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特許7346545塩化ビニル系共重合体およびその製造方法
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  • 特許-塩化ビニル系共重合体およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】塩化ビニル系共重合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/06 20060101AFI20230911BHJP
   C08F 218/14 20060101ALI20230911BHJP
   C08F 220/36 20060101ALI20230911BHJP
   C08F 2/00 20060101ALI20230911BHJP
   C09D 11/106 20140101ALI20230911BHJP
【FI】
C08F214/06
C08F218/14
C08F220/36
C08F2/00 A
C09D11/106
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021504460
(86)(22)【出願日】2019-07-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 KR2019009193
(87)【国際公開番号】W WO2020027490
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-01-26
(31)【優先権主張番号】10-2018-0088888
(32)【優先日】2018-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】501014658
【氏名又は名称】ハンワ ソリューションズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】HANWHA SOLUTIONS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ムン・ス・ギル
(72)【発明者】
【氏名】チュル-ウン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ヒョク・チル・クォン
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-038618(JP,A)
【文献】特開2017-088717(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021277(WO,A1)
【文献】特開平04-080282(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0075377(KR,A)
【文献】国際公開第2017/099397(WO,A1)
【文献】特開昭60-015471(JP,A)
【文献】特開2011-021081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 214/06
C08F 218/14
C08F 220/36
C08F 2/00
C09D 11/106
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系単量体100重量部に対して;8~15重量部の、直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有し、2つのアルキル基の炭素数の合計が10~30であるジカルボン酸エステル単量体;および1~9重量部のヒドロキシル系単量体が共重合された下記化学式2で表される繰り返し単位を含み
前記直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有し、2つのアルキル基の炭素数の合計が10~30であるジカルボン酸エステル単量体およびヒドロキシル系単量体の重量比は1.5:1~2:1であり、
前記ヒドロキシル系単量体は、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレートからなる群から選択される1種以上の化合物を含み、
前記繰り返し単位に、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート、エトキシポリエチレングリコールアクリレート、エトキシポリエチレングリコールメタアクリレート、アリールオキシポリエチレングリコールアクリレート、アリールオキシポリエチレングリコールメタアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、およびポリエチレングリコールジメタクリレートからなる群から選択される1種以上の(メタ)アクリレート基を含むポリエチレングリコール系添加剤がさらに共重合した、共重合体:
【化1】
上記化学式2中、
x、y、zは、それぞれ独立して、20~700の整数であり、
およびRは、それぞれ独立して、炭素数5~15の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基であり、
は、炭素数1~10の直鎖、または分枝鎖のアルキレン基である。
【請求項2】
前記共重合体は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して;10~15重量部の、直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有し、2つのアルキル基の炭素数の合計が10~30であるジカルボン酸エステル単量体;および5~8重量部の前記ヒドロキシル系単量体を含む、請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
前記直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有し、2つのアルキル基の炭素数の合計が10~30であるジカルボン酸エステル単量体は、マレイン酸ジペンチル(dipentyl maleate)、マレイン酸ジヘキシル(dihexyl maleate)、マレイン酸ジオクチル(dioctyl maleate)、およびマレイン酸ジノニル(dinonyl maleate)からなる群から選択される1種以上の化合物を含む、請求項1に記載の共重合体。
【請求項4】
前記直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有し、2つのアルキル基の炭素数の合計が10~30であるジカルボン酸エステル単量体は、下記化学式1で表されるマレイン酸ジオクチル(dioctyl maleate)である、請求項3に記載の共重合体:
【化2】
【請求項5】
前記化学式2は、下記化学式2aで表される、請求項1に記載の共重合体:
【化3】
上記化学式2a中、
x、y、zは、それぞれ化学式2で定義した通りである。
【請求項6】
前記(メタ)アクリレート基を含むポリエチレングリコール系添加剤は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.1重量部~5重量部で含まれる、請求項1に記載の共重合体。
【請求項7】
請求項1に記載の共重合体を製造する方法であって、
塩化ビニル系単量体、直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有し、2つのアルキル基の炭素数の合計が10~30であるジカルボン酸エステル単量体、およびヒドロキシル系単量体を、開始剤の存在下で重合する段階を含み、
