(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】高分散性デキストリン粉末
(51)【国際特許分類】
A23L 29/30 20160101AFI20230911BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20230911BHJP
C08B 30/18 20060101ALI20230911BHJP
A23F 3/16 20060101ALN20230911BHJP
【FI】
A23L29/30
A23L29/269
C08B30/18
A23F3/16
(21)【出願番号】P 2020532313
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2019028005
(87)【国際公開番号】W WO2020022133
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2018138862
(32)【優先日】2018-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500580677
【氏名又は名称】ニュートリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【氏名又は名称】間山 世津子
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【氏名又は名称】野村 健一
(72)【発明者】
【氏名】上森 翔太
(72)【発明者】
【氏名】谷山 洋平
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-211336(JP,A)
【文献】特表2015-501661(JP,A)
【文献】特表2010-514443(JP,A)
【文献】特表2002-501731(JP,A)
【文献】YAN H. et al.,Morphology of modified starches prepared by different methods,Food Res. Int.,2010年,Vol.43,pp.767-772,
図1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A23F、C08B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デキストリン溶液を噴霧乾燥することにより得られるデキストリン粉末であって、長さと太さの比が3以上であるデキストリン粒子を3%(個数基準の粒子割合)以上含む前記粉末を含有する、増粘剤。
【請求項2】
デキストリン粉末が、長さと太さの比が3以上であるデキストリン粒子を5%(個数基準の粒子割合)以上含む請求項1記載の
増粘剤。
【請求項3】
デキストリン粉末が、長さと太さの比が3以上であるデキストリン粒子を10%(個数基準の粒子割合)以上含む請求項2記載の
増粘剤。
【請求項4】
デキストリン粉末が、長さと太さの比が3以上であるデキストリン粒子を15%(個数基準の粒子割合)以上含む請求項3記載の
増粘剤。
【請求項5】
増粘剤の成分として、キサンタンガムを含有する請求項1~4のいずれかに記載の増粘剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分散性デキストリン粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
嚥下運動は種々の神経系や筋系が協調して行われるが、高齢者や種々の疾患などにより嚥下運動に障害が生じることがある。このように嚥下障害を有する人は正常人に比べ食品を摂取する際に食道ではなく、誤って気道などに嚥下してしまうことがある。このような誤嚥の問題は固体食品よりも粘性の低い液状食品、例えば、水、汁物、水分を含む食品などで多く生じる。こうした誤嚥を防止するために液状食品のテクスチャーをゾルまたはゲル状に変える増粘剤が用いられている。増粘剤としては、従来より、寒天、ゼラチン、澱粉、グアガム、キサンタンガム、ローカストビーンガムなどの増粘多糖類およびそれらの混合物などが多用されている(特許文献1:特許第4694109号)。
【0003】
