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特許7346487クレープ用生地、クレープ皮、及びクレープ皮の製造方法並びにクレープ用ミックス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】クレープ用生地、クレープ皮、及びクレープ皮の製造方法並びにクレープ用ミックス
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/16 20060101AFI20230911BHJP
   A21D 13/44 20170101ALI20230911BHJP
   A21D 10/02 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
A21D2/16
A21D13/44
A21D10/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021068902
(22)【出願日】2021-04-15
(62)【分割の表示】P 2020567265の分割
【原出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2021101743
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/018826
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】312015185
【氏名又は名称】日清製粉プレミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石崎 純一
(72)【発明者】
【氏名】片桐 さやか
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-149756(JP,A)
【文献】特開平09-065821(JP,A)
【文献】特開昭57-012944(JP,A)
【文献】特開2014-132907(JP,A)
【文献】特開2018-201457(JP,A)
【文献】特開昭58-036335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類、糖類、卵類、及び液状油脂を含有するクレープ用生地であって、
水分量が穀粉類100質量部に対し160~400質量部であり、
穀粉類100質量部に対し、融点55℃未満のモノグリセリドを0.01~2.5質量部、糖類を25~75質量部、液状油脂を5~45質量部及び卵類を120~190質量部含有し、
生地温度が25℃における生地粘度が15~35dPa・sである、クレープ用生地。
【請求項2】
穀粉類100質量部に対し、増粘剤を0.05~1質量部含有する、請求項1に記載のクレープ用生地。
【請求項3】
クレープ連続焼成機用である、請求項1又は2に記載のクレープ用生地。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載のクレープ用生地を焼成する工程を有する、クレープ皮の製造方法。
【請求項5】
穀粉類及び糖類を含有し、穀粉類100質量部に対し、融点55℃未満のモノグリセリドを0.01~2.5質量部及び糖類を25~75質量部含有するクレープ用ミックスであって、
穀粉類100質量部に対し卵類を120~190質量部、及び液状油脂を5~45質量部含有し、水分量が穀粉類100質量部に対し160~400質量部であり、生地温度が25℃における生地粘度が15~35dPa・sであるクレープ用生地の調製に用いられる、クレープ用ミックス。
【請求項6】
穀粉類100質量部に対し、増粘剤を0.05~1質量部含有する、請求項5に記載のクレープ用ミックス。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のクレープ用生地を用いて製造されるクレープ皮であって、表面に、網目状の焼き色が付いた部分と、該焼き色が付いた部分に囲まれた焼き色の付いていない複数の網目部分とを有し、
クレープ皮の中心部分を直径100mmの円形で区切ったときに、その円形の中に、前記の焼き色の付いていない網目部分のうち最大長さが3~30mmのものの数が40~115個である、クレープ皮。
ただし、最大長さとは、網目部分を横断する線分のうち最も長い線分の長さを指す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレープ用生地、クレープ皮、及びクレープ皮の製造方法並びにクレープ用ミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
菓子用焼皮の代表的なものにクレープ皮がある。クレープ皮は小麦粉を主体としたふわっとした食感が一般的である。また、表面の焼き色は網目状の模様を呈するものが好ましいとされている。ここ数年、もちもちした食感(以下「もち感」ともいう。)を有するクレープ皮が求められているが、もち感のあるクレープ皮は表面に網目模様を出すのが非常に困難とされている。網目模様が得られても、生地の凹凸が大きく、粗い模様となり、もち感が弱いクレープ皮しか得られない。
【0003】
クレープ皮表面の状態や焼き色を調節する方法には、いくつかの報告がある。特許文献1には、クレープ皮などの菓子用焼皮の製造において、加工澱粉を添加するとともに膨張剤を適宜添加して焼成するクレープ皮の製造方法が記載されている。同文献には、焼成後の焼皮表面が、凸凹が少なく、ほぼ滑らかな表面となり、全体的に均一な大きさの小気泡孔が無数に形成されることによって柔らかく、口どけがよく、きめの細かな口当たりの菓子用焼皮が得られることが記載されている。特許文献2には、澱粉粒子を含有する、ゲル化した水中油型乳化組成物を生地作成時に添加するクレープ皮の製造方法が記載されている。同文献には、当該製造方法によって、焼成時に薄く広がり、破損しにくく、歯切れ、口どけ良好で、火ぶくれなしの均一な焼き色のクレープ皮が得られると記載されている。
【0004】
