(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】電気活性ポリマーデバイスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/04 20060101AFI20230911BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
H01B1/04
H01B13/00 503Z
(21)【出願番号】P 2020520296
(86)(22)【出願日】2018-10-10
(86)【国際出願番号】 EP2018077611
(87)【国際公開番号】W WO2019072922
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-10-08
(32)【優先日】2017-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506364042
【氏名又は名称】シングル・ブイ・ムーリングス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】タイネ、エマニュエル
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0313588(US,A1)
【文献】国際公開第2012/108371(WO,A1)
【文献】特開2016-018712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/04
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電エラストマー層と、前記誘電エラストマー層の第1の表面上に配置された少なくとも1つの電極層とを備える電気活性ポリマー層構造を製造するための方法であって、前記方法は、
-前記誘電エラストマー層を設けることと、
-前記誘電エラストマー層の前記第1の表面上に導電性材料の層を塗布することと
を備え、
前記導電性材料の層が、凝集したグラフェン系ナノプレートレットからなり、前記ナノプレートレットが、グラフェン分子格子面に実質的に平行な2つの主表面の間で平坦化された形状を有することと、および
前記方法が、
-前記ナノプレートレットの前記グラフェン分子格子面が前記誘電エラストマー層の前記第1の表面と実質的に平行になるように、前記ナノプレートレットの前記主表面が前記誘電エラストマー層の前記第1の表面と実質的に平行になっている状態で、前記グラフェン系ナノプレートレットを前記誘電エラストマー層の前記第1の表面上で配向させることによって、前記塗布された層における前記グラフェン系ナノプレートレットのテクスチャを得ること
-前記第1の表面に実質的に平行な方向に、繰り返し、前記電気活性ポリマー層構造を緊張させ、および、その後、前記電気活性ポリマー層構造を弛緩させることによって、サイクリックな機械力に前記電気活性ポリマー層構造を曝露させること
を備えることと
を特徴とする、方法。
【請求項2】
前記方法は、
-前記第1の表面とは反対側の、前記誘電エラストマー層の第2の表面上に、グラフェン系ナノプレートレットの第2の層を塗布することと、
-前記ナノプレートレットの前記主表面が前記第2の表面と実質的に平行になっている状態で、前記グラフェン系ナノプレートレットを前記誘電エラストマー層の前記第2の表面上で配向させることによって、前記塗布された第2の層における前記グラフェン系ナノプレートレットのテクスチャを得ることと
を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グラフェン系ナノプレートレットを前記配向させるステップは、
-グラフェン系ナノプレートレットの前記塗布された層上にスプレッディングツールを配置し、前記スプレッディングツールが前記誘電エラストマー層の表面にわたって移動するように、前記スプレッディングツールとグラフェン系ナノプレートレットの層とを互いに対して相対的に変位させること、ここで、前記スプレッディングツールは、スクレーパ、スプレッダ、ドクターブレード、および回転シリンダを備える群から選択される、
を備えるプロセスによって行われ、
前記プロセスは、前記誘電エラストマー層の前記表面にわたる前記スプレッディングツールの相対的な変位中に、前記スプレッディングツールによって、前記塗布された層に圧力を加えることをさらに備える、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記グラフェン系ナノプレートレットの層を前記塗布するステップは、溶媒中のグラフェン系ナノプレートレットの溶液を前記表面上に噴霧し、前記溶液を乾燥させることと、グラフェン系ナノプレートレット粉末を前記表面上に散布することとを備える群から選択されるプロセスによって行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記グラフェン系ナノプレートレットの層を前記塗布するステップおよび前記グラフェン系ナノプレートレットを前記配向させるステップは、フラットスタンプを使用するスタンピングプロセスによって行われ、前記スタンピングプロセスは、
-前記フラットスタンプの作業面上にグラフェン系ナノプレートレットの層を収集することと、
-前記作業面によって、前記誘電エラストマー層の前記表面に、前記グラフェン系ナノプレートレットの収集された層を押すことと、
-次に、前記ナノプレートレットを移すために、前記誘電エラストマー層の前記表面に沿って前記作業面を相対的に移動させ、および、その後、前記誘電エラストマー層から前記作業面を持ち上げることと
を備える、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、
-事前配向されたグラフェン系ナノプレートレット層に接触させるために、前記表面上に電気的接続を作製すること
を備える、先行する請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記配向されたグラフェン系ナノプレートレット層の上にエラストマー被覆層を作製することをさらに備える、先行する請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記エラストマー被覆層の前記作製は、前記配向されたグラフェン系ナノプレートレット層を液体エラストマー前駆体の層で覆うことと、前記エラストマー被覆層を形成するために、前記液体エラストマー前駆体の層を硬化させることとを備える、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記配向されたグラフェン系ナノプレートレット層の電気抵抗率を測定し、前記電気抵抗率が定常状態閾値レベルに達するまで、前記サイクリックな機械力を継続することを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
弾性歪みλが前記電気活性ポリマー層構造の緊張した長さと、弛緩した長さとの比率として定義され、ここにおいて、前記弾性歪みλは1.
