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特許7346411硬化性樹脂組成物、並びに、(メタ)アクリル系エラストマー及びシート
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  • 特許-硬化性樹脂組成物、並びに、(メタ)アクリル系エラストマー及びシート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、並びに、(メタ)アクリル系エラストマー及びシート
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/04 20060101AFI20230911BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
C08F290/04
C08J5/18 CEY
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020531336
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2019028063
(87)【国際公開番号】W WO2020017545
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2018135076
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000205638
【氏名又は名称】大阪有機化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 悠
(72)【発明者】
【氏名】幸田 光弘
(72)【発明者】
【氏名】富盛 祐也
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-089236(JP,A)
【文献】特表2004-501996(JP,A)
【文献】特開2007-146149(JP,A)
【文献】特開2004-346231(JP,A)
【文献】特表2009-544363(JP,A)
【文献】特開2013-231153(JP,A)
【文献】特開2014-105325(JP,A)
【文献】特開2017-132905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/04
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系モノマーと、
(メタ)アクリロイル基と重合可能な官能基を2以上有する架橋性モノマーと、
少なくとも一つの末端に(メタ)アクリロイル基と重合可能な官能基を有するマクロモノマーとを含み、
前記(メタ)アクリル系モノマーの含有率が、全固形分に対して、75~92質量%であり、
前記架橋性モノマーの含有率が、(メタ)アクリル系モノマーの総量に対し0.25超~5.0未満mol%であり、
前記マクロモノマーの含有率が、全固形分に対して、6~15質量%であって、
前記マクロモノマーが、スチレン系マクロモノマー及びポリアクリレート系マクロモノマーから選ばれる少なくとも一種である、
硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記架橋性モノマーが、前記官能基として(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する(メタ)アクリレート化合物である、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記マクロモノマーが、前記官能基として(メタ)アクリロイル基を有する請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系モノマーが、アクリル系モノマーである請求項1~3のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記アクリル系モノマーが、エチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートから選ばれる少なくとも一種である請求項4に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、光重合開始剤を含む請求項1~5のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物を重合させてなる(メタ)アクリル系エラストマー。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物を重合させてなるシート。
【請求項9】
表面処理が施された加工面を有する請求項8に記載のシート。
【請求項10】
前記表面処理がブラスト加工である請求項9に記載のシート。
【請求項11】
少なくとも一方の面の算術平均粗さRa(nm)が50~300である請求項8~10のいずれか一項に記載のシート。
【請求項12】
前記硬化性樹脂組成物を塊状重合させてなる請求項8~11のいずれか一項に記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、並びに、(メタ)アクリル系エラストマー及びフレキシブルシートやストラッチャブルシートなどのシートに関する。詳細には、フレキシブルプリント回路基板などのFlexible Printed Circuitsや、回路基板及び配線板の保護フィルム等として好適に用いることのできるシート、並びに、当該シート等の作製に用いられる硬化性樹脂組成物及び(メタ)アクリル系エラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部材に用いられるシートの需要が高まっている。例えば、電子製品の軽量化、小型化、高密度化に伴って、フレキシブルプリント回路基板又はフレキシブルプリント配線板などと呼ばれる、所謂Flexible Printed Circuits(以下、「FPC」と称することがある。)の注目も高まっている。FPCは、絶縁性フィルムをベースフィルム(基板ともいう)とし、接着層などを介して金属箔を貼り合わせたり、導電性インクやフィルムで形成されたパターンを形成するなどして形成される。このようなFPCには各種材料を用いた伸縮性や柔軟性を有する樹脂製のシートがベースフィルムとして使用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、樹脂製のシートは、電子部材用基板の保護用途など種々の用途に適用可能であり、例えば、粘着テープや誘電体材料などにも用いられるなど、種々の用途に応じた開発がなされている(例えば、特許文献2及び3参照)。さらに、FPC用の樹脂フィルムも開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-145325号公報