一方で、クレープ用生地の製造において、乳化剤を使用する技術がいくつか知られている。特許文献3には、クレープなどの焼成洋菓子の製造において、液状油脂、乳化剤、鶏卵、牛乳または水を混合撹拌して乳化を高めた後、これに小麦粉、糖類、粉末状抽出植物蛋白を加えて調製したバッターミックスを用いる方法が提案されている。同文献には、当該方法により得られる焼成洋菓子は冷凍耐性を有し、冷凍しても食感および食味が低下しないと記載されている。特許文献4には、小麦粉と同量以上の水分を含む水種生地を焼成するクレープなどの製造において、水不溶性の食物繊維、増粘多糖類、HLB5以下の食品用界面活性剤を配合することにより、歩留まりの向上と製品のソフト化、大量生産における離型など作業性を向上させ、製品の冷解凍による離水、澱粉の老化による食感低下を抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-230353号公報
【文献】特開2004-73119号公報
【文献】特開昭58-36335号公報
【文献】特開平7-111855号公報
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、もち感を有し、表面の凹凸の少なさ、及び細かな網目状の焼き色模様のすべてを良好なものとするクレープ皮を得るための技術は、これまで報告されていなかった。
また、従来のクレープ皮は、焼き色模様の美観の点で十分なものではなかった。
【0007】
本発明の課題は、もち感を有し、表面に凹凸が少なく、焼き色が細かな網目状模様を呈し、フィリングの水分移行が抑制されるクレープ皮が得られるクレープ用生地及びクレープ皮の製造方法並びにクレープ用ミックスを提供することに関する。
また本発明の課題は、従来よりも焼き色の網目状の模様の細かさに優れ、美観に優れたクレープ皮を提供することに関する。
【0008】
本発明者らは、クレープ皮の製造において、穀粉類、卵、糖類及び液状油脂を含有するクレープ用生地であって、特定量の水分を用い且つ特定の乳化剤を特定量用いることで、クレープ皮表面の凹凸が抑制されてフラットで、焼き色が付いた部分が細かな網目状模様を呈し、もち感を感じるクレープ皮を得ることができるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので穀粉類、糖類、卵、及び液状油脂を含有するクレープ用生地であって、
水分量が穀粉類100質量部に対し160~400質量部であり、
穀粉類100質量部に対し、プロピレングリコール脂肪酸エステルを0.01~2.5質量部、及び/又は融点55℃未満のモノグリセリドを0.01~2.5質量部含有するクレープ用生地を提供するものである。
【0010】
また本発明は、上記クレープ用生地を焼成する工程を有する、クレープ皮の製造方法を提供するものである。
【0011】
また本発明は、穀粉類及び糖類を含有するクレープ用ミックスであって、
穀粉類100質量部に対し、プロピレングリコール脂肪酸エステルを0.01~2.5質量部、及び/又は融点55℃未満のモノグリセリドを0.01~2.5質量部含有するクレープ用ミックスを提供するものである。
【0012】
また本発明は、表面に、網目状の焼き色が付いた部分と、該焼き色が付いた部分に囲まれた焼き色の付いていない複数の網目部分とを有するクレープ皮であって、
クレープ皮の中心部分を直径100mmの円形で区切ったときに、その円形の中に、前記の焼き色の付いていない網目部分のうち最大長さが3~30mmのものの数が40~115個である、クレープ皮を提供するものである。
ただし、最大長さとは、網目部分を横断する線分のうち最も長い線分の長さを指す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、回転ドラムを有するクレープ連続焼成機の一例を示す模式図である。
図2図2は、実施例4、実施例3及び比較例1のそれぞれのクレープ皮の焼成面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。以下、N及びMが数字である「N~M」という記載は、N以上M以下であることを意味する。
本発明のクレープ用生地は、穀粉類及び糖類を含有する。穀粉類としては、クレープの製造に従来用いられている穀粉及び澱粉を特に制限なく用いることができ、それらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。穀粉としては、例えば、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、デュラム粉等の小麦粉;米粉、トウモロコシ粉、馬鈴薯粉、タピオカ粉、甘藷粉等が挙げられる。澱粉としては、小麦、米、コーン、ワキシーコーン、馬鈴薯、タピオカ、甘藷等を由来とする澱粉及びその加工澱粉が挙げられる。該加工澱粉として、未加工澱粉にエーテル化、エステル化、α化、架橋処理、酸化処理、油脂加工等の処理の1つ以上を施したものが挙げられる。エーテル化にはヒドロキシプロピル化が含まれ、エステル化にはアセチル化が含まれる。ここでいう「澱粉」は、小麦等の植物から単離された「純粋な澱粉」を意味し、穀粉中に含有されている澱粉とは区別される。
【0015】
穀粉類は、本発明のクレープ用生地の主体を成すものである。典型的には穀粉類は、クレープ用生地中の固形分の40質量%以上を占めることが好ましく、45質量%以上を占めることがより好ましい。糖類等他の成分の含有量を確保する点から、クレープ用生地における上記の固形分の穀粉類の含有量の上限としては、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましい。なお、クレープ用生地の固形分とは、クレープ用生地から水分及び液状油脂を除いたものである。
【0016】
本発明では穀粉類として、種々のものを用いることができるが、穀粉類の入手容易性やコスト、クレープの風味等の点から、小麦粉、米粉、トウモロコシ粉、未加工澱粉及び加工澱粉から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、小麦粉、米粉、トウモロコシ粉、未加工澱粉及び加工澱粉から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。この観点から、穀粉類100質量部中、小麦粉、米粉、トウモロコシ粉、未加工澱粉及び加工澱粉から選ばれる少なくとも一種の割合は70質量部以上であることが好ましく、90質量部以上であることが特に好ましい。小麦粉としては、薄力粉は安定した生地粘度と均一な乳化の度合いの点で優れ、強力粉は気泡孔の少なさの点で優れるが、いずれを用いても、もち感を有し、表面の凹凸の少なさ、細かな網目状模様、気泡孔の少なさについて一定水準以上のクレープ皮が得られる。澱粉の由来としては、入手容易性やコストなどの点から、コーン、ワキシーコーン、タピオカ、馬鈴薯、小麦、米等が好適に挙げられる。入手容易性やコストなどの点から、好ましい加工澱粉としてはエーテル化、エステル化及び架橋から選ばれる1種又は2種以上の処理がなされた澱粉を例示でき、エーテル化、アセチル化及び架橋から選ばれる1種又は2種以上の処理がなされた澱粉が好ましく、エーテル化澱粉、アセチル化澱粉、架橋澱粉、エーテル化架橋澱粉、アセチル化架橋澱粉が特に好ましい。