現在、介護や医療の現場で最もよく使われている増粘剤は、キサンタンガムとデキストリンを主成分とするものである。増粘剤に使用されるデキストリン粒子の製法としては、加熱したドラム上でデキストリン溶液を乾燥するドラムドライ法と、デキストリン溶液を噴霧乾燥するスプレードライ法がある。ドラムドライ法で製造したデキストリン粒子(ドラムドライ品、形状は板状)を含有する増粘剤は、水分等への分散性が良いが、デキストリン粒子の製造費用が高いために高価となる。一方、スプレードライ法で製造したデキストリン粒子(スプレードライ品、形状は球状)は、安価であるが、これを含有する増粘剤の水分等への分散性が悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水分等への分散性の良い増粘剤の成分として使用できるデキストリン粒子を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意努力した結果、高粘度かつ高濃度のデキストリン水溶液をスプレードライヤーで噴霧乾燥したところ、繊維状デキストリン粒子を高濃度で含むデキストリン粉末が製造でき、このデキストリン粉末を含有する増粘剤は水分等への分散性が良好であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)デキストリン溶液を噴霧乾燥することにより得られるデキストリン粉末であって、長さと太さの比が3以上であるデキストリン粒子を3%(個数基準の粒子割合)以上含む前記粉末。
(2)長さと太さの比が3以上であるデキストリン粒子を5%(個数基準の粒子割合)以上含む(1)記載の粉末。
(3)長さと太さの比が3以上であるデキストリン粒子を10%(個数基準の粒子割合)以上含む(2)記載の粉末。
(4)長さと太さの比が3以上であるデキストリン粒子を15%(個数基準の粒子割合)以上含む(3)記載の粉末。
(5)(1)~(4)のいずれかに記載のデキストリン粉末を含有する、増粘剤。
(6)(1)~(4)のいずれかに記載のデキストリン粉末を含有する、食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、低コストで、水分等への分散性の良い増粘剤の成分として使用できるデキストリン粉末を製造できるようになった。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2018‐138862の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で製造したデキストリン粒子のアスペクト比(長さ/太さ)分布の図表である。
【
図2】実施例2で製造したデキストリン粒子のアスペクト比(長さ/太さ)分布の図表である。
【
図3】比較例1で製造・使用したデキストリン粒子のアスペクト比(長さ/太さ)分布の図表である。
【
図4-1】実施例1で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.014~2.187)をCCDカメラで撮影した画像である。円相当径(Hy):粒子の投影面積と等しい面積をもつ円の直径。アスペクト比(Ap):最大長を最大垂直長で割った数値(L/W)。短径(W):最大垂直長(最大長に対して平行な2本の直線で粒子を挟んだ時の2直線間の最大距離)。長径(L):最大長(粒子投影像輪郭線上で、任意の2点間における最大長)。円形度(R):粒子の投影面積(A)と等しい面積を有する円の周長を粒子周囲長(P)(粒子の周上の長さ)で割った数値。ここでは、二乗した4πA/P
2を使用。
【
図4-2】実施例1で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.276~11.531)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図4-3】実施例1で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.000~2.432)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図4-4】実施例1で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.000~1.878)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図4-5】実施例1で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.025~14.721)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図4-6】実施例1で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.000~1.682)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図4-7】実施例1で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:8.596~16.648)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図5-1】実施例2で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.003~1.560)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図5-2】