えることが肝要である。部分Q1-2において、部分Q1-1よりも高い剛性を備えることによって、踏み込み動作を蹴り出し動作にスムーズに繋げ、高い推進力を実現することができる。
一方、前記義足用ソールの底面5sの爪先側Q2については、図1における、爪先Tから一定の曲率半径で連続する弧X1に対応する。前記義足用ソールの底面5sの爪先側Q2のうち、より爪先側に位置する部分Q2-1は、競技用義足1を着用した着用者が、蹴り出し動作を行う際に、最後に接地して、より激しい摩耗が発生する傾向があった。よって、より湾曲部側に位置する部分Q2-1では、特に高い耐摩耗性能を有する必要がある。即ち、前記義足用ソールの底面5sの爪先側Q2において、部分Q2-1は、残りの部分Q2-2よりも高い耐摩耗性能を備えることによって、激しい摩耗からソール5を保護し、使用寿命を効果的に長期化することができる。
【0063】
上述したネガティブ比率を変えるための具体的手段については、特に限定はされず、例えば、前記義足用ソールの底面5sに形成された溝等による、凹凸からなるパターンを用いる方法が挙げられる。以下に、ソール底面5sの凹凸からなるパターンによってガティブ比率を変える場合について説明する。図4は、本発明の義足用ソール5の、底面5sのパターンの一例を示した図である。
【0064】
図4で示された 義足用ソールの底面5sは、Q10に、ソール底面500sに凹溝を形成することによって、平面視にて正方形の角が丸められた形状を有する、陸部15が複数区画されている。また、接地領域Q10には、陸部15よりも湾曲部3側に、陸部16a及び16bが配置されている。陸部16a及び16bは、ソール底面500sに凹溝を形成することによって、平面視にて正方形の角が丸められた形状を有し、陸部15よりも平面視における面積が大きい。また、陸部16aよりも陸部16bの方が平面視における面積が大きい。さらに、爪先側部Q2にも、陸部16a及び陸部16bと同様の形状を有する陸部17a及び17bが区画されている。さらに、爪先側部Q2の、陸部17a及び17bよりも爪先T側には、平面視にて矩形の角が丸められた形状を有する陸部18aが形成され、陸部18aよりも爪先T側に、爪先T側に向かうにつれて溝の深さが漸減する態様で、半陸部18bが区画されている。また、半陸部18bよりも爪先T側に、幅方向Wに対して傾斜する直線溝19a及び19bが、幅方向Wに沿って連続して複数配置されている。直線溝19aと、直線溝19bとは、幅方向Wに対して逆の向きに傾斜している。
上述したパターンを有することで、前記義足用ソールの底面5sは、前記境界線CLよりも前記湾曲部側Q1のネガティブ比率が、前記爪先側Q2のネガティブ比率よりも大きくなる。
【実施例
【0065】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
<サンプル1-1~1-9>
表1に示す条件で、義足ソール用ゴム組成物の各サンプルを調製した。なお、各成分の配合量については、ゴム成分100質量部に対する量(質量部)で示している。
【0067】
<評価>
(1)耐摩耗性
義足ソール用ゴム組成物の各サンプルを、160℃15分で加硫処理した後、ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温の条件下、スリップ率が80%での摩耗量を測定し、その逆数を算出した。
評価については、表1に示す組成の基準ゴム組成物を用い、基準のゴム組成物に想定される摩耗量の逆数を100としたときの指数で表示し、指数値が大きい程、摩耗量が少なく耐摩耗性に優れることを示す。評価結果を表1に示す。
【0068】
(2)ウェットグリップ性(防滑性)
義足ソール用ゴム組成物の各サンプルを、160℃15分で加硫処理した後、長径40mm、短径20mmの測定冶具に合うように切り出し、測定冶具に固定した状態で、湿潤鉄板路面上に押し付けて往復させるときに発生する摩擦力をロードセルで測定し、動摩擦係数を算出した。なお、摩擦力を測定した際の温度は15℃とした。
評価については、表1に示す組成の基準ゴム組成物を用い、基準のゴム組成物に想定される抵抗値を100としたときの指数で表示し、指数値が大きい程、ウェットグリップ性が高く、防滑性に優れることを示す。評価結果を表1に示す。
【0069】
(3)総合評価
