(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】変性共役ジエン系重合体の製造方法、変性共役ジエン系重合体、重合体組成物、架橋体及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08C 19/25 20060101AFI20230911BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20230911BHJP
C08F 4/46 20060101ALI20230911BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230911BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
C08C19/25
B60C1/00 A
B60C1/00 B
C08F4/46
C08K3/36
C08L15/00
(21)【出願番号】P 2021504068
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2020008462
(87)【国際公開番号】W WO2020179705
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2019041440
(32)【優先日】2019-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】野々山 桂生
(72)【発明者】
【氏名】井上 昌章
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-27167(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026288(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/018018(WO,A1)
【文献】特開平11-349632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/25
B60C 1/00
C08F 4/46
C08K 3/36
C08L 15/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン化合物を含むモノマーをアルカリ金属化合物の存在下で重合して得られる、活性末端を有する共役ジエン系重合体と、下記式(1)で表される化合物[A]と、を反応させる、変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のヒドロカルビル基であるか、又は、R
1及びR
2が互いに合わせられてR
1及びR
2が結合する炭素原子と共に構成される炭素数5~8の環構造を表す。R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のヒドロカルビル基であるか、又は、R
5及びR
6が互いに合わせられてR
5及びR
6が結合する炭素原子と共に構成される炭素数5~8の環構造を表す。ただし、R
1とR
2は同時に水素原子にならず、R
5とR
6は同時に水素原子にならない。R
3及びR
4は、それぞれ独立に、炭素数1~6のヒドロカルビレン基であり、R
7は、炭素数1~10のヒドロカルビレン基である。X
1は、炭素数1~4のヒドロカルビルオキシ基であり、X
2及びX
3は、それぞれ独立に、炭素数1~4のヒドロカルビル基又はヒドロカルビルオキシ基である。mは1~3の整数を表す。式中、mが2又は3の場合、複数のR
3、R
7、X
1、X
2、X
3はそれぞれ、互いに同一の基又は異なる基である。)
【請求項2】
前記アルカリ金属化合物は、下記式(2)で表される化合物を含有する、請求項1に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【化2】
(式(2)中、R
8は窒素含有基であり、Y
1は、共役ジエン化合物又は芳香族ビニル化合物の重合により得られるヒドロカルビレン基であり、M
1はアルカリ金属である。nは1~10の整数である。)
【請求項3】
前記アルカリ金属化合物に占める、上記式(2)で表される化合物の使用割合が、50モル%以上である、請求項2に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属化合物は、上記式(2)で表される化合物として、((2E,6E)-11-(ジメチルアミノ)-3,7-ジメチルウンデカ-2,6-ジエン-1-イル)リチウムを含む、請求項2又は3に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項5】
前記モノマーが芳香族ビニル化合物を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項6】
活性末端を有する共役ジエン系重合体と、下記式(1)で表される化合物と、の反応生成物である、変性共役ジエン系重合体。
【化3】
(式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のヒドロカルビル基であるか、又は、R
1及びR
2が互いに合わせられてR
1及びR
2が結合する炭素原子と共に構成される炭素数5~8の環構造を表す。R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のヒドロカルビル基であるか、又は、R
5及びR
6が互いに合わせられてR
5及びR
6が結合する炭素原子と共に構成される炭素数5~8の環構造を表す。ただし、R
1とR
2は同時に水素原子にならず、R
5とR
6は同時に水素原子にならない。R
3及びR
4は、それぞれ独立に、炭素数1~6のヒドロカルビレン基であり、R
7は、炭素数1~10のヒドロカルビレン基である。X
1は、炭素数1~4のヒドロカルビルオキシ基であり、X
2及びX
3は、それぞれ独立に、炭素数1~4のヒドロカルビル基又はヒドロカルビルオキシ基である。mは1~3の整数を表す。式中、mが2又は3の場合、複数のR
3、R
7、X
1、X
2、X
3はそれぞれ、互いに同一の基又は異なる基である。)
【請求項7】
下記式(3)で表される変性共役ジエン系重合体。
【化4】
(式(3)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のヒドロカルビル基であるか、又は、R
1及びR
2が互いに合わせられてR
1及びR
