(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置用部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05H 1/24 20060101AFI20230911BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20230911BHJP
C23C 4/11 20160101ALI20230911BHJP
【FI】
H05H1/24
H01L21/302 101G
C23C4/11
(21)【出願番号】P 2020531348
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2019028164
(87)【国際公開番号】W WO2020017566
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2018135083
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500095230
【氏名又は名称】株式会社イズミテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花待 年彦
(72)【発明者】
【氏名】諸田 修平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼原 剛
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 優
(72)【発明者】
【氏名】横山 響
(72)【発明者】
【氏名】光田 拓史
(72)【発明者】
【氏名】荒木 良仁
(72)【発明者】
【氏名】味澤 賢吾
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-260159(JP,A)
【文献】特開平11-229185(JP,A)
【文献】特開2009-185391(JP,A)
【文献】特開2007-321194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
H01L 21/3065
C23C 28/04
C23C 4/11
C25D 11/00
C25D 11/01
C25D 11/12
C25D 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基材と、
前記アルミニウム基材上に
形成され、多孔質構造を有する酸化皮膜と、
を備え、
前記酸化皮膜は、
前記アルミニウム基材の表面に形成される第1酸化皮膜と、
前記第1酸化皮膜の前記アルミニウム基材側と反対側に形成される第2酸化皮膜と、
前記第2酸化皮膜の前記第1酸化皮膜側と反対側に形成される第3酸化皮膜と、
を有し、
前記第1酸化皮膜は、前記第2酸化皮膜および前記第3酸化皮膜よりも硬く、
前記第1酸化皮膜、前記第2酸化皮膜および前記第3酸化皮膜は、各皮膜に形成される孔が封孔されている
プラズマ処理装置用部材の製造方法であって、
前記第3酸化皮膜、前記第2酸化皮膜を形成後、陽極酸化処理によって前記第1酸化皮膜を形成することによって、前記アルミニウム基材上に、前記酸化皮膜を形成する、
ことを特徴とするプラズマ処理装置用部材
の製造方法。
【請求項2】
前記酸化皮膜の前記アルミニウム基材側と反対側に形成されるセラミック溶射膜、
をさらに
形成することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置用部材
の製造方法。
【請求項3】
前記第2酸化皮膜は、前記第3酸化皮膜側から前記第1酸化皮膜側に向かうにしたがって硬くなっている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマ処理装置用部材
の製造方法。
【請求項4】
前記酸化皮膜は、気孔率が1%以上2%以下である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載のプラズマ処理装置用部材
の製造方法。
【請求項5】
前記第1酸化皮膜は、前記アルミニウム基材と接する部分にバリア層を有し、
前記バリア層は、80nm以上210nm以下の厚さを有する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載のプラズマ処理装置用部材
の製造方法。
【請求項6】
前記酸化皮膜は、アルミナ水和物によって封孔されており、
前記アルミナ水和物は、1.4以上2以下の水和物である
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載のプラズマ処理装置用部材
の製造方法。
【請求項7】
前記酸化皮膜は、70μm以上130μm以下の厚さを有する
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載のプラズマ処理装置用部材
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に用いられるプラズマ処理装置用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマ処理装置に用いられる部材として、アルミニウム基材に酸化皮膜を形成し、この酸化皮膜の上に溶射膜を形成したプラズマ処理装置用部材が知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。プラズマ処理装置用部材は、上述したように酸化皮膜上に溶射膜を設けることによって、耐プラズマ性が向上する。
【0003】
特許文献1には、プラズマ反応に基づいて被処理基板を処理する真空処理装置において、真空処理室に配置される電極体の表面に酸化膜層を形成するとともに、この酸化膜層の表面にアルミナ溶射膜を形成して多層化した部材が開示されている。特許文献1によれば、アルミナ溶射膜で酸化膜層を保護してその酸化膜層のクラックや剥離を防止し、パーティクルの発生を防止するとともに、寿命を長くして交換頻度を低減させ、装置の稼働率を向上させている。