前記重合は、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート、エトキシポリエチレングリコールアクリレート、エトキシポリエチレングリコールメタアクリレート、アリールオキシポリエチレングリコールアクリレート、アリールオキシポリエチレングリコールメタアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、およびポリエチレングリコールジメタクリレートからなる群から選択される1種以上の(メタ)アクリレート基を含むポリエチレングリコール系添加剤をさらに投入して行われ、
前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して;8~15重量部の、直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有し、2つのアルキル基の炭素数の合計が10~30であるジカルボン酸エステル単量体;および1~9重量部のヒドロキシル系単量体であり、
前記直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有し、2つのアルキル基の炭素数の合計が10~30であるジカルボン酸エステル単量体およびヒドロキシル系単量体の重量比は1.5:1~2:1であり、
前記塩化ビニル系単量体は、重合前の1次投入;および重合温度に到達した後、100分以内、または反応器内圧力が重合初期圧力に対して0.5~1.0kgf/cmに低くなる時の2次投入に分割投入され、
前記ヒドロキシル系単量体は、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレートからなる群から選択される1種以上の化合物を含む、共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記塩化ビニル系単量体は、総塩化ビニル系投入量の10~90重量%が重合前に1次投入され、残部は反応器内温度が重合温度に到達した時点に2次投入される、請求項7に記載の共重合体の製造方法。
【請求項9】
前記直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有し、2つのアルキル基の炭素数の合計が10~30であるジカルボン酸エステル単量体は、マレイン酸ジペンチル(dipentyl maleate)、マレイン酸ジヘキシル(dihexyl maleate)、マレイン酸ジオクチル(dioctyl maleate)、およびマレイン酸ジノニル(dinonyl maleate)からなる群から選択される1種以上の化合物を含む、請求項7に記載の共重合体の製造方法。
【請求項10】
前記直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有し、2つのアルキル基の炭素数の合計が10~30であるジカルボン酸エステル単量体は、下記化学式1で表されるマレイン酸ジオクチル(dioctyl maleate)である、請求項7に記載の共重合体の製造方法:
【化4】
【請求項11】
前記ヒドロキシル系単量体は、反応器内温度が重合温度に到達した後、100分以内、あるいは反応器内圧力が重合初期圧力に対して0.5~1.0kgf/cmに低くなる時に投入される、請求項7に記載の共重合体の製造方法。
【請求項12】
前記ヒドロキシル系単量体は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して1~9重量部で投入される、請求項7に記載の共重合体の製造方法。
【請求項13】
前記ポリエチレングリコール系添加剤は、200g/mol~5,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有する、請求項7に記載の共重合体の製造方法。
【請求項14】
前記ポリエチレングリコール系添加剤は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.1重量部~5重量部で投入される、請求項7に記載の共重合体の製造方法。
【請求項15】
前記ポリエチレングリコール系添加剤は、重合前に投入されるか、または前記単量体の重合度が30%~80%である時に投入される、請求項7に記載の共重合体の製造方法。
【請求項16】
前記重合は、攪拌と共に行われ、
前記攪拌は、反応器内温度が重合温度に到達してから100分以内;または反応器内圧力が重合初期圧力に対して0.5~1.0kgf/cmに低くなる時点に攪拌速度を増加させて行われる、請求項7に記載の共重合体の製造方法。
【請求項17】
前記重合は、懸濁重合、微細懸濁重合または乳化重合である、請求項7に記載の共重合体の製造方法。
【請求項18】
請求項1~6のいずれか一項に記載の共重合体を含む、塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項19】
請求項18に記載の塩化ビニル系樹脂組成物を含む、コーティング用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2018年7月30日付の韓国特許出願第10-2018-0088888号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
本発明は、塩化ビニル系共重合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インク、ペイント、コーティング、接着剤などには顔料分散および接着性能を向上するためにバインダー樹脂が用いられるが、バインダー樹脂として用いられる高分子物質は、一般にアクリル系樹脂、ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂などがある。
【0003】
このうち、塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル系単量体の単独で用いるか、または塩化ビニル系単量体およびこれと共重合が可能な他の共単量体との混合物、懸濁剤、緩衝剤、および重合開始剤などを混合して懸濁重合方法で製造した塩化ビニル系樹脂スラリー(polyvinyl chloride resin slurry)を乾燥することによって微細な大きさの粒子形態で得られる。
【0004】
具体的には、塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル、ビニルアセテートおよびヒドロキシル、カルボン酸の単量体を用いることができ、金属および多様なプラスチック素材に対する接着力に優れて、食品包装用グラビアインキのバインダーおよび接着剤の用途に広範囲に用いられている。
【0005】
一方、インク分野ではバインダー樹脂として、塩化ビニル系樹脂と一緒にポリウレタン(PU)、エチレンビニルアセテート(EVA)などが配合される。しかし、けん化処理(saponification treatment)方式で製造された塩化ビニル系樹脂とは異なり、非けん化処理方式で製造された塩化ビニル系樹脂は、EVAなどとの相溶性が良くなくて適用分野が限定される限界がある。
【0006】