【0017】
一実施形態として、穀粉類として、小麦粉及び加工澱粉を組み合わせて用いることが、優れたもち感を出す点、特に、優れたもち感、少ない気泡孔、少ない凹凸の効果を得つつ優れて細かな網目模様が得られる点で好ましい。小麦粉及び加工澱粉を組み合わせて用いる場合、穀粉類中、小麦粉の含有量は、5~50質量%が挙げられ、7~40質量%がより好ましく、10~30質量%が特に好ましく、最も好ましくは15~25質量%である。また小麦粉及び加工澱粉を組み合わせて用いる場合、穀粉類中、加工澱粉の含有量は、50~95質量%が挙げられ、60~83質量%がより好ましく、70~90質量%が特に好ましく、最も好ましくは75~85質量%である。
【0018】
本発明で用いる穀粉類はデュラム小麦セモリナを含まないか、含む場合もその量がごく少ないことが、均一な厚さの生地を得ることと、もちもちした食感を維持する点で好ましい。デュラム小麦セモリナは、蛋白質含量が高いほか、小麦粉に比して粒度が大きく、本発明において用いると、均一な生地の厚さになりにくく、柄が不安定になりやすい。この観点から、本発明では穀粉類がデュラム小麦セモリナを含有していても、その量は穀粉中50重量%未満であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが特に好ましく、デュラム小麦セモリナを非含有であることが最も好ましい。なお小麦粉はセモリナと粒度が異なるため、セモリナとは異なる。本発明の穀粉類中のセモリナの量は穀粉類100質量部中、50質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが特に好ましく、セモリナを非含有であることが最も好ましい。
【0019】
糖類は、クレープ用生地の焼成物であるクレープ皮に甘味と保水性、好ましい焼き色を与えるものであり、食品分野において使用可能なものを特に制限なく用いることができる。糖類としては、例えば、砂糖、グラニュー糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖、果糖、ブドウ糖、異性化糖、キシロース、ガラクトース、トレハロース、オリゴ糖、デキストリン等の単糖、二糖又は多糖類;ソルビトール、マルチトール等の糖アルコール;ハチミツ、水あめ、メープルシロップ等の液糖;その他甘味料が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明のクレープ用生地における糖類の含有量は、クレープ皮の甘味や保水性の点、及び糖類以外の成分の量を確保する点等から穀粉類100質量部に対して、好ましくは25~75質量部、より好ましくは35~65質量部である。メイラード反応を進めてクレープ皮に好ましい焼き色を付ける点から、糖類は砂糖、グラニュー糖等のスクロース(ショ糖)含有糖を含むことが好ましい。またショ糖に還元糖を組み合わせることも好ましい。
【0020】
本発明のクレープ用生地は、卵類を含有する。卵類は特に、クレープ皮の色、風味、型離れのしやすさと密接に関係する。卵類としては、食品分野において使用可能なものを特に制限なく用いることができ、例えば、鶏卵、ウズラ卵、アヒル卵、ダチョウ卵が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明のクレープ用生地では、典型的には、卵類として、卵黄及び卵白を含む全卵を用いるが、卵黄及び卵白の一方のみを用いることもできる。本発明のクレープ用生地における卵類の含有量は、卵類を使用することによる上記の効果の点及び卵以外の成分の量を確保する点から、穀粉類100質量部に対して、好ましくは120~190質量部、より好ましくは150~180質量部である。
【0021】
本発明のクレープ用生地は、液状油脂を含有する。液状油脂は特に、クレープ皮の焼き色の模様のパターン(焼き色の付いていない網目部分の平面視形状及び寸法並びに配置)、クレープ皮の質感(凹凸感)と密接に関係する。液状油脂は、常温(25℃)で液状の油脂である。液状油脂としては、特に限定されないが、菜種油、オリーブ油、米油、ゴマ油、ヤシ油、コーン油、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、大豆油、ヒマワリ油、紅花(サフラワー)油、パーム分別油(パームオレイン等)、バターオイル、中鎖脂肪酸油、魚油等の各種動植物性油脂が挙げられる。また、常温(25℃)で液状であれば、前記液状油脂の水素添加油、エステル交換処理油等も用いることができる。当該エステル交換油脂は液状油脂に25℃で固形の油脂を配合した配合油にエステル交換を施したものであってもよい。これらは1種又は2種以上を組みあわせて用いることができる。本発明のクレープ用生地における液状油脂の含有量は、液状油脂を用いることによる上記効果を良好にする点等の点から、穀粉類100質量部に対して、好ましくは5~45質量部、より好ましくは15~35質量部である。網目状の焼き色模様を得る点で、本発明のクレープ用生地に含まれる油脂中、液状油脂が50質量%以上を占めることが好ましく、80質量%以上を占めることがより好ましい。
【0022】
本発明のクレープ用生地は、特定の油脂含有粉末とベーキングパウダーとの組み合わせを非含有であることが安定した網目模様を得る点で好ましい。前記特定の油脂含有粉末とは、糖類粉末又は糖類を主体とする粉末と添加水とからなる粉末状の系を該糖類が結晶化する加熱温度で加熱処理して多孔質状の不定形粒となし、これに油脂並びにプロピレングリコール脂肪酸エステル及び/又は融点55℃未満のモノグリセリドを添加混合して得られた油脂含有粉末を指す。油脂含有粉末の糖類の例としては上記で挙げた糖類の例が挙げられ、特に単糖類、二糖類又は多糖類から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。糖類を主体とするとは糖類が50質量%以上であることを指すことが好ましい。油脂含有粉末に用いる油脂の例としては、ショートニングやバターなどの常温で固形又は半固形の油脂のほか、上記で挙げた液状油脂の例が挙げられる。本発明のクレープ用生地は、安定した網目模様を得る点から、糖類粉末又は糖類を主体とする粉末と添加水とからなる粉末状の系を該糖類が結晶化する加熱温度で加熱処理して多孔質状の不定形粒となし、これに油脂を添加混合して得られた油脂含有粉末を非含有であることがより好ましく、糖類を主体として含み糖類の結晶化により形成された多孔質状の不定形粒子を非含有であることが更に一層好ましい。