【文献】特開2014-105325号公報
【文献】特開2017-132905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂製のシートがFPC用途や保護用途に用いられる場合、伸縮性を十分に発揮するために素材に柔軟性が求められており、低いヤング率を示す材料の開発が進められている。しかし、柔軟性に優れる(低ヤング率の)樹脂フィルムは、一般にタック性が高く、他の部材に張り付きやすいという性状を示すことが多い。このように、タック性が高い材料は、取り扱い性が悪く、例えば、スクリーン印刷装置などの装置内での搬送性などの観点から改良が求められている。一方で、低タック性と低ヤング率とは相反する性状であり、これらの性能をバランスよく有する材料の開発が切望されていた。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決すべく、低タック性と低ヤング率とをバランスよく両立させた(メタ)アクリレート系エラストマーを作製可能な硬化性樹脂組成物、並びに、これを用いた(メタ)アクリル系エラストマー及びシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1> (メタ)アクリル系モノマーと、
(メタ)アクリロイル基と重合可能な官能基を2以上有する架橋性モノマーと、
少なくとも一つの末端に(メタ)アクリロイル基と重合可能な官能基を有するマクロモノマーと、
を含む硬化性樹脂組成物。
<2> 前記架橋性モノマーが、前記官能基として(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する(メタ)アクリレート化合物である、前記<1>に記載の硬化性樹脂組成物。
<3> 前記マクロモノマーが、スチレン系マクロモノマー及びポリアクリレート系マクロモノマーから選ばれる少なくとも一種である前記<1>又は<2>に記載の硬化性樹脂組成物。
<4> 前記マクロモノマーが、前記官能基として(メタ)アクリロイル基を有する前記<1>~<3>のいずれか一つに記載の硬化性樹脂組成物。
<5> 前記(メタ)アクリル系モノマーが、アクリル系モノマーである前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の硬化性樹脂組成物。
<6> 前記アクリル系モノマーが、エチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートから選ばれる少なくとも一種である前記<5>に記載の硬化性樹脂組成物。
<7> 前記マクロモノマーの含有量が、全固形分に対して、6~15質量%である、前記<1>~<6>のいずれか一つに記載の硬化性樹脂組成物。
<8> 前記架橋性モノマーを、前記(メタ)アクリル系モノマーの総量に対して、0.25超~5.0未満mol%含む、前記<1>~<7>のいずれか一つに記載の硬化性樹脂組成物。
<9> さらに、光重合開始剤を含む前記<1>~<8>のいずれか一つに記載の硬化性樹脂組成物。
<10> 前記<1>~<9>のいずれか一つに記載の硬化性樹脂組成物を重合させてなる(メタ)アクリル系エラストマー。
<11> 前記<1>~<9>のいずれか一つに記載の硬化性樹脂組成物を重合させてなるシート。
<12> 表面処理が施された加工面を有する前記<11>に記載のシート。
<13> 前記表面処理がブラスト加工である前記<12>に記載のシート。
<14> 少なくとも一方の面の算術平均粗さRa(nm)が50~300である前記<11>~<13>のいずれか一つに記載のシート。
<15> 前記硬化性樹脂組成物を塊状重合させてなる前記<11>~<14>のいずれか一つに記載のシート。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低タック性と低ヤング率とをバランスよく両立させた(メタ)アクリレート系エラストマーを作製可能な硬化性樹脂組成物、並びに、これを用いた(メタ)アクリル系エラストマー及びシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ヒステリシスロス及び残留歪を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《硬化性樹脂組成物》
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、(メタ)アクリル系モノマーと、(メタ)アクリロイル基と重合可能な官能基を2以上有する架橋性モノマー(以下、単に「架橋性モノマー」と称することがある。)と、少なくとも一つの末端に(メタ)アクリロイル基と重合可能な官能基を有するマクロモノマー(以下、単に「マクロモノマー」と称することがある)と、を含む。なお、本明細書を通じて、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」又は「メタクリレート」を意味する。また、単に“アルキル基”と称した場合には、直鎖、分岐及び脂環構造のアルキル基が含まれる。
【0011】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、(メタ)アクリル系モノマーと、架橋性モノマーと、マクロモノマーとを含み、各モノマー成分を重合させることで、低タック性と低ヤング率とをバランスよく達成した(メタ)アクリル系エラストマーを合成することができる。
【0012】
〈(メタ)アクリル系モノマー〉