このような問題を解決するために、非けん化方式でEVAなどとの相溶性に優れたヒドロキシル-塩化ビニル-ビニルアセテートの共重合体を開発したが、これも時間に伴うインクの凝集現象と色の劣勢が確認された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、非けん化処理方式の製法でエチレンビニルアセテートとの相溶性に優れ、これを含む塩化ビニル系樹脂組成物を用いてインクの製造時にインクの分散性およびインクの色に優れた、新規な構造の共重合体を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、前記共重合体を製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記共重合体を含む塩化ビニル系樹脂組成物およびこれを含むコーティング用インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、
塩化ビニル系単量体、炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体、およびヒドロキシル系単量体の共重合体が提供される。
【0011】
本発明の他の一実施形態によれば、
前記共重合体を製造する方法であって、
塩化ビニル系単量体、炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体、およびヒドロキシル系単量体を、開始剤の存在下で重合する段階を含み、
前記塩化ビニル系単量体は、重合前の1次投入;および重合温度に到達した後、100分以内、または反応器内圧力が重合初期圧力に対して0.5~1.0kgf/cmに低くなる時の2次投入に分割投入される、共重合体の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明のさらに他の一実施形態によれば、前記共重合体を含む塩化ビニル系樹脂組成物および前記塩化ビニル系樹脂組成物を含むコーティング用インクが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で製造した共重合体のNMRグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態による共重合体、その製造方法、および前記共重合体を含む塩化ビニル系樹脂組成物と、前記塩化ビニル系樹脂組成物を含むコーティング用インクについてより詳しく説明する。
【0015】
本明細書で明示的な言及がない限り、専門用語は、単に特定の実施形態に言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。
【0016】
本明細書で使用される単数形態は、文章がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。
【0017】
本明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素または成分を具体化し、他の特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素、または成分の付加を除外させるものではない。
【0018】
本発明者らの継続的な研究の結果、塩化ビニル系単量体、ジカルボン酸エステル単量体、およびヒドロキシル系単量体を用いた共重合体の製造の際、ヒドロキシル系単量体などの親水性単量体の含有量を下げ、バルキーな疎水性の炭化水素基(bulky and hydrophobic hydrocarbon groups)を有する反応性可塑剤のジカルボン酸エステル単量体を導入して共重合体を製造する場合、非けん化処理方式の製法でもエチレンビニルアセテート(EVA)との相溶性に優れた塩化ビニル系樹脂組成物を製造できることが確認された。
【0019】
しかも、本発明者らの研究により、ビニルアセテートに比べても相対的に疎水性を有する反応性可塑剤の単量体を高い比率で導入する場合、このような共重合体を含む塩化ビニル系樹脂組成物は、EVAとの相溶性に優れ、かつインクの分散性および色などの特性を向上させることもできることが確認された。
【0020】
さらに、本発明では前記共重合体の製造時に塩化ビニル系単量体を分割投入することによって、製造される樹脂中の単量体を規則性なく分布させ、その結果として、前記共重合体を含む塩化ビニル系樹脂組成物のアセテート系溶剤に対する溶解性を増加させて塩化ビニル系樹脂組成物の透明性および溶液の保存安定性を向上させることができる。
【0021】
I.共重合体
【0022】
本発明の一実施形態によれば、
塩化ビニル系単量体、炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体、およびヒドロキシル系単量体の共重合体が提供される。
【0023】
前記共重合体は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して;8~15重量部の炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体;および1~9重量部の前記ヒドロキシル系単量体を含むことができ、詳しくは、塩化ビニル系単量体100重量部に対して;10~15重量部の炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体;および5~8重量部の前記ヒドロキシル系単量体を含むことができる。
【0024】
前記炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体は、マレイン酸ジペンチル(dipentyl maleate)、マレイン酸ジヘキシル(dihexyl maleate)、マレイン酸ジオクチル(dioctyl maleate)、およびマレイン酸ジノニル(dinonyl maleate)からなる群から選択される1種以上の化合物であり得る。
【0025】
詳しくは、炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体は、下記化学式1で表されるマレイン酸ジオクチル(dioctyl maleate)であり得る。
【化1】
【0026】
前記のようにバルキー(bulky)な2-エチルヘキシル(ethylhexyl)の非極性構造を有するマレイン酸ジオクチルは、前記バルキーな構造が分子内で高分子鎖間2次結合力を減少させ、分子鎖間距離を増加させて溶解時に粘度を下げることができ、これを含むインクの顔料間の凝集性を低下させて顔料分散性の向上効果を得ることもできる。しかも、非極性構造によって、前記マレイン酸ジオクチルの含有量の増加時にこれを含むインクの総ヘキサン(Hansen)溶解度定数(δt)が減少して、EVAとの優れた相溶性を示すことができる。
【0027】
具体的には、前記ジカルボン酸エステル単量体は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して、8重量部以上、または9重量部以上、または10重量部以上;および15重量部以下で含まれる。
【0028】
前記共重合体にジカルボン酸エステル単量体の付与により、上述のインクの安定性の効果が発現できるようにするため、前記ジカルボン酸エステル単量体は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して8重量部以上に含まれることが好ましい。
【0029】
ただし、前記ジカルボン酸エステル単量体を過剰投入した場合、可塑化によってこれを含む組成物のガラス転移温度(Tg)が低くなり、商業的な工程で組成物の乾燥が難しくなり、インク溶液の透明性が低下する可能性がる。したがって、前記ジカルボン酸エステル単量体は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して15重量部以下に含まれることが最も好ましい。
【0030】
