(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】ゴム複合化物、ゴム複合化物の製造方法、ゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチ
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20230911BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20230911BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
C08L21/00
C08L1/00
C08J3/22 CEQ
(21)【出願番号】P 2021190513
(22)【出願日】2021-11-24
【審査請求日】2023-03-21
(31)【優先権主張番号】P 2020196877
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100116159
【氏名又は名称】玉城 信一
(72)【発明者】
【氏名】小倉 孝太
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-105233(JP,A)
【文献】国際公開第2017/061605(WO,A1)
【文献】特開2013-203803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00-21/02
C08L 1/00- 1/32
C08J 3/20, 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、長繊維バイオマスナノファイバーと、短繊維バイオマスナノファイバーとを含み、
前記長繊維バイオマスナノファイバーの
粘度平均重合度が前記短繊維バイオマスナノファイバーの
粘度平均重合度よりも大きく、
前記長繊維バイオマスナノファイバーの
粘度平均重合度と前記短繊維バイオマスナノファイバーの
粘度平均重合度との差が400~1400であ
り、
前記長繊維バイオマスナノファイバーの粘度平均重合度が600~1500であり、前記短繊維バイオマスナノファイバーの粘度平均重合度が100~500であり、
前記長繊維バイオマスナノファイバー及び前記短繊維バイオマスナノファイバーが、機械解繊バイオマスナノファイバーであって、かつ、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、及びセルロースナノファイバーのいずれかであるゴム複合化物。
【請求項2】
前記長繊維バイオマスナノファイバーと前記短繊維バイオマスナノファイバーとの合計に対する前記長繊維バイオマスナノファイバーの質量割合[長繊維バイオマスナノファイバー/(長繊維バイオマスナノファイバー+短繊維バイオマスナノファイバー)]が0.5以上である請求項1に記載のゴム複合化物。
【請求項3】
前記長繊維バイオマスナノファイバーの
粘度平均重合度と前記短繊維バイオマスナノファイバーの
粘度平均重合度との差が500~1000である請求項1
又は2に記載のゴム複合化物。
【請求項4】
前記ゴム成分100質量部に対して、前記長繊維バイオマスナノファイバーと前記短繊維バイオマスナノファイバーとの合計が1~12質量部である請求項1~
3のいずれか1項に記載のゴム複合化物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のゴム複合化物の製造方法であって、
長繊維バイオマスナノファイバーと、該長繊維バイオマスナノファイバーよりも
粘度平均重合度が小さい短繊維バイオマスナノファイバーと、ゴムラテックスとを含むゴムラテックス組成物を作製する工程と、
前記ゴムラテックス組成物を乾燥してゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチを作製する工程と、
前記ゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチ及び加硫剤を混練する工程と、を含むゴム複合化物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のゴム複合化物の製造方法であって、
長繊維バイオマスナノファイバーと、ゴムラテックスとを含むゴムラテックス組成物Aを作製する工程と、
前記ゴムラテックス組成物Aを乾燥してゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチAを作製する工程と、
前記長繊維バイオマスナノファイバーよりも
粘度平均重合度が小さい短繊維バイオマスナノファイバーと、ゴムラテックスとを含むゴムラテックス組成物Bを作製する工程と、
前記ゴムラテックス組成物Bを乾燥してゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチBを作製する工程と、
前記ゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチA、前記ゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチB、及び加硫剤を混練する工程と、を含むゴム複合化物の製造方法。
【請求項7】
請求項
5に記載のゴム複合化物の製造方法に使用するゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチであって、
ゴム成分と、長繊維バイオマスナノファイバーと、前記長繊維バイオマスナノファイバーよりも
粘度平均重合度が小さい短繊維バイオマスナノファイバーとを含むゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチ。
【請求項8】
請求項
6に記載のゴム複合化物の製造方法に使用するゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチであって、
ゴム成分と、長繊維バイオマスナノファイバーとを含むゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチAと、
ゴム成分と、前記長繊維バイオマスナノファイバーよりも