【0023】
本発明のクレープ用生地は、発酵生地乾燥粉砕品及び酸化剤の組み合わせを含まないことが安定した網目模様を得る点で好ましい。発酵生地乾燥粉砕品とは、予め発酵を取った生地を、乾燥したもの、又は低温減圧下で凍結したものを粉砕したものを指す。また、酸化剤としてはアスコルビン酸、及びその塩、誘導体、化学修飾物、臭素酸カリウム、リポキシゲナーゼ、グルコースオキシダーゼ等が挙げられる。本発明のクレープ用生地は酵母の発酵物又はその加工物を含まないことが安定した網目模様を得る点で好ましい。
【0024】
本発明のクレープ用生地は、穀粉類、糖類、卵類及び液状油脂を含有するものであるが、これらに加えてさらに、特定の乳化剤を含有する点で特徴付けられる。本発明のクレープ用生地によれば、この特徴により、焼き色が細かな網目状の模様を呈するとともに凹凸が抑制されてフラットで、且つもち感を有し、気泡孔が少なくフィリングの水分移行がされにくいクレープ皮を得ることができる。特定の乳化剤とは、融点が55℃未満のモノグリセリド、及びプロピレングリコール脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種を指す。特に、プロピレングリコール脂肪酸エステルを用いると、細かな網目状模様が一層良好となり、凹凸が更に低減され十分に平坦な焼成面が得られるのみならず、もち感も向上する。本発明者は、これら特定の乳化剤によってクレープ用生地中に分散された液状油脂粒子の大きさ等、液状油脂の状態が好適となり、焼き色模様の細かさやクレープ皮の質感(凹凸)を良好にできるものと推測している。なお、気泡孔とは、例えばクレープの非焼成面を目視にて観察して認められた針孔のような小さな孔を指す。
さらに、本発明では特定の乳化剤を用いることで、得られるクレープ用生地に経時耐性があり、調製後に時間が経過した生地であっても調製直後と同程度に細かく均一な焼き色模様を有するクレープ皮を得ることができる。
【0025】
モノグリセリドとして融点が55℃未満のものは、常温でペースト状もしくはロウ状を呈する。融点が55℃未満のモノグリセリドは、グリセリンの炭素骨格の1位の位置に脂肪酸がエステル結合したものであってもよく、グリセリンの炭素骨格の2位の位置に脂肪酸がエステル結合したものであってもよい。脂肪酸の炭素数は8~22が挙げられる。具体的にはカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。本発明において、融点が55℃未満のモノグリセリドは、1種のモノグリセリドからなるものであってもよく、2種以上のモノグリセリドの混合物であってもよい。よりフラットで細かな焼き色模様を得る点から、本発明で用いるモノグリセリドはその融点が、15℃以上55℃未満であることがより好ましく、15℃以上50℃以下であることが特に好ましい。本明細書において「融点」とは、示差走査熱量計等によって測定した融点(ピークトップ温度)をいう。本発明は、融点が55℃未満のモノグリセリドを用いることで、融点55℃以上のモノグリセリドを用いる場合に比して、焼き色模様の網目が細かくなり接地面積が大きくなるためフラットな皮になりやすい。
【0026】
プロピレングリコール脂肪酸エステルは、プロピレングリコールと脂肪酸のエステルである。プロピレングリコール脂肪酸エステルとしては、モノエステル型、ジエステル型のものが挙げられる。脂肪酸の炭素数は8~22が挙げられる。脂肪酸の例としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等から選ばれる1種又は2種が挙げられる。プロピレングリコール脂肪酸エステルとしては融点が35~55℃のものが好ましく、40~50℃のものが特に好ましい。
【0027】
融点が55℃未満のモノグリセリドを用いる場合、その量は、穀粉類100質量部に対し、0.01~2.5質量部であることが好ましい。融点が55℃未満のモノグリセリドの量が穀粉類100質量部に対し、0.01質量部以上であることで、当該乳化剤を用いることによる上記の効果を十分得ることができる。また、融点が55℃未満のモノグリセリドの量が穀粉類100質量部に対し、2.5質量部以下であることで、当該乳化剤を用いることによるもち感を感じ、焼き色が細かな網目状模様を呈するという効果が得られ、気泡孔の少なさ及びクレープ皮表面の凹凸が抑制されてフラットであるという効果と両立させることができる。これらの観点から、融点が55℃未満のモノグリセリドの量は、穀粉類100質量部に対し、0.02質量部以上1.5質量部以下であることがより好ましく、0.05質量部以上1.0質量部以下であることが特に好ましい。
【0028】
プロピレングリコール脂肪酸エステルを用いる場合、その量は、穀粉類100質量部に対し、0.01~2.5質量部であることが好ましい。プロピレングリコール脂肪酸エステルの量が穀粉類100質量部に対し、0.01質量部以上であることで、当該乳化剤を用いることによる上記の効果を十分得ることができる。また、プロピレングリコール脂肪酸エステルの量が穀粉類100質量部に対し、2.5質量部以下であることで、当該乳化剤を用いることによるもち感を感じ、焼き色が細かな網目状模様を呈するという効果が得られ、気泡孔の少なさ及びクレープ皮表面の凹凸が抑制されてフラットであるという効果と両立させることができる。これらの観点から、プロピレングリコール脂肪酸エステルの量は、穀粉類100質量部に対し、0.02質量部以上1.5質量部以下であることがより好ましく、0.05質量部以上1.0質量部以下であることが特に好ましい。とりわけ本発明においては、プロピレングリコール脂肪酸エステルを穀粉類100質量部に対し、0.15質量部超含有することが焼き色模様の細かくフラットなクレープ皮を得る点で好ましく、0.2質量部以上含有することが更に好ましい。
プロピレングリコール脂肪酸エステルや融点が55℃未満のモノグリセリド等の特定の乳化剤の量を多くすると、クレープ用生地中に液状油脂を細かく均一に分散させやすくなるところ、そのような液状油脂が細かく均一分散したクレープ用生地は、焼成時に焼成機との接触面積が比較的多いため、焼き色模様が細かくフラットなクレープ皮となりやすい。
【0029】