【0004】
また、特許文献2には、基材の表面に酸化処理皮膜が形成された部材の処理であり、該酸化処理皮膜上に溶射皮膜が形成されるプラズマ処理容器内部材の製造方法における、アルカリ系有機溶剤に基材を浸漬する工程と、当該アルカリ系有機溶剤中でプラズマ放電を起こす工程とを含む陽極酸化処理が開示されている。このプラズマ処理容器内部材としては、電極保護部材や、絶縁リング等が挙げられる。特許文献2では、上述した処理を施すことによって、基材の表面に対する溶射皮膜の密着性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-114189号公報
【文献】特許第4430266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年のプラズマ処理工程における高エネルギー化により、プラズマ処理装置用部材には、高耐電圧化が求められている。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高い耐電圧を有するプラズマ処理装置用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるプラズマ処理装置用部材は、アルミニウム基材と、前記アルミニウム基材上に形成され、多孔質構造を有する酸化皮膜と、を備え、前記酸化皮膜は、前記アルミニウム基材の表面に形成される第1酸化皮膜と、前記第1酸化皮膜の前記アルミニウム基材側と反対側に形成される第2酸化皮膜と、前記第2酸化皮膜の前記第1酸化皮膜側と反対側に形成される第3酸化皮膜と、を有し、前記第1酸化皮膜は、前記第2酸化皮膜および前記第3酸化皮膜よりも硬く、第1酸化皮膜、前記第2酸化皮膜および前記第3酸化皮膜は、各皮膜に形成される孔が封孔されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかるプラズマ処理装置用部材は、上記の発明において、前記酸化皮膜の前記アルミニウム基材側と反対側に形成されるセラミック溶射膜、をさらに備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかるプラズマ処理装置用部材は、上記の発明において、前記第2酸化皮膜は、前記第3酸化皮膜側から前記第1酸化皮膜側に向かうにしたがって硬くなっていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかるプラズマ処理装置用部材は、上記の発明において、前記酸化皮膜は、気孔率が1%以上2%以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかるプラズマ処理装置用部材は、上記の発明において、前記第1酸化皮膜は、前記アルミニウム基材と接する部分にバリア層を有し、前記バリア層は、80nm以上210nm以下の厚さを有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかるプラズマ処理装置用部材は、上記の発明において、前記酸化皮膜は、アルミナ水和物によって封孔されており、前記アルミナ水和物は、1.4以上2以下の水和物であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかるプラズマ処理装置用部材は、上記の発明において、前記酸化皮膜は、70μm以上130μm以下の厚さを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い耐電圧を有するプラズマ処理装置用部材を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態にかかるプラズマ処理装置用部材の構造を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すプラズマ処理装置用部材の一部を拡大した断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施の形態にかかるプラズマ処理装置用部材における酸化皮膜の一例を示す顕微鏡画像であって、酸化皮膜の断面を示す顕微鏡画像である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施の形態にかかるプラズマ処理装置用部材における酸化皮膜の一例を示すSEM画像であって、酸化皮膜の断面を示すSEM画像である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施の形態にかかるプラズマ処理装置用部材における酸化皮膜の一例を示すSEM画像であって、酸化皮膜の断面を示すSEM画像である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施の形態にかかるプラズマ処理装置用部材と、比較例にかかるプラズマ処理装置用部材との物性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。すなわち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態にかかるプラズマ処理装置用部材の構造を示す断面図である。
図2は、
図1に示すプラズマ処理装置用部材の一部(領域R)を拡大した断面図である。
図1に示すプラズマ処理装置用部材1は、絶縁基板である基材10と、基材10の表面の一部に形成された酸化皮膜20と、酸化皮膜20の基材10側と反対側に設けられた溶射膜30と、を備える。プラズマ処理装置用部材1は、プラズマ処理装置に用いられる部材、例えば、電極や、電極保護部材等の材料として用いられ、基材10、酸化皮膜20および溶射膜30からなる母材の加工等によりその部材を構成する。
【0019】
基材10は、アルミニウム、アルミニウムを主成分とする合金、またはアルミニウムの酸化物を用いて形成されるアルミニウム基材である。
溶射膜30は、セラミックを用いて形成されるセラミック溶射膜である。
【0020】