本実施形態において、「(メタ)アクリル系モノマー」は、(メタ)アクリロイル基を一つ有するモノマーであり、後述の本実施形態における架橋性モノマー及びマクロモノマーと区別される。
本実施形態における(メタ)アクリル系モノマーは、例えば、下記式(I)で表わされる化合物を用いることができる。
【0013】
【化1】
(式中、R1は水素原子又はメチル基;R2は水酸基もしくはハロゲン原子を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、又は、水酸基を有していてもよい炭素数2~12のアルコキシアルキル基を示す)
【0014】
式(I)で表わされる(メタ)アクリル系モノマーにおいて、R1は、水素原子又はメチル基である。R1のなかでは、低ヤング率、低ヒステリシスを有するエラストマーを得る観点から、水素原子であることが好ましい。即ち、前記(メタ)アクリル系モノマーは、アクリル系モノマーであることが好ましい。
【0015】
式(I)で表わされる化合物において、R2は、水酸基もしくはハロゲン原子を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基又は水酸基を有していてもよい炭素数2~12のアルコキシアルキル基である。
【0016】
炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、イソアミル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0017】
水酸基を有する炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシn-プロピル基、ヒドロキシイソプロピル基、ヒドロキシn-ブチル基、ヒドロキシイソブチル基、ヒドロキシtert-ブチル基などが挙げられるが、本実施形態はかかる例示のみに限定されるものではない。
【0018】
アルキル基に含まれるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。アルキル基に含まれるハロゲン原子の数は、当該アルキル基の炭素数などによって異なるので一概には決定することができないことから、本実施形態の目的が阻害されない範囲内で適宜調整することが好ましい。
【0019】
ハロゲン原子を有する炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、トリフルオロn-プロピル基、トリフルオロイソプロピル基、トリフルオロn-ブチル基、トリフルオロイソブチル基、トリフルオロtert-ブチル基などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0020】
炭素数2~12のアルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシエチル基、エトキシエチル基、メトキシブチル基などの炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数1~6のアルキル基を有するアルコキシアルキル基などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0021】
水酸基を有する炭素数2~12のアルコキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメトキシエチル基、ヒドロキシエトキシエチル基、ヒドロキシメトキシブチル基などの炭素数1~6のヒドロキシアルコキシ基及び炭素数1~6のアルキル基を有するアルコキシアルキル基などが挙げられるが、本実施形態はかかる例示のみに限定されるものではない。
【0022】
2のなかでは、マクロモノマーの溶解性の観点から、水酸基やハロゲン原子を有さない炭素数1~10のアルキル基又は炭素数2~12のアルコキシアルキル基が好ましく、低ヤング率、低ヒステリシスを有するエラストマーを得る観点から、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシアルキル基が好ましく、エチル基及びメトキシエチル基がさらに好ましい。
【0023】
式(I)で表わされる(メタ)アクリル系モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、メチルペンチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ノナノール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの式(I)において、R1が水素原子又はメチル基であり、R2が炭素数1~10のアルキル基である(メタ)アクリル系モノマー;ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの式(I)において、R1が水素原子又はメチル基であり、R2が水酸基を有する炭素数1~10のアルキル基である(メタ)アクリル系モノマー;2,2,2-トリフルオロエチルアクリレートなどの式(I)において、R1が水素原子又はメチル基であり、R2がハロゲン原子を有する炭素数1~10のアルキル基である(メタ)アクリル系モノマー;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチルアクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、などの式(I)において、R1が水素原子又はメチル基であり、R2が炭素数2~12のアルコキシアルキル基である(メタ)アクリル系モノマー;及びジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの式(I)において、R1が水素原子又はメチル基であり、R2が水酸基を有する炭素数2~12のアルコキシアルキル基である(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。
これらの中でも、本実施形態における(メタ)アクリレート系エラストマーとしては、エチル(メタ)アクリレート及びメトキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましく、アクリル系モノマーが好ましく、エチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートがさらに好ましい。