プロピレングリコール脂肪酸エステルとモノグリセリドとを組み合わせると、更にもち感、クレープ皮の焼成面のフラットさや、網目状模様の細かさや網目の大きさの均一さ、気泡孔の少なさ等も含めて優れた効果を得ることができる点で好ましい。この観点において、とりわけ、プロピレングリコール脂肪酸エステルと、融点が55℃未満のモノグリセリドとを組み合わせることが好ましい。これらの効果を得る点から、プロピレングリコール脂肪酸エステルとモノグリセリドとを組み合わせる場合、プロピレングリコール脂肪酸エステル:モノグリセリドの質量比が7:3~3:7であることが好ましく、6:4~4:6であることが特に好ましい。とりわけ、プロピレングリコール脂肪酸エステルと融点が55℃未満のモノグリセリドとが上記の範囲の質量比であることが好ましい。
【0030】
本発明のクレープ用生地では、プロピレングリコール脂肪酸エステル及び融点55℃未満のモノグリセリド以外の乳化剤を用いてもよい。そのような乳化剤としては、例えば、融点55℃以上のモノグリセリド、酢酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明のクレープ用生地において、乳化剤の総量は、穀粉類100質量部に対し、0.01質量部以上5質量部以下であることが、細かな網目状の焼き色模様を有するとともに凹凸が抑制されてフラットで、且つもち感を有し、気泡孔が少なくフィリングの水分移行がされにくいという効果を一層得やすい点で好ましく、0.05質量部以上3質量部以下であることがより好ましい。
【0031】
細かな網目状の焼き色模様を有するとともに凹凸が抑制されてフラットで、且つもち感を有し、気泡孔が少なくフィリングの水分移行がされにくいという効果を得る点から、本発明のクレープ用生地がプロピレングリコール脂肪酸エステル及び融点55℃未満のモノグリセリド以外の乳化剤を用いる場合、プロピレングリコール脂肪酸エステル及び融点55℃未満のモノグリセリドの合計量が、プロピレングリコール脂肪酸エステル及び融点55℃未満のモノグリセリド以外の乳化剤(以下他の乳化剤ともいう)の何れかの単独使用量に比して大きいことが好ましく、他の乳化剤の何れの単独使用量に比しても大きいことが好ましい。またプロピレングリコール脂肪酸エステル及び融点55℃未満のモノグリセリドの合計量が、他の乳化剤の合計の使用量に比して大きいことが更に好ましく、プロピレングリコール脂肪酸エステルの量が、他の乳化剤の合計の使用量に比して大きいことが更に一層好ましい。また、本発明においてプロピレングリコール脂肪酸エステルを用いる場合、プロピレングリコール脂肪酸エステルの量に比して、プロピレングリコール脂肪酸エステル以外の乳化剤の量が少ないこともプロピレングリコール脂肪酸エステルによる効果が一層得やすい点で好ましく、プロピレングリコール脂肪酸エステル100質量部に対し、プロピレングリコール脂肪酸エステル以外の乳化剤の量が90質量部以下であることが好ましく、70質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることが特に好ましい。プロピレングリコール脂肪酸エステル及び/又は融点55℃未満のモノグリセリドの効果を十分に得る点から、プロピレングリコール脂肪酸エステル及び融点55℃未満のモノグリセリド以外の乳化剤を含有する場合、その量は、プロピレングリコール脂肪酸エステル及び融点55℃未満のモノグリセリドの合計100質量部に対し、10質量部以下であることが好ましく、2質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることが特に好ましい。
【0032】
本発明のクレープ用生地は、更に増粘剤を含有してもよい。増粘剤は、クレープ用生地の粘度を高めるほか、網目状模様を細かく均一化する等の役割を担う。本発明で用いる増粘剤としては、食品分野で使用可能なものを特に制限なく用いることができ、増粘多糖類が好適に用いられる。増粘多糖類としては、例えば、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム、ガティーガム、アラビノガラクタン、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、カードラン、ゼラチン、カゼイン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ペクチン、アガロース、グルコマンナン、キチン、キトサン等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明のクレープ用生地における増粘剤の含有量は、増粘剤に係る上記の効果を高める点等から、穀粉類100質量部に対して、好ましくは0.05~1質量部、より好ましくは0.1~0.5質量部である。
【0033】
本発明のクレープ用生地は、更に膨張剤を含有してもよい。本発明で用いる膨張剤としては、食品分野で使用可能なものを特に制限なく用いることができ、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、フマル酸、フマル酸ナトリウム、リン酸二水素カルシウム、グルコノデルタラクトン、酒石酸、酒石酸水素カリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、硫酸アルミニウムカリウム、リン酸水素二カリウム等があげられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。当該膨張剤には分散剤として澱粉等が含まれていてもよい。当該膨張剤としては、市販されているベーキングパウダーを用いてもよい。しかしながら、気泡孔の数を低減してフィリングの水分の移行を防止する点からは、本発明のクレープ用生地における膨張剤の含有量は低い方が好ましい。具体的には、本発明のクレープ用生地において、穀粉類100質量部に対し、膨張剤の量は好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0034】