粘度平均重合度が小さい短繊維バイオマスナノファイバーとを含むゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチBとの組み合わせを含むゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチ。
【請求項9】
前記長繊維バイオマスナノファイバーと前記短繊維バイオマスナノファイバーとの合計に対する前記長繊維バイオマスナノファイバーの質量割合[長繊維バイオマスナノファイバー/(長繊維バイオマスナノファイバー+短繊維バイオマスナノファイバー)]が0.5以上である請求項
7又は
8に記載のゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム複合化物、ゴム複合化物の製造方法、ゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴム組成物における引張強度等の各種強度や物性を向上させるため、種々の繊維をゴム組成物に含有させる技術が知られている。
例えば、ゴムにセルロースナノファイバー(CNF)を添加している例は幾つかあるが、いずれも1種類のCNFもしくは、CNFと他のフィラー(シリカなど)のハイブリッドであり、繊維長違いで2種類以上のCNFを添加し、ゴム/CNF複合体の物性を制御した例はない。
【0003】
特許文献1では、スポンジゴムの補強においてCNFの配合量を変更したり、シリカを入れることでCNFの分散性を向上させたりすることが開示されているが、異なる形態のCNFを2種類以上添加して物性を制御したものではない。
【0004】
特許文献2では、酸化セルロースナノファイバー、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー及びカチオン化セルロースナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む変性セルロースナノファイバーとゴムとの複合化物を開示しているが、2種類以上の繊維長の違いでの検討はなされていない。
【0005】
特許文献3では、ラテックスと、セルロース、キチン、及びキトサンからなる群より選ばれた少なくとも1種のバイオマスナノファイバーとを複合化した手袋の製造方法を開示しているが、やはり2種類以上の繊維長の相違するCNFの検討はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5940192号公報
【文献】特許第6700741号公報
【文献】特開2015-094038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3からも明らかなように、従来、繊維長の相違する2種類以上のCNFを用いて、必要な物性を得ようとする試みはほとんどなされていない。
例えば、繊維長が比較的長いCNFでは、これを含む組成物のロールによる混練やシート出しを行った際にCNFがロール列理方向に沿って配向し、列理方向及びこれに直角方向にある反列理方向で引張物性の差が生じてしまう懸念がある。そこで、CNFの繊維長を短くすることが考えられるが、これだと初期弾性率が十分に得られない懸念がある。すなわち、良好な初期弾性率を有することと、列理方向及び反列理方向において引張物性の差が小さいこととは二律背反の関係にあり、これらを両立することは困難であった。
【0008】
以上から、本発明は上記に鑑みなされたものであり、良好な初期弾性率を有しながら、シート状とした際に列理方向とこれに直角方向の反列理方向において引張物性の差が小さいゴム複合化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、ゴムに添加するバイオマスナノファイバーの繊維長に相当する重合度の違いにより、得られるゴム/バイオマスナノファイバー複合体の物性(特に強度特性)が大きく変わることを見出し、さらに、当該重合度の異なる2種類以上のバイオマスナノファイバーを添加することで、その複合体の物性を制御できることを見出し本発明を完成した。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0010】
[1] ゴム成分と、長繊維バイオマスナノファイバーと、短繊維バイオマスナノファイバーとを含み、前記長繊維バイオマスナノファイバーの重合度が前記短繊維バイオマスナノファイバーの重合度よりも大きく、前記長繊維バイオマスナノファイバーの重合度と前記短繊維バイオマスナノファイバーの重合度との差が400~1400であるゴム複合化物。
【0011】
[2] 前記長繊維バイオマスナノファイバーと前記短繊維バイオマスナノファイバーとの合計に対する前記長繊維バイオマスナノファイバーの質量割合[長繊維バイオマスナノファイバー/(長繊維バイオマスナノファイバー+短繊維バイオマスナノファイバー)]が0.5以上である[1]に記載のゴム複合化物。
[3] 前記長繊維バイオマスナノファイバーの重合度が600~1500であり、前記短繊維バイオマスナノファイバーの重合度が100~500である[1]又は[2]に記載のゴム複合化物。
[4] 前記長繊維バイオマスナノファイバーの重合度と前記短繊維バイオマスナノファイバーの重合度との差が500~1000である[1]~[3]のいずれかに記載のゴム複合化物。
[5] 前記ゴム成分100質量部に対して、前記長繊維バイオマスナノファイバーと前記短繊維バイオマスナノファイバーとの合計が1~12質量部である[1]~[4]のいずれかに記載のゴム複合化物。
[6] 前記長繊維バイオマスナノファイバー及び前記短繊維バイオマスナノファイバーが機械解繊バイオマスナノファイバーである[1]~[5]のいずれかに記載のゴム複合化物。
【0012】
[7] [1]~[6]のいずれかに記載のゴム複合化物の製造方法であって、長繊維バイオマスナノファイバーと、該長繊維バイオマスナノファイバーよりも重合度が小さい短繊維バイオマスナノファイバーと、ゴムラテックスとを含むゴムラテックス組成物を作製する工程と、前記ゴムラテックス組成物を乾燥してゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチを作製する工程と、前記ゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチ及び加硫剤を混練する工程と、を含むゴム複合化物の製造方法。