前記ヒドロキシル系単量体は、グリセロールモノアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ヒドロキシポリエトキシアリルエーテル、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレート、アクリロイルエトキシヒドロキシベンゾフェノン、アリルヒドロキシアセトフェノン、ブトキシスチレン、メタクリルオキシヒドロベンゾフェノンからなる群から選択される1種以上の化合物であり得る。
【0031】
具体的には、前記ヒドロキシル系単量体は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して1重量部以上、あるいは2重量部以上、あるいは3重量部以上、あるいは4重量部以上、あるいは5重量部以上;および9重量部以下、あるいは8重量部以下に含まれる。
【0032】
前記ヒドロキシル系単量体が上記の含有量の範囲内で用いられる場合、これを含んで製造される塩化ビニル系樹脂に親水性を付与して透明度とインクの分散性、すなわち、光沢度を向上させることができ、ヒドロキシル系単量体の含有量を制限することによってインクの安定性を向上させることができる。
【0033】
また、前記炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体、およびヒドロキシル系単量体の重量比は1.5:1、あるいは1.6:1以上であり、かつ2:1あるいは1.9:1、あるいは1.8:1以下であり得る。
【0034】
炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体、およびヒドロキシル系単量体が上記の範囲の重量比を有する場合、透明性、粘度、インク安定性、および光沢度などにより優れた水準を示すことができる。
【0035】
このような単量体を含んで製造される前記共重合体は、詳しくは、下記化学式2で表され、より詳しくは下記化学式2aで表される。
【化2】
上記化学式2中、
x、y、zは、それぞれ独立して、20~700の整数であり、
およびRは、それぞれ独立して、炭素数5~15の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基であり、
は、炭素数1~10の直鎖、または分枝鎖のアルキレン基である。
詳しくは、前記x、y、zは、それぞれ独立して、100~500、あるいは300~500であり得る。
【0036】
【化3】
上記化学式2a中、
x、y、zは、それぞれ化学式2で定義した通りである。
【0037】
すなわち、具体的な例として、前記ジカルボン酸エステル単量体は、マレイン酸ジオクチルであり、ヒドロキシル単量体はヒドロキシプロピルアクリレートである。
【0038】
そして、前記共重合体は、下記化学式3で表される(メタ)アクリレート基を含むポリエチレングリコール系添加剤をさらに共重合できる:
【化4】
上記化学式3中、
nは、2~100の整数であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素、炭素数1~10のヒドロカルビル基、または(メタ)アクリレート基であり、前記RおよびRのうちの少なくとも1つは(メタ)アクリレート基である。
【0039】
前記化学式3で表される化合物は、分子内に1個以上の反応性官能基を有する化合物であって、前記塩化ビニル系単量体と重合し、前記化学式3のエチレングリコール繰り返し単位の数、すなわち、nの値により、分子量を調整することができる。
【0040】
詳しくは、前記nは2~50、あるいは2~20である。
【0041】
前記(メタ)アクリレート基を含むポリエチレングリコール系添加剤は、顔料との相溶性を高めることができ、重合反応で硬化速度を急速にすることができ、これを含んで製造される塩化ビニル系樹脂に親水性を付与できる。
【0042】
前記(メタ)アクリレート基を含むポリエチレングリコール系添加剤としては、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート、エトキシポリエチレングリコールアクリレート、エトキシポリエチレングリコールメタアクリレート、アリールオキシポリエチレングリコールアクリレート、アリールオキシポリエチレングリコールメタアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、およびポリエチレングリコールジメタクリレートからなる群から選択される1種以上の化合物を用いることができる。
【0043】
そして、前記(メタ)アクリレート基を含むポリエチレングリコール系添加剤は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.1重量部~5重量部で含まれる。
【0044】
具体的には、前記(メタ)アクリレート基を含むポリエチレングリコール系添加剤は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.1重量部以上、あるいは0.2重量部以上、あるいは0.3重量部以上、あるいは0.4重量部以上、あるいは0.5重量部以上;および5.0重量部以下、あるいは4.5重量部以下、あるいは4.0重量部以下、あるいは3.5重量部以下、あるいは3.0重量部以下、あるいは2.5重量部以下、あるいは2.0重量部以下、あるいは1.0重量部以下で含まれる。
【0045】
当該成分の添加による上述した効果を発現できるために、前記ポリエチレングリコール系添加剤は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.1重量部以上に含まれることが好ましい。
【0046】
ただし、当該成分を過剰付与した場合、重合終了後に未反応の添加剤が残存して共重合体の物性を阻害することがある。したがって、前記ポリエチレングリコール系添加剤は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して5重量部以下に含まれることが好ましい。
【0047】
II.共重合体の製造方法
【0048】
本発明のさらに他の一実施形態によれば、
塩化ビニル系単量体、炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体、およびヒドロキシル系単量体を、開始剤の存在下で重合する段階を含み、
前記塩化ビニル系単量体は、重合前の1次投入;および重合温度に到達した後、100分以内、または反応器内圧力が重合初期圧力に対して0.5~1.0kgf/cmに低くなる時の2次投入に分割投入される、
共重合体の製造方法が提供される。
【0049】
前記共重合体の製造方法では、単量体としてヒドロキシル系単量体およびバルキーな疎水性の炭化水素基を有するジカルボン酸エステル単量体を導入する。これにより、前記方法によって製造される共重合体を含む塩化ビニル系樹脂組成物は、EVAとの優れた相溶性を示し、かつ、特に優れたインク安定性と分散性を有することができ、時間の経過に伴うインクの凝集現象と色の劣勢を解決することができる。
【0050】
前記共重合体の製造方法は、塩化ビニル系単量体、炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体、およびヒドロキシル系単量体を、開始剤の存在下で重合する段階を含んで行われる。
【0051】
前記単量体は、同時に一緒に反応器内に投入することができ、またはそれぞれの種類によって最適な時期に別途に投入することもできる。
【0052】
具体的には、前記塩化ビニル系単量体は、重合前の1次投入;および重合温度に到達した後、100分以内、または反応器内圧力が重合初期圧力に対して0.5~1.0kgf/cmに低くなる時の2次投入に分割投入することができる。
【0053】