2が結合する炭素原子と共に構成される炭素数5~8の環構造を表す。R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のヒドロカルビル基であるか、又は、R
5及びR
6が互いに合わせられてR
5及びR
6が結合する炭素原子と共に構成される炭素数5~8の環構造を表す。ただし、R
1とR
2は同時に水素原子にならず、R
5とR
6は同時に水素原子にならない。R
3及びR
4は、それぞれ独立に、炭素数1~6のヒドロカルビレン基であり、R
7は、炭素数1~10のヒドロカルビレン基である。Polyは、変性又は未変性の共役ジエン系重合体鎖である。Z
1は、炭素数1~4のヒドロカルビルオキシ基、又は変性若しくは未変性の共役ジエン系重合体鎖であり、Z
2及びZ
3は、それぞれ独立に、炭素数1~4のヒドロカルビル基、炭素数1~4のヒドロカルビルオキシ基、又は変性若しくは未変性の共役ジエン系重合体鎖である。mは1~3の整数を表す。式中、mが2又は3の場合、複数のR
7、複数のR
3、R
7、Z
1、Z
2、Z
3はそれぞれ、互いに同一の基又は異なる基である。)
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法により得られる変性共役ジエン系重合体、又は請求項6若しくは7に記載の変性共役ジエン系重合体と、シリカと、架橋剤とを含む重合体組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の重合体組成物を架橋させてなる架橋体。
【請求項10】
請求項8に記載の重合体組成物を用いて、少なくともトレッド又はサイドウォールが形成されたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年3月7日に出願された日本特許出願番号2019-41440号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、変性共役ジエン系重合体の製造方法、変性共役ジエン系重合体、重合体組成物、架橋体及びタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0003】
共役ジエン化合物を用いた重合により得られる共役ジエン系重合体は、耐熱性、耐摩耗性、機械的強度、成形加工性等の各種特性が良好であることから、空気入りタイヤや防振ゴム、ホースなどの各種工業製品に広く使用されている。
【0004】
空気入りタイヤのトレッド、サイドウォール等に用いられるゴム組成物としては、製品の耐久性や耐摩耗性を向上させるべく、共役ジエン系重合体と共に、カーボンブラックやシリカ等の補強剤をゴム組成物に配合することが知られている。また従来、共役ジエン系重合体と補強剤との親和性を高めるために、共役ジエン系重合体をケイ素や窒素を有する化合物で変性した変性共役ジエン系重合体を用いることが行われている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2008/123164号
【文献】特開平11-349632号公報
【文献】国際公開第2017/221943号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
昨今における環境事情や、省資源・省エネルギーに対する意識の向上、走行性に対する消費者ニーズの向上等により、自動車タイヤ用ゴムとしては、従来にも増して低燃費性能(転がり抵抗性)に優れた材料が望まれている。また、ゴム製品の寿命を延ばし使用年数を増加させることも環境負荷の低減に寄与することから、低燃費性能が良好であることに加え、更に高強度な架橋ゴムを得ることが可能な材料が求められている。
【0007】
本開示は上記課題に鑑みなされたものであり、高強度であって、かつ低燃費性能に優れた架橋ゴムを得ることができる変性共役ジエン系重合体を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示により、以下の変性共役ジエン系重合体の製造方法、変性共役ジエン系重合体、重合体組成物、架橋体及びタイヤが提供される。
【0009】
[1] 共役ジエン化合物を含むモノマーをアルカリ金属化合物の存在下で重合して得られる、活性末端を有する共役ジエン系重合体と、下記式(1)で表される化合物[A]と、を反応させる、変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のヒドロカルビル基であるか、又は、R
1及びR
2が互いに合わせられてR
1及びR
2が結合する炭素原子と共に構成される炭素数5~8の環構造を表す。R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のヒドロカルビル基であるか、又は、R
5及びR
6が互いに合わせられてR
5及びR
6が結合する炭素原子と共に構成される炭素数5~8の環構造を表す。ただし、R
1とR
2は同時に水素原子にならず、R
5とR
6は同時に水素原子にならない。R
3及びR
4は、それぞれ独立に、炭素数1~6のヒドロカルビレン基であり、R
7は、炭素数1~10のヒドロカルビレン基である。X
1は、炭素数1~4のヒドロカルビルオキシ基であり、X
2及びX
3は、それぞれ独立に、炭素数1~4のヒドロカルビル基又はヒドロカルビルオキシ基である。mは1~3の整数を表す。式中、mが2又は3の場合、複数のR
3、R
7、X
1、X
2、X
3はそれぞれ、互いに同一の基又は異なる基である。)
[2] 活性末端を有する共役ジエン系重合体と、上記式(1)で表される化合物[A]との反応生成物である、変性共役ジエン系重合体。
[3]上記[1]の製造方法により得られる変性共役ジエン系重合体又は上記[2]の変性共役ジエン系重合体と、シリカと、架橋剤とを含む重合体組成物。
[4]上記[3]の重合体組成物を架橋させてなる架橋体。
[5]上記[3]の重合体組成物を用いて、少なくともトレッド又はサイドウォールが形成されたタイヤ。
【発明の効果】
【0010】
本開示の変性共役ジエン系重合体によれば、高強度であって、かつ低燃費性能に優れた架橋ゴムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の変性共役ジエン系重合体は、活性末端を有する共役ジエン系重合体と、上記式(1)で表される化合物[A]と、の反応生成物である。当該変性共役ジエン系重合体は、以下の重合工程及び変性工程を含む方法により製造される。以下、本開示の態様に関連する事項について詳細に説明する。
【0012】
<重合工程>