4から1.8までの間である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気活性ポリマーデバイスに関する。また、本発明は、そのような電気活性ポリマーデバイスを製造するための方法に関する。
【先行技術】
【0002】
電気活性ポリマー(EAP:electro-active polymer)ベースのデバイスを使用する電気機械エネルギー変換システムは、例えば、WO2010/146457に開示されている。
【0003】
このようなEAPベースのデバイスは、誘電エラストマーキャリア層を備える。誘電エラストマー層の表面上に電極層が配置される。EAPベースのデバイスは、EAP材料の層に作用する変形量の関数として静電容量が変化する可変キャパシタとみなされ得る。外力により、電気活性ポリマー材料は延伸され得、これは、電極層間の距離の減少を生じさせる。外力が減少し、電気活性ポリマー層が弛緩すると、距離は再び増大する。
【0004】
実質的に最大の変形においてキャパシタに電荷を印加し、最小の変形において電荷を除去することによって、EAPベースのデバイスからエネルギーが得られ得る。
【0005】
金属、金属酸化物、半導体、グラフェン、カーボンナノチューブ、およびこれらの組合せの層を備える、様々なタイプの電極層が知られている。
【0006】
典型的に、電気活性ポリマー材料は、元の寸法の80%以上までの比較的高いレベルまで延伸され得る。電気活性ポリマー材料における金属層は、エラストマーキャリア層の比較的低い延伸率で塑性変形および亀裂を示し、比較的少ない回数の延伸サイクル中に強く劣化する。この理由により、半導体、グラフェン、カーボンナノチューブなどの他の導電性材料は、電極層として金属に代わる候補として研究の対象となっている。
【0007】
本発明の目的は、比較的高い変形を伴う機械的サイクリングへの曝露中に安定した機械的および電気的性能を提供するグラフェン系電極層を有する電気活性ポリマー材料を提供することである。
【発明の概要】
【0008】
この目的は、誘電エラストマー層と、誘電エラストマー層の第1の表面上に配置された少なくとも1つの電極層とを備える電気活性ポリマー層構造を製造するための方法によって達成される。方法は、-誘電エラストマー層を設けることと、-誘電エラストマー層の第1の表面上に導電性材料の層を塗布することと、を備え、ここにおいて、導電性材料の層は、凝集したグラフェン系ナノプレートレットからなり、ナノプレートレットは、グラフェン分子格子面に実質的に平行な2つの主表面の間で平坦化された形状を有し、ここにおいて、方法は、-ナノプレートレットのグラフェン分子格子面が誘電エラストマー層の第1の表面に実質的に平行になるように、ナノプレートレットの主表面が誘電エラストマー層の前記第1の表面と実質的に平行になっている状態で、グラフェン系ナノプレートレットを誘電エラストマー層の前記第1の表面上で配向させることによって、塗布された層におけるグラフェン系ナノプレートレットのテクスチャを得ること、を備える。
【0009】
有利には、方法は、グラフェン系ナノプレートレットが、電気活性ポリマー材料の延伸方向に対して実質的に望ましい配向を得ることを提供し、これにより、電極層の電気抵抗率(electrical resistivity)の低減がもたらされ、さらに、電極層内のグラフェン系ナノプレートレットの機械的に安定した配置がもたらされる。結果として、本発明の電極層は、より耐久性が高い。
【0010】
一態様によれば、方法は、第1および第2の表面の平面に実質的に平行な方向に、繰り返し、電気活性ポリマー層構造を緊張させ(straining)、および、その後、電気活性ポリマー層構造を弛緩させることによって、サイクリックな機械力に電気活性ポリマー層構造を曝露させることをさらに備える。
【0011】
このサイクリックな緊張と弛緩に曝露されたグラフェン系電極層のシート抵抗率は、いくつかのサイクル後に定常値に近づくことが観測される。
【0012】
電極層のシート抵抗率は、電極層におけるグラフェン系ナノプレートレットの分布および配向に関連するので、サイクリックな緊張への電気活性ポリマー層構造の曝露は、誘電エラストマー層の表面に沿っておよび緊張方向に沿って電極層の好ましいテクスチャを有益に向上させる。
【0013】
有利な実施形態は、従属請求項によってさらに定義される。