このように分割投入することによって製造される重合体内単量体が不規則に分布され、その結果として溶剤、特にアセテート系溶剤に対して優れた溶解性を示すことができる。また、このように製造された共重合体を含む塩化ビニル系樹脂組成物の透明性および光沢度を向上させることができる。
【0054】
より具体的には、前記塩化ビニル系単量体は、総投入量の10~90重量%、具体的には40~60重量%、より具体的には50重量%が重合前に、すなわち、重合反応開始前に1次投入される。そして、前記塩化ビニル系単量体の残りの部分、すなわち、総投入量の10~90重量%、具体的には40~60重量%、より具体的には50重量%が、反応器内温度が重合温度に到達した後、100分以内、または反応器内圧力が重合初期圧力に対して0.5~1.0kgf/cmに低くなる時に連続または不連続的に2次投入され得る。
【0055】
前述のような分割投入時期および投入量が同時に制御される場合、重合体中の単量体の分布の不規則性がさらに増加し、その結果として、溶剤に対する溶解度が向上して、このように製造された共重合体を含む塩化ビニル系樹脂組成物の透明性および光沢度の増加とともに保存安定性が向上することができる。
【0056】
一方、本発明の実施形態による共重合体の製造方法には、炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体が使用される。
【0057】
このような炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体としては、マレイン酸ジペンチル(dipentyl maleate)、マレイン酸ジヘキシル(dihexyl maleate)、マレイン酸ジオクチル(dioctyl maleate)、およびマレイン酸ジノニル(dinonyl maleate)からなる群から選択される1種以上の化合物を用いることができる。
【0058】
具体的には、炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体は、下記化学式1で表されるマレイン酸ジオクチル(dioctyl maleate)であり得る。
【化5】
【0059】
そして、前記ジカルボン酸エステル単量体は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して、8重量部以上、または9重量部以上、または10重量部以上;および15重量部以下で添加することができる。
【0060】
一方、前記ヒドロキシル系単量体としては、グリセロールモノアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ヒドロキシポリエトキシアリルエーテル、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレート、アクリロエトキシヒドロキシベンゾフェノン、アリルヒドロキシアセトフェノン、ブトキシスチレン、メタクリルオキシヒドロベンゾフェノンからなる群から選択される1種以上の化合物を用いることができる。
【0061】
前記ヒドロキシル系単量体は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して、1重量部以上、あるいは2重量部以上、あるいは3重量部以上、あるいは4重量部以上、あるいは5重量部以上;および9重量部以下、あるいは8重量部以下で添加することができる。
【0062】
前記ヒドロキシル系単量体は、他の単量体と一緒に重合前に、あるいは重合反応開始前に同時に添加することができる。また、前記ヒドロキシル系単量体は、反応器内温度が重合温度に到達した後、100分以内、あるいは反応器内圧力が重合初期圧力に対して0.5~1.0kgf/cmに低くなる時に単独で投入されることもある。
【0063】
前記ヒドロキシル系単量体が重合前に他の単量体と一緒に投入される場合、殆どの分子が重合初期に反応するが、前記特定の時点で単独で投入される場合、製造される共重合体全体に分布されて、これを含む塩化ビニル系樹脂組成物の全体的な透明度と光沢度が均一に向上する。
【0064】
また、前記炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体、およびヒドロキシル系単量体の重量比は1.5:1、あるいは1.6:1以上であり、かつ2:1あるいは1.9:1、あるいは1.8:1以下であり得る。
【0065】
炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体、およびヒドロキシル系単量体が上記の範囲の重量比を有するとき、透明性、粘度、インク安定性、および光沢度などがさらに優れた水準を示すことができる。
【0066】
一方、前記共重合体の製造方法において、前記重合には、上記単量体と共に(メタ)アクリレート基を含むポリエチレングリコール系添加剤をさらに投入することができる。
【0067】
具体的には、前記(メタ)アクリレート基を含むポリエチレングリコール系添加剤は、下記化学式3で表される化合物であり得る:
【化6】
上記化学式3中、
nは2~100の整数であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素、炭素数1~10のヒドロカルビル基、または(メタ)アクリレート基であり、前記RおよびRのうちの少なくとも1つは(メタ)アクリレート基である。
【0068】
前記(メタ)アクリレート基を含むポリエチレングリコール系添加剤は、200g/mol~5,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有することが好ましい。
【0069】
具体的には、前記ポリエチレングリコール系添加剤は、200g/mol以上、あるいは250g/mol以上、あるいは300g/mol以上、あるいは350g/mol以上、あるいは400g/mol以上、あるいは450g/mol以上、あるいは,500g/mol以上;および、5,000g/mol以下、あるいは4,500g/mol以下、あるいは4,000g/mol以下、あるいは3,500g/mol以下、あるいは3,000g/mol以下、あるいは2,500g/mol以下、あるいは2,000g/mol以下、あるいは1,500g/mol以下、あるいは1,000g/mol以下の重量平均分子量を有することができる。
【0070】
上記の範囲の重量平均分子量値を有するポリエチレングリコール系添加剤は、塩化ビニル系単量体との相溶性に優れ、重合過程で単量体混合物の可塑性、分散性および重合性を向上させて、製造された共重合体を含む塩化ビニル系樹脂組成物の透明度と光沢度が向上する。
【0071】
前記(メタ)アクリレート基を含むポリエチレングリコール系添加剤としては、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート、エトキシポリエチレングリコールアクリレート、エトキシポリエチレングリコールメタアクリレート、アリールオキシポリエチレングリコールアクリレート、アリールオキシポリエチレングリコールメタアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、およびポリエチレングリコールジメタクリレートからなる群から選択される1種以上の化合物を用いることができる。
【0072】
そして、前記(メタ)アクリレート基を含むポリエチレングリコール系添加剤は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.1重量部~5重量部で投入することができる。
【0073】