これら(メタ)アクリル系モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
〈架橋性モノマー〉
本実施形態において「架橋性モノマー」とは、(メタ)アクリロイル基と重合可能な官能基(以下、単に“官能基”と称することがある。)を2以上有するモノマーを意味する。
架橋性モノマーとしては、官能基として、例えば、メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスメタクリルアミドなどのアルキレン基の炭素数が1~4のアルキレンビス(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリロイル基を2個以上、好ましくは2個有する、(メタ)アクリルアミド化合物;官能基として、エチレンジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート(“EGDMA”)、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(“DEGDMA”)、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリロイル基を2個以上、好ましくは2個又は3個有する(メタ)アクリレート化合物;官能基として、ジアリルアミン、トリアリルアミンなどの炭素-炭素二重結合を2個以上、好ましくは2個又は3個有するアミン化合物;官能基として、ジビニルベンゼン、ジアリルベンゼンなどの炭素-炭素二重結合を2個以上、好ましくは2個又は3個有する芳香族化合物などの多官能モノマーが挙げられる。
これらの中でも、本実施形態における架橋性モノマーとしては、架橋性モノマーが、前記官能基として、低タック性、低ヒステリシスを有するエラストマーを得る観点から、(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する(メタ)アクリレート化合物が好ましく、EGDMA、DEGDMA、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレートがさらに好ましく、さらなる低ヤング率の観点から、EGDMA、DEGDMAがより好ましく、DEGDMAが特に好ましい。
ただし、本実施形態における架橋性モノマーは、かかる例示のみに限定されるものではない。架橋性モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
〈マクロモノマー〉
「マクロモノマー」とは、モノマー分子として機能する、即ち、高分子の基本構造の構成単位となり得る分子であり、重合性基を有するポリマーである。本実施形態におけるマクロモノマーは少なくとも一つの末端に(メタ)アクリロイル基と重合可能な官能基を有する。
本実施形態におけるマクロモノマーが有する“(メタ)アクリロイル基と重合可能な官能基”としては上述の架橋性モノマーが有する官能基などが挙げられる。
【0026】
マクロモノマーの数平均分子量は、特に限定はないが、低タック性の観点から、1000以上であることが好ましく、2500以上であることがさらに好ましく、5000以上であることが特に好ましい。マクロモノマーの数平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー〔東ソー(株)製、品番:HLC-8320GPC、カラム:東ソー(株)製、品番:Super H2500、溶媒:テトラヒドロフラン、流速:0.6mL/min〕を用いてポリスチレン換算で測定することができる。
【0027】
本実施形態におけるマクロモノマーとしては、特に限定はないが、低タック性の観点から、官能基として、アクリロイル基を少なくとも末端、好ましくは片末端に有するポリスチレン系マクロモノマー;架橋性基としてアクリロイル基を少なくとも末端、好ましくは両末端に有するポリアクリレート系マクロモノマーなどが挙げられる。これらマクロモノマーとしては、市販品として入手可能なものを適宜選定することができ、例えば、東亞合成化学株式会社製のマクロモノマー(例えば、製品名:AS-6(ポリスチレン系マクロモノマー)、製品名AA-6(ポリアクリレート系マクロモノマー))などを挙げることができる。
【0028】
〈硬化性樹脂組成物〉
本実施形態の硬化性樹脂組成物を重合させてなる(メタ)アクリル系エラストマーは、タックレス(低タック性)と低ヤング率とを両立させることができる。
【0029】
硬化性樹脂組成物中の(メタ)アクリロイル系モノマーの含有率は、特に限定はないが、低ヒステリシスの観点から、全固形分に対して、75~92質量%が好ましく、80~90質量%がさらに好ましく、85~88質量%が特に好ましい。
【0030】
硬化性樹脂組成物中の架橋性モノマーの含有率は、特に限定はないが、低ヤング率及び低ヒステリシスの観点から、アクリル系モノマーの総量に対して、好ましくは0.25超~5.0未満mol%がより好ましく、0.5~4.0mol%がさらに好ましく、0.75~1.5mol%が特に好ましい。
【0031】
硬化性樹脂組成物中のマクロモノマーの含有率は、特に限定はないが、低タック性の観点から、全固形分に対して、好ましくは6~15質量%、7~12質量%がさらに好ましく、10~15質量%が特に好ましい。
【0032】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、上述の(メタ)アクリル系モノマー、架橋性モノマー及びマクロモノマー(以下、これらを総じて「本実施形態におけるモノマー成分」と称することがある)を含んでいればよいが、所望に応じて、他の成分を含んでいてもよい。
【0033】
(重合開始剤)
硬化性樹脂組成物は、本実施形態におけるモノマー成分を重合させるために重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤、熱重合開始剤などが挙げられる。これらの重合開始剤のなかでは、(メタ)アクリル系エラストマーに熱履歴を残さないようにする観点から、光重合開始剤が好ましい。