本工程は、共役ジエン化合物を含むモノマーを重合して、活性末端を有する共役ジエン系重合体を得る工程である。重合に使用する共役ジエン化合物としては、例えば1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-ヘプタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン等が挙げられる。これらの中でも、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンが好ましい。
【0013】
共役ジエン系重合体は、共役ジエン化合物の単独重合体であってもよいが、ゴムの強度を高める観点から、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体であることが好ましい。重合に使用する芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、t-ブトキシスチレン、ビニルベンジルジメチルアミン、(4-ビニルベンジル)ジメチルアミノエチルエーテル、N,N-ジメチルアミノエチルスチレン、N,N-ジメチルアミノメチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、2-t-ブチルスチレン、3-t-ブチルスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ビニルピリジン、ジフェニルエチレン、3級アミノ基含有ジフェニルエチレン(例えば、1-(4-N,N-ジメチルアミノフェニル)-1-フェニルエチレンなど)等が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、これらの中でもスチレン、α-メチルスチレンが好ましい。
【0014】
共役ジエン系重合体が、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体である場合、アニオン重合におけるリビング性が高い点で、中でも、1,3-ブタジエンとスチレンとをモノマー組成に含む重合体であることが好ましい。上記共重合体は、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との分布が不規則なランダム共重合部分を有することが好ましい。上記共重合体は、共役ジエン化合物又は芳香族ビニル化合物からなるブロック部分をさらに有していてもよい。
【0015】
共役ジエン系重合体が、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体である場合、芳香族ビニル化合物の使用割合は、得られる架橋重合体の低ヒステリシスロス特性とウェットスキッド抵抗性とのバランスを良好にする観点から、重合に使用する共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物の合計量に対して、3~55質量%とすることが好ましく、5~50質量%とすることがより好ましい。なお、重合体中における、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有割合は1H-NMRによって測定した値である。共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物は、それぞれ1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
上記重合に際しては、モノマーとして、共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物以外の化合物(以下、「他のモノマー」ともいう。)を使用してもよい。他のモノマーとしては、例えばアクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等が挙げられる。他のモノマーの使用割合は、重合に使用するモノマーの全体量に対して、10質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることがより好ましい。
【0017】
使用する重合法としては、溶液重合法、気相重合法、バルク重合法のいずれを用いてもよいが、溶液重合法が特に好ましい。また、重合形式としては、回分式及び連続式のいずれを用いてもよい。溶液重合法を用いる場合、具体的な重合方法の一例としては、有機溶媒中において、共役ジエン化合物を含む単量体を、重合開始剤、及び必要に応じて用いられるランダマイザーの存在下で重合する方法が挙げられる。
【0018】
重合開始剤としては、アルカリ金属化合物が用いられる。アルカリ金属化合物の具体例としては、例えばメチルリチウム、エチルリチウム、n-プロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム等のアルキルリチウム;1,4-ジリチオブタン、フェニルリチウム、スチルベンリチウム、ナフチルリチウム、1,3-ビス(1-リチオ-1,3-ジメチルペンチル)ベンゼン、1,3-フェニレンビス(3-メチル-1-フェニルペンチリデン)ジリチウム、ナフチルナトリウム、ナフチルカリウム、エトキシカリウム等が挙げられる。これらの中でもリチウム化合物が好ましい。
【0019】
上記重合では、アルカリ金属化合物として、シリカと相互作用する官能基を有する化合物(以下、「開始変性剤」ともいう。)を用いてもよい。開始変性剤の存在下で重合を行うことにより、共役ジエン系重合体の重合開始末端に、シリカと相互作用を有する官能基を導入することができる。なお、本明細書において「シリカと相互作用する官能基」とは、窒素、硫黄、リン、酸素などのシリカと相互作用する元素を有する基を意味する。「相互作用」とは、分子間で共有結合を形成するか、又は共有結合よりも弱い分子間力(例えば、イオン-双極子相互作用、双極子-双極子相互作用、水素結合、ファンデルワールス力等といった分子間に働く電磁気学的な力)を形成することを意味する。
【0020】
開始変性剤は、窒素含有のアルカリ金属化合物であることが好ましい。こうした窒素含有アルカリ金属化合物としては、下記式(2)で表される化合物が好ましく用いられる。
【化2】
(式(2)中、R
8は窒素含有基であり、Y
1は、共役ジエン化合物又は芳香族ビニル化合物の重合により得られるヒドロカルビレン基であり、M
1はアルカリ金属である。nは1~10の整数である。)
【0021】
上記式(2)において、R8の窒素含有基は、基「-(CH2)n-」に対し窒素原子で結合し、活性水素を含まない1価の基であることが好ましく、第3級アミノ基であることがより好ましい。R8が第3級アミノ基である場合の具体例としては、基「-NR11R12」(ただし、R11及びR12は、それぞれ独立に炭素数1~10のヒドロカルビル基である。)で表される基が挙げられる。