本発明のクレープ用生地は、典型的には、前記成分に加えて更に、水性の液体を含有する。本発明のクレープ用生地に含有される水性の液体としては、例えば、水、牛乳等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせ用いることができる。本発明のクレープ用生地における水性の液体の含有量は、穀粉類100質量部に対するクレープ用生地中の水分量が、好ましくは160~400質量部となる量であることが、生地を適度な粘度としてクレープ皮の焼き色模様の細かさやフラットさを得やすい点で好ましく、200~350質量部であることがより好ましく、270~320質量部であることが特に好ましい。ここでいう水分量には、水性の液体中の水分量のほかに、卵類等の水分を有する材料中の水分の量を含む。従来、穀粉類100質量部に対し水分量200質量部超のクレープ用生地はもち感を維持しながらクレープの焼き模様を安定化させるのが特に難しかったが、本発明では特定の乳化剤を用いることで焼き模様を安定化させることができる。クレープ用生地の水分量は例えば、135℃で2時間、または105℃で5時間検体を乾燥させ、乾燥前後での重量変化から水分量を算出する加熱乾燥法にて測定できる。なお、135℃で2時間及び105℃で5時間の何れか一方の条件で乾燥させた場合に上記の数値範囲に含まれるが他方の条件で乾燥させた場合は含まれない場合であっても、当該数値範囲に該当するものとする。
【0035】
本発明のクレープ用生地は、前記成分以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、乳成分、動植物油脂、粉末油脂などの油脂類、食物繊維、食塩、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料等が挙げられ、これらを適宜配合することができる。本発明のクレープ用生地において、穀粉類、糖類、水分、卵類、液状油脂、乳化剤、増粘剤及び膨張剤以外の成分の量は合計で穀粉類100質量部に対して50質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることが一層好ましく、10質量部以下であることが特に好ましく、5質量部以下であることが最も好ましい。
【0036】
本発明のクレープ用生地の粘度は、クレープ用生地の温度が20~35℃の場合に、例えば10dPa・s以上40dPa・s以下であることが好ましく、15dPa・s以上35dPa・s以下であることがより好ましい。クレープ用生地の粘度は例えば回転粘度計、毛管粘度計等で測定することができる。本明細書のクレープ用生地の粘度は、測定対象の生地の品温を25℃に調整し、単一円筒形回転粘度計(B型粘度計)を用いて常法に従って測定された粘度を意味する。例えば、B型粘度計としてビスコテスタVT-06(リオン株式会社)を用い、ローターとして付属の1号ローターを使用し、生地温度を25℃に調整し、作成5分後に測定することができる。
【0037】
本発明のクレープ用生地の調製方法は特に限定されない。例えば本発明のクレープ用生地は、上記で挙げた各成分のうち、「穀粉類及び糖類を含有し、穀粉類100質量部に対し、融点55℃未満のモノグリセリドを0.01~2.5質量部及び/又はプロピレングリコール脂肪酸エステルを0.01~2.5質量部含有するクレープ用ミックス」(本発明のクレープ用ミックス)を用いて調製されてもよい。このようなクレープ用ミックスに液状油脂、卵類を添加するとともに、水性の液体を上記の水分量となるように添加することで、本発明のクレープ用生地を調製してもよい。クレープ用ミックスは粉体である。クレープ用ミックス中、穀粉類の含有量は45質量%以上85質量%以下であることが好ましく、55質量%以上75質量%以下であることがより好ましい。上記のクレープ用生地における穀粉類及び糖類、乳化剤の説明は、すべて上記のミックスに適用できる。従って穀粉類の種類、糖類の種類と穀粉類に対する量比、乳化剤の種類やその組成、穀粉類に対する量比は全て上記のミックスに適用できる。また、クレープ用生地におけるその他の粉体原料、例えば、増粘剤や膨張剤、及び上記の他の成分について、それらの種類やその量の説明は、全て上記のミックスに適用できる。従って増粘剤や膨張剤の種類や穀粉類に対する量比は、全て上記のミックスに適用できる。また、上記ミックスにおいて、穀粉類、糖類、卵類、乳化剤、増粘剤及び膨張剤以外の粉体成分の好ましい量は穀粉類100質量部に対し、50質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることが一層好ましく、10質量部以下であることが特に好ましく、5質量部以下であることが最も好ましい。
更に、本発明のミックスは、本発明のクレープ用生地と同様、前述した特定の油脂含有粉末を非含有であることが好ましく、糖類粉末又は糖類を主体とする粉末と添加水とからなる粉末状の系を該糖類が結晶化する加熱温度で加熱処理して多孔質状の不定形粒となし、これに油脂を添加混合して得られた油脂含有粉末を非含有であることがより好ましく、糖類粉末又は糖類を主体として含み糖類の結晶化により形成された多孔質状の不定形粒子を非含有であることが特に好ましい。また本発明のミックスは、発酵生地乾燥粉砕品及び酸化剤の組み合わせを含まないことが好ましく、酵母の発酵物又はその加工物を含まないことがより好ましい。
【0038】
本発明のクレープ用生地の製造及び焼成は、従来と同様にして行うことができる。生地は、穀粉類、糖類、卵類、液状油脂及び乳化剤並びに必要に応じてその他の任意成分をミキサーやハンドホイッパーで均一に混ぜることで調製できる。フロアタイムは10~60分間とすることが好ましい。例えば、回転ドラム等を有するクレープ連続焼成機で焼成してもよく、或いは、クレープパン、フライパン、ホットプレート、オーブン等で焼成してもよいが、クレープ連続焼成機で行うことが、以下の点から好ましい。焼成は片面のみであってもよく、両面を焼成してもよい。片面焼成の場合、本発明のクレープ用生地による、非焼成面の形状がフラットで気孔が開きにくく、生地中の水分飛散が抑制され、フィリングの水分移行がされにくいクレープ皮を得ることができる効果が一層効果的に発揮される点で好ましい。
焼成条件は、片面焼成及び両面焼成のいずれの場合も、好ましくは160~220℃で10秒間~60秒間であり、より好ましくは160~220℃で10秒間~40秒間である。
【0039】