実施例2で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.098~9.593)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図5-3】実施例2で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.023~1.747)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図5-4】実施例2で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.000~1.606)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図5-5】実施例2で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.193~11.536)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図5-6】実施例2で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.000~1.762)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図6-1】比較例1で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.007~1.305)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図6-2】比較例1で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.000~1.586)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図6-3】比較例1で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.022~1.991)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図6-4】比較例1で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.000~1.656)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図6-5】比較例1で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.019~2.216)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図6-6】比較例1で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:1.000~1.490)をCCDカメラで撮影した画像である。
【
図6-7】比較例1で製造したデキストリン粒子(アスペクト比:3.103~3.543)をCCDカメラで撮影した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
【0011】
本発明は、デキストリン溶液を噴霧乾燥することにより得られるデキストリン粉末であって、長さと太さの比が3以上であるデキストリン粒子を3%(個数基準の粒子割合)以上含む前記粉末を提供する。
本発明のデキストリン粉末は、長さと太さの比(アスペクト比)が3以上であるデキストリン粒子を3%(個数基準の粒子割合)以上含むが、長さと太さの比(アスペクト比)が3以上であるデキストリン粒子を好ましくは5%(個数基準の粒子割合)以上、より好ましくは10%(個数基準の粒子割合)以上、さらに好ましくは15%(個数基準の粒子割合)以上含む。
長さと太さの比(アスペクト比)が3以上であるデキストリン粒子(以下、「繊維状デキストリン粒子」と記すこともある)は、
図5及び6に示すように、糸状の細長い状態をとりうる。繊維状デキストリンの糸状の細長い状態は、球状デキストリンや板状デキストリンの形状と明らかに異なる。また、板状デキストリンは平面的な構造のものが多く、断面が直線で囲まれる多角形であるのに対し、繊維状デキストリン粒子は曲面的な構造が多く、断面が円形又は楕円形など輪郭が曲線である形状を取りうる。
アスペクト比は、長さ(粒子の最大長)を太さ(最大垂直長)で割った数値として表すことができる。デキストリン粉末中のアスペクト比が3以上であるデキストリン粒子の割合(個数基準)は、動的画像解析法(顕微鏡や投影機などから得られた粒子画像から粒子径や粒子形状を求める方法)により、測定することができる。後述の実施例では、動的画像解析法による粒子分析計として、PITA-3(株式会社セイシン企業)を用いた。
【0012】