Y1について、共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物としてはそれぞれ、重合に使用するモノマーとして例示した化合物を用いることができる。これらのうち、Y1は、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン又はスチレンの重合により得られるヒドロカルビレン基であることが好ましく、イソプレンの重合により得られるヒドロカルビレン基であることが特に好ましい。Y1の重合度は、好ましくは2~10であり、より好ましくは2~4である。M1は、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、好ましくはリチウムである。
上記式(2)で表される化合物としては、これらの中でも、((2E,6E)-11-(ジメチルアミノ)-3,7-ジメチルウンデカ-2,6-ジエン-1-イル)リチウムを好ましく用いることができる。
【0022】
上記重合に使用する変性開始剤としては、上記式(2)で表される化合物のほか、窒素非含有のアルカリ金属化合物と、第2級アミン化合物との混合物が挙げられる。当該混合物において、第2級アミン化合物としては、例えばジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ドデカメチレンイミン、N,N’-ジメチル-N’-トリメチルシリル-1,6-ジアミノヘキサン、ピペリジン、ピロリジン、ヘキサメチレンイミン、ヘプタメチレンイミン、ジシクロヘキシルアミン、N-メチルベンジルアミン、ジ-(2-エチルヘキシル)アミン、ジアリルアミン、モルホリン、N-(トリメチルシリル)ピペラジン、N-(tert-ブチルジメチルシリル)ピペラジン、1,3-ジトリメチルシリル-1,3,5-トリアジナン、N-トリメチルシリルピペラジン、1,3,3-トリメチル-6-アザビシクロ[3.2.1]オクタン、1-プロピル-3-アザビシクロ[3.2.2]ノナン等の鎖状又は環状の第2級アミン化合物が挙げられる。窒素非含有のアルカリ金属化合物としては、アルキルリチウムを用いることが好ましい。
【0023】
なお、上記混合物の存在下で重合を行う場合、窒素非含有のアルカリ金属化合物と第2級アミン化合物とを予め混合しておき、その混合物を重合系中に添加して重合を行ってもよい。あるいは、重合系中に、窒素非含有のアルカリ金属化合物と第2級アミン化合物とを添加し、重合系中で両者を混合して重合を行ってもよい。
【0024】
重合開始剤の使用量(2種以上使用する場合にはその合計量)は、変性共役ジエン系重合体の合成に使用するモノマー100gに対して、0.01~20mmolとすることが好ましく、0.05~15mmolとすることがより好ましい。また、上記式(2)で表される化合物の使用割合は、上記モノマーの重合に使用する重合開始剤(好ましくはアルカリ金属化合物)の全量に対し、50モル%以上とすることが好ましく、60モル%以上とすることがより好ましく、80モル%以上とすることが更に好ましい。
【0025】
ランダマイザーは、重合体中におけるビニル結合の含有率を表すビニル結合含量の調整等を目的として用いることができる。ランダマイザーの例としては、ジメトキシベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2,2-ジ(テトラヒドロフリル)プロパン、2-(2-エトキシエトキシ)-2-メチルプロパン、トリエチルアミン、ピリジン、N-メチルモルホリン、テトラメチルエチレンジアミン等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0026】
重合に使用する有機溶媒としては、反応に不活性な有機溶剤であればよく、例えば脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素などを用いることができる。これらの中でも、炭素数3~8の炭化水素が好ましく、その具体例としては、例えばプロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-へキサン、シクロへキサン、プロペン、1-ブテン、イソブテン、トランス-2-ブテン、シス-2-ブテン、1-ペンチン、2-ペンチン、1-ヘキセン、2-ヘキセン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘプタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、1-ペンテン、2-ペンテン、シクロヘキセン等が挙げられる。なお、有機溶媒としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
溶液重合とする場合、反応溶媒中のモノマー濃度は、生産性と重合コントロールの容易性のバランスを維持する観点から、5~50質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましい。重合反応の温度は、-20℃~150℃であることが好ましく、0~120℃であることがより好ましい。また、重合反応は、単量体を実質的に液相に保つのに十分な圧力の下で行うことが好ましい。このような圧力は、重合反応に対して不活性なガスによって、反応器内を加圧する等の方法によって得ることができる。
【0028】
こうした重合反応により、活性末端を有する共役ジエン系重合体を得ることができる。得られる共役ジエン系重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5.0×104~1.0×106である。Mwが5.0×104よりも小さいと、架橋重合体の引張強度、低発熱性及び耐摩耗性が低下しやすい傾向にあり、1.0×106よりも大きいと、変性重合体を用いて得られるゴム組成物の加工性が低下しやすい傾向にある。より好ましくは、8.0×104~8.0×105であり、更に好ましくは、1.0×105~5.0×105である。
【0029】
活性末端を有する共役ジエン系重合体につき、ブタジエン単位におけるビニル結合含量(以下、「ビニル含量」ともいう。)は、30質量%以上であることが好ましく、33質量%以上であることがより好ましく、35質量%以上であることが更に好ましい。また、ビニル含量は、70質量%以下であることが好ましく、68質量%以下であることがより好ましく、65質量%以下であることが更に好ましい。ビニル含量が30モル%未満であると、グリップ特性が低くなる傾向があり、70質量%を超えると、得られる加硫ゴムの耐摩耗性が低下する傾向にある。なお、本明細書において「ビニル含量」は、共役ジエン系重合体中において、ブタジエンの全構造単位に対する、1,2-結合を有する構造単位の含有割合を示す値であり、1H-NMRによって測定した値である。