[8] [1]~[6]のいずれかに記載のゴム複合化物の製造方法であって、長繊維バイオマスナノファイバーと、ゴムラテックスとを含むゴムラテックス組成物Aを作製する工程と、前記ゴムラテックス組成物Aを乾燥してゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチAを作製する工程と、前記長繊維バイオマスナノファイバーよりも重合度が小さい短繊維バイオマスナノファイバーと、ゴムラテックスとを含むゴムラテックス組成物Bを作製する工程と、前記ゴムラテックス組成物Bを乾燥してゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチBを作製する工程と、前記ゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチA、前記ゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチB、及び加硫剤を混練する工程と、を含むゴム複合化物の製造方法。
【0013】
[9] [7]に記載のゴム複合化物の製造方法に使用するゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチであって、ゴム成分と、長繊維バイオマスナノファイバーと、前記長繊維バイオマスナノファイバーよりも重合度が小さい短繊維バイオマスナノファイバーとを含むゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチ。
[10] [8]に記載のゴム複合化物の製造方法に使用するゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチであって、ゴム成分と、長繊維バイオマスナノファイバーとを含むゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチAと、ゴム成分と、前記長繊維バイオマスナノファイバーよりも重合度が小さい短繊維バイオマスナノファイバーとを含むゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチBとの組み合わせを含むゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチ。
[11] 前記長繊維バイオマスナノファイバーと前記短繊維バイオマスナノファイバーとの合計に対する前記長繊維バイオマスナノファイバーの質量割合[長繊維バイオマスナノファイバー/(長繊維バイオマスナノファイバー+短繊維バイオマスナノファイバー)]が0.5以上である[9]又は10]に記載のゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、良好な初期弾性率を有しながら、シート状とした際に列理方向とこれに直角方向の反列理方向において引張物性の差が小さいゴム複合化物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例7のゴム状複合化物の加硫前のSPM像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態(本実施形態)ついて説明する。
[ゴム複合化物]
本実施形態に係るゴム複合化物は、ゴム成分と、長繊維バイオマスナノファイバーと、短繊維バイオマスナノファイバーとを含み、長繊維バイオマスナノファイバーの重合度が短繊維バイオマスナノファイバーの重合度よりも大きく、長繊維バイオマスナノファイバーの重合度と短繊維バイオマスナノファイバーの重合度との差が400~1400であるゴム複合化物である。当該重合度の差が400未満であると、良好な初期弾性率が得られにくくなったり、引張物性の差を小さくすることが難しくなったりしてしまう。また、当該重合度差が1400を超えると、製造コストが上がり、生産性が悪くなる。
【0017】
ここで、長繊維バイオマスナノファイバーと短繊維バイオマスナノファイバーとの合計に対する長繊維バイオマスナノファイバーの質量割合[長繊維バイオマスナノファイバー/(長繊維バイオマスナノファイバー+短繊維バイオマスナノファイバー)]が0.5以上であることが好ましい。
【0018】
当該ゴム複合化物は、長繊維バイオマスナノファイバーにより良好な初期弾性率が発揮され、長繊維バイオマスナノファイバーと短繊維バイオマスナノファイバーとの合計に対する長繊維バイオマスナノファイバーの質量割合が0.5以上であるであることで、シート状とした際に列理方向とこれに直角方向の反列理方向においてこれらの引張物性の差を小さくすることができる。上記質量割合は、0.6~0.9であることが好ましく、0.7~0.9であることがより好ましい。
【0019】
上記のような効果が得られる理由は明らかではないが、おそらく、次の3点が考えられる。
(1)長繊維バイオマスナノファイバーはアスペクト比が大きいためロール列理方向への配向の効果が大きいのに対して、短繊維バイオマスナノファイバーはアスペクト比が小さいため、配向の効果は少ない。長繊維バイオマスナノファイバーの絶対量が低下しているため、異方性は大きく発現せず、引張物性の差が小さくなる。
(2)単に長繊維バイオマスナノファイバーの添加量を減らすと、弾性率や応力は低下してしまうが、短繊維バイオマスナノファイバーを添加することで、弾性率や応力の低下を抑制している。
(3)ゴム複合化物中で、長繊維バイオマスナノファイバーの表面に短繊維ナノファイバーが吸着する、または長繊維バイオマスナノファイバーと長繊維バイオマスナノファイバーとの間隙を短繊維バイオマスナノファイバーが埋めることで、ゴム成分とバイオマスナノファイバーとの界面接着性が向上する。これにより、良好な初期弾性率の発現と、列理方向及び反列理方向の引張物性の差が小さくなる。
【0020】
ここで、本明細書におけるバイオマスナノファイバーの重合度とは、粘度平均重合度ともいわれるもので下記のようにして測定されるものである。
【0021】
例えば、バイオマスナノファイバーがセルロース由来である場合、バイオマスナノファイバーの重合度は、下記の論文を参考にして算出する。
TAPPI International Standard;ISO/FDIS 5351,2009.Smith,D. K.;Bampton, R. F.;Alexander, W. J. Ind. Eng. Chem.,Process Des. Dev.1963, 2, 57-62.