【0014】
本発明は、その例示的な実施形態が示される図面を参照して、以下でより詳細に説明される。これら図面は、例示目的のみを意図しており、本発明の概念を制限するものではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲に示される定義によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】
図2は、本発明の実施形態による、電気活性ポリマー層構造の電極層を形成する材料の概略図を示す。
【
図3】
図3は、製造の第1段階中の電気活性ポリマー層構造の断面を示す。
【
図4】
図4は、製造のさらなる段階中の電気活性ポリマー層構造の断面を示す。
【
図5A】
図5Aは、本発明の実施形態によるグラフェン系ナノプレートレット層を加工するためのツールを概略的に示す。
【
図5B】
図5Bは、本発明の実施形態によるグラフェン系ナノプレートレット層を加工するためのツールを概略的に示す。
【
図5C】
図5Cは、本発明の実施形態によるグラフェン系ナノプレートレット層を加工するためのツールを概略的に示す。
【
図5D】
図5Dは、本発明の実施形態によるグラフェン系ナノプレートレット層を加工するためのツールを概略的に示す。
【
図5E】
図5Eは、本発明の実施形態によるグラフェン系ナノプレートレット層を加工するためのツールを概略的に示す。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態による電気活性ポリマー層構造の断面を示す。
【
図7A】
図7Aは、本発明の実施形態による電気活性ポリマー層構造の電極層の抵抗率の例を、機械的歪みの関数として示す。
【
図7B】
図7Bは、本発明の実施形態による電気活性ポリマー層構造の電極層の抵抗率の例を、緊張サイクルの回数の関数として示す。
【実施形態の詳細な説明】
【0016】
【0017】
図1Aには、2つの電極層3、4の間に狭装された誘電エラストマー層2を備える電気活性ポリマー層構造1の断面が示される。電気活性ポリマー層構造は、可変キャパシタとして機能し得る。
【0018】
図1Bに示されるように、引張力Fが層2の平面に平行な方向に電気活性ポリマー層構造1に対して加えられた場合、誘電エラストマー層2は延伸され、電極は、延伸された誘電エラストマーに追従するように強制される。比較のために、緊張のない状態の電気活性ポリマー層構造が、破線の輪郭線(dashed contour line)によって示される。
【0019】
力Fにより、誘電エラストマー層は、延伸方向に対して垂直な方向に収縮し、したがって、誘電エラストマー層の厚さは減少する。結果として、2つの電極層間の距離も低減し、電気活性ポリマー層構造の静電容量が増大する。力Fが取り除かれると、誘電エラストマー層は弛緩し、その元の厚さおよび寸法に戻る。それに応じて、静電容量が低減する。この原理に基づいて、電気活性ポリマー層構造は、電圧が電極層に印加されたときに、機械エネルギーを電気エネルギーに変換するために使用され得、逆もまた同様である(例えば、本出願人によって所有されるPCT/EP2013/059463を参照)。
【0020】
図2は、本発明の実施形態による、電気活性ポリマー層構造の電極層を形成する材料の概略図を示す。
【0021】
本発明によれば、電気活性ポリマー層構造は、グラフェン系ナノプレートレットを備える材料の少なくとも1つの電極層を有する。
【0022】
このようなグラフェン系ナノプレートレットは、典型的に、2つの実質的に平行な主表面の間でフレークまたはプレートレットのような平坦化された形状を有し、ここで、矩形ブロックSとして概略的に図示される。
【0023】
グラフェン材料は、ここで、「グラフェン分子格子」Lとして示される結晶学的な2次元六方晶炭素格子を有する炭素系物質であり、グラフェン系ナノプレートレットにおけるその配向に関して、ここで概略的に図示される。グラフェン粒子は、少なくとも単一の(single one)「グラフェン分子格子」Lまたは積み重ねられた複数の「グラフェン分子格子」の層状構造からなる。
【0024】
グラフェン系ナノプレートレットの層状構造により、「グラフェン分子格子」は、ナノプレートレットの主表面に平行に延在し、主表面と同一平面上にある。グラフェンは、グラフェン分子格子面に沿った方向に導電性である。