【0030】
<変性工程>
本工程では、上記重合工程で得られた共役ジエン系重合体が有する活性末端と、下記式(1)で表される化合物[A]とを反応させる。化合物[A]を末端変性剤として用いることにより、重合体鎖の分岐数が2以上であり、かつシリカと相互作用する基で変性された変性共役ジエン系重合体を得ることができる。
【化3】
(式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のヒドロカルビル基であるか、又は、R
1及びR
2が互いに合わせられてR
1及びR
2が結合する炭素原子と共に構成される炭素数5~8の環構造を表す。R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のヒドロカルビル基であるか、又は、R
5及びR
6が互いに合わせられてR
5及びR
6が結合する炭素原子と共に構成される炭素数5~8の環構造を表す。ただし、R
1とR
2は同時に水素原子にならず、R
5とR
6は同時に水素原子にならない。R
3及びR
4は、それぞれ独立に、炭素数1~6のヒドロカルビレン基であり、R
7は、炭素数1~10のヒドロカルビレン基である。X
1は、炭素数1~4のヒドロカルビルオキシ基であり、X
2及びX
3は、それぞれ独立に、炭素数1~4のヒドロカルビル基又はヒドロカルビルオキシ基である。mは1~3の整数を表す。式中、mが2又は3の場合、複数のR
3、R
7、X
1~X
3はそれぞれ、互いに同一の基又は異なる基である。)
【0031】
上記式(1)において、R1、R2、R5及びR6の炭素数1~8のヒドロカルビル基としては、炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数6~8のアリール基等が挙げられる。R1及びR2が互いに合わせられてR1及びR2が結合する炭素原子と共に構成される環構造、並びに、R5及びR6が互いに合わせられてR5及びR6が結合する炭素原子と共に構成される環構造としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環又はシクロオクタン環を有する構造が挙げられる。R1、R2、R5及びR6は、炭素数1~8のヒドロカルビル基であることが好ましく、炭素数1~8の直鎖状又は分岐状のアルキル基であることがより好ましい。
【0032】
R3及びR4としては、炭素数1~6のアルカンジイル基、炭素数3~6のシクロアルキレン基、炭素数2~6のアルケンジイル基、フェニレン基等が挙げられる。R3及びR4は、好ましくは炭素数1~6のアルカンジイル基であり、より好ましくは炭素数2~6のアルカンジイル基であり、更に好ましくは炭素数2~4の直鎖状のアルカンジイル基である。
R7としては、炭素数1~10のアルカンジイル基、炭素数3~10のシクロアルキレン基、炭素数2~10のアルケンジイル基、炭素数6~10のアリーレン基等が挙げられる。これらのうち、R7は、炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルカンジイル基が好ましい。
X1~X3の炭素数1~4のヒドロカルビルオキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。X2及びX3の炭素数1~4のヒドロカルビル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等が挙げられる。X2及びX3は、架橋ゴムの低燃費性能をより良好にする観点から、少なくとも一方がヒドロカルビルオキシ基であることが好ましく、共にヒドロカルビルオキシ基であることがより好ましい。
mは、本開示の変性共役ジエン系重合体を用いて得られるゴム組成物の加工性の低下を抑制する観点から、1又は2が好ましく、1がより好ましい。
【0033】
化合物[A]の具体例としては、下記式(1-1)~式(1-15)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。なお、化合物[A]としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【化4】
【化5】
【化6】
【0034】
なお、化合物[A]は、有機化学の定法を適宜組み合わせることによって合成することができる。具体的には、「H2N-(R3-NH)m-R4-NH2」で表される化合物と、「R1-C(=O)-R2」で表される化合物及び「R5-C(=O)-R6」で表される化合物と、を反応させて、「(R1)(R2)C=N-(R3-NH)m-R4-N=C(R5)(R6)」で表される化合物を得た後、得られた化合物と、「Y2-R7-Si(X1)(X2)(X3)」で表される化合物(ただし、Y2はハロゲン原子)と、を反応させることにより、上記式(1)で表される化合物が得られる。この合成反応は、必要に応じて、適当な有機溶媒中、触媒の存在下で行うことができる。ただし、化合物[A]の合成方法は上記の方法に限定されるものではない。
【0035】
活性末端を有する共役ジエン系重合体と化合物[A]との反応は、溶液反応として行うことが好ましい。化合物[A]の使用割合(2種以上使用する場合にはその合計量)は、変性反応を十分に進行させる観点から、重合開始剤が有する重合に関与する金属原子1モルに対して、0.01モル以上とすることが好ましく、0.05モル以上とすることがより好ましい。また、化合物[A]の使用割合は、過剰な添加を避けるため、重合開始剤が有する重合に関与する金属原子1モルに対して、2.0モル未満とすることが好ましく、1.5モル未満とすることがより好ましい。
【0036】
変性反応の温度は、通常、重合反応と同じであり、-20℃~150℃とすることが好ましく、0~120℃とすることがより好ましい。反応温度が低いと、変性後の重合体の粘度が上昇する傾向があり、反応温度が高いと重合活性末端が失活しやすくなる。反応時間は、好ましくは1分~5時間であり、より好ましくは2分~1時間である。
【0037】