【0022】
具体的には、バイオマスナノファイバーをイオン交換水で含有量が2±0.3質量%となるように希釈した懸濁液30gを、遠沈管に分取して冷凍庫に一晩静置し、凍結させる。さらに凍結乾燥機で5日間以上乾燥させた後、105℃に設定した定温乾燥機で3時間以上4時間以下加熱し、絶乾状態のバイオマスナノファイバーを得る。
リファレンスを測定するために、空の50ml容量のスクリュー管に純水15mlと1mol/Lの銅エチレンジアミン15mlを加え、0.5mol/Lの銅エチレンジアミン溶液を調製する。キャノンフェンスケ粘度計に上記の0.5mol/Lの銅エチレンジアミン溶液10mlを入れ、5分間置いた後、25℃における落下時間を測定して溶媒落下時間とする。
【0023】
次に、バイオマスナノファイバーの粘度を測定するため、絶乾状態のバイオマスナノファイバー0.14g以上0.16g以下を空の50ml容量のスクリュー管に量り取り、純水15mlを添加する。さらに1mol/Lの銅エチレンジアミン15mlを加え、自転公転式スーパーミキサーで1000rpm、10分撹拌し、バイオマスナノファイバーが溶解した0.5mol/Lの銅エチレンジアミン溶液とする。リファレンスの測定と同様に、キャノンフェンスケ粘度計に調製した0.5mol/Lの銅エチレンジアミン溶液10mlを入れ、5分間置いた後、25℃における落下時間を測定する。落下時間の測定は3回行い、その平均値をバイオマスナノファイバー溶液の落下時間とする。
【0024】
測定に用いた絶乾状態のバイオマスナノファイバーの質量、溶媒落下時間、及びバイオマスナノファイバー溶液の落下時間から下式を用いて重合度を算出する。なお、下記の重合度は2回以上測定した場合は、それらの平均値である。
【0025】
測定に用いた絶乾状態のバイオマスナノファイバー質量:a(g)(ただし、aは0.14以上0.16以下)
溶液のセルロース濃度:c=a/30(g/mL)
溶媒落下時間:t0(sec)
バイオマスナノファイバー溶液の落下時間:t(sec)
溶液の相対粘度:ηrel=t/t0
溶液の比粘度:ηsp=ηrel-1
固有粘度:[η]=ηsp/c(1+0.28ηsp)
重合度:DP=[η]/0.57
【0026】
本実施形態に係るゴム複合化物は、その効果を充分に発揮させるべく、下記のような第1のゴム複合体及び第2のゴム複合体のいずれかとすることが好ましい。
【0027】
(第1のゴム複合体)
第1のゴム複合体は、ゴム成分と、重合度が600~1500の長繊維バイオマスナノファイバーと、重合度が100~500の短繊維バイオマスナノファイバーとを含み、長繊維バイオマスナノファイバーと短繊維バイオマスナノファイバーとの合計に対する長繊維バイオマスナノファイバーの質量割合[長繊維バイオマスナノファイバー/(長繊維バイオマスナノファイバー+短繊維バイオマスナノファイバー)]が0.5以上であるゴム複合化物である。
【0028】
長繊維バイオマスナノファイバーの重合度が600~1500であることで、ゴム複合化物の初期弾性率、特にひずみ100%時の応力を向上させることができる。当該重合度は、650~1500であることが好ましく、700~1000であることがより好ましい。
短繊維バイオマスナノファイバーの重合度が100~500であることで、異方性を抑制することができ、さらに破断伸びも向上させることができる。当該重合度は、180~300であることがより好ましい。
【0029】
(第2のゴム複合体)
第2のゴム複合体は、ゴム成分と、長繊維バイオマスナノファイバーと、短繊維バイオマスナノファイバーとを含み、長繊維バイオマスナノファイバーの重合度Aと短繊維バイオマスナノファイバーの重合度Bとの差(A-B)が400~1400であり、長繊維バイオマスナノファイバーと短繊維バイオマスナノファイバーとの合計に対する長繊維バイオマスナノファイバーの質量割合[長繊維バイオマスナノファイバー/(長繊維バイオマスナノファイバー+短繊維バイオマスナノファイバー)]が0.5以上であるゴム複合化物である。
【0030】
上記の差(A-B)が400~1400であることで、より初期弾性率を向上させつつ、物性制御の幅を広げることができる。当該差(A-B)は、400~1000であることが好ましく、500~1000であることがより好ましく、500~800であることがさらに好ましい。
【0031】
なお、第1のゴム複合体においては、第2のゴム複合体と同様に、長繊維バイオマスナノファイバーの重合度Aと短繊維バイオマスナノファイバーの重合度Bとの差(A-B)は400~1400であることが好ましく、400~1000であることがより好ましく、500~1000であることがさらに好ましく、500~800であることがよりさらに好ましい。
また、第2のゴム複合体においては、第1のゴム複合体と同様に、長繊維バイオマスナノファイバーの重合度は600~1500であることが好ましく、650~1500であることがより好ましく、700~1000であることがさらに好ましい。そして、短繊維バイオマスナノファイバーの重合度は100~500であることが好ましく、180~300であることがより好ましい。
【0032】
本実施形態においてバイオマスナノファイバーとしては、生物由来の高分子で水に難溶性のナノファイバーで、例えば、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、シルクナノファイバー等が挙げられる。なかでも、化学的安定性、熱的安定性、コストの観点からセルロースナノファイバー(CNF)が好ましい。
なお、本明細書において単に「バイオマスナノファイバー」という場合は、長繊維バイオマスナノファイバー及び短繊維バイオマスナノファイバーのいずれをも指す。
【0033】
バイオマスナノファイバーの平均繊維径は、アスペクト比の観点から、3~100nmであることが好ましく、10~50nmであることがより好ましい。
平均繊維径は、適切な倍率で撮影された電子顕微鏡写真に基づいて測定した繊維径(n=20程度)の平均値から算出することができる。
【0034】