具体的には、前記(メタ)アクリレート基を含むポリエチレングリコール系添加剤は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.1重量部以上、あるいは0.2重量部以上、あるいは0.3重量部以上、あるいは0.4重量部以上、あるいは0.5重量部以上;および5.0重量部以下、あるいは4.5重量部以下、あるいは4.0重量部以下、あるいは3.5重量部以下、あるいは3.0重量部以下、あるいは2.5重量部以下、あるいは2.0重量部以下、あるいは1.0重量部以下で添加することができる。
【0074】
前記ポリエチレングリコール系添加剤は、他の単量体と共に重合前に、あるいは重合反応開始前に同時に添加することができる。また、ポリエチレングリコール系添加剤は、他の単量体の重合度が30%~80%の時点で単独で添加されることもある。
【0075】
そして、本発明の実施形態によれば、前記重合のために、単量体の投入時に下記化学式4で表される有機スズ化合物、開始剤、懸濁剤、乳化剤などを選択的にさらに投入することができる:
【化7】
上記化学式4中、
Snはスズであり、
R11~R14は、それぞれ独立して、水素、メルカプト基(-SH)、炭素数1~15の直鎖または分枝鎖のアルキル基、または炭素数1~15の直鎖または分枝鎖のアルキルスルファニル基のうちのいずれか1つである。
【0076】
具体的には、前記有機スズ化合物としては、テトラメチルスズ(tetramethyltin)、テトラブチルスズ(tetrabutyltin)、モノメチルスズメルカプチド(monomethyltin mercaptide)、オクチルスズメルカプチド(octyltin mercaptide)、およびジオクチルスズメルカプチド(dioctyltin mercaptide)からなる群から選択される1種以上の化合物を用いることができる。
【0077】
前記有機スズ化合物は、重合反応で熱安定剤として変色を防止することができる。
前記有機スズ化合物は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.1重量部~5重量部で含まれ得る。
【0078】
具体的には、前記有機スズ化合物は、前記塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.1重量部以上、あるいは0.15重量部以上、あるいは0.2重量部以上;および5.0重量部以下、あるいは4.0重量部以下、あるいは3.0重量部以下、あるいは2.0重量部以下、あるいは1.0重量部以下で添加することができる。
【0079】
前記有機スズ化合物が上記の含有量の範囲内に用いられる場合、重合遅延剤として作用する分子の含有量の変化による重合反応時間の遅延および生産性の低下を防止することができる。
【0080】
前記有機スズ化合物は重合前に、すなわち重合反応開始前に一括投入することができる。
【0081】
一方、前記開始剤としては、水溶性開始剤および油溶性開始剤のうちの1種以上の化合物を用いることができる。
【0082】
非制限的な例として、前記油溶性開始剤としては、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、メチルエチルケトンパーオキシド、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-3-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシピバレート(pivalate)、t-アミルパーオキシピバレート、およびt-ヘキシルパーオキシピバレートからなる群から選択される1種以上の化合物を用いることができる。
【0083】
前記油溶性開始剤は、前記塩化ビニル系単量体、前記炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体、前記ヒドロキシル系単量体を含む単量体混合物100重量部に対して0.01~1.00重量部で用いることができ、好ましくは0.02~0.50重量部、より好ましくは0.02~0.25重量部で用いることができる。前記油溶性開始剤が上記の含有量の範囲内に用いられる場合、重合反応性に優れ、重合反応熱を制御することが容易である。
【0084】
非制限的な例として、前記水溶性開始剤としては、硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、および亜ジチオン酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上の化合物を用いることができる。
【0085】
そして、前記開始剤として、前記油溶性開始剤と前記水溶性開始剤を95:5~5:95の重量比、好ましくは、90:10~10:90の重量比で混合して用いることができる。前記油溶性開始剤と水溶性開始剤を上記の比率の範囲内で混合使用する場合、重合時間を適切に調節して生産性を向上させることができる。
【0086】
一方、前記重合反応は、攪拌と共に行うことができる。
【0087】
前記攪拌工程は、通常の方法により行うことができる。
【0088】
本発明の実施形態によれば、反応器内温度が重合温度に到達してから100分以内;または反応器内圧力が重合初期圧力に対して0.5~1.0kgf/cmに低くなる時点に攪拌速度を増加させて行うことができる。
【0089】
具体的には、前記攪拌は、重合初期に100~500ppmの速度で行うことができ、その後、反応器内温度が重合温度に到達してから100分以内;または反応器内圧力が重合初期圧力に対して0.5~1.0kgf/cmに低くなる時点で重合初期の攪拌速度より高い速度、具体的には、重合初期の攪拌速度より1.5倍~5倍増加した攪拌速度で行うことができる。
【0090】
このような条件で重合途中の攪拌速度を増加させることによって、製造される重合体中の単量体の分布の不均一性を増加させてこれを含む組成物の溶剤に対する溶解度を増加させ、凝集性をさらに下げて保存安定性を改善することができる。
より具体的には、攪拌速度の増加時点が重合温度の到達時点に近接するほど、さらに具体的には、重合温度の到達時点と一致するときに攪拌速度を重合初期の攪拌速度より1.5倍~5倍増加した攪拌速度に増加させることが、相分離現象が発生しない優れた保存安定性を示すことができる。
【0091】
一方、本発明の実施形態によれば、前記重合は懸濁重合、微細懸濁重合または乳化重合であり得る。
【0092】
一例として、前記懸濁重合、または微細懸濁重合の場合、上述した成分を混合して懸濁重合法によって重合反応させてスラリーを製造し、前記スラリーから未反応単量体を除去した後、前記未反応単量体が除去されたスラリーを脱水および乾燥することによって製造することができる。この時、前記各成分の投入方法は上述した通りである。
【0093】
前記懸濁重合、または微細懸濁重合の際、常温または高温の重合水が反応媒質として用いられ、前記単量体と前記分散剤が重合水中に均一に分散され、前記油溶性開始剤が一定の温度、例えば、50℃~70℃で分解され、前記塩化ビニル系単量体との連鎖反応によって重合が行われる。その後、単量体混合物の反応転換率が一定時点に到達すると重合を終了する。
【0094】
本発明の実施形態によれば、前記重合工程で懸濁剤および乳化剤のうちの1種以上の添加剤を選択的にさらに投入することができる。
【0095】
具体的には、前記懸濁剤としてはポリビニルアセテートが部分けん化されたけん化度40%以上、より具体的には、40~90%のポリビニルアルコール、セルロース、ゼラチン、アクリル酸重合体、メタアクリル酸重合体、イタコン酸重合体、フマル酸重合体、マレイン酸重合体、琥珀酸重合体、またはこれらの混合物を用いることができる。
【0096】
前記懸濁剤は、前記単量体混合物100重量部に対して0.01~5重量部、あるいは0.03~5重量部、あるいは0.05~3.5重量部で用いることができる。前記懸濁剤を上記の含有量の範囲内で使用する場合、前記共重合体を含む均一な大きさの樹脂粒子を生成することができる。