活性末端を有する共役ジエン系重合体と化合物[A]との反応に際しては、化合物[A]と共に、化合物[A]とは異なる化合物(以下、「その他の変性剤又はカップリング剤」という。)を用いてもよい。その他の変性剤又はカップリング剤としては、上記重合により得られる共役ジエン系重合体の活性末端と反応し得る化合物であれば特に限定されず、共役ジエン系重合体の変性剤又はカップリング剤として公知の化合物(例えば、窒素含有アルコキシシラン化合物、グリシジル基含有ポリシロキサン等)を用いることができる。その他の変性剤又はカップリング剤を使用する場合、その使用割合は、5モル%以下とすることが好ましく、1モル%以下とすることがより好ましい。
【0038】
反応溶液に含まれる変性共役ジエン系重合体を単離するには、例えばスチームストリッピング等の公知の脱溶媒方法及び熱処理等の乾燥の操作によって行うことができる。本開示の変性共役ジエン系重合体につき、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量は、高強度であり、かつ低発熱性及び耐摩耗性に優れた架橋ゴムを得る観点から、好ましくは1.5×105~2.0×106であり、より好ましくは1.8×105~1.5×106であり、さらに好ましくは2.0×105~1.2×106である。なお、変性共役ジエン系重合体の重量平均分子量は、活性末端を有する共役ジエン系重合体と化合物[A]との反応後にGPCにより測定されるGPC曲線の最大ピーク分子量から求めた値である。
【0039】
活性末端を有する共役ジエン系重合体と化合物[A]との反応後にGPCにより得られるGPC曲線につき、GPC曲線のピーク面積の全体ALに対する、分子量が最も小さいピークのピークトップ分子量の2倍以上のピークトップ分子量を示すピーク部分の面積ATの比率AT/AL(以下、「2分岐以上のカップリング率」ともいう。)は、40%以上であることが好ましい。当該割合が40%以上であることにより、強度が十分に高く、かつ低燃費性がより良好な架橋ゴムを得ることができる点で好ましい。こうした観点から、2分岐以上のカップリング率は、45%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、60%以上であることが特に好ましい。また、2分岐以上のカップリング率は、例えば99%以下であり、好ましくは90%以下である。
【0040】
活性末端を有する共役ジエン系重合体と化合物[A]との反応後においてGPCにより測定される、分子量が最も小さいピークのピークトップ分子量は、好ましくは5.0×104~2.0×106の範囲であり、より好ましくは8.0×104~1.5×106の範囲であり、さらに好ましくは1.0×105~1.2×106の範囲である。
【0041】
上記工程により得られる変性共役ジエン系重合体は、化合物[A]が有する複数個の反応点(炭素-窒素二重結合(C=N基)、ヒドロカルビルオキシシリル基)に、変性又は未変性の共役ジエン系重合体鎖が結合した分岐構造を有する。ここで、化合物[A]は、窒素原子に結合する少なくとも3個のヒドロカルビレン基を有し、2個のC=N基、及び少なくとも1個のヒドロカルビルオキシシリル基が、それぞれ異なるヒドロカルビレン基に結合している。こうした化合物[A]を変性剤として用いることにより、活性末端を有する共役ジエン系重合体とC=N基との反応が優先され、共役ジエン系重合体鎖の分岐数を多くしつつ、残ヒドロカルビルオキシシリル基を多くできると考えられる。これにより、変性共役ジエン系重合体とシリカとの相互作用が向上し、当該変性共役ジエン系重合体を用いて得られた架橋体が優れた低発熱性を示したことが考えられる。
【0042】
上記重合工程及び変性工程を含む製造方法によれば、下記式(3)で表される変性共役ジエン系重合体が得られる。
【化7】
(式(3)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のヒドロカルビル基であるか、又は、R
1及びR
2が互いに合わせられてR
1及びR
2が結合する炭素原子と共に構成される炭素数5~8の環構造を表す。R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のヒドロカルビル基であるか、又は、R
5及びR
6が互いに合わせられてR
5及びR
6が結合する炭素原子と共に構成される炭素数5~8の環構造を表す。ただし、R
1とR
2は同時に水素原子にならず、R
5とR
6は同時に水素原子にならない。R
3及びR
4は、それぞれ独立に、炭素数1~6のヒドロカルビレン基であり、R
7は、炭素数1~10のヒドロカルビレン基である。Polyは、変性又は未変性の共役ジエン系重合体鎖である。Z
1は、炭素数1~4のヒドロカルビルオキシ基、又は変性若しくは未変性の共役ジエン系重合体鎖であり、Z
2及びZ
3は、それぞれ独立に、炭素数1~4のヒドロカルビル基、炭素数1~4のヒドロカルビルオキシ基、又は変性若しくは未変性の共役ジエン系重合体鎖である。mは1~3の整数を表す。式中、mが2又は3の場合、複数のR
3、R
7、Z
1、Z
2及びZ
3はそれぞれ、互いに同一の基又は異なる基である。)
【0043】
上記式(3)において、R1~R7及びmについては、上記式(1)の説明が適用される。Z1~Z3のヒドロカルビルオキシ基については、上記式(1)のX1~X3の説明が適用される。Z1~Z3がヒドロカルビルオキシ基である場合、Z1~Z3は、好ましくはエトキシ基又はメトキシ基である。Z1~Z3の共役ジエン系重合体鎖、及び式(3)中の共役ジエン系重合体鎖(Poly)は、上記重合工程で得られる、活性末端を有する共役ジエン系重合体に対応する構造である。これら共役ジエン系重合体鎖は、重合体鎖の端部に、シリカと相互作用する官能基を有していてもよい。共役ジエン系重合体鎖が端部に有する官能基は、架橋ゴムの低燃費性能の改善効果が高い点で、窒素含有基であることが好ましい。
【0044】
<重合体組成物>
本開示の重合体組成物は、上記の変性共役ジエン系重合体、シリカ及び架橋剤を含有する。重合体組成物における上記変性共役ジエン系重合体の含有割合は、重合体組成物の全体量に対して、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましい。また、重合体組成物において、上記変性共役ジエン系重合体の含有割合は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0045】
シリカとしては、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、コロイダルシリカ、沈降シリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。これらのうち、破壊特性の改良効果や、ウェットグリップ性と低転がり抵抗性との両立効果の観点から、湿式シリカが特に好ましい。また、高分散型(High Dispersible Type)のシリカを使用することも、重合体組成物中における分散性を良好にできるとともに物性及び加工性を向上できる観点から好ましい。なお、シリカは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