バイオマスナノファイバーには種々の製造方法から製造されたものがあるが、なかでも機械解繊で製造された機械解繊バイオマスナノファイバーであることが好ましい。具体的には、長繊維バイオマスナノファイバー及び短繊維バイオマスナノファイバーの少なくともいずれかが機械解繊バイオマスナノファイバーであること好ましく、両方が機械解繊バイオマスナノファイバーであることがより好ましい。
【0035】
機械解繊バイオマスナノファイバーは、原料バイオマスをビーターやリファイナーで所定の長さとして、高圧ホモジナイザー、グラインダー、衝撃粉砕機、ビーズミル等を用いて、フィブリル化または微細化(機械粉砕)して得られるもので化学修飾されていないものをいう。機械解繊バイオマスナノファイバーの製造方法として、例えば、直径0.1~0.8mmの噴射ノズルを介して、100~245MPaの高圧噴射処理により、バイオマス分散流体を衝突用硬質体に衝突させるか、または互いに噴射衝突させてバイオマスを微細化させる方法がある。この方法は、市販されている高圧ホモジナイザーのように、分散流体を高圧低速で狭い流路を通過させ、解放時に均質化させるせん断力だけではなく、分散流体を衝突用硬質体に衝突させることによる衝突力や、キャビテーションを利用した、高圧での連続処理ができる。
【0036】
他方、化学修飾を経て製造される化学修飾バイオマスナノファイバーでは、原料バイオマスを化学的処理により微細化しやすくし、その後、機械解繊で微細化して得られる。化学修飾バイオマスナノファイバーの化学的処理として、バイオマスナノファイバーに親水性の置換基を導入し、バイオマスナノファイバー表面のヒドロキシ基の全部または一部を親水性の官能基で置換することで、バイオマスナノファイバー同士の静電反発作用を用いて微細化しやすくする処理がある。親水性の官能基は、例えば、カルボキシ基、リン酸基、及び硫酸基である。親水性の官能基を導入した化学修飾バイオマスナノファイバーを樹脂と複合化させた場合、親水性官能基が不純物として、樹脂物性等に好ましくない影響を与える可能性がある。また、化学修飾バイオマスナノファイバーである、例えば、TEMPO酸化CNFのような化学修飾CNFを用いると、修飾剤由来の塩に含まれる金属イオンが不純物として、樹脂物性等に好ましくない影響を与える可能性がある。金属イオンは、例えば、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀である。しかし、機械解繊バイオマスナノファイバーは微細化の際に化学修飾等を行わず、媒体として水性媒体だけを用いるので、樹脂物性に影響を及ぼしやすい化合物が存在せず、化学的にも熱的にも安定である。また、高圧ホモジナイザーで処理しても、機械解繊バイオマスナノファイバーは重合度の低下が起きにくい。
【0037】
ここで、機械解繊バイオマスナノファイバーは、バイオマスのグルコース単位当たりのカルボキシ基、リン酸基、及び硫酸基のいずれかである親水性官能基の導入量が0.1mmol/g以下であり、0.01mmol/g以下であることが好ましい。ここで、導入量とは、含有量とも読み代えることができる。
当該導入量(含有量)は、例えば、公知の伝導度滴定法などにより測定して求めることができる。
【0038】
また、機械解繊バイオマスナノファイバーは、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀のいずれか1つ(好ましくはいずれか2つのそれぞれ、より好ましくはいずれか3つのそれぞれ、さらに好ましくは4つのそれぞれ)の含有率が0.1質量%以下となっており、0.01質量%以下となっていることが好ましい。
当該含有率は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法、蛍光X線分析法の元素解析により測定して求めることができる。
【0039】
上記のような機械解繊バイオマスナノファイバーである、例えば、長繊維バイオマスナノファイバーとしては、(株)スギノマシン製のBiNFi-sセルロース(IMa-10005)を使用することができる。また、短繊維バイオマスナノファイバーとしては、例えば、(株)スギノマシン製のBiNFi-sセルロース(FMa-10005)を使用することができる。
【0040】
本実施形態に係るゴム成分は、有機高分子を主成分とする、弾性限界が高く弾性率の低い成分である。ゴム成分は天然ゴム及び合成ゴムに大別されがいずれでもよく、両者の組み合わせでもよい。天然ゴムとしては、化学修飾を施さない、狭義の天然ゴムでもよく、また塩素化天然ゴム、クロロスルホン化天然ゴム、エポキシ化天然ゴムのように、天然ゴムを化学修飾したものでもよい。合成ゴムとしては例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム等のジエン系ゴムエチレン-プロピレンゴム(EPM、EPDM)、アクリルゴム(ACM)、エピクロロヒドリンゴム(CO、ECO)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(Q)、ウレタンゴム(U)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)が挙げられる。天然ゴムとしては例えば、水素化天然ゴム、脱タンパク天然ゴムが挙げられる。ゴム成分は、1種単独でもよく、2種以上の組み合わせでもよい。ゴム成分は、固形状及び液状のいずれでもよい。液状のゴム成分としては例えば、ゴム成分の分散液、ゴム成分の溶液が挙げられる。溶媒としては例えば、水、有機溶媒が挙げられる。
【0041】
ゴム成分100質量部に対して、長繊維バイオマスナノファイバーと短繊維バイオマスナノファイバーとの合計は1~12質量部であることが好ましく、3~10質量部であることがより好ましい。1~12質量部であることで得られる弾性率や破断伸びなどの引張物性や製造時のハンドリング性のバランスが良い。
【0042】