クレープ連続焼成機とはクレープを自動的かつ連続的に製造できる装置を指す。クレープ連続焼成機の例としては、回転ドラムを有するクレープ連続焼成機(以下、ドラム焼成機ともいう。)やフライパン式の連続焼成機がある。ドラム焼成機は、一般に生地投入部と、転写ドラム及び加熱ドラムとを有する。転写ドラム及び加熱ドラムとは通常回転軸が同方向となるように互いに近接して設置され互いに逆方向に回転させて用いられる。ドラム焼成機は一般に、生地投入部から生地を転写ドラムへ送り、転写ドラムに生地を付着させて生地を成形し、転写ドラムから加熱ドラムに生地を転写して焼成する。ドラム焼成機は、一般に、生地投入部がホッパーとなっている。一般にドラム焼成機は、転写ドラムに隣接する(例えば下方に位置する)ホッパー付の生地タンクを用いて転写ドラムに生地を付着させる。一般にドラム焼成機は、生地投入部から生地を転写ドラム(転写ドラムに生地を付着させる生地タンク)に送るスクリューやギヤポンプを有する。ドラム焼成機の典型的な例を図1に示す。図1の装置では生地投入ホッパー1からスクリュー2で転写ドラムホッパー3に生地を送り、転写ドラムホッパー3の生地を、転写ドラム4によって、当該ドラム4と同時に回転している本体のドラム5に転写して焼成する。ドラム焼成機としては大英技研株式会社のクレープ成形機「HT-30CN」、「HT-15CN」、「HT-45CN」等が知られている。フライパン式の連続焼成機は、一般に、複数のフライパンとそれに対し、吐出部により吐きだされたクレープ用生地が連続的に投入されて生地が焼成されるものである。フライパン式の連続焼成機の例としては株式会社山田製作所、「CR-20」、「CR-2」、「IH仕様」等が知られている。
【0040】
クレープ連続焼成機による焼成は通常生地投入から焼成完了まで時間が数十分~1時間程度の時間がかかる。本発明のクレープ用生地では、後述する実施例に示す通り、クレープ用生地の経時安定性に優れるためクレープ連続焼成機を用いた場合においても細やかな網目状模様の有するクレープを安定的に製造できる。また加熱ドラムやフライパン等の加熱面に油を引かないなど網目状模様に不利な条件でも細やかな網目状模様の有するクレープを安定的に製造できる。ドラム焼成機では通常油を加熱ドラムに油をひかずに焼成する。
【0041】
本発明のクレープ皮について説明する。
クレープ皮は、クレープ用生地の焼成物であり、表面(クレープ用生地の焼成面)に、網目状の焼き色が付いた部分と、該焼き色が付いた部分に囲まれた焼き色の付いていない複数の網目部分とを有する。典型的には、クレープ皮の表面では、平面視線状の焼き色が付いた部分が二方向以上の複数の方向に延在しているとともに、それらが相互に連結して網目状の連続線を形成しており、この網目状の連続線によってクレープ皮の表面が、焼き色の付いていない複数の網目部分に区分されている。焼き色が付いていない部分の色味は、生地由来の色味であって例えば黄色や薄黄色である。焼き色が付いた部分の色味は当該焼き色が付いていない部分に比して茶色がかっており、例えば茶褐色である。
【0042】
本発明のクレープ皮は、クレープ皮の中心部分を直径100mmの円形で区切ったときに、その円形の中に、前記の焼き色の付いていない網目部分のうち最大長さが3~30mmのものの数が40個以上115個以下である点で特徴付けられ、この特徴により、網目状の焼き色模様が適度に細かく、且つ適度な大きさの網目部分が多数存在することで優れた美観を有する。この観点から、好ましくは、上記の円形の中に、前記の焼き色の付いていない網目部分のうち最大長さが3~30mmのものの数は40個以上115個以下であり、更に好ましくは60個以上95個以下である。本発明において、クレープ皮における網目部分の数を上記の範囲とするためには、前述した本発明のクレープ用生地を焼成するクレープ皮の製造方法を採用すればよい。従来のクレープ用生地では、上記のように細かな網目状模様を有するクレープ皮は得られていなかった。
【0043】
網目状とは、格子網目状などの、網目部分が規則的な形状をしているものに限定されず、網目部分の形状が不定形であるものを含む。また、網目状において、焼き色が付いた部分の幅(該部分の延びる方向と直交する方向の長さ)は一定である必要はない。また焼き色が付いた部分は必ずしも線状のような細長い形状でなくてもよい。「網目状の焼き色が付いた部分と、該焼き色が付いた部分に囲まれた焼き色の付いていない複数の網目部分とを有する」とは、焼き色の付いていない複数の不連続部分と、それらの不連続部分を互いに区切る焼き色の付いた部分とが観察されれば、満たされるものとする。不連続部分とは上記の網目部分を指し、その数は、「クレープ皮の中心部分を直径100mmの円形で区切ったときに、その円形の中に、前記の焼き色の付いていない網目部分のうち最大長さが3~30mmのものの数が40~115個である」ことを満たす数である。最大長さとは、一つの網目部分を横断する線分のうち最も長い線分の長さを指す。網目部分の形状は限定されず、円形、楕円形、多角形または星形多角形等、いずれの形状であってもよい。
【0044】
「クレープ皮の中心部分を直径100mmの円形で区切る」とは、クレープ皮の中心点を中心とした直径100mmの円形で区切ることとを指す。クレープ皮が円形の場合には、中心点とはその円形の中心である。また、クレープ皮が三角形の場合には、クレープ皮の中心点はその三角形の内心である。クレープ皮が矩形若しくは菱形以外の四角形又は五角形である場合、クレープ皮の中心点は、その四角形又は五角形の内部にあり且つ少なくとも三辺に接する円のうち最大面積の円の中心とする。該四角形又は五角形が最大面積の円を2つ以上有している場合、いずれかひとつの円の中心を選択して上記の範囲に含まれれば本発明の範囲に含まれるものとする。またクレープ皮が円形、三角形、矩形若しくは菱形以外の四角形及び五角形のいずれでもない場合には、クレープ皮の中心点はクレープ皮を横断する最大の線分の中点とする。
【0045】
「クレープ皮の中心点を中心とした直径100mmの円形の中における、前記の焼き色の付いていない網目部分のうち最大長さが3~30mmのものの数は、例えば、クレープ皮の写真を撮影し、これを2倍に拡大して計数することができる。なお、円形内に網目部分の一部のみが含まれている場合、該網目部分の半分以上の面積が円形内に含まれていれば1つとカウントする。
【0046】
クレープ皮の直径は典型的には、110mm以上300mm以下であり、好ましくは160mm以上240mm以下である。ここでいう直径とは、クレープ皮が円形の場合には、その円の直径であり、また、クレープ皮が楕円の場合には、その楕円の短径であり、三角形の場合には、内接円の直径である。またクレープ皮が矩形若しくは菱形以外の四角形又は五角形の場合はその四角形又は五角形の内部にあり少なくとも三辺に接する円のうち最大面積の円の直径である。クレープ皮が円形、楕円形、三角形、矩形若しくは菱形以外の四角形及び五角形のいずれでもない場合には、上記の最大の線分の中点により二等分される長さ、つまり最大の線分の2分の1の長さである。クレープ皮はいずれの形状であっても、上述したクレープ皮の中心点を中心とする直径100mmの円の全体を包む形状であることが好ましい。ここでいう全体を含むとは、直径100mmの円が、クレープ皮の外縁と重複する場合、及び、クレープ皮外縁と重複せずに当該外縁よりも内側に直径100mmの円形が全て包含される場合のいずれであってもよい。クレープ皮は、好ましくは、クレープ皮の面積が上記範囲の直径の円の面積の1~50倍である大きさとする。ただし、ここでいう楕円、三角形等の形状は、焼成時にこれらの形状に焼きあがることを指し、例えば円形で焼成した後に三角形に切り抜いたものではない。