重合体組成物には、フィラーとしてシリカの他に、カーボンブラック、クレー、炭酸カルシウムなどの各種の補強性充填剤が配合されていてもよい。好ましくは、シリカ単独、又はカーボンブラックとシリカとの併用である。重合体組成物中におけるシリカ及びカーボンブラックの合計量は、重合体組成物に含まれる重合体成分の全体量100質量部に対して、好ましくは20~130質量部、より好ましくは25~110質量部である。
【0047】
架橋剤としては、硫黄、ハロゲン化硫黄、有機過酸化物、キノンジオキシム類、有機多価アミン化合物、メチロール基を有するアルキルフェノール樹脂等が挙げられ、通常、硫黄が使用される。硫黄の配合量は、重合体組成物に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.5~3質量部である。
【0048】
本開示の重合体組成物には、上記で得られた変性共役ジエン系重合体に加えて、他のゴム成分が配合されていてもよい。かかるゴム成分の種類は特に限定されないが、ブタジエンゴム(BR、例えばシス-1,4結合90%以上のハイシスBR、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン(SPB)含有BRなど)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンイソプレン共重合体ゴム、ブタジエンイソプレン共重合体ゴム等が挙げられ、より好ましくはBR、SBRである。重合体組成物における他のゴム成分の含有割合は、上記変性共役ジエン系重合体と他のゴム成分との合計量に対して、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
重合体組成物には、油展のためのオイルとして、エラストマーを油展するために一般的に用いられるプロセスオイルが配合されていてもよい。プロセスオイルは、例えば、ゴム配合中にオイルを直接添加することによってゴム組成物に配合される。好ましいプロセスオイルとしては、当業界で公知の様々なオイルが挙げられ、例えば、芳香族系オイル、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、植物油、並びに、多環式芳香族化合物の含量の低いオイル(低PCAオイル)、例えば軽度抽出溶媒和物(MES:mild extraction solvate)、留出油からの芳香族系抽出物を処理した油(TDAE:treated distillate aromatic extract)、残油からの芳香族系特殊抽出物(SRAE:special residual aromatic extract)、及び重ナフテン系オイルなどが挙げられる。市販のMES、TDAE及びSRAEの例としては、MESとしてShell製のCatenex SNR(留出油を溶媒で脱ワックスした重質パラフィン)、TDAEとしてH&R Wasag AG製のVivatec 500、及びSRAEとしてJapan Energy Corp.製のNC140などが挙げられる。プロセスオイルの配合量は、重合体組成物に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、好ましくは10~100質量部である。
【0050】
重合体組成物には、上記した成分の他に、例えば老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、硫黄、加硫促進剤、シランカップリング剤、相溶化剤、加硫助剤、加工助剤、スコーチ防止剤など、タイヤ用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。これらの配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で、各種成分に応じて適宜選択することができる。
【0051】
本開示の重合体組成物は、重合体成分、シリカ及び架橋剤の他、必要に応じて配合される成分を、開放式混練機(例えば、ロール)、密閉式混練機(例えば、バンバリーミキサー)等の混練機を用いて混練され、成形加工後に架橋(加硫)することによって、架橋体として各種ゴム製品に適用可能である。具体的には、上記架橋体は、例えばタイヤトレッド、アンダートレッド、カーカス、サイドウォール、ビード部等のタイヤ用途;パッキン、ガスケット、ウェザーストリップ、O-リング等のシール材;自動車、船舶、航空機、鉄道等の各種車両用の内外装表皮材;建築材料;産業機械用や設備用などの防振ゴム類;ダイヤフラム、ロール、ラジエータホース、エアーホース等の各種ホース及びホースカバー類;動力伝達用ベルトなどのベルト類;ライニング;ダストブーツ;医療用機器材料;防舷材;電線用絶縁材料;その他の工業品等の用途に適用できる。
【0052】
本開示の変性共役ジエン系重合体によれば、低燃費性能及び強度といった、タイヤ用途で求められる物性が良好な架橋体を得ることができる。したがって、本開示の変性共役ジエン系重合体を含む重合体組成物は、特にタイヤのトレッド、サイドウォール又はその両方の材料として好適に使用できる。
【0053】
タイヤの製造は、常法に従い行うことができる。例えば、重合体組成物を混練機で混合し、シート状にしたものを、常法に従い所定位置(例えば、サイドウォールの場合にはカーカスの外側)に配して加硫成形することにより、トレッドゴム又はサイドウォールゴムとして形成され、空気入りタイヤが得られる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。重合体及びゴムの各種物性値の測定方法を以下に示す。
【0055】
[重合体及びゴムの特性評価]
・ビニル含量(%):400MHzの1H-NMRによって測定した。
・結合スチレン含量(%):400MHzの1H-NMR測定によって測定した。
・重量平均分子量(Mw):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算の分子量に基づくチャートを得て、そのチャートに基づいて求めた。GPCの具体的な測定条件は以下の通りである。
(GPC測定条件)
測定器:HLC-8020(東ソー社製)
カラム:GMH-HR-H(東ソー社製)2本を直列に連結した
検出器:示差屈折計RI-8020(東ソー社製)