【0034】
光重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,2’-ビス(o-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,1’-ビイミダゾール、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(p-メトキシフェニルビニル)-1,3,5-トリアジン、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、4,4’-ジtert-ブチルジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、4-ジエチルアミノフェニルベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンゾイン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-2-オン、ベンゾフェノン、チオキサントン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルアシルホスフィンオキシド、トリフェニルブチルボレートテトラエチルアンモニウム、ジフェニル-4-フェニルチオフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-2-(o-ベンゾイルオキシム)]、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)ビス〔2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)フェニルチタニウム〕などの光ラジカル重合開始剤、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(p-メトキシフェニルビニル)-1,3,5-トリアジン、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、4,4’-ジtert-ブチルジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、4-ジエチルアミノフェニルベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニル-4-フェニルチオフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェートなどの光カチオン開環重合開始剤などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの光重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
熱重合開始剤としては、例えば、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、アゾビスジメチルバレロニトリルなどのアゾ系重合開始剤、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過酸化物系重合開始剤などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0036】
重合開始剤の量は、当該重合開始剤の種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、モノマー成分100質量部あたり、0.01~20質量部程度であることが好ましい。
【0037】
(連鎖移動剤)
硬化性樹脂組成物は本実施形態におけるモノマー成分を重合させる際に、得られる(メタ)アクリル系エラストマーの分子量を調整するために連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、例えば、ラウリルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリセロールなどのチオール基を有する化合物;次亜リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどの無機塩などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。連鎖移動剤の量は、当該連鎖移動剤の種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、モノマー成分100質量部あたり、0.01~10質量部程度であることが好ましい。
【0038】
(他のモノマー)
硬化性樹脂組成物は、所望の特性に応じて、本実施形態におけるモノマー成分以外のモノマー成分を含んでいてもよい。他のモノマーとしては、例えば、カルボキシル基含有モノマー、式(I)で表わされる(メタ)アクリル系モノマー以外のカルボン酸アルキルエステル系モノマー、アミド基含有モノマー、アリール基含有モノマー、スチレン系モノマー、窒素原子含有モノマー、脂肪酸ビニルエステル系モノマー、ベタインモノマーなどが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのモノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0039】
《(メタ)アクリル系エラストマー》
上述のように、本実施形態の硬化性樹脂組成物を重合させてなる(メタ)アクリル系エラストマーは、タックレス(低タック性)と低ヤング率とを両立させることができる。
【0040】
(メタ)アクリロイル系エラストマーのガラス転移温度(は、特に限定はないが、低タック性と低ヤング率性の観点から、-50℃以上であることが好ましく、-20℃以上であることがさらに好ましい。(メタ)アクリロイル系エラストマーのガラス転移温度は、後述する実施例に記載の方法でおこなうことができる。
【0041】