繊維状デキストリン粒子は、デキストリン溶液を噴霧乾燥することにより、製造することができる。噴霧乾燥するデキストリン溶液の粘度は、150mPa・s以上であればよく、その上限は限定されるものではないが、スプレードライヤーで噴霧が可能な範囲の濃度における粘度であればよい。粘度の測定限界を超える高い粘度でもデキストリンの繊維化は可能である。デキストリン溶液の粘度は、例えば、150~10000mPa・sであるとよく、好ましくは、150~6000 mPa・sであり、より好ましくは、150~4000 mPa・sである。デキストリン溶液の粘度は、B型粘度計(東機産業;TVB-10)を用いて、12rpm、溶液温度20℃の条件で測定することができる。繊維状デキストリン粒子は粉末の状態で得られる。デキストリン溶液中のデキストリンのデキストロース当量(DE)が高くなると、粘度は低くなる。デキストリン溶液の温度が高くなれば、粘度は低くなる。また、粘度は、デキストリン溶液中のデキストリン濃度に依存して高くなる。噴霧乾燥するデキストリン溶液の濃度は、40±4質量%以上であるとよく、好ましくは、40±4~65±6.5質量%であり、より好ましくは、50±5~60±6質量%である。
【0013】
デキストリン溶液の溶媒は、水、水と他の溶媒(例えば、エタノール、メタノール、プロパノール)などの混合物であるとよく、溶質であるデキストリンは、特に限定さるものではないが、澱粉、デキストリン又はグリコーゲンの加水分解で得られる炭水化物であって、DE(デキストロース当量)は、2~30であるとよく、5~30が好ましく、10~13がより好ましい。DEは、SOMOGYI法で測定することができる。溶質であるデキストリンの重量平均分子量は、4000~100000であるとよく、17000~100000が好ましい。また溶質であるデキストリンの由来原料は限定されるものではなく、例えばとうもろこし、甘藷、馬鈴薯、タピオカ、小麦、米などが挙げられる。
【0014】
噴霧乾燥は、いかなるスプレードライヤー(例えば、ノズル(ノズル方式)またはディスク(ロータリーアトマイザー方式)を用いるもの)を用いて行ってもよい。スプレードライヤーにおける乾燥室内の乾燥入口温度は、100~250℃であるとよく、好ましくは、140~220℃であり、より好ましくは、160~200℃である。
【0015】
噴霧乾燥における、デキストリン溶液の液温は、0~100℃であるとよく、好ましくは、20~100℃である。
【0016】
本発明のデキストリン粉末は、繊維状デキストリン粒子を3%(個数基準の粒子割合)以上含む。本発明のデキストリン粉末に含まれるデキストリン粒子は、繊維状のものだけであってもよいし、繊維状のものと他の形状(例えば、球状、板状など)のものとの混合物であってもよい。繊維状デキストリン粒子の含有率は、好ましくは5%(個数基準の粒子割合)以上、より好ましくは10%(個数基準の粒子割合)以上、さらに好ましくは15%(個数基準の粒子割合)以上である。
【0017】
繊維状デキストリン粒子の太さは、特に限定されるわけではないが、太さの下限は、例えば、0.01μmであり、好ましくは、0.1μmであり、太さの上限は、例えば、1000μmであり、好ましくは、100μmである。繊維状デキストリン粒子の太さは、0.01μm~1000μm、0.01μm~100μm、0.1μm~1000μm、0.1μm~100μmなどの数値範囲でありうる。繊維状デキストリン粒子の太さとは、短径(最大垂直長)と同じ概念であり、短径は最大長(長径)に対して平行な2本の直線で粒子を挟んだ時の2直線間の最大距離で表すことができる。
繊維状デキストリン粒子の長さも、特に限定されるものではないが、長さの下限は、例えば、0.12μmであり、好ましくは、1.2μmであり、長さの上限は、例えば、30000μmであり、好ましくは、3000μm、より好ましくは、500μmである。繊維状デキストリン粒子の長さは、0.12μm~30000μm、0.12μm~3000μm、1.2μm~30000μm、1.2μm~3000μm、1.2μm~500μmなどの数値範囲でありうる。繊維状デキストリン粒子の長さとは、長径(最大長)と同じ概念であり、粒子投影像輪郭線上で、任意の2点間における最大長さで表すことができる。
繊維状デキストリン粒子の長さは、太さの3倍以上であるとよく、好ましくは、3.5倍以上、より好ましくは、4倍以上、さらにより好ましくは、5倍以上である。さらに、繊維状デキストリン粒子の長さは、太さの7倍以上、10倍以上であることもある。長さと太さの比(長さ/太さ)(アスペクト比)の上限は、特に限定されるわけではないが、10000であるとよく、好ましくは、1000であり、より好ましくは100、さらに好ましくは50である。
繊維状デキストリン粒子の太さと長さは、FE型走査電子顕微鏡による観察、CCDカメラでの撮影などの手段で測定することができる。また、デキストリン粉末の水分含量は、0~10質量%であるとよく、好ましくは、3~8質量%であり、より好ましくは、4~6質量%である。