【0025】
図3は、本発明の実施形態による、製造の第1段階中の電気活性ポリマー層構造の断面を示す。
【0026】
製造中、グラフェン系ナノプレートレットPの層L1が、誘電エラストマー層2の少なくとも1つの表面S1上に塗布される。グラフェン系ナノプレートレットのプレート状の形状により、塗布後、誘電エラストマー層2の表面S1に対するプレートレットPの配向はランダムであるとともに、グラフェン分子格子の配向と誘電エラストマー層の表面との間の角度αが、垂直
【0027】
【0028】
方向と、平行
【0029】
【0030】
方向との間で変動する。グラフェン系ナノプレートレットの分布は、
図3の挿入図に概略的に示される。誘電エラストマー層の表面に沿った伝導性は、プレートレットPのこのようなランダムな分布に対して乏しい傾向にあることに留意されたい。
【0031】
必要に応じて、除去可能なマスクが、グラフェン系ナノプレートレットの層を塗布する前に、誘電エラストマー層上に配置され得る。このようにして、グラフェン系ナノプレートレット層がパターニングされ得る。
【0032】
電気的接続としてグラフェン系ナノプレートレット層に外部接触端子を設けるために、接触電極(図示せず)が、誘電エラストマー層の表面上に作製され得ることが理解されるであろう。好ましくは、電気的接続は、グラフェン系ナノプレートレットの層が塗布される前に、誘電エラストマー層上に作製される。例えば、電気的接続は、誘電エラストマー層上に蒸着、印刷、または塗装され得る。後に電気的接続を作製または付着させる(apply)ことも実現可能であり得る。
【0033】
図4は、製造の第2段階またはさらなる段階中の電気活性ポリマー層構造の断面を示す。
【0034】
後続のステップにおいて、方法は、電極層L1がテクスチャ化されること、すなわち、プレートレットが、グラフェン分子格子Lの平面が方向
【0035】
【0036】
に沿って誘電エラストマー層の表面S1と実質的に平行になっている状態で、優先的に配向されるようになることを備える。グラフェン系ナノプレートレットのテクスチャ化された層3を得るステップは、スプレッディングツール(spreading tool)と接触しているグラフェン系ナノプレートレット含有表面に圧力が加えられながら、グラフェン系ナノプレートレットの塗布された層L1上を相対的に移動するスプレッディングツールを用いて層を加工することによって行われる。代替として、スプレッディングツールが静止状態にあり、グラフェン系ナノプレートレット材料の層を含む誘電体層が、スプレッディングツールに対して移動することが理解されるであろう。
【0037】
加工の結果として、プレートレットPは、それらの主表面が誘電エラストマー層の表面に平行な状態で配置される。また、プレートレットは、互いの上に積み重ねられ、誘電エラストマー層の表面と平行な相互接続を形成する。有利には、電極層におけるグラフェン系ナノプレートレットのこの構造は、連続的な導電路が誘電エラストマー層の表面に沿って利用可能であることを提供する。プレートレットの分布は、
図4の挿入図に概略的に示される。
【0038】
加工後、全ての遊離したまたは余分なグラフェン材料が取り除かれ、これは、誘電エラストマー層上に付着したグラフェン層を残す。付着したグラフェン層は、少なくとも約5nmから約2~10μmまでの厚さを有する。
【0039】
加工は、グラフェン系ナノプレートレットが、それらの長手方向軸がスプレッディングツールによる加工の方向に平行な状態で、実質的に整列されるようになることもたらし得る。
【0040】
図5A~
図5Eは、本発明の実施形態によるグラフェン系ナノプレートレット層を加工するためのツールを概略的に示す。
【0041】
図5Aおよび
図5Bは、グラフェン系ナノプレートレットを塗布するためのフラットスタンプツール20を概略的に示す。スタンプツールは、平坦な作業面(flat working surface)を有する。第1段階中、平坦な作業面は、作業面がグラフェン系ナノプレートレットの層を収集するように、グラフェン系ナノプレートレットPの粉末にさらされる。