本実施形態に係るゴム複合化物には、必要に応じて、加硫剤、助剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候性向上剤、離型剤、滑剤、顔料、染料、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、相溶化剤、老化防止剤等の1種または2種以上を添加剤を含有することができる。また、必要に応じて、各種のフィラーを含有させてもよい。かかるフィラーとしては、炭酸カルシウム、合成珪素、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウム、ガラス繊維、ウィスカー、炭素繊維、炭酸マグネシウム、グラファイト、二硫化モリブデン、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0043】
本実施形態に係るゴム複合化物は、タイヤやゴム手袋、靴底、伝動ベルト、防振・免振ゴムといった種々の用途に適用可能である。
【0044】
[ゴム複合化物の製造方法]
(ゴム複合化物の第1の製造方法)
本実施形態に係るゴム複合化物の第1の製造方法は、既述の本発明のゴム複合化物の製造方法であって、長繊維バイオマスナノファイバーと、該長繊維バイオマスナノファイバーよりも重合度が小さい短繊維バイオマスナノファイバーと、ゴムラテックスとを含むゴムラテックス組成物を作製する工程と、ゴムラテックス組成物を乾燥してゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチを作製する工程と、ゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチ及び加硫剤を混練する工程とを含む。
第1の製造方法では、ゴムラテックス組成物中に長繊維バイオマスナノファイバー及び短繊維バイオマスナノファイバーを共存させている。長繊維バイオマスナノファイバーだけでは粘度が上昇しすぎる場合があるが、これに短繊維バイオマスナノファイバーを共存させることで増粘を抑えることができる。そのため、長繊維バイオマスナノファイバーの含有量が高い場合でも良好な生産性を発揮できる。
【0045】
(ゴム複合化物の第2の製造方法)
本実施形態に係るゴム複合化物の第2の製造方法は、既述の本発明のゴム複合化物の製造方法であって、長繊維バイオマスナノファイバーと、ゴムラテックスとを含むゴムラテックス組成物Aを作製する工程と、ゴムラテックス組成物Aを乾燥してゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチAを作製する工程と、長繊維バイオマスナノファイバーよりも重合度が小さい短繊維バイオマスナノファイバーと、ゴムラテックスとを含むゴムラテックス組成物Bを作製する工程と、ゴムラテックス組成物Bを乾燥してゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチBを作製する工程と、ゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチA、前記ゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチB、及び加硫剤を混練する工程と、を含む。
第2の製造方法では、ゴムラテックス組成物として長繊維バイオマスナノファイバーを含むものと短繊維バイオマスナノファイバーを含むもので別々に作製している。そのため、最終的なゴム複合化物を作製する際の各繊維の配合を効率的かつ簡便に行うことができる。
【0046】
第1及び第2のいずれの製造方法においても、長繊維バイオマスナノファイバー、短繊維バイオマスナノファイバー、ゴム(ゴム成分)等の詳細は既述のとおりである。
また、ゴムラテックスとは、既述のゴム成分からなるゴム粒子が水等の分散媒中に分散された状態のものをいう。ゴムラテックス若しくはゴムラテックス組成物中には、既述の添加剤やフィラー等を所定量含有させてもよい。ゴムラテックス中の固形分濃度は、10~70質量%であることが好ましい。
長繊維バイオマスナノファイバー、短繊維バイオマスナノファイバーは分散液の状態でゴムラテックスと混合することが好ましく、混合する方法には特に限定されない。例えば、プロペラ式撹拌装置、ホモジナイザー、ロータリー撹拌装置、電磁撹拌装置等の公知の攪拌装置、手動での撹拌、あるいは攪拌せずに自然拡散等の方法によることができる。
【0047】
ゴムラテックス組成物を乾燥してゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチを作製する際の乾燥方法としては、自然乾燥、オーブン乾燥、凍結乾燥、噴露乾燥、パルス燃焼等の公知の乾燥方法を採用することができる。乾燥温度は、ゴム、バイオマスナノファイバーが熱分解しない温度で実施することが好ましく、例えば70℃程度とすることが好ましい。
【0048】
ゴム複合化物は、ゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチと加硫剤を混練する工程を経て製造されるが、この加硫剤としては、硫黄系加硫剤又は有機過酸化物を使用することができる。硫黄系加硫剤としては、例えば硫黄、モルホリンジスルフィド等を使用することができ、中でも硫黄が好ましい。有機過酸化物としては従来ゴム工業で使用される各種のものが使用可能であるが、中でも、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゼン及びジ-t-ブチルパーオキシ-ジイソプロピルベンゼンが好ましい。また、これらの加硫剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。加硫剤は、ゴム成分(固形分)100質量部に対して0.5~5質量部であることが好ましい。
【0049】
混練の際に、加硫剤とともに、加硫促進剤及び加硫助剤等を配合してもよい。
加硫促進剤としては、CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド)、TBBS(N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド)、TBSI(N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンイミド)等のスルフェンアミド系の加硫促進剤;DPG(ジフェニルグアニジン)等のグアニジン系の加硫促進剤;テトラオクチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド等のチウラム系加硫促進剤;MBT(2-メルカプトベンゾチアゾール)、MBTS(ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド)等のチアゾール系加硫促進剤;ジアルキルジチオリン酸亜鉛等の加硫促進剤;等が挙げられる。加硫促進剤は、ゴム成分(固形分)100質量部に対して0.5~5質量部であることが好ましい。