【0018】
デキストリン粉末の水分含量は、ハロゲン水分計HG63(メトラー・トレド株式会社)を用いて、約2gのデキストリン粒子を120℃で3分間加熱することにより決定することができる。
本発明のデキストリン粉末の分散性は、ダマ0~20個が適当であり、ダマ0~5個が好ましく、ダマ0~1個がより好ましい。分散性は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0019】
本発明のデキストリン粉末は、食品テクスチャーの改良に用いることができる。例えば、キサンタンガム粒子の分散性、溶解性を補助するために、キサンタンガム粒子を含む増粘剤に添加するとよい。本発明のデキストリン粉末の添加により、液状食品中においてキサンタンガム粒子同士が接着し団塊を形成することを抑制して、キサンタンガム粒子の液状食品への分散性を向上させ、この分散性向上により溶解性を高めることができる。よって、本発明は、上記の繊維状デキストリン粉末を含有する、増粘剤も提供する。本発明の増粘剤は、繊維状以外の形状のデキストリン粒子を含有してもよい。
【0020】
本発明の増粘剤は、医療・介護の目的で、あるいは一般の食品加工の目的で食品テクスチャーの改良に用いることができ、例えば、液状食品をゾル状またはゲル状に改良に用いることができる。医療介護の目的での食品テクスチャー改良としては、嚥下障害や高齢者などにおいて誤嚥の原因となる液状食品、例えば、飲料用液体、汁物、固体食品中に含まれる液体などのテクスチャーをゾル状またはゲル状に改良することなどが挙げられる。
【0021】
ゾル化を誘導するゾル化剤としては、主剤であるキサンタンガムを好適に用いることができる。なお、ここで主剤とは、食品テクスチャーを改良するための主な成分との意味であり、その量が主要な量を占めるという意味で用いるものではない。そのため、キサンタンガムがデキストリンなどの他の成分よりも少ない量であってもよい。このキサンタンガムは、上述した通り、微粉末状態では水溶液中で団塊を形成し易く、分散性、溶解性に欠ける。こうしたキサンタンガムの分散性、溶解性を向上させるため、本発明の増粘剤ではキサンタンガムを造粒体として用いることが好ましい。またさらに単に造粒するだけではなく、溶解性を向上し得る多孔性粒子とすることが好ましい。このキサンタンガムの造粒方法は、特に限定はないが、溶解性を高め得る多孔性粒子を形成するために用いられる方法、例えばフローコーターなどを用いたフローコーティング造粒法などを好適に用いることができる。造粒体の粒子サイズは、液状食品への溶解性、分散性などを指標として任意に定めることができ、例えば、直径250μm~1000μmとすることができる。
【0022】
キサンタンガム粒子とデキストリン粒子との混合は混合機などを用いて行うことができ、その際の混合比は、キサンタンガム粒子の分散性を補助し得る範囲で任意に定め得ることができる。例えば、液状食品への分散性および溶解後の良好な粘度形成の観点から、その混合比は、キサンタンガム粒子とデキストリン粒子との重量比として、1:9~7:3、好ましくは、2:8~5:5、より好ましくは、7:13(35:65)とすることができる。
【0023】
上記の通り調製された、本発明の増粘剤は、低温の液状食品であっても液状食品に対し1~3%程度添加することによって速やかに分散し、また機械を用いずに数分程度攪拌子などで混合するだけで塊などを残さずに容易に溶解して、液状食品の均質なゾル化を誘導することができる。そして、ゾル化された食品は、キサンタンガムの特性を有効に発揮し、摂食温度範囲内で安定な粘度が保持され、また、低付着性であるため嚥下適性に一層優れた食品となる。さらには、ゾル化された食品は、従来の増粘剤を用いた場合の曳糸性も極めて低く、食事介助などの作業性、衛生性も向上し得る。
【0024】
本発明の増粘剤は、家庭でも、病院内でも用いることができ、また、食品加工工場などでも用いられる。さらに、本発明の増粘剤は医療・介護目的、工業的目的以外にも、片栗粉やくず粉の代用品として一般の調理材料として用いることもできる。本発明の増粘剤は片栗粉やくず粉に比べ、安定したとろみを保持することができるため、例えば、菓子や料理などにおいて、調理後の温度変化によるレオロジー変性を防止し、安定した食感等を提供することが可能となる。
【0025】
また、本発明の増粘剤はゾル化を誘導するだけではなく、ゲル化を誘導するために用いることができる。ゲル化を誘導するための増粘剤では、上記デキストリン粒子に加えて、ゲル化剤を添加する必要がある。このゲル化剤は、食品のゲル化を誘導し得る食用可能なものであればよく、例えば、キサンタンガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、ジェランガム、寒天、ゼラチンなどを単独であるいは組合せて用いることができる。これらゲル化剤は、粉末状であっても、上記ゾル化剤などと同様に粒子状としてもよい。
【0026】