図5Bに示されるように、次の段階中、フラットスタンプツール20の作業面は、グラフェン系ナノプレートレットを誘電エラストマー層と接触させるために、誘電エラストマー層2の表面に圧力Fzで押し付けられる。次いで、フラットスタンプツール20は、グラフェン系ナノプレートレットを誘電エラストマー層の表面に移すために、誘電エラストマー層の表面に沿って方向Mに移動される。フラットスタンプツールの移動中、圧力Fzは維持される。次に、スタンプツールは、誘電エラストマー層の表面から外される。
【0042】
図5Cは、誘電エラストマー層の表面上にグラフェン系ナノプレートレットを塗布するためのツール22を概略的に示す。塗布ツール22は、スプレーガンまたはスプレッダであり得る。スプレーガンは、方向Mに移動しながら、液体とグラフェン系ナノプレートレットPとを含有する懸濁液を噴霧するように構成される。スプレッダは、グラフェン系ナノプレートレットPの粉末を散布するように構成される。
【0043】
懸濁液が誘電エラストマー層上にグラフェン系ナノプレートレットの層を塗布するために使用される場合、液体は、グラフェン系ナノプレートレットを配向させるステップの前に、蒸発によって取り除かれる。
【0044】
図5Dは、グラフェン系ナノプレートレットが誘電エラストマー層2上に(噴霧、散布などを介して)塗布された後に、グラフェン系ナノプレートレットPを誘電エラストマー層の表面に沿って配向させるためのスクレーパまたはスプレッディングツール23を概略的に示す。
【0045】
グラフェン系ナノプレートレットの塗布された層上で、表面に沿ってスクレーパ23のエッジを移動させることによって、スクレーパは、ナノプレートレットに何らかの圧力Fzを加え、これにより、ナノプレートレットは、全体として、ナノプレートレットのグラフェン分子格子面が表面と実質的に平行になるように、ナノプレートレットの主表面が誘電エラストマー層の表面と実質的に平行な状態で、表面と整列されるようになる。
【0046】
図5Eは、グラフェン系ナノプレートレットPを配向させるための回転シリンダ24を概略的に示す。回転シリンダは、その回転軸が表面に平行な状態で、塗布された層上に配置される。塗布された層におけるグラフェン系ナノプレートレットを配向させるために、シリンダ24は、反対方向に回転しながら、表面に沿って方向Mに相対的に移動し、塗布された層の表面に何らかの圧力Fzを加える。
【0047】
代替として、その上にグラフェン系ナノプレートレットの塗布された層を有する誘電エラストマーが、固定されたローラー、スクレーパ、またはスプレッディングツールに対して移動され得、誘電エラストマーの表面に関して圧力Fzによってグラフェン系ナノプレートレットを配向させるのと同じ効果を有する。
【0048】
追加の効果は、一定の圧力および方向下でのグラフェン系ナノプレートレットの事前配向(pre-orientation)によって、グラフェン系ナノプレートレット間に閉じ込められた空気も除去され、その結果、グラフェン系ナノプレートレット層がより高密度になることである。別の誘電体層または保護層が、グラフェン系ナノプレートレットの緻密な事前配向された層上に加えられるとき、より少ない空気がこれら層間に閉じ込められ、例えば、液体シリコーン層がグラフェン層の上に直接加えられるケースでは、架橋後にシリコーン層に閉じ込められている気泡は少なくなるかまたはなくなる。
【0049】
図6Aおよび
図6Bは、本発明のそれぞれの実施形態による電気活性ポリマー層構造の断面を示す。
【0050】
図6Aに示される実施形態では、電気活性ポリマー層構造は、積み重ねられた層を備える。誘電エラストマー層2は、キャリア層として配置されている。誘電エラストマー層の第1の表面上に、第1のグラフェン系ナノプレートレット層3が配置され、これは、第1のエラストマー被覆層(first cover elastomer layer)5によって覆われている。第1の表面の反対側の、誘電エラストマー層の第2の表面上に、第2のグラフェン系ナノプレートレット層4が配置され、これは、第2のエラストマー被覆層6によって覆われている。
【0051】
第1および第2のグラフェン系ナノプレートレット層の一方にそれぞれ接触する接触電極層(図示せず)などの他の層が存在し得る。
【0052】
図6Bに示される実施形態では、電気活性ポリマー層構造は、誘電エラストマー層2と1つのグラフェン系ナノプレートレット層3からなり、ここで、誘電エラストマー層2の第1の表面上には、1つのグラフェン系ナノプレートレット層3が配置されている。オプションとして、1つのグラフェン系ナノプレートレット層は、エラストマー被覆層7によって覆われている。