【0097】
前記乳化剤としてはアニオン性乳化剤、非イオン性乳化剤またはこれらの混合物を用いることができる。
【0098】
前記アニオン性乳化剤としては、具体的には、炭素数6~20の脂肪酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、炭素数6~20のアルキルスルホン酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、炭素数6~20のアルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、炭素数6~20のアルキルサルフェートのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、炭素数6~20のアルキルジスルホン酸ジフェニルオキシドのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、またはこれらの混合物を用いることができる。
【0099】
前記非イオン性乳化剤としては、炭素数6~20のアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタンモノラウレート(sorbitan monolaurate)、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、またはこれらの混合物を用いることができる。
【0100】
前記乳化剤は、前記単量体混合物100重量部に対して0.005~1.0重量部、あるいは0.01~0.5重量部、あるいは0.01~0.1重量部で添加することができる。前記乳化剤が上記の含有量の範囲内で用いられる場合、塩化ビニル系単量体に比べて水溶性の高いヒドロキシル系単量体の重合転換および粒子安定性を向上させることができる。
【0101】
前記アニオン性乳化剤と非イオン性乳化剤を混合して使用する場合、前記乳化剤の含有量の範囲内で前記アニオン性乳化剤および前記非イオン性乳化剤は1:0.5~1:200、あるいは1:2~1:100、あるいは1:2~1:50の重量比で混合する。
【0102】
前記アニオン性乳化剤および前記非イオン性乳化剤を上記の重量比の範囲内で混合する場合、スラリーの安定性を確保することができ、前記共重合体を含む塩化ビニル系樹脂の表面で樹脂内部への熱伝達を最大限に防止することができる。
【0103】
前記添加剤としては前記乳化剤が使用され、開始剤としては水溶性開始剤が使用される場合、前記乳化剤および前記水溶性開始剤は1:50~50:1、あるいは1:20~20:1、あるいは1:1~20:1、あるいは2:1~15:1の重量比で混合使用することができる。
【0104】
前記乳化剤および水溶性開始剤は、前記共重合体を含む塩化ビニル系樹脂の表面に分布する粒子モルフォロジーの形成を誘導して、熱による分子構造変性を最小化することができる。これにより、乳化剤と水溶性開始剤を上記の比率の範囲内で混合使用する場合、乳化剤の使用による接着性の低下を最小化し、かつ光沢度に優れた樹脂を得ることができる。
【0105】
前記方法により製造される共重合体は、相対的に親水性を帯びるヒドロキシル系単量体の含有量を減量し、非極性構造の疎水性を帯びる反応性可塑剤としてジカルボン酸エステル単量体を高い比率で導入することによって、このように製造された共重合体を含む塩化ビニル系樹脂組成物がEVAとの優れた相溶性を示すことができる。また、前記ジカルボン酸エステル単量体は非常にバルキーな構造を有するため、高分子鎖間2次結合力を減少させ、分子鎖間距離を増加させることによって、これを含む共重合体を樹脂組成物に使用すると溶解時に粘度を下げ、顔料間の凝集性を低下させて顔料分散性を向上させることができ、色の劣勢を防止し、時間経過に伴うインクの凝集現象を防止することもできる効果を発揮する。
【0106】
I.塩化ビニル系樹脂組成物
【0107】
本発明のさらに他の一実施形態によれば、前記共重合体を含む塩化ビニル系樹脂組成物が提供される。
【0108】
前記塩化ビニル系樹脂組成物は、上記塩化ビニル系単量体、炭素数10~30の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基を有するジカルボン酸エステル単量体、およびヒドロキシル系単量体の共重合体を含み、これに加えて他の(共)重合体、樹脂、添加剤などをさらに含むことができる。
【0109】
前記共重合体を含む塩化ビニル系樹脂組成物は、EVAとの相溶性に優れ、かつ高いインクの分散性と安定性、および優れた色発現を示すことができる。
【0110】
また、前記塩化ビニル系樹脂組成物は、単量体の不規則性が増加した分布を有する共重合体を含むことによって、溶剤、特にアセテート系溶剤に対して優れた溶解性を示すことができ、その結果、塩化ビニル系樹脂組成物の透明性および溶液の保存安定性を向上させることができる。さらに、優れた透明性および光沢度を示すことができる。
【0111】
III.コーティング用インク
【0112】
本発明のさらに他の一実施形態によれば、前記塩化ビニル系樹脂組成物を含むコーティング用インクが提供される。
【0113】
前記コーティング用インクは、上記塩化ビニル系樹脂組成物を含むことでEVAとの相溶性に優れ、かつ組成物内顔料間の凝集性を低下させ、顔料分散性の向上効果も発揮するため、安定性を確保できるだけでなく、時間経過に伴う色の劣勢を防止して金属および多様なプラスチック素材に対して優れた色を付与することができる。
【0114】
前記コーティング用インクは、前記塩化ビニル系樹脂組成物を溶剤、顔料、ビーズなどと混合し、シェイカーなどを利用して均一に分散させる方法によって製造され得る。
【0115】
ここで、前記コーティング用インクに添加可能な溶剤、顔料、ビーズなどは本発明が属する技術分野でよく知られた通常の成分が特に制限なく添加され得る。
【実施例
【0116】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施形態を提示する。しかし、下記の実施例は本発明を例示したものに過ぎず、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0117】
実施例1
真空ポンプを利用して280リットル容量の反応器内部の酸素を除去した。前記反応器に塩化ビニル系単量体40kg、マレイン酸ジオクチル10kg、ポリエチレングリコール系添加剤のMethoxy PEG600 Methacrylate 0.5kg、有機スズ化合物としてdioctiyltin mercaptide 0.19kg、3%水溶液のセルロース系懸濁剤3.0kg、開始剤であるazobisisobutyronitrile 76gを脱イオン水150リットルと一緒に投入した後、ブルーマージンインペラを350rpmで回転しながら重合を開始した。
【0118】
反応器の温度が73℃に上昇した直後、ヒドロキシプロピルアクリレート6kgを5時間にわたって連続投入し、反応器の圧力が重合初期に比べて0.5kgf/cmほど低くなった時点に塩化ビニル系単量体40kgをさらに投入し始めながら、ブルーマージンインペラの回転速度を600rpmに上げた。
【0119】
さらに投入される塩化ビニル系単量体を316分にわたって投入し、塩化ビニル系単量体を投入した後、反応器の圧力が重合初期に比べて1.0kgf/cmほど低くなった時点で重合を停止させ、未反応単量体を回収し重合を終了した。重合したスラリーを脱水および乾燥して、平均粒子径が150μmの共重合体である塩化ビニル系樹脂組成物粒子を得た。
【0120】
得られた共重合体のNMR(13C-NMR)を図1に示す。
【0121】