【0050】
加硫助剤としては、例えば亜鉛華(酸化亜鉛)ステアリン酸等が挙げられる。加硫助剤は、ゴム成分(固形分)100質量部に対して0.5~10質量部であることが好ましい。
【0051】
混練は公知の装置を用いて行う。混練温度は40~60℃程度とすることが好ましい。混練後には100~250℃で加硫を行うことでゴム複合化物が製造される。
【0052】
[ゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチ]
(第1のゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチ)
本実施形態に係る第1のゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチは、既述のゴム複合化物の第1の製造方法に使用するゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチであって、ゴム成分と、長繊維バイオマスナノファイバーと、長繊維バイオマスナノファイバーよりも重合度が小さい短繊維バイオマスナノファイバーとを含むゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチである。
【0053】
このマスターバッチは1つのマスターバッチ中に長繊維バイオマスナノファイバーと短繊維バイオマスナノファイバーを含む構成となっている。そのため、乾燥前のゴムラテックス複合体時には、長繊維バイオマスナノファイバーのみを含む構成に比べて粘度が低く、ハンドリング性が良いといったメリットがある。
【0054】
(第2のゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチ)
本実施形態に係る第2のゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチは、既述のゴム複合化物の第2の製造方法に使用するゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチであって、ゴム成分と、長繊維バイオマスナノファイバーとを含むゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチAと、ゴム成分と、長繊維バイオマスナノファイバーよりも重合度が小さい短繊維バイオマスナノファイバーとを含むゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチBとの組み合わせを含むゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチである。
このマスターバッチは、長繊維含有マスターバッチと短繊維含有マスターバッチの2つのマスターバッチの組み合わせの構成となっている。そのため、2種のマスターバッチを有していれば、それを任意の割合で混合することで、得られた複合体の物性の制御が容易といったメリットがある。
【0055】
第1及び第2のいずれのゴム-バイオマスナノファイバーマスターバッチにおいても、長繊維バイオマスナノファイバーと短繊維バイオマスナノファイバーとの合計に対する長繊維バイオマスナノファイバーの質量割合[長繊維バイオマスナノファイバー/(長繊維バイオマスナノファイバー+短繊維バイオマスナノファイバー)]は0.5以上であることが好ましく、0.6~0.9であることがより好ましいことは既述のとおりである。また、長繊維バイオマスナノファイバー、短繊維バイオマスナノファイバー、ゴム(ゴム成分)等の詳細も既述のとおりである。
【実施例】
【0056】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
[参考例1]
天然ゴム(NR)ラテックス(ハイアンモニアタイプ、固形分約60質量%、エスアンドエスジャパン)に長繊維CNF水分散液(BiNFi-sセルロース(IMa-10005)、固形分5質量%、(株)スギノマシン製)を添加した。添加量は、乾燥後、ゴム成分100質量部に対して5質量部となるようにした。その後、自転公転式撹拌脱泡機(ハイマージャ、HM-400W、共立精機製)を用いて混合し、NRラテックス/長繊維CNFウェットマスターバッチを作製した。そのウェットマスターバッチを乾燥することでNR/長繊維CNFマスターバッチA1を作製した。なお、長繊維CNFの重合度は800であった。
【0058】
このNR/長繊維CNFマスターバッチを2本ロールで混練中にステアリン酸をゴム成分100質量部に対して0.5質量部、及び酸化亜鉛をゴム成分100質量部に対して6質量部を添加し、さらに混練した。その後、硫黄をゴム成分100質量部に対して3.5質量部および加硫促進剤(BBS、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド)をゴム成分100質量部に対して0.7質量部を添加し、さらに混練し、未加硫のNR/長繊維CNFシートを得た。
【0059】
このシートを、金型にはさみ、150℃で10分間プレス加硫することにより、厚さ2mmの加硫NR/長繊維CNFシート(ゴム複合化物)を得た。これを所定の形状の試験片に裁断し、JIS K6251に従い、精密万能試験機(AG-20kNXDplus型、(株)島津製作所製)を用いて引張強度試験(引張速度:500mm/min)を実施した。材料の配合(乾燥重量比で単位は質量部)を表1に示し、引張強度試験の結果を表2に示す。