【0053】
図7Aおよび
図7Bは、本発明の実施形態による電極層の抵抗率を、それぞれ、機械的歪みのおよび緊張サイクルの回数の関数として示す。
【0054】
図6Aまたは
図6Bに概略的に示されるように電気活性ポリマー層構造を作製した後、電気活性ポリマー層構造は、第1および第2の表面の平面に実質的に平行である(周期的に)変化する機械力に曝露され得、これにより、電気活性ポリマー層構造をサイクリックに緊張させおよび弛緩させる。適用される場合、このサイクルは、グラフェン系ナノプレートレットの層が、スプレッディングツール22、23、24またはフラットスタンプツール20によって、誘電エラストマーに対して配向された後、少なくとも1回繰り返される。
【0055】
このサイクルに曝露されたグラフェン系電極層のシート抵抗率は、いくつかのサイクル後に定常値に近づくことが観測される。
【0056】
図7Aでは、シート抵抗率は、サイクル1、サイクル10、サイクル100、サイクル1,000およびサイクル10,000についての弾性歪みλの関数として示される。弾性歪みλは、電気活性ポリマー層構造の緊張した長さと、弛緩した(すなわち、緊張していない)長さとの比率として定義される。
【0057】
図7Bは、電気活性ポリマー層構造のシート抵抗率を、それぞれ、0%、40%および80%の弾性歪み(λ=1.0、λ=1.4およびλ=1.8)について、サイクルの回数の関数として示す。このプロットから、抵抗率は、より多くのサイクルの回数について、実質的に一定の値に近づくことが導出され得る。
【0058】
電極層のシート抵抗率は、これらの層におけるグラフェン系ナノプレートレットの分布および配向に関連するので、
図7Aおよび
図7Bから、サイクリックな緊張への電気活性ポリマー層構造の曝露は、誘電エラストマー層の表面に沿っておよび緊張方向に沿って電極層の好ましいテクスチャを有益に向上させ得ると結論付けることができる。
【0059】
機械的サイクリングは、緊張方向におけるグラフェン系ナノプレートレットの配向を向上させ、グラフェン系ナノプレートレット間の接触面の整列および積層を向上させ、その結果、グラフェン系ナノプレートレット間ならびにグラフェン系ナノプレートレットの異なる層間の初期摩擦が、サイクリックな緊張および弛緩の結果として低減されると考えられる。加えて、サイクリックな緊張は、プレートレット間の隙間の低減によって、グラフェン系ナノプレートレット層の高密度化を有益に向上させ得る。
【0060】
弾性歪みλは、誘電エラストマー層材料に依存して、最大
【0061】
【0062】
になり得ることに留意されたい。また、誘電エラストマー層がサイクリックな緊張中に曝露される弾性歪みは、実際の用途に依存し得る。誘電エラストマー層は、実際の用途において遭遇されるような緊張条件と実質的に同様であるかまたはそれを超えるサイクリックな緊張に曝露され得る。電気活性ポリマー層構造が最大動作歪みまで実際に使用されることになる場合には、製造中のサイクリックな緊張は、少なくとも最大動作歪みに達するか、またはそれを超えるべきである。例えば、最大動作歪みが40%である場合、サイクリックな緊張は、40%レベルに達するか、またはそれを超えて、例えば、50または60%の歪みレベルまで達するべきである。
【0063】
一実施形態では、テクスチャを得た後、グラフェン系ナノプレートレット層の厚さは、少なくとも5nmである。
【0064】
さらなる実施形態では、テクスチャを得た後、グラフェン系ナノプレートレット層の厚さは、少なくとも約2μmである。
【0065】
一実施形態では、グラフェン系ナノプレートレットは、特徴的な少なくとも約1μmの横方向サイズと、少なくとも約5nmの厚さとを有する。
【0066】
一実施形態では、グラフェン系ナノプレートレットは、少なくとも15m2/gの比表面積を有し得る。
【0067】
一実施形態では、誘電エラストマー層は、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン、またはポリイソプレン、またはポリブタジエンからなる。
【0068】
一実施形態では、誘電エラストマー層の厚さは、少なくとも約40μmである。
【0069】