硬化性樹脂組成物を重合させる方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合法のなかでは、低タック性、低ヤング率性、低ヒステリシス性の観点から、塊状重合法及び溶液重合法が好ましく、さらに低タック性、低ヒステリシス性の観点から、塊状重合法がより好ましい。本実施形態の(メタ)アクリル系エラストマーは、従来のアクリルゴムのように原料のモノマー成分を懸濁重合法によって重合させるのではなく、塊状重合法によって重合させた場合には、伸長性、低タック性、低ヒステリシス性に優れた(メタ)アクリル系エラストマーを容易に調製することができる。
【0042】
硬化性樹脂組成物を溶液重合法によって重合させる際には、溶媒が用いられる。溶媒のなかでは、非水系有機溶媒が好ましい。非水系有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、流動パラフィンなどの炭化水素系有機溶媒;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系有機溶媒;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系有機溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系有機溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などの塩化物系有機溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサンなどが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。溶媒の量は、当該溶媒の種類によって異なるので一概には限定することができないが、通常、モノマー成分100質量部あたり、100~1000質量部程度であることが好ましい。
【0043】
硬化性樹脂組成物を重合させる際の雰囲気は、特に限定がなく、大気であってもよく、あるいは窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであってもよい。
【0044】
硬化性樹脂組成物を重合させる際の温度は、特に限定がなく、通常、5~100℃程度の温度であることが好ましい。モノマー成分を重合させるのに要する時間は、重合条件によって異なるので一概には決定することができないことから任意であるが、通常、0.25~20時間程度である。
【0045】
重合反応は、残存しているモノマー成分の量が20質量%以下になった時点で、任意に終了することができる。なお、残存しているモノマー成分の量は、例えば、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0046】
本実施形態の硬化性樹脂組成物を重合させてなる(メタ)アクリル系エラストマーの幅や厚み、長さなどの形状は特に限定されない。
【0047】
《シート》
本実施形態のシートは、硬化性樹脂組成物を重合させて得ることができる。より具体的には、上述の(メタ)アクリル系エラストマーを用いてシートを製造することができる。この場合、例えば、モノマー成分を基板上に流延し、形成されたモノマー成分の被膜に紫外線を照射するなどによってモノマー成分を重合させることにより、(メタ)アクリル系エラストマーからなるフィルム状のシートを得ることができる。
いわば、本実施形態の硬化性樹脂組成物を重合させてなる(メタ)アクリル系エラストマーにおいて、一定以下の厚みを有する幅広のものが本実施形態のシートであるといえる。本実施形態のシートは、柔軟性や伸張・伸縮性に優れるため、フレキシブルシート、又はストレッチャブルシートとして好適に用いることができる。
【0048】
シートの厚さは、特に限定されないが、低タック性と低ヤング率とを両立させたシートを得る観点から、10μm~5mm程度であることが好ましい。
【0049】
シートは、用途によっては、そのままの状態で用いることができるが、強靭性を付与する観点から、一軸延伸又は二軸延伸されていることが好ましく、二軸延伸されていることがより好ましい。前記フィルムの延伸倍率は、強靭性を付与する観点から、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2倍以上であり、シートの厚さにもよるが、延伸時の破断を防止する観点から、好ましくは8倍以下、より好ましくは6倍以下、さらに好ましくは5倍以下である。なお、シートを延伸させる際には、必要により、加熱してもよい。
【0050】
本実施形態のシートは、その粘度を調製するために、他のポリマーを適量含有していてもよい。
【0051】
他のポリマーとしては、例えば、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエステル、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの他のポリマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0052】
本実施形態のシートは、必要により、中和剤を含んでいてもよい。中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基性化合物;モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオール、オクチルアミン、トリブチルアミン、アニリンなどの有機塩基性化合物などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの中和剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0053】
本実施形態のシートには、本実施形態の目的が阻害されない範囲内で、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、熱伝導性フィラー、導電性フィラーなどが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0054】