このゲル化剤は、デキストリン粒子に添加・混合される。その混合比は、ゲル化剤とデキストリン粒子との重量比として、1:9~7:3、好ましくは、2:8~5:5とすることができる。
ゲル化剤としてキサンタンガム、ローカストビーンガムおよび寒天を組み合わせて用いた一例を挙げれば、ローカストビーンガム、寒天、キサンタンガム、デキストリンのぞれぞれの割合は、およそ2:3:6:10とすることが好適であるが、この割合に限定されるものではなく、ゲル化を誘導し得る範囲内で変更可能である。
【0027】
上記のとおり構成されたゲル化用の増粘剤では、加温した液状食品に0.5%~1.5%添加することにより速やかに分散し、機械を用いることなく簡単に攪拌することにより溶解する。そして、溶解後に液状食品の温度を下げることにより、ゼラチンゼリー様のゲルを形成することができる。そして、ゲル化された食品は、寒天に近い付着性と、ゼラチンと同様の高い凝集性を有する嚥下特性の優れた食品に改良される。また、冷却後のゲル化食品をさらに昇温させた場合でも、ゲルの溶解はきわめて緩やかで、60℃程度でも安定性を保持し得るため、従来、ゼラチンでは困難であった温かい液状食品を温かいゲル化食品に改良することも可能となる。
【0028】
本発明の増粘剤は、食品に限らず、化粧品、医薬品、その他の工業製品にも用いることができる。
【0029】
本発明は、上記のデキストリン粉末を含有する、食品も提供する。本発明の食品は、繊維状以外の形状のデキストリン粒子を含有してもよい。
【0030】
食品は、いかなる飲食物であってもよく、特に、食物の嚥下が困難な患者、慢性腸疾患の患者、高齢者などの口から食物を摂取することが困難な患者のための流動食(自然食タイプ(通常食品を使用)、半消化タイプ(食品からある程度分解した製品を使用したもの)、消化タイプ(そのまま分解しないで吸収できる状態のもの)のいずれでもよい)などの経腸栄養法に利用するものであるとよい。
【0031】
また、本発明の繊維状デキストリン粉末は、適度な吸油性を有するので、粉末ソース、粉末スープ、パン、ドーナツ、菓子等の食品向けにも利用しうる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1及び2〕デキストリン粉末の製造
【0033】
方法
溶液濃度(質量%)が55%(実施例1)及び50%(実施例2)となるように、デキストリン(DE10~13)(重量平均分子量17000)(サンデック#100;三和澱粉工業)を水に溶解した(温度:20℃、粘度:392mPa・s(実施例1)及び170mPa・s(実施例2))。ミニスプレードライヤー(B-290(日本ビュッヒ(株))を用いて、ノズル穴径0.7mm、供給量6ml/分、アスピレーター100%、乾燥入口温度200℃、乾燥出口温度140℃の条件で噴霧を行い、デキストリン粉末を得た(実施例品1及び2)。
比較例品1として、溶液濃度(質量%)が46%のデキストリン溶液(温度:20℃、粘度:80mPa・s)を用いた他は、実施例品と同様の方法でデキストリン粉末を得た。
形状観察及びアスペクト比分布:PITA-3(株式会社セイシン企業)を用いて測定した。アスペクト比は、粒子の最大長を最大垂直長で割った数値である。粒子の形状観察は、モノクロCCDカメラ(1380×1040 4.65正方画素)最大31fpsで粒子を撮影することにより行った。
吸油性能(g):デキストリン3gに対して、白絞油を滴下してゆき、全体がパテ状となった時の白絞油の量。
分散性試験:試料35gとキサンタンガム粒子※15gを混合した。300mLトールビーカーに入れた蒸留水294gにサンプル6gを投入し、5秒間静置した後、スパーテルを用いて3回転/秒の速さで10秒間撹拌し、ダマの個数を計測した。
※キサンタンガム粒子は流動層造粒機を用いてキサンタンガム75%、デキストリン(サンデック#100)20%、クエン酸3ナトリウム5%を造粒加工したものを用いた。
【0034】
結果
結果を下記の表にまとめた。
(表1)
*1
〇:ダマ0個。×:ダマ20個以上。
実施例品1及び2、比較例品1のアスペクト比の分布をそれぞれ
図1~3に示す。
実施例品1及び2、比較例品1の形状観察の結果をそれぞれ
図4~6に示す。
実施例品1及び2の分散性は良好であり、ダマは観察されなかった。比較例品1の分散性は不良であった(表1)。繊維状デキストリン粒子の表面積は大きく、球状デキストリン粒子の表面積は小さいことから、デキストリン粒子の表面積が大きい方が、キサンタンガム粒子の水への分散性を高める効果が大きいと考えられる。
吸油量については、実施例品1及び2は、比較例品1よりも多く、適度な吸油性を有していた(表1)。
【0035】
〔実施例3〕食品の製造
お茶150gに増粘剤(実施例1及び2の分散性試験で調製したキサンタンガム粒子との混合物)を3g入れ、さじで30秒撹拌すると、適度な粘度を付与したお茶が製造できる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の繊維状デキストリン粉末は、増粘剤として利用可能である。