本発明は、いくつかの実施形態を参照して説明された。前述の詳細な説明を読み、理解すれば、自明な修正および変更が他者に想到されるであろう。本発明は、それらが添付の特許請求の範囲の範囲内にある限り、全てのそのような修正および変更を含むものとして解釈されることが意図される。
【0070】
特に、本発明の様々な態様の特定の特徴の組合せが行われ得る。本発明の一態様は、本発明の別の態様に関連して説明された特徴を追加することによって、さらに有利に向上され得る。
【0071】
本明細書およびその特許請求の範囲において、「備える(to comprise)」という動詞およびその活用形は、具体的に言及されていないアイテムを除外することなく、この用語に後続するアイテムが含まれることを意味するように、それらの非限定的な意味において使用される。加えて、不定冠詞「a」または「an」による要素への参照は、文脈が、1つの要素および要素のうちの1つのみが存在することを明確に要求しない限り、1つより多くのこの要素が存在する可能性を排除しない。したがって、不定冠詞「a」または「an」は、通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【0072】
また、基数または順序数による要素への参照は、文脈が、示された数のみが存在することを明確に要求しない限り、示された数より多くの要素が存在する可能性を排除しない。
【0073】
加えて、修正が、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、電気活性ポリマー層構造の材料または物質を本発明の教示に適合させるために行われ得る。上記で説明されたグラフェン材料および/または誘電エラストマー材料は、構造または組成における変形形態または修正を包含し得る。
以下に本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[C1]
誘電エラストマー層と、前記誘電エラストマー層の第1の表面上に配置された少なくとも1つの電極層とを備える電気活性ポリマー層構造を製造するための方法であって、前記方法は、
-前記誘電エラストマー層を設けることと、
-前記誘電エラストマー層の前記第1の表面上に導電性材料の層を塗布することと
を備え、
前記導電性材料の層が、凝集したグラフェン系ナノプレートレットからなり、前記ナノプレートレットが、グラフェン分子格子面に実質的に平行な2つの主表面の間で平坦化された形状を有することと、および
前記方法が、
-前記ナノプレートレットの前記グラフェン分子格子面が前記誘電エラストマー層の前記第1の表面と実質的に平行になるように、前記ナノプレートレットの前記主表面が前記誘電エラストマー層の前記第1の表面と実質的に平行になっている状態で、前記グラフェン系ナノプレートレットを前記誘電エラストマー層の前記第1の表面上で配向させることによって、前記塗布された層における前記グラフェン系ナノプレートレットのテクスチャを得ること
を備えることと
を特徴とする、方法。
[C2]
前記方法は、
-前記第1の表面とは反対側の、前記誘電エラストマー層の第2の表面上に、グラフェン系ナノプレートレットの第2の層を塗布することと、
-前記ナノプレートレットの前記主表面が前記第2の表面と実質的に平行になっている状態で、前記グラフェン系ナノプレートレットを前記誘電エラストマー層の前記第2の表面上で配向させることによって、前記塗布された第2の層における前記グラフェン系ナノプレートレットのテクスチャを得ることと
を備える、C1に記載の方法。
[C3]
前記グラフェン系ナノプレートレットを前記配向させるステップは、
-グラフェン系ナノプレートレットの前記塗布された層上にスプレッディングツールを配置し、前記スプレッディングツールが前記誘電エラストマー層のそれぞれの表面にわたって移動するように、前記スプレッディングツールとグラフェン系ナノプレートレットの層とを互いに対して相対的に変位させること、ここで、前記スプレッディングツールは、スクレーパ、スプレッダ、ドクターブレード、および回転シリンダを備える群から選択さる、
を備えるプロセスによって行われ、
前記プロセスは、前記誘電エラストマー層の前記それぞれの表面にわたる前記スプレッディングツールの相対的な変位中に、前記スプレッディングツールによって、前記塗布された層に圧力を加えることをさらに備える、C1または2に記載の方法。
[C4]