図3は、本発明の一実施の形態にかかるプラズマ処理装置用部材における酸化皮膜の一例を示す顕微鏡画像であって、酸化皮膜の断面を示す顕微鏡画像である。
図4および
図5は、本発明の一実施の形態にかかるプラズマ処理装置用部材における酸化皮膜の一例を示す走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)画像であって、酸化皮膜の断面を示すSEM画像である。
図3~
図5では、
図2に示す酸化皮膜の各部に相当する領域(皮膜)を図示している。
【0021】
酸化皮膜20は、アルマイトにより形成され、三層構造をなすアルミナ皮膜である。酸化皮膜20は、基材10の表面に形成される第1酸化皮膜21と、第1酸化皮膜21の基材10側と反対側に積層される第2酸化皮膜22と、第2酸化皮膜22の第1酸化皮膜21側と反対側に積層される第3酸化皮膜23と、からなる(例えば、
図2、3参照)。
【0022】
第1酸化皮膜21は、第2酸化皮膜22よりも硬度が高い。また、第2酸化皮膜22は、第3酸化皮膜23よりも硬度が高い。すなわち、酸化皮膜20は、基材10側から溶射膜30側にいくにしたがって硬度が低くなる。ここで、第1酸化皮膜21の硬度は、400Hv以上430Hv以下であることが好ましい。第2酸化皮膜22の硬度は、200Hv以上380Hv以下であることが好ましい。第3酸化皮膜23の硬度は、40Hv以上80Hv以下であることが好ましい。また、第2酸化皮膜22は、第3酸化皮膜23側から第1酸化皮膜21側に向かうにしたがって硬度が高くなる。
なお、第1酸化皮膜21の硬度が400Hv未満の場合は耐摩耗性が低下し、耐電圧低下するおそれがある。また、第1酸化皮膜21の硬度が430HVより大きい場合は皮膜にクラックが発生するおそれがある。
【0023】
第1酸化皮膜21、第2酸化皮膜22および第3酸化皮膜23は、積層方向の長さ(厚さ)において、第2酸化皮膜22が最も大きく、第1酸化皮膜21が最も小さい。具体的には、第1酸化皮膜21は、80nm以上210nm以下である。第2酸化皮膜22は、60μm以上100μm以下であることが好ましい。第3酸化皮膜23は、20μm以上30μm以下である。酸化皮膜20は、その厚さが、70μm以上130μm以下であることが好ましく、70μm以上120μm以下であることが特に好ましい。
【0024】
第1酸化皮膜21は、第2酸化皮膜22側に形成される皮膜層21aと、基材10側に形成されるバリア層21bとを有する。バリア層21bは、基材表面に形成される非導電性の皮膜であり、皮膜形成時の皮膜(皮膜層21a)の成長を支える層である。バリア層21bは、その厚さが、80nm以上210nm以下であることが好ましい。この場合、バリア層21bは、第1酸化皮膜21において皮膜層21aよりも含有率が高い。なお、従来のバリア層は、第1酸化皮膜21と同程度の皮膜において、その厚さは30nm~40nmである。皮膜層21aおよびバリア層21bは、硬度が同じであり、好ましくは上述した硬度(400Hv以上430Hv以下)となる。
【0025】
酸化皮膜20は、気孔率が1%以上2%以下である。酸化皮膜20において、第1酸化皮膜21、第2酸化皮膜22および第3酸化皮膜23は、多孔質皮膜であり、それぞれ皮膜の孔にはアルミナ水和物が充填されている。このアルミナ水和物は、1.4以上2.0以下の水和物であることが好ましい。なお、第1酸化皮膜21において、上述した孔は、皮膜層21aに形成される。
【0026】
次に、プラズマ処理装置用部材1の作製方法について説明する。まず、上述した基材10を用意する。この基材10に、酸化皮膜20を形成する。酸化皮膜20を形成する際、まず、第3酸化皮膜23が形成される。その後、第2酸化皮膜22が形成される。第2酸化皮膜22および第3酸化皮膜23が形成された後、第1酸化皮膜21が形成される。この際、第1酸化皮膜21には、陽極酸化処理によって皮膜層(皮膜層21aおよびバリア層21b)が形成される。その後、皮膜に形成された孔にアルミナ水和物を充填する。このようにして、基材10上に酸化皮膜20を形成する。その後、酸化皮膜20の基材10側と反対側に溶射膜30を形成する。
【0027】
以上のように作製した三層の酸化皮膜を有するプラズマ処理装置用部材1(実施例)と、単層の酸化皮膜を有するプラズマ処理装置用部材(比較例)との物性について、
図6を参照して説明する。
図6は、本発明の一実施の形態にかかるプラズマ処理装置用部材と、比較例にかかるプラズマ処理装置用部材との物性を示す図である。
図6において、ポーラス径は多孔質の孔の径の平均値であり、ポーラス数は多孔質における孔の数である。
【0028】
図6に示すように、実施例にかかるプラズマ処理装置用部材1は、加熱前および加熱後のいずれにおいても、比較例のプラズマ処理装置用部材と比して耐電圧が高いことが分かる。
また、実施例にかかるプラズマ処理装置用部材1の気孔率は、比較例のプラズマ処理装置用部材の気孔率と比して低く、上述した範囲内となっている。
【0029】
上述した実施の形態によれば、基材10と溶射膜30との間に形成される酸化皮膜20を、第1酸化皮膜21、第2酸化皮膜22および第3酸化皮膜23の三層構造とし、かつ基材10側の第1酸化皮膜21を、他の皮膜(第2酸化皮膜22および第3酸化皮膜23)よりも硬くすることによって、高い耐電圧を有するプラズマ処理装置用部材を得ることができる。
【0030】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【0031】
なお、上述した実施の形態では、酸化皮膜20上に溶射膜30を形成したプラズマ処理装置用部材1を例に説明したが、溶射膜30を有しない構成、すなわち、基材10と酸化皮膜20とからなるプラズマ処理装置用部材としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上説明したように、本発明に係るプラズマ処理装置用部材は、高い耐電圧を有するプラズマ処理装置用部材を実現するのに好適である。
【符号の説明】
【0033】
1 プラズマ処理装置用部材
10 基材
20 酸化皮膜
21 第1酸化皮膜
21a 皮膜層
21b バリア層
22 第2酸化皮膜
23 第3酸化皮膜
30 溶射膜