また、低タック性の観点から、本実施形態のシートは、表面処理が施された加工面を有することが好ましい。表面処理は特に限定はないが、例えば、ブラスト加工(凹凸加工)が挙げられる。ここで、本実施形態における“ブラスト加工”とは、ブラスト加工が施された金型を用いてフィルムを成形することや、当該金型を用いて作製したフィルムを離形フィルムとして用い、離形フィルムに形成されたパターンをシート表面に転写する態様を含む概念である。例えば、微細な粒子の砂を、空気などを利用して金型キャビティーに吹きつけ、極小さなキズをつけ、当該金型を用いてシート表面に転写することができる。なお、シート表面に転写されるパターンは、表面張力や硬化収縮の影響を受け、離形フィルムの表面粗さがそのまま転写されるとは限らない。
【0055】
また、本実施形態のシートの少なくとも一方の面の算術平均粗さ(Ra)は、低タック性の観点から、50~1000であることが好ましく、50~500がさらに好ましく、50~300が特に好ましい。算術平均粗さの測定方法は、例えば後述の実施例に記載の方法が挙げられる。
【0056】
本実施形態のシートのヤング率、最大点応力、伸び(Strain)は、例えば、引張測定器を用いて、JIS K 6251に従って測定することができる。
本実施形態のシートのヤング率は、6.00MPa以下程度であることが好ましく、4.50MPa以下がさらに好ましい。
本実施形態のシートのStrainは、高伸張性の観点から、50~2000%であることが好ましく、100~1000%がさらに好ましく、500~700%が特に好ましい。
【0057】
本実施形態のシートのヒステリシスは後述の実施例に記載の方法で測定することができる。具体的には、ヒステリシスは、シートの“残留歪”や“ヒステリシスロス”を測定し、これらを一つの指標として評価できる。
本実施形態のシートの低圧縮永久歪は、10.0MPa・%以下であることが好ましく、5.0MPa・%以下がさらに好ましく、3.0MPa・%以下が特に好ましい。
本実施形態のシートの残留歪は、10.0%以下であることが好ましく、5.0%以下がさらに好ましく、3.0%以下が特に好ましい。
【0058】
本実施形態のシートは、低タック性と低ヤング率とをバランスよく発揮できることから、FPCのベースフィルムや、電子部材用基板の保護フィルム、医療材料、ヘルスケア材料、ライフサイエンス材料、またはロボット材料等に好適に用いることができる。
【実施例
【0059】
次に、本実施形態を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本実施形態は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
エチルアクリレート50.02g、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)1.22g(エチルアクリレートに対して、1mol%)、ポリスチレン系マクロモノマー(東亞合成化学株式会社製、商品名:AS-6)5.69g(組成物中の全固形分に対して10質量%)及び重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製、商品名:IrgacureTPO)0.0314gを混合することにより、重合開始剤を含有する硬化性樹脂組成物を得た。
【0061】
得られた硬化性樹脂組成物を、ブラスト加工が施された離形フィルム(算術平均粗さ(JIS B 0601):430nm)を貼りつけた透明ガラス製の成形型(0.3mm厚シリコンスペーサー、縦:100mm、横:100mm、厚さ:0.3mmのフィルムを形成可能)内に注入した。次いで、水浴中に設置した成形型に硬化性樹脂組成物に照射線量が0.20mW/cm2となるように紫外線を2時間照射し、モノマー成分を塊状重合させた。その後、水浴から成形型を取り出し、成形型から(メタ)アクリル系エラストマーからなるシートを取り出した。その後、0.01MPa以下、80℃の条件でこのシートを3時間乾燥し、後述する各パラメータを測定した。
【0062】
[実施例2]
ブラスト加工が施された離形フィルムの代わりにブラスト加工が施されていない離形フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、シートを得た。
【0063】
[比較例1~2]
架橋性モノマー(ジエチレングリコールジメタクリレート)を用いなかった以外は、実施例1及び2と同様にして、シートを得た。
【0064】
[比較例3~4]
マクロモノマーを用いなかった以外は、実施例1及び2と同様にして、シートを得た。
【0065】
[比較例5~6]
架橋性モノマー及びマクロモノマーを用いなかった以外は、実施例1及び2と同様にして、シートを得た。
【0066】
《評価》
以下に示す方法に従って、実施例及び比較例のシートの各物性を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
[算術平均粗さ(Ra)]
下記走査型プローブ顕微鏡により得られた画像データを解析することにより、実施例1及び2並びに比較例3及び4について、シート表面の算術平均粗さを決定した。具体的には、得られた画像に対し傾き補正(X方向の平均値およびY方向の平均値)を行い、さらに、ノイズライン除去を行ったうえで、測定範囲全体(20μm角)の算術平均粗さの解析を行った。当該測定では、測定範囲内の算術平均粗さは、最低値として示された値を超え、最高値として示された値未満の値として示される。各シートにつき、上述の測定方法で3か所の測定を行い、最低値と最高値とは、3か所のうちのもっとも低い(高い)値をそのシートの最低値と最高値とした。結果を表1に示す。
【0068】
〔使用機器〕
走査型プローブ顕微鏡:(島津製作所製、SPM-9700HT)
カンチレバー:(NanoWorld社製、NHCR-10)
使用ソフト:SPM-9700HTに元から含まれているソフト
測定モード:ダイナミックモード
走査範囲:20μm角
走査速度:0.1Hz
画素数:256×256
Pゲイン:0.001
Iゲイン:1500
Zレンジ:×1
【0069】
[タック]
シートをガラス板に載せて徐電器で静電気を除去した。つぎに、徐電器で静電気を除去したスクリーン印刷版(SERIA社製、製品名:120424_手刷り用、メッシュ仕様:SUS500(カレンダー処理紗厚23μm))を上からかぶせた。さらにスキージでスクリーン印刷版をシートに押しつけた。スクリーン印刷版を取り除いた際、スクリーン印刷版に一部でも付着して、シートが元の位置から移動した場合をシートがスクリーン印刷版に貼りついたと判断した。当該判定を同一のサンプルにつき10回おこない、張り付いた回数を記録した。貼りついた数が少ないほどタック性が低く良好であることを示す。