前記グラフェン系ナノプレートレットの層を前記塗布するステップは、溶媒中のグラフェン系ナノプレートレットの溶液を前記それぞれの表面上に噴霧し、前記溶液を乾燥させることと、グラフェン系ナノプレートレット粉末を前記それぞれの表面上に散布することとを備える群から選択されるプロセスによって行われる、C1~3のいずれか一項に記載の方法。
[C5]
前記グラフェン系ナノプレートレットの層を前記塗布するステップおよび前記グラフェン系ナノプレートレットを前記配向させるステップは、フラットスタンプを使用するスタンピングプロセスによって行われ、前記スタンピングプロセスは、
-前記フラットスタンプの作業面上にグラフェン系ナノプレートレットの層を収集することと、
-前記作業面によって、前記誘電エラストマー層の前記それぞれの表面に、前記グラフェン系ナノプレートレットの収集された層を押すことと、
-次に、前記ナノプレートレットを移すために、前記誘電エラストマー層の前記それぞれの表面に沿って前記作業面を相対的に移動させ、および、その後、前記誘電エラストマー層から前記作業面を持ち上げることと
を備える、C1~3のいずれか一項に記載の方法。
[C6]
前記方法は、
-事前配向されたグラフェン系ナノプレートレット層に接触させるために、前記それぞれの表面上に電気的接続を作製すること
を備える、先行するC1~5のいずれか一項に記載の方法。
[C7]
前記それぞれの配向されたグラフェン系ナノプレートレット層の上にエラストマー被覆層を作製することをさらに備える、先行するC1~6のいずれか一項に記載の方法。
[C8]
前記エラストマー被覆層の前記作製は、前記配向されたグラフェン系ナノプレートレット層を液体エラストマー前駆体の層で覆うことと、前記エラストマー被覆層を形成するために、前記液体エラストマー前駆体の層を硬化させることとを備える、C7に記載の方法。
[C9]
前記第1および第2の表面の前記平面に実質的に平行な方向に、繰り返し、前記電気活性ポリマー層構造を緊張させ、および、その後、前記電気活性ポリマー層構造を弛緩させることによって、サイクリックな機械力に前記電気活性ポリマー層構造を曝露させることをさらに備える、先行するC1~8のいずれか一項に記載の方法。
[C10]
前記配向されたグラフェン系ナノプレートレット層の電気抵抗率を測定し、前記電気抵抗率が定常状態閾値レベルに達するまで、前記サイクリングを継続することを備える、C9に記載の方法。
[C11]
前記加えられた歪みは、0パーセントから少なくとも80パーセントまでの間である、C9に記載の方法。
[C12]
誘電エラストマー層と、前記誘電エラストマー層の第1の表面上に配置された少なくとも第1の電極層とを備える電気活性ポリマー層構造であって、ここにおいて、前記少なくとも第1の電極層は、グラフェン系ナノプレートレットの第1の層を備え、前記グラフェン系ナノプレートレットは、グラフェン分子格子面に実質的に平行な2つの主表面の間で平坦化された形状を有し、
前記グラフェン系ナノプレートレットは、前記ナノプレートレットの前記グラフェン分子格子面が前記第1の表面に実質的に平行になるように、前記ナノプレートレットの前記主表面が前記第1の表面と実質的に平行である、前記誘電エラストマー層の前記第1の表面上の配向でテクスチャ化される、電気活性ポリマー層構造。
[C13]
前記第1の表面とは反対側の、前記誘電エラストマー層の第2の表面上に配置された第2の電極層をさらに備え、ここにおいて、前記第2の電極層は、前記グラフェン系ナノプレートレットの第2の層を備え、前記グラフェン系ナノプレートレットは、前記ナノプレートレットの前記グラフェン分子格子面が前記第2の表面に実質的に平行になるように、前記ナノプレートレットの前記主表面が前記第2の表面と実質的に平行になっている状態で、前記誘電エラストマー層の前記第2の表面上の配向でテクスチャ化される、C12に記載の電気活性ポリマー層構造。
[C14]
前記第1または第2の配向されたグラフェン系ナノプレートレット層は、それぞれ、第1および第2のエラストマー被覆層によって覆われている、C12または13に記載の電気活性ポリマー層構造。
[C15]
前記テクスチャを得た後、前記グラフェン系ナノプレートレット層の厚さは、少なくとも5nmである、または
前記テクスチャを得た後、前記グラフェン系ナノプレートレット層の厚さは、少なくとも約2μmである、
先行するC12~14のいずれか一項に記載の電気活性ポリマー層構造。