【0047】
クレープ皮の厚さは、典型的には0.1mm以上3mm以下が好ましく、0.5mm以上2mm以下がより好ましい。ここでいうクレープ皮の厚さは、クレープ皮の任意の箇所の厚みを指す。
【実施例
【0048】
(実施例1~12、比較例1~14)
下記表1又は表2に示す原料をこれらの表に示す配合にて混合し、ミキサーで撹拌して、生地温度25℃、生地粘度15~35dPa・sの流動性のあるクレープ用生地を作成した。フロアタイムを10分間として、ドラム焼成機で、185℃で20秒間、片面のみ焼成して、厚さ0.5mm以上2mm以下、直径約20cmの円形をした薄皮状のクレープ皮を得た。
【0049】
表1及び表2において、小麦粉としては薄力粉を用いた。加工澱粉としてはタピオカ由来のエーテル化澱粉を用いた。また、糖類としては、グラニュー糖を用いた。卵としては、全卵を用いた。増粘多糖類としてはグアーガムを用いた。融点55℃未満のモノグリセリドとしては、炭素数16~18の脂肪酸のモノグリセリドで融点が50℃のものを用いた。プロピレングリコール脂肪酸エステルとしては融点が42~48℃のものを用いた。その他の乳化剤として市販品を用いた。
【0050】
(評価1)
各実施例及び比較例で得られたクレープ皮の外観として非焼成面の気泡孔の少なさ、焼成面のフラットさ及び焼き色が付いた部分の網目状模様の細かさ、並びに食感としてもち感を10名の専門パネラーに評価してもらった。評価基準は下記の通りとした。結果を10名の評価点の平均値として表1及び表2に示す。なお、非焼成面について評価した気泡孔は、目視により針孔様の(直径0.01mm以上0.2mm以下程度)の孔を、クレープ皮を貫通しているものも貫通していないものも含めてその多少を評価した。
【0051】
更に各実施例及び比較例で得られたクレープ皮について、上記の方法にて、直径100mmの円形の中における最大長さが3~30mmである網目部分の個数を測定した。結果を表1及び表2に示す。また、実施例4、実施例3及び比較例1のそれぞれのクレープ皮の焼成面の写真を図2に示す。
【0052】
(評価2)
比較例1及び実施例1~6のクレープ用生地を調製後0分間、15分間、30分間、45分間又は60分間、室温(25℃)で静置した後に焼成した。得られた各クレープ皮について、上記と同様に、10名の専門パネラーに焼成面における網目状模様を下記評価基準にて評価してもらった。評価点の変化及び各時点の評価点の平均値を表3に示す。
【0053】
<評価基準>
(非焼成面の気泡孔の少なさ)
1点:気泡孔が非常に多い
2点:気泡孔が多い
3点:気泡孔がやや多い
4点:気泡孔が少ない
5点:気泡孔がない
【0054】
(焼成面のフラットさ)
1点:凹凸感が著しい
2点:凹凸感がある
3点:やや凹凸感がある
4点:フラットだが一部に凹凸感がある
5点:フラットである
【0055】
(焼成面における焼き色模様の細かさ)
1点:粗い柄、または柄が出ていない
2点:やや粗い柄、または柄があまり出ていない
3点:細かめの柄は出るが不均一
4点:やや細かく均一な柄
5点:細かい均一な柄
【0056】
(食感(もち感の強さ))
1点:硬くもち感が感じられない
2点:やや硬くもち感が弱い
3点:もち感がある
4点:柔らかくもち感がやや強い
5点:柔らかくもち感を強く感じる
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
上記の表1~3及び図2の結果より、本発明のクレープ用生地が、特定の乳化剤を用いることで、クレープ皮表面の凹凸が抑制されてフラットで、焼き色が細かな網目状の模様を有し、もち感を感じさせるものであることが判る。また、気泡孔が少なくてフィリングの水分の移行が少なく、且つ、クレープ用生地の経時安定性も高いことが判る。
【0061】
(実施例2-A~2-W)
実施例2において、穀粉類として、加工澱粉75質量部及び薄力粉25質量部の代わりに、表4、表5又は表6に示す種類の穀粉類を用いた。その点以外は実施例2と同様としてクレープ用生地及びクレープ皮を得た。
【0062】
(比較例1-A~1-F、1-Q、1-T~1-W)
比較例1において、穀粉類として、加工澱粉75質量部及び薄力粉25質量部の代わりに、表4、表5又は表6に示す種類の穀粉類を用いた。その点以外は比較例1と同様としてクレープ用生地及びクレープ皮を得た。
【0063】
(比較例2-A~2-F、2-Q、2-T~2-W)
比較例2において、穀粉類として、加工澱粉75質量部及び薄力粉25質量部の代わりに、表4、表5又は表6に示す種類の穀粉類を用いた。その点以外は比較例2と同様としてクレープ用生地及びクレープ皮を得た。
【0064】
上記各実施例及び各比較例で得られたクレープ皮を評価1と同様にして評価した。結果を表4~表6に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
表4~表6に示す通り、薄力粉、強力粉、米粉、各種の未加工澱粉、各種加工澱粉を用いた場合において、特定の乳化剤を用いることによる表面の凹凸の少なさ、網目模様、もち感、気泡孔の少なさの効果が得られることが判る。
【0069】
(実施例2-X及び実施例2-Y)
実施例2において、サラダ油の量を、表7に示す量に変更した。その点以外は実施例2と同様にして、クレープ用生地及びクレープ皮を得た。得られたクレープ皮を評価1と同様にして評価した。結果を表7に示す。
【0070】
【表7】
【0071】
表7に示す通り、液状油脂の量を変更した場合においても特定の乳化剤を用いることによる表面の凹凸の少なさ、網目模様、もち感、気泡孔の効果が得られることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、クレープ皮表面の凹凸が抑制されてフラットで、焼き色が細かな網目状模様を呈し、もち感を感じ、フィリングからの水分の移行が抑制されたクレープ皮を得ることができる、クレープ用ミックス、クレープ用生地及びクレープ皮の製造方法を提供できる。本発明のクレープ用生地は、経時安定性にも優れている。更に、本発明によれば、従来よりも焼き色の網目状模様の細かさに優れ、美観に優れたクレープ皮を提供できる。
図1
図2