共重合体の重量平均分子量(Mw)は48.135g/molであり、収率は71%(最終乾燥製品基準)であった。
【化8】
【0122】
実施例2
真空ポンプを利用して280リットルの反応器内部の酸素を除去した。前記塩化ビニル単量体39kg、マレイン酸ジオクチル11kg、ポリエチレングリコール系添加剤のMethoxy PEG600 Methacrylate 0.5kg、有機スズ化合物としてDioctiyltin mercaptide 0.19g、3%水溶液のセルロース系懸濁剤3.0kg、開始剤としてAzobisisobutyronitrile 76gを脱イオン水150リットルと一緒に反応器に投入した後、ブルーマージンインペラを350rpmで回転しながら重合を開始した。
【0123】
反応器の温度が73℃に上昇した直後、ヒドロキシプロピルアクリレート6kgを5時間にわたって連続投入し、反応器の圧力が重合初期に比べて0.5kgf/cmに低くなった時点に塩化ビニル単量体39kgをさらに投入し始めながら、ブルーマージンインペラの回転速度を600rpmに上げた。
【0124】
さらに投入される塩化ビニル単量体を306分にわたって投入し、塩化ビニル系単量体を投入した後、反応器の圧力が重合初期に比べて1.0kg/cmに低くなった時点で重合を停止させ、未反応単量体を回収し重合を終了した。重合したスラリーを脱水および乾燥して、塩化ビニル系樹脂組成物粒子を得た。
【0125】
共重合体の重量平均分子量(Mw)は49.341g/molであり、収率は73%(最終乾燥製品基準)であった。
【0126】
比較例1
真空ポンプを利用して280リットルの反応器内部の酸素を除去した。前記反応器に塩化ビニル単量体43kg、酢酸ビニル単量体5kg、ポリエチレングリコール系添加剤のMethoxy PEG600 Methacrylate 0.5kg、有機スズ化合物としてdioctiyltin mercaptide 0.19g、3%水溶液のセルロース系懸濁剤3.0kg、開始剤としてazobisisobutyronitrile 76gを脱イオン水150リットルと一緒に反応器に投入した後、ブルーマージンインペラを350rpmで回転しながら重合を開始した。
【0127】
反応器の温度が73℃に上昇した直後、ヒドロキシプロピルアクリレート5kgを250分にわたって連続投入し、反応器の圧力が重合初期に比べて0.5kgf/mに低くなった時点に塩化ビニル単量体43kgをさらに投入し始めながら、ブルーマージンインペラの回転速度を600rpmに上げた。
【0128】
さらに投入される塩化ビニル単量体を336分にわたって投入し、塩化ビニル系単量体を投入した後、反応器の圧力が重合初期に比べて1.0kg/cmに低くなった時点で重合を停止させ、未反応単量体を回収し重合を終了した。重合したスラリーを脱水および乾燥して、塩化ビニル系樹脂組成物粒子を得た。
【0129】
共重合体の重量平均分子量(Mw)は75.557g/molであり、収率は73%(最終乾燥製品基準)であった。
【0130】
比較例2
ビニルクロリド、ビニルアルコールおよびビニルアセテートの三元共重合体であるけん化型塩化ビニル系樹脂組成物粒子(商品名:Solbin(登録商標)A、製造会社:Shin-Etsu MicroSi,Inc.)を準備した。
【0131】
製造例1-A~1-D
前記実施例および比較例で得られたそれぞれの塩化ビニル系樹脂組成物粒子20重量%に、酢酸エチル40重量%およびトルエン40重量%を混合し、50℃で90分間攪拌して、各実施例および比較例に対応する製造例の混合溶液を製造した。
【0132】
製造例2-A~2-D
前記製造例1-A~1-Dによる混合溶液25g、顔料(Red 57:1)8g、酢酸エチル17.3g、トルエン11.0g、メチルエチルケトン4.0g、メチルイソブチルケトン7.0g、ビーズ(商品名:Alumina Bead、製造会社:三和セラミック社)35g、およびエチレンビニルアセテート溶液(商品名:EVATANE(登録商標)42-60、20% in Toluene、製造会社:Arkema社)27.5gを混合し、インクシェーカーで1時間攪拌して、各実施例および比較例に対応するコーティング用赤色インクを製造した。
【0133】
製造例3-A~3-D
顔料(Red 57:1)の代わりに顔料(Blue 15.3)を使用したことを除いては、前記製造例2-A~2-Dと同様に同じ組成で混合し、インクシェーカーで1時間攪拌して、各実施例および比較例に対応するコーティング用青色インクを製造した。
【0134】
試験例1
前記製造例1-A~1-Dによる混合溶液に対して紫外線分光器(475nm)を利用して溶液の透明度を測定した。
【0135】
試験例2
前記製造例2-A~2-Dによる赤色インク、および前記製造例3-A~3-Dによる青色インクをそれぞれPETフィルムに塗布して乾燥させた後、グロスメーター(BYK、micro-gloss)を利用して60°の条件で光沢度を5回反復測定してその平均値を計算し、色分析装置(Conica Minolta社製、CR-400)を利用して色(発色)a、bを5回反復測定して、その平均値を計算した。
【0136】
試験例3
前記製造例1-A~1-Dによる混合溶液、前記製造例2-A~2-Dによる赤色インクおよび前記製造例3-A~3-Dによる青色インクを25℃のオーブンで1時間以上保管した後、混合溶液は、#4大きさのフォードカップ(Ford Cup)粘度計を利用して測定(sec)し、赤色および青色インクは、#4大きさのSpindle付きのブルックフィールド粘度計で100rpm条件で粘度(cps)を測定し、時間に伴うインクの相分離程度を観察した。その結果を、非常に優秀(◎)、優秀(○)、良好(▲)、普通(△)および劣悪(X)の5段階で相対評価した。
【0137】
インクの安定性が良くない場合、インクを配合した後、1時間以内にインクの層分離と顔料の凝集現象が現れる。そして、安定性が良くないインクをコーティングする場合、コーティング層の光沢度が相対的に劣る。
【0138】
【表1】
【0139】
【表2】
【0140】
【表3】
【0141】
前記比較例1のようにマレイン酸ジオクチルの代わりにビニルアセテートを含有する場合、単量体の組成比率の変更の限界により溶液の透明性とインクの安定性および光沢度(分散性)だけでなく、発色の面において実施例1および2に比べて劣ることを確認した。また、溶液およびインクの粘度が急激に増加して、実際、商業的に長期間使用することが難しい。
【0142】
一方、本発明による実施例1および2の塩化ビニル系樹脂組成物は、既存のけん化型塩化ビニル系樹脂組成物である前記比較例5に比べても優れた透明性を示し、かつ同等またはそれ以上の光沢度(分散性)、安定性および発色を示すことを確認し、コーティング用インクとして使用するのに好適な粘度を有することが確認された。
【0143】
ただし、マレイン酸ジオクチルの添加量による実験結果を比較(実施例1および実施例2)すると、マレイン酸ジオクチルの含有量が増加する場合、インクの安定性が向上し、インクの光沢度(分散性)が良くなることを確認することができたが、塩化ビニル単量体100重量部を基準にして15重量部を超える場合には、溶液の透明性および発色に劣る問題があるところ、約12.5重量部程度の含有量で溶液の透明性、粘度、およびインクの安定性と光沢度および発色が全て平均的に優れた水準を示しているので、最も好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明によると、新規な構造の共重合体、その製造方法および前記共重合体を含む塩化ビニル系樹脂組成物であって、エチレンビニルアセテートとの相溶性に優れ、かつ特にインクの分散性および色に優れた塩化ビニル系樹脂組成物およびこれを含むコーティング用インクが提供される。
図1