なお、引張強度試験は、初期(ひずみ100%)応力(MPa)、シート状とする際の列理方向及び反列理方向のそれぞれの引張り破断伸び(%)の測定を行った。初期(ひずみ100%)応力は、2.0MPa以上が好ましく、列理方向及び反列理方向のそれぞれの引張り破断伸びの比(列理方向/反列理方向)は1.00に近いほど好ましい。
【0060】
[比較例1]
長繊維CNF水分散液の代わりに、短繊維CNF水分散液(BiNFi-sセルロース(FMa-10005)、固形分5質量%、(株)スギノマシン製)を用いた以外は、参考例1と同様にして、NR/短繊維CNFマスターバッチa1、加硫NR/短繊維CNFシート(ゴム状複合化物)を作製した。この加硫NR/短繊維CNFシートについて、参考例1と同様の方法で引張強度試験を実施した。なお、短繊維CNFの重合度は200であった。材料の配合を表1に示し、引張強度試験の結果を表2に示す。
【0061】
[実施例1]
参考例1と同様のNR/長繊維CNFマスターバッチA1と、比較例1と同様のNR/短繊維CNFマスターバッチをそれぞれ作製した。NR/長繊維CNFマスターバッチとNR/短繊維CNFマスターバッチを80:20の質量割合とした以外は参考例1と同様にして、加硫NR/(長繊維CNF+短繊維CNF)シート(ゴム状複合化物)を作製した。この加硫NR/(長繊維CNF+短繊維CNF)シートについて、参考例1と同様の方法で引張強度試験を実施した。材料の配合を表1に示し、引張強度試験の結果を表2に示す。
【0062】
[実施例2]
NR/長繊維CNFマスターバッチA1とNR/短繊維CNFマスターバッチの質量割合を50:50にした以外は実施例1と同様にして、加硫NR/(長繊維CNF+短繊維CNF)シート(ゴム状複合化物)を作製し、引張強度試験を実施した。材料の配合を表1に示し、引張強度試験の結果を表2に示す。
【0063】
[実施例3]
NR/長繊維CNFマスターバッチA1とNR/短繊維CNFマスターバッチの質量割合を20:80にした以外は実施例1と同様にして、加硫NR/(長繊維CNF+短繊維CNF)シート(ゴム状複合化物)を作製し、引張強度試験を実施した。材料の配合を表1に示し、引張強度試験の結果を表2に示す。
【0064】
[実施例4]
NR/長繊維CNFマスターバッチA1の代わりに、NR/長繊維CNFマスターバッチA2を用いた以外は、実施例1と同様にして、加硫NR/(長繊維CNF+短繊維CNF)シート(ゴム状複合化物)を作製した。この加硫NR/(長繊維CNF+短繊維CNF)シートについて、参考例1と同様の方法で引張強度試験を実施した。材料の配合を表1に示し、引張強度試験の結果を表2に示す。
なお、NR/長繊維CNFマスターバッチA2は、長繊維CNF水分散液(BiNFi-sセルロース(IMa-10005)、固形分5質量%、(株)スギノマシン製)の代わりに、長繊維CNF水分散液(BiNFi-sセルロース(WFo-10005)、固形分5質量%、(株)スギノマシン製)を用いた以外は、参考例1と同様にして作製されたものである。なお、本例の長繊維CNFの重合度は650であった。
【0065】
[実施例5]
NR/長繊維CNFマスターバッチA2とNR/短繊維CNFマスターバッチの質量割合を50:50にした以外は実施例2と同様にして、加硫NR/(長繊維CNF+短繊維CNF)シート(ゴム状複合化物)を作製し、引張強度試験を実施した。材料の配合を表1に示し、引張強度試験の結果を表2に示す。
【0066】
[実施例6]
NR/長繊維CNFマスターバッチA2とNR/短繊維CNFマスターバッチの質量割合を20:80にした以外は実施例3と同様にして、加硫NR/(長繊維CNF+短繊維CNF)シート(ゴム状複合化物)を作製し、引張強度試験を実施した。材料の配合を表1に示し、引張強度試験の結果を表2に示す。
【0067】
[実施例7]
NR/長繊維CNFマスターバッチA1の代わりに、NR/長繊維CNFマスターバッチA3を用いた以外は、実施例1と同様にして、加硫NR/(長繊維CNF+短繊維CNF)シート(ゴム状複合化物)を作製した。この加硫NR/(長繊維CNF+短繊維CNF)シートについて、参考例1と同様の方法で引張強度試験を実施した。材料の配合を表1に示し、引張強度試験の結果を表2に示す。
なお、NR/長繊維CNFマスターバッチA3は、長繊維CNF水分散液(BiNFi-sセルロース(IMa-10005)、固形分5質量%、(株)スギノマシン製)の代わりに、長繊維CNF水分散液(BiNFi-sセルロース(特殊品:重合度の高い針葉樹パルプを原料とするセルロース分散流体を高圧噴射処理し、IMa-10005の重合度をより高くしたもの)、固形分5質量%、(株)スギノマシン製)を用いた以外は、参考例1と同様にして作製されたものである。なお、本例の長繊維CNF(特殊品)の重合度は850であった。
【0068】
[実施例8]
NR/長繊維CNFマスターバッチA3とNR/短繊維CNFマスターバッチの質量割合を50:50にした以外は実施例2と同様にして、加硫NR/(長繊維CNF+短繊維CNF)シート(ゴム状複合化物)を作製し、引張強度試験を実施した。材料の配合を表1に示し、引張強度試験の結果を表2に示す。
【0069】
[実施例9]
NR/長繊維CNFマスターバッチA3とNR/短繊維CNFマスターバッチの質量割合を20:80にした以外は実施例3と同様にして、加硫NR/(長繊維CNF+短繊維CNF)シート(ゴム状複合化物)を作製し、引張強度試験を実施した。材料の配合を表1に示し、引張強度試験の結果を表2に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
ここで、実施例7で作製した加硫前のNR/(長繊維CNF+短繊維CNF)シート(ゴム状複合化物)の表面を走査型プローブ顕微鏡(SPM-9700、(株)島津製作所製)の位相モードで測定した結果を
図1に示す。
図1に示すように、短繊維CNFは、長繊維CNFと長繊維CNFとの間隙を埋めるようにゴム状複合化物中に配合されていることが観察できる。長繊維CNFと長繊維CNFとの間隙が短繊維CNFによって埋まることで、NRとCNF(長繊維CNF+短繊維CNF)との界面接着性が向上したと推察される。これにより、ゴム状複合化物の初期弾性率向上と、列理方向及び反列理方向の引張物性の差が小さく、つまり列理方向の引張伸びの改善に寄与したと考えられる。