上述した、(1)耐摩耗性、及び、(2)ウェットグリップ性の指数値を合計したものを、総合評価指標値とし、以下の基準に従って評価した。評価結果を表1に示す。
◎:耐摩耗性及びウェットグリップ性のいずれについても、指数値が105以上である。
○:耐摩耗性及びウェットグリップ性のいずれについても100以上であり、且つ、いずれか一方の指標値が105以上である。
△:耐摩耗性又はウェットグリップ性のいずれか一方の指数値が105以上であるが、他方の指数値が100以下である。
×:耐摩耗性及びウェットグリップ性のいずれについても、指数値が100以下である。
【0070】
(4)ウェットグリップ性(使用者からの評価)
サンプル1-5(本発明例)の義足用ゴム組成物を用いて作製した義足用ソールを、定法に従って義足に貼り付けた。その後、義足を装着し、マンホールの上等の湿潤鉄板路面、横断歩道の白線、石畳上を走行歩行し、官能評価を行った。また、参考として、市販のソールを、情報に従って義足に貼り付けた後、同様の官能評価を行った。
評価については、いずれの路面状況においても滑る不安を感じなかったものを「A」とし、いずれかの路面において少し滑る不安を感じたものを「B」とし、いずれかの路面において滑ってバランスを崩すおそれを感じたものを「C」評価とした。評価結果を表2に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
*1:RSS#3
*2:油展スチレンブタジエンゴム、JSR社製「JSR0150」
*3:昭和キャボット製「ショウブラック N134」、N2SA 146m2/g
*4:昭和電工社製「ハイジライト H-43M」
*5:マイクロクリスタリンワックス、日本精蝋社製「オゾエース0280」
*6:老化防止剤は、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(大内新興化学工業社製「ノクラック6C」)を含有する
*7:加硫促進剤は、1,3-ジフェニルグアニジン(大内新興化学工業社製「ノクセラーD」)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(大内新興化学工業社製「ノクセラー CZ-G」)及びジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド(大内新興化学工業社製「ノクセラーDM-P」)を含有する
*10:石油系炭化水素プロセスオイル、出光興産社製、商品名「DAIANA PROCESS OIL NS-28」
*11:C-C系樹脂、東ソー社製「ペトロタック90」
*12:ロジン系樹脂、ハリマ化成社製「ハリタックAQ-100B」
*13:フェノール系樹脂、BASF社製
*14:C系樹脂、日本ゼオン社製「クイントンA100」
*15:芳香族系石油樹脂、日石ネオポリマー社製「日石ネオポリマー 140」
*16:テルペンフェノール樹脂、ヤスハラケミカル社製「YSポリスターS145」
*17:ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、エスアンドエスジャパン社製「VP1405」
*18:ハイシスブタジエンゴム、日本ゼオン社製「Nipol BR1220N」
【0074】
表1の結果から、本発明例に該当するサンプルについては、比較例のサンプルに比べて、総合評価が高く、耐摩耗性と防滑性とがより高いレベルで両立できていることがわかった。また、表2の結果から、本発明例のサンプルを用いた義足用ソールは、使用者に防滑性に優れる評価を与えることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、義足のソールに用いた際、防滑性及び耐摩耗性を向上させることができる義足ソール用ゴム組成物、並びに、防滑性及び耐摩耗性に優れた義足用ソール、を提供できる。
【符号の説明】
【0076】
1:競技用義足
2:足部、 2a:直線部、 2b、2c:曲線部
3:湾曲部
4:接地部、 4s:接地域
5:義足用ソール、 5s、500s:義足用ソールの底面
15、16a、16b、17a、17b、18a:陸部、 18b:半陸部
19a、19b:直線溝
X1、X2:弧
Q1、Q1-1、Q1-2:湾曲部側部、 Q2、Q2-1、Q2-2:爪先側部
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4