【0070】
[最大点応力、伸び(Strain)、ヤング率、の測定]
シートをJIS K6251に規定するダンベル状7号形に打ち抜くことにより試験片を得た。得られた試験片を引張試験機((株)エー・アンド・デイ製、品番:Tensilon RTG-1310)のチャック間距離が17mmとなるように取り付け、50mm/minの引張り速度で試験片が破断するまで引っ張り荷重を加える操作を行い、最大点応力、伸び(Strain)およびヤング率を測定した。
【0071】
[ヒステリシスの測定]
ヒステリシスについて、その評価指標となるヒステリシスロス及び残留歪を導きだした。詳細には、上述の試験片及び引張試験機を用い、下記測定を行い、得られたグラフを用いて、ヒステリシスロス及び残留歪を算出した。
測定は、試験片に対し、100%伸びまで引張り荷重を加える操作(チャック間距離を34mmにする操作)と100%に達した試験片を0%まで戻す操作(34mmのチャック間距離を17mmまで戻す操作)(いずれも50mm/min)を1サイクルとして2サイクル行い、2サイクル目の測定結果のグラフからヒステリシスロス及び残留歪を算出した。
【0072】
図1を用いてヒステリシスロス及び残留歪の算出方法を詳細に説明する。図1は、ヒステリシスロス及び残留歪を説明するためのグラフである。
ヒステリシスロスは図1において点線(往路)と実線(復路)とに囲まれる領域についてその面積を算出した。ヒステリシスロスが小さいほど追従性が良いことを示す。
残留歪は、図1に記載のように、立ち上がり点(往路において加重0MPa時のstrain値の点)から最大荷重までの線分Aと戻り点(復路において加重0MPa時と同様のstress値を示す時のstrain値の点)から最大荷重までの線分Bとの差を用い、ひずみ(残留歪)=(1-B/A)×100から算出した。
【0073】
【表1】
【0074】
表1からわかるように、実施例1のシートはヤング率が低く、且つ、タック性も低いことが分かる。また、実施例2のシートもタック性の測定結果が“5回”であり、許容される程度のタック性を示していた。
これに対し、各比較例のシートは許容以上のタック性を示していた。
【0075】
[実施例3]
マクロモノマーとして、ポリスチレン系マクロモノマーの代わりにポリアクリレート系マクロモノマー(東亞合成化学株式会社製、商品名:AA-6)を同量用いた以外は実施例1と同様にして、シートを作製し、同様の評価をおこなった。
【0076】
【表2】
【0077】
表からわかるように、ポリスチレン系マクロモノマーを用いた実施例1に比して、ポリアクリレート系マクロモノマー(ポリメチルメタクリレート系マクロモノマー)を用いたシートは、ヤング率及びヒステリシスロスがやや高い結果となった。
【0078】
[実施例4~6]
マクロモノマーの添加量(対組成物中の全固形分)を、下記表に記載のように変更した以外は実施例1と同様にして、シートを作製し、同様の評価をおこなった。
【0079】
【表3】
【0080】
表からわかるように、マクロモノマーの添加量の増加とともにタックが良化しており、ヤング率、ヒステリシスロス及び残留歪の観点からは、実施例1及び5が優れていることがわかる。
【0081】
[実施例7~9]
架橋性モノマーを、DEGDMAに代えて下記表に記載の架橋性モノマーを同量用いた以外は実施例1と同様にして、シートを作製し、同様の評価をおこなった。
【0082】
【表4】

表に記載の各架橋性モノマーは以下のものを示す(いずれも新中村化学工業(株)製)。
・NKエステル1G:エチレングリコールジ(メタ)アクリレート
・NKエステル2G:ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート
・NKエステル4G:テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート
・NKエステル9G:ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート
【0083】
表からわかるように、いずれのシートもタック性に優れているが、ヤング率の観点からは、実施例1及び実施例7のシートが優れていることがわかる。
【0084】
[実施例10~11]
架橋性モノマーの添加量(対エチルアクリレート量)を、下記表に記載のように変更した以外は実施例1と同様にして、シートを作製し、同様の評価をおこなった。
【0085】
【表5】
【0086】
表からわかるように、いずれのシートもタック性に優れているが、ヤング率の観点からは、実施例1及び実施例10のシートが優れていることがわかる。
【0087】
[実施例12~13]
(メタ)アクリレート系モノマーを、エチレンアクリレートに代えて下記表に記載の(メタ)アクリレートモノマーを同量用いた以外は実施例1と同様にして、シートを作製し、同様の評価をおこなった。
【0088】
【表6】

表に記載の各(メタ)アクリレート系モノマーは以下のものを示す
・2-MTA :メトキシエチルアクリレート
・EA :エチルアクリレート
・MEDOL-10:(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート
【0089】
表からわかるように、MEDOL-10を用いた実施例13のシートに比して、実施例1(エチレンアクリレートを使用)及び実施例12(メトキシエチルアクリレートを使用)シートは、タック性に優れていることがわかる。
【0090】
2018年7月18日に出願された日本国特許出願2018-135076号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
また、明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の(メタ)アクリル系エラストマーは、FPCのベースフィルムや、電子部材用基板の保護フィルム、医療材料、ヘルスケア材料、ライフサイエンス材料、またはロボット材料等に好適に用いることができる。
図1