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム温度:40℃
流速:1.0ml/分
サンプル濃度:10mg/20ml
・ムーニー粘度(ML1+4,100℃):JIS K6300-1:2013に準拠し、Lローターを使用して、予熱1分、ローター作動時間4分、温度100℃の条件で求めた。
・2分岐以上のカップリング率(%):GPC曲線の重合体由来の全面積100%に対する、分子量が最も小さいピークのピークトップ分子量の2倍以上のピークトップ分子量を示すピーク部分の面積比を2分岐以上のカップリング率とした。
【0056】
<(変性)共役ジエン系重合体の合成>
[実施例1 変性共役ジエン系重合体iの合成及びその物性]
窒素置換された内容積5リットルのオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン1600g、2,2-ジ(テトラヒドロフリル)プロパン1.96mmol、スチレン108g及び1,3-ブタジエン272gを仕込んだ。反応器の内容物の温度を10℃に調整した後、重合開始剤としてn-ブチルリチウム3.87mmolを添加して重合を開始した。重合は断熱条件で実施し、最高温度は85℃に達した。重合転化率が99%に達した時点で(重合開始から20分経過後に)、1,3-ブタジエン20gを10分間かけて追加し、その後、末端変性剤としてN,N-ビス(2-(((E)-4-メチルペンタン-2-イリデン)アミノ)エチル)-3-(トリエトキシシリル)プロパン-1-アミン(下記式(1-4)で表される化合物) 1.82mmolを加えて15分間反応を行った。得られた変性共役ジエン系重合体を含有する重合体溶液に、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを3.52g添加した。次いで、2000gのメタノール中でゴム分200gの重合体溶液のポリマー凝固とスチームストリッピングによる脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールで乾燥することにより変性共役ジエン系重合体iを得た。得られた変性共役ジエン系重合体iの各種物性値等を下記表1に示す。
【化8】
【0057】
[実施例2 変性共役ジエン系重合体iiの合成及びその物性]
重合開始剤としてn-ブチルリチウム3.87mmolの代わりに((2E,6E)-11-(ジメチルアミノ)-3,7-ジメチルウンデカ-2,6-ジエン-1-イル)リチウム(下記式(2-1)で表される化合物)を3.87mmol添加した以外は実施例1と同様にして変性共役ジエン系重合体iiを得た。得られた変性共役ジエン系重合体iiの各種物性値等を下記表1に示す。
【化9】
【0058】
[比較例1 共役ジエン系重合体iiiの合成及びその物性]
重合開始剤としてのn-ブチルリチウム添加量を1.94mmolとし、また、末端変性剤に代えて停止剤としてオクタノール3.63mmolを加えて15分間反応を行ったこと以外は実施例1と同様の手順で重合体の合成を行い、未変性の共役ジエン系重合体iiiを得た。得られた共役ジエン系重合体iiiの各種物性値等を下記表1に示す。
【0059】
[比較例2 変性共役ジエン系重合体ivの合成及びその物性]
末端変性剤としてN,N-ビス(2-(((E)-4-メチルペンタン-2-イリデン)アミノ)エチル)-3-(トリエトキシシリル)プロパン-1-アミン 1.82mmolに代えて、ジメチルジクロロシラン 1.82mmolを加えて、15分間反応を行ったこと以外は実施例1と同様の手順で重合体の合成を行い、変性共役ジエン系重合体ivを得た。得られた変性共役ジエン系重合体ivの各種物性値等を下記表1に示す。
【0060】
【0061】
表1中、化合物の略称は以下の通りである。
・開始剤1:n-ブチルリチウム
・開始剤2:((2E,6E)-11-(ジメチルアミノ)-3,7-ジメチルウンデカ-2,6-ジエン-1-イル)リチウム
・変性剤1:N,N-ビス(2-(((E)-4-メチルペンタン-2-イリデン)アミノ)エチル)-3-(トリエトキシシリル)プロパン-1-アミン
・変性剤2:ジメチルジクロロシラン
【0062】
<ゴム組成物及び架橋重合体の製造>
上記で製造した(変性)共役ジエン系重合体i~ivをそれぞれ用いて、下記表2に示す配合処方により各成分を配合し、これを混練りすることによってゴム組成物を製造した。混練りは以下の方法で行った。温度制御装置を付属したプラストミル(内容量:250ml)を使用し、まず一段目の混練りとして、充填率72%、回転数60rpmの条件で、変性共役ジエン系重合体(比較例1については未変性の共役ジエン系重合体)、ブタジエンゴム、伸展油、シリカ、カーボンブラック、シランカップリング剤、ステアリン酸、老化防止剤及び酸化亜鉛を配合して混練りした。次いで、二段目の混練りとして、上記で得た配合物を室温まで冷却後、硫黄及び加硫促進剤を配合し、混練りした。得られたゴム組成物を成型し、160℃で所定時間、加硫プレスにて加硫して、架橋ゴム(加硫ゴム)を得た。また、以下のようにして引張強度及び転がり抵抗性を評価した。結果を下記表3に示す。
(1)引張強度:架橋ゴムを測定用試料とし、JIS K6251:2010に従って300%モジュラス(M300)を測定した。測定結果については、比較例1を100とした指数で示し、数値が大きいほど引張強度が高く、良好であることを示す。
(2)転がり抵抗性(70℃tanδ):架橋ゴムを測定用試料とし、ARES-RDA(TA Instruments社製)を使用し、剪断歪1.0%、角速度100ラジアン毎秒、70℃の条件で測定した。測定結果については、比較例1を100とした指数で示し、数値が大きいほどエネルギロスが小さく、転がり抵抗性(低燃費性能)が良好であることを示す。
【0063】
【0064】
表2中、各成分について、使用した商品名は以下の通りである。
*1:JSR社製 BR01、*2:ジャパンエナジー社製 JOMOプロセスNC-140、*3:ローディア社製 ZEOSIL 1165MP、*4:三菱化学社製 ダイアブラックN339、*5:エボニック社製 Si75、*6:精工化学社製 オゾノン6C、*7:大内新興化学工業社製 ノクセラーD、*8:大内新興化学工業社製 ノクセラーCZ。
【0065】
【0066】
上記表3の結果から分かるように、実施例1及び実施例2のゴム組成物の場合、比較例1及び比較例2のゴム組成物に比べて、300%モジュラス(引張強度)及び70℃tanδに大きな向上が見られた。これらの結果から、化合物[A]を変性剤として用いて得られる変性共役ジエン系重合体によれば、転がり抵抗性(低燃費性能)及び引張強度が良好な架橋ゴムを得ることができることが確認された。